(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】車両の運転支援装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/09 20120101AFI20241009BHJP
B60W 30/02 20120101ALI20241009BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
B60W30/09
B60W30/02
G08G1/16 C
(21)【出願番号】P 2021003023
(22)【出願日】2021-01-12
【審査請求日】2023-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝口 雅人
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-209128(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0079365(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
B62D 6/00- 6/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の前方の走行環境情報を取得する外部認識装置と、
操舵角に基づいて駆動するステアリング機構と、
各車輪を独立して制動させる制動機構と、
前記外部認識装置により前方走行環境情報に基づいて、前記ステアリング機構および前記制動機構を駆動制御する制御ユニットと、
を備え、
前記制御ユニットは、前記走行環境情報から走行路前方に障害物を検出した場合、前記障害物を回避する経路変更の起点を速度に応じた所定の前方距離にある制御目標点よりも前記自車両側とした新たな目標走行経路を設定し、フィードバック制御により算出した目標操舵角に前記ステアリング機構を駆動制御し、前記自車両にフィードバック操舵角により生じる横力を打ち消すヨーモーメントを付加するように前記制動機構を駆動制御することを特徴とする車両の運転支援装置。
【請求項2】
前記制御ユニットは、前記フィードバック操舵角が変更後の前記目標走行経路に対する目標値と一致したとき、前記自車両への前記ヨーモーメントを付加する制御を終了することを特徴とする請求項1に記載の車両の運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部認識装置で検出した前方の障害物に対して衝突を回避するため自動操舵制御を行う車両の運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両においては、外部認識装置のカメラなどで撮像した画像を解析して車両の周囲に存在する物体を検出し、衝突を回避するように自動操舵、制動制御などを行ったりする運転支援制御の技術が開示されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、前方に障害物が検出された場合にドライバを慌てさせることなく、当該ドライバに対して自車両を、そのまま通過させるか回避させるかを判断させることができるようにした運転支援装置の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、操舵による車線維持制御では安定性の観点から車速に応じた制御目標点を前方としており、障害物回避のため車線変更などの走行経路を変更する場合には 、経路変更の起点を制御目標点と同様とすることで安定した自動走行が可能となる。
【0006】
しかしながら、制御目標点を走行経路変更の起点とすると、障害物を回避するような緊急を要する経路変更時には、車両の横移動が遅くなりドライバに恐怖心などの違和感を与えてしまうという課題がある。
【0007】
これに対して、走行経路変更時における起点を制御目標点より自車側となるように手前にした場合には、制御偏差が急峻に変更されることで、操舵も急峻に変動し、車両挙動が乱れ、新たな走行経路への追従性が悪くなるという問題が生じる。
【0008】
