(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】誘導機の回転を判断する装置および方法
(51)【国際特許分類】
H02P 21/18 20160101AFI20241009BHJP
H02P 21/22 20160101ALI20241009BHJP
【FI】
H02P21/18
H02P21/22
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020065542
(22)【出願日】2020-04-01
【審査請求日】2023-03-15
(32)【優先日】2019-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505462622
【氏名又は名称】ダンフォス アクチ-セルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】アンッシ,シネルヴォ
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-274900(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0098472(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第01536552(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P21/00-25/03
25/04
25/10-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置(101)であって、
-誘導機(105)の固定子電圧(uu、uv、uw)を制御して、前記誘導機の固定子に対して方向が一定の電圧空間ベクトルを構成し、
-前記電圧空間ベクトルの長さを制御して、前記
誘導機の固定子電流
(iu、iv、iw)によって構成された電流空間ベクトルが所定の長さを有
し、前記所定の長さが前記誘導機の公称電流のピーク値の30%~100%の範囲内である、または前記電流空間ベクトルがd成分を有し、前記d成分が前記誘導機の公称電流のピーク値の20%~70%の範囲内であるという条件を満たすように前記誘導機の固定子電流(iu、iv、iw)を調節し、
-電流空間ベクトルのq成分の波形に基づいて、前記誘導機の回転子(106)の回転速度、前記回転子の回転方向の少なくとも一方を推定する
ように構成された1つ以上のプロセッサ回路を用いて実行される処理システム(102)を備え、
前記電流空間ベクトルの
前記d成分は前記電圧空間ベクトルに平行であり、前記電流空間ベクトルの前記q成分は前記電圧空間ベクトルに垂直であることを特徴とする、装置(101)。
【請求項2】
前記処理システムは、前記固定子電流に関する前記条件を満たした最初の時点での前記電流空間ベクトルの前記q成分の変化方向を検知するように、かつ前記検知した変化方向に基づいて前記回転方向を判断するように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記処理システムは、前記固定子電流に関する前記条件を満たした最初の時点の後に発生する前記電流空間ベクトルの前記q成分の前記波形の最初の局所極値の極性を検知するように、かつ前記検知した極性に基づいて前記回転方向を判断するように構成される、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記処理システムは、前記固定子電流に関する前記条件を満たした最初の時点から、前記電流空間ベクトルの前記q成分の前記波形が前記固定子電流に関する前記条件を満たした最初の時点の後に最初の局所極値に達する瞬間までの経過時間を示す第1の時間値を測定するように、かつ前記測定した第1の時間値に基づいて前記回転速度を推定するように構成される、請求項1~3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記処理システムは、前記電流空間ベクトルの前記q成分の前記波形の2つの局所最大値の間または2つの局所最小値の間に経過した時間を示す少なくとも1つの第2の時間値を測定するように、かつ前記測定した少なくとも1つの第2の時間値に基づいて前記回転速度を推定するように構成される、請求項1~4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記処理システムは、前記電流空間ベクトルの前記q成分の前記波形に基づいて前記回転速度を推定し、続いて前記推定した回転速度で前記電流空間ベクトルを回転させるように前記固定子電圧を制御するように構成される、請求項1~5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記処理システムは、前記電流空間ベクトルが回転するときの前記固定子電圧、前記固定子電流、および固定子抵抗に基づいて、前記誘導機の空隙電力が流れる方向を推定するように、かつ前記推定した流れる方向が前記誘導機の前記回転子に向かっているときに前記電流空間ベクトルの前記回転速度を下げ、前記推定した流れる方向が前記誘導機の前記回転子から外れているときに前記電流空間ベクトルの前記回転速度を上げるように構成される、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記処理システムは、
