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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】気化器
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/31 20060101AFI20241009BHJP
【FI】
H01L21/31 F
H01L21/31 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024543499
(86)(22)【出願日】2024-05-07
(86)【国際出願番号】 JP2024016996
【審査請求日】2024-07-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390014409
【氏名又は名称】株式会社リンテック
(74)【代理人】
【識別番号】100082429
【弁理士】
【氏名又は名称】森 義明
(74)【代理人】
【識別番号】110002295
【氏名又は名称】弁理士法人M&Partners
(72)【発明者】
【氏名】小野 弘文
(72)【発明者】
【氏名】山本 健太
(72)【発明者】
【氏名】八木 茂雄
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-084254(JP,A)
【文献】特開昭56-017946(JP,A)
【文献】特開2009-188266(JP,A)
【文献】特開2001-295050(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0221617(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体製造用の液体原料LMを供給する液体原料供給部12と、供給された前記液体原料LMを気化させる気化用空間Kを内部に有する気化部20と、気化した原料ガスVGを次工程に送り出す原料ガス排出部40とで構成された気化器10であって、
前記気化部20は、
前記気化用空間Kを通って一方の側壁22hから対向する他方の側壁22hに赤外線が透過する透明部材で構成された気化器本体22と、
前記気化用空間K内に充填された、赤外線が透過する透明の球状体30と、
前記気化器本体22から幅Mの間隙dが設けられて配置され、前記気化器本体22に赤外線を照射するヒータHと、
前記ヒータHを間に置いて、前記気化器本体22に対向する面が赤外線が反射する鏡面28kである反射部材28とを含むことを特徴とする気化器。
【請求項2】
前記気化器本体22に対向する面が赤外線を反射する鏡面29kである補助反射部材29が前記ヒータHの、前記気化器本体22の反対側の面に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の気化器。
【請求項3】
前記気化器本体22は螺旋状に形成された管材で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の気化器。
【請求項4】
前記間隙dに連通し、置換気体を供給する置換気体供給部25と、該供給された置換気体を排出する置換気体排出部26とが前記気化部20に設けられ、前記気化器本体22とヒータHとの間の間隙dが置換気体の通流路となっていることを特徴とする請求項1に記載の気化器。
【請求項5】
前記間隙dの幅Mは、ヒータHの周囲に形成される温度境界層Tの厚さδよりも大きく形成されていることを特徴とする請求項1に記載の気化器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体の製造工程で使用される液体原料を加熱ムラなく高効率で安定的に気化させることが可能な気化器に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造工程には、酸化膜形成工程、又は薄膜形成工程のように、その処理を行うために液体原料を必要とする工程が存在する。
例えば、酸化膜形成工程では、シリコンウェーハの表面に酸化膜を形成するために、酸化膜形成用の原料ガス(具体的には、水蒸気や過酸化水素蒸気といった酸化性ガス)が高温の酸化炉内に供給され、酸化膜形成処理が行われる。
薄膜形成工程では、基板上に薄膜を形成するために、液体原料を気化させて原料ガスとし、これら原料ガスが薄膜形成装置内に供給され、薄膜形成処理が行われる。
