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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】エッチング液組成物の保存方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/306 20060101AFI20241009BHJP
   C23F 1/08 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
H01L21/306 F
C23F1/08 101
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021053776
(22)【出願日】2021-03-26
(65)【公開番号】P2022150944
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】小受 敦志
(72)【発明者】
【氏名】木村 陽介
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-107757(JP,A)
【文献】特開2013-058629(JP,A)
【文献】特開2006-253473(JP,A)
【文献】特開2015-162508(JP,A)
【文献】特開2006-206698(JP,A)
【文献】特開2006-176733(JP,A)
【文献】特開2013-237873(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/306
C23F 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチング処理するためのエッチング液組成物の保存方法であって、
前記エッチング液組成物は、窒素含有化合物、少なくとも硝酸及びリン酸を含む酸、及び水を含み、
前記エッチング液組成物をポリエチレン樹脂製又はポリプロピレン樹脂製の容器に充填し、-10℃以上40℃以下の温度で保存することを含む、エッチング液組成物の保存方法。
【請求項2】
前記エッチング液組成物中における硝酸の含有量(質量%)に対する窒素含有化合物の含有量(質量%)の比(窒素含有化合物の含有量/硝酸の含有量)は、0.5以上10以下である、請求項1に記載のエッチング液組成物の保存方法。
【請求項3】
前記窒素含有化合物が、ポリアルキレンイミン、アルキルアミン、アリルアミン重合体、及び、ジアリルアミン/二酸化硫黄共重合体から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2記載のエッチング液組成物の保存方法。
【請求項4】
前記エッチング液組成物が、過酸化水素を含有しない、請求項1から3のいずれかに記載のエッチング液組成物の保存方法。
【請求項5】
前記被エッチング層に含まれる金属が、タングステン、タンタル、ジルコニウム、ハフニウム、モリブデン、ニオブ、ルテニウム、オスミウム、レニウム、ロジウム、銅、ニッケル、コバルト、チタン、窒化チタン、アルミナ、アルミニウム及びイリジウムから選ばれる少なくとも1種の金属である、請求項1から4のいずれかに記載のエッチング液組成物の保存方法。
【請求項6】
エッチング液組成物が容器に充填される構成であるエッチング液パッケージであって、
前記エッチング液組成物は、窒素含有化合物、少なくとも硝酸及びリン酸を含む酸、及び水を含み、
前記容器は、ポリエチレン樹脂製又はポリプロピレン樹脂製の容器であり、
前記エッチング液組成物は、少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチング処理するためのエッチング液組成物である、エッチング液パッケージ。
【請求項7】
前記被エッチング層に含まれる金属が、タングステン、タンタル、ジルコニウム、ハフニウム、モリブデン、ニオブ、ルテニウム、オスミウム、レニウム、ロジウム、銅、ニッケル、コバルト、チタン、窒化チタン、アルミナ、アルミニウム及びイリジウムから選ばれる少なくとも1種の金属である、請求項6に記載のエッチング液パッケージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エッチング液組成物の保存方法、及びエッチング液パッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造過程において使用される研磨液組成物やエッチング液組成物は、長期間保存や輸送することで、それらの含有成分が変性してしまうことがある。したがって、このような条件でも保存安定性に優れることが重要な特性の一つとされている。
【0003】
例えば、特許文献1~2では、アルミナと防腐剤とを含有する研磨液組成物を樹脂製容器に長期間保存した場合に容器が変色することに着目し、長期間保存した場合でも容器の変色を伴わず、保存安定性に優れる研磨液組成物が提案されている。
特許文献3では、金属をエッチングするエッチング液として、硝酸、リン酸、酢酸を含有するエッチング液が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-206698号公報