そこで、本発明は、上記事情を鑑みて、前方の障害物を回避する走行経路変更の際に、違和感なく、滑らかに安定した挙動で障害物回避走行を実行する車両の運転支援装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様の車両の運転支援装置は、自車両の前方の走行環境情報を取得する外部認識装置と、操舵角に基づいて駆動するステアリング機構と、各車輪を独立して制動させる制動機構と、前記外部認識装置により前方走行環境情報に基づいて、前記ステアリング機構および前記制動機構を駆動制御する制御ユニットと、を備え、前記制御ユニットは、前記走行環境情報から走行路前方に障害物を検出した場合、前記障害物を回避する経路変更の起点を速度に応じた所定の前方距離にある制御目標点よりも前記自車両側とした新たな目標走行経路を設定し、フィードバック制御により算出した目標操舵角に前記ステアリング機構を駆動制御し、前記自車両にフィードバック操舵角により生じる横力を打ち消すヨーモーメントを付加するように前記制動機構を駆動制御する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、前方の障害物を回避する走行経路変更の際に、違和感なく、滑らかに安定した挙動で障害物回避走行を実行する車両の運転支援装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】車両の差動装置および制動機構を説明する概略図
【
図4】制御目標点を経路変更の起点に設定した場合の障害物回避の目標ルートを変更した際のハンドル角に対する車両の挙動を示す図
【
図5】制御目標点よりも車両側に経路変更の起点に設定した場合の障害物回避の目標ルートを変更した際のハンドル角に対する車両の挙動を示す図
【
図6】制御目標点よりも車両側に経路変更の起点に設定し、車両にヨーモーメントを付与した場合の障害物回避の目標ルートを変更した際のハンドル角に対する車両の挙動を示す図
【
図7】障害物回避の目標ルートを変更した際に実行する制御一例を示すフローチャート
【
図8】車両にヨーモーメントを付加する構成を説明する概略図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に図面を参照しながら、本発明の一態様の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明に用いる図においては、各構成要素を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、構成要素毎に縮尺を異ならせてあるものであり、本発明は、これらの図に記載された構成要素の数量、構成要素の形状、構成要素の大きさの比率、および各構成要素の相対的な位置関係のみに限定されるものではない。
【0013】
本実施形態における車両の運転支援装置としての走行制御装置10は、
図1に示すように、車外の走行環境を認識するためのユニットとして、走行環境認識ユニット11およびロケータユニット12を有する。また、走行制御装置10は、走行制御ユニット(以下、「走行_ECU」と称す)22と、エンジン制御ユニット(以下、「E/G_ECU」と称す)23と、ステアリング(操舵)制御ユニットであるパワーステアリング制御ユニット(以下、「PS_ECU」と称す)24と、ブレーキ制御ユニット(以下、「BK_ECU」と称す)25と、クラッチ制御ユニット(以下、「CL_ECU」と称す)26と、を備える。これら各制御ユニット22~26は、走行環境認識ユニット11およびロケータユニット12と共に、CAN(Controller Area Network)などの車内通信回線を介して接続されている。
【0014】
外部認識装置である走行環境認識ユニット11は、例えば、車室内前部の上部中央に固定されている。この走行環境認識ユニット11は、メインカメラ11aおよびサブカメラ11bからなる車載カメラ(ステレオカメラ)と、画像処理ユニット(IPU)11cと、走行環境認識部11dと、を有している。
【0015】
メインカメラ11aおよびサブカメラ11bは、例えば、自車両の前方の実空間をセンシングする自律センサである。これらメインカメラ11aおよびサブカメラ11bは、例えば、
図2に示すように、車幅方向中央を挟んでフロントガラス上部手前の車室内の左右対称な位置に配置され、自車両の前方領域を異なる視点からステレオ撮像する。
【0016】
