(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】火落菌及び火落性菌の培養及び/又は計数並びにそれに有用なキット
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20241009BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20241009BHJP
C12N 1/32 20060101ALN20241009BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12Q1/06
C12N1/32
(21)【出願番号】P 2020573026
(86)(22)【出願日】2019-06-25
(86)【国際出願番号】 IB2019055339
(87)【国際公開番号】W WO2020003120
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-04-05
(32)【優先日】2018-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522464159
【氏名又は名称】ネオゲン フード セイフティ ユーエス ホルドコ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須田 貴之
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 匠子
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-000195(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0094327(US,A1)
【文献】Food Microbiol.,2014年,Vol. 39,p. 89-95
【文献】J. Food Prot.,2018年06月01日,Vol. 81,p. 1030-1034
【文献】醸協,1970年,第65巻、第2号,p. 88-91
【文献】醸協,1975年,第70巻、第5号,p. 305-308
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00 - 1/38
C12Q 1/00 - 1/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
火落菌又は火落性菌を培養する方法であって、
火落菌又は火落性菌を含む試料を緩衝剤と混合して、接種混合物を形成することと、
栄養培地を含む薄膜培養プレートに前記接種混合物を接種して、接種した培養プレートを形成することと、を含み、
前記緩衝剤が、エタノール及びメバロン酸を含み、
前記接種した培養プレートに4.0~6.0のpHを提供するのに十分なpHを有することを特徴とする、方法。
【請求項2】
火落菌又は火落性菌を計数する方法であって、
請求項1に従って火落菌又は火落性菌を培養することと、
火落菌又は火落性菌のコロニーを、前記培養プレート上でカウントすることと、を含む、方法。
【請求項3】
前記緩衝剤が、シトレート及びホスフェートを含むことを更に特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
火落菌及び火落性菌の両方を培養又は計数する方法である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記試料が、
日本酒である、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記緩衝剤が、0.5ppm~50ppmのメバロン酸を含む、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記緩衝剤が、3体積%~30体積%のエタノールを含む、請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
火落菌又は火落性菌の一方又は両方を培養又は計数するためのキットであって、
乳酸菌の増殖を促進する栄養培地を含む、1つ以上の薄膜培養プレート、及び
緩衝剤を含み、
