IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 積水化学工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-管継手及び配管構造 図1
  • 特許-管継手及び配管構造 図2
  • 特許-管継手及び配管構造 図3
  • 特許-管継手及び配管構造 図4
  • 特許-管継手及び配管構造 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】管継手及び配管構造
(51)【国際特許分類】
   F16L 21/08 20060101AFI20241009BHJP
【FI】
F16L21/08 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020164462
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022056617
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】宮本 理沙
(72)【発明者】
【氏名】坂本 正勝
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 将弘
【審査官】杉山 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-050455(JP,A)
【文献】実開平04-042985(JP,U)
【文献】国際公開第2017/026898(WO,A1)
【文献】実開昭63-078795(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
継手本体と、
前記継手本体の内周面に配置された環状の第1シール部材と、
前記継手本体に収容され、外周面が前記第1シール部材に接触する第1筒体と、
環状に形成され、前記第1筒体の外周面における前記第1シール部材よりも前記継手本体の軸線方向に沿って前記継手本体の端縁側に配置される第2シール部材と、
前記継手本体の内周面における、前記第1シール部材よりも前記軸線方向に沿って前記継手本体の端縁側に配置される第2筒体と、
を備え、
前記第1筒体は、
前記継手本体内に端部が配置されるパイプ内に配置される筒本体と、
前記筒本体の外周面に配置され、前記パイプが前記軸線方向に沿って前記継手本体の端縁側から突き当たる突起と、
を有し、
前記筒本体における、前記突起よりも前記軸線方向に沿って前記継手本体の端縁とは反対側の外周面は、前記第1シール部材に接触する、管継手。
【請求項2】
請求項1に記載の管継手と、
端部が前記継手本体内に配置された前記パイプと、
を備える、配管構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管継手及び配管構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、戸建住宅、マンション、商業施設等の建物内において、給水、給湯、あるいは空調機器用の管の接続には、内面止水式の管継手が多く用いられている。この方式の管継手では、管継手内に管(パイプ)を挿入するだけで、管継手に管を簡単に接続できる。内面止水式の管継手は、管の内周面に接触する等して止水する構造を持つ。このため、管の輸送中や施工中に生じる可能性がある管の外周面の傷等に影響されることなく、止水することができる。
【0003】
内面止水式の管継手は、管を外側及び内側から挟み込むという構造である。このため、管継手と管との継手部での流路の幅が狭くなり、流量が低下するという問題がある。マンションの配管の改修工事等、管継手の使用個数が多くなる場合、改修前後での流量低下による圧力損失が懸念される。そのため、特許文献1に示すように管の外周面で止水し(外面止水式)、圧力損失を抑えることができる管継手が選ばれることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-120404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、外面止水式の管継手は、管の外周面に傷ができた場合、漏水発生の可能性が生じる。