(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】電子調光装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/15 20190101AFI20241009BHJP
G02F 1/155 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
G02F1/15 505
G02F1/15 503
G02F1/155
(21)【出願番号】P 2022557548
(86)(22)【出願日】2021-10-19
(86)【国際出願番号】 JP2021038550
(87)【国際公開番号】W WO2022085666
(87)【国際公開日】2022-04-28
【審査請求日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】P 2020175961
(32)【優先日】2020-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100166408
【氏名又は名称】三浦 邦陽
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 滋樹
【審査官】植田 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/104466(WO,A1)
【文献】特表2016-509264(JP,A)
【文献】特開2014-106265(JP,A)
【文献】特開2016-148805(JP,A)
【文献】特表2017-526949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15-1/19
G02F 1/13
G02F 1/1345
G02C 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子に重なる電子素子への電気エネルギーの供給によって調光効果を得る電子調光装置の製造方法であって、
一対の電極層と、前記一対の電極層の間の調光層と、を積層した積層体を形成する積層体形成工程を行い、
前記積層体形成工程では、前記積層体に、前記調光層の形成領域内に前記光学素子と重なる形状の重畳領域を設定し、且つ前記重畳領域の外側に連続して前記一対の電極層の一方と他方が単独で存在する2箇所以上の端子領域を設定し、
前記積層体形成工程で前記積層体を形成する際に、
前記調光層を略円形に形成し、
前記一対の電極層にそれぞれ、前記調光層と重なる略円形の円形部と、径方向で前記円形部の外側に連続して配置される外径部と、を形成し、
前記一対の電極層の互いの前記外径部が正面視で重ならない配置に設定し、
前記光学素子の外形が前記調光層の略円形の外周形状に2箇所で内接するように前記重畳領域を設定し、且つ該2箇所の内接箇所の外側に位置する前記一対の電極層の一方と他方の前記外径部に前記端子領域を設定し、
前記積層体形成工程に続いて、前記重畳領域と前記端子領域を含む部分を前記積層体から切り出して前記電子素子を形成することを特徴とする電子調光装置の製造方法。
【請求項2】
前記積層体において、前記一対の電極層のそれぞれの前記円形部は、前記調光層よりも小径であることを特徴とする請求項1に記載の電子調光装置の製造方法。
【請求項3】
前記積層体において、前記一対の電極層の前記外径部はそれぞれ、前記円形部よりも大径の円形の一部であり、
一方の前記外径部と他方の前記外径部が、正面視で前記円形部の中心に関して対称に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電子調光装置の製造方法。
【請求項4】
前記電子素子は、前記電極層への電圧印加によって前記調光層で酸化還元反応による光物性の可逆的な変化を発生するエレクトロクロミック素子であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電子調光装置の製造方法。
【請求項5】
前記電子調光装置は、前記光学素子であるレンズの表面又は内部に前記電子素子を配置した電子調光眼鏡であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電子調光装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子調光装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子に電子素子を重ねて配置し、電子素子への電気エネルギーの供給によって調光効果を得る電子調光装置がある。その一例として、眼鏡レンズの表面や内部に電子素子を備え、電子素子の状態変化によって光学的特性(光透過率や色など)を変化させる電子調光眼鏡が知られている。この種の電子調光眼鏡に用いる電子素子として、エレクトロクロミック素子(EC素子)や液晶素子などが知られている。