IPU11cは、両カメラ11a,11bで撮像した自車両の前方の前方走行環境画像情報を所定に画像処理し、対応する対象の位置のズレ量から求めた距離情報を含む前方走行環境画像情報(距離画像情報)を生成する。走行環境認識部11dは、IPU11cから受信した距離画像情報などに基づき、自車両の周辺の道路を区画する車線区画線を求める。
【0017】
また、走行環境認識部11dは、自車両が走行する走行路(自車走行レーン)の左右を区画する車線区画線の道路曲率[1/m]、および左右車線区画線間の幅(車線幅)を求める。この道路曲率、および車線幅の求め方は種々知られているが、例えば、走行環境認識部11dは、道路曲率を前方走行環境画像情報に基づき輝度差による二値化処理にて、左右の車線区画線を認識し、最小二乗法による曲線近似式などにて左右車線区画線の曲率を所定区間毎に求める。
【0018】
また、走行環境認識部11dは、距離画像情報に対して所定のパターンマッチングなどを行い、道路に沿って存在するガードレール、縁石、および、自車両の周辺の道路上に存在する歩行者、二輪車、二輪車以外の車両などの立体物、障害物などの認識を行う。
【0019】
ここで、走行環境認識部11dにおける立体物、障害物などの認識では、例えば、立体物の種別、立体物までの距離、立体物の速度、立体物と自車両との相対速度などの認識が行われる。なお、このように車載カメラからの画像に基づいて認識した立体物を、カメラオブジェクト(カメラOBJ)と称する。
【0020】
さらに、走行環境認識部11dには、自律センサとして、複数のレーダ装置(例えば、左前側方レーダ装置11fl、右前側方レーダ装置11fr、左後側方レーダ装置11rl、および、右後側方レーダ装置11rr)が接続されている。
【0021】
左前側方レーダ装置11flおよび右前側方レーダ装置11frは、上述したカメラ11a,11bからの画像では監視することのできない自車両の左右斜め前方および側方の2つの領域を監視する。左後側方レーダ装置11rlおよび右後側方レーダ装置11rrは、上述した左前側方レーダ装置11flおよび右前側方レーダ装置11frでは監視することのできない自車両の左右側方から後方にかけての2つの領域を監視する。
【0022】
これらの各レーダ装置11fl,11fr,11rl,11rrは、ミリ波レーダ、レーザー・レーダー、ライダー(LIDER:Light Detection and Ranging)などを備えて構成されている。各レーダ装置11fl,11fr,11rl,11rrは、水平方向に発射したレーダ波(電波やレーザビームなど)の反射波を受信することにより、自車両の周囲に存在する立体物上の複数の反射点を検出して立体物を認識する。
【0023】
このように各レーダ装置11fl,11fr,11rl,11rrにおいて認識されたレーダOBJに関する情報は、走行環境認識部11dに入力される。これにより、走行環境認識部11dでは、自車両の前方に存在する先行車などのみならず、自車両の側方に存在する並走車両、交差点などにおいて自車進行路に交差する方向から自車両に接近する交差車両および自車両の後方に存在する後続車両などについても認識することが可能となっている。
【0024】
ロケータユニット12は、道路地図上の自車位置を推定するものであり、自車位置を推定するロケータ演算部13を有している。このロケータ演算部13の入力側には、自車両の前後加速度を検出する加速度センサ14、前後左右各車輪の回転速度を検出する車輪速センサ15、自車両の角速度または角加速度を検出するジャイロセンサ16、複数の測位衛星から発信される測位信号を受信するGNSS受信機17など、自車両の位置(自車位置)を推定するに際して必要とするセンサ類が接続されている。
【0025】
ロケータ演算部13には、高精度道路地図データベース19が接続されている。高精度道路地図データベース19は、HDDなどの大容量記憶媒体であり、高精度な道路地図情報(ダイナミックマップ)が記憶されている。
【0026】
すなわち、高精度度道路地図情報は、主として道路情報を構成する静的情報および準静的情報と、主として交通情報を構成する準動的情報および動的情報と、からなる4層の情報を有する。
【0027】
ロケータ演算部13は、地図情報取得部13aと、自車位置推定部13bと、を備えている。地図情報取得部13aは、例えばドライバが自動運転に際してセットした目的地に基づき、現在地から目的地までのルート地図情報を高精度道路地図データベース19に格納されている地図情報から取得する。
