(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】鋼矢板および鋼矢板の施工方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/04 20060101AFI20241009BHJP
E02D 7/24 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
E02D5/04
E02D7/24
(21)【出願番号】P 2020178882
(22)【出願日】2020-10-26
【審査請求日】2023-08-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391002122
【氏名又は名称】調和工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000141521
【氏名又は名称】株式会社技研製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】森安 俊介
(72)【発明者】
【氏名】中山 裕章
(72)【発明者】
【氏名】武野 正和
(72)【発明者】
【氏名】荒木 優介
(72)【発明者】
【氏名】森 拓人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 洋敬
(72)【発明者】
【氏名】横山 博康
(72)【発明者】
【氏名】北村 卓也
(72)【発明者】
【氏名】木村 育正
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-122408(JP,A)
【文献】特開昭48-060405(JP,A)
【文献】特開2018-028180(JP,A)
【文献】特開2002-038481(JP,A)
【文献】実開平05-094334(JP,U)
【文献】特開平05-331854(JP,A)
【文献】特開2001-152453(JP,A)
【文献】特開2004-270157(JP,A)
【文献】登録実用新案第3164275(JP,U)
【文献】特開2004-019132(JP,A)
【文献】再公表特許第2010/089985(JP,A1)
【文献】特開2013-204273(JP,A)
【文献】特開平05-025823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/04
E02D 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の板状部分を含む長尺状の鋼矢板本体と、
前記鋼矢板本体の長手方向の一方の端部で、前記鋼矢板本体の先端から離隔した前記第1の板状部分の板面に配置され
るノズルとを備え、
前記ノズルは、前記ノズルのヘッド部分の軸線が前記長手方向に対して傾斜して配置されるか、または前記ノズル内部の配管経路が前記長手方向に対して傾斜していることによって、前記長手方向に対して傾斜し前記第1の板状部分の板面から遠ざかる方向にウォータージェットを噴射するように構成され
る鋼矢板。
【請求項2】
前記鋼矢板本体は、断面において前記第1の板状部分に角度をもって連続する第2の板状部分をさらに含み、
前記ノズルは、前記第1の板状部分と前記第2の板状部分との境界の近傍の劣角側に配置される第1のノズルを含む、請求項1に記載の鋼矢板。
【請求項3】
前記第1のノズルは、前記第2の板状部分の板面に並行する方向にウォータージェットを噴射するように構成される、請求項2に記載の鋼矢板。
【請求項4】
前記鋼矢板本体の断面において、前記第2の板状部分が前記第1の板状部分に対してなす角度と前記ウォータージェットの噴射方向が前記第1の板状部分に対してなす角度との差は±10°以内である、請求項3に記載の鋼矢板。
【請求項5】
第1の板状部分を含む長尺状の鋼矢板本体と、
前記鋼矢板本体の長手方向の一方の端部で、前記鋼矢板本体の先端から離隔した前記第1の板状部分の板面に配置され、前記長手方向に対して傾斜し前記第1の板状部分の板面から遠ざかる方向にウォータージェットを噴射するように構成されるノズルと
を備え、
前記鋼矢板本体は、断面において前記第1の板状部分に角度をもって連続する第2の板状部分をさらに含み、
前記ノズルは、前記第1の板状部分と前記第2の板状部分との境界の近傍の劣角側に配置される第1のノズルを含み、
前記第1のノズルは、前記第2の板状部分の板面に並行する方向にウォータージェットを噴射するように構成され、
前記鋼矢板本体の断面において、前記第1の板状部分は前記鋼矢板本体によって形成される壁体の延長方向に延びる部分であり、前記第2の板状部分は前記延長方向に対して傾斜した部分であり、
前記第1のノズルは、前記鋼矢板本体の断面高さをHとし、前記第2の板状部分が前記第1の板状部分に対してなす角度をθfとし、前記ウォータージェットの掘削距離をDとし、前記長手方向を含み前記第1の板状部分に直交する断面において前記ウォータージェットの噴射方向が前記長手方向に対してなす角度をθaとし、前記長手方向に直交する断面において前記ウォータージェットの噴射方向が前記第1の板状部分に対してなす角度が角度θfに実質的に等しい場合に、以下の式(i)が満たされるように構成され
