(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】電波伝搬推定システム、電波伝搬推定方法および生成部の製造方法
(51)【国際特許分類】
H04B 17/391 20150101AFI20241009BHJP
H04B 17/309 20150101ALI20241009BHJP
H04W 16/18 20090101ALI20241009BHJP
【FI】
H04B17/391
H04B17/309
H04W16/18 110
(21)【出願番号】P 2020204831
(22)【出願日】2020-12-10
【審査請求日】2023-11-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 坂内信允及び須藤克弥、「深層生成モデルによる電波伝搬推定手法に関する一考察」、2020年ソサイエティ大会講演論文集、B-17-20、306頁、電子情報通信学会、令和2年9月1日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 坂内信允及び須藤克弥、「Spatial Extrapolation with Generative Adversarial Networks for Radio Map Construction」、Proceedings of 2020 International Conference on Emerging Technologies for Communications、1頁、The Institute of Electronics,Information and Communication Engineers、令和2年12月2日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 坂内信允及び須藤克弥、「3次元地図を利用した深層生成モデルによる電波マップ構築手法」、電子情報通信学会技術研究報告、120巻、238号、114-119頁、電子情報通信学会、令和2年11月11日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度 総務省「異システム間の周波数共用技術の高度化に関する研究開発」委託研究 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】100205350
【氏名又は名称】狩野 芳正
(74)【代理人】
【識別番号】100117617
【氏名又は名称】中尾 圭策
(72)【発明者】
【氏名】須藤 克弥
(72)【発明者】
【氏名】坂内 信允
【審査官】後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-253446(JP,A)
【文献】特開2019-122008(JP,A)
【文献】特開2019-140585(JP,A)
【文献】特開2005-020500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 17/391
H04B 17/309
H04W 16/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の地域に含まれる第1地域に存在する構造物の平面空間情報を表す構造物マップデータに基づいて、所定の送信局から送信される無線信号を前記第1地域に含まれる複数の第1地点のそれぞれで受信した受信電力の変動のうち、前記構造物に由来すると推定される成分を表す短区間変動マップデータを生成する第1推定手段と、
前記所定の地域に含まれ前記第1地域とは別の第2地域に含まれる複数の第2地点で前記無線信号の受信電力を観測した第2地域電波マップデータに基づいて、前記複数の第1地点で受信した前記受信電力の変動のうち、前記所定の送信局から前記複数の第1地点までの距離に由来すると推定される成分を表す距離減衰マップデータを生成する単回帰分析部と、
前記短区間変動マップデータと、前記距離減衰マップデータとに基づいて、前記無線信号を前記複数の第1地点で受信した前記受信電力の変動を補外推定した第1地域電波マップデータを生成する加算器と、
前記第1地域電波マップデータを外部に出力する出力装置と
を備え、
前記第1推定手段は、
前記第2地域電波マップデータに基づく前記第2地域の第1分割短区間変動マップデータと、前記第2地域に存在する構造物の平面空間情報を表す第2地域構造物マップデータに基づく前記第2地域の第2分割短区間変動マップデータとの相関性に基づく機械学習を実施され、前記複数の第1地点のそれぞれの前記構造物マップデータに基づいて前記複数の第1地点のそれぞれの前記短区間変動マップデータを生成する第1生成部
を備える
電波伝搬推定システム。
【請求項2】
請求項1に記載の電波伝搬推定システムにおいて、
前記第1推定手段は、
未観測地域構造物マップデータに基づいて前記複数の第1地点にそれぞれ対応する複数の分割構造物マップデータを生成するデータ拡張部
をさらに備え、
前記第1生成部は、前記複数の分割構造物マップデータに基づいて前記複数の第1地点にそれぞれ対応する複数の分割短区間変動マップデータを生成し、
前記第1推定手段は、
複数の分割短区間変動マップデータに基づいて未観測地域短区間変動マップデータを生成するマップデータ統合部
をさらに備える
電波伝搬推定システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電波伝搬推定システムにおいて、
前記第1生成部に前記機械学習を実施する学習手段
をさらに備え、
前記学習手段は、
前記無線信号を前記複数の第2地点のそれぞれで受信した受信電力の分布を観測した第2地域電波マップデータに基づいて、前記所定の送信局から前記複数の第2地点のそれぞれまでの距離に由来する前記受信電力の減衰以外の前記受信電力の変動をそれぞれ表す複数の第1分割短区間変動マップデータを生成する第1学習手段と、
前記第2地域構造物マップデータに基づいて、前記複数の第2地点に存在する前記構造物に由来する前記受信電力の変動をそれぞれ表す複数の第2分割短区間変動マップデータを、第1パラメータを用いて生成する第2学習手段と、
前記複数の第1分割短区間変動マップデータと前記複数の第2分割短区間変動マップデータの判別を、第2パラメータを用いて行う判別部と、
前記判別の結果を表す数値が所定の閾値に達するまで、前記数値が前記閾値に達するように前記第1パラメータを更新し、前記数値が前記閾値に達しないように前記第2パラメータを更新する判定部と
を備え、