【0028】
また、地図情報取得部13aは、取得したルート地図情報(ルート地図上の車線データ)を自車位置推定部13bへ送信する。自車位置推定部13bは、GNSS受信機17で受信した測位信号に基づき自車両の位置座標を取得する。
【0029】
さらに、自車位置推定部13bは、取得した位置座標をルート地図情報上にマップマッチングして、道路地図上の自車位置を推定すると共に自車走行路(走行車線)を区画する左右の車線区画線を認識し、道路地図データに記憶されている走行車線中央の道路曲率を取得する。
【0030】
また、自車位置推定部13bは、トンネル内走行などのようにGNSS受信機17の感度低下により測位衛星からの有効な測位信号を受信することができない環境において、車輪速センサ15で検出した車輪速に基づき求めた車速、ジャイロセンサ16で検出した角速度、および前後加速度センサ14で検出した前後加速度に基づいて自車位置を推定する自律航法に切換えて、道路地図上の自車位置を推定する。
【0031】
さらに、自車位置推定部13bは、上述のようにGNSS受信機17で受信した測位信号或いはジャイロセンサ16などで検出した情報などに基づいて道路地図上の自車位置を推定すると、推定した道路地図上の自車位置に基づき、自車両が走行中の走行路の道路種別などを判定する。
【0032】
また、走行_ECU22の入力側には、ドライバが自動運転(走行制御)のオン/オフ切換などを行うモード切換スイッチ、ドライバによる運転操作量としての操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ、ドライバによる運転操作量としてのブレーキペダルの踏込量を検出するブレーキセンサ、ドライバによる運転操作量としてのアクセルペダルの踏込量を検出するアクセルセンサおよび自車両に作用するヨーレートを検出するヨーレートセンサなどの各種スイッチ・センサ類が接続されている(何れも図示せず)。
【0033】
走行_ECU22には、運転モードとして、手動運転モードと、走行制御のためのモードである第1の走行制御モードおよび第2の走行制御モードと、退避モードと、が設定されている。これらの各運転モードは、モード切換スイッチに対する操作状況などに基づき、走行_ECU22において選択的に切換可能となっている。
【0034】
ここで、手動運転モードとは、ドライバによる保舵を必要とする運転モードであり、例えば、ドライバによるステアリング操作、アクセル操作およびブレーキ操作などの運転操作に従って、自車両を走行させる運転モードである。
【0035】
また、第1の走行制御モードも同様に、ドライバによる保舵を必要とする運転モードである。すなわち、第1の走行制御モードは、ドライバによる運転操作を反映しつつ、例えば、E/G_ECU23、PS_ECU24、BK_ECU25などの制御を通じて、主として、先行車追従制御(ACC:Adaptive Cruise Control)と、車線中央維持(ALKC:Active Lane Keep Centering)制御および車線逸脱抑制(Active Lane Keep Bouncing)制御と、を適宜組み合わせて行うことにより、目標走行経路に沿って自車両を走行させる、いわば半自動運転モードである。
【0036】
また、第2の走行制御モードとは、ドライバによる保舵、アクセル操作およびブレーキ操作を必要とすることなく、例えば、E/G_ECU23、PS_ECU24、BK_ECU25などの制御を通じて、主として、先行車追従制御と、車線中央維持制御および車線逸脱抑制制御とを適宜組み合わせて行うことにより、目標ルート(ルート地図情報)に従って自車両を走行させる自動運転モードである。
【0037】
退避モードは、例えば、第2の走行制御モードによる走行中に、当該モードによる走行が継続不能となり、且つ、ドライバに運転操作を引き継ぐことができなかった場合(すなわち、手動運転モード、または、第1の走行制御モードに遷移できなかった場合)に、自車両を路側帯などに自動的に停止させるためのモードである。
【0038】
