(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】重合体組成物、架橋体及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 9/00 20060101AFI20241009BHJP
C08L 15/00 20060101ALI20241009BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20241009BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20241009BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
C08L9/00
C08L15/00
C08K3/36
C08K3/04
B60C1/00 A
B60C1/00 B
(21)【出願番号】P 2020183168
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2023-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】322004083
【氏名又は名称】株式会社ENEOSマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】菊池 利充
(72)【発明者】
【氏名】千賀 寛文
(72)【発明者】
【氏名】坂上 裕人
(72)【発明者】
【氏名】佐野 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】福本 天斗
(72)【発明者】
【氏名】早川 俊之
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/203984(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/131397(WO,A1)
【文献】特表2013-514399(JP,A)
【文献】特表2013-522427(JP,A)
【文献】特開平02-077305(JP,A)
【文献】特開2020-169239(JP,A)
【文献】特開2020-169237(JP,A)
【文献】特開2017-095560(JP,A)
【文献】国際公開第2018/116622(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/150645(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/133097(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(1)で表される構造単位、下記式(2)で表される構造単位、下記式(3)で表される構造単位、及び下記式(4)で表される構造単位の重合体中の構成比(モル比)をそれぞれp、q、r、sとしたとき、下記数式(i)で表される値θが0.75以上であり、炭素-炭素不飽和結合を有する共役ジエン系重合体と、
(B)水溶性粒子及び水溶性繊維よりなる群から選択される少なくとも1種の成分と、
を含有する、重合体組成物。
数式(i):
θ=(p+(0.5×r))/(p+q+(0.5×r)+s)
【化1】
【請求項2】
前記(A)共役ジエン系重合体は、アミノ基、窒素含有複素環基、ホスフィノ基、水酸基、チオール基及びヒドロカルビルオキシシリル基よりなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する、請求項1に記載の重合体組成物。
【請求項3】
前記(A)共役ジエン系重合体は、下記式(5)で表される化合物及び下記式(6)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物に由来する部分構造を有する、請求項1又は2に記載の重合体組成物。
【化2】
(式(5)中、A
1は、窒素、リン、酸素、硫黄及びケイ素よりなる群から選択される少なくとも1種の原子を有し、活性水素を有さず、かつR
5に対して窒素原子、リン原子、酸素原子、硫黄原子、ケイ素原子、若しくはカルボニル基に含まれる炭素原子で結合する1価の官能基であるか、又は(チオ)エポキシ基である。R
3及びR
4は、それぞれ独立して、ヒドロカルビル基である。R
5は、ヒドロカルビレン基である。rは、0~2の整数である。ただし、rが2の場合、式中の複数のR
3は、互いに同一の基又は異なる基である。rが0又は1の場合、式中の複数のR
4は、互いに同一の基又は異なる基である。)
【化3】
(式(6)中、A
2は、窒素、リン、酸素、硫黄及びケイ素よりなる群から選択される少なくとも1種の原子を有し、活性水素を有さず、かつR
9に対して窒素原子、リン原子、酸素原子、硫黄原子若しくはケイ素原子で結合する1価の官能基であるか、又は炭素数1~20のヒドロカルビル基である。R
6及びR
7は、それぞれ独立して、ヒドロカルビル基である。R
8は、ヒドロカルビレン基である。R
9は、単結合又はヒドロカルビレン基である。mは0又は1である。ただし、mが0の場合、式中の複数のR
7は、互いに同一の基又は異なる基である。)
【請求項4】
前記(A)共役ジエン系重合体のガラス転移温度が-40℃以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の重合体組成物。
【請求項5】
前記(A)共役ジエン系重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が1.0×10
5~2.0×10
6である、請求項1~4のいずれか一項に記載の重合体組成物。
【請求項6】
前記(B)成分の含有量が、前記(A)共役ジエン系重合体100質量部に対して、0.1~40質量部である、請求項1~5のいずれか一項に記載の重合体組成物。
【請求項7】
更に多孔質粒子を含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の重合体組成物。
【請求項8】
更に架橋剤を含有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の重合体組成物。
【請求項9】
更に、シリカ及びカーボンブラックよりなる群から選択される少なくとも1種を含有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の重合体組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の重合体組成物を用いて得られる架橋体。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか一項に記載の重合体組成物によりトレッド及びサイドウォールの一方又は両方が形成されたタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体組成物、架橋体及びタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン-ブタジエン共重合体等の共役ジエン系重合体は、耐熱性、耐摩耗性、機械的強度、成形加工性等の各種特性が良好であることから、空気入りタイヤや防振ゴム、ホース等の各種工業製品に広く使用されている。また従来、冬用タイヤに適用するべく、氷路面のような表面凹凸が大きい路面でのグリップ力を改善するためのゴム材料が種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
冬用タイヤやオールシーズンタイヤの製造では、良好な氷上グリップ性能を得るために、ガラス転移温度(Tg)が比較的低い重合体が一般に用いられる。このため、得られる加硫ゴムは軟らかく、耐摩耗性が十分でない傾向がある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、氷上グリップ性能が良好であって、かつ耐摩耗性に優れた加硫ゴムを製造することができる重合体組成物を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するべく検討した。そして、特定の共役ジエン系重合体と、特定の添加剤とを組み合わせることにより上記課題を解決できることを見出した。本発明によれば、以下の手段が提供される。
【0007】
[1] (A)下記式(1)で表される構造単位、下記式(2)で表される構造単位、下記式(3)で表される構造単位、及び下記式(4)で表される構造単位の重合体中の構成比(モル比)をそれぞれp、q、r、sとしたとき、下記数式(i)で表される値θが0.75以上であり、炭素-炭素不飽和結合を有する共役ジエン系重合体と、(B)水溶性粒子及び水溶性繊維よりなる群から選択される少なくとも1種の成分と、を含有する、重合体組成物。
数式(i):
