(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂複合体の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
C08J 5/24 20060101AFI20241009BHJP
C08G 18/32 20060101ALI20241009BHJP
B29B 11/16 20060101ALI20241009BHJP
B29C 70/52 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
C08J5/24 CFF
C08G18/32 037
B29B11/16
B29C70/52
(21)【出願番号】P 2020192094
(22)【出願日】2020-11-18
【審査請求日】2023-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平山 紀夫
(72)【発明者】
【氏名】竹川 淳
(72)【発明者】
【氏名】山田 欣範
(72)【発明者】
【氏名】塩路 雄大
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0117921(US,A1)
【文献】国際公開第2020/193396(WO,A1)
【文献】特表2002-530445(JP,A)
【文献】特表2002-508021(JP,A)
【文献】国際公開第2019/220819(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B11/16、15/08-15/14、C08J5/04-5/10、5/24、
C08G18/00-18/87、71/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と繊維を含む熱可塑性樹脂複合体の製造方法であって、
活性水素成分とジイソシアネート成分を含む熱可塑性樹脂形成用組成物を繊維に連続的に含浸させること、
前記繊維を加熱成型部に通過させることにより、前記熱可塑性樹脂形成用組成物の重合および前記重合により得られる熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂複合体の成型を行うこと、および、
前記加熱成型部から前記熱可塑性樹脂複合体を連続的に引き抜くこと、
を含み、前記加熱成型部の加熱温度が前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも低く、前記加熱成型部から引き抜かれる前記熱可塑性樹脂複合体の前記熱可塑性樹脂がガラス状態である、
熱可塑性樹脂複合体の製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂形成用組成物を前記繊維に含浸した複合体は、前記加熱温度で加熱したときに5分以内で曲げ弾性係数が完全硬化時の曲げ弾性係数の10%以上になる、請求項1に記載の熱可塑性樹脂複合体の製造方法。
【請求項3】
前記加熱温度が前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも30℃以上低い、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂複合体の製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂形成用組成物は、25℃の温度条件下で1万mPa・sの粘度に達するまでの時間であるポットライフが30秒以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂複合体の製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂形成用組成物の前記活性水素成分はアルキルチオ基を有する芳香族ジアミンを含み、前記ジイソシアネート成分は脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネートおよびこれらの変性体からなる群から選択された少なくとも一種のジイソシアネートを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂複合体の製造方法。
【請求項6】
熱可塑性樹脂と繊維を含む熱可塑性樹脂複合体の製造装置であって、
活性水素成分とジイソシアネート成分を含む熱可塑性樹脂形成用組成物を繊維に連続的に含浸させる含浸部と、
前記繊維を通過させることにより、前記熱可塑性樹脂形成用組成物の重合および前記重合により得られる熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂複合体の成型を行う加熱成型部と、
前記加熱成型部から前記熱可塑性樹脂複合体を連続的に引き抜く引抜装置と、
を備え、前記加熱成型部の加熱温度が前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも低く、前記引抜装置は前記熱可塑性樹脂がガラス状態である前記熱可塑性樹脂複合体を前記加熱成型部から引き抜く、
