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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】精油の抽出装置
(51)【国際特許分類】
   C11B 9/02 20060101AFI20241009BHJP
   C11B 9/00 20060101ALI20241009BHJP
   A47J 19/02 20060101ALN20241009BHJP
   A23N 1/00 20060101ALN20241009BHJP
【FI】
C11B9/02
C11B9/00 A
A47J19/02 B
A23N1/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020124593
(22)【出願日】2020-07-21
(65)【公開番号】P2022021156
(43)【公開日】2022-02-02
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】517074037
【氏名又は名称】合名会社きたたに
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北谷 龍樹
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第207874932(CN,U)
【文献】特開昭54-129156(JP,A)
【文献】登録実用新案第3143824(JP,U)
【文献】特開平1-320977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B、C11C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミカン科の植物の果実から精油を抽出する精油の抽出装置において、
果実の油胞層を含む外側の皮のみが収容される収容シリンダと、
前記収容シリンダの軸方向一方から挿入され、前記外側の皮を圧搾するピストンと、
前記ピストンを前記収容シリンダの軸方向他方へ向けて相対的に移動させて前記外側の皮に対して圧搾力を作用させる駆動装置と、
前記収容シリンダ内に設けられ、前記外側の皮を、残渣と、精油を含む液体とに分離して液体を通過させる分離部材と、
前記収容シリンダの軸方向他方の端部に設けられ、前記分離部材を受けるとともに、前記分離部材を通過した液体を排出する排出孔を有する受け部材とを備え
前記分離部材は、前記外側の皮を包む濾布を有していることを特徴とする精油の抽出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の精油の抽出装置において、
前記分離部材は、前記収容シリンダに収容された前記外側の皮と、前記受け部材との間に配置される金属製メッシュを有していることを特徴とする精油の抽出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の精油の抽出装置において、
前記分離部材は、前記金属製メッシュと前記受け部材との間に配置される繊維体を有していることを特徴とする精油の抽出装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の精油の抽出装置において、
前記収容シリンダは軸方向一方が上に位置し、軸方向他方が下に位置する姿勢で設置され、
前記受け部材の上面に前記分離部材が接触するように配置され、
前記受け部材の下面は、中央部が最も下に位置するように傾斜した傾斜面を有し、
複数の前記排出孔が、水平方向に互いに間隔をあけて配置されるとともに、前記受け部材を上下方向に貫通するように形成され、前記排出孔の下流端が前記傾斜面に開口していることを特徴とする精油の抽出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミカン科の植物の果実の精油を抽出する精油の抽出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、特許文献1~3に開示されているように、柑橘精油を抽出する方法は複数通り知られている。特許文献1の抽出方法は、柑橘を超高圧水で粉砕処理し、これを固液分離して得られた液体を遠心分離処理することによって精油を抽出している。また、特許文献2の抽出方法は、果汁を搾った後の柑橘の果皮を乾式で粗粉砕した後、湿式で微粉砕し、その後、水蒸気蒸留することによって精油を抽出している。また、特許文献3の抽出方法は、柑橘の果皮をローラプレス処理して得られた搾汁液を低温真空乾燥処理することによって精油を抽出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-214276号公報
