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特許7569089動的懸濁培養において多能性幹細胞を分化させるための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】動的懸濁培養において多能性幹細胞を分化させるための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/079 20100101AFI20241009BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20241009BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
C12N5/079
C12N5/0735
C12N5/10
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021516628
(86)(22)【出願日】2019-09-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 US2019052015
(87)【国際公開番号】W WO2020061371
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】62/733,621
(32)【優先日】2018-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519336241
【氏名又は名称】リネージ セル セラピューティクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ナイル レカー アール.
(72)【発明者】
【氏名】カイザー ステファニー
(72)【発明者】
【氏名】パリーク アビラト エス.
(72)【発明者】
【氏名】シャウカット-ムムターズ ウズマ
(72)【発明者】
【氏名】ウィットリー エリック マイケル
(72)【発明者】
【氏名】マンレイ ネイサン シー.
(72)【発明者】
【氏名】ハルバーシュタット クレイグ アール.
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/096705(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00 - 5/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) bFGFおよびTGFβを含む培地で培養することによって、未分化のヒト多能性幹細胞の非胚様体(非EB)凝集塊の懸濁培養物を得る工程であって、該ヒト多能性幹細胞が未分化状態のままである、該工程;
(b) (a)からの非EB凝集塊を動的懸濁状態で、SB431542およびドルソモルフィンを含む培地中で、第1の期間にわたって培養し、それによって神経外胚葉への分化を誘導する工程;
(c) (b)からの非EB凝集塊を動的懸濁状態で、レチノイン酸、およびスムーズンド受容体の少なくとも1つのアゴニストの存在下で、第2の期間にわたって培養する工程;ならびに
(d) (c)からの凝集塊を動的懸濁状態で、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)および上皮成長因子(EGF)の存在下でさらなる期間にわたって、該細胞がグリア前駆細胞に成熟するまで培養する工程
を含む、グリア前駆細胞を含む細胞の集団を未分化のヒト多能性幹細胞から得るための方法。
【請求項2】
(d)からの非EB凝集塊を収集してそれらを基材上にプレーティングし、それによって該凝集塊から細胞を移動させる追加の工程をさらに含み、該基材が組換えヒトラミニン521である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ヒト多能性幹細胞がヒト胚性幹細胞(hESC)またはヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(b)の培地が、アクチビン受容体様キナーゼ5(ALK5)の阻害物質、DMH-1、K02288、ML3467、LDN193189およびノギンタンパク質から選択されるトランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)/アクチビン/ノーダルシグナル伝達の阻害物質、または
LY2157299、GW788388、A-77-01、A-83-01、およびSB505124からなる群より選択されるTGFβ/アクチビン/ノーダルシグナル伝達の阻害物質
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つのスムーズンド受容体アゴニストが、プルモルファミン、スムーズンドアゴニスト(SAG、CAS 364590-63-6)、およびソニック・ヘッジホッグ(SHH)タンパク質からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の期間が3~4日である、または
前記第2の期間が3日である、または
工程(a)~(d)が21日間にわたって実施される、
請求項1に記載の方法。
【請求項7】
(a) 請求項1に記載の方法に従ってグリア前駆細胞を得る工程;
(b) (a)からの細胞を収集してそれらを基材上にプレーティングし、それによって凝集塊から細胞を移動させる工程;ならびに
(c) (b)からの細胞を、上皮成長因子(EGF)および血小板由来成長因子AA(PDGF-AA)の存在下でさらなる期間にわたって、該細胞がオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)に成熟するまで接着培養する工程
を含む、OPCを含む細胞の集団を未分化のヒト多能性幹細胞から得るための方法であって、
該OPCが、神経/グリア抗原2(NG2)、血小板由来成長因子受容体A(PDGFRα)、およびガングリオシドGD3(GD3)より選択される1つまたは複数のマーカーを発現する、該方法。
【請求項8】
前記接着培養が21日間にわたって実施される、または
前記接着培養が基材上で実施され、該基材が、(i)細胞接着ペプチド、ならびに(ii)ラミニンおよびビトロネクチンより選択される細胞外マトリックスより選択される、または
前記接着培養が組換えヒトラミニン521もしくはラミニン511 E8フラグメント上で実施される、
請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ヒト多能性幹細胞がhESCまたはhiPSCである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
(a) bFGFおよびTGFβを含む培地で培養することによって、未分化のヒト多能性幹細胞の非胚様体(非EB)凝集塊の懸濁培養物を得る工程であって、該ヒト多能性幹細胞が未分化状態のままである、該工程;
(b) (a)からの非EB凝集塊を動的懸濁状態で、SB431542およびドルソモルフィンを含む培地中で、第1の期間にわたって培養し、それによって神経外胚葉への分化を誘導する工程;ならびに
(c) (b)からの非EB凝集塊を動的懸濁状態で、レチノイン酸、およびスムーズンド受容体の少なくとも1つのアゴニストの存在下で第2の期間にわたって、該細胞がペアードボックス6(PAX6)陽性神経外胚葉細胞に成熟するまで培養する工程
を含む、ヒト多能性幹細胞から神経外胚葉細胞への分化を誘導するための方法。
【請求項11】
前記ヒト多能性幹細胞がヒト胚性幹細胞(hESC)またはヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記工程(b)の培地が、アクチビン受容体様キナーゼ5(ALK5)の阻害物質、LY2157299、GW788388、A-77-01、A-83-01、およびSB505124からなる群より選択されるトランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)/アクチビン/ノーダルシグナル伝達の阻害物質をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記工程(b)の培地が、アクチビン受容体様キナーゼ2(ALK2)の阻害物質、DMH-1、K02288、ML3467、LDN193189、およびノギンタンパク質からなる群より選択されるBMPシグナル伝達の阻害物質をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1つのスムーズンド受容体アゴニストが、プルモルファミン、スムーズンドアゴニスト(SAG、CAS 364590-63-6)、およびソニック・ヘッジホッグ(SHH)タンパク質からなる群より選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の期間が3~4日である、または
前記第2の期間が3日である、または
工程(a)~(c)が7~8日間にわたって実施される、
請求項10に記載の方法。
【請求項16】
(a) bFGFおよびTGFβを含む培地で培養することによって、脱凝集しておりかつ単一細胞懸濁液を形成している未分化のヒト多能性幹細胞を動的懸濁状態で培養して、非胚様体(非EB)凝集塊を得る工程であって、該非EB凝集塊中の該ヒト多能性幹細胞が未分化状態のままである、該工程;
(b) (a)からの非EB凝集塊を動的懸濁状態で、SB431542およびドルソモルフィンを含む培地中で、第1の期間にわたって培養し、それによって神経外胚葉への分化を誘導する工程;
(c) (b)からの非EB凝集塊を動的懸濁状態で、レチノイン酸、およびスムーズンド受容体の少なくとも1つのアゴニストの存在下で、第2の期間にわたって培養する工程;ならびに
(d) (c)からの凝集塊を動的懸濁状態で、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)および上皮成長因子(EGF)の存在下でさらなる期間にわたって、該細胞がグリア前駆細胞に成熟するまで培養する工程
を含む、グリア前駆細胞を含む細胞の集団を未分化のヒト多能性幹細胞から得るための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
分野
本開示は、細胞生物学の分野、ならびに神経外胚葉およびグリア系細胞、例えばオリゴデンドロサイト前駆細胞の分野に関するものである。より具体的には、本開示は、TGFβ/アクチビン/ノーダルシグナル伝達およびBMPシグナル伝達の小分子阻害物質またはタンパク質阻害物質を用いて、動的懸濁培養において多能性幹細胞を神経外胚葉に分化させるための新規の方法に関する。本開示はさらに、ヒト胚性幹細胞などの多能性幹細胞を、最初に神経外胚葉に、次にグリア前駆細胞に、さらにオリゴデンドロサイト前駆細胞に分化させるための新規の方法を提供する。本開示はさらに、本発明に従った方法により作製された、1つまたは複数のマーカーを発現する神経外胚葉細胞、グリア前駆細胞、およびオリゴデンドロサイト前駆細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)は、ミエリンを形成するオリゴデンドロサイトに成熟する、中枢神経系(CNS)内のグリア細胞のサブタイプである。オリゴデンドロサイトは、絶縁体として神経細胞の軸索を覆うミエリン鞘を形成し、ミエリン鞘が失われたCNS病変部を再ミエリン化する。オリゴデンドロサイトはまた、神経細胞の生存を促進する神経栄養因子の産生などの、他のメカニズムを介して神経防護作用に貢献している(Wilkins A, Chandran S, Compston A. A role for oligodendrocyte-derived IGF-1 in trophic support of cortical neurons. 2001 Glia. 36(1):48-57(非特許文献1); Dai X, Lercher LD, Clinton PM, Du Y, Livingston DL, Vieira C, Yang L, Shen MM, Dreyfus CF. The trophic role of oligodendrocytes in the basal forebrain. 2003 J Neurosci. 23(13):5846-53(非特許文献2); Du Y, Dreyfus CF. Oligodendrocytes as providers of growth factors. 2002 J Neurosci Res. 68(6):647-54(非特許文献3))。したがって、オリゴデンドロサイトは、脱ミエリン障害およびミエリン形成不全障害(例えば、多発性硬化症、副腎白質ジストロフィー、副腎脊髄ニューロパシーなど)、他の神経変性障害(例えば、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病など)、ならびに急性脊髄損傷(SCI)の重要な治療標的となる。
【0003】
OPCは神経外胚葉(neuroectoderm)(神経外胚葉(neural ectoderm)または神経管上皮とも呼ばれる)に由来し、神経外胚葉はCNSを構成するさまざまな神経細胞(ニューロン)とグリア細胞を生成する神経前駆細胞を生じさせる。胚性幹細胞(ESC)および人工多能性幹細胞(iPSC)などのヒト多能性幹細胞を、細胞療法に使用できるOPCに分化させるための方法は、いくつか開発されている。神経外胚葉系細胞と神経前駆細胞に誘導する初期のステップでは、既存のプロトコールのほとんどが、静置非接着培養において尾方化因子レチノイン酸の存在下で胚様体(EB)と、その後にニューロスフェア(neurosphere)を形成させることに依存している(Nistor GI, Totoiu MO, Haque N, Carpenter MK, Keirstead HS. Human embryonic stem cells differentiate into oligodendrocytes in high purity and myelinate after spinal cord transplantation. 2005 Glia. 49(3):385-96(非特許文献4); Izrael M, Zhang P, Kaufman R, Shinder V, Ella R, Amit M, Itskovitz-Eldor J, Chebath J, Revel M. Human oligodendrocytes derived from embryonic stem cells: Effect of noggin on phenotypic differentiation in vitro and on myelination in vivo. 2007 Mol. Cell. Neurosci. 34: 310-323(非特許文献5); Hu BY, Du ZW, Zhang SC. Differentiation of human oligodendrocytes from pluripotent stem cells. 2009 Nat. Protoc. 4:1614-1622(非特許文献6))。接着条件下での代替的な分化プロトコールも報告されている(Hu Z, Li T, Zhang X, Chen Y. Hepatocyte growth factor enhances the generation of high-purity oligodendrocytes from human embryonic stem cells. 2009 Differentiation. 78: 117-184(非特許文献7))。EBベースの分化プロトコールと接着型の分化プロトコールはどちらも、収量を最適化するために神経前駆細胞を手作業で選択する必要があり、容易に拡張可能なプロトコールではないため、治療等級の細胞を大量に作製するためのその有用性が制限されている。さらに、神経外胚葉系以外の少数の細胞型は、分化過程の間生き残ることができ、最終的なOPC集団の中に、例えば上皮細胞または軟骨前駆細胞などの、望ましくない細胞型が混じる一因となっている(Manley NC, Priest CA, Denham J, Wirth ED 3rd, Lebkowski JS. Human Embryonic Stem Cell-Derived Oligodendrocyte Progenitor Cells: Preclinical Efficacy and Safety in Cervical Spinal Cord Injury. Stem Cells Transl Med. 2017 Oct;6(10):1917-1929(非特許文献8))。
【0004】
より最近では、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)/アクチビン/ノーダルシグナル伝達の阻害物質を、骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達の阻害物質と同時に使用することによって、神経誘導(神経外胚葉形成)の効率を高めるための方法が開発されている。このプロセスは、二重SMAD阻害(dual SMAD inhibition)としても知られており、ヒト胚性幹細胞から神経外胚葉系細胞への効率的な分化を促進することが示されている(Chambers SM, Craft CA, Papapetrou EP, Tomishima M, Sadelain, M. Studer, L. Highly efficient neural conversion of human ES and iPS cells by dual inhibition of SMAD signaling. 2009 Nat Biotechnol. 27(3):275-280(非特許文献9))。標準的な二重SMAD阻害プロトコールでは、神経誘導とそれに続く分化のステップを接着単層培養において実施して、EBベースの神経誘導法で生じる高度に不均一な細胞集団を排除しかつ非神経細胞を最小限に抑えている。この方法は、多能性幹細胞からグリア前駆細胞およびOPCを作製するのに使用されて成功している(Douvaras P, Wang J, Zimmer M, Hanchuk S, O'Bara MA, Sadiq S, Sim FJ, Goldman J, Fossati V. Efficient generation of myelinating oligodendrocytes from primary progressive multiple sclerosis patients by induced pluripotent stem cells. 2014 Stem Cell Reports. 3(2):250-9(非特許文献10))。しかしながら、接着単層培養の1つの欠点は、3次元(3D)培養法と比較して拡張性と収量が限られていることである。さらに、3D培養環境は自然の細胞微小環境を模倣している;3D細胞培養技術を用いて増殖させた細胞は、(2D)接着単層で増殖させた細胞よりも自然の組織および器官によく似ていると考えられる。最後に、接着単層培養は、不確定の成分および動物由来の成分の、例えばMatrigel(登録商標)およびノックアウト血清代替品(knockout serum replacement:KSR)の使用に依存している。
【0005】