-前記固定子電流に関する前記条件を満たした最初の時点の後で前記電流空間ベクトルの
前記q成分の前記波形が所定期間内に局所極値に達しているかどうかを監視し、
-前記電流空間ベクトルの前記q成分が前記所定期間内に局所極値に達していない状況に応答して、前記所定期間に発生した磁束を有する前記誘導機の挙動に基づいて、前記回転速度と前記回転方向の少なくとも一方を推定する
ように構成される、請求項1~7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
-誘導機(105)の固定子電圧を形成する変換器段(104)、
-少なくとも部分的に前記誘導機の固定子電流に基づいて前記固定子電圧を制御するコントローラ(103)、および
-前記誘導機の回転子(106)の回転速度と前記回転子の回転方向の少なくとも一方を推定する請求項1~
8のいずれか一項に記載の装置(101)
を含む、電子式電力変換器(100)。
【請求項10】
方法であって、前記方法は、
-誘導機(105)の固定子電圧(uu、uv、uw)を制御して、前記誘導機の固定子に対して方向が一定の電圧空間ベクトルを構成すること(301)、
-前記電圧空間ベクトルの長さを制御して、前記誘導機の固定子電流(iu、iv、iw)を調節して、前記固定子電流によって構成された電流空間ベクトルが所定の長さを有
し、前記所定の長さが前記誘導機の公称電流のピーク値の30%~100%の範囲内である、または前記電流空間ベクトルがd成分を有し、前記d成分が前記誘導機の公称電流のピーク値の20%~70%の範囲内であるという条件を満たすこと(302)、および
-前記電流空間ベクトルのq成分の波形に基づいて、前記誘導機の回転子(106)の回転速度と前記回転子の回転方向の少なくとも一方を推定すること(303)
を含み、
前記電流空間ベクトルの
前記d成分は前記電圧空間ベクトルに平行であり、前記電流空間ベクトルの前記q成分は前記電圧空間ベクトルに垂直である
ことを特徴とする、方法。
【請求項11】
コンピュータプログラムであって、前記コンピュータプログラムは、
-誘導機(105)の固定子電圧(uu、uv、uw)を制御して、前記誘導機の固定子に対して方向が一定の電圧空間ベクトルを構成し、
-前記電圧空間ベクトルの長さを制御して前記誘導機の固定子電流(iu、iv、iw)を調節し、前記固定子電流によって構成された電流空間ベクトルが所定の長さを有
し、前記所定の長さが前記誘導機の公称電流のピーク値の30%~100%の範囲内である、または前記電流空間ベクトルがd成分を有し、前記d成分が前記誘導機の公称電流のピーク値の20%~70%の範囲内であるという条件を満たし、
-前記電流空間ベクトルのq成分の波形に基づいて、前記誘導機の回転子(106)の回転速度と前記回転子の回転方向の少なくとも一方を推定する
ようにプログラム可能なプロセッサを制御するためにコンピュータで実行可能な命令を含み、
前記電流空間ベクトルの
前記d成分は前記電圧空間ベクトルに平行であり、前記電流空間ベクトルの前記q成分は前記電圧空間ベクトルに垂直である
ことを特徴とする、コンピュータプログラム。
【請求項12】
請求項
11に記載のコンピュータプログラムで符号化された不揮発性コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、誘導機の回転速度および/または回転方向を推定する装置および方法に関する。本装置は、誘導機が回転速度および/または回転方向を磁束ベースで判断するための磁束を十分に有していない場合に使用可能である。さらに、本開示は、誘導機を駆動するための電子式電力変換器に関する。さらに、本開示は、誘導機の回転速度および/または回転方向を推定するためのコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
多くの場合、回転速度が測定されず、回転速度および/または回転方向を磁束ベースで判断するための磁束を十分に有していない回転誘導機には動力を加える必要がある。この種の状況は、タコメータまたは他の速度測定手段がない場合の使用法、および回転子が回転を停止する前なのに磁束が消えてしまった後に電源がオフになった後に誘導機が再稼働する場合の使用法で起こる。前述の類の使用法では、誘導機に供給する装置、例えば電子式電力変換器などが、回転電圧空間ベクトルを構成する電圧で誘導機を磁化する。電圧空間ベクトルの回転方向および/または回転速度が回転子の回転方向および回転速度とあまりにも異なる場合、高電流が発生する可能性があり、これは誘導機および/または誘導機に供給する装置を損傷するおそれがある。電圧空間ベクトルと誘導機の回転子の回転方向が逆の場合、状況は特に困難になることがある。したがって、回転電圧空間ベクトルを構成する電圧で誘導機の磁化を開始する前に、回転子の回転方向を推定し、有利には回転子の回転速度も推定する必要がある。
