(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】ウェスタンブロッティング用増強剤
(51)【国際特許分類】
G01N 33/531 20060101AFI20241009BHJP
【FI】
G01N33/531 B
(21)【出願番号】P 2021057457
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2023-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000173588
【氏名又は名称】公益財団法人がん研究会
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179431
【氏名又は名称】白形 由美子
(72)【発明者】
【氏名】芝 清隆
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】松田 将
(72)【発明者】
【氏名】野田 朋澄
(72)【発明者】
【氏名】原田 英治
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/133152(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2019/0204308(US,A1)
【文献】特開平10-075791(JP,A)
【文献】国際公開第2016/088689(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式1で表される単量体に基づく構成単位(a)を含有する重合体又は共重合体において、
該重合体又は共重合体を構成する全ての構成単位中に占める(a)の割合が20mol%以上100mol%以下である重合体又は共重合体
からなるウェスタンブロット用増感剤。
【化1】
(式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基を表し、L
1は1個のヒドロキシ基を有していてもよい炭素数2~4のアルキレン基、または炭素数2~4のアルキレンオキシアルキレン基を表し、R
2~R
4はそれぞれ独立して炭素数1~3の炭化水素基を表す。)
【請求項2】
前記共重合体が、下記の式2で表される単量体に基づく構成単位(b)をさらに含有する共重合体であって、
該共重合体を構成する全ての構成単位中に占めるbの割合は10mol%以上80mol%以下である、請求項1記載のウェスタンブロット用増感剤。
【化2】
(式2中、R
5は水素原子またはメチル基を表し、R
6は水素、炭素数2~10のアルキル基、又はベンジル基を表す。)
【請求項3】
請求項1又は2に記載の共重合体が、
式3で表される単量体に基づく構成単位(c)をさらに含有し、該共重合体を構成する全ての構成単位中に占めるcの割合は10mol%以上50mol%以下である、ウェスタンブロット用増感剤。
【化3】
(式3中、R
7は水素原子又はメチル基を表し、R
8は2個以上の水酸基を置換基として有する炭素数3~6のアルキル基を表す。)
【請求項4】
最終濃度が0.0001wt%以上0.5wt%以下で使用することを特徴とする
請求項1~3いずれか1項記載のウェスタンブロット用増感剤。
【請求項5】
タンパク質の検出方法であって、
タンパク質試料に請求項1~3いずれか1項記載の重合体又は共重合体を0.0001wt%以上
0.5wt%以下で含有させることを特徴とするタンパク質検出方法。
【請求項6】
ウェスタンブロッティングのシグナルを増感するためのキットであって、
2倍、又は4倍濃度のSDSサンプルバッファーに、
請求項1~3いずれか1項記載の重合体又は共重合体を最終濃度が0.0001wt%以上
0.5wt%以下となるように添加したサンプルバッファーを含むキット。
【請求項7】
還元剤を添付することを特徴とする
請求項6に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ウェスタンブロット、ドットブロット、スロットブロット等の免疫検出法において、シグナルを増強するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体を使用したアッセイ法は、ライフサイエンス分野の研究だけではなく、臨床検査等において、いまや必要不可欠な技術となっている。抗体を使用したアッセイ法には、ウェスタンブロッティング、ELISA(Enzyme-linked immuno-sorbent assay)、免疫組織染色、フローサイトメトリーなど様々な方法が知られている。
【0003】
ウェスタンブロッティングは、タンパク質を電気泳動し、特異的な抗体を反応させ可視化することによりタンパク質の発現量や分子量を測定する技術である。発現量だけではなく分子量も合わせて測定できることから、リン酸化、アセチル化、ユビキチン化などの翻訳後修飾の有無の解析など、ELISA等に比べて非常に情報量の多い解析方法である。一方で抗原又は抗体を固定し、抗原抗体反応を行わせるELISAほど感度を増強することができない。