これらの制限に対処するために、二重SMAD阻害とEB形成を組み合わせた方法が最近開発されて、試験された(Kirkeby A, Grealish S, Wolf DA, Nelander J, Wood J, Lundblad M, Lindvall O, Parmar M. Generation of regionally specified neural progenitors and functional neurons from human embryonic stem cells under defined conditions. 2012 Cell Rep. 1(6):703-14(非特許文献11); Crompton LA, Byrne ML, Taylor H, Kerrigan TL, Bru-Mercier G, Badger JL, Barbuti PA, Jo J, Tyler SJ, Allen SJ, Kunath T, Cho K, Caldwell MA. Stepwise, non-adherent differentiation of human pluripotent stem cells to generate basal forebrain cholinergic neurons via hedgehog signaling. 2013 Stem Cell Res. 11(3):1206-21(非特許文献12); Pauly MG, Krajka V, Stengel F, Seibler P, Klein C, Capetian P. Adherent vs. Free-Floating Neural Induction by Dual SMAD Inhibition for Neurosphere Cultures Derived from Human Induced Pluripotent Stem Cells. 2018 Front Cell Dev Biol. 6:3(非特許文献13))。EBベースの方法では、TGFβ/アクチビン/ノーダルシグナル伝達およびBMPシグナル伝達の小分子阻害物質が、静置非接着培養において形成されたEBに適用される。しかし、EBベースの二重SMAD阻害は、大量の標的細胞を生産するために容易には拡張できず、また、得られた細胞のばらつきを大きくするが、それは、一部には、EBの静置培養がさまざまなサイズの凝集塊の形成をもたらし、プロセス全体を通して頻繁なトリチュレーションを必要とするためである(Crompton LA, Byrne ML, Taylor H, Kerrigan TL, Bru-Mercier G, Badger JL, Barbuti PA, Jo J, Tyler SJ, Allen SJ, Kunath T, Cho K, Caldwell MA. Stepwise, non-adherent differentiation of human pluripotent stem cells to generate basal forebrain cholinergic neurons via hedgehog signaling. 2013 Stem Cell Res. 11(3):1206-21(非特許文献14))。
【0006】
多能性幹細胞を、神経外胚葉に、さらにグリア前駆細胞およびOPCに分化させるための改善された方法が必要とされている。理想的には、そのような方法は、目的とする細胞型を一貫して再現性よく生産すると同時に、細胞療法の用途にとって十分な量の分化した細胞を生産するために容易に拡張可能であるべきである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Wilkins A, Chandran S, Compston A. A role for oligodendrocyte-derived IGF-1 in trophic support of cortical neurons. 2001 Glia. 36(1):48-57
【文献】Dai X, Lercher LD, Clinton PM, Du Y, Livingston DL, Vieira C, Yang L, Shen MM, Dreyfus CF. The trophic role of oligodendrocytes in the basal forebrain. 2003 J Neurosci. 23(13):5846-53
【文献】Du Y, Dreyfus CF. Oligodendrocytes as providers of growth factors. 2002 J Neurosci Res. 68(6):647-54
【文献】Nistor GI, Totoiu MO, Haque N, Carpenter MK, Keirstead HS. Human embryonic stem cells differentiate into oligodendrocytes in high purity and myelinate after spinal cord transplantation. 2005 Glia. 49(3):385-96
【文献】Izrael M, Zhang P, Kaufman R, Shinder V, Ella R, Amit M, Itskovitz-Eldor J, Chebath J, Revel M. Human oligodendrocytes derived from embryonic stem cells: Effect of noggin on phenotypic differentiation in vitro and on myelination in vivo. 2007 Mol. Cell. Neurosci. 34: 310-323
【文献】Hu BY, Du ZW, Zhang SC. Differentiation of human oligodendrocytes from pluripotent stem cells. 2009 Nat. Protoc. 4:1614-1622
【文献】Hu Z, Li T, Zhang X, Chen Y. Hepatocyte growth factor enhances the generation of high-purity oligodendrocytes from human embryonic stem cells. 2009 Differentiation. 78: 117-184
【文献】Manley NC, Priest CA, Denham J, Wirth ED 3rd, Lebkowski JS. Human Embryonic Stem Cell-Derived Oligodendrocyte Progenitor Cells: Preclinical Efficacy and Safety in Cervical Spinal Cord Injury. Stem Cells Transl Med. 2017 Oct;6(10):1917-1929
【文献】Chambers SM, Craft CA, Papapetrou EP, Tomishima M, Sadelain, M. Studer, L. Highly efficient neural conversion of human ES and iPS cells by dual inhibition of SMAD signaling. 2009 Nat Biotechnol. 27(3):275-280
【文献】Douvaras P, Wang J, Zimmer M, Hanchuk S, O'Bara MA, Sadiq S, Sim FJ, Goldman J, Fossati V. Efficient generation of myelinating oligodendrocytes from primary progressive multiple sclerosis patients by induced pluripotent stem cells. 2014 Stem Cell Reports. 3(2):250-9
【文献】Kirkeby A, Grealish S, Wolf DA, Nelander J, Wood J, Lundblad M, Lindvall O, Parmar M. Generation of regionally specified neural progenitors and functional neurons from human embryonic stem cells under defined conditions. 2012 Cell Rep. 1(6):703-14
【文献】Crompton LA, Byrne ML, Taylor H, Kerrigan TL, Bru-Mercier G, Badger JL, Barbuti PA, Jo J, Tyler SJ, Allen SJ, Kunath T, Cho K, Caldwell MA. Stepwise, non-adherent differentiation of human pluripotent stem cells to generate basal forebrain cholinergic neurons via hedgehog signaling. 2013 Stem Cell Res. 11(3):1206-21
【文献】Pauly MG, Krajka V, Stengel F, Seibler P, Klein C, Capetian P. Adherent vs. Free-Floating Neural Induction by Dual SMAD Inhibition for Neurosphere Cultures Derived from Human Induced Pluripotent Stem Cells. 2018 Front Cell Dev Biol. 6:3
【文献】Crompton LA, Byrne ML, Taylor H, Kerrigan TL, Bru-Mercier G, Badger JL, Barbuti PA, Jo J, Tyler SJ, Allen SJ, Kunath T, Cho K, Caldwell MA. Stepwise, non-adherent differentiation of human pluripotent stem cells to generate basal forebrain cholinergic neurons via hedgehog signaling. 2013 Stem Cell Res. 11(3):1206-21
【発明の概要】
【0008】
概要
本明細書に記載されるさまざまな態様において、本開示は、とりわけ、バイオリアクター内で実施できかつ大規模培養に適応できる動的懸濁培養において、ESCおよびiPSCなどのヒト多能性幹細胞を、神経外胚葉およびグリア細胞に分化させるための堅牢で信頼性の高いプロトコールを提供する。また、動的懸濁培養において神経外胚葉への、さらにグリア細胞への分化を誘導し、続いてグリア細胞をOPCに分化させることによって、ヒト多能性幹細胞をOPCに分化させるためのプロトコールも提供される。
【0009】
本開示は、一部には、出発材料である多能性幹細胞が動的懸濁状態で凝集され非EB凝集塊になり、ここで、多能性幹細胞は未分化のままであり、その後、該凝集塊が、TGFβ/アクチビン/ノーダルシグナル伝達の1つまたは複数の阻害物質およびBMPシグナル伝達の1つまたは複数の阻害物質を用いることによって、動的懸濁状態の間に神経外胚葉に分化するように誘導され得る、という発見に基づいている。本開示に従った動的懸濁状態での多能性幹細胞の分化は、接着培養およびEBベースの方法とは対照的に、出発材料から目的とする神経外胚葉系細胞を大量に生産するための、拡張可能、再現可能、かつ制御可能なプロセスを提供する。
【0010】
本開示の方法によって、分化過程の7日目までに神経外胚葉前駆細胞、分化過程の21日目までにグリア前駆細胞、そして分化過程の42日目までにOPCが再現性よく産生される。本開示に従って作製された42日目のOPCは、脊髄損傷を治療するために現在臨床試験中である代替方法で作られたOPCに(それらの全体的なマーカー発現プロファイルの点で)匹敵する(Priest CA, Manley NC, Denham J, Wirth ED 3rd, Lebkowski JS. Preclinical safety of human embryonic stem cell-derived oligodendrocyte progenitors supporting clinical trials in spinal cord injury. Regen Med. 2015 Nov;10(8):939-58; Manley NC, Priest CA, Denham J, Wirth ED 3rd, Lebkowski JS. Human Embryonic Stem Cell-Derived Oligodendrocyte Progenitor Cells: Preclinical Efficacy and Safety in Cervical Spinal Cord Injury. Stem Cells Transl Med. 2017 Oct;6(10):1917-1929);ただし、本開示に従って作製されたOPCは、インビトロで、上皮嚢胞(epithelial cyst)形成に関連するマーカーなどの、非OPCマーカーをより低いレベルで発現することを例外とする。
【0011】
一態様において、本開示は、グリア前駆細胞を含む細胞の集団を未分化のヒト多能性幹細胞から得る方法を提供する。特定の態様では、この方法は、(a)未分化のヒト多能性幹細胞の非胚様体(非EB)凝集塊の懸濁培養物を得る工程であって、ヒト多能性幹細胞が未分化状態のままである、工程;(b)(a)からの非EB凝集塊を、動的懸濁状態において、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)/アクチビン/ノーダルシグナル伝達の少なくとも1つの阻害物質および骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達の少なくとも1つの阻害物質の存在下で第1の期間にわたって培養し、それによって神経外胚葉への分化を誘導する工程;(c)(b)からの非EB凝集塊を動的懸濁状態で、レチノイン酸、およびスムーズンド受容体の少なくとも1つのアゴニストの存在下で、第2の期間にわたって培養する工程;ならびに(d)(c)からの凝集塊を動的懸濁状態で、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)および上皮成長因子(EGF)の存在下でさらなる期間にわたって、該細胞がグリア前駆細胞に成熟するまで培養する工程を含む。
【0012】
特定の態様では、第1の期間は約3~4日である。特定の態様では、第2の期間は約4日である。特定の態様では、工程(a)および(b)は約7~8日間にわたって実施される。特定の態様では、工程(a)~(d)は約21日間にわたって実施される。
【0013】
特定の態様では、前記方法は、(d)からの非EB凝集塊を収集してそれらを基材上にプレーティングし、それによって該凝集塊から細胞を移動させる追加の工程をさらに含む。特定の態様では、該基材は細胞接着ペプチドである。他の態様では、該基材は細胞外マトリックスタンパク質である。特定の態様では、該基材は組換えヒトラミニン521である。他の態様では、該基材はビトロネクチンまたはラミニン511 E8フラグメントである。さらに他の態様では、該基材は合成基材であり、例えば、Synthemax(登録商標)-II SC Substrateなどである。
【0014】
さらなる態様では、前記方法は、前記凝集塊から移動した細胞を基材上に接着させて、上皮成長因子(EGF)および血小板由来成長因子AA(PDGF-AA)の存在下でさらなる期間にわたって、該細胞がOPCに成熟するまで培養する追加の工程を含む。特定の態様では、該基材は細胞接着ペプチドである。他の態様では、該基材は細胞外マトリックスタンパク質である。特定の態様では、該基材は組換えヒトラミニン521である。他の態様では、該基材はビトロネクチンまたはラミニン511 E8フラグメントである。特定の態様では、接着培養は約21日間実施される。
【0015】
別の態様において、本開示は、ヒト多能性幹細胞から神経外胚葉細胞への分化を誘導する方法を提供し、この方法は、(a)未分化のヒト多能性幹細胞の非胚様体(非EB)凝集塊の懸濁培養物を得る工程であって、ヒト多能性幹細胞が未分化状態のままである、工程;(b)(a)からの非EB凝集塊を動的懸濁状態で、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)/アクチビン/ノーダルシグナル伝達の少なくとも1つの阻害物質および骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達の少なくとも1つの阻害物質の存在下で、第1の期間にわたって培養し、それによって神経外胚葉への分化を誘導する工程;ならびに(c)(b)からの非EB凝集塊を動的懸濁状態で、レチノイン酸、およびスムーズンド受容体の少なくとも1つのアゴニストの存在下で第2の期間にわたって、該細胞がペアードボックス6(PAX6)陽性神経外胚葉細胞に成熟するまで培養する工程を含む。
【0016】
特定の態様では、第1の期間は約3~4日である。特定の態様では、第2の期間は約4日である。特定の態様では、工程(a)~(c)は約7~8日間にわたって実施される。
【0017】
追加の態様において、本開示は、グリア前駆細胞を含む細胞の集団を未分化のヒト多能性幹細胞から得る方法を提供し、この方法は、(a)脱凝集しておりかつ単一細胞懸濁液を形成している未分化のヒト多能性幹細胞を動的懸濁状態で培養して、非胚葉体(非EB)凝集塊を得る工程であって、非EB凝集塊中のヒト多能性幹細胞が未分化状態のままである、工程;(b)(a)からの非EB凝集塊を動的懸濁状態で、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)/アクチビン/ノーダルシグナル伝達の少なくとも1つの阻害物質および骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達の少なくとも1つの阻害物質の存在下で、第1の期間にわたって培養し、それによって神経外胚葉への分化を誘導する工程;(c)(b)からの非EB凝集塊を動的懸濁状態で、レチノイン酸、およびスムーズンド受容体の少なくとも1つのアゴニストの存在下で、第2の期間にわたって培養する工程;ならびに(d)(c)からの凝集塊を動的懸濁状態で、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)および上皮成長因子(EGF)の存在下でさらなる期間にわたって、該細胞がグリア前駆細胞に成熟するまで培養する工程を含む。
【0018】
特定の態様では、TGFβ/アクチビン/ノーダルシグナル伝達の少なくとも1つの阻害物質は、アクチビン受容体様キナーゼ5(ALK5)の阻害物質である。他の態様では、TGFβ/アクチビン/ノーダルシグナル伝達の少なくとも1つの阻害物質は、SB431542、LY2157299、GW788388、A-77-01、A-83-01、およびSB505124からなる群より選択される。さらに他の態様では、TGFβ/アクチビン/ノーダルシグナル伝達の阻害物質は、SB431542である。
【0019】
特定の態様では、BMPシグナル伝達の少なくとも1つの阻害物質は、アクチビン受容体様キナーゼ2(ALK2)の阻害物質である。他の態様では、BMPシグナル伝達の少なくとも1つの阻害物質は、ドルソモルフィン、DMH-1、K02288、ML3467、LDN193189、およびノギンタンパク質からなる群より選択される。さらに他の態様では、BMPシグナル伝達の阻害物質はドルソモルフィンである。
【0020】
特定の態様では、少なくとも1つのスムーズンド受容体アゴニストは、プルモルファミン、スムーズンドアゴニスト(SAG、CAS 364590-63-6)、およびソニック・ヘッジホッグ(SHH)タンパク質からなる群より選択される。さらに他の態様では、スムーズンド受容体アゴニストはプルモルファミンである。
【0021】
追加の態様は、本開示の方法に従って得られた、PAX6陽性神経外胚葉細胞を含む分化した細胞集団である。特定の態様では、PAX6陽性神経外胚葉細胞は、HES5およびZBTB16より選択される1つまたは複数のマーカーをさらに発現する。
【0022】
別の態様は、本開示の方法に従って得られた、グリア前駆細胞を含む分化した細胞集団である。特定の態様では、グリア前駆細胞は、カルシウム電位依存性チャネル補助サブユニットγ4(CACNG4)、脂肪酸結合タンパク質7(FABP7)、および性決定領域Yボックス6(SOX6)より選択される1つまたは複数のマーカーを発現する。
