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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】穴加工用の切削工具とその工具ボディ
(51)【国際特許分類】
   B23B 51/06 20060101AFI20241009BHJP
【FI】
B23B51/06 A
B23B51/06 D
B23B51/06 C
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2024072059
(22)【出願日】2024-04-26
【審査請求日】2024-04-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】志鎌 広也
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-169590(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0080501(US,A1)
【文献】特開2021-091062(JP,A)
【文献】特開2012-206216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削インサートが取り付けられるインサート取付座を備えた穴加工用の切削工具の工具ボディであって、
前記インサート取付座から当該工具ボディの基端側へ向け形成された切りくず排出穴と、当該工具ボディの基端側から先端側へ向けてクーラントを供給するクーラント流路と、を備えていて、
前記クーラント流路は、当該工具ボディの外周面から前記先端側へ向かう貫通穴を有する、穴加工用の切削工具の工具ボディ。
【請求項2】
前記貫通穴は、当該工具ボディの前記先端側の端面まで貫通している、請求項1に記載の穴加工用の切削工具の工具ボディ。
【請求項3】
前記貫通穴が途中で分岐している、請求項2に記載の穴加工用の切削工具の工具ボディ。
【請求項4】
前記先端側の前記端面における前記貫通穴の先端側開口部が、円弧を有する略円形状ないしは略長円形状、または略台形状である、請求項2に記載の穴加工用の切削工具の工具ボディ。
【請求項5】
前記貫通穴を複数有する、請求項1に記載の穴加工用の切削工具の工具ボディ。
【請求項6】
複数の前記貫通穴は、当該工具ボディの外周面に沿って周方向に離れて配置されている、請求項5に記載の穴加工用の切削工具の工具ボディ。
【請求項7】
前記切りくず排出穴は当該工具ボディの前記外周面よりも径方向内側に形成されていて、前記貫通穴の前記基端側の開口である基端側開口部は、前記切りくず排出穴の前記先端側の切りくず入口となる開口部よりも基端側に位置する、請求項1から6のいずれか一項に記載の穴加工用の切削工具の工具ボディ。
【請求項8】
前記切りくず排出穴は、前記先端側から前記基端側へ向かう途中で合流する複数の穴で構成されている、請求項7に記載の穴加工用の切削工具の工具ボディ。
【請求項9】
筒状の接続部と、該接続部の前記先端側に形成された前記接続部よりも大径の大径部と、を備えていて、前記貫通穴は少なくともその一部が前記大径部を通るように設けられている、請求項1から6のいずれか一項に記載の穴加工用の切削工具の工具ボディ。
【請求項10】
前記貫通穴の基端側開口部は、前記接続部と前記大径部との間のテーパ部に設けられている、請求項9に記載の穴加工用の切削工具の工具ボディ。
【請求項11】
請求項1から6のいずれか一項に記載の工具ボディと切削インサートとを有する、穴加工用の切削工具。
【請求項12】
穴加工用の切削工具であって、
当該切削工具の先端側から基端側へ向け形成された切りくず排出穴と、
当該切削工具の基端側から先端側へ向けてクーラントを供給するクーラント流路と、
を備えていて、
前記クーラント流路は、当該切削工具の外周面から前記先端側へ向かう貫通穴を有する、穴加工用の切削工具。
【請求項13】
前記先端側にチップがろう付けされるろう付け工具である、請求項12に記載の穴加工用の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穴加工用の切削工具とその工具ボディに関する。
【背景技術】
【0002】
