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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】ガイドワイヤ
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/09 20060101AFI20241009BHJP
【FI】
A61M25/09 516
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020215838
(22)【出願日】2020-12-24
(65)【公開番号】P2022101322
(43)【公開日】2022-07-06
【審査請求日】2023-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】599140507
【氏名又は名称】株式会社パイオラックスメディカルデバイス
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大宮 由裕
【審査官】鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-164200(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0118644(US,A1)
【文献】特開2017-164039(JP,A)
【文献】特開2019-97777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部及び該基部よりも縮径した先端部を有する芯線と、
該芯線の前記先端部の外周に装着されたコイル部材と、
前記コイル部材の内側に配置され、前記芯線とは別体の補強線とを有しており、
前記コイル部材の軸方向に沿った断面を見たときに、前記芯線は、前記先端部の少なくとも一部が前記補強線に重なるように延びており、
前記補強線は、少なくとも基端部が前記芯線に固着されると共に、前記コイル部材を径方向内方から径方向外方に向けて付勢するように、前記コイル部材の内周に圧接されており、
前記補強線は、前記芯線の前記先端部側から前記芯線の前記基端部側に向けて並列して延びる一対の側部を有し、前記一対の側部が、前記コイル部材の内周に圧接される部分をなすことを特徴とするガイドワイヤ。
【請求項2】
前記芯線は、前記コイル部材の先端部に至るまで延びており、
前記補強線は、前記コイル部材の基端部側及び先端部側において、前記芯線に固着されており、前記コイル部材の基端部側における前記芯線に対する固着部分と、前記コイル部材の先端部側における前記芯線に対する固着部分との間に、前記コイル部材の内周に圧接される部分を有している請求項1記載のガイドワイヤ。
【請求項3】
それぞれの前記固着部分の間における前記補強線の長さが、それぞれの前記固着部分の間における前記芯線の長さよりも長く形成されている請求項2記載のガイドワイヤ。
【請求項4】
前記芯線の先端部は、前記補強線に固着されておらず、
前記補強線は、前記コイル部材の基端部側で前記芯線に固着される固着部分を1箇所有しており、
前記固着部分と、前記補強線の、前記芯線の先端部に対応する部分との間における前記補強線の長さが、前記固着部分と、前記芯線の先端部との間における前記芯線の長さよりも、長く形成されている請求項1記載のガイドワイヤ。
【請求項5】
前記補強線は、湾曲形状をなした先端部と、該先端部から延びる前記一対の側部とからなるU字状をなしている請求項1~4のいずれか1つに記載のガイドワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、胆管、膵管、血管、尿管、気管等の人体の管状器官や、体腔等の人体組織の所定位置に、カテーテル等を挿入する際に用いられるガイドワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
以前から、胆管や膵管、血管、尿管、気管等の人体の管状器官に、カテーテルを挿入して薬液を注入したり、バルーンカテーテルで閉塞した管状器官を拡径したり、或いは、ステントを留置したりすることが行われている。これらの作業の際には、まず、ガイドワイヤを管状器官に挿入して所定位置まで到達させ、その外周に沿ってカテーテルやバルーンカテーテル、ステントを保持したチューブ等を移動させている。
【0003】