θ=(p+(0.5×r))/(p+q+(0.5×r)+s)
【化1】
[2] 上記[1]の重合体組成物を用いて得られる架橋体。
[3] 上記[1]の重合体組成物によりトレッド及びサイドウォールの一方又は両方が形成されたタイヤ。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、良好な氷上グリップ性能を示し、かつ耐摩耗性に優れた加硫ゴムを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪重合体組成物≫
本発明の重合体組成物(以下、単に「本組成物」ともいう)は、以下の(A)成分及び(B)成分を含有する。以下に、本組成物に含有される各成分、及び必要に応じて配合される成分について説明する。なお、本明細書において、「~」を用いて記載された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味である。
【0010】
<(A)共役ジエン系重合体>
(A)成分は、下記式(1)で表される構造単位、下記式(2)で表される構造単位、下記式(3)で表される構造単位、及び下記式(4)で表される構造単位の重合体中の構成比(モル比)をそれぞれp、q、r、sとしたとき、下記数式(i)で表される値θが0.75以上であり、炭素-炭素不飽和結合を有する共役ジエン系重合体(以下、「(A)重合体」ともいう)である。
数式(i):
θ=(p+(0.5×r))/(p+q+(0.5×r)+s)
【0011】
(A)重合体としては、共役ジエン化合物に由来する構造単位を有する重合体の水添物を用いることができる。こうした(A)重合体は、まず、共役ジエン化合物を含む単量体を重合することにより未水添の共役ジエン系重合体を得て、次いで、得られた重合体に対し水素添加を行うことにより製造することができる。
【0012】
(A)重合体を構成する共役ジエン化合物としては、1,3-ブタジエンを好ましく用いることができる。また、(A)重合体を得るための重合では、1,3-ブタジエンの他、1,3-ブタジエン以外の共役ジエン化合物を用いてもよい。1,3-ブタジエン以外の共役ジエン化合物の具体例としては、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン等が挙げられる。1,3-ブタジエン以外の共役ジエン化合物としては、これらの中でもイソプレンが好ましい。なお、(A)重合体の製造に際し、共役ジエン化合物としては、1種の化合物が単独で使用されてもよく、2種以上の化合物が組み合わされて使用されてもよい。
【0013】
(A)重合体は、本組成物を用いて得られる架橋体の強度を高める観点から、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合体であることが好ましい。重合に使用する芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、α-メチルスチレン、N,N-ジメチルアミノエチルスチレン、ジフェニルエチレン等が挙げられる。芳香族ビニル化合物は、これらの中でも、スチレン及びα-メチルスチレンのうち少なくともいずれかを特に好ましく使用することができる。なお、芳香族ビニル化合物としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0014】
(A)重合体が、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合体である場合、アニオン重合におけるリビング性が高い点で、中でも、1,3-ブタジエンとスチレンとの共重合体であることが好ましい。(A)重合体は、重合体組成物に配合されるフィラーの分散性をより良好にすることができる点で、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との分布が不規則なランダム共重合体であることが好ましい。なお、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とのランダム共重合体は、本発明の効果が得られる限り、共役ジエン化合物又は芳香族ビニル化合物からなるブロック部分を更に有していてもよい。
【0015】
共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合体において、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有量は、強度、耐摩耗性及び低ヒステリシスロス特性を良好にするとともに、氷上グリップ性能を高くする観点から、共重合体を構成するモノマーの全量に対して、3~45質量%であることが好ましい。芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有量は、共重合体を構成するモノマーの全量に対して、4質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることが更に好ましい。
【0016】
また、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有量は、氷上グリップ性能を十分に高くできる点で、共重合体を構成するモノマーの全量に対して、40質量%以下であることがより好ましく、35質量%以下であることが更に好ましく、30質量%以下であることがより更に好ましく、25質量%以下であることが特に好ましい。芳香族ビニル化合物単位の含有量を上記範囲内にすることで、生産性と強度及び耐摩耗性との両立が可能となる。(A)重合体は、(A)重合体を構成するモノマーの全量100質量%に対し、1,3-ブタジエン単位を50~97質量%、芳香族ビニル化合物単位を3~45質量%、及び、1,3-ブタジエン以外の共役ジエン化合物単位を0~30質量%含むことが好ましい。このような配合比とすることにより、架橋体の耐摩耗性を高く維持しつつ、氷上グリップ性能をバランス良く改善できる点で好適である。
【0017】
なお、上記で例示した共役ジエン化合物及び芳香族ビニル化合物は、活性末端を有する共役ジエン系重合体を得ることが可能である点において、いずれも同様の作用を有するものである。したがって、後述の実施例に記載されていないものであっても、本発明において使用することが可能である。
【0018】
重合に際しては、共役ジエン化合物及び芳香族ビニル化合物以外の他のモノマーを使用することができる。他のモノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等を挙げることができる。他のモノマーに由来する構造単位の含有量は、(A)重合体を構成するモノマーの全量に対して、30質量%以下とすることが好ましく、20質量%以下とすることがより好ましく、10質量%以下とすることが更に好ましい。
【0019】
(A)重合体を得るための重合法としては、溶液重合法、気相重合法、バルク重合法のいずれを用いてもよいが、溶液重合法が特に好ましい。また、重合形式としては、回分式及び連続式のいずれを用いてもよい。溶液重合法を用いる場合、具体的な重合方法の一例としては、有機溶媒中において、共役ジエン化合物を含むモノマーを、重合開始剤及び必要に応じて用いられるランダマイザーの存在下、重合を行う方法が挙げられる。
【0020】
重合開始剤としては、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物のうち少なくともいずれかを用いることができる。アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物としては、アニオン重合の開始剤として通常用いるものを使用することができる。重合開始剤の具体例としては、メチルリチウム、エチルリチウム、n-プロピルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム、1,4-ジリチオブタン、フェニルリチウム、スチルベンリチウム、ナフチルリチウム、ナフチルナトリウム、ナフチルカリウム、ジ-n-ブチルマグネシウム、ジ-n-ヘキシルマグネシウム、エトキシカリウム、ステアリン酸カルシウム等を挙げることができる。これらの中でも、重合開始剤としてはリチウム化合物を好ましく使用することができる。
【0021】
重合反応は、上記のアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物のうち少なくともいずれかと、シリカと相互作用する官能基を有する化合物とを混合して得られる化合物(以下、「開始変性剤」ともいう)の存在下で行ってもよい。開始変性剤の存在下で重合を行うことにより、(A)重合体の重合開始末端に、シリカと相互作用を有する官能基を導入することができる。また、シリカと相互作用する官能基を(A)重合体の開始末端に導入することにより、本組成物を用いて得られる加硫ゴムの低ヒステリシスロス性能(低燃費性能)を向上できる点で好適である。