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、パイプの外周面に傷ができても止水可能な配管構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の管継手は、継手本体と、前記継手本体の内周面に配置された環状の第1シール部材と、前記継手本体に収容され、外周面が前記第1シール部材に接触する第1筒体と、環状に形成され、前記第1筒体の外周面における前記第1シール部材よりも前記継手本体の軸線方向に沿って前記継手本体の端縁側に配置される第2シール部材と、前記継手本体の内周面における、前記第1シール部材よりも前記軸線方向に沿って前記継手本体の端縁側に配置される第2筒体と、を備え、前記第1筒体は、前記継手本体内に端部が配置されるパイプ内に配置される筒本体と、前記筒本体の外周面に配置され、前記パイプが前記軸線方向に沿って前記継手本体の端縁側から突き当たる突起と、を有し、前記筒本体における、前記突起よりも前記軸線方向に沿って前記継手本体の端縁とは反対側の外周面は、前記第1シール部材に接触することを特徴としている。
【0008】
この発明によれば、例えば、継手本体内にパイプが配置されると、軸線方向に沿って継手本体の端縁とは反対側からは、第1シール部材により継手本体と第1筒体との間が封止される。この継手本体と第1筒体との間は、パイプの外周面に傷ができても止水できる位置である。一方で、軸線方向に沿って継手本体の端縁側からは、例えば、第1筒体とパイプとの間が、接着剤等により封止される。
従って、パイプの外周面に傷ができても止水することができる。
【0009】
また、例えば、管継手の継手本体内にパイプの端部を以下のように配置する。すなわち、軸線方向に沿って継手本体の端縁とは反対側のパイプの端縁が、第1シール部材と第2シール部材との間に位置するように配置する。このとき、例えば、第2シール部材がパイプの内周面に接触する。この場合、軸線方向に沿って継手本体の端縁側からは、第2シール部材によりパイプと第1筒体との間が封止される。第2シール部材がパイプの内周面に接触することで、パイプの外周面に傷ができても、軸線方向に沿って継手本体の端縁側から、及び継手本体の端縁とは反対側から、止水することができる。
また、パイプに第1筒体を取り付けているか否かに関わらず、例えば、継手本体内にパイプを挿入する長さを、軸線方向に沿って継手本体の端縁とは反対側のパイプの端縁が第1シール部材と第2シール部材との間に位置する一定の長さに決める。パイプに第1筒体を取り付けている場合には、第1筒体はパイプとともに継手本体内に挿入され、管継手内に第1筒体が取り付けられる。管継手内に第1筒体が取り付けられると、パイプ内の水圧テストをした場合に、前記のように止水できる。一方で、管継手内に第1筒体を取り付け忘れると、パイプ内の水圧テストをした場合に、第1シール部材とパイプとの間等から漏水する。従って、パイプ内の水圧テストにおける漏水の有無を確認することで、第1筒体の取り付け忘れを防止することができる。
【0010】
また、例えば、内径が、筒本体及び突起全体の外径よりも小さく筒本体の外径よりも大きいパイプを、管継手内に挿入する。すると、このパイプ内に筒本体が挿入され、このパイプが突起に対して、軸線方向に沿って継手本体の端縁側から突き当たって留まる。このため、第1筒体に対してパイプを軸線方向に位置決めすることができる。
また、継手本体から第1シール部材が軸線方向に沿って継手本体の端縁側に移動するのを第2筒体が阻害するため、第1シール部材が継手本体から飛び出すのを防止することができる。
【0015】
また、本発明の配管構造は、前記のいずれかに記載の管継手と、端部が前記継手本体内に配置された前記パイプと、を備えることを特徴としている。
この発明によれば、パイプの外周面に傷ができても止水可能であり、第1筒体の取り付け忘れを防止する管継手を用いて、配管構造を構成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の管継手及び配管構造によれば、パイプの外周面に傷ができても止水可能であり、第1筒体の取り付け忘れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態の配管構造における一部を破断した側面図である。
