IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 浜松ホトニクス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-イオン検出器及び質量分析装置 図1
  • 特許-イオン検出器及び質量分析装置 図2
  • 特許-イオン検出器及び質量分析装置 図3
  • 特許-イオン検出器及び質量分析装置 図4
  • 特許-イオン検出器及び質量分析装置 図5
  • 特許-イオン検出器及び質量分析装置 図6
  • 特許-イオン検出器及び質量分析装置 図7
  • 特許-イオン検出器及び質量分析装置 図8
  • 特許-イオン検出器及び質量分析装置 図9
  • 特許-イオン検出器及び質量分析装置 図10
  • 特許-イオン検出器及び質量分析装置 図11
  • 特許-イオン検出器及び質量分析装置 図12
  • 特許-イオン検出器及び質量分析装置 図13
  • 特許-イオン検出器及び質量分析装置 図14
  • 特許-イオン検出器及び質量分析装置 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】イオン検出器及び質量分析装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/02 20060101AFI20241009BHJP
   H01J 43/08 20060101ALI20241009BHJP
   H01J 43/18 20060101ALI20241009BHJP
   H01J 43/24 20060101ALI20241009BHJP
   H01J 40/06 20060101ALI20241009BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20241009BHJP
   H01J 49/26 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
H01J49/02 500
H01J43/08
H01J43/18
H01J43/24
H01J40/06
H01J37/244
H01J49/26
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021050697
(22)【出願日】2021-03-24
(65)【公開番号】P2021177480
(43)【公開日】2021-11-11
【審査請求日】2024-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2020081386
(32)【優先日】2020-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】小林 浩之
(72)【発明者】
【氏名】近藤 淳一
【審査官】松平 佳巳
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-049110(JP,A)
【文献】特開昭62-044946(JP,A)
【文献】特開平04-233151(JP,A)
【文献】特開昭62-201385(JP,A)
【文献】特開平05-080157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/02
H01J 43/08
H01J 43/18
H01J 43/24
H01J 40/06
H01J 37/244
H01J 49/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射するイオンを検出するイオン検出器であって、
前記イオンの入射を受けて荷電粒子を放出する第一ダイノードと、
負電位が与えられると共に、前記第一ダイノードからの前記荷電粒子の入射を受けて二次電子を出射する第二ダイノードと、
前記第二ダイノードからの前記二次電子が入射する電子入射面を有し、前記二次電子を光に変換するシンチレータと、
前記電子入射面に配置されている導電層と、
前記シンチレータからの光を検出する光電子増倍管と、
を備え
前記イオンが正イオンである場合に、前記第一ダイノードは、負電位が与えられて前記正イオンを二次電子に変換し、前記第二ダイノードは、前記第一ダイノードからの前記二次電子を前記シンチレータの前記電子入射面に入射させる、イオン検出器。
【請求項2】
前記シンチレータは、負電位が与えられ、
前記第二ダイノードの負電位の大きさは、前記シンチレータの負電位の大きさより大きい、請求項に記載のイオン検出器。
【請求項3】
前記第二ダイノードの負電位の大きさは、前記第一ダイノードの負電位の大きさと、前記シンチレータの負電位の大きさとの間の大きさである、請求項1又は2に記載のイオン検出器。
【請求項4】
入射するイオンを検出するイオン検出器であって、
前記イオンの入射を受けて荷電粒子を放出する第一ダイノードと、
負電位が与えられると共に、前記第一ダイノードからの前記荷電粒子の入射を受けて二次電子を出射する第二ダイノードと、
前記第二ダイノードからの前記二次電子が入射する電子入射面を有し、前記二次電子を光に変換するシンチレータと、
前記電子入射面に配置されている導電層と、
前記シンチレータからの光を検出する光電子増倍管と、
を備え
前記シンチレータは、負電位が与えられ、
前記第二ダイノードの負電位の大きさは、前記シンチレータの負電位の大きさより大きい、イオン検出器。
【請求項5】
前記イオンが負イオンである場合に、前記第一ダイノードは、正電位が与えられて前記負イオンを正イオンに変換し、前記第二ダイノードは、前記第一ダイノードからの前記正イオンを二次電子に変換し、前記二次電子を前記シンチレータの前記電子入射面に入射させる、請求項に記載のイオン検出器。
【請求項6】
前記イオンが正イオンである場合に、前記第二ダイノードの負電位の大きさは、前記第一ダイノードの負電位の大きさと、前記シンチレータの負電位の大きさとの間の大きさである、請求項に記載のイオン検出器。
【請求項7】
前記光電子増倍管は、カソード電位が与えられる側管を有し、
前記導電層は、前記側管と電気的に接続される、請求項1~6のいずれか一項に記載のイオン検出器。
【請求項8】
入射するイオンを検出するイオン検出器であって、
前記イオンの入射を受けて荷電粒子を放出する第一ダイノードと、
負電位が与えられると共に、前記第一ダイノードからの前記荷電粒子の入射を受けて二次電子を出射する第二ダイノードと、
前記第二ダイノードからの前記二次電子が入射する電子入射面を有し、前記二次電子を光に変換するシンチレータと、
前記電子入射面に配置されている導電層と、
前記シンチレータからの光を検出する光電子増倍管と、
を備え
前記光電子増倍管は、カソード電位が与えられる側管を有し、
前記導電層は、前記側管と電気的に接続される、イオン検出器。
【請求項9】
前記イオンが負イオンである場合に、前記第一ダイノードは、正電位が与えられて前記負イオンを正イオンに変換し、前記第二ダイノードは、前記第一ダイノードからの前記正イオンを二次電子に変換し、前記二次電子を前記シンチレータの前記電子入射面に入射させる、請求項に記載のイオン検出器。
【請求項10】
前記第二ダイノードを覆うカバーを更に備え、
前記カバーは、前記第一ダイノードからの前記荷電粒子を通過させる第一通過口と、前記第二ダイノードからの前記二次電子を通過させる第二通過口と、を有する、請求項1~のいずれか一項に記載のイオン検出器。
【請求項11】
前記第一ダイノードは、前記第二ダイノードと、前記第二通過口と、前記シンチレータの前記電子入射面とを含む仮想平面から離間して配置され、
前記第一ダイノードからの前記荷電粒子は、前記仮想平面に交差する方向から前記第二ダイノードに入射する、請求項10に記載のイオン検出器。
【請求項12】
入射するイオンを検出するイオン検出器であって、
前記イオンの入射を受けて荷電粒子を放出する第一ダイノードと、
負電位が与えられると共に、前記第一ダイノードからの前記荷電粒子の入射を受けて二次電子を出射する第二ダイノードと、
前記第二ダイノードからの前記二次電子が入射する電子入射面を有し、前記二次電子を光に変換するシンチレータと、
前記電子入射面に配置されている導電層と、
前記シンチレータからの光を検出する光電子増倍管と、
前記第二ダイノードを覆うカバーと、
を備え
前記カバーは、前記第一ダイノードからの前記荷電粒子を通過させる第一通過口と、前記第二ダイノードからの前記二次電子を通過させる第二通過口と、を有し、
前記第一ダイノードは、前記第二ダイノードと、前記第二通過口と、前記シンチレータの前記電子入射面とを含む仮想平面から離間して配置され、
前記第一ダイノードからの前記荷電粒子は、前記仮想平面に交差する方向から前記第二ダイノードに入射する、イオン検出器。
【請求項13】
負電位が与えられると共に、前記第一通過口を覆うメッシュを更に備える、請求項10~12のいずれか一項に記載のイオン検出器。
【請求項14】
前記シンチレータは、光を出射する出射面を有し、
前記光電子増倍管は、前記出射面からの光が入射される光入射窓を有し、
前記出射面は、前記光入射窓と近接して配置される、請求項1~13のいずれか一項に記載のイオン検出器。
【請求項15】
試料をイオン化するイオン化部と、
