(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】インターロイキン6(IL-6)調節異常による影響を受ける疾患の免疫療法のための、IL-6を標的とするペプチド免疫原及びその製剤
(51)【国際特許分類】
C07K 14/54 20060101AFI20241009BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20241009BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20241009BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20241009BHJP
A61P 37/00 20060101ALI20241009BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241009BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20241009BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20241009BHJP
【FI】
C07K14/54
C07K14/705 ZNA
A61K39/00 H
A61P37/04
A61P37/00
A61P43/00 105
C07K16/00
C12N15/62 Z
(21)【出願番号】P 2021537984
(86)(22)【出願日】2019-12-28
(86)【国際出願番号】 US2019068854
(87)【国際公開番号】W WO2020140106
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-12-26
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591015142
【氏名又は名称】ユナイテッド・バイオメディカル・インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】UNITED BIOMEDICAL INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】ワン、チャン、イ
(72)【発明者】
【氏名】リン、フェン
(72)【発明者】
【氏名】チェン、ジウン、ボ
(72)【発明者】
【氏名】ディン、シュアン
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第09834603(US,B2)
【文献】米国特許出願公開第2017/0333539(US,A1)
【文献】国際公開第2018/232369(WO,A1)
【文献】特表2022-514668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 14/54
C07K 14/705
A61K 39/00
A61P 37/04
A61P 37/00
A61P 43/00
C07K 16/00
C12N 15/62
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号107~
129及び配列番号131~215からなる群から選択され
るIL-6ペプチド免疫原コンストラクト。
【請求項2】
請求項1に記載のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトを含む組成物。
【請求項3】
a.請求項1に記載のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトと、
b.医薬的に許容可能な送達媒体及び/またはアジュバントと、
を含む医薬組成物。
【請求項4】
前記IL-6ペプチド免疫原コンストラクトが、CpGオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)と混合されることで、安定化された免疫刺激性複合体を形成する請求項
3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
動物においてIL-6に対する抗体を生成させる
請求項3又は4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
動物におけるIL-6調節異常による影響を受ける疾患を予防及び/または治療する
請求項3又は4に記載の医薬組成物。
【請求項7】
動物におけるIL-6調節異常による影響を受ける疾患を予防及び/または治療する医薬の製造における請求項1に記載のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年12月28日出願の米国仮出願第62/786,192号の利益を主張するPCT国際出願であり、当該文献は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、インターロイキン6(IL-6)調節異常による影響を受ける疾患の免疫療法のための、IL-6を標的とするペプチド免疫原コンストラクト及びその製剤に関する。
【背景技術】
【0003】
IL-6は、184個のアミノ酸から構成される小さな(約25kD)の分泌糖タンパク質であり(表1)、この糖タンパク質は、4本のヘリックスが束になった構造によって特徴付けられる。IL-6は、さまざまな刺激(リポ多糖及び他の細菌産物、ウイルス、サイトカイン(TNF-α、IL-1、トランスフォーミング増殖因子(TGF)-β)、アデノシン三リン酸、パラトルモン、ビタミンD3、ホモシステイン、ならびにアンジオテンシンIIなど)に応答して、いくつかの細胞型(白血球(Tリンパ球及びBリンパ球、単球、マクロファージ)、線維芽細胞、骨芽細胞、ケラチノサイト、内皮細胞、メサンギウム細胞、脂肪細胞、骨格筋細胞、心筋細胞、脳細胞(アストログリア、ミクログリア、ニューロン)を含む)ならびにいくつかの腫瘍細胞によって産生される(Sebba, 2008)。
【0004】
健康なヒトの血中には低濃度(≦1pg/mL)の循環IL-6が見られる。循環IL-6は、炎症性の応答が生じている間は著しく増加し、敗血症の間にはng/mLの範囲の濃度に到達する。IL-6は、急性期免疫応答及び造血を刺激することによって、感染及び組織損傷に対する宿主防御に決定的に寄与する。さらに、IL-6は、生理学的条件下での代謝プロセス、再生プロセス、及び神経プロセスも調節する。IL-6は、放出されると、IL-6受容体(IL-6R)及び下流シグナル伝達分子を含む特有のIL-6Rシグナル伝達系を活性化することによってその多面的な生物学的作用を発揮する。
【0005】
IL-6Rは、(1)IL-6結合鎖、すなわちIL-6Rα(2つの形態(すなわち、(a)80kDの膜貫通型IL-6Rα(mIL-6Rα)及び(b)50~55kDの可溶性IL-6Rα(sIL-6Rα))で存在する)、ならびに(2)130kDのシグナル伝達鎖(IL-6Rβ(すなわち、gp130)と呼ばれる)という2つの鎖によって構成される。
【0006】
膜IL-6Rα(すなわち、mIL-6Rα)は、限られた数の細胞型の表面上に発現する。こうした細胞型は、すなわち、肝細胞、巨核球、ならびに白血球(単球、マクロファージ、好中球、ならびにTリンパ球及びBリンパ球を含む)である。可溶性IL-6Rα(すなわち、sIL-6Rα)は、ヒト血漿(25~75ng/mL)及び組織液中に存在し、mIL-6Rαがメタロプロテアーゼ(ディスインテグリン及びメタロプロテイナーゼ(すなわち、ADAM))によるタンパク質切断(シェディング)を受けることによって生成されるか、または生成量は少ないが、膜貫通ドメインが除外されることによる選択的スプライシングを介して生成され得る。膜IL-6Rβは、すべてのヒト細胞上に遍在性に発現する(Sebba, 2008)。
【0007】
IL-6は、IL-6Rα(mIL-6RαまたはsIL-6Rαのいずれか)に結合すると、IL-6Rα鎖/IL-6Rβ鎖のホモダイマー化を誘導することでヘキサマー(2つのIL-6タンパク質、2つのIL-6Rαタンパク質、及び2つのIL-6Rβタンパク質を含む)を形成させ、これによってその後に下流シグナル伝達カスケードを引き起こす(Rose-John, et al., 2017)。
【0008】
IL-6がmIL-6Rαに結合することによる細胞活性化は、「古典的シグナル伝達」と呼ばれる。mIL-6Rαを発現しない他の細胞はすべて、「トランスシグナル伝達」によってIL-6シグナルを得る。トランスシグナル伝達では、IL-6は、循環sIL-6Rαに結合し、この複合体は、細胞表面上のIL-6Rβとシグナル伝達複合体を形成する。トランスシグナル伝達は、幅広い範囲のヒト細胞に生じ得るものであることから、IL-6の活性が多面的であると説明される一因となっている。現在では、IL-6のホメオスタシス活性及び再生活性は古典的シグナル伝達によって媒介される一方で、炎症促進性作用は、主に、トランスシグナル伝達経路の活性化に起因するものと理解されている。疾患の発症に特に関与するのはIL-6トランスシグナル伝達であることを示す証拠が積み上がってきている。循環中には、可溶性形態であるsIL-6Rβ(すなわち、sgp130)も比較的高濃度で検出されており、この可溶性形態は、主に、選択的スプライシングによって生じたものであった。sIL-6RβはIL-6/sIL-6Rα複合体に結合し得ることから、IL-6介在性のトランスシグナル伝達の天然の特異的阻害剤として働く一方で、古典的シグナル伝達は、sIL-6Rβによる影響を受けない。
【0009】
IL-6Rαは、IL-6に対する特有の結合受容体である一方で、IL-6Rβ(すなわち、gp130)シグナル伝達鎖は、白血病抑制因子、オンコスタチンM、毛様体神経栄養因子、IL-11、カルジオトロフィン-1、ニューロポエチン-1、IL-27、及びIL-35を含む、IL-6ファミリーのメンバーによって共有されている。
【0010】
IL-6が結合した後、受容体がホモダイマー化することで、IL-6Rβ(すなわち、gp130)鎖とチロシンキナーゼJAK(ヤヌスキナーゼ)との間の相互作用が促進され、その結果、それらの相互トランス活性化が生じる。次に、JAKが活性化すると2つの重要タンパク質(すなわち、1)Srcホモロジードメイン含有タンパク質チロシンホスファターゼ-2(SHP-2)、及び2)シグナル伝達兼転写活性化因子タンパク質(STAT1~STAT3))がリン酸化されることで、3つの主要な細胞内シグナル伝達経路が発動される。SHP-2は、リン酸化されるとGrb2(増殖因子受容体結合タンパク質2)と相互作用してRas/ERK/MAPK(ラット肉腫タンパク質/細胞外シグナル制御キナーゼ/分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ)カスケードを活性化し、及び/またはPI3K/Akt(ホスホイノシトール-3キナーゼ/タンパク質キナーゼB)経路を活性化し得る。一方、STATタンパク質がリン酸化されると、ヘテロダイマー(STAT1/STAT3)あるいはホモダイマー(STAT1/STAT1及び/またはSTAT3/STAT3)の形成が誘導され、これらのダイマーは、その後に核に移動する。すべての場合で、こうした細胞内経路が活性化されると複数の標的遺伝子の転写が誘導され、このことが、IL-6の生物学的活性が多面的である所以である(Lazzerini, et al., 2016)。
【0011】
IL-6は、幅広い範囲の生物学的活性を発揮し、こうした生物学的活性は、急性炎症応答の活性化ならびに自然免疫から獲得免疫への移行に決定的に関与するものである。IL-6は、代謝、認知機能、及び胚発生を含めて、さまざまな他のプロセスにおいてもいくつかの付加的な役割を有する。
【0012】
急性炎症応答の活性化に対するIL-6の作用については研究が行われている。さまざまな起源の感染または組織損傷が生じると、全身性の急性期応答が急速に誘導されることで、病原体が中和され、そのさらなる侵入が阻止され、組織損傷が最小化され、創傷治癒が促進される。この急性期応答は、発熱及び肝細胞による急性期タンパク質の産生からなるものであり、IL-6によって主導される。
【0013】
IL-6が、体温調節に関与する視床下部の視索前野のニューロンに作用することによって体温を上昇させ、肝臓を刺激して急性期タンパク質(C反応性タンパク質(CRP)、フィブリノゲン、補体成分C3、血清アミロイドA、ヘプシジン、ハプトグロビン、α1-酸性糖タンパク質、α1-アンチトリプシン、α1-アンチキモトリプシン、及びセルロプラスミンなど)を合成させるという事実に対して、一方ではアルブミン、トランスフェリン、フィブロネクチン、トランスサイレチン、及びレチノール結合タンパク質(「負の」急性期タンパク質)の産生は抑制される。
【0014】
さらに、IL-6は、単球からマクロファージへの分化を促進し、骨髄系前駆細胞及び巨核球の成熟を刺激して好中球及び血小板を増加させ、血管内皮増殖因子を産生させて血管新生を誘導し、内皮細胞上の接着分子(具体的には、細胞内接着分子-1(ICAM-1)及び血管細胞接着分子(VCAM-1))の発現を上方制御することによってリンパ球及び好中球の輸送を増進し、Bリンパ球による抗体産生を増加させ、ヘルパーT(TH)リンパ球の増殖を増強してそれがTH2細胞またはTH17細胞に分化するように促す。すべての場合で、こうした変化は、異なるが相乗的な機構を介して、最終的に宿主防御が得られる統合応答の実現に寄与する。
【0015】
免疫炎症応答におけるその重要な関与の他に、IL-6は、複数の臓器系が関与する機能を多く調節することによって生理学的条件下でも重要な役割を担う。こうした機能は、胚形成、糖及び脂質の代謝、骨再形成、肝再生、神経組織ホメオスタシス、認知機能、睡眠、記憶、痛み、ならびに情動行動などである。
【0016】
こうした追加の免疫炎症作用に関する知見は、関節リウマチ(RA)及びIL-6レベルの上昇が持続することによって特徴付けられる他の慢性炎症性疾患において観察されるいくつかの全身徴候の原因説明に役立ち得るものである。
【0017】
RA患者では、このサイトカインが代謝及び骨ホメオスタシスに与える影響に対して、特に病態生理学的及び臨床的に関心が寄せられている。
【0018】
脂肪組織は、生理学的条件下ではIL-6産生にかなり寄与しており、その寄与率は、循環IL-6レベルの約35%に相当する。運動が継続される間は、収縮する骨格筋が主なIL-6供給源となり、その血漿中レベルは約100倍に増加する。IL-6は、脂肪細胞中の脂肪分解を刺激し(脂肪生成は抑制する)、超低密度リポタンパク質受容体の発現を増進させることで末梢組織によるコレステロール及びトリグリセリドの取り込みを増加させ、体重の減少及び血清中脂質レベルの減少を促進する。さらに、IL-6は、肝細胞及び筋細胞におけるインスリン感度を増進し、糖利用及び耐糖能を改善する。こうした作用は、このサイトカインが、インスリン活性を運動誘導性に増加させて耐久性を向上させることの根底をなす生理学的機構の一部であり得ることを示唆するものであるが、IL-6の慢性的な上昇(部分的には、例えば、過度の運動が長期的に行われることに起因する)は、肝細胞及び脂肪細胞においてインスリン抵抗性を生じさせる可能性がある。
【0019】
骨組織に対する影響に関して、IL-6は、骨芽細胞、破骨細胞、及び軟骨細胞の分化及び活性を調節することによって、骨格の発達、成長、及び維持に必要な骨吸収及び骨形成に影響を与える。間質/骨芽細胞の表面上の核内因子kB活性化受容体リガンド(RANKL)の発現(次いで破骨細胞分化及び骨吸収が刺激される)を増進することおいてIL-6が役割を担うことで、生理学的条件下での骨ホメオスタシスに対して潜在的に正の作用を伴って骨再形成が促進され得る。RAでは、それが過度かつ長期的に活性化されることで、異常な破骨細胞形成が誘導され、これによって骨粗鬆症及び骨破壊が引き起こされる。
【0020】
IL-6、IL-6受容体、IL-6シグナル伝達、IL-6の多面的な生物学的作用、免疫炎症応答に対する作用、追加の免疫炎症作用、ならびに関節リウマチ、自己免疫プロセスの発生、関節損傷、追加の関節徴候を含む、さまざまな病的状態におけるIL-6の役割に関する最新の総説(Lazzerini, P., et al., 2016)は、参照によって本明細書に組み込まれ、この文献では、上記の背景セクションにおける記載を裏付ける文書を見つけることができる。
【0021】
IL-6は、事実上あらゆる臓器系の生理学に関与する多面的なサイトカインであり、損傷または感染に対する応答において主要な役割を担うため、IL-6の発現異常は、多様なヒト疾病と関連付けられており、こうしたヒト疾病の中で最も注目すべきは、炎症障害及び自己免疫障害、冠動脈及び神経の疾患、妊娠性の問題、ならびに新生物である。
【0022】
こうした疾患の多くに対する治療として、IL-6がIL6R(すなわち、IL-6Rα及びIL-6Rβ/すなわちgp130)複合体に結合することを阻害するための抗体を開発することについて関心が寄せられている。そのような抗体で最初に開発されたものはトシリズマブであり、その後にサリルマブが開発された。これらの抗体は両方共、IL-6Rを標的とするものであり、関節リウマチ、キャッスルマン病、及び全身型若年性特発性関節炎の治療の認可が下りている。シルツキシマブは、IL-6を標的とするモノクローナル抗体であり、現在のところ、特発性多中心性キャッスルマン病(MCD)を対象として米国FDAが認可した唯一の治療剤である。シルクマブは、中程度~重度の関節リウマチを患う成人を対象としてIL-6経路を遮断するように設計された別の高親和性抗IL-6モノクローナル抗体であるが、この薬物を摂取した患者の死亡率が高かったため、認可のためのFDAのArthritis Advisory Committeeによって推奨されることはなかった。そのような目的のために、他にも多くの抗IL-6モノクローナル抗体または抗IL-6Rモノクローナル抗体(Rose-John, et al., 2017において論じられている)が活発に探求されている。モノクローナル抗IL-6抗体またはモノクローナル抗IL-6受容体抗体の多くが、ある特定の疾患の免疫療法において有効であることが判明し得るものの、そうした抗体は高価である上、血清中IL-6を十分に抑制し、そこから臨床的利点が得られるように維持するためには、そうした抗体を頻繁かつ長期的に投与しなくてはならない。
【0023】
IL-6関連の免疫障害に対抗するためのワクチン接種方法についてもいくつか報告されている。1つの手法は、7つのアミノ酸置換を有するヒトIL-6バリアント(Sant1)を免疫原として使用するものである(De Benedetti, et al., 2001;米国特許第6,706,261号)。しかしながら、この研究は、それが約20年前に最初に開示されて以来、いずれの臨床開発にも至っていない。別のグループ(Desallais, L., et al., 2014)からは、長さ184残基のIL-6タンパク質の40%超をカバーする無作為に選択された5つのIL-6ペプチドが、それぞれのペプチドの免疫原性を増進するために、複雑な化学的カップリング手順を使用して大きな担体タンパク質(KLH)に付加されたものを使用することが報告された。この方法の下で調製されたワクチンで生成された抗体は、そのほとんどが、望ましくない担体タンパク質(KLH)に指向化されたものであり、IL-6を標的とするものはごく少量であった。さらに、このワクチンは、臨床的及び産業的な適用に最適なものからは程遠い完全フロイントアジュバント(CFA)及び不完全フロイントアジュバント(ICFA)を製剤に含めることが必要なものであった。
【0024】
上記のように、現在のIL-6ワクチン設計には多くの制限及び問題(例えば、免疫原を調製するための化学的カップリング手順が複雑であること、KLHを担体タンパク質として使用した場合、誘導される抗体のほとんどが、当該担体タンパク質に指向化されたものになること、ワクチン接種において免疫原性を増強するために、臨床的に認められない完全フロイントアジュバントが使用されること、最も挑戦的な免疫化プロトコールを使用したとしても、ワクチン接種を受けた動物での標的IL-6に対する免疫原性が弱いこと、作用機構が不明であることなど)が存在する。したがって、IL-6に対する高度に特異的な免疫応答を誘発する能力を有し、患者への投与が容易であり、厳密な医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準(GMP)の下で製造することが可能であり、IL-6調節異常による影響を受ける疾患に罹患している患者の治療に世界的に適用する上でコスト効率の高い有効な免疫療法ワクチンを開発することに対するアンメットニーズが存在することは明らかである。
【0025】
本開示の主要目的は、IL-6ペプチド免疫原コンストラクト及びそのワクチン製剤を創出/開発することであり、設計されるペプチド免疫原コンストラクトのB細胞エピトープは、IL-6上のIL-6R結合部位を厳密に模倣しており、そのようなペプチド免疫原コンストラクト及びその製剤は、ワクチン接種される宿主において強力な免疫応答を生じさせて、自己タンパク質であるIL-6に対する免疫寛容を打ち破り、IL-6調節異常による影響を受ける疾患を治療するための、IL-6R結合部位を標的とする有効な抗体を生成させることを可能にする能力を有する。
【発明の概要】
【0026】
本開示は、インターロイキン6(IL-6)調節異常による影響を受ける疾患の免疫療法のための、IL-6を標的とする個々のペプチド免疫原コンストラクト及びその製剤を対象とする。
【0027】
こうした個々のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトは、アミノ酸数30以上の長さを有し、IL-6受容体結合領域(E42~C83(配列番号16)もしくはN144~I166(配列番号19))またはその断片に由来する機能性B細胞エピトープを含み、この機能性B細胞エピトープは、病原体タンパク質に由来する異種ヘルパーT細胞(Th)エピトープにスペーサー残基(複数可)を介して連結される。こうしたIL-6ペプチドコンストラクトは、設計されたB細胞エピトープ及びTh細胞エピトープの両方を含み、これらのエピトープは、一緒に働くことで、IL-6R結合領域に対して指向化された高度に特異的な抗体の生成を刺激し、これによって、IL-6調節異常による影響を受ける疾患に罹患しやすいか、または罹患している対象に治療的な免疫応答を与える。
【0028】
いくつかの実施形態では、開示のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトは、IL-6R結合領域またはその断片に由来するB細胞抗原部位(表1に示される配列番号5~20、配列番号72~74)が、病原性タンパク質に由来する異種Thエピトープ(表2に示される配列番号78~106及び配列番号216~226)に連結されたハイブリッドペプチドを含み、このB細胞抗原部位及び異種Thエピトープは、一緒に働くことで、組換えヒトIL-6(配列番号1)または他の種のIL-6(マカクのIL-6(配列番号2)、マウスのIL-6(配列番号3)、及びラットのIL-6(配列番号4)など)と交差反応する高度に特異的な抗体の生成を刺激する。
【0029】
参考文献:
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【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、ヒト種由来のIL-6配列(配列番号227)、マカク種由来のIL-6配列(配列番号228)、マウス種由来のIL-6配列(配列番号229)、及びラット種由来のIL-6配列(配列番号230)の配列アライメントを示す。アミノ酸位置44~50から生じる分子内ループ構造及びアミノ酸位置73~83から生じる分子内ループ構造は、影付きのシステイン及び角括弧で示される。
【
図2】
図2は、本明細書に開示の特定の実施形態に従って選択標的に対して指向化された医薬組成物の商業化(産業化)に繋がる開発プロセスを示す流れ図である。本開示は、IL-6ペプチド免疫原設計、IL-6ペプチド組成物設計、IL-6医薬製剤設計、インビトロでのIL-6機能的抗原性試験設計、インビボでのIL-6免疫原性及び効力の試験設計、ならびにIL-6治療臨床プロトコール設計を含む。ステップのそれぞれを詳細に評価及び分析することで、安全かつ有効なIL-6医薬組成物の商業化に最終的に繋がることになる一連の実験を行うに至った。
【
図3】
図3A-Dは、異なるIL-6ペプチド免疫原コンストラクトで免疫化したモルモットにおける12週間にわたる抗体応答の動態を示すグラフである。具体的には、
図3Aには、配列番号107、配列番号112~114、及び配列番号116~118のペプチド免疫原コンストラクトに対する抗体応答が示される。
図3Bには、配列番号124~130のペプチド免疫原コンストラクトに対する抗体応答が示される。
図3Cには、配列番号131~137のペプチド免疫原コンストラクトに対する抗体応答が示される。
図3Dには、配列番号138~145のペプチド免疫原コンストラクトに対する抗体応答が示される。組換えヒトIL-6を用いてELISAプレートをコートした。4倍の段階希釈によって血清を1:100~1:4.19×10
8に希釈した。試験した血清の力価(Log
10(EC
50)として表される)は、4パラメーターロジスティック曲線を当てはめる非線形回帰によって計算した。
【
図4A】
図4A-Bは、異なるIL-6ペプチド免疫原コンストラクトに対して指向化されたさまざまな精製ポリクローナル抗IL-6抗体の交差反応性を示す。具体的には、
図4Aに、配列番号107、配列番号116、配列番号118、配列番号124~128の結果を示し、
図4Bに、配列番号129~133の結果を示す。組換えヒトIL-6タンパク質、組換えサルIL-6タンパク質、組換えマウスIL-6タンパク質、または組換えラットIL-6タンパク質を用いてELISAプレートをコートした。プロテインAクロマトグラフィーによってモルモット血清から精製したポリクローナル抗IL-6 IgG抗体を、4倍の段階希釈によって10μg/mL~0.00238ng/mLに希釈した。4パラメーターロジスティック曲線を当てはめる非線形回帰によってEC
50を計算した。
【
図4B】
図4A-Bは、異なるIL-6ペプチド免疫原コンストラクトに対して指向化されたさまざまな精製ポリクローナル抗IL-6抗体の交差反応性を示す。具体的には、
図4Aに、配列番号107、配列番号116、配列番号118、配列番号124~128の結果を示し、
図4Bに、配列番号129~133の結果を示す。組換えヒトIL-6タンパク質、組換えサルIL-6タンパク質、組換えマウスIL-6タンパク質、または組換えラットIL-6タンパク質を用いてELISAプレートをコートした。プロテインAクロマトグラフィーによってモルモット血清から精製したポリクローナル抗IL-6 IgG抗体を、4倍の段階希釈によって10μg/mL~0.00238ng/mLに希釈した。4パラメーターロジスティック曲線を当てはめる非線形回帰によってEC
50を計算した。
【
図5A】
図5Aは、異なるIL-6ペプチド免疫原コンストラクト(配列番号107、配列番号116、配列番号118、配列番号124、配列番号132、配列番号133、配列番号124、及び配列番号137、ならびにGP IgG)によって産生されたさまざまな精製ポリクローナル抗IL-6抗体がELISAベースのアッセイにおいてIL-6とIL-6Rとの相互作用を中和する活性を示す。組換えヒトIL-6Rタンパク質を用いてELISAプレートをコートした。10ng/mlのヒトIL-6と、3倍の段階希釈によって100~0.412μg/mLとした漸減濃度のさまざまなポリクローナル抗IL-6 IgG抗体と、を事前に混合した後、IL-6Rコートウェルに添加した。捕捉されたIL-6を、ビオチン標識型ウサギ抗IL-6抗体、次いでストレプトアビジンポリHRPを使用することによって検出した。4パラメーターロジスティック曲線を当てはめる非線形回帰によってIC
50を計算した。
【
図5B】
図5Bは、異なるIL-6ペプチド免疫原コンストラクト(配列番号128、配列番号129、配列番号134、及び配列番号135、ならびにGP IgG)によって産生されたさまざまな精製ポリクローナル抗IL-6抗体がELISAベースのアッセイにおいてIL-6/IL-6Rとgp130との相互作用を中和する活性を示す。組換えgp130-Fc融合タンパク質を用いてELISAプレートをコートした。所定の比で事前に形成させたIL-6/IL-6R複合体と、3倍の段階希釈によって100~0.412μg/mLとした漸減濃度のさまざまなポリクローナル抗IL-6 IgG抗体と、を事前に混合した後、gp130-Fcコートウェルに添加した。捕捉されたIL-6/IL-6R複合体を、ビオチン標識型ウサギ抗IL-6抗体、次いでストレプトアビジンポリHRPを使用することによって検出した。4パラメーターロジスティック曲線を当てはめる非線形回帰によってIC
50を計算した。
【
図6】
