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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】質量分析装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/16 20060101AFI20241009BHJP
【FI】
H01J49/16 500
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024502724
(86)(22)【出願日】2022-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2022008217
(87)【国際公開番号】W WO2023162203
(87)【国際公開日】2023-08-31
【審査請求日】2024-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】工藤 朋也
(72)【発明者】
【氏名】細尾 幸平
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-89227(JP,A)
【文献】特開平6-76789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料をイオン化するイオン源ユニットと、前記イオン源ユニットで生成されたイオンを質量分析するための真空チャンバを備えた分析ユニットと、を備えた質量分析装置であって、
前記イオン源ユニットが、
密閉容器であるイオン源ハウジングと、
前記イオン源ハウジングを収容するイオン源カバーと、
前記イオン源カバーを収容するイオン源筐体と、
前記イオン源カバー及び前記イオン源ハウジングを貫通し、該イオン源ハウジング内に液体試料を噴霧するプローブと、
前記イオン源カバーと前記イオン源ハウジングとの間に位置する中空の本体部と、前記本体部内を通過するガスを加熱するヒータと、前記ヒータによって加熱されたガスを前記イオン源ハウジング内に吐出するガス吐出管と、を備えた加熱ガスノズルと、
前記イオン源筐体に設けられたイオン源筐体吸気口及びイオン源筐体排気口と、
前記イオン源カバーに設けられたイオン源カバー吸気口及びイオン源カバー排気口と、
前記イオン源カバー吸気口から前記イオン源カバー内に流入して、該イオン源カバー内を通過した空気を、前記イオン源カバー排気口を介して排出する第1排気ファンと、
前記イオン源カバー排気口から前記イオン源筐体内に排出された空気、及び前記イオン源筐体吸気口から前記イオン源筐体内に流入して、該イオン源筐体内を通過した空気を、前記イオン源筐体排気口を介して外部に排出する第2排気ファンと、
を備える質量分析装置。
【請求項2】
前記イオン源カバーにおいて、
前記イオン源カバー吸気口から前記イオン源カバー排気口に向かう空気の流路上に前記加熱ガスノズルが位置しており、前記流路上の該加熱ガスノズルよりも上流側に前記プローブが位置している、
請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項3】
更に、
前記イオン源ユニットと前記真空チャンバとの間に位置する中空のインターフェース部と、
一端が前記イオン源ハウジング内に開口し、他端が前記真空チャンバ内に開口し、前記一端と前記他端との間の中間部が前記インターフェース部内に位置する脱溶媒管と、
前記イオン源カバー吸気口から前記イオン源カバー内に流入した空気の一部を前記インターフェース部に流入させる第1通気口と、
前記第1通気口から前記インターフェース部に流入して該インターフェース部内を通過した空気を前記イオン源カバー内に還流させる、前記第1通気口よりも前記第1排気ファン側に設けられた第2通気口と、
を備え、
前記第1通気口は、前記第2通気口よりも前記イオン源筐体吸気口側に設けられている請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項4】
更に、
前記加熱ガスノズルの前記本体部を収容する、両端が開放された筒状のリフレクタ
を備え、
前記本体部の外面と前記リフレクタの内面との間に間隙が設けられている
請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項5】
前記分析ユニットが、前記真空チャンバ内を真空排気する真空ポンプが収容されるポンプ区画と、その他の区画とに分割された分析ユニット筐体を有し、
前記イオン源ハウジング及び前記イオン源カバーが前記分析ユニット筐体の一つの側面に取り付けられ、
前記イオン源筐体が、前記分析ユニット筐体の前記一つの側面と、該一つの側面及び前記イオン源カバーを覆う開閉可能なカバーとで構成されており、
前記分析ユニット筐体の前記一つの側面に設けられた、前記ポンプ区画に連通するポンプ区画吸気口と、
前記分析ユニット筐体の前記一つの側面に対向する側面に設けられた、前記その他の区画に連通するその他区画排気口及び前記ポンプ区画に連通するポンプ区画排気口と、
前記ポンプ区画吸気口から前記ポンプ区画内に流入して、該ポンプ区画内を通過した空気を、前記ポンプ区画排気口を介して外部に排出する第3排気ファンと、
を有し、
前記イオン源筐体排気口が、前記分析ユニット筐体の前記一つの側面に設けられた前記その他の区画に連通する開口部であり、
前記第2排気ファンが、前記イオン源筐体排気口から前記その他の区画に流入して、該その他の区間内を通過した空気を、前記その他区画排気口を介して外部に排出するものであって、
前記イオン源カバー排気口が、前記ポンプ区画吸気口よりも前記イオン源筐体排気口に近い位置に設けられている、
請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項6】
前記イオン源カバーが、導電性コーティングされた低熱伝導性部材から成るスペーサを介して前記イオン源ハウジングに固定されている請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項7】
