(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】制御棒挿入性評価装置および制御棒挿入性評価方法
(51)【国際特許分類】
G21C 17/10 20060101AFI20241009BHJP
【FI】
G21C17/10 720
G21C17/10 750
(21)【出願番号】P 2021089348
(22)【出願日】2021-05-27
【審査請求日】2024-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】十河 直也
(72)【発明者】
【氏名】小出 祐一
(72)【発明者】
【氏名】後藤 祥広
(72)【発明者】
【氏名】飯島 唯司
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-168989(JP,A)
【文献】特開2008-203162(JP,A)
【文献】特開2014-211445(JP,A)
【文献】特開2016-008892(JP,A)
【文献】特開2021-031207(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0177710(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の地震動が入力された時の振動状態を模擬する制御棒挿入性評価装置であって、
地震開始からの経過時間と燃料集合体のたわみ量とを対応させて記憶した記憶部と、
地震開始から制御棒の挿入開始までの時間と前記制御棒の挿入開始からの経過時間との合計時間を用いて前記記憶部から前記たわみ量を引き出すたわみ量引出部と、
挿入開始からの前記制御棒の移動距離、前記たわみ量、および前記制御棒に付与される摩擦力を対応させて記憶した摩擦力記憶部と、
挿入開始からの前記制御棒の移動距離、前記たわみ量引出部により引き出された前記たわみ量を用いて前記摩擦力記憶部から摩擦力を引き出す摩擦力引出部と、
前記摩擦力引出部より引き出された摩擦力を前記制御棒に付与する摩擦力付与部と、を備えた
ことを特徴とする制御棒挿入性評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制御棒挿入性評価装置において、
原子炉内の温度と圧力を模擬した液体で満たされ、前記制御棒および前記摩擦力付与部が格納された試験容器を更に備え、
前記試験容器は、
前記制御棒を鉛直方向に駆動させる制御棒駆動装置と、
前記液体を加熱するヒーターと、
前記試験容器の内側を加圧するポンプと、を有する
ことを特徴とする制御棒挿入性評価装置。
【請求項3】
請求項1に記載の制御棒挿入性評価装置において、
前記記憶部において記憶される前記たわみ量は、二次元で表現される2つの物理量である
ことを特徴とする制御棒挿入性評価装置。
【請求項4】
請求項3に記載の制御棒挿入性評価装置において、
前記摩擦力記憶部において記憶される前記
たわみ量は、二次元で表現する2つの物理量である
ことを特徴とする制御棒挿入性評価装置。
【請求項5】
請求項1に記載の制御棒挿入性評価装置において、
評価結果を表示する表示部を更に備えた
ことを特徴とする制御棒挿入性評価装置。
【請求項6】
請求項5に記載の制御棒挿入性評価装置において、
前記表示部には、前記経過時間、前記移動距離、前記摩擦力記憶部から引き出された摩擦力、前記摩擦力付与部で付与された摩擦力が表示される
ことを特徴とする制御棒挿入性評価装置。
【請求項7】
請求項1に記載の制御棒挿入性評価装置において、
前記制御棒の挿入開始から挿入終了までのスクラム時間と設計閾値とを比較し、前記スクラム時間が前記設計閾値を下回るときは合格、前記スクラム時間が前記設計閾値以上の時は不合格と判定する比較評価部を更に備えた
ことを特徴とする制御棒挿入性評価装置。
【請求項8】
請求項1に記載の制御棒挿入性評価装置において、
前記記憶部が記憶する前記たわみ量は、前記燃料集合体の構造ごとに異なるラベルが付与されており、
前記摩擦力記憶部が記憶する前記摩擦力は、前記燃料集合体の構造ごとに前記ラベルと同一のラベルが付与されている
ことを特徴とする制御棒挿入性評価装置。
【請求項9】
請求項1に記載の制御棒挿入性評価装置において、
前記摩擦力引出部より引き出された摩擦力に耐震裕度を付加する裕度付加部を更に備え、
前記摩擦力付与部は、耐震裕度が付加された摩擦力を前記制御棒に付与する
ことを特徴とする制御棒挿入性評価装置。
【請求項10】
