(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】機能膜付き基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 15/00 20060101AFI20241009BHJP
C03B 33/07 20060101ALI20241009BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20241009BHJP
H01L 31/18 20060101ALI20241009BHJP
H05B 33/02 20060101ALI20241009BHJP
H05B 33/04 20060101ALI20241009BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20241009BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20241009BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20241009BHJP
【FI】
C03C15/00 Z
C03B33/07
G09F9/30 310
G09F9/30 365
H01L31/04 460
H05B33/02
H05B33/04
H05B33/10
H05B33/14 A
H10K59/10
(21)【出願番号】P 2020179625
(22)【出願日】2020-10-27
【審査請求日】2023-10-23
(73)【特許権者】
【識別番号】509154420
【氏名又は名称】株式会社NSC
(72)【発明者】
【氏名】三好 雄三
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 俊介
【審査官】三村 潤一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-006635(JP,A)
【文献】特開2004-281439(JP,A)
【文献】特開2020-091443(JP,A)
【文献】特開2007-241018(JP,A)
【文献】国際公開第2016/125792(WO,A1)
【文献】特開2018-203584(JP,A)
【文献】特開2004-168584(JP,A)
【文献】特開2011-175061(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00 - 23/00
C03B 33/00 - 33/14
G09F 9/30 - 9/46
H01L 31/18
H05B 33/00 - 33/28
H10K 50/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム電池用素子積層体、有機ELディスプレイ用素子積層体、太陽電池用素子積層体等の積層型機能膜を備えた機能膜付き基板の製造方法であって、複数の積層型機能膜がそれぞれ成膜されている第1の成膜用絶縁性基板および第2の成膜用絶縁性基板を、それらの被成膜面どうしを対向させて近接配置する第1のステップと、近接配置されている前記第1の成膜用絶縁性基板および前記第2の成膜用絶縁性基板の端面間の間隙を耐エッチング性封止部材で封止する第2のステップと、近接配置されている前記第1の成膜用絶縁性基板および前記第2の成膜用絶縁性基板のそれぞれにおける前記被成膜面側の反対側のみをエッチング処理することによって前記第1の成膜用絶縁性基板および前記第2の成膜用絶縁性基板を薄型化する第3のステップと、薄型化された前記第1の成膜用絶縁性基板および前記第2 の成膜用絶縁性基板における被エッチング面に対して
最終製品においてそのまま利用可能な反り防止のための透明樹脂フィルムを貼付する第4のステップと、前記透明
樹脂フィルムを貼付された前記第1の成膜用絶縁性基板および前記第2の成膜用絶縁性基板を分離させる第5のステップと、を少なくとも含む機能膜付き基板の製造方法。
【請求項2】
前記第3のステップにおいて、前記第1の成膜用絶縁性基板および前記第2の成膜用絶縁性基板はガラス基板であり、前記第1の成膜用絶縁性基板および前記第2の成膜用絶縁性基板の厚みが0.1mm以下になるように薄型化することを特徴とする請求項1 に記載の機能膜付き基板の製造方法。
【請求項3】
