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特許7569128高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用のカラムとその製造方法
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  • 特許-高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用のカラムとその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用のカラムとその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/60 20060101AFI20241009BHJP
【FI】
G01N30/60 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024097629
(22)【出願日】2024-06-17
【審査請求日】2024-07-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592001447
【氏名又は名称】株式会社巴製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊田 裕司
(72)【発明者】
【氏名】高井 勝広
(72)【発明者】
【氏名】上村 俊雄
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第2597460(EP,A1)
【文献】特開2015-114273(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0089811(US,A1)
【文献】米国特許第5227059(US,A)
【文献】特開昭63-128256(JP,A)
【文献】特開2000-035421(JP,A)
【文献】特開平11-174036(JP,A)
【文献】特開2007-127433(JP,A)
【文献】特開2013-003015(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0049030(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0213823(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N30/00-30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用のカラムであって、当該カラムは、
内部に充填剤を備える本体部と、
当該本体部の両端に取り付けられるエンドフィッティングと、
前記本体部と前記エンドフィッティングとの間に設けられているフィルターと、
前記フィルターの周囲に備わるスリーブとを備え、
前記フィルターおよび前記スリーブは、一体化された構造体を構成し、
前記構造体は、前記エンドフィッティングの内部に配置または固定され、
前記フィルターの外径は、前記本体部の内径よりも小さく、
前記構造体の外径は、前記本体部の内径よりも大きく、
前記フィルターは、前記エンドフィッティングを前記本体部に取り付けた時に変形しない素材からなり、
前記スリーブは、前記エンドフィッティングを前記本体部に取り付けた時に変形可能な素材からなり、
前記カラムは、前記エンドフィッティングを前記本体部に取り付けた時に、前記スリーブは圧縮され、前記フィルターは圧縮されず、前記フィルターが前記本体部内に充填剤のトップオフを解消するように存在している、
ことを特徴とする、カラム。
【請求項2】
前記本体部、前記エンドフィッティング、および前記フィルターのうち少なくとも1つは金属製である、請求項1に記載のカラム。
【請求項3】
前記本体部、前記エンドフィッティング、および前記フィルターのうち少なくとも1つは合成樹脂製である、請求項1に記載のカラム。
【請求項4】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用のカラムの製造方法であって、当該製造方法は、
(a)スリーブ内にフィルターを圧入させて、前記フィルターと前記スリーブが一体化された構造体を得る工程、および
