(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】GsHSP遺伝子、並びに大豆の耐塩性向上及び豆苗中のイソフラボン含有量向上におけるその使用
(51)【国際特許分類】
A01H 6/54 20180101AFI20241009BHJP
C12N 15/29 20060101ALI20241009BHJP
C12N 15/82 20060101ALN20241009BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20241009BHJP
C12N 15/74 20060101ALN20241009BHJP
【FI】
A01H6/54
C12N15/29
C12N15/82 Z ZNA
C12N15/09 110
C12N15/74 100Z
(21)【出願番号】P 2023181537
(22)【出願日】2023-10-23
【審査請求日】2023-10-23
(31)【優先権主張番号】202310077746.1
(32)【優先日】2023-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518193700
【氏名又は名称】青▲島▼▲農▼▲業▼大学
(73)【特許権者】
【識別番号】523400769
【氏名又は名称】東営青農大塩鹹地高効農業技術産業研究院
(74)【代理人】
【識別番号】100146374
【氏名又は名称】有馬 百子
(72)【発明者】
【氏名】趙 龍剛
(72)【発明者】
【氏名】朱 丹
(72)【発明者】
【氏名】趙 萍
(72)【発明者】
【氏名】韓 成剛
(72)【発明者】
【氏名】曹 銀▲てい▼
(72)【発明者】
【氏名】徐 浩
(72)【発明者】
【氏名】欒 鶴翔
(72)【発明者】
【氏名】呉 広霞
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111620934(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0031072(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01H 6/54
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆の苗のゲニスチンの含有量向上における、GsHSP遺伝子ノックアウトベクター、又はその組換え菌の使用であって、
前記組換え菌は、アグロバクテリウムであり、
前記GsHSP遺伝子は、SEQ ID NO.1で示される配列を有する、ことを特徴とする使用。
【請求項2】
大豆の耐塩性向上における、GsHSP遺伝子過剰発現ベクター、又はその組換え菌の使用であって、
前記組換え菌は、アグロバクテリウムであり、
前記GsHSP遺伝子は、SEQ ID NO.1で示される配列を有する、ことを特徴とする使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆の機能遺伝子の技術分野に関し、特にGsHSP遺伝子、並びに大豆の耐塩性向上及び豆苗中のイソフラボン含有量向上におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
大豆は、中国の重要な農業作物であり、良質な植物性タンパク質、不飽和脂肪酸、カルシウム、ビタミンB群やイソフラボンなどの物質を豊富に含み、国民の栄養の中で重要な役割を果たしている。近年、人民の生活水準の向上と物質に対する要求の高まりに伴い、中国の大豆の産量は、日々増大する市場の需要を満たすことができなくなった。消費される大豆は輸入に大きく依存しており、人々の生活に密接な関係にある肉、卵、乳や食用油の価格は輸入大豆の価格変動の影響を極めて大きく受けており、これは中国人民の切実な利益と国家の食糧安全に深刻な影響を与えている。そのため、中国の大豆の産量と品質を高めることは現在早急に解決すべき重要な民生問題である。
【0003】
塩ストレスなどの逆境要素は大豆の産量と品質に影響を与える主要な要素であり、大豆の生産に大きな損失をもたらしているため、大豆の品質とストレス耐性を高めることが問題を解決する鍵である。伝統的な育種方法を採用して大豆の不良性状を改良することは、大豆の遺伝子資源が不足しているため制限されている。化学薬品の使用もその乱用や過剰使用による植物の耐性問題や環境保護の問題によって制限されている。
【0004】
大豆は重要な農作物であり、豊富な栄養分を含んでいる。大豆は良質なタンパク質、不飽和脂肪酸、カルシウム、イソフラボンや各種のビタミンなどを十分に含んでおり、中国の住民の食事の中で重要なものであり、しかも、良質な植物性タンパク質の重要な来源である。
【0005】