前記緩衝剤が、エタノール及びメバロン酸を含み、且つ前記緩衝剤を前記栄養培地に添加した後に、前記栄養培地のpHを4.0~6.0とするのに十分なpHを有することを特徴とする、キット。
【請求項9】
前記緩衝剤が、0.5ppm~50ppmのメバロン酸を含む、請求項
8に記載のキット。
【請求項10】
前記緩衝剤が、3体積%~30体積%のエタノールを含む、請求項
8又は
9に記載のキット。
【請求項11】
前記緩衝剤が、シトレート及びホスフェートを含有する、請求項
8~
10のいずれか一項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
火落菌(場合により火落ち又は火落ち菌と呼ばれる)は、日本酒などのアルコール飲料の腐敗を引き起こす種類の乳酸菌である。火落性菌は、それらも日本酒などのアルコール飲料の腐敗を引き起こすという点で、火落菌に関連する乳酸菌である。火落菌及び火落性菌は両方とも、例えばワイン及び日本酒などの高いアルコール濃度下で増殖する能力を特徴とする。
【発明の概要】
【0002】
火落菌又は火落性菌の培養物を調製する方法は、火落菌又は火落性菌を含む試料を緩衝剤と混合して、接種混合物を形成することと、培養プレートに接種混合物を接種することと、を含んでよい。方法は、緩衝剤が、ホスフェート、シトレート、エタノール、及びメバロン酸を含むことを特徴とする。
【0003】
火落菌又は火落性菌を計数する方法は、
火落菌又は火落性菌を含む試料を、ホスフェート、シトレート、エタノール、及びメバロン酸を含む緩衝剤と混合して、接種混合物を形成することと、培養プレートに接種混合物を接種して、接種した培養プレートを形成することと、火落菌又は火落性菌のコロニーの数を培養プレート上でカウントすることと、を含んでよい。培養物を調製する方法と同様に、計数する方法は、緩衝剤が、ホスフェート、シトレート、エタノール、及びメバロン酸を含むことを特徴とする。
【0004】
キットは、1つ以上の培養プレート及び緩衝剤を含んでよい。培養する方法及び計数する方法と同様に、キットは、緩衝剤が、ホスフェート、シトレート、エタノール、及びメバロン酸を含むことを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本開示を通じて、「a」、「an」及び「the」などの単数形は、しばしば便宜上使用されるが、単数のみであることが明示的に指定されている場合又は文脈によって明確に示されている場合を除いて、単数形は複数を含むよう意図される。単数のみに言及する場合、典型的には「1つ、且つ1つのみ」などの用語が使用される。
【0006】
本開示におけるいくつかの用語が、以下に定義される。他の用語は、当業者によく知られており、それらの用語には当業者がそれらに割り当ててきた意味を与えるものとする。
【0007】
「共通の/一般的な」、「典型的な」、及び「通常の」、並びに「共通して/一般的に」、「典型的には」、及び「通常」などの用語が、本明細書において多くの場合に用いられる特徴を指すために使用されており、これらは、先行技術を参照して具体的に使用されない限り、特徴が先行技術に存在することを意味することを意図するものではなく、これらの特徴が従来技術において一般的である、通常である、又は典型的であるというのに遠く及ばないものである。
【0008】
用語「日本酒」は、典型的には米から製造される、日本及び和食に関連する種類のアルコール飲料を指すために使用されるが、今日、日本酒は、必ずしも日本で製造されるとは限らず。現時点では、米国をはじめとする様々な他の場所でも製造されている。「日本酒」には、一般に、英語でサケ(sake)と呼ばれる全ての種類のアルコール飲料が含まれ、これには、清酒(澄んでいる日本酒)、ドブロク(未濾過の日本酒)、ニゴリ(濁りのある日本酒)、普通酒(並の日本酒)、特定名称酒(特別に命名された日本酒)、純米大吟醸酒(純粋に米の非常に特別に醸造された日本酒)、大吟醸酒(非常に特別に醸造された日本酒)、純米吟醸酒(純粋に米の特別に醸造された日本酒)、吟醸酒(特別に醸造された日本酒)、特別純米酒(特別の純粋に米の日本酒)、特別本醸造酒(特に純正の醸造された日本酒)、純米酒(純粋に米の日本酒)、本醸造酒(純正の醸造された日本酒)、生酒(低温殺菌していない日本酒)、原酒(未希釈の日本酒)、古酒(熟成された日本酒)、樽酒(木製、通常は杉、すなわちスギの樽に詰められた日本酒)、しぼりたて(搾ったばかりの日本酒)、袋吊り(滴下による日本酒)、斗瓶囲い(大きな容器に搾った日本酒)、甘酒(甘味型の日本酒)、地酒(地方で醸造された日本酒)、黒酒(玄米から製造された日本酒)、手作り白酒(高度に精米された米で製造された日本酒)、屠蘇(屠蘇散などの薬物粉末をしみこませた日本酒)などが挙げられる。