【文献】特開2006-176733号公報
【文献】特開2013-237873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、エッチング液組成物は硝酸を含み、このようなエッチング液組成物を樹脂製容器に保存すると、硝酸によって樹脂製容器が変色することがある。低コスト化のため、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂のような安価な樹脂製容器を使用しても容器を変色させず、保存安定性に優れたエッチング液組成物の保存方法が求められている。
【0006】
そこで、本開示は、一態様において、長期間保存した場合でも容器の変色を抑制でき、保存安定性に優れるエッチング液組成物の保存方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、一態様において、少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチング処理するためのエッチング液組成物の保存方法であって、前記エッチング液組成物は、窒素含有化合物、少なくとも硝酸を含む酸、及び水を含み、前記エッチング液組成物をポリエチレン樹脂製又はポリプロピレン樹脂製の容器に充填し、-10℃以上40℃以下の温度で保存することを含む、エッチング液組成物の保存方法に関する。
【0008】
本開示は、一態様において、エッチング液組成物が容器に充填される構成であるエッチング液パッケージであって、前記エッチング液組成物は、窒素含有化合物、少なくとも硝酸を含む酸、及び水を含み、前記容器は、ポリエチレン樹脂製又はポリプロピレン樹脂製の容器であり、前記エッチング液組成物は、少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチング処理するためのエッチング液組成物である、エッチング液パッケージに関する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、一態様において、長期間保存した場合でも容器の変色を抑制でき、保存安定性に優れるエッチング液組成物の保存方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は、一態様において、硝酸及び水を含むエッチング液に窒素含有化合物を添加すると、ポリエチレン樹脂製又はポリプロピレン樹脂製の容器に充填しても容器の変色を抑制でき、保存安定性を向上できるという知見に基づく。
【0011】
本開示は、一態様において、少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチング処理するためのエッチング液組成物の保存方法であって、前記エッチング液組成物は、窒素含有化合物、少なくとも硝酸を含む酸、及び水を含み、前記エッチング液組成物をポリエチレン樹脂製又はポリプロピレン樹脂製の容器(以下、単に「本開示における樹脂製容器」ともいう)に充填し、-10℃以上40℃以下の温度で保存することを含む、エッチング液組成物の保存方法(以下、「本開示のエッチング液組成物の保存方法」ともいう)に関する。前記本開示における樹脂製容器に充填されるエッチング液組成物を、以下「本開示のエッチング液組成物」ともいう。
【0012】
本開示によれば、長期間保存した場合でも容器の変色を抑制でき、保存安定性に優れるエッチング液組成物の保存方法を提供できる。また、安価なポリエチレン樹脂製又はポリプロピレン樹脂製の容器でも、容器の変色を抑制できることから、低コストで半導体基板を製造できる。
【0013】
本開示の効果発現のメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のように推察される。
硝酸を含むエッチング液組成物をポリエチレン樹脂製又はポリプロピレン樹脂製の容器に充填すると、容器を構成する樹脂が酸によって酸化し、容器が変色することがある。
本開示では、窒素含有化合物が容器表面を保護し、容器を構成する樹脂が硝酸によって酸化するのを抑制し、容器の変色を抑制できると考えられる。
また、容器の変色に消費される硝酸量の低下が抑制されるため、保存安定性を向上できると考えられる。
但し、本開示はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0014】
本開示において、「容器の変色」とは、使用する前の容器の色相、彩度及び明度の少なくとも1つが変化することをいう。
【0015】
[保存方法]
本開示のエッチング液組成物の保存方法は、本開示のエッチング液組成物をポリエチレン樹脂製又はポリプロピレン樹脂製の容器に充填し、-10℃以上40℃以下の温度で保存することを含む。本開示において「保存」は、例えば、輸送時の保存、倉庫等での保存を含む。
【0016】