すなわち、カテーテル等に先行させて、ガイドワイヤを管状器官に挿入していくが、管状器官が分岐した分岐部では、所定の分岐管を選択する必要がある。その際には、ガイドワイヤの手元側を回転させて、そのトルクをガイドワイヤ先端まで伝達させて、ガイドワイヤ先端を所望の分岐管に向けた後、ガイドワイヤを挿入していく。そのため、ガイドワイヤ手元側からのトルクを、ガイドワイヤ先端側に伝達させるための、トルク伝達性が重要となる。
【0004】
このようなトルク伝達性を高めたガイドワイヤとして、例えば、下記特許文献1には、長尺のワイヤ本体と、素線が螺旋状に巻回されて形成され、ワイヤ本体の先端部外周に配置され、先端部を覆うコイルとを備え、ワイヤ本体は、コイルの内側において複数の分割ワイヤに分割され、分割ワイヤの少なくとも一部は、固定部においてコイルに固定された、ガイドワイヤが記載されている。
【0005】
上記ガイドワイヤでは、分割ワイヤの少なくとも一部は、固定部においてコイルに固定されているので、ガイドワイヤ基端部に与えたトルクは、分割ワイヤとコイルとの固定部を介してコイルに伝わり、トルク伝達性の向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-97777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1のガイドワイヤでは、ワイヤ本体が、複数の分割ワイヤに分割されており、各分割ワイヤが、コイルの内側に固定されているので、複数の分割ワイヤの内側には、何ら線材が存在しない構成となっている(特許文献1の図3~6参照)。また、各分割ワイヤの線径も大きくしにくい。そのため、ガイドワイヤのトルク伝達性を十分に向上させるとは言いがたく、また、ガイドワイヤ先端部における付形性にも課題がある。
【0008】
したがって、本発明の目的は、トルク伝達性の向上及び付形性の向上の両立を図ることができる、ガイドワイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係るガイドワイヤは、基部及び該基部よりも縮径した先端部を有する芯線と、該芯線の前記先端部の外周に装着されたコイル部材と、前記コイル部材の内側に配置され、前記芯線とは別体の補強線とを有しており、前記コイル部材の軸方向に沿った断面を見たときに、前記芯線は、前記先端部の少なくとも一部が前記補強線に重なるように延びており、前記補強線は、少なくとも基端部が前記芯線に固着されると共に、前記コイル部材を径方向内方から径方向外方に向けて付勢するように、前記コイル部材の内周に圧接されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コイル部材の内側に配置され芯線とは別体の補強線が、その少なくとも基端部が芯線に固着されると共に、コイル部材を径方向内方から径方向外方に向けて付勢するように、コイル部材の内周に圧接されているので、ガイドワイヤの手元側からのトルクを、コイル部材の基端部側から、補強線を介してコイル部材の先端部側に伝達されるため、トルク伝達性を向上させることができる。また、別体の補強線に対して、芯線の先端部の少なくとも一部が重なるように延びているので、コイル部材の内側において、芯線と補強線とが重なる範囲が存在することになるため、ガイドワイヤの先端部における付形性を向上させることができる。以上のように、このガイドワイヤにおいては、トルク伝達性の向上及び付形性の向上の両立を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るガイドワイヤの第1実施形態を示しており、(A)はその平面断面図、(B)は側面断面図である。
図2図1(A)のA-A矢示線における断面図である。
図3】同ガイドワイヤを構成する補強線の製造工程を示しており、(A)は線材を屈曲させる前の状態の説明図、(B)は線材を屈曲させた状態の説明図である。
図4】同ガイドワイヤの先端部を付形した状態の説明図である。
図5】本発明に係るガイドワイヤの第2実施形態を示しており、(A)はその平面断面図、(B)は側面断面図である。
図6図5(A)のB-B矢示線における断面図である。
図7】本発明に係るガイドワイヤの第3実施形態を示しており、(A)はその平面断面図、(B)は側面断面図である。
図8図7(A)のD-D矢示線における断面図である。
図9】(A)は、トルク伝達性試験に用いられる実施例の平面断面図、(B)は、トルク伝達性試験に用いられる比較例の平面断面図である。
図10】トルク伝達性試験の試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(ガイドワイヤの第1実施形態)
以下、図面を参照して、本発明に係るガイドワイヤの実施形態について説明する。図1~4には、本発明に係るガイドワイヤの第1実施形態が示されている。