【0009】
火落菌は、高エタノール含有量、いくつかの場合では最高25%、又は更にそれ以上のエタノールを有する環境で増殖することができる種類の乳酸菌である。典型的な火落菌は、ラクトバチルス属のものであり、これにはホモヒオチ種及びその全ての亜種が挙げられる。火落性菌は、当該技術分野において真の火落菌とは見なされない乳酸菌であるが、それにもかかわらず、火落菌を養う環境のような高エタノール環境で増殖することができる。火落性菌もまた、ラクトバチルス属のものであり、とりわけ、ラクトバチルス属カゼイ種、ヒルガルディ種、及びカゼイ種であって、高アルコール環境で増殖することができる種が少なくとも挙げられる。
【0010】
火落菌及び火落性菌は、アルコール飲料の腐敗に関与することがある。特に、火落菌及び火落性菌は、米から製造されたアルコール飲料にとって問題であり、そればかりでなく他のアルコール飲料も、例えば、製造プロセスにおいて真菌を使用するものも、腐敗させることがある。これには、ワインなどのブドウ系アルコール飲料が含まれ、その理由は、多くのワインのブドウには、いわゆる「貴腐菌」(フランス語用語「プリチュール(pourriture)」及び「プリチュールノーブル(pourriture noble)」としても知られる)を意図的に作用させるからであり、貴腐菌は、望ましい形態の灰色カビ、典型的にはボトリティス・シネレアである。他のアルコール飲料、例えばミーチュウ(中国のライスワイン)、チョンジュ(韓国のライスワイン)、泡盛(沖縄で伝統的に製造されているライスワインのリカー)、焼酎(米のリカー)なども、火落菌又は火落性菌によって腐敗することがある。
【0011】
高アルコール環境で増殖する共通の特徴を有するにもかかわらず、火落菌、火落性菌、又はその両方を単一の培養プレートで培養することができるようにする方法で試料を培養することは、課題である。関連する課題は、火落菌、火落性菌、又はその両方のコロニーを1つの培養プレート上で計数することができる、1つの試験を見出すことである。現在の方法は、火落菌及び火落性菌を、そのまま使用できる培地を用いた単一の薄膜培養プレートで、一緒に培養又は計数することを可能するものではない。現在、寒天培地プレートについては、(そのまま使用できる薄膜プレートの利便性とは対照的に)操作者が調製する必要がある。このことは、寒天培地プレートを調製するのにより多くの操作者の時間を要するので、及びそのまま使用できる薄膜培養プレートを使用することとは対照的に、寒天培地プレートを毎回調製する必要があるとき、操作者の誤りの可能性がより多く存在するので、問題である。
【0012】
別の問題は、火落菌及び火落性菌について試験するのに必要な時間量に関連する。火落菌及び火落性菌は両方とも寒天プレートを使用して検出することができるが、火落菌及び火落性菌の両方を、既知の方法を使用して培養及び検出するのに、長時間、例えば7~10日間が必要とされる。
【0013】
本開示は、火落菌又は火落性菌を含有する試料と混合するための緩衝剤を提供することにより、これらの問題に対処するものであり、その火落菌又は火落性菌を、次に薄膜培養プレート上に接種することができる。本明細書に記載の緩衝剤を使用する場合、火落菌及び火落性菌の両方を、一緒に同じ薄膜培養プレートで培養することができる。典型的には、薄膜培養プレートは、3M Company(St.Paul,MN)製のPETRIFILM(商標)銘柄の培養プレートで、及びより一般的にはPETRIFILM(商標)銘柄LAB薄膜培養プレートで入手可能なものである。本明細書に記載の緩衝剤を使用する場合、火落菌及び火落性菌の両方を、同じプレート上で計数することができる。したがって、本明細書に開示の計数方法を実施することによって、専門家は、試料が火落菌又は火落性菌を含有するか否かについて、単回の計数により判定することができる。