(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】静止誘導機器におけるひだ状絶縁部の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 27/28 20060101AFI20241009BHJP
H01F 41/04 20060101ALI20241009BHJP
H01F 27/32 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
H01F27/28 133
H01F41/04 A
H01F27/32 140
(21)【出願番号】P 2020096170
(22)【出願日】2020-06-02
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 多文
(72)【発明者】
【氏名】前田 照彦
(72)【発明者】
【氏名】大山 公治
(72)【発明者】
【氏名】中前 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】▲陦▼ 裕介
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-054204(JP,A)
【文献】実開昭57-159217(JP,U)
【文献】実開昭48-014509(JP,U)
【文献】実開平03-020422(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/28
H01F 27/32
H01F 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部との接続のための接続端子部を有する容器と、
前記容器内に収容される誘導機器本体と、
絶縁被覆がなされた状態で前記誘導機器本体から導出され先端が前記接続端子部の内側端子と電気的に接続される口出し線と、
前記口出し線の外周に拡がるように一体的に設けられた絶縁材料からなるひだ状絶縁部とを具備してな
り、
前記ひだ状絶縁部は、前記口出し線の延びる方向に複数が設けられ、それら複数のひだ状絶縁部は、同等の大きさ、又は該口出し線の先端側に位置する方が大きく構成される静止誘導機器
における、前記ひだ状絶縁部を製造するための方法であって、
前記ひだ状絶縁部を構成するための絶縁材料製の鍔状部材を予め形成しておき、前記鍔状部材を前記口出し線の外周に配置し、該口出し線の外周面と前記鍔状部材の内周部との間を樹脂材料によって接合することにより前記ひだ状絶縁部を形成する静止誘導機器におけるひだ状絶縁部の製造方法。
【請求項2】
外部との接続のための接続端子部を有する容器と、
前記容器内に収容される誘導機器本体と、
絶縁被覆がなされた状態で前記誘導機器本体から導出され先端が前記接続端子部の内側端子と電気的に接続される口出し線と、
前記口出し線の外周に拡がるように一体的に設けられた絶縁材料からなるひだ状絶縁部とを具備してなり、
前記ひだ状絶縁部は、前記口出し線の延びる方向に複数が設けられ、それら複数のひだ状絶縁部は、同等の大きさ、又は該口出し線の先端側に位置する方が大きく構成される静止誘導機器における、前記ひだ状絶縁部を製造するための方法であって、
外周部に前記ひだ状絶縁部を備えた収縮絶縁チューブを予め形成しておき、前記収縮絶縁チューブを前記口出し線の外周に被せるように配置し、該収縮絶縁チューブを収縮させて該口出し線の外周に密着させる静止誘導機器におけるひだ状絶縁部の製造方法。
【請求項3】
前記
収縮絶縁チューブは、常温収縮型の材料から構成され、収縮の工程が常温でなされる請求項2記載の静止誘導機器におけるひだ状絶縁部の製造方法。
【請求項4】
前記口出し線の外周には、前記収縮絶縁チューブが配置される部分に、自己融着性を有する絶縁テープが巻回されている請求項
