(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】偏光板及びその製造方法、ならびに光学機器
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20241009BHJP
G02B 1/115 20150101ALI20241009BHJP
G02B 5/22 20060101ALI20241009BHJP
G02F 1/1335 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
G02B5/30
G02B1/115
G02B5/22
G02F1/1335 510
(21)【出願番号】P 2020083839
(22)【出願日】2020-05-12
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】武田 吐夢
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-216957(JP,A)
【文献】特開2019-061226(JP,A)
【文献】特開2019-047392(JP,A)
【文献】特開2018-040888(JP,A)
【文献】米国特許第10775538(US,B2)
【文献】米国特許出願公開第2002/0191880(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G02B 1/115
G02B 5/22
G02F 1/1335
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤグリッド構造を有する偏光板であって、
透明基板と、
前記透明基板の第1の面に形成され、第1方向に延在し、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで互いに離間して周期的に配列する複数の凸部と、
前記透明基板の前記第1の面の反対側の第2の面に形成された反射防止層と、を備え、
前記複数の凸部はそれぞれ、前記透明基板側から順に、反射層と、第1の誘電体からなる誘電体層と、吸収層と、を有し、
前記凸部の表面と、前記反射防止層の表面は、第2の誘電体からなる保護膜に覆われており、
前記保護膜の膜厚は、2.5nm以下であり、
前記第1の誘電体からなる誘電体層がSiO
2
からなり、前記第2の誘電体からなる保護膜がAl
2
O
3
からなる、偏光板。
【請求項2】
前記反射防止層が高屈折率膜と低屈折率膜の交互積層体である、請求項
1に記載の偏光板。
【請求項3】
前記高屈折率膜がTiO
2からなり、前記低屈折率膜がSiO
2からなる、請求項
2に記載の偏光板。
【請求項4】
前記透明基板は、使用帯域の光の波長に対して透明であり、かつ、ガラス、水晶、石英、及びサファイアから構成される群から選択されたいずれかの材料から構成されている、請求項1~
3のいずれか一項に記載の偏光板。
【請求項5】
前記反射層は、アルミニウム又はアルミニウム合金で構成されている、請求項1~
4のいずれか一項に記載の偏光板。
【請求項6】
前記吸収層は、使用帯域の光の波長に対して吸収作用を有し、かつ、金属、合金材料及び半導体材料から構成される群から選択されたいずれかの材料から構成されている、請求項1~
5のいずれか一項に記載の偏光板。
【請求項7】
前記偏光板の表面は、有機系撥水膜により覆われている、請求項1~
6のいずれか一項に記載の偏光板。
【請求項8】
ワイヤグリッド構造を有する偏光板の製造方法であって、
透明基板の第1の面に、反射層、第1の誘電体からなる誘電体層及び吸収層を順に形成して、反射層、誘電体層及び吸収層からなる積層体を作製する工程と、
前記積層体を選択的にエッチングすることにより、第1方向に延在し、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで互いに離間して周期的に配列する複数の凸部を形成する工程と、
前記透明基板の前記第1の面の反対側の第2の面に、反射防止層を形成する工程と、
前記凸部の表面、及び、前記反射防止層の表面に、第2の誘電体からなる膜厚が2.5nm以下である保護膜を形成する工程と、を有し、
前記第1の誘電体からなる誘電体層がSiO
2
からなり、前記第2の誘電体からなる保護膜がAl
2
O
3
からなる、偏光板の製造方法。
【請求項9】
前記偏光板の表面に有機系撥水膜を形成する工程を有する、請求項
8に記載の偏光板の製造方法。