【0003】
エレクトロクロミック素子は、物質に電荷を加えたときに電気化学的な酸化還元反応などによって可逆的に光学的吸収が起きる現象(エレクトロクロミズム)を利用したものである。電子調光装置に用いられるエレクトロクロミック素子は、エレクトロクロミズムを示す材料からなる調光層を挟んで、正極用と負極用の一対の電極層を配した積層構造にするのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5511997号公報
【文献】特許第6624206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、エレクトロクロミック素子のような電子素子を眼鏡レンズに組み込む場合には、レンズの外形に合わせたマスクを用意して、このマスクを用いて電極などの成膜エリアをパターニングする必要があった。例えば、エレクトロクロミック素子の場合、電圧の印加によって色変化する調光領域(アクティブエリア)をレンズの中心部に形成し、正極と負極として2分割された端子電極をレンズの外縁に形成するように、マスクパターンを設定するのが一般的である。
【0006】
ところで、眼鏡レンズの形状は、ユーザーの好みやフレームのデザインに応じて様々であり、これに対応した電子素子を得るには、形状の異なるレンズで個別に成膜用のマスクを用意して電極などの成膜パターンを変える必要がある。しかし、成膜用のマスクの作製には多額の費用と時間を要する。また、形状の異なるレンズ毎に異なるマスクに切り替えて成膜するのは生産効率が悪い。逆に言えば、電子素子の成膜パターンを先に設定してしまうと、レンズ形状の選択自由度が阻害される。
【0007】
そのため、電子調光眼鏡の生産において、多種多様なレンズ形状に容易に対応可能な電子素子によって、生産性を向上させることが求められている。この課題は、レンズ形状の選択肢が多い電子調光眼鏡において特に顕著であるが、電子調光眼鏡以外でも、光学素子の形状や大きさに合わせた電子素子のカスタマイズが必要な電子調光装置であれば、同様の課題がある。また、エレクトロクロミック素子以外の電子素子を用いるタイプの電子調光装置にも同様の課題がある。
【0008】
本発明は、以上の課題を解決するべく、生産効率に優れる電子調光装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、光学素子に重なる電子素子への電気エネルギーの供給によって調光効果を得る電子調光装置の製造方法であって、一対の電極層と、一対の電極層の間の調光層と、を積層した積層体を形成する積層体形成工程を行い、積層体形成工程では、積層体に、調光層の形成領域内に光学素子と重なる形状の重畳領域を設定し、且つ重畳領域の外側に一対の電極層の一方と他方が単独で存在する2箇所以上の端子領域を設定し、積層体形成工程に続いて、重畳領域と端子領域を含む部分を積層体から切り出して電子素子を形成する。
【0010】
積層体形成工程で積層体を形成する際に、調光層を略円形に形成し、一対の電極層にそれぞれ、調光層と重なる略円形の円形部と、径方向で円形部の外側に連続して配置される外径部と、を形成し、一対の電極層の互いの外径部が正面視で重ならない配置に設定する。そして、光学素子の外形が調光層の略円形の外周形状に2箇所で内接するように重畳領域を設定し、且つ該2箇所の内接箇所の外側に位置する一対の電極層の一方と他方の外径部に端子領域を設定する。
【0011】
積層体において、一対の電極層のそれぞれの円形部は、調光層よりも小径であることが好ましい。
【0012】
積層体において、一対の電極層の外径部はそれぞれ、円形部よりも大径の円形の一部であり、一方の外径部と他方の外径部が、正面視で円形部の中心に関して対称に配置されていることが好ましい。
【0013】
例えば、電子素子は、電極層への電圧印加によって調光層で酸化還元反応による光物性の可逆的な変化を発生するエレクトロクロミック素子とすることができる。
【0014】
本発明は、光学素子であるレンズの表面又は内部に電子素子を配置した電子調光眼鏡の製造方法として特に好適である。
【0015】
調光用電子素子としての態様では、光学素子に重なって配置されて電気エネルギーの供給によって調光効果を得る調光用電子素子であって、一対の電極層と、一対の電極層の間の調光層と、を積層した積層体を有し、積層体の一部を切り出して調光用電子素子が構成される。
【0016】