前記リフレクタが、導電性コーティングされた低熱伝導性部材から成るスペーサを介して前記イオン源ハウジングに固定されている請求項4に記載の質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフと組み合わせて用いられる質量分析装置は一般に、該液体クロマトグラフから溶出してきた液体試料中の成分を略大気圧雰囲気の下でイオン化するイオン源と、該イオン源で生成されたイオンを質量分析する質量分析計とを備えている。液体試料中の成分を略大気圧雰囲気下でイオン化する手法(すなわち大気圧イオン化法)としては、エレクトロスプレイイオン化(ESI:Electrospray ionization)法又は大気圧化学イオン化(APCI:Atmospheric pressure chemical ionization)法などがよく利用されている。
【0003】
例えば、ESI法による試料のイオン化を行うイオン源は、液体試料が流れる金属製のキャピラリと、該キャピラリの外側に同軸に設けられたネブライザガス管とを備えた試料プローブを有しており、該プローブの先端が、略大気圧雰囲気にあるイオン源ハウジング内に挿入されている。このようなイオン源では、液体クロマトグラフのカラムから溶出した液体試料がキャピラリに導かれると共に、該キャピラリの先端に数kV程度の高電圧が印加される。そして、ネブライザガス管を流れるネブライザガスによって該液体試料を噴霧することによって、印加した電圧と同符号の帯電液滴が生成される。帯電液滴はイオン源内を移動する過程で溶媒の蒸発及び表面電場の増加が進み、電荷同士の反発力によって分裂を繰り返し、最終的に試料成分に由来するイオンが生成される。
【0004】
このようなイオン源において、イオン源内に噴霧された帯電液滴からの溶媒の気化を促進するために、高温のガスを噴射する加熱ガスノズルを備えた質量分析装置が従来知られている(例えば特許文献1を参照)。
【0005】
加熱ガスノズルでは、常温のガス(例えば、乾燥空気又は窒素ガス)がヒータによって400℃~500℃程度まで加熱された上で、イオン源ハウジング内に噴射される。これにより、イオン源内の帯電液滴に高温のガスが吹き付けられて、帯電液滴が効率良く加熱されて溶媒の気化が促進される。その結果、試料成分のイオン化効率が高まり、より多くのイオンを質量分析計へと導入することが可能となって、分析感度が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2021-089227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような質量分析において分析感度を高めるためには、加熱ガスノズルにおけるガスの加熱温度を高めて脱溶媒効率を向上させることが有効である。しかしながら、加熱ガスノズルに設けられたヒータの温度を高めると、加熱ガスノズルからの輻射又は熱伝導によって、試料プローブが高温となり、プローブ内で液体試料が沸騰してイオン強度が不安定になるといった問題や、イオン源を覆うカバー類やそこから突出する試料プローブの基部等のユーザが触れる可能性のある箇所が高温になるといった問題が発生する。また、加熱ガスノズルの温度を高めると、その熱が質量分析計に伝わり、質量分析計の構成部品が熱膨張してマスシフトによる質量精度悪化の原因となる。こうした問題を回避するためには、加熱ガスノズルの周囲、プローブの周囲、イオン源を覆うカバー類の全面、及びイオン源と質量分析計の間などに断熱材を配置することが考えられるが、その場合、装置の大型化や製造コストの増大を招来するという問題がある。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、大気圧イオン化法による試料のイオン化を行う質量分析装置において、装置の大型化や製造コストの増大を回避しつつ脱溶媒効率を高め、試料の沸騰によるイオン強度の不安定化を防止し、且つユーザが触れる可能性がある部分が高温になることを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析装置は、
液体試料をイオン化するイオン源ユニットと、前記イオン源ユニットで生成されたイオンを質量分析するための真空チャンバを備えた分析ユニットと、を備えた質量分析装置であって、
前記イオン源ユニットが、
密閉容器であるイオン源ハウジングと、
前記イオン源ハウジングを収容するイオン源カバーと、
前記イオン源カバーを収容するイオン源筐体と、
前記イオン源カバー及び前記イオン源ハウジングを貫通し、該イオン源ハウジング内に液体試料を噴霧するプローブと、
前記イオン源カバーと前記イオン源ハウジングとの間に位置する中空の本体部と、前記本体部内を通過するガスを加熱するヒータと、前記ヒータによって加熱されたガスを前記イオン源ハウジング内に吐出するガス吐出管と、を備えた加熱ガスノズルと、
前記イオン源筐体に設けられたイオン源筐体吸気口及びイオン源筐体排気口と、
前記イオン源カバーに設けられたイオン源カバー吸気口及びイオン源カバー排気口と、
前記イオン源カバー吸気口から前記イオン源カバー内に流入して、該イオン源カバー内を通過した空気を、前記イオン源カバー排気口を介して排出する第1排気ファンと、
前記イオン源カバー排気口から前記イオン源筐体内に排出された空気、及び前記イオン源筐体吸気口から前記イオン源筐体内に流入して、該イオン源筐体内を通過した空気を、前記イオン源筐体排気口を介して外部に排出する第2排気ファンと、
を有している。
【発明の効果】
【0010】
上記構成を有する本発明に係る質量分析装置によれば、装置の大型化や製造コストの増大を回避しつつ脱溶媒効率を高め、試料の沸騰によるイオン強度の不安定化を防止し、且つユーザが触れる可能性がある部分が高温になることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る質量分析装置を斜め前方から見た状態を示す斜視図。
図2】前記質量分析装置の正面カバーを開いた状態を示す斜視図。
図3】前記質量分析装置を斜め後方から見た状態を示す斜視図。
図4】前記質量分析装置の側方断面図。
図5図4のA-A矢視断面図。