【請求項10】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の偏光板を備える光学機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板及びその製造方法、ならびに光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板は、一方向の偏光を吸収し、これと直交する方向の偏光を透過させる光学素子である。液晶表示装置では、原理上、偏光板が必要となる。特に、透過型液晶プロジェクタのような、光量の大きな光源を使用する液晶表示装置では、偏光板は強い輻射線を受けるため、優れた耐熱性や耐光性が必要となるとともに、数cm程度の大きさと、高い消光比および反射率特性の制御が要求される。これらの要求に応えるための、ワイヤグリッド型の無機偏光板が提案されている。
【0003】
ワイヤグリッド型の偏光板は、一方向に延在する導体のワイヤを基板上に、使用する光の波長の帯域よりも狭いピッチ(数十nm~数百nm)で多数並べて配置した構造を有する。この偏光板に光が入射すると、ワイヤの延在方向に平行な偏光(TE波(S波))は透過することができず、ワイヤの延在方向に垂直な偏光(TM波(P波))は、そのまま透過する。
【0004】
ワイヤグリッド型の偏光板は、耐熱性や耐光性に優れ、比較的大きな素子が作製でき、高い消光比を有している。また、多層構造とすることで反射率特性の制御も可能となり、偏光板の表面で反射された戻り光が液晶プロジェクタの装置内で再度反射されて生じる、ゴースト等による画質の劣化を低減させることから、液晶プロジェクタ等の用途に適している。
【0005】
これに対して、ワイヤグリッド型の偏光板として、種々の偏光板が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2016-536651号公報
【文献】特表2019-536074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1は、ワイヤグリッド偏光子(偏光板)の側壁に互いを補助し得るサイドバーを形成した偏光板、ならびにワイヤグリッド偏光子間を埋め込んだ偏光板、が開示されている。これによると、ワイヤグリッド偏光子の耐久性を向上させることができ、可視スペクトルにおいて良好な偏光特性が示された、と記載されている。しかしながら、高アスペクト比なワイヤグリッド偏光子を、サイドバーのみで耐久性を向上させるためには、おのずとサイドバー幅は太くなることで、透過率低下や反射率上昇など、良好な偏光特性は得られない。また、埋め込んだ場合も同様で、払拭できるくらいワイヤグリッド偏光子の耐久性は向上するが、より透過率低下や反射率上昇など、良好な偏光特性は得られない。
【0008】
特許文献2は、ワイヤグリッド偏光子(偏光板)の先端から側壁にかけてオーバーコート層を形成した偏光板、ならびにオーバーコート層上に反射防止層を形成した偏光板が開示されている。これによると、ワイヤグリッド偏光子は耐久性があり得、かつ高性能を有し得る、と記載されている。しかしながら、オーバーコート層によってワイヤグリッド偏光子を支持し倒壊を避けたとしても、空気層を含むことで透過率低下や反射率上昇など、高性能な偏光特性は得られない。また、その上に反射防止層を形成することで偏光特性は回復すると思われるが、反射防止層自体の耐久性向上は得られない。
【0009】
近年、照明・ディスプレイ光源は、ランプからLEDそしてレーザーへと進化しており、液晶プロジェクタにおいても、半導体レーザー(LD)を幾つも用いることで高光束とし、高輝度化を図っている。それにより、偏光板は、高光度な強い光の環境下においても耐えつつ、高い透過率特性が求められている。そのためには、保護膜を含めてグリッド構造を最適化した偏光板の提案が必要となる。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、保護膜を含めてグリッド構造を最適化することで、耐久性を維持しつつ透過軸方向の光透過特性が改善された、偏光板及びその製造方法、並びにその偏光板を備える光学機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0012】
(1)本発明の一態様に係る偏光板は、ワイヤグリッド構造を有する偏光板であって、透明基板と、前記透明基板の第1の面に形成され、第1方向に延在し、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで互いに離間して周期的に配列する複数の凸部と、前記透明基板の前記第1の面の反対側の第2の面に形成された反射防止層と、を備え、前記複数の凸部はそれぞれ、前記透明基板側から順に、反射層と、第1の誘電体からなる誘電体層と、吸収層と、を有し、前記凸部の表面と、前記反射防止層の表面は、第2の誘電体からなる誘電体層からなる保護膜に覆われている。
【0013】
(2)上記態様において、前記保護膜の膜厚は、2.5nm以下であってもよい。
【0014】
(3)上記態様において、前記保護膜の膜厚は、2.5nm以上であってもよい。
【0015】
(4)上記態様において、前記第1の誘電体からなる誘電体層がSiO2からなり、前記第2の誘電体からなる保護膜がAl2O3からなってもよい。
【0016】