より詳細には、火落菌又は火落性菌、特に火落性菌を計数するプロセスは、以前から知られている方法よりも有意に速くすることができ、7日間以上とは対照的に、場合によりわずか3日間にすることができる。本開示はまた、本明細書に記載の培養プレート及び緩衝剤を含有するキットを提供することによって、課題を解決するものであり、これにより、使用者は、火落菌又は火落性菌を培養又は計数することが容易になる。したがって、本開示により初めて、火落菌及び火落性菌を、そのまま使用できる培地又は薄膜培養プレートを使用して、培養する能力が得られる。火落菌又は火落性菌のうちのいずれか一方が、日本酒などの飲料の腐敗を引き起こすことがあることから、両方を同時に培養及び検出することが可能であることは、大きな利点である。
【0014】
特に指定されている場合を除き、食品又は飲料試料の場合、方法によって火落菌と火落性菌とを区別する必要はなく、その理由は、2つのいずれか一方又は組み合わせの、許容できないレベルでの存在が食品又は飲料の腐敗を示すからである。とはいえ、いくつかの場合では、火落菌と火落性菌とを区別することが可能である。
【0015】
火落菌又は火落性菌の培養物を調製する方法は、火落菌及び火落性菌を含む試料を緩衝剤と混合して、接種混合物を形成することと、培養プレートに接種混合物を接種することと、を含んでよい。方法は、緩衝剤が本明細書に記載の成分及びpHを有することを特徴とする。方法は、火落菌又は火落性菌のコロニーの数を、培養プレート上でカウントする、計数する工程を更に含んでもよい。
【0016】
火落菌又は火落性菌の培養物を計数する方法は、火落菌又は火落性菌を含む試料を緩衝剤と混合して、接種混合物を形成することと、培養プレートに接種混合物を接種して、接種した培養プレートを形成することと、火落菌又は火落性菌のコロニーの数を接種した培養プレート上でカウントすることと、を含んでよい。方法は、緩衝剤が、本明細書に記載の成分及びpHを有することを特徴とする。
【0017】
火落菌又は火落性菌を培養又は計数する方法のいずれかにおいて、試料は、火落菌又は火落性菌を含有する、又は含有する可能性のある任意の試料であってよい。試料は、食品又は飲料製品からのものであってもよいが、そればかりでなくまた、例えば、食品又は飲料製品を製造する製造設備の表面からの環境試料であってもよい。概して、試料が食品又は飲料からのものである場合、試料は、アルコール飲料である。最も一般的には、アルコール飲料は、米から醸造又は蒸留されたものであり、これには、米及び他の穀粒の混合物から醸造又は蒸留されたものが挙げられる。日本酒は試料として使用される最も一般的な飲料であるが、ミーチュウ(中国のライスワイン)、チョンジュ(韓国のライスワイン)、泡盛(沖縄で伝統的に製造されているライスワインのリカー)、焼酎(米のリカー)、ぶどうワインなどもまた、本明細書に記載の方法のいずれかに対する試料として使用することができる。試料が環境試料である場合、試料は、典型的には、アルコール飲料を製造する設備において、1つ以上の表面、例えば作業表面、装置の表面などを拭くことによって得られる。
【0018】
火落菌又は火落性菌を培養又は計数する方法のいずれかにおいて、又はキットにおいて、緩衝剤は、培養プレートへの添加時に4.0~6.0のpHを提供する少なくとも1つの緩衝剤を含み、これは、好ましくはホスフェート及びシトレート並びにエタノール及びメバロン酸の、組み合わせである。これらの成分の各々が存在する必要があり、これらの成分のいずれか1つを除外すると、緩衝剤は、火落菌及び火落性菌の両方を培養するのに有効でないものになる。したがって、これらの要素の全てを含有する緩衝剤のみを使用して、火落菌又は火落性菌を同じ培養プレートで培養、計数、又は培養及び計数することができることは、驚くべきことである。
【0019】