【文献】特開2016-74820号公報
【文献】特開2018-16693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、柑橘精油は、アロマオイル原料や化粧品原料としてだけでなく、食品への添加物としても使用されており、近年、その使用範囲は拡大している。また、柑橘精油は香りが最も重要であるが、柑橘精油自体、非常にデリケートなものであることから、酸化や香気成分のわずかな揮発によって香りに悪影響が及ぶことがある。
【0005】
また、柑橘には様々な種類があり、種類によって精油の香りが異なるのはもちろんのこと、例えば同じレモンであっても収穫地や収穫された季節ごとに、得られた精油の香りが微妙に異なる。このような微妙な香りの相違を楽しみたいというユーズがあるが、その香りは、精油の酸化や香気成分のわずかな揮発によっても変化してしまうので、抽出時に如何にして酸化を抑制し、香気成分の揮発を抑制するかが問題になる。
【0006】
この点、特許文献1では、柑橘を超高圧水で粉砕処理する際に20~40l/分もの大量の水を使用し、その粉砕処理が大気中で行われているので、その過程で精油が酸化し易くなるとともに、精油に含まれる香気成分が揮発し易い。また、特許文献2では、ハンマーミルやピンミル、パルパー等を使用して乾式粉砕しているが、この乾式粉砕も大気中で行われているので、精油の酸化及び香気成分の揮発が問題になる。また、特許文献3では、柑橘の果皮をローラプレスしているが、このローラプレスの際には精油がローラ面の広い範囲に付着して大気に触れることになるので、精油の酸化及び香気成分の揮発が問題になる。
【0007】
また、特許文献1の超高圧水による粉砕処理、特許文献2のハンマーミル等による乾式粉砕処理、特許文献3のローラプレスによる圧搾処理のいずれも、導入すべき設備が大規模になるので、大量の柑橘を処理して精油を工業的に抽出する場合に限定される。一方で、収穫地ごと、季節ごとに精油を得ようとすると、そもそも、精油の抽出に使用可能な柑橘の数自体が少なく、大量生産には向いていない場合が多い。特に、特許文献1~3のような大規模な設備では、抽出時に機器の表面に付着してしまう精油の量が多くなるので、柑橘の数が少ない場合に適用するのは困難であった。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、少量の果実から効率よく精油を抽出可能にするとともに、抽出過程における精油の酸化及び香気成分の揮発を抑制して香り豊かな精油を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、ミカン科の植物の果実の皮をシリンダに収容して圧搾し、その圧搾の際にシリンダ内で残渣と液体とを分離し、液体のみシリンダから流出させるようにした。
【0010】
第1の発明は、ミカン科の植物の果実から精油を抽出する精油の抽出装置において、ミカン科の植物の果実の少なくとも一部が収容される収容シリンダと、前記収容シリンダの軸方向一方から挿入され、前記果実を圧搾するピストンと、前記ピストンを前記収容シリンダの軸方向他方へ向けて相対的に移動させて前記果実に対して圧搾力を作用させる駆動装置と、前記収容シリンダ内に設けられ、前記果実を、残渣と、精油を含む液体とに分離して液体を通過させる分離部材と、前記収容シリンダの軸方向他方の端部に設けられ、前記分離部材を受けるとともに、前記分離部材を通過した液体を排出する排出孔を有する受け部材とを備えていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、例えばミカン科の植物の果実の皮を収容シリンダに収容した状態で駆動装置によってピストンを収容シリンダの軸方向他方へ向けて相対的に移動させると、皮に対して圧搾力が作用し、分離部材により、残渣と、精油を含む液体とに分離される。精油を含んだ液体は、受け部材の排出孔から排出される。尚、収容シリンダには山椒の実(果実)を収容することもできる。
【0012】
このように、例えば皮を圧搾する際には皮が収容シリンダに収容されていて、収容シリンダがピストンによって密閉されているので、圧搾の途中で出てくる精油を含む液体が大気に触れにくくなる。これにより、精油の酸化及び精油に含まれる香気成分の揮発が抑制される。
【0013】