(5)上記態様において、前記第2の誘電体からなる保護膜がALD膜であってもよい。
【0017】
(6)上記態様において、前記反射防止層が高屈折率膜と低屈折率膜の交互積層体であってもよい。
【0018】
(7)上記態様において、前記反射防止層が、イオンビームアシスト蒸着膜又はイオンビームスパッタリング膜であってもよい。
【0019】
(8)上記態様において、前記高屈折率膜がTiO2からなり、前記低屈折率膜がSiO2からなってもよい。
【0020】
(9)上記態様において、前記透明基板は、使用帯域の光の波長に対して透明であり、かつ、ガラス、水晶、石英、及びサファイアから構成される群から選択されたいずれかの材料から構成されていてもよい。
【0021】
(10)上記態様において、前記第1の誘電体からなる誘電体層は、Si酸化物、Ti酸化物、Zr酸化物、Al酸化物、Nb酸化物及びTa酸化物から構成される群から選択されたいずれかの材料から構成されていてもよい。
【0022】
(11)上記態様において、前記反射層は、アルミニウム又はアルミニウム合金で構成されていてもよい。
【0023】
(12)上記態様において、前記吸収層は、使用帯域の光の波長に対して吸収作用を有し、かつ、金属、合金材料及び半導体材料から構成される群から選択されたいずれかの材料から構成されていてもよい。
【0024】
(13)上記態様において、前記偏光板の表面は、有機系撥水膜により覆われていてもよい。
【0025】
(14)本発明の他の態様に係る偏光板の製造方法は、ワイヤグリッド構造を有する偏光板の製造方法であって、透明基板の第1の面に、反射層、第1の誘電体からなる誘電体層及び吸収層を順に形成して、反射層、誘電体層及び吸収層からなる積層体を作製する工程と、前記積層体を選択的にエッチングすることにより、第1方向に延在し、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで互いに離間して周期的に配列する複数の凸部を形成する工程と、前記透明基板の前記第1の面の反対側の第2の面に、反射防止層を形成する工程と、前記凸部の表面、及び、前記反射防止層の表面に、第2の誘電体からなる保護膜を形成する工程と、を有する。
【0026】
(15)上記態様において、前記保護膜は、2.5nm以下の膜厚で形成してもよい。
【0027】
(16)上記態様において、前記保護膜は、2.5nm以上の膜厚で形成してもよい。
【0028】
(17)上記態様において、前記偏光板の表面に有機系撥水膜を形成する工程を有してもよい。
【0029】
(18)本発明のさらに他の態様に係る光学機器は、上記態様の偏光板を備える。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、耐久性を維持しつつ透過軸方向の光透過特性が改善された偏光板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の一実施形態に係る偏光板の斜視模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る偏光板の断面模式図である。
【
図3】偏光板の寸法を説明するための断面模式図である。
【
図4】反射防止層が屈折率の異なる低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層された構成である場合の断面模式図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る偏光板にて、シミュレーションによって計算された、光学特性における透過軸透過率を示すグラフである。
【
図6】実施例1-1~1-3について、透過軸透過率を実測した結果を示すグラフである。
【
図7】本発明の一実施形態に係る偏光板にて、シミュレーションによって計算された透過軸透過率の波長帯域毎の平均透過軸透過率を示すグラフである。
【
図8】実施例1-1~1-3について、波長帯域毎の平均透過軸透過率を実測した結果を示すグラフである。
【
図9】本発明の一実施形態に係る偏光板にて、実際に作製し光学特性におけるコントラストを耐熱性評価によって比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0033】
[偏光板]
図1は、本発明の一実施形態に係る偏光板の斜視模式図である。
図1に示す偏光板100は、ワイヤグリッド構造を有する偏光板であって、透明基板10と、透明基板10の第1の面10aに形成された、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで配列し第1方向(Y方向)に延在する複数の凸部20と、透明基板10の第1の面10aの反対側の第2の面10bに形成された反射防止層30と、を備え、複数の凸部20のそれぞれの表面、及び、反射防止層30の表面はそれぞれ、誘電体からなる保護膜(図示せず)に覆われている。
【0034】
ここで、