切り出しを行う前の積層体の調光層は、正面視で、光学素子の外形が2箇所で外周に内接可能な略円形であり、切り出しを行う前の積層体の一対の電極層はそれぞれ、正面視で、調光層と重なる略円形の円形部と、径方向で円形部の外側に連続して配置される外径部と、を有し、一対の電極層の互いの外径部は正面視で重ならない配置である。切り出しを行う前の積層体において、正面視で、調光層の略円形の外周形状に2箇所で内接するように位置付けた光学素子の外形に対応する形状の領域である重畳領域と、正面視で、光学素子の外形が調光層の外周に内接する2箇所の外側で、一対の電極層の一方と他方の外径部上に位置する2箇所の端子領域と、が設定される。
【0017】
以上の調光用電子素子は、電子調光眼鏡での有用性が特に高い。すなわち、積層体の重畳領域を切り出した部分と、積層体の端子領域を切り出した端子部とを含んだ切り出し後の調光用電子素子と、レンズである前記光学素子と、フレームと、を備え、レンズの表面又は内部に切り出し後の調光用電子素子が位置する調光レンズを、フレームで保持して電子調光眼鏡が構成される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の電子調光装置の製造方法によれば、一種類の積層体から、多種多様な形状の光学素子に対応した電極付きの電子素子を容易に得ることができ、電子調光眼鏡などの電子調光装置や調光用電子素子の生産効率を著しく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】電子調光装置の一形態である電子調光眼鏡を示す図である。
【
図2】電子調光眼鏡を構成するエレクトロクロミック素子の元となるエレクトロクロミック積層体の正面図である。
【
図3】
図2のIII-III線に沿う断面図である。
【
図4】エレクトロクロミック積層体の各層を分けて示した正面図である。
【
図5】エレクトロクロミック積層体の各層を分けて示した斜視図である。
【
図6】エレクトロクロミック積層体の積層状態の斜視図である。
【
図7】変形例のエレクトロクロミック積層体を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明を適用する電子調光装置の一形態である電子調光眼鏡10を示している。電子調光眼鏡10は、左右の調光レンズ11,12とフレーム13とを有している。フレーム13は、調光レンズ11,12を保持する左右の環状のリム14,15と、リム14,15から延びるテンプル16,17と、リム14,15を接続するブリッジ18と、を有している。電子調光眼鏡10における左右方向をX軸方向、天地方向をY軸方向とする。
【0021】
図1に断面視で示すように、調光レンズ11,12は、光学素子であるレンズ30の表面に、調光用の電子素子であるエレクトロクロミック素子(EC素子)19を重ねた電子調光レンズである。レンズ30は表面側が凸面で裏面側が凹面であり、シート状のエレクトロクロミック素子19は、レンズ30の凸面に沿う湾曲形状になっている。レンズ30の凹面の形状加工によって、度数などを調整することができる。
図1では省略しているが、エレクトロクロミック素子19の表面側に、所定の機能(紫外線や赤外線の透過制御、レンズ保護効果など)を有するコート層を形成してもよい。
【0022】
調光レンズ11,12の製造方法として、例えば、レンズ30とエレクトロクロミック素子19を個別に製造し、エレクトロクロミック素子19をレンズ30の表面に対応した湾曲形状にプレフォーミングしてから、エレクトロクロミック素子19とレンズ30を貼り合わせることが可能である。あるいは、レンズ30の成形加工時に、エレクトロクロミック素子19を含めて一体的に成形して調光レンズ11,12を得ることも可能である。
【0023】
エレクトロクロミック素子19は、電圧の印加による酸化還元反応で可逆的に光物性を変化させるエレクトロクロミック材料を含んでおり、電圧を印加しない通常状態で透明(可視光の透過率が最も高い)状態にあり、電圧印加によってエレクトロクロミック材料に対応した所定の色に着色されて光透過率を低下させる。エレクトロクロミック素子19の構成については後述する。
【0024】
フレーム13には、図示を省略する電源、制御部、操作部が設けられている。また、フレーム13の内部には、調光レンズ11,12のエレクトロクロミック素子19への給電用の導電部が設けられており、導電部がエレクトロクロミック素子19の端子領域T1,T2に接続している。ユーザーが操作部を操作すると、制御部の制御によってエレクトロクロミック素子19への通電制御が行われ、調光レンズ11,12での調光効果が得られる。制御部は、操作部の操作に応じて調光レンズ11,12の調光効果(光透過率)を複数の段階で変化させてもよい。
【0025】
ところで、電子調光眼鏡10では、ユーザーの好みやフレーム13のデザインに基づいて、様々な形状の調光レンズ11,12を選択することができる。異なる形状の調光レンズ11,12に対応してエレクトロクロミック素子19を効率的に生産する製造方法について、以下に説明する。
【0026】