る鋼矢板。
【請求項6】
第1の板状部分を含む長尺状の鋼矢板本体と、
前記鋼矢板本体の長手方向の一方の端部で、前記鋼矢板本体の先端から離隔した前記第1の板状部分の板面に配置され、前記長手方向に対して傾斜し前記第1の板状部分の板面から遠ざかる方向にウォータージェットを噴射するように構成されるノズルと
を備え、
前記鋼矢板本体は、断面において前記第1の板状部分に角度をもって連続する第2の板状部分をさらに含み、
前記ノズルは、前記第1の板状部分と前記第2の板状部分との境界の近傍の劣角側に配置される第1のノズルを含み、
前記第1のノズルは、前記第2の板状部分の板面に並行する方向にウォータージェットを噴射するように構成され、
前記鋼矢板本体の断面において、前記第1の板状部分は前記鋼矢板本体によって形成される壁体の延長方向に延びる部分であり、前記第2の板状部分は前記延長方向に対して傾斜した部分であり、
前記第1のノズルは、前記鋼矢板本体の断面高さをHとし、前記第2の板状部分が前記第1の板状部分に対してなす角度をθfとし、前記ウォータージェットの掘削距離をDとし、前記長手方向を含み前記第1の板状部分に直交する断面において前記ウォータージェットの噴射方向が前記長手方向に対してなす角度をθaとし、前記長手方向に直交する断面において前記ウォータージェットの噴射方向が前記第1の板状部分に対してなす角度が角度θfに実質的に等しい場合に、以下の式(ii)が満たされるように構成され
る鋼矢板。
【請求項7】
前記ノズルは、前記第1の板状部分の板面に並行する方向にウォータージェットを噴射するように構成される第2のノズルを含む、請求項1または請求項2に記載の鋼矢板。
【請求項8】
前記鋼矢板本体の断面において、前記第1の板状部分と前記ウォータージェットの噴射方向とがなす角度は0よりも大きく10°以下である、請求項7に記載の鋼矢板。
【請求項9】
前記ノズルは、複数の方向にウォータージェットを噴射するように構成される第3のノズルを含む、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の鋼矢板。
【請求項10】
前記鋼矢板本体の長手方向の一方の端部に配置され、前記長手方向にウォータージェットを噴射するように構成される別のノズルをさらに備える、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の鋼矢板。
【請求項11】
前記鋼矢板本体は、ウェブ、第1および第2のフランジ、第1および第2のアームおよび第1および第2の継手を含むハット形鋼矢板であり、
前記第1の板状部分は、前記ウェブであり、
前記ノズルは、前記ウェブと前記第1および第2のフランジとのそれぞれの境界の近傍の劣角側に配置される1対の第4のノズルを含む、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の鋼矢板。
【請求項12】
第1の板状部分を含む長尺状の鋼矢板本体と、
前記鋼矢板本体の長手方向の一方の端部で、前記鋼矢板本体の先端から離隔した前記第1の板状部分の板面に配置され、前記長手方向に対して傾斜し前記第1の板状部分の板面から遠ざかる方向にウォータージェットを噴射するように構成されるノズルと
を備え、
前記鋼矢板本体は、断面において前記第1の板状部分の端部に形成される継手を含み、
前記ノズルは、前記継手に向かう方向にウォータージェットを噴射するように構成される第5のノズルを含み、
前記鋼矢板本体は、ウェブ、第1および第2のフランジ、第1および第2のアームならびに第1および第2の継手を含むハット形鋼矢板であり、
前記第1の板状部分は、前記第1のアームであり、
前記第5のノズルは、断面において前記第1のアームの端部に形成される前記第1の継手に向かう方向にウォータージェットを噴射するように構成され
る鋼矢板。
【請求項13】
請求項1から請求項
12のいずれか1項に記載の鋼矢板をバイブロハンマ工法で打設する工程を含む、鋼矢板の施工方法。
【請求項14】
請求項1から請求項
12のいずれか1項に記載の鋼矢板を圧入工法で打設する工程を含む、鋼矢板の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼矢板および鋼矢板の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼矢板の主な打設方法には、バイブロハンマ工法と圧入工法の2種類がある。それぞれの工法では、鋼矢板の型式ごとに打設可能な地盤N値の目安があり、N値がその目安を超えるような地盤では補助工法としてウォータージェット工法を併用することが一般的である。ウォータージェット工法では、水送出装置から吐出された高圧水を鋼矢板本体に沿って設置した配管またはホースを介して鋼矢板本体の先端部に取り付けたノズルに供給する。ノズルから地盤中にウォータージェットを噴射することによって地盤強度が局所的に低減され、鋼矢板の打設が促進される。このようなウォータージェット工法に関する技術は、例えば非特許文献1、特許文献1および特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2010/089985号