緩衝剤は、火落菌及び火落性菌が増殖することができる任意のpHであってよい。典型的には、試料を緩衝剤と混合した後、試料を培養プレート上に素早く接種する。したがって、緩衝剤のpHは、典型的には、培養プレートの接種後、火落菌及び火落性菌が増殖することができる適切なpHを有する培養プレートを提供するのに十分である。このような場合、緩衝剤のpHは、培養プレートの成分に応じて変化する。多くの場合、緩衝剤は、接種後、接種した培養プレートが、4.0~6.0のpH、例えば4.0以上、4.1以上、4.2以上、4.3以上、4.4以上、4.5以上、4.6以上、4.7以上、4.8以上、4.9以上、5.0以上、5.1以上、5.2以上、5.3以上、5.4以上、5.5以上、5.6以上、5.7以上、5.8以上、又は更に5.9以上のpHを有するよう、十分なpHを有する。このような場合、緩衝剤は、接種後、接種した培養プレートが、6.0以下、5.9以下、5.8以下、5.7以下、5.6以下、5.5以下、5.4以下、5.3以下、5.2以下、5.1以下、5.0以下、4.8以下、4.7以下、4.6以下、4.5以下、4.4以下、4.4以下、4.3以下、4.2以下、又は更に4.1以下のpHを有するよう、十分なpHを有する。緩衝剤は、特に、接種した培養プレートに4.5~5.5のpH、とりわけ特に4.8~5.2のpHを提供する、pHを有する。
【0020】
多くの場合、緩衝剤そのものは、3.5~6.0のpH、例えば3.5以上、3.6以上、3.7以上、3.8以上、3.9以上、4.0以上、4.1以上、4.2以上、4.3以上、4.4以上、4.5以上、4.6以上、4.7以上、4.8以上、4.9以上、5.0以上、5.1以上、5.2以上、5.3以上、5.4以上、5.5以上、5.6以上、5.7以上、5.8以上、又は更に5.9以上のpHを有する。このような場合、緩衝剤は、接種後、接種した培養プレートが、6.0以下、5.9以下、5.8以下、5.7以下、5.6以下、5.5以下、5.4以下、5.3以下、5.2以下、5.1以下、5.0以下、4.9以下、4.8以下、4.7以下、4.6以下、4.5以下、4.4以下、4.4以下、4.3以下、4.2以下、4.1以下、4.0以下、3.9以下、3.8以下、3.7以下、又は更に3.6以下のpHを有するよう、十分なpHを有する。McIlvaine緩衝剤を用いて、当業者に既知の方法によって適切なpHを得ることができる。
【0021】
緩衝剤がシトレート及びホスフェートを含む場合、シトレート及びホスフェートは、火落菌又は火落性菌の増殖を可能にする任意の比で使用することができる。他の緩衝剤を用いることができるが、シトレート及びホスフェートを含む緩衝剤によると、例えばホスフェート緩衝剤単独とは対照的に、火落菌及び火落性菌の増殖及び検出がより速くなる。したがって、本開示は、シトレート及びホスフェートの両方を含む緩衝剤に限定されないが、このような緩衝剤は有利なことがある。典型的な比は、本明細書に記載の濃度のシトレート及びホスフェートを使用して、やはり本明細書に記載の所望のpHを得ることによって決定される。11:9の比(シトレートのホスフェートに対する比)が、典型的である。
【0022】
シトレート及びホスフェートの濃度は、火落菌又は火落性菌の増殖を可能にする任意の濃度であってよい。典型的には、ホスフェートは、0.05M以上且つ0.5M以下、例えば0.05M以上、0.075M以上、0.1M以上、0.125M以上、0.15M以上、又は0.175M以上、0.2M以上、0.225M以上、0.25M以上、0.275M以上、0.3M以上、0.35M以上、0.4M以上、0.45M以上、0.5M以下、0.45M以下、0.35M以下、0.325M以下、0.3M以下、0.275M以下、0.25M以下、0.225M以下、0.2M以下、0.175M以下、0.15M以下、0.125M以下、0.1M以下、又は0.075M以下の量で用いられる。典型的には、クエン酸は、0.025M以上且つ0.5M以下、例えば0.025M以上、0.075M以上、0.1M以上、0.125M以上、0.15M以上、又は0.175M以上、0.2M以上、0.225M以上、0.25M以上、0.275M以上、0.3M以上、0.35M以上、0.4M以上、0.45M以上、0.5M以下、0.45M以下、0.35M以下、0.325M以下、0.3M以下、0.275M以下、0.25M以下、0.225M以下、0.2M以下、0.175M以下、0.15M以下、0.125M以下、0.1M以下、又は0.075M以下の量で用いられる。
【0023】