【0003】
誘導機の回転速度および/または回転方向を推定する公知の方法は、誘導機の固定子巻線に直流電流パルスを供給することと、回転の方向および速度に依存する固定子の電圧を測定することとを含む。この方法に関わる課題は、固定子電圧の回転依存成分が小さいこと、そして固定子電圧にはスイッチングリップルがあるほか、固定子の抵抗および固定子の浮遊インダクタンスに関連する他の成分もあることである。そのため、前述の固定子電圧に基づいて回転速度および/または回転方向を十分確実に推定することは困難である。
【0004】
特開2007‐274900および欧州特許第1536552号には、フリーランニング誘導機の回転速度および回転方向を判断する方法が記載されている。この方法は、誘導機の固定子の第1の空間ベクトル方向に直流電流を供給し、第1の空間ベクトル方向に垂直な第2の空間ベクトル方向に誘導された電流の挙動を検知することに基づいている。
【0005】
米国特許第2012098472号には、回転するモータを作動させるためのモータコントローラの機構が記載されている。モータに電力を供給するために電源セクションが構成される。電源セクションを制御するために制御装置が構成される。制御装置は、小さい励起電圧をモータに印加することによってモータのモータ周波数を調べるように構成され、励起電圧は、最初に最大周波数である電圧周波数で印加される。制御装置は、モータ周波数が同等の速度コマンドを下回るまでモータ周波数を追跡し、モータにより高い電圧を印加することによってモータを作動させるように構成される。
【0006】
欧州特許第1049243号には、固定子電圧ベクトルを判断する手段、固定子巻線の電流ベクトルを測定する手段、電流ベクトルおよび電圧ベクトルに基づいて推定した固定子磁束ベクトルまたはモデルの固定子磁束ベクトルを導出する手段、ならびに磁束ベクトルに基づいて固定子電流ベクトルの需要値を導出する手段を含むシステムが記載されている。電流調整器が、固定子電流を調節して需要値になるように固定子電圧ベクトルの値を生成する。
【0007】
Kondo Keiichiroの文献:「Re-stating technologies for rotational sensorless controlled AC motors at the rotating status」、2015年第10回アジア制御会議(ASCC)、IEEE、2015年5月31日、第1~6頁には、誘導機と永久磁石同期機の両方に対する回転センサレス制御方法に関連する再稼働方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2007‐274900
【文献】欧州特許第1536552号
【文献】米国特許第2012098472号
【文献】欧州特許第1049243号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Kondo Keiichiro:“Re-stating technologies for rotational sensorless controlled AC motors at the rotating status”,2015 10th Asian Control Conference (ASCC),IEEE,31 May 2015,pages 1-6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以下は、発明の様々な実施形態のいくつかの態様の基本的な理解をしてもらうために簡略化した概要を提示するものである。この概要は、本発明の広範囲に及ぶ全体像ではない。本発明の要点または重要な要素を特定することも本発明の範囲を線引きすることも意図してはない。以下の概要は、本発明のいくつかの概念を、本発明の例示的かつ非限定的な実施形態のさらに詳細な説明の前置きとして簡略化した形態で提示しているにすぎない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、誘導機が回転速度および/または回転方向を磁束ベースで判断するための磁束を十分に有していない場合に誘導機の回転速度および/または回転方向を推定する新規な装置が提供される。本発明による装置は、
-誘導機の固定子電圧を制御して、誘導機の固定子に対して方向が一定の電圧空間ベクトルを構成し、
-電圧空間ベクトルの長さを制御して誘導機の固定子電流を調節し、固定子電流によって構成された電流空間ベクトルが所定の長さを有するという条件を満たし、