熱可塑性樹脂複合体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂と繊維を含む熱可塑性樹脂複合体の製造方法および製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂と繊維を含む複合体である繊維強化プラスチックは、比強度・比剛性に優れるため自動車業界をはじめ、軽量化を目的とした金属材料の代替として幅広い分野で使用されている。
【0003】
繊維強化プラスチックの製造方法として、例えば特許文献1には、熱硬化性樹脂をマトリックスとする熱硬化性樹脂複合体の連続製造方法として引抜成型法が開示されている。また、特許文献2には、ポリオール成分とポリイソシアネート成分を混合してなるポリイソシアヌレート反応混合物を繊維に含浸させ、加熱された金型に通してポリイソシアヌレート反応混合物を硬化させて繊維強化ポリイソシアヌレート基質複合材を引抜成型することが開示されている。
【0004】
熱硬化性樹脂は、常温で液体状態であって粘度が高くない未重合のモノマーの段階で繊維に含浸をすることができるため、高い繊維含有量であっても容易に繊維に樹脂が含浸し易く、簡単な設備で連続成形を行うことが可能である。しかしながら、熱硬化性樹脂は、重合反応(硬化)後は3次元架橋構造をとり繊維と含浸・硬化した後は再溶融ができないため、再加工や再利用ができないといった欠点がある。
【0005】
その一方で、熱可塑性樹脂をマトリックスとする繊維強化プラスチックである熱可塑性樹脂複合体は、母材となる熱可塑性樹脂が加熱することで再溶融して軟化するため、再加工や再利用が可能である。ところが、一般的に熱可塑性樹脂は、成形時の原料形態がペレットやフィルムなどの高分子の状態で供給されるため、繊維に含浸させる溶融時の粘度が、熱硬化性樹脂と比較して非常に高い。そのため、高い繊維含有率で良好な含浸状態の熱可塑性樹脂複合体を連続生産することは困難である。
【0006】
そこで、熱可塑性樹脂複合体の製造方法において、モノマーを含浸させた繊維を加熱された金型に通し、モノマーの重合と得られる樹脂の成型とを同時に行うことにより、熱可塑性樹脂複合体を得る方法が知られている。しかしながら、金型から引き抜かれた直後の熱可塑性樹脂複合体は、そのマトリックスである熱可塑性樹脂が柔らかいゴム状のために形状が崩れやすいという問題がある。そのため、例えば樹脂の硬化を目的とした冷却工程が必要である。
【0007】
熱可塑性樹脂複合体の連続製造方法として、特許文献3には、重合性ラクタム混合液に繊維を含浸させ、含浸させた繊維を加熱された金型に通し、ラクタムモノマーの重合とそれにより得られる熱可塑性ポリアミド樹脂の成型とを同時に行い、引抜装置により連続的に金型から引き抜くことが開示されている。
【0008】
なお、特許文献4には、熱可塑性樹脂複合体のマトリックス樹脂を形成するために用いられる組成物として、アルキルチオ基を有する芳香族ジアミンを含む活性水素成分と、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネートおよびこれらの変性体からなる群から選択された少なくとも一種のジイソシアネートを含むジイソシアネート成分とを有する二液硬化型組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2004-074427号公報
【文献】特表2002-530445号公報
【文献】特開2017-007266号公報
【文献】特許第6580774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように熱可塑性樹脂のモノマーを繊維に含浸させ、重合とともに樹脂を成型して連続的に引き抜くことにより、熱可塑性樹脂複合体を製造することは知られていた。しかしながら、熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも低い温度で重合してガラス状態で引抜成型することは知られておらず、熱可塑性樹脂複合体の効率的な製造が困難であった。
【0011】
本発明の実施形態は、以上の点に鑑み、熱可塑性樹脂複合体を引抜成型により効率的に製造することができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の実施形態は、熱可塑性樹脂と繊維を含む熱可塑性樹脂複合体の製造方法であって、活性水素成分とジイソシアネート成分を含む熱可塑性樹脂形成用組成物を繊維に連続的に含浸させること、前記繊維を加熱成型部に通過させることにより、前記熱可塑性樹脂形成用組成物の重合および前記重合により得られる熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂複合体の成型を行うこと、および、前記加熱成型部から前記熱可塑性樹脂複合体を連続的に引き抜くこと、を含み、前記加熱成型部の加熱温度が前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも低く、前記加熱成型部から引き抜かれる前記熱可塑性樹脂複合体の前記熱可塑性樹脂がガラス状態である。
【0013】