【0004】
従来から、ウェスタンブロット法においてバックグラウンドを下げ、感度を増強するために様々な方法が試みられている(特許文献1、2)。特許文献1には、自己組織化能を有するタンパク質、具体的にはHBsAg(B型肝炎ウイルス表面抗原)タンパク質にプロテインA等の抗体結合ドメインを付与し、酵素標識をしたウイルス様粒子を作製し、ウェスタンブロット法の感度増強を図る方法が開示されている。特許文献2には、重量%濃度が0.01%以上のブロッキング剤および重量%濃度が1から10%の平均分子量2000~26000のポリエチレングリコールを含有する免疫反応促進用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/017037号
【文献】特開2006-126166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1及び2に見られるように、従来のウェスタンブロット法の感度増強に用いる組成物は、一次抗体、あるいは二次抗体の希釈液として、抗体と混合して使用するためのものである。すなわちバックグラウンドを低減し、感度を高めている。そのため、使用する抗体によっては、バックグラウンドの低減とともに、シグナル強度も低減し、感度の増強につながらない場合も多く、使用量の条件設定が困難な場合もあった。さらに、特許文献1に記載の方法は、増感剤として用いる自己組織化能を有するタンパク質とともにブロッキング剤を用いる必要があるが、ブロッキング剤の種類、濃度が、アッセイ系ごとに異なり、最適なブロッキング剤の種類及び濃度をその都度検討する必要があった。特許文献2に記載の免疫反応促進用組成物は、抗体の希釈液として使用する組成物である。塩濃度やpHを調整することによって、バックグラウンドを低減することはできるものの、検出系の感度の増強にはつながらず、微弱なシグナルを捕えることは難しかった。本発明は、簡便な操作で免疫アッセイ、特にウェスタンブロッティングの感度を増強するシグナル増強剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下のシグナル増強剤に関する。
(1)下記の式1で表される単量体に基づく構成単位(a)を含有する重合体又は共重合体において、該重合体又は共重合体を構成する全ての構成単位中に占める(a)の割合が20mol%以上100mol%以下である重合体又は共重合体を含む、ウェスタンブロット用増感剤。
【0008】
【化1】
(式(1)中、R
1は水素原子またはメチル基を表し、L
1は1個のヒドロキシ基を有していてもよい炭素数2~4のアルキレン基、または炭素数2~4のアルキレンオキシアルキレン基を表し、R
2~R
4はそれぞれ独立して炭素数1~3の炭化水素基を表す。)
(2)前記重合体が、下記の式2で表される単量体に基づく構成単位(b)をさらに含有する共重合体であって、該共重合体を構成する全ての構成単位中に占めるbの割合は10mol%以上80mol%以下である、(1)記載のウェスタンブロット用増感剤。
【0009】
【化2】
(式2中、R
5は水素原子またはメチル基を表し、R
6は炭素数2~10のアルキル基を表す。)
(3)(1)又は(2)に記載の共重合体が、式3で表される単量体に基づく構成単位(c)をさらに含有し、該共重合体を構成する全ての構成単位中に占めるcの割合は10mol%以上50mol%以下である、ウェスタンブロット用増感剤。
【0010】
【化3】
(式3中、R
7は水素原子又はメチル基を表し、R
8は2個以上の水酸基を置換基として有する炭素数3~6のアルキル基を表す。)
(4)タンパク質の検出方法であって、タンパク質試料に(1)~(3)いずれか1つ記載の重合体又は共重合体を0.0001wt%以上1wt%以下で含有させることを特徴とするタンパク質検出方法。
(5)ウェスタンブロッティングのシグナルを増感するためのキットであって、2倍、又は4倍濃度のSDSサンプルバッファーに、(1)~(3)いずれか1つ記載の重合体又は共重合体を最終濃度が0.0001wt%以上1wt%以下となるように添加したサンプルバッファーを含むキット。
(6)還元剤を添付することを特徴とする(5)に記載のキット。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】添加するポリマー濃度の検討を行った図。一次抗体として(A)は抗CD9抗体を(B)は抗EpCAM抗体を用いて検討を行った結果を示す。
【
図2】添加するポリマー濃度を0.0005%から0.5%まで変えて至適濃度の検討を行った図。一次抗体として(A)は抗CD9抗体を(B)は抗EpCAM抗体を用いて検討を行った結果を示す。
【
図3】抗CD81抗体を用い、種々のポリマーの効果を解析した図。(A)はウェスタンブロッティングによる結果を、(B)はシグナル強度を測定した結果を示す図。
【