前記第5のステップにおいて、近接配置されている前記第1の成膜用絶縁性基板および前記第2の成膜用絶縁性基板をまとめてレーザ加工処理によって分断することを特徴とする請求項1または2に記載の機能膜付き基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム電池用素子積層体、有機ELディスプレイ用素子積層体、太陽電池用素子積層体等の積層型機能膜を備えた機能膜付き基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、成膜技術は、リチウム電池の製造工程、太陽電池用パネルの製造工程、有機ELディスプレイパネルの製造工程、半導体製造工程等を含む電気製品の製造にかかわる様々な分野において広く利用されている。このような電気製品の成膜工程においては、通常、処理温度が高温になることが多く、成膜用基板として用いる素材に対して高い耐熱性が要求されることが多かった。
【0003】
このため、成膜用基板として、ガラス、セラミックス、ケイ酸塩鉱物(雲母類等)等の耐熱性を備えた絶縁性基板が用いられることがあった。例えば、リチウム電池においては、ガラス製の成膜用基板に対して電極層を含む複数の素子複合体を成膜する手法が採用されることがあった(例えば、特許文献1参照。)。また、有機ELディスプレイパネルにおいても成膜工程における有機樹脂膜の取扱いを容易にするためにガラス製の成膜用基板を用いるものがあった(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許4465578号
【文献】特開2016-004112号公報
【文献】特開2019-006635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の機能膜付き基板の製造方法においては、さらなる基板の薄型化や製造効率の向上が求められているが、これまでのところ、製造効率の向上の要求に十分応えられている状況とは言えなかった。
【0006】
例えば、製造工程における取扱い上の制限から、成膜用基板が薄い場合には、単個の成膜用基板のそれぞれに対して単一の積層型機能膜を成膜しているケースがほとんどである。
【0007】
一方で、比較的大きなサイズの成膜用基板に複数の電気製品用積層型機能膜を成膜した上で、機能膜付き基板を多面取りするような場合には、成膜用基板として厚板の材料を使用することを余儀なくされていることが多かった。
【0008】
本発明の目的は、成膜用基板の薄型化および製造効率の向上を両立することが可能な機能膜付き基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る機能膜付き基板の製造方法は、リチウム電池用素子積層体、有機ELディスプレイ用素子積層体、太陽電池用素子積層体等の積層型機能膜(例えば、電気製品用積層型機能膜)を備えた機能膜付き基板の製造に関するものであり、以下の第1~第5のステップを含むものである。機能膜付き基板の素材の代表例はガラスであるが、ガラス以外の無機材料(セラミックス、ケイ酸塩鉱物等)を採用することも可能である。
【0010】
第1のステップにおいて、複数の積層型機能膜がそれぞれ成膜されている第1の成膜用絶縁性基板および第2の成膜用絶縁性基板を、それらの被成膜面どうしを対向させて近接配置する。
【0011】
ここで、近接配置とは、第1の成膜用絶縁性基板および第2の成膜用絶縁性基板を直接的に重ねて配置する場合や、第1の成膜用絶縁性基板および第2の成膜用絶縁性基板の間に合紙等の介在物を介在させて間接的に重ねて配置する場合等を含んだ意味に解釈される。
【0012】
合紙が存在する場合、第1の成膜用絶縁性基板および第2の成膜用絶縁性基板の分離がし易くなり、かつ、素子や配線の保護が図られる。
【0013】
第2のステップにおいて、近接配置されている第1の成膜用絶縁性基板および第2の成膜用絶縁性基板の端面間の間隙を耐エッチング性封止部材で封止する。耐エッチング性封止部材としては、耐エッチング性封止剤や耐エッチング性テープや、耐エッチング性フィルム等が挙げられる。
【0014】
第3のステップにおいて、近接配置されている第1の成膜用絶縁性基板および第2の成膜用絶縁性基板のそれぞれにおける被成膜面側の反対側のみをエッチング処理することによって第1の成膜用絶縁性基板および第2の成膜用絶縁性基板を薄型化する。第1の成膜用絶縁性基板および第2の成膜用絶縁性基板に湾曲特性を持たせる場合には、それぞれその板厚が0.05~0.20mm程度(ガラスの場合には板厚0.05~0.10mmがさらに好ましい。)になるように薄型化されることが好ましい。