(b)前記構造体を、前記カラムのエンドフィッティングに配置または固定する工程、を含み、
前記カラムは、内部に充填剤を備える本体部と、当該本体部の両端に取り付けられる前記エンドフィッティングと、前記本体部と前記エンドフィッティングとの間に前記構造体を備え、
前記フィルターは、前記本体部と前記エンドフィッティングの取り付け時に変形しない素材からなり、
前記スリーブは、前記本体部と前記エンドフィッティングの取り付け時に変形可能な素材からなり、
前記フィルターの外径は、前記本体部の内径よりも小さく、
前記構造体の外径は、前記本体部の内径よりも大きく、
前記カラムは、前記本体部と前記エンドフィッティングの取り付け時に、前記スリーブが圧縮されることにより前記フィルターが前記本体部内に挿入されることを特徴とする、カラムの製造方法。
【請求項5】
前記本体部、前記エンドフィッティング、および前記フィルターのうち少なくとも1つは金属製である、請求項4に記載のカラムの製造方法。
【請求項6】
前記本体部、前記エンドフィッティング、および前記フィルターのうち少なくとも1つは合成樹脂製である、請求項4に記載のカラムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography(HPLC))用のカラムと、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高速液体クロマトグラフグラフィー(HPLC)は、試料の成分の分離精製に広く使用されている分析手法の一つである。充填剤が充填されたカラム内を、試料が移動する時、その移動速度の違いにより、混合された試料の成分が分離精製される仕組みである。
【0003】
HPLCによる分離精製の精度は様々な条件により変化するが、一例として、充填剤が隙間なく均一に並んだ状態で充填されているカラムが、分析性能の良いカラムとされている。カラムの分析性能を表す指標の一つには理論段数があり、この数値が大きいほど鋭いピークとなり、分析性能の良いカラムと判断される。
【0004】
一方で、特許文献1および特許文献2に記載されているように、当技術分野では、カラムを充填剤で充填する際、カラムの下部では充填剤が密に充填されるが、パッカーを外した時点でカラム上端部の充填状態は疎となってしまい、これがトップオフ現象を引き起こすことが通常の認識となっている。
【0005】
特許文献1では、カラム内径と同径のフリッツをカラム先端に乗せ、ゲルを押し込むことにより充填剤充填層に圧力をかける方法で、トップオフ現象が防止できるカラムの製造方法が開示されている。特許文献1の発明では、カラム内壁と密着できるよう、フリッツの外周はフッ素系樹脂等、耐水性のある樹脂で囲んでいるが、フッ素系樹脂は剛性が高くないことから、カラム内壁と密着し摺動する時に隙間が生じる可能性もある。また、フッ素系樹脂がカラム内部に入り込み、充填剤や試料に触れる面積が増加することもあまり好ましくない。
【0006】
特許文献2では、充填剤が充填されたカラム本体内に圧入部材の全体が圧入され、充填剤の充填密度を十分に確保できると記載されている。しかし、特許文献2では、圧入部材は「溶離液等の液体が通過できる」としており、すなわち、圧入部材を大きくすることは、圧入部材自体がカラム外容積となり、ピークバンドの広がる要因となるため、分析性能が低下する。また、パッキンやスリーブがないため、試料の漏出を完全に防止している構造とは考え難い。
【0007】
加えて、カラムは、その用途や目的により様々な大きさのものが選択されるが、日本産業規格では、内径3mm以上、10mm未満のものが汎用カラムとして分類されており、そのうちの内径4.6mmのカラムが多く用いられる。一方で、カラムの分析性能を向上するために、多数の部品を使用し、構造および仕組みが複雑になると、カラム自体が大掛かりかつ高価になってしまう傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2006-275652号公報
