(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】ロボットハンド
(51)【国際特許分類】
B25J 15/08 20060101AFI20241009BHJP
【FI】
B25J15/08 J
B25J15/08 B
B25J15/08 Z
(21)【出願番号】P 2021006452
(22)【出願日】2021-01-19
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123102
【氏名又は名称】宗田 悟志
(72)【発明者】
【氏名】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】衣川 潤
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】菊川 智之
【審査官】松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/029595(WO,A1)
【文献】特開2009-028859(JP,A)
【文献】実開平05-067487(JP,U)
【文献】特開2014-124711(JP,A)
【文献】特開昭63-144985(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0176346(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 - 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
掌部と、
前記掌部に取り付けられた
薄い板状の引っ掛け部と、
前記引っ掛け部と所定の間隔を開けて前記掌部に取り付けられた指部と、
少なくとも前記指部を駆動する駆動部と、
を備え、
前記指部は、
前記指部のうち先端側に位置し、被保持物を押し付ける
1つの押し付け部と、
前記指部のうち基端側に位置し、前記被保持物の回転を防ぐ
1つの回転防止部と、
を備え、
前記押し付け部と前記被保持物との接点、前記引っ掛け部と前記被保持物との接点、前記回転防止部と前記被保持物との接点の少なくとも3点により前記被保持物を保持する
ロボットハンド。
【請求項2】
前記引っ掛け部と前記指部との間に前記被保持物の端部を前記回転防止部まで差し込み、前記駆動部により前記押し付け部を前記被保持物に押し付けることにより前記被保持物を保持する
請求項1に記載のロボットハンド。
【請求項3】
前記指部は、
前記掌部と前記押し付け部との間に位置し、前記回転防止部を有する
基端側の節と、
前記回転防止部に接続される前記押し付け部を有する
先端側の節
と、の2つの節から構成され、
前記押し付け部を有する
先端側の節の長さは、前記回転防止部を有する
基端側の節の長さの1.5倍以上とした
請求項1または2に記載のロボットハンド。
【請求項4】
前記指部の駆動中に前記指部の節のうち少なくとも1つの節がロックしたとき、他方の節が回転または並進を始めて前記被保持物を押し付けることにより前記被保持物を保持する
請求項1から3のいずれか1項に記載のロボットハンド。
【請求項5】
前記引っ掛け部は、先端に1以上の切り欠き部を有し、前記引っ掛け部と前記被保持物との接点を2点以上とした
請求項1から4のいずれか1項に記載のロボットハンド。
【請求項6】
前記指部は、先端に1以上の切り欠き部を有し、前記指部と前記被保持物との接点を2点以上とした
請求項1から5のいずれか1項に記載のロボットハンド。
【請求項7】
前記押し付け部が前記被保持物を押し付ける方向から見たとき、前記押し付け部と前記被保持物との接点の位置は、前記引っ掛け部と前記被保持物との接点の位置と一致しない
請求項1から6のいずれか1項に記載のロボットハンド。
【請求項8】
前記被保持物は、皿、茶碗、丼、鍋
、フライパンを含
む食器または調理器具である
請求項1から7のいずれか1項に記載のロボットハンド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被保持物を保持するためのロボットハンドに関する。
【背景技術】
【0002】