前記第2学習手段は、更新された前記第1パラメータを用いて前記複数の第2分割短区間変動マップデータを生成し、
前記判別部は、更新された前記第2パラメータを用いて前記判別を行い、
前記判定部は、前記判別の結果が前記閾値に達したとき、前記第1パラメータを、前記第1生成部のパラメータとして使用可能に保存する
電波伝搬推定システム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の電波伝搬推定システムにおいて、
前記構造物マップデータが表す前記構造物の前記平面空間情報は、前記構造物の高度、前記構造物が存在する地点の高度、前記送信局から前記構造物が存在する受信地点までの平面的な距離、前記送信局から前記受信地点までの平均高度、前記送信局と前記受信地点の間に存在する他の構造物の最高高度、前記受信地点から最も近い前記他の構造物の高度、前記受信地点から最も近い前記他の構造物までの平面的な距離、および、前記受信地点の周囲に存在する前記他の構造物の平均高度のうち、少なくとも1つを含む
電波伝搬推定システム。
【請求項5】
所定の地域に含まれる第1地域に存在する構造物の平面空間情報を表す構造物マップデータに基づいて、所定の送信局から送信される無線信号を前記第1地域に含まれる複数の第1地点のそれぞれで受信した受信電力の変動のうち、前記構造物に由来すると推定される成分を表す短区間変動マップデータを生成することと、
前記所定の地域に含まれ前記第1地域とは別の第2地域に含まれる複数の第2地点で前記無線信号の受信電力を観測した第2地域電波マップデータに基づいて、前記複数の第1地点で受信した受信電力の変動のうち、前記所定の送信局から前記複数の第1地点までの距離に由来すると推定される成分を表す距離減衰マップデータを生成することと、
前記短区間変動マップデータと、前記距離減衰マップデータとに基づいて、前記無線信号を前記複数の第1地点で受信した前記受信電力の変動を補外推定した第1地域電波マップデータを生成することと、
前記第1地域電波マップデータを外部に出力することと
を含み、
前記短区間変動マップデータを生成することは、
前記第2地域電波マップデータに基づく前記第2地域の第1分割短区間変動マップデータと、前記第2地域に存在する構造物の平面空間情報を表す第2地域構造物マップデータに基づく前記第2地域の第2分割短区間変動マップデータとの相関性に基づく機械学習を実施された生成部が、前記第1地域の前記構造物マップデータに基づいて前記第1地域の前記短区間変動マップデータを生成すること
を含む
電波伝搬推定方法。
【請求項6】
所定の送信局から送信される無線信号を所定の観測地域に含まれる複数の地点のそれぞれで受信した受信電力の分布を観測した電波マップデータに基づいて、前記所定の送信局から前記所定の観測地域に含まれる複数の部分領域のそれぞれまでの距離に由来する前記受信電力の減衰以外の前記受信電力の変動をそれぞれ表す複数の第1観測地域分割短区間変動マップデータを生成することと、
第1パラメータを有する生成部によって、前記所定の観測地域に存在する構造物の平面空間情報を表す観測地域構造物マップデータに基づいて、前記複数の部分領域に存在する前記構造物に由来する前記受信電力の変動をそれぞれ表す複数の第2観測地域分割短区間変動マップデータを生成することと、
第2パラメータを有する判別部によって、前記複数の第1観測地域分割短区間変動マップデータと前記複数の第2観測地域分割短区間変動マップデータの判別を行うことと、
前記判別の結果を表す数値が所定の閾値に達するまで、前記数値が前記閾値に達するように前記第1パラメータを更新し、更新された前記第1パラメータを用いて前記複数の第2観測地域分割短区間変動マップデータを生成し、前記数値が前記閾値に達しないように前記第2パラメータを更新し、更新された前記第2パラメータを用いて前記判別を行うことと、
前記判別の結果が前記閾値に達したとき、前記第1パラメータを、機械学習を実施した生成部のパラメータとして外部の推定手段で使用可能に保存することと
を含む
生成部の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の送信局から送信される無線信号を所定の地域において受信する電力の分布である電波伝搬特性を補外推定するための電波伝搬推定システム、電波伝搬推定方法および生成部の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯端末やセンサを電波環境観測端末として利用したクラウドセンシングによる空間的な電波伝搬推定の実現が次世代の無線システムや位置推定システムで望まれている。しかしながら、携帯端末やセンサが観測できない地域や、ノイズフロア以下の受信電力値である地域における観測情報を取得できない。観測情報が全くない地域の電波伝搬を推定することを補外推定と呼称する。他方、携帯端末やセンサが部分的に存在し、観測情報が歯抜けで取得できる場合に、歯抜けの点の電波伝搬を推定することを補間推定と呼称する。
【0003】
上記に関連して、特許文献1(特開2019-080144号公報)には、無線環境状況予測システムが開示されている。この無線環境状況予測システムは、空間内の所定の位置である第1地点の無線環境状況を予測するためのものである。この無線環境状況予測システムは、送信部と、受信部と、チャネル利用状況観測部と、チャネル状態データ取得部と、予測部と、を備える。ここで、送信部は、データに対して送信処理を実行することで無線信号を生成する。受信部は、無線信号に対して受信処理を実行することで当該無線信号により搬送されたデータを取得する。チャネル利用状況観測部は、送信部および受信部の少なくとも一方を制御することで、無線信号の通信に使用されるチャネルの利用状況を観測する。チャネル状態データ取得部は、送信部、受信部、および、チャネル利用状況観測部の少なくとも一つにより取得された信号に基づいて、第1期間において第1地点のチャネル状態に関する第1データと、第1データと相関のある第2データとを取得する。予測部は、第1データおよび第2データに基づいて、第1地点の第1データの将来のデータを予測するとともに、第1データおよび第2データに基づいて、第1地点の前記第2データの将来のデータを予測する予測処理を行う。
【0004】
特許文献1では、距離減衰を推定することを目的として、送信点・受信点間の距離を特徴量とした回帰分析が検討されているが、近傍の構造物に左右され電力値が変動する短区間変動を推定することはできていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