【文献】特開2016-90336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の通り、HPLCにおける試料の分析において、カラムの下部では充填剤が密に充填されていることに反し、上部では充填剤が疎に充填されていることにより生じるトップオフ現象を解決することにより、より優れた分析性能を保持し、試料や充填剤がスリーブに接触する面積を極力減少させ、かつ少ない部品で簡易な構造や仕組みのカラムの開発が課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に係る発明は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用のカラムであって、当該カラムは、内部に充填剤を備える本体部と、当該本体部の両端に取り付けられるエンドフィッティングと、前記本体部と前記エンドフィッティングとの間に設けられているフィルターと、前記フィルターの周囲に備わるスリーブとを備え、前記フィルターおよび前記スリーブは、一体化された構造体を構成し、前記構造体は、前記エンドフィッティングの内部に配置または固定され、前記フィルターの外径は、前記本体部の内径よりも小さく、前記構造体の外径は、前記本体部の内径よりも大きく、前記フィルターは、前記エンドフィッティングを前記本体部に取り付けた時に変形しない素材からなり、前記スリーブは、前記エンドフィッティングを前記本体部に取り付けた時に変形可能な素材からなり、前記カラムは、前記エンドフィッティングを前記本体部に取り付けた時に、前記スリーブは圧縮され、前記フィルターは圧縮されず、前記フィルターが前記本体部内に充填剤のトップオフを解消するように存在している、ことを特徴とする、カラムに関する。
【0011】
本発明の請求項2に係る発明は、前記本体部、前記エンドフィッティング、および前記フィルターのうち少なくとも1つは金属製である、請求項1に記載のカラムに関する。
【0012】
本発明の請求項3に係る発明は、前記本体部、前記エンドフィッティング、および前記フィルターのうち少なくとも1つは合成樹脂製である、請求項1に記載のカラムに関する。
【0013】
本発明の請求項4に係る発明は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用のカラムの製造方法であって、当該製造方法は、(a)スリーブ内にフィルターを圧入させて、前記フィルターと前記スリーブが一体化された構造体を得る工程、および(b)前記構造体を、前記カラムのエンドフィッティングに配置または固定する工程、を含み、前記カラムは、内部に充填剤を備える本体部と、当該本体部の両端に取り付けられる前記エンドフィッティングと、前記本体部と前記エンドフィッティングとの間に前記構造体を備え、前記フィルターは、前記本体部と前記エンドフィッティングの取り付け時に変形しない素材からなり、前記スリーブは、前記本体部と前記エンドフィッティングの取り付け時に変形可能な素材からなり、前記フィルターの外径は、前記本体部の内径よりも小さく、前記構造体の外径は、前記本体部の内径よりも大きく、前記カラムは、前記本体部と前記エンドフィッティングの取り付け時に、前記スリーブが圧縮されることにより前記フィルターが前記本体部内に挿入されることを特徴とする、カラムの製造方法に関する。
【0014】
本発明の請求項5に係る発明は、前記本体部、前記エンドフィッティング、および前記フィルターのうち少なくとも1つは金属製である、請求項4に記載のHPLC用カラムの製造方法に関する。
【0015】
本発明の請求項6に係る発明は、前記本体部、前記エンドフィッティング、および前記フィルターのうち少なくとも1つは合成樹脂製である、請求項4に記載のHPLC用カラムの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明によれば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用のカラムであって、当該カラムは、内部に充填剤を備える本体部と、当該本体部の両端に取り付けられるエンドフィッティングと、前記本体部と前記エンドフィッティングとの間に設けられているフィルターと、前記フィルターの周囲に備わるスリーブとを備え、前記フィルターおよび前記スリーブは、一体化された構造体を構成し、前記構造体は、前記エンドフィッティングの内部に配置または固定され、前記フィルターの外径は、前記本体部の内径よりも小さく、前記構造体の外径は、前記本体部の内径よりも大きく、前記フィルターは、前記エンドフィッティングを前記本体部に取り付けた時に変形しない素材からなり、前記スリーブは、前記エンドフィッティングを前記本体部に取り付けた時に変形可能な素材からなり、前記カラムは、前記エンドフィッティングを前記本体部に取り付けた時に、前記スリーブは圧縮され、前記フィルターは圧縮されず、前記フィルターが前記本体部内に充填剤のトップオフを解消するように存在している、ことを特徴とする、カラムであるため、少ない部品かつ簡易な構造および仕組みで、カラム上部で疎に充填されている充填剤を最密の状態にし、試料や充填剤がスリーブに接触する面積を極力減少させ、充填剤の漏出を防止し、分析性能に優れたカラムを提供することができる。