【文献】特開2002-38481号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】「圧入工法設計・施工指針」,国際圧入学会,2015年,p.131
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のウォータージェット工法では、
図10Aに示されるように、鋼矢板本体1の先端付近に取り付けられるノズル2Pに配管21を介して高圧水が供給され、ノズル2Pが鉛直下方向、すなわち鋼矢板本体1の長手方向にウォータージェットWJを噴射する。
図10Bに示されるように、ノズル2Pは鋼矢板本体1の先端から少し離隔して配置される。
図10Cに示されるように、噴射されたウォータージェットWJは、平面視ではノズル2Pを中心に放射状に拡散する。
【0006】
この場合、
図11(A)に示されるように、ノズル2Pから噴射されたウォータージェットWJの一部が鋼矢板本体1に衝突してロスWJ
lossになる。
図11(B)に示されるように地盤中に噴射されたウォータージェットWJはやがて地盤の抵抗により還流WJ
refになるが、ウォータージェットWJが鉛直下方向に噴射されていると鋼矢板本体1に沿った領域の流路が狭くなり、還流WJ
refの抵抗によるウォータージェットWJの圧力の減衰が生じやすくなる。
【0007】
このように、従来のウォータージェット工法では、ウォータージェットWJのロスや圧力の減衰のために地盤強度の低減効果が小さくなり、必要とされる噴射流量が増大する可能性があった。なお、
図11(C)に示されるようにノズル2Pを鋼矢板本体1の先端から離隔させずに取り付けた場合はウォータージェットWJのロスや減衰は発生しないが、地盤中の転石などとの接触に対してノズル2Pの損傷を防止することが困難になる。
【0008】
そこで、本発明は、ウォータージェット工法を補助工法として鋼矢板を打設するにあたり、ノズルの損傷を防止しつつ効果的に地盤強度を低減させることが可能な鋼矢板および鋼矢板の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]第1の板状部分を含む長尺状の鋼矢板本体と、鋼矢板本体の長手方向の一方の端部で、鋼矢板本体の先端から離隔した第1の板状部分の板面に配置され、長手方向に対して傾斜し第1の板状部分の板面から遠ざかる方向にウォータージェットを噴射するように構成されるノズルとを備える鋼矢板。
[2]鋼矢板本体は、断面において第1の板状部分に角度をもって連続する第2の板状部分をさらに含み、ノズルは、第1の板状部分と第2の板状部分との境界の近傍の劣角側に配置される第1のノズルを含む、[1]に記載の鋼矢板。
[3]第1のノズルは、第2の板状部分の板面に並行する方向にウォータージェットを噴射するように構成される、[2]に記載の鋼矢板。
[4]鋼矢板本体の断面において、第2の板状部分が第1の板状部分に対してなす角度とウォータージェットの噴射方向が第1の板状部分に対してなす角度との差は±10°以内である、[3]に記載の鋼矢板。
[5]鋼矢板本体の断面において、第1の板状部分は鋼矢板本体によって形成される壁体の延長方向に延びる部分であり、第2の板状部分は延長方向に対して傾斜した部分であり、第1のノズルは、鋼矢板本体の断面高さをHとし、第2の板状部分が第1の板状部分に対してなす角度をθfとし、ウォータージェットの掘削距離をDとし、長手方向を含み第1の板状部分に直交する断面においてウォータージェットの噴射方向が長手方向に対してなす角度をθaとし、長手方向に直交する断面においてウォータージェットの噴射方向が第1の板状部分に対してなす角度が角度θfに実質的に等しい場合に、以下の式(i)が満たされるように構成される、[3]または[4]に記載の鋼矢板。
[6]鋼矢板本体の断面において、第1の板状部分は鋼矢板本体によって形成される壁体の延長方向に延びる部分であり、第2の板状部分は延長方向に対して傾斜した部分であり、第1のノズルは、鋼矢板本体の断面高さをHとし、第2の板状部分が第1の板状部分に対してなす角度をθfとし、ウォータージェットの掘削距離をDとし、長手方向を含み第1の板状部分に直交する断面においてウォータージェットの噴射方向が長手方向に対してなす角度をθaとし、長手方向に直交する断面においてウォータージェットの噴射方向が第1の板状部分に対してなす角度が角度θfに実質的に等しい場合に、以下の式(ii)が満たされるように構成される、[3]または[4]に記載の鋼矢板。
[7]ノズルは、第1の板状部分の板面に並行する方向にウォータージェットを噴射するように構成される第2のノズルを含む、[1]または[2]に記載の鋼矢板。
[8]鋼矢板本体の断面において、第1の板状部分とウォータージェットの噴射方向とがなす角度は0よりも大きく10°以下である、[7]に記載の鋼矢板。
[9]ノズルは、複数の方向にウォータージェットを噴射するように構成される第3のノズルを含む、[1]から[8]のいずれか1項に記載の鋼矢板。