請求項1に記載の制御棒挿入性評価装置において、
前記摩擦力付与部は、前記制御棒と接触する板と、前記板を前記制御棒に対して垂直に押し当てるピストンと、を有し、
前記ピストンの動力源と、
前記動力源から動力を前記ピストンへ供給する供給配管と、を更に備えた
ことを特徴とする制御棒挿入性評価装置。
【請求項11】
請求項1に記載の制御棒挿入性評価装置において、
前記摩擦力付与部は、付与する前記摩擦力を時間変化させる
ことを特徴とする制御棒挿入性評価装置。
【請求項12】
請求項1に記載の制御棒挿入性評価装置において、
前記制御棒の挿入性を評価する対象の原子炉は、ABWR、もしくはABWR以降の新世代のBWRである
ことを特徴とする制御棒挿入性評価装置。
【請求項13】
所定の地震動が入力された時の振動状態を模擬する制御棒挿入性評価方法であって、
制御棒が炉心に挿入される際に、地震開始から前記制御棒の挿入開始までの時間と前記制御棒の挿入開始からの経過時間との合計時間に基づいて燃料集合体のたわみ量を求めるたわみ量引出ステップと、
挿入開始からの前記制御棒の移動距離、前記たわみ量引出ステップにより引き出された前記たわみ量に基づいて前記制御棒に付与する摩擦力を求める摩擦力引出ステップと、
前記摩擦力引出ステップより引き出された摩擦力を前記制御棒に付与する摩擦力付与ステップと、を有する
ことを特徴とする制御棒挿入性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電設備における原子炉での制御棒の挿入性を評価するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試験時の加振に起因する地震動の発生を抑制できる耐震試験設備の一例として、特許文献1には、水で満たされた容器の内部に原子炉内の燃料を模擬した模擬燃料及び制御棒が収納され、その制御棒を模擬燃料に挿入する制御棒駆動装置が取り付けられた試験容器と、試験容器の周囲に設置された反力壁と、反力壁に固定され、試験容器を水平方向に振動させる加振機と、試験容器が水平方向に沿って往復動可能に試験容器を支持する荷重支持機構及びリニアスライド機構とを備える、ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
地震等による構造物の耐震安全性を評価することは様々な分野において要求されている。例えば、日本における原子力発電設備の振動試験に関する一連の基準等は、その設計・建設・運転などにおいて実現することが適切と考えられる技術および技術的活動の仕様について、原子力発電設備の安全性と信頼性を確保する観点から、日本電気協会電気技術指針(Japan Electric Association Guide(JEAG))において詳細に定められている。
【0005】
また、原子力機器に関する耐震設計技術については、「発電用原子炉施設に関する耐震設計指針」に適合するものとして「原子力発電所耐震設計技術指針追補版(JEAG4601-1991)」において規定されている。
【0006】
上記の「JEAG4601-1991」には、制御棒に関する地震時機能評価法が付属書4.4に明記されている。この評価法の基本的な考え方は、「制御棒が地震時に要求される動的機能は、地震時に原子炉を確実に停止する為に炉心に挿入されることであり、そのためには地震時における制御棒の挿入性について評価する」ことである。
【0007】
このような評価は、解析的に行うことと共に実験的に行うことが必要であり、実験的に制御棒の実証データを得るには耐震試験設備が必要になる。すなわち、地震時を想定して燃料集合体を加振機により加振して、その間に制御棒を挿入させて挿入に必要な時間を評価することにより、制御棒の挿入機能が維持されることを確認する耐震試験設備が必要となる。
【0008】
また、地震以外にも燃料集合体に外力が加わってたわんだ場合の制御棒の挿入性を確かめる試験も重要である。
【0009】
地震時の制御棒挿入機能の耐震性を試験によって確認する装置の一例が、特許文献1に開示されている。この技術では、液体で満たされた容器内部に複数の模擬燃料が収納され、その試験容器には制御棒を模擬燃料間に挿入する制御棒駆動装置が取り付けられている。また試験容器にはヒーターとポンプが接続されており、液体を加熱・加圧することで原子炉内の温度・圧力を模擬できるようにしている。試験容器内部の模擬燃料には接続治具を介して反力壁に固定された加振機が複数接続されており、実際の地震に近い状態で模擬燃料をすることを試みている。