【0022】
なお、本明細書において「相互作用」とは、分子間で共有結合を形成するか、又は共有結合よりも弱い分子間力(例えば、イオン-双極子相互作用、双極子-双極子相互作用、水素結合、ファンデルワールス力等といった分子間に働く電磁気学的な力)を形成することを意味する。「シリカと相互作用する官能基」とは、シリカと相互作用する原子(例えば、窒素原子、硫黄原子、リン原子、酸素原子、ケイ素原子等)を少なくとも1個有する基である。なお、「シリカと相互作用する官能基」が有するケイ素原子は、好ましくは、ヒドロカルビルオキシシリル基中のケイ素原子である。
【0023】
開始変性剤は、中でも、アルキルリチウム等のリチウム化合物と、第2級アミン化合物などの窒素含有化合物との反応生成物であることが好ましい。窒素含有化合物としては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ドデカメチレンイミン、N,N’-ジメチル-N’-トリメチルシリル-1,6-ジアミノヘキサン、ピペリジン、ピロリジン、ヘキサメチレンイミン、ヘプタメチレンイミン、ジシクロヘキシルアミン、N-メチルベンジルアミン、ジ-(2-エチルヘキシル)アミン、ジアリルアミン、モルホリン、N-(トリメチルシリル)ピペラジン、N-(tert-ブチルジメチルシリル)ピペラジン、1,3-ジトリメチルシリル-1,3,5-トリアジナン等が挙げられる。
【0024】
なお、開始変性剤の存在下で重合を行う場合、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物と、窒素含有化合物とを予め混合することにより開始変性剤を調製し、調製物を重合系中に添加して重合を行ってもよい。あるいは、重合系中に、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物と、窒素含有化合物とを添加し、重合系中で両者を混合することにより開始変性剤を調製して重合を行ってもよい。
【0025】
ランダマイザーは、上記重合により得られる重合体における1,2-ビニル結合の含有率(ビニル含量)の調整等を目的として用いることができる。ランダマイザーの例としては、ジメトキシベンゼン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、2,2-ジ(テトラヒドロフリル)プロパン、2-(2-エトキシエトキシ)-2-メチルプロパン、トリエチルアミン、ピリジン、N-メチルモルホリン、テトラメチルエチレンジアミン等が挙げられる。ランダマイザーとしては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0026】
重合に使用する有機溶媒としては、反応に不活性な有機溶剤であればよく、例えば、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等を用いることができる。中でも、炭素数3~8の炭化水素が好ましく、その具体例としては、例えばn-ペンタン、イソペンタン、n-へキサン、シクロへキサン、プロペン、1-ブテン、イソブテン、トランス-2-ブテン、シス-2-ブテン、1-ヘキセン、2-ヘキセン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ヘプタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、1-ペンテン、2-ペンテン、シクロヘキセン等を挙げることができる。なお、有機溶媒としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
溶液重合を用いる場合、反応溶媒中のモノマー濃度は、生産性と重合コントロールの容易性とのバランスを維持する観点から、5~50質量%であることが好ましく、10~30質量%であることがより好ましい。重合反応の温度は、-20~150℃であることが好ましく、0~120℃であることがより好ましく、20~100℃であることが特に好ましい。また、重合反応は、モノマーを実質的に液相に保つのに十分な圧力の下で行うことが好ましい。このような圧力は、重合反応に対して不活性なガスによって、反応器内を加圧する等の方法によって得ることができる。
【0028】
上記重合により得られる共役ジエン系重合体の1,2-ビニル含量(ビニル含量)は、5~70モル%であることが好ましい。ビニル含量が5モル%以上であると、グリップ特性が良好になる傾向があり、70モル%以下であると、良好な耐摩耗性を示す傾向にある。こうした観点から、ビニル含量は、10モル%以上であることがより好ましく、15モル%以上であることが更に好ましい。また、ビニル含量は、60モル%以下であることがより好ましく、50モル%以下であることが更に好ましい。なお、ビニル含量は1H-NMRによって測定した値である。
【0029】
上記重合により、活性末端を有する共役ジエン系重合体を得ることができる。重合を停止させる際には、活性末端を有する共役ジエン系重合体と、アルコールや水素等の重合停止剤やカップリング剤とを反応させてもよい。あるいは、活性末端を有する共役ジエン系重合体と、シリカと相互作用する官能基を有する化合物(以下、「末端変性剤」ともいう)とを反応させてもよい。活性末端を有する共役ジエン系重合体と末端変性剤とを反応させることにより、(A)重合体として、シリカと相互作用する官能基により重合終了末端が変性された変性共役ジエン系重合体を得ることができる。また、(A)重合体として、シリカと相互作用する官能基が重合末端に導入された重合体を用いることにより、低ヒステリシスロス性能を改善できる点で好適である。中でも特に、(A)重合体は、アミノ基、窒素含有複素環基、ホスフィノ基、水酸基、チオール基及びヒドロカルビルオキシシリル基よりなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有することが好ましい。なお、本明細書において「活性末端」とは、分子鎖の端に存在する、炭素-炭素二重結合を有するモノマーに由来する構造以外の部分(より具体的には、金属末端)を意味する。
【0030】
末端変性剤としては、シリカと相互作用する官能基を有し、かつ共役ジエン系重合体の活性末端と反応し得る化合物であれば特に限定されない。末端変性剤は、中でも、窒素原子、硫黄原子、リン原子、酸素原子及びケイ素原子よりなる群から選択される1種の原子を有し、かつ当該原子に活性水素が結合していない化合物を好ましく使用することができる。末端変性剤としては特に、アミノ基、炭素-窒素二重結合を有する基、窒素含有複素環基、ホスフィノ基、環状エーテル基、環状チオエーテル基、保護された水酸基、保護されたチオール基及びヒドロカルビルオキシシリル基よりなる群から選択される1種以上の官能基を有し、かつ重合活性末端と反応し得る化合物を好ましく使用することができる。アミノ基は、保護された1級アミノ基若しくは2級アミノ基、又は3級アミノ基であることが好ましい。
【0031】
末端変性剤としては、下記式(5)で表される化合物及び下記式(6)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を好ましく使用することができる。
【化2】
(式(5)中、A
1は、窒素、リン、酸素、硫黄及びケイ素よりなる群から選択される少なくとも1種の原子を有し、活性水素を有さず、かつR
5に対して窒素原子、リン原子、酸素原子、硫黄原子、ケイ素原子、若しくはカルボニル基に含まれる炭素原子で結合する1価の官能基であるか、又は(チオ)エポキシ基である。R
3及びR
4は、それぞれ独立して、ヒドロカルビル基である。R
5は、ヒドロカルビレン基である。rは、0~2の整数である。ただし、rが2の場合、式中の複数のR
3は、互いに同一の基又は異なる基である。rが0又は1の場合、式中の複数のR
4は、互いに同一の基又は異なる基である。)
【化3】
(式(6)中、A
2は、窒素、リン、酸素、硫黄及びケイ素よりなる群から選択される少なくとも1種の原子を有し、活性水素を有さず、かつR
9に対して窒素原子、リン原子、酸素原子、硫黄原子若しくはケイ素原子で結合する1価の官能基であるか、又は炭素数1~20のヒドロカルビル基である。R
6及びR
7は、それぞれ独立して、ヒドロカルビル基である。R
8は、ヒドロカルビレン基である。R
9は、単結合又はヒドロカルビレン基である。mは0又は1である。ただし、mが0の場合、式中の複数のR
7は、互いに同一の基又は異なる基である。)
【0032】
上記式(5)及び式(6)中、R3、R4、R6、R7、及びヒドロカルビル基である場合のA2について、ヒドロカルビル基は、炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基又は炭素数6~20のアリール基であることが好ましい。