本開示のエッチング液組成物の保存方法における保存温度は、容器の変色抑制、及び、保存安定性向上の観点から、-10℃以上であって、-5℃以上が好ましく、0℃以上がより好ましく、そして、40℃以下であって、35℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。同様の観点から、保存温度は、-10℃以上40℃以下であって、-5℃以上35℃以下が好ましく、0℃以上30℃以下がより好ましい。
【0017】
本開示のエッチング液組成物の保存方法における保存期間は、半導体基板製造に係るコスト削減の観点から、2年以下が好ましく、1年以下がより好ましく、0.5年以下が更に好ましい。
【0018】
[ポリエチレン樹脂製又はポリプロピレン樹脂製の容器]
本開示のエッチング液組成物は、ポリエチレン樹脂製又はポリプロピレン樹脂製の容器(樹脂製容器)に充填されているものである。したがって、本開示は、一態様において、少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチング処理するためのエッチング液組成物であって、前記エッチング液組成物は、窒素含有化合物、硝酸を含む酸、及び水を含み、ポリエチレン樹脂製又はポリプロピレン樹脂製の容器に充填されている、エッチング液組成物に関する。前記ポリエチレン樹脂としては、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0019】
本開示において、「ポリエチレン樹脂製又はポリプロピレン樹脂製の容器」とは、容器のうち少なくともエッチング液組成物を接する部分がポリエチレン樹脂製又はポリプロピレン樹脂製である容器を意味する。本開示における樹脂製容器としては、例えば、エッチング液組成物と接する内層にポリエチレン樹脂又はポリプロピレン樹脂の層を設け、その外側に他の材質の樹脂等を積層させてなる容器を用いてもよい。
なお、市販品として入手可能なポリエチレン樹脂製又はポリプロピレン樹脂製の容器には、一般に、界面活性剤や金属酸化物のような帯電防止剤が添加されていることもあるが、本開示のエッチング液組成物においては、帯電防止剤を含まないことが好ましい。
また、本開示のエッチング液組成物においては、硝酸を必須成分として含んでいるので、日光等による分解を防ぐためにも、容器外装が半透明や白色容器よりも、グレーや青等で着色または遮光してある容器であることが好ましい。
【0020】
本開示における樹脂製容器の形態としては、例えば、容量が0.1~30Lの樹脂製容器、容量が0.1~30Lの樹脂製内装容器と段ボールとを組み合わせた複合容器、容量が1~30Lの樹脂製内装容器と金属缶とを組み合わせた複合容器、容量が20~300Lの樹脂製ドラム容器、容量が20~300Lの樹脂製内装容器と金属性ドラムとを組み合わせた複合容器、容量が500~1200Lの容量の樹脂製内容容器と金属コンテナとを組み合わせた複合容器等が挙げられる。
【0021】
本開示における樹脂製容器は、エッチング液組成物の保存又は輸送の目的に使用できればよく、例えば、射出成型、押出成型、又は回転成型により製造されたものが挙げられる。
【0022】
本開示における樹脂製容器へのエッチング液組成物の充填方法は、特に限定されず、容器の形態等によって従来公知の方法により充填することができる。
【0023】
[エッチング液組成物]
本開示のエッチング液組成物は、窒素含有化合物、少なくとも硝酸を含む酸、及び水を含む。
【0024】
(窒素含有化合物)
本開示のエッチング液組成物に含まれる窒素含有化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリアルキレンイミン、アルキルアミン、アミノ基とエチレン性不飽和二重結合とを有する化合物、アミノ基とエチレン性不飽和二重結合とを有する化合物由来の構成単位を有するポリマー、アルカノールアミン、脂環式アミン、及び、ポリアルキレンポリアミンから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
前記ポリアルキレンイミンとしては、例えば、ポリエチレンイミン等が挙げられる。
前記アルキルアミンとしては、ペンタエチレンヘキサミン等が挙げられる。
前記アミノ基及びエチレン性不飽和二重結合を有する化合物としては、アリルアミン、ジアリルアミン等が挙げられる。
前記アミノ基及びエチレン性不飽和二重結合を有する化合物由来の構成単位を含むポリマーとしては、例えば、アリルアミン重合体、ジアリルアミン重合体、ジアリルアミン/二酸化硫黄共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド/二酸化硫黄共重合体等が挙げられる。
前記アルカノールアミンとしては、例えば、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール等が挙げられる。
前記脂環式アミンとしては、例えば、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジンが挙げられる。
前記ポリアルキレンポリアミンとしては、例えば、ペンタエチレンヘキサミン等が挙げられる。