【0023】
さらに別の態様は、本開示の方法に従って得られた、OPCを含む分化した細胞集団である。好ましい態様では、本発明による方法に従って作製されたOPCは、神経/グリア抗原2(NG2)、血小板由来成長因子受容体A(PDGFRα)、およびガングリオシドGD3(GD3)(GD3は、抗ジシアロガングリオシドおよびガングリオシドGD3シンターゼとしても知られる)より選択される1つまたは複数のマーカーを発現する。そのため、例えば、本発明に従って作製されたOPCは、NG2、PDGFRα、もしくはGD3;NG2とPDGFRα、NG2とGD3、もしくはPDGFRαとGD3の組み合わせ;またはNG2とPDGFRαとGD3の組み合わせを発現することができる。特定の態様では、分化した細胞集団は、NG2陽性細胞を少なくとも60%含む。特定の態様では、分化した細胞集団は、NG2陽性細胞を少なくとも70%含む。特定の態様では、分化した細胞集団は、NG2陽性細胞を少なくとも80%含む。他の態様では、分化した細胞集団は、NG2陽性細胞を少なくとも90%含む。特定の態様では、分化した細胞集団は、NG2陽性細胞を少なくとも98%含む。特定の態様では、分化した細胞集団は、PDGFRα陽性細胞を少なくとも60%含む。特定の態様では、分化した細胞集団は、PDGFRα陽性細胞を少なくとも70%含む。特定の態様では、分化した細胞集団は、PDGFRα陽性細胞を少なくとも80%含む。他の態様では、分化した細胞集団は、PDGFRα陽性細胞を少なくとも90%含む。特定の態様では、分化した細胞集団は、PDGFRα陽性細胞を少なくとも98%含む。特定の態様では、分化した細胞集団は、GD3陽性細胞を少なくとも60%含む。特定の態様では、分化した細胞集団は、GD3陽性細胞を少なくとも70%含む。特定の態様では、分化した細胞集団は、GD3陽性細胞を少なくとも80%含む。他の態様では、分化した細胞集団は、GD3陽性細胞を少なくとも90%含む。特定の態様では、分化した細胞集団は、GD3陽性細胞を少なくとも98%含む。
[本発明1001]
(a) 未分化のヒト多能性幹細胞の非胚様体(非EB)凝集塊の懸濁培養物を得る工程であって、該ヒト多能性幹細胞が未分化状態のままである、該工程;
(b) (a)からの非EB凝集塊を動的懸濁状態で、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)/アクチビン/ノーダルシグナル伝達の少なくとも1つの阻害物質および骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達の少なくとも1つの阻害物質の存在下で、第1の期間にわたって培養し、それによって神経外胚葉への分化を誘導する工程;
(c) (b)からの非EB凝集塊を動的懸濁状態で、レチノイン酸、およびスムーズンド受容体の少なくとも1つのアゴニストの存在下で、第2の期間にわたって培養する工程;ならびに
(d) (c)からの凝集塊を動的懸濁状態で、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)および上皮成長因子(EGF)の存在下でさらなる期間にわたって、該細胞がグリア前駆細胞に成熟するまで培養する工程
を含む、グリア前駆細胞を含む細胞の集団を未分化のヒト多能性幹細胞から得るための方法。
[本発明1002]
(d)からの非EB凝集塊を収集してそれらを基材上にプレーティングし、それによって該凝集塊から細胞を移動させる追加の工程をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記基材が組換えヒトラミニン521である、本発明1002の方法。
[本発明1004]
前記ヒト多能性幹細胞がヒト胚性幹細胞(hESC)である、本発明1001の方法。
[本発明1005]
前記ヒト多能性幹細胞がヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)である、本発明1001の方法。
[本発明1006]
TGFβ/アクチビン/ノーダルシグナル伝達の前記少なくとも1つの阻害物質がアクチビン受容体様キナーゼ5(ALK5)の阻害物質である、本発明1001の方法。
[本発明1007]
TGFβ/アクチビン/ノーダルシグナル伝達の前記少なくとも1つの阻害物質が、SB431542、LY2157299、GW788388、A-77-01、A-83-01、およびSB505124からなる群より選択される、本発明1001の方法。
[本発明1008]
TGFβ/アクチビン/ノーダルシグナル伝達の前記少なくとも1つの阻害物質がSB431542である、本発明1001の方法。
[本発明1009]
BMPシグナル伝達の前記少なくとも1つの阻害物質がアクチビン受容体様キナーゼ2(ALK2)の阻害物質である、本発明1001の方法。
[本発明1010]
BMPシグナル伝達の前記少なくとも1つの阻害物質が、ドルソモルフィン、DMH-1、K02288、ML3467、LDN193189、およびノギンタンパク質からなる群より選択される、本発明1001の方法。
[本発明1011]
BMPシグナル伝達の前記少なくとも1つの阻害物質がドルソモルフィンである、本発明1001の方法。
[本発明1012]
少なくとも1つのスムーズンド受容体アゴニストが、プルモルファミン、スムーズンドアゴニスト(SAG、CAS 364590-63-6)、およびソニック・ヘッジホッグ(SHH)タンパク質からなる群より選択される、本発明1001の方法。
[本発明1013]
少なくとも1つのスムーズンド受容体アゴニストがプルモルファミンである、本発明1001の方法。
[本発明1014]
前記第1の期間が約3~4日である、本発明1001の方法。
[本発明1015]
前記第2の期間が約3日である、本発明1001の方法。
[本発明1016]
工程(a)~(d)が約21日間にわたって実施される、本発明1001の方法。
[本発明1017]
本発明1001の方法に従って得られた、グリア前駆細胞を含む分化した細胞集団。
[本発明1018]
前記グリア前駆細胞が、カルシウム電位依存性チャネル補助サブユニットγ4(CACNG4)、脂肪酸結合タンパク質7(FABP7)、および性決定領域Yボックス6(SOX6)より選択される1つまたは複数のマーカーを発現する、本発明1017の分化した細胞集団。
[本発明1019]
(a) 本発明1001の方法に従ってグリア前駆細胞を得る工程;
(b) (a)からの細胞を収集してそれらを基材上にプレーティングし、それによって凝集塊から細胞を移動させる工程;ならび
(c) (b)からの細胞を、上皮成長因子(EGF)および血小板由来成長因子AA(PDGF-AA)の存在下でさらなる期間にわたって、該細胞がオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)に成熟するまで接着培養する工程
を含む、OPCを含む細胞の集団を未分化のヒト多能性幹細胞から得るための方法であって、
該OPCが、神経/グリア抗原2(NG2)、血小板由来成長因子受容体A(PDGFRα)、およびガングリオシドGD3(GD3)より選択される1つまたは複数のマーカーを発現する、該方法。
[本発明1020]
前記接着培養が約21日間にわたって実施される、本発明1019の方法。
[本発明1021]
前記接着培養が基材上で実施され、該基材が、(i)細胞接着ペプチド、ならびに(ii)ラミニンおよびビトロネクチンより選択される細胞外マトリックスより選択される、本発明1019の方法。
[本発明1022]
前記接着培養が組換えヒトラミニン521上で実施される、本発明1019の方法。
[本発明1023]
前記接着培養がラミニン511 E8フラグメント上で実施される、本発明1019の方法。
[本発明1024]
前記ヒト多能性幹細胞がhESCである、本発明1019の方法。
[本発明1025]
前記ヒト多能性幹細胞がhiPSCである、本発明1019の方法。
[本発明1026]
本発明1019の方法に従って得られた、OPCを含む分化した細胞集団。
[本発明1027]
前記細胞の少なくとも60%がNG2陽性である、本発明1026の分化した細胞集団。
[本発明1028]
前記細胞の少なくとも70%がNG2陽性である、本発明1026の分化した細胞集団。
[本発明1029]
前記細胞の少なくとも80%がNG2陽性である、本発明1026の分化した細胞集団。
[本発明1030]
前記細胞の少なくとも90%がNG2陽性である、本発明1026の分化した細胞集団。
[本発明1031]
前記細胞の少なくとも60%がPDGFRα陽性である、本発明1026の分化した細胞集団。
[本発明1032]
前記細胞の少なくとも70%がPDGFRα陽性である、本発明1026の分化した細胞集団。
[本発明1033]
前記細胞の少なくとも80%がPDGFRα陽性である、本発明1026の分化した細胞集団。
[本発明1034]
前記細胞の少なくとも90%がPDGFRα陽性である、本発明1026の分化した細胞集団。
[本発明1035]
前記細胞の少なくとも60%がGD3陽性である、本発明1026の分化した細胞集団。
[本発明1036]
前記細胞の少なくとも70%がGD3陽性である、本発明1026の分化した細胞集団。
[本発明1037]
前記細胞の少なくとも80%がGD3陽性である、本発明1026の分化した細胞集団。
[本発明1038]
前記細胞の少なくとも90%がGD3陽性である、本発明1026の分化した細胞集団。
[本発明1039]
(a) 未分化のヒト多能性幹細胞の非胚様体(非EB)凝集塊の懸濁培養物を得る工程であって、該ヒト多能性幹細胞が未分化状態のままである、該工程;
(b) (a)からの非EB凝集塊を動的懸濁状態で、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)/アクチビン/ノーダルシグナル伝達の少なくとも1つの阻害物質および骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達の少なくとも1つの阻害物質の存在下で、第1の期間にわたって培養し、それによって神経外胚葉への分化を誘導する工程;ならび
(c) (b)からの非EB凝集塊を動的懸濁状態で、レチノイン酸、およびスムーズンド受容体の少なくとも1つのアゴニストの存在下で第2の期間にわたって、該細胞がペアードボックス6(PAX6)陽性神経外胚葉細胞に成熟するまで培養する工程
を含む、ヒト多能性幹細胞から神経外胚葉細胞への分化を誘導するための方法。
[本発明1040]
前記ヒト多能性幹細胞がヒト胚性幹細胞(hESC)である、本発明1039の方法。
[本発明1041]
前記ヒト多能性幹細胞がヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)である、本発明1039の方法。
[本発明1042]
TGFβ/アクチビン/ノーダルシグナル伝達の前記少なくとも1つの阻害物質がアクチビン受容体様キナーゼ5(ALK5)の阻害物質である、本発明1039の方法。
[本発明1043]
TGFβ/アクチビン/ノーダルシグナル伝達の前記少なくとも1つの阻害物質が、SB431542、LY2157299、GW788388、A-77-01、A-83-01、およびSB505124からなる群より選択される、本発明1039の方法。
[本発明1044]
TGFβ/アクチビン/ノーダルシグナル伝達の前記少なくとも1つの阻害物質がSB431542である、本発明1039の方法。
[本発明1045]
BMPシグナル伝達の前記少なくとも1つの阻害物質がアクチビン受容体様キナーゼ2(ALK2)の阻害物質である、本発明1039の方法。
[本発明1046]
BMPシグナル伝達の前記少なくとも1つの阻害物質が、ドルソモルフィン、DMH-1、K02288、ML3467、LDN193189、およびノギンタンパク質からなる群より選択される、本発明1039の方法。
[本発明1047]
BMPシグナル伝達の前記少なくとも1つの阻害物質がドルソモルフィンである、本発明1039の方法。
[本発明1048]
少なくとも1つのスムーズンド受容体アゴニストが、プルモルファミン、スムーズンドアゴニスト(SAG、CAS 364590-63-6)、およびソニック・ヘッジホッグ(SHH)タンパク質からなる群より選択される、本発明1039の方法。
[本発明1049]
少なくとも1つのスムーズンド受容体アゴニストがプルモルファミンである、本発明1039の方法。
[本発明1050]
前記第1の期間が約3~4日である、本発明1039の方法。
[本発明1051]
前記第2の期間が約3日である、本発明1039の方法。
[本発明1052]
工程(a)~(c)が約7~8日間にわたって実施される、本発明1039の方法。
[本発明1053]
本発明1039の方法に従って得られた、PAX6陽性神経外胚葉細胞を含む分化した細胞集団。
[本発明1054]
前記PAX6陽性神経外胚葉細胞が、HesファミリーBHLH転写因子5(HES5)ならびにZBTB16(zinc finger and BTB domain containing 16)より選択される1つまたは複数のマーカーをさらに発現する、本発明1053の分化した細胞集団。
[本発明1055]
(a) 脱凝集しておりかつ単一細胞懸濁液を形成している未分化のヒト多能性幹細胞を動的懸濁状態で培養して、非胚様体(非EB)凝集塊を得る工程であって、該非EB凝集塊中の該ヒト多能性幹細胞が未分化状態のままである、該工程;
(b) (a)からの非EB凝集塊を動的懸濁状態で、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)/アクチビン/ノーダルシグナル伝達の少なくとも1つの阻害物質および骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達の少なくとも1つの阻害物質の存在下で、第1の期間にわたって培養し、それによって神経外胚葉への分化を誘導する工程;
(c) (b)からの非EB凝集塊を動的懸濁状態で、レチノイン酸、およびスムーズンド受容体の少なくとも1つのアゴニストの存在下で、第2の期間にわたって培養する工程;ならび
(d) (c)からの凝集塊を動的懸濁状態で、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)および上皮成長因子(EGF)の存在下でさらなる期間にわたって、該細胞がグリア前駆細胞に成熟するまで培養する工程
を含む、グリア前駆細胞を含む細胞の集団を未分化のヒト多能性幹細胞から得るための方法。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本開示に従った、ヒト胚性幹細胞から神経外胚葉(7日目)への、さらにグリア前駆細胞(21日目)およびオリゴデンドロサイト前駆細胞(42日目)への分化を示す図である。DS=動的懸濁培養。TGFβ/アクチビン/ノーダルシグナル伝達(SB431542以外)およびBMPシグナル伝達(ドルソモルフィン以外)のいくつかの追加の小分子阻害物質を試験したところ、神経外胚葉への分化誘導において同等にうまく機能することが見出された(実施例7)。
図2】多能性マーカーについて免疫細胞化学で染色した、本開示に従った未分化ヒト胚性幹細胞(uhESC)の代表的な顕微鏡写真を示す。顕微鏡写真の上段と下段はそれぞれ、DAPI、Nanog、Oct4(上段)またはDAPI、Nanog、Sox2(下段)について染色して、IN Cell Analyzer 2000で画像化した、uhESCの単一の画像視野を示す。右下のパネルのスケールバーは、図中の全ての画像に適用される。
図3】本開示に従って懸濁状態で非胚様体(非EB)凝集塊として作製して、免疫細胞化学で染色した、神経外胚葉前駆細胞の代表的な顕微鏡写真を示す。顕微鏡写真の上段と下段は、2つの代表的な実験から作製して、DAPI(左パネル)、PAX6(中央パネル)、PSA-NCAM(右パネル)について免疫細胞化学で染色した、神経外胚葉前駆細胞の凝集塊を示す。染色した細胞凝集塊は、IN Cell Analyzer 2000で画像化した。右下のパネルのスケールバーは、図中の全ての画像に適用される。
図4】本開示に従って作製して、免疫細胞化学で染色したオリゴデンドロサイト前駆細胞の代表的な顕微鏡写真を示す。顕微鏡写真の上段と下段は、2つの代表的な実験から作製して、DAPI(左パネル)とNG2(右パネル)について免疫細胞化学で染色したオリゴデンドロサイト前駆細胞を示す。染色した細胞は、IN Cell Analyzer 2000で画像化した。右下のパネルのスケールバーは、図中の全ての画像に適用される。
図5】懸濁状態で細胞凝集塊を形成させる前と、形成させてから24時間後のuhESCの遺伝子発現プロファイルの相関プロットを示す。各相関プロットは、2つの別々の実験からの-1日目(凝集塊形成前)と0日目(凝集塊形成の24時間後)の遺伝子発現プロファイルの比較を示す。各プロットについて、データ点は、実施例6に記載するように、Fluidigm qPCRで評価して、標準化したΔCTとして算出した76個の遺伝子のそれぞれを表す。R-2乗値は、各プロットの左上隅に表示されており、JMPソフトウェア(SAS社, Cary, NC, USA)を用いてベストフィットラインに基づいて算出した。
図6A】異なる小分子の組み合わせを用いて、懸濁状態で神経外胚葉前駆細胞に分化させたuhESCの7日目の遺伝子発現プロファイルの相関プロットを示す。各相関プロットは、SB431542+ドルソモルフィンで処理した細胞と、各プロットのy軸に示した代替の小分子組み合わせで処理した細胞との7日目の遺伝子発現プロファイルの比較を示す。各プロットについて、データ点は、実施例7に記載するように、Fluidigm qPCRで評価して、標準化したΔCTとして算出した96個の遺伝子のそれぞれを表す。R-2乗値は各プロットの左上隅に表示されており、JMPソフトウェア(SAS社, Cary, NC, USA)を用いてベストフィットラインに基づいて算出した。
図6B】異なる小分子の組み合わせを用いて、懸濁状態で神経外胚葉前駆細胞に分化させたuhESCの7日目の遺伝子発現プロファイルの相関プロットを示す。各相関プロットは、SB431542+ドルソモルフィンで処理した細胞と、各プロットのy軸に示した代替の小分子組み合わせで処理した細胞との7日目の遺伝子発現プロファイルの比較を示す。各プロットについて、データ点は、実施例7に記載するように、Fluidigm qPCRで評価して、標準化したΔCTとして算出した96個の遺伝子のそれぞれを表す。R-2乗値は各プロットの左上隅に表示されており、JMPソフトウェア(SAS社, Cary, NC, USA)を用いてベストフィットラインに基づいて算出した。
【発明を実施するための形態】
【0025】
詳細な説明
この説明は、本開示を実施することができる異なる方法の全て、または本開示に追加することができる特徴の全てを詳細に列挙したものではない。例えば、ある態様に関して例示された特徴は、他の態様に組み込まれてもよく、また、特定の態様に関して例示された特徴は、その態様から削除されてもよい。それゆえ、本開示は、本開示のいくつかの態様において、本明細書に記載される任意の特徴または特徴の組み合わせを除外または省略できることを企図している。さらに、本明細書で提案されたさまざまな態様への多数の変形および追加は、本開示を考慮して当業者には明らかであり、それらは本開示から逸脱するものではない。他の場合には、本発明を不必要に曖昧にしないために、周知の構造、境界面、およびプロセスを詳細に示すことはしていない。本明細書のいかなる部分も、本発明の全範囲のいずれかの部分の否定(disavowal)に影響を与えるように解釈されるべきではない。したがって、以下の説明は、本開示のいくつかの特定の局面を例示するためのものであり、それらの全ての順列、組み合わせ、および変形を網羅的に特定するものではない。
【0026】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本開示が属する当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書で本開示の説明に使用される用語は、特定の態様を説明することのみを目的としており、本開示を限定することを意図したものではない。