R5及びR9のヒドロカルビレン基は、炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐状のアルカンジイル基、炭素数3~20のシクロアルキレン基又は炭素数6~20のアリーレン基が好ましい。R8のヒドロカルビレン基は、炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐状のアルカンジイル基が好ましい。
rは、共役ジエン系重合体との反応性を高める観点から、0又は1が好ましい。
A1が上記1価の官能基である場合にA1が有する、窒素、リン、酸素、硫黄及びケイ素からなる群より選択される少なくとも1種の原子、並びに、A2が1価の官能基である場合にA2が有する、窒素、リン、酸素、硫黄及びケイ素からなる群より選択される少なくとも1種の原子は、保護基(例えば3置換のヒドロカルビルシリル基等)で保護されていてもよい。なお、本明細書において活性水素とは、炭素原子以外の原子に結合した水素原子をいい、好ましくはポリメチレンの炭素-水素結合よりも結合エネルギーが低いものを指す。保護基とは、A1、A2を重合活性末端に対して不活性な官能基に変換しておく官能基である。(チオ)エポキシ基とは、エポキシ基及びチオエポキシ基を包含する意味である。
【0033】
A1は、オニウム塩生成剤によってオニウムイオンになり得る基であってもよい。末端変性剤がこのような基(A1)を有することにより、(A)重合体に対して優れた形状保持性を付与することができる。A1の具体例としては、例えば1級アミノ基の2つの水素原子が2つの保護基によって置換されてなる窒素含有基、2級アミノ基の1つの水素原子が1つの保護基によって置換されてなる窒素含有基、3級アミノ基、イミノ基、ピリジル基、1級ホスフィノ基の2つの水素原子が2つの保護基によって置換されてなるリン含有基、2級ホスフィノ基の1つの水素原子が1つの保護基によって置換されてなるリン含有基、3級ホスフィノ基、エポキシ基、チオエポキシ基、水酸基の水素原子が保護基によって置換されてなる基、チオール基の水素原子が保護基によって置換されてなる硫黄含有基、ヒドロカルビルオキシカルボニル基等が挙げられる。これらの中でも、シリカとの親和性が良好である点で、窒素原子を有する基であることが好ましく、3級アミノ基、又は1級アミノ基の2つの水素原子が2つの保護基によって置換されてなる窒素含有基であることがより好ましい。
【0034】
末端変性剤の好ましい具体例としては、上記式(5)で表される化合物として、例えば、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルトリメトキシシラン、N,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N,N’,N’-トリス(トリメチルシリル)-N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(4-トリメチルシリル-1-ピペラジノ)プロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0035】
上記式(6)で表される化合物の具体例としては、例えば、2,2-ジメトキシ-1-(3-トリメトキシシリルプロピル)-1,2-アザシロリジン、2,2-ジエトキシ-1-(3-トリメトキシシリルプロピル)-1,2-アザシロリジン、2,2-ジメトキシ-1-フェニル-1,2-アザシロリジン、1-トリメチルシリル-2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-(2,2-ジメトキシ-1,2-アザシロリジン-1-イル)-N,N-ジエチルエタン-1-アミン、2-(2,2-ジメトキシ-1,2-アザシロリジン-1-イル)-N,N-ジメチルエタン-1-アミン、3-(2,2-ジメトキシ-1,2-アザシロリジン-1-イル)-N,N-ジエチルプロパン-1-アミン等が挙げられる。末端変性剤としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
上記の末端変性反応は、例えば溶液反応として行うことができる。この溶液反応は、重合反応の終了後の未反応モノマーを含む溶液を用いて行ってもよく、当該溶液に含まれる共役ジエン系重合体を単離し、シクロヘキサン等の適当な溶媒に溶解した上で行ってもよい。また、末端変性反応は、回分式及び連続式のいずれを用いて行ってもよい。このとき、末端変性剤の添加方法は特に制限されず、一括して添加する方法、分割して添加する方法、連続的に添加する方法等が挙げられる。
【0037】
使用する末端変性剤の量は、反応に使用する化合物の種類に応じて適宜設定すればよいが、重合開始剤が有する重合反応に関与する金属原子に対して、好ましくは0.1モル当量以上、より好ましくは0.3モル当量以上である。末端変性剤の使用量を0.1モル当量以上とすることにより、変性反応を十分に進行させることができ、シリカの分散性の改善効果を高くすることができる点で好適である。末端変性反応の温度は、通常、重合反応の温度と同じであり、-20~150℃であることが好ましく、0~120℃であることがより好ましく、20~100℃であることが特に好ましい。変性反応の温度が低すぎると変性共役ジエン系重合体の粘度が上昇する傾向がある。また、変性反応の温度が高すぎると重合活性末端が失活しやすくなる。末端変性反応の時間は、好ましくは1分~5時間であり、より好ましくは2分~1時間である。
【0038】
なお、(A)重合体のムーニー粘度の調整等を目的として、末端変性剤を用いた変性反応の前若しくは後、又は末端変性剤による変性反応と同時に、四塩化ケイ素や多官能エポキシ化合物(例えば、テトラグリシジル-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサンなど)等のカップリング剤と、活性末端を有する共役ジエン系重合体とを反応させてもよい。カップリング剤の使用量は、所望とする(A)重合体のムーニー粘度や、反応に使用する化合物等に応じて適宜設定できるが、重合開始剤が有する重合反応に関与する金属原子に対し、0.01~0.8モル当量とすることが好ましい。カップリング剤としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
続いて、上記で得られた変性又は未変性の共役ジエン系重合体を水添することにより、(A)重合体を得ることができる。水添反応の方法及び条件は、所望の水素添加率(水添率)の共役ジエン系重合体を得ることができればよく、いずれの方法及び条件を用いてもよい。水添方法の例としては、チタンの有機金属化合物を主成分とする触媒を水添触媒として使用する方法、鉄、ニッケル、コバルトの有機化合物とアルキルアルミニウム等の有機金属化合物からなる触媒を使用する方法、ルテニウム、ロジウム等の有機金属化合物の有機錯体を使用する方法、パラジウム、白金、ルテニウム、コバルト、ニッケル等の金属を、カーボン、シリカ、アルミナ等の担体に担持した触媒を使用する方法等がある。各種の方法の中では、チタンの有機金属化合物単独、又はチタンの有機金属化合物とリチウム、マグネシウム、アルミニウムの有機金属化合物とから成る均一触媒(特公昭63-4841号公報、特公平1-37970号公報)を用い、低圧、低温の穏和な条件で水添する方法が工業的に好ましい。また、ブタジエンの二重結合への水添選択性も高く、本発明の目的に適している。
【0040】
共役ジエン系重合体の水添は、触媒に不活性であって、かつ共役ジエン系重合体が可溶な溶剤中で実施される。好ましい溶媒としては、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-オクタンのような脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、シクロヘプタンのような脂環族炭化水素、ベンゼン、トルエンのような芳香族炭化水素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランのようなエーテル類の単独又はそれらを主成分とする混合物である。
【0041】
水添反応は、一般には共役ジエン系重合体を水素又は不活性雰囲気下、所定の温度に保持し、攪拌下又は不攪拌下にて水添触媒を添加し、次いで水素ガスを導入して所定圧に加圧することによって実施される。不活性雰囲気とは、水添反応の関与体と反応しない雰囲気を意味し、例えばヘリウム、ネオン、アルゴン等が挙げられる。空気や酸素は、触媒を酸化等して触媒の失活を招くため好ましくない。また、窒素は、水添反応時に触媒毒として作用し、水添活性を低下させるため好ましくない。特に、水添反応器内が水素ガス単独の雰囲気であることが最も好適である。
【0042】