【0010】
上記の特許文献1では、反力壁に固定された加振機と加熱・加圧された試験容器内部の模擬燃料集合体を治具で接続する構造になっている。
【0011】
しかし、模擬燃料集合体は複数あるため、加振機を固定するための反力壁も複数台必要となり、試験コストが大きくなるおそれがある。また模擬燃料集合体と加振機を接続する接続治具と試験容器との取り合い部の構造を実現することが技術的に難しいという課題があり、改善が求められる。
【0012】
本発明の目的は、制御棒の挿入性の試験を簡易に、かつより実条件に近い条件で再現することが可能な制御棒挿入性評価装置および制御棒挿入性評価方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、所定の地震動が入力された時の振動状態を模擬する制御棒挿入性評価装置であって、地震開始からの経過時間と燃料集合体のたわみ量とを対応させて記憶した記憶部と、地震開始から制御棒の挿入開始までの時間と前記制御棒の挿入開始からの経過時間との合計時間を用いて前記記憶部から前記たわみ量を引き出すたわみ量引出部と、挿入開始からの前記制御棒の移動距離、前記たわみ量、および前記制御棒に付与される摩擦力を対応させて記憶した摩擦力記憶部と、挿入開始からの前記制御棒の移動距離、前記たわみ量引出部により引き出された前記たわみ量を用いて前記摩擦力記憶部から摩擦力を引き出す摩擦力引出部と、前記摩擦力引出部より引き出された摩擦力を前記制御棒に付与する摩擦力付与部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、制御棒の挿入性の試験を簡易に、かつより実条件に近い条件で再現することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例1に係る制御棒挿入性評価装置の全体概略図である。
【
図2】
図1中のA-A’断面における断面図である。
【
図3】実施例1の制御棒挿入性評価装置の機能構成の概略、および摩擦力付与の概要を示す図である。
【
図4】実施例1に係る制御棒挿入性評価装置の試験結果を表示する表示画面の一例を示す図である。
【
図5】実施例1に係る制御棒挿入性評価装置の試験結果グラフを表示する表示画面の一例を示す図である。
【
図6】実施例1に係る制御棒挿入性評価装置の試験結果判定を表示する表示画面の一例を示す図である。
【
図7】本発明の実施例2の制御棒挿入性評価装置の概略、および摩擦力付与の概要を示す図である。
【
図8】本発明の実施例3の制御棒挿入性評価装置の概略、および摩擦力付与の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の制御棒挿入性評価装置および制御棒挿入性評価方法の実施例を、図面を用いて説明する。
【0017】
なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一、または類似の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0018】
<実施例1>
本発明の制御棒挿入性評価装置および制御棒挿入性評価方法の実施例1について
図3乃至
図6を用いて説明する。
【0019】
最初に、制御棒挿入性評価装置の全体構成について
図1および
図2を用いて説明する。
図1は本実施例1に係る制御棒挿入性評価装置の全体概略図、
図2は
図1中のA-A’断面における断面図である。
【0020】
図1等に示す制御棒挿入性評価装置1は、所定の地震動が入力された時の振動状態を模擬することで制御棒201の挿入性を評価するための装置であり、スクラム時間を評価することができる。
【0021】
評価対象となる原子炉は、主に沸騰水型原子炉であるが、沸騰水型原子炉としては、好適にはABWR、もしくはABWRより新しい世代のBWRが対象となる。但し、対象の沸騰水型原子炉はABWRの前世代のBWRであってもよいし、また、沸騰水型原子炉に限らず、PWRなどの他の型の原子炉にも好適に適用可能である。
【0022】
図1および
図2に示すように、制御棒挿入性評価装置1は、制御棒201、ピストン202、試験容器203、ヒーター204、ポンプ205、制御棒駆動系206、水207、制御棒案内管蓋208、制御棒案内管209、配管210、駆動源211、処理装置212、十字型溝301、板302、接続治具303等を備えている。
【0023】
