(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】危険物タンクの設置方法
(51)【国際特許分類】
B65D 90/22 20060101AFI20241009BHJP
B65D 88/76 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
B65D90/22 Z
B65D88/76
(21)【出願番号】P 2019096186
(22)【出願日】2019-05-22
【審査請求日】2022-04-21
【審判番号】
【審判請求日】2023-10-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宇多 慎治
(72)【発明者】
【氏名】小西 克文
(72)【発明者】
【氏名】家島 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中本 健二
(72)【発明者】
【氏名】清重 直也
(72)【発明者】
【氏名】吉次 真一
(72)【発明者】
【氏名】田中 雅章
【合議体】
【審判長】居島 一仁
【審判官】古屋野 浩志
【審判官】西田 秀彦
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-218086(JP,A)
【文献】特開2006-193945(JP,A)
【文献】特開2004-248513(JP,A)
【文献】特開2014-125420(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 90/22
B65D 88/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリンカアッシュの粒体から、単位体積質量が0.8g/cm
3以上1.3g/cm
3以下であり、含水率が15%以上60%以下であり、かつ、pHが10以上14以下となるクリンカアッシュの粒体を、充填材として選定する選定ステップと、
危険物が貯蔵される危険物タンクを容器内に設置する設置ステップと、
前記危険物タンクが配置された容器内に、
不可避的不純物を除けば前記クリンカアッシュのみを含む、選定した前記充填材を充填する充填ステップと、
を有する、危険物タンクの設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、危険物タンク用の充填材、危険物タンク構造、及び危険物タンクの設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
可燃性物質などの危険物が貯蔵される危険物タンクは、地下に配置される場合がある。例えば特許文献1には、危険物が貯蔵される危険物タンクの周囲に、土砂や砂などを充填する旨が記載さえている。また、「危険物の規制に関する規則」では、危険物タンクを地下に配置する場合に、危険物タンクをコンクリートなどの容器内に設置し、危険物タンクが設置された容器内に乾燥砂で充填させる旨が記載されている。また、乾燥砂の代わりに、人工軽量骨材を用いる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、土砂や砂は比重が高いため、特許文献1のように危険物タンクの充填に土砂や砂などを用いると、危険物タンクに作用する外圧が高くなるおそれがある。危険物タンクに作用する外圧が高くなる場合、タンクの破損を抑制するため、高い外圧に備えて高強度な構造とする必要などが生じる。また、乾燥砂は、砂を乾燥させて水分を除去しているため、通常の砂より比重は軽くなるが、比重の低減には改善の余地がある。また、人工軽量骨材は乾燥砂より比重は軽いが、工程や材料の影響により、コストが高くなってしまう。以上より、危険物タンク用の充填材として、危険物タンクへの外圧を抑制しつつ、コストの増加を抑えるものが求められている。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために危険物タンクへの外圧を抑制しつつ、コストの増加を抑える危険物タンク用の充填材、危険物タンク構造、及び危険物タンクの設置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示の危険物タンク用の充填材は、危険物が貯蔵される危険物タンクが設置された容器に充填する充填材であって、前記充填材は、クリンカアッシュを含む。
【0007】
前記充填材は、不可避的不純物を除き、クリンカアッシュのみを含むことが好ましい。
【0008】
前記充填材は、単位体積質量が0.8gcm3以上1.3gcm3以下であることが好ましい。
【0009】
前記充填材は、pHが10以上であることが好ましい。