[10]鋼矢板本体の長手方向の一方の端部に配置され、長手方向にウォータージェットを噴射するように構成される別のノズルをさらに備える、[1]から[9]のいずれか1項に記載の鋼矢板。
[11]鋼矢板本体は、ウェブ、第1および第2のフランジ、第1および第2のアームおよび第1および第2の継手を含むハット形鋼矢板であり、第1の板状部分は、ウェブであり、ノズルは、ウェブと第1および第2のフランジとのそれぞれの境界の近傍の劣角側に配置される1対の第4のノズルを含む、[1]から[10]のいずれか1項に記載の鋼矢板。
[12]鋼矢板本体は、断面において第1の板状部分の端部に形成される継手を含み、ノズルは、継手に向かう方向にウォータージェットを噴射するように構成される第5のノズルを含む、[1]から[10]のいずれか1項に記載の鋼矢板。
[13]鋼矢板本体は、ウェブ、第1および第2のフランジ、第1および第2のアームならびに第1および第2の継手を含むハット形鋼矢板であり、第1の板状部分は、第1のアームであり、第5のノズルは、断面において第1のアームの端部に形成される第1の継手に向かう方向にウォータージェットを噴射するように構成される、[12]に記載の鋼矢板。
[14][1]から[13]のいずれか1項に記載の鋼矢板をバイブロハンマ工法で打設する工程を含む、鋼矢板の施工方法。
[15][1]から[13]のいずれか1項に記載の鋼矢板を圧入工法で打設する工程を含む、鋼矢板の施工方法。
【発明の効果】
【0010】
上記の構成によれば、鋼矢板本体の端部に取り付けられたノズルを鋼矢板本体の先端から離隔させることによってノズルの損傷を防止しながら、ウォータージェットを鋼矢板本体の長手方向に対して傾斜し鋼矢板本体から遠ざかる方向に噴射することによって、効果的に地盤強度を低減させて鋼矢板の打設を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】本発明の第1の実施形態に係る鋼矢板を示す図である。
【
図1B】本発明の第1の実施形態に係る鋼矢板を示す図である。
【
図1C】本発明の第1の実施形態に係る鋼矢板を示す図である。
【
図2】噴射方向が鉛直断面内で傾斜する効果について説明するための図である。
【
図3】噴射方向が水平断面内で傾斜する効果について説明するための図である。
【
図4A】本発明の第2の実施形態に係る鋼矢板を示す図である。
【
図4B】本発明の第2の実施形態に係る鋼矢板を示す図である。
【
図4C】本発明の第2の実施形態に係る鋼矢板を示す図である。
【
図5A】本発明の第3の実施形態に係る鋼矢板を示す図である。
【
図5B】本発明の第3の実施形態に係る鋼矢板を示す図である。
【
図5C】本発明の第3の実施形態に係る鋼矢板を示す図である。
【
図6A】本発明の第4の実施形態に係る鋼矢板を示す図である。
【
図6B】本発明の第4の実施形態に係る鋼矢板を示す図である。
【
図6C】本発明の第4の実施形態に係る鋼矢板を示す図である。
【
図7A】本発明の第5の実施形態に係る鋼矢板を示す図である。
【
図7B】本発明の第5の実施形態に係る鋼矢板を示す図である。
【
図7C】本発明の第5の実施形態に係る鋼矢板を示す図である。
【
図8】本発明の実施形態におけるウォータージェットの噴射方向の角度について説明するための図である。
【
図9A】本発明の実施形態におけるウォータージェットの噴射方向の角度について説明するための図である。
【
図9B】本発明の実施形態におけるウォータージェットの噴射方向の角度について説明するための図である。
【
図10A】従来のウォータージェット工法を適用した鋼矢板を示す図である。
【
図10B】従来のウォータージェット工法を適用した鋼矢板を示す図である。
【
図10C】従来のウォータージェット工法を適用した鋼矢板を示す図である。
【
図11】従来のウォータージェット工法を適用した鋼矢板を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省略する。
【0013】
(第1の実施形態)
図1Aから
図1Cは、本発明の第1の実施形態に係る鋼矢板を示す図である。図示された例において、鋼矢板は、長尺状の鋼矢板本体1と、鋼矢板本体1の長手方向の一方の端部に配置されてウォータージェットWJを噴射するように構成されるノズル2A,2Bとを含む。ここで、長尺状とは、実質的に同じ形状の断面が長手方向に延びて形成されていることを意味する。本実施形態において、鋼矢板本体1はハット形鋼矢板であり、ウェブ11、フランジ12A,12Bおよびアーム13A,13Bを含む。ウェブ11、フランジ12A,12Bおよびアーム13A,13Bのそれぞれは鋼矢板本体1の長手方向に延びる板状部分である。なお、ノズル2A,2Bとの関係においては、ウェブ11が第1の板状部分を構成し、フランジ12A,12Bが第2の板状部分を構成する。鋼矢板本体1の断面において、フランジ12A,12Bはそれぞれウェブ11の両端部に角度をもって連続し、アーム13A,13Bはフランジ12A,12Bのウェブ11とは反対側の端部に角度をもって連続する、アーム13A,13Bのフランジ12A,12Bとは反対側の端部には継手14A,14Bが形成される。
【0014】