【0013】
図1に示すように、この実施形態のガイドワイヤ10は、基部21及び基部21よりも縮径した先端部23を有する芯線20と、この芯線20の先端部23の外周に装着されたコイル部材30と、コイル部材30の内側に配置され、芯線20とは別体の補強線40とを有している。
【0014】
なお、以下の説明で、芯線20や、コイル部材30、補強線40等の各部材における、「基端部」とは、ガイドワイヤを使用する使用者の手元に近い方の端部(近位端部)を意味し、「基端」とは、使用者の手元に最も近い箇所(近位端)を意味する。また、各部材における、「先端部」とは、上記基端部とは反対側の端部(遠位端部)を意味し、「先端」とは、上記「先端」とは反対側の、使用者から最も離れた箇所(遠位端)を意味する。
【0015】
前記芯線20は、円形断面の丸線であって、一定外径にて所定長さで伸びる基部21と、この基部21の先端側に連設され、該基部21よりも小径の先端部23とを有している。また、先端部23は、前記基部21の先端から、芯線先端に向かって次第に縮径しつつ延びるテーパ部24と、このテーパ部24の先端から一定外径で直線状に延びる直線状部25とからなる。なお、直線状部25の先端25aが、芯線20の最先端となっている。
【0016】
また、図1(A),(B)に示すように、コイル部材30の軸方向に沿った断面を見たときに、芯線20は、先端部23の少なくとも一部が、補強線40に重なるように延びている。この実施形態における芯線20の先端部23は、補強線40の基端部43cにテーパ部24が位置し、かつ、直線状部25の先端25aが、補強線40の先端部41を超えた位置まで延びており、補強線40の軸方向の全長に亘って、芯線20の先端部23が重なっている。なお、本発明における「補強線に重なる」とは、補強線の内側に、補強線とは別体とされた、芯線の先端部の少なくとも一部が位置して、芯線の軸方向において所定長さ重なることを意味する。
【0017】
更に、芯線20は、コイル部材30の先端部33に至るまで延びている。この実施形態における芯線20の先端部23は、コイル部材30の基端部32にテーパ部24が位置し、かつ、直線状部25の先端25aが、コイル部材30の先端部33を超えた位置まで延びており、コイル部材30の軸方向の全長に亘って、芯線20の先端部23が重なっている。
【0018】
なお、芯線の先端部としては、例えば、基部先端から芯線先端に向かって次第に縮径しつつ延びる先細テーパ状をなしていたり(一定外径で直線状に延びる直線状部はない形状)、或いは、芯線先端に向かって段階的に縮径して段状をなす形状としたりしてもよく、特に限定されない。また、この実施形態の芯線20は、コイル部材30の軸方向全長に亘って延びているが、コイル部材30の軸方向途中まで延びていてもよく、芯線の先端部の少なくとも一部が補強線に重なるように延びていればよい。
【0019】
なお、上記芯線20としては、例えば、Ni-Ti系合金,Ni-Ti-X(X=Fe,Cu,V,Co,Cr,Mn,Nb等)合金、Cu-Zn-X(X=Al,Fe等)合金等の超弾性合金や、ステンレス、ピアノ線材などを用いることができ、或いは、W、Pt、Ti、Pd、Rh、Au、Ag、Bi、Ta及びこれらの合金等からなるX線不透過性金属を用いることもできる。
【0020】
図2に示すように、前記コイル部材30は、断面円形状の線材31を巻回して形成されたものであって、図1に示すように、芯線20の先端部23の外周に装着されている。この実施形態でのコイル部材30は、基端部32から先端部33に至る全長に亘って、線材31どうしが密着するように巻回された密着巻き構造となっている。なお、コイル部材30の内径R1は、基端部32側から先端部33側に至るまで一定径で形成されている。
【0021】
また、コイル部材30を形成する線材31としては、例えば、Ni-Ti系合金,Ni-Ti-X(X=Fe,Cu,V,Co,Cr,Mn,Nb等)合金、Cu-Zn-X(X=Al,Fe等)合金等の超弾性合金や、ステンレス、ピアノ線材などを用いることができ、或いは、W、Pt、Ti、Pd、Rh、Au、Ag、Bi、Ta及びこれらの合金等からなるX線不透過性金属を用いることもできる。
【0022】
なお、この実施形態の線材31は、断面円形状となっているが、線材としては、例えば、断面角形状の線材であってもよい。また、線材31の線径は、0.03~0.20mmであることが好ましく、0.03~0.10mmであることがより好ましい。更に、コイル部材は、上記のような密着巻き構造ではなく、線材どうしを所定間隔を空けて巻回されてなる疎巻き構造としてもよい。また、コイル部材30の内径R1(図1(B)参照)は、0.07~0.50mmであることが好ましく、0.07~0.40mmであることがより好ましい。