大豆イソフラボンは、薄い黄色の粉末物質であり、そのにおいはやや苦く、やや渋みを伴う。イソフラボンは、ヒトのエストロゲンと構造的にも生物学的にも類似した化合物である。大豆とその製品が人体に入った後、これらに含まれる大豆イソフラボンが主に腸内で代謝、吸収されて、エクオールなどの物質に転化され、毛細血管を通って人体の血液循環系に入る。大豆イソフラボンは天然活性物質であるフィトエストロゲンとして認められており、ホルモン補充療法(HRT:hormonereplacementtherapy)の天然代替品又はHRTサプリメントとして広く受け入れられている。
【0006】
大豆イソフラボンは、生理活性物質として、人体の生命活動の中で重要な生理機能を発揮し、女性の老化軽減、更年期症状改善、心血管保護、腫瘍抵抗、骨粗鬆症予防、神経系保護、血糖値降下、肝臓保護、免疫系調節などにおいて重要な役割を果たす。イソフラボンは、さまざまな栄養及び保健生理効能のため、ますます人々に認識されている。その中、ダイジンは、大豆イソフラボンの重要な構成成分として、心血管疾患の予防と治療、抗腫瘍などに薬理効果がある。グリシチンは、大豆イソフラボンのもう一つの重要な構成成分として、抗アレルギーや抗血栓に重要な作用を発揮する。
【0007】
大豆の耐塩性向上は、大豆の栽培面積の拡大、大豆関連製品の産量向上に有利であり、また、どのように豆苗などの大豆類食品中のイソフラボン(例えばグリシチン、ダイジン)の含有量を向上させ、大豆類食品の栄養や保健機能を向上させるかは、現在研究者が重点に注目している課題である。したがって、従来技術はさらに改善する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の課題に対して、本発明は、GsHSP遺伝子、並びに大豆の耐塩性向上及び豆苗中のダイジンとグリシチンの含有量向上におけるその使用を提供し、GsHSPが大豆根系の耐塩性を向上できること、その過剰発現が大豆(豆苗)根系の成長を促進できること、GsHSP過剰発現が塩ストレス下で豆苗中のダイジンとグリシチンの含有量をさらに向上できること、耐塩性GsHSP組換え大豆植物の栽培に適用でき、その栽培面積、産量及び品質を向上できることを初めて見出した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本願による技術案は以下のとおりである。
【0010】
第1態様では、本発明は、SEQ ID NO.1で示される配列を有するGsHSP遺伝子を提供する。
【0011】
出願人は、高耐塩性野生大豆品種から塩ストレス応答遺伝子GsHSPを初めて見つけて、それに対してクローンとバイオインフォマティクス分析を行い、リアルタイム蛍光定量PCRによりこの遺伝子の組織発現特性と塩ストレス発現パターンを分析し、遺伝子過剰発現ベクターGsHSPと過剰発現大豆植物系を構築することにより、このGsHSPが大豆根系の耐塩能力を向上でき、塩ストレス下で大豆苗中の豆苗イソフラボン代謝物の含有量を向上でき、良質大豆系の育成に適用できることを見出した。
【0012】
例えば、上記の遺伝子によってGsHSP過剰発現組換え大豆を構築することができ、実験により、この遺伝子によって過剰発現した組換え大豆は、優れた耐塩能力を持ち、塩ストレス下での根系成長の勢いは野生型より優れ、豆苗の増産を促進し、その体内のダイジンとグリシチンの含有量が野生型より明らかに高く、さらに栄養価を有することが示唆された。
【0013】
第2態様では、本発明は、前記GsHSP遺伝子を含有する組換えベクター、トランスジェニック細胞、又は組換え菌を提供する。
【0014】
前記組換えベクターは、従来のクローンプラスミド又は発現プラスミドなどのベクターである。好ましくは、前記組換え菌はアグロバクテリウムである。
【0015】
第3態様では、本願はまた、豆苗イソフラボン(特にダイジン、グリシチン)の含有量向上における、上記のGsHSP遺伝子、及びこのGsHSP遺伝子を含有する組換えベクター、トランスジェニック細胞、又は組換え菌の使用を提供する。
【0016】
実験により、GsHSP過剰発現豆苗では、ダイジンとグリシチンの含有量が明らかに上昇し、特にGsHSP過剰発現は塩ストレス下で豆苗中のダイジンとグリシチンの含有量をさらに向上させることができ、この遺伝子の過剰発現を利用して良質な豆苗を育成できることが示唆された。実験により、GsHSPの過剰発現は、塩ストレス下で豆苗中のダイジンとグリシチンの含有量を向上させることができ、一方、GsHSP遺伝子ノックアウト大豆では、ゲニスチンとグリシテインの含有量が顕著に上昇したことが示唆された。
【0017】