ノズル2A,2Bは、鋼矢板本体1を地中に打設するときに先端になる側(下端側)の端部で、ウェブ11の板面に配置される。ここで、板面は、板状部分の端面以外の面を意味する。また、ノズルが板面に配置されることは、例えばノズル本体またはその支持部材が板面に取り付けられることを意味する。従って、ノズル2A,2Bの本体とウェブ11との間には隙間があってもよい。なお、ノズル2A,2Bは鋼矢板本体1の長手方向の端部に配置されるが、損傷防止のため鋼矢板本体の先端からは離隔して配置される。打設中の鋼矢板のノズル2A,2Bには、水送出装置(図示せず)から配管21A,21Bを介して高圧水が供給される。本実施形態において、ノズル2A,2Bは、ウェブ11とフランジ12A,12Bのそれぞれとの境界の近傍の劣角側、つまりウェブ11とフランジ12A,12Bとの間の角度が180°よりも小さい側に配置される。ウェブ11とフランジ12A,12Bのそれぞれとの境界の近傍の劣角側は、打設時に土砂の詰まりが生じやすい領域であるため、この領域にノズル2A,2Bを配置することは有効である。
【0015】
さらに、本実施形態において、ノズル2A,2Bは、鋼矢板本体1の長手方向(図中のz軸方向)、すなわち鋼矢板の打設進行方向に対して傾斜した方向であって、かつウェブ11の板面から遠ざかる方向にウォータージェットWJを噴射するように構成される。なお、ノズル2A,2Bから噴射されたウォータージェットWJは拡散するが、ノズル2Aまたはノズル2BからウォータージェットWJの拡散範囲の中心を通る直線として噴射方向を特定することができる。なお、例えば鋼矢板の打設進行方向に対して平行な方向に噴射されるウォータージェットが拡散する場合、拡散したウォータージェットの中には個別に見た場合にはウェブの板面から遠ざかる方向に噴射されているものが存在しうるが、拡散範囲の中を通る直線はウェブの板面に平行であり、全体としてウォータージェットの噴射方向はウェブの板面から遠ざからない。ウォータージェットWJの噴射方向が鋼矢板本体1の長手方向に対して傾斜している場合、鋼矢板本体1の長手方向に対して垂直な断面(図中のx-y断面)においてウォータージェットWJの噴射方向を定義することができるが、ノズル2A,2Bから噴射されるウォータージェットWJの噴射方向は、この断面においてウェブ11に向かわない方向である。具体的には、ノズル2A,2Bについては、ウェブ11の板面とは反対側の約180°の範囲が「ウェブ11から遠ざかる方向」になる。
【0016】
上記のようなウォータージェットWJの噴射を可能にするために、例えば、ノズル2A,2Bは、ヘッド部分の軸線が鋼矢板本体1の長手方向に対して傾斜して配置される。あるいは、ノズル2A,2Bのヘッド部分の軸線は鋼矢板本体1の長手方向に一致しており、ノズル内部の配管経路が傾斜していてもよい。
【0017】
ここで、
図1Bに示されるように、鋼矢板本体1の長手方向を含みウェブ11に直交する鉛直断面(図中のy-z断面)においてウォータージェットWJの噴射方向が鋼矢板本体1の長手方向(z軸方向)に対してなす角度をθaとする。角度θaを所定の大きさ以上にすることによって、
図2に示されるように、ウォータージェットWJが拡散する領域と鋼矢板本体1との重複がなくなるか、または小さくなる。これによって、ウォータージェットWJが鋼矢板本体1に衝突してロスになる量を低減することができる。また、鋼矢板本体1に沿った領域の流路が狭くならないため、還流WJ
refの抵抗によるウォータージェットWJの圧力の減衰を防止できる。従って、本実施形態では、損傷防止のためにノズル2A,2Bを鋼矢板本体1の先端から離隔して配置した配置であってもウォータージェットWJによる地盤強度の低減効果が高められる。
【0018】
一方、
図1Cに示されるように、鋼矢板本体1の長手方向に直交する水平断面(x-y断面)においてウォータージェットWJの噴射方向が鋼矢板本体1のウェブ11に対してなす角度をθbとする。本実施形態において、角度θbは、鋼矢板本体1のフランジ角度θf、すなわちフランジ12A,12Bがウェブ11に対してなす角度に実質的に等しい。具体的には、フランジ角度θfと角度θbとの差は±10°以内である。角度θbは施工現場で実施されるノズル2A,2Bの鋼矢板本体1への取り付け作業において最終的に調節されるが、このような作業において厳密に角度θbをフランジ角度θfに一致させることは容易でなく、また実際上はウォータージェットWJの拡散によって角度θbと角度θfとの間にわずかな差があっても同様の効果が得られるため、実質的に有効な角度θbの範囲としてθf±10°以内が例示される。角度θbを上記のように設定することによって、ノズル2A,2BによるウォータージェットWJの噴射方向が、ウェブ11の板面から遠ざかり、かつフランジ12A,12Bに並行する方向になる。これによって、
図3に示されるように、ウェブ11だけでなくフランジ12A,12Bに沿った領域でもウォータージェットWJによって地盤の強度が低減される。従って、打設時の地盤抵抗Rの鋼矢板本体1の断面高さ方向(図中のy軸方向)におけるばらつきが小さくなり、鋼矢板本体1の頭部に鉛直荷重を加えて打設する際に生じる鉛直精度の低下や、それに伴う継手摩擦の増加を防止することができる。鋼矢板本体1の種類によってはウェブ11およびアーム13A,13Bの板厚に比べてフランジ12A,12Bの板厚が相対的に薄い場合があり、上記の構成はこのような場合においてフランジの変形を防ぐためにも有効である。