所定の送信局から送信される無線信号を所定の地域において受信する電力の分布である電波伝搬特性の補外推定を、より高い精度で行うための電波伝搬推定システム、電波伝搬推定方法および生成部の製造方法を提供する。その他の課題と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下に、(発明を実施するための形態)で使用される番号を用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号は、(特許請求の範囲)の記載と(発明を実施するための形態)との対応関係を明らかにするために付加されたものである。ただし、それらの番号を、(特許請求の範囲)に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0008】
一実施の形態によれば、電波伝搬推定システム(1)は、第1推定手段(311、312、313)と、単回帰分析部(314)と、加算器(315)と、出力装置(5)とを備える。第1推定手段(311、312、313)は、所定の地域に含まれる第1地域(9)に存在する構造物の平面空間情報を表す構造物マップデータ(90)に基づいて、所定の送信局から送信される無線信号を第1地域(9)に含まれる複数の第1地点(92)のそれぞれで受信した受信電力の変動のうち、構造物に由来すると推定される成分を表す短区間変動マップデータ(93)を生成する。単回帰分析部(314)は、所定の地域に含まれ第1地域(9)とは別の第2地域(8)に含まれる複数の第2地点で無線信号の受信電力を観測した第2地域電波マップデータ(84)に基づいて、複数の第1地点(92)で受信した受信電力の変動のうち、所定の送信局から複数の第1地点(92)までの距離に由来すると推定される成分を表す距離減衰マップデータ(96)を生成する。加算器(315)は、短区間変動マップデータ(93)と、距離減衰マップデータ(96)とに基づいて、無線信号を複数の第1地点(92)で受信した受信電力の変動を補外推定した第1地域電波マップデータ(97)を生成する。出力装置(5)は、第1地域電波マップデータ(97)を外部に出力する。第1推定手段(311、312、313)は、第1生成部(312)を備える。第1生成部(312)は、第2地域電波マップデータ(84)に基づく第2地域(8)の第1分割短区間変動マップデータと、第2地域(8)に存在する構造物の平面空間情報を表す第2地域構造物マップデータ(80)に基づく第2地域(8)の第2分割短区間変動マップデータとの相関性に基づく機械学習を実施され、複数の第1地点(92)のそれぞれの構造物マップデータ(90)に基づいて複数の第1地点(9)のそれぞれの短区間変動マップデータを生成する。
【0009】
一実施の形態によれば、電波伝搬推定方法は、所定の地域に含まれる第1地域(9)に存在する構造物の平面空間情報を表す構造物マップデータ(90)に基づいて、所定の送信局から送信される無線信号を第1地域(9)に含まれる複数の第1地点(92)のそれぞれで受信した受信電力の変動のうち、構造物に由来すると推定される成分を表す短区間変動マップデータ(93)を生成すること(S11、S12、S13)と、所定の地域に含まれ第1地域(9)とは別の第2地域(8)に含まれる複数の第2地点で無線信号の受信電力を観測した第2地域電波マップデータ(84)に基づいて、複数の第1地点(92)で受信した受信電力の変動のうち、所定の送信局から複数の第1地点(92)までの距離に由来すると推定される成分を表す距離減衰マップデータ(96)を生成すること(S14)とを含む。電波伝搬推定方法は、さらに、短区間変動マップデータ(93)と、距離減衰マップデータ(96)とに基づいて、無線信号を複数の第1地点(92)で受信した受信電力の変動を補外推定した第1地域電波マップデータ(97)を生成すること(S15)と、第1地域電波マップデータ(97)を外部に出力すること(S16)とを含む。短区間変動マップデータを生成すること(S11、S12、S13)は、第2地域電波マップデータ(84)に基づく第2地域(8)の第1分割短区間変動マップデータと、第2地域(8)に存在する構造物の平面空間情報を表す第2地域構造物マップデータ(80)に基づく第2地域(8)の第2分割短区間変動マップデータとの相関性に基づく機械学習を実施された生成部(312)が、第1地域(9)の構造物マップデータ(90)に基づいて第1地域(9)の短区間変動マップデータを生成すること(S12)を含む。
【0010】
一実施の形態によれば、生成部の製造方法は、所定の送信局から送信される無線信号を所定の観測地域(8)に含まれる複数の地点のそれぞれで受信した受信電力の分布を観測した電波マップデータ(84)に基づいて、所定の送信局から所定の観測地域(8)に含まれる複数の部分領域のそれぞれまでの距離に由来する受信電力の減衰以外の受信電力の変動をそれぞれ表す複数の第1観測地域分割短区間変動マップデータを生成すること(S21)と、第1パラメータを有する生成部(324)によって、所定の観測地域(8)に存在する構造物の平面空間情報を表す観測地域構造物マップデータ(80)に基づいて、複数の部分領域に存在する構造物に由来する受信電力の変動をそれぞれ表す複数の第2観測地域分割短区間変動マップデータを生成すること(S22)を含む。生成部の製造方法は、さらに、第2パラメータを有する判別部(325)によって、複数の第1観測地域分割短区間変動マップデータと複数の第2観測地域分割短区間変動マップデータの判別を行うこと(S23)を含む。生成部の製造方法は、さらに、判別の結果を表す数値が所定の閾値に達するまで、数値が閾値に達するように第1パラメータを更新し(S25)、更新された前記第1パラメータを用いて第2観測地域分割短区間変動マップデータを生成し(S22)、数値が閾値に達しないように第2パラメータを更新し(S25)、更新された第2パラメータを用いて判別を行うこと(S23)を含む。生成部の製造方法は、さらに、判別結果が閾値に達したとき、第1パラメータを、機械学習を実施した生成部(S12)のパラメータとして外部の推定手段(31)で使用可能に保存すること(S26)を含む。
【発明の効果】
【0011】
前記一実施の形態によれば、所定の地域における電波伝搬特性の補外推定を、より高い精度で行うことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、一実施の形態による電波伝搬推定システムの一構成例を示すブロック回路図である。
【
図2】
図2は、一実施の形態による推定手段の一構成例を示すブロック回路図である。