2又は
3記載の静止誘導機器におけるひだ状絶縁部の製造方法。
【請求項5】
外部との接続のための接続端子部を有する容器と、
前記容器内に収容される誘導機器本体と、
絶縁被覆がなされた状態で前記誘導機器本体から導出され先端が前記接続端子部の内側端子と電気的に接続される口出し線と、
前記口出し線の外周に拡がるように一体的に設けられた絶縁材料からなるひだ状絶縁部とを具備してなり、
前記ひだ状絶縁部は、前記口出し線の延びる方向に複数が設けられ、それら複数のひだ状絶縁部は、同等の大きさ、又は該口出し線の先端側に位置する方が大きく構成される静止誘導機器における、前記ひだ状絶縁部を製造するための方法であって、
前記ひだ状絶縁部を構成するための絶縁性の繊維材料からなる鍔状含浸基材を予め形成しておき、前記口出し線の外周に、絶縁性の繊維材料からなるテープ状含浸基材を巻回すると共に、前記鍔状含浸基材を配置し、前記テープ状含浸基材及び鍔状含浸基材に対し絶縁樹脂を含浸、硬化させる静止誘導機器におけるひだ状絶縁部の製造方法。
【請求項6】
前記鍔状含浸基材の内周部が、前記口出し線の外周の前記テープ状含浸基材の層内に埋め込まれた形態で設けられる請求項
5記載の静止誘導機器におけるひだ状絶縁部の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、静止誘導機器におけるひだ状絶縁部の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
静止誘導機器、例えば高電圧受配電設備用の変圧器においては、樹脂モールド型の変圧器本体を、導電性のタンク内に収容し、内部に絶縁性の冷却媒体、例えば空気や絶縁ガス等を封入して構成されるものが知られている。このとき、タンクの外壁を貫通するようにブッシングと称される接続端子部が設けられ、その接続端子部の内側端子と、前記変圧器本体から導出される口出し線とが、タンク内において接続される。そして、例えば特許文献1には、タンクの大型化を抑えつつ絶縁性を確保するため、前記接続端子部の内側端子と口出し線との接続部分の充電露出部を覆うように、樹脂製の絶縁包囲部を設けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のような、接続端子部と口出し線との接続部分を絶縁包囲部で覆う構成では、メンテナンス時に口出し線の接続を一旦切離す場合などに、絶縁包囲部を破壊する必要が生ずる。良好なメンテナンス性を確保するためには、接続端子部と口出し線との接続部分を覆うことは好ましくなく、その部分が露出したままでも、十分な絶縁性を確保することが求められる。
【0005】
そこで、容器の大型化を抑制しながら、内側端子と口出し線との接続部分と、容器との間の絶縁信頼性を高めることができる静止誘導機器の製造に適した静止誘導機器におけるひだ状絶縁部の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る製造方法の対象となる静止誘導機器は、外部との接続のための接続端子部を有する容器と、前記容器内に収容される誘導機器本体と、絶縁被覆がなされた状態で前記誘導機器本体から導出され先端が前記接続端子部の内側端子と電気的に接続される口出し線と、前記口出し線の外周に拡がるように一体的に設けられた絶縁材料からなるひだ状絶縁部とを具備している。前記ひだ状絶縁部は、前記口出し線の延びる方向に複数が設けられ、それら複数のひだ状絶縁部は、同等の大きさ、又は該口出し線の先端側に位置する方が大きく構成されている。
【0008】
実施形態に係る静止誘導機器におけるひだ状絶縁部の製造方法の第1の態様は、上記静止誘導機器における、前記ひだ状絶縁部を製造するための方法であって、前記ひだ状絶縁部を構成するための絶縁材料製の鍔状部材を予め形成しておき、前記鍔状部材を前記口出し線の外周に配置し、該口出し線の外周面と前記鍔状部材の内周部との間を樹脂材料によって接合することにより前記ひだ状絶縁部を形成する。