図4】抗EpCAM抗体を用い、種々のポリマーの効果を解析した図。(A)は試料に2-メルカプトエタノールを添加せずにウェスタンブロッティングを行った結果を、(B)はシグナル強度を測定した結果を示す図。(C)は試料に2-メルカプトエタノールを添加してウェスタンブロッティングを行った結果を、(D)は移動度の遅いバンドのシグナル強度を測定した結果を、(E)は移動度の速いバンドのシグナル強度を測定した結果を示す図。
【
図5】抗CD9抗体を用い、種々のポリマーの効果を解析した図。(A)はウェスタンブロッティングによる結果を、(B)はシグナル強度を測定した結果を示す図。
【
図6】膜タンパク質以外のタンパク質の検出について検討を行った図。抗Hsp70抗体を用い、種々のポリマーの効果を解析した図。(A)はウェスタンブロッティングによる結果を、(B)はシグナル強度を測定した結果を示す図。
【
図7】膜タンパク質以外のタンパク質としてフェリチンに対する効果を解析した図。ウマ脾臓フェリチンを抗フェリチン抗体を用い、種々のポリマーの効果を解析した図。(A)はウェスタンブロッティングによる結果を、(B)はシグナル強度を測定した結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は免疫アッセイ、特にウェスタンブロット用の増感剤に関する。さらに、PVDFメンブレンやニトロセルロースメンブレン等の膜上で検出を行うドットブロットやスロットブロットなど、同様の検出形態のアッセイ法に対するシグナル増感剤としても利用できることは言うまでもない。
【0013】
本発明者らは、遠心管やチューブなどのプラスチック材料への非特異的吸着材として用いていたMPCポリマーに、シグナル増強剤としての効果があることを見出し、本発明を完成させた。以下の実施例で示すように、本発明のシグナル増強剤は、試料に混合して使用すれば効果があることから、ごく微量用いれば足りる。試料に、SDSサンプルバッファーとともに混合して使用するウェスタンブロッティングの増感剤は従来にはない。また1回試料に混合すればよく、用いる抗体によって濃度等の検討をする必要がないことから非常に簡便に使用することができる。さらに、本発明の増感剤は、SDSサンプルバッファーに混合した状態のキットとして提供していることから、従来のSDS電位泳動、ウェスタンブロッティングと全く同じ手順で増感を行うことができる。
【0014】
以下の実施例に示すように、増感剤として用いるポリマーの構成単位となるモノマーは次のようなものが好ましい。構成単位であるモノマーaは、以下の式(1)の構造式で表されるモノマーであって、R1は水素原子またはメチル基を表し、L1は1個のヒドロキシ基を有していてもよい炭素数2~4のアルキレン基、または炭素数2~4のアルキレンオキシアルキレン基を表し、R2~R4はそれぞれ独立して炭素数1~3の炭化水素基を表すモノマーを好適に用いることができる。特に、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを好ましく用いることができる。
【0015】
【0016】
また、モノマーaは、構成単位中に20mol%以上100mol%以下の割合で含むことができ、共重合体として用いる場合には、20mol%以上、より好ましくは30mol%以上、さらに好ましくは、40mol%以上で、また、90mol%以下、より好ましくは、80mol%以下、さらに好ましくは、70mol%以下の割合で含むことができる。
【0017】
また、モノマーbは、以下の式(2)の構造式で表されるモノマーであって、R5は水素原子またはメチル基を表し、R6は水素、炭素数2~10のアルキル基、又はベンジル基を表すモノマーを好適に用いることができる。より好ましくは、R6は炭素数2~10のアルキル基を表すモノマーを用いることができる。具体的には、ブチルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、メタクリル酸を、より好ましくはブチルメタクリレートを好適に用いることができる。
【0018】
【0019】
また、モノマーbを構成中に含む場合には、構成単位中に10mol%以上、好ましくは20mol%以上で、また、80mol%以下、より好ましくは70mol%以下の割合で含むことができる。
【0020】
また、モノマーcは、以下の式(3)の構造式で表されるモノマーであって、R7は水素原子又はメチル基を表し、R8は2個以上の水酸基を置換基として有する炭素数3~6のアルキル基を表すモノマーを好適に用いることができる。具体的にはグリセリンモノメタクリレートを好適に用いることができる。
【0021】
【0022】
また、モノマーcを構成中に含む場合には、構成単位中に10mol%以上、好ましくは15mol%以上で、また、50mol%以下、好ましくは40mol%以下の割合で含むことができる。
【0023】
また、モノマーaは親水性の高いモノマーであることが好ましく、モノマーbは、適度に疎水性のモノマーであることが好ましい。モノマーbの疎水性の度合いとしては、オクタノール/水分配係数(logP)が0~10であることが好ましく、0~5であることがより好ましく、1~5であることがよりさらに好ましい(表1参照)。