第4態様では、本願は、大豆の耐塩性向上における前記GsHSP遺伝子の使用を提供する。実験により、塩ストレス条件で、GsHSP過剰発現群において、根系の成長の勢い、側根の根長及び数はWT群よりも優れることが示唆され、このことから、GsHSPが大豆根系の耐塩能力を向上でき、塩類・アルカリ条件で大豆根系の成長を促進できることが明らかになる。
【0018】
第5態様では、本願はまた、塩類・アルカリ条件での豆苗の産量向上における前記GsHSP遺伝子の使用を提供する。GsHSPの過剰発現は、塩ストレス下での豆苗の根系成長を促進するので、塩ストレス下での豆苗の産量向上に寄与する。
【0019】
第6態様では、本願はまた、
第1プライマー対を設計して前記GsHSPの遺伝子配列を増幅し、GsHSPの遺伝子配列両端に酵素切断部位を追加し、その増幅産物を酵素切断した後、植物過剰発現ベクターに連結して、GsHSP植物過剰発現ベクターを得るステップ(1)と、
構築したGsHSP植物過剰発現ベクターをアグロバクテリウムK599に形質転換し、大豆根系の感染を行い、GsHSP組換え大豆植物(GsHSP過剰発現系)を得るステップ(2)と、を含む、GsHSP組換え大豆植物の育成方法を提供する。
【0020】
好ましくは、前記発現ベクターとしてpSuper1300を用いる。
【0021】
好ましくは、第1プライマー対の上流プライマーの配列は、SEQ ID NO.2で示され、第1プライマー対の下流プライマーの配列は、SEQ ID NO.3で示される。
このGsHSP組換え大豆植物はGsHSP過剰発現組換え大豆植物であり、優れた性状を持ち、良好な耐塩能力を持ち、塩ストレス条件では、その根系の成長の勢い、側根の根長及び数は野生型よりも優れ、しかも、その体内のダイジンとグリシチンの含有量が野生型よりはるかに高く、さらに良い品質を持ち、応用の将来性がより期待できる。
【0022】
第7態様では、本願はまた、
設計したGsHSPノックアウト標的部位配列プライマー対を混合して反応させ、オリゴダイマーを形成し、さらにオリゴダイマーをCas9/gRNAベクターに挿入し、大腸菌感受性細胞に形質転換し、陽性単コロニーを選んで配列決定し、配列決定により正しいベクターを選択し、CRISPR/Cas9-GsHSPノックアウトベクターを得るステップ(1)と、
構築したCRISPR/Cas9-GsHSP遺伝子ノックアウトベクターをアグロバクテリウムK599に形質転換し、大豆根系の感染を行い、GsHSP遺伝子ノックアウト大豆植物を得るステップ(2)と、を含む、GsHSP遺伝子ノックアウト大豆植物の育成方法を提供する。
【0023】
好ましくは、前記第2プライマー対の上流プライマーの配列は、SEQ ID NO.4で示され、第2プライマー対の下流プライマーの配列は、SEQ ID NO.5で示される。
【0024】
実験により、野生型大豆に比べると、このGsHSP遺伝子ノックアウト大豆植物は、体内のゲニスチンの含有量が野生型よりはるかに高く、ゲニスチン含有量の高い良質大豆として適用できるか、又は良質な資源としてゲニスチンを豊富に含む良質大豆の更なる育成に適用できることが示唆された。
【0025】
上記に加えて、第8態様では、本発明はまた、良質大豆の育成における、上記のGsHSP組換え大豆植物(過剰発現株)及びGsHSP遺伝子ノックアウト大豆植物の使用を提供する。上記のGsHSP組換え大豆植物及びGsHSP遺伝子ノックアウト大豆植物は、良質な種子資源として直接、又は改良原料として、イソフラボンを豊富に含み、耐塩性を有する良質大豆の育成のような、良質大豆の育成に適用できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、以下の有益な効果を有する。
1.本発明は、GsHSP遺伝子とその使用を提供し、出願人は、GsHSPが脂質膜過酸化を低下させ、体内浸透圧を高め、抗酸化酵素活性を高め、ストレス関連のMarker遺伝子の発現を活性化することにより、大豆根系の耐塩能力を向上させることができ、GsHSPの過剰発現は、塩類・アルカリ条件での大豆(豆苗)の根系の成長を促進し、塩ストレス下での豆苗中のダイジンとグリシチンの含有量をさらに向上でき、一方、GsHSP遺伝子ノックアウト大豆では、ゲニスチンとグリシテインの含有量が明らかに上昇することを初めて見出し、このことから、GsHSPが耐塩性組換え大豆植物の育成に適用でき、豆苗の産量と品質を向上させることができ、応用価値や市場の将来性が期待できることが明らかになる。
2.GsHSP遺伝子は、耐塩性分子育種に適用でき、塩類・アルカリ農地の作物の産量と作物の品質を向上させるために遺伝子資源や技術を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】GsHSPの高忠実度PCR電気泳動結果である。
【
図2】予測されたGsHSPタンパク質の二次構造と三次構造である。
【
図3】大豆の根茎、葉、及び子葉中のGsHSPの相対発現量の分析である。