【0009】
実施形態に係る静止誘導機器におけるひだ状絶縁部の製造方法の第2の態様は、上記静止誘導機器における、前記ひだ状絶縁部を製造するための方法であって、外周部に前記ひだ状絶縁部を備えた収縮絶縁チューブを予め形成しておき、前記収縮絶縁チューブを前記口出し線の外周に被せるように配置し、該収縮絶縁チューブを収縮させて該口出し線の外周に密着させる。
【0011】
実施形態に係る静止誘導機器におけるひだ状絶縁部の製造方法の第3の態様は、上記静止誘導機器における、前記ひだ状絶縁部を製造するための方法であって、前記ひだ状絶縁部を構成するための絶縁性の繊維材料からなる鍔状含浸基材を予め形成しておき、前記口出し線の外周に、絶縁性の繊維材料からなるテープ状含浸基材を巻回すると共に、前記鍔状含浸基材を配置し、前記テープ状含浸基材及び鍔状含浸基材に対し絶縁樹脂を含浸、硬化させる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1の実施形態を示すもので、変圧器の全体構成を概略的に示す正面図
【
図2】ひだ状絶縁部の形成時の様子を示す要部の拡大図
【
図3】第2の実施形態を示すもので、口出し線を一部断面で示す図
【
図4】第3の実施形態を示すもので、口出し線を一部断面で示す図
【
図5】第4の実施形態を示すもので、口出し線を一部断面で示す図
【
図6】第5の実施形態を示すもので、口出し線を一部断面で示す図
【
図7】第6の実施形態を示すもので、モールド変圧器のモールド成型時の様子を示す図
【
図8】第7の実施形態を示すもので、樹脂含浸前の口出し線を概略的に示す断面図
【
図10】第8の実施形態を示すもので、口出し線を概略的に示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、高電圧受配電設備用の変圧器に適用したいくつかの実施形態について、図面を参照しながら説明する。尚、複数の実施形態間で、共通する部分には、同一符号を付して繰り返しの説明を省略することとする。
【0014】
(1)第1の実施形態
第1の実施形態について、
図1及び
図2を参照して述べる。
図1は、本実施形態に係る静止誘導機器としての変圧器1の構成を概略的に示している。この変圧器1は、容器としての金属製のタンク2内に、誘導機器本体としての変圧器本体3を収容して構成される。詳しく図示はしないが、変圧器本体3は、例えばモールド変圧器からなり、鉄心にコイルを巻装して構成され、全体が絶縁樹脂で樹脂モールドされている。
【0015】
変圧器本体3の上部からは複数本の口出し線4が導出されている。図では、便宜上、口出し線4を1本のみ図示している。各口出し線4は、導線の周囲に絶縁被覆4aを設けて構成され、先端に接続端子5を有している。この変圧器本体3は絶縁支え6上に載置された形態で、タンク2内に設置されている。前記タンク2の上壁部には、外部との接続がなされる接続端子部としての複数個のブッシング7が設けられている。図では、便宜上、ブッシング7を1個のみ図示している。このブッシング7は、周知のように、上壁部を貫通して上下に延びる碍管8の中心部を、中心導体9が貫通するように設けられている。
【0016】
このとき、中心導体9の上端が外側端子9aとされ、中心導体9の下端部が碍管8から下方に突出する内側端子9bとされている。前記口出し線4の接続端子5が、前記内側端子9bと電気的に接続される。このときの接続手段としては、例えばねじ止め等が採用される。それら内側端子9bと接続端子5との接続部分は、充電露出部とされるが、内側端子9bの周囲を覆うように、金属薄板からボール状に構成されたいわゆるシールドリングを設けても良い。尚、前記タンク2は、接地電位とされる。また、タンク2内部は密閉され、絶縁性の冷却媒体、例えば絶縁ガスや高圧の空気等が封入される。