食器や調理器具などの被保持物を保持するためのロボットハンドが提案されている(例えば、特許文献1参照)。従来のロボットハンドは、板状物品の自重によって保持状態を形成していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、深い丼などの側壁が垂直に近いものを把持するときは、自重で保持状態を形成することができなかった。
【0005】
本開示は、ロボットハンドの性能を向上させるための技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示におけるロボットハンドは、掌部と、掌部に取り付けられた薄い板状の引っ掛け部と、引っ掛け部と所定の間隔を開けて掌部に取り付けられた指部と、少なくとも指部を駆動する駆動部と、を備え、指部は、指部のうち先端側に位置し、被保持物を押し付ける1つの押し付け部と、指部のうち基端側に位置し、被保持物の回転を防ぐ1つの回転防止部と、を備え、押し付け部と被保持物との接点、引っ掛け部と被保持物との接点、回転防止部と被保持物との接点の少なくとも3点により被保持物を保持する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、ロボットハンドの性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1に係る食器洗い機が設置されたシステムキッチンの外観図
【
図6A】実施の形態1に係るロボットハンドの指部の模式図
【
図6B】指部が被保持部に接触したときの動作を模式的に示す図
【
図7B】ロボットハンド70の基節リンク94の長さl1と末節リンク95の長さl2との比rと、被保持物を把持したときの指部72の姿勢を表す変数α1と、把持の安定性を表すΔp
tip
rel・n
tipとの関係を示す図
【
図9】実施の形態1に係る食器洗い機を制御するための制御部の構成図
【
図10】ロボットハンドにより重なった食器を把持する手順を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。
【0010】
なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0011】
(実施の形態1)
以下、
図1~10を用いて、実施の形態1を説明する。
【0012】
実施の形態1に係る食器処理機は、洗浄または乾燥の対象となる皿、茶碗、丼、鍋、またはフライパンなどを含む板状の食器または調理器具である被処理物を自動的に移送するためのロボットアームを備える。ロボットアームは、被処理物を保持するためのロボットハンドを備える。ロボットハンドは、指部先方を駆動部により被処理物に押し付け、少なくとも3点で被処理物を保持する。これにより、深い丼などの側壁が垂直に近いものでも保持することができる。
【0013】
以下の説明では、食器洗い機に備えられたロボットハンドについて説明するが、ロボットハンドは食器乾燥機に備えられてもよい。また、食器や調理器具以外の被保持物を保持するためのロボットハンドについても同様である。
【0014】
[1-1.構成]
図1は、実施の形態1に係る食器洗い機が設置されたシステムキッチンの外観を示す。食器洗い機40は、システムキッチン50の内部に収納される。システムキッチン50には、ロボットアーム60およびカメラ53が設置される。ロボットアーム60は、カメラ53により撮像された画像に基づいて、後述する駆動制御部により制御される。ロボットアーム60は、システムキッチン50のワークトップ55上やシンク56内に置かれた被洗浄物8を自動で食器洗い機40の内部に載置する。また、ロボットアーム60は、食器洗い機40の内部に載置された被洗浄物8を自動で取り出す。ロボットアーム60は、食器洗い機40の筐体内に設置されてもよい。
【0015】
図2および
図3は、実施の形態1に係る食器洗い機40の断面を概略的に示す。
図2および
図3には、ロボットアーム60以外の構成を示している。食器洗い機40の本体1は、前方開口部を有する筐体であり、内部に洗浄槽2を備える。洗浄槽2は、引き出しレール等の手段(図示せず)により、本体1の前方開口部から前後に引き出し可能に支持される。洗浄槽2は、上方に開口部を有し、開口部から食器等の被洗浄物8の出し入れが可能となっている。洗浄槽2の中には、かご14が設置されている。本図の例では、1段のかご14が設置されているが、2段以上のかごが設置されてもよい。また、使用者が洗浄槽2を引き出さずに、本体1に駆動装置(図示せず)を設けて、自動で洗浄槽2を引き出す構成としてもよい。
