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特許7569248振れ止めローラユニットおよび金属管ライニング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】振れ止めローラユニットおよび金属管ライニング装置
(51)【国際特許分類】
   B23Q 1/76 20060101AFI20241009BHJP
   C23C 24/08 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
B23Q1/76 T
C23C24/08 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021049993
(22)【出願日】2021-03-24
(65)【公開番号】P2022148348
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2024-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000208695
【氏名又は名称】第一高周波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】羽石 亮平
(72)【発明者】
【氏名】松本 俊也
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-181587(JP,A)
【文献】特開2005-46983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q1/00-3/18
C23C24/00-24/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転対称ワークの外周面に沿って配置される少なくとも第1ローラ、第2ローラ、第3ローラが、前記回転対称ワークの外周面に接することで、回転対称ワークの軸回転において生ずる軸振れを防止する振れ止めローラユニットであって、
前記第1ローラ、第2ローラ、第3ローラが、それぞれ第1アーム、第2アーム、第3アームに個別に取り付けられて、第1ローラを頂点として第2ローラおよび第3ローラの位置が二等辺三角形を形成する状態で、前記回転対称ワークの外周面に接して配置され、
前記第1ローラが前記第1アームを介して、第1昇降アクチェータによって、前記回転対称ワークに対して昇降可能に構成されると共に、
前記第2ローラおよび第3ローラが、前記第2アームおよび第3アームのそれぞれの基端部を支持する共通の支持部材を駆動する第2昇降アクチェータによって、前記回転対称ワークに対して昇降可能に構成されていることを特徴とする振れ止めローラユニット。
【請求項2】
前記第1昇降アクチェータは、第1アームの基端部を昇降させると共に、第1アームと共に昇降するアーム駆動アクチェータの動力を受けて、第1アームの基端部を回動軸として、前記第1ローラの位置を、前記回転対称ワークの上部位置に接するように、もしくは上部位置から円弧状に退避動作が可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載された振れ止めローラユニット。
【請求項3】
前記第2アームおよび第3アームの基端部にはそれぞれ支持軸が取り付けられることで、共通の支持部材に対してそれぞれ回動可能に取り付けられ、
前記第2アームおよび第3アームの支持軸には、アーム駆動用の歯車がそれぞれ取り付けられて、それぞれの前記歯車に噛み合う共通のラック部材が備えられ、
前記ラック部材の移動により、第2アームおよび第3アームに取り付けられた第2ローラおよび第3ローラの間隔が調整可能に構成したことを特徴とする請求項1に記載された振れ止めローラユニット。
【請求項4】
前記回転対称ワークとして金属管を用い、軸回転する金属管の内面に粉末金属を溶融付着させて金属管内に金属層を形成する金属管ライニング装置であって、
前記金属管の長手方向に沿って、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の振れ止めローラユニットが複数配列されると共に、金属管の長手方向に沿って移動することで、金属管を順次加熱する加熱手段が備えられ、