【0017】
さて、前記口出し線4には、前記絶縁被覆4aの外周に拡がるように、絶縁材料からなるひだ状絶縁部10が一体的に設けられている。本実施形態では、このひだ状絶縁部10は、熱硬化性樹脂例えば常温硬化型のエポキシ樹脂から、口出し線4の延びる方向に対して垂直方向に拡がる円形即ちリング状の薄板状に構成されている。尚、ひだ状絶縁部10の材質としては、ウレタン樹脂などの他の熱硬化性樹脂であっても良く、また熱可塑性樹脂であっても良い。
【0018】
このとき、ひだ状絶縁部10は、前記口出し線4の先端部、つまり、変圧器本体3に近い側でなく、接続端子5に近い側、に位置して設けられている。さらに本実施形態では、ひだ状絶縁部10は、複数個例えば3個が、口出し線4の延びる方向にわずかな隙間をおいて並んで設けられている。また本実施形態では、それら複数のひだ状絶縁部10は、同等の大きさで設けられている。尚、
図2に示すように、ひだ状絶縁部10は、口出し線4の絶縁被覆4aを含む半径寸法Rに対し、ひだ状絶縁部10の、放射方向の幅寸法Wが同等またはそれ以上となるように、つまり、W≧Rとなるように設けられている。
【0019】
そして、次の作用説明でも述べるように、本実施形態では、前記ひだ状絶縁部10を製造するための製造方法として、
図2に示すような金型11を用いた、いわゆるインサート成型が採用される。この金型11は、ひだ状絶縁部10の直径方向に分離する2分割金型からなり、型締め状態で、口出し線4の先端部が貫通するように配置され、且つ、3個のひだ状絶縁部10に対応したキャビティ12を有している。尚、ひだ状絶縁部10の成型は、変圧器本体3の製造時に行っても良いし、タンク2内に設置して接続端子5を内部端子9bに接続した後に行っても良い。
【0020】
次に、上記構成の作用、効果について述べる。まず、本実施形態における、ひだ状絶縁部10の製造の方法について述べる。
図2に示すように、ひだ状絶縁部10を形成するにあたっては、例えば口出し線4の先端の接続端子5を、ブッシング7の内側端子9bに接続した状態で、口出し線4を挟むように金型11を配置し、キャビティ12内に口出し線4を挿入配置した状態とする。この状態で、金型11のキャビティ12内に樹脂注入口12aから樹脂材料を注型する。このときの樹脂材料としては、例えば、常温硬化型の熱硬化性樹脂が採用され、具体的には、主剤と硬化剤とを混合することにより、常温で硬化する二液硬化型のエポキシ系樹脂材料が用いられる。
【0021】
この樹脂材料は、二液の混合状態で、前記キャビティ12内に注型され、口出し線4の外周の絶縁被覆4aと一体化した状態で硬化することにより、3個のひだ状絶縁部10が形成される。その後、離型することにより、先端部の外周に3個のひだ状絶縁部10を一体的に有する口出し線4が得られる。これにより、ひだ状絶縁部10に対応したキャビティ12を有する金型11を用いて、口出し線4の外周部に、所望の形状、大きさ、枚数のひだ状絶縁部10を容易に設けることができる。
【0022】
このとき、ひだ状絶縁部10は、口出し線4に対して後から設けられる事情があるが、ひだ状絶縁部10を、口出し線4の基端側でなく、先端部に設けるようにしているので、金型11を用いたひだ状絶縁部10の形成の作業を、作業しやすい位置で行うことができ、ひだ状絶縁部10の良好な成形性を確保することができる。また、口出し線4の基端側に比べて、空間的な自由度も大きいので、十分に大きな言い換えれば外径寸法即ち幅寸法Wの大きいひだ状絶縁部10を形成することが可能となる。
【0023】
上記構成の変圧器1においては、タンク2内で、ブッシング7の内側端子9bと、口出し線4の接続端子5とが接続されることで、充電露出部が生ずることになり、例えば変圧器本体3の鉄心部分やタンク2等の接地電位から発生した放電が、変圧器本体3の表面、更には口出し線4の表面といった沿面に沿って、内側端子9b部分に向けて進展する虞がある。ところが本実施形態では、口出し線4には、絶縁材料からなるひだ状絶縁部10が、外周に拡がるように一体的に設けられている。