【0023】
次に、補強線40について説明する。
【0024】
この補強線40は、上述したように、コイル部材30の内側に配置されており、その少なくとも基端部43cが芯線20に固着されると共に、コイル部材30を径方向内方から径方向外方に向けて付勢するように、コイル部材30の内周に圧接されている。
【0025】
図1(A)に示すように、この実施形態の補強線40は、ガイドワイヤ先端側に向けて凸状をなす、丸みを帯びた湾曲形状をなした先端部41と、該先端部41の基端41a,41aから、ガイドワイヤ基端部側に向けて並列して延びる一対の側部43,43とからなり、平面方向(一対の側部43,43の並列状態を視認可能な方向)から見たときにU字状をなしている。
【0026】
図1(B)に示すように、補強線40の側面方向(前記平面方向とは直交する方向)から見たときに(以下、単に「側面視」ともいう)、各側部43は、ガイドワイヤ先端部側から基端部側に向けて、緩やかな曲面状をなした山部43a及び谷部43bが交互に連続した配置された略波形状をなすように延びている。また、図1(A)に示すように、補強線40の平面方向から見たときに(以下、単に「平面視」ともいう)、一対の側部43,43は、互いに平行となるように配置されている。なお、各側部43の延出方向の終端部(先端部41から最も離れた端部)が、補強線40の基端部43cをなしている。
【0027】
また、補強線40は、図3(A)に示すような、平面視で直線状に延びると共に、図示しない側面視で波形状に延びる一本の線材Wを、軸方向中央部を介して屈曲させることで、図3(B)に示すように、先端部41及び一対の側部43,43からなる平面視でU字状をなすように形成される。このとき、補強線40は、一本の線材WをU字状に屈曲形成したので、図3(B)の矢印に示すように、一対の側部43,43は互いに開く方向(一対の側部43,43の、基端部43c,43cどうしが離反する方向)に弾性変形するようになっている。言い換えると、補強線40が、図3(A)に示す直線状に戻るように弾性復帰しようとする。更に図3(B)に示すように、補強線40の平面視において、互いに平行に配置された状態における、一対の側部43,43の幅H1(一対の側部43,43の外側面どうしの最小長さ)は、コイル部材30の内径R1よりも大きくなるように形成されている。
【0028】
また、補強線40は、芯線20に固着される固着部分を1箇所又は2箇所以上有している。この実施形態における補強線40は、図1(A)に示すように、補強線40は、その基端部43cが第1固着部分K1を介して芯線20に固着され、先端部41が第2固着部分K2を介して芯線20に固着されている。すなわち、この実施形態の補強線40は、芯線20との固着部分を2箇所有している(第1固着部分K1及び第2固着部分K2)。この場合、それぞれの固着部分K1,K2の間における補強線40の長さが、それぞれの固着部分K1,K2の間における芯線20の長さよりも長く形成されている。具体的には、本実施形態のように固着部分が2箇所の場合、略波形状をなした各側部43の、固着部分K1,K2の間における長さは、固着部分K1,K2の間における芯線20の長さよりも、長く形成されている。
【0029】
なお、補強線としては、その先端部を芯線に固着させず、基端部のみを芯線に固着させて、芯線との固着部分を1箇所としてもよい。このように固着部分が1箇所の場合は、固着部分と、補強線の、芯線の先端部に対応する部分との間における補強線の長さが、固着部分と、芯線の先端部との間における芯線の長さよりも、長く形成されていることが好ましい。
【0030】
また、補強線40の、第1固着部分L1と、第2固着部分K2との間の部分が、図1(A)の矢印Fに示すように、コイル部材30を径方向内方から径方向外方に向けて付勢するように、コイル部材30の内周に圧接される部分P(以下、単に「圧接部分P」ともいう)をなしている。この実施形態では、補強線40の各側部43における、基端部43cと先端部41の基端41aとの間の部分が、圧接部分Pとなっている。
【0031】
そして、芯線20の先端部23のテーパ部24の軸方向途中に、補強線40の各側部43の基端部43cを当接させた状態で、同基端部43cと、芯線20の補強線当接部分と、コイル部材30の基端部32とが、所定の固着材料からなる第1固着部分K1を介して、互いに固着されている。また、芯線20の直線状部25の先端25aと、コイル部材30の先端部33と、補強線40の先端部41とが、所定の固着材料からなる丸みを帯びた形状をなした第2固着部分K2を介して、互いに固着されている。なお、補強線40の先端部41は、芯線20の直線状部25の先端部の外周に、近接又は当接した状態で配置されている(図1(B)参照)。