図6】前記質量分析装置における加熱ガスノズル及びその周囲を示す拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係る質量分析装置について図面を参照しつつ説明する。図1図3は本実施形態に係る質量分析装置の外観を示す斜視図であり、図4及び図5は前記質量分析装置の断面図である。なお、説明の便宜上、図1中のX方向を右方、Y方向を後方、Z方向を上方として前後、上下、及び左右を定義する。これは、図2図5でも同様である。また、図4は前記質量分析装置を右方から見たときの概略的な横断面図であり、図5図4のA-A矢視断面図である。これらの断面図は本実施形態に係る質量分析装置の内部構造を見やすく示したものであり、内部構造の一部は簡略的に示している。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係る質量分析装置は、奥行き方向に長い略直方体状の外観を有しており、その前側にイオン源ユニット100が、後側に分析ユニット200が配置されている。分析ユニット200は、直方体状の筐体(以下、分析ユニット筐体210とよぶ)を備え、分析ユニット筐体210の内部は、隔壁211によって真空チャンバ収容部300、ポンプ収容部400(本発明における「ポンプ区画」に相当)、及び回路等収容部500(本発明における「その他の区画」に相当)に区画されている。
【0014】
真空チャンバ収容部300は、分析ユニット200内の右上部に配置されており、略直方体状の真空チャンバ330と、真空チャンバ330の前方に設けられたインターフェース部320とが収容されている。真空チャンバ収容部300の下方にはポンプ収容部400が配置されている。ポンプ収容部400には、真空チャンバ330を真空排気するためのターボ分子ポンプ412が配設されている。真空チャンバ収容部300及びポンプ収容部400の左方には、回路等収容部500が配置されており、回路等収容部500には、様々な電気回路等が収容されている。
【0015】
イオン源ユニット100は、真空チャンバ収容部300の前方に配置されたイオン源130と、イオン源130を覆うイオン源カバー120と、分析ユニット筐体210の正面壁216(本発明における「分析ユニット筐体の一つの側面」に相当)及びイオン源カバー120を覆う正面カバー110と、を備えている。イオン源130の筐体(以下「イオン源ハウジング131」とよぶ)と、イオン源カバー120は、電磁両立性及び安全性の観点からアースに接続する必要があるため、導電性を有する金属で構成されている。
【0016】
イオン源130は、エレクトロスプレーイオン化(ESI:Electrospray ionization)法による試料のイオン化を行うものであり、イオン源ハウジング131と、イオン源ハウジング131内に液体試料を噴霧するためのメインプローブ141及びサブプローブ142と、を含んでいる。イオン源ハウジング131は、Oリング等のシール部材232を介してインターフェース部320の前壁面に取り付けられており、イオン源ハウジング131とインターフェース部320の金属面同士が接触しない構造となっている。それにより、イオン源ハウジング131の熱がインターフェース部320を介して真空チャンバ330に伝わるのを防止することができる。更に、イオン源カバー120は、柱状のスペーサ132を介してイオン源ハウジング131外にねじ留め等によって固定されている。スペーサ132としては、導電性コーティングされた低熱伝導性部材から成るものを好適に用いることができる。ここで低熱伝導性部材は、イオン源カバー120及びイオン源ハウジング131の熱伝導率よりも低い熱伝導率を有する部材であり、例えばポリアミド6(PA6)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、又はABSなどの樹脂を用いることができる。また、導電性コーティングとしては、例えば、ニッケルめっき、銅めっき、若しくはクロムめっき等の金属メッキ、又はアルミ蒸着などの金属蒸着を用いることができる。それにより、イオン源ハウジング131の熱がイオン源カバー120に伝わるのを防止することができる。
【0017】
イオン源ハウジング131は、Z軸方向に延びるヒンジ(図示略)を介してインターフェース部320に取り付けられており、前記ヒンジ周りに蝶動可能な構成となっている。
【0018】
正面カバー110は、分析ユニット筐体210の正面壁216の左辺に設けられたヒンジ112を介して分析ユニット筐体210に取り付けられており、ヒンジ112周りに蝶動させることで開閉可能な構成となっている。本実施形態において、この正面カバー110及び正面壁216が本発明における「イオン源筐体」に相当する。正面カバー110のうち、イオン源カバー120と対応する位置(すなわち右上部分)には、前方に突出した領域が設けられており、この領域の内側にイオン源カバー120が収容される。以下、正面カバー110のうち、この突出した領域をイオン源カバー囲繞部111とよぶ。
【0019】
イオン源130には、その内部に測定対象試料を噴霧するためのメインプローブ141の先端部と、分析前のオートチューニングやキャリブレーションなどに使用する標準試料を噴霧するためのサブプローブ142の先端部とが挿入されている。メインプローブ141の基端部には、液体クロマトグラフのカラム143の出口が接続されており、サブプローブ142の基端部には、該プローブ142に標準試料を供給するための配管144が接続されている。更に、メインプローブ141及びサブプローブ142には、それぞれ該プローブ141、142にネブライザガスを供給するための配管(図示略)と、該プローブ141、142に電圧を印加するための電源(図示略)とが接続されている。
【0020】
イオン源130には、更に、イオン源ハウジング131の内部空間と、真空チャンバ収容部300に設けられた真空チャンバ330(後述する)とを連通させる脱溶媒管310の一端が挿入されている。脱溶媒管310は奥行き方向に延在しており、メインプローブ141及びサブプローブ142は、各プローブ141、142の噴霧軸(プローブ141、142から噴霧される帯電液滴の進行方向の中心軸)と、脱溶媒管310の中心軸とが、イオン源130内で直交するように配置されている。具体的には、メインプローブ141は、脱溶媒管310の中心軸に対して左斜め上方から帯電液滴を噴霧するように傾斜させた状態でイオン源ハウジング131の左側上部に取り付けられ、サブプローブ142は、脱溶媒管310の中心軸に対して右斜め上方から帯電液滴を噴霧するように傾斜させた状態でイオン源ハウジング131の右側上部に取り付けられている。
【0021】
イオン源130の前方には、メインプローブ141又はサブプローブ142から噴霧される帯電液滴に対して前方から加熱ガスを吹き付ける加熱ガスノズル150と、加熱ガスノズル150を囲うリフレクタ160とが配置されている。
【0022】