【0024】
そのため、口出し線4の表面を、内側端子9b部分に向けて進展する放電に対して、ひだ状絶縁部10が、それ以上の放電の進展を阻止するバリアとしての機能を果たす。従って、タンク2の大型化により沿面距離を大きくすることなく、沿面絶縁の性能を向上させることができ、沿面で発生した放電が、充電露出部である内側端子9bと口出し線4の接続端子5との接続部分にまで進展することを効果的に防止することができる。このとき、ひだ状絶縁部10は、口出し線4の外周側に垂直に拡がる壁として形成されているので、放電に対するバリア性を高め、絶縁性向上の効果的である。
【0025】
以上のように、本実施形態の変圧器1によれば、タンク2の大型化を抑制しながら、内側端子9bと口出し線4との接続部分と、タンク2との間の絶縁信頼性を高めることができるという優れた効果を得ることができる。また、充電露出部を絶縁物で覆うものと異なり、内側端子9bと口出し線4との接続、切離しを、絶縁物を破壊するといったことなく容易に行うことができ、良好なメンテナンス性を確保することができる。特に本実施形態では、ひだ状絶縁部10を複数設けたことにより、1つの場合に比べて絶縁性能をより高めることができる。
【0026】
(2)第2の実施形態
図3は、第2の実施形態を示すもので、変圧器本体3の口出し線21を示している。この第2の実施形態が上記第1の実施形態と異なるところは、口出し線21の絶縁被覆21aの外周に設けられるひだ状絶縁部の構成にある。即ち、本実施形態では、口出し線21の先端部に、複数個例えば3個のひだ状絶縁部22、23、24が一体的に設けられるのであるが、それら複数のひだ状絶縁部22、23、24は、口出し線21の先端側に位置する方が大きく構成されている。このとき、基端側のひだ状絶縁部24は、外形寸法が最も小さく、放射方向の幅寸法Wが口出し線21の半径寸法R以上とされている。中間のひだ状絶縁部23は、外形寸法が中間で、先端のひだ状絶縁部22は、外形寸法が最も大きく構成されている。
【0027】
この場合、ひだ状絶縁部22、23、24の形成は、第1の実施形態と同様に、例えば金型を用いたインサート成型により行われるようになっている。このような第2の実施形態によれば、上記第1の実施形態と同様に、タンク2の大型化を抑制しながら、内側端子9bと口出し線21との接続部分と、タンク2との間の絶縁信頼性を高めることができる等の効果を得ることができる。特に本実施形態では、複数のひだ状絶縁部22、23、24のうち、先端側をより大きくすることで、性能をより高めることができ、また、逆の場合比べて製造性も良好となる。
【0028】
(3)第3の実施形態
図4は、第3の実施形態を示すものであり、変圧器本体3の口出し線31を示している。この第3の実施形態が上記第1、第2の実施形態と異なるところは、口出し線31の絶縁被覆31aの外周に一体的に設けられるひだ状絶縁部32の構成にある。即ち、ひだ状絶縁部32は、前記口出し線31の先端部に位置して、複数個例えば3個が同等の大きさで並んで設けられている。本実施形態では、各ひだ状絶縁部32は、絶縁材料製の鍔状部材32aを、絶縁性の樹脂材料33によって絶縁被覆31aの外周に接合することによって形成されている。
【0029】
前記ひだ状絶縁部32を製造するための方法として、具体的には、口出し線31とは別途に、例えば樹脂成型により鍔状部材32aを予め形成しておく。このとき、鍔状部材32aは、合成樹脂例えばフェノール樹脂からなり、内径が口出し線31の外周に嵌合し、外径が、口出し線31の半径寸法Rに対し放射方向の幅寸法Wが同等以上となるような、薄板リング状に構成されている。この鍔状部材32aは、口出し線31の外周に配置され、その内周部が、口出し線31の外周面に対し例えばエポキシ系樹脂からなる樹脂材料33によって接合される。