-電流空間ベクトルのq成分の波形に基づいて、誘導機の回転子の回転速度と回転子の回転方向の少なくとも一方を推定する
ように構成された1つ以上のプロセッサ回路を用いて実行される処理システムを備え、
電流空間ベクトルのd成分は電圧空間ベクトルに平行であり、電流空間ベクトルのq成分は電圧空間ベクトルに垂直である。
【0012】
固定子電流は、本質的には誘導機の巻線によってフィルター処理されるため、電圧に基づいた方法と比較して、電流空間ベクトルのq成分の波形に基づいて誘導機の回転速度および/または回転方向の十分に信頼できる推定値を形成しやすい。
【0013】
本発明によれば、
-誘導機の固定子電圧を形成する変換器段、
-少なくとも部分的に誘導機の固定子電流に基づいて固定子電圧を制御するコントローラ、および
-誘導機の回転子の回転速度と回転子の回転方向の少なくとも一方を推定する本発明による装置
を含む新規な電子式電力変換器も提供される。
【0014】
本発明によれば、誘導機が回転速度および/または回転方向を磁束ベースで判断するための磁束を十分に有していない場合に誘導機の回転速度および/または回転方向を推定する新規な方法も提供される。本発明による方法は、
-誘導機の固定子電圧を制御して、誘導機の固定子に対して方向が一定の電圧空間ベクトルを構成すること、
-電圧空間ベクトルの長さを制御して誘導機の固定子電流を調節し、固定子電流によって構成された電流空間ベクトルが所定の長さを有するという条件を満たすこと、および
-電流空間ベクトルのq成分の波形に基づいて、誘導機の回転子の回転速度と回転子の回転方向の少なくとも一方を推定すること
を含む。
【0015】
本発明によれば、誘導機が回転速度および/または回転方向を磁束ベースで判断するための磁束を十分に有していない場合に誘導機の回転速度および/または回転方向を推定する新規なコンピュータプログラムも提供される。本発明によるコンピュータプログラムは、
-誘導機の固定子電圧を制御して、誘導機の固定子に対して方向が一定の電圧空間ベクトルを構成し、
-電圧空間ベクトルの長さを制御して、固定子電流によって構成された電流空間ベクトルが所定の長さを有するという条件を満たすように誘導機の固定子電流を調節し、
-電流空間ベクトルのq成分の波形に基づいて、誘導機の回転子の回転速度と回転子の回転方向の少なくとも一方を推定する
ようにプログラム可能なプロセッサを制御するためにコンピュータで実行可能な命令を含む。
【0016】
本発明によれば、新規なコンピュータプログラム製品も提供される。コンピュータプログラム製品には、不揮発性コンピュータ可読媒体、例えば本発明によるコンピュータプログラムで符号化されたコンパクトディスク「CD」が含まれる。
【0017】
様々な例示的かつ非限定的な実施形態を添付の従属請求項に記載している。
【0018】
構造と動作方法の両方の点に関する例示的かつ非限定的な実施形態は、その追加の目的および利点と共に、添付の図面と併せて読むと、以下の特定の例示的な実施形態の説明から最もよく理解される。
【0019】
「備える」および「含む」という動詞は、本明細書では、記載していない特徴の存在を排除することも必要とすることもない開かれた限定として使用している。従属請求項に記載した特徴は、特に明記しない限り、互いに自由に組み合わせ可能である。さらに、本明細書全体を通して「a」または「an」、すなわち単数形の使用は、複数形を排除するものではないことを理解されたい。
【0020】
例示的かつ非限定的な実施形態およびその利点を添付の図面を参照して以下にさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】誘導機が回転速度および/または回転方向を磁束ベースで判断するための磁束を十分に有していない場合に誘導機の回転速度および/または回転方向を推定する例示的かつ非限定的な実施形態による装置を備えている電子式電力変換器を示す図である。
【
図2a】例示的かつ非限定的な実施形態による装置の機能のブロック図である。
【
図2b】別の例示的かつ非限定的な実施形態による装置の機能のブロック図である。
【
図3】誘導機が回転速度および/または回転方向を磁束ベースで判断するための磁束を十分に有していない場合に誘導機の回転速度および/または回転方向を推定する例示的かつ非限定的な実施形態による方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下の説明に記載した具体的な例を、添付の請求項の範囲および/または適応性を限定するものと解釈してはならない。以下の説明に記載した例の一覧および集まりは、特に明記されていない限り徹底的なものではない。
【0023】
図1は、例示的かつ非限定的な実施形態による電子式電力変換器100を示している。電子式電力変換器100は、誘導機105の固定子電圧を形成するための変換器段104を含む。誘導機105の相数は、証明目的の場合は3つだが、別の相数も可能である。
図1では、固定子の相電圧は、u
u、u