【0003】
そして、上記各工程において液体化合物を気化させて供給するためのものとして、気化器が用いられている。従来の気化器としては、例えば気化器本体内に多数の孔を有する気化面を設け、この気化面をヒータで加熱しつつ、ノズルから液体原料を吐出してミスト状にした微細液滴をキャリアガスの流れに乗せて気化面に吹き付け、これによって気化させるものがある。このような気化器では、微細液滴が通気性部材に接触するので、気化効率を高めることができる。(特許文献1、2参照)。
【0004】
しかしながら、従来、液体原料の微細液滴を気化するために使用されていた通気性部材は、ヒータからの熱伝導によって加熱していたので、ヒータから離れていて熱量が十分届ず温度が低い部分が存在するため、通気性部材全体に渡って均一に熱量を供給することができなかった。それ故、通気性部材の内、温度が低い部分では、液滴が気化されずに目詰まりを起こす虞があった。液体原料の気化が100%でない場合は、未気化液体が、パーティクルとなって、ウエハ表面に付着し、薄膜形成に重大な損傷をもたらす。そこで、特許文献3に記載の気化器が提案された。
【0005】
特許文献3に記載の気化器では、液体原料の液滴を気化させる通気性部材をセラミックスのような赤外線を吸収しやすい不透明素材で形成し、この不透明な通気性部材によって液体原料の液滴を気化させる際に、通気性部材全体の温度が均一になるように工夫したとされている。即ち、透明石英のスリーブ管を介して気化部内に配置された通気性部材の外側表面の全体にヒータからの赤外線を照射するようにした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-347598号公報
【文献】特開平10-85581号公報
【文献】特開2009-188266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このようにすることで、通気性部材の外側表面全体をヒータからの放射熱で均一に加熱することができ、通気性部材の外側表面を流れる液滴を満遍なくすべて気化させることができるとされていた。
一方、不透明な通気性部材を赤外線は通過できず、通気性部材の内側は表面からの伝熱によって昇温することになる。
一方、通気性部材の表面を流れる液滴は気化ガスの排気に伴って気流と共に通気性部材表面から内部の微細孔を通って内面側に流れて行く。
通気性部材の厚みが大であれば、その内面側の温度は赤外線が直接照射される外面側よりは低くなり、且つ温度ムラを生じやすくて通気性部材の内面側で詰まりが生じる原因となる。その結果、通気性部材の厚みに制限が生じ、気化効率が妨げられるという問題が生じた。
【0008】
また、液体原料の気化プロセスにおいて、温度ムラ以外の点で重要な点は、原料である液体化合物の気化時での温度を必要以上に上げないことである。その理由は、半導体成膜に使用される液体化合物は、温度に対して敏感で、高温度になると、重合しやすいことが上げられる。温度が上がるにつれ、二量体が生成され、次いで三量体さらに多量体となり、分子量が大きくなる。つまり高分子化合物となる。そうすると沸点は高くなり、気化は困難となり、ついには固形化する。こうなると成膜はできなくなる。さらに高温になると、化合物の分解が始まり、薄膜の形成ができなくなる。従って、気化器に対しては、可能な限り、必要最低限度の温度で気化させる必要があるのである。そのためには、気化器に対しては、出来る限り低い温度で、しかも、きわめて均一な温度分布で気化させることが求められる。
【0009】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、半導体製造用の液体原料を出来る限り低い温度で、加熱ムラなく高効率で安定的に気化させることが可能な気化器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明(請求項1)は気化器10を次のように構成した。
半導体製造用の液体原料LMを供給する液体原料供給部12と、供給された前記液体原料LMを気化させる気化用空間Kを内部に有する気化部20と、気化した原料ガスVGを次工程に送り出す原料ガス排出部40とで構成された気化器10であって、
前記気化部20は、
前記気化用空間Kを通って一方の側壁22hから対向する他方の側壁22hに赤外線が透過する透明部材で構成された気化器本体22と、
前記気化用空間K内に充填された、赤外線が透過する透明の球状体30と、