【0030】
このような第3の実施形態によれば、上記第1の実施形態等と同様に、タンク2の大型化を抑制しながら、内側端子9bと口出し線31との接続部分と、タンク2との間の絶縁信頼性を高めることができる等の効果を得ることができる。そして本実施形態のひだ状絶縁部32の製造方法によれば、鍔状部材32aに形成に、大がかりな設備などを用いることなく、様々な大きさや厚み、材質の鍔状部材32aを容易に形成することができる。予め形成された鍔状部材32aを、口出し線31に接合することにより、ひだ状絶縁部32を極めて簡単に形成することができる。口出し線31の外周面と鍔状部材32aの内周部との間は、樹脂材料33によって埋められるので、それらの境界部における絶縁性を確保することができ、その境界部を放電が進展してしまうことを未然に防止できる。
【0031】
(4)第4の実施形態
図5は、第4の実施形態を示すものであり、変圧器本体3の口出し線41を示している。この第4の実施形態が上記第1~第3の実施形態と異なるところは、口出し線41の絶縁被覆41aの外周に一体的に設けられるひだ状絶縁部42の構成にある。即ち、本実施形態では、3個のひだ状絶縁部42は、円筒状の収縮絶縁チューブ43の外周に例えば一体に設けられている。この場合、絶縁収縮チューブ43は、常温収縮型の材料から構成され、具体的には、収縮絶縁チューブ43及びひだ状絶縁部42は、例えばシリコーンゴム、EPゴム等のゴム系の材料から構成されている。ちなみに、収縮絶縁チューブ43としては、例えばスリーエムジャパン株式会社製の「常温収縮チューブ(登録商標)」等を採用することができる。
【0032】
口出し線41にひだ状絶縁部42を設けるにあたっては、外周部にひだ状絶縁部42を一体に備えた収縮絶縁チューブ43を予め形成しておく。そして、図示しないスパイラルコアによって収縮絶縁チューブ43の径大なチューブ状態が保たれた状態で、その収縮絶縁チューブ43を口出し線41の外周に被せるように配置する。この後、スパイラルコアを引抜くことにより収縮絶縁チューブ43が収縮するようになり、口出し線41の外周面に、外周に拡がる3個のひだ状絶縁部42を有した収縮絶縁チューブ43が、強く密着固定される。
【0033】
このような第4の実施形態によれば、上記第1の実施形態等と同様に、タンク2の大型化を抑制しながら、内側端子9bと口出し線41との接続部分と、タンク2との間の絶縁信頼性を高めることができる等の効果を得ることができる。そして本実施形態のひだ状絶縁部42の製造方法によれば、ひだ状絶縁部42を有した収縮絶縁チューブ43を、別途に形成でき、大がかりとなることなく、様々な大きさや厚み、枚数のひだ状絶縁部42を備えた収縮絶縁チューブ43を比較的容易に形成することができる。その収縮絶縁チューブ43を口出し線41の外周に被せて収縮させることにより、口出し線41の外周部にひだ状絶縁部42を設けることができ、ひだ状絶縁部42を容易に形成することができる。特に本実施形態では、絶縁収縮チューブ43は、常温収縮型の材料から構成され、収縮の工程が常温でなされるので、大きなエネルギーや大がかりな設備を要することなく、容易且つ安価に口出し線41の外周部にひだ状絶縁部42を設けることができる。
【0034】
(5)第5の実施形態
図6は、第5の実施形態に係る口出し線51を示すものである。この第5の実施形態では、上記第4の実施形態と同様に、外周部にひだ状絶縁部42を有した収縮絶縁チューブ43を、口出し線51の外周に被せるように配置し、収縮絶縁チューブ43を収縮させる。その際に、口出し線51の絶縁被覆51aの外周に、収縮絶縁チューブ43が配置される部分に位置して、自己融着性を有する自己融着性絶縁テープ52を予め巻回するようにしている。この自己融着性絶縁テープ52としては、例えばポリエチレンを基材としゴム系粘着剤を有したものが市販されており、スリーエムジャパン株式会社製の「フィットテープ」等を採用することができる。