エレクトロクロミック素子19の生産においては、その元となるエレクトロクロミック積層体20を形成する。そして、個々の調光レンズ11,12のレンズ30に対応する任意の形状にエレクトロクロミック積層体20の一部を切り出して、調光レンズ11,12用のエレクトロクロミック素子19を得る。
図2、
図3及び
図6は、エレクトロクロミック積層体20を構成する各層を積層した状態を示し、
図4及び
図5は、エレクトロクロミック積層体20の各層を分けて示している。
【0027】
エレクトロクロミック積層体20は、合成樹脂で形成された基板21上に、第1電極層22とエレクトロクロミック層(調光層)23と第2電極層24を積層して構成されている。エレクトロクロミック積層体20を構成する各層の材料や役割については、既存のエレクトロクロミック素子に準じており、簡潔に説明する。
【0028】
第1電極層22及び第2電極層24はそれぞれ、透明且つ導電性を有する材料からなる透明導電膜である。例えば、第1電極層22及び第2電極層24の材料として、酸化インジウム(In2O3)に酸化スズ(Sn2O2)を添加した酸化インジウムスズ(ITO)が好適であるが、これ以外の材料を用いてもよい。第1電極層22及び第2電極層24の厚みは、エレクトロクロミック層23での酸化還元反応に必要な電気抵抗値が得られる所定の値に設定される。
【0029】
エレクトロクロミック層23は、エレクトロクロミック電極層、固体電解質層、対向電極層からなる3層膜である。例えば、エレクトロクロミック電極層として酸化タングステン(WO3)膜、固体電解質層として五酸化タンタル(Ta2O5)膜、対向電極層として酸化イリジウム(Ir2O2)膜や酸化インジウム(In2O3)膜が好適であるが、これ以外の材料を用いてもよい。
【0030】
第1電極層22、第2電極層24、エレクトロクロミック層23のそれぞれの形成方法は、材料や目的に応じて、周知の成膜方法(各種の塗布成膜法や真空成膜法など)から任意に選択することができる。
【0031】
エレクトロクロミック積層体20における基板21は、
図2に示す成膜中心Cを中心とする略円形である。エレクトロクロミック層23は、成膜中心Cを中心とする略円形であり、
図2及び
図4のような正面視で成膜中心Cを囲む円環状の外周部23aが外形形状となる。基板21の直径D1(
図4)よりも、エレクトロクロミック層23の直径D2(
図4)の方が小さい(小径である)。エレクトロクロミック層23の外縁付近の一部は、エレクトロクロミック積層体20の厚み方向に延びて基板21に接する延長部23bになっている。
【0032】
第1電極層22と第2電極層24は、エレクトロクロミック積層体20の正面視(
図2、
図4)で、成膜中心Cを通りY軸方向に延びる中心線に関して互いに対称の形状である。つまり、第1電極層22と第2電極層24は、正面視で成膜中心Cを中心として左右対称の形状である。具体的には、第1電極層22と第2電極層24はそれぞれ、以下に述べる形状を有する。
【0033】
図4に示すように、第1電極層22は、中央円形部22aと、径方向で中央円形部22aの外側に連続して配置される外径部22bと、を有している。中央円形部22aは成膜中心Cを中心とする略円形の部分であり、中央円形部22aの直径D3(
図4)は、エレクトロクロミック層23の直径D2(
図4)よりも僅かに小さく設定されている。
【0034】
外径部22bは、中央円形部22aよりも大径の円形の一部であり、より詳しくは、基板21と同じ外周形状(半径の大きさ)を有する円形の一部である。外径部22bは、エレクトロクロミック積層体20の正面視で、成膜中心CよりもX軸方向の左側の領域に偏った部分に形成されている。
【0035】
第1電極層22の外形形状は、中央円形部22aにおける半円状の半円外周部22cと、外径部22bにおける円弧部22dと、円弧部22dの両端からY軸方向に延びる一対の直線部22eと、一対の直線部22eからX軸方向に延びて半円外周部22cに接続する一対の直線部22fと、によって構成される。円弧部22dは、基板21の外周形状の一部と略一致する形状である。
【0036】
図4に示すように、第2電極層24は、中央円形部24aと、径方向で中央円形部24aの外側に配置される外径部24bと、を有している。中央円形部24aは成膜中心Cを中心とする略円形の部分であり、中央円形部24aの直径D4(
図4)は、エレクトロクロミック層23の直径D2(
図4)よりも僅かに小さく設定されている。第1電極層22の中央円形部22aの直径D3と、第2電極層24の中央円形部24aの直径D4は、等しい大きさである。
【0037】
外径部24bは、中央円形部24aよりも大径の円形の一部であり、より詳しくは、基板21と同じ外周形状(半径の大きさ)を有する円形の一部である。外径部24bは、エレクトロクロミック積層体20の正面視で、成膜中心CよりもX軸方向の右側の領域に偏った部分に形成されている。