BTA加工(Boring & Trepanning Association、ボーリング・トレパン加工)用の工具といった回転切削工具を用いて穴あけ加工をする際には、ボディ(以下、本明細書では、「工具ボディ」と呼んで説明することとする)の先端側に設けられた切削インサートの切れ刃へ向けてクーラントを供給する必要がある(たとえば特許文献1,2参照)。この点、従来の切削工具では、工具ボディの外周部に設けられた給油溝からクーラントを切れ刃へ向けて供給するという構造になっているものが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2003-502163号公報
【文献】特開2015-66678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のごとき穴加工用の切削工具においては、チップマウスと呼ばれる開口部を有する切りくず排出穴が設けられているという構成上、工具ボディの基端側から供給されたクーラントの大部分が工具先端側にたどり着く前にチップマウスから排出されてしまいがちである。とくにBTA工具では、粘性のある不水溶性切削油をクーラントに用いる場合が多いこともあり、クーラントが切れ刃まで供給されにくいというのが実状である。
【0005】
そこで、本発明は、クーラントが工具先端側まで十分に供給されるようにした穴加工用の切削工具とその工具ボディを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するべく、本発明者は穴加工用の切削工具の構造やその特徴について鋭意検討した。たとえばBTA工具においては、パイプ(チューブ)状である工具ボディの内部を通じて切りくずやクーラントを排出することから、パイプ(チューブ)の外周側からクーラントを供給することがいわば常識的な技術であり、BTA工具はこのことを前提として成り立っているともいえる。ただ、このような構造だと、外周側から供給されるクーラントの大部分が先端まで到達することなく切りくず排出穴(のチップマウスと呼ばれる開口部)に吸い込まれてしまい、クーラントが切れ刃まで供給されにくい。かかる構造とその課題について検討を重ねた本発明者は、当該課題の解決に結びつく知見を得るに至った。
【0007】
このような知見に基づき想到するに至った本発明の一態様は、切削インサートが取り付けられるインサート取付座を備えた穴加工用の切削工具の工具ボディであって、
インサート取付座から当該工具ボディの基端側へ向け形成された切りくず排出穴と、当該工具ボディの基端側から先端側へ向けてクーラントを供給するクーラント流路と、を備えていて、
クーラント流路は、当該工具ボディの外周面から先端側へ向かう貫通穴を有する、穴加工用の切削工具の工具ボディである。
【0008】
上記のごとき穴加工用の切削工具の工具ボディにおいては、クーラント流路に、当該工具ボディの外周面から先端側へ向かう貫通穴が設けられていることから、当該貫通穴を通じ、従来であれば切りくず排出穴に吸い込まれてしまっていた分も含めクーラントを工具先端側まで十分に供給することが可能となる。このようにして工具先端側まで供給されるクーラントの量を増加させることは、当該工具ボディを有する切削工具を使った切削加工時におけるとくに切れ刃の周辺における潤滑性能や冷却性能の向上に結びつく。
【0009】
上記のごとき態様の穴加工用の切削工具の工具ボディにおいて、貫通穴は、当該工具ボディの先端側の端面まで貫通していてもよい。
【0010】
上記のごとき態様の穴加工用の切削工具の工具ボディにおいて、貫通穴が途中で分岐していてもよい。
【0011】
上記のごとき態様の穴加工用の切削工具の工具ボディにおいて、先端側の端面における貫通穴の先端側開口部が、円弧を有する略円形状ないしは略長円形状、または略台形状であってもよい。
【0012】
上記のごとき態様の穴加工用の切削工具の工具ボディは、貫通穴を複数有するものであってもよい。
【0013】
上記のごとき態様の穴加工用の切削工具の工具ボディにおいて、複数の貫通穴は、当該工具ボディの外周面に沿って周方向に並んでいてもよい。
【0014】
上記のごとき態様の穴加工用の切削工具の工具ボディにおいて、切りくず排出穴は当該工具ボディの外周面よりも径方向内側に形成されていて、貫通穴の基端側の開口である基端側開口部は、切りくず排出穴の先端側の切りくず入口となる開口部よりも基端側に位置していてもよい。
【0015】
上記のごとき態様の穴加工用の切削工具の工具ボディにおいて、切りくず排出穴は、先端側から基端側へ向かう途中で合流する複数の穴で構成されていてもよい。