【
図3】
図3は、一実施の形態による電波伝搬推定方法の一構成例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、一実施の形態における観測地域と未観測地域の位置関係と、観測地域の電波伝搬特性との一例を示す図である。
【
図5】
図5は、一実施の形態による、未観測地域構造物マップデータと、観測地域構造物マップデータとの一例を示す図である。
【
図6A】
図6Aは、一実施の形態による、未観測地域構造物マップデータとメッシュの関係を説明するための図である。
【
図6B】
図6Bは、一実施の形態による、未観測地域構造物マップデータと、メッシュと、第1の分割構造物マップデータとの関係を説明するための図である。
【
図6C】
図6Cは、一実施の形態による、未観測地域構造物マップデータと、メッシュと、第2の分割構造物マップデータとの関係を説明するための図である。
【
図6D】
図6Dは、一実施の形態による、未観測地域構造物マップデータと、メッシュと、第3の分割構造物マップデータとの関係を説明するための図である。
【
図7】
図7は、一実施の形態による生成部の一構成例を示すブロック回路図である。
【
図8】
図8は、一実施の形態による未観測地域短区間変動マップデータの一例を示す図である。
【
図9】
図9は、一実施の形態による観測地域電波マップデータの一例を示す図である。
【
図10】
図10は、一実施の形態による観測地域距離マップデータと未観測地域距離マップデータの一例を示す図である。
【
図11】
図11は、一実施形態による未観測地域距離減衰マップデータの一例を示す図である。
【
図12】
図12は、一実施の形態による未観測地域電波マップデータの一例を示す図である。
【
図13】
図13は、一実施形態による学習手段の一構成例を示すブロック回路図である。
【
図14】
図14は、一実施の形態による生成部の製造方法の一構成例を示すフローチャートである。
【
図15】
図15は、一実施の形態による観測地域距離減衰マップデータと未観測地域距離減衰マップデータの一例を示す図である。
【
図16】
図16は、一実施の形態による観測地域短区間変動マップデータの一例を示す図である。
【
図17】
図17は、一実施の形態による判別部の一構成例を示すブロック回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
一実施の形態において、電波伝搬推定システムは、電波伝搬方法によって、所定の送信局から送信される無線信号を所定の地域において受信する電力の分布である電波伝搬特性を補外推定する。一実施の形態においては、その前に、電波伝搬推定システムが備える生成部を、機械学習を用いるなどして製造する。添付図面を参照して、一実施の形態による電波伝搬推定システム、電波伝搬推定方法および生成部の製造方法を実施するための形態を以下に説明する。
【0014】
(実施の形態)
図1に示すように、一実施の形態による電波伝搬推定システム1は、バス2と、演算装置3と、記憶装置4と、出力装置5とを備えている。演算装置3、記憶装置4および出力装置5は、バス2を介して互いに通信可能に接続されている。電波伝搬推定システム1は、いわゆるコンピュータとして構成されていてもよい。すなわち、演算装置3は、記憶装置4に格納されているプログラムを実行することによって、電波伝搬推定システム1の機能を実現する。言い換えれば、演算装置3とプログラムとが協働することによって、電波伝搬推定システム1の機能は実現される。このプログラムは、記録媒体401から読み出されて記憶装置4に格納されたものであってもよい。出力装置5は、電波伝搬特性を補正した結果を外部に出力する。一例として、出力装置5は表示装置を備えていてもよい。
【0015】
演算装置3は、推定手段31と、学習手段32とを備えている。記憶装置4は、推定プログラム41と、学習プログラム42とを格納している。推定手段31は、演算装置3が推定プログラム41を実行することで実現される、電波伝搬推定システム1の機能である。また、学習手段32は、演算装置3が学習プログラム42を実行することで実現される、電波伝搬推定システム1の別の機能である。すなわち、推定手段31と、学習手段32とは、便宜上、演算装置3の構成要素として
図1に示されているが、実際には、電波伝搬推定システム1の機能を実現する手段であってもよい。
【0016】
推定手段31は、所定の送信局から送信される無線信号を所定の地域において受信する電力の分布である電波伝搬特性を補外推定する。補外推定とは、観測情報が全くない地域の電波伝搬特性を推定することであり、観測情報が部分的に歯抜けで取得できている地域において、歯抜けの部分の伝播電波特性を推定する補間推定から区別される。学習手段32は、推定手段31が備える生成部に機械学習を実施する。
【0017】
図2に示すように、一実施の形態による推定手段31は、データ拡張部311と、生成部312と、マップデータ統合部313と、単回帰分析部314と、加算器315とを備えている。データ拡張部311、生成部312、マップデータ統合部313、単回帰分析部314および加算器315は、演算装置3が推定プログラム41を実行することによって実現される推定手段31の機能である。
【0018】
図3のフローチャートを参照して、一実施の形態による推定手段31の動作について、つまり一実施の形態による電波伝搬推定方法について説明する。
【0019】
ステップS11において、データ拡張部311は、記憶装置4から未観測地域構造物マップデータを読み出し、未観測地域構造物マップデータに基づいて未観測地域の分割構造物マップデータを生成する。
【0020】
未観測地域構造物マップデータは、未観測地域に存在する構造物の平面空間情報を表し、予め記憶装置4から読み出し可能に用意されている。未観測地域とは、電波伝搬特性を知りたい所望の地域のうち、電波伝搬特性の観測を部分的にも行っていない地域である。反対に、所望の地域のうち、電波伝搬特性の観測を行った地域を観測地域と記す。言い換えれば、所望の地域のうち、観測地域以外の部分を未観測地域と記す。
図4に、観測地域8と未観測地域9の位置関係と、観測地域8の電波伝搬特性との一例を示す。
【0021】
電波伝搬特性とは、前述のとおり、所定の送信局から送信される無線信号を所定の地域において受信する電力の分布である。一実施の形態では、所望の地域のうち、建造物が存在しない道路などの領域における電波伝搬特性の観測と推定を主に行う。
【0022】