本発明の第2の実施形態は、熱可塑性樹脂と繊維を含む熱可塑性樹脂複合体の製造装置であって、活性水素成分とジイソシアネート成分を含む熱可塑性樹脂形成用組成物を繊維に連続的に含浸させる含浸部と、前記繊維を通過させることにより、前記熱可塑性樹脂形成用組成物の重合および前記重合により得られる熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂複合体の成型を行う加熱成型部と、前記加熱成型部から前記熱可塑性樹脂複合体を連続的に引き抜く引抜装置と、を備え、前記加熱成型部の加熱温度が前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも低く、前記引抜装置は前記熱可塑性樹脂がガラス状態である前記熱可塑性樹脂複合体を前記加熱成型部から引き抜くものである。
【0014】
上記実施形態において、前記熱可塑性樹脂形成用組成物を前記繊維に含浸した複合体は、前記加熱温度で加熱したときに5分以内で曲げ弾性係数が完全硬化時の曲げ弾性係数の10%以上になるものでもよい。
【0015】
上記実施形態において、前記加熱温度が前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度よりも30℃以上低くてもよい。
【0016】
上記実施形態において、前記熱可塑性樹脂形成用組成物は、25℃の温度条件下で1万mPa・sの粘度に達するまでの時間であるポットライフが30秒以上でもよい。
【0017】
上記実施形態において、前記熱可塑性樹脂形成用組成物の前記活性水素成分はアルキルチオ基を有する芳香族ジアミンを含み、前記イソシアネート成分は脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネートおよびこれらの変性体からなる群から選択された少なくとも一種のジイソシアネートを含んでもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の実施形態によれば、繊維に含浸させた熱可塑性樹脂形成用組成物をガラス転移温度よりも低い温度の加熱成型部で重合させ、熱可塑性樹脂がガラス状態である熱可塑性樹脂複合体を加熱成型部から引き抜く。そのため、加熱成型部で成型された熱可塑性樹脂複合体の形状を、冷却工程等を設けなくても維持することができ、切断等の次の工程に進むことができるため、製造効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】一実施形態に係る熱可塑性樹脂複合体の製造装置の模式図
【
図2】他の実施形態に係る熱可塑性樹脂複合体の製造装置の模式図
【
図3】実施例における熱プレス成型後の成形品の断面写真
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0021】
実施形態に係る製造方法は、熱可塑性樹脂と繊維を含む熱可塑性樹脂複合体の製造方法である。該製造方法は以下の工程を含む。
熱可塑性樹脂形成用組成物を繊維に連続的に含浸させる含浸工程、
含浸した繊維を加熱成型部に通過させることにより、熱可塑性樹脂形成用組成物の重合および該重合により得られる熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂複合体の成型を行う加熱成型工程、および、
加熱成型部から熱可塑性樹脂複合体を連続的に引き抜く引抜工程。
そして、該製造方法では、加熱成型工程での加熱温度(以下、加熱温度Tという。)が熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)よりも低く、かつ、加熱成型部から引き抜かれる熱可塑性樹脂複合体の熱可塑性樹脂がガラス状態にある。
【0022】
図1は、該製造方法に適用可能な製造装置1の一例を示したものである。製造装置1は、熱可塑性樹脂形成用組成物を繊維10に連続的に含浸させる含浸部20と、熱可塑性樹脂形成用組成物を含浸した繊維10を加熱して熱可塑性樹脂複合体12の成型を行う加熱成型部30と、成型した熱可塑性樹脂複合体12を連続的に引き抜く引抜装置40と、を備える。より詳細には、製造装置1は、更に含浸部20に繊維10を供給する繊維供給部50と、熱可塑性樹脂形成用組成物を含浸部20に供給するモノマー供給部60と、を備える。
【0023】
熱可塑性樹脂複合体は、繊維を強化材とし、熱可塑性樹脂を母材(マトリックス)とする、繊維強化熱可塑性樹脂である。
【0024】
繊維としては、例えば、ガラス、炭素、金属、セラミックまたは重合体の繊維が挙げられる。これらはいずれか1種または2種以上組み合わせてもよい。また、熱可塑性樹脂形成用組成物に含まれる成分の繊維への結合を促進する糊または塗料が付与されていてもよい。繊維の形態としては、例えば、フィラメント、ファイバー、ストランドのロービングあるいは織物といった連続繊維や、編織マット、不織マット、その他の形態で使用することができる。
【0025】
熱可塑性樹脂形成用組成物(以下、モノマー混合液ということがある。)は、熱可塑性樹脂を形成するために用いられる組成物であり、活性水素成分とジイソシアネート成分を含む混合液である。活性水素成分としては、2官能のものが用いられ、詳細には、ジアミン及び/又はジオールが用いられる。熱可塑性樹脂は、活性水素成分がジオールを含む場合は熱可塑性ポリウレタン樹脂であり、活性水素成分がジアミンを含む場合は熱可塑性ポリウレア樹脂であり、活性水素成分がジオールとジアミンを含む場合は主鎖にウレタン結合とウレア結合の両方を含む熱可塑性ポリウレタン・ウレア樹脂であり、これらのいずれでもよい。好ましくは、熱可塑性ポリウレア樹脂または熱可塑性ポリウレタン・ウレア樹脂である。