ホスフェートは、任意のホスフェート、例えばホスフェート塩、水素ホスフェート塩(本開示の目的のためにホスフェートとみなされる)などを含んでもよい。ホスフェートの対イオンは、得られるホスフェートが緩衝剤に可溶性である限り、任意のカチオンであってよく、典型的にはアルカリ又はアルカリ土類金属イオン、最も一般的にはナトリウム又はカリウムである。pHに応じて、ホスフェートは、水素ホスフェート又は非プロトン化ホスフェートであっても、水素ホスフェートと非プロトン化ホスフェートとの組み合わせであってもよい。シトレートは、クエン酸又はシトレート塩などの任意のシトレートを含んでもよい。典型的には、使用されるpH値では、シトレートは、主に1つ以上のシトレート塩の形態であるが、シトレートの一部又は全てをクエン酸の形態で有することも可能である。シトレートの全て又は一部がシトレート塩として存在する場合、得られる塩が緩衝剤に可溶性である限り、シトレート塩の任意の対イオンを使用することができる。最も一般的には、アルカリ又はアルカリ土類金属イオン、特にナトリウム又はカリウムが、シトレート塩の対イオンとして用いられる。
【0024】
エタノールは、火落菌及び火落性菌の増殖に好適な任意の濃度で緩衝剤中に存在することができる。緩衝剤中のエタノールの典型的な濃度は、体積%の単位で、3体積%~30体積%、例えば3体積%以上、4体積%以上、5体積%以上、又は6体積%以上、且つまた例えば30体積%以下、25体積%以下、20体積%以下、15体積%以下、14体積%以下、13体積%以下、12体積%以下、11体積%以下、10体積%以下、9体積%以下、又は8体積%以下である。最も一般的には、7%のエタノールの濃度が使用される。
【0025】
メバロン酸は、火落菌及び火落性菌の増殖に好適な任意の濃度で緩衝剤中に存在することができる。典型的なメバロン酸の濃度は、0.5ppm~50ppm、例えば0.5ppm以上、1ppm以上、2ppm以上、3ppm以上、4ppm以上、且つまた例えば50ppm以下、45ppm以下、40ppm以下、35ppm以下、30ppm以下、25ppm以下、20ppm以下、15ppm以下、10ppm以下、9ppm以下、8ppm以下、7ppm以下、又は6ppm以下である。最も一般的には、5ppmの濃度が使用される。
【0026】
他の成分が緩衝剤中に含まれてもよく、ただし、特に指定がない限り、必要ではない。用いられる場合、最も一般的な他の成分は塩化ナトリウムであり、微生物、特に乳酸菌の増殖に適切なイオン強度を得るのに十分な濃度で使用することができる。用いられる場合、塩化ナトリウムの量及び濃度は、緩衝剤中の他の溶質の量に応じて変化する。栄養素、ビタミンなどもまた、緩衝剤の成分として用いることができ、ただし、特に指定がない限り、これらのいずれも必要ではない。
【0027】
薄膜培養プレートは、典型的には乾燥しているので、又はそうでない場合ごく少量の液体のみしか有していないので、薄膜培養プレートを使用するときに緩衝剤が希釈される懸念はほとんどない。したがって、寒天プレートの場合とは異なり、寒天培養プレートにおけるような水和培地による緩衝剤の希釈について懸念する必要なしに、予め作製された緩衝剤を、薄膜培養プレートで信頼して使用することができる。
【0028】
試料は、火落菌又は火落性菌を培養する当該技術分野において既知の方法に関して、当該技術分野において既知の比を含む、任意の好適な比で緩衝剤と混合することができる。典型的には、試料は、試料:緩衝剤の体積/体積比として、1:1~1:20、例えば1:5~1:15、例えば1:7~1:12で混合される。
【0029】
火落菌又は火落性菌を培養する方法又は計数する方法のいずれかにおいて、培養プレートの接種は当該技術分野における任意の手段によって行うことができ、培養プレートに接種する方法の詳細は、関連技術分野における当業者に既知である。接種を行う方法は、使用される接種混合物の体積、接種培地が配置される培養プレート上の場所などをはじめとして、使用された特定の培養プレートに応じて変化する。
【0030】