【0024】
ここで、ある物質のオクタノール/水分配係数とは、1-オクタノール/水の2相系において当該物質が分配平衡にあるとき、常用対数を用いてlog(1-オクタノール中の物質濃度/水中の物質濃度)で表される物性値であり、例えば日本工業規格JIS 7260-117に記載された方法によって測定することができる。または、各モノマーの供給元や、米国立衛生研究所PubChem等の公的データベースから提供される測定値や計算値を利用することができる。
【0025】
また、本発明の重合体又は共重合体の平均分子量は、ゲル濾過クロマトグラフィー測定によるポリエチレングリコール換算で15,000から1,500,000のものを好適に使用することができる。
【0026】
本発明のシグナル増感剤は、重合体又は共重合体を0.0001wt%以上、より好ましくは0.0005wt%以上、また、1wt%以下、より好ましくは0.5wt%以下で含有させることが好ましい。以下の実施例で示すように、本発明の重合体又は共重合体は非常に広い範囲で効果を奏する。本発明の重合体又は共重合体がシグナル増強に効果を及ぼす機序は明確ではないものの、ミセル形成能と関わりがあるものと推測される。そのため、0.0001wt%より少ない場合には、ミセルを形成し難く、所望のシグナル増感効果を得ることができない。また、1wt%より多く試料に含有させると、MPCポリマーによる非特異的吸着阻害効果が過剰に生じ、検出したいタンパク質と抗体との結合を抑制するため、増感剤としての効果を得ることができない。
【0027】
以下の実施例で示すように、本発明のシグナル増感剤は、検出する抗原、あるいは用いる抗体によって多少増感の程度に差があることから、異なる重合体を混合して用いてもよい。複数のポリマーを混合して使用することにより安定した結果を得ることができる。その場合には、総量が上記範囲になるようにして試料に含有させることができる。
【0028】
また、本発明の増感剤は、上記範囲内の濃度になるようにポリマーを添加したSDSサンプルバッファーとして提供することができる。通常用いられている2倍濃度、4倍濃度のSDSサンプルバッファーにポリマーを含有させて提供することにより、非常に簡便にウェスタンブロッティングのシグナルを増強させることができる。例えば、4×(4倍濃度)SDSサンプルバッファー(240mM Tris-HCl(pH6.8)、8% SDS、40% Glycerol、0.1% ブロモフェノールブルー)に、MPCポリマーを0.0004wt%以上、4wt%以下(最終濃度で0.0001wt%以上、1wt%以下)となるように加えた増感剤を含むSDSサンプルバッファーとして提供することができる。さらに、1M DTT水溶液、あるいはβ-メルカプトエタノールのような還元剤をサンプル調整時に添加できるように、キットとして用意しておくことができる。
【0029】
1.MPCポリマーの合成
検討を行ったポリマーの組成は表1にまとめた。
【表1】
MPC:2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン
BMA:ブチルメタクリレート
GLM:グリセリンモノメタクリレート
SMA:ステアリルメタクリレート
BzMA:ベンジルメタクリレート
MA:メタクリル酸
【0030】
合成は以下のようにして行った。
[合成例1]
モノマーaとして2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下「MPC」と記載)4.7g、モノマーbとしてブチルメタクリレート(以下「BMA」と記載)5.3g(モノマーa/モノマーb=30/70(モル比))を重合用ガラスフラスコに秤量し、エタノール(以下「EtOH」と記載)90.0gを加えてモノマーを溶解させ、得られた溶液に重合開始剤として2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(以下「AIBN」と記載)を0.02g加えた。反応容器内を十分に窒素置換した後、攪拌下、60℃で7時間加温することで重合を行った。得られた反応液を氷冷し、ジエチルエーテルに滴下することで重合体を沈殿させた。沈殿物を濾別し、ジエチルエーテルで洗浄した後、真空乾燥し、白色粉末状のランダム重合体(以下「重合体#1」と記載)を得た。重合体#1の重量平均分子量は、後述する条件でのゲル濾過クロマトグラフィー(以下「GPC」と記載)測定により、ポリエチレングリコール換算で93,000であった。
【0031】
[合成例2]