図6は、異なるIL-6ペプチド免疫原コンストラクト(配列番号116、配列番号124、配列番号127、配列番号128、配列番号129、配列番号134、配列番号135、及び配列番号137、ならびにGP IgG)によって産生されたさまざまな精製ポリクローナル抗IL-6抗体がELISAベースのアッセイにおいてIL-6依存性のSTAT3リン酸化を中和する活性を示す。10ng/mLのヒトIL-6及び100μg/mL濃度のさまざまなポリクローナル抗IL-6 IgG抗体と共に、5%CO
2雰囲気下、37℃でRMPI8226細胞を30分間インキュベートした後、溶解させることで、ELISAベースのアッセイにおいてリン酸化STAT3のレベルを決定した。
【
図7A】
図7A-Bは、異なるIL-6ペプチド免疫原コンストラクトによって産生されたさまざまな精製ポリクローナル抗IL-6抗体がIL-6依存性の細胞増殖を中和する活性を示す。
図7Aに、配列番号116、配列番号118、配列番号124~129、配列番号131、配列番号132、及び配列番号133の中和活性を示し、
図7Bに、配列番号134~145の中和活性を示す。10ng/mLのヒトIL-6及び指定濃度のさまざまなポリクローナル抗IL-6 IgG抗体と共に、5%CO
2雰囲気下、37℃でTF-1細胞を72時間インキュベートした。代謝的に活性な細胞中のATP量を測定することによって細胞生存度を監視した。
【
図7B】
図7A-Bは、異なるIL-6ペプチド免疫原コンストラクトによって産生されたさまざまな精製ポリクローナル抗IL-6抗体がIL-6依存性の細胞増殖を中和する活性を示す。
図7Aに、配列番号116、配列番号118、配列番号124~129、配列番号131、配列番号132、及び配列番号133の中和活性を示し、
図7Bに、配列番号134~145の中和活性を示す。10ng/mLのヒトIL-6及び指定濃度のさまざまなポリクローナル抗IL-6 IgG抗体と共に、5%CO
2雰囲気下、37℃でTF-1細胞を72時間インキュベートした。代謝的に活性な細胞中のATP量を測定することによって細胞生存度を監視した。
【
図8A】
図8A-Bは、異なるIL-6ペプチド免疫原コンストラクトによって産生されたさまざまな精製ポリクローナル抗IL-6抗体がIL-6誘導性のMCP-1分泌を中和する活性を示す。
図8Aに、配列番号116、配列番号118、配列番号124~134、及び配列番号136の中和活性を示し、
図8Bに、配列番号138~145の中和活性を示す。10ng/mLのヒトIL-6及び指定濃度のさまざまなポリクローナル抗IL-6 IgG抗体と共に、5%CO
2雰囲気下、37℃でU937細胞を24時間インキュベートした。培養上清を採取してMCP-1レベルを決定した。
【
図8B】
図8A-Bは、異なるIL-6ペプチド免疫原コンストラクトによって産生されたさまざまな精製ポリクローナル抗IL-6抗体がIL-6誘導性のMCP-1分泌を中和する活性を示す。
図8Aに、配列番号116、配列番号118、配列番号124~134、及び配列番号136の中和活性を示し、
図8Bに、配列番号138~145の中和活性を示す。10ng/mLのヒトIL-6及び指定濃度のさまざまなポリクローナル抗IL-6 IgG抗体と共に、5%CO
2雰囲気下、37℃でU937細胞を24時間インキュベートした。培養上清を採取してMCP-1レベルを決定した。
【
図9】
図9は、予防モデルを用いてラットコラーゲン誘導関節炎(CIA)におけるラットIL-6ペプチドコンストラクトの効力を評価するための実験設計を示す。-31日目、-10日目、及び4日目に配列番号148または配列番号157のペプチド免疫原コンストラクトを45μg用量で雌性ルイスラット(群当たりn=7)に筋肉内投与して免疫化した。関節炎を誘導するために、0日目及び7日目にウシII型コラーゲン/IFAエマルションを動物の皮内に負荷した。
【
図10】
図10は、異なるIL-6ペプチド免疫原コンストラクト(配列番号148及び配列番号157)を用いて免疫化したラットにおける28日間にわたる抗体応答の動態を示す。組換えラットIL-6を用いてELISAプレートをコートした。4倍の段階希釈によって血清を1:100~1:4.19×10
8に希釈した。試験した血清の力価(Log
10(EC
50)として表される)は、4パラメーターロジスティック曲線を当てはめる非線形回帰によって計算した。
【
図11】
図11は、異なるIL-6ペプチド免疫原コンストラクト(配列番号148及び配列番号157)を用いて事前に免疫化したコラーゲン負荷ラットにおける関節炎スコアの減少を示す。
【
図12】
図12は、異なるIL-6ペプチド免疫原コンストラクト(配列番号148及び配列番号157)を用いて事前に免疫化したコラーゲン負荷ラットにおける後足の腫脹の減少を示す。
【
図13】
図13は、異なるIL-6ペプチド免疫原コンストラクト(配列番号148及び配列番号157)を用いて事前に免疫化したコラーゲン負荷ラットにおける血中好中球数増加の軽減を示す。
【
図14】
図14は、治療モデルを用いてラットコラーゲン誘導関節炎(CIA)におけるラットIL-6ペプチド免疫原コンストラクトの効力を評価するための実験設計を示す。-7日目、7日目、14日目、21日目、及び28日目に配列番号148を45μg用量で雌性ルイスラット(群当たりn=6または7)に筋肉内投与して免疫化した。関節炎を誘導するために、0日目及び7日目にウシII型コラーゲン/IFAエマルションを動物の皮内に負荷した。
【
図15】
図15は、ISA51またはISA51/CpGのいずれかと共に製剤化した配列番号148で免疫化したラットにおける43日間にわたる抗体応答の動態を示す。組換えラットIL-6を用いてELISAプレートをコートした。4倍の段階希釈によって血清を1:100~1:4.19×10
8に希釈した。試験した血清の力価(Log
10(EC
50)として表される)は、4パラメーターロジスティック曲線を当てはめる非線形回帰によって計算した。
【
図16】
図16は、ISA51またはISA51/CpGのいずれかと共に製剤化した配列番号148で事前に免疫化したコラーゲン負荷ラットにおける関節炎スコア及び後足の腫脹の減少を示す。
【
図17】
図17は、ISA51またはISA51/CpGのいずれかと共に製剤化した配列番号148で事前に免疫化したコラーゲン負荷ラットにおける肝臓C反応性タンパク質(CRP)の減少を示す。
【
図18】
図18は、ISA51またはISA51/CpGのいずれかと共に製剤化した配列番号148で事前に免疫化したコラーゲン負荷ラットにおける足首関節の破壊の緩和を示す。
【
図19】
図19は、ISA51またはISA51/CpGのいずれかと共に製剤化した配列番号148で事前に免疫化したコラーゲン負荷ラットにおける組織の炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-17、及びMCP-1)の産生の減少を示す。
【
図20】
図20は、ISA51/CpGまたはADJU-PHOS/CpGのいずれかと共に製剤化した配列番号148を異なる用量で用いて免疫化したラットにおける43日間にわたる抗体応答の動態を示す。この試験は、
図17と同じ実験設計に従って実施した。組換えラットIL-6を用いてELISAプレートをコートした。4倍の段階希釈によって血清を1:100~1:4.19×10
8に希釈した。試験した血清の力価(Log
10として表される)は、非線形回帰で得た各血清試料の4パラメーターロジスティック曲線に0.45のカットオフ値を組み込むことによって計算した。
【
図21】
図21は、ISA51/CpGまたはADJU-PHOS/CpGのいずれかと共に製剤化した配列番号148を漸増用量で用いて免疫化したコラーゲン負荷ラットにおける体重減少の緩和を示す。
【
図22】
図22は、ISA51/CpGまたはADJU-PHOS/CpGのいずれかと共に製剤化した配列番号148を漸増用量で用いて免疫化したコラーゲン負荷ラットにおける後足の腫脹の減少を示す。
【
図23】
図23は、ISA51/CpGまたはADJU-PHOS/CpGのいずれかと共に製剤化した配列番号148を漸増用量で用いて免疫化したコラーゲン負荷ラットの後足を24日目に巨視的に観察したものを示す。
【
図24】
図24は、ISA51/CpGまたはADJU-PHOS/CpGのいずれかと共に製剤化した配列番号148を漸増用量で用いて免疫化したコラーゲン負荷ラットにおける関節炎スコアの減少を示す。
【
図25】
図25は、ISA51/CpGまたはADJU-PHOS/CpGのいずれかと共に製剤化した配列番号148を漸増用量で用いて免疫化したコラーゲン負荷ラットにおける血中好中球数増加の軽減を示す。
【
図26】
図26は、ISA51/CpGまたはADJU-PHOS/CpGのいずれかと共に製剤化した配列番号148を漸増用量で用いて免疫化したコラーゲン負荷ラットにおける血小板放出の軽減を示す。
【
図27】
図27は、ISA51/CpGまたはADJU-PHOS/CpGのいずれかと共に製剤化した配列番号148を漸増用量で用いて免疫化したコラーゲン負荷ラットにおける血中AST増加の減少を示す。
【
図28】
図28は、指定のアジュバントと共に製剤化した異なるIL-6ペプチド免疫原コンストラクト(配列番号102、配列番号114、配列番号115、配列番号117、及び配列番号118)で免疫化したモルモットにおける12週間にわたる抗体応答の動態を示す。組換えヒトIL-6を用いてELISAプレートをコートした。4倍の段階希釈によって血清を1:100~1:4.19×10
8に希釈した。試験した血清の力価(Log
10(EC
50)として表される)は、4パラメーターロジスティック曲線を当てはめる非線形回帰によって計算した。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本開示は、インターロイキン6(IL-6)調節異常による影響を受ける疾患の免疫療法のための、IL-6を標的とする個々のペプチド免疫原コンストラクト及びその製剤を対象とする。
【0032】
開示のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトは、30個以上のアミノ酸を有し、IL-6受容体(IL-6R)結合領域(E42~C83(配列番号16)もしくはN144~I166(配列番号19))またはその断片(配列番号5~19)に由来する機能性B細胞エピトープを含み、この機能性B細胞エピトープは、病原体タンパク質に由来する異種ヘルパーT細胞(Th)エピトープ(配列番号78~106及び配列番号216~226)に対して、任意選択の異種スペーサーを介して連結される。こうしたIL-6ペプチドコンストラクトは、設計されたB細胞エピトープ及びTh細胞エピトープの両方を含み、これらのエピトープは、一緒に働くことで、IL-6R結合領域に対して指向化された高度に特異的な抗体の生成を刺激し、これによって、IL-6調節異常による影響を受ける疾患に罹患しているか、または罹患しやすい患者に予防的及び/または治療的な免疫応答を与える。開示のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトは、IL-6R結合領域またはその断片に由来するB細胞抗原部位(配列番号5~20、配列番号72~75)が、病原性タンパク質に由来する異種Thエピトープ(例えば、表2の配列番号78~106及び配列番号216~226)に連結されたハイブリッドペプチドを含み得、このB細胞抗原部位及び異種Thエピトープは、一緒に働くことで、組換えヒトIL-6(配列番号1)または他の種のIL-6(マカクのIL-6(配列番号2)、マウスのIL-6(配列番号3)、及びラットのIL-6(配列番号4)など)と交差反応する高度に特異的な抗体の生成を刺激する。
【0033】
いくつかの実施形態では、IL-6ペプチド免疫原コンストラクト(例えば、表3の配列番号107~186)は、さまざまな病原性タンパク質に由来する異種Thエピトープ(配列番号78~106及び配列番号216~226)にB細胞抗原部位(例えば、C73~C83(配列番号5))が連結されたハイブリッドペプチドを含み、このハイブリッドペプチドは、組換えヒトIL-6(配列番号1)と交差反応し、かつ他の種のIL-6(配列番号2、配列番号3、配列番号4)との交差反応性を有する抗体を誘導する能力を有する。B細胞抗原部位の増強に用いられる異種Thエピトープの中で、天然の病原体に由来するThエピトープ(EBV BPLF1(配列番号105)、EBV CP(配列番号102)、Clostridium Tetani1、2、4(配列番号78、配列番号99~101)、コレラ毒素(配列番号85)、Schistosoma mansoni(配列番号84))、ならびに麻疹ウイルス融合タンパク質(MVF1~5)及びB型肝炎表面抗原(HBsAg1~3)に由来する理想化された人工Thエピトープ(単一配列または組み合わせ配列(例えば、配列番号79、配列番号86~92)のいずれかの形態をとる)が、そのようなB細胞抗原性増強において特に有用であることが、免疫原性スクリーニング試験によって明らかになっている。
【0034】
本開示は、異なる病原体に由来する異種Thエピトープを含むIL-6ペプチド免疫原コンストラクトの混合物を含むペプチド組成物も対象とする。IL-6ペプチド免疫原コンストラクトの混合物を含む組成物を使用することで、患者の幅広い遺伝的背景をカバーすることが可能になり、これによって、IL-6調節異常による影響を受ける疾患の予防及び/または治療のための免疫化を行ったときのレスポンダー率のパーセントが高まり得る。IL-6ペプチド免疫原コンストラクトを複数含むペプチド組成物を使用すると、免疫応答の相乗的な増強が観察され得る。
【0035】
そのようなペプチド免疫原コンストラクトから得られる抗体応答は、そのほとんど(>90%)が、IL-6R結合領域ペプチド(配列番号5~19)に対する所望の交差反応性に集中しており、免疫原性増強に用いた異種Thエピトープに指向化されたものは、仮に伴うとしても多くはなかった。このことは、そのようなペプチド抗原性増強に使用される従来の担体タンパク質(KLH、トキソイドなど)または他の生物学的担体を使用する標準的な方法とは際立って対照的である。
【0036】
本開示は、IL-6調節異常による影響を受ける疾患の予防及び/または治療ための製剤を含めて、医薬組成物も対象とする。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、全長ヒトIL-6(配列番号1)または他の種のIL-6(マカクのIL-6(配列番号2)、マウスのIL-6(配列番号3)、及びラットのIL-6(配列番号4)など)との所望の交差反応性が得られるようにIL-6ペプチドの免疫原性をさらに増強するための安定化された免疫刺激性複合体(IL-6ペプチド免疫原コンストラクトの混合物を含むペプチド組成物とCpGオリゴマーとを混合することによって静電気的な結合を介して形成される)を含む。
【0037】
他の実施形態では、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトの混合物を含むペプチド組成物を、アジュバントとしての無機塩(アラムゲル(ALHYDROGEL)もしくはリン酸アルミニウム(ADJU-PHOS)を含む)と接触させて懸濁液を形成させるか、またはアジュバントとしてのMONTANIDE ISA51もしくはMONTANIDE ISA720と接触させて油中水型エマルションを形成させたものを含む医薬組成物を、IL-6調節異常による影響を受ける疾患の予防及び/または治療のための患者への投与に使用した。
【0038】
さらに、本開示は、IL-6調節異常による影響を受ける疾患に罹患している動物及び患者の予防及び/または治療に使用するためのIL-6ペプチド免疫原コンストラクト及びその製剤を低コストで製造及び品質管理するための方法も提供する。
【0039】
本開示は、開示のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトに対して指向化された抗体も対象とする。具体的には、本開示のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトは、IL-6分子上のIL-6R結合部位と交差反応する高度に特異的な抗体の生成を刺激することができる。開示の抗体は、IL-6R結合部位に対して高度に特異的に結合し、免疫原性の増強に用いられる異種Thエピトープに対して指向化された抗体は、仮に伴うとしても多くはなく、このことは、そのようなペプチド免疫原性増強に使用される従来のタンパク質または他の生物学的担体を使用して生成される抗体とは際立って対照的である。したがって、開示のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトは、自己IL-6タンパク質に対する免疫寛容を打ち破る能力を有し、他のペプチド免疫原またはタンパク質免疫原と比較して、得られるレスポンダー率が高い。
【0040】
ある特定の実施形態では、抗体は、ヒトIL-6分子(配列番号1)上のIL-6R結合部位に対して指向化され、それに特異的に結合する。IL-6ペプチド免疫原コンストラクトに誘導される高度に特異的な抗体は、IL-6とIL-6Rとの結合を阻害すると共に、下流の事象(IL-6誘導性のSTAT3リン酸化、IL-6依存性の細胞増殖、IL-6誘導性のMCP産生、及び他のIL-6関連の病的状態など)を抑制し、これによって、IL-6調節異常による影響を受ける疾患に罹患している患者を有効に治療すること可能である。
【0041】
別の態様では、本開示は、開示のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトを含む組成物を投与した患者において誘導されるIL-6に対するヒト抗体(ポリクローナル及びモノクローナル)を提供する。ヒト患者の血液から単離されたB細胞からのヒトモノクローナル抗体の調製に有効な方法は、Traggiai, et al. (2004)によって記載されており、当該文献の開示内容は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0042】
IL-6ペプチド免疫原コンストラクトによって誘導される開示の抗体は、その特有の特徴及び特性に基づいて、IL-6調節異常による影響を受ける疾患に罹患している患者を治療するための免疫療法手法を提供する能力を有する。
【0043】
本開示は、開示のIL-6ペプチド免疫原コンストラクト、組成物、及び抗体を調製する方法も対象とする。開示の方法によれば、IL-6ペプチド免疫原コンストラクト及び当該コンストラクトを含む組成物が低コストで製造及び品質管理され、このIL-6ペプチド免疫原コンストラクト及び組成物は、IL-6調節異常による影響を受ける疾患に罹患している患者を治療するための方法において使用され得る。
【0044】
本開示は、開示のIL-6ペプチド免疫原コンストラクト及び/またはIL-6ペプチド免疫原コンストラクトに対して指向化された抗体を使用して対象におけるIL-6調節異常による影響を受ける疾患を予防及び/または治療するための方法も含む。開示の方法は、開示のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトを含む組成物を対象に投与するステップを含む。いくつかの実施形態では、方法において利用される組成物は、静電気的な結合を介して生じる負荷電オリゴヌクレオチド(CpGオリゴマーなど)との安定な免疫刺激性複合体(アジュバントがさらに追加され得る)の形態で、IL-6調節異常による影響を受ける疾患に罹患しやすいか、または罹患している対象に投与するための開示のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトを含む。
【0045】
開示の方法は、IL-6調節異常による影響を受ける疾患を予防及び/または治療するためにペプチド免疫原コンストラクトを投与するための投薬レジメン、剤形、及び経路も含む。
【0046】
一般
本明細書で使用されるセクションの見出しは、構成を目的とするものにすぎず、記載対象を限定するものと解釈してはならない。本出願において引用される参考文献または参考文献の一部はすべて、それらの全体が、あらゆる目的のために参照によって本明細書に明確に組み込まれる。
【0047】
別段の説明がない限り、本明細書で使用される専門用語及び科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。「a」、「an」、及び「the」という単数の用語は、別に文脈上明確に示されない限り、複数の指示対象を含む。同様に、「または」という言葉は、別に文脈上明確に示されない限り、「及び」を含むことを意図する。したがって、「AまたはBを含む」という語句は、A、もしくはB、またはA及びBを含むことを意味する。ポリペプチドに対して与えられるすべてのアミノ酸サイズ、及びすべての分子量値または分子質量値はおよそのものであり、説明のために提供されるものであることがさらに理解されよう。開示の方法の実施または試験においては、本明細書記載のものと同様または同等の方法及び材料を使用することができるが、以下には適切な方法及び材料が記載される。本明細書で言及される刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献はすべて、それらの全体が参照によって組み込まれる。矛盾が生じる場合は、用語の説明を含めて、本明細書が優先されることになる。さらに、本明細書に開示の材料、方法、及び実施例は、例示にすぎず、限定を意図するものではない。
【0048】
IL-6ペプチド免疫原コンストラクト
本開示は、IL-6受容体(IL-6R)結合領域(E42~C83(配列番号16)もしくはN144~I166(配列番号19))またはその断片(例えば、配列番号5~19)に由来するアミノ酸配列を有するB細胞エピトープを含むペプチド免疫原コンストラクトを提供する。B細胞エピトープは、病原体タンパク質に由来する異種ヘルパーT細胞(Th)エピトープに対して、直接的に共有結合で連結されるか、または任意選択の異種スペーサーを介して共有結合で連結される。こうしたコンストラクトは、設計されたB細胞エピトープ及びTh細胞エピトープの両方を含み、これらのエピトープは、一緒に働くことで、IL-6上のIL-6R結合領域に対して指向化された高度に特異的な抗体の生成を刺激し、これによって、IL-6調節異常による影響を受ける疾患に罹患しやすいか、または罹患している患者に治療的な免疫応答を与える。
【0049】
本明細書で使用される「IL-6ペプチド免疫原コンストラクト」または「ペプチド免疫原コンストラクト」という語句は、(a)全長ヒトIL-6(配列番号1)のペプチドE42~C83(配列番号16)もしくはペプチドN144~I166(配列番号19)によって表されるIL-6R結合領域またはその断片(例えば、配列番号5~19)に由来する約10個超の連続アミノ酸残基を有するB細胞エピトープと、(b)異種Thエピトープと、(c)任意選択の異種スペーサーと、を含むアミノ酸数30超の長さを有するペプチドを指す。
【0050】
ある特定の実施形態では、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトは、下記の式:
(Th)m-(A)n-(IL-6のIL-6R結合領域もしくはその断片)-X
または
(IL-6のIL-6R結合領域もしくはその断片)-(A)n-(Th)m-X
または
(Th)m-(A)n-(IL-6のIL-6R結合領域もしくはその断片)-(A)n-(Th)m-X
によって表すことができ、
式中、
Thは、異種ヘルパーT細胞エピトープであり、
Aは、異種スペーサーであり、
(IL-6のIL-6R結合領域またはその断片)は、IL-6(配列番号1)のIL-6R結合領域に由来する7~42個のアミノ酸残基を有するB細胞エピトープペプチドであり、
Xは、アミノ酸のα-COOHまたはα-CONH2であり、
mは、1~約4であり、
nは、0~約10である。
【0051】
本開示のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトは、多くの理論的根拠に基づいて設計及び選択されたものであり、こうした理論的根拠には、下記のものが含まれる:
i.IL-6 B細胞エピトープペプチドは、それ単独では非免疫原性であることで、自己T細胞を活性化することを回避する。
ii.IL-6 B細胞エピトープペプチドは、タンパク質担体または強力なヘルパーT細胞エピトープ(複数可)を使用することによって免疫原性にされ得る。
iii.IL-6 B細胞エピトープペプチドが免疫原性にされ、宿主に投与されると、ペプチド免疫原コンストラクトは、
a.IL-6ペプチド配列(B細胞エピトープ)に対して選択的に指向化されており、タンパク質担体またはヘルパーT細胞エピトープ(複数可)に対しては指向化されていない高力価抗体を誘導し、
b.免疫化された宿主における免疫寛容を壊し、IL-6(配列番号1)との交差反応性を有する高度に特異的な抗体を生成させ、
c.IL-6とIL-6Rとの結合を阻害すると共に、下流の事象(IL-6誘導性のSTAT3リン酸化、IL-6依存性の細胞増殖、IL-6誘導性のMCP産生など)を抑制する能力を有する高度に特異的な抗体を生成させ、
d.他のIL-6関連の病的状態をインビボで低減する能力を有する高度に特異的な抗体を生成させる。
【0052】
開示のIL-6ペプチド免疫原コンストラクト及びその製剤は、医薬組成物として有効に機能することで、IL-6調節異常による影響を受ける疾患に罹患しやすいか、または罹患している対象の予防及び/または治療を行うことができる。
【0053】
以下には、開示のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトのさまざまな構成要素についてさらに詳細に記載される。
【0054】
a.IL-6R結合領域に由来するB細胞エピトープペプチド
本開示は、ヒト組換えIL-6タンパク質に対する特異性を有すると共に、マカク種、マウス種、及びラット種に由来するIL-6タンパク質に対する交差反応性を有する高力価抗体を生成させるための新規のペプチド組成物を対象とする。ペプチド組成物の部位特異性によって、IL-6上の他の領域の不適切部位または担体タンパク質上の不適切部位に指向化された抗体が生成することが最小化され、それによって高い安全係数が得られる。
【0055】
本明細書で使用される「IL-6」という用語は、ヒト由来の全長IL-6タンパク質(UniProtKB P05231;GenBank受入番号NP_000591.1)及び交差反応性を有する他の種に由来する全長IL-6タンパク質(マカク(UniProtKB A0A1D5QM02-1;GenBank受入番号NP_001274245.1)、マウス(UniProtKB P08505;GenBank受入番号NP_112445.1)、及びラット(UniProtKB P20607;GenBank受入番号NP_036721.1)を含む)を指す。
図1には、ヒトの全長IL-6配列(配列番号227)、マカクの全長IL-6配列(配列番号228)、マウスの全長IL-6配列(配列番号229)、及びラットの全長IL-6配列(配列番号230)のアミノ酸配列アライメントが示される。
【0056】
より具体的には、本明細書で使用される「IL-6」という用語は、N末端シグナルペプチド(種によって約24~28個のアミノ酸を含む)が切断された全長成熟IL-6タンパク質のアミノ酸配列を指す。ヒト由来の全長成熟IL-6タンパク質のアミノ酸配列(配列番号1)、マカク由来の全長成熟IL-6タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)、マウス由来の全長成熟IL-6タンパク質のアミノ酸配列(配列番号3)、及びラット由来の全長成熟IL-6タンパク質のアミノ酸配列(配列番号4)は、表1に示される。本出願を通じて、IL-6タンパク質内のアミノ酸位置の番号付けは、表1に示されるように、IL-6の全長成熟配列(N末端シグナル配列が切断されているもの)に基づいており、こうした全長成熟配列は、配列番号1~4によって示される。
【0057】
IL-6Rは、(1)IL-6結合鎖、すなわちIL-6Rα(2つの形態(すなわち、(a)80kDの膜貫通型IL-6Rα(mIL-6Rα)(UniProtKB:P08887;GenBank受入番号NP_000556.1)、及び(b)50~55kDの可溶性IL-6Rα(sIL-6Rα)(UniProtKB:P08887またはP08887-2))で存在する)、ならびに(2)130kDのシグナル伝達鎖(IL-6Rβまたはgp130と呼ばれる)(UniProtKB:P40189;GenBank受入番号NP_002175.2)という2つの鎖によって構成される。
【0058】
膜IL-6Rα(すなわち、mIL-6Rα)は、限られた数の細胞型の表面上に発現する。こうした細胞型は、すなわち、肝細胞、巨核球、ならびに白血球(単球、マクロファージ、好中球、ならびにTリンパ球及びBリンパ球を含む)である。可溶性IL-6Rα(すなわち、sIL-6Rα)は、ヒト血漿(25~75ng/mL)及び組織液中に存在し、mIL-6Rαがメタロプロテアーゼ(ディスインテグリン及びメタロプロテイナーゼ(すなわち、ADAM))によるタンパク質切断(シェディング)を受けることによって生成されるか、または生成量は少ないが、膜貫通ドメインが除外されることによる選択的スプライシングを介して生成され得る。