図5に示すように、中央円形部24aと外径部24bは、エレクトロクロミック積層体20の厚み方向で位置を異ならせており、中央円形部24aの外縁部分と外径部24bの内縁部分を接続部24gが接続している。
【0038】
第2電極層24の正面視での外形形状は、中央円形部24aにおける半円状の半円外周部24cと、外径部24bにおける円弧部24dと、円弧部24dの両端からY軸方向に延びる一対の直線部24eと、一対の直線部24eからX軸方向に延びて半円外周部24cに接続する一対の直線部24fと、によって構成される。円弧部24dは、基板21の外周形状の一部と略一致する形状である。なお、中央円形部24aと外径部24bの間には接続部24gによる段差があるため、一対の直線部24eと一対の直線部24fは直接的には接続していない(
図5参照)。
【0039】
第1電極層22と第2電極層24は、それぞれの中央円形部22a,24aの中心を成膜中心Cに位置させ、正面視で成膜中心Cに関して外径部22bと外径部24bが左右対称になるように形成及び配置される。
図3に示すように、第1電極層22については、中央円形部22aと外径部22bの両方が基板21に接しており、第2電極層24については、外径部24bが基板21に接している。
【0040】
エレクトロクロミック積層体20の厚み方向で第1電極層22(中央円形部22a)とエレクトロクロミック層23と第2電極層24(中央円形部24a)が全て重なっている領域が、電圧印加により色の変化(透過率の変化)が生じる調光領域E(
図2及び
図3)となる。エレクトロクロミック積層体20の正面視では、中央円形部22aの半円外周部22cと中央円形部24aの半円外周部24cとによって囲まれる円形の領域が、調光領域Eである(
図2参照)。
【0041】
調光領域Eの外側では、第1電極層22の外径部22bと第2電極層24の外径部24bが、互いに重ならずにX軸方向で離間している。そして、エレクトロクロミック積層体20の正面視で、外径部22bにおける一対の直線部22eと外径部24bにおける一対の直線部24eとの間に、X軸方向の隙間が存在する。なお、
図6に示すように、外径部22bと外径部24bは、エレクトロクロミック積層体20の厚み方向にも互いの位置を異ならせている。
【0042】
エレクトロクロミック積層体20における各部の寸法(特に、直径D1~D4)は、電子調光眼鏡10での使用が想定される複数種(異なる形状及び大きさ)の調光レンズ11,12のレンズ30の外形が、エレクトロクロミック層23の外周部23aの内側に収まるように設定されている。一例として、基板21の直径D1を40mm、エレクトロクロミック層23の直径D2を30mm、中央円形部22aの直径D3及び中央円形部24aの直径D4をそれぞれ28mmとする。この場合、成膜中心Cを中心とする直径28mmの円形領域が調光領域Eとなる。
【0043】
中央円形部22aと中央円形部24aのそれぞれの直径D3,D4よりもエレクトロクロミック層23の直径D2を大きくし、成膜中心Cを中心とする半径方向で約1mmのマージンを持たせている。また、外径部22bと外径部24bはX軸方向で離間して配置されている。これにより、エレクトロクロミック積層体20の厚み方向で第1電極層22と第2電極層24が直接に対向する部分が存在せず、第1電極層22と第2電極層24の短絡を防いでいる。
【0044】
以上のように構成したエレクトロクロミック積層体20から、調光レンズ11,12の外形に対応する形状に切り出したものが、当該レンズ用にカスタマイズされたエレクトロクロミック素子19になる。エレクトロクロミック積層体20からエレクトロクロミック素子19を得るための条件設定として、まず、正面視でエレクトロクロミック層23の形成領域内(外周部23aの内側)に、レンズ30の外形と重なる形状の重畳領域V(
図2)を設定する。また、重畳領域Vの外側に連続して、第1電極層22(外径部22b)と第2電極層24(外径部24b)が重ならずに単独で存在する2箇所以上の端子領域T1,T2(
図2)を設定する。そして、重畳領域Vと端子領域T1,T2を合わせた部分をエレクトロクロミック積層体20から切り出して、エレクトロクロミック素子19を得る。
【0045】
より詳しくは、
図2に示すように、調光レンズ11,12におけるレンズ30の外形が、エレクトロクロミック層23の略円形の外周部23aに対して2箇所(内接点P1,P2)で内接するように、重畳領域Vの配置を設定する。
【0046】
さらに、一方の内接点P1が、成膜中心Cを中心とする周方向で、第1電極層22の外径部22bの形成範囲(円弧部22dの内径側)に位置し、他方の内接点P2が、成膜中心Cを中心とする周方向で、第2電極層24の外径部24bの形成範囲(円弧部24dの内径側)に位置するようにする。
【0047】