図2】同配管構造のインコア及び第2シール部材の断面図である。
図3】同配管構造を施工する手順を説明する、一部を破断した側面図である。
図4】本発明の一実施形態の管継手の第1変形例における一部を破断した側面図である。
図5】本発明の一実施形態の管継手の第2変形例における一部を破断した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る配管構造の一実施形態を、図1から図5を参照しながら説明する。
図1に示すように、本実施形態の配管構造1は、図示しない建物に用いられる。配管構造1は、建物内で給水、給湯、あるいは空調機器に用いられる。配管構造1は、本実施形態の管継手10と、複数のパイプ40と、を備えている。管継手10は、複数のパイプ40を接続するための部材である。なお、図3以下では、パイプ40を1本のみ示している。
【0019】
管継手10は、いわゆる内面止水式の管継手である。管継手10は、継手本体11と、第1シール部材12と、インコア(第1筒体)13と、第2シール部材14と、スペーサ(第2筒体)15と、抜け止めリング16と、ブッシュ17と、を備えている。
継手本体11は、円筒状に形成されている。
以下では、継手本体11の軸線(中心軸線)Oに沿う方向を軸線O方向という。継手本体11を軸線O方向から見た平面視で、前記軸線Oと交差する方向を径方向という。前記平面視で前記軸線O回りに周回する方向を周方向という。この径方向は、継手本体11の径方向である。
管継手10は、軸線Oに直交する基準面に対して面対称な形状である。このため、以下では、管継手10のうち、軸線O方向の一方側の構成について説明する。
【0020】
ここで、軸線O方向に沿った、継手本体11の中心に対する端縁(端面)11a側を、軸線O方向の外側と言う。一方で、軸線O方向に沿った継手本体11の中心に対する端縁11aとは反対側(軸線O方向に沿った継手本体11の端縁11aに対する中心側)を、軸線O方向の内側と言う。
継手本体11の軸線O方向の端部における内周面には、段19が複数形成されている。各段19は、継手本体11の内周面から径方向の内側に向けて突出している。各段19は、周方向の全周にわたって設けられている。継手本体11の内径は、軸線O方向の外側から軸線O方向の内側に向けて段階的に(段状に)縮径している。
【0021】
複数の段19は、第1段19aと、第2段19bと、を含む。複数の段19は、軸線O方向の外側から軸線O方向の内側に向けて、第1段19a、第2段19bの順に並んでいる。第1段19aの径方向の突出量(高さ)は、第2段19bの径方向の突出量(高さ)よりも小さい(低い)。
継手本体11の軸線O方向の中央部における内周面には、ストッパー11Aが形成されている。ストッパー11Aは、継手本体11から径方向の内側に向けて突出する。ストッパー11Aは、継手本体11の内周面に、全周にわたって延びている。ストッパー11Aは、円環状に形成されている。
【0022】
継手本体11の軸線O方向の両端部それぞれにおける外周面には、外フランジ部11Bと、雄ねじ部11Cと、が形成されている。
外フランジ部11Bは、継手本体11から径方向の外側に向けて突出する。外フランジ部11Bは、継手本体11の外周面に、全周にわたって延びている。外フランジ部11Bは、軸線O方向において、第1段19aにおける軸線O方向の内側の端部に対応する位置に配置されている。
雄ねじ部11Cは、継手本体11の外周面のうち、外フランジ部11Bよりも軸線O方向の外側に位置する部分に形成されている。
【0023】
第1シール部材12は、円環状に形成されている。第1シール部材12の外径、及び継手本体11の第1段19aの内径は、互いに同程度である。図示の例では、第1シール部材12としてOリングが採用されている。第1シール部材12の材質としては、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、フッ素ゴム、シリコンゴム、ニトリルゴム、スチレン・フタジエンゴム、クロロプレンゴム等のゴム材料を採用することができる。第1シール部材12は、継手本体11の第1段19aの軸線O方向の内側の端部における内周面に配置されている。
【0024】