前記気化器本体22から幅Mの間隙dが設けられて配置され、前記気化器本体22に赤外線を照射するヒータHと、
前記ヒータHを間に置いて、前記気化器本体22に対向する面が赤外線が反射する鏡面28kである反射部材28とを含むことを特徴とする。
【0011】
請求項2は、ヒータHに補助反射部材29を更に設けたものであり(図2図3)、請求項1に記載の気化器10において、
前記気化器本体22に対向する面が赤外線を反射する鏡面29kである補助反射部材29が前記ヒータHの、前記気化器本体22の反対側の面に設けられていることを特徴とする。
【0012】
請求項3は、気化器本体22の変形例で(図7)、請求項1に記載の気化器10において、
前記気化器本体22は螺旋状に形成された管材で構成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項4は、間隙dの換気(図2)に関するもので、請求項1に記載の気化器10において、
前記間隙dに連通し、置換気体を供給する置換気体供給部25と、該供給された置換気体を排出する置換気体排出部26とが前記気化部20に設けられ、前記気化器本体22とヒータHとの間の間隙dが置換気体の通流路となっていることを特徴とする。
【0014】
請求項5は、間隙dの大きさに関するもので(図4)、請求項1に記載の気化器10において、
前記間隙dの幅Mは、ヒータHの周囲に形成される温度境界層Tの厚さδよりも大きく形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明(請求項1)によれば、気化器本体22と球状体30は赤外線を透過させる透明部材で構成されているから、ヒータHから出射される赤外線はこれら全体を均等にムラなく通過する。そして、反射部材28によって無数に繰り返して反射されることになるので、赤外線は気化器本体22及び球状体30を全体にわたって均等に通過するようになり、球状体30の間を流下する液体原料LMの全てをムラなく均等に加熱し、気化させることになる。
【0016】
そして、ヒータHは気化器本体22から幅Mの間隙dだけ離間して設けられているので、加熱ムラの原因となるヒータHからの気化器本体22への熱伝導は遮断される。その結果、気化用空間K内に供給された液体原料LMの全体が、気化用空間K内に充填された球状体30の間を流下する間に赤外線による放射熱だけで均等に直接加熱されることになる。
【0017】
気化器本体22が螺旋状に形成されておれば(請求項3)、液体原料LMの流通経路が長くなると共に液体原料LMが旋回しつつ流下するので、赤外線に曝される時間がより長くなり、より確実な気化を実現できる。
【0018】
また、気化器本体22とヒータHとの間の間隙dが通流路となっており、この間隙dに置換気体を流すと(請求項4)、この部分に溜まっており、ヒータHによって加熱されていた被加熱気体(空気)が排出される。その結果、気化用空間K内に供給された液体原料LMは、被加熱気体(空気)の影響を受けず、ヒータHから出射された赤外線による放射熱だけでより均等に直接加熱されることになる。
【0019】
これに加えて、間隙dの大きさ(幅M)を温度境界層Tの厚さδよりも大きく形成しておけば(請求項5)、通流路である間隙dを流れる置換気体からの気化器本体22への伝熱が確実に遮断される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1実施形態の気化器の断面図である。
図2図3におけるA-A’断面図である。
図3図1におけるB-B’断面図である。
図4図2における間隙の部分拡大図である。
図5】第2実施形態の気化器の断面図である。
図6図5におけるC-C’断面図である。
図7】(a)第3実施例の気化器の断面を示す図であり、(b)直管部分の他の例である。
図8】球状体の間を流れる液体原料が放射熱で加熱される状態の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を図面に従って説明する。気化器10は、液体原料LMを気化させて原料ガスVGとし、この原料ガスVGを使用する各種半導体製造装置に供給するもので、液体原料供給部12と気化部20及び原料ガス排出部40とで大略構成されている。
液体原料供給部12は、気化部20に対して液体原料LMを供給する部分であり、気化部20は供給された液体原料LMを気化する部分であり、原料ガス排出部40は気化された原料ガスVGを次工程に排出する部分である。液体原料供給部12は液体原料LMを液滴として供給する場合と、霧化して供給する場合とがあり、気化器10に対して要求される仕様に合わせて適宜選択される。