前記イオン化部からの前記イオンのうち検出対象のイオンのみを通過させる質量分析部と、
前記質量分析部からの前記検出対象のイオンを検出する、請求項1~14のいずれか一項に記載の前記イオン検出器と、
を備える、質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン検出器及び質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
正イオン又は負イオンを検出するイオン検出器が知られている(たとえば、特許文献1及び特許文献2参照)。特許文献1に開示されたイオン検出器は、正イオンの衝突によって二次電子を放出するダイノードと、負イオンの衝突によって二次電子を放出するダイノードと、二次電子が入射するシンチレータと、シンチレータによって発生した光を検出する光電子増倍管と、を備えている。特許文献2に開示されたイオン検出器は、負イオンの入射を受けて正イオンを発生する第1変換ダイノードと、第1変換ダイノードからの正イオンを電子に変換する第2変換ダイノードと、第2変換ダイノードからの電子を検出する二次電子増倍管と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭63-276862号公報
【文献】特開平4-233151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
イオン検出器の長寿命化を図るためには、少なくとも二つの構成の採用が望まれる。すなわち、イオン検出器が、シンチレータと、当該シンチレータで発せられた光を検出する光電子増倍管とを備えている構成と、シンチレータに与えられる電位が低く設定され得る構成とが採用されることが望まれる。したがって、検出対象のイオンが正イオン又は負イオンのいずれであっても、検出対象のイオンを電子に変換し、シンチレータによって当該電子から変換された光を光電子増倍管が検出する構成がイオン検出器に採用されていることが望ましい。
イオン検出器の長寿命化を図るためには、別の構成の採用も望まれる。すなわち、イオン検出器が、長期間の使用に耐えうるダイオードを備えている構成が望まれる。したがって、検出対象のイオンが正イオン又は負イオンのいずれであっても、検出対象のイオンを電子に変換し、変換された電子をダイオードが検出する構成がイオン検出器に採用されていることが望ましい。
特許文献1は、シンチレータと光電子増倍管とを開示しているが、検出対象の負イオンから変換された正イオンを電子に変換する構成を開示していない。特許文献2は、シンチレータと光電子増倍管とを開示していない。特許文献1及び特許文献2のいずれも、イオン検出器としてのダイオードを開示していない。
【0005】
本発明の第一~第三の態様は、長寿命化されたイオン検出器を提供することを目的とする。本発明の第四の態様は、長寿命化されたイオン検出器を備える質量分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一の態様に係るイオン検出器は、入射するイオンを検出するイオン検出器であって、イオンの入射を受けて荷電粒子を放出する第一ダイノードと、負電位が与えられると共に、第一ダイノードからの荷電粒子の入射を受けて二次電子を出射する第二ダイノードと、第二ダイノードからの二次電子が入射する電子入射面を有し、二次電子を光に変換するシンチレータと、電子入射面に配置されている導電層と、シンチレータからの光を検出する光電子増倍管と、を備えている。
【0007】
上記第一の態様によれば、イオン検出器は、シンチレータと、当該シンチレータで発せられた光を検出する光電子増倍管とを備えている。イオン検出器は、第一及び第二ダイノードを備えている。第一ダイノードは、イオンの入射を受けて荷電粒子を放出する。第二ダイノードは、第一ダイノードからの荷電粒子の入射を受けて二次電子を出射する。第二ダイノードからの二次電子は、シンチレータに入射する。したがって、シンチレータは、与えられる電位が低い状態においても、入射した二次電子を光に変換する。シンチレータに与えられる電位が低く設定され得るので、イオン検出器の長寿命化が図られている。
【0008】
上記第一の態様では、シンチレータは、光を出射する出射面を有していてもよい。光電子増倍管は、出射面からの光が入射される光入射窓を有していてもよい。出射面は、光入射窓と近接して配置されていてもよい。
この場合、シンチレータから光電子増倍管に入射する光の光学損失が低減される。したがって、光電子増倍管に与えられる電位が低い場合でも、光電子増倍管での光検出感度が確保される。
【0009】
上記第一の態様では、イオンが正イオンである場合に、第一ダイノードは、負電位が与えられて正イオンを二次電子に変換してもよく、第二ダイノードは、第一ダイノードからの二次電子をシンチレータの電子入射面に入射させてもよい。
この場合、イオン検出器に入射した正イオンは、第一及び第二ダイノードによって、二次電子に変換される。変換された二次電子は、シンチレータに入射する。したがって、シンチレータは、与えられる電位が低い状態においても、入射した二次電子を確実に光に変換する。
【0010】
上記第一の態様では、イオンが負イオンである場合に、第一ダイノードは、正電位が与えられて負イオンを正イオンに変換してもよく、第二ダイノードは、第一ダイノードからの正イオンを二次電子に変換し、二次電子をシンチレータの電子入射面に入射させてもよい。
この場合、イオン検出器に入射した負イオンは、第一及び第二ダイノードによって、二次電子に変換される。第二ダイノードからの二次電子が、シンチレータに入射する。したがって、シンチレータは、与えられる電位が低い状態においても、入射した二次電子を確実に光に変換する。
【0011】
上記第一の態様では、シンチレータは、負電位が与えられてもよい。第二ダイノードに与えられる負電位の大きさは、シンチレータに与えられる負電位の大きさより大きくてもよい。
この場合、シンチレータには、第二ダイノードに与えられる負電位の大きさよりも、低い電位が与えられる。
【0012】
上記第一の態様では、イオンが正イオンである場合に、第二ダイノードに与えられる負電位の大きさは、第一ダイノードに与えられる負電位の大きさと、シンチレータに与えられる負電位の大きさとの間の大きさであってもよい。
この場合、第二ダイノードには、第一ダイノードに与えられる負電位の大きさよりも、低い電位が与えられる。
【0013】
上記第一の態様では、光電子増倍管は、カソード電位が与えられる側管を有していてもよい。導電層は、側管と電気的に接続されていてもよい。
この場合、シンチレータの電位は、光電子増倍管のカソード電位と略同じである。一の電源によって、シンチレータと光電子増倍管とに電力が供給される。電源の数が削減される。
【0014】
上記第一の態様は、第二ダイノードを覆うカバーを備えていてもよい。カバーは、第一ダイノードからの荷電粒子を通過させる第一通過口と、第二ダイノードからの二次電子を通過させる第二通過口と、を有していてもよい。
この場合、第二ダイノードから出射される二次電子が、より確実にシンチレータに向かう。
【0015】
上記第一の態様は、負電位が与えられると共に、第一通過口を覆うメッシュを備えていてもよい。
この場合、メッシュは、二次電子が第一通過口を通過して第二ダイノードから第一ダイノードに向かうことを抑制する。第二ダイノードから出射される二次電子が、より確実にシンチレータに向かう。
【0016】
上記第一の態様では、第一ダイノードは、第二ダイノードと、第二通過口と、シンチレータの電子入射面とを含む仮想平面から離間して配置されていてもよい。第一ダイノードからの荷電粒子は、仮想平面に交差する方向から第二ダイノードに入射してもよい。
この場合、第二ダイノードから出射される二次電子は、第一ダイノードに向かい難い。第二ダイノードから出射される二次電子が、より確実にシンチレータに向かう。
【0017】
第二の態様に係るイオン検出器は、入射するイオンを検出するイオン検出器であって、イオンの入射を受けて荷電粒子を放出する第一ダイノードと、負電位が与えられると共に、第一ダイノードからの荷電粒子の入射を受けて二次電子を出射する第二ダイノードと、第二ダイノードからの二次電子が入射する電子入射面を有し、入射した二次電子を検出するダイオードと、を備えている。
【0018】
上記第二の態様によれば、イオン検出器は、ダイオードを備えている。第一ダイノードは、イオンの入射を受けて荷電粒子を放出する。第二ダイノードは、第一ダイノードからの荷電粒子の入射を受けて二次電子を出射する。第二ダイノードからの二次電子は、ダイオードに入射する。ダイオードは、長期間の使用に耐え得るので、イオン検出器の長寿命化が図られている。
【0019】
上記第二の態様では、イオンが正イオンである場合に、第一ダイノードは、負電位が与えられて正イオンを二次電子に変換してもよく、第二ダイノードは、第一ダイノードからの二次電子を電子入射面に入射させてもよい。
この場合、イオン検出器に入射した正イオンは、第一及び第二ダイノードによって、二次電子に変換される。変換された二次電子は、ダイオードに入射する。ダイオードは、入射した二次電子を確実に検出して電気信号を出力する。
【0020】
上記第二の態様では、イオンが負イオンである場合に、第一ダイノードは、正電位が与えられて負イオンを正イオンに変換してもよく、第二ダイノードは、第一ダイノードからの正イオンを二次電子に変換し、二次電子を電子入射面に入射させてもよい。