【0010】
前記充填材は、含水率が15%以上60%以下であることが好ましい。
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示の危険物タンク構造は、容器と、前記容器内に設置され、危険物が貯蔵される危険物タンクと、前記危険物タンクが設置された前記容器内に設けられる前記充填材と、を有する。
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示の危険物タンクの設置方法は、危険物が貯蔵される危険物タンクを容器内に設置する設置ステップと、前記危険物タンクが配置された容器内に、クリンカアッシュを含む充填材を充填する充填ステップと、を有する。
【0013】
本発明によれば、危険物タンクへの外圧を抑制しつつ、コストの増加を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る危険物タンク構造の模式図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る充填材の模式図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る危険物タンクの設置方法を説明するフローチャートである。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る危険物タンクの設置方法を説明する模式図である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係る危険物タンクの設置方法を説明する模式図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る危険物タンクの設置方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施例を組み合わせて構成するものも含むものである。
【0016】
図1は、本実施形態に係る危険物タンク構造の模式図である。
図1に示すように、本実施形態に係る危険物タンク構造1は、容器10と、固定部12と、危険物タンク14と、充填材16とを備える。危険物タンク構造1は、危険物が貯蔵される危険物タンク14を地下に配置するための構造である。すなわち、危険物タンク14を含む危険物タンク構造1は、地下Gに設けられる。危険物タンク構造1は、地下タンク貯蔵所と言い換えることもできる。
【0017】
容器10は、内部に危険物タンク14が設けられる中空の構造物である。容器10は、例えば、コンクリート製である。容器10は、内部に危険物タンク14が設けられるタンク室と言い換えることもできる。容器10は、地下Gに設けられる。
【0018】
固定部12は、容器10の内部に設けられる構造物である。固定部12は、容器10内で危険物タンク14を固定するものである。例えば、固定部12は、危険物タンク14の土台であってよい。ただし、固定部12は、容器10内で危険物タンク14を固定可能な構造であれば、土台に限られず任意の構造であってよい。
【0019】
危険物タンク14は、内部に危険物が貯蔵されるタンクである。危険物タンク14に貯蔵される危険物は、例えば消防法で定められる危険物を指し、引火性の液体などである。危険物タンク14は、例えば鋼鉄製の部材に防錆用の塗装が施されている。危険物タンク14は、容器10の内部に設けられる。危険物タンク14は、固定部12によって、容器10内で位置が固定される。危険物タンク14は、このように容器10内に収納されて地下Gに埋設される。
【0020】
図2は、本実施形態に係る充填材の模式図である。充填材16は、危険物タンク14が収納された容器10の内部に設けられる。充填材16は、
図2に示すように、複数の粒子20を含む粒体である。粒子20は、石炭灰であり、さらに言えばクリンカアッシュである。すなわち、充填材16は、クリンカアッシュを含むものである。さらに言えば、本実施形態においては、充填材16は、粒子20と不可避的不純物とで構成されることが好ましい。すなわち、充填材16は、不可避的不純物を除けば、粒子20のみを含むことが好ましい。言い換えれば、充填材16は、不可避的不純物を除けば、クリンカアッシュのみを含むことが好ましい。
【0021】
充填材16(粒子20)は、乾燥砂よりも最大乾燥密度が小さい。具体的には、充填材16(粒子20)は、最大乾燥密度が、0.8g/cm3以上1.3g/cm3以下であることが好ましい。ここでの最大乾燥密度は、いわゆる見掛け密度であり、例えば、JIS A1210で規定する密度試験方法で測定したものであってよい。
【0022】