【0022】
液体原料LMには様々なものがあり、各種半導体製造装置で使用される原料ガスVGに応じて適宜選択される。ここではその代表例として過酸化水素水を取り上げる。
【0023】
(第1実施形態:図1図3
本発明の気化器10の液体原料供給部12は上記のように液体原料LMを液滴として供給する場合と、霧化して供給する場合とがあり、以下、液体原料LMを霧化する場合を取り上げて説明し、その後、液滴として供給する場合を補足的に説明する。
【0024】
液体原料供給部12は液体原料導入管12aとキャリアガス導入管12bとを備えている。液体原料導入管12aは、液体原料供給部12の上面中央部分に突設され、その中心には液体原料LMが通過する液体原料供給孔12cが穿設されている。液体原料供給孔12cの先端は円錐状に絞られ、液体原料供給部12の底面に開口する噴霧口12dが設けられている。
液体原料導入管12aの側面側にはキャリアガス導入管12bが設けられており、液体原料導入管12aの外周には噴霧口12dに繋がり、ベンチュリ効果を奏するキャリアガス供給路12eが設けられている。
【0025】
気化部20は、気化器本体22、球状体30、ヒータHおよび反射部材28により大略構成されている。
【0026】
気化器本体22は、その上面(図1における上側)が開口しており、底面側は閉塞されている円筒状の中空容器である。閉塞された底面を底面部材22sとする。上面側の開口端部は液体原料供給部12の本体部分で塞がれている。気化器本体22の上面開口端部を塞いでいる本体部分を天井部材22tとする。天井部材22tと気化器本体22の底面部材22sとの間の空間が、液体原料LMが気化する気化用空間Kである。中空容器の円筒部分が側壁22hである。
気化器本体22と液体原料供給部12の材質としては、ヒータHから放射される赤外線を透過させることが可能な透明部材が選択され、本実施例では透明石英ガラスが採用されている。
【0027】
気化器本体22の内部(気化用空間K)には、球状体30が充填されている。図1では液体原料LMを霧化させるために、球状体30の上部に霧化用空間Sが形成されるように上部に空間をあけて球状体30が充填される。
球状体30は、気化器本体22と同様、ヒータHから放射される赤外線を透過させることが可能な透明部材が選択される。本実施例では、透明石英ガラスからなる、例えば、直径が2~5mmの球体が採用される。
【0028】
充填された球状体30の上には、必要に応じて多孔質フィルタ23が設置される。多孔質フィルタ23としては、液体原料LMに冒されず、これをスムーズに通過させることができるものであればその材質を問わないが、ここでは、ヒータHから放射される赤外線の透過が可能で、かつ、気化器本体22との溶接固定が可能なように、石英ガラス粉粒体を半溶融状態でその接触部分を溶融接合したポーラスな半溶融石英ガラス多孔質体が用いられる。
【0029】
気化器本体22や球状体30の材質として透明石英ガラスが用いられているのは、ヒータHから放射される赤外線の透過が可能であり、気化器本体22の中心部まで赤外線が透過できるからである。
【0030】
球状体30の形状は、本実施例では球体が採用されているが、球体に限定されるものではなく、例えば顆粒状の石英でもよい。その方が表面積が大きくなるため、液体原料の気化効率を高める点では好ましい)。ただし、振動やその他の外力で欠けが発生し、パーティクルを生じるようなものは採用されない。
【0031】
気化器本体22を構成する中空容器の下端側面に穿設された孔には、管状の原料ガス排出部40が設けられており、この原料ガス排出部40内の気化器本体側の端部には、多孔質フィルタ24が取り付けられている。多孔質フィルタ24は原料ガスVGに冒されず、原料ガスVGをスムーズに通過させることができるものであればよい。多孔質フィルタ24は上記多孔質フィルタ23と同じものが使用される。
【0032】
そして、管状の原料ガス排出部40の外周には原料ガス加熱ヒータGHが内蔵された円筒状のヒータブロック60が取り付けられている。
【0033】
気化器本体22の両側には、複数本(本実施例では2本)のヒータHが立設されている。