図1及び図2に示すように、インコア13は、円筒状に形成され、継手本体11に収容されている。インコア13は、小径筒22と、大径筒23と、を備えている。小径筒22及び大径筒23は、それぞれ円筒状に形成されている。大径筒23は、小径筒22に対して軸線O方向の内側に配置されている。大径筒23は、小径筒22の外径よりも大きな外径を有している。大径筒23における軸線O方向の外側の端縁23aは、小径筒22よりも径方向の外側に突出している。小径筒22の内径、及び大径筒23の内径は、互いに同等である。小径筒22及び大径筒23は、同軸に配置されている。小径筒22及び大径筒23は、互いに連なっている。
【0025】
図2に示すように、大径筒23における軸線O方向の内側の端部の外周面には、突起24が形成されている。突起24は、周方向の全周にわたって設けられている。
大径筒23における軸線O方向の内側の端部(突起24)の外径は、軸線O方向の内側に向かうに従い漸次、小さくなる。すなわち、大径筒23の外周面における軸線O方向の内側の端部は、軸線O方向の内側に向かうに従い漸次、軸線Oに近づく傾斜面23bになっている。傾斜面23bでは、軸線O方向の内側に向かう長さに対する、軸線Oに近づく長さの比率は、軸線O方向の位置によらず一定である。
大径筒23における軸線O方向の内側の端部の内周面は、軸線O方向の内側かつ径方向の内側に向かって凸となるように湾曲した湾曲面23cになっている。
傾斜面23b及び湾曲面23cは、周方向の全周にわたってそれぞれ形成されている。傾斜面23b及び湾曲面23cにより、大径筒23における軸線O方向の内側の端部は、いわゆるテーパー状に形成されている。
【0026】
なお、テーパー状に形成された大径筒23の端部のテーパー角は、パイプ40を継手本体11内に挿入する時の抵抗に応じて設定すればよい。
傾斜面23bは、軸線O方向の内側と径方向の外側との間の向きに向かって凸となるように湾曲した曲面(R面取りされた面)であってもよい。この湾曲した曲面では、大径筒23における軸線O方向の内側の端部の外径は、軸線O方向の内側に向かうに従い漸次、小さくなる。さらに、この湾曲した曲面では、軸線O方向の内側に向かう長さに対する、軸線Oに近づく長さの比率は、軸線O方向の内側に向かうに従い大きくなる。
傾斜面23b及び湾曲面23cは、大径筒23に形成されなくてもよい。
【0027】
図1に示すように、大径筒23の外周面は、第1シール部材12に径方向の内側から接触する。
大径筒23の厚さは、パイプ40の厚さと同等であることが好ましい。大径筒23は、継手本体11のストッパー11Aに軸線O方向の外側から突き当たって留められている。大径筒23における軸線O方向の内側の端部は、継手本体11の第2段19b内に配置されている。
【0028】
図2に示すように、小径筒22の外周面には、径方向の内側に向かって凹んだ溝22aが形成されている。溝22aは、周方向の全周にわたって設けられている。溝22aは、小径筒22における軸線O方向の中間部に形成されている。小径筒22の内周面における溝22aに対応する部分に、径方向の内側に向かって突出した突部22bが形成されている。突部22bは、周方向の全周にわたって延びている。突部22bの突出量は、小さいことが好ましい。
小径筒22は、パイプ40の端部内に配置される(図1参照)。
なお、内径規格13Aを想定した場合、小径筒22における突部22bが形成された部分の内径(最小内径)Dは、11.75mmを超えて12.75mm未満であることがこのましい。内径Dが11.75mm以下であると、突部22bによる圧力損失が大きくなり、インコア13内を流れる水の流量が少なくなる。一方で、内径Dが12.75mm以上であると、第2シール部材14が薄く、強度が弱まる。この場合、第2シール部材14が切れやすくなる。
第2シール部材14の強度やインコア13内の圧力損失を考慮して、内径Dを設定すればよい。
【0029】
なお、図1に示すように、パイプ40の内径は、大径筒23の外径よりも小さい。パイプ40の内径は、小径筒22の外径よりも大きい。このため、パイプ40にインコア13を取り付けると、パイプ40の軸線O方向の端縁に、大径筒23の端縁23aが突き当たって留まる。パイプ40の軸線O方向の端縁は、軸線O方向において第1シール部材12と第2シール部材14との間に位置している。
【0030】