図1に示すように、複数の凸部の延在する方向(第1方向)をY軸方向と称する。Y軸方向に直交し、透明基板の主面に沿って複数の凸部が配列する方向をX軸方向と称する。Y軸方向ならびにX軸方向に直交し、透明基板の主面に対して垂直な方向をZ軸方向と称する。なお、偏光板に入射する光は、透明基板の第1の面側でも第2の面側からでもよいのだが、好適には、
図1に例示するように、透明基板の複数の凸部が形成されている第1の面側(グリッド面側)において、X軸方向及びY軸方向に直交するZ軸方向から入射する。
【0035】
ワイヤグリッド構造を有する偏光板は、透過、反射、干渉、及び光学異方性による偏光波の選択的光吸収の4つの作用を利用することで、Y軸方向に平行な電界成分をもつ偏光波(TE波(S波))を減衰させ、X軸方向に平行な電界成分をもつ偏光波(TM波(P波))を透過させる。従って、
図1においては、Y軸方向が偏光板の吸収軸の方向であり、X軸方向が偏光板の透過軸の方向である。
【0036】
図2は、本発明の一実施形態に係る偏光板の断面模式図である。
図2に示す偏光板100は、透明基板10と、透明基板10の第1の面10aに形成され、第1方向に延在し、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで互いに離間して周期的に配列する複数の凸部20と、透明基板10の第1の面10aの反対側の第2の面10bに形成された反射防止層30とを備え、複数の凸部20は、透明基板10側から順に、反射層21と、第1の誘電体からなる誘電体層22と、吸収層23とを有し、複数の凸部20のそれぞれの表面20a、及び、反射防止層30の表面30aはそれぞれ、第2の誘電体からなる保護膜40A、40Bに覆われている。
なお、本発明の偏光板は、本発明の効果を発現する限りにおいて、透明基板と、反射層と、誘電体層と、吸収層と、保護膜と、反射防止層と、それ以外の層が存在していてもよい。
【0037】
図2に示される偏光板の複数の凸部が形成された側(グリッド面側)から入射した光は、吸収層及び誘電体層を通過する際に一部が吸収されて減衰する。吸収層及び誘電体層を透過した光のうち、偏光波(TM波(P波))は高い透過率で反射層を透過する。一方、吸収層及び誘電体層を透過した光のうち、偏光波(TE波(S波))は反射層で反射される。反射層で反射されたTE波は、吸収層及び誘電体層を通過する際に一部は吸収され、一部は反射して反射層に戻る。また、反射層で反射されたTE波は、吸収層及び誘電体層を通過する際に干渉して減衰する。以上のようにTE波の選択的減衰を行うことにより、偏光板は、所望の偏光特性を得ることができる。
【0038】
ここで本明細書における偏光板の寸法につき、
図3を用いて説明する。グリッドの高さhとは、
図3における透明基板の主面に垂直なZ軸方向の寸法であって、保護膜(高さ(厚さ)h1)を備えた複数の凸部の高さを意味する。幅wとは、保護膜を備えた複数の凸部の延びる方向に沿うY軸方向から見たときに、高さh方向に直交するX軸方向の寸法を意味する。また、偏光板を複数の凸部の延びる方向に沿うY軸方向から見たときに、複数の凸部のX軸方向の繰り返し間隔を、ピッチpと称する。
【0039】
本発明の偏光板において、複数の凸部のピッチpは、使用帯域の光の波長よりも短ければ特に制限されない。作製の容易性及び安定性の観点から、複数の凸部のピッチpは、例えば、100nm~200nmが好ましい。この複数の凸部のピッチpは、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡で観察することにより測定することができる。例えば、走査型電子顕微鏡又は透過型電子顕微鏡を用いて、任意の4箇所についてピッチpを測定し、その算術平均値を複数の凸部のピッチpとすることができる。以下、この測定方法を電子顕微鏡法と称する。
【0040】
本発明の偏光板は、グリッド先端からグリッド間を覆う保護膜の厚みならびに反射防止層上の保護膜の厚みを最適化することを特徴とする。これにより、耐久性を維持しつつ透過軸方向の光透過特性を良くすることが可能である。
【0041】
[透明基板]
透明基板10としては、使用帯域の光に対して透光性を示す基板であれば特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。「使用帯域の光に対して透光性を示す」とは、使用帯域の光の透過率が100%であることを意味するものではなく、偏光板としての機能を保持可能な透光性を示せばよい。使用帯域の光としては、例えば、波長380nm~810nm程度の可視光が挙げられる。透明基板の主面形状は特に制限されず、目的に応じた形状(例えば、矩形形状)が適宜選択される。透明基板の平均厚みは、例えば、0.3mm~1mmが好ましい。
【0042】