この場合、イオン検出器に入射した負イオンは、第一及び第二ダイノードによって、二次電子に変換される。第二ダイノードからの二次電子が、ダイオードに入射する。ダイオードは、入射した二次電子を確実に検出して電気信号を出力する。
【0021】
上記第二の態様は、第二ダイノードを覆うカバーを更に備えていてもよい。カバーは、第一ダイノードからの荷電粒子を通過させる第一通過口と、第二ダイノードからの二次電子を通過させる第二通過口と、を有してもよい。
この場合、第二ダイノードから出射される二次電子が、より確実にダイオードに向かう。
【0022】
上記第二の態様は、負電位が与えられると共に、第一通過口を覆うメッシュを更に備えていてもよい。
この場合、メッシュは、二次電子が第一通過口を通過して第二ダイノードから第一ダイノードに向かうことを抑制する。第二ダイノードから出射される二次電子が、より確実にダイオードに向かう。
【0023】
上記第二の態様では、第一ダイノードは、第二ダイノードと、第二通過口と、電子入射面とを含む仮想平面から離間して配置されていてもよい。第一ダイノードからの荷電粒子は、仮想平面に交差する方向から第二ダイノードに入射してもよい。
この場合、第二ダイノードから出射される二次電子は、第一ダイノードに向かい難い。第二ダイノードから出射される二次電子が、より確実にダイオードに向かう。
【0024】
上記第二の態様は、ダイオードが配置される基板と、ダイオードを駆動する駆動回路と、を備えていてもよい。駆動回路は、一端がダイオードのアノードに電気的に接続され、かつ、他端が接地されている電気抵抗素子を含んでもよい。電気抵抗素子は、ダイオード及び基板から離間していてもよい。
この場合、電気抵抗素子が、ダイオード及び基板から離間するように配置されるので、電気抵抗素子に生じる熱が、ダイオードに伝わり難い。したがって、ダイオードのゲインは低下し難い。
【0025】
第三の態様に係るイオン検出器は、入射するイオンを検出するイオン検出器であって、イオンの入射を受けて荷電粒子を放出する第一ダイノードと、負電位が与えられると共に、第一ダイノードからの荷電粒子の入射を受けて二次電子を出射する第二ダイノードと、第二ダイノードからの二次電子が入射する電子入射面を有し、入射した二次電子を検出する検出部と、を備えている。
【0026】
上記第三の態様によれば、イオン検出器は、入射した二次電子を検出する検出部を備えている。第一ダイノードは、イオンの入射を受けて荷電粒子を放出し、第二ダイノードは、第一ダイノードからの荷電粒子の入射を受けて二次電子を出射する。第二ダイノードからの二次電子は、検出部に入射する。検出部は、長期間の使用に耐え得る構造を成し得るので、イオン検出器の長寿命化が図られている。
【0027】
第四の態様に係る質量分析装置は、試料をイオン化するイオン化部と、イオン化部からのイオンのうち検出対象のイオンのみを通過させる質量分析部と、質量分析部からの検出対象のイオンを検出する上記イオン検出器と、を備えている。
上記第四の態様によれば、質量分析装置は、長寿命化されたイオン検出器を備えている。したがって、質量分析装置の長寿命化が図られている。
【発明の効果】
【0028】
本発明の上記第一~第三の各態様は、長寿命化されたイオン検出器を提供する。本発明の上記第四の態様は、長寿命化されたイオン検出器を備える質量分析装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、一実施形態に係る質量分析装置の構成を示す概略図である。
図2図2は、イオン検出器を示す斜視図である。
図3図3は、支持体を示す図である。
図4図4は、シンチレータ及び光電子増倍管の断面構成を示す図である。
図5図5は、第二ダイノード及びカバーの断面構成を示す図である。
図6図6は、イオン検出器を示す図である。
図7図7は、イオン検出器の第一変形例を示す図である。
図8図8は、イオン検出器の第二変形例を示す図である。
図9図9は、イオン検出器の第二変形例を示す図である。
図10図10は、イオン検出器の第三変形例を示す図である。
図11図11は、イオン検出器の第四変形例を示す図である。
図12図12は、ダイオードの駆動回路の等価回路を示す図である。
図13図13は、ダイオードの駆動回路の等価回路を示す図である。
図14図14は、ダイオードの駆動回路の等価回路を示す図である。
図15図15は、イオン検出器の第五変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0031】
図1図5を参照して、本実施形態に係る質量分析装置1の構成を説明する。図1は、本実施形態に係る質量分析装置を示す概略図である。図2は、イオン検出器を示す斜視図である。図3は、支持体を示す図である。図4は、シンチレータ及び光電子増倍管の断面構成を示す図である。図5は、第二ダイノード及びカバーの断面構成を示す図である。
【0032】
図1に示されるように、質量分析装置1は、試料導入部2、イオン化部3、質量分析部4、イオン検出器5、及び信号処理部6を備えている。試料導入部2は、試料P1をイオン化部3に導入する。イオン化部3は、試料導入部2から導入された試料P1をイオン化する。イオン化部3は、イオン化した試料P2を質量分析部4に導入する。質量分析部4は、たとえば、四重極型アナライザーを有しており、検出対象のイオンP3のみを通過させる。検出対象のイオンP3は、イオン検出器5に入射する。イオン検出器5は、入射したイオンP3を検出する。信号処理部6は、イオン検出器5からの検出信号SG1を処理する。
【0033】
質量分析装置1は、筐体7を備えている。筐体7は、イオン化部3、質量分析部4、及びイオン検出器5を収容する。本実施形態では、筐体7は、真空チャンバである。質量分析装置1は、電源体8を備えている。電源体8は、イオン検出器5に電力EP1を供給する。電源体8は、たとえば、複数の電源の集合体である。
【0034】
図2及び図3に示されるように、イオン検出器5は、第一ダイノード10、第二ダイノード20、検出部30、及び支持体60を備えている。検出部30は、シンチレータ40及び光電子増倍管50を有している。第一ダイノード10は、検出対象のイオンP3の入射を受けて荷電粒子P4を放出する。第二ダイノード20は、第一ダイノード10からの荷電粒子P4の入射を受けて二次電子P5を出射する。検出部30は、第二ダイノード20から入射した二次電子P5を検出する。本実施形態では、荷電粒子P4は、正イオン又は二次電子である。図2では、支持体60の図示が省略されている。
【0035】
検出部30では、シンチレータ40が、第二ダイノード20からの二次電子P5を光に変換する。シンチレータ40は、変換した光を光電子増倍管50に向けて出射する。光電子増倍管50は、シンチレータ40からの光を検出する。光電子増倍管50は、複数の電極58を有している。複数の電極58のうち、いずれかの電極が、光電子増倍管50の検出信号SG1を信号処理部6に伝える(図1を参照)。複数の電極58のうち、他のいずれかの電極が、電源体8からの電力を検出部30に伝える。シンチレータ40と光電子増倍管50とは、互いに離間して配置されていてもよく、互いに一体的に結合された構成を有していてもよい。シンチレータ40は、たとえば、有機材料又は無機材料からなる。有機材料は、たとえば、プラスチックである。無機材料は、たとえば、酸硫化ガドリニウム、酸化亜鉛、又は窒化ガリウムである。
【0036】
検出部30は、第二方向D2で第二ダイノード20と離間している。第二ダイノード20からの二次電子P5がより確実にシンチレータ40に入射するように、検出部30と第二ダイノード20との距離は比較的小さい。検出部30と第二ダイノード20との第二方向D2での距離は、たとえば、4mmである。図2及び図3では、イオンP3、荷電粒子P4及び二次電子P5が移動する各経路の一例が、実線及び破線で示されている。イオンP3、荷電粒子P4及び二次電子P5それぞれは、矢印で模式的に示されている。イオンP3、荷電粒子P4及び二次電子P5それぞれを示す矢印は、各矢印を図面上で見やすくするために、上述した経路から離間して示されている。
【0037】
支持体60は、第一ダイノード10、第二ダイノード20、及び検出部30を支持する。支持体60は、進入口61が形成された基部62と、基部62と連結される支持部64,66,68と、を有している。本実施形態では、第一ダイノード10と、第二ダイノード20及び検出部30とは、第一方向D1で、基部62を挟んで互いに反対側に位置している。基部62は、たとえば、ステンレス鋼からなる。基部62の電位は、グラウンド電位に設定される。
【0038】
支持部64は、第一ダイノード10を基部62に支持している。第一ダイノード10は、第一方向D1に荷電粒子P4を放出するように支持部64に支持されている。進入口61を通過した荷電粒子P4は、第二ダイノード20に向かう。支持部64は、絶縁材料を含む。支持部64は、第一ダイノード10と基部62とを電気的に絶縁している。
【0039】