【0017】
請求項2に係る発明によれば、前記本体部、前記エンドフィッティング、および前記フィルターのうち少なくとも1つは金属製である、請求項1に記載のカラムであるため、耐熱性および耐圧性に優れることに加え、試料の吸着や変性が起こらないカラムを提供することができる。
【0018】
請求項3に係る発明によれば、前記本体部、前記エンドフィッティング、および前記フィルターのうち少なくとも1つは合成樹脂製である、請求項1に記載のカラムであるため、耐熱性および耐圧性に優れることに加え、試料の吸着や変性が起こらず、また錆が発生しないカラムを提供することができる。
【0019】
請求項4に係る発明によれば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用のカラムの製造方法であって、当該製造方法は、(a)スリーブ内にフィルターを圧入させて、前記フィルターと前記スリーブが一体化された構造体を得る工程、および(b)前記構造体を、前記カラムのエンドフィッティングに配置または固定する工程、を含み、前記カラムは、内部に充填剤を備える本体部と、当該本体部の両端に取り付けられる前記エンドフィッティングと、前記本体部と前記エンドフィッティングとの間に前記構造体を備え、前記フィルターは、前記本体部と前記エンドフィッティングの取り付け時に変形しない素材からなり、前記スリーブは、前記本体部と前記エンドフィッティングの取り付け時に変形可能な素材からなり、前記フィルターの外径は、前記本体部の内径よりも小さく、前記構造体の外径は、前記本体部の内径よりも大きく、前記カラムは、前記本体部と前記エンドフィッティングの取り付け時に、前記スリーブが圧縮されることにより前記フィルターが前記本体部内に挿入されることを特徴とする、カラムの製造方法であるため、少ない部品かつ簡易な構造および仕組みで、カラム上部で疎に充填されている充填剤を最密の状態にし、試料や充填剤がスリーブに接触する面積を極力減少させ、充填剤の漏出を防止し、分析性能に優れたカラムの製造方法を提供することができる。
【0020】
請求項5に係る発明によれば、前記本体部、前記エンドフィッティング、および前記フィルターのうち少なくとも1つは金属製である、請求項4に記載のHPLC用カラムの製造方法であるため、耐熱性および耐圧性に優れることに加え、試料の吸着や変性が起こらないカラムの製造方法を提供することができる。
【0021】
請求項6に係る発明によれば、前記本体部、前記エンドフィッティング、および前記フィルターのうち少なくとも1つは合成樹脂製である、請求項4に記載のHPLC用カラムの製造方法であるため、耐熱性および耐圧性に優れることに加え、試料の吸着や変性が起こらず、また錆が発生しないカラムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本体部2、エンドフィッティング3および構造体6で構成されるカラム1の内部構造の模式図である。
図2図2aは、従来のカラム1’に充填剤を充填後、従来のフィルター4’と従来のスリーブ5’の構造体を含むエンドフィッティング3を取り付けたカラム1’の、従来のフィルター4’と従来のスリーブ5’と本体部2の一部の断面図である。図2bは、本発明のフィルター4とスリーブ5の構造体6を含むエンドフィッティング3を取り付けたカラム1の、フィルター4とスリーブ5と本体部2の一部の断面図である。
図3】本発明のカラム1を用いて、ウラシル、安息香酸エチル、アセナフテン、ブチルベンゼンが混合された試料を分析した結果の図である。
図4】従来のカラム1’を用いて、ウラシル、安息香酸エチル、アセナフテン、ブチルベンゼンが混合された試料を分析した結果の図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用のカラムの実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