【
図4】塩ストレス下でのGsHSP発現特性の分析であり、 A:0、1、3、6、12時間 100mM NaClストレス処理した根中のGsHSP発現量であり、B:0、1、3、6、12時間 100mM NaClストレス処理した葉中のGsHSP発現量である。
【
図5】pSuper1300-GsHSPベクターを二重酵素切断で同定した電気泳動図である。
【
図6】正常処理と7日間50mM NaCl処理の場合の各系の大豆根系の成長発育の表現型の図である。
【
図8】塩ストレス下での各系の大豆根系の相対成長量、側根数の測定結果であり、 A:正常処理と50mM NaCl処理の場合の各系の大豆根系の相対成長量であり、B:正常処理と50mM NaCl処理の場合の各系の大豆の側根数である。
【
図9】正常条件と塩ストレス下での各系中のMDA、プロリン含有量及びSOD活性とPOD活性であり、 A:正常処理と50mM NaCl処理の場合の大豆根中のPOD活性であり、B:正常処理と50mM NaCl処理の場合の大豆根中のSOD活性である。
【
図10】イソフラボンの各代謝物のピークアウト時間である。1-ダイジン;2-グリシチン;3-ゲニスチン;4-グリシテイン;5-ゲニステイン。
【
図11】豆苗中のダイジン含有量の測定結果である。
【
図12】豆苗中のグリシチン含有量の測定結果である。
【
図13】豆苗中のグリシテイン含有量の測定である。
【
図14】CRISPR/Cas9-GsHSPベクターマップである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施例における図面を参照して、本発明の実施例における技術案について明確かつ完全に説明するが、説明される実施例は、本発明の実施例の一部にすぎず、全ての実施例ではないことは明らかである。当業者が本発明の実施例に基づいて創造的な労働を行わずに取得した他のすべての実施例は、本発明の保護範囲に属する。本発明では、特に断らない限り、使用される設備や原料などは、市場から入手したり、当該分野で一般的に使用されるものであってもよい。以下の実施例における方法は、特に断らない限り、本分野の従来の方法である。
実施例1 大豆GsHSPタンパク質及びそれをコードする遺伝子の取得
1.1 実験材料
【0029】
東北産の野生大豆耐塩品種「G07256」は東北農業大学植物生物工学研究室から寄贈したものである。
1.2 試薬
【0030】
pMD19-TベクターとPrimeSTAR[登録商標]HS DNA Polymerase高忠実度PCR酵素は宝生物工程(大連)有限公司で購入した。
1/2 MS固体培地:39.45g/L、pH5.8、116℃で30分間滅菌。
LB培地:25g/L LBブロス(液体)、15g/L寒天(固体)、121℃で20分間殺菌。
アンピシリンストック液:50mg/mLの母液を調製し、使用濃度を50mg/Lとし、ろ過滅菌し、-20℃で保存した。
1.3 試験方法
1.3.1 植物材料の処理
【0031】
完全で病害がない高耐塩性野生大豆「G07256」種子を濃H2SO4に浸漬して8~10分間処理し、泥膜を除去し、濃H2SO4を捨てて、無菌水で3~4回リンスした後、1/2 MS固体培地(pH5.8)に接種し、25℃で暗培養し、発芽後に光下で培養した。幼苗が3週齢まで成長したら、大豆の根、茎、葉や子葉を速やかに採取し、-80℃で保存した。
3週齢の野生大豆の幼苗を採取し、100 mM NaClで0、1、3、6、12時間処理した後、若葉と根を速やかに切り取り、-80℃で保存した。
1.3.2 RNA抽出
【0032】
試験操作中に使用した乳鉢及び各種ガラス器具は、いずれも180℃のオーブンで3時間ベークし、遠心分離管とピペットチップなどは、いずれも菌や酵素を殺滅した製品である。野生大豆のRNA抽出は、TaKaRa MiniBEST Plant RNA Extraction Kit(宝日医生物技術(北京)有限公司)キットを参照した。
1.3.3 RNAのcDNAへの逆転写
【0033】
(1)RNA伸長
表1の反応系の試薬を均一に混合した後、5秒遠心分離し、70℃で5分間反応した直後、氷上に置いて少なくとも5分間保持した。
【0034】
【0035】
表2の反応系の試薬を均一に混合した後、5秒遠心分離し、25℃で5分間反応し、42℃で1時間反応した直後、-20℃で保存した。
【0036】
表2 反応系
1.3.4 目的遺伝子の全長配列の高忠実度増幅
【0037】
(1)方法
大豆ゲノム配列を参照にして、目的遺伝子の全長配列増幅のための相同特異的プライマーを設計し、PrimeSTARTM HS DNA Polymerase高忠実度酵素を用いて、野生大豆の総cDNAを鋳型として、遺伝子特異的プライマーを用いて、高忠実度PCR増幅を行った。