構造物の平面空間情報は、一例として、構造物の高度、構造物が存在する地点の高度、送信局から構造物が存在する受信地点までの平面的な距離、送信局から受信地点までの平均高度、送信局と受信地点の間に存在する他の構造物の最高高度、受信地点から最も近い他の構造物の高度、受信地点から最も近い他の構造物までの平面的な距離、受信地点の周囲に存在する他の構造物の平均高度、などのうち、少なくとも1つを含む。構造物の平面空間情報は、上記の情報の組み合わせをテンソルとしてまとめたものであってもよい。なお、上記の組み合わせは構造物の空間的情報の一例にすぎず、別の情報の組み合わせに変更可能である。
図5は、一実施の形態による、未観測地域構造物マップデータ90と、観測地域構造物マップデータ80との一例を示す図である。観測地域構造物マップデータ80は、観測地域8に存在する構造物の平面空間情報を表す。
【0023】
図6A、
図6B、
図6Cおよび
図6Dを参照して、未観測地域構造物マップデータ90と分割構造物マップデータの関係について説明する。
【0024】
図6Aに示すように、データ拡張部311は、まず、未観測地域構造物マップデータ90を複数のメッシュ91および91A~91Pに分割する。複数のメッシュ91および91A~91Pを区別しないとき、これらをメッシュ91と総称する。一例として、メッシュ91は直交するX方向およびY方向による格子状に分割されていてもよい。また、一例として、それぞれのメッシュ91のX方向およびY方向の長さは、同じメッシュ単位長さであってもよい。一例として、メッシュ単位長さは10m(メートル)である。
【0025】
次に、データ拡張部311は、複数のメッシュ91を分割構造物マップデータ92として定義する。一例として、
図6Bに示すように、第1の分割構造物マップデータ92Aは、X方向およびY方向の長さがメッシュ単位長さの3倍であり、メッシュ91A、91B、91C、91E、91F、91G、91I、91Jおよび91Kからなる合計9個のメッシュ91で構成されている。
【0026】
また、一例として、
図6Cに示すように、第2の分割構造物マップデータ92Bは、X方向およびY方向の長さがメッシュ単位長さの3倍であり、メッシュ91B、91C、91D、91F、91G、91H、91J、91Kおよび91Lからなる合計9個のメッシュ91で構成されている。
【0027】
また、一例として、
図6Dに示すように、第3の分割構造物マップデータ92Cは、X方向およびY方向の長さがメッシュ単位長さの3倍であり、メッシュ91E、91F、91G、91I、91J、91K、91M、91Nおよび91Oからなる合計9個のメッシュ91で構成されている。
【0028】
分割構造物マップデータ92A、92B、92Cを区別しないとき、これらを分割構造物マップデータ92と総称する。
【0029】
このように、データ拡張部311は、未観測地域構造物マップデータ90に基づいて、同じ形状および同じ面積を有する複数の分割構造物マップデータ92を生成する。このとき、それぞれの分割構造物マップデータ92は複数のメッシュ91で構成されており、それぞれのメッシュ91は複数の分割構造物マップデータ92に含まれる。一例として、メッシュ91B、91C、91F、91G、91Jおよび91Kは、X方向に配置されている第1の分割構造物マップデータ92Aと第2の分割構造物マップデータ92Bに共有されている。また、メッシュ91E、91F、91G、91I、91Jおよび91Kは、Y方向に配置されている第1の分割構造物マップデータ92Aと第3の分割構造物マップデータ92Cに共有されている。データ拡張部311は、複数の分割構造物マップデータ92を記憶装置4に格納してもよい。
【0030】
ステップS12において、生成部312は、未観測地域9の分割構造物マップデータ92に基づいて、分割短区間変動マップデータを生成する。生成部312は、生成した分割短区間変動マップデータを記憶装置4に格納してもよい。生成部312は、後述するように、生成部312の製造方法を学習手段32が実行することによって、予め用意されている。
【0031】
短区間変動マップデータは、対応する分割構造物マップデータ92における短区間変動を表す。短区間変動は、1つの分割構造物マップデータ92に含まれる、未観測地域9の寸法と比較して十分に短い区間における、電波伝搬特性の空間的な変動である。言い換えれば、短区間変動は、所定の送信局から送信される無線信号を分割構造物マップデータ92の地点で受信した受信電力の変動のうち、この分割構造物マップの領域に存在する構造物に由来すると推定される成分である。生成部312は、所定の送信局から送信された無線信号を所定の地域で受信した受信電力と、所定の地域に存在する構造物の平面空間情報との間にある相関性に基づく機械学習を実施されている。生成部312は、未観測地域9の分割構造物マップデータ92のそれぞれについて、その分割構造物マップデータ92に含まれる構造物に由来する電波伝搬特性の短区間変動を推定した分割短区間変動マップデータを生成する。
【0032】
図7に示すように、一実施の形態による生成部312は、入力された分割構造物マップデータ92に対して複数の処理を順次行ってもよい。
図7の例では、生成部312は、畳み込み演算部61A、61B、61C、61D、61E、61Fと、スペクトル正規化演算部62A、62B、62C、62D、62Eと、バッチ正規化演算部63A、63B、63C、63D、63Eと、ReLU(Rectified Linear Unit:正規化線形ユニット)64A、64B、64C、64D、64Eと、Tanh(ハイパボリックタンジェント)演算部65とを備えている。
【0033】
畳み込み演算部61A、61B、61C、61D、61E、61Fを区別しないとき、これらを畳み込み演算部61と総称する。スペクトル正規化演算部62A、62B、62C、62D、62Eを区別しないとき、これらをスペクトル正規化演算部62と総称する。バッチ正規化演算部63A、63B、63C、63D、63Eを区別しないとき、これらをバッチ正規化演算部63と総称する。ReLU 64A、64B、64C、64D、64Eを区別しないとき、これらをReLU 64と総称する。
【0034】
畳み込み演算部61は、3×3のマトリックス構造を有する入力データに対して、所定のカーネルを用いた畳み込み演算を行う。ただし、上記の3×3は一例にすぎず、一実施の形態を限定しない。スペクトル正規化演算部62は、入力データのスペクトル正規化処理を行う。バッチ正規化演算部63は、入力データのバッチ正規化処理を行う。ReLU 64は、入力データの正規化線形処理を行う。Tanh演算部65は、入力データのハイパボリックタンジェント演算処理を行う。
【0035】