加熱ガスノズル150は、図6に示すように、両端が封鎖された円筒型の本体部151と、本体部151内に収容されたヒータ155と、本体部151の両端付近の周面から突出する2つのガス流入管152、と、本体部151の長さ方向の中央付近の周面から突出するガス吐出管153と、を備えている。本体部151、ガス流入管152、及びガス吐出管153は、例えば、ステンレス鋼などの金属で構成されている。ガス流入管152とガス吐出管153とは、本体部151の周方向の互いに異なる位置に配置されており、ガス流入管152及びガス吐出管153の内部空間は、それぞれ本体部151の内部空間と連通している。ヒータ155は、本体部151の内径よりも小さい外径を有する管状の芯材156の外周に電熱線157をコイル状に巻回させたものである。芯材156は、例えば、セラミックスで構成されており、その端部に、本体部151の両端壁の内表面に設けられた突起が挿入されることによって本体部151に固定されている。
【0023】
ガス流入管152には、例えば、乾燥空気又は窒素ガス等のアシストガスを充填したガスボンベに至る配管(図示略)が接続されている。ガス吐出管153は、リフレクタ160、及びイオン源ハウジング131の正面壁を貫通しており、その先端がイオン源130内においてメインプローブ141及びサブプローブ142の先端近傍に位置している。
【0024】
なお、加熱ガスノズル150のヒータ155に設けられた電熱線157の両端は、それぞれ本体部151の両端壁に設けられた電極に接続されており、それら電極は、配線を介してイオン源カバー120の背面壁に設けられた一次コネクタ173に接続されている。一方、分析ユニット筐体210の正面壁216には、一次コネクタ173と対応する位置に二次コネクタ174が設けられており、二次コネクタは配線を介して分析ユニット筐体210内に収容された電源511に接続されている。図4に示すようにイオン源カバー120を分析ユニット200の前方に配置した状態では、一次コネクタ173と二次コネクタ174とが嵌合して、ヒータ155が電源511に繋がった状態となっている。一方、イオン源カバー120及びイオン源ハウジング131を上述のヒンジ(図示略)を介して蝶動させることによってイオン源カバー120の背面壁を分析ユニット筐体210の正面壁216から離間させると、一次コネクタ173が二次コネクタ174から外れてヒータ155と電源511との接続が解除される。
【0025】
リフレクタ160は、加熱ガスノズル150の本体部151から放射される熱を反射して本体部151に戻すための熱反射部材であり、例えばアルミニウム、ステンレス鋼、イリジウム、又は白金などの、輻射率が低く耐熱性に優れた金属で構成されている。リフレクタ160は両端が開放された角筒状の形状を有しており、導電性コーティングされた低熱伝導性部材から成るスペーサ161を介してイオン源ハウジング131にねじ留め等によって固定されている。ここでスペーサ161を構成する低熱伝導性部材は、リフレクタ160及びイオン源ハウジング131の熱伝導率よりも低い熱伝導率を有する部材であり、例えばポリアミド6(PA6)、PEEK、POM、PPS、PC、又はABSなどの樹脂を用いることができる。また、導電性コーティングとしては、例えばニッケルめっき、銅めっき、若しくはクロムめっき等の金属メッキ、又はアルミ蒸着などの金属蒸着を用いることができる。リフレクタ160の内部には、加熱ガスノズル150の本体部151が、その中心軸をリフレクタ160の中心軸と平行にした状態で収容されている。本体部151の直径は、リフレクタ160の互いに対向する内壁面同士の間隔よりも小さくなっており、これにより、本体部151の外周面とリフレクタ160の内周面との間には、空気が通る隙間が形成されている。また、加熱ガスノズル150の本体部151、及びリフレクタ160は、各々の中心軸が、Y軸と直交しなお且つX軸及びZ軸に対して傾斜するように配置されている。具体的には、本体部151及びリフレクタ160は、それらの一端を右斜め上方に、他端を左斜め下方に向けた状態でイオン源ハウジング131の正面壁の外方に取り付けられている。
【0026】
真空チャンバ330は、図4に示すように、奥行き方向(Y軸方向に)沿って前方から順に、第1中間真空室331、第2中間真空室332、及び分析室333の三室に区画されている。第1中間真空室331、第2中間真空室332、及び分析室333は、ポンプ収容部400に配設されたターボ分子ポンプ412及び分析ユニット筐体210の外部に配設されたロータリポンプによって段階的に真空度が高くなるように排気される差動排気系の構成を有している。第1中間真空室331と第2中間真空室332との間、及び第2中間真空室332と分析室333は、両者を隔てる隔壁に設けられた開口で連通している。第1中間真空室331と第2中間真空室332にはそれぞれ、イオンを収束させつつ後段に輸送するためのイオンガイドが設置されており、分析室333には四重極マスフィルタ等のイオン分離器とイオン検出器とが設置されている。
【0027】
インターフェース部320は、第1中間真空室331とイオン源130との間に位置する領域であり、上述の脱溶媒管310は、このインターフェース部320を貫通して、その前端がイオン源130内に位置し、その後端が真空チャンバ330に位置するように配置されている。インターフェース部320の内部空間において、脱溶媒管310の周囲には第2ヒータ323が設けられ、この第2ヒータ323によって脱溶媒管310が所定温度に加熱される。第2ヒータ323は、熱伝導率が高い金属(例えばアルミニウム)により形成される略円柱状の加熱ブロックと、該加熱ブロックを加熱するヒータとを含んでいる。加熱ブロックはその長手方向に貫通孔が形成され、該貫通孔の内周面に接触するように脱溶媒管310が挿通されている。第2ヒータ323の周囲には、第2ヒータ323から放射される熱を反射して第2ヒータ323に戻すための第2リフレクタ324が設けられている。第2リフレクタ324は、例えばアルミニウム、ステンレス鋼、イリジウム、又は白金などの、輻射率が低く耐熱性に優れた金属から成る板を屈曲させて成るものであって、該板にはインターフェース部320内を流れる空気を通過させるための切り欠きが設けられている。
【0028】
本実施形態の質量分析装置における分析操作を簡単に説明する。メインプローブ141又はサブプローブ142に液体試料(測定対象試料又は標準試料)が供給されると、当該プローブ141、142の先端からネブライザガス及び前記液体試料が放出され、これにより霧状になった液体試料がイオン源130内に噴霧される。このとき、メインプローブ141又はサブプローブ142に電圧が印加されることにより、前記液体試料は偏った電荷を付与されつつ噴霧され、噴霧された帯電液滴中の溶媒が気化する過程で試料成分がイオン化される。