E/G_ECU23の出力側には、スロットルアクチュエータ35が接続されている。このスロットルアクチュエータ35は、エンジンのスロットルボディに設けられている電子制御スロットルのスロットル弁を開閉動作させるものであり、E/G_ECU23からの駆動信号によりスロットル弁を開閉動作させて吸入空気流量を調整することで、所望のエンジン出力を発生させる。
【0039】
PS_ECU24の出力側には、駆動源である電動パワステモータ28が接続されている。この電動パワステモータ28は、ステアリング(操舵)機構にモータの回転力で操舵トルクを付与するものであり、自動運転では、PS_ECU24からの駆動信号により電動パワステモータ28を制御動作させることで、現在の走行車線の走行を維持させる車線中央維持制御および自車両を隣接車線へ移動させる車線変更制御(追越制御などのための車線変更制御)が実行される。
【0040】
BK_ECU25の出力側には、ブレーキアクチュエータ29が接続されている。このブレーキアクチュエータ29は、各車輪に設けられているブレーキホイールシリンダに対して供給するブレーキ油圧を調整するもので、BK_ECU25からの駆動信号によりブレーキアクチュエータ29が駆動されると、ブレーキホイールシリンダにより各車輪に対して、制動機構のブレーキ(制動)力が発生し、強制的に減速される。
【0041】
CL_ECU26の出力側には、デファレンシャルクラッチ30が接続されている。このデファレンシャルクラッチ30は、例えば、油圧クラッチであり、CL_ECU26からの駆動信号により、左右の車輪に伝達する駆動力を調節することで、左右の車輪の回転差を吸収する。なお、デファレンシャルクラッチ30は、油圧クラッチの他、電磁クラッチとしてもよい。
【0042】
このデファレンシャルクラッチ30は、FF(前輪駆動)、FR(後輪駆動)、4WD(四輪駆動)などの駆動方式により、差動装置であるフロント/リアデファレンシャル装置の一方または両方に設けられている。
【0043】
例えば、
図3に示すように、左右の車輪21c,21dに駆動力を接続/遮断などにより駆動力を調節する2つのデファレンシャルクラッチ30a,30bが後輪差動装置のリアデファレンシャル装置31に設けられている。
【0044】
そして、パワーユニットによる駆動力は、ドライブシャフトなどからリアデファレンシャル装置31に入力され、右後輪のデファレンシャルクラッチ30aおよび左後輪のデファレンシャルクラッチ30bを介して左右の後輪21c,21dに伝達される。各デファレンシャルクラッチ30a,30bは、CL_ECU26により駆動制御され、このCL_ECU26に対する制御信号が走行_ECU22から入力される。
【0045】
ところで、制動機構は、ドライバにより操作されるブレーキペダルと接続されたマスターシリンダが接続されており(いずれも不図示)、ドライバがブレーキペダルを踏み込むとマスターシリンダにより、ブレーキアクチュエータ29を通じて、4つの車輪21a,21b,21c,21dの各ブレーキホイールシリンダ29a,29b,29c,29dにブレーキ圧が加圧され、これにより4つの車輪21a,21b,21c,21dにブレーキがかかって制動される。
【0046】
なお、ブレーキアクチュエータ29は、加圧源、減圧弁、増圧弁などを備えたハイドロリックユニットであり、BK_ECU23などからの入力信号に応じて、各ブレーキホイールシリンダ29a,29b,29c,29dに対して、それぞれ独立にブレーキ圧を導入自在となっている。
【0047】
このような、リアデファレンシャル装置31の各デファレンシャルクラッチ30a,30bおよび各ブレーキホイールシリンダ29a,29b,29c,29dの駆動制御により4つの車輪21a,21b,21c,21dのいずれかにブレーキをかけて、そのブレーキ力により車両の横力を打ち消す方向にヨーモーメントを生じさせることで安定した走行が行えるようにしている。
【0048】
以上のように構成された、本実施の形態の車両に関して、自動運転モードである第2の走行制御モードを実行中に、走行経路前方の障害物に対して衝突を回避するために経路変更を行う走行支援制御について以下に説明する。なお、走行支援制御は、自動運転モードである第2の走行制御モードに限らず、半自動運転モードである第1の走行制御モードにおいても適用することができる。
【0049】
以下に説明する走行経路の障害物は、例えば、駐車車両としてトラックとして例示している。また、例えば、
図4から