支持部66は、第二ダイノード20を基部62に支持している。第二ダイノード20は、進入口61を通過した荷電粒子P4が入射するように支持部66に支持されている。第二ダイノード20は、荷電粒子P4の入射を受けて二次電子P5を出射する。支持部66は、絶縁材料を含む。支持部66は、第二ダイノード20と基部62とを電気的に絶縁している。第一ダイノード10と第二ダイノード20との第一方向D1での距離は、たとえば、20~40mmである。本実施形態では、第一ダイノード10と第二ダイノード20との第一方向D1での距離は、23mm又は35mmである。
【0040】
支持部68は、検出部30を基部62に支持している。第二ダイノード20からの二次電子P5は、第二方向D2に進み、検出部30のシンチレータ40に入射する。シンチレータ40は、二次電子P5が入射する面が第二方向D2に向くように、配置されている。支持部68は、絶縁材料を含む。支持部68は、検出部30と基部62とを電気的に絶縁している。支持部64,66,68に含まれる絶縁材料は、たとえば、セラミックス又はPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)である。
【0041】
イオン検出器5では、入射する検出対象のイオンP3が正イオンであるか負イオンであるかに応じて、第一ダイノード10は、電源体8によって、負又は正の電位を与えられる。検出対象のイオンP3が正イオンである場合には、第一ダイノード10は、電源体8によって、負電位を与えられる。負電位を与えられた第一ダイノード10は、正イオンを引き込む。第一ダイノード10は、引き込んだ正イオンを二次電子に変換する。変換された二次電子は、第二ダイノード20に入射する。検出対象のイオンP3が負イオンである場合には、第一ダイノード10は、電源体8によって、正電位を与えられる。正電位を与えられた第一ダイノード10は、負イオンを引き込み、引き込んだ負イオンを正イオンに変換する。変換された正イオンは、第二ダイノード20に入射する。イオンP3としての正イオン及び負イオンは、第一ダイノード10の表面10aに対して、ほぼ垂直に入射する。第一ダイノード10から放出される荷電粒子P4は、第一ダイノード10の表面10aから、ほぼ垂直方向に放出される。第一ダイノード10は、たとえば、金属材料からなる電極である。本実施形態では、第一ダイノード10は、アルミニウム、ステンレス鋼、又はCu-Be合金からなる。第一ダイノード10は、たとえば、板状を呈している。
【0042】
第二ダイノード20は、電源体8によって、負電位を与えられる。検出対象のイオンP3が正イオンである場合には、第二ダイノード20は、第一ダイノード10からの二次電子をシンチレータ40に向けて出射する。検出対象のイオンP3が負イオンである場合には、第二ダイノード20は、第一ダイノード10からの正イオンを引き込む。第二ダイノード20は、引き込んだ正イオンを二次電子P5に変換する。変換された二次電子P5は、シンチレータ40に入射する。第二ダイノード20は、たとえば、金属材料からなる電極である。本実施形態では、第二ダイノード20は、アルミニウム、ステンレス鋼、又はCu-Be合金からなる。第二ダイノード20は、たとえば、板状を呈している。
【0043】
シンチレータ40は、電源体8によって、負電位を与えられる。イオンP3が正イオンである場合、上述したように、第一ダイノード10によって正イオンから変換された二次電子が、シンチレータ40に入射する。シンチレータ40は、第一ダイノード10からの二次電子を光に変換する。イオンP3が負イオンである場合、上述したように、第二ダイノード20によって正イオンから変換された二次電子P5が、シンチレータ40に入射する。シンチレータ40は、第二ダイノード20から入射した二次電子P5を光に変換する。
【0044】
図4に示されるように、イオン検出器5において、シンチレータ40は、電子入射面42と出射面44とを有している。イオン検出器5は、電子入射面42に配置されている導電層46を有している。導電層46には、電源体8によって負電位が与えられる。第二ダイノード20からの二次電子P5は、導電層46に入射し、導電層46を通過する。導電層46を通過した二次電子P5は、シンチレータ40の電子入射面42に入射し、電子入射面42からシンチレータ40内に進入する。シンチレータ40は、二次電子P5を光に変換する。シンチレータ40が変換した光は、出射面44から光電子増倍管50に向かって出射される。本実施形態では、電子入射面42と出射面44とは、第二方向D2で互いに対向している。導電層46は、電子入射面42上に設けられている。導電層46は、たとえば、金属材料からなる蒸着膜である。本実施形態では、導電層46は、アルミニウムからなる。
【0045】
光電子増倍管50は、シンチレータ40からの光を検出する。光電子増倍管50は、開口52が形成された側管54を有している。開口52は、側管54の一端に形成されている。側管54は、開口52がシンチレータ40を向くように、シンチレータ40に配置されている。光電子増倍管50は、光入射窓55を有している。シンチレータ40からの光は、開口52を通過し、光入射窓55に入射する。光入射窓55には、出射面44からの光が入射する。光入射窓55は、開口52に配置される。光電子増倍管50は、光入射窓55に入射した光を電子に変換する。光電子増倍管50は、光電変換した電子を増倍する。光電子増倍管50には、電源体8によって負電位が与えられる。光入射窓55は、シンチレータ40の出射面44と近接して配置されている。本明細書での「近接して」は、たとえば、以下の二つの態様を含む。光入射窓55が、出射面44とシリコーンオイルなどを介して光学カップリングされる。光入射窓55と出射面44との間隔が、小さい。
【0046】
側管54には、光電子増倍管50のカソード電位が与えられる。導電層46は、側管54と電気的に接続される。本実施形態では、導電ペーストからなる接続体56が、導電層46と側管54とを電気的に接続している。接続体56は、シンチレータ40と光電子増倍管50との境界を覆うように設けられる。導電層46と側管54とが電気的に接続される場合、シンチレータ40の電位は、側管54の電位と略同じである。本実施形態では、シンチレータ40と光電子増倍管50とは、接続体56によって一体化された検出部30を構成している。出射面44と光入射窓55とは、互いに光学カップリングされている。
【0047】
イオン検出器5では、電源体8は、入射する検出対象のイオンP3が正イオンであるか負イオンであるかに応じて、第一ダイノード10に与える電位の極性を変更すると共に、第一ダイノード10、第二ダイノード20、及びシンチレータ40に与える電位の大きさを調整する。検出対象のイオンP3が正イオンである場合には、第一ダイノード10に与えられる電位は、たとえば、約-12kVである。第二ダイノード20に与えられる電位は、たとえば、約-5kVである。シンチレータ40に与えられる電位は、たとえば、0kV~-1kVの範囲に設定される。本実施形態では、第二ダイノード20に与えられる負電位の大きさは、第一ダイノード10に与えられる負電位の大きさと、シンチレータ40に与えられる負電位の大きさとの間の大きさである。第二ダイノード20に与えられる負電位の大きさは、シンチレータ40に与えられる負電位の大きさより大きい。本明細書での「負電位の大きさ」は、負電位の大きさの絶対値を意味する。たとえば、「第二ダイノード20に与えられる負電位の大きさが、シンチレータ40に与えられる負電位の大きさより大きい」は、「第二ダイノード20に与えられる負電位の絶対値が、シンチレータ40に与えられる負電位の絶対値より大きい」ことを意味する。
【0048】
検出対象のイオンP3が負イオンである場合には、第一ダイノード10に与えられる電位は、たとえば、約12kVである。第二ダイノード20に与えられる電位は、たとえば、約-5kVである。シンチレータ40に与えられる電位は、たとえば、0kV~-1kVの範囲に設定される。本実施形態では、検出対象のイオンP3が負イオンである場合にも、第二ダイノード20に与えられる負電位の大きさは、シンチレータ40に与えられる負電位の大きさより大きい。電源体8は、第一ダイノード10と、第二ダイノード20と、シンチレータ40とに電力を供給すると共に、光電子増倍管50にも電力を供給する。本実施形態では、電源体8は、4つの電源の集合体である。
【0049】
図2及び図5に示されるように、イオン検出器5は、第二ダイノード20を覆うカバー70を備えている。カバー70は、側壁71aと、側壁71bと、互いに対向する一対の端壁72a,72bと、底壁73とを有している。本実施形態では、第二ダイノード20は、底壁73に収容され、カバー70と一体化している。第二ダイノード20とカバー70とが一体化した構造体ST1は、たとえば、中空の三角柱形状を呈している。構造体ST1では、第二ダイノード20の底部20bと底壁73とが、中空三角柱の一側面を構成している。各側壁71a,71bが、中空三角柱の別の一側面を構成している。各端壁72a,72bが、中空三角柱の一底面を構成している。
【0050】