【0059】
膜IL-6Rβ、すなわちgp130は、すべてのヒト細胞上に遍在性に発現する(Sabba, 2008)。
【0060】
古典的シグナル伝達では、IL-6は、膜結合型IL-6受容体(mIL-6Rα)に結合し、IL-6-mIL-6Rα複合体がIL-6Rβ-サブユニット(gp130)と結び付くことで、gp130のダイマー化及び細胞内シグナル伝達が誘導される。代替的に、IL-6は、可溶性IL-6Rα(sIL-6Rα)(ディスインテグリン及びメタロプロテイナーゼドメイン含有タンパク質17(ADAM17)によってmIL-6Rαが切断されることによって生成される)に結合し得る。次に、IL-6-sIL-6Rα複合体は、膜結合型IL-6Rβ-サブユニット(gp130)(IL-6Rを発現しない細胞上にさえ存在する)に結合し、トランスシグナル伝達を誘導する。したがって、IL-6は、mIL-6Rα(またはsIL-6Rα)のいずれに結合しても、ヘキサマー(2つのIL-6、2つのIL-6Rα、及び2つのIL-6Rβ(gp130)を含む)タンパク質の形成を誘導し、これによってその後に下流シグナル伝達カスケードを引き起こす(Rose-John, et al., 2017)。
【0061】
IL-6がmIL-6Rαに結合することによる細胞活性化は、「古典的シグナル伝達」と呼ばれる。mIL-6Rαを発現しない他の細胞はすべて、「トランスシグナル伝達」によってIL-6シグナルを得る。トランスシグナル伝達では、IL-6は、循環sIL-6Rαに結合し、この複合体は、細胞表面上のIL-6Rβ(すなわち、gp130)とシグナル伝達複合体を形成する。トランスシグナル伝達は、幅広い範囲のヒト細胞に生じ得るものであることから、IL-6の活性が多面的となる一因となっている。現在では、IL-6のホメオスタシス活性及び再生活性は古典的シグナル伝達によって媒介される一方で、炎症促進性作用は、主に、トランスシグナル伝達経路の活性化に起因するものと理解されている。疾患の発症に特に関与するのはIL-6トランスシグナル伝達であることを示す証拠が積み上がってきている。循環中には、IL-6Rβの可溶性形態(sIL-6Rβ)(すなわち、gp130の可溶性形態(sgp130))も比較的高濃度で検出されており、この可溶性形態は、主に、選択的スプライシングによって生じたものであった。sgp130はIL-6/sIL-6Rα複合体に結合し得ることから、IL-6介在性のトランスシグナル伝達の天然の特異的阻害剤として働く一方で、古典的シグナル伝達は、sgp130による影響を受けない。
【0062】
IL-6Rαは、IL-6に対する特有の結合受容体である一方で、IL-6Rβ(すなわち、gp130)シグナル伝達鎖は、白血病抑制因子、オンコスタチンM、毛様体神経栄養因子、IL-11、カルジオトロフィン-1、ニューロポエチン-1、IL-27、及びIL-35を含む、IL-6ファミリーのメンバーによって共有されている。
【0063】
IL-6ペプチド免疫原コンストラクトのIL-6 B細胞エピトープ部分は、IL-6分子上のIL-6R結合領域を標的とする。B細胞エピトープペプチドは、全長成熟IL-6タンパク質(配列番号1~4)のE42~C83(配列番号16)またはN144~I166(配列番号19)のいずれかに由来する約7~約42個のアミノ酸残基を含む。IL-6 B細胞エピトープは、IL-6タンパク質の断片を使用して広範な血清学的スクリーニングを経て選択されたものであり、使用した断片のいくつかは、当該タンパク質内に天然に存在する分子内ループを含むものであり、当該分子内ループは、
図1に影付きのシステイン残基によって示される。
【0064】
ある特定の実施形態では、B細胞エピトープペプチドは、設計根拠に基づいてスクリーニング及び選択され、内在性システインによって形成されるIL-6の内部分子内ループ(例えば、C73~C83(配列番号5)もしくはC44~C50(配列番号15))(全長成熟IL-6タンパク質配列(配列番号1)の番号付けに従う)に由来するアミノ酸配列を含むか、またはIL-6分子のC末端側に由来するアミノ酸配列(N144~I166(配列番号19)に由来するアミノ酸配列を含む)を含む。いくつかの実施形態では、B細胞エピトープは、表1に示される配列番号5~19のアミノ酸配列を有する。
【0065】
本開示のIL-6 B細胞エピトープペプチドには、IL-6ペプチド(配列番号5~19)の免疫学的に機能性の類似体または相同体も含まれる。IL-6 B細胞エピトープペプチドの機能性の免疫学的類似体または免疫学的相同体には、元のペプチドと実質的に同じ免疫原性を保持するバリアントが含まれる。免疫学的に機能性の類似体は、あるアミノ酸位置での保存的置換、全体電荷の変更、別の部分への共有結合での付加、またはアミノ酸の追加、挿入、もしくは欠失、及び/またはそれらの任意の組み合わせを有し得る(例えば、配列番号72~76のIL-6ペプチド)。
【0066】
b.異種ヘルパーT細胞エピトープ(Thエピトープ)
本開示は、IL-6由来のB細胞エピトープが異種ヘルパーT細胞(Th)エピトープに対して直接的に共有結合で連結されたもの、または任意選択の異種スペーサーを介して共有結合で連結されたものを含むペプチド免疫原コンストラクトを提供する。
【0067】
IL-6ペプチド免疫原コンストラクト中の異種Thエピトープは、IL-6断片の免疫原性を増強し、これによって、設計根拠に基づいてスクリーニング及び選択された最適化標的B細胞エピトープペプチド(すなわち、IL-6断片)に対して指向化された特異的な高力価抗体の産生が促進される。
【0068】
本明細書で使用される「異種」という用語は、アミノ酸配列が、IL-6の野生型配列の一部ではないアミノ酸配列に由来するものであること指すか、またはアミノ酸配列が、IL-6の野生型配列と相同的ではないアミノ酸配列に由来するものであることを指す。したがって、異種Thエピトープは、IL-6中に天然には見られないアミノ酸配列に由来するThエピトープである(すなわち、Thエピトープは、IL-6に由来するものではない)。こうしたThエピトープは、IL-6に対して異種のものであるため、IL-6断片に対してこうした異種Thエピトープが共有結合で連結されても、IL-6の天然のアミノ酸配列は、N末端方向またはC末端方向のいずれにも延長されない。
【0069】
本開示の異種Thエピトープは、IL-6中に天然に見られるアミノ酸配列を有さない任意のThエピトープであり得る。Thエピトープは、複数の種のMHCクラスII分子に非選択的に結合するモチーフも有し得る。ある特定の実施形態では、Thエピトープは、MHCクラスII分子に非選択的に結合するモチーフを複数含むことで、ヘルパーT細胞を最大限に活性化することを可能にし、これによって免疫応答の開始及び調節を引き起こす。Thエピトープは、好ましくは、それ単独では免疫学的に静的であり、すなわち、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトによって生成される抗体のうちでThエピトープに対して指向化されることになるものは、仮に存在するとしても極めて少なく、それによって、IL-6の標的B細胞エピトープペプチドに指向化された非常に集中的な免疫応答を引き起こすことを可能にする。
【0070】
本開示のThエピトープには、限定されないが、外来病原体に由来するアミノ酸配列(表2に例示されるもの(配列番号78~106及び配列番号216~226))が含まれる。さらに、Thエピトープには、理想化された人工Thエピトープ及び理想化された人工Thエピトープの組み合わせ(例えば、配列番号79、配列番号86、配列番号91、配列番号92、及び配列番号79、配列番号86~92)が含まれる。組み合わせ配列(例えば、配列番号87~90)として示される異種Thエピトープペプチドは、その特定のペプチドに対する相同体の可変残基に基づくペプチドフレームワーク内の特定の位置に示されるアミノ酸残基の混合物を含む。組み合わせペプチドの集合物は、合成プロセスの間に、指定の保護アミノ酸の混合物を1つの特定のアミノ酸の代わりに特定の位置に付加することによって1つのプロセスにおいて合成され得る。そのような組み合わせ異種Thエピトープペプチド集合物は、多様な遺伝的背景を有する動物に対するThエピトープ適用範囲を広げることを可能にし得る。異種Thエピトープペプチドの代表的な組み合わせ配列には、表2に示される配列番号87~90が含まれる。本開示のThエピトープペプチドは、遺伝的に多様な集団に由来する動物及び患者に対して幅広い反応性及び免疫原性を与える。
【0071】
c.異種スペーサー
開示のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトは、IL-6 B細胞エピトープペプチドを異種ヘルパーT細胞(Th)エピトープに共有結合で連結する異種スペーサーを任意選択で含む。
【0072】
上に議論されるように、「異種」という用語は、アミノ酸配列が、IL-6の天然型配列の一部ではないアミノ酸配列に由来するものであること指すか、またはアミノ酸配列が、IL-6の天然型配列と相同的ではないアミノ酸配列に由来するものであることを指す。したがって、IL-6 B細胞エピトープペプチドに対して異種スペーサーが共有結合で連結されても、このスペーサーは、IL-6配列に対して異種のものであるため、IL-6の天然のアミノ酸配列は、N末端方向またはC末端方向のいずれにも延長されない。
【0073】
スペーサーは、2つのアミノ酸及び/またはペプチドを一緒に連結する能力を有する任意の分子または化学構造である。スペーサーの長さまたは極性は、用途に応じて異なり得る。スペーサーの付加は、アミド結合またはカルボキシル結合を介して行われ得るが、他の官能性を利用することも可能である。スペーサーは、化合物、天然起源のアミノ酸、または非天然起源のアミノ酸を含み得る。
【0074】
スペーサーは、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトに対して構造特徴を付与し得る。構造的には、スペーサーは、IL-6断片のB細胞エピトープからThエピトープを物理的に分離する。スペーサーによる物理的な分離は、ThエピトープをB細胞エピトープに連結することによって創出される任意の人工二次構造を破壊し得る。さらに、スペーサーによってエピトープを物理的に分離すると、Th細胞応答及び/またはB細胞応答の間の干渉が除去され得る。さらに、スペーサーは、ペプチド免疫原コンストラクトの二次構造を創出または改変するように設計され得る。例えば、スペーサーは、Thエピトープ及びB細胞エピトープの分離を増進させるための可動性ヒンジとして働くように設計され得る。可動性ヒンジスペーサーは、提示されるペプチド免疫原と、適切なTh細胞及びB細胞との間の相互作用の効率性を促進してThエピトープ及びB細胞エピトープに対する免疫応答を増強することも可能にし得る。可動性ヒンジをコードする配列の例は、免疫グロブリン重鎖ヒンジ領域に見られ、こうした配列はプロリンを多く含むことが多い。スペーサーとして使用され得る特に有用な可動性ヒンジの1つは、Pro-Pro-Xaa-Pro-Xaa-Proという配列(配列番号76)によって提供され、配列中、Xaaは、任意のアミノ酸であり、好ましくは、アスパラギン酸である。
【0075】
スペーサーは、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトに対して機能特徴も付与し得る。例えば、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトの全体電荷が変化するようにスペーサーを設計することができ、これによって、ペプチド免疫原コンストラクトの溶解性に影響を与えることができる。さらに、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトの全体電荷を変化させると、ペプチド免疫原コンストラクトが他の化合物及び試薬と結び付く能力に影響を与えることができる。以下にさらに詳述されるように、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトは、高度に荷電したオリゴヌクレオチド(CpGオリゴマーなど)と静電気的な結合を介して安定な免疫刺激性複合体を形成するようになり得る。IL-6ペプチド免疫原コンストラクトの全体電荷は、こうした安定な免疫刺激性複合体の形成に重要である。
【0076】
スペーサーとして使用され得る化合物には、限定されないが、(2-アミノエトキシ)酢酸(AEA)、5-アミノ吉草酸(AVA)、6-アミノカプロン酸(Ahx)、8-アミノ-3,6-ジオキサオクタン酸(AEEA、ミニPEG1)、12-アミノ-4,7,10-トリオキサドデカン酸(ミニPEG2)、15-アミノ-4,7,10,13-テトラオキサペンタ-デカン酸(ミニPEG3)、トリオキサトリデカン-コハク酸(Ttds)、12-アミノ-ドデカン酸、Fmoc-5-アミノ-3-オキサペンタン酸(O1Pen)、及び同様のものが含まれる。
【0077】
天然起源のアミノ酸には、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリンが含まれる。
【0078】
非天然起源のアミノ酸には、限定されないが、ε-Nリジン、β-アラニン、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン、ヒドロキシプロリン、チロキシン、γ-アミノ酪酸、ホモセリン、シトルリン、アミノ安息香酸、6-アミノカプロン酸(Aca;6-アミノヘキサン酸)、ヒドロキシプロリン、メルカプトプロピオン酸(MPA)、3-ニトロ-チロシン、ピログルタミン酸、及び同様のものが含まれる。
【0079】
IL-6ペプチド免疫原コンストラクト中に含めるスペーサーは、Thエピトープ及びIL-6 B細胞エピトープペプチドのN末端またはC末端のいずれかに共有結合で連結され得る。いくつかの実施形態では、スペーサーは、ThエピトープのC末端及びIL-6 B細胞エピトープペプチドのN末端に共有結合で連結される。他の実施形態では、スペーサーは、IL-6 B細胞エピトープペプチドのC末端及びThエピトープのN末端に共有結合で連結される。ある特定の実施形態では、複数のスペーサーを使用することができ、この使用は、例えば、IL-6ペプチド免疫原コンストラクト中に複数のThエピトープが存在する場合に行われる。複数のスペーサーが使用される場合、各スペーサーは互いに同じか、または異なり得る。さらに、IL-6ペプチド免疫原コンストラクト中に複数のThエピトープが存在する場合、これらのThエピトープは、スペーサー分離されることがあり得、このスペーサーは、ThエピトープをIL-6 B細胞エピトープペプチドから分離するために使用されるスペーサーと同じであるか、または異なり得る。ThエピトープまたはIL-6 B細胞エピトープペプチドとの関係においてスペーサーの配置に制限は存在しない。
【0080】
ある特定の実施形態では、異種スペーサーは、天然起源のアミノ酸または非天然起源のアミノ酸である。他の実施形態では、スペーサーは、天然起源のアミノ酸または非天然起源のアミノ酸を複数含む。特定の実施形態では、スペーサーは、Lys-、Gly-、Lys-Lys-Lys-、(α,ε-N)Lys、ε-N-Lys-Lys-Lys-Lys(配列番号77)、またはLys-Lys-Lys-ε-N-Lys(配列番号231)である。
【0081】
d.IL-6ペプチド免疫原コンストラクトの特定の実施形態
ある特定の実施形態では、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトは、下記の式によって表すことができる:
【0082】
アミノ酸数約30超の長さを有するIL-6ペプチド免疫原コンストラクトは、下記の式:
(Th)m-(A)n-(IL-6のIL-6R結合領域もしくはその断片)-X
または
(IL-6のIL-6R結合領域もしくはその断片)-(A)n-(Th)m-X
または
(Th)m-(A)n-(IL-6のIL-6R結合領域もしくはその断片)-(A)n-(Th)m-X
によって表され、
式中、
Thは、異種ヘルパーT細胞エピトープであり、
Aは、異種スペーサーであり、
(IL-6のIL-6R結合領域またはその断片)は、IL-6(配列番号1)のIL-6R結合領域に由来する約7~約42個のアミノ酸残基を有するB細胞エピトープペプチドであり、
Xは、アミノ酸のα-COOHまたはα-CONH2であり、
mは、1~約4であり、
nは、0~約10である。
【0083】
いくつかの実施形態では、(IL-6のIL-6R結合領域またはその断片)は、配列番号5~19のいずれかから選択されるアミノ酸配列を有するB細胞エピトープペプチドである。ある特定の実施形態では、B細胞エピトープは、IL-6(配列番号1~4)のE42~C83(配列番号16)もしくはN144~I166(配列番号19)またはその断片に由来するアミノ酸配列を有する。特定の実施形態では、(IL-6のIL-6R結合領域またはその断片)は、
図1に示されるC73~C83(配列番号5)及び/またはC44~C50(配列番号15)に由来する天然に存在する分子内ループを少なくとも1つ含むB細胞エピトープである。
【0084】
ある特定の実施形態では、IL-6ペプチド免疫原コンストラクト中の異種Thエピトープは、表2に示される配列番号78~106、配列番号216~226、またはそれらの組み合わせ、のうちのいずれかから選択されるアミノ酸配列を有する。いくつかの実施形態では、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトは、複数のThエピトープを含む
【0085】
ある特定の実施形態では、任意選択の異種スペーサーは、Lys-、Gly-、Lys-Lys-Lys-、(α,ε-N)Lys、Pro-Pro-Xaa-Pro-Xaa-Pro(配列番号76)、ε-N-Lys-Lys-Lys-Lys(配列番号77)、Lys-Lys-Lys-ε-N-Lys(配列番号231)、及びそれらの任意の組み合わせ、のうちのいずれかから選択され、配列中、Xaaは、任意のアミノ酸であるが、好ましくは、アスパラギン酸である。特定の実施形態では、異種スペーサーは、ε-N-Lys-Lys-Lys-Lys(配列番号77)またはLys-Lys-Lys-ε-N-Lys(配列番号231)である。
【0086】
ある特定の実施形態では、IL-6 B細胞エピトープペプチドは、配列番号1の全長成熟IL-6タンパク質に由来する約7~約42個のアミノ酸残基を有する。特定の実施形態では、IL-6 B細胞エピトープペプチドは、(E42~C83、配列番号16)内に含まれるIL-6の分子内ループに由来するアミノ酸配列を含む。特定の実施形態では、IL-6 B細胞エピトープペプチドは、表1に示されるアミノ酸C73~C83(配列番号5)またはIL-6 C44~C50(配列番号15)に由来するIL-6の内部ループを含む(例えば、配列番号5~8、配列番号10、配列番号12、配列番号15~17)。
【0087】
ある特定の実施形態では、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトは、表3に示される配列番号107~215のいずれかから選択されるアミノ酸配列を有する。特定の実施形態では、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトは、配列番号107~160のいずれかから選択されるアミノ酸配列を有する。
【0088】
IL-6ペプチド免疫原コンストラクトを構成するThエピトープは、IL-6断片との直列配置で単回の固相ペプチド合成において同時に生成され得る。Thエピトープには、Thエピトープの免疫学的類似体も含まれ得る。免疫学的Th類似体には、免疫増強性類似体、交差反応性類似体、及びこうしたThエピトープのいずれかのセグメントであって、IL-6 B細胞エピトープペプチドに対する免疫応答を増強または刺激する上で十分なものが含まれる。
【0089】
IL-6ペプチド免疫原コンストラクト中に含めるThエピトープは、IL-6 B細胞エピトープペプチドのN末端またはC末端のいずれかに共有結合で連結され得る。いくつかの実施形態では、Thエピトープは、IL-6 B細胞エピトープペプチドのN末端に共有結合で連結される。他の実施形態では、Thエピトープは、IL-6 B細胞エピトープペプチドのC末端に共有結合で連結される。ある特定の実施形態では、複数のThエピトープが、IL-6 B細胞エピトープペプチドに共有結合で連結される。複数のThエピトープがIL-6 B細胞エピトープペプチドに連結される場合、各Thエピトープは、同じアミノ酸配列または異なるアミノ酸配列を有し得る。さらに、複数のThエピトープがIL-6 B細胞エピトープペプチドに連結される場合、これらのThエピトープは任意の順序で配置され得る。例えば、これらのThエピトープは、IL-6 B細胞エピトープペプチドのN末端に連続して連結されるか、もしくはIL-6 B細胞エピトープペプチドのC末端に連続して連結され得る。または、IL-6 B細胞エピトープペプチドのN末端にThエピトープが共有結合で連結され得る一方で、IL-6 B細胞エピトープペプチドのC末端には別のThエピトープが共有結合で連結される。IL-6 B細胞エピトープペプチドとの関係においてThエピトープの配置に制限は存在しない。
【0090】
いくつかの実施形態では、Thエピトープは、IL-6 B細胞エピトープペプチドに対して直接的に共有結合で連結される。他の実施形態では、Thエピトープは、異種スペーサーを介してIL-6断片に共有結合で連結される。
【0091】
e.バリアント、相同体、及び機能性類似体
好ましいIL-6 B細胞エピトープペプチドに対する抗体を誘導し、及び/または当該抗体と交差反応する、上記の免疫原性ペプチドコンストラクトのバリアント及び類似体も使用され得る。類似体(アレルバリアント、種バリアント、及び誘導バリアントを含む)は、典型的には、1つ、2つ、または少数の位置が天然の起源のペプチドと異なり、この差異は、保存的置換によるものであることが多い。類似体は、典型的には、天然のペプチドとの配列同一性が少なくとも80%または少なくとも90%である。類似体によっては、非天然アミノ酸、またはN末端側アミノ酸もしくはC末端側アミノ酸の修飾を1つ、2つ、または少数の位置に含むこともあり得る。
【0092】
機能性類似体であるバリアントは、あるアミノ酸位置での保存的置換、全体電荷の変更、別の部分への共有結合での付加、またはアミノ酸の追加、挿入、もしくは欠失、及び/またはそれらの任意の組み合わせを有し得る。
【0093】
保存的置換は、あるアミノ酸残基が、類似の化学特性を有する別のアミノ酸残基に置換されるものである。例えば、非極性(疎水性)アミノ酸には、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、及びメチオニンが含まれ、極性中性アミノ酸には、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、及びグルタミンが含まれ、正荷電(塩基性)アミノ酸には、アルギニン、リジン、及びヒスチジンが含まれ、負荷電(酸性)アミノ酸には、アスパラギン酸及びグルタミン酸が含まれる。
【0094】
特定の実施形態では、機能性類似体は、元のアミノ酸配列との同一性が少なくとも50%である。別の実施形態では、機能性類似体は、元のアミノ酸配列との同一性が少なくとも80%である。さらに別の実施形態では、機能性類似体は、元のアミノ酸配列との同一性が少なくとも85%である。さらに別の実施形態では、機能性類似体は、元のアミノ酸配列との同一性が少なくとも90%である。
【0095】
バリアントには、リン酸化残基のバリエーションも含まれ得る。例えば、バリアントには、ペプチド内の異なる残基がリン酸化されたものが含まれ得る。バリアント免疫原性IL-6ペプチドには、偽リン酸化ペプチドも含まれ得る。偽リン酸化ペプチドは、IL-6ペプチドのリン酸化セリン残基、リン酸化スレオニン残基、及びリン酸化チロシン残基のうちの1つ以上を、酸性アミノ酸残基(グルタミン酸及びアスパラギン酸など)で置き換えることによって生成される。
【0096】
Thエピトープペプチドの機能性の免疫学的類似体も有効であり、本開示の一部として含まれる。機能性の免疫学的Th類似体は、ThエピトープのTh刺激機能を本質的に改変しない1~約5つのアミノ酸残基の保存的な置換、追加、欠失、及び挿入をThエピトープ中に含み得る。保存的な置換、追加、及び挿入は、IL-6 B細胞エピトープペプチドについて上に記載されるように、天然アミノ酸または非天然アミノ酸を用いて達成され得る。表2には、Thエピトープペプチドの機能性類似体の別のバリエーションが示される。具体的には、MvF1 Th及びMvF2 Thの配列番号79及び配列番号86は、MvF4及びMvF5の配列番号89及び配列番号91の機能性類似体であり、これは、これらの配列のアミノ酸フレームが、N末端及びC末端のそれぞれから2つのアミノ酸が欠失することによって異なるか(配列番号79及び配列番号86)、またはN末端及びC末端のそれぞれに2つのアミノ酸が含められることによって異なる(配列番号89及び91配列番号)という観点によるものである。こうした2つの一連の類似配列の間の差異は、こうした配列中に含まれるThエピトープの機能に影響を与えないと想定される。したがって、機能性の免疫学的Th類似体には、麻疹ウイルス融合タンパク質に由来するThエピトープ(MvF1~4 Th)のいくつかのバージョン(配列番号79、配列番号86、配列番号87、及び配列番号89)、ならびに肝炎表面タンパク質に由来するThエピトープ(HBsAg1~3 Th)のいくつかのバージョン(配列番号88、配列番号90、及び配列番号92)が含まれる。
【0097】
組成物
本開示は、開示のIL-6免疫原ペプチドコンストラクトを含む組成物も提供する。
【0098】
a.ペプチド組成物
開示のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトを含む組成物は、液体形態または固体/凍結乾燥形態のものであり得る。液体組成物は、水、緩衝液、溶媒、塩、及び/またはIL-6ペプチド免疫原コンストラクトの構造特性もしくは機能特性を変化させない任意の他の許容可能な試薬を含み得る。ペプチド組成物は、開示のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトのうちの1つ以上を含み得る。
【0099】
b.医薬組成物
本開示は、開示のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトを含む医薬組成物も対象とする。
【0100】
医薬組成物は、医薬的に許容可能な送達系において担体及び/または他の添加剤を含み得る。したがって、医薬組成物は、医薬的に許容可能な担体、アジュバント、及び/または他の医薬品添加物(希釈剤、添加剤、安定化剤、保存剤、可溶化剤、緩衝剤、及び同様のものなど)と一緒に医薬的に有効な量のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトを含み得る。
【0101】
医薬組成物は、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトに対する免疫応答を、それ自体はいずれの特定の抗原性作用も有することなく促進、延長、または増強するように働く1つ以上のアジュバントを含み得る。医薬組成物において使用されるアジュバントには、油、油エマルション、アルミニウム塩、カルシウム塩、免疫刺激性複合体、細菌系物質及びウイルス系物質、ビロソーム、糖質、サイトカイン、ポリマー微粒子が含まれ得る。ある特定の実施形態では、アジュバントは、アラム(リン酸カリウムアルミニウム)、リン酸アルミニウム(例えば、ADJU-PHOS(登録商標))、水酸化アルミニウム(例えば、ALHYDROGEL(登録商標))、リン酸カルシウム、不完全フロイントアジュバント(IFA)、完全フロイントアジュバント、MF59、アジュバント65、Lipovant、ISCOM、リポシン(liposyn)、サポニン、スクアレン、L121、EmulsIL-6n(登録商標)、モノホスホリルリピドA(MPL)、QuilA、QS21、MONTANIDE(登録商標)ISA35、ISA50V、ISA50V2、ISA51、ISA206、ISA720、リポソーム、リン脂質、ペプチドグリカン、リポ多糖(LPS)、ASO1、ASO2、ASO3、ASO4、AF03、親油性リン脂質(リピドA)、ガンマイヌリン、アルガムリン(algammulin)、グルカン、デキストラン、グルコマンナン、ガラクトマンナン、レバン、キシラン、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDA)、ならびに他のアジュバント及び乳化剤から選択され得る。