透明基板10の構成材料としては、屈折率が1.1~2.2の材料が好ましく、ガラス、水晶、石英、サファイア等が挙げられる。コスト及び透光率の観点からは、ガラス、特に石英ガラス(屈折率1.46)やソーダ石灰ガラス(屈折率1.51)を用いることが好ましい。ガラス材料の成分組成は特に制限されず、例えば光学ガラスとして広く流通しているケイ酸塩ガラス等の安価なガラス材料を用いることができる。
【0043】
また、熱伝導性の観点からは、熱伝導性が高い水晶やサファイアを用いることが好ましい。これにより、強い光に対して高い耐光性が得られ、発熱量の多いプロジェクタの光学エンジン用の偏光板として好ましく用いられる。
【0044】
なお、水晶やサファイア等の光学活性の結晶からなる透明基板を用いる場合には、結晶の光学軸に対して平行方向又は垂直方向に複数の凸部を配置することが好ましい。これにより、優れた光学特性が得られる。ここで、光学軸とは、その方向に進む光のO(常光線)とE(異常光線)の屈折率の差が最小となる方向軸である。
【0045】
[反射層]
反射層21は、透明基板上に形成され、吸収軸であるY軸方向に、帯状に延びた金属膜が配列されたものである。
【0046】
反射層21は、ワイヤグリッド型偏光子としての機能を有し、反射層の長手方向に平行な方向に電界成分をもつ偏光波(TE波(S波))を減衰させ、反射層の長手方向に直交する方向に電界成分をもつ偏光波(TM波(P波))を透過させる。反射層の膜厚は、特に制限されず、例えば、100nm~300nmが好ましい。なお、反射層の膜厚は、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。
【0047】
反射層の構成材料としては、使用帯域の光に対して反射性を有する材料であれば特に制限されず、例えば、Al、Ag、Cu、Mo、Cr、Ti、Ni、W、Fe、Si、Ge、Te等の元素単体、又はこれらの1種以上の元素を含む合金が挙げられる。中でも、反射層は、可視光領域においてワイヤグリッドでの吸収損失を小さく抑えるという観点とコストの観点から、アルミニウム又はアルミニウム合金で構成されることが好ましい。なお、これらの金属材料以外にも、例えば着色等により表面の反射率が高く形成された金属以外の無機膜や樹脂膜で構成してもよい。
【0048】
なお、反射層21は、例えば蒸着法やスパッタ法を利用することにより、高密度の膜として形成可能である。また、反射層は、構成材料の異なる2層以上から構成されていてもよい。
【0049】
[誘電体層]
誘電体層22は、反射層上に形成され、吸収軸であるY軸方向に帯状に延びた誘電体膜が配列されたものである。誘電体層の膜厚は、吸収層で反射した偏光に対して、吸収層を透過して反射層で反射した偏光の位相が半波長ずれる範囲で形成される。具体的には、誘電体層の膜厚は、偏光の位相を調整して干渉効果を高めることが可能な1nm~500nmの範囲で適宜設定される。この誘電体層の膜厚は、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。また、誘電体層22bは、反射層と後述する吸収層との構成元素の相互拡散を抑制するバリア層としても形成される。
【0050】
誘電体層22を構成する第1の誘電体としては、SiO2等のSi酸化物、Al2O3、酸化ベリリウム、酸化ビスマス等の金属酸化物、MgF2、氷晶石、ゲルマニウム、二酸化チタン、ケイ素、フッ化マグネシウム、窒化ボロン、酸化ボロン、酸化タンタル、炭素、またはこれらの組み合わせ等の一般的な材料が挙げられる。
中でも、透過率並びにバリア層の機能の観点から誘電体層22は、Si酸化物、Ti酸化物、Zr酸化物、Al酸化物、Nb酸化物及びTa酸化物から構成される群から選択されたいずれか一種以上の酸化物から構成されていることが好ましい。
【0051】
誘電体層22の屈折率は、1.0より大きく、2.5以下であることが好ましい。反射層21の光学特性は、周囲の屈折率によっても影響を受けるため、誘電体層22の材料を選択することで、偏光板の光学特性を制御することができる。また、誘電体層22の膜厚及び屈折率を適宜調整することにより、反射層21で反射したTE波について、吸収層23を透過する際に一部を反射して反射層21に戻すことができ、吸収層23を通過した光を干渉により減衰させることができる。このようにして、TE波の選択的減衰を行うことにより、所望の偏光特性を得ることができる。
【0052】
なお、誘電体層22は、蒸着法やスパッタ法、化学気相堆積(CVD:Chemical Vapor Deposition)法や原子層堆積(ALD:Atomic Layer Deposition)法を利用することにより、高密度の膜として形成可能である。また、誘電体層は、構成材料の異なる2層以上から構成されていてもよい。
【0053】
[吸収層]
吸収層23は、使用帯域の光の波長に対して吸収作用を有するものであり、誘電体層22上に形成され、吸収軸であるY軸方向に帯状に延びて配列されたものである。吸収層の膜厚は、特に制限されず、例えば、5nm~50nmが好ましい。この吸収層の膜厚は、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。