図2に示されるように、構造体ST1において、側壁71aは、第一方向D1及び第二方向D2に交差する第三方向D3に延在し、一対の端壁72a,72bを互いに連結している。側壁71aには、第一通過口75が形成されている。第一通過口75は、たとえば、側壁71aの中央領域に位置している。第一通過口75は、第一ダイノード10からの荷電粒子P4を通過させる。構造体ST1において、側壁71bは、第三方向D3に延在し、一対の端壁72a,72bを互いに連結している。側壁71bには、第二通過口76が形成されている。第二通過口76は、たとえば、側壁71bの中央領域に位置している。第二通過口76は、第二ダイノード20からの二次電子P5を通過させる。第一ダイノード10からの荷電粒子P4は、進入口61を通過する。進入口61を通過した荷電粒子P4は、第一通過口75を通過して第二ダイノード20に入射する。第二ダイノード20からの二次電子P5は、第二通過口76を通過し、検出部30に入射する。
【0051】
イオン検出器5は、第一通過口75を覆うメッシュ77を備えている。メッシュ77は、負電位を与えられる。メッシュ77に与えられる電位は、たとえば、第二ダイノード20に与えられる電位と同電位である。メッシュ77に与えられる電位は、たとえば、約-5kVである。基部62の電位はグラウンド電位に設定されるので、メッシュ77に与えられる電位は、基部62の電位より低い。メッシュ77は、たとえば、金属材料からなる。本実施形態では、メッシュ77は、ステンレス鋼からなる。
【0052】
図5に示されるように、第二ダイノード20は、第一方向D1に対して交差して配置されている。第一ダイノード10からの荷電粒子P4は、第二ダイノード20の表面20aに斜め入射する。荷電粒子P4の表面20aへの入射角T1は、荷電粒子P4の入射方向と、表面20aの法線方向Nx1とのなす角であると定義される。本実施形態では、荷電粒子P4の入射方向は、第一方向D1である。入射角T1は、たとえば、約22.5度である。図5では、荷電粒子P4及び二次電子P5が移動する各経路の一例が、実線で示されている。荷電粒子P4及び二次電子P5それぞれは、矢印で模式的に示されている。荷電粒子P4及び二次電子P5それぞれを示す矢印は、各矢印を図面上で見やすくするために、上述した経路から離間して示されている。
【0053】
続いて、図2及び図6を参照して、実施形態に係るイオン検出器5の配置を説明する。図6は、イオン検出器5を第二方向D2から見た配置図である。図2及び図6に示されるように、第一ダイノード10からの荷電粒子P4は、第一方向D1で第二ダイノード20に入射する。第二ダイノード20からの二次電子P5は、第二方向D2で検出部30に入射する。図6には、仮想平面V1が二点鎖線で示されており、仮想平面V1は、第二ダイノード20と、第二通過口76と、電子入射面42とを含む平面として規定される。本実施形態では、第一方向D1及び第二方向D2は、仮想平面V1に含まれている。第一ダイノード10、進入口61、及び第一通過口75は、仮想平面V1上に位置している。第一ダイノード10からの荷電粒子P4は、仮想平面V1に沿って、進入口61と第一通過口75とをこの順に通過する。第一通過口75を通過した荷電粒子P4は、第二ダイノード20に入射する。第二ダイノード20からの二次電子P5は、仮想平面V1に沿って検出部30に入射する。図6では、荷電粒子P4は、矢印で模式的に示されている。荷電粒子P4が移動する経路の一例は、第二方向D2から見て、仮想平面V1を表示する二点鎖線に一致する。荷電粒子P4を示す矢印は、当該矢印を図面上で見やすくするために、仮想平面V1を表示する二点鎖線から離間して示されている。
【0054】
図7は、第一変形例に係るイオン検出器5pを第二方向D2から見た配置図であり、図6の配置図に対応している。図7においては、二次電子P5の第二ダイノード20から検出部30への入射方向は、図6に示されている二次電子P5の入射方向と一致している。したがって、イオン検出器5pにおいても、第二ダイノード20及び検出部30は、仮想平面V1上に配置されている。しかしながら、イオン検出器5pにおいて、第一ダイノード10p、進入口61p及び第一通過口75pの位置は、図6での位置と異なっている。イオン検出器5pは、第一通過口75pを覆うメッシュも備えていない。本変形例での説明においては、イオン検出器5が備えている要素と同じ構成又は機能を有する要素には、上述した実施形態で用いられている符号に「p」を付与した符号が用いられ、その説明を可能な限り省略する。
【0055】
本変形例では、第一ダイノード10p、進入口61p及び第一通過口75pは、仮想平面V1から離間している。第一ダイノード10pは、仮想平面V1に交差する方向D1p上に配置されている。進入口61pは、第一ダイノード10pと第二ダイノード20との間であって、方向D1p上に位置している。第一通過口75pは、方向D1p上の側壁71aに位置している。第一通過口75pは、たとえば、側壁71aの周辺領域に形成される。第一ダイノード10pからの荷電粒子P4は、進入口61pと第一通過口75pとをこの順に通過する。第一通過口75pを通過した荷電粒子P4は、方向D1pから第二ダイノード20に入射する。図7では、荷電粒子P4は、矢印で模式的に示されている。荷電粒子P4が移動する経路の一例は、方向D1pを表示する一点鎖線に一致する。荷電粒子P4を示す矢印は、当該矢印を図面上で見やすくするために、方向D1pを表示する一点鎖線から離間して示されている。
【0056】
イオン検出器5pでは、第一ダイノード10p、進入口61p及び第一通過口75pのいずれもが、仮想平面V1上に位置していない。仮想平面V1上に位置する側壁71aには、第一通過口75pが形成されていない。したがって、第二ダイノード20からの二次電子P5は、基部62のグラウンド電位の影響を受け難く、仮想平面V1に沿って検出部30に入射する。イオン検出器5pでは、メッシュを第一通過口75pに配置しなくてもよい。メッシュを第一通過口75pに配置していない構成でも、二次電子P5は、第一通過口75pを通過し難い。変形例では、方向D1pと仮想平面V1とが成す角度T2は、約45度である。イオン検出器5pは、第一通過口75pを覆うメッシュを備えていてもよい。
【0057】
以上のように、本実施形態及び変形例では、イオン検出器5,5pは、シンチレータ40と、シンチレータ40で発せられた光を検出する光電子増倍管50とを備えている。イオン検出器5,5pは、第一及び第二ダイノード10,10p,20を備えている。第一ダイノード10,10pは、イオンP3の入射を受けて荷電粒子P4を放出する。第二ダイノード20は、第一ダイノード10,10pからの荷電粒子P4の入射を受けて二次電子P5を出射する。第二ダイノード20からの二次電子P5は、シンチレータ40に入射する。したがって、シンチレータ40は、与えられる電位が低い状態においても、入射した二次電子P5を光に変換する。シンチレータ40に与えられる電位が低く設定され得るので、イオン検出器5の長寿命化が図られている。
【0058】
イオン検出器5,5pでは、シンチレータ40は、光を出射する出射面44を有している。光電子増倍管50は、出射面44からの光が入射される光入射窓55を有している。出射面44は、光入射窓55と近接して配置されている。
この場合、シンチレータ40から光電子増倍管50に入射する光の光学損失が低減される。したがって、光電子増倍管50に与えられる電位が低い場合でも、光電子増倍管50での光検出感度が確保される。
【0059】
イオン検出器5,5pでは、イオンP3が正イオンである場合に、第一ダイノード10,10pは、負電位が与えられて正イオンを二次電子に変換し、第二ダイノード20は、第一ダイノード10,10pからの二次電子をシンチレータ40の電子入射面42に入射させる。
この場合、イオン検出器5,5pに入射した正イオンは、第一及び第二ダイノード10,20によって、二次電子P5に変換される。変換された二次電子P5は、シンチレータ40に入射する。したがって、シンチレータ40は、与えられる電位が低い状態においても、入射した二次電子P5を確実に光に変換する。
【0060】
イオン検出器5,5pでは、イオンP3が負イオンである場合に、第一ダイノード10,10pは、正電位が与えられて負イオンを正イオンに変換し、第二ダイノード20は、第一ダイノード10,10pからの正イオンを二次電子P5に変換し、二次電子P5をシンチレータ40の電子入射面42に入射させる。
この場合、イオン検出器5,5pに入射した負イオンは、第一及び第二ダイノード10,10p,20によって、二次電子P5に変換される。第二ダイノード20からの二次電子P5が、シンチレータ40に入射する。したがって、シンチレータ40は、与えられる電位が低い状態においても、入射した二次電子P5を確実に光に変換する。
【0061】
イオン検出器5,5pでは、シンチレータ40は、負電位が与えられる。第二ダイノード20に与えられる負電位の大きさは、シンチレータ40に与えられる負電位の大きさより大きい。
この場合、シンチレータ40には、第二ダイノード20に与えられる負電位の大きさよりも、低い電位が与えられる。
【0062】
イオン検出器5,5pでは、イオンP3が正イオンである場合に、第二ダイノード20に与えられる負電位の大きさは、第一ダイノード10に与えられる負電位の大きさと、シンチレータ40に与えられる負電位の大きさとの間の大きさである。
この場合、第二ダイノード20には、第一ダイノード10,10pに与えられる負電位の大きさよりも、低い電位が与えられる。
【0063】
イオン検出器5,5pでは、光電子増倍管50は、カソード電位が与えられる側管54を有している。導電層46は、側管54と電気的に接続されている。