図7の例では、一実施の形態による生成部312は、入力された分割構造物マップデータ92に対して、畳み込み演算部61による畳み込み演算と、スペクトル正規化演算部62によるスペクトル正規化処理と、バッチ正規化演算部63によるバッチ正規化処理と、ReLU 64による正規化線形処理を順次行う処理セットを5回繰り返した後、さらに畳み込み演算部61Eによる畳み込み演算と、Tanh演算部65によるハイパボリックタンジェント演算処理とを行い、演算の結果を出力する。
【0036】
ステップS13において、マップデータ統合部313が、複数の分割短区間変動マップデータに基づいて未観測地域短区間変動マップデータを生成する。
図8は、一実施の形態による未観測地域短区間変動マップデータ93の一例を示す図である。未観測地域短区間変動マップデータ93は、未観測地域9の全域における短区間変動を表し、未観測地域9に含まれる全てのメッシュ91のそれぞれにおける短区間変動を表す。
【0037】
マップデータ統合部313は、ステップS11でデータ拡張部311が行った処理とは逆に、ステップS12で得られた複数の分割短区間変動マップデータを結合して未観測地域短区間変動マップデータ93を生成する。このとき、未観測地域9に含まれる複数のメッシュ91のそれぞれについて、そのメッシュ91を含むすべての分割構造物マップデータ92に対応する分割短区間変動マップデータの平均値を、そのメッシュ91における短区間変動として算出する。マップデータ統合部313は、このように短区間変動を算出した全てのメッシュ91を結合することによって、未観測地域短区間変動マップデータ93を生成する。マップデータ統合部313は、生成した未観測地域短区間変動マップデータ93を記憶装置4に格納してもよい。
【0038】
ステップS14において、単回帰分析部314が、観測地域電波マップデータに基づいて、未観測地域距離減衰マップデータを生成する。
図9は、一実施の形態による観測地域電波マップデータ84の一例を示す図である。観測地域電波マップデータ84は、観測地域8において観測した電波伝搬特性を表す。未観測地域距離減衰マップデータは、無線信号を送信する所定の送信局から未観測地域9における所定の地点までの距離に応じた、この地点で受信される無線信号の電力の減衰の推定値を表す。言い換えれば、未観測地域距離減衰マップデータは、無線信号を所定の地点で受信した受信電力の変動のうち、所定の送信局から所定の地点までの距離に由来すると推定される成分を表す。
【0039】
送信点・受信点間の距離を変数とする単回帰分析部314は、観測地域電波マップデータ84を観測地域距離マップデータに単回帰することによって得られる関係を、未観測地域距離マップデータに当てはめることによって、未観測地域距離減衰マップデータを生成する。観測地域距離マップデータは、所定の送信局から観測地域8における所定の地点までの距離を表す。未観測地域距離マップデータは、所定の送信局から未観測地域9における所定の地点までの距離を表す。
図10は、一実施形態による観測地域距離マップデータ85と未観測地域距離マップデータ95の一例を示す図である。
図11は、一実施形態による未観測地域距離減衰マップデータ96の一例を示す図である。単回帰分析部314は、生成した未観測地域距離減衰マップデータ96を記憶装置4に格納してもよい。
【0040】
ステップS15において、加算器315が、ステップS13で得られた未観測地域短区間変動マップデータ93と、ステップS14で得られた未観測地域距離減衰マップデータ96とに基づいて、未観測地域電波マップデータを生成する。未観測地域電波マップデータは、未観測地域9における電波伝搬特性の推定値を表す。
図12は、一実施の形態による未観測地域電波マップデータ97の一例を示す図である。具体的には、加算器315は、未観測地域短区間変動マップデータ93と未観測地域距離減衰マップデータ96を加算することによって、未観測地域電波マップデータ97を生成する。加算器315は、生成した未観測地域電波マップデータ97を記憶装置4に格納してもよい。
【0041】
ステップS16において、出力装置5が、未観測地域電波マップデータ97を外部に出力する。一例として、出力装置5は図示しない表示装置を備えており、出力装置5は未観測地域電波マップデータ97を表示装置で表示する。別の一例として、出力装置5は図示しない通信装置を備えており、出力装置5は未観測地域電波マップデータ97を通信装置で外部のコンピュータに送信してもよい。
【0042】
ステップ16が完了すると、
図3のフローチャートは終了する。
【0043】
このようにすることで、一実施形態による電波伝搬推定システム1の推定手段31は、未観測地域9における電波伝搬特性を補外推定することができる。
【0044】
前述のとおり、ステップS12で分割短区間変動マップデータを生成する生成部312は、事前に、そのための機械学習を実施されている。この機械学習について、すなわち一実施の形態による生成部312の製造方法について説明する。
【0045】
図13に示すように、一実施形態による学習手段32は、単回帰分析部321と、減算器322と、データ拡張部323と、生成部324と、判別部325と、判定部326とを備える。単回帰分析部321、減算器322、データ拡張部323、生成部324、判別部325および判定部326は、演算装置3が学習プログラム42を実行することによって実現される学習手段32の機能である。
【0046】
図14のフローチャートを参照して、一実施の形態による学習手段32の動作について、つまり一実施の形態による生成部312の製造方法について説明する。
【0047】
ステップS21において、単回帰分析部321、減算器322およびデータ拡張部323が、観測地域電波マップデータ84に基づいて、観測地域8の分割短区間変動マップデータを生成する。ここで、まず、単回帰分析部321が、観測地域電波マップデータ84に基づいて、観測地域距離減衰マップデータを生成する。
図15は、一実施の形態による観測地域距離減衰マップデータ86と未観測地域距離減衰マップデータ96の一例を示す図である。次に、減算器322が、観測地域電波マップデータ84と、観測地域距離減衰マップデータ86とに基づいて、観測地域短区間変動マップデータを生成する。次に、データ拡張部323が、観測地域短区間変動マップデータに基づいて、観測地域8における複数の分割短区間変動マップデータを生成する。
【0048】
ステップS21における単回帰分析部321の動作について説明する。単回帰分析部321は、観測地域電波マップデータ84を観測地域距離マップデータ85に単回帰することによって観測地域距離減衰マップデータ86を生成する。