試験容器203は、制御棒201やピストン202、制御棒案内管209等が格納されている。試験容器203の下部には制御棒201を試験容器203上部へ鉛直方向に上昇駆動させるための制御棒駆動系206が取り付けられている。図示の都合上省略しているが、試験容器203の内部には、制御棒201などの観測や計測用のセンサ取り付けのための観測窓が複数個設けられる。
【0024】
試験容器203内は、実際の原子炉と同じ環境を再現するために原子炉内の温度と圧力を模擬した水207で満たされている。この水207は、試験容器203に接続されているヒーター204によって加熱されるとともにポンプ205によって加圧されており、原子炉内の温度(約300℃)・圧力(約7MPa)が模擬されている。このように原子炉内の温度・圧力を模擬することで、より実機に近い条件を模擬することができ、評価精度の向上を図るとともに、より安全性を高めるための試験が可能となる。
【0025】
図2に示すように、制御棒案内管209の上部には、制御棒案内管蓋208が設置されており、制御棒案内管蓋208の上部に制御棒201に摩擦力を加えるためのピストン202が固定されている。
【0026】
制御棒案内管蓋208は燃料集合体支持金具を模擬するように制御棒201が挿入される部分に十字型溝301が備わっている。その制御棒案内管蓋208には8台のピストン202が、制御棒201の表面に対して垂直な往復運動が可能な向きで配置されている。
【0027】
ピストン202は、それぞれ、制御棒201と接触する板302に対して接続治具303により接続されており、板302を制御棒201に対して垂直に押し当てる部材である。このピストン202が往復運動を行うことで、板302を制御棒201表面に押し付けることが可能となる。このピストン202が、
図3に示す摩擦力付与部108に相当する。
【0028】
制御棒201が挿入される際、ピストン202により板302を制御棒201に押し付けることで制御棒201に対して摩擦力を発生させる。この摩擦力を制御することでたわみが生じた燃料集合体の間の制御棒201の挿入時に生じる挿入抗力を模擬する。板302は金属材料でもよいし、ゴムなどの樹脂材料でもよく、その材質に制限はない。
【0029】
ピストン202には、ピストン202の駆動源211と、駆動源211から動力をピストン202へ供給する配管210a,210b,210c,210dが接続されている。以下では、各配管210a,210b,210c,210dの区別が必要無いときには添字(a,b,c,d)を省略するものとする(他の構成の添字についても同様とする)。
【0030】
配管210は制御棒201の挿入に干渉しない経路を通過し、駆動源211へ接続される(
図1参照)。摩擦力をピストン202で与えることで試験容器203外部に設置した加振機等で模擬燃料集合体を加振する必要がなく、これに伴って試験容器との取り合いも不要になることから、試験コストの削減が可能となる。また、模擬燃料集合体が不要となることでも試験コストの削減を図ることができる。駆動源211は油圧や空気圧等の圧力でもよいし、電力等でもよい。駆動源211は動力を制御する処理装置212と接続されている。
【0031】
次いで、
図1中の処理装置212で実施される処理と制御棒挿入性評価装置の機能構成について
図3を用いて説明する。
図3は制御棒挿入性評価装置の機能構成の概略、および摩擦力付与の概要を示す図である。
【0032】
処理装置212は、地震発生時のスクラム発生時に制御棒が燃料集合体から受ける挿入抗力を模擬した摩擦力を出力するとともに、挿入性の評価結果を処理・表示するための装置であり、コンピュータで構成されている。処理装置212は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)や、ROM(Read Only Memory)、SSD(Solid State Drive)あるいはHDD(Hard Disk Drive)、およびディスプレイ等の、一般的なコンピュータとしてのハードウエアを備える。SSD等には、OS(Operating System)、アプリケーションプログラム、および各種データ等が格納されている。OSおよびアプリケーションプログラムは、RAMに展開され、CPUによって実行される。
【0033】
処理装置212は、機能構成として、
図3に示すように、挿入経過時間記録部102、取得データ記憶部111、比較評価部112、表示部113、記憶部105、引出部104、摩擦力記憶部106、摩擦力引出部107等を有している。
【0034】