モノマーaとしてMPCを8.4g、単量体bとしてBMAを2.1g、および単量体cとしてグリセリンモノメタクリレート(以下「GLM」と記載)を4.5g(モノマーa/モノマーb/モノマーc=40/40/20(モル比))、重合用ガラスフラスコに秤量し、精製水42.5gおよびエタノール42.5gを加えて各モノマーを溶解し、得られた溶液に2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド(以下「V-50」と記載)を0.15g加えた。得られた反応液を氷冷し、アセトンに滴下することで重合体を沈殿させた。沈殿物を濾別し、アセトンで洗浄した後、真空乾燥し、白色粉末状のランダム重合体(以下「重合体#2」と記載)を得た。重合体#2の重量平均分子量は、後述する条件でのGPC測定により、ポリエチレングリコール換算で22,000であった。
【0032】
[合成例3]
モノマーaとしてMPCを11.7g、およびモノマーbとしてステアリルメタクリレート(以下「SMA」と記載)を3.3g(モノマーa/モノマーb=80/20(モル比))、重合用ガラスフラスコに秤量し、エタノール85.0gを加えて各モノマーを溶解し、得られた溶液にAIBNを0.06g加えた。フラスコ内を充分に窒素置換した後、攪拌下、60℃で6時間加温することにより重合を行った。以降は合成例1と同様にして、ランダム重合体(以下「重合体#3」と記載)を得た。重合体#3の重量平均分子量は、後述する条件でのGPC測定により、ポリエチレングリコール換算で43,000であった。
【0033】
[合成例4]
モノマーaとしてMPCを26.1g、およびモノマーbとしてベンジルメタクリレート(以下「BzMA」と記載)を3.9g(モノマーa/モノマーb=80/20(モル比))、重合用ガラスフラスコに秤量し、エタノール70.0gを加えて各モノマーを溶解し、得られた溶液にAIBNを0.03g加えた。フラスコ内を充分に窒素置換した後、攪拌下、60℃で6時間加温することにより重合を行った。以降は合成例1と同様にして、ランダム共重合体(以下「重合体#4」と記載)を得た。重合体#4の重量平均分子量は、後述する条件でのGPC測定により、ポリエチレングリコール換算で240,000であった。
【0034】
[合成例5]
モノマーaとしてMPC40.0gを重合用ガラスフラスコに秤量し、精製水60.0gを加えて溶解し、得られた溶液にV-50 0.31gを加えた。反応容器内を充分に窒素置換した後、攪拌下、70℃で6時間加温することで重合を行った。以降は合成例2と同様にして、白色粉末状の単独重合体(以下「重合体#5」と記載する)を得た。重合体#5の重量平均分子量は、後述する条件でのGPC測定により、ポリエチレングリコール換算で1,030,000であった。
【0035】
[合成例6]
モノマーaとしてMPCを19.4g、およびモノマーbとしてBMAを2.2g(モノマーa/モノマーb=80/20(モル比))、重合用ガラスフラスコに秤量し、精製水39.3gおよびエタノール39.3gを加えて各モノマーを溶解し、得られた溶液にV-50を0.02g加えた。フラスコ内を充分に窒素置換した後、攪拌下、60℃で5時間加温することで重合を行った。以降は合成例2と同様にして、ランダム共重合体(以下「重合体#6」と記載)を得た。重合体6の重量平均分子量は、後述する条件でのGPC測定により、ポリエチレングリコール換算で600,000であった。
【0036】
[合成例7]
モノマーaとしてMPCを6.0g、およびモノマーbとしてメタクリル酸(以下「MA」と記載)を4.0g(モノマーa/モノマーb=30/70(モル比))、重合用ガラスフラスコに秤量し、精製水90.0gを加えて各モノマーを溶解し、得られた溶液にV-50を0.78g加えた。以降は合成例2と同様にして、ランダム共重合体(以下「重合体#7」と記載)を得た。重合体#7の重量平均分子量は、後述する条件でのGPC測定により、ポリエチレングリコール換算で680,000であった。
【0037】
[GPC測定]
合成例1~7で得られた重合体#1~#7のGPC測定は、以下の条件で実施した。
GPCシステム:EcoSECシステム(東ソー株式会社製)
カラム:Shodex OHpak SB-802.5HQ(昭和電工株式会社製)、
およびSB-806HQ(昭和電工株式会社製)を直列に接続
展開溶媒:20mMりん酸ナトリウム緩衝液(pH 7.4)
検出器:示差屈折率検出器
分子量標準:EasiVial PEG/PEO(Agilent Technologies製)
流速:0.5ml/分
カラム温度:40℃
サンプル:得られた重合体を終濃度0.1重量%となるよう展開溶媒で希釈
注入量:100μL
【0038】
2.試料の作成