【0029】
また、前記帯電液滴からの溶媒の気化(すなわち脱溶媒)を促進するため、イオン源130内には、以下のようにして加熱ガスが導入される。まず、図示しないガスボンベから常温のアシストガスが供給され、加熱ガスノズルに設けられた2つのガス流入管152を介して本体部151内へと流入する。本体部151内では、ヒータ155が発する熱によって、前記アシストガスが加熱される。そして、所定の温度に加熱された加熱ガスは、ガス吐出管153から吐出されてイオン源130内に導入される。
【0030】
以上によりイオン源130内で生成されたイオンは、脱溶媒管310の両端の圧力差によって生じるガス流に乗って脱溶媒管310内に吸い込まれる。このとき、溶媒が十分に気化していない帯電液滴が脱溶媒管に吸い込まれた場合でも、第2ヒータによって高温になっている脱溶媒管310の中で脱溶媒が進行し、イオン化が促進される。
【0031】
こうして、脱溶媒管310を介して真空チャンバ330の第1中間真空室331へと送られたイオンは、イオンガイドによって収束されつつ第1中間真空室331及び第2中間真空室332を通過して分析室333に導入される。分析室333では、四重極マスフィルタ等のイオン分離器によって特定のm/zを有するイオンのみを通過させるか、又は通過させるイオンのm/zを所定の範囲内で走査し、イオン分離器を通過したイオンをイオン検出器で検出する。
【0032】
上記のように、イオン源130内で帯電液滴に加熱ガスを吹き付けることによって帯電液滴からの脱溶媒を促進してイオン化効率を高めることができる。このような質量分析における分析感度を高めるためには、加熱ガスの温度を高めて脱溶媒効率を向上させることが必要となる。しかしながら、本体部151に設けられたヒータの温度を高めると、本体部151からの輻射又は熱伝導によって、メインプローブ141及びサブプローブ142が高温となり、これらのプローブ141、142内で液体試料が沸騰してイオン強度が不安定になるといった問題や、イオン源カバー120並びにそこから突出しているメインプローブ141及びサブプローブ142の基部等のユーザが触れる可能性のある箇所が高温になるといった問題が発生する。また、イオン源カバー120又はイオン源ハウジング131が高温になると、その熱がインターフェース部320を介して真空チャンバ330に伝わり、真空チャンバ330内の部品が熱膨張してマスシフトによる質量精度悪化の原因となる。本実施形態に係る質量分析装置は、このような問題を回避すべく、イオン源ユニット100及びインターフェース部320を空冷する機構を設けたものである。
【0033】
以下、本実施形態の特徴的な構成であるイオン源ユニット100の空冷機構について説明する。
【0034】
正面カバー110のイオン源カバー囲繞部111には、その右側面と左側面の上部に、前後方向(Y軸方向)に延びるスリット状の開口部が形成されている。以下、これら開口部のうち、前記左側面に設けられたものを正面カバー第1吸気口113とよび、前記右側面に設けられたものを正面カバー第2吸気口114とよぶ。この正面カバー第1吸気口113及び正面カバー第2吸気口114が本発明におけるイオン源筐体吸気口に相当する。
【0035】
イオン源カバー120には、その右側面と左側面の上部に、上下方向(Z軸方向)に延びるスリット状の開口部が形成されている。以下、これらの開口部のうち、前記左側面に設けられたものをイオン源カバー第1吸気口121とよび、前記右側面に設けられたものをイオン源カバー第2吸気口122とよぶ。このイオン源カバー第1吸気口121及びイオン源カバー第2吸気口122が本発明におけるイオン源カバー吸気口に相当する。更に、イオン源カバー120の下面の左端には、開口部であるイオン源カバー排気口124が形成されており、該イオン源カバー排気口124にはイオン源カバー120内の空気を排出するためのファンが設けられている。以下、これをイオン源カバー排気ファン123とよぶ。このイオン源カバー排気ファン123が本発明における第1排気ファンに相当する。なお、イオン源カバー排気ファン123は、配線を介して上述の一次コネクタ173に接続されており、イオン源カバー120及びイオン源ハウジング131の蝶動に伴って、イオン源カバー排気ファン123と電源511とが接続されたり、当該接続が解除されたりするようになっている。
【0036】
分析ユニット筐体210の正面壁216のうち、イオン源カバー120が取り付けられている領域以外の領域には、分析ユニット筐体210の内外を連通する2つの開口部が設けられている。これら二つの開口部の一方は、回路等収容部500の前方に位置しており、他方は、ポンプ収容部400の前方に位置している。以下、これらの開口部のうち回路等収容部500側に設けられたものを回路等収容部吸気口212(本発明における「イオン源筐体排気口」に相当)とよび、ポンプ収容部400側に設けられたものをポンプ収容部吸気口213(本発明における「ポンプ区画吸気口」に相当)とよぶ。
【0037】
分析ユニット筐体210の背面壁217(本発明における「分析ユニット筐体の一つの側面に対向する側面」に相当)には、回路等収容部500の後方及びポンプ収容部400の後方に相当する位置にそれぞれ分析ユニット筐体210内の空気を排出するための開口部が設けられており、これらの開口部にはそれぞれファンが取り付けられている。以下、これらの開口部及びファンのうち、回路等収容部500側に設けられたものを回路等収容部排気口218及び回路等収容部排気ファン214とよび、ポンプ収容部400側に設けられたものをポンプ収容部排気口219及びポンプ収容部排気ファン215とよぶ。このうち回路等収容部排気口218が本発明における「その他区画排気口」に相当し、回路等収容部排気ファン214が本発明における第2排気ファンに相当する。また、ポンプ収容部排気口219が本発明における「ポンプ区画排気口」に相当し、ポンプ収容部排気ファン215が本発明における第3排気ファンに相当する。
【0038】
なお、これらの回路等収容部吸気口212及びポンプ収容部吸気口213は、埃等の異物が侵入するのを防ぐためのフィルタで覆われている。
【0039】