制御棒移動距離取得部103は、制御棒駆動系206の動作指示量を記録・取得する部分であり、取得情報を取得データ記憶部111に出力する。なお、制御棒移動距離取得部103は、センサで制御棒201の駆動距離を直接計測する形態であってもよく、この場合は処理装置212内の構成ではなくなる。
【0035】
挿入経過時間記録部102は、制御棒駆動系206への動作指示タイミングを取得することで、制御棒挿入開始直前より制御棒挿入部101における挿入開始からの経過時間を取得する。取得した経過時間の情報を取得データ記憶部111に出力する。なお、制御棒移動距離取得部103が制御棒201の動作を直接検出するセンタとする場合は、動作開始タイミングを検出することで制御棒移動距離取得部103が挿入経過時間記録部102を兼ねることができる。
【0036】
取得データ記憶部111は、制御棒移動距離取得部103、挿入経過時間記録部102において取得された情報を記憶する部分であり、好適には上述のSSDあるいはHDDで構成される。
【0037】
比較評価部112は、制御棒201の挿入開始から挿入終了までのスクラム時間と設計閾値とを比較し、スクラム時間が設計閾値を下回るときは合格、スクラム時間が設計閾値以上の時は不合格と判定する。あるいは、制御棒201のうち挿入されるべき長さのすべてが挿入終了時に正常に挿入されているときは合格、挿入されるべき長さ未満が挿入終了時に挿入されているときは不合格と判定してもよい。比較評価部112による判定結果は、表示部113に出力される。
【0038】
表示部113は、比較評価部112における評価結果を表示する装置であり、上述のディスプレイに相当する。この画面には、後述する
図4や
図5、
図6に示す各種結果が表示される。それらの詳細は後述する。
【0039】
記憶部105は、所定の地震動に対する燃料集合体のたわみ量の時間履歴、すなわち地震開始からの経過時間と燃料集合体のたわみ量とを対応させて記憶する記憶装置であり、上述の取得データ記憶部111と同様にSSDあるいはHDDで構成される。
【0040】
引出部104は、地震開始から制御棒201の挿入開始までの時間と挿入経過時間記録部102から入力される制御棒201の挿入開始からの経過時間との合計時間を用いて、該当のタイミングにおける燃料集合体のたわみ量を記憶部105から引き出す部分であり、たわみ量引出ステップの実行主体である。
【0041】
摩擦力記憶部106は、挿入開始からの制御棒201の移動距離、燃料集合体のたわみ量、およびそのたわみ量と位置で制御棒201に加わる挿入抗力となる摩擦力との3つの情報を対応させて記憶する装置であり、上述の記憶部105や取得データ記憶部111と同様に好適にはSSDあるいはHDDで構成される。
【0042】
記憶部105において記憶される燃料集合体のたわみ量は、直交座標や極座標を用いて二次元で表現される2つの物理量とすることができるが、燃料集合体の中心軸からの距離として一次元で表現してもよい。
【0043】
これに対応して、摩擦力記憶部106で記憶する燃料集合体のたわみ量の表現方法は決定され、摩擦力記憶部106において記憶される燃料集合体のたわみ量は、二次元で表現する2つの物理量とすることができる。
【0044】
これら記憶部105や、摩擦力記憶部106で記憶する情報は解析的に求めてもよいし、実験で求めてもよい。
【0045】
摩擦力引出部107は、制御棒移動距離取得部103から入力される挿入開始からの制御棒201の移動距離、引出部104により引き出されたたわみ量を用いて、該当のタイミングにおける摩擦力記憶部106から摩擦力を引き出す部分であり、摩擦力引出ステップの実行主体である。摩擦力引出部107は、引き出した摩擦力をピストン202の個数と板302の摩擦係数で割った値の情報を駆動源211に対して出力する。
【0046】
駆動源211では、処理装置212の摩擦力引出部107において導き出された摩擦力でピストン202は板302を制御棒201へ押し付けるように駆動制御を行う。
【0047】
摩擦力付与部108は、駆動源211により駆動され、摩擦力引出部107より引き出された摩擦力を制御棒201に付与する装置であり、摩擦力付与ステップの実行主体である。この摩擦力付与部108は、上述のようにピストン202に相当し、制御棒201に摩擦力が付与される。
【0048】
この摩擦力付与部108は、付与する摩擦力を時間変化させるものとすることができるが、時間経過に関わらず一定の摩擦力を付与するものとしてもよい。
【0049】