【0026】
モノマー混合液としては、25℃の温度条件下で混合してから1万mPa・sの粘度に達するまでの時間であるポットライフが30秒以上であるものを用いることが好ましい。このようにポットライフが長いモノマー混合液を用いることにより、加熱成型部30に到達する前に樹脂が硬化することを防ぐことができる。ポットライフは100秒以上でもよく、200秒以上でもよい。ポットライフの上限は特に限定されず、例えば1000秒以下でもよい。
【0027】
モノマー混合液としては、重合後の熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)が高いものを用いることが好ましい。本実施形態では、ガラス転移温度よりも低い温度で重合を行うため、重合時間を短くするべく重合温度を高めるためには、高いガラス転移温度を持つ方が有利だからである。熱可塑性樹脂のガラス転移温度は、例えば100℃以上であることが好ましく、より好ましくは120℃以上であり、更に好ましくは150℃以上である。ガラス転移温度の上限は特に限定されず、例えば220℃以下でもよく、200℃以下でもよい。
【0028】
モノマー混合液としては、当該組成物を繊維に含浸して加熱温度Tで加熱したときに、5分以内で、当該組成物と繊維との複合体の曲げ弾性係数が、完全硬化時の熱可塑性樹脂複合体の曲げ弾性係数の10%以上になることが好ましい。このように5分以内で十分な機械的特性を発現できることにより、連続引抜成型における生産性を向上することができる。ここで、曲げ弾性係数とは、曲げ試験で測定した縦弾性係数(材料が弾性変形をする場合の応力とひずみ曲線の傾き)であり、JIS K7074に準拠して測定される。
【0029】
以上のような特性を持つモノマー混合液としては、特に限定されないが、一実施形態として、上記特許文献4に記載の二液硬化型組成物を用いてもよく、活性水素成分がアルキルチオ基を有する芳香族ジアミン(a)を含み、イソシアネート成分が脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネートおよびこれらの変性体からなる群から選択された少なくとも一種のジイソシアネート(b)を含むものが好ましい。
【0030】
アルキルチオ基を有する芳香族ジアミン(a)としては、芳香環に直接結合した2つのアミノ基とともに、芳香環に直接結合したアルキルチオ基を有する化合物が好ましい。アルキルチオ基は-SCnH2n+1(ここで、nは1以上の整数であり、好ましくは1~5の整数)で表される基である。芳香族ジアミン(a)は、一分子中にアルキルチオ基を1つ有してもよく、2つ又はそれ以上有してもよい。好ましくは、芳香環に直接結合した2つのアルキルチオ基を有することである。
【0031】
芳香族ジアミン(a)としては、例えば、ジメチルチオトルエンジアミン、ジエチルチオトルエンジアミン、ジプロピルチオトルエンジアミンなどのジアルキルチオトルエンジアミンを用いることが好ましい。
【0032】
活性水素成分としては、上記芳香族ジアミン(a)とともに、他の芳香族ジアミンなどのジアミンを併用してもよい。他のジアミンとしては、例えば、4,4’-メチレンジアニリン、4,4’-メチレンビス(2-メチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2-エチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2-イソプロピルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(N-メチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(N-エチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(N-sec-ブチルアニリン)、ジエチルトルエンジアミンなどが挙げられる。これらは、いずれか1種用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0033】
活性水素成分として用いるジアミンは、芳香族ジアミン(a)を主成分とすることが好ましく、ジアミンの50質量%以上が芳香族ジアミン(a)であることが好ましく、より好ましくはジアミンの70質量%以上が芳香族ジアミン(a)である。また、活性水素成分の15質量%以上が芳香族ジアミン(a)であることが好ましく、より好ましくは活性水素成分の40質量%以上が芳香族ジアミン(a)であり、更に好ましくは活性水素成分の70質量%以上が芳香族ジアミン(a)である。
【0034】
活性水素成分としては、ジアミンとともにジオール(c)を含んでもよい。ジオール(c)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルキレングリコール; ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール; シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAなどが挙げられる。これらは、いずれか1種用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0035】