火落菌又は火落性菌を培養する方法又は計数する方法のいずれかにおいて、又はキットにおいて、薄膜培養プレートは、乳酸菌の増殖、例えばラクトバチルス属の増殖に好適な任意の薄膜培養プレートであってよく、本明細書に記載の緩衝剤が用いられる限り、火落菌又は火落性菌のために特に設計されたものである必要はない。概論すると、様々な薄膜培養プレートが当該技術分野において既知であり、いくつかの薄膜培養プレートは、例えば、国際公開第2017019345号、米国特許第4565783号、国際公開第1993012218号に、並びに当該技術分野において他で開示されている。本開示で最も一般的に使用される薄膜培養プレートは、PETRIFILM(商標)銘柄の乳酸菌(LAB)数測定用プレート(3M Company(St.Paul,MN,USA))であるが、他の薄膜培養プレートも使用することができる。使用される培養プレートの種類と無関係に、本明細書に記載の方法において、同じ培養プレートを使用して、火落菌及び火落性菌を培養又は計数することができる。
【0031】
培養する方法又は計数する方法のいずれかは、接種した培養プレートを、高温にさらす工程を、更に含んでもよい。高温は、乳酸菌の増殖、例えばラクトバチルス属の、特に火落菌及び火落性菌の増殖を促進する、任意の温度であってよい。例示的な温度は、25℃~35℃、例えば30℃である。培養プレートを、火落菌又は火落性菌の増殖を可能にするのに十分な期間、この温度にさらすことができる。例示的な期間は、2~14日間、例えば2日間以上、3日間以上、4日間以上、5日間以上、6日間以上、7日間以上、8日間以上、9日間以上、10日間以上、11日間以上、12日間以上、又は更に13日間以上である。期間はまた、14日間以下、13日間以下、12日間以下、11日間以下、10日間以下、9日間以下、8日間以下、7日間以下、6日間以下、5日間以下、4日間以下、又は更に3日間以下であってもよい。典型的な期間は、5~9日間、最も典型的には7日間である。また、使用者の要求、培養している特定の試料、使用している培養プレートなどに応じて、14日間よりも長い期間又は2日間より短い期間も、使用することができる。高温又は任意の特定の期間のいずれも、必ずしも全ての場合において必要とされるとは限らない。計数方法に関して、及び計数工程も含む、培養する方法の実施形態に関して、培養プレートにおいて存在する火落菌又は火落性菌が十分に検出可能であることにより、計数されるのに十分になる。
【0032】
計数方法の一部としての、又は計数工程も有するこれらの培養方法の一部としてのいずれかでの、計数は、当該技術分野において既知の任意の手段によって成し遂げることができる。培養プレートは、人の目を使用して、及び当業者に既知の技術により手作業でカウントして、計数することができる。あるいは、プレートリーダー、例えば(3M Company(St.Paul,MN,USA))から市販のものを使用することができ、この場合、使用者は、用いられるプレートリーダーについての説明書にしたがうことができる。用いられる培養プレートを計数することが可能な任意のプレートリーダーを、使用することができる。
【0033】
火落菌及び火落性菌の一方又は両方を培養するためのキットは、上記の培養プレートのいずれかであってよい1つ以上の培養プレート、及び本明細書に記載の緩衝剤を含んでよい。培養プレートは薄膜プレートであり、その例は、とりわけ、Petrifilm(商標)銘柄のLABプレートである。
【実施例】
【0034】
細菌株
表1に列挙したラクトバシルス株を、酒類総合研究所(広島)又は製品評価技術基盤機構(木更津)から入手し、30℃で3~7日間、SI半固体培地にて個々にインキュベートした。各培養試料を表2から選択される緩衝剤のうちの1つで階段希釈(serially diluting)することにより、個々の接種材料を調製した。連続希釈の後、最終濃度の各接種材料は、1mL当たり約1~150コロニー形成単位(cfu)のカウント値であった。
【表1】
【0035】
SI粉末培地は、日本醸造協会(東京)から入手した。
【0036】
メバロン酸を培地に含有させた。
【0037】
メバロン酸は、Sigma-Aldrich Corporation(St.Louis,MO)から入手した。
【0038】
クエン酸、Na2HPO4、及びエタノール(200プルーフ)は、富士フイルム和光純薬(大阪)から入手した。
【0039】
Na2HPO4(0.2M)及びクエン酸(0.1M)を9:11の比(体積/体積)で混合することにより、シトレート-ホスフェート緩衝剤(McIlvaine緩衝剤)を調製した。シトレート-ホスフェート緩衝剤のpHは、約4.5であった。
【0040】
接種混合物を形成するために使用した各緩衝剤の組成を、表2に記載する。
【表2】
【0041】
実施例1.