この状態で制御棒駆動系206に相当する制御棒挿入部101により制御棒201が挿入動作を開始し、所定の地震動における制御棒201の挿入性の評価を実施する。
【0050】
まず、制御棒挿入開始直前より制御棒挿入部101において挿入開始からの経過時間を挿入経過時間記録部102で記録し、また制御棒201の初期位置からの移動距離を制御棒移動距離取得部103で取得する。
【0051】
地震開始から制御棒挿入開始までの時間と挿入開始からの経過時間の合計時間を用いて燃料集合体のたわみ量の時間履歴の記憶部105からその合計時間に対応する燃料集合体のたわみ量を引出部104にて引き出す(たわみ量引出ステップ)。
【0052】
引き出した燃料集合体のたわみ量と制御棒201の移動距離とを用いて摩擦力記憶部106を参照して摩擦力引出部107にて該当する時間における摩擦力を引き出す(摩擦力引出ステップ)。
【0053】
引き出した摩擦力は摩擦力付与部108にて制御棒201に付与される(摩擦力付与ステップ)。摩擦力の付与は処理装置212から駆動源211を介して行われる。
【0054】
処理装置212では実施される上記の一連の流れは挿入開始直後から挿入終了まで絶えず実施され、その間、ピストン202で制御棒201へ与える摩擦力は制御される。
【0055】
なお、挿入完了の判定は、制御棒移動距離取得部103により取得される移動距離が所定閾値を超えると判断されるタイミングとしてもよいし、制御棒201の挿入完了位置に設けるセンサによる直接の検出結果としてもよい。
【0056】
次いで、制御棒挿入性評価装置1における評価結果画面の表示例を
図4乃至
図6を用いて説明する。
図4は試験結果を表示する表示画面の一例を示す図、
図5は試験結果グラフを表示する表示画面の一例を示す図、
図6は試験結果判定部の判定結果を表示する表示画面の一例を示す図である。
【0057】
図4は、表示部113に表示される試験結果で得られたデータを表示する画面であり、表402には、挿入開始からの経過時間403、その時間における制御棒の移動距離データ404、摩擦力引出部107で摩擦力記憶部106から引き出された摩擦力405、摩擦力付与部108で制御棒201に対して負荷した摩擦力406の数値が表示される。
【0058】
引き出した摩擦力と負荷した摩擦力の両方を記録しておくことにより、処理装置212で導いた摩擦力が的確に制御棒201に入力されているかを監視することができる。
【0059】
図5は、表示部113に表示される
図4の表402をグラフ化した画面であり、グラフ501には、表402で示した時刻ごとのデータが時間履歴グラフとして示されており、各々のデータが、縦軸502a,502b,502c、横軸504a,504b,504c、グラフ503a,503b,503cの形式で表示される。
【0060】
図4に示す表402や
図5に示すグラフ501は、時々刻々と更新されてもよいし、挿入開始から挿入完了までのデータを記録しておいて挿入完了直後にまとめて表示してもよい。
図5のようにグラフを表示することで、試験データの時間経過が一目でわかり、試験官が試験に不具合が生じていないかの判断を迅速に実施できる。
【0061】
なお、データの時間ステップ幅は制御棒の移動距離を測定する測定機器のサンプリング周期を最小とすることが望ましい。
【0062】
また、監視画面に表示例で示している表示項目は必要最小限のものであり、これらに追加して試験容器203内の温度・圧力を監視して表示してもよいし、記憶部105から引き出した燃料集合体のたわみ量を記録し、また表示してもよい。
【0063】
図6は、表示部113に表示されるスクラム時間の評価結果を表示する画面であり、表601には、設計目安値表示領域602、スクラム時間表示領域603、判定結果表示領域604が表示される。
【0064】
設計目安値以内にスクラム時間が収まる場合に判定列に合格が表示される。設計目安値は予め処理装置212に入力し、スクラム時間は、制御棒201の挿入開始から挿入完了までの時間が表示される。制御棒201の挿入完了時刻は、予め挿入完了となる制御棒201の移動距離を処理装置212に入力しておき、この移動距離に到達した時刻となる。
【0065】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0066】