水添された共役ジエン系重合体を得る水添反応プロセスは、バッチプロセス、連続プロセス、それらの組合せのいずれでも用いることができる。また、水添触媒としてチタノセンジアリール系化合物を用いる場合は、単独でそのまま反応溶液に加えてもよいし、不活性有機溶媒の溶液として加えてもよい。触媒を溶液として用いる場合に使用する不活性有機溶媒は、水添反応の関与体と反応しない各種溶媒を用いることができる。好ましくは、水添反応に用いる溶媒と同一の溶媒である。また、触媒の添加量は、水添前の共役ジエン系重合体100g当たり0.02~20ミリモルである。
【0043】
(A)重合体は、下記数式(i)で表される値θが0.75以上である。θを0.75以上とすることにより、耐摩耗性が十分に高く、また熱老化による硬度変化が抑制された架橋体を得ることができる。こうした理由から、θは0.78以上であることが好ましく、0.80以上であることがより好ましく、0.85以上であることが更に好ましい。また、θは、架橋反応を十分に行わせる観点から、0.99以下であることが好ましく、0.97以下であることがより好ましい。
数式(i):
θ=(p+(0.5×r))/(p+q+(0.5×r)+s)
【0044】
なお、上記数式(i)は、共役ジエン系重合体の水素添加率を表す。すなわち、上記数式(i)により規定される値θは、(A)重合体の水添率に相当する。したがって、例えばθが0.75の場合、(A)重合体の水添率は75%であることと同義である。重合体中の水添率は、水添反応の時間等により調整することができる。なお、水添率は1H-NMRにより測定された値である。
【0045】
(A)重合体を得る好ましい方法は、1,3-ブタジエンを含むモノマーをアルカリ金属化合物の存在下で溶液重合し、得られた重合体溶液をそのまま用いて末端変性反応を行い、次いで水添反応に供することであり、工業的に有用である。この場合、(A)重合体は、上記で得られた溶液から溶媒を除去し、重合体を単離することにより得ることができる。重合体の単離は、例えばスチームストリッピング等の公知の脱溶媒方法及び熱処理等の乾燥の操作によって行うことができる。
【0046】
(A)重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1.0×105~2.0×106である。Mwが1.0×105以上であると、得られる架橋体の耐摩耗性及び低燃費性能を十分に高くすることができる。また、Mwが2.0×106以下であると、本組成物の加工性を良好にできる点で好適である。(A)重合体のMwは、より好ましくは1.0×105以上であり、更に好ましくは1.2×105以上である。また、(A)重合体のMwは、より好ましくは1.5×106以下であり、更に好ましくは1.5×106以下である。なお、本明細書において重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算値であり、全ピークによる重量平均分子量(トータル重量平均分子量)を表す。
【0047】
氷上グリップ性能に優れた架橋体を得る観点から、(A)重合体のガラス転移温度(Tg)は、-20℃以下であることが好ましく、-30℃以下であることがより好ましく、-40℃以下であることが更に好ましく、-45℃以下であることがより更に好ましい。また、(A)重合体のTgは、例えば-70℃以上である。本明細書において、重合体のTgは、ASTM D3418に準拠して示差走査熱量測定(DSC)によって測定した値である。
【0048】
ここで、氷上グリップ性能に優れた架橋体を得る観点からすると、(A)重合体のTgは低いことが好ましい一方、同程度のTgをもつ非水添SBRと比較すると、(A)重合体は、耐摩耗性については良好であるものの氷上グリップ力に改善の余地があった。この点、(A)重合体と共に(B)成分(水溶性成分)が配合された重合体組成物によれば、Tgが比較的低い(A)重合体を用いた場合にも、耐摩耗性と氷上グリップ性能とのバランスが良好な加硫ゴムを得ることができる点で好適である。
【0049】
<(B)水溶性成分>
本組成物に配合される(B)成分は、水溶性粒子及び水溶性繊維よりなる群から選択される少なくとも1種(以下、「(B)水溶性成分」ともいう)である。(B)水溶性成分としては、室温で水に溶解又は膨潤可能なものであれば特に限定されないが、例えば、25℃の水に対する溶解度が1.2g/100g-H2O以上である物質を使用することができる。
【0050】
・水溶性粒子
水溶性粒子としては、水溶性の無機粒子及び有機粒子が挙げられる。これらのうち、水溶性無機粒子としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム等の塩化物;硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム等の硫化物;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の炭酸塩;リン酸水素ナトリウム等のリン酸塩;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物;等の粒子が挙げられる。
【0051】
水溶性有機粒子としては、例えば、リグニンスルホン酸ナトリウム、リグニンスルホン酸カリウム、リグニンスルホン酸カルシウム、リグニンスルホン酸マグネシウム、リグニンスルホン酸アンモニウム等のリグニンスルホン酸塩;ポリビニルアルコール又はその誘導体(例えば、部分酢酸化物、カルボン酸変性ポリビニルアルコール、スルホン酸変性ポリビニルアルコール等)、ポリ(メタ)アクリル酸アルカリ塩、(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル共重合体のアルカリ塩等の樹脂;単糖類、少糖類、多糖類等の糖類;等の粒子が挙げられる。
【0052】
糖類の具体例としては、単糖類として、グルコース、フルクトース、ガラクトース等を;少糖類として、スクロース、ラクトース、マルトース、ラフィノース、マルトトリオース、トレハロース、パラチノース等を;多糖類として、でんぷん、デキストリン、グリコーゲン、グルカン、キサンタンガム、ガラクトマンナン(グアーガム、フェヌグリークガム等)、シクロデキストリン(α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン等)、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等を、それぞれ挙げることができる。水溶性粒子としては、これらのうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0053】
水溶性粒子は、粉末状、顆粒状、マイクロビーズ等といった種々の形態のものを用いることができる。(B)水溶性成分として使用する水溶性粒子は、中実状の水溶性粒子であることが好ましい。氷上グリップ性能の改善効果を十分に得る観点から、水溶性粒子は、中央値粒度が1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましい。また、氷上グリップ性能と耐摩耗性とをバランスよく発現させる観点から、中央値粒度は1000μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましい。なお、本明細書において、水溶性粒子の中央値粒度はメジアン径(D50)であり、レーザー回折・散乱法により測定される値である。
【0054】
・水溶性繊維
水溶性繊維としては、水に溶解又は膨潤可能な短繊維を用いることができる。具体的には、水溶性繊維の繊維長は、氷上グリップ性能の改善効果を十分に得る観点から、1mm以上が好ましく、2mm以上がより好ましく、4mm以上が更に好ましい。また、繊維長は、耐摩耗性及び加工性の低下を抑制する観点から、30mm以下が好ましく、20mm以下がより好ましく、15mm以下が更に好ましい。水溶性繊維の直径(平均直径)は、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは10μm以上である。また、水溶性繊維の平均直径は、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは30μm以下であり、更に好ましくは20μm以下である。
【0055】
水溶性繊維としては、例えば、水溶性有機粒子の説明において例示した物質を主要成分とする繊維が挙げられる。水溶性繊維としては、中でも、ポリビニルアルコール系繊維及び多糖類繊維よりなる群から選択される少なくとも1種を好ましく使用することができる。水溶性繊維としては、これらのうちの1種を単独で使用してもよく、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0056】