図2に示すように、第2シール部材14は、円環状に形成されている。より詳しく説明すると、第2シール部材14は、シール本体25と、第1突部26と、第2突部27と、を備えている。
シール本体25は、円環状に形成されている。シール本体25における、軸線Oを含む基準平面による断面形状は、矩形状である。
第1突部26は、シール本体25における軸線O方向の外側の外周面から径方向の外側に向けて突出する。前記基準平面による断面において、第1突部26は、径方向の外側に向けて凸となる半円形状である。第2突部27は、シール本体25における軸線O方向の内側の外周面から径方向の外側に向けて突出する。前記基準平面による断面において、第2突部27は、径方向の外側に向けて凸となる半円形状である。第2突部27の突出量は、第1突部26の突出量よりも小さい。
なお、突部26,27の突出量は、この限りではなく、適宜設定される。
【0031】
第2シール部材14は、第1シール部材12と同様の材料で形成される。第2シール部材14は、インコア13における小径筒22の溝22a内に配置される。第2シール部材14は、小径筒22の外周面に配置される。
第2シール部材14に外力が作用しない自然状態では、突部26,27、及びシール本体25における径方向の外側の端部は、溝22aから径方向の外側に突出している。
図1に示すように、第2シール部材14は、インコア13の小径筒22の外周面における、第1シール部材12よりも軸線O方向の外側となる位置に配置されている。第2シール部材14は、継手本体11内に配置されるパイプ40の内周面に径方向の内側から接触する。
なお、第2シール部材としてOリングを採用してもよい。この場合、第2シール部材の前記基準平面による断面は、円形状である。
【0032】
スペーサ15は、縮径部30と、拡径部31と、を備えている。縮径部30及び拡径部31は、それぞれ円筒状に形成されている。縮径部30は、拡径部31に対して軸線O方向の内側に配置されている。拡径部31は、縮径部30の外径よりも大きな外径を有している。縮径部30の内径、及び拡径部31の内径は、互いに同等である。縮径部30及び拡径部31は、互いに連なっている。
拡径部31の内周面における軸線O方向の外側の端部には、径方向の外側に向かって凹んだ凹部31aが形成されている。凹部31aは、軸線O方向の外側に開口している。
縮径部30は、継手本体11の内周面における、第1シール部材12よりも軸線O方向の外側に配置されている。すなわち、縮径部30は、継手本体11の第1段19a内に配置されている。拡径部31における軸線O方向の内側を向く端面は、継手本体11の端縁11aに接触している。
スペーサ15を構成する縮径部30及び拡径部31の内部には、パイプ40がそれぞれ挿入される。
【0033】
抜け止めリング16は、パイプ40の抜けを抑制する。抜け止めリング16における径方向の内側には、径方向の内側に向かうに従い漸次、軸線O方向の内側に向けて延びる係止環部16Aが形成されている。係止環部16Aは、スペーサ15の凹部31a内に配置されている。
係止環部16Aに外力が作用しない自然状態での係止環部16Aの内径は、パイプ40の外径よりも小さい。パイプ40が継手本体11に挿入されたとき、係止環部16Aの内周縁が、パイプ40の外周面に食い込むことで、抜け止めリング16が、管継手10からパイプ40が軸線O方向の外側に抜けることを抑止する。なお係止環部16Aは、周方向に複数の環部片(不図示)に分割されていることが好ましい。
抜け止めリング16は、例えば金属材料等により形成されている。
【0034】
ブッシュ17は、多段の筒状に形成されている。ブッシュ17は、第1筒34と、第2筒35と、を備えている。
第1筒34は、継手本体11の雄ねじ部11Cに螺着する。第1筒34における軸線O方向の外側の端部は、継手本体11から軸線O方向の外側に突出する。この端部には、径方向の内側に向けて突出する凸部36が設けられている。凸部36は、円環状に形成されている。凸部36は、周方向の全周にわたって延びている。凸部36の内径は、継手本体11の内径よりも大きい。凸部36は、継手本体11の端縁11aに接触又は近接する。
【0035】
第2筒35は、第1筒34よりも小径である。第2筒35は、第1筒34における軸線O方向の外側の端部から軸線O方向の外側に延びる。第2筒35において軸線O方向の内側を向く端面は、継手本体11の端縁11aに対向している。