【0035】
本実施形態においては、口出し線51の外周に自己融着性絶縁テープ52を巻回しておき、収縮絶縁チューブ43の拡開状態で、口出し線51の外周に被せるように配置し、スパイラルコアを引抜いて収縮絶縁チューブ43を収縮させる。これにより、口出し線51の外周面に、外周に拡がる3個のひだ状絶縁部42を有した収縮絶縁チューブ43が、強く密着固定される。これにより、上記第4の実施形態と同様の効果が得らえることに加えて、自己融着性絶縁テープ52を設けたことによって、収縮絶縁チューブ43と口出し線51との間の接合をより強固に行うことができ、それらの接合部分における絶縁性の一層の向上を図ることができる。
【0036】
(6)第6の実施形態
図7は、第6の実施形態を示すものであり、本実施形態に係る誘導機器本体としてのモールド変圧器本体61の樹脂モールド時の様子を概略的に示している。モールド変圧器本体61は、鉄心にコイルを巻装してなる巻線主部62から口出し線63が導出され、全体が例えばエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂からなる絶縁樹脂でモールドされ、モールド樹脂層64が形成されている。このとき、口出し線63の導線の外周には、絶縁被覆63aがモールド樹脂層64と一体に設けられる。これと共に、口出し線63の先端部の外周部には、複数個例えば3個のひだ状絶縁部65がモールド樹脂層64と一体に設けられる。
【0037】
本実施形態では、樹脂モールドの工程において、巻線主部62及び口出し線63は、金型66のキャビティ67内に配置される。前記キャビティ67は、モールド変圧器本体61の全体の外形に対応すると共に、口出し線63の外周の絶縁被覆63a及びひだ状絶縁部65の外形に対応している。樹脂モールドの工程では、図示のように、金型66のキャビティ67内に注入口67aから熱硬化性樹脂が注型され、硬化することにより、モールド樹脂層64と共に、口出し線63の外周の絶縁被覆63a及びひだ状絶縁部65が一体に成形される。
【0038】
このような第6の実施形態によれば、上記第1の実施形態等と同様に、タンク2の大型化を抑制しながら、内側端子9bと口出し線63との接続部分と、タンク2との間の絶縁信頼性を高めることができる等の効果を得ることができる。そして、樹脂モールド時に、口出し線63の絶縁被覆63a及びひだ状絶縁部65がモールド樹脂層64に一体に成形されるので、ひだ状絶縁部を形成するための別途の工程が必要なくなり、工程の簡略化を図ることができる。また、ひだ状絶縁部65は、口出し線63の絶縁被覆63aと一体化しているので、絶縁性能を一層高めることができる。
【0039】
(7)第7の実施形態
図8及び
図9は、第7の実施形態を示すものである。本実施形態では、口出し線71は、
図9に示すように、導線71aの外周に、絶縁被覆72を備えると共に、先端に位置して複数個例えば3個のひだ状絶縁部73を備えて構成される。このとき、前記絶縁被覆72は、導線71aの外周に巻回された絶縁性の繊維材料からなるテープ状含浸基材74に、例えばエポキシ樹脂などの絶縁樹脂75を含侵、硬化して構成される。尚、テープ状含浸基材74は半ピッチずつラップしながら巻回される。そして、前記ひだ状絶縁部73は、絶縁性の繊維材料からなる薄板リング状の鍔状含浸基材76に、例えばエポキシ樹脂などの絶縁樹脂75を含侵、硬化して構成される。
【0040】
この場合、ひだ状絶縁部73を構成するための絶縁性の繊維材料からなる3個の鍔状含浸基材76を予め形成しておき、口出し線71を構成する導線71aの外周に、テープ状含浸基材74を巻回した後、
図8に示すように、各鍔状含浸基材76をテープ状含浸基材74の外周に嵌合させるように配置する。そして、この状態から、テープ状含浸基材74及び鍔状含浸基材76の双方に対し絶縁樹脂75を含浸、硬化させることにより、