【0015】
このエッチング処理においては、第1の成膜用絶縁性基板および第2の成膜用絶縁性基板を溶解可能なエッチング液が適宜採用される。成膜用絶縁性基板がガラスの場合には、片面エッチング処理にはフッ酸を含むエッチング液が用いられる。
【0016】
第4のステップにおいては、薄型化された第1の成膜用絶縁性基板および第2の成膜用絶縁性基板における被エッチング面に対して反り防止のための透明樹脂フィルムを貼付する。
【0017】
透明樹脂フィルムは、偏光フィルム、タッチパネルフィルム、表面保護フィルムのように第1の成膜用絶縁性基板および第2の成膜用絶縁性基板から剥離する必要がないフィルムであることが好ましい。
【0018】
続いて、第5のステップにおいて、透明樹脂フィルムを貼付された第1の成膜用絶縁性基板および第2の成膜用絶縁性基板を分離させる。
【0019】
これらの第1~第5のステップをこの順に行うことにより、複数の積層型機能膜を保護しつつ、複数の積層型機能膜を有する成膜用絶縁性基板を同時に薄型化可能になる。
【0020】
このため、一度に複数の機能膜付き基板を製造することが可能になり、しかも機能膜付き基板の薄型化も実現することが可能になる。特に2枚の成膜用絶縁性基板を同時に処理可能であるため生産性の向上を図り易い。
【0021】
ただし、第1の成膜用絶縁性基板および第2の成膜用絶縁性基板が分離すると、第1の成膜用絶縁性基板および第2の成膜用絶縁性基板の厚みが非常に薄く(例えば、厚み0.1mm以下)、剛性が小さい場合において、被成膜面側において積層型機能膜から第1の成膜用絶縁性基板および第2の成膜用絶縁性基板に対してそれぞれ加えられる力によって、第1の成膜用絶縁性基板および第2の成膜用絶縁性基板が湾曲(カール)するリスクがあった。
【0022】
これに対して、本願発明においては、透明樹脂フィルムが縮もうとする力を第1の成膜用絶縁性基板および第2の成膜用絶縁性基板に加えることによって、被成膜面側において積層型機能膜から第1の成膜用絶縁性基板および第2の成膜用絶縁性基板に対してそれぞれ加えられる力によって、第1の成膜用絶縁性基板および第2の成膜用絶縁性基板が湾曲(カール)することが抑制される。
【0023】
また、上述の機能膜付き基板の製造方法の第3のステップにおいて、第1の成膜用絶縁性基板および第2の成膜用絶縁性基板はガラス基板であり、第1の成膜用絶縁性基板および第2の成膜用絶縁性基板の厚みが0.1mm以下になるように薄型化することが好ましい。
【0024】
さらに、上述の第5のステップにおいて、近接配置されている第1の成膜用絶縁性基板および第2の成膜用絶縁性基板をまとめてレーザ加工処理によって分断することが好ましい。
【0025】
その理由は、薄型化された第1の成膜用絶縁性基板および第2の成膜用絶縁性基板はレーザ加工処理によって分断しやすくなっているからである。また、レーザ加工処理を適切に行うことによって、第1の成膜用絶縁性基板および第2の成膜用絶縁性基板とともに、合紙や透明樹脂フィルムも同時に切断することも可能である。
【発明の効果】
【0026】
この発明によれば、リチウム電池用素子積層体、有機ELディスプレイ用素子積層体、太陽電池用素子積層体等の積層型機能膜を備えた機能膜付き基板の製造において、成膜用基板の薄型化および製造効率の向上を両立することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態に係る成膜用基板の概略構成を示す図である。
【
図2】2枚の成膜用基板を重ね合わせた状態の一例を示す概略図である。
【
図3】2枚の成膜用基板を重ね合わせた状態の一例を示す概略図である。
【
図4】成膜用基板に対する片面エッチング処理に用いるエッチング装置の一例を示す図である。
【
図5】成膜用基板に対する分断処理の一例を示す図である。
【
図6】成膜用基板に対する分断処理の一例を示す図である。
【
図7】超薄型化された成膜用基板が湾曲する状態を示す概略図である。
【
図8】成膜用基板に透明樹脂フィルムを適用した状態を示す図である。
【
図9】成膜用基板に透明樹脂フィルムを適用した状態を示す図である。
【
図10】2枚の成膜用基板を重ね合わせた状態の他の例を示す概略図である。
【
図11】成膜用基板に対する分断処理の他の例を示す図である。
【