ウェスタンブロッティングに用いる試料はヒト結腸腺がん由来の細胞株HCT-15から差分遠心法で調整したsEV粗分画、あるいは、同じくヒト結腸腺がん由来の細胞株HT29から同様に調整したsEV粗分画を密度勾配遠心法により精製濃縮したsEV分画をPBSで10倍希釈したものを用いた。具体的には、5x107細胞のHCT-15細胞を、150mm径プラスチックシャーレ(IWAKI、11-001-008)8枚に播種し、5%仔牛血清を添加したRPMI培地で37℃、5%CO2条件下で30時間培養、その後、牛血清アルブミンを含まないRPMI培地に培地交換し、さらに40時間培養後の培養上清を回収した。この時の細胞数は、シャーレ8枚からの合計が3.28x108細胞であった。培養上清を300g、10分、4℃、スウィングローターで低速遠心し、上清を回収した。この上清を2000g、10分、4℃、スウィングローターで低速遠心し、上清を回収した。次にこの上清を10000g、30分、4℃、スウィングローターで遠心し、上清を回収した。さらに、この上清を160000g、70分、4℃、スウィングローターで超遠心し、上清を除去、沈殿物をPBSで1回洗浄した。最後に160000g、70分、4℃、スウィングローターで超遠心、上清を除去した後に沈殿物を500μlのPBSで懸濁したものをsEV粗分画とした。
【0039】
また、ヒト結腸腺がん由来の細胞株HT29の培養上清から、差分遠心法で得られた粗分画はさらに密度勾配遠心法で濃縮した。具体的には、粗分画を0.5mlのPBSに懸濁後、1.5mlの60%(wt/vol)iodixanolとまぜ、遠心チューブに移し、そこに、iodixanolの連続密度勾配(8-40%、20mM HEPES/NaOH buffer、pH7.2)を形成させ、100,000gで17時間4℃での超遠心(Optima L-90K with SW32Ti rotor)の後に、10の分画(各3.2ml)を回収し、それぞれに30mlのPBSを加えた後に、上記条件で160,000gで2時間遠心し、得られた沈殿を0.5mlのPBSに懸濁した。分画3を10倍希釈したものを試料として用いた。
【0040】
3.添加するポリマーの条件検討
これらの試料を用いて添加するMPCポリマーの濃度の検討を行った。具体的には、1.5ml(Protein LoBind Tube, Eppendorf)チューブに試料を10μlずつ入れ、さらに各チューブに12.5μlのPBS、もしくは、ポリマー溶液を加えた。さらに7.5μlのx4 SDS-Sample buffer(2メルカプトエタノール有りの条件と無しの条件)を加え、98℃10分で熱処理した後に、この半量15μlを電気泳動し、ウェスタンブロッティングを常法により行った。具体的には、15%、又は10-20%の市販ポリアクリルアミドゲル(Extra PAGE One Precast Gel、Nacalai Tesque、Inc.)で電気泳動した後、iBlot(Thermo Fisher Scientific)によりニトロセルロース膜に転写した。メンブレンはブロッキング溶液(Blocking One、 nacalai tesque)を用いて行った。
【0041】
[実施例1]
添加するポリマー濃度の検討(1)
HT29より精製したsEV画分10μlにモノマーaとしてMPCを、モノマーbとしてBMAを30:70のモル比で含有するMPCポリマー#1を濃度を変えて12.5μl加え、SDSサンプルバッファーを7.5μl加え、2-メルカプトエタノールなしの条件で電気泳動試料を作製した。試料に添加されたポリマーの最終濃度としては、0.0125wt%から0.21wt%まで濃度を変えて試料を添加していることになる。15%ゲルで電気泳動を行い、ウェスタンブロッティングを行った。メンブレンはブロッキング溶液でブロッキングを行った後、エクソソームマーカーである抗CD9抗体(コスモ・バイオ株式会社、SHI-EXO-M01)を一次抗体として抗体希釈溶液(Can Get Signal、TOYOBO)で2000倍に希釈し、二次抗体としてHRP標識ヤギ抗マウスIgG抗体(BIORAD社、170-6516)を5000倍に希釈して用いた。一次抗体は2時間、二次抗体は一時間室温でインキュベートし、洗浄はTBS-Tween(25mM Tris-HCl、150mM NaCl、0.1% Tween-20(Sigma-Aldrich))を用いた。また、検出はECL(Sigma-Aldrich)で発光させ、LumiVisionPRO(AISIN)を用いて行った(
図1(A))。試料にPBSを加えて電気泳動を行ったコントロール(レーン1)に比べて、ポリマー#1を加えた試料(レーン2~6)の方が、シグナルが増強している。
【0042】
また、
図1(B)は、一次抗体として抗EpCAM抗体(R&D Systems社、AF960)を1000倍希釈で、二次抗体としてペルオキシダーゼ標識ウサギ抗ヤギIgG(H+L)(Jackson Immuno Reseach、305-035-045)を2000倍に希釈して用いていた他は、上記と同じ条件で行っている。コントロールであるポリマーが含まれていない試料(レーン1、PBSを添加)に比べてポリマーを加えて電気泳動を行った試料(レーン2~6)で明らかにシグナルの増強が観察された。特に、0.03wt%に調整したポリマー#1を12.5μl/30μlで添加した試料、すなわち0.0125wt%になるようにポリマーを添加した試料(レーン2)でシグナルが一番強く増強され、添加するポリマー量が増加するにつれてシグナルが弱くなっているのが観察された。
【0043】
[実施例2]
添加するポリマー濃度の検討(2)