【0027】
本明細書で引用される全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参照文献は、それらの全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0028】
文脈が別段の指示をしない限り、本明細書に記載される本開示のさまざまな特徴は、任意の組み合わせで使用され得ることが特に意図される。さらに、本開示はまた、本開示のいくつかの態様において、本明細書に記載される任意の特徴または特徴の組み合わせを除外または省略できることも企図している。
【0029】
本明細書に開示される方法は、記載された方法を達成するための1つまたは複数の工程または動作を含むことができる。該方法の工程および/または動作は、本発明の範囲から逸脱することなく、相互に交換することができる。言い換えれば、特定の工程または動作の順序が局面を適切に作動させるのに必要でない限り、特定の工程および/または動作の順序および/または使用は、本発明の範囲から逸脱することなく変更することができる。
【0030】
本開示の説明および添付の特許請求の範囲で使用する単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈が明確に別段の指示をしない限り、複数形も含むことが意図される。
【0031】
本明細書で使用する「および/または」とは、関連するリスト項目の1つまたは複数のありとあらゆる可能な組み合わせ、ならびに別の選択肢(「または」)で解釈される場合の組み合わせの欠如を指し、それらを全て包含する。
【0032】
パーセンテージ、密度、体積などの測定可能な値を指すときに本明細書で使用する用語「約」および「およそ」は、特定された量の±20%、±10%、±5%、±1%、±0.5%、さらには±0.1%の変動を包含することを意味する。
【0033】
本明細書で使用するとき、「XとYの間」および「約XとYの間」などの表現は、XとYを含むと解釈すべきである。本明細書で使用するとき、「約XとYの間」などの表現は「約Xと約Yの間」を意味し、「約X~Y」などの表現は「約X~約Y」を意味する。
【0034】
本明細書で使用する「オリゴデンドロサイト前駆細胞」(OPC)とは、神経外胚葉/グリア系の細胞であり、特徴的なマーカーである神経/グリア抗原2(NG2)を発現し、かつオリゴデンドロサイトに分化する能力がある、中枢神経系に見出される細胞を指す。また、本発明の方法に従って作製されたOPCは、NG2、PDGFRα、およびGD3より選択される1つまたは複数のマーカーを発現することができる。
【0035】
用語「グリア系細胞」、「グリア前駆細胞」および「グリア細胞」は、本明細書では交換可能に使用され、神経外胚葉/神経前駆細胞に由来する非神経CNS細胞を指す。グリア前駆細胞はさらに分化して、OPC/オリゴデンドロサイトまたはアストロサイトを形成することができる。特定の態様では、本開示のグリア前駆細胞は、カルシウム電位依存性チャネル補助サブユニットγ4(CACNG4)、脂肪酸結合タンパク質7(FABP7)、および性決定領域Yボックス6(SOX6)より選択される1つまたは複数のマーカーを発現する。
【0036】
用語「神経外胚葉」、「神経外胚葉細胞」、「神経外胚葉前駆体」、「神経外胚葉前駆細胞」、「神経前駆細胞」、および「神経前駆体」は、本明細書では交換可能に使用され、神経前駆体経路に沿って分化することができ、CNSニューロン、オリゴデンドロサイト、アストロサイトおよび上衣細胞を形成する能力がある細胞を指す。特定の態様では、本開示の神経外胚葉細胞は、ペアードボックス6(PAX6)、HesファミリーBHLH転写因子5(HES5)、ならびにZBTB16(zinc finger and BTB domain containing 16)より選択される1つまたは複数のマーカーを発現する。
【0037】
本明細書で使用する用語「胚様体」(EB)とは、3つ全ての胚葉(germ layer)への自発的分化を受けた、多能性幹細胞由来の3次元細胞凝集塊を指す。EBは、多能性幹細胞が分化を抑制する培養条件から取り出されるときに形成される。例えば、ヒト胚性幹細胞の場合、培養培地から塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)およびトランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)を除去すると、3つ全ての胚葉への自発的分化とEBの形成が起こる。
【0038】
本明細書で使用する用語「非胚様体凝集塊」とは、多能性幹細胞が未分化のままである、多能性幹細胞から形成された3次元細胞凝集塊を指す。本開示では、非EB凝集塊は、動的懸濁状態で、多能性を維持しかつ自発的分化を抑制する(すなわち、bFGFとTGFβが培地から除去されない)細胞培養条件下に形成される。その後、未分化の細胞凝集塊は、bFGFとTGFβを同時に除去し、TGFβ/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路の阻害物質と骨形成タンパク質シグナル伝達経路の阻害物質との組み合わせなどの、神経外胚葉分化因子を添加することによって、神経外胚葉前駆細胞へと誘導される。
【0039】
本明細書で使用する用語「TGFβ/アクチビン/ノーダルシグナル伝達の阻害物質」とは、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)/アクチビン/ノーダルシグナル伝達経路に沿ったシグナルの伝達をダウンレギュレートすることができる小分子またはタンパク質モジュレーターを指す。特定の態様では、TGFβ/アクチビン/ノーダルシグナル伝達の阻害物質は、アクチビン受容体様キナーゼ5(ALK5)としても知られる、TGFβ1型受容体(TGFβR1)を直接標的とする。特定の態様では、TGFβ/アクチビン/ノーダルシグナル伝達の阻害物質は、SB431542、LY2157299、GW788388、A-77-01、A-83-01、およびSB505124からなる群より選択される。
【0040】
本明細書で使用する用語「BMPシグナル伝達の阻害物質」とは、骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路に沿ったシグナルの伝達をダウンレギュレートすることができる小分子またはタンパク質モジュレーターを指す。特定の態様では、BMPシグナル伝達の阻害物質は、アクチビン受容体様キナーゼ2(ALK2)としても知られる、アクチビンA受容体I型(ACVR1)を直接標的とする。特定の態様では、BMPシグナル伝達の阻害物質は、ドルソモルフィン、DMH-1、K02288、ML3467、LDN193189、およびノギンタンパク質からなる群より選択される。
【0041】
本明細書で使用する用語「スムーズンドアゴニスト」または「スムーズンド受容体アゴニスト」とは、ソニック・ヘッジホッグ(SHH)シグナル伝達経路の一部であるGタンパク質共役型受容体スムーズンドに直接結合して活性化することができる小分子またはタンパク質モジュレーターを指す。特定の態様では、スムーズンド受容体アゴニストは、プルモルファミン、スムーズンドアゴニスト(SAG、CAS 364590-63-6)、およびソニック・ヘッジホッグ(SHH)タンパク質からなる群より選択される。
【0042】
本明細書で使用する用語「望ましくない細胞型」とは、移植時に異所性組織の形成をもたらす可能性があるか、または本明細書に記載される嚢胞アッセイ(cyst assay)において1つまたは複数の嚢胞の形成をもたらす、神経外胚葉系以外の細胞を指す。一態様では、「望ましくない細胞型」には、上皮系統の細胞、例えば、神経前駆細胞と上皮細胞の両方に発現されるマーカーであるCD49fについて陽性の細胞、または多能性細胞と上皮細胞の両方に発現される2つのマーカーであるCLDN6もしくはEpCAMついて陽性の細胞が含まれる。
【0043】
本明細書で使用する「移植(implantation)」または「移植(transplantation)」とは、適切な送達技術を用いて(例えば、注入器具を用いて)、標的組織に細胞集団を投与することを指す。
【0044】
本明細書で使用する「対象」とは、動物またはヒトを指す。
【0045】
本明細書で使用する「それを必要とする対象」とは、中枢神経系の組織が損傷している動物またはヒトを指す。一態様では、動物またはヒトは運動機能の低下を経験している。
【0046】
本明細書で交換可能に使用される用語「中枢神経系」および「CNS」は、身体の1つまたは複数の活動を制御する神経組織の複合体を指し、脊椎動物の脳および脊髄が含まれるが、これらに限定されない。
【0047】
本明細書で状態または疾患に関して使用する「治療」または「治療する」とは、ある状態または疾患が患者に出現した後に有益なまたは望ましい結果、好ましくは臨床結果などを得るためのアプローチのことである。疾患に関する有益なまたは望ましい結果には、限定するものではないが、以下のうちの1つまたは複数が含まれる:疾患に伴う状態の改善、疾患の治癒、疾患の重症度の軽減、疾患の進行の遅延、疾患に伴う1つまたは複数の症状の緩和、疾患に罹患している人の生活の質の向上、生存期間の延長、およびそれらの任意の組み合わせ。同様に、本開示の目的では、状態に関する有益なまたは望ましい結果には、限定するものではないが、以下のうちの1つまたは複数が含まれる:状態の改善、状態の治癒、状態の重症度の軽減、状態の進行の遅延、状態に伴う1つまたは複数の症状の緩和、状態に罹患している人の生活の質の向上、生存期間の延長、およびそれらの任意の組み合わせ。
【0048】
未分化多能性幹細胞の増殖と培養
本開示に従った多能性幹細胞の分化は、任意の適切な多能性幹細胞を出発材料として用いて実施することができる。一態様では、1つの方法はヒト胚性幹細胞(hESC)株で実施し得る。別の態様では、1つの方法は人工多能性幹細胞(iPSC)を用いて実施し得る。別の態様では、1つの方法はH1、H7、H9、H13、またはH14の細胞株に由来する細胞を用いて実施し得る。別の態様では、1つの方法は霊長類の多能性幹(pPS)細胞株で実施し得る。さらに別の態様では、1つの方法は、受精せずにhESCを発生するように刺激された胚である、単為生殖体(parthenote)に由来する未分化幹細胞を用いて実施し得る。
【0049】
未分化の多能性幹細胞の増殖および培養の方法は以前に記載されている。多能性幹細胞の組織および細胞培養に関しては、例えば以下の刊行物を含む、当技術分野で入手可能な多数の刊行物のいずれかを参照されたい:Teratocarcinomas and Embryonic Stem cells: A Practical Approach (E. J. Robertson, Ed., IRL Press Ltd. 1987); Guide to Techniques in Mouse Development (P. M. Wasserman et al., Eds., Academic Press 1993); Embryonic Stem Cell Differentiation in vitro (M. V. Wiles, Meth. Enzymol. 225:900, 1993); Properties and Uses of Embryonic Stem Cells: Prospects for Application to Human Biology and Gene Therapy (P. D. Rathjen et al., Reprod. Fertil. Dev. 10:31, 1998; and R. I. Freshney, Culture of Animal Cells, Wiley-Liss, New York, 2000)。
【0050】
未分化の多能性幹細胞は、フィーダー細胞を加えずに未分化状態で維持することができる(例えば、(2004) Rosler et al., Dev. Dynam. 229:259参照)。フィーダーフリー培養は、通常、分化せずに細胞の増殖を促進する因子を含む栄養培地によって支持される(例えば、米国特許第6,800,480号参照)。一態様では、そのような因子を含む馴化培地を使用することができる。馴化培地は、そのような因子を分泌する細胞を含む培地を培養することによって得ることができる。適切な細胞には、照射した(約4,000Rad)初代マウス胚性線維芽細胞、テロメライズしたマウス線維芽細胞、またはpPS細胞に由来する線維芽細胞様細胞が含まれるが、これらに限定されない(米国特許第6,642,048号)。培地は、20%血清代替品と4ng/mL bFGFを添加したノックアウトDMEMなどの、無血清培地にフィーダーをプレーティングすることで馴化することができる。1~2日間馴化した培地は、さらにbFGFを補充して、pPS細胞培養を1~2日間支持するために使用できる(例えば、WO 01/51616; Xu et al., (2001) Nat. Biotechnol. 19:971参照)。
【0051】
あるいは、未分化形態の細胞の増殖を促進する追加の因子(線維芽細胞増殖因子またはフォルスコリンなど)を補充した、新鮮な培地または非馴化培地を使用することもできる。非限定的な例には、40~80ng/mLのbFGFが補充され、任意でSCF(15ng/mL)またはFlt3リガンド(75ng/mL)を含有する、X-VIVO(商標)10(Lonza社, Walkersville, Md.)またはQBSF(商標)-60(Quality Biological Inc. Gaithersburg, Md.)のような基本培地が含まれる(例えば、Xu et al., (2005) Stem Cells 23(3):315参照)。これらの培地製剤は、他のシステムの2~3倍の速度で細胞増殖を支持するという利点がある(例えば、WO 03/020920参照)。一態様では、hES細胞などの未分化多能性細胞は、bFGFおよびTGFβを含む培地で培養することができる。bFGFの非限定的な例示濃度としては、約80ng/mlが挙げられる。TGFβの非限定的な例示濃度としては、約0.5ng/mlが挙げられる。さらに別の態様では、未分化の多能性幹細胞は、mTeSR(商標)(Stem Cell Technologies社, Vancouver, カナダ)などの、市販の完全培地で維持することができる。
【0052】
未分化の多能性細胞は、フィーダー細胞の層上で、一般的には胚組織または胎児組織に由来する線維芽細胞の層上で、培養され得る(Thomson et al. (1998) Science 282:1145)。フィーダー細胞はヒトまたはマウス供給源由来とすることができる。ヒトフィーダー細胞は、さまざまなヒト組織から分離されるか、またはヒト胚性幹細胞から線維芽細胞への分化を介して誘導され得る(例えば、WO 01/51616参照)。使用できるヒトフィーダー細胞には、限定するものではないが、胎盤線維芽細胞(例えば、Genbacev et al. (2005) Fertil. Steril. 83(5):1517参照)、卵管上皮細胞(例えば、Richards et al. (2002) Nat. Biotechnol., 20:933参照)、包皮線維芽細胞(例えば、Amit et al. (2003) Biol. Reprod. 68:2150参照)、および子宮内膜細胞(例えば、Lee et al. (2005) Biol. Reprod. 72(1):42参照)が含まれる。
【0053】
未分化の多能性細胞の培養には、さまざまな固体表面を使用することができる。こうした固体表面には、市販の標準的な組織培養フラスコまたは細胞培養プレート、例えば6ウェル、24ウェル、96ウェル、144ウェルプレートなどが含まれるが、これらに限定されない。他の固体表面には、マイクロキャリアおよびディスクが含まれるが、これらに限定されない。未分化多能性細胞の増殖に適した固体表面は、ガラス、またはポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、メリネックス(melinex)、サーマノックス(thermanox)、もしくはそれらの組み合わせなどのプラスチックを含むがこれらに限定されない、さまざまな材料で作ることができる。適切な表面は、1種類またはそれ以上のポリマー、例えば1種類またはそれ以上のアクリレートから構成することができる。固体表面は3次元の形状であり得る。3次元固体表面の非限定的な例は、例えば、米国特許出願公開第2005/0031598号にすでに記載されている。
【0054】
未分化幹細胞は、増殖基材上でフィーダーフリー条件下に増殖させることもできる。増殖基材は、Matrigel(登録商標)マトリックス(例えば、Matrigel(登録商標)、Matrigel(登録商標)GFR)、組換えラミニン、ラミニン511組換えフラグメントE8、またはビトロネクチンであり得る。本開示の特定の態様では、増殖基材は、組換えヒトラミニン521(Biolamina社, スウェーデン, Corning社(Corning, NY)が販売)である。他の態様では、該基材は、例えばSynthemax(登録商標)-II SC Substrateなどの合成基材である。
【0055】
未分化幹細胞は、コラゲナーゼの使用または手作業による掻き取り(scraping)などの、さまざまな方法を用いて継代(passage)または継代培養(subculture)することができる。未分化幹細胞は、単一細胞懸濁液を生成する酵素的手段によって、例えばAccutase(登録商標)(Sigma Aldrich社(MO)が販売)または同様のトリプシナーゼを用いて、継代培養することができる。あるいは、未分化幹細胞は、非酵素的手段を用いて、例えば、PBS中の0.5mM EDTA、またはReLeSR(商標)(Stem Cell Technologies社, Vancouver, カナダ)を用いて、継代培養することもできる。
【0056】
一態様では、複数の未分化幹細胞は、該細胞が約3日~約10日でコンフルエンスに到達できる播種密度で播種または継代培養される。一態様では、播種密度は、約6.0×103細胞/cm2~約5.0×105細胞/cm2の範囲、例えば、約1.0×104細胞/cm2、例えば、約5.0×104細胞/cm2、例えば、約1.0×105細胞/cm2、または例えば、約3.0×105細胞/cm2増殖表面とすることができる。別の態様では、播種密度は、約6.0×103細胞/cm2~約1.0×104細胞/cm2増殖表面、例えば、約6.0×103細胞/cm2~約9.0×103細胞/cm2、例えば、約7.0×103細胞/cm2~約1.0×104細胞/cm2、例えば、約7.0×103細胞/cm2~約9.0×103細胞/cm2、または例えば、約7.0×103細胞/cm2~約8.0×103細胞/cm2増殖表面の範囲とすることができる。さらに別の態様では、播種密度は、約1.0×104細胞/cm2~約1.0×105細胞/cm2増殖表面、例えば、約2.0×104細胞/cm2~約9.0×104細胞/cm2、例えば、約3.0×104細胞/cm2~約8.0×104細胞/cm2、例えば、約4.0×104細胞/cm2~約7.0×104細胞/cm2、または例えば、約5.0×104細胞/cm2~約6.0×104細胞/cm2増殖表面の範囲とすることができる。一態様では、播種密度は、約1.0×105細胞/cm2~約5.0×105細胞/cm2増殖表面、例えば、約1.0×105細胞/cm2~約4.5×105細胞/cm2、例えば、約1.5×105細胞/cm2~約4.0×105細胞/cm2、例えば、約2.0×105細胞/cm2~約3.5×105細胞/cm2、または例えば、約2.5×105細胞/cm2~約3.0×105細胞/cm2増殖表面の範囲とすることができる。
【0057】