活性水素成分としてジオール(c)を含む場合、芳香族ジアミン(a)とジオール(c)との質量比(a/c)は0.1~30であることが好ましい。該質量比(a/c)は、より好ましくは0.5~20であり、更に好ましくは1.0~10である。
【0036】
活性水素成分は、熱可塑性樹脂を形成するため2官能であるが、熱可塑性樹脂が得られる範囲内において、3官能以上のポリアミンやポリオールを含有してもよい。
【0037】
ジイソシアネート(b)について、脂肪族ジイソシアネート(即ち、鎖式脂肪族ジイソシアネート)としては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、3-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート等が挙げられる。脂肪族ジイソシアネートの変性体としては、脂肪族ジイソシアネートとジオールとを反応させてなるイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー体、2官能のアダクト型変性体、2官能のアロファネート型変性体などが挙げられる。これらの中でも、脂肪族ジイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)およびその変性体からなる群から選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0038】
脂環式ジイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等が挙げられる。脂環式ジイソシアネートの変性体としては、脂環式ジイソシアネートとジオールとを反応させてなるイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー体、2官能のアダクト型変性体、2官能のアロファネート型変性体などが挙げられる。これらの中でも、脂環式ジイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート(IPDI)および4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)からなる群から選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0039】
ジイソシアネート(b)は、そのイソシアネート基含有量が15~50質量%であることが好ましい。ここで、イソシアネート基含有量とは、2官能のジイソシアネート(b)が有する反応性のイソシアネート基(NCO)の当該ジイソシアネート(b)中に占める質量比率である。イソシアネート基含有量は、JIS K7301-6-3に準拠して測定することができる。
【0040】
ジイソシアネート成分は、その80質量%以上がジイソシアネート(b)であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上であり、更に好ましくは95質量%以上であり、特に好ましくは98質量%以上である。なお、活性水素成分と反応させるイソシアネートとしては、熱可塑性樹脂を形成するため、2官能のイソシアネート、即ちジイソシアネートが用いられるが、熱可塑性樹脂が得られる範囲内において、3官能以上のポリイソシアネートが含まれてもよい。
【0041】
モノマー混合液は、活性水素成分を含むA液と、ジイソシアネート成分を含むB液とを混合することにより得られる。これらのA液とB液を混ぜ合わせることにより両成分を反応硬化(即ち、重合)させることができ、反応硬化により非結晶性の熱可塑性樹脂が得られる。
【0042】
モノマー混合液には、活性水素成分とジイソシアネート成分との反応を促進するための触媒が含まれてもよい。触媒としては、通常、ポリウレタン樹脂の製造に使用される、金属触媒やアミン系触媒を使用することができる。金属触媒としては、ジブチルチンジラウレート、ジオクチルチンジラウレート、ジブチルチンジオクテートなどの錫触媒、オクチル酸鉛、オクテン酸鉛、ナフテン酸鉛などの鉛触媒、オクチル酸ビスマス、ネオデカン酸ビスマスなどのビスマス触媒などを挙げることができる。アミン系触媒としては、トリエチレンジアミンなどの3級アミン化合物などが挙げられる。これらの触媒は単独でまたは組み合わせて使用することができる。
【0043】
モノマー混合液には、その他、必要に応じて、可塑剤、難燃剤、酸化防止剤、吸湿剤、防黴剤、シランカップリング剤、消泡剤、表面調整剤、内部離型剤等の各種の添加剤を含んでもよい。
【0044】
モノマー混合液において、イソシアネート基と活性水素基とのモル比(NCO/活性水素基)は、特に限定されず、1.0以上でもよく、1.2以上でもよく、1.5以上でもよい。また、該モル比(NCO/活性水素基)は、2.0以下でもよく、1.5以下でもよく、1.2以下でもよい。
【0045】
熱可塑性樹脂複合体において、繊維と熱可塑性樹脂との割合は特に限定されない。一例として、熱可塑性樹脂複合体単位体積当たりの、繊維の体積含有率が30~70%でもよく、50~60%でもよい。
【0046】
次に、
図1を参照しつつ、実施形態に係る熱可塑性樹脂複合体の製造方法について説明する。
【0047】