実施例1の検討結果から、添加するポリマー濃度は、0.03wt%付近(最終濃度0.0125wt%)で増加すると考えられた。そこで、より低濃度から濃度を振って検出感度が増強するポリマー濃度を検討した(
図2)。ポリマー#1を0.0005wt%から0.5wt%まで濃度を変えて添加した他は、実施例1と同様の条件でウェスタンブロッティングにより解析した。
【0044】
一次抗体として抗CD9抗体(
図2(A))を用いた場合でも、抗EpCAM抗体(
図2(B))を用いた場合でも、ポリマーを添加した試料はいずれもコントロールであるPBSを添加した試料に比べて強いシグナルが得られていた。特に、0.005wt%以上、0.5wt%以下の濃度のポリマーを添加した場合に検出感度の増強が観察された。また、0.05wt%濃度でポリマー#1を添加した場合に一番検出感度の増強が観察された。非常に広い濃度範囲で検出感度の増強が観察されることが明らかになった。他のポリマーに関しても、添加するポリマー濃度を0.05wt%、すなわちポリマーの最終濃度を0.021wt%に調整した試料を用いて検討を行うこととした。
【0045】
[実施例3]
種々のポリマーを用いた検討・・・CD81の検出
表1に示した種々のポリマーについて、シグナル増強作用を有するか解析を行った。各ポリマーを0.05wt%濃度で調製し、これを12.5μl/30μlで添加し、2-メルカプトエタノールを添加せずにHCT-15より得られたsEV粗分画を電気泳動した。一次抗体として抗CD81抗体(EXBIO、11-588-C100)を1000倍希釈し、二次抗体としてHRP標識ヤギ抗マウスIgG抗体(BIORAD社)を2000倍希釈し、ウェスタンブロッティングを行った。3回実験を繰り返し、各ポリマーを評価した(
図3)。
【0046】
モノマーaとしてMPCを、モノマーbとしてBMAを30:70のモル比で含有するMPCポリマー#1、モノマーaとしてMPCを、モノマーbとしてBMAを、モノマーcとしてGLMを40:40:20のモル比で含有するポリマー#2がコントロールに比べて強いシグナル強度が得られている(
図3(A))。シグナル強度を“Image J”のGel Analyzerによって定量したところ、コントロールに対してポリマー#1は4.8倍、ポリマー#2は9.2倍のシグナル増強が認められた(
図3(B))。モノマーbとしてSMAを含むポリマー#3を除く他のポリマー、すなわち、モノマーbとしてBzMAを含むポリマー#4、MPCのみからなるポリマー#5、MPCモノマーとBMAモノマーを80:20の比で含有するポリマー#6、モノマーbとしてMAを含むポリマー#7もPBSと比較するとシグナルが増強する傾向が認められた。
【0047】
[実施例4]
種々のポリマーを用いた検討・・・EpCAMの検出
表1に示した種々のポリマーについて、抗EpCAM抗体を使用してシグナル増強作用を有するか解析を行った(
図4)。HCT-15より得られたsEV粗分画試料に、0.05wt%に調製したポリマーを12.5μl/30μlで添加し、2-メルカプトエタノールを添加せずに電気泳動を行った。一次抗体として抗EpCAM抗体(R&D Systems社、AF960)を1000倍希釈し、二次抗体としてペルオキシダーゼ標識ウサギ抗ヤギIgG(H+L)(Jackson Immuno Reseach)を2000倍希釈し、ウェスタンブロッティングを行った。3回実験を繰り返し、各ポリマーを評価した。
【0048】
モノマーaとしてMPCを、モノマーbとしてBMAを30:70のモル比で含有するMPCポリマー#1はコントロールとしてPBSを添加した試料に比べて強いシグナルが得られている(
図4(A))。シグナル強度を定量したところ、コントロールに対してポリマー#1は2.8倍のシグナル増強が認められた(
図4(B))。ポリマー#2、ポリマー#3、ポリマー#4もシグナルを増強する傾向が認められた。
【0049】
試料に2-メルカプトエタノールを添加し、還元条件で電気泳動を行った場合のポリマーの効果について検討を行った。0.05wt%濃度になるように調製したポリマーを12.5μl/30μlで添加し、2-メルカプトエタノールを5%になるように添加して電気泳動を行い、ウェスタンブロッティングにより評価した。一次抗体、二次抗体など抗体との反応条件は
図4(A)に示したものと同様の条件で行った。3回実験を繰り返し、各ポリマーを評価した。還元条件下では、EpCAMは35kDa付近のバンドと、それより移動度の遅いバンドと2つのバンドが検出される。
【0050】
ポリマー#1はコントロールとしてPBSを添加した試料に比べて非常に強いシグナルが得られている(
図4(C))。シグナル強度を定量したところ、コントロールに対してポリマー#1は移動度の遅いバンドでは6.2倍、移動度の速いバンドでは7倍のシグナル増強が認められた(
図4(D)、(E))。実施例3のCD81の検出結果ではポリマー#2が非常に強いシグナル増強が認められたが、EpCAMの場合はポリマー#1に強いシグナル増強効果が認められた。
【0051】
[実施例5]
種々のポリマーを用いた検討・・・CD9の検出