【0019】
ここで、例えば、ノズル2A,2Bがウェブ11とフランジ12A,12Bとの境界に近接して配置される場合、角度θbをフランジ角度θfよりもわずかに大きくすることによって拡散するウォータージェットWJがフランジ12A,12Bに衝突するのを防止できる。この場合、ノズル2A,2BによるウォータージェットWJの噴射方向は、ウェブ11の板面から遠ざかり、フランジ12A,12Bの板面からも遠ざかり、かつフランジ12A,12Bの板面に並行する。なお、本明細書において、並行することは必ずしも幾何学的に平行であることを意味しないため、ウォータージェットWJの噴射方向が板状部分の板面から遠ざかることと板状部分の板面に並行することとは矛盾しない。他の例では、角度θbをフランジ角度θfと同じか、わずかに小さくしてもよい。例えばウェブ11に配置されたノズル2A,2Bが噴射したウォータージェットWJがフランジ12A,12Bの近傍では既に鋼矢板本体1の先端を超えているような場合には、ウォータージェットWJの噴射方向は必ずしもフランジ12A,12Bから遠ざからなくてもよい。
【0020】
上述のような本実施形態に係る鋼矢板は、バイブロハンマ工法、または圧入工法のいずれによっても打設することができる。具体的には、最初に打設されるもの以外は先行して打設された鋼矢板(
図1Aに示された鋼矢板本体3)に一方の継手(
図1Aの例では継手14A)を嵌合させながら、ウォータージェットポンプなどの水送出装置から配管21A,21Bを介してノズル2A,2Bに高圧水を供給し、ノズル2A,2Bから地盤中にウォータージェットWJを噴射しながら鋼矢板本体1にバイブロハンマまたは圧入機で鉛直荷重を加えて、鋼矢板を地中に打設する。鋼矢板の打設完了後は、ノズル2A,2Bを地中に残して配管21A,21Bを撤去し、配管は他の鋼矢板の打設に再利用してもよい(
図1Aに示されたノズル4A,4B)。あるいは、配管21A,21Bの少なくとも一部をノズル2A,2Bとともに地中に残してもよいし、ノズル2A,2Bを配管21A,21Bとともに回収し、地中には残さなくてもよい。
【0021】
以上で説明したように、本実施形態に係る鋼矢板では、鋼矢板本体1の端部に取り付けられたノズル2A,2Bを鋼矢板本体1の先端から離隔させることによってノズル2A,2Bの損傷を防止しながら、ウォータージェットWJを鋼矢板本体1の長手方向に対して傾斜し鋼矢板本体から遠ざかる方向に噴射することによって、効果的に地盤強度を低減させて鋼矢板の打設を促進することができる。
【0022】
(第2の実施形態)
図4Aから
図4Cは、本発明の第2の実施形態に係る鋼矢板を示す図である。本実施形態に係る鋼矢板は、上記の第1の実施形態におけるノズル2Aに代えて、ノズル2Cを含む。ノズル2Cは、アーム13Aの板面に配置される。ノズル2Cには、配管21Cによって高圧水が供給される。なお、ノズル2Cとの関係においては、アーム13Aが第1の板状部分を構成する。これ以外の構成は、上記の第1の実施形態と同様であるため重複した説明は省略する。
図4Cに示されるように、ノズル2Cは、鋼矢板本体1の長手方向に対して垂直な水平断面(x-y断面)において、アーム13Aに沿って継手14Aに向かう方向にウォータージェットWJを噴射するように構成される。図示された例において、既に打設された鋼矢板本体3には、ノズル2B,2Cと同様のノズル4B,4Cが残されている。本実施形態では、ノズル2Cが配置されることによって、先行して打設された鋼矢板本体3の継手に嵌合することによる抵抗を受ける継手14Aに近い領域の地盤強度を低減させて鋼矢板の打設を促進することができる。
【0023】
(第3の実施形態)
図5Aから
図5Cは、本発明の第3の実施形態に係る鋼矢板を示す図である。本実施形態に係る鋼矢板は、上記の第1の実施形態におけるノズル2A,2Bに代えて、ノズル2Dを含む。ノズル2Dは、ウェブ11の幅方向中央付近に配置され、単一のノズルで2つのウォータージェットWJを噴射するように構成される。ノズル2Dには、配管21Dによって高圧水が供給される。なお、ノズル2Dとの関係においては、ウェブ11が第1の板状部分を構成する。これ以外の構成は、上記の第1の実施形態と同様であるため重複した説明は省略する。
図5Bに示されるように、ノズル2Dから噴射される2つのウォータージェットWJの噴射方向は、いずれも鋼矢板本体1の長手方向に対して傾斜している。また、
図5Cに示されるように、ノズル2Dから噴射される2つのウォータージェットWJの噴射方向は、いずれもウェブ11の板面から遠ざかり、かつフランジ12A,12Bの板面に並行する。本実施形態では、単一のノズル2Dを用いて、鋼矢板本体1の両方のフランジ12A,12Bに沿った領域で地盤強度を低減させて鋼矢板の打設を促進することができる。
【0024】
(第4の実施形態)
図6Aから