図6に示すように、ここでは、破線で示す車線区画線Lを境に片側2車線の道路を示し、自車両Mが自動運転モードである第2の走行制御モードにより、車線中央維持のため左車線を走行中に、前方にトラックTRが駐車している障害物を回避する場面を想定して説明する。
【0050】
なお、自車両Mは、走行している左車線に駐車しているトラックTRを回避するために、左車線から右車線に車線変更する状態を例示し、右車線に並走車および後続車が走行していない状態である。
【0051】
自車両Mは、走行車線である左車線中央C1に向けて、車速に対して設定距離が変化する前方の制御目標位置P1から車線中央への垂線の交点である位置を制御目標点P2として走行する。そして、自車両Mは、現在の目標走行経路である第1の目標ルートTD1の走行車線にトラックTRが駐車していることを検出すると、このトラックTRを回避するために、第1の目標ルートTD1から新たな目標走行経路である第2の目標ルートTD2を設定して、右車線中央C2に向けた車線中央維持走行に変更する。
すなわち、制御目標点は、制御目標位置P1から第2の目標ルートTD2への垂線の交点(P2)となるため、第2の目標ルートTD2に変更された場合に任意に設定されるものである。
【0052】
このとき、自車両Mは、例えば、
図4に示すように、制御目標点P2を第2の目標ルートTD2の起点P0となるように設定すると、制御目標点位置P1から制御目標点P2までの制御目標点横位置偏差距離W1が不連続とならないため(第1の目標ルートTD1と同様なため)スムーズな目標ハンドル角(操舵角)θの変更が行え、安定した挙動でトラックTRを回避走行できる。しかし、このときの自車両Mの挙動は、トラックTRに近い位置での車線変更となってしまう。
【0053】
さらに、制御目標点P2を経路変更の起点P0とすると、トラックTRが突然停車したり、カーブなどにより停車しているトラックTRの認識が遅れたりした場合に、このような緊急を要する障害物回避時の走行経路変更では、自車両Mの移動が遅くなってしまいドライバに恐怖心などの違和感を与えてしまう。
【0054】
一方、例えば、
図5に示すように、第2の目標ルートTD2の起点P0を自車両Mの手前側に設定、ここでは走行経路変更時にすると、制御目標点位置P1から制御目標点P2までの制御目標点横位置偏差距離W2が不連続かつ、制御目標点横位置偏差距離W1(
図4)よりも長くなり、制御目標点P2に向けて急峻に目標ハンドル角θが変化し、自車両Mの挙動(姿勢)が乱れて、第2の目標ルートTD2に沿った走行追従性が低下する。
【0055】
すなわち、自車両Mは、制御目標点P2に応じた目標ハンドル角θを算出するフィードバック制御により、右側に急ハンドルがきられて、これを補正するように左側に急ハンドルがきられて車体が左右に振れるような乱れた挙動の操舵制御が実行される。
【0056】
そのため、本実施の形態の走行制御装置10は、
図6に示すように、自車両Mの挙動(姿勢)が乱れないように、フィードバックハンドル(操舵)角FBθによって生じる自車両Mの急ハンドルの横力を打ち消すヨーモーメントMyを付加する制御を実行し、走行経路変更後の第2の目標ルートTD2に沿った走行追従性を向上させるようにしている。
【0057】
ここで、
図6に示す、走行経路上の障害物を車線変更により回避する自車両Mの走行制御装置10の走行_ECU22が実行する制御一例について、
図7のフローチャートの制御ルーチンに基づいて以下に説明する。
【0058】
走行制御装置10の走行_ECU22は、現在設定されている第1の目標ルートTD1に障害物が検出されているか否かを判定する(S1)。このとき、走行_ECU22は、両カメラ11a,11bで撮像した自車両Mの前方走行環境画像情報が走行環境認識部11dから入力され、その前方走行環境画像情報から走行路前方の障害物(ここでは駐車車両であるトラックTR)の検出を判定する。
【0059】
ステップS1において、走行_ECU22は、第1の目標ルートTD1に障害物を検出すると、この障害物を回避する新たな第2の目標ルートTD2を設定する(S2)。走行_ECU22は、走行車線前方にトラックTRが停車していることを検出すると、セットされている目的地に基づき、障害物(トラックTR)を回避する第2の目標ルートTD2を設定する。なお、ここでは、現在走行している走行車線(左車線)から右車線に車線変更する第2の目標ルートTD2が設定される。