上述した本発明の実施例1の制御棒挿入性評価装置1は、所定の地震動が入力された時の振動状態を模擬する装置であって、地震開始からの経過時間と燃料集合体のたわみ量とを対応させて記憶した記憶部105と、地震開始から制御棒201の挿入開始までの時間と制御棒201の挿入開始からの経過時間との合計時間を用いて記憶部105からたわみ量を引き出す引出部104と、挿入開始からの制御棒201の移動距離、たわみ量、および制御棒201に付与される摩擦力を対応させて記憶した摩擦力記憶部106と、挿入開始からの制御棒201の移動距離、引出部104により引き出されたたわみ量を用いて摩擦力記憶部106から摩擦力を引き出す摩擦力引出部107と、摩擦力引出部107より引き出された摩擦力を制御棒201に付与する摩擦力付与部108と、を備えている。
【0067】
これによって、制御棒201の挿入の阻害要因となる燃料集合体のたわみを加振機を使用することなく再現できるようになり、炉内温度・圧力を模擬した地震時のスクラム時間の評価(制御棒挿入性)試験を従来に比べて容易に実施することができるようになる。また、加振機を使用せずに済むため、試験装置の製作コストを小さくすることができるとの効果も奏する。
【0068】
また、原子炉内の温度と圧力を模擬した水207で満たされ、制御棒201および摩擦力付与部108が格納された試験容器203を更に備え、試験容器203は、制御棒201を鉛直方向に駆動させる制御棒駆動系206と、水207を加熱するヒーター204と、試験容器203の内側を加圧するポンプ205と、を有するため、原子炉内の温度、圧力を容易に再現することができるようになり、評価精度の更なる向上を図れるとともに、より一層安全性を高めるための試験を実施できるようになる。
【0069】
更に、記憶部105において記憶されるたわみ量は、二次元で表現される2つの物理量であることや摩擦力記憶部106において記憶される燃料集合体のたわみ量は、二次元で表現する2つの物理量であることで、燃料集合体のたわみをより精密に表現することができ、より実機に近い条件での挿入性評価を容易に実行できるようになる。
【0070】
また、評価結果を表示する表示部113を更に備えた、特に表示部113には、経過時間、移動距離、摩擦力記憶部106から引き出された摩擦力、摩擦力付与部108で付与された摩擦力が表示されることにより、評価結果をより容易に把握できるようになる。
【0071】
更に、制御棒201の挿入開始から挿入終了までのスクラム時間と設計閾値とを比較し、スクラム時間が設計閾値を下回るときは合格、スクラム時間が設計閾値以上の時は不合格と判定する比較評価部112を更に備えたことで、挿入性の評価がより容易となる。
【0072】
また、摩擦力付与部108は、制御棒201と接触する板302と、板302を制御棒201に対して垂直に押し当てるピストン202と、を有し、ピストン202の駆動源211と、駆動源211から動力をピストン202へ供給する配管210と、を更に備えたことにより、燃料集合体にたわみが生じた際に制御棒201に付加される挿入の抵抗となる力を容易な構造で実現することができる。
【0073】
更に、摩擦力付与部108は、付与する摩擦力を時間変化させることで、より実際の地震動により変形が生じた場合に近い条件での試験が可能となる。
【0074】
<実施例2>
本発明の実施例2の制御棒挿入性評価装置および制御棒挿入性評価方法について
図7を用いて説明する。
図7は本実施例2の制御棒挿入性評価装置の概略、および摩擦力付与の概要を示す図である。
【0075】
本実施例の制御棒挿入性評価装置1Aは、
図7に示すように、基本的な構成は実施例1と同様であるが、燃料集合体に複数の構造案がある場合の試験装置である。
【0076】
燃料集合体の構造が異なる場合、そのたわみ量やその時間履歴も異なるものになる。そこで、本実施例の制御棒挿入性評価装置1Aでは、構造が異なる燃料集合体のたわみ量を予め記憶しておくこととする。
【0077】
図7に示すように、本実施例2の処理装置212Aでは、記憶部105Aが記憶する燃料集合体のたわみ量情報703,704は、燃料集合体の構造ごとに異なるラベルが付与されている。
【0078】
同様に、摩擦力記憶部106Aで記憶する、燃料集合体のたわみ量と、そのたわみ量と制御棒の移動距離に対応する挿入抗力となる摩擦力も、燃料集合体の構造によって異なることから、記憶部105Aと同一のラベリングになるように、摩擦力記憶部106Aが記憶する摩擦力情報701,702は、燃料集合体の構造ごとにラベルと同一のラベルが付与されている。
【0079】
図7ではラベルの種類が2つの場合を示しているが、想定する燃料集合体の構造は3種類以上存在してもよく、その場合はラベリングの数が増えることで対応する。
【0080】