本組成物における(B)水溶性成分の含有量は、本発明の効果が得られる限り特に限定されないが、(A)重合体100質量部に対して、0.1質量部以上40質量部以下であることが好ましい。(B)水溶性成分の含有量が上記範囲にあると、耐摩耗性を確保しつつ良好な氷上グリップ性能を発現する加硫ゴムを得ることができる点で好適である。こうした観点から、(B)水溶性成分の含有量は、(A)重合体100質量部に対して、0.5質量部以上がより好ましく、1質量部以上が更に好ましい。また、架橋体の耐摩耗性の低下を抑制する観点から、(B)水溶性成分の含有量は、(A)重合体100質量部に対して、30質量部以下が好ましく、25質量部以下がより好ましく、20質量部以下が更に好ましく、10質量部以下がより更に好ましい。
【0057】
ここで、加硫ゴムを得るための重合体組成物(以下、「ゴム組成物」ともいう)に(B)水溶性成分を配合し、空気入りタイヤを製造した場合、(B)水溶性成分が水に溶解することで加硫ゴムの水との接触面に表面凹凸が形成され、これにより氷上グリップ性能を向上させることができる。しかしながら、(B)水溶性成分をゴム組成物に配合すると、得られる加硫ゴムの耐摩耗性が大きく低下することが懸念される。また一般に、ゴム組成物は経時劣化により硬化が進行し、グリップ性能が低下する傾向がある。これに対し、(A)重合体と(B)水溶性成分とが配合された本組成物によれば、耐摩耗性と氷上グリップ性能とのバランスが取れた加硫ゴムを得ることができる。また、本組成物は、冬用タイヤ又はオールシーズンタイヤの製造用として好適である。
【0058】
<その他の成分>
本組成物は(A)重合体及び(B)水溶性成分に加え、更に以下の成分を含有してもよい。
【0059】
・多孔質粒子
本組成物は、多孔質粒子(以下、「(C)多孔質粒子」ともいう)を更に含有していてもよい。本組成物が多孔質粒子を更に含有することにより氷上摩擦力の向上を図ることが可能となる。したがって、(B)水溶性成分と共に(C)多孔質粒子が配合された本組成物は、冬用タイヤ又はオールシーズンタイヤの製造用として特に好適である。なお、(B)水溶性成分は、多孔質構造を有しない点において(C)多孔質粒子と相違する。
【0060】
(C)多孔質粒子としては、水溶性又は非水溶性の無機粒子及び有機粒子が挙げられる。無機粒子としては、多孔質体であれば特に限定されないが、中でも、金属酸化物粒子を好ましく使用することができ、アルミニウム、ケイ素及びチタンよりなる群から選択される少なくとも1種を金属原子として有する多孔質金属酸化物粒子をより好ましく使用することができる。こうした多孔質粒子を構成する金属酸化物の具体例としては、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ)、水酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、水酸化ケイ素、アルミノケイ酸塩(例えば、アルミノケイ酸ナトリウム、アルミノケイ酸カリウム、アルミノケイ酸カルシウム等)、酸化チタン等が挙げられる。これらのうち、アルミノケイ酸塩及びガラスよりなる群から選択される少なくとも1種により構成された多孔性の粒子を好ましく使用することができる。
【0061】
有機粒子としては、多孔性樹脂粒子及び多孔性多糖類粒子よりなる群から選択される少なくとも1種を好ましく使用することができる。多孔性樹脂粒子を構成する材料としては、例えば、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66等)、ポリエーテル、ポリエステル、オレフィン系重合体(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体等)、(メタ)アクリル系重合体、ビニル系重合体(ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル等)等が挙げられる。多孔性多糖類粒子を構成する多糖類としては、水溶性有機粒子の説明において例示した多糖類や、セルロース、キチン等の非水溶性多糖類等が挙げられる。多孔性の有機粒子としては、中でも、多孔性ポリアミド粒子、多孔性(メタ)アクリル系重合体、多孔性セルロース粒子、多孔性キチン粒子等を好ましく使用することができる。
【0062】
(C)多孔質粒子の粒度は特に限定されないが、氷上グリップ性能の改善効果を十分に得る観点から、中央値粒度が1μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましい。また、得られる加硫ゴムの強度及び耐摩耗性の低下を抑制する観点から、(C)多孔質粒子の中央値粒度は、2000μm以下が好ましく、1000μm以下がより好ましい。なお、本明細書において、(C)多孔質粒子の中央値粒度はメジアン径(D50)であり、レーザー回折・散乱法により測定される値である。
【0063】
本組成物において、(C)多孔質粒子の含有量は、本発明の効果が得られる限り特に限定されないが、(A)重合体100質量部に対して、0.5質量部以上40質量部以下であることが好ましい。(C)多孔質粒子の含有量を上記範囲とすることにより、強度及び耐摩耗性を良好に保ちながら、氷上グリップ性能を十分に改善できる点で好適である。こうした観点から、(C)多孔質粒子の含有量は、(A)重合体100質量部に対して、1質量部以上がより好ましく、2質量部以上が更に好ましい。また、架橋体の強度及び耐摩耗性の低下を抑制する観点から、(C)多孔質粒子の含有量は、(A)重合体100質量部に対して、30質量部以下が好ましく、25質量部以下がより好ましい。
【0064】
・他のゴム成分
本組成物は、ゴム成分として(A)重合体のみを含有していてもよいが、(A)重合体に加えて、本発明の効果を損なわない範囲において、(A)重合体とは異なるゴム成分(以下、「他のゴム成分」ともいう)を含有していてもよい。かかる他のゴム成分の種類は特に限定されないが、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR。例えば、シス-1,4結合90%以上のハイシスBR、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン(SPB)含有BR等)、イソプレンゴム(IR)、スチレンイソプレン共重合体ゴム、ブタジエンイソプレン共重合体ゴム、天然ゴム(NR)、ハロゲン化ゴム等が挙げられる。他のゴム成分は、より好ましくはSBR、BR及びNRである。他のゴム成分の配合量は、重合体組成物に含まれるゴム成分((A)重合体及び他のゴム成分)の合計量に対して、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下である。
【0065】
なお、本明細書において、重合体組成物に含まれる「ゴム成分」とは、熱硬化によりゴム弾性を示す硬化物を得ることが可能な重合体をいう。当該硬化物は、室温において小さな力で大きな変形(例えば、室温で伸ばすと2倍以上に伸びる変形)を起こし、力を取り除くと急速にほぼ元の形状に戻る性質を示す。
【0066】
・シリカ等
本組成物は、シリカ及びカーボンブラックよりなる群から選択される少なくとも1種(以下、「シリカ等」ともいう)を含むことが好ましい。シリカは、静動比及び良好な低ヒステリシスロス特性が得られる点で好ましく、カーボンブラックは、重合体組成物及び加硫ゴムの強度の改善効果が高い点で好ましい。シリカとしては、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、コロイダルシリカ等が挙げられ、中でも湿式シリカが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、グラファイト等が挙げられ、中でもファーネスブラックが好ましい。
【0067】
本組成物において、シリカ及びカーボンブラックの合計量が、重合体組成物に含まれるゴム成分100質量部に対して、40~150質量部であることが好ましい。シリカ等の配合量が40質量部以上であると、加硫ゴムの強度を良好にする効果を十分に得ることができる点で好ましい。また、シリカ等の配合量が150質量部以下であると、加硫ゴムの耐摩耗性を十分に確保できる点で好ましい。シリカ等の配合量は、ゴム成分の全量100質量部に対して、好ましくは50質量部以上であり、より好ましくは55質量部以上である。また、シリカ等の配合量は、ゴム成分の全量100質量部に対し、好ましくは150質量部以下であり、より好ましくは140質量部以下である。
【0068】
・架橋剤
本組成物は、架橋剤を含有することが好ましい。使用する架橋剤の種類は特に限定されない。架橋剤の具体例としては、有機過酸化物、フェノール樹脂、硫黄、硫黄化合物、p-キノン、p-キノンジオキシムの誘導体、ビスマレイミド化合物、エポキシ化合物、シラン化合物、アミノ樹脂、ポリオール、ポリアミン、トリアジン化合物、金属石鹸等を挙げることができる。これらのうち、使用する架橋剤は、有機過酸化物、フェノール樹脂及び硫黄よりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。なお、架橋剤としては、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0069】