更に、イオン源カバー120と分析ユニット筐体210の境界部のうち、インターフェース部320の前方に位置する領域には、イオン源カバー120の内部空間とインターフェース部320の内部空間を連通する2つの開口部が設けられている。これらの開口部は、脱溶媒管310を挟んで上下に略対称な位置に設けられている。以下、これらの開口部のうち、上側の開口部をインターフェース吸気口321とよび、下側の開口部をインターフェース排気口322とよぶ。このインターフェース吸気口321が本発明における第1通気口に相当し、インターフェース排気口322が本発明における第2通気口に相当する。
【0040】
なお、本実施形態において、質量分析装置の内部に空気を取り込むための開口部の面積(すなわち正面カバー第1吸気口113と正面カバー第2吸気口114の開口面積の合計)は、質量分析装置から外部に空気を排出するための開口部の面積(すなわち回路等収容部排気ファン214とポンプ収容部排気ファン215の開口面積の合計)の1/2以下とすることが望ましい。これにより、質量分析装置内を通過してメインプローブ141、サブプローブ142、及びイオン源カバー120等に触れる空気の流速を上げることができ、空冷効率を上げることができる。
【0041】
上述のイオン源カバー排気ファン123、回路等収容部排気ファン214、及びポンプ収容部排気ファン215を作動させることにより、本実施形態に係る質量分析装置の内部を通過する空気の流れが形成される。
【0042】
具体的には、正面カバー第1吸気口113及び正面カバー第2吸気口114から正面カバー110内に空気が取り込まれる。正面カバー110内に取り込まれた空気の一部は、正面カバー110の内壁面とイオン源カバー120の外壁面との間の空間(これを第1空間101とよぶ)に進入し、当該空間101内を流通した後に回路等収容部吸気口212又はポンプ収容部吸気口213を経て第1空間101から排出される。以上の過程で、第1空間101を流通する空気によって、イオン源カバー120の外壁面と、メインプローブ141及びサブプローブ142のうち第1空間101に露出している部分と、が冷却される。
【0043】
また、正面カバー第1吸気口113及び正面カバー第2吸気口114から第1空間101に取り込まれた空気のうち残りの一部は、イオン源カバー第1吸気口121及びイオン源カバー第2吸気口122からイオン源カバー120内に取り込まれる。イオン源カバー120内に取り込まれた空気は、イオン源カバー120の内壁面とイオン源ハウジング131の外壁面との間の空間(これを第2空間102とよぶ)を流通し、イオン源カバー排気ファン123を経て第2空間102から排出される。これにより、第2空間102を流通する空気によって、イオン源カバー120の内壁面と、イオン源ハウジング131の外壁面と、メインプローブ141及びサブプローブ142のうち第2空間102に露出している部分と、が冷却される。
【0044】
更に、イオン源カバー第1吸気口121から第2空間102に進入した空気の一部は、傾斜姿勢で配置されたリフレクタ160の外壁面に当たり、当該外壁面に沿って右斜め上方へと進行する。この過程でリフレクタ160の外壁面が冷却される。そして、リフレクタ160の上端(右端部)に到達した空気は、イオン源カバー第2吸気口122から第2空間102に進入した空気の一部と共に、リフレクタ160の内壁面と加熱ガスノズル150の外壁面との間の隙間に流入し、当該隙間を左下方に向かって進行する。この過程で、リフレクタ160の内面と加熱ガスノズル150の外周面とが空冷される。その後、前記隙間を通過した空気は、イオン源カバー排気ファン123を経て第2空間102から排出される。
【0045】
また、イオン源カバー第1吸気口121及びイオン源カバー第2吸気口122から第2空間102に取り込まれた空気の一部は、インターフェース吸気口321からインターフェース部320内に取り込まれ、インターフェース部320の内部を流通した後にインターフェース排気口322から第2空間102へと排出される。この過程で、インターフェース部320内を流れる空気によって、第2ヒータ323及び第2リフレクタ324が冷却される。そして、インターフェース排気口322から第2空間102へと排出された空気は、イオン源カバー排気ファン123によって第2空間102から排出される。
【0046】
イオン源カバー排気ファン123によって第2空間102から第1空間101へと排出された空気は、イオン源カバー排気ファン123の近傍に位置する回路等収容部吸気口212から分析ユニット筐体210内に取り込まれる。一方、正面カバー第1吸気口113及び正面カバー第2吸気口114から第1空間101に取り込まれた空気のうち、第2空間102に取り込まれなかった空気の一部は、ポンプ収容部吸気口213から分析ユニット筐体210内(具体的にはポンプ収容部400の内部)に取り込まれる。このように、イオン源カバー排気ファン123を、真空ポンプが配設されていない領域(すなわち回路等収容部500)に設けられた吸気口(すなわち回路等収容部吸気口212)の近傍に配置したことにより、第2空間102(又は第2空間102とインターフェース部320)を通過した比較的高温の空気がターボ分子ポンプ412に触れて当該ポンプの故障率が上がるのを防ぐことができる。
【0047】
回路等収容部吸気口212から分析ユニット筐体210内に取り込まれた空気(図4中において点線の矢印で示す)は、回路等収容部500の内部を通過して回路等収容部排気ファン214から分析ユニット筐体210外へと排出される。一方、ポンプ収容部吸気口213から分析ユニット筐体210内に取り込まれた空気は、ポンプ収容部400内を通過してポンプ収容部排気ファン215から分析ユニット筐体210の外へと排出される。
【0048】
以上の通り、本実施形態に係る質量分析装置では、上記のような空冷機構を設けたことにより、イオン源カバー120の外側と内側に空気の流れを発生させてイオン源カバー120を効率よく冷却することができる。また、上記のような空冷機構によれば、メインプローブ141及びサブプローブ142のうちイオン源ハウジング131から突出した部分、及びインターフェース部320を、加熱ガスノズル150に触れる前の比較的低温の空気によって効率よく冷却することができる。その結果、脱溶媒効率を高めるために加熱ガスの温度を上げた場合でも、大型の断熱材を用いることなしに、プローブ141、142内での液体試料の沸騰によるイオン強度の不安定化を防止でき、なお且つユーザが触れる可能性がある箇所が高温になるのを防ぐことができる。また、インターフェース部320を冷却することによって、イオン源ユニット100及びインターフェース部320で生じた熱が真空チャンバ330に伝わるのを防ぐことができ、質量安定性を向上させることができる。