加えて、収容シリンダ及びピストンによって皮を圧搾する際にはピストンを1回だけ押し込めばよいので、収容シリンダの内面及びピストンへの精油の接触面積は狭くなり、特許文献1のように大量の水に精油が触れること、特許文献2のハンマーミルや特許文献3のローラに精油が触れることに比べて、精油が少量であっても効率よく集めることが可能になる。
【0014】
第2の発明は、前記分離部材は、前記収容シリンダに収容された前記果実と、前記受け部材との間に配置される金属製メッシュを有していることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、果実に対して高い圧力が作用した時に、金属製メッシュが果実と受け部材との間に介在しているので、残渣が排出孔へ流入するのを止めることができる。
【0016】
第3の発明は、前記分離部材は、前記金属製メッシュと前記受け部材との間に配置される繊維体を有していることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、果実と受け部材との間に金属製メッシュと繊維体との両方が介在することになるので、残渣の通過を抑制することができる。
【0018】
第4の発明は、前記分離部材は、前記果実を包む濾布を有していることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、果実が濾布に包まれているので、精油を含む液体のみを流出させることができる。
【0020】
第5の発明は、前記収容シリンダは軸方向一方が上に位置し、軸方向他方が下に位置する姿勢で設置され、前記受け部材の上面に前記分離部材が接触するように配置され、前記受け部材の下面は、中央部が最も下に位置するように傾斜した傾斜面を有し、複数の前記排出孔が、水平方向に互いに間隔をあけて配置されるとともに、前記受け部材を上下方向に貫通するように形成され、前記排出孔の下流端が前記傾斜面に開口していることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、ピストンを収容シリンダにその上方から挿入して果実に対して圧搾力を作用させると、精油を含む液体が複数の排出孔を下方へ流通する。排出孔を下方へ流通した液体は下流端から外部に流出することになるが、このとき下流端が傾斜面に開口しているので、傾斜面を伝って流れることになる。この傾斜面は中央部が最も下に位置しているので、複数の排出孔から流出した液体は中央部で集まり、下方へ滴下する。従って、液体が少量であっても、中央部に集めることができ、例えば容器に容易に入れることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、収容シリンダにピストンを挿入して圧搾し、収容シリンダ内で残渣と精油を含む液体とに分離し、分離された液体を外部に流出させるようにしたので、少量の果実から効率よく精油を抽出できるとともに、抽出過程における精油の酸化及び香気成分の揮発を抑制して香り豊かな精油を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係る精油の抽出装置の正面図である。
図2】収容シリンダから受け部材を取り外した状態を示す正面図である。
図3】受け部材が取り付けられた収容シリンダの縦断面図である。
図4】受け部材の底面図である。
図5】皮及び分離部材を収容した状態を示す図3相当図である。
図6】ミカン科の植物の果実から精油を得る要領を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0025】
図1は、本発明の実施形態に係る精油の抽出装置1の正面図である。この抽出装置1は、ミカン科の植物の果実から精油を抽出するための装置であり、少量の果実から精油を抽出することが可能に構成されている。抽出の際には、果実全てを使用してもよいし、果実の皮のみ使用してもよい。抽出装置1で精油を抽出可能な果実は、ミカン科の植物の果実であればよく、特に限定されるものではないが、例えばレモン、温州みかん、ゆず、はっさく、甘夏、ぽんかん、いよかん、夏みかん、でこぽん、グレープフルーツ等を挙げることができるが、これら以外の果実の皮から精油を抽出することができる。例えば、ミカン科の植物のうち、交雑種や野生の原種などの果実の皮から精油を抽出する場合や、山椒の実から精油を抽出する場合に、上記精油の抽出装置1を使用することができる。抽出装置1を用いることにより、例えば季節ごとに精油を抽出することや、収穫地ごとに精油を抽出することもできる。本明細書では、例えば柑橘の皮から抽出される精油を柑橘精油と呼ぶ。
【0026】