【0060】
なお、制御目標点は、制御目標点位置P1から第2の目標ルートTD2への垂線の交点(P2)となるため、第2の目標ルートTD2に変更された場合に任意に設定される。
【0061】
次いで、走行_ECU22は、フィードフォワードハンドル(操舵)角FFθを算出し(S3)、第2の目標ルートTD2に対する自車位置のずれ量を検出する(S4)。走行_ECU22は、GNSS受信機17で受信した自車両Mの位置座標から第2の目標ルートTD2に向けたフィードフォワードハンドル角FFθを算出すると共に、第2の目標ルートTD2に対する自車位置のずれ量を検出する。
【0062】
次いで、走行_ECU22は、フィードバックハンドル角FBθを算出する(S5)。走行_ECU22は、検出した第2の目標ルートTD2に対する自車位置のずれ量に基づき、フィードバックハンドル角FBθを算出する。
【0063】
そして、走行_ECU22は、目標ハンドル角θを算出し、操舵制御を実行する(S6)。走行_ECU22は、フィードフォワードハンドル角FFθとフィードバックハンドル角FBθに基づき、目標ハンドル角θを算出して、この目標ハンドル角θに応じてPS_ECU24により電動パワステモータ28を制御動作させる。
【0064】
この操舵制御を実行中に、走行_ECU22は、フィードバックハンドル角FBθにより発生する横力を打ち消すヨーモーメントMyを算出し付加を実行する(S7)。
【0065】
ここでは、例えば、
図8に示すように、目標ハンドル角θによりハンドルが右に旋回する方向に駆動され、ステアリング機構により、前輪の2つの車輪21a,21bの舵が右側に切られる。
【0066】
そのため、走行_ECU22は、ブレーキアクチュエータ29を通じて、前後左側の2つのブレーキホイールシリンダ29b,29dにブレーキ圧を導入して、前後左側の車輪21b,21dに所定のブレーキ力Fb,Fdをかけて、自車両Mにフィードバックハンドル角FBθにより発生する横力を打ち消すヨーモーメントMyを付加する。
【0067】
なお、走行_ECU22は、ブレーキに加え、CL_ECU26からリアデファレンシャル装置31のデファレンシャルクラッチ30a,30bによる後輪の2つの車輪21c,21dの左右のトルク配分を可変して自車両MにヨーモーメントMyを付加してもよい。
【0068】
ところで、
図8では、FR(後輪駆動)の車両を例示しているが、FF(前輪駆動)の車両Mの場合、フロントデファレンシャルのデファレンシャルクラッチによる前輪の2つの車輪21a,21bの左右のトルク配分を可変して自車両MにヨーモーメントMyが付加され、4WD(4輪駆動)の車両の場合には、前後のデファレンシャルクラッチによる4つの車輪21a,21b,21c,21dのトルク配分を可変して自車両MにヨーモーメントMyが付加される。
【0069】
このように、自車両Mは、ヨーモーメントMyが付加されない場合、目標ハンドル角θに応じて、第2の目標ルートTD2から右側に外れる破線の走行経路Aに沿って走行してしまうため、これを抑制するためにヨーモーメントMyが付加されて第2の目標ルートTD2に略沿ったスムーズに安定して走行する。
【0070】
次いで、走行_ECU22は、フィードバックハンドル角FBθが第2の目標ルートTD2に対する目標値と一致しているか否かを判定する(S8)。すなわち、走行_ECU22は、フィードバックハンドル角FBθが第2の目標ルートTD2に対する目標値と一致していれば、制御目標ルートの変更による急峻なFBハンドル角FBθの変化の影響がなくなったため、第2の目標ルートTD2に沿って自車両Mが走行している状態と判断し、ルーチンを終了する。
一方、フィードバックハンドル角FBθが第2の目標ルートTD2に対する目標値と一致していない場合、走行_ECU22は、ステップS1に戻る。
すなわち、走行_ECU22は、急峻な変化後のFBハンドル角FBθ(
図6の点線)は、漸減されながら第2の目標ルートTD2に対するFBハンドル角FBθに近づいていく。そのため、急峻な変化後のFBハンドル角FBθと第2の目標ルートTD2に対するFBハンドル角FBθが一致(偏差が0)した場合にヨーモーメントMyを付加する制御を終了する。
【0071】