PCR反応系:10μL 5×PrimeSTARTM HS PCR Buffer、4μL dNTP mix、2μL 5’ PCR Primer、2μL 3’ PCR Primer、5倍希釈cDNA 1μL、0.5μL PrimeSTARTM HS DNA Polymerase、ddH2Oで50μLまで補充した。
PCR反応条件:94℃ 5min→[94℃ 30s→60℃ 30s→72℃ 30s]×35→72℃ 10min→4℃。
(2)実験結果
【0038】
図1に示す電気泳動の結果から、500bpに目的バンドが出現し、そのサイズは目的バンドの予測されたサイズと一致していることが示された。
1.3.5 ゲルからの目的遺伝子の回収
【0039】
具体的な試験操作ステップは、ゲル回収キットの取扱書を参照した(Wizard[登録商標]SVゲル回収及びPCR産物精製システムは普洛麦格(北京)生物技術有限公司から購入)。ゲル回収した目的遺伝子を-20℃の冷蔵庫で保存した。配列の後にAテールを追加した。
1.3.6 pMD19-Tベクターの連結
【0040】
表3の反応系を均一に混合した後、16℃で一晩連結した。
【0041】
表3 反応系
1.3.7 CaCl
2法による大腸菌感受性細胞の製造
【0042】
大腸菌感受性細胞の具体的な製造方法は『分子クローニング実験ガイドライン』第三版を参照した。
1.3.8 大腸菌感受性細胞への形質転換
【0043】
コロニーPCRを行った後、陽性クローンを同定し、陽性クローンのプラスミドを抽出し、プラスミドを配列決定に供した。
1.3.9 配列決定結果の処理と分析
【0044】
配列決定結果によれば、配列決定の低品質領域とベクターの配列を除去し、DNAMAN多配列アライメントによって複数の配列決定結果の再現性を分析し、全長遺伝子配列を決定した。配列決定の結果、GsHSP遺伝子のCDS領域は504bpであり、167個のアミノ酸をコードし、N-末端保守ドメイン、DnaJ_zf superfamilyドメイン、及びC-末端保守ドメインの3つの保守ドメインを有し、GsHSP遺伝子の配列は、具体的には、SEQ ID NO.1で示される。
1.3.10 GsHSPタンパク質構造分析
【0045】
(https://npsa-prabi.ibcp.fr/cgi-bin/secpred_sopma.pl)を用いて、野生大豆GsHSPの二次構造を予測した。SWISS-MODEL(https://swissmodel.expasy.org/)を用いて、野生大豆GsHSPの三次構造を予測した。
GsHSPタンパク質の二次構造を予測した結果、このタンパク質は、主にα-ヘリックス、β-シート、伸長鎖、及びランダムコイルから構成され、その中、α-ヘリックスは21.56%、β-シートは5.99%、伸長鎖は25.75%、ランダムコイルは46.71%を占め(
図2A)、GsHSPタンパク質の三次構造は
図2Bで示される。
1.3.11 GsHSP遺伝子発現特性の分析
【0046】
野生大豆の様々な組織中のGsHSP発現特性を研究するために、リアルタイム蛍光定量PCRを用いて、この遺伝子の様々な組織中の相対発現量を検出した。次に、100 mM NaCl溶液で野生大豆の幼苗を処理し、ストレスの様々な時点でのGsHSPの遺伝子発現量を検出した。
(1)リアルタイム蛍光定量PCRの実験条件
【0047】
PCR反応系:5μL 2×SYBR Premix ExTaq、0.4μL 5’ PCR Primer、0.4μL 3’ PCR Primer、2μL cDNA鋳型(5倍希釈)、0.2μL ROX染料、2μL ddH2O(総体積10μL)。
【0048】
PCR反応条件:95℃ 10min→[95℃ 15s→60℃ 1min]×40→95℃ 1min→55℃ 1min→95℃ 30s。
RT-PCRデータ処理:比較CT法(2-ΔΔCT)を使用して、GsGAPDHを内部参照遺伝子として、独立した生物学的重複を3回行った。
(2)実験結果
【0049】
その結果、GsHSPは、野生大豆の根、茎、葉、子葉のいずれでも発現し、子葉での発現量が最も高く、茎での発現量の約4倍であり、それに次いで葉と根での発現量であることが分かった。これは、子葉が大豆種子の発芽と幼苗の成長に一定のエネルギーを提供するが、GsHSPが植物の成長と発育に関与するので、子葉でのその発現量が高くなるためであると考えられる。塩ストレス下では、GsHSPは、根では、発現が明らかに上昇し、しかも6時間では発現量が約0hの8倍となり、ピークに達したが、葉では、逆に、発現量が明らかに低下し、1時間では発現量が最も低く、その後、徐々に正常レベルに回復した(それぞれ
図3、
図4参照)。
実施例2 GsHSP過剰発現株の構築
2.1 pSuper1300-GsHSP植物過剰発現ベクターの構築
【0050】