図12】本発明のさらに別の実施形態の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図を用いて、本発明に係る機能膜付き基板の製造方法の一実施形態を説明する。ここでは、本発明に係る機能膜付き基板の製造方法の一例として、有機ELディスプレイ用素子積層体からなる積層型機能膜が付けられた基板を製造する方法を説明する。
【0029】
図1(A)~
図1(C)は、機能膜付き基板の一実施形態に係る有機ELディスプレイの製造工程における成膜用ガラス基板10(本発明の機能膜付基板に対応。)の概略構成を示している。
【0030】
この実施形態においては、機能膜付き基板の素材としてガラスが採用されているがガラス以外にも絶縁性基板シリコン(Si)、二酸化ケイ素(SiO2 )、セラミックス、ケイ酸塩鉱物(雲母類等)等のように、耐熱性を備えた絶縁性基板であってフッ酸を含むエッチング液等によって溶解可能な基板であれば、適宜これを成膜用基板として採用することが可能である。
【0031】
成膜用ガラス基板10には、有機ELディスプレイ用素子積層体12が複数形成されている。この実施形態では、有機ELディスプレイ用素子積層体12を4行×4列のマトリクス状に配置して16個の有機ELディスプレイ用素子積層体12を形成する例を示しているが、有機ELディスプレイ用素子積層体12の配置はこれに限定されるものではない。
【0032】
個々の有機ELディスプレイ用素子積層体12は、成膜用ガラス基板10上に形成された、正極層122、有機EL素子層124、および負極層126を備えている。
【0033】
正極層122、有機EL素子層124、および負極層126は、公知の技術、例えば、真空蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法、もしくはスパッタリング等の乾式成膜法、または電解めっき法もしくは無電解めっき法等の湿式成膜法によって、成膜用ガラス基板10上に順次形成される。
【0034】
有機ELディスプレイ用素子積層体12が付いた成膜用ガラス基板10を製造する際には、まず、
図2(A)および
図2(B)に示すように、複数の有機ELディスプレイ用素子積層体12が成膜されている成膜用ガラス10を2枚準備して、これら2枚の成膜用ガラス基板10を、それらの被成膜面どうしを対向させた状態で重ね合わせる。
【0035】
2枚の成膜用ガラス基板10を重ね合わせる際には、合紙等を間に挟んで間接的に接触するように重ね合わせる場合と、合紙等を介在させずに直接接触するように重ね合わせることが考えられる。
【0036】
図3(A)~
図3(D)では、合紙14を間に挟んで間接的に成膜用ガラス基板10を重ね合わせる例を示している。ここでは、合紙14としてFPD用合紙(例えば、特種東海製紙株式会社製)等の高機能なものを利用しているが、通常のプリント用紙やフィルム等を用いることも可能である。合紙14を用いる目的としては、配線や素子の保護、成膜用ガラス基板10どうしの剥離性の向上等が挙げられる。
【0037】
図3(B)に示すように、合紙14を挟んで2枚の成膜用ガラス基板10が重ねられると、続いて、
図3(C)に示すように、2枚の成膜用ガラス基板10の端面間の間隙を耐エッチング性封止部材16で封止される。
【0038】
耐エッチング性封止部材16は、2枚の成膜用ガラス基板10を接着する接着剤の機能と封止剤の機能を併せ持つもの(液晶セルのシール剤等)が好ましい。ただし、2枚の成膜用ガラス基板10を接着するための接着剤層とシール剤とを別々に設けるようにしても良い。
【0039】
2枚の成膜用ガラス基板10の端面間の間隙を耐エッチング性封止部材16によって封止するだけでは、成膜用ガラス基板10の端面がエッチングされ、これによって不具合が発生する可能性が考えられる。このため、端面間の間隙だけでなく、必要に応じて端面自体も耐エッチング性部材によって被覆すると良い。
【0040】
成膜用ガラス基板10の端面の被覆は、耐エッチング性テープもしくはフィルムの貼付や耐エッチング性塗料の塗布等によって行うことが可能である。耐エッチング性フィルムの一例として、株式会社スミロン製の各種エレクトロニクス用フィルム(例:ECシリーズ)が挙げられる。また、耐エッチング性封止剤の一例として、デンカ株式会社製の接着剤ソリューション(例:テンプロック)が挙げられる。
【0041】
続いて、
図3(D)に示すように、合紙14を挟んで重ねあわされている2枚の成膜用ガラス基板10における被成膜面側の反対側のみをエッチング処理することによって、2枚の成膜用ガラス基板10が薄型化される。
【0042】