図1は、本体部2、エンドフィッティング3、フィルター4およびスリーブ5から成る構造体6で構成されるカラム1の内部構造の模式図である。
【0025】
本発明に係るカラム1は、内部に充填剤を備える本体部2と、本体部2の両端に取り付けられるエンドフィッティング3と、本体部2とエンドフィッティング3との間に設けられているフィルター4と、フィルター4の周囲に備わるスリーブ5とを備える。
【0026】
本体部2は、本発明に係るカラム1における、試料中の各成分の分離が生じる部分であり、内部に充填剤を備える。
【0027】
本体部2は、例えば、耐熱性および耐圧性に優れることに加え、試料の吸着や変性が起こらない特徴を有する合成樹脂製または金属製であることが好ましい。合成樹脂として例えばPEEK等が挙げられ、金属として例えばステンレス等が挙げられるが、その他の素材も、耐熱性および耐圧性に優れることに加え、試料の吸着や変性が起こらない特徴を有する素材であれば、任意に選択可能である。
【0028】
本体部2の長さは、1mm乃至1000mmであることが好ましいが特に限定されない。長さとしては、例えば8mm、10mm、20mm、30mm、35mm、50mm、75mm、100mm、125mm、150mm、200mm、250mm、300mm、350mm、400mm、450mm、500mm、550mm、600mm、650mm、700mm、750mm、800mm、850mm、900mm、950mm、1000mmが選択され、使用され得るが、その他の長さも任意に選択可能である。
【0029】
本体部2の内径は、0.1mm乃至100mmであることが好ましいが特に限定されない。内径としては、例えば0.5mm、1.0mm、2.0mm、2.1mm、3.0mm、4.0mm、4.6mm、5.0mm、6.0mm、7.5mm、7.8mm、8.0mm、10.0mm、20.0mm、30.0mm、50.0mmが選択され、使用され得るが、その他の内径も任意に選択可能である。
【0030】
充填剤は、試料分析に使用されるものであれば特に限定は無い。例えば、使用され得る充填剤の種類として、シリカゲル、ポリマーゲル、ジルコニア、シリカゲルの表面をオクタデシルシリル基で表面処理加工した充填剤、等が挙げられるが、その他の充填剤も任意に選択可能である。
【0031】
エンドフィッティング3は、本発明に係るカラム1とHPLC分析機器の接続のために取付けられるものであり、本体部2の両端に取り付けられる。エンドフィッティング3には構造体6が固定されるため、試料および充填剤が外部へ漏出することを防止できる。
【0032】
エンドフィッティング3の内部には、構造体6が配置または固定されて使用される。
【0033】
エンドフィッティング3は、例えば耐熱性および耐圧性に優れることに加え、試料の吸着や変性が起こらない特徴を有する合成樹脂製または金属製であることが好ましい。合成樹脂として例えばPEEK等が挙げられる。金属として例えばステンレス等が挙げられる。
【0034】
フィルター4は、試料のろ過を行うため、および、充填剤が外部へ漏れることを防ぐために取付けられるものであり、本体部2とエンドフィッティング3との間に設けられる。フィルター4はエンドフィッティング3を本体部2に取り付けた時に変形しない素材からなり、例えば耐熱性および耐圧性に優れることに加え、試料の吸着や変性が起こらない特徴を有する合成樹脂製または金属製であることが好ましい。合成樹脂として例えばPEEK、PTFE、ポリエチレン等が挙げられ、金属として例えばステンレス、チタン、ブロンズ(青銅)、ブロンズチタン等が挙げられ、合成樹脂製または金属製以外ではガラス等が挙げられるが、その他の素材も、耐熱性および耐圧性に優れることに加え、試料の吸着や変性が起こらない特徴を有する素材であれば、任意に選択可能である。
【0035】
本発明におけるフィルター4は、本体部2の内径よりも小さい外径を有する構造であり、その外径は、1.0mm乃至20.0mmであることが好ましいが特に限定されない。外径としては、好適には4.5mmが選択され、使用され得るが、その他の外径も任意に選択可能である。
【0036】
フィルター4の厚みは0.2mm乃至5.0mmであることが好ましいが特に限定されない。厚みとしては、好適には1.4mmが選択され、使用され得るが、その他の厚みも任意に選択可能である。
【0037】