【0054】
吸収層23は、金属、合金材料及び半導体材料から構成される群から選択されたいずれかの一種以上の材料から構成されていることが好ましい。
【0055】
吸収層23の構成材料としては、適用される光の波長範囲によって適宜選択される。
金属材料としては、Ta、Al、Ag、Cu、Au、Mo、Cr、Ti、W、Ni、Fe、Sn等の元素単体またはこれらの1種以上の元素を含む合金が挙げられる。また、半導体材料としては、Si、Ge、Te、ZnO、シリサイド材料(β-FeSi2、MgSi2、NiSi2、BaSi2、CrSi2、CoSi2、TaSi等)が挙げられる。これらの材料を用いることにより、偏光板は、適用される可視光域に対して高い消光比が得られる。中でも、吸収層は、Fe又はTaを含むとともに、Siを含んで構成されることが好ましい。
【0056】
吸収層23として半導体材料を用いる場合には、吸収作用に半導体のバンドギャップエネルギーが関与するため、バンドギャップエネルギーが使用帯域以下であることが必要である。
例えば、可視光で使用する場合、波長400nm以上での吸収、即ち、バンドギャップとしては3.1eV以下の材料を使用する必要がある。
なお、吸収層23は、例えば蒸着法やスパッタ法を利用することにより、高密度の膜として形成可能である。また、吸収層23は、構成材料の異なる2層以上から構成されていてもよい。
【0057】
[反射防止層]
反射防止層30は、透明基板10の第2面10b上に形成される。反射防止層30は、公知の反射防止材料からなるものとすることができ、例えば、誘電体層22を構成可能な材料を少なくとも2層以上の多層膜で構成されたものとすることができる。
多層膜の一例として、
図4に示すように、屈折率の異なる低屈折率層31と高屈折率層32とを交互に積層させることで、界面反射された光を干渉により減衰させることができる。反射防止層30の膜厚は、特に制限されず、誘電体層22を構成する誘電体層1層あたり1nm~500nmの範囲で適宜設定される。この反射防止層30の膜厚は、例えば上述の電子顕微鏡法により測定可能である。
【0058】
低屈折率層31は、SiO2(Siの酸化物)等を主成分とした層である。低屈折率層の屈折率は、好ましくは1.20~1.60であり、より好ましくは1.30~1.50である。
高屈折率層32の屈折率は、好ましくは2.00~2.60であり、より好ましくは2.10~2.45である。このような高屈折率の誘電体としては、五酸化ニオブ(Nb2O5、屈折率2.33)、酸化チタン(TiO2、屈折率2.33~2.55)、酸化タングステン(WO3、屈折率2.2)、酸化セリウム(CeO2、屈折率2.2)、五酸化タンタル(Ta2O5、屈折率2.16)、酸化亜鉛(ZnO、屈折率2.1)、酸化インジウムスズ(ITO、屈折率2.06)などが挙げられる。
【0059】
なお、反射防止層は、上述の誘電体層と同じ成膜方法を利用することにより、高密度の膜として形成可能である。好適には、より高密度な膜が形成可能となる、イオンビームアシスト蒸着(IAD:Ion-beam Assisted Deposition)法やイオンビームスパッタリング(IBS:Ion Beam Sputtering)法を用いることが望ましい。
【0060】
さらに、この後に保護膜が形成されることを加味し、材料や膜厚など、光学特性が低下しない反射防止層の設計が行われていることが望ましい。
【0061】
[保護膜]
複数の凸部20のそれぞれの表面20a、及び、反射防止層30の表面30aのそれぞれは、第2の誘電体からなる保護膜40A、40Bで覆われている。保護膜40A及び保護膜40Bにより覆うことで、偏光板の耐久性を向上することができる。
凸部20の表面20aとは、凸部20の頂面20aa(吸収層23の頂面でもある)と、反射層21の側面21b、誘電体層22の側面22b及び吸収層23の側面23bからなる凸部20の側面20abとからなるものであり、保護膜40Aは、凸部20の頂面20aaを覆う保護膜40Aaと、凸部20の側面20abを覆う保護膜40Abとからなる。
【0062】
図2に示す偏光板100では、透明基板10の表面10aのうち、凸部20及び保護膜40Aのいずれも形成されていない面10aa上にも保護膜40AAを備える。
【0063】
保護膜40A及び保護膜40Bを形成する際には、緻密で均一且つ膜厚制御性に優れる、原子層堆積(ALD:Atomic Layer Deposition)法を用いることが好ましい。また、上述の誘電体層22と同様、構成材料の異なる2層以上から構成されていてもよい。
【0064】
なお、凸部20間を完全に埋め込む場合(
図2の場合)には、上述の誘電体層22を形成する方法以外にも、SOG(Spin on Glass)法を利用することができる。SOGによれば、空気層を含まず平坦化が可能となる。
【0065】
さらに、反射防止層30の表面30aに保護膜40Bを形成することを加味し、材料や膜厚など、光学特性が低下しない保護膜の設計が行われていることが望ましい。