含浸工程では、含浸部20において、モノマー供給部60から供給されるモノマー混合液を、繊維供給部50から供給される繊維10に含浸させる。
【0048】
繊維供給部50は、この例では、複数のボビン51から繰り出される繊維を1つにまとめて含浸部20に繊維10を供給する。
【0049】
モノマー供給部60は、この例では、活性水素成分を含むA液を貯えた第1タンク61と、ジイソシアネート成分を含むB液を貯えた第2タンク62と、第1タンク61から送液されたA液と第2タンク62から送液されたB液を混合する混合器63と、を備え、混合器63で混合されてなるモノマー混合液を含浸部20に供給する。混合器63は、撹拌羽による撹拌混合を行うものでもよく、スタティックミキサーに配置したミキシングヘッドで撹拌混合を行うものでもよい。
【0050】
含浸部20は、この例では、複数の含浸ローラ21で構成されており、搬送ローラ22を介して走行する繊維10に対して、モノマー混合液を複数箇所に分けて滴下し、複数の含浸ローラ21でモノマー混合液を繊維10に含浸させるように構成されている。
【0051】
なお、含浸部20の前に繊維10をあらかじめ加熱する加熱装置を設けてもよい。あらかじめ加熱することにより、モノマー混合液の含浸を迅速に行うことができる。また、繊維10が吸湿している水分を、含浸直前に蒸発させ、モノマー混合液の重合時における水分の影響をより好適に取り除くことができ、モノマー混合液の重合反応を安定化することができる。
【0052】
加熱成形工程では、含浸部20で含浸した繊維10を所定の加熱温度Tの加熱成型部30に通過させ、これによりモノマー混合液の重合および該重合により得られる熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂複合体12の成型を行う。すなわち、モノマー混合液が含浸された繊維10を賦形しつつ加熱により重合反応させる。
【0053】
加熱成型部30は、この例では、モノマー混合液が含浸された繊維10を、所定の厚みと幅に成型するための加熱成形型31と、加熱成形型31から引き抜かれた熱可塑性樹脂複合体12を加熱してその重合反応を促進するための加熱装置32とを備える。なお、加熱装置32は設けなくてもよい。
【0054】
加熱成型部30の設定温度である加熱温度Tは、モノマー混合液を重合させるための重合温度であり、モノマー混合液を重合させて得られる熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgよりも低い温度であれば(T<Tg)、特に限定されない。好ましくは、加熱温度Tは、熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgよりも30℃以上低い温度である(T<Tg-30℃)。加熱温度Tは、例えば、70~180℃でもよく、70~160℃でもよく、80~150℃でもよい。加熱温度Tとして設定される温度は、単一の温度でもよく、加熱成型部30の部位に応じて温度分布を持たせて所定の温度範囲に設定してもよい。加熱温度Tとして設定される温度が幅を持つ場合、その最高温度が上記ガラス転移温度Tgよりも低い温度に設定され、また該最高温度が上記ガラス転移温度Tgよりも30℃以上低い温度に設定されることが好ましい。
【0055】
引抜工程では、引抜装置40により、加熱成型部30から熱可塑性樹脂複合体12を連続的に引き抜く。引抜装置40は、この例では、熱可塑性樹脂複合体12を挟んで引き抜く上下一対のローラ41,41で構成されている。
【0056】
本実施形態では、上記のように加熱成型部30における重合温度である加熱温度Tが熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgよりも低いので、加熱成型部30から引き抜かれる熱可塑性樹脂複合体12の熱可塑性樹脂はガラス転移温度以下のガラス状態にある。すなわち、加熱成型部30から出てきた段階では、重合は完了していないものの、粘つきのない疑似硬化の状態にあり、その形状を維持することが可能な状態にある。そのため、引き抜かれた熱可塑性樹脂複合体12はその形状が崩れにくく、形状を維持することができる。
【0057】
なお、図示しないが、上記引抜装置40の後に熱可塑性樹脂複合体12を更に加熱して重合を促進ないし完了させるための加熱装置を設けてもよい。また、引抜装置40の後、または該追加の加熱装置の後にカッターなどの切断装置を設けてもよく、板材やチャンネル材、丸棒材、ストランド材等を得ることができる。
【0058】
図1に示す例では、含浸部20を加熱成形型31の前に設けた複数の含浸ローラ21で構成したが、含浸部は加熱成形型31内に設けてもよい。この場合、含浸部は加熱成型部30の一部としてその前端部に組み込まれている。
図2はその一例を示したものである。
【0059】
図2に示す製造装置1Aにおいて、繊維供給部50のボビン51から繰り出された繊維10は、送りローラ52を経て加熱成型部30の加熱成形型31内に供給される。一方、モノマー供給部60から供給されたモノマー混合液は、加熱成形型31の前端部に設けられた注入治具71により加熱成形型31内に直接注入され、加熱成形型31内においてモノマー混合液を繊維10に含浸させる。そのため、加熱成形型31の前端部が含浸部70を兼ねている。
【0060】