前記加熱手段の移動に伴なって、前記第1ないし第3ローラを金属管への接触位置から順次退避させると共に、加熱手段の通過に伴い、前記第1ないし第3ローラを前記金属管への接触位置に、移動復帰させることを特徴とする金属管ライニング装置。
【請求項5】
前記加熱手段における金属管の長手方向に沿う移動に伴ない、複数の振れ止めローラユニットのうちのいずれか1つのユニットにおける第1ないし第3ローラが、前記金属管への接触位置から退避状態に設定されることを特徴とする請求項4に記載された金属管ライニング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転対称ワークの軸回転において生ずる軸振れを防止させる振れ止めローラユニットと、この振れ止めローラユニットを用いた金属管ライニング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属管の特性改善や寿命の延長などを図ることを目的にして、金属管の内面に金属層を形成させる手段が採用される。
この場合、金属管の管内に例えば粉末金属を投入し、金属管を軸回転させながら、その長手方向に沿って金属管を順次加熱することにより、金属管の内面に粉末金属を溶融付着させるライニング施工が知られている。
前記した管内に金属ライニングを施すことについては、本出願人からも過去に提案がなされており、これは例えば特許文献1などに開示されている。
【0003】
前記したように金属管の内面に粉末金属によるライニングを施すに際しては、長尺の金属管を軸回転させつつ、金属管の長手方向に沿って順次加熱処理が施される。このために金属管に軸振れが生ずることで、管内への金属ライニングの施工に不具合を発生させるという問題を招く。
そこで、軸回転するシャフトや金属管の軸振れを防ぐために、シャフトや金属管の外周面に複数のローラを配置した固定振れ止めについての提案がなされており、これは特許文献2に開示されている。
【0004】
この特許文献2に開示された固定振れ止めは、機械加工工具により機械加工される回転対称のシャフトなどの軸振れを防止しようとするものであり、シャフトなどの外周面に接して転動する複数のローラが備えられる。これら各ローラはリンク機構を介して一つの作動ピストンの駆動力を受けて、径方向に移動可能に構成され、異なる直径を有する工作物をそれぞれ保持することができる工夫がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公平5-33307号公報
【文献】特開2016-209994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、この発明に係る振れ止めローラユニットは、例えば金属管ライニング装置において好適に用いることができ、高速回転する長尺の金属管(ワーク)の外周面に接して金属管の軸振れを防ぐ少なくとも3つのローラが備えられる。
そして、長尺の金属管に沿った複数か所(例えば、40cm間隔ごと)に、同一構成の振れ止めローラユニットがそれぞれ配置され、金属管の長さ方向の全長にわたって、金属管の高速回転による軸振れを防ぐ構成が採用される。
【0007】
したがって、ライニング施工される金属管の外径(ワークサイズ)が変わる場合には、各ユニット毎の振れ止めローラの位置を調整する必要があり、各ローラ位置の調整に多くの時間が割かれるために、これが作業者の負担となっている。
また、ワークを高速回転させると共に、ワークを加熱することで、ワークの内周面に金属ライニングを施す場合には、ワークの加熱器具(火口や加熱用コイル等)の移動に伴い、加熱器具が位置する部分の振れ止めローラを、ワークから大きく退避させる退避設定制御が必要となる。
さらに、加熱直後におけるワークの径方向の熱膨張に対応して、加熱直後に位置するユニットの各ローラを、ワークサイズに応じて設定した位置から、一時的に僅かに(1mm程度)離れる位置に配置設定するなどのサイズ微調整制御も必要となる。
【0008】