【0102】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、MONTANIDE(商標)ISA51(油中水型エマルション生成用の植物油及びオレイン酸マンニドから構成される油アジュバント組成物)、TWEEN(登録商標)80(ポリソルベート80もしくはポリオキシエチレン(20)ソルビタンオレイン酸モノエステルとしても知られる)、CpGオリゴヌクレオチド、及び/またはそれらの任意の組み合わせを含む。他の実施形態では、医薬組成物は、アジュバントとしてEmulsIL-6nまたはEmulsIL-6n Dを含む水中油中水型(すなわち、w/o/w型)エマルションである。
【0103】
医薬組成物は、医薬的に許容可能な添加剤または医薬品添加物も含み得る。例えば、医薬組成物は、抗酸化剤、結合剤、緩衝剤、増量剤、担体、キレート剤、着色剤、希釈剤、崩壊剤、乳化剤、賦形剤、ゲル化剤、pH緩衝剤、保存剤、可溶化剤、安定化剤、及び同様のものを含み得る。
【0104】
医薬組成物は、即放型製剤または徐放型製剤として製剤化され得る。さらに、医薬組成物は、微粒子を用いる免疫原の封入及び同時投与を介して全身免疫または局所粘膜免疫が誘導されるように製剤化され得る。そのような送達系は、当業者によって容易に決定される。
【0105】
医薬組成物は、注射剤(溶液または懸濁液としてのもの)として調製され得る。IL-6ペプチド免疫原コンストラクトを含む液体媒体は、注射前に調製されるものでもあり得る。医薬組成物は、任意の適切な適用様式(例えば、皮内、静脈内、腹腔内、筋肉内、鼻腔内、経口、皮下など)によって投与されることも、任意の適切な送達機器において投与されることもあり得る。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、静脈内投与、皮下投与、皮内投与、または筋肉内投与向けに製剤化される。経口適用及び鼻腔内適用を含めて、他の投与様式に適した医薬組成物も調製され得る。
【0106】
医薬組成物は、適切な単位剤形でも製剤化され得る。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、体重kg当たり約0.1μg~約1mgのIL-6ペプチド免疫原コンストラクトを含む。医薬組成物の有効用量は、多くの異なる因子に応じて異なり得、こうした因子には、投与手段、標的部位、患者の生理学的状態、患者がヒトまたは動物であるかどうか、他の投与薬剤、及び治療が予防的または治療的であるかどうかが含まれる。通常、患者はヒトであるが、トランスジェニック哺乳類を含めて、非ヒト哺乳類も治療され得る。医薬組成物は、複数回用量で送達される場合、単位剤形当たり適切な量へと好都合に分割され得る。投与量は、対象の年齢、体重、及び総体的な健康に依存することになり、こうしたことは、治療分野でよく知られている。
【0107】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、複数のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトを含む。複数のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトの混合物を医薬組成物に含めることで、コンストラクトの免疫効力を相乗的に増強することが可能となる。複数のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトを含む医薬組成物は、MHCクラスII適用範囲が広いことで、より大きな遺伝的集団において有効性が向上し得るため、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトに対する免疫応答を改善させる。
【0108】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、配列番号107~215(表3)から選択されるIL-6ペプチド免疫原コンストラクト、ならびにその相同体、類似体、及び/または組み合わせを含む。
【0109】
ある特定の実施形態では、MVF及びHBsAgに由来する異種Thエピトープを組み合わせ形態(配列番号87~90)で含むIL-6ペプチド免疫原コンストラクト(配列番号170~172)を等モル比で混合して製剤に使用することで、多様な遺伝的背景を有する宿主集団を最大限にカバーすることが可能であった。IL-6 73~83免疫原コンストラクト(配列番号170、配列番号172)では、本開示のペプチド組成物において相乗的な増強が生じることが観察された。
【0110】
さらに、IL-6ペプチド免疫原コンストラクト(例えば、配列番号91のUBITh(登録商標)1)によって誘導される抗体応答は、そのほとんど(>90%)が、IL-6のB細胞エピトープペプチド(配列番号5)に対する所望の交差反応性に集中しており、免疫原性増強に用いた異種Thエピトープに指向化されたものは、仮に伴うとしても多くはなかった(実施例6、表8)。このことは、そのようなIL-6ペプチド免疫原性増強に使用される従来のタンパク質(KLHなど)または他の生物学的タンパク質担体とは際立って対照的である。
【0111】
他の実施形態では、ペプチド組成物(例えば、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトの混合物を含むもの)を、アジュバントとしての無機塩(アラムゲル(ALHYDROGEL)またはリン酸アルミニウム(ADJUPHOS)を含む)と接触させて懸濁液製剤を形成させたものを含む医薬組成物を、宿主への投与に使用した。
【0112】
IL-6ペプチド免疫原コンストラクトを含む医薬組成物を使用することで、投与時に宿主において免疫応答が誘発され、抗体が産生され得る。
【0113】
c.免疫刺激性複合体
本開示は、CpGオリゴヌクレオチドとの免疫刺激性複合体の形態でIL-6ペプチド免疫原コンストラクトを含む医薬組成物も対象とする。そのような免疫刺激性複合体は、具体的には、アジュバントかつペプチド免疫原安定化剤として働くことに適したものである。免疫刺激性複合体は、微粒子の形態をとり、この微粒子は、IL-6ペプチド免疫原を免疫系の細胞に効率的に提示して免疫応答を生じさせ得る。免疫刺激性複合体は、非経口投与用の懸濁液として製剤化され得る。免疫刺激性複合体は、油中水型(w/o型)エマルションの形態で製剤化されるか、無機塩と組み合わさった懸濁液として製剤化されるか、または非経口投与後に宿主の免疫系の細胞にIL-6ペプチド免疫原コンストラクトを効率的に送達するためのインサイチュゲル化ポリマーと共に製剤化されることもあり得る。
【0114】
IL-6ペプチド免疫原コンストラクトを、アニオン性分子、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、またはそれらの組み合わせと静電気的な結合を介して複合体化させることによって、安定化された免疫刺激性複合体が形成され得る。安定化された免疫刺激性複合体は、免疫原送達系として医薬組成物に組み込まれ得る。
【0115】
ある特定の実施形態では、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトは、5.0~8.0のpH範囲で正に荷電するカチオン性部分を含むように設計される。IL-6ペプチド免疫原コンストラクトのカチオン性部分上の正味の電荷またはコンストラクトの混合物のカチオン性部分上の正味の電荷は、それぞれのリジン(K)、アルギニン(R)、またはヒスチジン(H)については+1の電荷、それぞれのアスパラギン酸(D)またはグルタミン酸(E)については-1の電荷、当該配列内の他のアミノ酸については0の電荷を割り当てることによって計算される。電荷は、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトのカチオン性部分内で合計され、正味の平均電荷として表される。適切なペプチド免疫原は、正味の平均正電荷が+1であるカチオン性部分を有する。好ましくは、ペプチド免疫原は、+2を超える範囲の正味の正電荷を有する。いくつかの実施形態では、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトのカチオン性部分は異種スペーサーである。ある特定の実施形態では、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトのカチオン性部分は、スペーサー配列が(α,ε-N)Lys、ε-N-Lys-Lys-Lys-Lys(配列番号77)である場合、+4の電荷を有する。
【0116】
本明細書に記載の「アニオン性分子」は、5.0~8.0のpH範囲で負に荷電する任意の分子を指す。ある特定の実施形態では、アニオン性分子は、オリゴマーまたはポリマーである。オリゴマー上またはポリマー上の正味の負電荷は、オリゴマー中のそれぞれのホスホジエステル基またはホスホロチオエート基について-1の電荷を割り当てることによって計算される。適切なアニオン性オリゴヌクレオチドは、ヌクレオチド塩基数が8~64であり、CpGモチーフのリピート数の範囲が1~10の一本鎖DNA分子である。好ましくは、CpG免疫刺激性一本鎖DNA分子は、含有ヌクレオチド塩基数が18~48であり、CpGモチーフのリピート数の範囲が3~8のものであり得る。
【0117】
より好ましくは、アニオン性オリゴヌクレオチドは、5’X1CGX23’という式によって表され、式中、C及びGは、メチル化されておらず、X1は、A(アデニン)、G(グアニン)、及びT(チミン)からなる群から選択され、X2は、C(シトシン)またはT(チミン)である。あるいは、アニオン性オリゴヌクレオチドは、5’(X3)2CG(X4)23’という式によって表され、C及びGは、メチル化されておらず、X3は、A、T、またはGからなる群から選択され、X4は、CまたはTである。特定の実施形態では、CpGオリゴヌクレオチドは、CpG1:5’TCg TCg TTT TgT CgT TTT gTC gTT TTg TCg TT 3’(完全にホスホロチオエート化されたもの)(配列番号232)、CpG2:5’リン酸TCg TCg TTT TgT CgT TTT gTC gTT 3’(完全にホスホロチオエート化されたもの)(配列番号233)、またはCpG3 5’TCg TCg TTT TgT CgT TTT gTC gTT 3’(完全にホスホロチオエート化されたもの)(配列番号234)という配列を有する。
【0118】
得られる免疫刺激性複合体は、サイズが典型的には1~50ミクロンの範囲の粒子の形態をとり、相互作用種の相対的電荷化学量論及び分子量を含めて、多くの因子の影響を受けるものである。微粒子状の免疫刺激性複合体は、インビボで特定の免疫応答のアジュバント作用及び上方制御を与えるという利点を有する。さらに、安定化された免疫刺激性複合体は、油中水型エマルション、無機塩懸濁液、及びポリマーゲルを含めて、さまざまなプロセスによる医薬組成物の調製に適する。
【0119】
本開示は、IL-6調節異常による影響を受ける疾患を予防及び/または治療するための医薬組成物(製剤を含む)も対象とする。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトの免疫原性をさらに増強すると共に、配列番号1~4のIL-6タンパク質と交差反応し、IL-6R結合領域に指向化された抗体を誘導するための安定化された免疫刺激性複合体(IL-6ペプチド免疫原コンストラクト(例えば、配列番号107~215)の混合物を含むペプチド組成物とCpGオリゴマーとを混合することで、静電気的な結合を介して形成される)を含む(実施例6)。
【0120】
さらに他の実施形態では、医薬組成物は、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトの混合物(例えば、配列番号107~215の任意の組み合わせ)を、CpGオリゴマー(高い安全係数を有するアジュバントとしての無機塩(アラムゲル(ALHYDROGEL)またはリン酸アルミニウム(ADJUPHOS)を含む)と任意選択で混合される)との安定化された免疫刺激性複合体の形態で含むことで、宿主に投与するための懸濁液製剤を形成する。
【0121】
抗体
本開示は、開示のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトによって誘導される抗体も提供する。
【0122】
本開示は、製造でのコスト効率が高く、自体の設計が最適であり、IL-6分子のIL-6R結合領域を標的とする高力価抗体を誘導する能力を有し、自己タンパク質であるIL-6に対する免疫寛容を壊す能力を有し、免疫化される宿主でのレスポンダー率が高いIL-6ペプチド免疫原コンストラクト及びその製剤を提供する。IL-6ペプチド免疫原コンストラクトによって生成される抗体は、IL-6R結合領域に対して高い親和性を有する。
【0123】
いくつかの実施形態では、抗体を誘導するためのIL-6ペプチド免疫原コンストラクトは、IL-6Rα及びIL-6Rβとの結合領域をカバーする約7~約42個のアミノ酸を含むB細胞エピトープ(任意選択で、IL-6(表1、
図1、ならびに配列番号1及び配列番号227を参照のこと)内のIL-6ペプチド(C73~C83(配列番号5)またはC44~C50(配列番号15))に由来する分子内ループ構造を含む)を有するIL-6ペプチドが、任意選択のスペーサーを介して、病原性タンパク質(麻疹ウイルス融合(MVF)タンパク質など)に由来する異種Thエピトープ及び他のもの(配列番号78~106及び配列番号216~226)に連結されたハイブリッド物を含む。IL-6ペプチド免疫原コンストラクトのB細胞エピトープ及びThエピトープは、一緒に働くことで、IL-6タンパク質(配列番号1)のIL-6R結合領域と交差反応する高度に特異的な抗体の生成を刺激する。
【0124】
ペプチドに対する免疫応答を増強するための伝統的な方法(担体タンパク質(例えば、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)または他の担体タンパク質(ジフテリアトキソイド(DT)タンパク質及び破傷風トキソイド(TT)タンパク質など))への化学的カップリングを行うものなど)では、典型的には、そうした担体タンパク質に対して指向化された抗体が大量に生成してしまうという結果を招く。したがって、そのようなペプチド-担体タンパク質組成物の主な欠点は、当該免疫原によって生成される抗体のほとんど(>90%)が、担体タンパク質(KLH、DT、またはTT)に対して指向化された非機能性抗体であることであり、こうした担体タンパク質は、エピトープ抑制(epitopic suppression)を招き得るものである。
【0125】
ペプチドに対する免疫応答を増強するための伝統的な方法とは異なり、開示のIL-6ペプチド免疫原コンストラクト(例えば、配列番号142)によって生成される抗体は、IL-6 B細胞エピトープペプチド(例えば、配列番号5~19)に対して高度に特異的に結合し、異種Thエピトープ(例えば、表8の配列番号91)または任意選択の異種スペーサーに対して指向化された抗体は、仮に伴うとしても極めて少ない。具体的には、免疫化された動物において誘導されるポリクローナル抗体は、中央のIL-6R結合領域(配列番号107)に高度に特異的に結合し、その結果、
図5Aに示されるように、シスシグナル伝達を介するIL-6とIL-6Rとの相互作用が阻害される。
【0126】
方法
本開示は、IL-6ペプチド免疫原コンストラクト、組成物、及び医薬組成物の調製方法及び使用方法も対象とする。
【0127】
a.IL-6ペプチド免疫原コンストラクトを製造するための方法
本開示のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトは、当業者によく知られる化学合成法によって調製され得る(例えば、Fields et al., Chapter 3 in Synthetic Peptides: A User’s Guide, ed. Grant, W. H. Freeman & Co., New York, NY, 1992, p.77を参照のこと)。IL-6ペプチド免疫原コンストラクトは、自動化メリフィールド固相合成手法を使用して合成することができ、この手法は、側鎖保護アミノ酸を使用してt-Boc化学またはF-moc化学のいずれかによってα-NH2を保護することによって行われ、例えば、Applied Biosystems Peptide Synthesizerのモデル430Aまたはモデル431で行われる。Thエピトープの組み合わせライブラリーペプチドを含むIL-6ペプチド免疫原コンストラクトの調製は、所与の可変位置の時点でのカップリングに代替アミノ酸の混合物を使用することによって達成され得る。
【0128】
所望のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトが完全に構築された後、標準的な手順に従って樹脂を処理することで、樹脂からペプチドを切断し得、アミノ酸側鎖上の官能基を脱保護し得る。遊離のペプチドは、HPLCによって精製され、生化学的に特徴付けられ得る。この特徴付けは、例えば、アミノ酸分析または配列決定によって行われる。ペプチドの精製方法及び特徴付け方法は、当業者によく知られている。
【0129】
この化学プロセスによって生成されるペプチドの品質は、制御及び規定することができるものであり、結果として、IL-6ペプチド免疫原コンストラクト、免疫原性、及び収率の再現性が保証され得る。固相ペプチド合成を介するIL-6ペプチド免疫原コンストラクトの製造についての詳細説明は実施例1に示される。
【0130】
意図する免疫学的活性の保持を可能にする構造可変性範囲は、小分子薬物による特定の薬物活性の保持を可能にする構造可変性範囲、または生物学的に得られる薬物と共に生じる大分子に見られる所望の活性及び望ましくない毒性の保持を可能にする構造可変性範囲と比較してはるかに柔軟なものであることが明らかになっている。
【0131】
したがって、ペプチド類似体は、意図的に設計されるものにしても、意図するペプチドと同様のクロマトグラフィー特性及び免疫学的特性を有する欠損配列副生成物の混合物として合成プロセスのエラーによって不可避的に生じるものにしても、所望のペプチドの精製調製物と同じくらい有効であることが多い。設計される類似体及び意図しない類似体混合物は、製造プロセス及び製品評価プロセスの両方を監視するために識別QC手順が開発されて、こうしたペプチドを用いる最終製品の再現性及び効力が保証される限りにおいては、有効である。
【0132】
IL-6ペプチド免疫原コンストラクトは、核酸分子、ベクター、及び/または宿主細胞を含めて、組換えDNA技術を使用しても調製され得る。したがって、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトをコードする核酸分子、及びペプチド免疫原コンストラクトの免疫学的に機能性の類似体をコードする核酸分子もまた、本開示の一部として本開示によって包含される。同様に、核酸分子を含むベクター(発現ベクターを含む)ならびにそうしたベクターを含む宿主細胞もまた、本開示の一部として本開示によって包含される。
【0133】
さまざまな例示の実施形態は、IL-6ペプチド免疫原コンストラクト及びその免疫学的に機能性の類似体の生成方法も包含する。例えば、方法は、IL-6ペプチド免疫原コンストラクト及び/またはその免疫学的に機能性の類似体をコードする核酸分子を含む発現ベクターを含む宿主細胞を、そうしたペプチド及び/または類似体が発現する条件の下でインキュベートするステップを含み得る。よく知られる組換えDNA手法によって、より長い合成ペプチド免疫原が合成され得る。そのような手法は、詳細なプロトコールと共に、よく知られるマニュアルにおいて提供されている。本開示のペプチドをコードする遺伝子を構築するには、アミノ酸配列をコードする核酸配列が、アミノ酸配列を逆翻訳して取得され、こうした核酸配列では、好ましくは、遺伝子が発現することになる生物に最適なコドンが用いられる。次に、典型的には、ペプチド及び必要に応じて任意の制御エレメントをコードするオリゴヌクレオチドを合成することによって合成遺伝子が調製される。合成遺伝子は、適切なクローニングベクターに挿入され、宿主細胞にトランスフェクトされる。その後、ペプチドは、選択される発現系及び宿主に適した適切な条件の下で発現される。ペプチドは、標準的な方法によって精製され、特徴付けられる。
【0134】
b.免疫刺激性複合体を製造するための方法
さまざまな例示の実施形態は、IL-6ペプチド免疫原コンストラクト及びCpGオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)分子を含む免疫刺激性複合体の生成方法も包含する。安定化された免疫刺激性複合体(ISC)は、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトのカチオン性部分及びポリアニオン性CpG ODN分子から得られる。この自己集合系は、電荷の静電気的な中和によって促進される。アニオン性オリゴマーに対するIL-6ペプチド免疫原コンストラクトのカチオン性部分のモル電荷比の化学量論によって集合の程度が決まる。IL-6ペプチド免疫原コンストラクトとCpG ODNとの非共有結合性の静電気的な結合は、完全に再現性のあるプロセスである。ペプチド/CpG ODN免疫刺激性複合集合体は、免疫系の「プロフェッショナル」抗原提示細胞(APC)に対する提示を促進し、それによって自体の免疫原性をさらに増強する。こうした複合体は、製造の間の品質制御のための特徴付けが容易なものである。ペプチド/CpG ISCのインビボでの忍容性は良好である。CpG ODN及びIL-6ペプチド免疫原コンストラクトを含むこの新規の微粒子系は、CpG ODNの使用と関連する全般的なB細胞分裂促進性を利用し、さらにはTh-1/Th-2型応答のバランス取りを促進するように設計した。
【0135】
開示の医薬組成物中のCpG ODNは、反対電荷の静電気的な中和によって媒介されるプロセスにおいて免疫原に100%結合し、その結果、ミクロンサイズの微粒子を形成する。この微粒子形態は、CpGアジュバントの従来の使用と比較してCpGの投与量を顕著に減らし、有害な自然免疫応答が生じる可能を下げることが可能であり、抗原提示細胞(APC)を含む代替の免疫原プロセシング経路を促進する。したがって、そのような製剤は概念的に新規のものであり、代替の機構による免疫応答の刺激を促進することによって利益をもたらすことが見込まれる。
【0136】
c.医薬組成物を製造するための方法
さまざまな例示の実施形態は、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトを含む医薬組成物も包含する。ある特定の実施形態では、医薬組成物は、油中水型エマルションを用いるものであることもあり、無機塩を含む懸濁液に含められることもある。
【0137】
大きな集団が医薬組成物を使用することを目的とする場合、安全性は、別の重要考慮因子となる。多くの臨床試験において油中水型エマルションが使用されているものの、製剤において使用するための主要なアジュバントは依然としてアラムであり、これはアラムが安全性を有するが故のことである。したがって、臨床適用のための調製物におけるアジュバントとしてアラムまたはその無機塩(リン酸アルミニウム(ADJUPHOS))が使用されることが多い。
【0138】
他のアジュバント及び免疫刺激剤には、3-O-脱アシル化モノホスホリルリピドA(MPL)または3-DMP、ポリマーアミノ酸またはモノマーアミノ酸(ポリグルタミン酸またはポリリジンなど)が含まれる。そのようなアジュバントは、他の特定の免疫刺激剤と併用されるか、または他の特定の免疫刺激剤を併用せずに使用され得る。こうした他の特定の免疫刺激剤は、ムラミルペプチド(例えば、N-アセチルムラミル-L-スレオニル-D-イソグルタミン(thr-MDP)、N-アセチル-ノルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミン(nor-MDP)、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミニル-L-アラニン-2-(1’-2’ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ヒドロキシホスホリルオキシ)-エチルアミン(MTP-PE)、N-アセチルグルコサミニル-N-アセチルムラミル-L-Al-D-イソグル-L-Ala-ジパルミトキシプロピルアミド(DTP-DPP)THERAMIDE(商標))、または他の細菌細胞壁成分などである。水中油型エマルションには、MF59(Van Nest et al.に付与されたWO90/14837を参照のこと。当該文献は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)(5%のスクアレン、0.5%のTWEEN80、及び0.5%のSpan85(さらに、任意選択で、さまざまな量のMTP-PE)を含み、マイクロフルイダイザーを使用してサブミクロン粒子に製剤化されたもの)、SAF(10%のスクアレン、0.4%のTWEEN80、5%のpluronicブロックポリマーL121、及びthr-MDPを含み、マイクロフルイダイザーによってサブミクロンエマルションにされるか、またはボルテックスしてより大きな粒子サイズのエマルションを生成させたもの)、ならびにRIBI(商標)アジュバント系(RAS)(Ribi Immuno Chem, Hamilton, Mont.)(2%のスクアレンと、0.2%のTWEEN80と、モノホスホリルリピドA(MPL)、トレハロースジミコレート(TDM)、及び細胞壁骨格(CWS)からなる群から選択される1つ以上の細菌細胞壁成分(好ましくは、MPL+CWS(Detox(商標)))と、を含む)が含まれる。他のアジュバントには、完全フロイントアジュバント(CFA)、不完全フロイントアジュバント(IFA)、ならびにサイトカイン(インターロイキン(IL-1、IL-2、及びIL-12)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、ならびに腫瘍壊死因子(TNF-α)など)が含まれる。
【0139】
アジュバントの選択は、アジュバントを含む免疫原性製剤の安定性、投与経路、投薬スケジュール、免疫化される種に対するアジュバントの効力に依存し、ヒトでは、医薬的に許容可能なアジュバントは、関連規制機関によってヒトへの投与の認可を受けているか、または受けることが可能なものである。例えば、アラム、MPL、または不完全フロイントアジュバント((Chang, et al., 1998)、当該文献は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる)は、単独でもヒトへの投与に適し、任意選択でそれらを組み合わせたものもすべて、ヒトへの投与に適する。
【0140】
組成物は、医薬的に許容可能な無毒な担体または希釈剤を含み得、こうした担体または希釈剤は、動物またはヒトへの投与向けの医薬組成物の製剤化に一般に使用される媒体として定義される。希釈剤は、組み合わせるものの生物学的活性に影響を与えないように選択される。そのような希釈剤の例は、蒸留水、生理学的リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、及びハンクス液である。さらに、医薬組成物または製剤は、他の担体、アジュバント、または無毒かつ非治療的な非免疫原性の安定化剤、及び同様のものも含み得る。
【0141】
医薬組成物は、大型で代謝が緩徐な巨大分子も含み得、こうした巨大分子は、タンパク質、キトサンのような多糖、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、及びコポリマー(例えば、ラテックス官能化sepharose、アガロース、セルロース、及び同様のもの)、ポリマーアミノ酸、アミノ酸コポリマー、ならびに脂質集合体(例えば、油滴またはリポソーム)などである。さらに、こうした担体は、免疫刺激剤(すなわち、アジュバント)として機能し得る。
【0142】
本開示の医薬組成物は、適切な送達媒体をさらに含み得る。適切な送達媒体には、限定されないが、ウイルス、細菌、生分解性マイクロスフェア、微粒子、ナノ粒子、リポソーム、コラーゲンミニペレット、及び渦巻型ベシクルが含まれる。
【0143】
d.医薬組成物の使用方法
本開示は、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトを含む医薬組成物の使用方法も含む。
【0144】
ある特定の実施形態では、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトを含む医薬組成物は、IL-6の調節異常による影響を受ける疾患の治療に使用され得る。
【0145】