【0066】
保護膜を構成する第2の誘電体としては誘電体膜22を構成する第1の誘電体と同じ誘電体を用いることができる。耐熱性の観点からはAl2O3が特に好ましい。
【0067】
保護膜40A及び保護膜40Bの少なくとも一方の膜厚を、2.5nm以下とすることができる。この場合、偏光板の耐久性を維持しつつ、光透過特性の向上も得られ、特に光学特性の大きな低下が回避できる。この場合、耐久性維持の観点で、1nm以上であることが好ましく、1.5nm以上であることがより好ましく、2.0nm以上であることがさらに好ましい。
【0068】
保護膜40A及び保護膜40Bの少なくとも一方の膜厚を、2.5nm以上とすることができる。この場合、偏光板の耐久性を維持しつつ、光透過特性の向上も得られ、特に高耐熱性を維持できる。この場合、光透過特性向上の観点で、10nm以下であることが好ましく、7.5nm以下であることがより好ましく、5.0nm以下であることがさらに好ましい。
【0069】
[撥水膜]
さらに、本発明の偏光板は、偏光板100の表面100a、100bの少なくとも一方が、有機系撥水膜により覆われていてもよい。有機系撥水膜は、例えばパーフルオロデシルトリエトキシシラン(FDTS)等のフッ素系シラン化合物等で構成され、例えば上述のCVD法やALD法を利用することにより形成可能である。これにより、偏光板の耐湿性等の信頼性を向上できる。
【0070】
[偏光板の製造方法]
本発明の偏光板の製造方法は、ワイヤグリッド構造を有する偏光板の製造方法であって、透明基板の第1の面に、反射層、誘電体層及び吸収層を順に形成して、反射層、誘電体層及び吸収層からなる積層体を作製する工程と、その積層体を選択的にエッチングすることにより、第1方向に延在し、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで互いに離間して周期的に配列する複数の凸部を形成する工程と、透明基板の前記第1の面の反対側の第2の面に、反射防止層を形成する工程と、凸部の表面、及び、反射防止層の表面に、誘電体からなる保護膜を形成する工程と、を有する。
【0071】
複数の凸部の形成について、透明基板の一方の面に形成した積層成膜上に、例えば、フォトリソグラフィ法、ナノインプリント法等により、レジストにて一次元格子状のマスクパターンを形成する。マスクパターンが形成されていない部分を、選択的にエッチングすることにより、使用帯域の光の波長よりも短いピッチで透明基板上に配列される複数の凸部を形成する。エッチング方法としては、例えば、エッチング対象に対応したエッチングガスを用いたドライエッチング法が挙げられる。
【0072】
以上により、
図1及び
図2に示す偏光板が製造される。なお、本発明の偏光板の製造方法は、偏光板の表面を有機系撥水膜で被覆する工程を、有していてもよい。
【0073】
[光学機器]
本発明の光学機器は、上述した本発明に係る偏光板を備える。本発明に係る偏光板は、種々の用途に利用することが可能である。適用される光学機器としては、例えば、液晶ディスプレイや液晶プロジェクタ、ヘッドアップディスプレイや車のヘッドライト等が挙げられる。特に、本発明に係る偏光板は、高透過であることから、例えば、半導体レーザー(LD)を幾つも用いた高光度な強い光の環境下においても、耐熱性に優れつつ高い透過率で高輝度化が図れる。これにより、液晶プロジェクタ等の用途に好適に用いることができる。
【0074】
本発明に係る光学機器が複数の偏光板を備える場合、複数の偏光板の少なくとも1つが本発明に係る偏光板であればよい。例えば、本発明に係る光学機器が液晶プロジェクタである場合、液晶パネルの入射側及び出射側に配置される偏光板の少なくとも一方が本発明に係る偏光板であればよい。
【実施例】
【0075】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲での変形及び改良は本発明に含まれる。
【0076】
[シミュレーション]
本発明に係る偏光板として、
図2に示した偏光板をモデルとしてシミュレーションを行った。より具体的には、これらの偏光板の光学特性について、RCWA(Rigorous Coupled Wave Analysis)法による電磁界シミュレーションにより検証した。
【0077】
図5は、
図2に示した偏光板をモデルとしてシミュレーションを行って得られた、可視光領域(赤色帯域:波長λ=600~680nm、緑色帯域:波長λ=520nm~590nm、青色帯域:λ=430nm~510nm))における透過軸透過率の分光波形を示すグラフである。横軸が波長λ(nm)を示しており、縦軸が透過軸透過率(%)を示している。ここで、透過軸透過率とは、偏光板に入射する透過軸方向(X軸方向)の偏光(TM波)の透過率を意味する。
【0078】
偏光板モデルにおいては、以下のパラメータ及び材料とした。
透明基板:材料(無アルカリガラス)、厚み(0.7mm)、