ラクトバチルス株(表1中のA~D)の各々を緩衝剤1(表2)で階段希釈することにより、単一のラクトバチルス株を含有する4つの接種混合物を調製した。各接種混合物(1mL)を、製造元の説明書にしたがって別個のPETRIFILM乳酸菌数測定用プレート(3M Company(St.Paul,MN))に添加し、30℃で、2、3、7、又は10日間、インキュベートした。接種混合物の添加の後、水和した培地は、約5のpH(堀場製作所(京都)から入手可能なpH計及びプローブによって測定)を有していた。インキュベーション期間の終了時に、コロニー形成単位(cfu)を、目視検査によりカウントした。次いで、元の(未希釈の)試料の1mL当たりcfu(cfu/mL)カウント値を、プレートからのコロニーカウント値を階段希釈の数及び体積により調整することによって計算した。結果を、各インキュベーション時点における平均cfu/mLカウント値(n=2)として表3に報告する。
【0042】
表8に、各々のラクトバチルス株での、実施例1の方法により得られたcfu/mLカウント値の、比較例1の方法により得られた相当するcfu/mLカウント値に対する計算比を、百分率として報告する(比計算の式:[(実施例1の方法により得られたcfu/mL)/(比較例1の方法により得られたcfu/mL)]×100)。
【0043】
比較例1.SI寒天プレート
ラクトバチルス株(表1中のA~D)の各々をホスフェート緩衝生理食塩水(PBS、3M Corporation(St.Paul,MN))で階段希釈することにより、単一のラクトバチルス株を含有する4つの接種混合物を調製した。5gのSI粉末培地を90mLの蒸留水及び1gの寒天粉末と混合することにより、SI寒天培地を調製した。寒天の全てがとけるまで、混合物を沸騰水浴中で加熱した。加熱後、10mLのエタノールを無菌状態で添加した。各接種混合物(1mL)を、ペトリ皿に接種した。次いで、SI寒天培地をペトリ皿に注いだ。ペトリ皿を覆い、角型ジャーにてアネロパック・ケンキ(三菱ガス化学(東京))を使用して、30℃で、2、3、7、又は10日間、嫌気的にインキュベートした。インキュベーション期間の終了時に、白色のコロニー形成単位(cfu)を、目視検査によりカウントした。次いで、元の(未希釈の)試料の1mL当たりのcfu(cfu/mL)カウント値を、プレートからのコロニーカウント値を連続希釈の数及び体積により調整することによって計算した。結果を、各インキュベーション時点における平均cfu/mLカウント値(n=2)として表4に報告する。
【0044】
実施例2.
接種混合物を調製するために、緩衝剤1の代わりに緩衝剤2を使用したことを除き、実施例1に記載の手順と同じ手順にしたがった。結果を、各インキュベーション時点における平均cfu/mLカウント値(n=2)として表5に報告する。
【0045】
実施例3.
接種混合物を調製するために、緩衝剤1の代わりに緩衝剤3を使用したことを除き、実施例1に記載の手順と同じ手順にしたがった。結果を、各インキュベーション時点における平均cfu/mLカウント値(n=2)として表6に報告する。
【0046】
実施例4.
接種混合物を調製するために、緩衝剤1の代わりに緩衝剤4を使用したことを除き、実施例1に記載の手順と同じ手順にしたがった。結果を、各インキュベーション時点における平均cfu/mLカウント値(n=2)として表7に報告する。
【0047】
実施例5.
接種混合物を調製するために、緩衝剤1の代わりに緩衝剤5を使用したことを除き、実施例1に記載の手順と同じ手順にしたがった。結果を、各インキュベーション時点における平均cfu/mLカウント値(n=2)として表8に報告する。
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】