(1)GsHSPに酵素切断部位(XbaIとKpnI)が付いた遺伝子全長特異的増幅プライマーを設計した。上流プライマーP1は5’-GGATCCTCATGGATATGGATTCAGTTTC-3’であり、下流プライマーP2は5’-TCTAGAGTCATTTTGGTCCCAGATG-3’である。
【0051】
前記のGsHSP遺伝子を持つプラスミドを鋳型とし、上記プライマーで増幅し、増幅産物を二重酵素切断し(XbaIとKpnI)、酵素切断産物を、同様の酵素切断処理を行ったpSuper1300と連結し、GsHSP遺伝子を植物の過剰発現ベクターpSuper1300に挿入し、連結産物をDH5αに形質転換した後、陽性コロニーをスクリーニングし、プラスミドpSuper1300-GsHSPを抽出した。
【0052】
次に、XbaIとKpnIを用いて抽出したプラスミドに対して二重酵素切断同定を行い、酵素切断産物の電気泳動結果を
図5に示す。
図5より、酵素切断産物には500bp程度の標的バンドがあり、pSuper1300-GsHSP植物過剰発現ベクターの構築に成功したことが示唆された。
【0053】
(2)構築したGsHSP植物過剰発現ベクターをアグロバクテリウムK599に形質転換し、成長させた単一コロニーに対してコロニーPCRを行った結果、500bp程度にバンドがあり、目的遺伝子がK599に形質転換し、大豆根系の感染に適用できることが示唆された。
2.2 大豆根系の遺伝的形質転換
【0054】
構築したGsHSP過剰発現ベクターpSuper1300-GsHSP、すなわちOX-GsHSPを大豆根系に感染させ、具体的な操作方法は以下の通りである。
【0055】
(1)H2O2/エタノール滅菌法:10 mL 30%(w/w)のH2O2、75 mL 96%(v/v)のエタノールを取り、無菌水で100mLまで補充した。
(2)大豆種子の発芽
【0056】
バーミキュライトを事前に滅菌し、トレーと鉢を滅菌し、バーミキュライトを入れて、底部にBD溶液をかけ、浸透させた。消毒した大豆種子を深さ0.5cmのバーミキュライトに植え、約4日間(暗培養、膜敷き)成長させ、健康な幼苗の子葉と胚軸の一部を切り取り、子葉節から下1cmのところで切り取り、細い針で子葉節から下1mmのところに1~2個の穴をあけ、感染のための準備をした。
(3)アグロバクテリウム菌液の調製及び感染
【0057】
子葉節感染の前日の朝に菌を1回活性化させ、目的遺伝子を含有するアグロバクテリウム凍結保存菌を取り、1:1000の割合で50mg/Lカナマイシン、50mg/Lストレプトマイシンを含むYEB液体培地に接種し、28℃で24時間振とう培養し、一次活性化を行った。その後、1:10の割合で2~3時間振とう培養し、二次活性化(OD600=0.6~0.8)を行った。感染前に、活性化したアグロバクテリウム菌液を50 mLの遠心分離管に約40mLずつ分け、4000rpmで5分間遠心分離した後、上清液を捨てて、等体積の液体再懸濁培地で再懸濁させた。調製した子葉節外植体を感染液中に入れ、約30mL当たり40個の子葉節外植体を入れて、子葉節と菌液を十分に接触させるために(約10分に1回)振とうしながら45~60分間感染させた。
【0058】
BD溶液:A液:2 M CaCl2;B液:1 M KH2PO4;C液:20 mM Fe-citrate;D液:0.5 M MgSO4、0.5 M K2SO4、2 mM MnSO4、4 mM H3BO4、1 mM ZnSO4、4 mM CuSO4、0.2 mM CoSO4、0.2 mM Na2MoO4。BD溶液1Lあたり500μLのA液、B液、C液、D液を加えた。
【0059】
液体再懸濁培地:1/10 B5無機物+B5有機物+3%スクロース+20 mM MES+0.25 mg/L GA3+1.67 mg/L BAP+200 μm/L AS+1 mM DTT、pH5.4。
(4)感染大豆幼苗の培養
【0060】
角鉢の中の湿潤バーミキュライトを敷いた濾紙の上に感染した大豆子葉節を並べ、口を塞いで保湿し、2日間暗培養した後、温室(14h光照射/10h暗、28℃/25℃)で2週間培養した。毛根が生えるまでに、培養中に0~2mM KNO3を含有するBD溶液をやり、高湿度を確保した。
(5)幼苗の馴化
【0061】
馴化を始めた時に、一日おきに複数の穴をあけるように膜に穴を開け、ゆっくりと外気と接触させ、鉢の中のバーミキュライトを湿潤状態に保ち、数日後、それを水中に移して馴化し、切り口と針が刺されたところからできた根は、ほとんどトランスジェニックのものである。小規模の苗馴化には、グラスビーカーを選択し、発根部分を水中に、地上部分を空気中に置いた。
【0062】
その後、蛍光定量PCR技術によりGsHSP大豆過剰発現系OX-GsHSP-1、OX-GsHSP-4を同定した(
図6)。
実施例3 GsHSPノックアウト株の構築