外径部22bと外径部24bのそれぞれの形成範囲は、成膜中心Cに対してX軸方向の一方と他方に振り分けられているので、内接点P1と内接点P2は、少なくともX軸方向で互いの位置が異なる。なお、
図2に示す設定では、Y軸方向で内接点P1と内接点P2が略同じ位置にあるが、レンズ30の外形や重畳領域Vの配置によっては、Y軸方向での内接点P1の位置と内接点P2の位置が互いに異なる場合もある。
【0048】
そして、内接点P1の外側で外径部22bの一部を、重畳領域Vに連続する端子領域T1として設定し、内接点P2の外側で外径部24bの一部を、重畳領域Vに連続する端子領域T2として設定する。なお、第2電極層24では、中央円形部24aと外径部24bの境界に接続部24gが存在している。そのため、端子領域T2については、内接点P2から、少なくとも正面視での接続部24gの厚み分を上回る位置まで外径側に延ばす、という条件を付してもよい。このように設定することで、端子領域T2を確実に外径部24b上に位置させることができる。
【0049】
このようにして重畳領域Vと端子領域T1,T2を設定してエレクトロクロミック積層体20から切り出すことで、レンズ30の略全域に対して調光効果を有すると共に、給電用の複数の端子部(端子領域T1,T2)を備えたエレクトロクロミック素子19を簡単に生産することができる。
【0050】
以上の製造方法の利点として、重畳領域Vや端子領域T1,T2の配置に関する上記の設定条件を満たすものであれば、どのような形状のレンズ30にも対応可能なエレクトロクロミック素子19を、一種類のエレクトロクロミック積層体20から得ることができる。そのため、複数種のレンズ形状に対応した個別のマスクパターンを用いての成膜加工を行うことなく、少ない手間と低いコストで、各レンズ用にカスタマイズされた電極配置のエレクトロクロミック素子19を生産することが可能になる。
【0051】
エレクトロクロミック積層体20におけるエレクトロクロミック層23は、正面視で極めてシンプルな円形である。また、第1電極層22と第2電極層24はそれぞれ、正面視で基板21の円形形状から一部を除いた比較的シンプルな形状である。そのため、エレクトロクロミック積層体20の各層は、複雑なマスクパターンを用いずに簡単に形成することができ、個別のレンズ形状に合わせた複雑なマスクパターンを用いる成膜加工に比べて、エレクトロクロミック積層体20を安価に効率良く作成可能である。
【0052】
エレクトロクロミック素子19における端子領域T1,T2は、調光レンズ11,12をフレーム13に組み込んだときに、フレーム13内に配した導電部に導通状態で接触する。端子領域T1,T2と導電部との接触箇所は、フレーム13におけるリム14,15で覆われて、電子調光眼鏡10の外観に露出しない(
図1参照)。
【0053】
また、
図2に示す例では、重畳領域Vのうち、端子領域T1,T2(内接点P1,P2)近傍の一部が調光領域Eに含まれていない。しかし、当該部分は調光レンズ11,12をフレーム13に組み込んだときにリム14,15によって覆われるので、電子調光眼鏡10の完成状態では、リム14,15の内側全域で調光レンズ11,12による調光効果を得ることができる。
【0054】
エレクトロクロミック積層体20から切り出した後のエレクトロクロミック素子19に対して、外周部分をシール材などで封止する加工を行ってもよい。これにより、エレクトロクロミック素子19の耐久性を向上させることができる。
【0055】
図2に示すように、本実施形態のエレクトロクロミック積層体20は、第1電極層22と第2電極層24が、直線部22eと直線部24eの間のスペースを除いて、基板21の大部分をカバーしている。このように、基板21の外縁形状をできるだけ大きくカバーさせる形状で、第1電極層22(特に外径部22b)と第2電極層24(特に外径部24b)を形成することで、重畳領域V及び端子領域T1,T2として選択できる範囲が広くなり、対応可能なレンズ形状のバリエーションが広くなる。
【0056】
また、基板21の外縁形状をできるだけ大きくカバーするように、第1電極層22(特に外径部22b)と第2電極層24(特に外径部24b)を形成すると、同一のレンズ形状について、重畳領域V及び端子領域T1,T2の配置の選択自由度が高くなる。例えば、本実施形態のエレクトロクロミック積層体20では、
図2に示す配置から重畳領域Vをある程度傾けても、レンズ30の外形がエレクトロクロミック層23の外周部23aに対して2箇所で内接し、且つ端子領域T1,T2を外径部22b,24bに配置する、という設定条件を満たすことができる。従って、エレクトロクロミック積層体20の一部に成膜不良などが生じた場合に、当該不良箇所を避けて重畳領域V及び端子領域T1,T2を設定できる余地が多くなり、エレクトロクロミック素子19の生産における歩留まりを向上させることができる。
【0057】