【0032】
その結果、芯線20の先端部23の外周に、コイル部材30が装着されると共に、コイル部材30の内側において、補強線40の基端部43c,43c及び先端部41が、固着部分K1,K1を介して芯線20に固着されるようになっている。
【0033】
このとき、補強線40の各側部43,43における圧接部分P,Pが、
(1)一対の側部43,43が互いに開く方向に弾性変形(弾性復帰)する、
(2)一対の側部43,43の幅H1がコイル部材30の内径R1よりも大きく形成されている、
(3)各側部43の固着部分K1,K2の間における長さが、固着部分K1,K2の間における芯線20の長さよりも長く形成されている、
といった構成によって、図1(A)の矢印Fに示すように、コイル部材30を径方向内方から径方向外方に向けて付勢して、コイル部材30の内周に圧接されるようになっている。
【0034】
以上説明した補強線40を形成する線材Wとしては、例えば、Ni-Ti系合金,Ni-Ti-X(X=Fe,Cu,V,Co,Cr,Mn,Nb等)合金、Cu-Zn-X(X=Al,Fe等)合金等の超弾性合金や、ステンレス、ピアノ線材などを用いることができ、或いは、W、Pt、Ti、Pd、Rh、Au、Ag、Bi、Ta及びこれらの合金等からなるX線不透過性金属を用いることもできる。
【0035】
なお、この実施形態の補強線40は、Ni-Ti系合金からなる超弾性合金から形成されており、その超弾性特性によって、一対の側部43,43が開く方向に弾性変形しやすくなっている。
【0036】
また、補強線としては、上記のような超弾性合金を採用し、その形状記憶特性を利用して、所定形状に予め付形させてもよい(例えば、補強線40のようにU字状に付形する)。
【0037】
また、この実施形態の補強線40は、平面視でU字状をなしているが、例えば、補強線の形状としては、平面視でV字状をなしていたり、平面視でコ字状をなしていたりしていてもよく、コイル部材を径方向内方から径方向外方に向けて付勢するように、コイル部材の内周に圧接されることが可能な形状であれば、特に限定はされない。更に、この実施形態では、補強線40は1個であるが、複数の補強線としてもよい。
【0038】
また、この実施形態の補強線40は、基端部43c及び先端部41の両端部が芯線20に固着されているが、上述したように、補強線の先端部を芯線に固着させず、基端部のみを芯線に固着させたり、更には、補強線の、基端部及び先端部の間の部分を、1箇所又は複数箇所で芯線に固着させたりしてもよく、補強線の少なくとも基端部が芯線に固着されていればよい。
【0039】
なお、コイル部材30や補強線40を、芯線20に対して固着するための、上記の固着材料としては、例えば、SnやAgロウ等のロウ材を用いることができるが、それ以外にも、例えば、紫外線硬化型のアクリレート樹脂や、シリコーン系接着剤、変性シリコーン系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、アクリレート系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤等を用いることができる。
【0040】
また、この実施形態のガイドワイヤ10は、芯線20及びコイル部材30の外周を被覆する樹脂層50を有している。この実施形態の樹脂層50は、芯線20及びコイル部材30を含めてガイドワイヤ全体を覆っている。更にこの樹脂層50の外周には、親水性樹脂膜60が被覆されている(図1参照)。
【0041】
なお、樹脂層50は、例えば、ポリウレタンや、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ナイロンエラストマー、ポリエーテルブロックアミド、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、酢酸ビニルや、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)、四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、四フッ化エチレン-エチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂などを採用することができる。一方、親水性樹脂膜60は、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、メチルビニルエーテル無水マレイン酸共重合体等の親水性樹脂などを採用することができる。