試験実施時は、一回の挿入開始から終了までの間の記憶部105Aおよび摩擦力記憶部106Aから引き出す値のラベリングは同一とし、挿入試験ごとにラベリングを変更可能なものとする。
【0081】
その他の構成・動作は前述した実施例1の制御棒挿入性評価装置および制御棒挿入性評価方法と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0082】
本発明の実施例2の制御棒挿入性評価装置および制御棒挿入性評価方法においても、前述した実施例1の制御棒挿入性評価装置および制御棒挿入性評価方法とほぼ同様な効果が得られる。
【0083】
また、記憶部105Aが記憶するたわみ量は、燃料集合体の構造ごとに異なるラベルが付与されており、摩擦力記憶部106Aが記憶する摩擦力は、燃料集合体の構造ごとにラベルと同一のラベルが付与されていることにより、一つの試験装置で複数の燃料集合体の構造を想定した試験が可能となり、様々な条件の試験に対応する評価装置・評価方法とすることができる。従って、構造の異なる模擬燃料集合体を用意する必要がなく、また試験ごとに模擬燃料集合体の換装も必要ないため、試験コストを削減でき、かつ試験に要する期間も短縮することができるようになる。
【0084】
<実施例3>
本発明の実施例3の制御棒挿入性評価装置および制御棒挿入性評価方法について
図8を用いて説明する。
図8は本実施例3の制御棒挿入性評価装置の概略、および摩擦力付与の概要を示す図である。
【0085】
図8に示すように、本実施例の制御棒挿入性評価装置1Bは、基本的な構成は実施例1と同様であるが、本実施例では、更に耐震裕度を考慮する。
【0086】
図8に示すように、処理装置212Bは、摩擦力引出部107より引き出された摩擦力に耐震裕度を付加する耐震裕度付加部801を更に有する。耐震裕度の付加は摩擦力を係数倍してもよいし、計算式を利用してもよい。
【0087】
また、摩擦力付与部108は、耐震裕度が付加された摩擦力を制御棒201に付与する。
【0088】
その他の構成・動作は前述した実施例1の制御棒挿入性評価装置および制御棒挿入性評価方法と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0089】
本発明の実施例3の制御棒挿入性評価装置および制御棒挿入性評価方法においても、前述した実施例1の制御棒挿入性評価装置および制御棒挿入性評価方法とほぼ同様な効果が得られる。
【0090】
また、摩擦力引出部107より引き出された摩擦力に耐震裕度を付加する耐震裕度付加部801を更に備え、摩擦力付与部108は、耐震裕度が付加された摩擦力を制御棒201に付与することにより、実機よりも大きな挿入抗力が制御棒201に加わり、挿入性の評価に加えて安全側の試験を実施できるようになる、との効果が得られる。
【0091】
なお、本実施例の耐震裕度付加部801は実施例2の制御棒挿入性評価装置1Aに対しても適用可能である。
【0092】
<その他>
なお、これまで説明してきた実施例は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されない。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
【符号の説明】
【0093】
1,1A,1B…制御棒挿入性評価装置
101…制御棒挿入部
102…挿入経過時間記録部
103…制御棒移動距離取得部
104…引出部(たわみ量引出部)
105,105A…記憶部
106,106A…摩擦力記憶部
107…摩擦力引出部
108…摩擦力付与部
111…取得データ記憶部
112…比較評価部
113…表示部
201…制御棒
202…ピストン
203…試験容器
204…ヒーター
205…ポンプ
206…制御棒駆動系(制御棒駆動装置)
207…水(液体)
208…制御棒案内管蓋
209…制御棒案内管
210,210a,210b,210c,210d…配管
211…駆動源
212,212A,212B…処理装置
301…十字型溝
302…板
303…接続治具
402…表
403…経過時間
404…移動距離データ
405…摩擦力
406…摩擦力
501…グラフ
502a,502b,502c…縦軸
503a,503b,503c…グラフ
504a,504b,504c…横軸
601…表
602…設計目安値表示領域
603…スクラム時間表示領域
604…判定結果表示領域
701,702…摩擦力情報
703,704…たわみ量情報
801…耐震裕度付加部