【0049】
ステップS21における減算器322の動作について説明する。減算器322は、観測地域距離減衰マップデータ86から観測地域電波マップデータ84を引き算して観測地域短区間変動マップデータを生成する。
図16は、一実施の形態による観測地域短区間変動マップデータ83の一例を示す図である。
【0050】
ステップS21におけるデータ拡張部323の動作について説明する。データ拡張部323は、推定手段31のデータ拡張部311と同様に、観測地域短区間変動マップデータ83を複数のメッシュに分割した上で、それぞれが複数のメッシュで構成された複数の領域における分割短区間変動マップデータを生成する。
【0051】
ステップS22において、データ拡張部323および生成部324が、観測地域構造物マップデータ80に基づいて、観測地域8における複数の分割短区間変動マップデータを生成する。
【0052】
ステップS22におけるデータ拡張部323の動作について説明する。データ拡張部323は、推定手段31のデータ拡張部311と同様に、観測地域構造物マップデータ80を複数のメッシュに分割した上で、それぞれが複数のメッシュで構成された、観測地域8における複数の分割構造物マップデータを生成する。
【0053】
ステップS22における生成部324の動作について説明する。生成部324は、推定手段31の生成部312と同様に、
図7に示す構成を有しており、入力された分割構造物マップデータに対して、畳み込み演算部61による畳み込み演算と、スペクトル正規化演算部62によるスペクトル正規化処理と、バッチ正規化演算部63によるバッチ正規化処理と、ReLU 64による正規化線形処理を順次行う処理セットを5回繰り返した後、さらに畳み込み演算部61Eによる畳み込み演算と、Tanh演算部65によるハイパボリックタンジェント演算処理とを行い、演算の結果を出力する。
【0054】
ここで、ステップS21で生成される、観測地域8における複数の分割短区間変動マップデータと、ステップS22で生成される、観測地域8における複数の分割短区間変動マップデータとは、異なる入力データに基づいて、かつ、異なる演算によって生成され、したがって異なるデータであることに注目されたい。便宜上、ステップS21で生成される観測地域8における分割短区間変動マップデータを第1の分割短区間変動マップデータと記し、ステップS22で生成される観測地域8における分割短区間変動マップデータを第2の分割短区間変動マップデータと記す。後述するように、一実施の形態では、生成部324が生成する第2の分割短区間変動マップデータを、電波伝搬特性の観測値に基づく第1の分割短区間変動マップデータに近づけるように、生成部324を調整する。
【0055】
ステップS23において、判別部325が、観測地域8における、第1の分割短区間変動マップデータと、第2の分割短区間変動マップデータとを判別する。判別部325は、第2の分割短区間変動マップデータのそれぞれが、対応する領域の第1の分割短区間変動マップデータに十分近づいているかどうかを判別し、その結果を表す数値を出力する。一例として、判別部325は、それぞれの第2の分割短区間変動マップデータについて、対応する領域の第1の分割短区間変動マップデータとの判別ができない場合には、つまり両者が十分に近い場合には、判別結果として「1」を出力する。反対に、それぞれの第2の分割短区間変動マップデータについて、対応する領域の第1の分割短区間変動マップデータとの判別ができる場合には、つまり両者が十分に近くない場合には、判別部325は判別結果として「-1」を出力する。
【0056】
図17に示すように、一実施の形態による判別部325は、入力された第2の分割短区間変動マップデータに対して複数の処理を順次行ってもよい。
図17の例では、判別部325は、畳み込み演算部71A、71B、71C、71D、71Eと、スペクトル正規化演算部72A、72B、72C、72Dと、バッチ正規化演算部73B、73C、73Dと、Leaky LeRU 74A、74B、74C、74Dとを備えている。
【0057】
畳み込み演算部71A、71B、71C、71D、71Eを区別しないとき、これらを畳み込み演算部71と総称する。スペクトル正規化演算部72A、72B、72C、72Dを区別しないとき、これらをスペクトル正規化演算部72と総称する。バッチ正規化演算部73B、73C、73Dを区別しないとき、これらをバッチ正規化演算部73と総称する。Leaky LeRU 74A、74B、74C、74Dを区別しないとき、これらをLeaky LeRU 74と総称する。
【0058】
畳み込み演算部71は、
図7の畳み込み演算部61と同様に、3×3のマトリックス構造を有する入力データに対して、所定のカーネルを用いた畳み込み演算を行う。ただし、上記の3×3は一例にすぎず、一実施の形態を限定しない。スペクトル正規化演算部72は、
図7のスペクトル正規化演算部62と同様に、入力データのスペクトル正規化処理を行う。バッチ正規化演算部73は、
図7のバッチ正規化演算部63と同様に、入力データのバッチ正規化処理を行う。Leaky ReLU 74は、入力データの正規化線形処理を行う。
【0059】
図17の例では、一実施形態による判別部325は、入力された第2の分割短区間変動マップデータに対して、まず、畳み込み演算と、スペクトル正規化処理と、正規化線形処理とを行う。次に、判別部325は、Leaky LeRU 74Aの出力に対して、畳み込み演算と、スペクトル正規化処理と、バッチ正規化処理と、正規化線形処理とを行う順次行う処理セットを3回繰り返した後、さらに畳み込み演算を行い、演算の結果を出力する。
【0060】
ステップS24において、判定部326が、判別結果が所定の閾値に達したかどうかを判定する。一例として、判別部325が第2の分割短区間変動マップデータの全てについて判別を行った結果を表す値の総和を、判定部326が算出する。判定部326が、この総和が所定の閾値に達していないと判定した場合(No)には、つまり生成部324が生成した複数の第2の分割短区間変動マップデータがその全体として複数の第1の分割短区間変動マップデータに十分近づいていないと判定部326が判定した場合には、処理はステップS25に進む。反対に、判定部326が、この総和が所定の閾値に達したと判定した場合(Yes)には、つまり生成部324が生成した複数の第2の分割短区間変動マップデータがその全体として複数の第1の分割短区間変動マップデータに十分近づいていると判定部326が判定した場合には、処理はステップS26に進む。