したがってこの発明は、金属管等の外径(ワークサイズ)に応じた各ユニットのローラ位置の調整に、柔軟に且つ即座に対応することができると共に、各ローラをワークサイズに応じて設定した位置から僅かに離れた位置に配置設定すること、またワークに沿った加熱器具等の移動に伴い、各ローラを大きく退避させる動作を容易になし得る振れ止めローラユニットおよびこれを用いた金属管ライニング装置を提供することを主要な目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決するためになされたこの発明に係る振れ止めローラユニットは、回転対称ワークの外周面に沿って配置される少なくとも第1ローラ、第2ローラ、第3ローラが、前記回転対称ワークの外周面に接することで、回転対称ワークの軸回転において生ずる軸振れを防止する振れ止めローラユニットであって、前記第1ローラ、第2ローラ、第3ローラが、それぞれ第1アーム、第2アーム、第3アームに個別に取り付けられて、第1ローラを頂点として第2ローラおよび第3ローラの位置が二等辺三角形を形成する状態で、前記回転対称ワークの外周面に接して配置され、前記第1ローラが前記第1アームを介して、第1昇降アクチェータによって、前記回転対称ワークに対して昇降可能に構成されると共に、前記第2ローラおよび第3ローラが、前記第2アームおよび第3アームのそれぞれの基端部を支持する共通の支持部材を駆動する第2昇降アクチェータによって、前記回転対称ワークに対して昇降可能に構成されていることを特徴とする。
【0010】
この場合、好ましい実施の形態においては、前記第1昇降アクチェータは、第1アームの基端部を昇降させると共に、第1アームと共に昇降するアーム駆動アクチェータの動力を受けて、第1アームの基端部を回動軸として、前記第1ローラの位置を、前記回転対称ワークの上部位置に接するように、もしくは上部位置から円弧状に退避動作が可能に構成される。
【0011】
さらに、前記第2アームおよび第3アームの基端部にはそれぞれ支持軸が取り付けられることで、共通の支持部材に対してそれぞれ回動可能に取り付けられ、前記第2アームおよび第3アームの支持軸には、アーム駆動用の歯車がそれぞれ取り付けられて、それぞれの前記歯車に噛み合う共通のラック部材が備えられ、前記ラック部材の移動により、第2アームおよび第3アームに取り付けられた第2ローラおよび第3ローラの間隔が調整可能に構成される。
【0012】
一方、この発明に係る金属管ライニング装置は、回転対称ワークとして金属管を用い、軸回転する金属管の内面に粉末金属を溶融付着させて金属管内に金属層を形成する金属管ライニング装置であって、前記金属管の長手方向に沿って、前記した振れ止めローラユニットが複数配列されると共に、金属管の長手方向に沿って移動することで、金属管を順次加熱する加熱手段が備えられる。
加えて、前記加熱手段の移動に伴なって、前記第1ないし第3ローラを金属管への接触位置から順次退避させると共に、加熱手段の通過に伴い、前記第1ないし第3ローラを前記金属管への接触位置に、移動復帰させる動作が伴われる。
【0013】
この場合、前記加熱手段における金属管の長手方向に沿う移動に伴ない、複数の振れ止めローラユニットのうちのいずれか1つのユニットにおける第1ないし第3ローラが、前記金属管への接触位置から退避状態に設定されるように動作することが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
前記したこの発明に係る振れ止めローラユニットによると、第1ローラを頂点として第2ローラおよび第3ローラの位置が二等辺三角形を形成する状態で、回転対称ワークの外周面に接して配置される。
そして、第1ローラは第1アームを介して第1昇降アクチェータおよびアーム駆動アクチェータによって、位置設定がなされる。また、第2ローラおよび第3ローラは、第2アームおよび第3アームを介して第2昇降アクチェータおよびアーム駆動用の歯車に噛み合うラック部材の作用により、位置設定がなされる。
【0015】
これにより、第1~第3ローラに対して、ワークサイズに応じた最適なローラ位置を設定するサイズ設定制御、またワークの一部の熱膨張に対応してサイズ設定がなされたローラ位置から僅かに外側方向にローラを移動させるサイズ微調整制御、ワークから各ローラを大きく退避させる退避設定制御を行うことができる。
【0016】
また、この発明に係る金属管ライニング装置によると、金属管(ワーク)の長手方向に沿って複数の前記した振れ止めローラユニットが配列され、例えばワークサイズに応じた各ローラ位置を設定するサイズ設定制御を同期して行うことができる。