また、充填材16(粒子20)は、弱アルカリ性であることが好ましい。具体的には、充填材16(粒子20)は、pHが、10以上であることが好ましく、14以下であることが好ましい。ここでの充填材16(粒子20)のpHは、例えば、充填材16(粒子20)と接した水のpH値を指す。さらに言えば、充填材16(粒子20)のpHは、JGS0211の土縣濁液のpH試験方法で測定した場合のpHの値を指してよい。
【0023】
また、充填材16(粒子20)は、含水率が、乾燥砂より大きいことが好ましい。すなわち、乾燥砂のように水を除去する乾燥工程を経ずに充填材16(粒子20)を得ることが好ましい。充填材16(粒子20)は、質量基準の含水率が、15%以上60%以下であることが好ましい。充填材16(粒子20)の含水率は、例えば、JIS A1210に規定された方法で測定した場合の値を指す。
【0024】
危険物タンク構造1は、以上のような構成となっている。次に、危険物タンク構造1における危険物タンク14の設置方法について説明する。
図3は、本実施形態に係る危険物タンクの設置方法を説明するフローチャートである。
図4から
図6は、本実施形態に係る危険物タンクの設置方法を説明する模式図である。
【0025】
危険物タンク14の設置する場合、最初に、充填材選定ステップを実行する(ステップS10)。充填材選定ステップは、容器10に充填する充填材16を選定する工程である。充填材選定ステップにおいては、例えば、クリンカアッシュの粒体から、単位体積質量が、0.8g/cm3以上1.3g/cm3以下となるクリンカアッシュの粒体を選定する。また、充填材選定ステップにおいては、例えば、含水率が15%以上60%以下となるクリンカアッシュの粒体を選定する。また、充填材選定ステップにおいては、クリンカアッシュの粒体から、弱アルカリ性となるクリンカアッシュの粒体、pHが10以上14以下となるクリンカアッシュの粒体を選定する。充填材選定ステップにおいては、このようにして選定したクリンカアッシュの粒体を、容器10に充填する充填材16とする。
【0026】
例えば、充填材選定ステップにおいては、ロット毎、すなわち所定量のクリンカアッシュの粒体毎に、単位体積質量、pH、気孔率、含水率を測定する。そして、単位体積質量、pH、気孔率、含水率の全てについて上記の数値範囲を満たすロットのクリンカアッシュを、容器10に充填する充填材16として選定する。ただし、充填材選定ステップにおいては、単位体積質量、pH、気孔率、含水率の全てについて調べなくてもよい。充填材選定ステップにおいては、単位体積質量、pH、気孔率、含水率の少なくとも1つを測定して、その測定結果が上記の数値範囲を満たせば、そのロットのクリンカアッシュを、容器10に充填する充填材16として選定してよい。例えば、充填材選定ステップにおいては、pHのみを測定して、pHの測定結果が上記の数値範囲を満たせば、そのロットのクリンカアッシュを、容器10に充填する充填材16として選定してよい。クリンカアッシュは、単位体積質量、pH、気孔率、含水率のうち、特にpHが規定を満たさない場合が想定されるため、充填材選定ステップで弱アルカリ性のものを選定しておくことで、選定の負荷を低減しつつ、有用な充填材16を用いることができる。
【0027】
このように、充填材選定ステップを行うことで有用な充填材16を用いることができるが、充填材選定ステップは必須の工程ではない。すなわち、充填材選定ステップを実行せず、納品されてきたクリンカアッシュをそのまま充填材16として用いてもよい。
【0028】
次に、設置ステップを実行する(ステップS12)。設置ステップにおいては、
図4に示すように、地上に掘られた穴Hに、鉛直方向上方が開放された容器10を設置する。そして、容器10内に危険物タンク14を設置して、危険物タンク14を固定部12で固定する。これにより、地下Gにおいて、容器10内に危険物タンク14が設置される。
【0029】
次に、
図3に示す充填ステップを実行する(ステップS14)。充填ステップにおいては、
図5に示すように、容器10の鉛直方向上方の開放された箇所から、危険物タンク14が設置された容器10内に、充填材16を投入する。これにより、危険物タンク14が設置された容器10内は、充填材16が充填される。なお、本実施形態においては、充填ステップで用いる充填材16は、充填材選定ステップで選定された充填材16に対し、乾燥させるなどの処理を加えない。
【0030】
次に、
図3に示す埋設ステップを実行する(ステップS16)。埋設ステップにおいては、
図6に示すように、危険物タンク14が設置されて充填材16が充填された容器10の鉛直方向上方の開放された部分を蓋で閉じる。これにより、容器10内を密閉する。そして、容器10の上に土砂を堆積させることで、容器10を地下に埋設する。これにより、地下Gへの危険物タンク14の設置が終了し、危険物タンク構造1が完成する。
【0031】