各ヒータHと気化器本体22の側壁22hとの間には、間隙dが設けられている。これによってヒータHからの気化器本体22への伝熱が遮断される。しかしながら、この間隙d内に気体(空気)が存在するので、ヒータHの熱が気化器本体22に伝わる。そこで、後述するように、間隙dを気体置換用の通流路として使用することが考えられる。
【0034】
反射部材28は、ヒータHから放射された赤外線を気化用空間Kへ向けて反射するために設けられる円筒状の部材で、その内側面はメッキ或いは研磨などの手段で鏡面28kに仕上げられ、或いはアルミ箔が貼付されて鏡面28kとなっている。反射部材28は、図3のようにヒータHの外側にて気化器本体22を取り囲むように設けられている。反射部材28の上端には天井プレート21が取り付けられ、その下端には底面プレート27が取付られている。
【0035】
これら反射部材28、気化器本体22の側壁22h、天井プレート21及び底面プレート27によってその内部に中空リング状空間が形成され、内部にヒータHが収納されている。
【0036】
図3のヒータHでは補助反射部材29が使用されている。気化器本体22を取り巻く主たる反射部材28があるので、この補助反射部材29は必ずしも必要ではない。この補助反射部材29はヒータHの背面側、即ち、気化器本体22の側壁22hの反対側の面にヒータHの背面全体に設けられ、気化器本体22に対向する面が鏡面29kとなっている。
【0037】
次に、気化器10を用いて液体原料LMを気化する方法について説明する。ヒータHに通電し、気化用空間K内が液体原料LMの気化可能状態になるようにする。気化可能状態になると、液体原料供給部12の液体原料導入管12aに液体原料LMを供給すると共にキャリアガス導入管12bにキャリアガスCGを供給する。これによってベンチュリ効果が生じ噴霧口12dから液体原料LMが霧状となって霧化用空間S内に均一に散布される。
【0038】
霧化用空間S内に散布された霧状の液体原料LMは多孔質フィルタ23上に均等に降り注がれて球状体30側に流下して行く。
気化器本体22内の球状体30は、隣接する球状体30同士が点接触して互いに支え合い、その間に複雑な凹球面で構成された平面視略三角形の空隙Pを形成する(図8)。球状体30側に流下した液体原料LMは球状体30の表面を濡らしつつ流下し、或いは液体原料LMのかなりの部分が空隙P内に溜まって液溜まりを作りながら流下する。
【0039】
一方、ヒータHの熱源から放射された赤外線はその径方向に放射される。ヒータHの気化器本体22側に向いた面では赤外線のかなりの部分が気化器本体22に向かって進行する。背面側に出た赤外線はヒータHの背部の補助反射部材29に反射されて(補助反射部材29がない場合は、円筒状の主たる反射部材28に反射されて)気化器本体22に向かって進行する。
【0040】
気化器本体22は、赤外線を透過する透明石英ガラスによって形成されているので、気化器本体22に向って進行した赤外線は、屈折しながら気化器本体22の側壁22hを透過する。気化器本体22の内部には球状体30が充填されているので、気化器本体22の内部の気化用空間Kに到達した赤外線は、これら球状体30を屈折しながら透過して反対側の側壁22hに至り、更に屈折しながらこれを透過する。図は煩雑になるので、赤外線を直線で示す。
【0041】
気化器本体22を透過した赤外線の大部分は円筒状の反射部材28の反対側の鏡面28kに反射されて再度気化器本体22を透過する。残りの赤外線は補助反射部材29にて反射される。赤外線は円筒状の反射部材28の中でこれを瞬間的且つ無限に繰り返すことになる。
【0042】
一方、気化器本体22の気化用空間K内の赤外線の状態は無限の反射を瞬時に繰り返すので、瞬時に均一な状態となる。これによって気化用空間Kを流れ、均一な赤外線を吸収した液体原料LMの温度は気化用空間Kの全体において均一となる。換言すれば、気化器本体22及び球状体30からの伝熱による加熱は殆どなく、液体原料LMは均一な赤外線だけで加熱される。
【0043】
ここで、使用される赤外線は中赤外線で、その波長は2.5μm~4μmの場合、液体原料LMである水の吸収ピーク波長(3μm)を含んでいる。従って、気化器本体22内に到達した中赤外線の一部は、球状体30表面に形成されている液体原料LMの薄膜に吸収され、或いは空隙P内に溜まった液体原料LMに吸収され、これを気化させる。液体原料LMの薄膜の膜厚が過少であれば、赤外線はそのまま透過する。球状体30は赤外線を透過する透明石英ガラスによって形成されているので、液体原料LMに吸収されなかった赤外線は、球状体30内を透過して反対側に出る。
【0044】