【0016】
被洗浄物8を洗浄する際には、給水弁3を介して外部から洗浄槽2内に水または湯が供給される。洗浄槽2内に供給された洗浄水は、洗浄槽2の底部に設けられた排水孔4から排水された後、排水孔4に連通する洗浄ポンプ5により洗浄ノズル7から被洗浄物8へ噴射されて、洗浄槽2の内部を循環する。洗浄ノズル7と洗浄槽2の底部との間には、洗浄水加熱用のヒータ9が設けられる。排水孔4には、残さいを捕集するための残さいフィルタ6が設けられる。制御部12は、給水弁3や洗浄ポンプ5等の電装部品を制御する。
【0017】
かご14は、洗浄槽2が本体1から引き出された状態において、昇降手段により昇降可能に構成される。昇降手段は、洗浄槽2の底部に固着された固定プレートと、Xの字形状の昇降リンク18、19とを備える。昇降リンク18、19は、同じ長さを有し、中央の軸17にて交差するように設置される。昇降リンク18、19の少なくとも一方の下端は、固定プレートの左右端に設けられた長穴に枢支される。昇降リンク18または19の下端が長穴を摺動することにより、昇降リンク18、19の上端が昇降し、昇降リンク18、19の上に載置支持されたかご14が昇降する。
図2は、かご14が降下された状態を示し、
図3は、かご14が上昇された状態を示す。昇降手段として、ボールねじやベルト、エアシリンダのようなアクチュエータを用いてかご14を昇降させてもよい。
【0018】
かご14は、自動的に昇降可能に設けられてもよい。この場合、昇降手段は、昇降リンク18、19を昇降させるためのモータなどの駆動手段と、駆動手段を制御するための制御部とを備える。制御部は、使用者によるボタン操作などに応じてかご14を昇降させてもよいし、洗浄槽2が本体1から引き出されたことがセンサなどにより検知されたときに自動的にかご14を昇降させてもよい。かご14は、使用者により手動で昇降可能に設けられてもよい。この場合、昇降手段は、昇降リンク18、19を昇降させるための回転軸などの昇降機構と、昇降機構を動作させるためのハンドルなどの操作手段とを備える。昇降機構は、洗浄槽2が本体1から引き出されたときにバネなどにより昇降リンク18、19を昇降させる機構であってもよい。
【0019】
図4は、ロボットアーム60の詳細を示す。ロボットアーム60のアーム部62は、第1リンク62a、第2リンク62b、および第3リンク62cを含む。第3リンク62cは、洗浄槽2の幅方向(X軸方向)にハンド部63を移動させる。第2リンク62bは、高さ方向(Z軸方向)に第3リンク62cおよびハンド部63を移動させる。第1リンク62aは、洗浄槽2の奥行き方向(Y軸方向)に第2リンク62b、第3リンク62c、およびハンド部63を移動させる。ロボットアーム60のハンド部63は、第4リンク62d、第5リンク62e、および第6リンク62fを含む。第6リンク62fは、T軸(wrist Turning:手首回転)の周りでロボットハンド70を回転させる。第5リンク62eは、B軸(wrist Bending:手首曲げ)の周りで第6リンク62fおよびロボットハンド70を回転させる。第4リンク62dは、R軸(wrist Rotation:手首旋回)の周りで第5リンク62e、第6リンク62f、およびロボットハンド70を回転させる。
【0020】
図5Aは、ロボットハンド70の上面図であり、
図5Bは、ロボットハンド70の側面図である。ロボットハンド70は、掌部71と、掌部71に取り付けられた引っ掛け部80と、引っ掛け部80と所定の間隔を開けて掌部71に取り付けられた指部72と、少なくとも指部72を駆動する駆動部とを備える。指部72は、平行に2本設けられ、それぞれ、被保持物を押し付ける押し付け部74と、被保持物の回転を防ぐ回転防止部73とを備える。ロボットハンド70は、押し付け部74と被保持物との接点、引っ掛け部80と被保持物との接点、回転防止部73と被保持物との接点の少なくとも3点により被保持物を保持する。
【0021】