いくつかの実施形態では、方法は、薬理学的に有効な量のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトを含む医薬組成物を、それを必要とする宿主に投与することを含む。ある特定の実施形態では、方法は、薬理学的に有効な量のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトを含む医薬組成物を温血動物(例えば、ヒト、カニクイザル、マウス)に投与することで、ヒトIL-6タンパク質(配列番号1)または他の種に由来するIL-6タンパク質(配列番号2~4)と交差反応する高度に特異的な抗体を誘導することを含む。
【0146】
ある特定の実施形態では、インビトロアッセイ及びインビボ疾患モデルの両方において示されるように、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトを含む医薬組成物を使用することで、IL-6調節の機能障害による影響を受ける疾患が治療され得る。
【0147】
e.インビトロの機能アッセイ及びインビボの概念実証試験
IL-6ペプチド免疫原コンストラクトによって免疫化した宿主において誘導される抗体は、インビトロの機能アッセイにおいて使用され得る。こうした機能アッセイには、限定されないが、下記のものが含まれる。
(1)組換えタンパク質としてのIL-6タンパク質(配列番号1)に対するインビトロでの結合
(2)IL-6Rαに対するIL-6のシス結合のインビトロでの阻害
(3)IL-6Rβに対するIL-6/IL-6Rαのトランス結合のインビトロでの阻害(実施例3)
(4)IL-6誘導性のTF-1増殖のインビトロでの阻害(実施例3及び実施例7)
(5)IL-6誘導性のSTAT3リン酸化のインビトロでの阻害(実施例3及び実施例7)
(6)IL-6誘導性のヒトU937細胞によるMCP-1産生のインビトロでの阻害(実施例3及び実施例7)
(7)ラットのコラーゲン誘導関節炎(CIA)モデルのインビボでの抑制
(8)ラットにおける骨髄から循環への好中球の放出のインビボでの抑制/軽減
(9)下記の(i)~(vii)によって測定される関節炎スコアによるラットが示す関節炎症状のインビボでの抑制
(i)炎症誘導性の肝臓分泌タンパク質
(ii)足首関節の破壊
(iii)組織でのTNF-α、IL-17、及びMCPの産生
(iv)体重減少の好転
(v)後足の腫脹
(vi)好中球数増加の軽減
(vii)血小板放出の軽減
【0148】
特定の実施形態
(1)約30個以上のアミノ酸を有するIL-6ペプチド免疫原コンストラクトであって、前記IL-6ペプチド免疫原コンストラクトが、下記の式:
(Th)m-(A)n-(IL-6のIL-6R結合領域もしくはその断片)-X
または
(IL-6のIL-6R結合領域もしくはその断片)-(A)n-(Th)m-X
または
(Th)m-(A)n-(IL-6のIL-6R結合領域もしくはその断片)-(A)n-(Th)m-X
によって表され、
式中、
Thが、異種ヘルパーT細胞エピトープであり、
Aが、異種スペーサーであり、
(IL-6のIL-6R結合領域またはその断片)が、IL-6(配列番号1)のIL-6R結合領域に由来する約7~約42個のアミノ酸残基を有するB細胞エピトープペプチドであり、
Xが、アミノ酸のα-COOHまたはα-CONH2であり、
mが、1~約4であり、
nが、0~約10である、前記IL-6ペプチド免疫原コンストラクト。
【0149】
(2)前記IL-6R結合領域またはその断片が、配列番号5~19からなる群から選択される、(1)に記載のIL-6ペプチド免疫原コンストラクト。
【0150】
(3)前記Thエピトープが、配列番号78~106及び配列番号216~226からなる群から選択される、(1)または(2)のいずれかに記載のIL-6ペプチド免疫原コンストラクト。
【0151】
(4)前記ペプチド免疫原コンストラクトが、配列番号107~215からなる群から選択される、(1)に記載のIL-6ペプチド免疫原コンストラクト。
【0152】
(5)a.配列番号1~4のIL-6配列に由来する約7~約42個のアミノ酸残基を含むB細胞エピトープと、
b.配列番号78~106、配列番号216~226、及びそれらの任意の組み合わせ、からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むヘルパーT細胞エピトープと、
c.アミノ酸、Lys-、Gly-、Lys-Lys-Lys-、(α,ε-N)Lys、ε-N-Lys-Lys-Lys-Lys(配列番号77)、Lys-Lys-Lys-ε-N-Lys(配列番号231)、及びPro-Pro-Xaa-Pro-Xaa-Pro(配列番号76)、ならびにそれらの任意の組み合わせ、からなる群から選択される任意選択の異種スペーサーと、
を含むIL-6ペプチド免疫原コンストラクトであって、
前記B細胞エピトープが、前記ヘルパーT細胞エピトープに対して、直接的に共有結合で連結されるか、または前記任意選択の異種スペーサーを介して共有結合で連結される、前記IL-6ペプチド免疫原コンストラクト。
【0153】
(6)前記B細胞エピトープが、配列番号5~19からなる群から選択される、(5)に記載のIL-6ペプチド免疫原コンストラクト。
【0154】
(7)前記ヘルパーT細胞エピトープが、配列番号78~106からなる群から選択される、(5)に記載のIL-6ペプチド免疫原コンストラクト。
【0155】
(8)前記任意選択の異種スペーサーが、(α,ε-N)Lys、ε-N-Lys-Lys-Lys-Lys(配列番号77)、Lys-Lys-Lys-ε-N-Lys(配列番号231)、またはPro-Pro-Xaa-Pro-Xaa-Pro(配列番号76)であり、配列中、Xaaが、任意のアミノ酸であり、好ましくはアスパラギン酸である、(5)に記載のIL-6ペプチド免疫原コンストラクト。
【0156】
(9)前記ヘルパーT細胞エピトープが、前記B細胞エピトープのアミノ末端に共有結合で連結される、(5)に記載のIL-6ペプチド免疫原コンストラクト。
【0157】
(10)前記ヘルパーT細胞エピトープが、前記B細胞エピトープのアミノ末端に対して、前記任意選択の異種スペーサーを介して共有結合で連結される、(5)に記載のIL-6ペプチド免疫原コンストラクト。
【0158】
(11)(1)に記載のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトを含む組成物。
【0159】
(12)a.(1)に記載のペプチド免疫原コンストラクトと、
b.医薬的に許容可能な送達媒体及び/またはアジュバントと、
を含む医薬組成物。
【0160】
(13)a.前記IL-6R結合領域またはその断片が、配列番号5~19からなる群から選択され、
b.前記Thエピトープが、配列番号78~106及び配列番号216~226からなる群から選択され、
c.前記異種スペーサーが、アミノ酸、Lys-、Gly-、Lys-Lys-Lys-、(α,ε-N)Lys、ε-N-Lys-Lys-Lys-Lys(配列番号77)、Lys-Lys-Lys-ε-N-Lys(配列番号231)、及びPro-Pro-Xaa-Pro-Xaa-Pro(配列番号76)、ならびにそれらの任意の組み合わせ、からなる群から選択され、
前記IL-6ペプチド免疫原コンストラクトが、CpGオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)と混合されることで、安定化された免疫刺激性複合体を形成する、(12)に記載の医薬組成物。
【0161】
(14)a.前記IL-6ペプチド免疫原コンストラクトが、配列番号107~215からなる群から選択され、
前記IL-6ペプチド免疫原コンストラクトが、CpGオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)と混合されることで、安定化された免疫刺激性複合体を形成する、(12)に記載の医薬組成物。
【0162】
(15)動物においてIL-6に対する抗体を生成させるための方法であって、前記方法が、(12)に記載の医薬組成物を前記動物に投与することを含む、前記方法。
【0163】
(16)(1)に記載のIL-6ペプチド免疫原コンストラクト中の前記IL-6のIL-6R結合領域またはその断片に特異的に結合する、単離された抗体またはそのエピトープ結合断片。
【0164】
(17)前記IL-6ペプチド免疫原コンストラクトに結合した、(16)に記載の単離された抗体またはそのエピトープ結合断片。
【0165】
(1)~(10)のいずれかに記載のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトの前記B細胞エピトープペプチドに特異的に結合する、単離された抗体またはそのエピトープ結合断片。
【0166】
(18)(16)に記載の単離された抗体またはそのエピトープ結合断片を含む組成物。
【0167】
(19)動物におけるIL-6調節異常による影響を受ける疾患を予防及び/または治療する方法であって、前記方法が、(12)に記載の医薬組成物を前記動物に投与することを含む、前記方法。
【実施例】
【0168】
実施例1
IL-6関連ペプチドの合成及びその製剤の調製
a.IL-6関連ペプチドの合成
IL-6ペプチド免疫原コンストラクトの開発労力に含まれたIL-6関連ペプチドの合成方法について記載される。これらのペプチドは、血清学的アッセイ、実験室パイロット試験、及びフィールド試験に有用な小スケール量で合成すると共に、医薬組成物の産業的/商業的な生産に有用な大スケール(キログラム)量でも合成した。エピトープマッピング、ならびに有効なIL-6標的指向型治療組成物における使用に最も適したペプチド免疫原コンストラクトのスクリーニング及び選択を目的として、アミノ酸数約7~70の長さの配列を有するIL-6関連抗原性ペプチドの大きなレパートリーを設計した。
【0169】
表1には、ヒト種、マウス種、ラット種、及びマカク種の代表的な全長IL-6(配列番号1~4)、IL-6ペプチド断片、及びさまざまな血清学的アッセイにおけるエピトープマッピングに用いた10マーペプチドが示される(配列番号5~75)。
【0170】
病原体タンパク質を元にして慎重に設計したヘルパーT細胞(Th)エピトープペプチドに対して合成的に連結することによって、選択IL-6 B細胞エピトープペプチドをIL-6ペプチド免疫原コンストラクトにした。元にした病原体タンパク質には、表2に示される麻疹ウイルス融合タンパク質(MVF)、B型肝炎表面抗原タンパク質(HBsAg)、ペプチドインフルエンザ、Clostridum tetani、及びエプスタイン・バーウイルス(EBV)(配列番号78~106及び配列番号216~226)が含まれる。Thエピトープペプチドを、単一配列(配列番号78~86及び配列番号91~106)または組み合わせライブラリー(配列番号87~90)のいずれかとして使用することで、そのそれぞれのIL-6ペプチド免疫原コンストラクトの免疫原性を増強した。
【0171】
表3には、数百のペプチドコンストラクトから選択した代表的なIL-6ペプチド免疫原コンストラクトが示される(配列番号107~215)。
【0172】
抗IL-6抗体を検出及び/または測定するための免疫原性試験または関連血清学的試験に使用したペプチドはすべて、Applied BioSystemsのモデル430Aペプチド合成機、モデル431ペプチド合成機、及び/またはモデル433ペプチド合成機によってF-moc化学を使用して小スケールで合成した。N末端をF-mocで保護し、三官能性アミノ酸には側鎖保護基も用いて固相担体上での独立した合成によって各ペプチドを生成させた。合成が完了したペプチドを固相担体から切り離し、90%のトリフルオロ酢酸(TFA)によって側鎖保護基を除去した。マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型(MALDI-TOF)質量分析によって合成ペプチド調製物を評価してアミノ酸内容が正しいことを確かめた。逆相HPLC(RP-HPLC)によっても各合成ペプチドを評価して調製物の合成プロファイル及び濃度を確認した。合成プロセスの厳格な制御(カップリング効率のステップワイズ監視を含む)を行ったものの、アミノ酸の挿入、欠損、置換、及び中途終結を含めて、伸長サイクルの間に意図しない事象が生じたことに起因してペプチド類似体も生成された。したがって、合成した調製物には、典型的には、狙ったペプチドに加えて複数のペプチド類似体も一緒に含まれていた。
【0173】
そのような意図しないペプチド類似体は含まれていたものの、それでもなお、得られた合成ペプチド調製物は、免疫学的診断(抗体捕捉抗原として)及び医薬組成物(ペプチド免疫原として)を含めて、免疫学的応用における使用に適したものであった。典型的には、そのようなペプチド類似体は、意図的に設計したものにしても、副生成物の混合物として合成プロセスを介して生じたものにしても、製造プロセス及び製品評価プロセスの両方を監視するために識別QC手順が開発されて、こうしたペプチドを用いる最終製品の再現性及び効力が保証される限りにおいては、所望のペプチドの精製調製物と同じくらい有効であることが多い。数百~キログラム量での大スケールのペプチド合成は、カスタマイズされた自動化ペプチド合成機UBI2003または同様のもので、15ミリモル~150ミリモルスケールで実施した。
【0174】
臨床試験のための最終的な医薬組成物において使用した活性成分については、IL-6関連ペプチド免疫原コンストラクトを、緩やかな濃度勾配でグラジエント溶出する分取RP-HPLCによって精製し、MALDI-TOF質量分析、アミノ酸分析、及びRP-HPLCによってその純度及び独自性を特徴付けた。
【0175】
b.IL-6ペプチド免疫原コンストラクトを含む組成物の調製
油中水型エマルションを用いる製剤、及び無機塩を含む懸濁液における製剤を調製した。大きな集団によって使用されるように医薬組成物を設計するには、安全性は、別の重要考慮因子となる。多くの臨床試験では油中水型エマルションが医薬組成物としてヒトに使用されているという事実はあるものの、医薬組成物において使用するための主要なアジュバントは依然としてアラムであり、これはアラムが安全性を有するが故のことである。したがって、臨床適用のための調製物におけるアジュバントとしてアラムまたはその無機塩(ADJUPHOS(リン酸アルミニウム))が使用されることが多い。
【0176】
簡潔に記載すると、以下に記載の試験群のそれぞれに具体的に記載される製剤には、一般に、すべての型のIL-6デザイナーペプチド免疫原コンストラクトを含めた。200を超えるデザイナーIL-6ペプチド免疫原コンストラクトを、それらの相対的な免疫原性について、そうした免疫原のB細胞エピトープペプチドを代表する対応IL-6ペプチドを用いてモルモットにおいて慎重に評価した。異なる相同ペプチドに対するエピトープマッピング及び血清学的交差反応性の分析を、配列番号1~75のリストから選択されるペプチドでコートされたプレートを使用するELISAアッセイによって行った。
【0177】
異なる量のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトを、ヒトでの使用が認可された油としてSeppic MONTANIDE(商標)ISA51を用いて油中水型エマルションで調製するか、または無機塩ADJUPHOS(リン酸アルミニウム)もしくはALHYDROGEL(アラム)と混合した(明記されるように行った)。典型的には、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトを約20~800μg/mLで水に溶解することによって組成物を調製し、MONTANIDE(商標)ISA51を用いて油中水型エマルションにして製剤化(体積で1:1)するか、または無機塩ADJUPHOSもしくはALHYDROGEL(アラム)を用いて製剤化(体積で1:1)した。組成物を室温で約30分間保持し、約10~15秒間ボルテックスによって混合してから免疫化に使用した。特定の組成物の2~3回用量を用いて動物を免疫化し、これらの投与は、初回免疫化後経過週数(wpi)が0の時点(プライム)及び3の時点(ブースト)で実施し、2回目のブーストについては任意選択で5wpiまたは6wpiの時点で実施し、これらの投与は、筋肉内経路によって実施した。その後、免疫化動物から得られた血清を、選択したB細胞エピトープペプチド(複数可)を用いて試験することで、製剤中に存在するさまざまなIL-6ペプチド免疫原コンストラクトの免疫原性、及びIL-6タンパク質との対応血清の交差反応性について評価した。モルモットにおける最初のスクリーニングにおいて強力な免疫原性を有することが明らかになったIL-6ペプチド免疫原コンストラクトについては、その対応血清の機能特性をインビトロアッセイにおいてさらに試験した。次に、選択した候補IL-6ペプチド免疫原コンストラクトを、免疫化プロトコールによって示される特定期間にわたる投薬レジメン用として、油中水型エマルションベースの製剤、無機塩ベースの製剤、及びアラムベースの製剤として調製した。
【0178】
新薬臨床試験開始届の提出に備えて行うGLP指針に沿う前臨床試験における免疫原性試験、持続期間試験、毒性試験、及び効力試験、ならびにIL-6調節異常による影響を受けている患者でのその後の臨床試験のための最終的な製剤に組み込む前に、最も有望なIL-6ペプチド免疫原コンストラクトのみ、さらなる評価を広範に実施した。
【0179】
下記の実施例は、本開示を例示するためのものであり、本開示の限定に使用されるものではない。
【0180】
実施例2
血清学的アッセイ及び試薬
以下では、IL-6ペプチド免疫原コンストラクト及びその製剤の機能的免疫原性を評価するための血清学的アッセイ及び試薬について詳述される。
【0181】
a.抗体特異性分析のためのIL-6またはIL-6ペプチド断片ベースのELISA試験
以下の実施例に記載の免疫血清試料を評価するためのELISAアッセイを開発し、このアッセイについて以下に記載した。IL-6またはIL-6断片ペプチド(配列番号1~20、配列番号72~75)を2μg/mL(別段の記載がない限り)で含めた10mMのNaHCO3緩衝液(pH9.5)(別段の記載がない限り)を100μL用いて96ウェルプレートのウェルを37℃で1時間、それぞれコートした。
【0182】
IL-6またはIL-6断片ペプチドでコートしたウェルを、ゼラチン含量3重量%のPBS(250μL)と共に37℃で1時間インキュベートして非特異的なタンパク質結合部位をブロッキングした後、TWEEN(登録商標)20含量0.05体積%のPBSを用いて当該ウェルを3回洗浄し、乾燥させた。正常ヤギ血清含量20体積%、ゼラチン含量1重量%、TWEEN(登録商標)20含量0.05体積%のPBSを用いて、分析対象の血清を(別段の記載がない限り)1:20希釈した。希釈した検体(例えば、血清、血漿)のうちの100マイクロリットル(100μL)を各ウェルに添加し、37℃で60分間反応させた。次に、TWEEN(登録商標)20含量0.05体積%のPBSを用いてウェルを6回洗浄して非結合抗体を除去した。西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合型の種(例えば、モルモットまたはラット)特異的ヤギポリクローナル抗IgG抗体またはプロテインA/Gを標識型トレーサーとして使用することで、陽性ウェルにおいて形成された抗体/ペプチド抗原複合体と結合させた。正常ヤギ血清含量1体積%、TWEEN(登録商標)20含量0.05体積%のPBS中に、あらかじめ力価測定して決定した最適な希釈率でHRP標識型検出試薬を含めたものを、各ウェルに100マイクロリットル添加し、37℃でさらに30分間インキュベートした。TWEEN(登録商標)20含量0.05体積%のPBSを用いてウェルを6回洗浄して非結合抗体を除去し、クエン酸ナトリウム緩衝液中に3’,3’,5’,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)を0.04重量%、過酸化水素を0.12体積%含む基質混合物100μLとウェルをさらに15分間反応させた。この基質混合物を使用して、着色生成物を形成させることによってペルオキシダーゼ標識を検出した。1.0MのH2SO4を100μL添加することによって反応を停止し、450nmでの吸光度(A450)を決定した。さまざまなペプチド製剤を投与した免疫化動物の抗体力価の決定には、10倍の段階希釈を行って1:100~1:10,000とした血清を試験するか、または4倍の段階希釈を行って1:100~1:4.19×108とした血清を試験した。試験した血清の力価(Log10として表される)は、A450のカットオフ値を0.5としてA450の線形回帰分析によって計算した。
【0183】
b.ThペプチドベースのELISAによるThペプチドに対する抗体反応性の評価
Thペプチドを2μg/mL(別段の記載がない限り)で含めた10mMのNaHCO3緩衝液(pH9.5)(別段の記載がない限り)を100μL用いて96ウェルプレートのウェルを37℃で1時間、それぞれコートし、同様のELISA法(上記のように実施した)に供した。さまざまなIL-6ペプチド製剤を投与した免疫化動物の抗体力価の決定には、10倍の段階希釈を行って1:100~1:10,000とした血清を試験した。試験した血清の力価(Log10として表される)は、A450のカットオフ値を0.5としてA450の線形回帰分析によって計算した。
【0184】
c.B細胞エピトープクラスター10マーペプチドベースのELISA試験によるエピトープマッピングによって決定した標的IL-6 B細胞エピトープペプチドの詳細な特異性分析
IL-6ペプチド免疫原コンストラクトで免疫化した宿主から得られた抗IL-6抗体の詳細な特異性分析を、B細胞エピトープクラスター10マーペプチドベースのELISA試験を使用するエピトープマッピングによって実施した。簡潔に記載すると、個々のIL-6 10マーペプチド(配列番号21~71)をウェル当たり0.5μg/0.1mLで用いて96ウェルプレートのウェルをコートした。その後、上記の抗体ELISA法のステップに従って10マープレートウェル中で100μLの血清試料(PBS中1:100希釈)を2連でインキュベートした。免疫化した宿主から得られた抗IL-6抗体の標的B細胞エピトープ関連の詳細な特異性分析を、対応するIL-6ペプチド、または特異性を確認するための無関係な対照ペプチドを用いて実施した。
【0185】
d.免疫原性の評価
実験プロトコールに従って免疫前血清試料及び免疫血清試料を動物またはヒト対象から収集し、56℃で30分間加熱して血清中補体因子を不活化した。製剤の投与後、プロトコールに従って血液試料を取得し、特定の標的部位(複数可)に対するその免疫原性を、対応IL-6 B細胞エピトープペプチドベースのELISA試験によって評価した。段階希釈した血清を試験し、希釈率の逆数のLog10として陽性力価を表した。所望のB細胞応答を増強するために用いた「ヘルパーT細胞エピトープ」への抗体反応性を低いもの~無視できる程度のものに維持しながら、標的抗原内の所望のエピトープに対して特異的に指向化された高力価抗体応答を誘発する能力、及びIL-6タンパク質との高い交差反応性について、特定の製剤の免疫原性が評価される。
【0186】
e.ラット血清におけるC反応性タンパク質(CRP)レベルを評価するための免疫アッセイ
捕捉抗体としてポリクローナルウサギ抗ラットCRP抗体(Sino Biological)、検出抗体としてビオチン標識型ウサギ抗ラットCRP抗体(Assaypro LLC)を使用して、ラットC反応性タンパク質(CRP)レベルをサンドイッチELISAによって測定した。簡潔に記載すると、ポリクローナルウサギ抗ラットCRP抗体をコート用緩衝液(15mMのNa2CO3、35mMのNaHCO3(pH9.6))中に含めて50ng/ウェルで96ウェルプレート上に固定化し、4℃で一晩インキュベートした。コートしたウェルを、200μL/ウェルのアッセイ希釈液(BSA含量1%、TWEEN(登録商標)-20含量0.05%、ProClin300含量0.01%のPBS)によって室温で1時間ブロッキングした。洗浄緩衝液(TWEEN(登録商標)-20含量0.05%、ProClin 300含量0.01%のPBS)を200μL/ウェルで用いてプレートを3回洗浄した。組換えラットCRP(Sino Biological)を使用してアッセイ希釈剤における標準曲線(2.5倍の段階希釈によって調製した450~1.84ng/mL範囲のもの)を作成した。コートしたウェルに対して希釈血清(1:30,000)及び標準物質を100μL添加した。室温で2時間、インキュベートを実施した。すべてのウェルの吸引処理を行い、洗浄緩衝液を200μL/ウェルで用いてすべてのウェルを5回洗浄した。捕捉されたCRPを100μLの検出抗体溶液(100ng/mlのビオチン標識型ウサギ抗ラットCRP抗体を含むアッセイ希釈液)と共に室温で1時間インキュベートした。次に、結合したビオチン標識型抗体を、ストレプトアビジンポリ-HRP(1:10,000希釈、Thermo Fisher Scientific)(100μL/ウェル)を使用して1時間検出した。すべてのウェルの吸引処理を行い、洗浄緩衝液を200μL/ウェルで用いてすべてのウェルを6回洗浄した。最終的に、100μL/ウェルのNeA-Blue TMB基質(Clinical Science Products)によってウェルの発色処理を行い、1MのH2SO4を100μL/ウェルで添加することによって反応を停止した。VersaMax ELISA Microplate Reader(Molecular Devices)によって比色吸光度を測定し、SoftMax Proソフトウェア(Molecular Devices)を使用して4パラメーターロジスティック曲線を当てはめることによって標準曲線を作成し、すべての試験試料中のCRPの濃度計算に使用した。Prismソフトウェア(GraphPad Software)を使用することによってスチューデントt検定を使用するデータ比較を行った。
【0187】
実施例3
動物においてIL-6ペプチド免疫原コンストラクトによって誘導される抗体及びその製剤の機能特性評価
(1)IL-6とその受容体IL-6R(IL-6α及びIL-6Rβ/gp130)との間の相互作用を遮断する能力、及び(2)RPMI8226細胞におけるIL-6誘導性のSTAT3リン酸化を抑制する能力、及び(3)IL-6依存性のTF-1細胞増殖を抑制する能力、ならびに(4)U937細胞株における単球走化性タンパク質-1(MCP-1)の産生を抑制する能力について、免疫化した動物の免疫血清または精製抗IL-6抗体をさらに試験した。
【0188】
a.細胞
(1)RPMI8226細胞株は、American Type Culture Collection(Manassas,VA)から購入し、5%CO2雰囲気の加湿された37℃のインキュベーターにおいて、10%のウシ胎仔血清(FBS)、4.5g/LのL-グルタミン、ピルビン酸ナトリウム、及び1%のペニシリン/ストレプトマイシンが添加されたRPMI1640培地中で維持した。
(2)TF-1細胞株は、5%CO2雰囲気の加湿された37℃のインキュベーターにおいて、2mMのグルタミン、1%のピルビン酸ナトリウム(NaP)、2ng/mlのヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(ヒトGM-CSF)、ならびに10%のFBS及び1%のペニシリン/ストレプトマイシンが添加されたRPMI1640培地中で維持した。
(3)U937細胞株は、5%CO2雰囲気の加湿された37℃のインキュベーターにおいて、2mMのグルタミン、1%のNaP、ならびに10%のFBS及び1%のペニシリン/ストレプトマイシンが添加されたRPMI1640培地中で維持した。
【0189】
b.IL-6Rα鎖に対するIL-6の結合(シス結合)
異なるIL-6ペプチド免疫原コンストラクトで事前に免疫化したモルモットの免疫血清をプールし、そこから精製したIgGポリクローナル抗体がIL-6Rαに対するIL-6の結合を阻害する相対能力をELISAによって調べた。組換えHisタグ付きヒトIL-6Rα(GenScript)を4μg/mLで含めたコート用緩衝液(15mMのNa2CO3、35mMのNaHCO3、pH9.6)を50μL用いて96ウェルプレートのウェルをそれぞれコートし、4℃で一晩インキュベートした。コートしたウェルを、200μL/ウェルのアッセイ希釈液(BSA含量1%、TWEEN(登録商標)-20含量0.05%、ProClin300含量0.01%のPBS)によって室温で1時間ブロッキングした。洗浄緩衝液(TWEEN-20含量0.05%、ProClin 300含量0.01%のPBS)を200μL/ウェルで用いてプレートを3回洗浄した。10ng/mLのヒトIL-6(GenScript)混合物100μLと、異なる濃度の精製モルモットIgGポリクローナル抗体とを、事前に室温で1時間インキュベートした後、コート済のウェルに添加した。室温で1時間、インキュベートを実施した。すべてのウェルの吸引処理を行い、洗浄緩衝液を200μL/ウェルで用いてすべてのウェルを3回洗浄した。捕捉されたIL-6を、100μL/ウェルのビオチン標識型ウサギ抗IL-6抗体(1:1,000希釈、R&D Systems)によって室温で1時間検出した。次に、結合したビオチン標識型抗体を、ストレプトアビジンポリHRP(1:40,000希釈、Thermo Fisher Scientific)(100μL/ウェル)を使用して1時間検出した。すべてのウェルの吸引処理を行い、洗浄緩衝液を200μL/ウェルで用いてすべてのウェルを3回洗浄した。最終的に、100μL/ウェルのOptEIA TMB基質(BD Biosciences)によってウェルの発色処理を行い、1MのH2SO4を100μL/ウェルで添加することによって反応を停止した。VersaMax ELISA Microplate Reader(Molecular Devices)によって比色吸光度を測定し、Prism6ソフトウェア(GraphPad Software)において50%阻害濃度(IC50)を計算するために、4パラメーターロジスティック曲線を当てはめることによって反応性曲線を作成した。