スリーブ5は、フィルター4の周囲に備わり、その内径は、フィルター4の外径と同程度であることが好ましい。スリーブ5は、エンドフィッティング3を、構造体6を介して本体部2に取り付けた時に変形する合成樹脂等からなり、合成樹脂として例えばPEEK、PCTFE、PTFE等が選択されるが、その他の種類の合成樹脂も任意に選択可能である。
【0038】
スリーブ5の厚みは、フィルター4の厚みより厚いか、同じことが好ましいが特に限定されない。厚みとしては、好適には1.5mmが選択され、使用され得るが、その他の厚みも任意に選択可能である。
【0039】
さらにフィルター4およびスリーブ5は、圧入等の操作によって、一体化された構造体6を構成する。これにより、本発明のカラム1における構造体6は、充填剤を満たした本体部2をエンドフィッティング3で密閉する際に、スリーブ5が圧縮され、フィルター4が圧縮されないように機能する。スリーブ5の圧縮率、すなわち、圧縮後のスリーブ5の厚みを圧縮前のスリーブ5の厚みで除した値を1から減算し、百分率により示した値が、0%より大きく、50%までであることが好ましいが、本発明のカラム1においては、分析性能を上げるためにスリーブ5が圧縮される機構が求められるため、圧縮率が50%を超える態様も存在することに留意する。
【0040】
構造体6の外径は、エンドフィッティング3の内径よりも大きいか、同じであることが好ましいが特に限定されない。
【0041】
構造体6は、エンドフィッティング3の内部に配置または固定されて使用される。好ましくは圧入により固定されて使用されるが特に限定されない。
【0042】
図2aは、カラム1’に充填剤を充填後、従来のフィルター4’と従来のスリーブ5’の構造体を含むエンドフィッティング3を取り付けたカラム1’の、従来のフィルター4’と従来のスリーブ5’と本体部2の一部の断面図である。図2bは、本発明のフィルター4とスリーブ5の構造体6を含むエンドフィッティング3を取り付けたカラム1の、フィルター4とスリーブ5と本体部2の一部の断面図である。
【0043】
本発明のカラム1における構造体6は、充填剤を満たした本体部2をエンドフィッティング3で密閉する際に、スリーブ5が圧縮され、フィルター4が圧縮されないように機能する。この構造により、フィルター4’が本体部2の内部に押し込まれない従来のカラム1’と異なり、本発明に係るカラム1は、フィルター4が本体部2の内部に押し込まれることにより、分析性能が向上し(理論段数が大きくなり)、充填剤のトップオフを解消することができる。この時、試料や充填剤がスリーブ5に接触する面積を極力減少させることが可能である。さらにスリーブ5の存在により、エンドフィッティング3による密閉力が上昇し、試料の漏出を防止できる。
【0044】
以下、本発明に係る高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用のカラムの製造方法に係る実施の形態を詳細に説明する。
【0045】
本発明に係るカラム1の製造方法は、(a)スリーブ5内にフィルター4を圧入させて、フィルター4とスリーブ5が一体化された構造体6を得る工程、および(b)前記構造体6を、前記カラム1のエンドフィッティング3に配置または固定する工程、を含む。
【0046】
ここで、(a)スリーブ5内にフィルター4を圧入させて、フィルター4とスリーブ5が一体化された構造体6を得る工程は、次の手順を含む。(a1)圧入用治具上にスリーブ5を配置すること、(a2)圧入用治具上に配置されたスリーブ5上にフィルター4を配置すること、(a3)圧入用治具により、スリーブ5の内側にフィルター4を圧入させること。これにより、フィルター4とスリーブ5が一体化された(抱き合わせされた)構造体6を得ることができる。フィルター4は、スリーブ5の内径と同程度の外径を有する構造であるため、この圧入操作によって、構造体6は容易にフィルター4とスリーブ5に分離されない構造となる。
【0047】
さらに(b)前記構造体6を、前記カラム1のエンドフィッティング3に配置または固定する工程は、次の手順を含む。(b1)エンドフィッティング3内部に、構造体6を入れる(配置する)こと、(b2)エンドフィッティング3内部に構造体6を固定する場合は、圧入用治具によるハンドプレスを用いて、構造体6をエンドフィッティング3内部に圧入すること。これにより、エンドフィッティング3と構造体6が一体化される。固定する方法として、圧入の他に、溶接する方法等が挙げられる。
【0048】