液体原料LMに吸収されなかった赤外線は、気化器本体22内に充填されている球状体30を次々と透過し、気化器本体22の反対側の側壁22hを透過して外部へと出光する。気化器本体22から出光した赤外線は、反射部材28の反対側の鏡面28k(或いはその一部は補助反射部材29)に反射され、再度、気化器本体22へと向かう。
気化用空間K内で気化した原料ガスVGは、急激に体積を増し、原料ガス排出部40から次工程に向けて排出される。
【0045】
本発明の気化器10では、気化用空間K内部の液体原料LMを赤外線だけでムラなく均一に加熱できるので、気化器本体22を大きくすることが出来る。そして、気化器本体22を大きくしても、ウエハ上に形成される膜の膜質を低下させる要因となり得る未気化液体原料LMのパーティクルの流出がない。しかも、上記のように赤外線だけによる均一加熱なので、液体原料LMの加熱に際して、必要最低限度の温度で気化させることが出来、加熱温度を必要以上に上げることがない。即ち、本発明の気化器10を用いれば安定的で且つその気化効率を大いに高められる。
【0046】
上記の場合は、液体原料LMを霧状にして供給した場合である。キャリアガスCGを使用せず、液体原料LMを供給すると、液体原料LMは滴下して多孔質フィルタ23の中央部分に遍在する。そして、そのまま流下し、次第に拡散しながら球状体30の層を流下する。この場合でも、気化用空間Kの赤外線の状態は均一なので、上記同様、均一な気化が保証される。
【0047】
図1図3において、ヒータHが配置されている空間内の気化器本体22への熱移動を考慮した例を示す。
上記のように、ヒータHが加熱されると、その周囲の気体(空気)の温度が上昇する。この被加熱気体(空気)を介して気化器本体22の側壁22hが温められる。そこで間隙dの幅Mを工夫することや間隙dを置換気体の通流路として使用した。これは、全実施例に適用できる。
【0048】
そこで、図のように、天井プレート21に孔を設け、これを置換気体供給部25とし、底面プレート27に孔を設け、これを置換気体排出部26とした。これらによってヒータHが配置されている空間に置換気体(空気)が流れるようにした。これにより、ヒータHに加熱されたその周囲の気体(空気)は上昇して置換気体排出部26から排出され、代わりに室温の外気が置換気体供給部25から流れ込み、ヒータHが配置されている空間が置換気体(空気)の温度に保たれる。その結果、ヒータHが配置されている空間内のヒータHによる気化器本体22への熱影響の大半が除去されることになる。
【0049】
しかしながら、上記間隙dの間隔Mが問題になる。置換気体供給部25から流れ込んだ室温の外気はヒータHに沿って上昇し、次第に昇温する。ヒータHと気化器本体22の側壁22hとの間(幅M)が近接して温度境界層Tの厚さδより小さい場合、ヒータHに沿って流れ、ヒータHによって昇温した置換気体が気化器本体22の側壁22hに触れることになる。これによって、側壁22hの温度はヒータHに影響されることになる。
そこで、図4に示すように、ヒータHと気化器本体22の側壁22hとの間(幅M)を温度境界層Tの厚さδより大とした場合、昇温した温度境界層Tと側壁22hとの間に昇温していない置換気体が側壁22hに沿って流れ、昇温した温度境界層Tの熱影響を遮断することになる。これによって、ヒータHが配置されている空間内の昇温した温度境界層Tによる影響が確実に除去されることになる。
【0050】
(第2実施形態:図5図6
この場合は、気化器本体22が2重管で、その内管22bの内側にヒータHが設けられている場合である。
気化器本体22は、円筒状の外管22aとその中に設けられた上端部分が半球状に形成された内管22b及び両者の底部を塞ぐ底面部材22sとで構成されている。外管22aの上端開口は液体原料供給部12のブロック部分(天井部材22t)で閉塞されている。内管22bの上端部分は液体原料導入管12aの直下に配置されている。外管22aと内管22bとの間が気化用空間Kで球状体30が充填されている。球状体30は、内管22bの上端が隠れる高さまで充填されている。必要に応じて球状体30の上に多孔質フィルタ23が設けられる。図の実施例では多孔質フィルタ23が描かれていない。球状体30(多孔質フィルタ23)と天井部材22tの下面の間の空間が霧化用空間Sである。
【0051】