【0016】
上記のごとき態様の穴加工用の切削工具の工具ボディは、筒状の接続部と、該接続部の先端側に形成された接続部よりも大径の大径部と、を備えていて、貫通穴は少なくともその一部が大径部を通るように設けられていてもよい。
【0017】
上記のごとき態様の穴加工用の切削工具の工具ボディにおいて、貫通穴の基端側開口部は、接続部と大径部との間のテーパ部に設けられていてもよい。
【0018】
本発明の別の一態様は、上記のごとき工具ボディと切削インサートとを有する、穴加工用の切削工具である。
【0019】
本発明のさらに別の一態様は、穴加工用の切削工具であって、
当該切削工具の先端側から基端側へ向け形成された切りくず排出穴と、
当該切削工具の基端側から先端側へ向けてクーラントを供給するクーラント流路と、
を備えていて、
クーラント流路は、当該切削工具の外周面から先端側へ向かう貫通穴を有する、穴加工用の切削工具である。
【0020】
上記のごとき穴加工用の切削工具は、先端側にチップがろう付けされるろう付け工具であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態における穴加工用の切削工具を示す先端側から見た斜視図である。
図2】切削工具を先端側から見た斜視図である。
図3】切削工具に形成されているクーラント流路、切りくず排出穴の空間の形状を模式的に示す図である。
図4】切削工具を先端側から見た図である。
図5図4中における上側から見た切削工具の図である。
図6】(A)本実施形態の切削工具と(B)従来の切削工具のそれぞれにおいて、クーラントの流れをシミュレーションにより解析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る穴加工用の切削工具の好適な実施形態について詳細に説明する(図1等参照)。
【0023】
穴加工用の切削工具1は、その先端側(符号10tで示す)に切削インサート60が取り付けられるインサート取付座20を工具ボディ(以下、「ドリルヘッド」ともいう)10に備えた工具である。ドリルヘッド10は略円筒状であり、基端側(符号10bで示す)から先端側10tまで中心軸10Aに沿って延びるように形成されている。
【0024】
本実施形態の切削工具1におけるドリルヘッド10は、接続部15、大径部16、テーパ部17を有し、さらに、切りくず排出穴30とクーラント流路40が設けられた形状となっている(図1図2等参照)。接続部15は円筒状であり、その内側は、切りくずやクーラントCが排出される切りくず排出穴30の一部を形成する空間となっている。接続部15の先端側には、接続部15よりも大径である大径部16が形成されている。接続部15と大径部16の間には、テーパ状の外周面を有するテーパ部17が形成されている(図5等参照)。また、円筒状である接続部15の外周面には、ドリルパイプ(図示省略)のめねじと螺合し、当該ドリルヘッド10をドリルパイプへ装着するためのおねじ(図示省略)が設けられている。
【0025】
切りくず排出穴30は、先端側10tのインサート取付座20の付近から当該ドリルヘッド10の基端側10bへ向け、ドリルヘッド10の外周面14よりも径方向内側に形成されている(図1等参照)。ドリルヘッド10の先端側10tには、切りくずポケットと呼ばれる部分があり、この切りくずポケットの後端に、切りくず排出穴30の開口部(チップマウスとも呼ばれる)31,32が設けられている。ドリルヘッド10の外周まで開口している部分が切りくずポケットであり、ドリルヘッド10の外周側に壁ができたところからが切りくず排出穴30となる。本実施形態の切削工具1においては、先端面12に大小2つの開口部31,32を設けている(図4参照)。切りくずの入口となる2つの開口部31,32のそれぞれから続く切りくず排出穴30は、先端面12よりも基端側12b寄りの位置で合流する(図1図3等参照)。
【0026】
クーラント流路40は、ドリルヘッド10の基端側10b側から先端側10tへ向けてクーラントを供給するように形成された流路である。本実施形態では、ドリルヘッド10の外周面14から先端側10tへ向かう貫通穴41を当該ドリルヘッド10の大径部16を貫通するように設け、後述するように、この貫通穴41で、クーラント流路40の一部を構成することとしている。貫通穴41の基端側開口部42はテーパ部17に設けられ(図2参照)、先端側開口部43はドリルヘッド10の先端面12に設けられている(図1図4参照)。基端側開口部42は、当該切削工具1が回転しながら切削する際にクーラントCが貫通穴41に導入され流入しやすい形状であるとよく、たとえば中心軸10Aに対し先端10側に延びながら傾斜する形状になっていてもよいし、周方向にも延びるような形状に形成されていてもよい(図2参照)。