加熱成形型31の内部には含浸ローラ等の含浸治具(不図示)を設けてもよい。これにより、注入治具71によって加熱成形型31内に注入されたモノマー混合液を繊維10に短時間で含浸させることができる。このような含浸部70の工夫は余剰な空気を排除しながらモノマー混合液を繊維10に短時間で含浸させる効果が高く、短時間で繊維10の内部の空気が速やかに排除されるので、硬化後の熱可塑性樹脂複合体12の内部の微小なボイド(空洞)を減らすことができる。
【0061】
以上よりなる実施形態によれば、熱可塑性樹脂複合体を連続引抜成型により効率的に製造することができる。
【0062】
詳細には、一般に、連続引抜成型では、加熱成型部での加熱により樹脂を重合反応させて硬化させるため、加熱成型部出口での熱可塑性樹脂複合体の温度は加熱成型部で設定した樹脂の重合温度とほぼ等しくなる。このため、連続引抜成型では、マトリックスとする樹脂のガラス転移温度よりも重合温度が高いと、加熱成型部出口での熱可塑性樹脂複合体が柔らかいゴム状態であり、熱可塑性樹脂複合体の成形品としての断面形状を維持することができず、成型が困難になる。これに対し、例えば、加熱成型後に冷却工程を設けてガラス転移温度以下に冷却することは可能であるが、その分だけ装置が大型化し、加えて熱可塑性樹脂複合体の引抜速度を遅くしないと熱可塑性樹脂複合体の内部まで冷却することができないため、製造効率に劣る。
【0063】
本実施形態によれば、ガラス転移温度よりも低い温度の加熱成型部で重合させ、熱可塑性樹脂がガラス状態である熱可塑性樹脂複合体を加熱成型部から引き抜くので、加熱成型部で成型された熱可塑性樹脂複合体の形状を維持しやすく、よって製造効率を向上することができる。
【0064】
また、上記特許文献3に開示されたような重合性ラクタム混合液を原料とするポリアミド樹脂をマトリックスとする熱可塑性樹脂複合体の連続引抜成型では、ポリアミド樹脂の欠点である吸湿による強度低下が避けられない。また、重合性ラクタム混合液の原料であるε-カプロラクタムのアニオン触媒は、空気中の水分により触媒能が失活し、重合が阻害される可能性がある。これに対し、本実施形態であると、活性水素成分とジイソシアネート成分からなるポリウレタンおよび/またはポリウレアの熱可塑性樹脂をマトリックスとしたことにより、熱可塑性樹脂複合体を安定的に連続製造することができる。
【0065】
本実施形態に係る製造方法により得られた熱可塑性樹脂複合体は、例えば複数枚積層して加熱プレス成型などの二次加工を行うことにより様々な軽量構造部材として利用することができる。その際、本実施形態に係る熱可塑性樹脂を母材とする熱可塑性樹脂複合体は、熱硬化性樹脂を母材とする繊維強化複合材料に比べて、二次成形の時間を短縮し、高い生産性が期待でき、リサイクル性が要求される自動車構造部材をはじめ、軽量化を目的とした金属代替材の中間材料として各種の部材に応用が可能となる。
【実施例】
【0066】
図1に示す製造装置1を用いて、熱可塑性樹脂複合体の連続引抜製造を行った。繊維10としては、炭素繊維(東レ株式会社製「T700SC-24000-60E」)を用いた。
【0067】
モノマー混合液としては、ジアルキルチオトルエンジアミンを含むA液と、脂肪族ジイソシアネートの変性体を含むB液とからなる二液硬化型組成物(第一工業製薬(株)製「H-6FP22」)を用いた。
【0068】
該二液硬化型組成物についてポットライフを測定したところ300秒であった。ポットライフの測定では、25℃にてBM型回転粘度計を用いてローターNo.4、60rpmで1万mPa・sになるまでの時間を求めた。
【0069】
該二液硬化型組成物について重合後の樹脂のガラス転移温度を測定したところ175℃であった。ガラス転移温度の測定方法は以下のとおりである。
[ガラス転移温度]
A液とB液を25℃に調整して1分間攪拌混合し、得られたモノマー混合液をシート状に塗布し、120℃で3時間処理することにより、厚さ2mmの樹脂シートを得た。得られた樹脂シートから5mm×2cmの試験片を切り出し、ユービーエム社製のRheogel E-4000にてチャック間20mm、基本周波数は10Hz、歪みは自動制御モードでガラス転移温度(Tg)を測定した。
【0070】
含浸後の複合体の曲げ弾性係数が5分以内の加熱で完全硬化時の曲げ弾性係数の10%以上になるか否かを確認するために、次の試験を行った。すなわち、該二液硬化型組成物を繊維10に含浸し、130℃で5分間加熱して、加熱後の複合体の曲げ弾性係数を測定した。また、該二液硬化型組成物を繊維10に含浸し、130℃で10分間加熱して完全硬化(即ち、重合完了)させて、完全硬化時の熱可塑性樹脂複合体の曲げ弾性係数を測定した。その結果、5分加熱後の複合体の曲げ弾性係数は、完全硬化時の複合体の曲げ弾性係数の20%であった。そのため、該二液硬化型組成物は、5分以内の加熱で複合体の曲げ弾性係数が完全硬化時の曲げ弾性係数の10%以上になり、十分な機械的特性が発現されるまでに要する時間が5分以内であることを確認した。曲げ弾性係数の測定はJIS K7074に準拠して行った。
【0071】