反射部材28の鏡面28kと外管22aとの間には間隙dが設けられ、反射部材28からの熱影響を受けないようにしている。ヒータHと内管22bとの間にも間隙dが設けられ、反射部材28からの熱影響を受けないようにしている。ヒータHと内管22bとの間隙dについては、これら間隙dに繋がる置換気体供給部25と置換気体排出部26が設けられ、置換気体を流すように構成されている。更に既に述べたように、間隙dを温度境界層Tの幅Mより大きくしてヒータHの熱影響を受けないようにしてもよい。上記以外の構成は第1実施形態と同じである。
【0052】
なお、反射部材28の底部を覆う底面プレート27にはヒータブロック60が設けられ、原料ガス加熱ヒータGHが取り付けられている。
第2実施形態の気化器2において、液体原料LMが霧化された場合の形態は第1実施形態と同じである。図示していないが、キャリアガスCGを使用せず、そのまま液滴として滴下供給された場合は第1実施形態と異なる。
即ち、滴下された液体原料LMは、内管22bの半球状頭部直上の球状体30上に落下してこの部分に遍在し、多孔質フィルタ23を通って、或いはそのまま球状体30間の空隙Pに流れ込む。この部分の直下には半球状頭部が存在するので、流れ落ちた液体原料LMは半球状頭部に沿って広がり、そのまま内管22bの周囲を広がりながら流れ落ちる。その間、放射熱により均等に加熱されて気化し、原料ガス排出部40から排出される。
【0053】
(第3実施形態:図7
この場合は、気化器本体22を螺旋状の透明石英ガラス管で形成した例である。上又は下の直管部分22c・22dに上又は下の多孔質フィルタ23・24がそれぞれ設置され、その間に球状体30が充填されている。
反射部材28は円筒状で、その上及び下端に天井プレート21及び底面プレート27がそれぞれ設置されている。この天井プレート21及び底面プレート27の中央にヒータHの外囲器となる透明石英ガラス管が挿通されており、この内側にヒータHの熱源が上下方向に設置されている。
ヒータHの透明石英ガラス管と螺旋状気化器本体22との間には間隙dが設けられている。図示しないが、この部分に置換気体を流すことも可能であるし、間隙dの幅Mを温度境界層Tの厚さδ以上とすることもできる。
【0054】
このような気化器10では、液体原料供給部12から供給された液体原料LMは、上の多孔質フィルタ23を通って球状体30の充填部分に流れ込み、螺旋回転をしながら気化される。
気化器本体22を螺旋とすることで、液体原料LMの気化経路を長大化することが出来るにも拘わらず気化器10の高さ方向を圧縮することが出来、気化器10をコンパクトにすることが出来る。
なお、図7(b)のように直管部分22c・22dを絞ってその内径を球状体30の外径以下とし、この部分を上又は下の多孔質フィルタ23・24に代えることも可能である。
【符号の説明】
【0055】
CG:キャリアガス、d:間隙、H:ヒータ、GH:原料ガス加熱ヒータ、K:気化用空間、LM:液体原料、M:間隙の幅、P:空隙、S:霧化用空間、T:温度境界層、VG:原料ガス、δ:温度境界層の厚さ
10:気化器、12:液体原料供給部、12a:液体原料導入管、12b:キャリアガス導入管、12c:液体原料供給孔、12e:キャリアガス供給路、12d:噴霧口、20:気化部、21:天井プレート、22:気化器本体、22a:外管、22b:内管、22c:上の直管部分、22d:下の直管部分、22h:側壁、22s:底面部材、22t:天井部材、23・24:多孔質フィルタ、25:置換気体供給部、26:置換気体排出部、27:底面プレート、28:反射部材、28k:鏡面、29:補助反射部材、29k:鏡面、30:球状体、40:原料ガス排出部、60:ヒータブロック
【要約】
半導体製造用の液体原料を出来る限り低い温度で、加熱ムラなく高効率で安定的に気化させることが可能な気化器を提供する。気化器10は半導体製造用の液体原料LMを供給する液体原料供給部12と、供給された液体原料LMを気化させる気化用空間Kを内部に有する気化部20と、気化した原料ガスVGを次工程に送り出す原料ガス排出部40とで構成されている。気化部20は赤外線が透過する透明部材で構成され、赤外線が前記気化用空間Kを通って一方の側壁22hから対向する他方の側壁22hに透過する気化器本体22と、気化用空間K内に充填され、赤外線が透過する透明の球状体30と、気化器本体22から幅Mの間隙dが設けられて配置され、気化器本体22に赤外線を照射するヒータHと、ヒータHを間に置いて、前記気化器本体22に対向する面が赤外線が反射する鏡面28kである反射部材28とを含む。
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