反射層 :材料(Al)、厚み(250nm)、幅(35nm)、
誘電体層:材料(SiO2)、厚み(5nm)、幅(35nm)、
吸収層 :材料(FeSi)、厚み(25nm)、幅(35nm)、
反射防止層:材料(TiO2層/SiO2層の交互積層体)、厚み(641.15nm)、幅(35nm)、表1に具体的な層構成を示す。第1層~第9層は透明基板に近い側から遠い側に順に配置させた。
グリッド:高さh(280+保護膜厚み)nm、幅w(35+保護膜厚み×2)nm、ピッチp(141nm)。
【0079】
【0080】
また、偏光板モデルにおいて、保護膜(
図2における符号40A、40B)は材料をAl
2O
3とし、膜厚(厚み)を1nm、2.5nm、5nm、7.5nm、10nmとした。また、比較例として、保護膜を備えない場合もシミュレーションを行い、
図5に示した。
【0081】
保護膜は、偏光板の耐久性を向上させることができるが、
図5から、その膜厚が厚くなるにつれて可視光領域全体で透過軸透過率は低下し、特に短波長側の落ち込みが大きくなることがわかった。
【0082】
[実施例1-1~1-3、比較例1]
保護膜が2.5nm(実施例1-1)、保護膜が5nm(実施例1-2)、保護膜が7.5nm(実施例1-3)とし、その他は上記シミュレーションを行ったパラメータで実際に偏光板を作製して、透過軸透過率を実測した。その結果を
図6に示す。また、保護膜を備えない偏光板(比較例1)についても透過軸透過率を実測してその結果を
図6に示した。
【0083】
図5に示したシミュレーション結果が実際の偏光板の光学特性をよく反映していることがわかる。
【0084】
図5及び
図6の結果に基づくと、波長400nm~700nmの全波長で透過軸透過率を80%以上とすることが求められる場合には、保護膜の膜厚を5nm以下とする。
また、波長430nm~700nmの全波長で透過軸透過率を80%以上とすることが求められる場合には、保護膜の膜厚を10nm以下とする。
【0085】
図7は、シミュレーションを行って得た、各波長帯域毎の透過軸透過率の平均値を示すグラフである。
【0086】
図8は、実施例1-1~1-3及び比較例1の偏光板について実測した、各波長帯域毎の透過軸透過率の平均値を示すグラフである。
図7に示したシミュレーション結果が実際の偏光板の光学特性をよく反映していることがわかる。
【0087】
図7及び
図8に基づくと、赤色帯域、緑色帯域及び青色帯域の全帯域で、平均透過軸透過率を86%以上とすることが求められる場合には、保護膜の膜厚を5nm以下とする。
また、赤色帯域、緑色帯域及び青色帯域の全帯域で、平均透過軸透過率を90%以上とすることが求められる場合には、保護膜の膜厚を2.5nm以下とする。
【0088】
[耐熱性評価]
本発明に係る偏光板として、実際に作製した偏光板の耐熱性評価を行った。なお、耐熱性評価はクリーンオーブンの300℃で行い、偏光板の光学特性であるコントラストについて、初期特性すなわち、クリーンオーブンに入れる前からの変化率にて評価した。コントラストとは、透過軸透過率/吸収軸透過率で算出でき、吸収軸透過率とは、偏光板に入射する吸収軸方向(Y軸方向)の偏光(TE波)の透過率を意味する。コントラスト変化率は、偏光板の耐熱性への影響を捉えるのに適している。
【0089】
図9は、実際に作製し光学特性におけるコントラストを耐熱性評価によって比較したグラフである。横軸に試験時間(クリーンオーブン内に配置した時間)、縦軸にコントラストの変化率を示しており、入射光が可視光領域の緑色帯域の光(波長=520nm~590nm)の場合を例とした。
図9において、保護膜を備えない場合の結果も併せて示した。
【0090】
図9に示すように、保護膜が厚くなるにつれてコントラストの変化率は小さくなり、偏光板の耐久性は向上している。なお、入射光が緑色帯域の光の場合を例として示したが、赤色帯域の光(波長=600~680nm)あるいは青色帯域の光(波長=430nm~510nm)であったとしても、コントラスト変化率の値が多少前後するだけで、同様の効果が得られた。
【0091】
図9の結果から、保護膜の膜厚を2.5nm以上とすると、高耐熱性を維持できることがわかった。
【0092】
以上の結果から、凸部の表面及び反射防止層の表面に保護膜を備える本発明の偏光板は、耐久性を維持しつつ光透過特性の向上も得られることがわかり、特に、光学特性を著しく低下させない膜厚としては2.5nm以下が望ましく、また、高耐熱性を維持させる膜厚としては2.5nm以上が望ましいことがわかった。
【0093】
なお、保護膜を形成するにあたり、複数の凸部だけでなく反射防止層への影響も加味した、保護膜ならびに反射防止層を設計することが好ましい。
【符号の説明】
【0094】
10 透明基板
10a 第1の面
10b 第2の面
20 凸部
21 反射層
22 誘電体層
23 吸収層
30 反射防止層
40A、40B 保護膜
100、100A 偏光板
100a 偏光板の表面