熱可塑性樹脂複合体12における繊維10の体積含有率(Vf)が60%になるようにモノマー混合液をモノマー供給部60により供給した。詳細には、A液とB液を配合比に応じて各タンク61,62から送液し、スタティックミキサーからなる混合器63を通して攪拌させることでモノマー混合液を調製した。モノマー混合液は,攪拌した瞬間から重合反応が始まるため、連続的な引抜成型を行うには、ポットライフに達する前に新たなモノマー混合液を供給し続け、滞留するモノマー混合液を流し出す必要がある。そのため、モノマー混合液を滴下させる場所を3箇所に分け、滞留するモノマー混合液の流動を促した。そして、複数の含浸ローラ21からなる含浸部20において、繊維供給部50から供給される繊維10にモノマー混合液を含浸させた。
【0072】
加熱成形型31としてはアルミニウム合金製のものを用い、繊維10が送り込まれる型入口付近で滞留するモノマー混合液の急激な硬化反応を避けるため、型入口に水冷管を設け、型入口付近の温度が25℃付近を保つようにした。また、加熱成形型31と硬化反応中の熱可塑性樹脂複合体12とが接着しないように、アルミニウム合金製の加熱成形型31の内部の熱可塑性樹脂複合体12と接する部分に薄いPTFE製の上下2分割した中子の型を設置した。この加熱成形型31を用いて、80℃から130℃の温度分布を持った加熱成形型31内で幅15mm、厚さ0.5mmの熱可塑性樹脂複合体12を成型した。
【0073】
引抜装置40により加熱成形型31から引き抜かれた熱可塑性樹脂複合体12は、遠赤外線ヒータである加熱装置32においてさらに加熱硬化させた。加熱装置32による加熱温度は110~120℃とした。この例では加熱装置32は長さが可変式であり、加熱装置32の長さを1.0mとした。加熱成形型31の長さは0.5mであるため、加熱装置32を加えた加熱成型部30の長さは1.5mであった。3分間の重合時間を確保するように(即ち、加熱成形型31から加熱装置32までの重合時間を3分間確保するように)、引取り速度は500mm/分とした。
【0074】
この実施例では、モノマー混合液の重合後の樹脂のガラス転移温度が175℃であるのに対し、加熱成型部30での加熱温度Tは80~130℃であるため、加熱温度Tはガラス転移温度よりも30℃以上低い温度であった。そのため、加熱成型部30から引き抜かれた段階で熱可塑性樹脂複合体12は、ガラス転移温度以下のガラス状態にあり、即ち疑似硬化していた。
【0075】
引抜装置40を経て引き抜かれた熱可塑性樹脂複合体12は、30cmの長さに切断した。その後、熱可塑性樹脂複合体12の重合反応をさらに完全にするために、オーブンにて120℃で60分間の加熱を行って、完全硬化した熱可塑性樹脂複合体(プリプレグ)を得た。得られたプリプレグを用いて、加熱温度200℃で10分間、2MPaの圧力で熱プレスを行い、引張試験片を作製した。
【0076】
得られた引張試験片について、燃焼法により繊維の体積含有率を計測したところ、繊維の体積含有率は56%であった。燃焼法による繊維体積含有率の測定はJIS K7052に準じて行った。
【0077】
また、該引張試験片について、その断面を光学顕微鏡(OLYMPUS社製「GX51」)により測定したところ、
図3に示すように内在する気泡(ボイド)は観察されず、非常に品質の良い熱可塑性樹脂複合体が成型できることが確認された。
図3において、色の濃いグレー部分がマトリックスの熱可塑性樹脂であり、白色部分が炭素繊維である。
【0078】
このように実施例の熱可塑性樹脂複合体12は、ガラス転移温度よりも僅かに30℃程度高い温度で熱プレスすることより、層間に気泡のない美麗な成形品を得ることができた。これは、連続で引抜成型した熱可塑性樹脂複合体12を簡便に任意の形状の成形品に再加工できることを意味している。
【0079】
上記引張試験片について引張強度を測定し、得られた測定値と理論値とを比較した。引張強度の測定値は2500MPaであった。引張試験はJIS K7165に準拠して行い、試験片寸法は全長240mm、幅15mm、板厚0.5mmとし、成形品の両端部40mmの部分にアルミニウムタブを両面に接着することでチャック部の応力集中による破壊を防いだ。引張試験機はサーボパルサー(株式会社島津製作所、EFH-EG100KN-20L)を使用し、試験速度は2mm/sで行った。
【0080】
理論値については、熱可塑性樹脂と炭素繊維が完全に接着していると仮定して次式に示す複合則により算出した。
【数1】
【0081】
式中、σcは理論値、αは繊維形態によって決まる係数(一方向強化の場合、α=1.0)、σfuは繊維の引張破壊応力、(σm)fuは繊維破断伸びに対する樹脂破壊応力、Vfは繊維体積含有率である。
【0082】
その結果、引張強度の理論値は2750MPaであった。このように実施例に係る熱可塑性樹脂複合体は、理論的な強度と比較して90%程度の高い強度を発現しており、非常に品質の高い成型が行えていることがわかる。
【0083】
このように、実施例に係る熱可塑性樹脂複合体の製造方法により、気泡(ボイド)等のない品質の良い熱可塑性樹脂複合体を安定的に製造することができ、連続成引抜成型であるため生産性が高く、熱可塑性樹脂複合体の硬化反応スピード等の調整も可能であり、製品の生産性の調整ができる。さらに非常に低い温度で2次プレスにより再加工・二次成形が可能であることが示され、複雑な形状の成形品であっても生産性が高く簡便に製造することが可能であることが示された。
【0084】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。