v、およびu
wと表記されている。
図1に示した例示的な事例では、電子式電力変換器100の入力電圧は、直流の「DC」電圧U
DCである。入力電圧が、例えば三相交流の「AC」電圧であることも可能である。この例示的な事例では、電子式電力変換器は、例えば整流器および整流器と変換器段104との間のDC電圧中間回路を備えていてよい。変換器段104は、DC電圧U
DCを固定子電圧u
u、u
v、およびu
wに変換するために例えばパルス幅変調「PWM」を用いるように構成され得る。ただし、変換器段104は、例えば三相入力AC電圧から誘導機105の固定子電圧u
u、u
v、およびu
wへの直接変換を実行するためのマトリクス変換器段であることも可能である。電子式電力変換器100はさらに、誘導機105の固定子電圧u
u、u
v、およびu
wを制御するコントローラ103を備えている。
図1では、コントローラ103によって変換器段104に供給される一連のスイッチ制御値は、sで表記されている。コントローラ103は、1つ以上のベクトル制御モードと1つのスカラー制御モードなどの異なる制御モードを実施する手段を含んでいてよい。ベクトル制御モードでは、少なくとも部分的に、コントローラ103は、誘導機105の固定子電流i
uおよびi
vと、機械のパラメータ、すなわち誘導機105のインダクタンスおよび抵抗とに基づいて、固定子電圧u
u、u
v、およびu
wを制御してよい。
図1に示した例示的な状況では、固定子電流i
u、i
v、およびi
wの和はゼロであり、よってi
w=-i
u-i
vであるためコントローラ103に必要な固定子電流はi
uおよびi
vの2つのみであると仮定される。
【0024】
電子式電力変換器100はさらに、誘導機が回転速度ωrおよび/または回転方向を磁束ベースで判断するための磁束を十分に有していない場合に誘導機105の回転速度ωrおよび/または回転方向を推定する例示的かつ非限定的な実施形態による装置101を備えている。
【0025】
図2aは、処理システム102が誘導機105の回転速度ω
rおよび/または回転方向を推定しているときの装置101の処理システム102に相当する例示的な機能ブロック図を示している。処理システム102は、誘導機105の固定子電圧u
u、u
v、およびu
wを制御して、誘導機105の固定子に対して方向が一定の電圧空間ベクトルを構成するように構成される。電圧空間ベクトルは、(2/3)(u
u+au
v+a
2u
w)で定義され、式中a=(-1+j√3)/2であり、jは虚数単位である。
図2aでは、電圧空間ベクトルは方向が固定子に対して一定のため、電圧空間ベクトルの方向は、誘導機105の固定子に固定されているdq座標系のd軸で描かれている。そのため、電圧空間ベクトルはu
dである。処理システム102は、電圧空間ベクトルを基準固定子電圧u
uref、u
vref、およびu
wrefに変換する機能ブロック211を実施するように構成され、それによってu
uref=u
dcos(θ)、u
vref=u
dcos(θ-120°)、およびu
wref=u
dcos(θ-240°)となり、式中θは、dq座標系のd軸と固定子巻線の相uの磁気軸との間の角度である。角度θは、例えば電気度または電気ラジアンで表現され得る。
図1に示したコントローラ103で実施されている機能ブロック212が基準固定子電圧u
uref、u
vref、およびu
wrefを、変換器段104に送られるスイッチ制御値のセットsに変換する。
【0026】
処理システム102は、固定子電流iu、iv、およびiwで構成される電流空間ベクトルのd成分およびq成分を計算する機能ブロック213を実施するように構成され、以下のようになり、
id=(2/3)(iu-iv/2-iw/2)cos(θ)+(1/√3)(iv-iw)sin(θ)、および
iq=(1/√3)(iv-iw)cos(θ)-(2/3)(iu-iv/2-iw/2)sin(θ)
式中iw=-iu-ivであり、電流空間ベクトルのd成分idは電圧空間ベクトルに平行で、電流空間ベクトルのq成分iqは電圧空間ベクトルに垂直である。一般性を限定することなく、電圧空間ベクトルの固定方向は、相uの磁気軸の方向、すなわちθ=0となるように選択され得る。この例示的な事例では、
id=(2/3)(iu-iv/2-iw/2)およびiq=(1/√3)(iv-iw)
である。
【0027】
処理システム102は、電流空間ベクトルの長さiabsおよび電圧空間ベクトルの長さを制御する機能ブロック210を計算する機能ブロック217を実施するように構成され、それによって固定子電流iu、iv、およびiwは、電流空間ベクトルが所定の長さiabs,refを有するという条件を満たす。機能ブロック210は、例えば比例の「P」レギュレータ、比例および積分の「PI」レギュレータ、比例、積分、および微分の「PID」レギュレータ、または何らかの他の適切なレギュレータとすることができる。電流空間ベクトルの所定の長さiabs,refは、例えば誘導機105の公称電流のピーク値の30%~100%の範囲内とすることができる。