この場合、シンチレータ40の電位は、光電子増倍管50のカソード電位と略同じである。一の電源によって、シンチレータ40と光電子増倍管50とに電力が供給される。電源の数が削減される。
【0064】
イオン検出器5,5pは、第二ダイノード20を覆うカバー70,70pを備えている。カバー70,70pは、第一ダイノード10,10pからの荷電粒子P4を通過させる第一通過口75,75pと、第二ダイノード20からの二次電子P5を通過させる第二通過口76と、を有している。
この場合、第二ダイノード20から出射される二次電子P5が、より確実にシンチレータ40に向かう。
【0065】
イオン検出器5は、負電位が与えられると共に、第一通過口75を覆うメッシュ77を備えている。
この場合、メッシュ77は、二次電子P5が第一通過口75を通過して第二ダイノード20から第一ダイノード10に向かうことを抑制する。第二ダイノード20から出射される二次電子P5が、より確実にシンチレータ40に向かう。
【0066】
イオン検出器5pでは、第一ダイノード10pは、第二ダイノード20と、第二通過口76と、シンチレータ40の電子入射面42とを含む仮想平面V1から離間して配置されている。第一ダイノード10pからの荷電粒子P4は、仮想平面V1に交差する方向D1pから第二ダイノード20に入射する。
この場合、第二ダイノード20から出射される二次電子P5は、第一ダイノード10pに向かい難い。第二ダイノード20から出射される二次電子P5が、より確実にシンチレータ40に向かう。
【0067】
質量分析装置1は、長寿命化されたイオン検出器5,5pを備えている。したがって、質量分析装置1の長寿命化が図られている。
【0068】
図8は、第二変形例に係るイオン検出器5qを示す図であり、イオン検出器5を示す図3に対応している。イオン検出器5qは、第一ダイノード10、第二ダイノード20、検出部80、及び支持体60qを備えている。検出部80は、入射した二次電子P5を検出する素子であり、本変形例では、ダイオード81を有している。ダイオード81は、放出された電子を捕獲し、獲得した電子から電気信号(検出信号SG1)を生成する素子である。本変形例では、ダイオード81は、アバランシェダイオードである。ダイオード81は、アバランシェダイオード以外のダイオードであってもよい。たとえば、ダイオード81は、アバランシェ増倍を利用しない通常のダイオードであってもよい。イオン検出器5qは、検出部80及び支持体60qの構成に関して、イオン検出器5と相違する。以下、イオン検出器5とイオン検出器5qとの相違点を主として説明する。
【0069】
ダイオード81は、第二ダイノード20からの二次電子P5が入射する電子入射面82を有している。ダイオード81は、電子入射面82に入射した二次電子P5を検出する。検出部80は、基板83と同軸コネクタ84とを有している。ダイオード81は、基板83に配置される。基板83には、ダイオード81を駆動する駆動回路85が配置されている。駆動回路85は、たとえば、基板83の同軸コネクタ84側に配置される。駆動回路85は、基板83のダイオード81側に配置されてもよい。基板83は、たとえば、エポキシガラスからなる。本変形例では、エポキシガラスは、FR-4(Flame Retardant Type 4)である。ダイオード81で生成された検出信号SG1は、同軸コネクタ84を介して、信号処理部6に伝送される(図1を参照)。
【0070】
検出部80は、第二方向D2で第二ダイノード20と離間している。第二ダイノード20からの二次電子P5がより確実に電子入射面82に入射するように、検出部80と第二ダイノード20との距離は比較的小さい。検出部80と第二ダイノード20との第二方向D2での距離は、たとえば、1~10mmである。電子入射面82の有効口径(直径)は、たとえば、0.5~5mmである。
【0071】
支持体60qは、第一ダイノード10、第二ダイノード20、及び検出部80を支持する。支持体60qのうち、基部62と支持部64,66とは、実施形態と同じ構造と同じ材質とを有している。第一ダイノード10と、第二ダイノード20及び検出部80とは、第一方向D1で、基部62を挟んで互いに反対側に位置している。支持部68qは、検出部80を基部62に支持している。本変形例では、支持部68qは、基板83に接続されている。検出部80は、ダイオード81の電子入射面82が第二方向D2に向くように、配置されている。支持部68qは、絶縁材料を含む。支持部68qは、検出部80と基部62とを電気的に絶縁している。支持部68qの材料は、支持部68の材料と同じである。
【0072】
イオン検出器5qでは、検出対象のイオンP3が正イオンである場合には、第一ダイノード10に与えられる電位は、たとえば、約-12kVである。第二ダイノード20に与えられる電位は、たとえば、約-5kVである。ダイオード81の電子入射面82に与えられる電位は、たとえば、-1kV~+15kVの範囲に設定される。検出対象のイオンP3が負イオンである場合には、第一ダイノード10に与えられる電位は、たとえば、約12kVである。第二ダイノード20に与えられる電位は、たとえば、約-5kVである。ダイオード81がアバランシェダイオードである構成では、ダイオード81の電子入射面82に与えられる電位は、たとえば、-1kV~+15kVの範囲に設定される。電源体8(図1を参照)は、第一ダイノード10と、第二ダイノード20と、ダイオード81とに電力を供給する。電源体8は、駆動回路85を介して、ダイオード81に電力を供給する。ダイオード81が上述した通常のダイオードである構成では、検出対象のイオンP3が正イオン及び負イオンのいずれである場合にも、ダイオード81の電子入射面82に与えられる電位は、たとえば、-1kV~+15kVの範囲に設定される。本変形例では、ダイオード81に正電位が与えられ得る。この場合、電子入射面82に入射する二次電子P5の集束性が向上する。
【0073】
図9は、イオン検出器5qを第二方向D2から見た配置図であり、イオン検出器5を第二方向D2から見た配置を示す図6に対応している。図9において、イオン検出器5qは、検出部80の構成に関して、イオン検出器5と相違している。イオン検出器5qでは、第一ダイノード10、進入口61、及び第一通過口75は、仮想平面V1上に位置している。仮想平面V1は、第二ダイノード20と、第二通過口76と、電子入射面82とを含む平面として規定される。第一ダイノード10からの荷電粒子P4は、仮想平面V1に沿って、進入口61と第一通過口75とをこの順に通過する。第一通過口75を通過した荷電粒子P4は、第二ダイノード20に入射する。第二ダイノード20からの二次電子P5は、仮想平面V1に沿って検出部80に入射する。
【0074】
図10は、第三変形例に係るイオン検出器5rを第二方向D2から見た配置図であり、図7の配置図に対応している。イオン検出器5rは、検出部80の構成に関して、図7のイオン検出器5pと相違する。検出部80を除いて、イオン検出器5rの構成は、イオン検出器5pの構成と同じである。本変形例での説明においては、イオン検出器5pが備えている要素と同じ構成又は機能を有する要素には、上述したイオン検出器5pでの説明で用いられている符号「p」を符号「r」に変更し、その説明を可能な限り省略する。第一ダイノード10rは、仮想平面V1から離間して配置されている。第一ダイノード10rからの荷電粒子P4は、仮想平面V1に交差する方向D1rから第二ダイノード20に入射している。第二ダイノード20及び検出部80は、仮想平面V1上に配置されている。
【0075】
図11は、第四変形例に係るイオン検出器を示す図である。本変形例に係るイオン検出器5sは、第一ダイノード10、第二ダイノード20、検出部80、及び支持体60sを備えている。イオン検出器5sは、支持体60sの構成に関して、イオン検出器5qと相違する。以下、イオン検出器5qとイオン検出器5sとの相違点を主として説明する。
【0076】
支持体60sは、第一ダイノード10、第二ダイノード20、及び検出部80を支持する。支持体60sは、基部62sと、基部62sと連結される支持部64s,66s,68sと、を有している。本変形例では、第一ダイノード10、第二ダイノード20、及び検出部80は、第一方向D1で、基部62sに対して同一側に位置している。基部62sの電位は、グラウンド電位に設定される。基部62sに進入口は形成されていない。
【0077】
支持部64sは、第一ダイノード10を基部62sに支持している。第一ダイノード10は、第一方向D1に荷電粒子P4を放出するように支持部64sに支持されている。荷電粒子P4は、第二ダイノード20に向かう。支持部64sは、絶縁材料を含む。支持部64sは、第一ダイノード10と基部62sとを電気的に絶縁している。
【0078】
支持部66sは、第二ダイノード20を基部62sに支持している。第二ダイノード20は、第一ダイノード10からの荷電粒子P4が入射するように支持部66sに支持されている。第二ダイノード20は、荷電粒子P4の入射を受けて二次電子P5を出射する。支持部66sは、絶縁材料を含む。支持部66sは、第二ダイノード20と基部62sとを電気的に絶縁している。第一ダイノード10と第二ダイノード20との第一方向D1での距離は、たとえば、1~10mmである。
【0079】