【0036】
継手本体11、インコア13、スペーサ15、及びブッシュ17は、例えば合成樹脂材料の射出成形等により形成されている。継手本体11、インコア13、スペーサ15、及びブッシュ17の材質としては、架橋ポリエチレン、ポリブデン、塩化ビニル、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ガラス繊維強化PPS、ポリフッ化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリアセタール等、用途に応じた品質設計に基づき、任意に選択することができる。また、切削加工や融着等の他の加工方法を用いて、継手本体11等を形成してもよい。
なお、継手本体11、インコア13、スペーサ15、及びブッシュ17を金属材料により形成してもよい。この場合には鋳造、鍛造、および切削加工等により形成することができる。
【0037】
なお、管継手10にパイプ40を接続する前には、例えば、継手本体11内にインコア13が収容された状態で、管継手10が梱包される。このとき、継手本体11内にインコア13が収容される向きは、図1とは逆向きでもよい。すなわち、軸線O方向の内側に小径筒22が配置され、軸線O方向の外側に大径筒23が配置される。継手本体11内にインコア13を収容することで、省スペース化やインコア13の紛失を防止することができる。
なお、パイプ40は、架橋ポリエチレン等の樹脂で形成される。
【0038】
次に、以上のように構成された配管構造1を施工する際に、管継手10にパイプ40を接続する手順について説明する。
まず、継手本体11内からインコア13を取り出す。このとき、図3に示すように、第1シール部材12は、継手本体11に取り付けられている。第2シール部材14は、インコア13に取り付けられている。
インコア13を、パイプ40に取り付ける。このとき、パイプ40の軸線O方向の端縁に、大径筒23の端縁23aが突き当たって留まる。インコア13の小径筒22がパイプ40内に配置される。小径筒22に取り付けられた第2シール部材14は、パイプ40の内周面に接触する。
【0039】
例えば、管継手10が下方、パイプ40が上方になり、軸線Oが上下方向に沿うように配置する。管継手10の一方のブッシュ17側からパイプ40を挿入する際に、大径筒23における軸線O方向の内側の端部に形成された傾斜面23bをブッシュ17の内周面等に接触させながら挿入する。大径筒23の外周面には傾斜面23bが形成されているため、インコア13は傾斜面23bに案内されて、継手本体11内に挿入されていく。
また、大径筒23に形成された突起24が、抜け止めリング16の係止環部16Aに突き当たって留まる。このため、パイプ40からインコア13が下方に離脱して、管継手10(継手本体11)内に先に入ってしまうことが抑制される。
【0040】
管継手10に対してパイプ40をさらに下方に押し込むと、図1に示すように、突起24が抜け止めリング16を下方に乗り越え、継手本体11のストッパー11Aにインコア13が軸線O方向の外側(上方)から突き当たって留まる。第1シール部材12に、大径筒23の外周面が接触する。
以上の工程で、管継手10にパイプ40が接続される。
【0041】
以上説明したように、本実施形態の管継手10によれば、継手本体11内にパイプ40が配置されると、軸線O方向の内側からは、第1シール部材12により継手本体11とインコア13との間の矢印A1で示す水の流れが封止される。この継手本体11とインコア13との間は、パイプ40の外周面に傷ができても止水できる位置である。一方で、軸線O方向の外側からは、例えば第2シール部材14によりパイプ40とインコア13との間の矢印A2で示す水の流れが封止される。
従って、パイプ40の外周面に傷ができても止水することができる。
通常、インコアは、管継手とセットで出荷される。そして、パイプを管継手に差し込む直前に、インコアがパイプに取り付けられる。よって、インコアの外周面に、傷はできない。インコアの外周面と継手本体との間を第1シール部で止水することで、パイプの外周面に傷があっても止水できる。
【0042】