【0049】
また、本実施形態に係る質量分析装置では、加熱ガスノズルの周囲をリフレクタで囲んだことにより、加熱ガスノズルからメインプローブ、サブプローブ、及びイオン源カバーへの輻射を防ぐことができる。また、上記のようにリフレクタを空冷することによって、リフレクタからメインプローブ、サブプローブ、及びイオン源カバーへの輻射を防ぐこともできる。また、加熱ガスノズルの外面とリフレクタの内面との間の隙間を通る風によって加熱ガスノズルを冷却する構成としたことにより、リフレクタ160を設けない場合に比べて、加熱ガスノズルに触れる空気の流速を高めて冷却効率を向上させることができる。また、リフレクタ160と加熱ガスノズル150との間を通過する空気は、リフレクタ160の内面及び加熱ガスノズルの外面に沿って右上から左下に向かって流れ、イオン源カバー120の左下部に設けられたイオン源カバー排気ファン123を介して第2空間102の外に排出される。そのため、加熱ガスノズル150に触れて高温になった空気がプローブ141、142に触れるのを防いで空冷効率を高めることができる。
【0050】
以上、本発明を実施するための形態について具体例を挙げて説明を行ったが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲で適宜変更が許容される。例えば、上記実施形態では、イオン源130にメインプローブ141とサブプローブ142の2本のプローブを設けた構成としたが、これに限らず、イオン源130にはプローブを1本だけ設け、該プローブによって測定対象試料と標準試料を切り換えて噴霧する構成としてもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、イオン源130としてエレクトロスプレーイオン化(ESI:Electrospray ionization)法による試料のイオン化を行うものを用いる構成としたが、イオン源は、大気圧イオン化による試料のイオン化を行うものであれば、これに限定されるものではなく、例えば大気圧化学イオン化(APCI:Atmospheric pressure chemical ionization)法による試料のイオン化を行うものとしてもよい。その場合、イオン源ハウジング内には、コロナ放電電極を設けると共に、メインプローブ141又はサブプローブ142に電圧を印加する機構に代えて、前記コロナ放電電極に電圧を印加する機構を設けることとする。あるいは、上記実施形態におけるイオン源130に代えてESI法によるイオン化とAPCI法によるイオン化を同時に行うデュアルイオンソース型のイオン源を備えた構成としてもよい。その場合、イオン源ハウジング131内には、コロナ放電電極を設けると共に、プローブ141、142に電圧を印加する機構と前記コロナ放電電極に電圧を印加する機構の両方を設けることとする。
【0052】
また、加熱ガスノズル150の構造は上記実施形態で示したものに限らず、種々の形態とすることができる。例えば、上記実施形態では、ヒータ155を構成する電熱線157が芯材156に巻回されているものとしたが、これに限らず、電熱線157を本体部151の周壁の内面に固定したもの、前記周壁の内部に埋め込んだもの、あるいは前記周壁の外周に巻回させたものなどとすることができる。また、電熱線157はコイル状に限らず種々の形状とすることができる。また、上記実施形態では、本体部151の周壁の両端付近の二カ所から本体部151内に加熱前のアシストガスを流入させ、加熱後のアシストガスを前記周壁の中間部から吐出する構成としたが、これに限らず、前記周壁の一端付近の一カ所から本体部151内に加熱前のアシストガスを流入させ、加熱後のアシストガスを周壁の他端付近から吐出する構成としてもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、本発明に係る第2排気ファンに相当する構成要素である回路等収容部排気ファン214の働きによって、正面カバー110と分析ユニット筐体200の正面壁216との間の空気を、分析ユニット200(具体的には回路等収容部500)を介して質量分析装置の外部に排出するものとしたが、これに限らず、本発明に係る第2排気ファンを例えば、正面カバー110の下部等に配設することによって、正面カバー110と分析ユニット筐体200の正面壁216との間の空気を、分析ユニット200を介さずに排出する構成としてもよい。
【0054】
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0055】
(第1項)本発明の一態様に係る質量分析装置は、
液体試料をイオン化するイオン源ユニットと、前記イオン源ユニットで生成されたイオンを質量分析するための真空チャンバを備えた分析ユニットと、を有する質量分析装置であって、
前記イオン源ユニットが、
密閉容器であるイオン源ハウジングと、
前記イオン源ハウジングを収容するイオン源カバーと、
前記イオン源カバーを収容するイオン源筐体と、
前記イオン源カバー及び前記イオン源ハウジングを貫通し、該イオン源ハウジング内に液体試料を噴霧するプローブと、
前記イオン源カバーと前記イオン源ハウジングとの間に位置する中空の本体部と、前記本体部内を通過するガスを加熱するヒータと、前記ヒータによって加熱されたガスを前記イオン源ハウジング内に吐出するガス吐出管と、を備えた加熱ガスノズルと、
前記イオン源筐体に設けられたイオン源筐体吸気口及びイオン源筐体排気口と、
前記イオン源カバーに設けられたイオン源カバー吸気口及びイオン源カバー排気口と、
前記イオン源カバー吸気口から前記イオン源カバー内に流入して、該イオン源カバー内を通過した空気を、前記イオン源カバー排気口を介して排出する第1排気ファンと、
前記イオン源カバー排気口から前記イオン源筐体内に排出された空気、及び前記イオン源筐体吸気口から前記イオン源筐体内に流入して、該イオン源筐体内を通過した空気を、前記イオン源筐体排気口を介して外部に排出する第2排気ファンと、
を有するものである。
【0056】
第1項に記載の質量分析装置によれば、イオン源カバーの外側と内側に空気の流れを発生させてイオン源カバー及びプローブを効率よく冷却することができる。その結果、脱溶媒効率を高めるために加熱ガスノズルのヒータの温度を上げた場合でも、プローブ内での液体試料の沸騰によるイオン強度の不安定化を防止でき、なお且つユーザが触れる可能性がある箇所が高温になるのを防ぐことができる。