【0028】
処理システム102は、電流空間ベクトルのq成分iqの波形に基づいて回転方向および/または回転速度ωrを推定する機能ブロック214を実施するように構成される。回転方向および/または回転速度ωrを推定する例示的な方法を以下に説明する。
【0029】
例示的かつ非限定的な実施形態による装置では、処理システム102は、前述の条件i
abs=i
abs,refを満たした最初の時点でq成分i
qの変化方向を検知するように、かつ検知した変化方向に基づいて回転方向を判断するように構成される。q成分i
qが最初に
図2aに示した例示的な波形215で示したように下がれば、回転方向は正であると判断される。同様に、q成分i
qが最初に
図2aに示した例示的な波形216で示したように上がれば、回転方向は負であると判断される。
【0030】
例示的かつ非限定的な実施形態による装置では、処理システム102は、条件i
abs=i
abs,refを満たした最初の時点の後に発生するq成分i
qの波形の最初の局所極値の極性を検知するように、かつ検知した極性に基づいて回転方向を判断するように構成される。最初の局所極値が
図2aに示した例示的な波形215で示したように負であれば、回転方向は正であると判断される。同様に、最初の局所極値が
図2aに示した例示的な波形216で示したように正であれば、回転方向は負であると判断される。
【0031】
例示的かつ非限定的な実施形態による装置では、処理システム102は、条件iabs=iabs,refを満たした最初の時点からq成分iqの波形がその最初の局所極値に達する瞬間までの経過時間を示す第1の時間値T1を測定するように構成される。処理システム102は、ωr,estimate=π/T1/pとなるように、測定した第1の時間値T1に基づいて回転速度ωrを推定するように構成され、式中pは誘導機105の極性のペア数である。
【0032】
例示的かつ非限定的な実施形態による装置では、処理システム102は、q成分iqの波形の2つの連続する局所最大値の間または2つの連続する局所最小値の間に経過した時間を示す少なくとも1つの第2の時間値T2を測定するように構成される。処理システム102は、ωr,estimate=2π/T2/pとなるように、測定した第2の時間値T2に基づいて回転速度ωrの推定値を形成するように構成される。
【0033】
例示的かつ非限定的な実施形態による装置では、処理システム102は、前述した例示的な方法の2つ以上を適用して回転方向および/または回転速度ωを推定するように構成される。回転速度ωrの推定値は、q成分iqの波形の多くの局所最大値、および/または多くの局所最小値を観察することによってさらに正確なものにできるが、これには推定値を得るのに必要な時間が多くかかる。
【0034】
例示的かつ非限定的な実施形態による装置では、処理システム102は、1つ以上の前述した方法で回転速度ωrを推定し、続いて固定子電圧uu、uv、およびuwを制御するように構成され、それによって電流空間ベクトルは、推定した回転速度で回転する。電流空間ベクトルは、例えば電圧空間ベクトル(2/3)(uu+auv+a2uw)の長さを制御することによって電流空間ベクトル(2/3)(iu+aiv+a2iw)の長さを制御し、電圧空間ベクトルの回転速度を制御することによって電流空間ベクトルの回転速度を制御するように回転できる。
【0035】
例示的かつ非限定的な実施形態による装置では、処理システム102は、電流空間ベクトルが回転するときの固定子電圧uu、uv、およびuw、固定子電流iu、iv、およびiw、ならびに固定子抵抗に基づいて、誘導機105の空隙電力Pagが流れる方向を推定するように構成される。処理システム102は、推定した流れる方向が誘導機の回転子106に向かっているときに電流空間ベクトルの回転速度を下げ、推定した流れる方向が誘導機の回転子から外れているときに電流空間ベクトルの回転速度を上げるように構成される。誘導機105によって取り込まれた磁気エネルギーが実質的に一定であるとき、空隙電力を以下にように推定でき、
Pag=uuiu+uviv+uwiw-Rs(iu
2+iv
2+iw
2)
式中Rsは固定子抵抗である。推定した空隙電力が回転子に向かって流れる場合、誘導機105はモータとして作用し、回転速度の推定値、すなわち電流空間ベクトルの回転速度は大きすぎる。同様に、推定した空隙電力が回転子から外れて流れる場合、誘導機105は発電機として作用し、回転速度の推定値、すなわち電流空間ベクトルの回転速度は小さすぎる。
【0036】