抽出装置1は、装置本体10と、収容シリンダ20と、ピストン30と、受け部材40と、図5に示す分離部材50とを備えている。装置本体10は、高い剛性を有する部材を組み合わせて構成された筐体11と、ピストン30を駆動する駆動装置12とを備えている。筐体11は、底盤11aと、左右の側部フレーム11b、11bと、上部フレーム11cとを備えている。底盤11a、左右の側部フレーム11b、11b及び上部フレーム11cにより、筐体11の内部空間Rが形成されている。
【0027】
駆動装置12は、ピストン30を収容シリンダ20の軸方向他方へ向けて相対的に移動させることにより、予め収容シリンダ20に収容されている皮に対して圧搾力を作用させるための装置である。駆動装置12は、油圧シリンダ12aと、油圧ポンプ12bと、油圧配管12cとを備えている。油圧シリンダ12aは内部空間Rに配置されており、伸縮方向が上下方向とされている。油圧シリンダ12aのシリンダ部12dが上に位置し、ロッド部12eが下に位置するように油圧シリンダ12aの姿勢が設定されており、この状態でシリンダ部12dの上端部が上部フレーム11cに固定されている。
【0028】
油圧ポンプ12bは、油圧発生装置で構成されている。油圧ポンプ12bは、手動式レバーを動かして油圧を高める手動ポンプであってもよいし、電動モータ等で駆動されるポンプを内蔵した電動ポンプであってもよく、その形式は特に問わない。油圧ポンプ12bは、所定の圧力の作動油を油圧配管12cに吐出する。油圧配管12cに吐出された作動油はシリンダ部12dに供給される。シリンダ部12dに供給された作動油によってロッド部12eが下方へ進出する。一方、図示しないバルブを操作することにより、シリンダ部12dに供給された作動油を、油圧配管12cを介して油圧ポンプ12b側へ流すことができるようになっており、これにより、ロッド12eを上方へ後退させることができる。油圧ポンプ12bの構成は従来から周知である。
【0029】
油圧ポンプ12bからの作動油の吐出圧により、後述するピストン30の推進力を設定することができる。ピストン30の推進力は、一定の力に固定されていてもよいし、ミカン科の植物の果実の種類によって変更してもよく、収容シリンダ20内の皮から精油を含む液体を外部へ流出させることが可能な力とされている。
【0030】
収容シリンダ20は、ミカン科の植物の果実の皮が収容される円筒状の部材で構成されており、例えばステンレス鋼等の金属材料からなるものである。収容シリンダ20の長さは特に限定されるものではないが、例えば150mm以上300mm以下の範囲で設定することができる。また、収容シリンダ20の内径は特に限定されるものではないが、例えば40mm以上80mm以下の範囲で設定することができる。収容シリンダ20の肉厚は、圧搾時に作用する内圧によって容易に変形しないように厚めに設定されている。したがって、収容シリンダ20は強度が高く、高剛性である。
【0031】
収容シリンダ20は、軸方向一方が上に位置し、軸方向他方が下に位置する姿勢で設置されている。図2及び図3に示すように、収容シリンダ20の下端部には、水平方向に張り出して形成されたフランジ部21が設けられている。フランジ部21の外形状は円形とされており、その中心部が収容シリンダ20の軸上に位置している。フランジ部21には、複数の取付孔21aが形成されている。フランジ部21の下面には、受け部材40を収容するための凹部21bが形成されている。凹部21bは下方に開放されており、外形状は円形とされており、その中心部が収容シリンダ20の軸上に位置している。
【0032】
凹部21bの内面には、収容シリンダ20の下端開口を囲むように環状溝21cが形成されている。環状溝21cには、例えばゴム製のOリング等からなる下部シール材22(図2に示す)が嵌め込まれている。この下部シール材22は、フランジ部21の凹部21bの内面と受け部材40との間をシールするための部材である。
【0033】
フランジ部21は、装置本体10の底盤11aに設けられた取付部材13(図1に示す)にボルト14等によって締結固定されている。このボルト14は、フランジ部21の取付孔21aに挿通する。取付部材13は、後述する液体が通過可能な貫通孔13aを有している。
【0034】
一方、図1に示すピストン30は、収容シリンダ20の上方(軸方向一方)から挿入され、収容シリンダ20の内部で当該収容シリンダ20と共にミカン科の植物の果実の皮を圧搾するための部材である。図1では、ピストン30が上昇端位置にある状態を示している。ピストン30は、上下方向に延びる円柱状の部材であり、収容シリンダ20と同様な金属材料で構成することができる。ピストン30の上端部は、ロッド部12eの下端部に対して着脱可能に取り付けられている。ピストン30の着脱機構は特に限定されるものではないが、ピンやクリップ等を用いた着脱機構であってもよいし、ボルトやネジを用いた着脱機構であってもよい。収容シリンダ20に皮を収容する際には、ピストン30をロッド部12eから取り外しておけばよく。収容シリンダ20に皮を収容した後、ピストン30をロッド部12eに取り付けることができる。尚、ピストン30の上昇端位置をもっと上にし、ピストン30が上昇端位置にあるときに、収容シリンダ20に皮を収容可能にしてもよい。