ここで、容器10内に危険物タンク14を設置して地下Gに埋設する際に、容器10内に乾燥砂を充填する場合がある。乾燥砂は、砂を乾燥させたものなので、水分が除去されている分、通常の砂よりも単位体積質量が小さい。しかし、乾燥砂でも、単位体積質量が例えば1.6g/cm3程度になり、単位体積質量が十分に小さくなっているとはいえない。単位体積質量が高いと、危険物タンク14に作用する外部からの圧力(外圧)が大きくなるため、危険物タンク14が破損するおそれが生じたり、高い外圧に備えて危険物タンク14を高強度な構造とするために、コスト増となるおそれが生じたりする。一方、容器10内に人工軽量骨材を充填することも考えられる。人工軽量骨材は、乾燥砂より単位体積質量が低いため危険物タンク14への外圧を低減できるが、材料や工程に起因してコストが高くなるおそれがある。
【0032】
それに対し、本実施形態においては、危険物タンク14が設置された容器10に充填する充填材として、クリンカアッシュを含む充填材16を用いる。クリンカアッシュは、乾燥砂などに比べ、単位体積質量が小さい傾向にあるため、充填材16を用いることで、危険物タンク14に作用する外圧を抑制できる。さらに、クリンカアッシュは、石炭を燃焼させた時に発生する石炭灰であるため、高額の材料ではない。従って、クリンカアッシュを充填材16として用いることで、危険物タンク14に作用する外圧を抑制しつつ、コストの増加を抑えることができる。また、クリンカアッシュは、石炭を燃焼させた時に発生する石炭灰であり、例えば火力発電所の副産物であるため、これを再利用することが可能となり、環境負荷を低減することもできる。
【0033】
また、充填材16は、不可避的不純物を除き、クリンカアッシュのみを含むことが好ましい。充填材16をクリンカアッシュのみとすることで、危険物タンク14に作用する外圧を抑制しつつ、コストの増加を抑えることができる。
【0034】
また、充填材16は、単位体積質量が0.8gcm3以上1.3gcm3以下であることが好ましい。このように単位体積質量が小さい充填材16を用いることで、危険物タンク14に作用する外圧を抑制できる。
【0035】
また、充填材16は、pHが10以上14以下であることが好ましい。危険物タンク14は、容器10で密閉されることで、外部からの水分の侵入が抑えられ、錆が抑制されている。また、防錆用の塗装を行うことでも、錆が抑制される。このように錆対策が施されているが、例えば容器10に生じた亀裂から水が侵入した場合なども想定され、錆対策についても改善の余地がある。それに対し本実施形態においては、充填材16が弱アルカリ性のクリンカアッシュであるため、危険物タンク14の周りに水分が存在したとしても、水が弱アルカリ性となるため、錆の生成が抑えられる。このように、充填材16として弱アルカリ性のクリンカアッシュを用いることで、錆を適切に抑えることができる。さらに、充填材16が弱アルカリ性であるため、充填材16が水分を多少含んでいても、その水分による錆の発生も抑えられる。従って、乾燥砂などのように、乾燥工程を行う必要がなくなるため、工程の簡略化及びコスト増加を抑えることができる。
【0036】
また、充填材16は、含水率が15%以上60%以下であることが好ましい。クリンカアッシュを充填材とすることで、このような含水率となる程度の水分を含んでいても、錆を抑えることが可能となる。このような充填材16を用いることで、例えば乾燥させる工程が不要となり、工程の簡略化及びコスト増加を抑えることができる。
【0037】
また、本実施形態に係る危険物タンク構造1は、容器10と、容器10内に設置され危険物が貯蔵される危険物タンク14と、危険物タンク14が設置された容器10内に設けられる充填材16と、を有する。危険物タンク構造1は、危険物タンク14が設置された容器10内にこのような充填材16を設けることで、危険物タンク14に作用する外圧を抑制しつつ、コストの増加を抑えることができる。
【0038】
また、本実施形態に係る危険物タンク14の設置方法においては、危険物が貯蔵される危険物タンク14を容器10内に設置する設置ステップS12と、危険物タンク14が配置された容器10内に、クリンカアッシュを含む充填材16を充填する充填ステップS14と、を有する。容器10内にこのような充填材16を充填することで、危険物タンク14に作用する外圧を抑制しつつ、コストの増加を抑えることができる。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、これら実施形態の内容によりこの発明が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0040】
1 危険物タンク構造
10 容器
12 固定部
14 危険物タンク
16 充填材