これらの中でも、窒素含有化合物としては、容器の変色抑制、及び、保存安定性向上の観点から、ポリアルキレンイミン、アルキルアミン、アリルアミン重合体、及びジアリルアミン/二酸化硫黄共重合体から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ポリアルキレンイミン及びアルキルアミンから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、ポリアルキレンイミンが更に好ましく、ポリエチレンイミンが更に好ましい。
窒素含有化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
窒素含有化合物がポリアルキレンイミンである場合、その数平均分子量は、容器の変色抑制、及び、保存安定性向上の観点から、300以上が好ましく、600以上がより好ましく、1,200以上が更に好ましく、そして、粘度の観点から100,000以下が好ましく、5,000以下がより好ましく、3,000以下が更に好ましい。より具体的には、窒素含有化合物の数平均分子量は、300以上100,000以下が好ましく、600以上5,000以下がより好ましく、1,200以上3,000以下 が更に好ましい。
窒素含有化合物がポリアルキレンイミン以外の(共)重合体である場合、その重量平均分子量は容器の変色抑制、及び、保存安定性向上の観点から、2,000以上が好ましく、3,000以上がより好ましく、4,000以上が更に好ましく、そして、50,000以下が好ましく、25,000以下がより好ましく、10,000以下が更に好ましい。より具体的には、窒素含有化合物の重量平均分子量は、2,000以上50,000以下が好ましく、3,000以上25,000以下がより好ましく、4,000以上10,000以下が更に好ましい。
【0026】
本開示において平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって下記条件で測定できる。
<GPC条件(ポリアルキレンイミン)>
試料液:0.1wt%の濃度に調整したもの
装置/検出器:HLC-8320GPC(一体型GPC)東ソー株式会社製
カラム:α-M+α-M(東ソー株式会社製)
溶離液:0.15mol/L Na2SO4,1% CH3COOH/水
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/min
試料液注入量:100μL
標準ポリマー:分子量が既知のプルラン(Shodex社 P-5、P-50,P-200、P-800)
<GPC条件(ポリアルキレンイミン以外の(共)重合体>
試料液:0.1wt%の濃度に調整したもの
検出器:HLC-8320GPC(一体型GPC)東ソー株式会社製
カラム:α-M+α-M(東ソー株式会社製)
溶離液:0.15mol/L Na2SO4,1% CH3COOH/水
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/min
試料液注入量:100μL
標準ポリマー:分子量が既知のプルラン(Shodex社 P-5、P-50,P-200、P-800)
【0027】
本開示のエッチング液組成物における窒素含有化合物の含有量は、容器の変色抑制、及び、保存安定性向上の観点から、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、3質量%以上が更に好ましく、5質量%以上が更に好ましく、そして、粘度の観点から、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。同様の観点から、本開示のエッチング液組成物における窒素含有化合物の含有量は、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上15質量%以下がより好ましく、3質量%以上15質量%以下が更に好ましく、5質量%以上15質量%以下が更に好ましい。窒素含有化合物が2種以上の組合せである場合、窒素含有化合物の含有量はそれらの合計含有量である。
【0028】
(酸)
本開示のエッチング液組成物に含まれる酸は、少なくとも硝酸を含む酸である。酸は、1種単独(硝酸のみ)で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
本開示における酸は、一又は複数の実施形態において、硝酸以外の酸を更に含んでもよい。硝酸以外の酸としては、容器の変色抑制、及び、保存安定性向上の観点から、硫酸、塩酸、リン酸等の無機酸;クエン酸、ギ酸、酒石酸、シュウ酸、スルファミン酸、酢酸、マロン酸等の有機酸から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。本開示における酸としては、容器の変色抑制、及び、保存安定性向上の観点から、無機酸と有機酸との併用が好ましく、中でも、リン酸、酢酸、および硝酸からなる混酸がより好ましい。
【0030】
本開示のエッチング液組成物における酸の含有量は、容器の変色抑制、及び、保存安定性向上の観点から、60質量%以上が好ましく、65質量%以上がより好ましく、そして、同様の観点から、95質量%以下が好ましく、93質量%以下がより好ましく、90質量%以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示のエッチング液組成物における酸の含有量は、60質量%以上95質量%以下が好ましく、60質量%以上93質量%以下がより好ましく、65質量%以上90質量%以下が更に好ましい。酸が2種以上の組合せである場合、酸の含有量はそれらの合計含有量である。