【0027】
貫通穴41は複数設けられていてもよい。また、複数の貫通穴41は、ドリルヘッド10の外周面14に沿って周方向に並んでいてもよい。本実施形態では2本の貫通穴41A,41Bをドリルヘッド10に設けている。これら2本の貫通穴41A,41Bは、中心軸10Aを挟むようにして、ドリルヘッド10のうち切りくず排出穴30がない部分に設けられている(図1等参照)。また、これら2本の貫通穴41A,41Bそれぞれの先端側10t側の開口部である先端側開口部43A,43Bは、中心軸10Aを挟むようにして、ドリルヘッド10の先端面12のうち切りくず排出穴30の開口部31,32がない部分に設けられている(図4参照)。
【0028】
貫通穴41は途中で分岐する形状であってもよい。本実施形態では、一方の貫通穴41Bを、先端側10tへ向かう途中で二股に分岐する形状としている(図3等参照)。この貫通穴41Bの先端側開口部43Bは、分岐した流路(穴)それぞれに対応した2つの開口穴で構成されている(図1図4参照)。貫通穴41をこのように途中で分岐する形状とすれば、切削工具1あるいはそのドリルヘッド10の工具の剛性が落ちないよう保持しつつもクーラントCの流量を増やすことが可能となる。
【0029】
貫通穴41Aの先端側開口部43Aと貫通穴41Bの先端側開口部43Bは、ドリルヘッド10のとくに先端側10tにおける強度に大きな影響を与えないように構成されていると好適である。本実施形態の切削工具1においては、貫通穴41Bの先端側開口部43Bが、貫通穴4Aの先端側開口部43Aの開口面積よりも小さく、かつ円形とされることで、強度に対する影響が抑えられるようになっている。また、貫通穴41Aの先端側開口部43Aは、当該先端側開口部43Aが形成される領域の形状、より詳細には、切りくず排出穴30の開口部31,32の形状、近隣のインサート取付座20、切削インサート60、ガイドパッド80の形状やそれらとの間隔を考慮した形状、たとえば円弧を有する略円形状ないしは略長円形状、または略台形状といった形状となっている(図4等参照)。
【0030】
また、貫通穴41Aの基端側10bの開口である基端側開口部42Aと、貫通穴41Bの基端側10bの開口である基端側開口部42Bは、切りくず排出穴30の先端側10tの開口部31,32よりも基端側10bに位置している(図5等参照)。このように、クーラント流路40の一部を構成する貫通穴41(41A,41B)の基端側開口部42(42A,42B)が切りくず排出穴30の開口部31,32よりも基端側10bの位置に配置されている切削工具1によれば、貫通穴41が切りくず排出穴30よりも後方から当該切削工具1のドリルヘッド10の先端側10tを繋ぐ構造となり、クーラントを先端側10tへとより効果的に供給することが可能となる。また、このような切削工具1によれば、切れ刃61に到達できずに開口部(チップマウス)31,32から吸い込まれるクーラントCの量が減る。
【0031】
切削工具1のドリルヘッド10の先端側10tには、切削インサート60とガイドパッド80が着脱可能となっている(図1等参照)。これら切削インサート60とガイドパッド80の具体的な配置や形態はとくに限定されるものではないが、一例として本実施形態の切削工具1では、切りくず排出穴30の開口部31に2つの切削インサート60、開口部32には1つの切削インサート60がそれぞれインサート取付ねじ70で取り付けられ、また、先端側10tの付近における外周面14のうち、開口部32の切削インサート60の径方向外側の位置と、先端側開口部43Bnの近傍位置のそれぞれにガイドパッド80が取り付けられている(図4等参照)。より具体的には、3つの切削インサート60が設けられ切れ刃61が3か所に配置される本実施形態の切削工具1では、切れ刃61のみで切削力をバランスさせることが難しく、切削インサート60が2つ並ぶ方の切削力が(切削インサー60が1つしかない場合に比較して)大きくなりがちとなることを考慮し、その力を約90°方向(本実施形態の場合、図4において下側となる方向)と、加工径を安定させる約180°方向(本実施形態の場合、図4において左側となる方向)のそれぞれにガイドパッド80を配置し、力を受けとめるようにしている。