表1に示した種々のポリマーについて、抗CD9抗体を使用してシグナル増強作用を有するか解析を行った(
図5)。0.05wt%に調整したポリマーを12.5μl/30μlでHT29より得たsEV試料に添加し、2-メルカプトエタノールを添加せずに電気泳動を行った。一次抗体として抗CD9抗体(コスモ・バイオ株式会社、SHI-EXO-MO1)を2000倍希釈し、二次抗体としてHRP標識ヤギ抗マウスIgG抗体(BIORAD社)を2000倍希釈し、ウェスタンブロッティングを行った。3回実験を繰り返し、各ポリマーを評価した。
【0052】
モノマーaとしてMPCを、モノマーbとしてBMAを30:70のモル比で含有するMPCポリマー#1、及び、モノマーaとしてMPCを、モノマーbとしてBMAを、モノマーcとしてGLMを40:40:20のモル比で含有するポリマー#2はコントロールとしてPBSを添加した試料に比べてシグナルをやや増強する傾向が見られた。
【0053】
[実施例6]
膜タンパク質以外のタンパク質に対する効果・・・Hsp70の検出
上記実施例で検討を行ったのはエクソソームマーカーとして知られている膜タンパク質である。そこで膜タンパク質以外のタンパク質の検出においても効果があるか解析を行うこととした。Hsp70はエクソソームマーカーとして知られているタンパク質であるが、いわゆる膜を貫通するタイプの膜タンパク質ではない。そこで、表1に示した種々のポリマーが、抗Hsp70抗体を使用したウェスタンブロッティングでシグナル増強作用を有するか解析を行った(
図6)。0.05wt%に調整したポリマーを12.5μl/30μlでHT29sより得たEV試料に添加し、2-メルカプトエタノールを添加して電気泳動を行った。一次抗体として抗Hsp70抗体(SBIバイオテック株式会社、EXOAB-Hsp70A-1)を1000倍希釈し、4℃で一晩、二次抗体としてHRP標識ヤギ抗マウスIgG抗体(BIORAD社)を2000倍希釈し、室温で1時間インキュベートし、ウェスタンブロッティングを行った(
図6(A))。3回実験を繰り返し、各ポリマーを評価した。
【0054】
モノマーaとしてMPCを、モノマーbとしてBMAを30:70のモル比で含有するMPCポリマー#1、及び、モノマーaとしてMPCを、モノマーbとしてBMAを、モノマーcとしてGLMを40:40:20のモル比で含有するポリマー#2はコントロールとしてPBSを添加した試料に比べてシグナルを増強する傾向が見られた(
図6(B))。
【0055】
[実施例7]
膜タンパク質以外のタンパク質に対する効果・・・フェリチンの検出
エクソソームマーカー以外のタンパク質についても解析を行った。ウマ脾臓フェリチンに対するポリマーの効果を検討した。ウマ脾臓フェリチン(GE Healthcare、Gel Filtration Calibration Kit HMW_GE)を、1レーンあたり30ng泳動し、MPCポリマーの効果を解析した(
図7)。
【0056】
各ポリマーを0.05%濃度になるように試料に添加し、2-メルカプトエタノールを添加して電気泳動を行った。一次抗体として抗ウマ脾臓フェリチン抗体(シグマ、F6136)を500倍希釈し、二次抗体としてHRP標識ヤギ抗マウスIgG抗体(BIORAD社)を2000倍希釈し、ウェスタンブロッティングを行った(
図7(A))。3回実験を繰り返し、各ポリマーを評価した。
【0057】
モノマーaとしてMPCを、モノマーbとしてBMAを30:70のモル比で含有するMPCポリマー#1、及び、モノマーaとしてMPCを、モノマーbとしてBMAを、モノマーcとしてGLMを40:40:20のモル比で含有するポリマー#2はコントロールと比較してシグナルを顕著に増強していた(
図7(B))。ポリマー#1は、4.8倍、ポリマー#2は3.6倍のシグナル増強が認められた。
【0058】
実施例で示してきたように、本発明の増感剤は膜タンパク質であっても、膜タンパク質以外のタンパク質であっても増感剤としての効果が認められることから、疎水性、親水性、どのようなタンパク質であっても効果が得られるものと考えられる。しかし、一定の疎水性基を構成要素として有する共重合体で良好な結果が得られていることから、エクソソームのマーカータンパク質のような膜タンパク質の検出に適しているものと考えられる。
【0059】
以上示したように、MPCポリマーを試料に添加して電気泳動を行い、ウェスタンブロッティングを行うことにより、シグナル増強効果が得られることが明らかとなった。特に、MPCとBMAの共重合体、及びMPC、BMA、及びGLMの共重合体は、種々の試料、抗体を用いた実験条件下でも強いシグナル増強作用を有する。さらに、MPCとBzMA、又はMAの共重合体、さらにMPCホモポリマーもPBSと比較するとシグナル増強が認められた。試料に添加することにより、シグナル増強が得られるシグナル増感剤は今までにない。また、これらポリマーをSDSサンプルバッファーに予め混合して使用するだけでよく、非常に簡便な操作でシグナル増強を得ることができる。