但し、基板21上での第1電極層22と第2電極層24の形成範囲が広すぎると、各電極層22,24の接触や短絡のリスクが高まる。そのため、第1電極層22と第2電極層24において、中央円形部22a,24aよりも外側の外径部22b,24bについては、正面視で互いに重ならない配置にしている。本実施形態のエレクトロクロミック積層体20では、外径部22bのエッジ部分である直線部22eと、外径部24bのエッジ部分である直線部24eとが、X軸方向で所定以上離間するように隙間を持たせた構成にしている。
【0058】
図1に示す電子調光眼鏡10のフレーム13では、左右のリム14,15の上縁側にテンプル16,17やブリッジ18が接続している。そのため、左右の調光レンズ11,12のエレクトロクロミック素子19への給電を行う導電部を、フレーム13の上縁側に沿って配設しやすい構造である。つまり、フレーム13の上縁側に沿って概ねX軸方向に延びる導電部の採用が想定される。この場合、当該導電部に接続させやすいエレクトロクロミック素子19側の端子配置として、
図1及び
図2に示すように、各調光レンズ11,12(重畳領域V)の上縁付近でX軸方向の両側に振り分けて端子領域T1,T2を設けることが適している。このような理由から、エレクトロクロミック積層体20では、端子領域T1,T2の元になる外径部22b,24bを、X軸方向の両側に振り分けた配置にしている。
【0059】
しかし、2つの電極層の外径部の配置を上記実施形態とは異ならせることも可能である。例えば、
図2に示すエレクトロクロミック積層体20を90度回転させて、外径部22b,24bがY軸方向に離間する構造にしてもよい。この場合、レンズ30の外形がエレクトロクロミック層23の外周部23aに内接する2つの内接点が、成膜中心Cを挟んだY軸方向の上方側と下方側に振り分けられるように、重畳領域の角度及び位置を変更する。これに応じて、2つの内接点の外側に設ける2つの端子領域も、Y軸方向の上方側と下方側に振り分けられた配置になる。
【0060】
以上では、一種類のエレクトロクロミック積層体20について説明したが、調光領域Eの直径が異なる複数種のエレクトロクロミック積層体を準備してもよい。これにより、さらに多種多様な形状や大きさのレンズに対応したエレクトロクロミック素子を作成することが可能になる。調光領域Eの直径は、エレクトロクロミック層23、第1電極層22の中央円形部22a、第2電極層24の中央円形部24aのそれぞれの直径D2~D4によって適宜設定が可能であり、円形部分の直径変更という軽微な変更である。そのため、仮に複数種のエレクトロクロミック積層体を準備したとしても、レンズ形状毎に別々の成膜パターンに変更する場合に比べて、手間やコストを低く抑えることができる。
【0061】
なお、本実施形態の製造方法を適用した場合、レンズ中心がエレクトロクロミック積層体20の成膜中心Cから偏心する可能性があるが、偏心を考慮したレンズの光学設計を行うことで対応が可能である。このような対応は、例えば、
図1に示すレンズ30を最終形状に仕上げる際に行う裏面(凹面)への加工によっても実現できる。
【0062】
図7は、変形例であるエレクトロクロミック積層体120を示している。先に説明したエレクトロクロミック積層体20は、1枚の基板21上に、第1電極層22とエレクトロクロミック層23と第2電極層24を積層して形成されている(
図3参照)。これに対して、
図7のエレクトロクロミック積層体120は、基板21に加えて、別の合成樹脂製の基板25を有しており、基板21と基板25の間に、第1電極層22とエレクトロクロミック層23と第2電極層24を挟んだ構造である。
【0063】
基板25は、
図2に示す成膜中心Cを中心とする略円形であり、基板21と略同じ径である。基板21上に第1電極層22が形成され、基板25上に第2電極層24が形成され、対向させた第1電極層22と第2電極層24の間にエレクトロクロミック層23を配して、エレクトロクロミック積層体120になる。
【0064】
基板21と基板25は、互いの中心(成膜中心C)が一致するように位置が定められる。基板21上における第1電極層22の形状や配置は、エレクトロクロミック積層体20と同様に設定される。第2電極層24については、中央円形部24aの外側の外径部24hが、エレクトロクロミック積層体120の厚み方向において中央円形部24aと同じ位置にあり、中央円形部24aと外径部24hの両方が基板25に接している。つまり、先の実施形態のエレクトロクロミック積層体20とは異なり、エレクトロクロミック積層体120の第2電極層24は、中央円形部24aと外径部24hが接続部を介さずに連続する平坦な構成である。外径部24hの外縁である円弧部24iは、基板25の外周形状の一部と略一致する形状である。そして、エレクトロクロミック積層体120の正面視での第1電極層22とエレクトロクロミック層23と第2電極層24の形状や位置関係は、上述したエレクトロクロミック積層体20と同様である。従って、エレクトロクロミック積層体120を用いる製造方法は、エレクトロクロミック積層体20を用いる製造方法と同様の効果を得ることができる。