図6Cは、本発明の第4の実施形態に係る鋼矢板を示す図である。本実施形態に係る鋼矢板は、上記の第1の実施形態におけるノズル2A,2Bに代えて、ノズル2E~2Hを含む。ノズル2E,2Hは、フランジ12A,12Bの板面に配置される。従って、ノズル2E,2Hとの関係においては、フランジ12A,12Bが第1の板状部分を構成する。一方、ノズル2F,2Gは、ウェブ11の板面に配置される。
図6Bに示されるように、ノズル2E,2Hからそれぞれ噴射されるウォータージェットWJの噴射方向は、いずれも鋼矢板本体1の長手方向に対して傾斜している。一方、ノズル2F,2Gは、上記で説明した従来のウォータージェット工法に用いられるノズル2Pと同様に、鋼矢板本体1の長手方向にウォータージェットWJを噴射するように構成される。また、
図6Cに示されるように、ノズル2E,2Hからそれぞれ噴射されるウォータージェットWJの噴射方向は、フランジ12A,12Bの板面から遠ざかり、かつフランジ12A,12Bの板面に並行する。このようにウォータージェットWJの噴射方向が同じ板状部分の板面に対して遠ざかり、かつ並行する場合、板状部分と噴射方向とがなす角度は0よりも大きく10°以下であることが好ましい。本実施形態では、打設時に土砂の詰まりが生じやすいウェブ11とフランジ12A,12Bとの間の劣角側の領域でノズル2F,2Gを用いて土砂の詰まりを防止するとともに、フランジ12A,12Bに沿った領域でもノズル2E,2Hを用いて地盤強度を低減させ、鋼矢板本体1の断面高さ方向(図中のy軸方向)における打設時の地盤抵抗Rのばらつきを小さくすることができる。本実施形態は、例えば、ウェブ11に従来のウォータージェット工法用のノズル(ノズル2F,2G)が既に配置された鋼矢板において、フランジ12A,12Bに追加で新たなノズル(ノズル2E,2H)を配置するような場合にも利用可能である。
【0025】
(第5の実施形態)
図7Aから
図7Cは、本発明の第5の実施形態に係る鋼矢板を示す図である。本実施形態に係る鋼矢板は、上記の第1の実施形態におけるノズル2A,2Bに代えて、ノズル2I,2Jを含む。ノズル2I,2Jは、フランジ12A,12Bの板面にそれぞれ配置される。従って、ノズル2I,2Jとの関係においては、フランジ12A,12Bが第1の板状部分を構成する。上記の第4の実施形態のノズル2E,2Hがフランジ12A,12Bのウェブ11寄りの部分に取り付けられてアーム13A,13B側に向かってウォータージェットWJを噴射するのに対して、本実施形態のノズル2I,2Jはフランジ12A,12Bのアーム13A,13B寄りの部分に取り付けられ、ウェブ11側に向かって、フランジ12A,12Bの板面から遠ざかり、かつフランジ12A,12Bの板面に並行する方向にウォータージェットWJを噴射する。この場合も、上記の例と同様に、打設時に土砂の詰まりが生じやすいウェブ11とフランジ12A,12Bとの間の劣角側の領域でノズル2I,2Jを用いて土砂の詰まりを防止するとともに、フランジ12A,12Bに沿った領域で地盤強度を低減させて鋼矢板の打設を促進することができる。
【0026】
(噴射方向の角度に関する検討)
図8は、本発明の実施形態におけるウォータージェットの噴射方向の角度について説明するための図である。例えば上記の
図1Aから
図1Cに示された例の場合、ノズル2A,2BからのウォータージェットWJの噴射方向が鋼矢板本体1の長手方向(z軸方向)に対してなす角度θは、鋼矢板本体1の長手方向を含みウェブ11に直交する鉛直断面(y-z断面)における角度θaと、鋼矢板本体1の長手方向に直交する水平断面(x-y断面)における角度θbに分解される。なお、
図8に示されたx軸、y軸、およびz軸は、上記の各実施形態の図に示された軸と同じである。具体的には、x軸方向は鋼矢板本体1によって形成される壁体の延長方向であり、鋼矢板本体1の長手方向に直交しウェブ11の板面に沿う。鋼矢板本体1の断面において、ウェブ11はx軸方向に延びる部分であり、フランジ12A,12Bはx軸方向に対して傾斜した部分である。y軸方向は鋼矢板本体1の断面高さ方向であり、鋼矢板本体1の長手方向に直交しウェブ11の板面に直交する。z軸方向は鋼矢板本体1の長手方向である。これらの軸に沿って、ウォータージェットWJによる地盤の掘削距離Dは、x軸方向ではDsinθcosθb、y軸方向ではDsinθsinθa、z軸方向ではDcosθにそれぞれ分解される。従って、角度θaと角度θおよび角度θbとの間に、以下の式(1)の関係が成り立つ。
【0027】
【0028】
さらに、角度θbがフランジ角度θfに実質的に等しいとみなした場合、フランジ角度θfおよびウォータージェットの掘削範囲によるフランジ長さLfのカバー率nを用いて角度θaを表すことができる。
図9Aおよび
図9Bに、それぞれn=0.25の場合およびn=0.5の場合の例を模式的に示す。なお、Hは鋼矢板本体の断面高さである。図示されるように、Dsinθ=nLf=n(H/sinθf)であることから、角度θは以下の式(2)のように表される。式(2)を式(1)に代入すると、角度θa、フランジ角度θfおよび掘削距離Dの関係を表す式(3)が得られる。
【0029】
【0030】