この実施形態では、16個の有機ELディスプレイ用素子積層体12が成膜されている成膜用ガラス基板10を、片面エッチング処理によって、0.50~1.00mm程度から0.03~0.10mm程度まで薄型化する。ガラス部材であっても0.10mm以下まで薄型化することによって湾曲可能になる。このため、フレキシブル性が要求される製品に対して成膜用ガラス基板10を用いることが可能になる。
【0043】
片面エッチング処理においては、
図4(A)に示すように、成膜用ガラス基板10は、エッチング装置50に導入され、フッ酸および塩酸等を含むエッチング液によってエッチング処理が施される。エッチング装置50では、搬送ローラによって成膜用ガラス基板10を搬送しつつ、エッチングチャンバ52内で成膜用ガラス基板10の片面にエッチング液を接触させることによって、成膜用ガラス基板10に対する片面エッチング処理が行われる。
【0044】
なお、エッチング装置50におけるエッチングチャンバ52の後段には、成膜用ガラス基板10に付着したエッチング液を洗い流すための洗浄チャンバが設けられているため、成膜用ガラス基板10はエッチング液が取り除かれた状態でエッチング装置50から排出される。
【0045】
成膜用ガラス基板10にエッチング液を接触させる手法の一例として、
図4(A)に示すように、エッチング装置50の各エッチングチャンバ52において、成膜用ガラス基板10に対してエッチング液をスプレイするスプレイエッチングが挙げられる。
【0046】
また、スプレイエッチングに代えて、
図4(B)に示すように、オーバーフロー型のエッチングチャンバ54において、オーバーフローしたエッチング液に接触しながら成膜用ガラス基板10が搬送される構成を採用することも可能である。
【0047】
さらには、
図4(C)に示すように、エッチング液が収納されたエッチング槽56に、キャリアに収納された単数または複数の成膜用ガラス基板10を浸漬されるディップ式のエッチングを採用することも可能である。
【0048】
いずれの場合であっても、エッチング液に含まれるフッ酸の濃度に応じてエッチングレートが増減するため、エッチング量に応じてフッ酸濃度を1重量%~15重量%程度の範囲で最適な濃度に設定することが重要である。成膜用ガラス基板10がエッチング装置50を通過すると、成膜用ガラス基板10が片面エッチング処理されて薄型化する。
【0049】
片面エッチングステップの後の剥離ステップにおいては、
図5(A)~
図5(D)に示すように、薄型化された2枚の成膜用ガラス基板10が剥離される。まず、
図5(A)および
図5(B)に示すように、耐エッチング性封止部材16との接触箇所を含む、成膜用ガラス基板10の辺縁部の切り離しが行われる。成膜用ガラス基板10の辺縁部の切り離しは、例えば、レーザビームを照射するレーザ切断加工を行うと良い。
【0050】
成膜用ガラス基板10の辺縁部が切り離されると、
図5(C)および
図5(D)に示すように、2枚の成膜用ガラス基板10および合紙14が分離する。2枚の成膜用ガラス基板10および合紙14の分離に引き続いて、薄型化された成膜用ガラス基板10を分断する分断ステップが実行される。
【0051】
分断ステップにおいては、
図6(A)および
図6(B)に示すように、成膜用ガラス基板10に形成された複数の有機ELディスプレイ用素子積層体12が単個に分離されるように成膜用ガラス基板10が分断される。
【0052】
成膜用ガラス基板10は薄型化されているため、レーザビームを照射してアブレーション処理またはフィラメンテーション処理等を行うことによって分断することが可能である。レーザ加工以外にも、スクレイブブレーク処理やエッチング処理等によっても分断することが可能である。
【0053】
上述のような手法によって、成膜用ガラス基板10を、2枚同時に、0.10mm以下まで薄型化することが可能になる。つまり、成膜用ガラス基板10の超薄型化および製造の効率化を同時に実現することが可能になる。
【0054】
ただし、成膜用ガラス基板10の超薄型化に伴い、成膜用ガラス基板10の剛性がなくなる結果として、2枚の成膜用ガラス基板10を分離したときに、
図7(A)~
図7(C)に示すように、成膜用ガラス基板10が湾曲(カール)するという不都合が発生することがあった。
【0055】
その理由は、成膜用ガラス基板10に対して、成膜された有機ELディスプレイ用素子積層体12から加えられる力(通常は、成膜部分が縮もうとすることによって成膜面側に発生する圧縮応力に起因する力)に対抗する程度の剛性が、成膜用ガラス基板10の超薄型化によって小さくなるからである。