そして、軸回転するワークの長手方向に沿う加熱手段の移動に伴なって、ローラの退避設定制御がローラユニットごとに順次行なわれる。この時、ローラが退避したユニット以外の各ユニットに備えたローラによって、長尺なワークの軸振れを効果的に阻止することができるので、安定した品質を保障することができる金属管ライニング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】この発明に係る振れ止めローラユニットの全体構成を示した機構図である。
図2】ワークに対する各ローラ位置の設定状況の例を示した模式図であり、(A)はワークサイズに応じたサイズ設定状態を、(B)は、ワークの一部の熱膨張に対応するサイズ微調整状態を、(C)はワークから大きく離れる退避設定状態を示す。
図3】外径の大きなワークに対応したサイズ設定状態を示した機構図である。
図4】外径の大きなワークに対応した退避設定状態を示した機構図である。
図5】外径の小さなワークに対応したサイズ設定状態を示した機構図である。
図6】この発明に係る金属管ライニング装置の一例を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明に係る振れ止めローラユニットおよび金属管ライニング装置について、図に示す実施の形態に基づいて説明する。
先ず、図1は振れ止めローラユニットについての全体構成を示しており、図1においては各ローラの動きを仮想線で示している。
【0019】
この振れ止めローラユニットには、回転対称ワークW1の外周面に沿って配置される第1ローラR1、第2ローラR2、第3ローラR3が備えられ、第1ローラR1を頂点として、第2ローラR2および第3ローラR3の位置が、二等辺三角形を形成する状態で、前記した回転対称ワークW1の外周面に接して配置される。これにより、回転対称ワークW1の軸回転において生ずる軸振れが防止できるように作用する。
【0020】
回転対称ワークW1は、一例として後で説明する金属管ライニング装置において施工対象とされる長尺の金属管であり、この金属管は両端部においてそれぞれ回転駆動チャックに支持されて、高速で回転駆動(軸回転)を受ける。
なお、この発明に係る振れ止めローラユニットは、金属管ライニング装置における回転対称ワークW1への利用に限定されるものではなく、これ以外の回転対称ワークに対する軸回転の振れ止めとして利用することも可能である。
【0021】
図1に示すように第1ローラR1は、第1アーム1の先端部に回転可能に取り付けられており、第1アーム1は例えばチャンネル部材等を組み合わせて、その中央部で概ねへ字状に屈曲された状態で構成されている。
そして、第1アーム1の基端部には回動軸2が取り付けられていて、この回動軸2は回転対称ワークW1の一側面側に配置された第1昇降アクチェータ3の作動子4において支軸されている。これにより、第1アーム1は回動軸2に対して回動可能に支持されている。
【0022】
また、第1昇降アクチェータ3の前記作動子4には、第1プレート5と、この第1プレート5に直交する第2プレート6が取り付けられており、第2プレート6にはアーム駆動アクチェータ7が装着されている。
なお、アーム駆動アクチェータ7は、その長手方向の中央部が軸体8を介して第2プレート6に回動可能に取り付けられており、アーム駆動アクチェータ7の作動子9は、概ねへ字状に屈曲された前記した第1アーム1の折り曲げ中央部付近に連結されている。
【0023】
したがって、第1アーム1は第1昇降アクチェータ3によってアーム駆動アクチェータ7と共に昇降し、かつアーム駆動アクチェータ7の動力を受けて、第1アーム1はその基端部における回動軸2を中心にして回動する。
これにより、第1アーム1の先端部に配置された第1ローラR1の位置を、第1昇降アクチェータ3によって上下に移動可能にすると共に、アーム駆動アクチェータ7の駆動によって、第1ローラR1が前記回転対称ワークW1の上部位置に接するように、もしくは上部位置から円弧状に退避可能となるように構成されている。
【0024】
一方、回転対称ワークW1の下部には、第2ローラR2および第3ローラR3の位置を制御する駆動機構が配置されている。
すなわち、第2ローラR2および第3ローラR3は、第2アーム11および第3アーム12の先端部において回転可能に個別に取り付けられている。そして、第2アーム11と第3アーム12のそれぞれの基端部には、それぞれ支持軸13および14が取り付けられており、各支持軸13および14は共通の支持部材15において支持されている。