掘削距離Dは、従来のウォータージェット工法における知見から算出することができる。例えば砂質土の場合、港湾空港技術研究所資料による「複数の高圧噴射ノズルによる地盤の掘削・攪拌性能評価(2014年12月)」P5~P7に記載されているように、以下の式(4)を用いて算出することができる。式(4)において、d0はノズル孔径、Aは定数(上記文献P25より、A=14)、Λはノズルの形状に依存する流量係数、Pは噴射圧、σZは初期の土被り圧(地盤深さ)、φ’は地盤の有効摩擦角である。
【0031】
【0032】
以上のような検討の結果に基づいて、式(3)を用いて様々な型式の鋼矢板本体について角度θaを算出した。前提として、角度θbはフランジ角度θfに実質的に等しく、地盤深さσZおよびN値は形式および工法ごとに定められた適用目安値(鋼管杭・鋼矢板協会による「SMP工法鋼矢板圧入引抜標準積算資料(2019年度版)」の表1-2、およびバイブロハンマ工法技術研究会による「ハット形鋼矢板積算基準(案)Ver.10」の表5-3)であり、ノズル孔径d0および噴射圧Pは実用範囲の数値であり、掘削距離Dは式(4)を用いて算出するものとした。各型式における前提条件を表1に、ウォータージェットの掘削範囲によるフランジ長さLfのカバー率nを0.25とした場合の算出結果を表2に、カバー率nを0.5とした場合の算出結果を表3に、それぞれ示す。算出結果では、n=0.25の場合θaは5.5°以上21.4°以下であり、n=0.5の場合θaは11.1°以上48.8°以下であった。
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
上記で算出された角度θaは、ウォータージェットの噴射によってフランジ12A,12Bの所定範囲(カバー率nで表される)で地盤強度を低減させることを条件とした場合の最小値である。従って、実際の鋼矢板の設計にあたっては、上記の式(3)においてn=0.25またはn=0.5とした不等式である以下の式(5)または式(6)によって角度θaを決定することができる。
【0037】
【0038】
(実施例)
次に、本発明の実施形態に係る鋼矢板を用いて原地盤で実施した打設試験の一例について説明する。本実施例では、地盤N値が2以上50以下の砂質土に断面高さH=240mm、フランジ角度θf=41°の試験用ハット形鋼矢板を打設した。実施例では上記で
図1Aに示された例のように鋼矢板本体のウェブの幅方向両端部(フランジとの境界の近傍の劣角側)にノズルを配置して、鋼矢板本体の長手方向に対して傾斜し、かつそれぞれのフランジに沿った方向にウォータージェットを噴射した。鋼矢板本体の長手方向を含みウェブに直交する鉛直断面においてウォータージェットの噴射方向が鋼矢板本体の長手方向に対してなす角度θaは18°、鋼矢板本体の長手方向に直交する水平断面においてウォータージェットの噴射方向がウェブに対してなす角度θbはフランジ角度θfと同じ41°とした。この結果、ウォータージェットの掘削範囲によるフランジ長さLfのカバー率nは0.41になった。一方、比較例では上記で
図10Aに示された例のように鋼矢板本体のウェブの幅方向両端部にノズルを配置して、鋼矢板本体の長手方向にウォータージェットを噴射した。
【0039】
実施例および比較例に共通して、打設には圧入機(サイレントパイラー(登録商標))を使用した。ノズルは鋼矢板の先端から約100mm離隔させて配置し、連結部を介して配管ホースを接続し、鋼矢板の頭部まで配管ホースを延ばしてウォータージェットポンプに接続した。ノズル孔径は6.5mmであり、ウォータージェットポンプの供給流量は地盤抵抗(圧入機に表示される圧入力)に応じて調整した。鋼矢板本体の全長は16m、地盤への根入れ深さは15.5mとした。深度13m~15mでは地盤N値が30~50であり、この区間では実施例および比較例とも供給流量はポンプ能力上限の325L/分であった。なお、継手抵抗の影響を除いて地盤抵抗を比較するため、鋼矢板本体の継手は他の鋼矢板の継手とは嵌合していない。
【0040】
実験の結果、地盤N値が30~50になる深度13m~15mの区間で実施例および比較例の圧入力に有意な差が見られ、実施例では比較例に比べて10%以上、圧入力が小さくなった。この結果から、特にN値が大きい硬質な地盤において、本発明の実施形態に係る鋼矢板が有利に打設できることが示された。
【0041】
なお、上記の実施形態および実施例では鋼矢板本体がハット形である例について説明したが、本発明の実施形態はこれらの例には限られず、例えば鋼矢板本体がU形またはZ形であるような場合にも適用可能である。
【0042】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれらの例に限定されない。本発明の属する技術の分野の当業者であれば、請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0043】
1…鋼矢板本体、11…ウェブ、12A,12B…フランジ、13A,13B…アーム、14A,14B…継手、2A,2B,2C,2D,2E,2F,2G,2H,2I,2J…ノズル、21A,21B,21C,21D…配管、3…鋼矢板本体、4A,4B…ノズル、WJ…ウォータージェット。