【0065】
図2及び
図4に示す第1電極層22の外径部22bと第2電極層24の外径部24bは、基板21の外縁形状を大きくカバーするように最適化された形状であるが、各電極層22,24の外径部の形状を変更してもよい。
【0066】
また、
図2及び
図4に示す第1電極層22と第2電極層24は、正面視で成膜中心Cに関して外径部22bと外径部24bが左右対称であるが、各電極層22,24の外径部の形状を正面視で非対称にすることも可能である。
【0067】
図8は、形状を変更した外径部22gを有する第1電極層22の変形例を示している。この変形例の外径部22gは、エッジ部分を、先に説明した直線部22e(
図4参照)に代えて、成膜中心Cを中心とする半径方向に延びる直線部22hとしている。つまり、外径部22gは、成膜中心Cを要とした扇形になっている。
図8における第2電極層24の外径部24bは、
図4と同じ形状である。従って、第1電極層22の外径部22gと、第2電極層24の外径部24bは、正面視で成膜中心Cに関して左右非対称な形状である。このような非対称形状の外径部22gと外径部24bであっても、互いに重ならずに端子領域T1,T2(
図2)を設定可能という条件を満たすものであれば良い。
【0068】
なお、
図8のさらなる変形例として、第2電極層24の外径部を、第1電極層22の外径部22gと同様の扇形にして、正面視で各電極層22,24の外径部を成膜中心Cに関して左右対称に構成してもよい。
【0069】
また、第1電極層22の外径部や第2電極層24の外径部を、
図8のような扇形以外の形状に変更してもよい。
【0070】
以上、図示実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において、さまざまな変形、変更が可能である。
【0071】
上述した基板21、第1電極層22、エレクトロクロミック層23、第2電極層24、基板25の寸法は一例であり、異なる大きさに変更してもよい。
【0072】
上記実施形態のエレクトロクロミック積層体20,120は、調光領域E及びエレクトロクロミック層23を円形としている。この形状は、特定の方向に偏らずに多様なレンズ形状に対応しやすいという汎用性の高さにおいて優れている。しかし、想定されるレンズ形状にある程度共通する形状的特徴が存在する場合には、当該形状的特徴を反映した非円形(例えば、楕円形など)の形状に調光領域やエレクトロクロミック層を設定することも可能である。
【0073】
上記実施形態の調光レンズ11,12は、レンズ30の表面(凸面)上にエレクトロクロミック素子19を重ねた構造である。これとは異なり、厚み方向でレンズの内部にエレクトロクロミック素子を配した(挟んだ)構造の調光レンズであってもよい。
【0074】
エレクトロクロミック素子19(エレクトロクロミック積層体20,120)を構成する各部分は、上述した以外の材料で形成してもよい。例えば、基板を合成樹脂製に代えてガラス製としてもよい。また、エレクトロクロミック材料を、上述した無機系材料に代えて有機系材料としてもよい。
【0075】
上記実施形態では、調光レンズ11,12を構成する電子素子としてエレクトロクロミック素子19を適用しているが、エレクトロクロミック素子以外の電子素子への適用も可能である。例えば、液晶素子や電気泳動素子などは、電気エネルギーの供給によって光物性を変化させる点でエレクトロクロミック素子と共通している。従って、液晶素子や電気泳動素子を電子素子として用いる電子調光装置でも、電極を含む電子素子の製造において上述した技術を適用することで、同様の効果が得られる。なお、本発明における「調光」とは、このような様々な電子素子が光学素子に及ぼす光学的な効果全般を意味しており、狭義の光透過性(光透過率)や色の変更に限定されるものではない。例えば、光学機器における液晶素子を用いた情報表示(スーパーインポーズ)なども調光の一形態となる。
【0076】
上記実施形態の電子調光眼鏡10は、調光レンズ11,12の形状選択の自由度から、本発明の有用性が特に高いものである。しかし、本発明を、電子調光眼鏡以外の電子調光装置に適用することも可能である。例えば、窓用の電子調光ガラス(電子ブラインド)や、携帯電子機器のディスプレイ用のプライバシーフィルタなどにも適用が可能である。この場合、窓ガラスやディスプレイのカバーガラスなどが、本発明における光学素子となる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明を適用することにより、多種多様な形状の調光用の電子素子を効率良く製造することができ、電子調光眼鏡などの電子調光装置の生産性向上や製造コスト抑制が可能になる。