【0031】
本開示のエッチング液組成物における硝酸の含有量は、容器の変色抑制、及び、保存安定性向上の観点から、本開示のエッチング液組成物中の硝酸の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.5質量%以上7.5質量%以下がより好ましく、1質量%以上5質量%以下が更に好ましい。
【0032】
本開示における酸としてリン酸、酢酸及び硝酸からなる混酸を用いる場合、前記混酸中のリン酸の含有量は、容器の変色抑制、及び、保存安定性向上の観点から、50質量%以上95質量%以下が好ましく、60質量%以上93質量%以下がより好ましく、65質量%以上90質量%以下が更に好ましい。同様の観点から、前記混酸中の酢酸の含有量は、2質量%以上30質量%以下が好ましく、3質量%以上20質量%以下がより好ましく、5質量%以上15質量%以下が更に好ましい。同様の観点から、前記混酸中の硝酸の含有量は、0.5質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上10質量%以下がより好ましく、1.5質量%以上5質量%以下が更に好ましい。リン酸と酢酸と硝酸との質量比(リン酸/酢酸/硝酸)は適宜設定することができ、例えば、76/7/3とすることができる。
【0033】
本開示のエッチング液組成物中における硝酸の含有量に対する窒素含有化合物の含有量の比(窒素含有化合物の含有量/硝酸の含有量)は、容器の変色抑制、及び、保存安定性向上の観点から、0.5以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、2.5以上が更に好ましく、そして、粘度の観点から、10以下が好ましく、7.5以下がより好ましく、5以下が更に好ましい。同様の観点から、硝酸の含有量に対する窒素含有化合物の含有量の比(窒素含有化合物の含有量/硝酸の含有量)は、0.5以上10以下が好ましく、1.5以上7.5以下がより好ましく、2.5以上5以下が更に好ましい。
【0034】
(水)
本開示のエッチング液に含まれる水としては、蒸留水、イオン交換水、純水及び超純水等が挙げられる。
【0035】
本開示のエッチング液組成物における水の含有量は、容器の変色抑制、及び、保存安定性向上の観点から、1質量%以上が好ましく、1.5質量%以上がより好ましく、2質量%以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示のエッチング液組成物における水の含有量は、1質量%以上30質量%以下が好ましく、1.5質量%以上20質量%以下がより好ましく、2質量%以上10質量%以下が更に好ましい。
【0036】
(その他の成分)
本開示のエッチング液組成物は、本開示の効果が損なわれない範囲で、その他の成分をさらに配合してなるものであってもよい。その他の成分としては、キレート剤、界面活性剤、可溶化剤、防腐剤、防錆剤、殺菌剤、抗菌剤、酸化防止剤等が挙げられる。
【0037】
本開示のエッチング液組成物は、一又は複数の実施形態において、過酸化水素を含有しないことが好ましい。
【0038】
[エッチング液組成物の製造方法]
本開示のエッチング液組成物は、一又は複数の実施形態において、窒素含有化合物と、硝酸を含む酸と、水と、所望により上述した任意成分とを公知の方法で配合することにより得られる。したがって、本開示は、一態様において、少なくとも窒素含有化合物と、硝酸を含む酸と、水とを配合する工程を含む、エッチング液組成物の製造方法(以下、「本開示のエッチング液製造方法」ともいう)に関する。本開示において「少なくとも窒素含有化合物と、硝酸を含む酸と、水とを配合する」とは、一又は複数の実施形態において、窒素含有化合物と、硝酸を含む酸と、水と、必要に応じて上述した任意成分とを同時に又は順に混合することを含む。混合する順序は、特に限定されなくてもよい。前記配合は、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機及び湿式ボールミル等の混合器を用いて行うことができる。本開示のエッチング液製造方法において各成分の好ましい配合量は、上述した本開示のエッチング液組成物の各成分の好ましい含有量と同じとすることができる。
【0039】
本開示において「エッチング液組成物における各成分の含有量」とは、一又は複数の実施形態において、エッチング工程に使用される、すなわち、エッチング処理への使用を開始する時点(使用時)でのエッチング液組成物の各成分の含有量をいう。
【0040】
本開示のエッチング液組成物の実施形態は、全ての成分が予め混合された状態で市場に供給される、いわゆる1液型であってもよいし、使用時に混合される、いわゆる2液型であってもよい。
【0041】