【0190】
c.IL-6Rβ鎖/gp130に対するIL-6/IL-6Rα鎖複合体の結合(トランス結合)
組換えヒトgp130-Fcキメラタンパク質(R&D systems)を300ng/mLで含めたコート用緩衝液(15mMのNa2CO3、35mMのNaHCO3、pH9.6)を50μL用いて96ウェルプレートのウェルをそれぞれコートし、4℃で一晩インキュベートした。コートしたウェルを、200μL/ウェルのアッセイ希釈液(BSA含量1%、TWEEN-20含量0.05%、ProClin300含量0.01%のPBS)によって室温で1時間ブロッキングした。洗浄緩衝液(TWEEN-20含量0.05%、ProClin 300含量0.01%のPBS)を200μL/ウェルで用いてプレートを3回洗浄した。アッセイ前に、Hisタグ付きヒトIL-6Rα(4μg/mL、GenScript)とIL-6(100ng/mL、GenScript)とを室温で1時間インキュベートすることによって、IL-6:sIL-6Rαのモル比1:20でsIL-6Rα/IL-6複合体を形成させた。10μLの事前形成複合体溶液を、異なる濃度の精製モルモットIgGポリクローナル抗体と共に、総体積100μL、室温で1時間インキュベートした後、当該混合物をgp130-Fcコートウェルに添加した。室温で1時間、インキュベートを実施した。すべてのウェルの吸引処理を行い、洗浄緩衝液を200μL/ウェルで用いてすべてのウェルを3回洗浄した。捕捉されたIL-6を、100μL/ウェルのビオチン標識型ウサギ抗IL-6抗体(1:1,000希釈、R&D Systems)によって室温で1時間検出した。次に、結合したビオチン標識型抗体を、ストレプトアビジンポリHRP(1:40,000希釈、Thermo Fisher Scientific)(100μL/ウェル)を使用して1時間検出した。すべてのウェルの吸引処理を行い、洗浄緩衝液を200μL/ウェルで用いてすべてのウェルを3回洗浄した。最終的に、100μL/ウェルのOptEIA TMB基質(BD Biosciences)によってウェルの発色処理を行い、1MのH2SO4を100μL/ウェルで添加することによって反応を停止した。VersaMax ELISA Microplate Reader(Molecular Devices)によって比色吸光度を測定し、Prism6ソフトウェア(GraphPad Software)において50%阻害濃度(IC50)を計算するために、4パラメーターロジスティック曲線を当てはめることによって反応性曲線を作成した。
【0191】
d.IL-6依存性のTF-1細胞増殖アッセイ
ヒト赤白血病TF-1細胞は、ヒトIL-6に応答して増殖することができる。2.5%のFBSが添加されたRPMI1640培地中、5%CO2雰囲気下、37℃で、ウェル当たりの総体積を100μLとして、異なる濃度の精製モルモットIgGポリクローナル抗体の存在下で最終濃度10ng/mLのヒト組換えIL-6と共に5×103個の細胞を72時間同時インキュベートすることによってアッセイを実施した。試験対照としてトシリズマブ(抗IL-6受容体抗体)も含めた。ウェル当たり40μLのCellTiterGlo試薬(Promega)を添加した後、当該反応液を室温で10分間インキュベートすることによって細胞の増殖及び生存度を決定した。得られた発光をSpectraMax i3x Multi-Modeマイクロプレートリーダー(Molecular Devices)によって測定し、Prism6ソフトウェア(GraphPad Software)において50%阻害濃度(IC50)を計算するために、4パラメーターロジスティック曲線を当てはめることによって反応性曲線を作成した。
【0192】
e.IL-6誘導性のSTAT3リン酸化アッセイ
STAT3のリン酸化が構成的に活性ではないヒト骨髄腫細胞株RPMI8226は、STAT3の活性化にIL-6への曝露を必要とする。精製IgGがRPMI8226細胞におけるIL-6誘導性のSTAT3リン酸化を抑制し得るかどうかを調べるために、総体積500μLのRMPI8226培養培地中、5%CO2雰囲気下、37℃、100μg/mL濃度のモルモットポリクローナル抗体の存在下で、最終濃度10ng/mLのIL-6と共に8×105個の細胞を30分間同時インキュベートした。試験対照としてトシリズマブ(抗IL-6受容体抗体)を含めた。PathScan p-Stat3 ELISAキット(Cell Signaling)によってリン酸化STAT3レベルを測定した。簡潔に記載すると、1%のホスファターゼ阻害剤カクテル3(Sigma-Aldrich)が添加された細胞溶解緩衝液(Cell Signaling)30μL中に細胞を懸濁することによって細胞溶解液を調製し、12,000×g、4℃で10分間遠心分離することによって細胞片を除去した。10μgの清澄な細胞溶解液を使用して、供給業者の説明パンフレットに従ってリン酸化STAT3の含量を測定した。VersaMax ELISA Microplate Reader(Molecular Devices)によって比色吸光度を測定した。
【0193】
f.IL-6誘導性のMCP-1産生
U937は、いくつかの物質によって成熟マクロファージに分化誘導可能な前単球細胞株である。IL-6は、単球系細胞におけるMCP-1産生を誘導することができる。IL-6ペプチドコンストラクト免疫原によって誘導される抗IL-6抗体は、U937細胞株におけるIL-6依存性のMCP-1分泌を調節する可能性がある。ウェル当たり総体積100μLのU937培養培地中、5%CO2雰囲気下、37℃で、8×103個の細胞、最終濃度10ng/mLのヒト組換えIL-6、及び異なる濃度の精製モルモットIgGポリクローナル抗体を24時間インキュベートすることによってアッセイを実施した。抗IL-6受容体抗体として、トシリズマブも試験対照として含めた。培養培地を300×gで10分間遠心分離することによって清澄な上清を調製し、-30℃で保管した。供給業者の説明に従って希釈上清(1:100希釈)100μLをヒトMCP-1定量化ELISAキット(Thermo Fisher)に供した。VersaMax ELISA Microplate Reader(Molecular Devices)によって比色吸光度を測定し、SoftMax Proソフトウェア(Molecular Devices)を使用して4パラメーターロジスティック曲線を当てはめることによって標準曲線を作成し、すべての試験試料中のMCP-1濃度の計算に使用した。Prism6ソフトウェア(GraphPad Software)において50%阻害濃度(IC50)を計算するために、4パラメーターロジスティック曲線を当てはめることによって反応性曲線を作成した。
【0194】
実施例4
安全性試験、免疫原性試験、毒性試験、及び効力試験において使用した動物
モルモット:
免疫原性試験は、成熟、ナイーブ、かつ成体の雄性及び雌性のDuncan-Hartleyモルモット(300~350g/BW)において実施した。実験では、群当たり少なくとも3匹のモルモットを利用した。Duncan-Hartleyモルモット(8~12週齢、Covance Research Laboratories,Denver,PA,USA)と関連するプロトコールは、UBIスポンサーの契約動物施設において、認可されたIACUC申請内容で実施した。
【0195】
ラット:
コラーゲン誘導関節炎(CIA)の誘導にはルイスラットを用いた。Biolascoから8~12週齢の雌性ルイスラットを購入し、体重を約180gに揃えた。UBI Asia Laboratory Animal Facilityにて動物を飼育し、一定の温度(22℃)、湿度(72%)、12時間明期/12時間暗期サイクルの下で1週間順応させた。ラットがラット固形飼料及び水を自由に摂取できるようにした。すべてのプロトコールにおいてPrinciples of Laboratory Animal Careに従った。コラーゲン負荷注射は、皮内経路によって0日目及び7日目に尾の付け根に対して実施した。血液採取は、プロトコールに示されるように実施した。臨床的観察は、CIAげっ歯類モデルにおける関節炎重症度評価のためのスコア付けシステムを使用して35日目まで1週間に3回実施した。抗IL-6(ラット)の抗体力価は、ELISAアッセイによって試験した。関連炎症バイオマーカー(CRP)及び血液学的アッセイでの血中WBC数を評価した。
【0196】
実施例5
モルモットにおけるIL-6ペプチドコンストラクトの免疫原性評価のための製剤
以下には、各実験に使用した医薬組成物及び製剤について、より詳細に記載される。簡潔に記載すると、各試験群に明記した製剤には、一般に、異なる型のスペーサー(例えば、ペプチドコンストラクトの溶解性を増進させるためのεLys(εK)またはリジン-リジン-リジン(KKK))を介してIL-6 B細胞エピトープペプチドが連結されたセグメントと、非選択的ヘルパーT細胞エピトープ(麻疹ウイルス融合タンパク質及びB型肝炎表面抗原に由来する2つの人工ヘルパーT細胞エピトープセットを含む)と、を含むすべての型のデザイナーIL-6ペプチド免疫原コンストラクトを含めた。IL-6 B細胞エピトープペプチドは、デザイナーペプチドコンストラクトのN末端またはC末端に連結されている。数百のデザイナーIL-6ペプチド免疫原コンストラクトを、それらの相対的な免疫原性について、対応するIL-6 B細胞エピトープペプチドを用いてモルモットにおいて最初に評価した。異なる量のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトを、ヒトでのワクチン使用が認可された油としてSeppic MONTANIDE ISA51を用いて油中水型エマルションで調製するか、または無機塩(ADJUPHOS)もしくはALHYDROGEL(アラム)を用いて懸濁液として調製した(明記されるように行った)。製剤は、通常、IL-6ペプチドコンストラクトを約20~800μg/mLで水に溶解することによって調製し、MONTANIDE ISA51を用いて油中水型エマルションにして製剤化(体積で1:1)するか、または無機塩(ADJUPHOS)もしくはALHYDROGEL(アラム)を用いて製剤化(体積で1:1)した。製剤を室温で約30分間保持し、約10~15秒間ボルテックスによって混合してから免疫化に使用した。
【0197】
特定の組成物の2~3回用量を用いて何匹かの動物を免疫化し、これらの投与は、初回免疫化後経過週数(wpi)が0の時点(プライム)及び3の時点(ブースト)で実施し、2回目のブーストについては任意選択で5wpiまたは6wpiの時点で実施し、これらの投与は、筋肉内経路によって実施した。その後、こうした免疫化動物において、それぞれの製剤において使用した対応IL-6ペプチド免疫原コンストラクトの免疫原性を、組換えIL-6との交差反応性について評価した。モルモットにおける最初のスクリーニングにおいて強力な免疫原性を有したIL-6ペプチド免疫原コンストラクトについては、免疫化プロトコールによって示される特定期間にわたる投薬レジメン用として、油中水型エマルションベースの製剤と無機塩ベースの製剤及びアラムベースの製剤との両方で、マカクにおいてさらに試験した。
【0198】
最も有望なIL-6ペプチド免疫原コンストラクト候補のみ、マウスまたはラットにおいて免疫寛容を壊すその能力について、対応するマウスまたはラットのIL-6ペプチド免疫原コンストラクトを使用してさらなる評価を広範に実施した。最良の免疫原性を有したIL-6ペプチド免疫原コンストラクトは、内在性IL-6に対して抗IL-6抗体力価を誘発し、特に、ラットにおいて血中炎症因子を抑制し、CIA誘導型ルイスラットモデルの関節リウマチ臨床症状を緩和する能力について最良の免疫原性を有するか、またはカニクイザルにおいて外来性IL-6の皮下投与によって引き起こされる血中好中球数増加を抑制する能力について最良の免疫原性を有していた。こうした最適化されたIL-6ペプチド免疫原コンストラクトを、新薬臨床試験開始届の提出に備えて行うGLP指針に沿う免疫原性試験、持続期間試験、毒性試験、及び効力証明試験、ならびに自己免疫性関節リウマチ患者における臨床試験のための最終的な製剤に組み込んだ。
【0199】
実施例6
自己免疫性関節リウマチの治療のためのIL-6ペプチド免疫原コンストラクトを組み込んだ複数成分製剤の設計根拠、スクリーニング、同定、機能特性評価、及び最適化
IL-6(サイトカイン)は、設計の標的分子としても、本開示の内容としても選択されている。
図1は、ヒト種由来のIL-6配列(配列番号227)、マカク種由来のIL-6配列(配列番号228)、マウス種由来のIL-6配列(配列番号229)、及びラット種由来のIL-6配列(配列番号230)のアライメントを示す。本発明の一般概要及び開発ステップは、IL-6製剤の商業化(産業化)に繋がる開発プロセスを示す流れ図を用いて
図2に示される。こうしたステップのそれぞれの詳細な評価及び分析には、喜ばしい驚きもそうでないものも伴ったが、そうした評価及び分析を行うことで、安全かつ有効なIL-6製剤の商業化を最終的にもたらすことになる無数の実験をこれまでに行うに至った。
【0200】
a.設計履歴
それぞれのペプチド免疫原コンストラクトまたは免疫療法製品には、その特定の疾患機序及び介入を要する標的タンパク質(複数可)に基づく独自の設計着目及び手法が必要である。標的IL-6分子はサイトカインであり、その設計が後にモデル化されるものである。研究から商業化へのプロセスは、典型的には、達成に十年または数十年を要するものである。免疫原コンストラクトを設計するには、介入対象の機能性部位(複数可)と相関するIL-6 B細胞エピトープペプチドを同定することが重要である。さまざまなヘルパーT細胞支援物(担体タンパク質または適切なヘルパーT細胞ペプチド)をさまざまな製剤に組み込んでモルモットにおいてパイロット免疫原性試験を連続的に実施することで、誘導される抗体の機能特性を評価する。次に、広範な血清学的検証を行って、標的種または非ヒト霊長類において候補IL-6 B細胞エピトープペプチド免疫原コンストラクトをさらに試験することで、免疫原性、及びIL-6ペプチド免疫原の設計方向をさらに検証する。次に、選択したIL-6ペプチド免疫原コンストラクトを、異なる混合物として調製することで、組み合わせて使用した場合のペプチドコンストラクト間のそれぞれの相互作用と関連する機能特性の微妙な差異を評価する。追加評価を行って、最終的なペプチドコンストラクト、ペプチド組成物、及びその製剤を、そうした製剤のそれぞれの物理的パラメーターと併せて確立することで、最終的な製品開発プロセスに繋げる。
【0201】
b.IL-6調節異常による影響を受ける疾患(自己免疫性関節リウマチを含む)に罹患している患者を治療する潜在力を有する医薬組成物のためのIL-6由来のペプチド免疫原コンストラクトの設計及び検証
医薬組成物に組み込む上で最も強力なペプチドコンストラクトを生成させるために、ヒトIL-6 B細胞エピトープペプチド(配列番号5~19)のレパートリー、及びさまざまな病原体に由来する非選択的なヘルパーT細胞エピトープまたは人工的なヘルパーT細胞エピトープ(配列番号78~106及び配列番号216~226)をさらに設計し、モルモットにおいて最初に免疫原性試験を行うためのIL-6ペプチド免疫原コンストラクト(配列番号107~215)にした。
【0202】
i)設計のための、2つの分子内ループを含む領域に由来するIL-6 B細胞エピトープペプチド配列の選択
さらなるB細胞エピトープペプチド設計のために、多くの試験領域の中でも特に、2つの分子内ループの間に位置する領域及び2つの分子内ループを含む領域が選択される。こうした領域は、IL-6Rのα鎖及びβ鎖(すなわち、gp130鎖)に接近することが明らかになっている。IL-6がIL-6Rに結合すると、IL-6Rは、細胞内で活性化シグナルを伝達し、その後の主要な細胞事象を引き起こすことになる。2つのループは、表1の配列番号1または
図1の配列番号227の中に示されるC73~C83(配列番号5)及びC44~C50(配列番号15)であり、これら2つのループの間には、3~4つのアルファヘリックス束が位置する。
【0203】
最初に、IL-6 C73~C83(配列番号5)に対するマウス及びラットのカウンターパートループ構造(例えば、配列番号20及び配列番号74)をB細胞エピトープとして選択することで、UBITh(登録商標)3ヘルパーT細胞ペプチド(配列番号89)及びリンカー(配列番号77)と連結されたIL-6ペプチド免疫原コンストラクトを設計した。これら2つのIL-6ペプチド免疫原コンストラクトをISA51及びCpGと共に製剤化して、モルモットにおける400μg/1mLでのプライム免疫化及び100μg/0.25mLでのブースト(3wpi、6wpi、及び9wpi)用とした。モルモットにおける免疫原性を試験するために、10倍の段階希釈によって1:100~1:10000に希釈したモルモット免疫血清を用いるELISAアッセイを使用した。ヒトIL-6ペプチド(配列番号5)、マウスペプチド、またはラットペプチド(配列番号20及び配列番号74)を用いて、ウェル当たりのペプチド量0.5μgでELISAプレートをコートした。試験した血清の力価(Log10として表される)は、A450のカットオフ値を0.5としてA450nmの線形回帰分析によって計算した。ELISAの結果から、ヒトIL-6 73~83に由来するペプチド免疫原コンストラクト(配列番号107)及びマウスIL-6 72~82に由来するペプチド免疫原コンストラクト(配列番号146)の2つは、それら自体のB細胞エピトープペプチドヒトIL-6 C73~C83(配列番号5)及びマウスB細胞エピトープペプチド(配列番号20)に対して高い免疫原性力価を誘導しただけなく、これら2つの抗血清は、表4に示されるようにヒトIL-6及びマウスIL-6に由来するそれらの相同B細胞エピトープペプチドに対しても中程度の交差反応性を有することも示された。この試験では、設計した2つのペプチド免疫原が、ヒトIL-6 C73~C83ペプチド及びそのマウスカウンターパートペプチドに対する交差反応性を有する特異的な抗体を誘導可能であることが示された。さらに、IL-6ペプチド免疫原コンストラクト124、IL-6ペプチド免疫原コンストラクト125、IL-6ペプチド免疫原コンストラクト126、及びIL-6ペプチド免疫原コンストラクト132(環状)、ならびにIL-6ペプチド免疫原コンストラクト133(非環状)(これらは、IL-6 73~83を超えてループのN末端部分へと延長された配列を有する)についても、免疫原性ならびにヒトIL-6タンパク質とのそれらの交差反応性を試験し、これによって、高い免疫原性及び中程度の交差反応性の両方を有することが示された(表5Aに示される)。
【0204】
次に、IL-6 C44~C50に由来するもう一方のループ構造を設計に組み込んだ。C44~C50ループをカバーする異なるサイズのB細胞エピトープペプチドをIL-6ペプチド免疫原の構築に選択した。UBITh(登録商標)1ヘルパーT細胞エピトープペプチド(配列番号91)及び短いリンカーεKまたは長いリンカーKKK-εK(配列番号77)を使用して新たなヒトIL-6免疫原コンストラクトを構築した。UBITh(登録商標)1ヘルパーT細胞エピトープペプチドを、リンカー配列と共に、標的B細胞エピトープペプチドに対してコンストラクトのN末端もしくはC末端または両末端に配置した。3つの異なるサイズのB細胞エピトープ(IL-6 44~50(配列番号15)、IL-6 42~57(配列番号12)、IL-6 42~72(配列番号10))に由来する7つのヒトIL-6免疫原コンストラクト(配列番号128、配列番号129、配列番号131、及び配列番号134~137)を設計し、免疫原性試験に用いた。各ペプチド免疫原をISA51及びCpGと共に製剤化してモルモットを免疫化した。この免疫化は、プライム免疫化の用量を400μg/ml、wpiが3、6、9の時点でのブーストの用量を100μg/mlとして、群当たりの3匹のモルモットに対して実施した。ELISAアッセイを実施することで、設計したIL-6ペプチド免疫原の免疫原性を評価した。IL-6 B細胞エピトープペプチド及びヒトIL-6タンパク質(配列番号1)を使用してプレートウェルをコートすることで、標的ペプチドとした。10倍の段階希釈によってモルモット免疫血清を1:100~1:100000に希釈した。試験した血清の力価(Log10として表される)は、A450のカットオフ値を0.5としてA450nmの線形回帰分析によって計算した。8つすべてのペプチド免疫原が、プレートウェルにコートされたB細胞エピトープペプチドに対する強力な免疫原性力価を誘導した。ELISAの結果から、これら7つのペプチド免疫原コンストラクトが、対応するIL-6 B細胞エピトープペプチドに対して高い免疫原性力価を誘導するだけでなく、これらの抗血清が、ヒトIL-6タンパク質(配列番号1)に対して中程度の交差反応性を有することも示された(表5Bに示される)。
【0205】
さらに、2つのループの間から取得した配列(配列番号13及び配列番号9(すなわちIL-6 61~75及びIL-6 52~72))を有する2つの他のB細胞エピトープペプチドを設計に組み込んだ。UBITh(登録商標)1ヘルパーT細胞エピトープペプチド(配列番号91)及び短いリンカーεKまたは長いリンカーKKK-εK(配列番号77)を使用して新たなヒトIL-6免疫原コンストラクト(配列番号127、配列番号138~145)を構築した。UBITh(登録商標)1ヘルパーT細胞エピトープペプチドを、リンカー配列と共に、標的B細胞エピトープペプチドに対してコンストラクトのN末端またはC末端のいずれかに配置した。3つの異なるサイズのB細胞エピトープ(IL-6 52~72(配列番号9)、IL-6 61~75(配列番号13)、IL-6 61~72(配列番号14))に由来する9つのヒトIL-6免疫原コンストラクト(配列番号127、配列番号138~145)を設計し、免疫原性試験に用いた。各ペプチド免疫原をISA51及びCpGと共に製剤化してモルモットを免疫化した。この免疫化は、プライム免疫化の用量を400μg/ml、wpiが3、6、9の時点でのブーストの用量を100μg/mlとして、群当たりの3匹のモルモットに対して実施した。ELISAアッセイを実施することで、設計したIL-6ペプチド免疫原の免疫原性を評価した。IL-6 B細胞エピトープペプチド及びヒトIL-6タンパク質(配列番号1)を使用してプレートウェルをコートすることで、標的ペプチドとした。10倍の段階希釈によってモルモット免疫血清を1:100~1:100000に希釈した。試験した血清の力価(Log10として表される)は、A450のカットオフ値を0.5としてA450nmの線形回帰分析によって計算した。9つすべてのペプチド免疫原が、プレートウェルにコートされたB細胞エピトープペプチドに対する強力な免疫原性力価を誘導した。ELISAの結果から、これら8つのペプチド免疫原コンストラクトが、対応するIL-6 B細胞エピトープペプチドに対して高い免疫原性力価を誘導するだけでなく、これらの抗血清が、ヒトIL-6タンパク質(配列番号1)に対して中程度の交差反応性を有することも示された(表5Cに示される)。
【0206】
上記の内在性の内部ループを含むペプチドコンストラクトに加えて、モノクローナル抗体オロキズマブと関連するヒトIL-6上のエピトープに対してもIL-6 B細胞エピトープペプチド設計を行った。オロキズマブは、gp130に対するIL-6/sIL-6Rの結合を阻害することが知られている。オロキズマブと関連する立体構造エピトープの部分をカバーする2つの異なる配列サイズのペプチドを設計してIL-6ペプチド免疫原コンストラクトを構築した。UBITh(登録商標)1ヘルパーT細胞エピトープペプチド(配列番号91)及び長いリンカーεK-KKK(配列番号77)を選択して新たなヒトIL-6免疫原コンストラクトを構築した。UBITh(登録商標)1ヘルパーT細胞エピトープ及びリンカー配列をB細胞エピトープペプチドのN末端もしくはC末端または両末端に配置した。2つの異なるサイズのB細胞エピトープ(配列番号18及び配列番号19)に由来する5つのヒトIL-6免疫原コンストラクト(配列番号112~117)を設計し、免疫原性試験に用いた。N末端及びC末端の両方にUBITh(登録商標)1を有するIL-6 73~83コンストラクト(配列番号118)(群6)を1つ追加し、これを、免疫原性及び免疫特異性の比較のための対照とした。各ペプチド免疫原をISA51及びCpGと共に製剤化してモルモットを免疫化した。この免疫化は、プライム免疫化の用量を400μg/ml、wpiが3、6、9の時点でのブーストの用量を100μg/mlとして、群当たりの3匹のモルモットに対して実施した。ELISAアッセイを実施してこれらの設計ペプチド免疫原の免疫原性を評価した。3つのB細胞エピトープペプチド(IL-6 C73~C83(配列番号5)、IL-6 150~162(配列番号18)、及びIL-6 144~166(配列番号19))を使用してプレートウェルをコートすることで、標的ペプチドとした。10倍の段階希釈によってモルモット免疫血清を1:100~1:100000に希釈した。試験した血清の力価(Log10として表される)は、A450のカットオフ値を0.5としてA450nmの線形回帰分析によって計算した。6つすべてのペプチド免疫原が、プレートウェルにコートされたそれら自体のB細胞エピトープペプチドに対する強力な免疫原性力価を誘導した。ELISAデータから、5つの免疫原コンストラクト(配列番号112~117)の間には交差反応性が存在することが示され、これは、それらの免疫原コンストラクトが、アミノ酸配列144~166に由来する同じヘリックス・ターン・ヘリックス構造を共有することによるものである(表5Dに示される)。表5Eには、こうしたコンストラクトから得られた免疫血清が、ヒトIL-6タンパク質に対する交差反応性を有することが示され、このことは、他のIL-6誘導性の機能アッセイにおいて試験されることになるIL-6結合介入にこの部位が有望であることを示している。
【0207】
ii)病原体に由来する異種ヘルパーT細胞エピトープの順位付け、及び選択したIL-6 B細胞エピトープペプチドの免疫原性を増強するための、IL-6ペプチド免疫原コンストラクト設計へのその組み込み
表2は、B細胞エピトープの免疫原性を増強する相対的な能力について複数の種(マウス、ラット、モルモット、ヒヒ、及びマカクなど)において試験した全部で29種類の異種Thエピトープ(配列番号78~106及び配列番号216~226)を示す。
【0208】
εKスペーサーを介して個々の非選択的なヘルパーT細胞エピトープと連結されたIL-6 C73~C83 B細胞エピトープペプチド(配列番号5)を含むIL-6ペプチド免疫原コンストラクトの代表的な試験としてモルモットにおける免疫原性試験を実施することで、それぞれの異種ヘルパーT細胞エピトープの相対的な有効性を順位付けした(表6に示される)。初回免疫化後経過週数6(6wpi)の時点で得られた結果を使用して、異なるIL-6ペプチド免疫原コンストラクトを順位付けした。選択したすべてのThエピトープがIL-6 B細胞エピトープペプチドの免疫原性を増強する能力を有していたが、最も強力なコンストラクトは、配列番号119のコンストラクトであることが明らかとなった。
【0209】
霊長類を含めて、異なる種においてそれぞれ及びすべてのIL-6ペプチド免疫原コンストラクトの免疫原性を慎重に調整することで、最終的なThペプチドの選択、及び最終製剤の開発の成功が保証されることになる。
【0210】
iii)組換えIL-6との抗体反応性についてのIL-6ペプチド免疫原コンストラクトの免疫原性の評価
図3は、25種類の異なるIL-6ペプチド免疫原コンストラクト(配列番号107、配列番号112~114、配列番号116~118、及び配列番号124~145)で免疫化したモルモットにおける12週間にわたる抗血清の動態をさらに示す。Wpiが0、3、6、8/9、及び12の時点で得られたモルモット抗血清を4倍の段階希釈によって1:100~1:4.19×10
8に希釈した。ウェル当たり50ngのヒトIL-6(GenScript)でELISAプレートをコートした。試験した血清の力価(Log(EC
50)として表される)は、4パラメーターロジスティック曲線に当てはめて50%効果濃度(EC
50)をLogで得ることによって計算した。25種類の免疫原コンストラクトのすべてが、天然のヒトIL-6に対するある特定の程度の交差反応性を誘発することができた。このことは、それらの産生抗IL-6抗体がIL-6活性を中和する潜在力を有し得ることを示唆している。