【0035】
ピストン30の下端部には、例えばゴム製のOリング等からなる第1シール材31及び第2シール材32が設けられている。第1シール材31及び第2シール材32は上下方向に互いに間隔をあけて配置されており、ピストン30の外周面に形成された溝(図示せず)に嵌め込まれた状態で当該ピストン30に保持されている。第1シール材31及び第2シール材32は、その全周がピストン30の外周面から突出するように設けられており、収容シリンダ20の内周面に対して全周に亘って摺接するようになっている。第1シール材31及び第2シール材32により、収容シリンダ20の内周面とピストン30の外周面との間がシールされる。第1シール材31及び第2シール材32の一方を省略してもよい。
【0036】
図5に示すように、受け部材40は、収容シリンダ20の下端部に設けられており、内部に収容されている分離部材50を受けるとともに、圧搾によって生じた精油を含む液体を排出可能に構成されている。すなわち、受け部材40は、収容シリンダ20と同様な金属材料で構成されており、平面視で円形の板状をなしている。受け部材40の外形状は、フランジ部21の凹部21bの内形状と同様に円形状であり、受け部材40を凹部21b内に挿入することが可能になっている。受け部材40の外周側には、フランジ部21の取付孔21aと一致する貫通孔40aが上下方向に貫通するように形成されている。図1に示すボルト14は、フランジ部21の取付孔21aと、受け部材40の貫通孔40aとに挿入されて装置本体10の取付部材13に形成されたネジ孔(図示せず)に螺合するようになっている。したがって、フランジ部21と受け部材40とを取付部材13に共締めすることができる。受け部材40は、フランジ部21に締結してもよい。
【0037】
図2に示すように、受け部材40の上面は平面で構成されている。図3に示すように、受け部材40の上面には、フランジ部21の環状溝21cに嵌め込まれた下部シール材22が接触する。下部シール材22により、受け部材40の上面と、フランジ部21の凹部21bの内面との間がシールされる。また、受け部材40の上面における下部シール材22が接触する部分よりも内側は、収容シリンダ20内に臨んでいる。
【0038】
受け部材40の下面は、中央部が最も下に位置するように傾斜した傾斜面42を有している。この傾斜面42は例えばテーパ面や円錐面で構成することができ、最も下に位置する中央部(円錐面の頂点)から外周部に向かって次第に上昇するように形成されている。傾斜面42を形成することで、受け部材40の肉厚は径方向中央部が最も厚くなり、径方向外方へ向かって次第に薄くなる。また、受け部材40の下面における傾斜面42よりも外周側は、受け部材40の上面と平行に延びる平面43で構成されている。この平面43は、傾斜面42を囲むように円環状に延びている。貫通孔40aの下端は、平面43に開口している。
【0039】
受け部材40は、分離部材50を通過した液体を排出するための複数の排出孔44を有している。図4にも示すように、排出孔44は、水平方向に互いに間隔をあけて配置されるとともに、受け部材40を上下方向に貫通するように形成されている。したがって、排出孔44の上流端は、受け部材40の上面において収容シリンダ20内に臨む部分に開口することになる。また、排出孔44は、受け部材40における平面43が形成された部分よりも内側に位置している。したがって、排出孔44の下流端は、傾斜面42に開口することになる。排出孔44のうち、1つは、受け部材40の径方向中央部に配置することができ、他の排出孔44はその中央部の排出孔44から径方向外方に離れたところにそれぞれ配置することができる。排出孔44の数は特に限定されるものではなく、1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。排出孔44を10以上、または20以上設けることもできる。
【0040】
図3に示すように、各排出孔44は、小径部44aと大径部44bとで構成されている。小径部44aは、排出孔44の上下方向中間部よりも上側部分であり、大径部44bは、排出孔44の上下方向中間部よりも下側部分である。小径部44aの上下方向の寸法(孔の長さ)は、大径部44bの上下方向に寸法よりも長くすることができる。これにより、形成が比較的難しい小径部44aの長さが短くなるので、受け部材40の製造が容易になる。また、受け部材40の径方向中央部に位置する大径部44bの上下方向の寸法は、径方向外側に位置する大径部44bの上下方向の寸法よりも長くなっている。