1.CRISPR/Cas9-GsHSPノックアウト発現ベクター
【0063】
(1)大豆CRISPR/Cas9ウェブサイトに基づいて、GsHSPノックアウト標的部位配列とプライマーを設計した。
CRISPR/Cas9-GsHSP-F:5’-ATTCTGTGGCCATGCAGGTTGCG-3’
CRISPR/Cas9-GsHSP-R:5’-AACCGCAACCTGCATGGCCACAG-3’
(2)植物Cas9/gRNAプラスミド構築キット(北京唯尚立徳生物科技有限公司)の取扱書に基づいて上記のプライマーを設計した後、操作ステップに基づいて、オリゴダイマーを形成し、オリゴダイマーをCas9/gRNAベクターに挿入し(
図14)、その後、DH5αに形質転換し、陽性単コロニーを選んで配列測定を行ったところ、配列測定結果は予想配列と一致し、CRISPR/Cas9-GsHSP遺伝子ノックアウトベクターの構築に成功したことを示した。
2.大豆根系の遺伝的形質転換
【0064】
構築した遺伝子ノックアウトベクターCRISP R/Cas9-GsHSP、すなわちCas9-GsHSPを大豆根系に感染させ、具体的な操作方法は、実施例2の対応する部分を参照した。
実施例3 GsHSP大豆過剰発現株及びノックアウト株耐塩性の分析
(1)テスト方法
【0065】
それぞれ2株ずつの得られたGsHSP大豆過剰発現系OX-GsHSP-1、OX-GsHSP-4及びGsHSP大豆遺伝子ノックアウト系Cas9-GsHSP-2、Cas9-GsHSP-3と、野生型系WTとを正常条件で3週間成長させた後、50 mM NaClによる塩ストレス処理1週間後、MDA、SODなどの逆境生理指標の測定及び大豆の不定根の根長及び数の統計をした。
その中で、MDA、SODなどの逆境生理指標の測定は劉新編の植物学実験指導及び史迎恵の研究を参照した。大豆の不定根の根長及び数の統計には、Image Jソフトウェアを用いた。
(2)GsHSP耐塩性表現型分析
【0066】
実験の結果、次のことが判明した。
[1]正常な成長条件では、WT、OX-GsHSPの2群の材料の根は、成長状態が一致し、明らかな変化がなかった。
[2]塩ストレス処理後、3群の材料は、根の成長発育がいずれも抑制されたが、遺伝子過剰発現OX-GsHSP群において、大豆根の成長の勢いがWT群の成長の勢いより良かった。一方、遺伝子ノックアウトCas9-GsHSP群において、大豆根の成長がWT群よりも明らかに悪かった(
図6及び
図8参照)。
表4及び表5に記載の相対根長と側根数の測定と統計の結果からも、GsHSP遺伝子過剰発現系の根系は、塩ストレスによるダメージが野生型植物より明らかに小さいことが示唆された。具体的には、塩ストレス条件では、野生型よりも、遺伝子過剰発現OX-GsHSP-1の根長が49.8%延長し、その側根数が40.5%向上した。この結果により、GsHSPは塩ストレスの正の制御因子であり、大豆の耐塩性を向上させ、その根系の成長を促進できることが示唆された。
【0067】
【0068】
表5 側根数
(3)GsHSP耐塩性生理指標の測定
【0069】
各系の大豆根のSODとPOD酵素の酵素活性を測定した結果、
図9に示すように、WTとOX-GsHSP系間の抗酸化酵素の活性はいずれも正常であり、大きな差がないが、塩ストレス条件では、抗酸化酵素の活性は顕著に増強され、しかも、OX-GsHSP系では、SODとPOD酵素活性が野生型よりも高く、それぞれ塩ストレス下での野生型の1.25倍と1.5倍であった。この結果より、GsHSP遺伝子は、塩ストレス下での抗酸化酵素活性を高めることにより、植物体内の過剰な活性酸素を除去し、植物の耐塩能力を向上させることが示唆された。
実施例4 GsHSPによる塩ストレス下でのイソフラボン成分含有量の向上
4.1 試験材料
【0070】
前記GsHSP遺伝子過剰発現大豆系と野生型大豆系を正常な成長条件と塩ストレス成長条件で1週間培養し、各群の系の大豆の豆苗を得た。各群について、地上部分材料を採取して液体窒素で急速凍結した後、-80℃で凍結保存した。その後、凍結乾燥機に入れて約48時間凍結脱水し、取り出した後に80メッシュのふるいにかけて粉砕し、液体クロマトグラフィーのサンプル抽出に用いた。サンプルの抽出方法は国家標準GB/T23788-2009『健康食品中の大豆イソフラボンの測定方法である高速液体クロマトグラフィー法』を参照した。各群の材料は3回の生物学的重複を行った。
4.2 試験試薬
【0071】
メタノール、ジメチルスルホキシドなどのクロマトグラフィーグレードの試薬は索莱宝公司で購入した。
4.3 試験方法
【0072】
大豆イソフラボンの各代謝物の測定方法は国家標準GB/T23788-2009『健康食品中の大豆イソフラボンの測定方法である高速液体クロマトグラフィー法』を参照した。