【0211】
設計したヒトIL-6ペプチド免疫原が、異なる動物種から交差反応性を有する抗体を誘導するかどうか(こうしたデータからは、さらなる動物試験に有用な情報が得られる可能性がある)を調べるために、29種類の異なる免疫原コンストラクト(配列番号107、配列番号112~114、配列番号116~118、及び配列番号124~145)によって誘導された8wpiまたは9wpiの時点の血清を選択して、プロテインA親和性クロマトグラフィーによるIgG精製に供した。
図4には、配列番号107、配列番号116、配列番号118、及び配列番号124~133によって誘導された精製ポリクローナルモルモットIgGが、ヒト、サル、及びラットの組換えIL-6タンパク質(すべてGenScriptから購入した)と交差反応することを示した。これらの中で、(配列番号107、配列番号118、及び配列番号124~126)のペプチドは、異なるペプチド構成でIL-6 73~83ループを含み、ペプチド(配列番号128、配列番号129、及び配列番号131)は、IL-6 44~50ループを含み、配列番号132は、両方のループを含む。
【0212】
iv)IL-6 B細胞エピトープペプチド設計の除外対象となる内在性/自己Thエピトープの同定
ペプチド免疫原コンストラクト中にヘルパーT細胞エピトープ(複数可)構造特徴が存在すると、アルツハイマー病ワクチンとしてのAN1792で以前に生じたように、ブースト免疫化時に自己T細胞が活性化されることに起因して望ましくない炎症が生じる可能性があり得ることから、標的タンパク質中に存在する潜在的な内在性/自己Thエピトープを同定すれば、免疫療法介入のための組成物を設計する上で利点が得られるものと想定される。表7に示されるように、遊離のIL-6 B細胞エピトープペプチド(IL-6 62~83(配列番号6)、IL-6 58~83(配列番号7)、IL-6 52~83(配列番号8)、IL-6 52~72(配列番号9)、及びIL-6 42~72(配列番号10))を強力な油中水型エマルション製剤として製剤化しても、免疫原性試験において得られたバックグラウンドは綺麗であった。このことは、そうしたIL-6 B細胞エピトープペプチドが、IL-6製剤に使用するためのIL-6ペプチド免疫原コンストラクトの構築に使用するIL-6 B細胞エピトープペプチドの候補として相応しいものであることを示している。
【0213】
v)IL-6ペプチド免疫原コンストラクトによって誘発される集中的な抗体応答は、IL-6 B細胞エピトープのみを標的とする
担体タンパク質(例えば、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)または他の担体タンパク質(ジフテリアトキソイド(DT)タンパク質及び破傷風トキソイド(TT)タンパク質など))はすべて、それぞれの担体タンパク質に標的B細胞エピトープペプチドを化学的に結合させることによってそのようなB細胞エピトープペプチドに対して指向化された免疫応答を増強するために使用されるが、そうした担体タンパク質が免疫化宿主において誘導する抗体は、その90%超が、そうした増強用の担体タンパク質に対して指向化されることになり、標的B細胞エピトープに対して指向化された抗体は10%にも満たないことがよく知られている。それ故に、本開示のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトの特異性を評価することは興味深いことである。長さが異なるB細胞エピトープがスペーサー配列を介して異種T細胞エピトープUBITh(登録商標)1(配列番号91)に連結された一連の8つのIL-6ペプチド免疫原コンストラクト(表3の配列番号138~145)を免疫原性評価のために調製した。UBITh(登録商標)1(B細胞エピトープ免疫増強に使用したヘルパーT細胞ペプチド)をプレートにコートし、モルモット免疫血清を用いることで、免疫増強に使用したUBITh(登録商標)1ペプチドとの交差反応性を試験した。こうしたコンストラクトの免疫原性が、対応する標的IL-6 B細胞エピトープペプチドに対しては高いものであった(IL-6 B細胞エピトープ(複数可)に対して生成された抗体の力価が高いことによって示された)こととは対照的に、すべてではないにせよ、免疫血清のほとんどが、UBITh(登録商標)1ペプチドに対しては反応しないことが明らかとなった(表8に示される)。
【0214】
めとめると、慎重に選択したヘルパーT細胞エピトープに標的IL-6 B細胞エピトープペプチドを連結して組み込むという単純な免疫原設計を行うことで、対応するIL-6 B細胞エピトープペプチドのみを標的とする集中的かつ綺麗な免疫応答を生成させることが可能になる。医薬組成物の設計については、それが生成させる免疫応答が特異的になればなるほど、それによって組成物に備われる安全性プロファイルが向上する。したがって、本開示のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトは、その標的に対して高度に特異的である上に強力なものである。
【0215】
vi)IL-6ペプチド免疫原コンストラクトによって得られる抗体がIL-6とIL-6Rとの相互作用を阻害するかについてのその免疫原性の評価
IL-6は、ヘテロトリマーIL-6R/gp130複合体を介してシグナルを伝達し、この複合体が会合することによって下流のシグナル伝達が活性化される。IL-6またはIL-6Rはいずれも、単独では下流のシグナル伝達を活性化できない。候補IL-6ペプチド免疫原コンストラクトが、モルモットにおいて抗体を誘導し得るかどうか、及び誘導される抗体が、IL-6とIL-6受容体(IL-6R)との間の相互作用を遮断するようにIL-6を中和し得るかを、さらに試験を実施して調べた(Rose-John, et al., 2017)。
【0216】
25種類のそれぞれ候補IL-6ペプチド免疫原コンストラクト(配列番号107、配列番号116、配列番号118、配列番号124~145)によって免疫化したモルモットの免疫血清から精製したモルモットIgGをELISAアッセイに用いることで、(a)実施例3に記載のように固相抗原コーティングとして対応IL-6 B細胞エピトープペプチドを使用するELISAによる相対的な免疫原性、(b)ヒト種、サル種、及びげっ歯類種に由来するIL-6タンパク質と交差反応する相対的な能力、これらに加えて、(a)及び(b)の両方が存在する場合、こうした精製抗体が、IL-6タンパク質を中和し得、それによって、IL-6とIL-6Raとの間の相互作用(すなわち、シスシグナル伝達)またはIL-6/IL-6RaとIL-6Rb/すなわちgp130との間の相互作用(すなわち、トランスシグナル伝達)を阻害し得るかどうか、を評価した。
【0217】
図3に示されるように、慎重に設計したそれぞれの候補IL-6ペプチド免疫原コンストラクトで免疫化したモルモットの精製抗体はすべて、免疫化スケジュールに沿って顕著な抗体力価を経時的に示した。さらに、こうしたIL-6ペプチド免疫原コンストラクトでの免疫化から得られた免疫血清から精製した抗体はすべて、ヒトIL-6タンパク質との高い反応性を示すと共に、サル(マカク)及びげっ歯類のIL-6タンパク質との中程度の交差反応も示した(
図4A及び
図4Bに示される)。
【0218】
さらに、
図5Aに示されるように、それぞれの候補IL-6ペプチド免疫原コンストラクト(例えば、配列番号107、配列番号116、配列番号118、配列番号124、配列番号132~134、及び配列番号137を有するもの)で免疫化したモルモットの免疫血清から精製した代表的な抗体は、シスシグナル伝達様式を介するIL-6とIL-6Raとの相互作用を用量依存的な様式で競合的に阻害した。
【0219】
図5Bに示されるように、それぞれの候補IL-6ペプチド免疫原コンストラクト(例えば、配列番号128、配列番号129、配列番号134、及び配列番号135を有するもの)で免疫化したモルモットの免疫血清から精製した代表的な抗体は、トランスシグナル伝達様式を介するIL-6-IL-6Ra複合体とIL-6Rb/gp130との相互作用を用量依存的な様式で競合的に阻害した。
【0220】
対照的に、先行技術のB細胞エピトープペプチド配列(配列番号11)を含むペプチド免疫原コンストラクト(配列番号130)から得られた免疫血清から精製した抗体は、シス経路もトランス経路も抑制することができなかった。
【0221】
vii)さまざまなIL-6ペプチド免疫原コンストラクトによって誘導された免疫血清(9wpi)による、詳細な特異性分析のためのエピトープマッピング
IL-6ペプチド免疫原コンストラクトを含むIL-6組成物の設計を、IL-6R結合部位に近い2つの分子内ループ(C44~C50(配列番号15)及びC73~C83(配列番号5))を含む領域に絞って行った。この構造ベースの設計の目的は、これら天然の分子内ループのうちの少なくとも1つを免疫原性標的として保持することである。
【0222】
62~83(配列番号124)、58~83(配列番号125)、52~83(配列番号126)、52~72(配列番号127)、42~72(配列番号128)(当該B細胞エピトープに対してN末端側にThが位置する)、42~72(配列番号129)(当該B細胞エピトープに対してC末端側にThが位置する)、50~67(配列番号130)、及び73~83(配列番号107)の8つを、IL-6 B細胞エピトープペプチドを代表するものとした。
【0223】
IL-6 62~83(配列番号6)、IL-6 58~83(配列番号7)、IL-6 52~83(配列番号8)、IL-6 52~72(配列番号9)、IL-6 42~72(配列番号10)、IL-6 50~67(配列番号11)、及びIL-6 73~83(配列番号5)をB細胞エピトープペプチドの設計に使用し、これらのB細胞エピトープペプチドを、そのN末端またはC末端でUBITh(登録商標)1(配列番号91)と連結してプロトタイプペプチド免疫原を形成させた。B細胞とThエピトープとの間にεKリンカーまたはεK-KKK(配列番号77)スペーサーを使用して、表3に示されるペプチド免疫原コンストラクト(配列番号124~130、配列番号107)を形成させた。アミノ酸(aa)42~83、アミノ酸(aa)42~72、及びアミノ酸(aa)73~83に含まれるB細胞エピトープペプチドはすべて、環化によるC44~C50拘束ループ構造またはC73~C83拘束ループ構造を含むように設計した。
【0224】
プレートのコートに個々のIL-6 B細胞エピトープペプチド(C73~C83(配列番号5)及びE42~G72(配列番号10))を使用するELISA試験によって、IL-6ペプチド免疫原コンストラクト(配列番号124~130、配列番号107)で免疫化したモルモットから得られた過免疫血清の抗体反応性を評価した。C73~C83ループ構造を含むコンストラクト(配列番号124、配列番号125、配列番号126、及び配列番号107)はIL-6 B細胞エピトープペプチドC73~C83(配列番号5)に対する高力価抗体を誘導した一方で、C44~C50ループ構造を含むIL-6ペプチド免疫原コンストラクト(配列番号127~130)によって誘導されたモルモット抗血清は、B細胞エピトープペプチドE42~C72(配列番号10)との抗体反応性を有するが、C73~C83ループ(配列番号5)との交差反応性はほとんどまたは全く有さないことが、結果から示された。このことは、免疫原性の特異性が高く、すなわち、設計した免疫原コンストラクトが、IL-6の対応B細胞エピトープドメインと反応する特異的な抗体を誘導できることを示している(表9)。
【0225】
抗体結合部位(複数可)を標的領域中の特定残基に帰属させるための詳細なエピトープマッピング(表9)では、IL-6のアミノ酸32~アミノ酸91の配列領域をカバーする51種類のオーバーラップする10マーペプチド(配列番号21~71)を合成した。これらの10マーペプチドを、固相免疫吸着物質として96ウェルマイクロタイタープレートのウェル上に個々にコートした。2.0μg/mLの10マーペプチドでコートしたこれらのプレートウェルに対して、プールしたモルモット抗血清を検体希釈緩衝液での1:100希釈液として添加した後、37℃で1時間インキュベートした。プレートウェルを洗浄緩衝液で洗浄した後、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合型rプロテインA/Gを添加し、30分間インキュベートした。PBSで再び洗浄した後、基質をウェルに添加してELISAプレートリーダーによって450nmで吸光度を測定した。その際、2連の試料で分析を行った。IL-6ペプチド免疫原によって誘導された免疫血清が、対応するIL-6 B細胞エピトープペプチドでコートしたウェルに結合すると、抗体結合シグナルが最大となる。
【0226】
C73~C83ループ構造を含む配列番号124、配列番号125、配列番号126、及び配列番号107のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトから得られたモルモット血清プール中に誘導されていた高力価抗体が、アミノ酸69~78(配列番号58)~アミノ酸76~85(配列番号65)の10マーペプチドクラスターを主に標的とするものであり、アミノ酸35~44(配列番号24)のペプチドとの高い交差反応性を有し、当該ループのN末端を超えて少し伸びた領域に幾分か不規則な中程度の活性を有することが、詳細なエピトープマッピングの結果から示された。
【0227】
驚くべきことに、C44~C50ループ構造を含む配列番号127~129のIL-6ペプチド免疫原コンストラクトから得られたモルモット血清プール中に誘導されていた高力価抗体は、C44~C50ループの外側のアミノ酸61~70(配列番号50)~アミノ酸67~76(配列番号56)の10マーペプチドクラスターを主に標的とするものであり、IL-6ペプチドコンストラクト129は、当該B細胞エピトープペプチドのN末端側部分(41~50(配列番号30)、45~54(配列番号34)、57~66(配列番号46)、58~67(配列番号47))にまで伸びたより広い散在性の抗体反応性を有していた。IL-6ペプチド免疫原コンストラクト128及びIL-6ペプチド免疫原コンストラクト129によって生成された免疫血清が、IL-6/IL-6Rαシス競合結合阻害試験及び(IL-6/IL-6Rα複合体)/IL-6Rβトランス競合結合阻害試験(それぞれ、ELISAによるもの)においてトランス阻害に選択性を示すことが認められたことは興味深いことである。
【0228】
まとめると、IL-6に含まれるループ構造(C44~C50及びC73~C83)がUBITh(登録商標)1エピトープペプチドに連結されたものによって表される設計した合成IL-6ペプチド免疫原コンストラクトは、IL-6R結合領域に近い異なる10マーペプチドクラスターを標的とするポリクローナル抗体を生成させる強固な免疫応答を誘導することで、IL-6/IL-6Rα介在性のシス競合結合阻害による結合阻害または重要な医学的意義を有することになる(IL-6/IL-6Rα複合体)/IL-6Rβ(すなわち、Gp130)介在性のトランス競合結合阻害による結合阻害を可能にした(
図5A及び
図5Bを参照のこと)。
【0229】
実施例7
IL-6ペプチド免疫原コンストラクトによって誘導される抗体及びその製剤のエクスビボ様式での機能特性評価
慎重に選択したそれぞれの候補IL-6免疫原コンストラクトで免疫化したモルモットの免疫血清から精製した抗体が高免疫原性であり、交差反応性を有することが実証された後、次の試験を設計することで、こうした免疫血清から得られる代表的な精製IgGが、(a)IL-6誘導性のSTAT3リン酸化を抑制し、(b)TF-1細胞株の細胞増殖を抑制し、(c)U937細胞におけるIL-6誘導性のMCP-1産生を抑制し得るかどうかを、すべてエクスビボ様式で評価した。
【0230】
抗IL-6抗体によるIL-6誘導性のSTAT3リン酸化の抑制
IL-6シグナル伝達経路では、IL-6/IL-6Ra/IL6Rb(すなわち、Gp130)複合体が最初に細胞膜上で形成され、その後に下流でSTAT3タンパク質のリン酸化が細胞質内で生じる。慎重に選択した候補IL-6ペプチド免疫原コンストラクトで免疫化したモルモットの免疫血清から精製した抗IL-6抗体がIL-6誘導性のSTAT3リン酸化を抑制する能力についてRPMI8226細胞株を使用して評価した。この細胞株を使用したのは、この8226細胞株がリン酸化STAT3を構成的に発現しないためである。
【0231】
最初に、IL-6(10ng/ml)と異なる濃度の精製IgGとで培養細胞を同時処理した。抗IL-6Rモノクローナル抗体、
図6に見られるように、代表的な免疫原(配列番号128、配列番号129、配列番号134、配列番号135、及び配列番号137)によって誘導された抗IL-6 IgGは、IgG濃度100μg/mLでSTAT3のリン酸化を低減することが可能であった。先行技術のB細胞エピトープ配列(配列番号11)を含むペプチドコンストラクト(配列番号130)によって誘導された免疫血清から得られたIgGは、STAT3のリン酸化を阻害することは不可能であった。
【0232】
TF-1細胞のIL-6依存性の細胞増殖の抑制
ヒト赤白血病TF-1細胞は、ヒトIL-6に応答して増殖することができる。慎重に選択した候補IL-6ペプチドコンストラクト(配列番号116、配列番号118、配列番号124~129、配列番号131~145)で免疫化したモルモットの免疫血清から精製したIgGが、TF-1細胞株のIL-6依存性の細胞増殖を抑制できるかどうかを調べるために、すべてのTF-1細胞培養物をIL-6(10ng/ml)と精製モルモットIgGとで同時処理した。IL-6処理を行わないTF-1細胞、ならびにIL-6処理のみを行い、抗体処理は行わないTF-1細胞を対照として用意した。
図7A及び
図7Bに示されるように、IL-6のみの存在下では、他のすべての群と比較してTF-1細胞の増殖性は高く、TF-1細胞の増殖は、IL-6の非存在下の細胞の2倍であった。代表的な候補IL-6ペプチド免疫原コンストラクト(配列番号116、配列番号118、配列番号124~245、配列番号127~129、配列番号131~145)によって誘導された抗IL-6 IgG抗体の存在下でのTF-1細胞の増殖を、ある特定の程度に抑制することが可能であった(
図7A及び
図7B)。先行技術のB細胞エピトープ配列(配列番号11)を含むペプチドコンストラクト(配列番号130)によって誘導された免疫血清から得られたIgGは、IL-6誘導性の細胞増殖を抑制することは不可能であった。
【0233】
IL-6誘導性のMCP-1産生の抑制
MCP-1は、急性炎症プロセス及び慢性炎症プロセスにおいて中心的な役割を担っている。MCP-1は、疾患の病態形成において単球及び好塩基球を誘引する走化性因子である。IL-6は、前単球細胞株U937においてMCP-1の発現を誘導し得る。IL-6ペプチド免疫原コンストラクトによってモルモットにおいて誘導される抗IL-6抗体が、U937細胞株においてIL-6依存性のMCP-1分泌を抑制し得るかどうかを調べるために、MCP-1産生を誘導するための10ng/ml濃度のIL-6サイトカインで、すべての細胞培養群を処理した。候補IL-6ペプチド免疫原コンストラクト(配列番号116、配列番号118、配列番号124~134、配列番号136、配列番号138~145)によって誘導されたモルモットの免疫血清から得られた代表的な精製IgG調製物を、異なる濃度の試験群に添加した。陽性対照としてトシリズマブも含めた。抗体を添加せずにIL-6のみを存在させたU937細胞培養物を陰性対照として用意した。
図8A及び
図8Bに示されるように、代表的な候補ペプチドコンストラクトによって誘導された精製IgG抗体で処理した群では、抗体濃度依存的にMCP-1産生が異なる程度に抑制されることが用量依存的な様式で観察されたが、先行技術のB細胞エピトープ配列(配列番号11)を含むペプチドコンストラクト(配列番号130)によって誘導された免疫血清から得られたIgGについては例外であった(
図8Aを参照のこと)。
【0234】
上記のエクスビボでの機能試験は、これらの代表的なIL-6ペプチド免疫原コンストラクトが、IL-6誘導性の炎症プロセス及び病態形成を抑制したことを示し、このことは、これらのIL-6ペプチド免疫原コンストラクトが、自己免疫性リウマチ性疾患を含めて、IL-6調節異常による影響を受ける疾患を治療するための潜在力を有することを示している。
【0235】
実施例8
ルイスラットのコラーゲン誘導関節炎(CIA)モデルでの予防様式でのラットIL-6ペプチド免疫原コンストラクト候補の評価
関節リウマチのラットコラーゲン誘導関節炎(CIA)モデルでのIL-6ペプチド免疫原コンストラクトの効果を、以下に記載のように、予防試験において評価した。
【0236】
ヒトIL-6は、ラットIL-6と約40%のアミノ酸配列同一性を共有する。ラットIL-6タンパク質配列に基づいて、IL-6 73~83及びIL-6 144~166のヒトIL-6 B細胞エピトープペプチドの相同体としてラットペプチド免疫原コンストラクト(配列番号148及び配列番号157)を設計した。これら2つのラットペプチド免疫原コンストラクト(配列番号148及び配列番号157)は、B細胞エピトープペプチドを増強するヘルパーT細胞エピトープとしてのUBITh(登録商標)3(配列番号89)と、リンカーとしてのεK-KKK(配列番号77)とが、それぞれIL-6 B細胞エピトープペプチドのN末端またはC末端のいずれかに連結されたものである。
【0237】
この試験にはルイスラットを使用し、そのプロトコールは
図9に簡潔に示される。全部で21匹のラットを3群に割り付け、プラセボ群にはアジュバントのみを注射した。実験群のラットには、ISA51及びCpGと共に製剤化したIL-6ペプチド免疫原コンストラクトを、45μg/0.5mL用量で、プライム免疫化用及びブースト免疫化用として注射した。全部で3回用量を-31日目、-10日目、及び4日目に投与した。3回目の投与の4日前(0日目)に皮内経路によってウシII型コラーゲン/IFAエマルション(ラット当たり100μL中100μg)をすべてのラットの尾の付け根に注射し、この注射を、3回目の投与から3日後(7日目)に追加で実施した。-31日目、-10日目、0日目、7日目、14日目、21日目、26日目、28日目、及び35日目にラットの採血を行った。ELISAアッセイを用いることで、ラット組換えIL-6タンパク質に対する免疫原性力価を測定した。
【0238】
ELISAの結果から、-31日目の免疫化の前には検出可能な抗体力価が各群で観察されないことが示された。3回の免疫化後、プラセボ処理ラットはいずれも、抗ラット組換えIL-6に対する検出可能な抗体力価を示さなかった。IL-6 73~83B細胞エピトープを標的とするペプチド免疫原(配列番号148)は、CIAの期間中、もう一方の群(配列番号157)のものと比較してより強力な抗IL-6抗体力価(Log(EC
50)が約3.0)を誘発することが可能であった(
図10)。
【0239】
ラットCIAモデルで、予防様式で評価したIL-6免疫療法の効果
ラットIL-6ペプチドコンストラクト(配列番号148または配列番号157)で免疫化した後、CIA関節炎を誘発させたラットの関節炎の臨床徴候及び症状を慎重に調べた。コラーゲン(ウシII型コラーゲン、Chondrex Inc.)を注射したラットでは、CIA誘導関節炎が急速に生じた。紅斑及び関節腫脹を含めて、急性関節炎の臨床炎症徴候を、各足について0~4の尺度で段階分けし(総スコア範囲0~16)、コラーゲン負荷から約2週間経った辺りで、そうした臨床炎症徴候が後足に見られた。各群においてCIA負荷後約3週間で関節炎重症度スコアが最大となり、足の腫脹が最も重症化した(
図11及び
図12)。異なるIL-6免疫原コンストラクトの治療効力を関節炎重症度スコアによって評価した。このインビボ免疫療法試験中、(配列番号148)によって免疫化した群では、試験したもう一方の免疫原コンストラクト(配列番号157)と比較して関節炎重症度スコアが下がって緩和されると共に、足の腫脹が低減され、プラセボ群と比較して統計的に有意な差が存在した(
図11及び
図12ならびに表10及び表11)。
【0240】
ラットCIA負荷試験中に骨髄から循環への好中球の放出をIL-6免疫原が軽減できるかどうかを観察したところ、骨髄からの好中球の放出数が0日目から徐々に増加し、14日目にピークに達することが結果から示された。ラットIL-6免疫原(配列番号148)は、骨髄から循環への好中球の放出を効果的に軽減した(
図13及び表12)。これらの設計したIL-6免疫原コンストラクトの両方が、炎症プロセスの低減において重要な役割を果たすことが示された。
【0241】
この試験の結果から、IL-6ラットB細胞エピトープペプチドIL-6 72~82が、IL-6調節異常による影響を受ける疾患を予防様式で治療するためのB細胞エピトープペプチドとしてIL-6 73~83をヒトIL-6ペプチド免疫原コンストラクトに組み込むことの良好な候補になることが示され、この予防様式では、当該IL-6分子に対して誘導されるポリクローナル抗体が、血中循環サイトカインIL-6を中和してそのシグナル伝達を遮断/抑制し、それによって臨床的な炎症病理プロセスが低減されるものと想定される。
【0242】
CIAラットには、ラットIL-6ペプチド免疫原コンストラクトまたはアジュバントのみを筋肉内経路によって3回注射した。当該動物は、45μg/0.5mL用量の候補ラットIL-6製剤に対して良好な全体的忍容性を示した。配列番号148の候補ラットIL-6ペプチド免疫原は、配列番号157のものと比較して抗体応答の効力が高く、関節炎重症度を軽減した。
【0243】
実施例9
ルイスラットのCIAモデルにおいて治療様式での実証される、関節リウマチ治療のためのIL-6ペプチド免疫原コンストラクト及びその製剤の効果
ルイスラットコラーゲン誘導関節炎(CIA)モデルにおけるIL-6ペプチド免疫原コンストラクトの概念実証(POC)試験
IL-6免疫原コンストラクト(配列番号148)の効力を確認するために、ルイスラットCIAモデルにおいてPOC試験を実施し、この効力試験では、
図14に示されるように2つの異なるアジュバント製剤を評価した。2つの治療群のそれぞれに7匹の動物を割り付け、プラセボ群には6匹の動物を割り付けた。2つの治療群の動物には、ISA51のみと共に製剤化したペプチド免疫原コンストラクト(配列番号148)またはISA51/CpGと共に製剤化したペプチド免疫原コンストラクト(配列番号148)を-7日目、7日目、14日目、21日目、及び28日目にプライム用にもブースト用にも45μg/0.5mL/用量で注射した。プラセボ群には、治療群と同じ注射時点で、ペプチド免疫原コンストラクトを含まないアジュバント媒体のみを注射した。0日目及び7日目にすべての群の尾の付け根に皮内経路によってウシII型コラーゲン/IFAエマルション(ラット当たり100μL中100μg)を注射して関節炎を誘導した。この試験は、35日目に終了した。
【0244】
ラットIL-6組換えタンパク質に対する免疫化ラット血清由来の免疫原性力価をELISAによって評価した。異なるアジュバントによって製剤化した同じIL-6ペプチド免疫原コンストラクトで治療した両方の群においてラットIL-6に対する高い抗体力価が得られ、この抗体力価は、免疫化後に着実に上昇することが、結果から示された。21日目に両方の治療群でLog(EC
50)が3のレベルで力価がピークに達し、35日目の試験終了時点までプラトーに留まった(
図15)。この結果から、このペプチド免疫原コンストラクト(配列番号148)がかなり免疫原性であり、免疫寛容を壊してラットIL-6に対して特異的なポリクローナル抗体を誘導できるものであり、両方のアジュバント製剤が、抗体産生を効果的に増強することがさらに確認された。
【0245】
IL-6免疫原コンストラクトによる免疫化ならびにCIA関節炎誘導による免疫化の前後に、ルイスラットにおけるCIA誘導関節炎の臨床的評価を治療群とプラセボ群とを比較して行った。試験中、関節炎重症度の臨床徴候に基づいて各足について0~4の尺度で関節炎重症度を段階分け(総スコア範囲0~16)した。コラーゲンの負荷後にラットにおいてCIA誘導関節炎が急速に生じることが結果から示された。アジュバントプラセボ群では、14日目に関節炎スコアが9となり最大となった。対照的に、2つの治療群の両方において、14日目の同じ時点で統計的有意性(p<0.01)を伴って両スコアが6未満となり、関節炎の重症度がはるかに軽度化した。その後、試験終了まで全部で9つの評価を行って14日目から35日目まで2~3日ごとに監視を行うと、監視したすべての群において関節炎スコアの減少が観察された。各評価の結果から、2つの治療群では、14~35日目に、プラセボ群と比較して統計的有意性(ほとんどがp<0.01またはP<0.001)を伴って関節炎重症度スコアがはるかに低下することが示された。