さまざまな適切な細胞培養および継代培養の技術のいずれかを用いて、本開示の方法に従って幹細胞を培養することができる。例えば、培地を、細胞の継代培養の約2日後に開始して、毎日、完全に交換する。一態様では、培養物のコロニー被覆率が約90%に達した時点で、1種類またはそれ以上の適切な試薬、例えば定量用の単一細胞懸濁液をもたらすAccutase(登録商標)などを用いて、後続の培養のために細胞を剥離(detach)および播種することができる。一態様では、その後、未分化幹細胞を継代培養してから、該細胞が適切な期間で、例えば約3~10日で、コンフルエントに到達できる播種密度で、適切な増殖基材(例えば、組換えヒトラミニン521)上に該細胞を播種することができる。一態様では、未分化幹細胞を、コラゲナーゼIVを用いて継代培養して、組換えラミニン上で増殖させる。別の態様では、未分化幹細胞を、コラゲナーゼIVを用いて継代培養して、Matrigel(登録商標)上で増殖させる。一態様では、未分化幹細胞を、ReLeSR(商標)を用いて継代培養して、組換えヒトラミニン521上で増殖させる。
【0058】
未分化幹細胞を播種する場合、播種密度は、約6.0×103細胞/cm2~約5.0×105細胞/cm2の範囲、例えば、約1.0×104細胞/cm2、例えば、約5.0×104細胞/cm2、例えば、約1.0×105細胞/cm2、または例えば、約3.0×105細胞/cm2増殖表面とすることができる。別の態様では、播種密度は、約6.0×103細胞/cm2~約1.0×104細胞/cm2増殖表面、例えば、約6.0×103細胞/cm2~約9.0×103細胞/cm2、例えば、約7.0×103細胞/cm2~約1.0×104細胞/cm2、例えば、約7.0×103細胞/cm2~約9.0×103細胞/cm2、または例えば、約7.0×103細胞/cm2~約8.0×103細胞/cm2増殖表面の範囲とすることができる。さらに別の態様では、播種密度は、約1.0×104細胞/cm2~約1.0×105細胞/cm2増殖表面、例えば、約2.0×104細胞/cm2~約9.0×104細胞/cm2、例えば、約3.0×104細胞/cm2~約8.0×104細胞/cm2、例えば、約4.0×104細胞/cm2~約7.0×104細胞/cm2、または例えば、約5.0×104細胞/cm2~約6.0×104細胞/cm2増殖表面の範囲とすることができる。一態様では、播種密度は、約1.0×105細胞/cm2~約5.0×105細胞/cm2増殖表面、例えば、約1.0×105細胞/cm2~約4.5×105細胞/cm2、例えば、約1.5×105細胞/cm2~約4.0×105細胞/cm2、例えば、約2.0×105細胞/cm2~約3.5×105細胞/cm2、または例えば、約2.5×105細胞/cm2~約3.0×105細胞/cm2増殖表面の範囲とすることができる。
【0059】
未分化多能性幹細胞の神経誘導
本開示は、TGFβ/アクチビン/ノーダルシグナル伝達およびBMPシグナル伝達の小分子およびタンパク質モジュレーターを用いて、多能性幹細胞を神経外胚葉に、さらにはグリア前駆細胞およびOPCに分化させるための方法を提供する。いかなる特定の理論にもとらわれないが、本発明者らは、出発材料である多能性幹細胞が動的懸濁状態で凝集され非EB凝集塊になり、ここで、多能性幹細胞は未分化のままであり、その後、該凝集塊が、TGFβ/アクチビン/ノーダルシグナル伝達の1つまたは複数の阻害物質およびBMPシグナル伝達の1つまたは複数の阻害物質(二重SMAD阻害)を用いることによって、動的懸濁状態の間に神経外胚葉に分化するように誘導され得ることを見出した。動的懸濁培養は、接着培養およびEBベースの方法とは対照的に、出発材料から大量の細胞を生産するための、拡張可能、再現可能、かつ制御可能なプロセスを提供する。動的懸濁状態での二重SMAD阻害の方法は、本明細書で詳しく説明される。
【0060】
一態様では、1つの方法は、小さな非EB凝集塊を形成しているが未分化のままである未分化幹細胞を、動的懸濁状態でTGFβ/アクチビン/ノーダルシグナル伝達の1つまたは複数の阻害物質およびBMPシグナル伝達の1つまたは複数の阻害物質の存在下で培養し、それによって神経誘導を開始する工程を含む。特定の態様では、TGFβ/アクチビン/ノーダルシグナル伝達の阻害物質は小分子である。他の態様では、TGFβ/アクチビン/ノーダルシグナル伝達の阻害物質はタンパク質である。いくつかの態様では、TGFβ/アクチビン/ノーダルシグナル伝達の阻害物質の直接の標的は、TGFβ1型受容体(TGFβR1)としても知られるALK5である。特定の態様では、BMPシグナル伝達の阻害物質は小分子である。他の態様では、BMPシグナル伝達の阻害物質はタンパク質である。いくつかの態様では、BMPシグナル伝達の阻害物質の直接の標的は、アクチビンA受容体I型(ACVR1)としても知られるALK2である。特定の態様では、二重SMAD阻害に続いて、得られた細胞を、動的懸濁状態で1つまたは複数のスムーズンド受容体アゴニストおよびレチノイン酸の存在下で培養する。
【0061】
特定の態様では、TGFβ/アクチビン/ノーダルシグナル伝達の阻害物質は、SB431542、LY2157299、GW788388、A-77-01、A-83-01、SB505124、およびそれらの誘導体からなる群より選択することができる。特定の態様では、BMPシグナル伝達の阻害物質は、ドルソモルフィン、DMH-1、K02288、ML3467、LDN193189、およびノギンタンパク質からなる群より選択することができる。特定の態様では、スムーズンドアゴニストは、プルモルファミン、SAG(CAS 364590-63-6)、SSHタンパク質、およびそれらの誘導体からなる群より選択することができる。
【0062】
一態様では、1つの方法は、図1に示されるように、未分化状態のままである多能性幹細胞を含む非EB凝集塊を得る工程;非EB凝集塊を動的懸濁状態で小分子SB431542およびドルソモルフィンの存在下で、第1の期間にわたって培養する工程;その後、該凝集塊を動的懸濁状態でスムーズンドアゴニストおよびレチノイン酸の存在下で、第2の期間にわたって培養する工程を含む。一態様では、第1の期間および第2の期間はそれぞれ、約1~約4日の範囲、例えば、約1日、例えば、約2日、例えば、約3日、例えば、約4日とすることができる。
【0063】
一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約1μM~約100μMの範囲、例えば、約5μM、約10μM、例えば、約15μM、例えば、約20μM、例えば、約25μM、例えば、約30μM、例えば、約35μM、例えば、約40μM、例えば、約45μM、例えば、約50μM、例えば、約55μM、例えば、約60μM、例えば、約65μM、例えば、約70μM、例えば、約75μM、例えば、約80μM、例えば、約85μM、例えば、約90μM、または例えば、約95μMの濃度のSB431542の存在下で培養する工程を含む。別の態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約1μM~約20μM、例えば、約1μM~約13μM、例えば、約8μM~約20μM、例えば、約8μM~約13μM、または例えば、約9μM~約11μMの範囲の濃度のSB431542の存在下で培養する工程を含む。さらに別の態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約20μM~約40μM、例えば、約20μM~約33μM、例えば、約28μM~約40μM、例えば、約28μM~約33μM、または例えば、約29μM~約31μMの範囲の濃度のSB431542の存在下で培養する工程を含む。一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約40μM~約60μM、例えば、約40μM~約53μM、例えば、約48μM~約55μM、例えば、約48μM~約53μM、または例えば、約49μM~約51μMの範囲の濃度のSB431542の存在下で培養する工程を含む。一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約60μM~約80μM、例えば、約60μM~約73μM、例えば、約68μM~約75μM、例えば、約68μM~約73μM、または例えば、約69μM~約71μMの範囲の濃度のSB431542の存在下で培養する工程を含む。一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約80μM~約100μM、例えば、約80μM~約93μM、例えば、約88μM~約95μM、例えば、約88μM~約93μM、または例えば、約89μM~約91μMの範囲の濃度のSB431542の存在下で培養する工程を含む。一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約10μMの濃度のSB431542の存在下で培養する工程を含む。
【0064】
一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約250nM~約250μMの範囲、例えば、約1μM、約10μM、約50μM、約100μM、約150μM、または約200μMの濃度のALK5阻害物質の存在下で培養する工程を含む。一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約10μMのALK5阻害物質の存在下で培養する工程を含む。
【0065】
一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約250nM~約250μMの範囲、例えば、約1μM、約10μM、約50μM、約100μM、約150μM、または約200μMの濃度のLY364947の存在下で培養する工程を含む。一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約10μMのLY364947の存在下で培養する工程を含む。
【0066】
一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約250nM~約250μMの範囲、例えば、約1μM、約10μM、約50μM、約100μM、約150μM、または約200μMの濃度のGW788388の存在下で培養する工程を含む。一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約10μMのGW788388の存在下で培養する工程を含む。
【0067】
一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約250nM~約250μMの範囲、例えば、約1μM、約10μM、約50μM、約100μM、約150μM、または約200μMの濃度のA-77-01の存在下で培養する工程を含む。一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約10μMのA-77-01の存在下で培養する工程を含む。
【0068】
一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約250nM~約250μMの範囲、例えば、約1μM、約10μM、約50μM、約100μM、約150μM、または約200μMの濃度のA-83-01の存在下で培養する工程を含む。一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約10μMのA-83-01の存在下で培養する工程を含む。
【0069】
一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約250nM~約250μMの範囲、例えば、約1μM、約10μM、約50μM、約100μM、約150μM、または約200μMの濃度のSB505124の存在下で培養する工程を含む。一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約10μMのSB505124の存在下で培養する工程を含む。
【0070】
一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約0.2μM~約20μMの範囲、例えば、約0.5μM、例えば、約0.8μM、例えば、約1μM、例えば、約1.5μM、例えば、約2μM、例えば、約2.5μM、例えば、約3μM、例えば、約3.5μM、例えば、約4μM、例えば、約4.5μM、例えば、約5μM、例えば、約5.5μM、例えば、約6μM、例えば、約6.5μM、例えば、約7μM、例えば、約7.5μM、例えば、約8μM、例えば、約8.5μM、例えば、約9μM、例えば、約10μM、例えば、約11μM、例えば、約12μM、例えば、約13μM、例えば、約14μM、例えば、約15μM、例えば、約16μM、例えば、約17μM、例えば、約18μM、または例えば、約19μMの濃度のドルソモルフィンの存在下で培養する工程を含む。別の態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約0.2μM~約1μM、例えば、約0.2μM~約0.9μM、例えば、約0.3μM~約0.8μM、例えば、約0.4μM~約0.7μM、または例えば、約0.5μM~約0.6μMの範囲の濃度のドルソモルフィンの存在下で培養する工程を含む。さらに別の態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約1μM~約10μM、例えば、約1μM~約9μM、例えば、約2μM~約8μM、例えば、約3μM~約7μM、または例えば、約4μM~約6μMの範囲の濃度のドルソモルフィンの存在下で培養する工程を含む。一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約10μM~約20μM、例えば、約10μM~約19μM、例えば、約12μM~約18μM、例えば、約13μM~約17μM、または例えば、約14μM~約16μMの範囲の濃度のドルソモルフィンの存在下で培養する工程を含む。一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約2μMの濃度のドルソモルフィンの存在下で培養する工程を含む。
【0071】
一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約1nM~約20μMの範囲、例えば、約10nM、約50nM、約100nM、約150nM、約200nM、約500nM、約1μM、約5μM、約10μM、または約15μMの濃度のALK2阻害物質の存在下で培養する工程を含む。
【0072】
一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約1μM~約10μMの範囲の濃度のDMH-1の存在下で培養する工程を含む。一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約2μMのDMH-1の存在下で培養する工程を含む。
【0073】
一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約1μM~約10μMの範囲の濃度のK02288の存在下で培養する工程を含む。一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約2μMのK02288の存在下で培養する工程を含む。
【0074】
一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約1μM~約10μMの範囲の濃度のML347の存在下で培養する工程を含む。一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約2μMのML347の存在下で培養する工程を含む。
【0075】
一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約0.05μM~約5μMの範囲、例えば、約0.08μM、例えば、約0.1μM、例えば、約0.2μM、例えば、約0.3μM、例えば、約0.4μM、例えば、約0.5μM、例えば、約0.6μM、例えば、約0.7μM、例えば、約0.8μM、例えば、約0.9μM、例えば、約1μM、例えば、約2μM、例えば、約3μM、例えば、約4μMの濃度のプルモルファミンの存在下で培養する工程を含む。別の態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約0.05μM~約0.1μM、例えば、約0.06μM~約0.09μM、または例えば、約0.07μM~約0.08μMの範囲の濃度のプルモルファミンの存在下で培養する工程を含む。別の態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約0.1μM~約1μM、例えば、約0.2μM~約0.9μM、例えば、約0.3μM~約0.8μM、例えば、約0.4μM~約0.7μM、または例えば、約0.5μM~約0.6μMの範囲の濃度のプルモルファミンの存在下で培養する工程を含む。別の態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約1μM~約5μM、例えば、約1μM~約4μM、例えば、約2μM~約5μM、または例えば、約2μM~約4μMの範囲の濃度のプルモルファミンの存在下で培養する工程を含む。一態様では、1つの方法は、増殖されているが未分化のESCを約0.5μMの濃度のプルモルファミンと共にインキュベートする工程を含む。
【0076】
一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約2.5nM~約5μMの範囲、例えば、約50nM、約100nM、約250nM、約500nM、約750nM、約1μM、または約2.5μMの濃度のスムーズンドアゴニストの存在下で培養する工程を含む。
【0077】
一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約10nM~約1μM、例えば、約10nM~約100nM、例えば、約100nM~約500nM、または例えば、約500nM~約1000nMの範囲の濃度のSAGの存在下で培養する工程を含む。一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約0.5μMのSAGの存在下で培養する工程を含む。
【0078】
一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約2.5nM~約250nM、例えば、約2.5nM~約10nM、例えば、約10nM~約100nM、または例えば、約100nM~約250nMの範囲の濃度のSHHタンパク質の存在下で培養する工程を含む。一態様では、1つの方法は、非EB凝集塊を動的懸濁状態で約25nMのSHHタンパク質の存在下で培養する工程を含む。
【0079】
動的懸濁培養に適した細胞培養容器または反応器はどれも、本開示で企図される分化工程に使用することができる。容器の壁は通常、培養細胞の接着に対して不活性または抵抗性である。また、細胞が沈降するのを防ぐための手段も存在し、例えば、磁気的または機械的に駆動する撹拌棒またはパドルのような撹拌機構、振とう機構(通常は外部から容器に取り付けられる)、または反転機構(すなわち、細胞への重力の方向を変えるように容器を回転させる装置)がある。
【0080】
プロセス開発用の懸濁培養に適した容器には、通常の範囲の市販のスピナー、ロッカーバッグ、またはシェーカーフラスコが含まれる。商業生産に適した例示的なバイオリアクターとしては、VerticalWheel(商標)バイオリアクター(PBS Biotech社, Camarillo, CA)が挙げられる。
【0081】
OPC組成物