これにより、第2ローラR2および第3ローラR3は、第2アーム11と第3アーム12をそれぞれ介して、互いの間隔が変更可能になされている。
【0025】
また、第2アーム11の支持軸13および第3アーム12の支持軸14には、アーム駆動用の第1歯車16および第2歯車17がそれぞれ取り付けられている。なお、この実施の形態においては、第1歯車16および第2歯車17は、それぞれ同一形態の平歯車が用いられている。
そして、第2アーム11および第3アーム12等を搭載した支持部材15は、第2昇降アクチェータ18によって、回転対称ワークW1に向かって昇降可能となるように構成されている。
【0026】
さらに、支持部材15と回転対称ワークW1との間には、アーム駆動用の第1歯車16および第2歯車17に対してそれぞれ噛み合う共通のラック部材19が備えられている。
このラック部材19は、第1歯車16および第2歯車17に噛み合うことができる直線状に配列された歯が、両外側に平行して配置されている。そして、ラック部材19の上下方向の位置調整を行うことで、第1歯車16および第2歯車17に対する噛み合いのタイミングが変化し、第2アーム11および第3アーム12に取り付けられた第2ローラR2および第3ローラR3の間隔が調整可能となるように作用する。
すなわち、前記ラック部材19は、ワークW1と支持部材15との間で、位置設定が可能なラック昇降アクチェータ(図示せず。)によって、上下方向の位置が設定されるように構成されている。
【0027】
なお、図1に示す符号16′および符号17′は、前記した第1歯車16および第2歯車17が、第2昇降アクチェータ18の駆動によって、回転対称ワークW1に向かって上昇した状態を示している。
この上昇によって各歯車16′および17′が、予め定めた位置に配置されたラック部材19に噛み合い、ラック部材19に対するさらなる各歯車16′,17′の上昇により、各歯車16′,17′が互いに逆方向に回動し、これにより第2ローラR2および第3ローラR3は、互いに接近する方向に移動する。
【0028】
したがって、ラック部材19の上下方向の位置を予め定めておくことで、取り扱うワークW1のサイズ(外径寸法)に応じて、第2ローラR2および第3ローラR3の最適な位置(間隔)を設定することが可能となる。
そして、第1ローラR1は、第1昇降アクチェータ3を動作させて、回動軸2を上下動させることで、第1ローラR1を前記した二等辺三角形の頂点位置に配置することができ、これによりワークW1のセンターの上部を第1ローラR1によって押さえることができる。したがって、第1~第3ローラR1,R2,R3は、回転対称ワークW1の外周面に接したサイズ設定状態になされ、ワークW1の軸回転において生ずる軸振れが防止できるように作用する。
【0029】
なお、図2(A)はサイズ設定状態におけるワークW1に対する第1ローラR1、第2ローラR2、第3ローラR3の配置状態の一例を模式図で示している。
このサイズ設定状態において、アーム駆動アクチェータ7の駆動により、第1ローラR1の位置を、回動軸2を支点として円弧状に跳ね上げると共に、第2昇降アクチェータ18の駆動により第2ローラR2および第3ローラR3の位置を降下させることで、第1ローラR1、第2ローラR2、第3ローラR3が、ワークW1から大きく離れる退避設定状態にすることができる。図2(C)は退避設定状態おける第1ローラR1、第2ローラR2、第3ローラR3の動きの様子を示した模式図である。
さらに図2(B)は、ワークW1の一部の熱膨張に対応して、サイズ設定状態としたローラ位置から、僅かに外側方向にローラを移動させたサイズ微調整制御を行った様子を模式図で示しており、これはこの発明に係る金属管ライニング装置の説明と共に、後で説明する。
【0030】
図3および図4は、外径の大きなワークW1に対応してなされるサイズ設定制御および退避設定制御の各例を示した機構図であり、図1に記載した各部に相当する部分をそれぞれ同一符号で示している。したがって、各部の詳細な説明は省略する。