有機過酸化物としては、例えば、1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキセン-3、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,2’-ビス(t-ブチルパーオキシ)-p-イソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキシド、ジ-t-ブチルパーオキシド、t-ブチルパーオキシド等を挙げることができる。
【0070】
フェノール樹脂としては、例えば、下記式(7)で表されるp-置換フェノール系化合物、o-置換フェノール・アルデヒド縮合物、m-置換フェノール・アルデヒド縮合物、臭素化アルキルフェノール・アルデヒド縮合物等を挙げることができる。これらの中でも、p-置換フェノール系化合物が好ましい。なお、p-置換フェノール系化合物は、アルカリ触媒の存在下における、p-置換フェノールとアルデヒド(好ましくは、ホルムアルデヒド)との縮合反応により得ることができる。
【化4】
(式(7)中、Xは、ヒドロキシル基、ハロゲン化アルキル基又はハロゲン原子である。Rは、炭素数1~15の1価の飽和炭化水素基である。nは、0~10の整数である。)
【0071】
フェノール樹脂の市販品としては、製品名「タッキロール201」(アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、田岡化学工業社製)、製品名「タッキロール250-I」(臭素化率4%の臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、田岡化学工業社製)、製品名「タッキロール250-III」(臭素化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、田岡化学工業社製)、製品名「PR-4507」(群栄化学工業社製)、製品名「ST137X」(ローム&ハース社製)、製品名「スミライトレジンPR-22193」(住友デュレズ社製)、製品名「タマノル531」(荒川化学工業社製)、製品名「SP1059」、製品名「SP1045」、製品名「SP1055」、製品名「SP1056」(以上、スケネクタディ社製)、製品名「CRM-0803」(昭和ユニオン合成社製)を挙げることができる。これらの中でも、「タッキロール201」を好ましく使用することができる。
【0072】
架橋剤の配合量は、重合体組成物に含まれるゴム成分の合計100質量部に対して、0.01~20質量部とすることが好ましく、0.1~15質量部とすることがより好ましく、0.5~10質量部とすることが更に好ましい。
【0073】
・樹脂成分
本組成物には、ゴム成分と共に樹脂成分が更に配合されてもよい。樹脂成分の種類は特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。本組成物に樹脂成分を配合する場合、樹脂成分の配合量は、重合体組成物に含まれるゴム成分の全量100質量部に対して、好ましくは1~50質量部、より好ましくは5~40質量部である。
【0074】
本組成物には、上記した成分の他に、タイヤ用、ホース用、防振用、ベルト用等の各種用途の加硫ゴムを得るためのゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。当該添加剤としては、例えば、老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、軟化剤、硫黄、加硫促進剤等が挙げられる。これら各添加剤の配合量は、本発明の効果を損なわない範囲において、添加剤の種類に応じて適宜選択することができる。
【0075】
≪架橋体及びタイヤ≫
本発明の架橋体は、上記重合体組成物を架橋処理することにより得ることができる。架橋体としてゴム成形品を得る場合、通常、重合体組成物を所定形状に成形した後、架橋処理を行う。ゴム成形品の製造は、常法に従い行うことができる。例えば、タイヤの製造は、上述した重合体組成物を、ロールやミキサー等の混合機で混合し、所定の形状に成形したものを常法に従い所定の位置に配して加硫成形する。これにより、トレッド及びサイドウォールの一方又は両方が形成され、空気入りタイヤを得ることができる。
【0076】
本発明の架橋体である加硫ゴムは、機械的強度に優れていることから、各種ゴム成型品に適用することができる。具体的には、タイヤのトレッド、サイドウォール用の材料;産業機械用や設備用などのロール、防振ゴム類;ダイヤフラム、ラジエータホース、エアーホース等の各種ホース及びホースカバー類;パッキン、ガスケット、ウェザーストリップ、O-リング、オイルシール等のシール類;動力伝達用ベルトなどのベルト類;ライニング、ダストブーツ、ワイヤーハーネス、靴底等の材料として用いることができる。これらの中でも、タイヤ用部材、防振用部材、ベルト用部材、ロール用部材、ホース用部材、ワイヤーハーネス用部材及び靴底用部材として好適であり、タイヤ用部材、防振用部材、ロール用部材及びベルト用部材として更に好適である。
【0077】
また、本発明の架橋体は、高い耐摩耗性を示しながら、氷上グリップ性能に優れているため、タイヤ用部材に特に適しており、タイヤ用部材の中でも特に、冬用タイヤ及びオールシーズンタイヤに適している。中でも特に、タイヤのトレッド及びサイドウォールのうち一方又は両方の材料として好適である。
【実施例】
【0078】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。各種物性値の測定方法を以下に示す。
【0079】
[結合スチレン含量(質量%)]:400MHzの1H-NMRによって求めた。
[ビニル含量(モル%)]:400MHzの1H-NMRによって求めた。
[水添率(%)]及び[θ]:500MHzの1H-NMRによって求めた。
[1stピーク重量平均分子量]:ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置(HLC-8120GPC(製品名(東ソー社製)))を使用して得られたGPC曲線の最大ピークの頂点に相当する保持時間から、ポリスチレン換算で求めた。
(GPC条件)
カラム;製品名「GMHXL」(東ソー社製)2本
カラム温度;40℃
移動相;テトラヒドロフラン
流速;1.0ml/分
サンプル濃度;10mg/20ml
[トータル重量平均分子量]:GPC装置(HLC-8120GPC(製品名(東ソー社製)))を使用して上記GPC条件により得られたGPC曲線から、ポリスチレン換算で求めた。
[ガラス転移温度Tg(℃)]:ASTM D3418に準拠して示差走査熱量測定(DSC)により測定した。
【0080】
<水添触媒の製造>
〔触媒Eの合成〕
撹拌機、滴下漏斗を備えた1L容量の三つ口フラスコを乾燥窒素で置換し、無水テトラヒドロフラン200ml及びテトラヒドロフルフリルアルコール0.2モルを加えた。その後、n-ブチルリチウム/シクロヘキサン溶液(0.2モル)を三つ口フラスコ中に15℃にて滴下して反応を行い、テトラヒドロフルフリルオキシリチウムのテトラヒドロフラン溶液を得た。
次に、撹拌機、滴下漏斗を備えた1L容量の三つ口フラスコを乾燥窒素で置換し、ビス(η5-シクロペンタジエニル)チタニウムジクロライド49.8g(0.2モル)及び無水テトラヒドロフラン250mlを加えた。そして、上記記載の方法により得られたテトラフルフリルオキシリチウムのテトラヒドロフラン溶液を室温撹拌下にて約1時間で滴下した。約2時間後、赤褐色液を濾過し、不溶部をジクロロメタンで洗浄した。
その後、ろ液及び洗浄液を合わせて減圧下にて溶媒を除去することにより、触媒E[ビス(η5-シクロペンタジエニル)チタニウム(テトラヒドロフルフリルオキシ)クロライド](「[クロロビス(2,4-シクロペンタジエニル)チタン(IV)テトラヒドロフルフリルアルコキシド]」ともいう。)を得た。なお、収率は95%であった。
【0081】
<共役ジエン系重合体の製造>
〔製造例1:共役ジエン系重合体A-1の合成〕
窒素置換された内容積50リットルのオートクレーブ反応器に、シクロヘキサン25900g、テトラヒドロフラン26g、スチレン1273g、1,3-ブタジエン2361gを仕込んだ。反応器内容物の温度を45℃に調整した後、n-ブチルリチウム(39mmol)を含むシクロヘキサン溶液を添加して重合を開始した。重合は断熱条件で実施し、最高温度は80℃に達した。
重合転化率が99%に達したことを確認した後、ブタジエン111gを追加し、更に5分重合させ、重合体を含む反応液を得た。得られた反応液に四塩化ケイ素2mmolを加えて10分間反応させ、さらにN,N-ジメチル-3-(トリエトキシシリル)プロピルアミン28mmolを加え、20分間反応させた。