管継手10は、第2シール部材14を備えている。継手本体11内にパイプ40が配置されると、軸線O方向の外側からは、第2シール部材14によりパイプ40とインコア13との間の矢印A2で示す水の流れが封止される。第2シール部材14がパイプ40の内周面に接触することで、パイプ40の外周面に傷ができても、軸線O方向の外側及び軸線O方向の内側のそれぞれから止水することができる。
また、パイプ40にインコア13を取り付けているか否かに関わらず、例えば、継手本体11内にパイプ40を挿入する長さを、パイプ40の軸線O方向の内側の端縁が第1シール部材12と第2シール部材14との間に位置する一定の長さに決める。パイプ40にインコア13を取り付けている場合には、インコア13はパイプ40とともに継手本体11内に挿入され、管継手10内にインコア13が取り付けられる。管継手10内にインコア13が取り付けられると、パイプ40内の水圧テストをした場合に、前記のように止水できる。一方で、管継手10内にインコア13を取り付け忘れると、パイプ40内の水圧テストをした場合に、第1シール部材12とパイプ40との間等から漏水する。従って、パイプ40内の水圧テストにおける漏水の有無を確認することで、インコア13の取り付け忘れを防止することができる。
【0043】
なお、パイプ40にインコア13を取り付けていない場合には、パイプ40の挿入抵抗が上がるため、パイプ40を最後まで押し込みにくい。
【0044】
インコア13は、小径筒22と、大径筒23と、を備える。管継手10内に挿入したパイプ40が、大径筒23に対して軸線O方向の外側から突き当たって留まる。このため、インコア13に対してパイプ40を軸線O方向に位置決めすることができる。
小径筒22に形成された溝22a内に、第2シール部材14が配置されている。第2シール部材14が溝22aで軸線O方向に位置決めされるため、第2シール部材14が小径筒22に対して軸線O方向に位置ズレするのを抑制することができる。
【0045】
大径筒23における軸線O方向の内側の端部の外径は、軸線O方向の内側に向かうに従い漸次、小さくなる。継手本体11内に大径筒23を挿入する際に、例えば、大径筒23の軸線O方向の内側の端部の外周面(傾斜面23b)を継手本体11の内周面に接触させながら挿入する。この端部の外径は、軸線O方向の内側に向かうに従い漸次小さくなる。このため、この端部における軸線O方向の内側の端の外径が小さくなって、大径筒23を継手本体11内に挿入しやすくなる。この端部は、外径が変化する傾斜面23bに案内されて、継手本体11内に挿入されていく。従って、継手本体11内に、大径筒23を挿入しやすくすることができる。
管継手10は、スペーサ15を備えている。継手本体11から第1シール部材12が軸線O方向の外側に移動するのをスペーサ15が阻害するため、第1シール部材12が継手本体11から飛び出すのを防止することができる。
【0046】
また、本実施形態の配管構造1によれば、パイプ40の外周面に傷ができても止水可能であり、インコア13の取り付け忘れを防止する管継手10を用いて、配管構造1を構成することができる。
【0047】
なお、図4に示す第1変形例の管継手10Aのように、溝22aが小径筒22における軸線O方向の外側の端部に形成されてもよい。この場合において、インコア13の軸線O方向の全長に対する、インコア13の軸線O方向の外側の端から溝22aまでの長さL1の比は、(1/6)~(1/8)よりも大きいことが好ましい。
図5に示す第2変形例の管継手10Bのように、溝22aが小径筒22における軸線O方向の内側の端部に形成されてもよい。ここで、例えば、パイプ40における軸線O方向の端縁41が、軸線Oに対し直交せずに傾斜している場合について説明する。この場合、第2シール部材14の径方向の外側に空間が形成され、第2シール部材14が、パッキン圧縮率等の所望の性能を満たすことができない虞がある。ここで言うパッキン圧縮率とは、パイプ挿入時にパッキンが潰される体積の比を意味し、(1)式で定義される。
{(パッキンの元々の体積)-(パイプ挿入後のパッキンの体積)}/(パッキンの元々の体積) ・・(1)
このため、小径筒22における軸線O方向の内側の端から溝22aの中心までの長さL2は、「2mm+第2シール部材14の軸線O方向の長さ」以上であることが好ましい。