本開示の方法を用いて、細胞療法に適したオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)を含む組成物を得ることができる。本開示に従って得られたOPCは、OPCに特徴的なプロテオグリカンNG2を高レベルで発現し、望ましくない細胞型に関連する非OPCマーカー、例えば、神経前駆細胞と上皮細胞の両方で発現されかつインビトロ嚢胞形成に関連するCD49f(Debnath J, Muthuswamy SK, Brugge JS. Morphogenesis and oncogenesis of MCF-10A mammary epithelial acini grown in three-dimensional basement membrane cultures. 2003 Methods. 3:256-68)、または多能性細胞と上皮細胞の両方で発現される2つのマーカーCLDN6およびEpCAM(Lin D, Guo Y, Li Y, Ruan Y, Zhang M, Jin X, Yang M, Lu Y, Song P, Zhao S, Dong B, Xie Y, Dang Q, Quan C. Bioinformatic analysis reveals potential properties of human Claudin-6 regulation and functions. Oncol Rep. 2017 Aug;38(2):875-885; Huang L, Yang Y, Yang F, Liu S, Zhu Z, Lei Z, Guo J. Functions of EpCAM in physiological processes and diseases (Review). Int J Mol Med. 2018 Oct;42(4):1771-1785)を低レベルで発現する。
【0082】
特定の態様では、本開示に従って作製されたOPCは、ヒト多能性幹細胞のインビトロで分化した子孫である。本開示に従って得られたOPCは、ヒト胚性幹細胞のインビトロで分化した子孫である。他の態様では、本開示に従って得られたOPCは、人工多能性幹(iPS)細胞のインビトロで分化した子孫である。
【0083】
得られたOPC集団の1つまたは複数の特性は、フローサイトメトリーを用いてさまざまな細胞マーカーを定量化することによって決定することができ、例えば、細胞集団の何パーセントが特定のマーカーまたはマーカーのセットに陽性であるかを確認すること、またはOPC集団に存在する望ましくない細胞型特定することができる。一態様では、本発明の方法に従って作製されたOPCは、NG2、PDGFRα、およびGD3より選択される1つまたは複数のマーカーを発現する。
【0084】
本開示に従って得られたOPC集団は、約30%~約100%のNG2陽性細胞を含むことができ、例えば、少なくとも約35%、例えば、少なくとも約40%、例えば、少なくとも約45%、例えば、少なくとも約50%、例えば、少なくとも約55%、例えば、少なくとも約60%、例えば、少なくとも約65%、例えば、少なくとも約70%、例えば、少なくとも約75%、例えば、少なくとも約80%、例えば、少なくとも約85%、例えば、少なくとも約90%、例えば、少なくとも約95%、例えば、少なくとも約98%、例えば、少なくとも約99%、例えば、少なくとも約99.5%、例えば、少なくとも約99.8%、または例えば、少なくとも約99.9%のNG2陽性細胞を含む。特定の態様では、本開示に従って得られたOPC集団は、約45%~約75%のNG2陽性細胞を含むことができ、例えば、約45%~約50%、例えば、約50%~約55%、例えば、約55%~約60%、例えば、約60%~約65%、例えば、約65%~約70%、例えば、約70%~約75%、例えば、約50%~約70%、例えば、約55%~約65%、または例えば、約58%~約63%のNG2陽性細胞を含む。他の態様では、本開示に従って得られたOPC集団は、約60%~約90%のNG2陽性細胞、例えば、約60%~約65%、例えば、約65%~約70%の陽性細胞を含むことができる。本開示に従って得られたOPC集団は、約30%~約100%のPDGFRα陽性細胞を含むことができ、例えば、少なくとも約35%、例えば、少なくとも約40%、例えば、少なくとも約45%、例えば、少なくとも約50%、例えば、少なくとも約55%、例えば、少なくとも約60%、例えば、少なくとも約65%、例えば、少なくとも約70%、例えば、少なくとも約75%、例えば、少なくとも約80%、例えば、少なくとも約85%、例えば、少なくとも約90%、例えば、少なくとも約95%、例えば、少なくとも約98%、例えば、少なくとも約99%、例えば、少なくとも約99.5%、例えば、少なくとも約99.8%、または例えば、少なくとも約99.9%のPDGFRα陽性細胞を含む。特定の態様では、本開示に従って得られたOPC集団は、約45%~約75%のPDGFRα陽性細胞を含むことができ、例えば、約45%~約50%、例えば、約50%~約55%、例えば、約55%~約60%、例えば、約60%~約65%、例えば、約65%~約70%、例えば、約70%~約75%、例えば、約50%~約70%、例えば、約55%~約65%、または例えば、約58%~約63%のPDGFRα陽性細胞を含む。他の態様では、本開示に従って得られたOPC集団は、約60%~約90%のPDGFRα陽性細胞、例えば、約60%~約65%、例えば、約65%~約70%の陽性細胞を含むことができる。本開示に従って得られたOPC集団は、約30%~約100%のGD3陽性細胞を含むことができ、例えば、少なくとも約35%、例えば、少なくとも約40%、例えば、少なくとも約45%、例えば、少なくとも約50%、例えば、少なくとも約55%、例えば、少なくとも約60%、例えば、少なくとも約65%、例えば、少なくとも約70%、例えば、少なくとも約75%、例えば、少なくとも約80%、例えば、少なくとも約85%、例えば、少なくとも約90%、例えば、少なくとも約95%、例えば、少なくとも約98%、例えば、少なくとも約99%、例えば、少なくとも約99.5%、例えば、少なくとも約99.8%、または例えば、少なくとも約99.9%のGD3陽性細胞を含む。特定の態様では、本開示に従って得られたOPC集団は、約45%~約75%のGD3陽性細胞を含むことができ、例えば、約45%~約50%、例えば、約50%~約55%、例えば、約55%~約60%、例えば、約60%~約65%、例えば、約65%~約70%、例えば、約70%~約75%、例えば、約50%~約70%、例えば、約55%~約65%、または例えば、約58%~約63%のGD3陽性細胞を含む。他の態様では、本開示に従って得られたOPC集団は、約60%~約90%のGD3陽性細胞、例えば、約60%~約65%、例えば、約65%~約70%の陽性細胞を含むことができる。
【0085】
一態様では、本開示に従って得られたOPC集団は、本開示の実施例8に記載される嚢胞アッセイにおいて、100,000個の細胞あたり4個未満または4個の上皮嚢胞(epithelial cyst)を形成することが可能であり得る。別の態様では、本開示に従って得られたOPC集団は、嚢胞アッセイにおいて、100,000個の細胞あたり3個未満または3個の上皮嚢胞を形成することが可能であり得る。別の態様では、本開示に従って得られたOPC集団は、嚢胞アッセイにおいて、100,000個の細胞あたり2個未満または2個の上皮嚢胞を形成することが可能であり得る。さらに別の態様では、本開示に従って得られたOPC集団は、本開示の実施例8に記載される嚢胞アッセイにおいて、100,000個の細胞あたり1個未満または1個の上皮嚢胞を形成することが可能であり得る。
【0086】
望ましくない細胞型
本開示に従って得られたOPC集団は、例えば、フローサイトメトリーによる望ましくない細胞型に関連するマーカーの定量化によって測定されるように、望ましくない細胞型を低レベルで含む。非限定的な例では、本開示に従って得られた42日目のOPCは、上皮細胞関連マーカーであるEpCAM、CD49f、およびCLDN6を発現する細胞を0%~4%含んでいた(実施例5、表2)。
【0087】
望ましくない細胞型に関連するマーカーは、約20%未満の望ましくない細胞型、例えば、約19%未満、例えば、約18%未満、例えば、約17%未満、例えば、約16%未満、例えば、約15%未満、例えば、約14%未満、例えば、約13%未満、例えば、約12%未満、例えば、約11%未満、例えば、約10%未満、例えば、約9%未満、例えば、約8%未満、例えば、約7%未満、例えば、約6%未満、例えば、約5%未満、例えば、約4%未満、例えば、約3%未満、例えば、約2%未満、例えば、約1%未満、例えば、約0.5%未満、例えば、約0.1%未満、例えば、約0.05%未満、または例えば、約0.01%未満の望ましくない細胞型を構成し得る。別の態様では、細胞集団は、約15%~約20%の望ましくない細胞型を含むことがあり、例えば、約19%~約20%、例えば、約18%~約20%、例えば、約17%~約20%、例えば、約16%~約20%、例えば、約15%~約19%、または例えば、約16%~約18%の望ましくない細胞型を含む。さらに別の態様では、細胞集団は、約10%~約15%の望ましくない細胞型を含むことがあり、例えば、約14%~約15%、例えば、約13%~約15%、例えば、約12%~約15%、例えば、約11%~約15%、または例えば、約12%~約14%の望ましくない細胞型を含む。一態様では、細胞集団は、約1%~約10%の望ましくない細胞型を含むことがあり、例えば、約2%~約10%、例えば、約1%~約9%、例えば、約2%~約8%、例えば、約3%~約7%、または例えば、約4%~約6%の望ましくない細胞型を含む。一態様では、細胞集団は、約0.1%~約1%の望ましくない細胞型を含むことがあり、例えば、約0.2%~約1%、例えば、約0.1%~約0.9%、例えば、約0.2%~約0.8%、例えば、約0.3%~約0.7%、または例えば、約0.4%~約0.6%の望ましくない細胞型を含む。一態様では、細胞集団は、約0.01%~約0.1%の望ましくない細胞型を含むことがあり、例えば、約0.02%~約0.1%、例えば、約0.01%~約0.09%、例えば、約0.02%~約0.08%、例えば、約0.03%~約0.07%、または例えば、約0.04%~約0.06%の望ましくない細胞型を含む。一態様では、低レベルの望ましくない細胞型は、約15%未満の望ましくない細胞型の存在を表すことができる。
【0088】
一態様では、望ましくない細胞型は、CD49f、CLDN6、またはEpCAMより選択されるもう1つのマーカーを発現する細胞を含み得る。
【0089】
製剤化
本開示によるOPC組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含むことができる。一態様では、薬学的に許容される担体はジメチルスルホキシド(DMSO)を含み得る。一態様では、薬学的に許容される担体はジメチルスルホキシドを含まない。一態様では、組成物は、-80℃~-195℃またはそれより低い温度での凍結保存に適合させることができる。
【0090】
本開示によるOPC組成物は、対象の脊髄への直接注射を介した投与のために製剤化することができる。一態様では、本開示によるOPC組成物は、対象への脳内、脳室内、髄腔内、鼻腔内、または嚢内投与のために製剤化することができる。一態様では、本開示によるOPC組成物は、対象の脳内の梗塞腔(infarct cavity)に直接、またはそれにすぐ隣接して、注射を介して投与するために製剤化することができる。一態様では、本開示による組成物は、移植を介した投与のために製剤化することができる。一態様では、本開示による組成物は、溶液として製剤化することができる。
【0091】
本開示によるOPC組成物は、ミリリットルあたり約1×106~約5×108細胞を含むことができ、例えば、ミリリットルあたり約1×106細胞、例えば、ミリリットルあたり約2×106細胞、例えば、ミリリットルあたり約3×106細胞、例えば、ミリリットルあたり約4×106細胞、例えば、ミリリットルあたり約5×106細胞、例えば、ミリリットルあたり約6×106細胞、例えば、ミリリットルあたり約7×106細胞、例えば、ミリリットルあたり約8×106細胞、例えば、ミリリットルあたり約9×106細胞、例えば、ミリリットルあたり約1×107細胞、例えば、ミリリットルあたり約2×107細胞、例えば、ミリリットルあたり約3×107細胞、例えば、ミリリットルあたり約4×107細胞、例えば、ミリリットルあたり約5×107細胞、例えば、ミリリットルあたり約6×107細胞、例えば、ミリリットルあたり約7×107細胞、例えば、ミリリットルあたり約8×107細胞、例えば、ミリリットルあたり約9×107細胞、例えば、ミリリットルあたり約1×108細胞、例えば、ミリリットルあたり約2×108細胞、例えば、ミリリットルあたり約3×108細胞、例えば、ミリリットルあたり約4×108細胞、または例えば、ミリリットルあたり約5×108細胞を含む。別の態様では、本開示による組成物は、ミリリットルあたり約1×108~約5×108細胞を含むことができ、例えば、ミリリットルあたり約1×108~約4×108細胞、例えば、ミリリットルあたり約2×108~約5×108細胞、例えば、ミリリットルあたり約1×108~約3×108細胞、例えば、ミリリットルあたり約2×108~約4×108細胞、または例えば、ミリリットルあたり約3×108~約5×108細胞を含む。さらに別の態様では、本開示による組成物は、ミリリットルあたり約1×107~約1×108細胞を含むことができ、例えば、ミリリットルあたり約2×107~約9×107細胞、例えば、ミリリットルあたり約3×107~約8×107細胞、例えば、ミリリットルあたり約4×107~約7×107細胞、または例えば、ミリリットルあたり約5×107~約6×107細胞を含む。一態様では、本開示による組成物は、ミリリットルあたり約1×106~約1×107細胞を含むことができ、例えば、ミリリットルあたり約2×106~約9×106細胞、例えば、ミリリットルあたり約3×106~約8×106細胞、例えば、ミリリットルあたり約4×106~約7×106細胞、または例えば、ミリリットルあたり約5×106~約6×106細胞を含む。さらに別の態様では、本開示による組成物は、ミリリットルあたり少なくとも約1×106細胞を含むことができ、例えば、ミリリットルあたり少なくとも約2×106細胞、例えば、ミリリットルあたり少なくとも約3×106細胞、例えば、ミリリットルあたり少なくとも約4×106細胞、例えば、ミリリットルあたり少なくとも約5×106細胞、例えば、ミリリットルあたり少なくとも約6×106細胞、例えば、ミリリットルあたり少なくとも約7×106細胞、例えば、ミリリットルあたり少なくとも約8×106細胞、例えば、ミリリットルあたり少なくとも約9×106細胞、例えば、ミリリットルあたり少なくとも約1×107細胞、例えば、ミリリットルあたり少なくとも約2×107細胞、例えば、ミリリットルあたり少なくとも約3×107細胞、例えば、ミリリットルあたり少なくとも約4×107細胞、または例えば、ミリリットルあたり少なくとも約5×107細胞を含む。一態様では、本開示による組成物は、ミリリットルあたり約1×108細胞まで、またはそれ以上を含むことができ、例えば、ミリリットルあたり約2×108細胞までまたはそれ以上、例えば、ミリリットルあたり約3×108細胞までまたはそれ以上、例えば、ミリリットルあたり約4×108細胞までまたはそれ以上、例えば、ミリリットルあたり約5×108細胞までまたはそれ以上、または例えば、ミリリットルあたり約6×108細胞までを含む。
【0092】
一態様では、本開示によるOPC組成物は、ミリリットルあたり約4×107~約2×108細胞を含むことができる。
【0093】
さらに別の態様では、本開示によるOPC組成物は、約10マイクロリットル~約5ミリリットルの範囲の体積を有することができ、例えば、約20マイクロリットル、例えば、約30マイクロリットル、例えば、約40マイクロリットル、例えば、約50マイクロリットル、例えば、約60マイクロリットル、例えば、約70マイクロリットル、例えば、約80マイクロリットル、例えば、約90マイクロリットル、例えば、約100マイクロリットル、例えば、約200マイクロリットル、例えば、約300マイクロリットル、例えば、約400マイクロリットル、例えば、約500マイクロリットル、例えば、約600マイクロリットル、例えば、約700マイクロリットル、例えば、約800マイクロリットル、例えば、約900マイクロリットル、例えば、約1ミリリットル、例えば、約1.5ミリリットル、例えば、約2ミリリットル、例えば、約2.5ミリリットル、例えば、約3ミリリットル、例えば、約3.5ミリリットル、例えば、約4ミリリットル、または例えば、約4.5ミリリットルの体積を有する。一態様では、本開示による組成物は、約10マイクロリットル~約100マイクロリットルの範囲の体積を有することができ、例えば、約20マイクロリットル~約90マイクロリットル、例えば、約30マイクロリットル~約80マイクロリットル、例えば、約40マイクロリットル~約70マイクロリットル、または例えば、約50マイクロリットル~約60マイクロリットルの体積を有する。別の態様では、本開示による組成物は、約100マイクロリットル~約1ミリリットルの範囲の体積を有することができ、例えば、約200マイクロリットル~約900マイクロリットル、例えば、約300マイクロリットル~約800マイクロリットル、例えば、約400マイクロリットル~約700マイクロリットル、または例えば、約500マイクロリットル~約600マイクロリットルの体積を有する。さらに別の態様では、本開示による組成物は、約1ミリリットル~約5ミリリットルの範囲の体積を有することができ、例えば、約2ミリリットル~約5ミリリットル、例えば、約1ミリリットル~約4ミリリットル、例えば、約1ミリリットル~約3ミリリットル、例えば、約2ミリリットル~約4ミリリットル、または例えば、約3ミリリットル~約5ミリリットルの範囲の体積を有する。一態様では、本開示によるOPC組成物は、約20マイクロリットル~約500マイクロリットルの体積を有することができる。別の態様では、本開示によるOPC組成物は、約50マイクロリットル~約100マイクロリットルの体積を有することができる。さらに別の態様では、本開示によるOPC組成物は、約50マイクロリットル~約200マイクロリットルの体積を有することができる。別の態様では、本開示によるOPC組成物は、約20マイクロリットル~約400マイクロリットルの体積を有することができる。一態様では、本開示によるOPC組成物は、凍結保存のために、またはそれを必要とする対象への投与のために構成された容器内に存在し得る。一態様では、容器はプレフィルドシリンジであり得る。
【0094】
使用方法
本開示に従って得られたOPC組成物は、治療を必要とする対象において1つまたは複数の神経機能を改善するための細胞療法に使用することができる。一態様では、本開示によるOPC細胞集団は、それを必要とする対象に注射または移植され得る。一態様では、本開示による細胞集団は、脊髄損傷、脳卒中、または多発性硬化症を治療するために、それを必要とする対象に移植され得る。
【0095】
一態様では、本開示による細胞集団は、対象の移植部位で、ミエリンを欠く軸索(denuded axon)のミエリン形成を誘導できる可能性がある。一態様では、本開示の方法に従って作製された細胞集団は、生着および移動のための改善された能力を示すことができる。一態様では、本開示の方法に従って作製された細胞集団は、対象の神経組織の損傷後修復または再生を改善できる可能性がある。
【0096】
本開示による細胞集団は、治療を必要とする対象に該集団を移植した後に、該対象において感覚機能を改善できる可能性がある。感覚機能の改善は、脊髄損傷の神経学的分類に関する国際基準(International Standards for Neurological Classification of Spinal Cord Injury:ISNCSCI)検査を用いて、例えば、ピン刺しおよび軽い接触感覚についての右側と左側の感覚レベルを判定して、評価することができる。本開示による細胞集団は、治療を必要とする対象に該集団を移植した後に、該対象において運動機能を改善できる可能性がある。運動機能の改善は、ISNCSCI検査を用いて、例えば、完全麻痺、触知可能または目視可能な収縮、能動運動、重力に抗した全可動域、および十分なレジスタンスについての右側と左側の運動レベルを判定して、評価することができる。
【0097】
本開示による細胞集団は、傷害誘発性の中枢神経系実質空洞化(parenchymal cavitation)の体積を12ヶ月もしくはそれ未満で減少させる可能性がある。一態様では、本開示による細胞集団は、対象における傷害誘発性の中枢神経系実質空洞化の体積を6ヶ月もしくはそれ未満、5ヶ月もしくはそれ未満、4ヶ月もしくはそれ未満、3ヶ月もしくはそれ未満、2ヶ月もしくはそれ未満、または1ヶ月未満で減少させる可能性がある。