支持部68sは、検出部80を基部62sに支持している。本変形例では、支持部68sは、基板83に接続されている。第二ダイノード20からの二次電子P5は、第二方向D2に進み、検出部80のダイオード81に入射する。検出部80は、電子入射面82が第二方向D2に向くように、配置されている。支持部68sは、絶縁材料を含む。支持部68sは、検出部80と基部62sとを電気的に絶縁している。基部62s及び支持部64s,66s,68sの材料は、それぞれ、基部62及び支持部64,66,68の材料と同じである。
【0080】
イオン検出器5sでは、検出対象のイオンP3が正イオンである場合には、第一ダイノード10に与えられる電位は、たとえば、約-12kVである。第二ダイノード20に与えられる電位は、たとえば、約-5kVである。ダイオード81の電子入射面82に与えられる電位は、たとえば、-1kV~+15kVの範囲に設定される。検出対象のイオンP3が負イオンである場合には、第一ダイノード10に与えられる電位は、たとえば、約12kVである。第二ダイノード20に与えられる電位は、たとえば、約-5kVである。ダイオード81がアバランシェダイオードである構成では、ダイオード81の電子入射面82に与えられる電位は、たとえば、-1kV~+15kVの範囲に設定される。ダイオード81が上述した通常のダイオードである構成では、検出対象のイオンP3が正イオン及び負イオンのいずれである場合にも、ダイオード81の電子入射面82に与えられる電位は、たとえば、-1kV~+15kVの範囲に設定される。本変形例では、ダイオード81に正電位が与えられ得る。この場合、電子入射面82に入射する二次電子P5の集束性が向上する。
【0081】
図12に示されるように、駆動回路85は、たとえば、ダイオード81、抵抗86a、コンデンサ87a、及び同軸コネクタ84を有している。図12は、ダイオードの駆動回路の等価回路を示す図である。同軸コネクタ84は、SMA(Subminiature version A)ジャックを含んでいる。図12に示される等価回路の例では、同軸コネクタ84は、SMA(Subminiature version A)ジャックを含んでいる。駆動回路85は、電源体8から電力の供給を受ける。ダイオード81のアノードは、抵抗86aを介して電源体8に電気的に接続される。ダイオード81は、電子入射面82側にアノードを有している。ダイオード81のカソードは、信号出力端子TR1に電気的に接続される。信号出力端子TR1は、信号処理部6(図1を参照)に電気的に接続される。電源体8の電位は、たとえば、-350Vである。第二ダイノード20に与えられる負電位の大きさを大きくし得る場合、検出部80は、二次電子P5を容易に検出可能である。抵抗86aの電気抵抗値は、たとえば、1kΩである。
【0082】
駆動回路85では、ノードN1が、コンデンサ87aを介して同軸コネクタ84の側面に電気的に接続される。ノードN1は、ダイオード81と抵抗86aとの間に位置している。同軸コネクタ84の側面は、接地されている。ノードN1は、リターンパスを形成している。コンデンサ87aとダイオード81とは、電気的に並列に接続される。リターンパスは、ダイオード81の電子入射面82と、同軸コネクタ84の側面との間に形成される。コンデンサ87aは、検出信号SG1が高速信号である場合には、高速な検出信号SG1がリターンパスを介してダイオード81まで低インピーダンスで戻る。コンデンサ87aの容量は、たとえば、10nFである。検出部80は、ダイオード81として、アバランシェダイオード及び上述した通常のダイオードのいずれが使用されても、駆動回路85の等価回路として、互いに同様の等価回路を有する。抵抗86aとコンデンサ87aとは、ローパスフィルタを構成している。電源体8からの交流成分がリップルノイズを含む場合、リップルノイズは、ダイオード81から信号出力端子TR1に出力される検出信号SG1を劣化させるおそれがある。抵抗86aとコンデンサ87aとが構成するローパスフィルタは、リップルノイズを含む交流成分を除去する。したがって、抵抗86aとコンデンサ87aとが構成するローパスフィルタは、検出信号SG1の劣化を抑制する。
【0083】
図13に示されるように、駆動回路85は、たとえば、ダイオード81、ツェナーダイオード88、抵抗86a,86b,86c、コンデンサ87a,87b、及び同軸コネクタ84を有している。図13は、ダイオードの駆動回路の等価回路を示す図である。ダイオード81のアノードは、ツェナーダイオード88と抵抗86aとを介して電源体8に電気的に接続される。ダイオード81は、電子入射面82側にアノードを有している。電源体8の電位は、たとえば、10.35kVである。ダイオード81のカソードは、抵抗86bを介して電源体8に電気的に接続される。ダイオード81とツェナーダイオード88とは、電気的に並列に接続される。ダイオード81のカソードは、コンデンサ87bを介して信号出力端子TR1に電気的に接続される。信号出力端子TR1は、信号処理部6に電気的に接続される。
【0084】
ツェナーダイオード88は、ダイオード81のアノードとカソードとの間に、たとえば、350Vの電位差を生成する。図13に示された等価回路を含む駆動回路85では、たとえば、ダイオード81のアノードの電位は、10kVであり、カソードの電位は、10.35kVである。図13に示された等価回路を含む駆動回路85は、ダイオード81のアノードの電位を正方向に大きくし得るので、検出信号SG1のゲインを増大させる。抵抗86aの電気抵抗値は、たとえば、1kΩである。抵抗86bの電気抵抗値は、たとえば、100kΩである。
【0085】
図13に示されるように、ノードN1が、コンデンサ87aを介して同軸コネクタ84の側面に電気的に接続される。ノードN1は、ダイオード81と抵抗86aとの間に位置している。同軸コネクタ84の側面は、接地されている。ノードN1は、カップリングコンデンサを形成するように配置されている。ダイオード81のカソードは、コンデンサ87bを介して、信号出力端子TR1に電気的に接続される。コンデンサ87aとコンデンサ87bとは、電気的に並列に接続される。コンデンサ87a,87bが、カップリングコンデンサを形成する。コンデンサ87a,87bは、ダイオード81の高電位を保ちながら、ダイオード81からの電流(検出信号SG1)を信号出力端子TR1に流すことを可能とする。検出信号SG1が高速信号である場合にも、コンデンサ87a,87bは、検出信号SG1の交流成分を有効に伝送し得る。コンデンサ87a,87bの容量は、たとえば150pFである。ノードN2は、接地された抵抗86cに電気的に接続されている。ノードN2は、ツェナーダイオード88と抵抗86bとの間に位置している。抵抗86cは、抵抗86aを介してダイオード81のアノードに電気的に接続されている。抵抗86cの一端の電位は、ダイオード81のアノードの電位と同電位である。抵抗86cの他端は、接地されている。抵抗86cには、たとえば、10kV電位の下、100μAの電流が流れる。抵抗86cの電気抵抗値は、たとえば、100MΩである。抵抗86cでは、たとえば、1Wの熱量が発生する。検出部80は、ダイオード81として、アバランシェダイオード及び上述した通常のダイオードのいずれが使用されても、駆動回路85の等価回路として、互いに同様の等価回路を有する。たとえば、抵抗86cが電気抵抗素子を構成する。
【0086】
図14に示されるように、駆動回路85は、たとえば、ダイオード81、NMOS(n-Channel Metal-OxideSemiconductor)89、抵抗86a,86b,86c,86d,86e、コンデンサ87a,87b、及び同軸コネクタ84を有している。図14は、ダイオードの駆動回路の等価回路を示す図である。NMOS89は、FET(Field effect transistor)の一例である。ダイオード81のアノードは、抵抗86aとNMOS89を介して電源体8に電気的に接続される。NMOS89のソースは、抵抗86aと電気的に接続される。NMOS89のドレインは、電源体8に電気的に接続される。NMOS89のゲートは、抵抗86dを介して電源体8に電気的に接続され、抵抗86eを介して接地される。ダイオード81は、電子入射面82側にアノードを有している。電源体8の電位は、たとえば、10.35kVである。ダイオード81のカソードは、抵抗86bを介して電源体8に電気的に接続される。ダイオード81とNMOS89とは、電気的に並列に接続される。ダイオード81のカソードは、コンデンサ87bを介して信号出力端子TR1に電気的に接続される。信号出力端子TR1は、信号処理部6に電気的に接続される。
【0087】
NMOS89は、ダイオード81のアノードとカソードとの間に、たとえば、350Vの電位差を生成する。本変形例では、ダイオード81のアノードの電位は、10kVであり、カソードの電位は、10.35kVである。本変形例は、ダイオード81のアノードの電位を大きくし得るので、検出信号SG1のゲインを増大させる。抵抗86aの電気抵抗値は、たとえば、1kΩである。抵抗86bの電気抵抗値は、たとえば、100kΩである。抵抗86cの電気抵抗値は、たとえば、100MΩである。抵抗86dの電気抵抗値は、たとえば、35MΩである。抵抗86eの電気抵抗値は、たとえば、1GΩである。
【0088】