【0056】
そこで、以下、
図8および
図9を用いて、成膜用ガラス基板10の超薄型化時における湾曲(カール)対策について説明する。
【0057】
図8(A)は、上述のエッチング処理によって厚みが0.10mm以下になるように超薄型化された成膜用ガラス基板10を示している。成膜用ガラス基板10は、既に成膜部分からの力に対抗するための剛性を喪失しているが、2枚の成膜用ガラス基板10が貼り合わされていることによって、どうにか力のバランスが保たれている。
【0058】
図8(B)では、2枚の成膜用ガラス基板10が貼り合わされた状態において、矯正用の透明樹脂フィルム18を成膜用ガラス基板10の被エッチング面にそれぞれ貼付している。
【0059】
通常、透明樹脂フィルム18は、加熱しつつ成膜用ガラス基板10に貼り付けられる。透明樹脂フィルム18は、熱収縮性の性質を有していることが好ましい。熱が冷める際に、樹脂はガラスよりも放熱に伴って縮小し易いため、透明樹脂フィルム18を貼付した面側に、有機ELディスプレイ用素子積層体12から加えられる力に対抗する力が生じることになる。
【0060】
透明樹脂フィルム18の例としては、偏光フィルムが挙げられる。偏光フィルム以外でも、タッチパネルフィルムや表面保護フィルム等、成膜用ガラス基板10が適用される最終製品においてそのまま利用可能なフィルムを用いることも可能である。
【0061】
通常、偏光フィルムはポリビニルアルコールにヨウ素を添加した偏光層と、ポリビニルアルコールを保護する透明フィルムである保護層と、基板に貼り付けるための粘着層等の複数層が積層状態で構成されている。
【0062】
つまり、この積層構造の中に熱収縮性の透明フィルム部材を含んでいる偏光フィルムであれば、どのような偏光フィルムでも構わない。熱収縮性を有する透明フィルムとしては、成膜用ガラス基板10に対して作用させるべき力の方向に沿って延伸させた延伸フィルムを用いることができる。
【0063】
例えば、アクリル系フィルム、ポリカーボネート系フィルム、塩化ビニル系フィルム、ポリイミド系フィルム、ポリプロピレン系フィルム、ポリエステル系フィルムを延伸させたものを使用することができる。
【0064】
透明樹脂フィルム18は、公知の貼り付け装置によって2枚の成膜用ガラス基板10に貼り付けられる。透明樹脂フィルム18の厚みは、成膜用ガラス基板10に作用させるべき力の大きさに応じて適宜決めると良く、一般的には、50~500μm程度の範囲の厚みを採用すると良い。
【0065】
透明樹脂フィルム18に50μm以上の厚みがなければ、加熱時の熱収縮力が十分ではないため、成膜用ガラス基板10の湾曲防止効果は限定的である。一方で、500μm以上の厚みがあると、成膜用ガラス基板10を適用する最終製品のコンパクト化を阻害するリスクが発生する。
【0066】
成膜用ガラス基板10に対して透明樹脂フィルム18を貼り付ける手法としては、従来のものを用いることが可能である。成膜用ガラス基板10における被エッチング処理面全体に対してベタ貼りしても良いし、最終製品の基板として利用される複数の領域に対応する位置にのみ貼っても良い。
【0067】
最終製品の基板として利用される複数の領域に対応する位置にのみ貼付する場合には、例えば、貼り付け用のローラの周面の所定位置にセットした複数の透明樹脂フィルム18を、このローラに接するように搬送される成膜用ガラス基板10に対してオフセットさせるようにしても良い。
【0068】
ここで、透明樹脂フィルム18を加熱する手段の例として、オートクレーブを用いることが挙げられる。
【0069】
オートクレーブは、高温・高圧の槽内に成膜用ガラス基板10を投入することで、透明樹脂フィルム18の貼り付け時に発生したガラス基板と偏光フィルムの間の気泡を除去するための装置である。
【0070】
透明樹脂フィルム18の加熱温度はオートクレーブ内で調整可能である。オートクレーブの加熱槽内に複数の加熱ヒーターを設置しておけば、それらの加熱温度を調整することにより、所望の温度で偏光フィルムを加熱することが可能である。
【0071】
また、オートクレーブ内の加熱温度は、60℃以上100℃以下に調整することが好ましい。100℃以上で加熱すると透明樹脂フィルム18の特性が維持できなくなる。また、60℃以下で加熱すると、透明樹脂フィルム18の熱収縮力が小さくなるため、成膜用ガラス基板10をフラットに保つことが難しくなる。
【0072】