このように、走行制御装置10は、障害物回避のために現在の第1の目標ルートTD1から新たな第2の目標ルートTD2への変更時に、この第2の目標ルートTD2の起点P0を第2の制御目標点P2よりも自車両M側の手前に設定する。
【0072】
そして、走行制御装置10は、第2の目標ルートTD2の変更により第2の制御目標点横位置偏差に応じて算出されるフィードバック制御に基づいた操舵角である目標ハンドル角θが急峻に変動しても、フィードバックハンドル角FBθによって自車両Mに生じる横力を打ち消すヨーモーメントMyを付加するように制御する。
【0073】
これにより、自車両Mは、大きくハンドルが切れるが、ヨーモーメントMyが付加されることで車体の挙動が乱れることなく、第2の目標ルートTD2の追従性が向上し、安定した滑らかな走行挙動により障害物回避することができる。さらに、車体の挙動が安定するため、走行制御装置10は、変更経路の起点P0および第2の制御目標点P2を自車両Mに近くすることによる制御系が不安定となることが解消され、安定的に障害物回避制御を実行できるようになる。
【0074】
以上の説明により、車両の運転支援装置である走行制御装置10は、自車両Mが前方の障害物を回避する走行経路変更の際に、ドライバに違和感を与えることなく、滑らかに安定した挙動による障害物を回避する走行を可能とする構成となる。
【0075】
なお、上記では、障害物を回避する際に、自車両Mが走行車線から他車線に車線変更するシーンを例示したが、片側一車線などの場合に走行車線内で障害物を回避する新たな走行経路を変更するシーンにも適用できる技術である。
【0076】
また、自車両Mの走行制御装置10の各ECU22~26は、中央処理装置(CPU)、ROM、RAMなどの記憶装置などを含むプロセッサを有している。また、プロセッサの複数の回路の全て若しくは一部の構成は、ソフトウェアで実行してもよい。例えば、ROMに格納された各機能に対応する各種プログラムをCPUが読み出して実行するようにしてもよい。
【0077】
さらに、プロセッサの全部若しくは一部の機能は、論理回路あるいはアナログ回路で構成してもよく、また各種プログラムの処理を、FPGAなどの電子回路により実現するようにしてもよい。
【0078】
以上の実施の形態に記載した発明は、それらの形態に限ることなく、その他、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を実施し得ることが可能である。さらに、上記には、種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組合せにより種々の発明が抽出され得るものである。
【0079】
例えば、開示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、述べられている課題が解決でき、述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得るものである。
【符号の説明】
【0080】
10…走行制御装置
11…走行環境認識ユニット
11a…メインカメラ
11b…サブカメラ
11d…走行環境認識部
12…ロケータユニット
13…ロケータ演算部
13a…地図情報取得部
13b…自車位置推定部
14…加速度センサ
15…車輪速センサ
16…ジャイロセンサ
17…GNSS受信機
19…高精度道路地図データベース
21a,21b,21c,21d…車輪
22…走行制御ユニット(走行_ECU)
23…エンジン制御ユニット(E/G_ECU)
24…パワーステアリング制御ユニット(PS_ECU)
25…ブレーキ制御ユニット(BK_ECU)
26…クラッチ制御ユニット(CL_ECU)
28…電動パワステモータ
29…ブレーキアクチュエータ
29a,29b,29c,29d…ブレーキホイールシリンダ
30,30a,30b…デファレンシャルクラッチ
31…リアデファレンシャル装置
35…スロットルアクチュエータ
FBθ…フィードバックハンドル(操舵)角
FFθ…フィードフォワードハンドル(操舵)角
Fb,Fd…ブレーキ力
L…車線区画線
M…自車両
My…ヨーモーメント
P0…起点
P1…制御目標位置
P2…制御目標点
TD1…第1の目標ルート
TD2…第2の目標ルート
TR…トラック(障害物)
W1,W2…制御目標点横位置偏差距離
θ…目標ハンドル(操舵)角