図9に示すような、絶縁被覆72及び3個のひだ状絶縁部73を一体となった形態に備えた口出し線71が得られる。
【0041】
このような第7の実施形態によれば、上記第1の実施形態等と同様に、タンク2の大型化を抑制しながら、内側端子9bと口出し線71との接続部分と、タンク2との間の絶縁信頼性を高めることができる等の効果を得ることができる。そして、口出し線71の絶縁被覆72及びひだ状絶縁部73は、繊維材料と絶縁樹脂とからなる複合的な絶縁材料から構成され、しかも、それらが一体化しているので、絶縁性能の高い絶縁被覆72及びひだ状絶縁部73を容易に形成することができる。
【0042】
(8)第8の実施形態、その他の実施形態
図10は、第8の実施形態を示すものである。本実施形態では、上記第7の実施形態と同様に、口出し線81は、導線81aの外周に、絶縁被覆82を備えると共に、先端に位置して複数個例えば3個のひだ状絶縁部83を備えて構成される。このとき、前記絶縁被覆82は、導線81aの外周に巻回された絶縁性の繊維材料からなるテープ状含浸基材84に、例えばエポキシ樹脂などの絶縁樹脂85を含侵、硬化して構成されると共に、前記ひだ状絶縁部83は、絶縁性の繊維材料からなる薄板リング状の鍔状含浸基材86に、例えばエポキシ樹脂などの絶縁樹脂85を含侵、硬化して構成される。
【0043】
この第8の実施形態が、上記第7の実施形態と異なる点は、鍔状含浸基材86の内周部が、口出し線81の外周の前記テープ状含浸基材84の層内に埋め込まれた形態で設けられる構成にある。この場合、鍔状含浸基材86の中心穴は、導線81aの外径に対応した小さな径寸法に構成されている。そして、先に、この鍔状含浸基材86が、例えば導線81aの外周に嵌合配置され、この後に、テープ状含浸基材84の巻回作業が行われ、さらにその後に絶縁樹脂85の含侵、硬化が行われる。これによれば、上記第7の実施形態の効果に加えて、口出し線81の絶縁被覆82部分と、ひだ状絶縁部83とがより強固に一体化し、絶縁性能をより高めることができる。
【0044】
尚、上記した各実施形態では、ひだ状絶縁部を、円板状に構成したが、四角形や多角形状に構成しても良い。ひだ状絶縁部を3個設けるものに限らず、1個だけ設けても良く、さらには、2個、4個以上設けても良い。ひだ状絶縁部は、口出し線の延びる方向に対して垂直でなく、垂直からやや傾斜した傘状に設けるようにしても良い。また、絶縁樹脂などの各部の材料としても、一例を示したに過ぎず、熱硬化性樹脂に代えて熱可塑性樹脂を使用する等、様々な材質のものを採用することができる。例えば、第3の実施形態における鍔状部材をセラミック製などとすることもできる。第4、第5の実施形態における収縮絶縁チューブを、熱収縮性の材料から構成し、加熱により収縮させるように構成しても良い。
【0045】
その他、変圧器全体の具体的構成としても、様々な変更が可能であり、また、静止誘導機器としては、変圧器に限らず、例えばリアクトルに適用することもできる。以上説明したいくつかの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0046】
図面中、1は変圧器(静止誘導機器)、2はタンク(容器)、3は変圧器本体(誘導機器本体)、4、21、31、41、51、63、71、81は口出し線、4a、21a、31a、41a、51a、63a、72、82は絶縁被覆、5は接続端子、7はブッシング(接続端子部)、9bは内側端子、10、22、23、24、32、42、65、73、83はひだ状絶縁部、11は金型、32aは鍔状部材、33は樹脂材料、43は収縮絶縁チューブ、52は自己融着絶縁テープ、61はモールド変圧器本体(誘導機器本体)、64はモールド樹脂層、66は金型、74、84はテープ状含浸基材、75、85は絶縁樹脂、76、86は鍔状含浸基材を示す。