成膜用ガラス基板10に透明樹脂フィルム18を適用することによって、成膜用ガラス基板10の分離後において、成膜用ガラス基板10の表裏のバランスをとることが可能になり、成膜用ガラス基板10の湾曲(カール)の発生が防止される。
【0073】
しかも、透明樹脂フィルム18は偏光フィルムとしてそのまま最終製品において利用可能であるため、成膜用ガラス基板10から剥離する必要がない。このため、製造プロセスを複雑化することなく、効率的に成膜用ガラス基板10の超薄型化や、その際の湾曲(カール)の発生防止が可能になる。
【0074】
続いて、
図10および
図11を用いて、2枚の成膜用ガラス基板10を上述した合紙等を介在させずに直接接触するように重ね合わせる例を説明する。
図10(B)に示すように、上述の合紙14を挟まずに2枚の成膜用ガラス基板10が重ねられると、続いて、
図10(C)に示すように、2枚の成膜用ガラス基板10の端面間の間隙を耐エッチング性封止部材16で封止される。
【0075】
上述の
図3の構成と同様、耐エッチング性封止部材16は、2枚の成膜用ガラス基板10を接着する接着剤の機能と封止剤の機能を併せ持つもの(液晶セルのシール剤等)が好ましい。ただし、2枚の成膜用ガラス基板10を接着するための接着剤層とシール剤とを別々に設けるようにしても良い。
【0076】
上述と同様に、2枚の成膜用ガラス基板10の端面間の間隙だけでなく、必要に応じて端面自体も耐エッチング性部材によって被覆することが好ましい。成膜用ガラス基板10の端面の被覆は、耐エッチング性テープもしくはフィルムの貼付や耐エッチング性塗料の塗布等によって行うことが可能である。
【0077】
耐エッチング性フィルムの一例として、株式会社スミロン製の各種エレクトロニクス用フィルム(例:ECシリーズ)が挙げられる。また、耐エッチング性封止剤の一例として、デンカ株式会社製の接着剤ソリューション(例:テンプロック)が挙げられる。
【0078】
続いて、
図11(A)に示すように、2枚の成膜用ガラス基板10における被成膜面側の反対側のみをエッチング処理することによって、2枚の成膜用ガラス基板10が薄型化される。
【0079】
そして、
図11(B)に示すように、薄型化された2枚の成膜用ガラス基板10をまとめてレーザ加工処理によって分断する。この分断処理によって、
図11(C)に示すように、2枚の成膜用ガラス基板10どうしが同時に分離することになる。
【0080】
図11(B)に示した2枚の成膜用ガラス基板10をまとめてレーザ加工処理によって分断する処理は、一般的に上述した合紙14が存在しない方が行い易い。ただし、レーザビームを通過させ易い特性の合紙14(例えば、透明性の高い合紙等)を用いる場合には、合紙14の存在下においても
図11(B)に示すような分断処理を行うことが可能である。
【0081】
さらには、
図12(A)~
図12(C)に示すように、耐エッチング性封止部材16に代えて、または耐エッチング性封止部材16とともに、耐エッチング性テープ22を用いて、成膜用ガラス基板10の端面および端面近傍を被覆しても良い。
【0082】
この場合、耐エッチング性テープ22の貼り付け位置がエッチングされずに額縁状の厚板部が形成されるが、この厚板部の内側を適宜切断することによって問題なく有機ELディスプレイ用素子積層体12が付いた成膜用ガラス基板10を得ることができる。
【0083】
なお、額縁状の厚板部は、薄型化された成膜用ガラス基板10のコシの強さを維持することに貢献するため、成膜用ガラス基板10の取扱いが容易になるというメリットもある。
【0084】
上述の機能膜付き基板の製造方法においては、積層型機能膜が有機ELディスプレイ用素子積層体である例のみを説明したが、有機ELディスプレイ用素子積層体以外のリチウム電池用素子の複合体や太陽電池用素子積層体等の積層型機能膜であっても上述と同様の方法によって処理することが可能である。
【0085】
上述の実施形態によれば、単一の機能膜付き基板の製造するのではなく、複数の機能膜付き基板を同時に製造することが可能になるため、機能膜付き基板の製造効率を向上させることが可能になる。しかも、複数の積層型機能膜が付いている基板を適正に薄型化することが可能になるため、成膜用基板の薄型化および製造効率の向上を両方同時に実現することが可能になる
【0086】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0087】
10-成膜用基板
12-有機ELディスプレイ用素子積層体
14-合紙
16-耐エッチング性封止部材
18-透明樹脂フィルム
22-耐エッチング性テープ