図16に示されるように、35日目の試験終了時点までに、プラセボ群のスコアは約6であった一方で、治療群は両方共、約3のスコアを有していた。後足のCIAの臨床徴候も評価し、関節炎症の結果に起因して14日目からすべての関節炎ラットの後足の大きさが増加することが結果から示された。2つの治療群についても同様の結果が観察されたが、これら2つの治療群の後足の大きさは、それぞれ14日目、21日目、28日目、及び35日目の時点で、プラセボ群と比較して統計的有意性(ほとんどがp<0.01~P<0.001)を伴ってはるかに小さかった。
図16に示されるように、35日目の試験終了時点までに、これら2つの治療群の後足の大きさは正常な大きさに近づいた一方で、プラセボ群の後足の大きさは大きいままであった。こうした知見はすべて、この試験で2つのアジュバントが示した臨床効力は同様のものであったが、ISA51とCpGとの組み合わせが、ISA51と比較してわずかに良好であることを示すものであった。
【0246】
血清中IL-6レベルは、関節障害の程度及び重症度と正に相関する一方で、他のいくつかの下流血清中炎症バイオマーカー(C反応性タンパク質(CRP)など)も、炎症重症度を評価するための指標となる。CRPの血清中レベルの決定にはELISAを使用した。プラセボ群(アジュバント媒体でCIAを処理した群)のラットでは、2つの治療群と比較して血清中CRPレベルが有意(p<0.05)に高かった(
図17)。21日目の時点で、免疫原(配列番号148)で治療したCIAラットの血清中CRPの平均値は正常値に近く、プラセボ群のものと比較して有意に低かった。
【0247】
足首関節の組織学的破壊変化に対するIL-6ペプチド免疫原の効果を評価するために、組織病理学的検査試験を実施した。CIAラット(7匹/治療群、6匹/プラセボ群)を35日目に屠殺し、組織切片の固定化、脱灰、及びパラフィン包埋を行うために足首関節組織を取り出した。組織切片を調製し、H&Eで染色した。この組織病理学的検査は
図18に示され、正常な対照群では、健康な関節窩及び正常な組織が見られた。対照的に、プラセボ群では、典型的な関節炎特徴が見られ、こうした関節炎特徴は、著しい滑膜炎症及び関節周囲炎症、滑膜の過形成、ならびに骨侵食によって特徴付けられた。(配列番号148)で免疫化したCIAラットでは、細胞浸潤の軽度化、滑膜の過形成及び骨侵食の軽症化を伴って炎症がはるかに軽度化していることが、当該CIAラットの関節病状から明らかとなり、このことは、ペプチド免疫原コンストラクト(配列番号148)によって足首関節の破壊が緩和されたことを示している。
図18には、3つの異なる群の病理学的スコアの比較も示され、ここでは、改変Mankinスコア付けシステムを適用して、軟骨構造には0~6、細胞形態には0~3、サフラニンO染色には0~4、滑膜の炎症及び過形成には0~4の段階分けを行うことによって関節軟骨を評価した(Clin Immunol.124:244-257)。ペプチド免疫原コンストラクト(配列番号148)治療群では、プラセボ群のスコアである11と比較して病理学的スコアが6に有意に低下した。
【0248】
炎症性サイトカインは、RA病態形成において重要な役割を有することが示唆されている。炎症足関節組織を評価するために免疫組織化学染色法を適用した。簡潔に記載すると、ホルマリン固定化パラフィン包埋組織切片をキシレン中での脱パラフィン処理に供し、漸減濃度のエタノール中に浸漬し、水中で再び水和させた。マイクロ波照射での抗原賦活化処理にすべての切片を供した。スライドにマウントした切片を抗原賦活化クエン酸溶液(Scytek)中に浸漬し、最大出力でマイクロ波オーブン中で沸騰するまで加熱し、30分間室温に冷却した。3%の過酸化水素/PBSを用いて、内在性のペルオキシダーゼ活性の遮断処理を10分間行った。Ultravision Protein Block(ThermoFisher)と共に切片を室温で1時間プレインキュベートした。次に、一次ウサギ抗ラットIL-17(Abbiotec、PBSTでの1:100希釈液)、抗ラットTNF-α(Abcam、PBSTでの1:100希釈液)、または抗ラットMCP-1(Abcam、PBSTでの1:200希釈液)と共に切片を4℃で一晩インキュベートし、TBST(Scytek)で洗浄し、DAB KitのPolink-2 Plus HRP Rabbit(GBI Labs)によって発色させた。ヘマトキシリン(Leica Biosystems)を用いて切片を対比染色し、脱水し、Surgipath Micromountマウント媒体(Leica Biosystems)にマウントした。
図19に示されるように、プラセボ群では、組織のTNF-α、IL-17、及びMCP-1が実質的に増加した。一方で、IL-6免疫原で治療したCIAラットでは、これらのサイトカインの産生は大幅に抑制された。
【0249】
この試験では、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトで免疫化を行うことで、炎症性関節炎の発生が劇的に低減され、骨及び軟骨が破壊から保護されることが示された。こうした知見は、関節リウマチ及び他の自己免疫疾患を治療または予防するためにインビボでIL-6ペプチド免疫原による免疫化を行うことの臨床適用を強力に支持するものである。
【0250】
CIAモデルにおいてIL-6ペプチド免疫原コンストラクトによって誘発される免疫応答に対する投薬及びアジュバントの効果の評価
設計したペプチド免疫原コンストラクトが高い免疫原性を有することに加えて、IL-6誘導性の病態形成に対する治療効力を有することが、CIAラットにおけるPOC試験によって実証され、この治療効力は、関節リウマチ及び他の自己免疫疾患における免疫療法的な応用の可能性を暗示するものである。下記の試験は、ペプチド免疫原コンストラクトの最適化及びアジュバントの選択、ならびにCIA ルイスラットにおける用量決定に焦点を当てたものとなる。
【0251】
異なるアジュバントとしてのMONTANIDE ISA51及びADJU-PHOSを、それぞれ同じペプチド免疫原(配列番号148)+CpGと共に製剤化したものを、ラットCIA免疫化試験において評価した。5つの群のそれぞれに割り付けられた5匹のラットに対して、2つのアジュバント製剤のうちの一方を投与し、これら2つの異なるアジュバントについて全部で10個の群とした。プライム(-7日目)、ならびにブースト(7日目、14日目、21日目、及び28日目)として、異なる用量(0.5ml中5μg、15μg、45μg、150μg)を、治療群のすべての動物に対して筋肉内経路を介して注射し、35日目まで臨床的な観察を行った。ペプチド免疫原を投与しない2つの異なるアジュバントプラセボ群には、アジュバント媒体のみを含む製剤を注射した。下記の試験では、抗IL-6力価、体重、後足の腫脹検査、関節炎重症度スコア、血中の好中球数、血小板数、及び肝機能をすべて評価した。
【0252】
プレートウェルにコートしたラットIL-6組換えタンパク質に対するELISAによって抗IL-6力価を測定した。2つの異なるアジュバント媒体を注射した2つのプラセボ群のいずれにおいても、検出可能な抗IL-6抗体力価は見られないが、IL-6免疫原コンストラクト(配列番号148)で免疫化した治療群では、そのすべてにおいて、両方のアジュバント製剤で、ラットIL-6に対する抗体が生成されることが、ELISAの結果から示された。総じて述べれば、この結果から、用量依存的な様式が観察され、ISA51製剤を用いた群では特にそうであることが示された(
図20)。ISA51製剤は、免疫化ラットにおいてADJUPHOS製剤と比較して強い免疫応答を誘導し、免疫原性のLog
10値は、それぞれすべての用量で3を超えた。
【0253】
35日の試験プロセスの間、体重を7日ごとに監視した。
図21には、免疫化したラットの体重変化パターンを正常なラットと比較したものが示され、実験的CIAラットにおける体重の減少は、各群において14日目に始まって、21日目に最低点に到達し、その後は徐々に体重が増加した。試験終了時点(35日目)では、すべてのCIAラットにおいて、正常な対照と比較して約10%の体重減少が見られた。体重変化は用量依存的様式で生じ、用量が高い群ほど体重減少の緩和が観測されることも、データから示された。使用したアジュバントにかかわらず、150μg用量群では、他の用量群と比較して体重が大きく増加した。比較すると、ADJUPHOSを用いた150μg用量群では、28日目及び35日目の時点で、他のいずれの群と比較しても体重が大きく増加しており、200gレベルを超えていた(表13)。
【0254】
足の大きさの変化を定量化することによって、ラットにおけるCIA誘導性の炎症及び破壊の臨床的重症度も評価した。ISA51またはADJUPHOSのいずれかと共に製剤化したIL-6免疫原コンストラクト(配列番号148)が、ラットモデルにおいてCIAが発症しないように保護し得ることが巨視的観察によって示された。コラーゲンの負荷後、試験中は、ラットにおける足の腫脹及び発赤の急性臨床徴候を記録した。
図22及び表14に示されるように、免疫化したラットのすべてにおいて、7~21日目に足の腫脹が進行し、その後は炎症の減少と共に徐々に回復が生じた。24日目の時点で正常群と比較すると、プラセボ群では、巨視的観察において著しい腫脹変化及び発赤変化が生じていた(
図23)。ペプチド免疫原コンストラクト(配列番号148)は、用量依存的な様式で足の発赤及び腫脹を低減した。24日目に150μg用量群において炎症の減少が最大となることが、定量的分析によって明らかとなった。ADJU-PHOSは、MONTANIDE ISA51と比較してわずかに良好に機能した。
【0255】
紅斑及び腫脹の徴候(スコア基準)の炎症性変化に従って、各足の関節炎の臨床的重症度を尺度(0~4)に基づいて段階分けした。2日または3日ごとに動物を検査し、平均値±標準偏差として測定することで、関節炎重症度を評価した(
図24及び表15)。コラーゲン負荷によって誘導される関節炎発症の初期徴候は、14日目に視認可能となった。CIA群の関節炎スコアは急速に増加し、20日目に約5~9のスコアに到達し、最大となった。その後、21~35日目にかけて、治療群及びプラセボ群の両方において炎症徴候は徐々に弱まった。しかしながら、試験中、免疫原コンストラクト(配列番号148)を用いた治療群では、そのすべてにおいて、臨床徴候スコアによる関節炎がプラセボ群と比較して大幅に軽減された。アジュバントISA51またはアジュバントADJUPHOSのいずれを治療群に用いても、そのすべてにおいて、投与用量が高い群ほど関節炎スコアが低いというペプチド免疫原用量依存的な様式も観察された。2つの異なるアジュバント媒体を用いた2つのプラセボ群では、すべての治療群のものと比較して臨床徴候スコアが高いことによって、臨床的関節炎徴候の重症度の進行が見られた。最良の用量レベルは45μg及び150μgであることが分かり、これらの用量では、ISA51製剤及びADJUPHOS製剤の両方の5μg用量及び15μg用量と比較して関節炎徴候及び症状が有意に減少した。33日目及び35日目には、150μg用量レベルのADJUPHOS製剤群の関節炎スコア(それぞれ61%及び63%)は、ISA51群の関節炎スコア(それぞれ31%及び45%)と比較して、より有意に減少した。
【0256】
好中球数は、最初のコラーゲン注射の0~7日後にかけて急速に増加し、その後、2回目の負荷後からは14日目まで徐々に上昇した。好中球数の上昇は、免疫化によって用量依存的な様式で急速におさまった(
図25及び表16)。すべての免疫原治療群において、各時点のプラセボ群と比較して好中球数の大きな減少が見られた。IL-6免疫原治療群では、2つの高用量によって好中球数増加が有意に減少したが、ADJUPHOS製剤の45μg用量及び150μg用量では、好中球数が、それぞれ1.55±0.23×10
3個/μL及び1.36±0.25×10
3個/μLに有意(p<0.001)に減少し、この結果は、同じ用量レベルでISA51を用いた製剤と比較して良好なものであった。
【0257】
コラーゲン誘導関節炎は、血小板数の顕著な増加とも関連する。試験したCIAラットでは、最初のコラーゲン注射後にすべての群において平均血小板数が着実に増加し、その後は徐々に減少した(
図26及び表17)。用量依存性も確認され、用量が高いほど血小板数が低下した。特に、45μg用量及び150μg用量でADJUPHOSと共に製剤化したIL-6組成物は、正常値近くにまで血小板レベルを有意に低減した一方で、プラセボ群では、各時点で血中血小板数が高まっていた。
【0258】
Hitachi7080化学分析装置(Hitachi)での通例のヒトアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)試験を使用して血清中ASTレベルを測定することによって肝臓損傷を定量化した(
図27及び表18)。IL-6ペプチド免疫原コンストラクト製剤及びコラーゲンでラットを処理すると、0日目~7日目に正常ラット群と比較して血清中ASTレベルが中程度に増加した。AST濃度は21日目まで一定であり、その後は試験終了までゆっくりと減少した。ASTレベルについても用量依存性が観察された。150μg用量を投与したラットでは、両方の製剤でASTレベルが有意に低下した。45μg用量では、ASTレベルの有意な低下はADJUPHOS製剤でのみ見られ、ISA51では見られなかった。
【0259】
まとめると、アジュバントと共に製剤化したIl-6ペプチド免疫原コンストラクト(配列番号148)は、IL-6抗体を誘導して過剰なIL-6を中和することで、関節炎重症度の軽減ならびに炎症因子(血中の好中球数及び血小板数など)の抑制、ならびに肝機能の保護を行うことができる。IL-6ペプチド免疫原コンストラクト治療群のそれぞれにおいて、組成物に対する同様の用量依存的応答パターンが観察された。用量当たり150μgを投与した動物で生じる免疫応答が最も強く、その次に強い免疫応答は、45μgを投与した動物で生じるものであることが、結果から明らかとなった。さらに、両方のアジュバント送達系(ISA51及びADJUPHOS)が、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトとの併用時に関節炎症状を軽減する能力を示した。一方で、アジュバントADJU-PHOSは、すべての関節炎関連病理学的パラメーターにおいて、MONTANIDE ISA51と比較してわずかに良好に機能した。したがって、0.5mLのADJUPHOS当たり150μgの最高用量が、ラットを免疫化する上では最適な用量であると考えられ、異なる種における免疫原性の探求指針として使用されることになる。
【0260】
実施例10
IL-6ペプチド免疫原コンストラクト及びその製剤での免疫化による慢性炎症性疾患の治療
IL-6は、幅広いスペクトルの生物学的事象(免疫応答、造血、及び急性期反応など)に関与する。一方で、IL-6の過剰産生は、いくつかの慢性炎症性疾患及びがんを含めて、さまざまな疾患の病態形成と関連している。IL-6シグナル伝達に対する阻害剤を使用すれば、IL-6調節異常による影響を受ける疾患の分子機序の理解を深めるための臨床情報が得られることになり、これによって、こうした疾患に対する新たな治療介入の開発が促進されることになる。実施例11~15には、本開示のIL-6ペプチド免疫原コンストラクト及びその製剤を、疾患を予防及び/または治療するための医薬組成物として臨床適用することについて記載される。本明細書では、疾患におけるIL-6シグナル伝達に対するIL-6阻害剤を臨床適用する可能性に関する総説論文が参照文献として提供される(Mihara, et al., 2012)。
【0261】
慢性炎症性疾患に伴う貧血(ACD)
慢性炎症性疾患(RA、炎症性腸疾患、及びがんなど)を有する患者では、貧血が観察されることが多く、こうした貧血は、ACD(慢性疾患に伴う貧血)と呼ばれる。ACDは、適切な鉄貯蔵の存在下でも低鉄血症が生じることによって特徴付けられる。ACDでは、炎症性サイトカインが重要な役割を担うと考えられる。
【0262】
サルのコラーゲン誘導関節炎で観察される貧血は、血清中鉄及びトランスフェリン飽和度の低下ならびに血清中フェリチンの上昇によって特徴付けられる。貧血の重症度は、血清中IL-6レベルと相関する。ヘプシジンは、ヒト及び他の哺乳類における鉄ホメオスタシスの主要調節因子である。ヘプシジンは、小腸における鉄吸収及びマクロファージからの再利用鉄の放出を抑制することで、骨髄中で成熟していく赤血球への鉄の送達を効果的に低減する。ヘプシジンを過剰産生するように遺伝子操作したマウスは、出生後すぐに重度の鉄欠乏によって死亡する。
【0263】
IL-6は、肝細胞においてヘプシジン産生を誘導する。コラーゲン誘導関節炎を患うサルにTCZ(IL-6受容体に対するモノクローナル抗体)を投与すると、貧血が急速に改善され、一過性ではあるが、血清中ヘプシジンの減少が急速に誘導された。関節炎サル由来の血清によって誘導されるヘプシジンのmRNA発現は、健康な動物由来の血清によって誘導されるものと比較して強力なものであり、この強力なmRNA発現は、TCZの投与によって抑制された。こうした一連の証拠は、TCZが、IL-6誘導性のヘプシジン産生の抑制を介してサル関節炎における貧血を改善することを示している。
【0264】
高価な抗体治療の代わりに、IL-6R結合部位に対する抗体を患者において誘導するための本開示のIL-6ペプチド免疫原コンストラクト及びその製剤を投与してIL-6とIL-6Rと結合に介入することで、疾患が治療される。
【0265】
実施例11
IL-6ペプチド免疫原コンストラクト及びその製剤での免疫化によるがんの治療
ヒトの発がんにおける慢性炎症
ヒトの発がんでは、慢性炎症が重要な役割を担っている。がん患者における血清中IL-6レベルの上昇について述べている報告は多く存在しており、血清中IL-6レベルは、疾患の重症度及び転帰と関連する。IL-6は、多くのがんの増殖及び分化の調節に関与している。IL-6の上昇は、腎細胞癌、卵巣癌、リンパ腫、メラノーマ、及び前立腺癌の予後不良とも関連することが明らかになっている。IL-6は、ERK1/2を活性化することによって腫瘍細胞増殖を刺激する。IL-6は、重要な細胞生存調節因子となることで、ストレス及び細胞傷害性薬物によって誘導される細胞死を回避するための機構を腫瘍細胞に与える。さらに、IL-6は、腫瘍増殖を促進するだけなく、転移及び悪液質症状も促進する生理学的役割を有することも示されている。
【0266】
多発性骨髄腫(MM)
MMは、形質細胞の悪性腫瘍であり、成人では最も一般的な悪性リンパ腫である。MMは、腫瘍細胞が骨髄に局在化し、そこでこうした細胞が広がり、骨疾患を誘導することによって特徴付けられる。骨髄微小環境においてMM細胞と間質細胞との間で相互作用が生じると、サイトカイン、増殖因子、及び接着分子の産生が刺激される。そうしたものは、一緒に、骨髄におけるMM細胞の増殖及び局在化において重要な役割を担っている。MM細胞は、骨溶解を誘発することで骨痛及び高カルシウム血症を引き起こす。IL-6は、MM細胞の主要な増殖因子である。すべてのMM患者の約半数では、オートクリンループによって培養MM細胞の増殖が媒介されることが観察され、今日では、MM細胞の増殖及び生存に関与する主要なサイトカインは、骨髄環境によって産生されるIL-6であることがよく知られている。さらに、さまざまな刺激(デキサメタゾン、Fas、及び血清枯渇など)によって誘導されるMM細胞のアポトーシスはIL-6によって阻止されるため、IL-6は、MM細胞の生存に必須の因子であることもよく知られている。IL-6-sIL-6R複合体は、自然MM細胞(細胞表面上にIL-6Rを発現しない)におけるBcl-xL及びMcl-lの両方の上方制御において単独のIL-6よりも強力である。したがって、トランスシグナル伝達を妨害する(すなわち、IL-6/IL-6Rα複合体のレベルでIL-6Rβ/すなわちgp130を妨害する)と想定される部位に指向化された抗体を誘導し得るIL-6ペプチド免疫原コンストラクトを含む組成物を有することが重要である。したがって、本開示のIL-6組成物は、MMの治療に適用可能であり得る。
【0267】
前立腺癌
前立腺癌におけるIL-6及びIL-6Rの発現ならびに増殖因子としてのIL-6の役割についてはよく報告されている。IL-6は、アポトーシスに対する抵抗性を生じさせ、進行性前立腺癌細胞株LNCaPにおけるBcl-2ファミリーの抗アポトーシスメンバーのレベルを上昇させる役割を果たす。前立腺癌細胞の増殖はアンドロゲンの存在に依存するため、進行性前立腺癌患者のほとんどすべてにおいて、アンドロゲン枯渇及び抗アンドロゲン療法が初期には奏功する。IL-6は、アンドロゲンの合成及び前立腺癌細胞上でのAR(アンドロゲン受容体)の発現を刺激するため、前立腺癌における抗アンドロゲン治療の治療効果はIL-6によって弱められる可能性がある。一方で、AR陰性前立腺癌細胞では、IL-6は、アポトーシスの阻害物質として知られている。本開示のIL-6組成物は、免疫化される患者において抗IL-6抗体を生成させることで、こうしたがん患者においてIL-6によってもたらされる負の影響を中和することが可能であると想定される。
【0268】
がんと関連する食欲不振及び悪液質
がんと関連する食欲不振及び悪液質は、悪性疾患と関連する重篤な合併症である。悪液質の特徴は、貧血、肝機能異常、疲労、及び嘔吐である。膵癌患者では血清中IL-6が上昇しており、悪液質との関連が観察されている。上記のように、IL-6は、鉄代謝と関連する。さらに、IL-6は、過剰糖代謝及び筋力低下と関連する調節的な役割も有する。IL-6は、同系マウスモデルにおけるがん悪液質に必須のものであることも知られており、この同系マウスモデルを抗IL-6抗体で処理すると、がん悪液質の誘導が阻止される。さらに、IL-6のcDNAがトランスフェクトされたルイス肺癌細胞を同系マウスに注射すると、正味の腫瘍増殖速度は変わらないが、体重が減少し、生存期間が短くなる。抗ヒトIL-6抗体(ALD518)は、進行性非小細胞肺癌患者において疲労を回復させ、除脂肪体重の減少を低減する(ALD518を摂取している患者では-0.19kgであるのに対し、プラセボを摂取している患者では-1.50kg)ことが報告された。こうした患者では、ALD518によって、ヘモグロビン量、ヘマトクリット値、平均赤血球ヘモグロビン量、及びアルブミン量が増加し、ベースラインのヘモグロビンレベルが≦11g/dlである患者の58%においてヘモグロビンレベルが≧12g/dlに上昇した。したがって、抗IL-6抗体は、モノクローナル抗体としても、IL-6ペプチド免疫原コンストラクトを含む組成物で患者を免疫化することによって誘導される抗体としても、がん関連貧血のための非赤血球生成刺激剤となり得る。
【0269】
長期にわたって潰瘍性大腸炎を有する患者では、結腸癌を発症するリスクがはるかに高まっており、このことは、免疫系が、結腸における腫瘍プロモーターとしての役割を担っていることを示唆している。腸管損傷に応答して粘膜固有層内の自然免疫細胞においてIL-6が産生され、このIL-6が、腫瘍始原細胞の増殖を増進させると共に、急性結腸炎症及びCAC(大腸炎関連癌)が誘導される間、正常な腸上皮細胞及び前悪性の腸上皮細胞をアポトーシスから保護することが研究によって示されている。さらに、潰瘍性大腸炎モデルにおけるアゾキシメタン誘導性の結腸腫瘍では、腫瘍の出現には、F4/80+CD11b高Gr1低(M2)マクロファージサブセットの同時出現が伴っており、このM2サブセットが、IL-6を含む腫瘍促進因子の供給源となる。こうした結果は、IL-6を遮断することが、大腸炎関連癌を治療するための手法となり得ることを示唆してる。
【0270】
IL-6とIL-6受容体との相互作用に介入するための高価な抗体治療を行い、IL-6の血清中レベルを低減して、がん(多発性骨髄腫(MM)、アンドロゲン依存性またはアンドロゲン非依存性の前立腺癌、非小細胞肺癌、がんと関連する食欲不振及び悪液質、がん関連貧血、ならびに大腸炎関連癌を含む)の治療及び寛解に繋げる代わりに、IL-6ペプチド免疫原コンストラクト及びその製剤での免疫化は、こうした深刻な疾患の治療に適するものと想定される。
【0271】
実施例12
IL-6ペプチド免疫原コンストラクト及びその製剤での免疫化による関節リウマチの治療
関節リウマチ(RA)
関節リウマチ(RA)は、特に手足の関節を冒す慢性かつ進行性の自己免疫性炎症性疾患であり、その病因は不明である。患部関節の滑膜組織が炎症性細胞(マクロファージ及びリンパ球など)による浸潤を受けることで、血管新生を伴う過形成が生じ、これがひいては関節腫脹、こわばり、及び疼痛を誘発する。このプロセスは、最終的に関節の軟骨破壊及び骨吸収を引き起こし、患者によっては恒久的な障害に苦しむ。IL-6の生物学的活性、ならびにRA患者の血清及び滑液中のIL-6の上昇は、IL-6が、RA発症に関与する主要なサイトカインの1つであることを示している。抗IL-6Rモノクローナル抗体TCZ(トシリズマブ)を用いる第III相臨床試験が日本及び世界中で7回実施されており、これらの臨床試験では、中程度~重度のRAを患う成人患者の治療において単剤療法またはDMARD(疾患修飾性抗リウマチ薬)との併用療法のいずれにおいても、トシリズマブが効力を有することが明らかになっている。さらに、SAMURAI(関節リウマチに使用される単剤(IL-6阻害剤)療法の実薬対照試験)試験及びLITHE(トシリズマブの安全性及び構造的関節損傷予防試験)試験では、放射線学的に評価した関節損傷がTCZ治療によって有意に抑制されることが証明された。結果として、今日ではTCZは、RA治療剤として多くの国で承認されている。
【0272】
全身型若年性特発性関節炎(sJIA)
全身型若年性特発性関節炎(sJIA)は、全身性の炎症を伴って関節破壊及び機能障害を引き起こす亜型の慢性小児関節炎である。この持続性の炎症は、弛張熱、貧血、及び成長障害も引き起こす。マクロファージ活性化症候群として知られるsJIAの急性合併症は、重篤な病的状態と関連する。患者の血液及び滑液中ではIL-6が著しく上昇していることが報告されており、IL-6レベルは、疾患活性と相関することが示されている。従来の治療レジメンに抵抗性であった56人のsJIA患者を対象とする無作為化二重盲検プラセボ対照治療中止期ありの第III相試験では、TCZは極めて優れた効力を示した。TCZは、sJIAに対する最初の生物学的製剤として2008年に日本で承認された。
【0273】
IL-6の血清中レベルを低減し、sJIA疾患を寛解させるためにIL-6とIL-6受容体との相互作用のレベルでの介入を行うための上記の高価な抗体治療の代わりに、本開示のIL-6ペプチド免疫原コンストラクト及びその製剤での免疫化は、sJIA疾患の治療に適するものと想定される。
【0274】
実施例13
IL-6ペプチド免疫原コンストラクト及びその製剤での免疫化によるキャッスルマン病の治療
キャッスルマン病は、濾胞性過形成、及び内皮過形成を伴う毛細血管増生によって特徴付けられる良性のリンパ節腫大を伴うリンパ増殖性疾患である。腫大リンパ節ではIL-6が高レベルで産生され、IL-6は、さまざまな臨床症状の原因となる重要な要素である。2回の非盲検臨床試験では、8mg/体重kgで2週間ごとに投与される抗IL-6R抗体TCZが、臨床症状、検査所見、ならびに組織学的に決定される寛解に対して著しい効果を有することが示されている。さらに、TCZ治療の結果、キャッスルマン病患者の血清中ヘプシジン-25が急速に減少した。TCZ治療の開始後は、鉄関連パラメーターの正常化の進行及び症状の改善を伴う長期的な減少が観察され、このことは、キャッスルマン病におけるヘプシジンの誘導においてIL-6が本質的な役割を担っていることを示している。TCZは、日本で2005年にキャッスルマン病のオーファンドラッグとして承認された。
【0275】
IL-6とIL-6受容体との相互作用のレベルでの介入を行ってIL-6の血清中レベルを低減し、キャッスルマン病を寛解させる高価な抗体治療の代わりに、IL-6ペプチド免疫原コンストラクト及びその製剤での免疫化は、キャッスルマン病の治療に適するものと想定される。
【0276】
実施例14
IL-6ペプチド免疫原コンストラクト及びその製剤での免疫化による鬱病の治療
免疫系と脳との間の関連性からは、鬱病の機序についての理解及び鬱病治療に対する洞察が新たに得られる可能性がある。免疫系と脳との間のサイトカイン介在性のコミュニケーションは、鬱病の病態形成と関連付けられている。C型肝炎ウイルスに罹患している患者では、インターフェロン(強力なサイトカイン誘導因子)での治療後に大鬱病が生じることが多い(4人に1人)。健康なボランティアの免疫を実験的に活性化すると、鬱症状が生じ、認識能力が低下する。鬱患者では循環炎症性サイトカインのレベルが上昇していることが、横断的研究のメタ解析によって確認されている。縦断的研究では、血清中サイトカインレベルが先行して上昇し、それによって鬱症状が潜在的に誘発されることが実証されている。さらに、炎症系の活性化が抗鬱治療抵抗性の根底をなすと考えられており、このことは、治療応答に炎症が関与していることを強く示している。こうした知見に基づくと、本開示のIL-6ペプチド免疫原コンストラクト及びその製剤を用いて炎症性サイトカイン、特にIL-6を標的とすることで、鬱病及び疼痛を有する患者、具体的には慢性炎症状態を有する患者に治療効果を与えることは最も有意義であると想定される。
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