本開示のエッチング液組成物のpHは、容器の変色抑制、及び、保存安定性向上の観点から、2以下が好ましく、1以下がより好ましく、0以下が更に好ましく、0未満が更に好ましく、-1程度が更に好ましい。本開示において、エッチング液組成物のpHは、25℃における値であって、pHメータを用いて測定でき、具体的には、実施例に記載の方法で測定できる。
【0042】
本開示のエッチング液組成物は、その安定性が損なわれない範囲で濃縮された状態で保存および供給されてもよい。この場合、製造・輸送コストを低くできる点で好ましい。そしてこの濃縮液は、必要に応じて水又は酸水溶液を用いて適宜希釈してエッチング工程で使用することができる。希釈割合は例えば、5~100倍とすることができる。
【0043】
[被エッチング層]
本開示のエッチング液組成物は、少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチング処理するためのものである。被エッチング層に含まれる金属は、好ましくは、タングステン、タンタル、ジルコニウム、ハフニウム、モリブデン、ニオブ、ルテニウム、オスミウム、レニウム、ロジウム、銅、ニッケル、コバルト、チタン、窒化チタン、アルミナ、アルミニウム及びイリジウムから選ばれる少なくとも1種の金属である。本開示のエッチング液組成物は、一又は複数の実施形態において、タングステン膜、ニオブ膜、タンタル膜、ジルコニウム膜、モリブデン膜のエッチングに好適に用いられる。
【0044】
[エッチング液パッケージ]
本開示は、一態様において、エッチング液組成物が容器に充填される構成であるエッチング液パッケージであって、前記エッチング液組成物は、窒素含有化合物、少なくとも硝酸を含む酸、及び水を含み、前記容器は、ポリエチレン樹脂製又はポリプロピレン樹脂製の容器であり、前記エッチング液組成物は、少なくとも1種の金属を含む被エッチング層をエッチング処理するためのエッチング液組成物である、エッチング液パッケージ(以下、「本開示のエッチング液パッケージ」ともいう)に関する。本開示のエッチング液パッケージは、一又は複数の実施形態において、エッチング液組成物と容器との組合せである。本開示のエッチング液パッケージにおけるエッチング液組成物及び容器は、上述したものが挙げられる。
【実施例
【0045】
以下に、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0046】
1.エッチング液組成物の調製(実施例1~15及び比較例1~2)
表1に示す窒素含有化合物、混酸(リン酸/酢酸/硝酸)、及び水を配合して実施例1~15及び比較例1~2のエッチング液組成物(pH:-1)を調製した。調製したエッチング液組成物における各成分の配合量(質量%、有効分)を表1に示した。
【0047】
エッチング液組成物の調製に用いた窒素含有化合物、酸及び水には、下記のものを用いた。
(窒素含有化合物)
ポリエチレンイミン[数平均分子量1800、日本触媒社製の「エポミンSP-018]
ペンタエチレンヘキサミン[分子量232、東ソー株式会社製]
アリルアミン重合体[重量平均分子量5000、ニットーボーメディカル株式会社製の「PAA-05]
ジアリルアミン/二酸化硫黄共重合体[重量平均分子量5000、ニットーボーメディカル株式会社製の「PAS-92A]
(混酸)
リン酸[燐化学工業社製]
酢酸[富士フイルム和光純薬株式会社]
硝酸[富士フイルム和光純薬株式会社]
(水)
水[栗田工業株式会社製の連続純水製造装置(ピュアコンティ PC-2000VRL型)とサブシステム(マクエース KC-05H型)を用いて製造した超純水]
【0048】
2.各パラメータの測定方法
[エッチング液組成物のpH]
エッチング液組成物の25℃におけるpH値は、pHメータ(東亜ディーケーケー社製)を用いて測定した値であり、pHメータの電極をエッチング液へ浸漬して1分後の数値である。
【0049】
3.容器
エッチング液組成物を充填するための容器には、下記のものを用いた。
ポリエチレン樹脂製容器:コダマ樹脂工業(株)製ハイパーピュアボトル、KM-331-2、青色
ポリプロピレン樹脂製容器:ニッコー・ハンセン(株)製JPボトル遮光、JP-1000A、茶色
【0050】
4.評価
[容器の変色の評価]
表1に示すエッチング液組成物(実施例1~15及び比較例1~2)9Lまたは0.9Lを、容量10Lまたは1Lの各種樹脂製容器に充填し、蓋を閉めたものを、常温(25℃)で2週間保管した。保管後、内容物を取り出し、容器内を水洗いし、未使用の容器との目視比較により、容器の外観を観察し、下記評価基準により容器の変色の有無、程度を評価した。
<評価基準>
A:容器の変色が認められない
B:容器の変色が極僅かに認められる
C:容器の大部分で変色が認められる
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示されるように、エッチング液組成物が窒素含有化合物を含有する実施例1~15は、エッチング液組成物が窒素含有化合物を含有しない比較例1~2に比べて、長期間保存した場合でも容器の変色を抑制できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本開示のエッチング液組成物は、半導体基板の製造方法において有用である。