図3および図4に示す例においては、図1に示すワークW1に比較して、ワークサイズ(外径)がより大きなものを対象としている。したがって、図3に示すサイズ設定制御においては、第1昇降アクチェータ3の作動子を上昇させることで、第1アーム1を支える回動軸2を上部位置にシフトさせている。これにより、第1ローラR1は、外径の大きなワークW1のセンター上部を押さえる位置に配置される。
【0031】
図3に示すサイズ設定制御においては、第2昇降アクチェータ18も動作し、第2ローラR2を備える第2アーム11、第3ローラR3を備える第3アーム13等を搭載した支持部材15を、ワークW1に向かって上昇させる。
この場合においては、予め定められた位置に配置されたラック部材19に対して、第1歯車16および第2歯車17が僅かに噛み合った状態で、第2ローラR2および第3ローラR3がワークW1にそれぞれ接する。
したがって、図3に示すように、第1ローラR1を頂点として第2ローラR2および第3ローラR3の位置が、二等辺三角形を形成する状態で回転対称ワークW1の外周面に接して配置され、前記したサイズ設定状態になされる。
【0032】
図4に示す退避設定制御においては、第1昇降アクチェータ3は動作させずに、アーム駆動アクチェータ7における作動子9に牽引動作を与える。これにより、作動子9は第1アーム1の折り曲げ中央部付近を牽引し、第1アーム1を回動軸2を支点として跳ね上げる。したがって、第1アーム先端部に配置された第1ローラR1は、円弧状の軌跡をもってワークW1から上に向かって退避する。
【0033】
一方、第2昇降アクチェータ18は支持部材15の位置を引き下げる方向に駆動する。これにより、ラック部材19に対する第1歯車16および第2歯車17の噛み合いは外れ、第2および第3アーム11,12に取り付けられた第2ローラR2と第3ローラR3は、左右に開いた状態になされる。
そして、第2ローラR2と第3ローラR3は左右に開いた状態で、第2昇降アクチェータ18の引き続く駆動により、ワークW1から下方向に退避する。
【0034】
図5は、外径の小さなワークW1に対応してなされるサイズ設定制御の例を示した機構図であり、図1に記載した各部に相当する部分をそれぞれ同一符号で示している。したがって、各部の詳細な説明は省略する。
図5に示す例においては、図1に示すワークW1に比較して、ワークサイズ(外径)がより小さなものが用いられている。したがって、図5に示すサイズ設定制御においては、第1昇降アクチェータ3の作動子4を降下させて、第1アーム1を支える回動軸2を下方向にシフトさせている。これにより、第1ローラR1は、外径の小さなワークW1のセンター上部を押さえる位置に配置される。
【0035】
一方、第2昇降アクチェータ18は、第2ローラR2を備える第2アーム11、第3ローラR3を備える第3アーム13等を搭載した支持部材15を、ワークW1に向かって上昇させる。
これにより、予め定められた位置に配置されたラック部材19に対して、第1歯車16および第2歯車17が噛み合い、第2ローラR2および第3ローラR3を互いに接近させつつ上昇する。
支持部材15のさらなる上昇により、第2ローラR2および第3ローラR3は、さらに接近した状態でワークW1に接する。これにより、図5に示すように、第1ローラR1を頂点として第2ローラR2および第3ローラR3の位置が、二等辺三角形を形成する状態で回転対称ワークW1の外周面に配置され、前記したサイズ設定状態になされる。
【0036】
図5に示すサイズ設定状態によると、第2ローラR2および第3ローラR3の間隔が、過度に狭く設定されている。これはラック部材19の位置を図に示す位置より若干上部に配置制御することで、第2ローラR2と第3ローラR3の上昇に対するラック部材19の噛み合いのストロークが小さくなり、これにより第1~第3ローラR1~R3を、より正三角形に近似した状態に位置させることができる。
なお、図5に示す外径の小さなワークW1に対する退避設定制御については、図4に基づく動作と同様であり、その説明は省略する。
【0037】
図6は、以上説明した振れ止めローラユニットを、金属管ライニング装置に利用した例を模式図で示している。
この金属管ライニング装置は、ライニング施工される金属管(回転対称ワーク)W1の両端部が、それぞれチャック21に装着されて、それぞれのチャック21を介して、ワークW1は水平方向のステージ上において回転駆動を受ける。
【0038】