大豆イソフラボンの各代謝物成分のピークアウト時間は、
図10のように、ダイジン13.104、グリシチン13.939、ゲニスチン19.559、グリシテイン33.395、ゲニステイン43.961であった。
【0073】
表6 大豆イソフラボンの構成成分及び標準検量線
4.4 実験結果及び分析
【0074】
4.4.1 ダイジン含有量の変化
ダイジンは、大豆イソフラボンの重要な構成部分として、心血管疾患の予防と治療、抗腫瘍などに薬理効果がある。正常な成長条件と塩ストレス成長条件では、WT、OX-GsHSP、Cas9-GsHSPの3群の材料の豆苗中のダイジン含有量の変化を測定した。
図11及び表7に示す結果より、正常な成長条件では、2群の豆苗の材料中のダイジンの含有量には大きな差がなく、260mg/kg程度であった。塩ストレス成長条件では、2群の豆苗材料中のダイジンの含有量がいずれも増加し、WT中のダイジンの含有量が約427mg/kgであったが、OX-GsHSP群中のダイジンの含有量が最も増加し、519mg/kgとなり、野生型と比べて21.5%上昇した。この結果により、塩ストレスは、豆苗中のダイジンの合成をある程度誘導でき、しかも、GsHSP遺伝子過剰発現により、塩ストレス下で豆苗中のダイジンの含有量をさらに向上できることが明らかになった。
【0075】
表7 ダイジン含有量(mg/kg)
4.4.2 グリシチン含有量の変化
【0076】
グリシチンは大豆イソフラボンの構成成分であり、その代謝産物である大豆フラボンは抗アレルギーと抗血栓に重要な役割を果たしている。正常な成長条件と塩ストレス成長条件で各群におけるグリシチン含有量の変化を測定した。
図12及び表8に示す測定結果より、正常な成長条件では、OX-GsHSP群におけるグリシチンの含有量がWT群の含有量より僅かに高く、2群におけるグリシチンの含有量がいずれも700mg/kg以上であった。塩ストレス条件では、2群の豆苗中のグリシチン含有量がいずれも上昇し、WT群におけるグリシチン含有量が971mg/kgであり、OX-GsHSP群におけるグリシチン含有量の上昇は最も顕著であり、1093mg/kgに達し、WT群より12.6%上昇した。このことから、GsHSP遺伝子の過剰発現は、豆苗のグリシチンの含有量を向上させることができ、塩ストレスはGsHSPによるグリシチンの代謝合成をさらに誘導できることが示唆された。
【0077】
表8 グリシチン含有量(mg/kg)
4.4.3 ゲニスチン含有量の変化
【0078】
ゲニスチンは、大豆イソフラボンの有効成分の1つとして、抗腫瘍、代謝改善、女性更年期症候群改善などに重要な作用を有する。
本実施例は、高速液体クロマトグラフィー法により各群の材料中のゲニスチンの含有量を測定し、
図15に示す結果より、OX-GsHSP群において、正常な成長条件でも塩ストレス成長条件でも、ゲニスチンの含有量はWT群(すなわち図におけるK599群)との差があまり大きくなかった。一方、Cas9-GsHSP群において、2種類の成長条件では、ゲニスチンの含有量がWT群より明らかに高く、そのゲニスチンの含有量がWT群に対して60%以上上昇した。以上の結果から、GsHSPはゲニスチン合成代謝の負の制御因子である可能性があることが示唆された。GsHSP遺伝子ノックアウト大豆は、ゲニスチン含有量の高い良質大豆として適用できるか、良質な資源としてゲニスチンを豊富に含む良質大豆の育成に適用できることが示唆された。
【0079】
表9 ゲニスチン含有量(mg/kg)
4.4.4 グリシテイン含有量の変化
【0080】
各群における異なる成長条件でのグリシテイン含有量の変化は
図13に示すように、塩ストレス処理はWTとOX-GsHSP群の豆苗のグリシテイン含有量を向上させ、OX-GsHSP群において、向上の程度が野生型より僅かに低かった。Cas9-GsHSP群(GsHSP遺伝子ノックアウト株)において、正常な成長条件では、グリシテインの含有量が野生型群(K599)より明らかに高く、塩ストレス条件では、グリシテインの含有量がある程度低下した。
このことから、GsHSPは塩ストレス下でのグリシテインの合成をある程度抑制でき、塩ストレスによるグリシテインの合成を誘導する負の制御因子であることが分かった。豆苗の体内のグリシテインの含有量を向上させる必要がある場合、GsHSP遺伝子ノックアウト株を構築することによって、GsHSPのグリシテインに対する負の制御を解消し、豆苗中のグリシテインの含有量を向上させることができ、このようなGsHSP遺伝子ノックアウト豆苗は、心脳血管疾患や骨粗鬆症を患っている高齢者に適している。
【0081】
【0082】
当業者にとっては、本発明の技術案及び本発明の構想に基づいて同等の置換又は変更を加えることができ、これらの変更又は置換はすべて本発明に添付された特許請求の範囲に属することが理解される。
【配列表】