次いで、反応液を80℃以上にして系内に水素を導入した後、ジエチルアルミニウムクロライドを3.2g、触媒E2.4g、n-ブチルリチウム(15mmol)を加え、水素圧0.7MPa以上を保つようにして、所定の水素積算値となるまで水素を供給して反応させた後、反応液を常温、常圧に戻して反応容器より抜き出し、重合体溶液を得た。
得られた水添共役ジエン系共重合体を含む重合体溶液に、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールを1.4g添加した。次いで、pH調整剤であるアンモニアによりpH8.5(ガラス電極法による、80℃におけるpH)に調整した水溶液(温度:80℃)を脱溶媒槽に入れ、更に上記重合体溶液を加え(重合体溶液100質量部に対して、上記水溶液1000質量部の割合)、脱溶媒槽の液相の温度95℃で2時間スチームストリッピング(スチーム温度:190℃)を行うことにより脱溶媒を行い、110℃に調温された熱ロールにより乾燥を行うことで、共役ジエン系重合体A-1を得た。得られた共役ジエン系重合体A-1の分析値を表2に示す。得られた共役ジエン系重合体A-1の1stピーク重量平均分子量は20×104、重量平均分子量(トータル重量平均分子量)は34×104、水添率は93%(θ=0.93)、ガラス転移温度は-34℃であった。
【0082】
〔製造例2~7、9:共役ジエン系重合体A-2~A-7、A-9の合成〕
使用する原料を表1に記載のとおり変更し、水添の時間を変更した以外は製造例1と同様にして重合を行い、共役ジエン系重合体A-2~A-7、A-9をそれぞれ得た。共役ジエン系重合体A-2~A-7、A-9の分析値を表2に示す。
【0083】
〔製造例8:共役ジエン系重合体A-8の合成〕
窒素置換された内容積50リットルのオートクレーブ反応器に、シクロヘキサン25900g、テトラヒドロフラン26g、スチレン1273g、1,3-ブタジエン2361gを仕込んだ。反応器内容物の温度を45℃に調整した後、n-ブチルリチウム(39mmol)を含むシクロヘキサン溶液を添加して重合を開始した。重合は断熱条件で実施し、最高温度は80℃に達した。
重合転化率が99%に達したことを確認した後、ブタジエン111gを追加し、更に5分重合させ、重合体を含む反応液を得た。得られた反応液に四塩化ケイ素2mmolを加えて10分間反応させ、更にN,N-ジメチル-3-(トリエトキシシリル)プロピルアミン28mmolを加え、20分間反応させた。次いで、反応液を80℃以上にして系内に水素を導入した後、反応液を常温、常圧に戻して反応容器より抜き出し、重合体溶液を得た。
得られた共役ジエン系共重合体を含む重合体溶液に、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールを1.4g添加した。次いで、pH調整剤であるアンモニアによりpH8.5(ガラス電極法による、80℃におけるpH)に調整した水溶液(温度:80℃)を脱溶媒槽に入れ、更に上記重合体溶液を加え(重合体溶液100質量部に対して、上記水溶液1000質量部の割合)、脱溶媒槽の液相の温度95℃で2時間スチームストリッピング(スチーム温度:190℃)を行うことにより脱溶媒を行い、110℃に調温された熱ロールにより乾燥を行うことで、共役ジエン系重合体A-8を得た。得られた共役ジエン系重合体A-8の1stピーク重量平均分子量は20×104、重量平均分子量(トータル重量平均分子量)は34×104であり、ガラス転移温度は-40℃であった。なお、共役ジエン系重合体A-8は、水添率=0%、θ=0である。
【0084】
【0085】
表1中、化合物の略称は以下の化合物を表す。
化合物A:ピペリジン
化合物B:N,N-ジメチル-3-(トリエトキシシリル)プロピルアミン
化合物C:四塩化ケイ素
表1中、「-」は、該当する欄の化合物を使用しなかったことを表す。
【0086】
【0087】
<重合体組成物の製造及び特性評価>
[実施例1~19及び比較例1~4]
温度制御装置を付属したプラストミル(内容量250cc)を使用し、1段目の混練として、充填率72%、回転数60rpmの条件で、表3及び表4の配合処方により、共役ジエン系重合体、(B)水溶性成分、(C)多孔質粒子、シリカ、シランカップリング剤、伸展油、ステアリン酸、酸化亜鉛、老化防止剤を混練した。次いで、2段目の混練として、上記で得た配合物を室温まで冷却後、硫黄、加硫促進剤を混練した。これを成型し、160℃で所定時間、加硫プレスにて加硫した。
重合体組成物、加硫前のゴム及び加硫ゴムを用いて、以下の(1)~(3)の特性評価を実施した。各実施例及び比較例において使用した共役ジエン系重合体、(B)水溶性成分及び(C)多孔質粒子の種類及び配合割合は、表3及び表4に記載のとおりである。表3及び表4の数値は、各成分の配合割合(質量部)を表す。なお、比較例1、2では(B)水溶性成分を配合しなかった。実施例16~19では(C)多孔質粒子を配合した。
【0088】
≪特性評価≫
(1)耐摩耗性
加硫ゴムを測定用試料とし、DIN摩耗試験機(東洋精機社製)を使用し、JIS K 6264-2:2005に準拠し、荷重10Nで25℃にて測定した。比較例2を100とした指数で表し、数値が大きいほど耐摩耗性が良好であることを示す。
(2)氷上グリップ性能
直径50mm、厚さ10mmの加硫ゴムを、固定した氷上に押し付けて回転させるときに発生する摩擦力をロードセルにて検出し、動摩擦係数μを算出した。なお、測定温度を-2℃、面圧を12kgf/cm2、サンプル回転周速度を20cm/secとした。比較例2の動摩擦係数μを100とした指数で表し、数値が大きいほど動摩擦係数μが大きく、氷上性能が良好であることを示す。
(3)硬度(Duro-A硬度)
熱老化前、熱老化後の各加硫ゴムシートからなる各試験片について、JIS K6253に準拠して硬度(Duro-A硬度)を測定した。熱老化前後の硬度の差が3未満のものを「A」、3以上6未満のものを「B」、6以上のものを「C」とする三段階によって評価した。なお、ここでいう「熱老化」とは、新品の加硫ゴムについてJIS K6257:2010に準じて熱老化(100℃、70時間)を実施し、熱老化された加硫ゴムを得る工程のことをいう。
【0089】
実施例1~19及び比較例1~4の特性評価の結果を表3及び表4に示す。
【表3】
【0090】
【0091】
表3、4中、(B)水溶性成分及び(C)多孔質粒子の詳細は以下のとおりである。
B-1:硫酸マグネシウム、製品名「MN-00」、馬居化成工業社製
B-2:硫酸カリウム、製品名「KSO」、上野製薬社製
B-3:リグニンスルホン酸ナトリウム、東京化成工業社製
B-4:ポリビニルアルコール短繊維、製品名「Kuralon 1239」、クラレ社製
B-5:キタンサンガム、製品名「Rhodopol 23」、ローディア社製
B-6:グアーガム、製品名「Emmulcoll 200 SP」、デグサ社製
B-7:β-シクロデキストリン、製品名「セルデックスB-100」、日本食品化工社製
C-1:モレキュラーシーブ、製品名「MS4Aパウダー」、ユニオン昭和社製
C-2:多孔性セルロース粒子、製品名「ビスコパールミニ(粒子径:700μm)」、レンゴー社製
C-3:多孔質天然ガラス、製品名「パーミスLHM-90」、ヘス社製
C-4:多孔質ナイロン粒子、製品名「ナイロン6 多孔質微粒子(平均粒径:13μm)」、東レ社製
【0092】
表3及び表4中、使用した各成分*1)~*7)の詳細は以下のとおりである。
*1)ローディア社製 ZEOSIL 1165MP
*2)三菱化学社製 ダイアブラックN339
*3)エボニック社製 Si75
*4)JX日鉱日石エネルギー社製 プロセスオイル T-DAE
*5)精工化学社製 オゾノン6C
*6)大内新興化学工業社製 ノクセラーCZ
*7)大内新興化学工業社製 ノクセラーD
表3及び表4中、括弧内の数値は、重合体組成物を調製した際の各成分の配合量(質量部)を表す。「-」は、該当する欄の化合物を使用しなかったことを表す。
【0093】
表3及び表4に示すように、共役ジエン系重合体として水添率が75%以上である(A)重合体と、(B)水溶性成分とを含有する重合体組成物(実施例1~19)では、比較例1~4との対比で、耐摩耗性及び氷上グリップ性能がバランス良く改善された。また、実施例1~19の重合体組成物を用いて得られた加硫ゴムは、熱老化による硬度の上昇が小さかった。これらのことから、(A)重合体と(B)水溶性成分とが配合された実施例1~19のゴム組成物によれば、良好な氷上グリップ性能を示しながら、耐摩耗性に優れ、かつ熱老化による硬度の上昇が抑制された加硫ゴムを製造できることが分かった。また、(C)多孔質粒子を配合することにより、加硫ゴムの氷上グリップ性能を更に改善できた。
【0094】
以上の結果から、(A)重合体と(B)水溶性成分とを含有する重合体組成物によれば、氷上グリップ性能を高く維持しながら、耐摩耗性を改善できることが明らかとなった。また、(A)重合体と(B)水溶性成分とを含有する重合体組成物によれば、熱老化による硬度の上昇を抑制できることが分かった。