2本の指部72は、1つの駆動部により同時に駆動される。ロボットハンド70は、2本の指部72を有するので、被保持物を把持した際に、外乱などによる被保持物の揺れを低減させることができる。被保持物と接触する指腹には、ゴムや樹脂などの弾性体が設けられる。これにより、被保持物と指部72との間の摩擦係数を高め、把持力を高めることができるとともに、被保持物を傷つけないようにすることができる。
【0022】
引っ掛け部80は、重なった状態で載置されている被保持物を把持するために、被保持物同士の間に挿入可能な比較的薄い厚みを有する。引っ掛け部80は、被保持物の荷重がかかるので、ステンレス材などの強度の高い材質で構成されるのが望ましい。
【0023】
駆動部は、モータ75と、平歯車76と、ボールねじ77と、ボールねじナット78と、バネ79を備える。モータ75の出力トルクは、平歯車76(減速比1:1)を介して、ボールねじ77へと伝達される。減速比の高い減速機をモータ75とボールねじ77の間に設けることにより、指部72が被保持物を把持しているときに停電などで電力の供給が停止されたとしても、指部72が被保持物を離す方向に動くのを抑えることができるので、被保持物の落下を防ぐことができる。モータ75の回転運動は、ボールねじ77により直動運動に変換される。ボールねじナット78には、後述する劣駆動機構の直動リンクの一端が取り付けられており、ボールねじナット78の直動運動により駆動力がリンクに伝達されて2本の指部72が開閉する。バネ79は、後述するように、指部72の劣駆動機構の冗長自由度を制限するために取り付けられている。
【0024】
ロボットハンド70は、機構の自由度よりアクチュエータの数の方が少ない劣駆動機構を有する。これにより、被保持物の形状に合わせて指部72の各関節角が自動的に調整されるので、被保持物を指部72になじませることができる。また、各関節にアクチュエータを設けたり、被保持物との接触を検知するセンサを設けたりすることなく、指部72を被保持物になじませることができるので、ロボットハンド70の構成を簡略化することができ、ロボットハンド70のサイズや製造コストなどを低減させることができる。
【0025】
図6Aは、実施の形態1に係るロボットハンド70の指部72の模式図である。ロボットハンド70の指部72は、リンク構造を用いた劣駆動機構を有する。指部72の劣駆動機構は、4節リンク90、直動リンク91、および直動リンク91と4節リンク90をつなぐリンク92の合計6節のリンクにより構成される。4節リンク90のうち1つの関節93が固定されている。関節93から指先に向かう基節リンク94は、回転防止部73に相当する。基節リンク94から指先に向かう末節リンク95は、押し付け部74に相当する。基節リンク94と末節リンク95の間の関節に、ストッパ96とバネ97が設けられる。モータ75の回転がボールねじ77およびボールねじナット78により直線運動に変換され、直動リンク91が駆動されることにより指部72が動作する。このリンク構造は、固定された関節93の周りの回転と4節リンク90の変形の2自由度を有しているが、4節リンク90の変形はバネ97とストッパ96により制限されている。
【0026】
図6Bは、指部72が被保持部に接触したときの動作を模式的に示す。ここで、被保持物は移動せず、基節リンク94が最初に被保持物98に接触すると仮定する。まず、基節リンク94と末節リンク95が被保持物98に接触していない状態では、4節リンク90の変形はバネ97とストッパ96により制限されているため、固定された関節93の周りに4節リンク90全体が回転する(1)。次に、基節リンク94が被保持物98に接触すると、固定された関節93の周りの回転は拘束される(2)。バネ97とストッパ96が設けられたリンク間の関節に伝達されるトルクがバネ97の与圧より大きくなると、4節リンク90の変形が起こる(3)。4節リンク90の変形により、末節リンク95が被保持物98と接触するまで回転し、被保持物98に把持力が加えられた状態となる(4)。
【0027】