【0057】
(第2項)第1項に記載の質量分析装置は、
前記イオン源カバーにおいて、
前記イオン源カバー吸気口から前記イオン源カバー排気口に向かう空気の流路上に前記加熱ガスノズルが位置しており、前記流路上の該加熱ガスノズルよりも上流側に前記プローブが位置しているものであってもよい。
【0058】
第2項に記載の質量分析装置によれば、イオン源カバーの内部において、プローブのうちイオン源ハウジングから突出した部分を、加熱ガスノズルに触れる前の比較的低温の空気によって効率よく冷却することができる。
【0059】
(第3項)第1項に記載の質量分析装置は、更に、
前記イオン源ユニットと前記真空チャンバとの間に位置する中空のインターフェース部と、
一端が前記イオン源ハウジング内に開口し、他端が前記真空チャンバ内に開口し、前記一端と前記他端との間の中間部が前記インターフェース部内に位置する脱溶媒管と、
前記イオン源カバー吸気口から前記イオン源カバー内に流入した空気の一部を前記インターフェース部に流入させる第1通気口と、
前記第1通気口から前記インターフェース部に流入して該インターフェース部内を通過した空気を前記イオン源カバー内に還流させる、前記第1通気口よりも前記第1排気ファン側に設けられた第2通気口と、
を備え、
前記第1通気口は、前記第2通気口よりも前記イオン源筐体吸気口側に設けられているものであってもよい。
【0060】
第3項に記載の質量分析装置によれば、インターフェース部内に空気の流れを発生させて該インターフェース部を冷却することができ、その結果、イオン源ユニット又はインターフェース部で生じた熱が真空チャンバに伝わるのを防ぐことができ、質量安定性を向上させることができる。
【0061】
(第4項)第1項に記載の質量分析装置は、更に、
前記加熱ガスノズルの前記本体部を収容する、両端が開放された筒状のリフレクタ
を備え、
前記本体部の外面と前記リフレクタの内面との間に間隙が設けられているものであってもよい。
【0062】
第4項に記載の質量分析装置によれば、加熱ガスノズルの本体部をリフレクタで囲んだことにより、該本体部からプローブ及びイオン源カバーへの輻射を防ぐことができる。また、前記本体部とリフレクタの間の空隙を空気が通過することによってリフレクタを冷やすことができ、リフレクタからプローブ及びイオン源カバーへの輻射を防ぐこともできる。また、前記本体部とリフレクタの間の空隙を通る風によって加熱ガスノズルを冷却する構成としたことにより、リフレクタを設けない場合に比べて、加熱ガスノズルに触れる空気の流速を高めて冷却効率を向上させることができる。
【0063】
(第5項)第1項に記載の質量分析装置は、
前記分析ユニットが、前記真空チャンバ内を真空排気する真空ポンプが収容されるポンプ区画と、その他の区画とに分割された分析ユニット筐体を有し、
前記イオン源ハウジング及び前記イオン源カバーが前記分析ユニット筐体の一つの側面に取り付けられ、
前記イオン源筐体が、前記分析ユニット筐体の前記一つの側面と、該一つの側面及び前記イオン源カバーを覆う開閉可能なカバーとで構成されており、
前記分析ユニット筐体の前記一つの側面に設けられた、前記ポンプ区画に連通するポンプ区画吸気口と、
前記分析ユニット筐体の前記一つの側面に対向する側面に設けられた、前記その他の区画に連通するその他区画排気口及び前記ポンプ区画に連通するポンプ区画排気口と、
前記ポンプ区画吸気口から前記ポンプ区画内に流入して、該ポンプ区画内を通過した空気を、前記ポンプ区画排気口を介して外部に排出する第3排気ファンと、
を有し、
前記イオン源筐体排気口が、前記分析ユニット筐体の前記一つの側面に設けられた前記その他の区画に連通する開口部であり、
前記第2排気ファンが、前記イオン源筐体排気口から前記その他の区画に流入して、該その他の区間内を通過した空気を、前記その他区画排気口を介して外部に排出するものであって、
前記イオン源カバー排気口が、前記ポンプ区画吸気口よりも前記イオン源筐体排気口に近い位置に設けられているものであってもよい。
【0064】
第5項に記載の質量分析装置によれば、イオン源カバー排気口から排出された比較的高温の空気の多くを、分析ユニット筐体のうち真空ポンプが収容されていない区画を通過させて外部に排出させることができる。そのため、真空ポンプが収容された区画の温度が上昇して真空ポンプの故障率が上がるのを防ぐことができる。
【0065】
(第6項)第1項に記載の質量分析装置は、
前記イオン源カバーが、導電性コーティングされた低熱伝導性部材から成るスペーサを介して前記イオン源ハウジングに固定されているものであってもよい。
【0066】
第6項に記載の質量分析装置によれば、イオン源カバーをイオン源ハウジングによって支持しつつ、イオン源ハウジングからイオン源カバーに熱が伝わるのを回避することができる。
【0067】
(第7項)第4項に記載の質量分析装置は、
前記リフレクタが、導電性コーティングされた低熱伝導性部材から成るスペーサを介して前記イオン源ハウジングに固定されているものであってもよい。
【0068】
第7項に記載の質量分析装置によれば、リフレクタをイオン源ハウジングによって支持しつつ、リフレクタからイオン源ハウジングに熱が伝わるのを回避することができる。
【符号の説明】
【0069】
100…イオン源ユニット
101…第1空間
102…第2空間
110…正面カバー
111…イオン源カバー囲繞部
113…正面カバー第1吸気口
114…正面カバー第2吸気口
120…イオン源カバー
121…イオン源カバー第1吸気口
122…イオン源カバー第2吸気口
123…イオン源カバー排気ファン
124…イオン源カバー排気口
130…イオン源
131…イオン源ハウジング
141…メインプローブ
142…サブプローブ
150…加熱ガスノズル
151…ガス加熱部
152…ガス流入管
153…ガス吐出管
155…ヒータ
160…リフレクタ
200…分析ユニット
210…筐体
212…回路等収容部吸気口
213…ポンプ収容部吸気口
214…回路等収容部排気ファン
215…ポンプ収容部排気ファン
300…真空チャンバ収容部
310…脱溶媒管
320…インターフェース部
321…インターフェース吸気口
322…インターフェース排気口
323…第2ヒータ
324…第2リフレクタ
330…真空チャンバ
400…ポンプ収容部
412…ターボ分子ポンプ
500…回路等収容部
511…電源
図1
図2
図3
図4
図5
図6