【0041】
小径部44aの内径は、例えば0.7mm以上1.4mm以下の範囲で設定することができる。一方、大径部44bの内径は、小径部44aの内径の1/2程度、例えば1.5mm以上2.5mm以下に設定することができる。
【0042】
図5に示す分離部材50は、収容シリンダ20内に設けられており、収容シリンダ20内で圧搾された皮を、残渣と、精油を含む液体とに分離し、液体のみ通過させる部材である。この実施形態では、分離部材50は、繊維体51と、金属製メッシュ52と、濾布53とを備えている。繊維体51は、例えば脱脂綿や、不織布、織り布等で構成されており、受け部材40の上面に接触するように配置されている。受け部材40の上面において収容シリンダ20内に臨む部分の全体に繊維体51が設けられている。
【0043】
金属製メッシュ52は、例えばステンレス等の線材によって構成されており、高い強度を有している。金属製メッシュ52は、収容シリンダ20に収容された皮と、受け部材40との間に配置されており、具体的には、繊維体51の上に重なっている。金属製メッシュ52は、繊維体51のほぼ全体を上から覆う形状とされている。このような配置となっていることから、繊維体51は、金属製メッシュ52と受け部材40との間に配置されることになる。
【0044】
濾布53は、皮を包むとともに、液体のみ通過させる布材で構成されている。全ての皮は、濾布53によって包まれており、濾布53の外部には露出しないようになっている。皮を包んだ濾布53は、金属製メッシュ52の上に配置される。濾布53は、例えば木綿の布や不織布等で構成することができる。
【0045】
(ミカン科の植物の果実の精油の抽出方法)
次に、上記のように構成された抽出装置1を用いて精油を抽出する方法について説明する。図6に示すフローチャートのステップS1では、果実を冷凍、または果実の皮(果皮ともいう)を冷凍する。ここで、果実とはミカン科の植物の果実であり、例えば柑橘や山椒の実のことであり、皮とは油胞層を含む皮のことである。ステップS1では、果皮の付いた状態の果実を冷凍してもよいし、果実から皮を剥がし、剥がした皮のみ冷凍してもよい。山椒の場合、実の全てを使用して精油を抽出してもよい。
【0046】
ステップS2では、ステップS1で冷凍された状態の皮(柑橘の皮)を周知のスライサー等(図示せず)によって削る。ステップS1で果実を冷凍している場合には、皮のみを削って以後のステップで利用し、果肉は以後のステップで利用しないので、分別しておく。ステップS2で皮を削ることにより、ステップS3において、果実の内側の皮(内皮)と、果実の外側の皮(油胞層)と分離することができる。内皮は、以後のステップで利用しないので、分別しておく。尚、多少の果肉が皮と一緒に存在していてもよい。
【0047】
ステップS4では、油胞層を圧搾する。この油胞層は濾布53で包んでおく。一方、収容シリンダ20の下端部には、繊維体51及び金属製メッシュ52を収容しておく。その後、濾布53で包んだ油胞層を収容シリンダ20に収容する。これにより、収容シリンダ20の内部で、濾布53、金属製メッシュ52及び繊維体51が積層された状態になり、分離部材50が構成される。このとき、果実によっては、果実全体を収容シリンダ20に収容してもよい。
【0048】
その後、図1に示す油圧ポンプ12bを作動させて作動油をシリンダ部12dに供給する。これにより、ピストン30が下降していき、皮が圧搾される。油胞層が圧搾されると、残渣が濾布53内に残り、精油を含む液体(抽出液)が濾布53を通過して外部に染み出てくる。濾布53の外部に染み出た液体は、金属製メッシュ52を通過して繊維体51に達する。繊維体51に達した液体は、繊維体51を通過して再び濾過されて受け部材40の排出孔44に流入する。排出孔44に流入した液体は、当該排出孔44を下方へ流れて下端開口から外部に流出することになるが、このとき下流端が傾斜面42に開口しているので、傾斜面42を伝って流れることになる。この傾斜面42は中央部が最も下に位置しているので、複数の排出孔44から流出した液体は傾斜面42の中央部で集まり、下方へ滴下する。従って、液体が少量であっても、傾斜面42の中央部に集めることができる。傾斜面42の中央部の真下に例えば容器の開口を配置しておくことで、滴下した液体を開口から容器に容易に入れることができる。これが抽出液を取得するステップS5である。
【0049】