【0042】
(作用効果)
次に、上記構造からなる本発明のガイドワイヤの作用効果について説明する。
【0043】
この実施形態におけるガイドワイヤ10は、例えば、血管や、胆管、膵管、尿管、気管等の各種の管状器官や、体腔等の人体組織の所定位置に、カテーテルを配置したりステントを留置したりする際に用いることができ、使用箇所については特に限定されない。
【0044】
使用に際しては、ガイドワイヤ10を先端側(コイル部材30側)から、管状器官内に挿入していき、所望の箇所に至るまで押し込んでいく。その際、管状器官の分岐部において、所望の分岐管を選択することがある。この場合には、分岐部において、ガイドワイヤ10を基端部側で回転させて、所望の分岐管を選択する。
【0045】
このとき、このガイドワイヤ10においては、コイル部材30の内側に配置され芯線20とは別体の補強線40が、少なくとも基端部43cが芯線20に固着されると共に、コイル部材30を径方向内方から径方向外方に向けて付勢するように(図1(A)の矢印F参照)、コイル部材30の内周に圧接されている。そのため、ガイドワイヤ10の先端の方向を変えるべく、ガイドワイヤ10を基端部側で回転させたとき(捩ったとき)のトルク伝達性を高めることができる。すなわち、芯線20の基部21に付与されたトルクを、コイル部材30の基端部32側から、補強線40を介してコイル部材30の先端部33側に伝達させることができるので、芯線20の回転に追随してコイル部材30を回転させやすくすることができ(コイル部材30の空転を抑制しやすい)、トルク伝達性を向上させることができる。
【0046】
また、芯線20は、別体の補強線40に対して、先端部23の少なくとも一部が重なるように延びているので、コイル部材30の内側において、芯線20と補強線40とが重なる範囲が存在することになる。その結果、ガイドワイヤ10の先端部における付形性を向上させることができるので、図4に示すように、ガイドワイヤ使用者の手指や、付形用マンドレル等を用いて、ガイドワイヤ10の先端部を付形しようとする際に、ガイドワイヤ10の先端部を付形しやすくなる。
【0047】
以上のように、このガイドワイヤ10においては、トルク伝達性の向上及び付形性の向上の両立を図ることができる。
【0048】
また、芯線20及び補強線40は互いに別体なので、ガイドワイヤ10の使用箇所や使用目的に応じて、芯線20や補強線40の線径や形状等を適宜選択することができる。例えば、芯線20の先端部23の直線状部25を太くしたり、補強線40の各側部43を太くしたりすることで、ガイドワイヤ10の先端部における付形性能を更に向上させることができる。
【0049】
また、この実施形態においては、補強線40は、コイル部材30の基端部32側及び先端部33側において、芯線20に固着されており、これらの固着部分K1,K2の間に、コイル部材30の内周に圧接される圧接部分Pを有している。
【0050】
そのため、コイル部材30の、基端部32側及び先端部33側の間の部分が、補強線40によってしっかりと付勢されて圧接されるため、トルク伝達性をより高めることができる。更に、芯線20は、コイル部材30の先端部33に至るまで延びているので、ガイドワイヤ10の先端部における付形性を、より高めることができる(芯線20がコイル部材30の先端部33まで延びてない場合に比べて、コイル部材30の基端部32から先端部33に至る範囲における付形性能が向上する)。
【0051】
更に、この実施形態においては、それぞれの固着部分K1,K2の間における補強線40の長さが、それぞれの固着部分K1,K2の間における芯線20の長さよりも長く形成されている。具体的には、補強線40の、芯線20に対する所定の固着部分と、該固着部分に隣接する他の固着部分との間(ここでは第1固着部分K1及び第2固着部分K2の間)における補強線40の長さは、所定の固着部分と他の固着部分との間(第1固着部分K1及び第2固着部分K2の間)における芯線20の長さよりも長く形成されている。
【0052】
そのため、補強線40を、コイル部材30の径方向内方から外方に向けて確実に付勢させて、コイル部材30の内周に対する圧接力を高めることができ、トルク伝達性を更に高めることができる。
【0053】
なお、芯線の先端部が補強線に固着されておらず、補強線がコイル部材の基端部側で芯線に固着される固着部分を1箇所有する場合は、固着部分と、補強線の、芯線の先端部に対応する部分との間における補強線の長さが、固着部分と、芯線の先端部との間における芯線の長さよりも、長く形成された構造としてもよい。この場合も上記と同様の作用効果(補強線を、コイル部材の径方向内方から外方に向けて確実に付勢させ、コイル部材内周に対する圧接力を高め、トルク伝達性を更に高める)が得られる。