ワークW1内には金属粉体22が投入されており、ワークW1の一方から他方に向かって移動する加熱手段としての高周波加熱コイル23よる電磁誘導を受けて、ワークW1は長手方向に沿って順次加熱を受ける。
これにより、ワークW1内の金属粉体22は溶融し、回転するワークW1の内周面に、溶融金属によるライニングが施工される。
【0039】
この金属管ライニング装置においては、ワークW1の長手方向に沿ってほぼ等間隔をもって、図1および図3図5に示した振れ止めローラユニットU1~Unが配置されており、これら振れ止めローラユニットU1~Unにより、軸回転されるワークW1の軸振れを抑制するように構成されている。
これにより、ワークW1の長手方向の全体にわたって軸振れが抑制され、ワークW1に対して金属粉末による正常なライニング施工を果たすことができる。
【0040】
この金属管ライニング装置においては、ライニング施工されるワークW1のサイズ(外径)に応じて、図3または図5に基づいてすでに説明したサイズ設定制御がなされる。
そして、ライニング施工時においては、ワークW1の一方から他方に向かう加熱コイル23の移動に伴って、加熱コイル23が位置する部分の振れ止めローラユニットのみが、図4に基づいてすでに説明した退避設定制御を受ける。すなわち、図6に示す例においては、加熱コイル23が位置する部分の振れ止めローラユニットUn-1が退避設定状態(図4)になされる。
【0041】
一方、この種の金属管ライニング装置においては、加熱コイル23により加熱を受けたワークW1は、局所的に熱膨張を受けて外径が僅かに拡張する。
したがって加熱コイル23が通過した直後の振れ止めローラユニット、すなわち図6に示す振れ止めローラユニットUn-2においては、即座にワークサイズに応じたサイズ設定状態に戻さずに、ワークサイズに応じて設定したローラ位置から、僅かに離れる位置に設定するサイズ微調整制御がなされる。
【0042】
これには、図3に示す第1昇降アクチェータ3の駆動により、第1ローラR1を僅かに上方へ移動させると共に、第2昇降アクチェータ18の駆動により、第2ローラR2および第3ローラR3を僅かに下方へ移動させる駆動が伴われる。
図2(B)は、サイズ微調整制御を行った様子を模式図で示しており、第1~第3の各ローラR1~R3は、熱膨張前のワークW1に対して、僅かに外周方向に離れる位置(G=1mm程度)に設定される。
このサイズ微調整制御を行うことにより、ワークW1の局所的な熱膨張に対応することができ、ライニング施工されるワークW1の振れ止めを、効果的に抑制することが可能となる。
【0043】
なお、前記した金属管ライニング装置においては、加熱コイル23によってワークW1の一部を順次加熱する操作が行われ、これにより、前記したワークW1の局所的な熱膨張によるサイズ微調整制御が伴われる。
しかし、加熱コイル23が用いられることのないライニング装置や、軸回転する工作物等を複数の振れ止めローラユニットによって抑える工作機械等においては、前記したサイズ微調整制御は必要とせず、したがって一部の部材を共通化して全体構成を簡素化させることができる。
【0044】
この場合には、第1昇降アクチェータ3によって昇降される回動軸2、および回転対称ワークW1と支持部材15との間に配置されるラック部材19は、図6に示す各振れ止めローラユニットU1~Unの間において、長尺状に形成して軸方向に共通化して用いることができる。これによると、長手方向が水平状態に配置された回動軸2およびラック部材19の位置を移動制御することで、全ての振れ止めローラユニットU1~Unにおける前記したサイズ設定制御を同時に行うことができる。
これによると、多数の振れ止めローラユニットを利用するライニング装置や工作機械等において、動作の信頼性をより向上させることに寄与できる。
【符号の説明】
【0045】
R1 第1ローラ
R2 第2ローラ
R3 第3ローラ
W1 回転対称ワーク(金属管)
U1~Un 振れ止めローラユニット
1 第1アーム
2 回動軸
3 第1昇降アクチェータ
4 作動子
5 第1プレート
6 第2プレート
7 アーム駆動アクチェータ
8 軸体
9 作動子
11 第2アーム
12 第3アーム
13 支持軸
14 支持軸
15 支持部材
16 第1歯車
17 第2歯車
18 第2昇降アクチェータ
19 ラック部材
21 チャック
22 ライニング用粉体(金属粉)
23 加熱手段(加熱コイル)
図1
図2
図3
図4
図5
図6