例示的かつ非限定的な実施形態による装置では、処理システム102は、前述の条件iabs=iabs,refを満たした最初の時点の後でq成分iqの波形が所定期間内に局所極値に達しているかどうかを監視するように構成される。回転子が非常にゆっくりと回転しているためにq成分iqが前述の期間内に局所極値に達しない場合、回転子は固定子電流によって磁化され、前述の所定期間の後に磁化した回転子に対して適切な公知の測定検知方法を用いることができる。換言すると、処理システム102は、前述の所定期間内に達する局所極値がない状況に応答して、前述の所定期間に発生した磁束を有する誘導機105の挙動に基づいて回転速度ωrおよび/または回転方向を推定するように構成され得る。磁化した回転子の速度検知方法には、例えば、一連の固定子短絡を配置すること、固定子の短絡電流を測定すること、および測定して短絡電流に基づいて速度および/または回転方向を推定することが含まれてよい。
【0037】
図2bは、例示的かつ非限定的な実施形態による装置の処理システムに相当する例示的な機能ブロック図を示している。
図2bに示した機能ブロック図は、処理システムが誘導機105の回転速度ω
rおよび/または回転方向を推定したいるときの処理システムに相当する。この例示的な事例では、処理システムは、電圧空間ベクトルの長さを制御するように構成され、それによって固定子電流i
u、i
v、およびi
wは、電流空間ベクトルが所定のd成分i
d,refを有する、すなわちi
d=i
d,refという条件を満たす。電流空間ベクトルの所定のd成分i
d,refは、例えば誘導機105の公称電流のピーク値の20%~70%の範囲内であってよい。
図2bに示した機能ブロック210b、211b、212b、213b、および214bは、
図2aに示した機能ブロック210~211とそれぞれ同じようなものであってよい。電流空間ベクトルの長さは、
図2bで示した例示的な実施形態では計算されないため、
図2bに示した例示的な実施形態は、
図2aに示した例示的な実施形態よりも必要な計算が少ない。ただし状況によっては、例えば
図2aに示した例示的な実施形態を用いる場合は誘導機105の飽和状態をより良好に制御できるため、
図2aに示した例示的な実施形態の方が良好な結果になり得る。
【0038】
図1に示した処理システム102は、1つ以上のプロセッサ回路を用いて実行でき、各々のプロセッサ回路は、適切なソフトウェア、例えば特定用途向け集積回路「ASIC」などの専用のハードウェアプロセッサ、または例えばフィールドプログラマブルゲートアレイ「FPGA」などの構成可能なハードウェアプロセッサを備えたプログラム可能なプロセッサ回路であってよい。さらに、処理システムは、1つ以上の記憶装置を備えていてよく、各々の記憶装置は、例えばランダムアクセスメモリ「RAM」回路であってよい。多くの電子式電力変換器では、回転速度および/または回転方向を推定する例示的かつ非限定的な実施形態による装置は、電子式電力変換器の制御システムのハードウェアを用いて実行できる。
【0039】
前述の装置101は、
-誘導機の固定子電圧を制御して、誘導機の固定子に対して方向が一定の電圧空間ベクトルを構成する手段、
-電圧空間ベクトルの長さを制御して、以下の条件:a)固定子電流によって構成された電流空間ベクトルが所定の長さを有する、b)電流空間ベクトルは、電圧空間ベクトルと平行な所定のd成分を有する、のいずれか一方を満たすように誘導機の固定子電流を調節する手段、および
-誘導機の回転子の回転速度および/または回転子の回転方向を、電流空間ベクトルのq成分の波形に基づいて推定する手段であって、q成分は電圧空間ベクトルに垂直である、手段
を含む、装置の一例である。
【0040】
図3は、誘導機が回転速度および/または回転方向を磁束ベースで判断するための磁束を十分に有していない場合に、誘導機の回転速度および/または回転方向を推定するための例示的かつ非限定的な実施形態による方法のフローチャートを示している。本方法は、以下の行為:
-行為301:誘導機の固定子電圧を制御して、誘導機の固定子に対して方向が一定の電圧空間ベクトルを構成すること、
-行為302:電圧空間ベクトルの長さを制御して、以下の条件:a)固定子電流によって構成された電流空間ベクトルが所定の長さを有する、b)電流空間ベクトルは、電圧空間ベクトルと平行な所定のd成分を有する、のいずれか一方を満たすように誘導機の固定子電流を調節すること、および
-行為303:誘導機の回転子の回転速度および/または回転子の回転方向を、電流空間ベクトルのq成分の波形に基づいて推定することであって、q成分は電圧空間ベクトルに垂直であること
を含む。
【0041】
例示的かつ非限定的な実施形態による方法は、
-固定子電流に関する条件を満たした最初の時点での電流空間ベクトルのq成分の変化方向を検知すること、および
-検知した変化方向に基づいて回転方向を判断すること
を含む。
【0042】
例示的かつ非限定的な実施形態による方法は、
-固定子電流に関する条件を満たした最初の時点の後に発生する電流空間ベクトルのq成分の波形の最初の局所極値の極性を検知すること、および
-検知した極性に基づいて回転方向を判断すること
を含む。
【0043】
例示的かつ非限定的な実施形態による方法は、