【0032】
ここまで説明したごとき本実施形態の切削工具1において、基端側10bから供給されたクーラントCは、接続部15の外側(別言すれば、当該切削工具1とワーク(被削材)との筒状の隙間)を先端側10tへ向けて流れ、基端側開口部42(42A,42B)から貫通穴41(41A,41B)へと流入し、途中で切りくず排出穴30に吸い込まれることなく、先端側開口部43(43A,43B)から流出する。このように貫通穴41(41A,41B)内を流れ先端側開口部43(43A,43B)から流出したクーラントCは、切削インサート60の切れ刃61までより確実に到達するようになる。
【0033】
このように、本実施形態の切削工具1によれば、クーラント流路40の一部が、ドリルヘッド(工具ボディ)10の外周面14から先端側10tの先端面12まで貫通した貫通穴41(41A,41B)で構成されていることから、従前の構造であれば切りくず排出穴に吸い込まれてしまっていた分も含め、クーラントCを当該切削工具1の先端側10tまで十分に供給することが可能となる。このようにして切削工具1の先端側10tまで供給されるクーラントCの量を増加させることができれば、当該切削工具1を使った切削加工時におけるとくに切れ刃61の周辺における潤滑性能や冷却性能、ひいては切削インサート60の切れ刃61の寿命を向上させることが可能となる。
【0034】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。たとえば、上述の実施形態で説明した切削工具1は、ドリルヘッド(工具ボディ)10のインサート取付座20に切削インサート60を着脱することが可能ないわゆる刃先交換式の工具であるが、本発明はこれ以外のもの、たとえば、当該切削工具1から切削インサート60を外した状態のドリルヘッド(工具ボディ)10そのもの、あるいは、超硬合金などのチップがろう付けされているタイプの工具にも適用することができることはいうまでもない。
【実施例
【0035】
本実施形態の切削工具1と従来構造の切削工具のそれぞれにおいて、クーラントの流れをシミュレーションにより流体解析して比較した(図6参照)。この解析によると、本実施形態の切削工具1では、クーラント流路40と貫通穴41を通ってクーラントCがドリルヘッド(工具ボディ)10の先端側10tまで運ばれ、切れ刃61やガイドパッド80を冷却・潤滑する役割が十分に働くことが確認された。一方で、貫通穴のない従来構造の切削工具ではクーラントが途中で切りくず排出穴に吸い込まれることで切れ刃などまで供給されにくく、結果として、従来構造の切削工具の場合は工具先端にて20%以上のクーラントの流量損失があることも確認された。これに対し、本実施形態の切削工具1の場合は同箇所における流量損失が1%以内に収まるとの結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、穴加工用の切削工具に適用して好適である。
【符号の説明】
【0037】
1…(穴加工用の)切削工具
10…ドリルヘッド(工具ボディ)
10A…中心軸
10b…基端側
10t…先端側
12…先端面
14…外周面
15…接続部
16…大径部
17…テーパ部
20…インサート取付座
30…切りくず排出穴
31,32…切りくず排出穴の開口部
40…クーラント流路
41(41A,41B)…貫通穴
42(42A,42B)…貫通穴の基端側開口部
43(43A,43B)…貫通穴の先端側開口部
60…切削インサート
61…切れ刃
70…インサート取付ねじ
80…ガイドパッド
C…クーラント
【要約】
【課題】クーラントが工具先端側まで十分に供給されるようにする。
【解決手段】切削インサート60が取り付けられるインサート取付座20を備えた穴加工用の切削工具1の工具ボディ10は、インサート取付座20から当該工具ボディ10の基端側10bから先端側10tへ向け形成された切りくず排出穴30と、当該工具ボディ10の基端側10bから先端側10tへ向けてクーラントを供給するクーラント流路40と、を備えている。クーラント流路40は、当該工具ボディ10の外周面14から先端側10tへ向かう貫通穴41を有する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6