【0054】
また、この実施形態においては、補強線40は、湾曲形状をなした先端部41と、先端部41から並列して延びる一対の側部43,43とからなるU字状をなしているので、補強線40を製造しやすくすることができる。更に、上記一対の側部43,43が、コイル部材30の内周に圧接される部分をなすので、コイル部材30の径方向内方から外方に向けて付勢力を発揮させやすくすることができる。
【0055】
(ガイドワイヤの第2実施形態)
図5及び図6には、本発明に係るガイドワイヤの第2実施形態が示されている。なお、前記実施形態と実質的に同一部分には同符号を付してその説明を省略する。
【0056】
図5及び図6に示すように、この第2実施形態のガイドワイヤ10Aは、補強線の形状及び構造が、第1実施形態のガイドワイヤ10と異なっている。
【0057】
この実施形態では、一対の補強線40A,40Aを有している。各補強線40Aは、第1実施形態の補強線40を構成する各側部43と同様の形状をなしている。すなわち、一方の補強線40Aは、ガイドワイヤ先端部側から基端部側に向けて、緩やかな曲面状をなした山部43a及び谷部43bが交互に連続した配置された略波形状をなすように延びる延出部45を有している(図5(B)参照)。他方の補強線40Aは、ガイドワイヤ先端部側から基端部側に向けて、緩やかな曲面状をなした谷部43b及び山部43aが交互に連続した配置された略波形状をなすように延びる延出部45を有している(図5(B)参照)。
【0058】
また、図5(A)に示すように、補強線40Aの平面視において、延出部45の基端側には、延出部45に対して所定角度で斜めに、且つ、延出部45の先端側から離れる方向に屈曲して延びる基端部45aが設けられており、延出部45の先端側には、延出部45に対して所定角度で斜めに、且つ、延出部45の基端側から離れる方向に屈曲して延びる先端部45bが設けられており、両端部45a,45bは略ハの字状に広がる形状をなしている。
【0059】
更に、各補強線40Aの基端部45aは、芯線20の先端部23のテーパ部24に当接した状態で、第1固着部分K1を介して芯線20に固着されており、先端部45bは、芯線20の先端部23の直線状部25に当接した状態で、第2固着部分K2を介して芯線20に固着されている(図5(A)参照)。また、図5(A)に示すように、補強線40Aの平面視において、芯線20に固着された状態における一対の補強線40A,40Aの幅H2(一対の補強線40A,40Aの、延出部45,45の外側面どうしの最小長さ)は、コイル部材30の内径R1よりも大きくなるように形成されている。更に、各補強線40Aの、固着部分K1,K2の間における長さは、固着部分K1,K2の間における芯線20の長さよりも、長く形成されている。
【0060】
そして、このガイドワイヤ10Aにおいては、補強線40Aの圧接部分P,Pが、
(1)一対の補強線40A,40Aの幅H2がコイル部材30の内径R1よりも大きく形成されている、
(2)各補強線40Aの、固着部分K1,K2の間における長さが、固着部分K1,K2の間における芯線20の長さよりも長く形成されている、
といった構成によって、図5(A)の矢印Fに示すように、コイル部材30を径方向内方から径方向外方に向けて付勢して、コイル部材30の内周に圧接されるようになっている。
【0061】
その結果、トルク伝達性を向上させることができると共に、ガイドワイヤ10Aの先端部における付形性を向上させることができ、トルク伝達性の向上及び付形性の向上の両立を図ることができる。
【0062】
(ガイドワイヤの第3実施形態)
図7及び図8には、本発明に係るガイドワイヤの第3実施形態が示されている。なお、前記実施形態と実質的に同一部分には同符号を付してその説明を省略する。
【0063】
図7及び図8に示すように、この第3実施形態のガイドワイヤ10Bは、補強線の形状及び構造が、第1実施形態のガイドワイヤ10及び第2実施形態のガイドワイヤ10Aと異なっている。
【0064】