本体部2の両側のうち片方を構造体6が配置または固定されたエンドフィッティング3によって嵌合し(例えば螺合)、嵌合した側を下端部とし、本体部2のもう一方(上端部)から充填剤を入れて本体部2の内部を充填剤で満たし、本体部2から漏れ出た余剰な充填剤を取り除いた後、本体部2の上端部を、構造体6が配置または固定されたエンドフィッティング3によって嵌合(例えば螺合)することで、本発明に係るカラム1が完成する。
【実施例
【0049】
(実施例1 製造されたカラム)
実施例1として、本体部2の長さは150mm、フィルター4の外径は本体部2の内径の99%~93%、フィルター4の厚みは本体部2の内径の17%~43%、スリーブ5の厚みはフィルター4の厚みの100%~125%、構造体6の外径はエンドフィッティング3の内径と同じ、本体部2の内径は4.6mmのものを選択した。構造体6がエンドフィッティング3に配置または固定される方法は圧入による固定を選択した。充填剤として、シリカゲルの表面をオクタデシルシリル基で表面処理加工したものを選択した。
【0050】
(実施例2 製造されたカラムの性能比較)
図3は、本発明に係る、実施例1で製造したカラム1を用いて、ウラシル、安息香酸エチル、アセナフテン、ブチルベンゼンが混合された試料を分離し分析した結果の図である。図4は、従来のカラム1’を用いて、ウラシル、安息香酸エチル、アセナフテン、ブチルベンゼンが混合された試料を分離し分析した結果の図である。
【0051】
ここで本発明の実施例として、フィルター4の外径は本体部2の内径の99%~93%、スリーブ5の内径はフィルター4外径と同じ、構造体6の外径はエンドフィッティング3の内径と同じ、本体部2の内径は4.6mmのものを用いた(従来のフィルター4’の外径は本体部2の内径の101%~110%)。本発明のカラム1を用いて、ウラシル、安息香酸エチル、アセナフテン、ブチルベンゼンが混合された試料を分離、分析した。保持時間が最も短いウラシルがカラム外容積の影響を最も受けやすく、安息香酸エチル、アセナフテン、ブチルベンゼンは影響度が低くなるため、ウラシルの理論段数を比較した。図3図4の結果を比較すると、従来のフィルター4’を用いた結果ではウラシルの理論段数(半値幅法)が19285に対し、本発明のフィルター4を用いた結果ではウラシルの理論段数が20021に向上した。また、仮に充填剤や試料が漏出している場合には、データ上にノイズとして現れるが、ノイズは検出されなかった。
【0052】
また、ピークが最も細い、すなわち理論段数が最も大きいウラシルの理論段数と、ピークが最も太い、すなわち理論段数が最も小さいブチルベンゼンの理論段数の比を比較することにより、カラムに充填剤を充填する時に生じる分析性能のばらつきの差を考慮せずにすむ。その結果、従来のフィルター4’を用いた場合(従来品)は、ウラシルの理論段数をブチルベンゼンの理論段数で除し、百分率により示した値が145%であったのに対し、本発明品は173%であった(表1)。この結果から、本発明品は従来品と比べ、理論段数の観点から、優れた発明であることが示された。
【0053】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、少ない部品かつ簡易な構造および仕組みにより、従来と比較して分析性能が優れた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用のカラムを提供する。
【符号の説明】
【0055】
1 カラム
2 本体部
3 エンドフィッティング
4 フィルター
5 スリーブ
6 構造体
【要約】
【課題】
HPLC用のカラムの上部で充填剤が疎に充填されている現象を解決することにより、より優れた分析性能を保持し、簡易な構造のカラムの開発が課題である。
【解決手段】
カラム本体部とエンドフィッティングとの間に設けられているフィルターと、フィルターの周囲に備わるスリーブとを備え、フィルターおよびスリーブは、一体化された構造体を構成し、構造体は、エンドフィッティングの内部に配置または固定され、フィルターの外径は、本体部の内径よりも小さく、構造体の外径は、本体部の内径よりも大きく、エンドフィッティングを本体部に取り付けた時に、スリーブは圧縮され、フィルターは圧縮されず、フィルターが本体部内に存在している、ことを特徴とする、カラムとその製造方法に関する。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4