-固定子電流に関する条件を満たした最初の時点から電流空間ベクトルのq成分の波形がその最初の局所極値に達する瞬間までの経過時間を示す第1の時間値を測定すること、および
-測定した第1の時間値に基づいて回転速度を推定すること
を含む。
【0044】
例示的かつ非限定的な実施形態による方法は、
-電流空間ベクトルのq成分の波形の2つの局所最大値の間または2つの局所最小値の間に経過した時間を示す少なくとも1つの第2の時間値を測定すること、および
-測定した少なくとも1つの第2の時間値に基づいて回転速度を推定すること
を含む。
【0045】
例示的かつ非限定的な実施形態による方法は、電流空間ベクトルのq成分の波形に基づいて回転速度を推定し、続いて推定した回転速度で電流空間ベクトルを回転させるように固定子電圧を制御することを含む。
【0046】
例示的かつ非限定的な実施形態による方法は、
-電流空間ベクトルが推定した回転速度で回転しているときの固定子電流、および固定子抵抗固定子電圧に基づいて、誘導機の空隙電力が流れる方向を推定すること、
-推定した流れる方向が誘導機の回転子に向かっているときに電流空間ベクトルの回転速度を下げること、および
-推定した流れる方向が誘導機の回転子から外れているときに電流空間ベクトルの回転速度を上げること
を含む。
【0047】
例示的かつ非限定的な実施形態による方法は、
-固定子電流に関する条件を満たした最初の時点の後で電流空間ベクトルのq成分の波形が所定期間内に局所極値に達しているかどうかを監視すること、および
-所定期間内に達する局所極値がない状況に応答して、所定期間に発生した磁束を有する誘導機の挙動に基づいて回転速度および/または回転方向を推定すること
を含む。
【0048】
例示的かつ非限定的な実施形態による方法では、固定子電流に関する条件は、電流空間ベクトルが所定の長さを有し、その所定の長さが誘導機の公称電流のピーク値の30%~100%の範囲内であることである。
【0049】
例示的かつ非限定的な実施形態による方法では、固定子電流に関する条件は、電流空間ベクトルが所定のd成分を有し、その所定のd成分が、誘導機の公称電流のピーク値の20%~70%の範囲内であることである。
【0050】
例示的かつ非限定的な実施形態によるコンピュータプログラムは、前述した例示的かつ非限定的な実施形態のいずれかによる方法に関する行為を実行するプログラム可能なプロセッサを制御するためにコンピュータで実行可能な命令を含む。
【0051】
例示的かつ非限定的な実施形態によるコンピュータプログラムは、誘導機が回転速度および/または回転方向を磁束ベースで判断するための磁束を十分に有していない場合に誘導機の回転速度および/または回転方向を推定するソフトウェアモジュールを含む。ソフトウェアモジュールは、
-誘導機の固定子電圧を制御して、誘導機の固定子に対して方向が一定の電圧空間ベクトルを構成し、
-電圧空間ベクトルの長さを制御して、以下の条件:a)固定子電流によって構成された電流空間ベクトルが所定の長さを有する、b)電流空間ベクトルは、電圧空間ベクトルと平行な所定のd成分を有する、のいずれか一方を満たすように誘導機の固定子電流を調節し、
-誘導機の回転子の回転速度および/または回転子の回転方向を、電流空間ベクトルのq成分の波形に基づいて推定し、q成分は電圧空間ベクトルに垂直である
ようにプログラム可能なプロセッサを制御するためにコンピュータで実行可能な命令を含む。
【0052】
前述したソフトウェアモジュールは、例えば、検討しているプログラム可能なプロセッサに適したプログラミング言語を用いて実行されるサブルーチンおよび/または機能であってよい。
【0053】
例示的かつ非限定的な実施形態によるコンピュータプログラム製品には、コンピュータ可読媒体、例えば例示的な実施形態によるコンピュータプログラムで符号化されたコンパクトディスク「CD」が含まれる。
【0054】
例示的かつ非限定的な実施形態による信号は、例示的な実施形態によるコンピュータプログラムを規定する情報を運ぶように符号化される。
【0055】
上記の説明に記載した非限定的で特定の例は、添付の請求項の範囲および/または適応性を限定するものと解釈してはならない。さらに、本明細書に提示した例の一覧およびまとまりは、特に明記されていない限り徹底的なものではない。
【符号の説明】
【0056】
100 電子式電力変換器
101 装置
102 処理システム
103 コントローラ
104 変換器段
105 誘導機
106 回転子
210、211、212、213、214、217 機能ブロック
210b、211b、212b、213b、214b 機能ブロック
215、216 波形
UDC DC電圧
uu、uv、uw 固定子電圧
iu、iv、iw 固定子電流
ωr 回転速度
s スイッチ制御値
ud、uq 電圧空間ベクトル
uuref、uvref、uwref 基準固定子電圧
iabs 電流空間ベクトルの長さ
iabs,ref 電流空間ベクトルの所定の長さ
id 電流空間ベクトルのd成分
iq 電流空間ベクトルのq成分