本実施の形態のロボットハンド70の劣駆動機構は冗長自由度を有するため、アクチュエータの動作のみによって劣駆動機構の姿勢を定めることはできず、外力により姿勢が変化しうる。被保持物を保持しているときに外力が加わると、被保持物と指部72との接触点を介して外力が劣駆動機構に加わり、4節リンク90が変形して指部72の姿勢が変化する。このような場合であっても、ロボットハンド70が被保持物を保持し続けられるような劣駆動機構の条件を下記に示す。
【0028】
図7Aは、ロボットハンド70の各部位の寸法を示す。α1、α2は、劣駆動機構の姿勢を定める変数である。劣駆動機構は、2自由度を有するため、2つの変数により姿勢が定められる。基節リンク94の長さをl1、末節リンク95の長さをl2、指部72全体の長さをl(=l1+l2)とする。外力が加わった場合、α1が変化することにより指部72の姿勢が変化する。このとき、被保持物の拘束が解けない条件は、被保持物が微小回転したときの被保持物の表面に対する末節リンク95上の接触点の相対的な微小変位Δp
tip
relと、末節リンク95の表面外側を向く法線ベクトルn
tipを用いて、下式で表される。
Δp
tip
rel・n
tip>0
【0029】
図7Bは、ロボットハンド70の基節リンク94の長さl1と末節リンク95の長さl2との比rと、被保持物を把持したときの指部72の姿勢を表す変数α1と、把持の安定性を表すΔp
tip
rel・n
tipとの関係を示す。左上の領域は、Δp
tip
rel・n
tip<0で把持が不安定な領域であり、右下の領域は、Δp
tip
rel・n
tip>0で把持が安定な領域である。更に右下の白い領域は、
図7Aに示した構造では幾何学的に実現不可能な領域である。rが小さいほど把持は安定となるが、実現可能な角度α1の範囲が狭くなり、指部72の姿勢が限定される。したがって、実現可能な角度α1の範囲が広く、かつ、実現可能な角度α1のほぼ全範囲において把持が安定である指部72を実現するために、リンク比rは、0.2~0.4であることが好ましく、0.3~0.4であることがより好ましい。すなわち、押し付け部74を有する末節リンク95の長さは、回転防止部73を有する基節リンク94の長さの1.5倍以上、4倍以下であることが好ましく、2.3倍以上、4倍以下であることがより好ましい。本発明者らは、l1=25mm、l2=43mm(リンク比r=0.368)である試作機Aと、l1=34mm、l2=34mm(リンク比r=0.5)である試作機Bを製作し、食器を把持して外力を加える試験を行った。試作機Aは、外力を加えても食器を安定的に把持することができた。試作機Bは、外力を加えた際の食器のぐらつきが大きく、食器によっては拘束を保つことができなかった。
【0030】
図8は、ロボットハンド70の上面図である。引っ掛け部80は、先端に1以上の切り欠き部81を有している。したがって、引っ掛け部80は、接点82a、82bの2点で被保持物と接触する。これにより、被保持物を把持したときに、特に丼や茶椀のような湾曲した被保持物が揺れ動くのを抑えることができる。押し付け部74も、接点83a、83bの2点で被保持物と接触するので、被保持物を把持したときに、特に丼や茶椀のような湾曲した被保持物が揺れ動くのを抑えることができる。押し付け部74は、3本以上設けられてもよい。また、押し付け部74の先端に1以上の切り欠き部が設けられてもよい。この場合、押し付け部74は1本であってもよい。引っ掛け部80は、2本以上設けられてもよい。この場合、それぞれの引っ掛け部80は、切り欠き部を有してもよいし、有していなくてもよい。
【0031】
押し付け部74が被保持物を押し付ける方向から見たとき、押し付け部74と被保持物との接点83a、83bの位置は、引っ掛け部80と被保持物との接点82a、82bの位置と一致しない。これにより、特に丼や茶椀のような湾曲した被保持物が揺れ動くのを更に抑えることができるので、より確実に被保持物を保持することができる。
【0032】
図9は、実施の形態1に係る食器洗い機を制御するための制御部の構成を示す。制御部12は、マイクロコンピュータ、マイクロコントローラ、集積回路などのハードウェアにより実現される。
【0033】