この実施形態の補強線40Bは、コイル部材30の内周に沿うように回転しながら、ガイドワイヤ先端部から基端部側に向けて延びる、略螺旋状をなしている(図7及び図8参照)。また、補強線40Bの基端部47は、芯線20の先端部23のテーパ部24に当接した状態で、第1固着部分K1を介して芯線20に固着されており、先端部48は、芯線20の先端部23の直線状部25に当接した状態で、第2固着部分K2を介して芯線20に固着されている(図7(A),(B)参照)。また、図8に示すように、補強線40Bを軸方向から見たときに、補強線40Bの外径R2は、コイル部材30の内径R1よりも大きくなるように形成されている。更に、補強線40Bの、固着部分K1,K2の間における長さは、固着部分K1,K2の間における芯線20の長さよりも、長く形成されている。
【0065】
そして、このガイドワイヤ10Bにおいては、補強線40Bの圧接部分Pが、
(1)補強線40Bの外径R2がコイル部材30の内径R1よりも大きく形成されている、
(2)補強線40Bの、固着部分K1,K2の間における長さが、固着部分K1,K2の間における芯線20の長さよりも長く形成されている、
といった構成によって、図8の矢印Fに示すように、コイル部材30を径方向内方から径方向外方に向けて付勢して(ここでは螺旋状をなした補強線40Bの周方向一箇所における圧接部分Pがコイル部材30を付勢する)、コイル部材30の内周に圧接されるようになっている。
【0066】
その結果、トルク伝達性を向上させることができると共に、ガイドワイヤ10Bの先端部における付形性を向上させることができ、トルク伝達性の向上及び付形性の向上の両立を図ることができる。
【実施例
【0067】
実施例及び比較例について、トルク伝達性を試験した。
【0068】
(実施例)
図9(A)に示すように、第1実施形態のガイドワイヤ10と同様の形状をなした、実施例のガイドワイヤ100を製造した。この実施例のガイドワイヤ100は、芯線20、コイル部材30、U字状をなした補強線40を備える点で、第1実施形態のガイドワイヤ10を同様であるが、樹脂層50及び親水性樹脂膜60はない。なお、芯線20の先端部23の直線状部25の外径は0.09mmであり、コイル部材30の内径は0.4mm、外径は0.48mm、コイル長は24mmである。また、補強線40の各側部43の外径は0.08mmである。
【0069】
(比較例)
図9(B)に示すような比較例のガイドワイヤ200を製造した。このガイドワイヤ200は、コイル部材30の内側に、一対の安全ワイヤ210,210が配置されている。各安全ワイヤ210は、その基端部211が、芯線20に対して第1固着部分K1を介して固着されており、先端部212が、芯線20に対して第2固着部分K2を介して固着されている。また、各安全ワイヤ210は、コイル部材30の内周に対して離間している。なお、芯線20の直線状部25の外径や、コイル部材30の内径、外径、コイル長は実施例と同一である。また、安全ワイヤ210の外径は0.08mmである。
【0070】
(試験方法)
各ガイドワイヤ100,200について、コイル部材30の軸方向中央に荷重(55g相当)を負荷させた状態で、各ガイドワイヤ100,200の芯線20の基部21を、図9の矢印に示すように同一方向に回転させた。その際の、芯線20の回転に対して、コイル部材30がどの程度追随して回転するかを測定した。図10に、その結果を示す。図10のグラフは、横軸が芯線の回転数であり、縦軸がコイル部材の回転数である。
【0071】
図10に示すように、比較例のガイドワイヤ200では、芯線20が5回転するときに、コイル部材30が回転した。一方、実施例のガイドワイヤ100は、芯線20が3回転するときに、コイル部材30が回転した。すなわち、実施例のガイドワイヤ100の方が、比較例のガイドワイヤ200に比べて、芯線20の回転に応じて、コイル部材30を回転させやすく、トルク伝達性が良いことが分かった。また、初回の回転までに必要な芯線20の回転数は、実施例のガイドワイヤ100の方が、比較例のガイドワイヤ200よりも少なく(比較例のガイドワイヤ200は5回転必要だが、実施例のガイドワイヤ10では3回転で済む)、実施例のガイドワイヤ100は、比較例のガイドワイヤ200よりも、トルク伝達時の応答性が良いことも分かった。
【0072】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で、各種の変形実施形態が可能であり、そのような実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0073】
10,10A,10B ガイドワイヤ
20 芯線
21 基部
23 先端部
30 コイル部材
32 基端部
33 先端部
40,40A,40B 補強線
41 先端部
43 側部
43c 基端部
45 延出部
45a 基端部
47 基端部
50 樹脂層
60 親水性樹脂膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10