【0098】
ここまで本発明を一般的に説明してきたが、以下の実施例を参照することで、本発明はより容易に理解されると考えられ、実施例は、例示のために提供されるものであり、特に指定のない限り、本開示を限定することを意図したものではない。
【実施例
【0099】
実施例1 - 未分化ヒト胚性幹細胞の培養と増殖
H1系統から作製された、ワーキングセルバンク(WCB)由来の未分化ヒト胚性幹細胞(uhESC)(WA01; Thomson JA, Itskovitz-Eldor J, Shapiro SS, Waknitz MA, Swiergiel JJ, Marshall VS, Jones JM. Embryonic stem cell lines derived from human blastocysts. Science. 1998 Nov 6; 282(5391):1145-7)を、組換えヒトラミニン521(Corning社 #354224)でコーティングした組織培養処理済みポリスチレン製225cm2培養フラスコ(Corning社 #431082)で完全mTeSR(商標)-1培地(Stem Cell Technologies社 #85850)にて培養した。細胞が約80~90%の集密度に達するまで培地を毎日完全に交換し、その後、ReLeSR(商標)試薬(Stem Cell Technologies社 #05872)を用いてuhESCを継代した。ReLeSR(商標)で剥離させたuhESC細胞(ReLeSRTM-lifted uhFSC cell)を、新しいラミニン521コーティング225cm2フラスコに播種し、播種の2日後に毎日の培地交換を再開した。WCB由来の培養したuhESCは、実験に応じて2~5継代の間、この方法で増殖させてから、実施例2に記載するように神経外胚葉前駆細胞に分化させた。
【0100】
実施例2 - 動的懸濁培養においてヒト胚性幹細胞を神経外胚葉前駆細胞に分化させる方法
-1日目: 増殖させたuhESC(約90%の集密度)を、Accutase(登録商標)(Stem Cell Technologies社 #07920)で剥離および脱凝集させて単一細胞懸濁液を形成し、正確な細胞数と均一な播種密度が得られるようにした。次に、脱凝集させたuhESCを、それぞれ35RPMまたは25RPMで回転するように設定された、PBS-0.1またはPBS-0.5ミニバイオリアクターシステム(PBS Biotech社)に、1×106生細胞/mLの濃度で動的懸濁培養のために播種した(-1日目)。細胞は、グリア前駆細胞培地(GPM;2%のB27サプリメント(Gibco社カタログ番号17504-044)と0.04μg/mLのトリヨードチロニン(Sigma社カタログ番号T5516-1MG)を添加したDMEM/F12(Gibco社カタログ番号10565-018)からなる)と、細胞の生存をサポートするために10μMのRhoキナーゼ阻害物質(RI, Tocris社カタログ番号1254)を添加した未分化hESC培地(実施例1に記載)の1:1混合物に播種した。最初の24時間以内に、小さくて均一なuhESCの凝集塊が形成された。胚様体(EB)の形成とは対照的に、小さな凝集塊中の細胞は自発的分化を始めることなく、多能性を維持していたことが、qPCRで測定されるマーカーの発現により実証された(図5)。
【0101】
0~3日目: 神経外胚葉への分化を開始するために、小さな非EB凝集塊を、それぞれ45または32RPMで回転するPBS-0.1またはPBS-0.5ミニバイオリアクター内で、10μMのSB431542(Sigma-Aldrich社, カタログ番号S4317)および2μMのドルソモルフィン(Sigma-Aldrich社, カタログ番号P5499)を添加したGPM中で次の4日間、動的懸濁状態で培養した。凝集塊を沈降させ、使用済み培地の70~80%を除去し、10μMのSB431542および2μMのドルソモルフィンを添加した等量のGPMで置き替えることにより、培地を毎日補充した。
【0102】
4~6日目: 細胞をさらに、0.5μMのプルモルファミン(Reprocell社, カタログ番号04-0009)、1μMのレチノイン酸(Sigma-Aldrich社, カタログ番号R2625)、および150μMのアスコルビン酸(Sigma Aldrich社, カタログ番号A4544)を添加したGPM中で、45RPM(PBS-0.1ミニバイオリアクター)または32RPM(PBS-0.5ミニバイオリアクター)でさらに3日間、動的懸濁状態で培養した。凝集塊を沈降させ、使用済み培地の70~80%を除去し、0.5μMのプルモルファミン、1μMのレチノイン酸、および150μMのアスコルビン酸を添加した等量のGPMで置き替えることにより、培地を毎日補充した。
【0103】
7日目: 分化した細胞のサブセットを、動的懸濁培養による分化過程の7日目に回収し、免疫細胞化学(ICC)(実施例5に記載)およびqPCR(実施例6に記載)によるマーカー発現の分析に供した。7日目には、細胞は神経外胚葉に特徴的なマーカーを発現していた(表2、図3)。残っている7日目の細胞をグリア系細胞に、さらにはオリゴデンドロサイト前駆細胞に分化させたことが、それぞれ実施例3および4に記載される。
【0104】
実施例3 - 動的懸濁培養においてヒト胚性幹細胞をグリア系細胞に分化させる方法
uhESCから神経外胚葉/神経前駆細胞への分化(0~6日目)は、実施例2に記載したように行った。7日目に、分化培地を、20ng/mLのヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(hbFGF, Thermo Fisher社, カタログ#PHG0263)、10ng/mLの上皮成長因子(EGF, Thermo Fisher社, カタログ#PHG0311)、および10μMのRIを添加したGPMに変更することにより、グリア前駆細胞への分化を開始した。細胞凝集塊を、20ng/mLのbFGFおよび10ng/mLのEGFを添加したGPM中で、次の2週間(8~20日目)、45rpm(PBS-0.1ミニバイオリアクター)または32rpm(PBS-0.5ミニバイオリアクター)で動的懸濁状態に維持し、その間、重力沈降と70~80%の培地交換を用いて培地を毎日補充した。14日目には10μMのRIも新鮮な培地に添加した。
【0105】
分化した細胞のサブセットを、動的懸濁培養による分化過程の21日目に回収し、qPCR(実施例6に記載)によるマーカー発現の分析に供した。21日目には、分化した細胞はグリア系細胞と一致するマーカーを発現していた(表2)。
【0106】
実施例4 - ヒト胚性幹細胞をオリゴデンドロサイト前駆細胞に分化させる方法
実施例3で得られたグリア系前駆細胞をオリゴデンドロサイト前駆細胞にさらに分化させた。0~20日目の分化プロトコールは、実施例2および3に記載したとおりである。21日目に、凝集塊を動的懸濁培養から、組換えヒトラミニン521(rhLN-521)でコーティングした組織培養容器上での接着培養に換えた。例えば、60mLの凝集塊懸濁液を含む1×PBS-0.1Lミニバイオリアクターから開始して、60mLの培養物を、それぞれ30mLの培養物を含む2×T75フラスコに分割した。21日目から始めて分化過程の最後まで継続して、細胞を、20ng/mLのEGFと10ng/mLの血小板由来成長因子-AA(PDGF-AA, PeproTech社, カタログ#AF-100-13A)を添加したGPM中で培養し、その間、1日おきに培地を全交換した。28日目と35日目に、TrypLE(商標)Select(Thermo Fisher社, カタログ#Al2859-01)を用いて細胞培養物を剥離し、カウントし、rhLN-521でコーティングした容器に4×104生細胞/cm2で播種した。35日目から42日目の収集までGPMを1日おきに交換した。
【0107】
分化した細胞のサブセットを分化過程の42日目に回収し、フローサイトメトリー(実施例5に記載)、免疫細胞化学(実施例5に記載)およびqPCR(実施例6に記載)によるマーカー発現の分析に供した。42日目には、分化した細胞はオリゴデンドロサイト前駆細胞に特徴的なマーカーを発現していたことが、これらの3つの分析方法で測定された(表1、表2、図4)。
【0108】
42日目にOPCを収集した。TrypLE(商標)Selectを用いて細胞を容器から剥離し、カウントし、CryoStorl0(BioLife Solutions社, カタログ#210102)中に再製剤化してから凍結保存した。
【0109】
実施例5 - 免疫細胞化学およびフローサイトメトリーによる分化した細胞集団の特性決定
フローサイトメトリーと免疫細胞化学(ICC)を用いて、細胞集団におけるタンパク質マーカーの発現のさまざまな側面を検出して特性決定することができる。フローサイトメトリーは、所定のタンパク質マーカープロファイルを示す集団内の個々の細胞の割合を定量化するために使用できるが、ICCは各タンパク質マーカーの細胞内局在に関する追加情報を提供し、単一の細胞または細胞凝集塊に適用できる。これらのタンパク質プロファイリングのアプローチのいずれかまたは両方を用いて、本発明者らは、本開示の方法に従ったヒト胚性幹細胞から、神経外胚葉前駆細胞、グリア前駆細胞、およびオリゴデンドロサイト前駆細胞への分化を追跡した。
【0110】
懸濁状態で神経外胚葉前駆細胞に分化させたヒト胚性幹細胞の場合は、出発材料(未分化多能性細胞)および分化した7日目の細胞凝集塊におけるタンパク質マーカーの発現をICCによって特性決定した。接着多能性細胞および細胞凝集塊を4%パラホルムアルデヒド(PFA)で室温(RT)にて30分間固定した。固定した細胞と凝集塊をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、次に、固定した凝集塊を、上昇する濃度のスクロース溶液(10%、20%、および30%重量/体積)中に、それぞれRTで30分間、RTで30分間、4℃で一晩、順次入れた。スクロース交換後、凝集塊をTissue-Tek Optimal Cutting Temperature(OCT)溶液(Sakura Finetek USA社 #4583)に包埋し、-80℃で凍結した。OCTで包埋した凝集塊を-20℃に温め、クライオスタット(モデルCM3050 S, Leica Biosystems社, Buffalo Grove, IL, USA)を用いて30μmの切片に切断し、ポリ-L-リシン(Sigma-Aldrich社 #P4707)でコーティングしたスライドグラス上にマウントした。免疫細胞化学的染色を行うために、固定した接着細胞およびスライドマウントした凝集塊切片を、PBS中の0.1%Triton(商標)X-100/2%正常ヤギ血清/1%ウシ血清アルブミンからなるブロッキング溶液中で室温(RT)にて2時間、透過処理およびブロッキングした。透過処理とブロッキングに続いて、接着細胞および凝集塊切片を、Triton(商標)X-100を含まないが、多能性細胞を検出するためのNanog(Abcam社 #ab21624)、Oct4(Millipore社 #MAB4401)、およびSox2(Abcam社 #ab92494)、または神経外胚葉前駆細胞を検出するためのPAX6(BD Pharmingen社 #561462)およびPSA-NCAM(Invitrogen社 #14-9118-80)などの、関心対象のタンパク質マーカーに特異的な一次抗体を含むブロッキング溶液中で4℃にて一晩インキュベートした。次に、接着細胞および凝集塊切片をPBSで3回洗浄した後、Triton(商標)X-100を含まないブロッキング溶液中で、選択した一次抗体に特異的な二次抗体と4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)対比染色を用いて、遮光しながらRTで1時間インキュベートした。接着細胞および凝集塊切片をPBSで3回洗浄し、IN Cell Analyzer 2000(GE Healthcare社, Pittsburgh, PA, USA)を用いて画像化した。
【0111】
図2および図3は、それぞれ、出発材料の多能性細胞集団および7日目の神経外胚葉前駆細胞についての代表的なICCデータを示す。図2に示すように、未分化ヒト胚性幹細胞の出発集団は、定型的な多能性マーカーであるNanog、Oct4、およびSox2を発現していた(Wang Z, Oron E, Nelson B, Razis S, Ivanova N. Distinct lineage specification roles for NANOG, OCT4, and SOX2 in human embryonic stem cells. Cell Stem Cell. 2012 Apr 6;10(4):440-54)。7日間の分化後、2つの代表的な実験からの細胞凝集塊は、神経外胚葉前駆細胞に特徴的な2つのタンパク質マーカーであるPAX6およびPSA-NCAMを発現していた(図3, Lippmann ES, Williams CE, Ruhl DA, Estevez-Silva MC, Chapman ER, Coon JJ, Ashton RS. Deterministic HOX patterning in human pluripotent stem cell-derived neuroectoderm. Stem Cell Reports. 2015 Apr 14;4(4):632-44; Kim DS, Lee DR, Kim HS, Yoo JE, Jung SJ, Lim BY, Jang J, Kang HC, You S, Hwang DY, Leem JW, Nam TS, Cho SR, Kim DW. Highly pure and expandable PSA-NCAM-positive neural precursors from human ESC and iPSC-derived neural rosettes. PLoS One. 2012;7(7):e39715)。
【0112】
42日目までにオリゴデンドロサイト前駆細胞に分化したヒト胚性幹細胞については、得られた単一細胞集団におけるタンパク質マーカーの発現を、フローサイトメトリーとICCの両方によって特性決定した。
【0113】
オリゴデンドロサイト前駆細胞のタンパク質マーカーの発現をICCによって特性決定するために、スライドマウントした凝集塊切片について上述したように染色を行った。ただし、透過処理は100%メタノールを用いてRTで2分間行い、ブロッキング溶液はPBS中の10%ウシ胎児血清からなるものであった。
【0114】
図4は、42日目のオリゴデンドロサイト前駆細胞の代表的なICCデータを示す。2つの代表的な実験から得られた単一細胞集団は、オリゴデンドロサイト前駆細胞のマーカーNG2を発現していた(Zhang Y, Chen K, Sloan SA, Bennett ML, Scholze AR, O'Keeffe S, Phatnani HP, Guarnieri P, Caneda C, Ruderisch N, Deng S, Liddelow SA, Zhang C, Daneman R, Maniatis T, Barres BA, Wu JQ. An RNA-sequencing transcriptome and splicing database of glia, neurons, and vascular cells of the cerebral cortex. J Neurosci. 2014 Sep 3;34(36):11929-47)。
【0115】
42日目に細胞表面マーカーをフローサイトメトリーで定量化するために、Thaw Medium(DMEM培地中の10%ウシ胎児血清)で細胞を融解し、遠心分離して、Stain Buffer(PBS中の2%ウシ胎児血清/0.05%アジ化ナトリウム)に再懸濁した。細胞を、NG2(Invitrogen社 #37-2300)、GD3(Millipore社 #MAB2053)、A2B5(BD社 #563775)、CD49f(Millipore社 #CBL458P)、EpCAM(Dako社 #M080401-2)、およびCLDN6(Thermo Fisher社 #MA5-24076)などの、関心対象のマーカーに特異的な一次抗体、ならびにそれらのアイソタイプ対照と共に氷上で30分間インキュベートした。細胞をStain Bufferで洗浄し、未結合抗体を除去した。コンジュゲート化されていない抗体の場合には、その後、細胞を適切なフルオロフォアコンジュゲート化二次抗体と共に氷上で30分間インキュベートした。細胞を洗浄した後、ヨウ化プロピジウムを加えて死細胞を確認した。場合によっては、実施例4に記載した42日目の収集手順に対する感受性を示したタンパク質マーカーを回収するために、細胞をMatrigel(Corning社 #356231)でコーティングした組織培養容器で37℃/5%CO2で一晩培養し、次に、TrypLE(商標)Select(Thermo Fisher社 #Al2859-01)を用いて収集し、上記のようにフローサイトメトリー分析のために染色した。全ての細胞をAttune NxT(Thermo Fisher社, Waltham, MA, USA)フローサイトメーターで分析した。所定のタンパク質マーカーを発現している細胞の割合を計算するために、プロピジウムヨウ素で染色した死細胞をゲーティングし、対応する抗体に結合した生細胞の数を、アイソタイプ対照抗体への非特異的結合を示した細胞の数を補正した後で、分析した細胞の総数に対する割合として表した。
【0116】
表1は、実施例4に記載の方法論に従って作製された42日目のオリゴデンドロサイト前駆細胞についての代表的なフローサイトメトリーデータを示す。2つの代表的な実験実行(run)について示されるように、得られた細胞集団中で高い割合の細胞は、NG2(Zhang Y, Chen K, Sloan SA, Bennett ML, Scholze AR, O'Keeffe S, Phatnani HP, Guarnieri P, Caneda C, Ruderisch N, Deng S, Liddelow SA, Zhang C, Daneman R, Maniatis T, Barres BA, Wu JQ. An RNA-sequencing transcriptome and splicing database of glia, neurons, and vascular cells of the cerebral cortex. J Neurosci. 2014 Sep 3;34(36):11929-47)、およびGD3(Gallo V, Zhou JM, McBain CJ, Wright P, Knutson PL, Armstrong RC. Oligodendrocyte progenitor cell proliferation and lineage progression are regulated by glutamate receptor-mediated K+ channel block. J Neurosci. 1996 Apr 15;16(8):2659-70)、ならびにプレOPCマーカーであるA2B5(Keirstead HS, Nistor G, Bernal G, Totoiu M, Cloutier F, Sharp K, Steward O. Human embryonic stem cell-derived oligodendrocyte progenitor cell transplants remyelinate and restore locomotion after spinal cord injury. J Neurosci. 2005 May 11;25(19):4694-705)を含めて、特徴的なオリゴデンドロサイトマーカーを発現していた。さらに、神経前駆細胞/上皮マーカーCD49f(Krebsbach PH, Villa-Diaz LG. The Role of Integrin a6 (CD49f) in Stem Cells: More than a Conserved Biomarker. Stem Cells Dev. 2017 Aug 1;26(15):1090-1099)、ならびに上皮マーカーCLDN6(Lin D, Guo Y, Li Y, Ruan Y, Zhang M, Jin X, Yang M, Lu Y, Song P, Zhao S, Dong B, Xie Y, Dang Q, Quan C. Bioinformatic analysis reveals potential properties of human Claudin-6 regulation and functions. Oncol Rep. 2017 Aug;38(2):875-885)およびEpCAM(Huang L, Yang Y, Yang F, Liu S, Zhu Z, Lei Z, Guo J. Functions of EpCAM in physiological processes and diseases (Review). Int JMol Med. 2018 Oct;42(4):1771-1785)を含めて、非OPCマーカーが、得られた集団において最小限検出された。