制御部12は、工程制御部23、駆動制御部24、およびメモリ25を備える。これらの構成は、ハードウエア的には、任意のコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSIなどにより実現され、ソフトウエア的にはメモリにロードされたプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、またはハードウエアとソフトウエアの組合せなど、いろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0034】
工程制御部23は、食器洗い機40による洗浄運転を制御する。工程制御部23は、食器洗い機40の本体1に設けられたボタンやスイッチなどにより構成される操作部22から使用者による指示を受け付け、指示にしたがって洗浄運転を制御する。工程制御部23は、洗浄工程、すすぎ工程、および乾燥工程を連続的に実行してもよいし、いずれかの工程のみを実行してもよいし、いずれか2以上の工程の組合せを任意の順序で実行してもよい。
【0035】
駆動制御部24は、ロボットアーム60を制御する。駆動制御部24は、カメラ53により撮像された画像に基づいて、アーム部62およびハンド部63の移動を制御し、ロボットハンド70により被洗浄物8を把持させる。
【0036】
[1-2.動作]
以上のように構成された食器洗い機40について、以下その動作、作用を説明する。
【0037】
使用者が洗浄槽2を食器洗い機40の本体1から前方に引き出し、かご14を上方に移動させると、駆動制御部24は、ロボットアーム60を上方に移動させる。このとき、駆動制御部24は、ロボットアーム60の少なくとも一部が本体1および洗浄槽2の外部に出るように、ロボットアーム60を移動するとともに、アーム部62を展開する。駆動制御部24は、ロボットアーム60を制御して、ワークトップ55上などにある被洗浄物8を把持して洗浄槽2の内部に載置する。被洗浄物8の移動が終了すると、駆動制御部24は、アーム部62を元に戻すとともに、ロボットアーム60を元の位置に戻す。使用者は、洗浄槽2内に洗剤を投入し、洗浄槽2を本体1に収納して洗浄を開始させる。ロボットアーム60は、洗浄槽2とともに本体1に収納される。
【0038】
工程制御部23は、給水弁3を開いて洗浄槽2内に水または湯を供給する。洗浄槽2内に供給された洗浄水は、残さいフィルタ6を通過して排水孔4から洗浄ポンプ5に吸い込まれ、洗浄ポンプ5より洗浄槽2の内底部に設けられた洗浄ノズル7に供給される。洗浄ノズル7から噴射された洗浄水は、被洗浄物8を洗浄した後、再び排水孔4に戻るという経路で循環する。この際、被洗浄物8から脱落した残さい等は、洗浄水とともに残さいフィルタ6に流入し、この残さいフィルタ6を通過できない大きさの残さいは、残さいフィルタ6に捕集される。
【0039】
洗浄後に被洗浄物8を取り出す際には、使用者が洗浄槽2を食器洗い機の本体1から前方に引き出し、かご14を上方に移動させると、駆動制御部24は、ロボットアーム60を上方に移動させる。駆動制御部24は、ロボットアーム60を制御して、かご14から被洗浄物8を取り出してワークトップ55上などに載置する。被洗浄物8の移動が終了すると、駆動制御部24は、アーム部62を元に戻すとともに、ロボットアーム60を元の位置に戻す。
【0040】
図10は、ロボットハンド70により重なった食器を把持する手順を示す。まず、ロボットハンド70を食器99に近づけ(1)、重なった状態の食器99の縁と縁の隙間に引っ掛け部80を差し込む(2)。つづいて、指部72を閉じることにより、食器99の縁を把持する(3)。つづいて、ロボットハンド70全体を持ち上げることにより、重なった状態の食器から一番上の食器99を1枚ずつ取り出す(4)。食器洗い機40から食器を取り出してワークトップ55上に重ねて置く動作も、上記と逆の手順で行うことができる。
【0041】
[1-3.効果等]
以上のように、本実施の形態において、ロボットハンドは、掌部と、掌部に取り付けられた引っ掛け部と、引っ掛け部と所定の間隔を開けて掌部に取り付けられた指部と、少なくとも指部を駆動する駆動部と、を備え、指部は、被保持物を押し付ける押し付け部と、被保持物の回転を防ぐ回転防止部と、を備え、押し付け部と被保持物との接点、引っ掛け部と被保持物との接点、回転防止部と被保持物との接点の少なくとも3点により被保持物を保持する。これにより、側壁が垂直に近い被保持物なども、より確実に保持することができる。