【0061】
ステップS25において、判定部326が、生成部324および判別部325のパラメータを更新する。ここで、判定部326は、次にステップS23とステップS24とが実行されるとき、判別結果が所定の閾値に達するように、生成部324のパラメータの更新を行う。ここで更新される生成部324のパラメータは、例えば、
図6に示した畳み込み演算部61の畳み込み演算に用いられるカーネルである。また、判定部326は、次にステップS23とステップS24とが実行されるとき、判別結果が所定の閾値に達しないように、判別部325のパラメータの更新を行う。ここで更新される判別部325のパラメータは、例えば、
図17に示した畳み込み演算部71の畳み込み演算に用いられるカーネルである。ステップS25の次に、処理はステップS22へ進み、ステップS22、ステップS23およびステップS24が再度実行される。
【0062】
ステップS26において、判定部326は生成部324を記憶装置4に保存する。より詳細には、判定部326は、生成部324に実施された機械学習の結果であるパラメータのセットを記憶装置4に保存する。こうすることによって、一実施の形態による推定手段31は、このパラメータのセットを記憶装置4から読み出して生成部312に設定することができ、生成部312は機械学習を実施した状態でステップS12の処理を行うことができる。ステップS26が完了すると、
図14のフローチャートは終了する。
【0063】
以上に説明したように、一実施の形態による電波伝搬推定システム1において、学習手段32が生成部324の製造方法において生成部324に機械学習を実施し、この機械学習の結果を設定された生成部312を含む推定手段31が電波伝搬推定方法を実行することによって、未観測地域9において電波伝搬特性の補外推定を、より高い精度で行うことができる。
【0064】
一例として、一実施の形態による電波伝搬推定の結果と、関連技術による電波伝搬推定の結果とを比較した。ここで、関連技術では、未観測地域短区間変動マップデータ93を算出せず、未観測地域距離減衰マップデータ96を未観測地域電波マップデータ97とする。推定値と真値の二乗平均平方根誤差が、一実施の形態では5.77dB(デシベル)であったのに対し、関連技術では10.82dBであった。なお、この比較は、以下の諸元を用いた観測実験によるものである。
観測エリア:九段下駅周辺
メッシュサイズ:10m×10m
観測周波数帯域:3,500MHz(メガヘルツ)
送信電力:28.7dBm
アンテナ指向性:オムニ
偏波:H偏波
送信局の高さ:17.5m
受信局の高さ:1.5m
【0065】
以上、発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。また、前記実施の形態に説明したそれぞれの特徴は、技術的に矛盾しない範囲で自由に組み合わせることが可能である。
【0066】
一実施の形態の一変形例として、記録媒体401は、非一時的で有形な媒体(non-transitory and tangible medium)であってもよい。
【0067】
一実施の形態の一変形例として、電波伝搬推定システム1は、図示しない通信装置をさらに備えていてもよく、記憶装置4に格納されているプログラムはこの通信装置を介して外部から供給されて記憶装置4に格納されたものであってもよい。
【0068】
一実施の形態の一変形例として、
図2に示したデータ拡張部311、生成部312およびマップデータ統合部313の集合を第1推定手段と呼称してもよい。また、
図3のフローチャートに示したステップS11、S12およびS13の集合をステップS10と呼称してもよい。このとき、ステップS10では、第1推定手段が、未観測地域構造物マップデータ90に基づいて、未観測地域短区間変動マップデータ93を生成する。
【0069】
一実施の形態の一変形例として、
図3のフローチャートのステップS14は、ステップS15より前でさえあれば、ステップS13の後に実行される必要は無い。一例として、ステップS14は、ステップS11~S13のいずれかより前に実行されてもよいし、ステップS11~S13の一部または全てと並行して実行されてもよい。
【0070】
一実施の形態の一変形例として、学習手段32は2つのデータ拡張部323を有していてもよい。つまり、
図13では、ステップS22で動作するデータ拡張部323と、ステップS21で動作するデータ拡張部323とが、同一のデータ拡張部323である構成を示しているが、これらは2つの異なるデータ拡張部323であってもよい。この場合、
図13に示した単回帰分析部321、減算器322およびステップS21で動作するデータ拡張部323の集合を第1学習手段と呼称してもよい。このとき、
図14のフローチャートに示したステップS21では、第1学習手段が観測地域電波マップデータ84に基づいて観測地域8における第1の分割短区間変動マップデータを生成する。また、この場合、
図13に示したステップS22で動作するデータ拡張部323と、生成部324との集合を第2学習手段と呼称してもよい。この時、
図14のフローチャートに示したステップS22では、第2学習手段が観測地域構造物マップデータ80に基づいて観測地域8における第2の分割短区間変動マップデータを生成する。
【符号の説明】
【0071】
1 電波伝搬推定システム
2 バス
3 演算装置
31 推定手段
311 データ拡張部
312 生成部
313 マップデータ統合部
314 単回帰分析部
315 加算器
32 学習手段
321 単回帰分析部
322 減算器
323 データ拡張部
324 生成部
325 判別部
326 判定部
4 記憶装置
401 記録媒体
41 推定プログラム
42 学習プログラム
5 出力装置
61A~61F 畳み込み演算部
62A~62E スペクトル正規化演算部
63A~63E バッチ正規化演算部
64A~64E ReLU
65 Tanh演算部
71A~71E 畳み込み演算部
72A~72D スペクトル正規化演算部
73B~73D バッチ正規化演算部
74A~74D Leaky LeRU
8 観測地域
80 観測地域構造物マップデータ
83 観測地域短区間変動マップデータ
84 観測地域電波マップデータ
85 観測地域距離マップデータ
86 観測地域距離減衰マップデータ
9 未観測地域
90 未観測地域構造物マップデータ
91、91A~91P メッシュ
92、92A~92C 分割構造物マップデータ
93 未観測地域短区間変動マップデータ
95 未観測地域距離マップデータ
96 未観測地域距離減衰マップデータ
97 未観測地域電波マップデータ