ピストン30で皮を圧搾する際には、皮に対して極めて高い圧力が作用することになる。このとき、仮に分離部材50が無い場合を想定すると、皮の肉の部分が流出孔44からでてしまい、不要物が液体に含まれることになる。また、ピストン30による圧力が徐々に高まっていった時、突然、皮の肉の部分が流出孔44から勢いよく噴出する現象(爆発のような現象)が起こることがある。
【0050】
本実施形態では、収容シリンダ20内に分離部材50を設け、皮を、残渣と、精油を含む液体とに分離して液体のみ通過させるようにしているので、不要物が液体に含まれることは無くなるとともに、爆発現象も起こらなくなる。特に、分離部材50が複層構造とされていて、高強度な金属製メッシュ52を含むとともに、その金属製メッシュ52よりも目が細かく、濾過性能の高い繊維体51を金属製メッシュ52の下に配置しているので、濾布53がピストン30の圧力によって受け部材40の排出孔44から出てしまうのを抑制することができ、上述した爆発現象の抑制効果が高まる。
【0051】
抽出液を取得した後、ステップS6では抽出液の遠心分離を行う。この遠心分離の際には、抽出液を例えば10℃以下、好ましくは6℃以下に冷却しておく。冷却温度は、抽出液の流動性を失わない程度の温度であればよい。遠心分離は、精油を他の成分から分離するための操作であり、従来から周知の遠心分離機を使用することができる。遠心分離の条件についても従来から周知の条件とすることができる。
【0052】
遠心分離の後、ステップS7では精油を収集する。すなわち、遠心分離によって精油層と水層ができており、精油層の精油を例えばスポイトのような吸引器具によって吸引して収集することができる。
【0053】
精油を収集した後、ステップS8では精油を濾過する。この時、濾過精度が例えば0.2μmのフィルタを使用して濾過することができる。濾過精度は0.2μmに限られるものではなく、滅菌効果のある各種フィルタを使用することができる。
【0054】
滅菌濾過後、ステップS9に進み、精油を例えばガラス瓶のような容器に充填する。容器には、食品充填用の窒素も充填しておく。その後、ステップS10では精油が充填された容器を例えば-50℃以下で冷凍する。精油は冷凍した状態で保存してもよいし、冷蔵保存してもよい。また、精油は冷暗所や常温で保存してもよい。
【0055】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、この実施形態によれば、ミカン科の植物の果実の皮を収容シリンダ20に収容した状態で駆動装置12によってピストン30を収容シリンダ20の軸方向他方へ向けて相対的に移動させると、皮に対して圧搾力が作用する。この収容シリンダ20には分離部材50が設けられているので、分離部材50により、皮が、残渣と、精油を含んだ液体とに分離され、精油を含んだ液体のみ分離部材50を通過する。その後、精油を含んだ液体は、受け部材40の排出孔44から排出される。
【0056】
このように、皮を圧搾する際には皮が収容シリンダ20に収容されていて、しかも、ピストン30によって密閉されるので、圧搾の途中で出てくる精油を含む液体が大気に触れにくくなる。これにより、精油の酸化及び精油に含まれる香気成分の揮発が抑制される。
【0057】
加えて、収容シリンダ20及びピストン30によって皮を圧搾する際にはピストン30を1回だけ押し込めばよいので、収容シリンダ20及びピストン30への精油の接触面積は狭くなり、特許文献1のように大量の水に精油が触れること、特許文献2のハンマーミルや特許文献3のローラに精油が触れることに比べて、精油が少量であっても効率よく集めることが可能になる。
【0058】
したがって、本実施形態によれば、少量の果実から効率よく精油を抽出できるとともに、抽出過程における精油の酸化及び香気成分の揮発を抑制して香り豊かな精油を得ることができる。
【0059】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。例えば、ピストン30を固定しておき、収容シリンダ20を上昇させることによって皮や果実全部を圧搾してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上説明したように、本発明に係る精油の抽出装置は、ミカン科の植物の果実を圧搾して精油を得る場合に使用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 精油の抽出装置
12 駆動装置
20 収容シリンダ
30 ピストン
40 受け部材
42 傾斜面
44 排出孔
50 分離部材
51 繊維体
52 金属製メッシュ
53 濾布
図1
図2
図3
図4
図5
図6