【0042】
また、本実施の形態において、ロボットハンドは、引っ掛け部と指部との間に被保持物の端部を回転防止部まで差し込み、駆動部により押し付け部を被保持物に押し付けることにより被保持物を保持する。これにより、重なった状態の被保持物なども、より確実に保持することができる。
【0043】
また、本実施の形態において、指部は、回転防止部を有する節と、押し付け部を有する節の少なくとも2つの節から構成され、押し付け部を有する節の長さは、回転防止部を有する節の長さの1.5倍以上とする。これにより、広い角度範囲で安定的に被保持物を保持することができる。
【0044】
また、本実施の形態において、指部の駆動中に指部の節のうち少なくとも1つの節がロックしたとき、他方の節が回転または並進を始めて被保持物を押し付けることにより被保持物を保持する。これにより、被保持物の形状に指部をなじませることができるので、より確実に被保持物を保持することができる。
【0045】
また、本実施の形態において、引っ掛け部は、先端に1以上の切り欠き部を有し、引っ掛け部と被保持物との接点を2点以上とする。これにより、特に丼や茶椀のような湾曲した被保持物が揺れ動くのを抑えることができる。
【0046】
また、本実施の形態において、指部は、先端に1以上の切り欠き部を有し、指部と被保持物との接点を2点以上とする。これにより、特に丼や茶椀のような湾曲したで被保持物が揺れ動くのを抑えることができる。
【0047】
また、本実施の形態において、押し付け部が被保持物を押し付ける方向から見たとき、押し付け部と被保持物との接点の位置は、引っ掛け部と被保持物との接点の位置と一致しない。これにより、特に丼や茶椀のような湾曲した被保持物が揺れ動くのをより確実に抑えることができる。
【0048】
また、本実施の形態において、被保持物は、皿、茶碗、丼、鍋、またはフライパンを含む板状の食器または調理器具である。これにより、ロボットハンドを食器洗浄または乾燥するための食器処理機において利用することができる。
【0049】
(他の実施の形態)
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施の形態1を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用できる。また、上記実施の形態1で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。
【0050】
そこで、以下、他の実施の形態を例示する。
【0051】
実施の形態1では、指部72のみが駆動され、引っ掛け部80は駆動されなかったが、別の例では、引っ掛け部80のみが駆動されてもよいし、指部72と引っ掛け部80の双方が駆動されてもよい。
【0052】
実施の形態1では、指部72の駆動部は劣駆動機構を有していたが、別の例では、押し付け部74と回転防止部73の駆動が独立して制御されてもよい。
【0053】
なお、上述の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本開示は、被保持物を保持するためのロボットハンドに利用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 本体
2 洗浄槽
3 給水弁
4 排水孔
5 洗浄ポンプ
6 フィルタ
7 洗浄ノズル
8 被洗浄物
9 ヒータ
12 制御部
17 軸
18 昇降リンク
22 操作部
23 工程制御部
24 駆動制御部
25 メモリ
40 食器洗い機
50 システムキッチン
53 カメラ
55 ワークトップ
56 シンク
60 ロボットアーム
62 アーム部
62a 第1リンク
62b 第2リンク
62c 第3リンク
62d 第4リンク
62e 第5リンク
62f 第6リンク
63 ハンド部
70 ロボットハンド
71 掌部
72 指部
73 回転防止部
74 押し付け部
75 モータ
76 平歯車
77 ボールねじ
78 ボールねじナット
79 バネ
80 引っ掛け部
81 切り欠き部
82a 接点
83a 接点
90 4節リンク
91 直動リンク
92 リンク
93 関節
94 基節リンク
95 末節リンク
96 ストッパ
97 バネ
98 被保持物
99 食器