本変形例では、ノードN1が、コンデンサ87aを介して同軸コネクタ84の側面に電気的に接続される。ノードN1は、ダイオード81と抵抗86aとの間に位置している。同軸コネクタ84の側面は、接地されている。ノードN1は、カップリングコンデンサを形成するように配置されている。ダイオード81のカソードは、コンデンサ87bを介して、信号出力端子TR1に電気的に接続される。コンデンサ87aとコンデンサ87bとは、電気的に並列に接続される。コンデンサ87a,87bが、カップリングコンデンサを形成する。コンデンサ87a,87bは、ダイオード81の高電位を保ちながら、ダイオード81からの電流(検出信号SG1)を信号出力端子TR1に流す。検出信号SG1が高速信号である場合にも、コンデンサ87a,87bは、検出信号SG1の交流成分を有効に転送し得る。コンデンサ87a,87bの容量は、たとえば150pFである。ノードN2は、接地された抵抗86cに電気的に接続されている。ノードN2は、NMOS89と抵抗86bとの間に位置している。抵抗86cの一端は、抵抗86aを介してダイオード81のアノードに電気的に接続されている。抵抗86cの一端の電位は、ダイオード81のアノードの電位と同電位である。抵抗86cの他端は、接地されている。抵抗86cには、たとえば、10kV電位の下、100μAの電流が流れる。抵抗86cでは、たとえば、1Wの熱量が発生する。抵抗86aの電気抵抗値は、たとえば、1kΩである。抵抗86bの電気抵抗値は、たとえば、100kΩである。抵抗86cの電気抵抗値は、たとえば、100MΩである。検出部80は、ダイオード81として、アバランシェダイオード及び上述した通常のダイオードのいずれが使用されても、駆動回路85の等価回路として、互いに同様の等価回路を有する。
【0089】
図15は、イオン検出器の第五変形例を示す図であり、図8に示すイオン検出器5qの変形例を示す。第五変形例に係るイオン検出器5tは、抵抗86cが配置される位置に関して、イオン検出器5qと相違している。イオン検出器5tでは、抵抗86cがダイオード81及び基板83から離間している。すなわち、イオン検出器5tでは、抵抗86cは、ダイオード81及び基板83から物理的に離間しており、ダイオード81及び基板83から熱的に離間している。本変形例では、抵抗86cは、基部62に電気的に接続され、接地されている。図11に示すイオン検出器5sにおいても、駆動回路85が抵抗86cを含む場合、抵抗86cは、ダイオード81及び基板83から離間するように配置されてもよい。
【0090】
以上説明したように、イオン検出器5q,5r,5s,5tは、ダイオード81を備えている。第一ダイノード10,10rは、イオンP3の入射を受けて荷電粒子P4を放出する。第二ダイノード20は、第一ダイノード10,10rからの荷電粒子P4の入射を受けて二次電子P5を出射する。第二ダイノード20からの二次電子P5は、ダイオード81に入射する。ダイオード81は、長期間の使用に耐え得るので、イオン検出器5q,5r,5s,5tの長寿命化が図られている。
【0091】
イオン検出器5q,5r,5s,5tでは、イオンP3が正イオンである場合に、第一ダイノード10,10rは、負電位が与えられて正イオンを二次電子P5に変換し、第二ダイノード20は、第一ダイノード10,10rからの二次電子P5を電子入射面82に入射させる。
この場合、イオン検出器5q,5r,5s,5tに入射した正イオンは、第一及び第二ダイノード10,10r,20によって、二次電子P5に変換される。変換された二次電子P5は、ダイオード81に入射する。ダイオード81は、入射した二次電子P5を確実に検出して電気信号を出力する。
【0092】
イオン検出器5q,5r,5s,5tでは、イオンP3が負イオンである場合に、第一ダイノード10,10rは、正電位が与えられて負イオンを正イオンに変換し、第二ダイノード20は、第一ダイノード10,10rからの正イオンを二次電子P5に変換し、二次電子P5を電子入射面82に入射させる。
この場合、イオン検出器5q,5r,5s,5tに入射した負イオンは、第一及び第二ダイノード10,10r,20によって、二次電子P5に変換される。第二ダイノード20からの二次電子P5が、ダイオード81に入射する。ダイオード81は、入射した二次電子P5を確実に検出して電気信号を出力する。
【0093】
イオン検出器5q,5r,5s,5tは、第二ダイノード20を覆うカバー70,70rを更に備えている。カバー70,70rは、第一ダイノード10,10rからの荷電粒子P4を通過させる第一通過口75,75rと、第二ダイノード20からの二次電子P5を通過させる第二通過口76と、を有している。
この場合、第二ダイノード20から出射される二次電子P5が、より確実にダイオード81に向かう。
【0094】
イオン検出器5q,5s,5tでは、負電位が与えられると共に、第一通過口75を覆うメッシュ77を更に備えている。
この場合、メッシュ77は、二次電子P5が第一通過口75,75rを通過して第二ダイノード20から第一ダイノード10に向かうことを抑制する。第二ダイノード20から出射される二次電子P5が、より確実にダイオード81に向かう。
【0095】
イオン検出器5rでは、第一ダイノード10rは、第二ダイノード20と、第二通過口76と、電子入射面82とを含む仮想平面V1から離間して配置されている。第一ダイノード10rからの荷電粒子P4は、仮想平面V1に交差する方向D1rから第二ダイノード20に入射する。
この場合、第二ダイノード20から出射される二次電子P5は、第一ダイノード10rに向かい難い。第二ダイノード20から出射される二次電子P5が、より確実にダイオード81に向かう。
【0096】
イオン検出器5tは、ダイオード81が配置される基板83と、ダイオード81を駆動する駆動回路85と、を備えている。駆動回路85は、一端がダイオード81のアノードに電気的に接続され、かつ、他端が接地されている抵抗86cを含んでいる。抵抗86cは、ダイオード81及び基板83から離間している。
抵抗86cを流れる電流の値によっては、抵抗86cの発熱量が増大するおそれがある。抵抗86cに生じる熱がダイオード81に伝わると、ダイオード81のゲインが低下するおそれがある。イオン検出器5tでは、上述したように、抵抗86cは、ダイオード81から離間している。したがって、抵抗86cに生じる熱は、ダイオード81に伝わり難い。この結果、抵抗86cの発熱量が増大する場合でも、ダイオード81のゲインは低下し難い。
【0097】
イオン検出器5q,5r,5s,5tは、イオンP3の入射を受けて荷電粒子P4を放出する第一ダイノード10,10rと、負電位が与えられると共に、第一ダイノード10,10rからの荷電粒子P4の入射を受けて二次電子P5を出射する第二ダイノード20と、第二ダイノード20からの二次電子P5が入射する電子入射面82を有し、入射した二次電子P5を検出する検出部80と、を備えている。
【0098】
イオン検出器5q,5r,5s,5tは、入射した二次電子P5を検出する検出部80を備えている。第一ダイノード10,10rは、イオンP3の入射を受けて荷電粒子P4を放出し、第二ダイノード20は、第一ダイノード10,10rからの荷電粒子P4の入射を受けて二次電子P5を出射する。第二ダイノード20からの二次電子P5は、検出部80に入射する。検出部80は、長期間の使用に耐え得る構造を成し得るので、イオン検出器5q,5r,5s,5tの長寿命化が図られている。
【0099】
質量分析装置1は、長寿命化されたイオン検出器5q,5r,5s,5tを備えている。したがって、質量分析装置1の長寿命化が図られている。
【0100】
以上、本発明の実施形態及び変形例について説明してきたが、本発明は必ずしも上述した実施形態及び変形例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0101】
イオン検出器5,5p,5q,5r,5s,5tは、質量分析装置1以外の装置に備えられていてもよい。
導電層46は、側管54と電気的に接続されていなくてもよい。導電層46が側管54と電気的に接続されている構成では、上述したように、電源の数が削減される。
質量分析装置1(イオン検出器5,5p,5q,5r,5s,5t)は、第一通過口75,75p,75rと第二通過口76とを有するカバー70,70p,70rを備えていなくてもよい。第一通過口75,75p,75rと第二通過口76とを有するカバー70,70p,70rが備えられている構成では、上述したように、第二ダイノード20から出射される二次電子P5が、より確実にシンチレータ40又はダイオード81に向かう。
質量分析装置1(イオン検出器5,5p,5q,5r,5r,5t)は、メッシュ77を備えていなくてもよい。メッシュ77が備えられている構成では、上述したように、第二ダイノード20から出射される二次電子P5が、より確実にシンチレータ40又はダイオード81に向かう。
【符号の説明】
【0102】
1…質量分析装置、3…イオン化部、4…質量分析部、5…イオン検出器、10…第一ダイノード、20…第二ダイノード、30…検出部、40…シンチレータ、42…電子入射面、44…出射面、46…導電層、50…光電子増倍管、54…側管、70…カバー、75…第一通過口、76…第二通過口、77…メッシュ、81…ダイオード、82…電子入射面、83…基板、85…駆動回路、86c…抵抗、D1p…方向、P3…イオン、P4…荷電粒子、P5…二次電子、V1…仮想平面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15