【0117】
(表1)本開示に従った方法により作製されたオリゴデンドロサイト前駆細胞の代表的なフローサイトメトリーデータ
【0118】
本開示に記載の方法論により作製された細胞集団は、脊髄損傷の治療のために現在臨床試験中である別の方法を用いて作製されたOPCと比較して、オリゴデンドロサイト前駆細胞マーカーNG2について陽性の細胞の割合が高く、非OPCマーカーであるCD49f、CLDN6、およびEpCAMの発現が少なかった(Priest CA, Manley NC, Denham J, Wirth ED 3rd, Lebkowski JS. Preclinical safety of human embryonic stem cell-derived oligodendrocyte progenitors supporting clinical trials in spinal cord injury. Regen Med. 2015 Nov;10(8):939-58; Manley NC, Priest CA, Denham J, Wirth ED 3rd, Lebkowski JS. Human Embryonic Stem Cell-Derived Oligodendrocyte Progenitor Cells: Preclinical Efficacy and Safety in Cervical Spinal Cord Injury. Stem Cells Transl Med. 2017 Oct;6(10):1917-1929)。
【0119】
実施例6 - 遺伝子発現プロファイリングによる分化した細胞集団の特性決定
遺伝子発現プロファイリングを用いて、多能性細胞出発集団、ならびに神経外胚葉前駆細胞、グリア前駆細胞、およびオリゴデンドロサイト前駆細胞の生成を含む各分化段階の細胞表現型を特性決定することができる。遺伝子発現プロファイリングには、マイクロアレイおよびRNA-seqなどの方法を用いたグローバル・トランスクリプトーム・プロファイリングと、定量的リアルタイムPCR(qPCR)などの高感度の方法を用いた標的遺伝子プロファイリングとの両方が含まれる。
【0120】
遺伝子発現プロファイリングを行うために、細胞をQiagen RLT Lysis Buffer(Qiagen社 #79216)で溶解し、Qiagen RNeasy Mini Kit(Qiagen社 #74106)をメーカーのガイドラインに従って用いてRNAを精製した。次に、qPCRベースの分析では、精製したRNAを、Invitrogen Superscript IV VILO Mastermix(Thermo Fisher Scientific社 #11756050)をメーカーのガイドラインに沿って用いる標準方法に従って、cDNAに変換した。次に、標的遺伝子と参照ハウスキーピング遺伝子の相対的発現レベルを、遺伝子特異的プライマー・プローブセット(Applied Biosystems Taqman Gene Expression Assays, Thermo Fisher Scientific社 #4331182)をメーカーのガイドラインに従って用いて定量化した。所定のセットの標的遺伝子の相対的発現レベルを調べるために、ABI 7900HT Real-Time Sequence Detection System(Applied Biosystems社)、BioMark HD System(Fluidigm社)または同等のシステムを用いて、PCR反応を行った。各標的遺伝子を、GAPDHなどの1つまたは複数の参照遺伝子に対して正規化して、その相対的発現レベルを決定した。
【0121】
図5は、3次元細胞凝集塊の形成前(-1日目)と、24時間後の、小さな非胚様体(非EB)凝集塊の形成後(0日目、神経外胚葉分化の開始直前)に収集した時点でのuhESCの代表的なqPCR分析を示す。2つの代表的な実験を実施し、RNAサンプルを採取して、上記の方法を用いてqPCRによる遺伝子発現プロファイリングのために処理した。Fluidigm qPCRは、多能性および初期分化のための既知のマーカーからなる76遺伝子パネルを用いて実施した。各遺伝子について、標準化したΔCT値を、5つのハウスキーピング遺伝子(ACTB、GAPDH、EP300、PGK1、SMAD1)の平均値に対して算出した。結果として得られた-1日目と0日目の全てのΔCT値の相関プロットを図5に示すが、これらの相関プロットは、0日目の小さな非EB凝集塊中の細胞が、多能性遺伝子の発現を保持しており、かつ-1日目のuhESCと同様の、試験したマーカーの全体的発現プロファイルを有していたことを示している。このことは、表2に示したベースラインに対する変化倍率の計算によってもさらに支持され、両方の代表的な実験では、uhESCの凝集塊形成から24時間後(0日目のuhESC)に、多能性マーカーNANOG、LIN28A、およびSOX2のレベルが高いことを示している。
【0122】
表2は、本開示に従った方法により作製された細胞集団における多能性遺伝子、神経外胚葉前駆細胞遺伝子、グリア前駆細胞遺伝子、およびオリゴデンドロサイト前駆細胞遺伝子の発現を測定する2つの代表的な実験から得られたqPCRの結果を示す。RNAサンプルを以下の時点で採取した:uhESC細胞凝集塊形成の開始から24時間後で、分化前(0日目);神経外胚葉前駆細胞への分化後(7日目);グリア前駆細胞への分化後(21日目);およびオリゴデンドロサイト前駆細胞への分化後(42日目)。RNAサンプルを、上記の方法を用いてqPCR用に処理した。以下を含む、それぞれの分化状態を示す選択されたパネルの遺伝子を定量化した:3つの多能性遺伝子(NANOG、LIN28A、SOX2)、3つの神経外胚葉前駆細胞遺伝子(PAX6、HES5、ZBTB16)、3つのグリア前駆細胞遺伝子(CACGN4、FABP7、SOX6)、および3つのオリゴデンドロサイト前駆細胞遺伝子(CSPG4、PDGFRα、DCN)。各遺伝子について、標準化したΔCT値を、5つのハウスキーピング遺伝子(ACTB、GAPDH、EP300、PGK1、SMAD1)の平均値を用いて算出し、ベースラインに対する発現倍率(定量下限値未満の発現)を、ΔΔCT法を用いて算出した。
【0123】
(表2)本開示に従ってOPCに分化させたH1 uhESCにおける多能性、神経外胚葉前駆細胞(NEPC)、グリア前駆細胞(GPC)、およびオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)の遺伝子マーカーのqPCR解析
【0124】
表2を参照すると、本開示に従った方法による7日間のuhESCの分化は、NANOGのダウンレギュレーションと、LIN28A、SOX2、PAX6、HES5、およびZBTB16の発現を含む、神経外胚葉前駆細胞と一致する遺伝子発現プロファイルをもたらした(Patterson M, Chan DN, Ha I, Case D, Cui Y, Van Handel B, Mikkola HK, Lowly WE. Defining the nature of human pluripotent stem cell progeny. Cell Res. 2012 Jan;22(1):178-93; Lippmann ES, Williams CE, Ruhl DA, Estevez-Silva MC, Chapman ER, Coon JJ, Ashton RS. Deterministic HOX patterning in human pluripotent stem cell-derived neuroectoderm. Stem Cell Reports. 2015 Apr 14;4(4):632-44; Woo SM, Kim J, Han HW, Chae JI, Son MY, Cho S, Chung HM, Han YM, Kang YK. Notch signaling is required for maintaining stem-cell features of neuroprogenitor cells derived from human embryonic stem cells. BMC Neurosci. 2009 Aug 17;10:97; Avantaggiato V, Pandolfi PP, Ruthardt M, Hawe N, Acampora D, Pelicci PG, Simeone A. Developmental analysis of murine Promyelocyte Leukemia Zinc Finger (PLZF) gene expression: implications for the neuromeric model of the forebrain organization. J Neurosci. 1995 Jul;15(7 Pt 1):4927-42)。
【0125】
21日間の懸濁ベースの分化の後に得られた細胞集団は、多能性および神経外胚葉前駆細胞マーカーのダウンレギュレーションと、CACNG4、FABP7、およびSOX6の誘導を含む、グリア前駆細胞と一致する遺伝子発現プロファイルを示した(Zhang Y, Chen K, Sloan SA, Bennett ML, Scholze AR, O'Keeffe S, Phatnani HP, Guamieri P, Caneda C, Ruderisch N, Deng S, Liddelow SA, Zhang C, Daneman R, Maniatis T, Barres BA, Wu JQ. An RNA-sequencing transcriptome and splicing database of glia, neurons, and vascular cells of the cerebral cortex. J Neurosci. 2014 Sep 3;34(36):11929-47; Petit A, Sanders AD, Kennedy TE, Tetzlaff W, Glattfelder KJ, Dalley RA, Puchalski RB, Jones AR, Roskams AJ. Adult spinal cord radial glia display a unique progenitor phenotype. PLoS One. 2011;6(9):e24538; Baroti T, Zimmermann Y, Schillinger A, Liu L, Lommes P, Wegner M, Stolt CC. Transcription factors Sox5 and Sox6 exert direct and indirect influences on oligodendroglial migration in spinal cord and forebrain. Glia. 2016 Jan;64(1):122-38)。
【0126】
本開示に記載の方法に従った42日間の分化の後に得られた細胞集団は、初期系統のマーカーのダウンレギュレーションと、CSPG4(NG2)、PDGFRα、およびDCNの誘導を含む、オリゴデンドロサイト前駆細胞と一致するマーカーを発現した(Zhang Y, Chen K, Sloan SA, Bennett ML, Scholze AR, O'Keeffe S, Phatnani HP, Guamieri P, Caneda C, Ruderisch N, Deng S, Liddelow SA, Zhang C, Daneman R, Maniatis T, Barres BA, Wu JQ. An RNA-sequencing transcriptome and splicing database of glia, neurons, and vascular cells of the cerebral cortex. J Neurosci. 2014 Sep 3;34(36):11929-47)。
【0127】
実施例7 - TGFBR1/アクチビン/ノーダルシグナル伝達およびBMPシグナル伝達の代替小分子阻害物質を用いた、ヒト胚性幹細胞から神経外胚葉前駆細胞への分化
実施例2で使用した小分子阻害物質(SB431542およびドルソモルフィン)に加えて、TGFβR1/アクチビン/ノーダルシグナル伝達およびBMPシグナル伝達の代替小分子阻害物質を、懸濁状態でヒト胚性幹細胞を神経外胚葉前駆細胞に分化させるそれらの能力について試験した。表3は、試験した代替小分子阻害物質のリストである。Ultra Low Attachment 6ウェル組織培養プレート(Corning社 #3471)の2つ組のウェルで各条件を試験した。
【0128】
(表3)懸濁状態でヒト胚性幹細胞を神経外胚葉前駆細胞に分化させるために使用した小分子阻害物質
【0129】
分化7日目に、細胞を回収し、実施例6に記載したように、RNA抽出およびqPCRによる遺伝子発現プロファイリングのために処理した。各遺伝子について、標準化したΔCT値を、5つのハウスキーピング遺伝子(ACTB、GAPDH、EP300、PGK1、SMAD1)の平均値に対して算出し、ベースラインに対する発現倍率(定量下限値未満の発現)を、ΔΔCT法を用いて算出した。表4は、(ベースラインに対する)各小分子組み合わせの生物学的2つ組(biological duplicate)の発現倍率の平均値を示す。表4を参照すると、試験した小分子組み合わせのそれぞれを用いて懸濁状態でuhESCを7日間分化させることは、多能性マーカーNANOGのダウンレギュレーションと、LIN28A、SOX2、PAX6、HES5、ZBTB16などの神経外胚葉前駆細胞表現型に関連する遺伝子の同程度の発現維持または誘導をもたらした。
【0130】
各小分子組み合わせで処理した後に結果として生じる7日目の細胞表現型のより包括的な比較を得るために、Fluidigm qPCRを、多能性、神経外胚葉前駆細胞、神経管パターン形成、グリア前駆細胞、オリゴデンドロサイト前駆細胞、神経堤細胞、ニューロン、アストロサイト、周皮細胞、シュワン細胞、および上皮細胞の既知のマーカーで構成された96遺伝子パネルを用いて実施した。図6を参照すると、各代替小分子組み合わせの7日目の細胞表現型とSB431542+ドルソモルフィン処理によって生じた細胞表現型との標準化したΔCT値の回帰プロットによる比較は、同様の全体的な細胞表現型が試験した小分子組み合わせのそれぞれにより達成され得ることを示した。まとめると、表4および図6に示した結果は、(i)TGFβR1/アクチビン/ノーダルシグナル伝達阻害物質と(ii)BMPシグナル伝達阻害物質のさまざまな組み合わせが、本開示の方法を用いて、懸濁状態でuhESCを神経外胚葉前駆細胞に、さらにはグリア前駆細胞およびオリゴデンドロサイト前駆細胞に分化させるために使用され得る、ことを支持している。
【0131】
(表4)小分子阻害物質のさまざまな組み合わせを用いてNEPCに分化させたH1 uhESCにおける多能性および神経外胚葉前駆細胞(NEPC)の遺伝子マーカーのqPCR解析
【0132】
実施例8 - インビトロ嚢胞アッセイを用いた、分化したOPC集団における異質上皮系細胞の存在の評価
本開示に従って作製されたOPC集団中の望ましくない上皮系細胞の存在を、インビトロ嚢胞アッセイを用いて試験した。嚢胞アッセイは、基本的にDebnathらのプロトコールに従って行った(Debnath J, Muthuswamy SK, Brugge JS. Morphogenesis and oncogenesis of MCF-10A mammary epithelial acini grown in three-dimensional basement membrane cultures. 2003 Methods. 3:256-68)。簡単に説明すると、OPCを、3D培養システム内で、上皮嚢胞の形成を刺激することが知られている因子の存在下で20日間増殖させた。嚢胞の視覚的検出に加えて、上皮マーカーCD49fの基底外側(basolateral)タンパク質発現を含む嚢胞構造の存在も免疫細胞化学を用いて評価した。
【0133】
OPCを、Matrigel(登録商標)(Corning社)のパッド上に嚢胞支持培地を用いて21.9×103細胞/cm2の密度で播種した(合計で、0.5×106個の細胞を24ウェルプレートの12ウェルに播種した)。細胞を20日間培養した。20日目に、生きている嚢胞のカウントを行い、Cell Recovery Solution(Corning社 #354253)を用いてMatrigel(登録商標)を溶解し、細胞を4%パラホルムアルデヒド(PFA)で氷上にて5分間固定し、ブロッキングバッファーで一晩かけて透過処理した。続いて、嚢胞をCD49f(ITGA6)、ファロイジン(phalloidin)について染色し、DAPIで対比染色した。IN Cell Analyzer 2000(GE Healthcare Life Sciences社)を用いて嚢胞を画像化し、IN Cell Developer Software(GE Healthcare Life Sciences社)とMATLAB(商標)(Mathworks社)を用いて嚢胞の頻度、大きさ、染色強度を定量化した。
【0134】
表5を参照すると、本開示に従った方法を用いて2つの代表的な実験実行から作製され、インビトロ嚢胞アッセイで試験されたOPCは、3つのOPC対照ロット(対照A、対照B、および対照C)に比べて、嚢胞の形成が少なかった。該OPC対照ロットは、インビボで上皮嚢胞形成を引き起こすことが以前に見い出された代替方法によって作製されたものである(Manley NC, Priest CA, Denham J, Wirth ED 3rd, Lebkowski JS. Human Embryonic Stem Cell-Derived Oligodendrocyte Progenitor Cells: Preclinical Efficacy and Safety in Cervical Spinal Cord Injury. Stem Cells Transl Med. 2017 Oct;6(10):1917-1929)。これらの結果に基づいて、本開示に従って作製されたOPCは、インビボで上皮嚢胞をほとんどまたは全く形成しないのではないかと期待されている。
【0135】
(表5)本開示に従った方法により作製されたオリゴデンドロサイト前駆細胞の代表的な嚢胞アッセイの結果
【0136】
本開示は、特定の態様を参照して説明してきたが、当業者には、本開示の範囲から逸脱することなく、様々な変更を加えることができ、また、その要素の代わりに同等のものを使用できることが理解されよう。さらに、本開示の範囲から逸脱することなく、特定の状況または材料を本開示の教示に適応させるために、多くの修正を加えることができる。
【0137】
したがって、本開示は、本開示を実施するために企図される最良の形態として開示された特定の態様に限定されず、本開示は、添付した特許請求の範囲およびその精神に含まれる全ての局面を包含しうることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B