【0048】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
例えば、前記実施形態では、継手本体は、角筒状等の筒状に形成されていてもよい。
インコア13に、溝22a、傾斜面23b、及び湾曲面23cが形成されていなくてもよい。
【0049】
インコア13は、大径筒23を備えなくてもよい。図示はしないが、この場合、インコアは、筒本体と、突起と、を備える。筒本体は、円筒状に形成されている。突起は、筒本体の外周面における軸線O方向の中間部に配置されている。突起は、筒本体の全周にわたって配置されていることが好ましい。筒本体における、突起よりも軸線O方向の内側の外周面は、第1シール部材12に接触する。筒本体における、突起よりも軸線O方向の外側の外周面には、第2シール部材が配置されている。この場合、第2シール部材として、より外径が大きい(太い)第2シール部材を用いることが好ましい。
この変形例のように構成された管継手に対して、内径が、筒本体及び突起全体の外径よりも小さく筒本体の外径よりも大きいパイプを挿入する。すると、このパイプ内に筒本体が挿入され、このパイプが突起に対して、軸線O方向の外側から突き当たって留まる。このため、インコアに対してパイプを軸線O方向に位置決めすることができる。
【0050】
管継手10は、スペーサ15、抜け止めリング16、及びブッシュ17を備えなくてもよい。
管継手10は、第2シール部材14を備えなくてもよい。この場合、インコア13の小径筒22の外周面に接着剤を塗布して、パイプ40に挿し込めばよい。
【0051】
(実験結果1)
以下、実施例の管継手を用いて、水圧試験を行った結果について説明する。水圧試験は、架橋ポリエチレン管工業会発行の施工ハンドブックに記載されたものである。
まず、パイプの一端の外表面に90度ずつ4本、深さ0.1~0.3mm、長さ10cmの傷を管軸方向にけがき棒で付けた。次に、パイプの一端にインコアを差し込み、継手本体の一端へ挿入、接続した。
次に継手本体の他端をプラグで塞ぎ、パイプの他端をポンプを備える給水装置に接続した。パイプと継手本体の内部を満水にし、給水装置にて1.75MPaの水圧を5分間かけた。加圧を停止し60分後、継手本体を観察したところ、漏水を発見しなかった。
これにより、パイプの外周面に傷があっても、インコアとこれに当接する第1シール部材により止水できることが確認できた。さらに第2シール部材により、パイプの内周面とインコアの外周面との間でも止水できることが確認できた。
【0052】
(実験結果2)
以下、実施例の管継手、及び比較例の管継手を用いて、配管構造内を流れる水の流量を測定した結果について説明する。
φ16のエルボ型の管継手を用いて配管構造(システム)を構成し、蛇口からの吐水量(システム流量)を測定した。管継手以外は、配管構造を同一の構成とした。
管継手の最小内径に対して、吐水量を測定した結果を、表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
比較例の外面止水式の管継手では、管継手として、金属製及び樹脂製の管継手を用いた。
実施例の管継手では、インコアの内径が12.75mm(No.1)及び11.75mm(No.2)の2種を用意して測定した。
比較例の管継手として、他社製13A用の樹脂製外面止水継手を用意して、実験を行った。
【0055】
No.1ではシステム流は237mL/secであり、No.2ではシステム流は227mL/secであった。実施例の管継手の平均流量は、232mL/sec(ミリリットル毎秒)となる。
【0056】
実施例の管継手では、比較例の管継手に対して、6~25mL/sec流量が低下する。しかし、比較例においてシステム流量が、238~252mL/secある中で、6~25mL/secの差は、例えばシャワーを浴びる際等には感じられない程度である。
すなわち、実施例の管継手では、第2シール部材により内径が僅かに小さくなるが、システム流量の低下は実使用上問題が無い程度である。
【符号の説明】
【0057】
1 配管構造
10,10A,10B 管継手
11 継手本体
11a 端縁
12 第1シール部材
13 インコア(第1筒体)
14 第2シール部材
15 スペーサ(第2筒体)
22 小径筒
22a 溝
23 大径筒
40 パイプ
O 軸線
図1
図2
図3
図4
図5