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  • 特許-蓄電体および蓄電構造物 図1
  • 特許-蓄電体および蓄電構造物 図2
  • 特許-蓄電体および蓄電構造物 図3
  • 特許-蓄電体および蓄電構造物 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】蓄電体および蓄電構造物
(51)【国際特許分類】
   H01M 6/12 20060101AFI20241009BHJP
   C04B 28/26 20060101ALI20241009BHJP
   C04B 12/04 20060101ALI20241009BHJP
   H01M 50/103 20210101ALI20241009BHJP
   H01M 50/117 20210101ALI20241009BHJP
   H01M 50/112 20210101ALN20241009BHJP
【FI】
H01M6/12 A
C04B28/26
C04B12/04
H01M50/103
H01M50/117
H01M50/112
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021122514
(22)【出願日】2021-07-27
(65)【公開番号】P2023018406
(43)【公開日】2023-02-08
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮原 茂禎
(72)【発明者】
【氏名】新藤 竹文
(72)【発明者】
【氏名】崎原 孫周
(72)【発明者】
【氏名】谷 翼
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 友美
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-188334(JP,A)
【文献】特開2017-132657(JP,A)
【文献】国際公開第2020/021451(WO,A1)
【文献】特開2020-113379(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0135452(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 6/52
H01M10/00-10/04
H01M10/06-10/34
H01M50/10-50/198
C04B 2/00-32/02
C04B40/00-40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジオポリマー組成物の硬化体と、前記硬化体に植設された正負一対の電極と、を備える蓄電体であって、
前記ジオポリマー組成物は、ケイ酸アルカリ水溶液を含有していることを特徴とする、蓄電体。
【請求項2】
前記ジオポリマー組成物が、フライアッシュおよび高炉スラグからなる活性粉体を含有していることを特徴とする、請求項1に記載の蓄電体。
【請求項3】
前記活性粉体の含有量と前記ケイ酸アルカリ水溶液の含有量との質量比が、1:0.3~0.8であることを特徴とする、請求項2に記載の蓄電体。
【請求項4】
前記フライアッシュの含有量と前記高炉スラグの含有量との質量比が1:0.04~0.06であることを特徴とする、請求項2または請求項3に記載の蓄電体。
【請求項5】
前記硬化体の前記電極が植設された面と対向する面には、前記電極に接続する他の電極を挿入可能な凹部が形成されていることを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の蓄電体。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の蓄電体が複数連設されていることを特徴とする、蓄電構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電体とこの蓄電体を利用した蓄電構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
温室効果ガスの排出量削減を目的として、再生可能エネルギーの需要が高まっている。再生可能エネルギーには、例えば、太陽光発電、風力発電、水力発電、地熱発電、バイオマス等がある。
再生可能エネルギー等により発電された電力は、蓄電設備に蓄電することで、安定的な供給を図る。電力を安定的に供給するためには、必要な電力を蓄電することが可能な蓄電設備が必要となるが、大掛かりな蓄電設備を構築するためには、広い用地が必要となる。
ところで、コンクリートは、様々な構造物に使用されており、面積・容積の大きい構造物にも使用されている。そのため、本出願人は、構造物を構成するコンクリートに蓄電機能を持たせることで、構造物自体を蓄電池として利用する発想に至った。
ここで、特許文献1には、フレッシュコンクリート中の水分を電解質として使用する電池が開示されている。ところが、特許文献1に記載の発明は、硬化前のフレッシュコンクリートに関するもので、構造物の一部として所定の強度を有する硬化体に関するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-263735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、蓄電性能を備えた構造物を構築することを可能とする蓄電体と、この蓄電体を利用した蓄電構造物を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明の蓄電体は、ジオポリマー組成物の硬化体と、前記硬化体に植設された正負一対の電極とを備えるものである。前記ジオポリマー組成物は、ケイ酸アルカリ水溶液を含有している。ケイ酸アルカリ水溶液は、例えば、ケイ酸カリウム水溶液、ケイ酸ナトリウム水溶液、ケイ酸リチウム水溶液であり、2種類以上のケイ酸アルカリ水溶液を含有していてもよいし、ケイ酸アルカリを主成分とする水ガラス(ケイ酸アルカリの濃厚水溶液)でもよい。
また、本発明の蓄電構造物は、複数の前記蓄電体を連設することにより構築されたものである。
なお、前記ジオポリマー組成物は、フライアッシュおよび高炉スラグからなる活性粉体を含有しているのが望ましい。この活性粉体の含有量と前記ケイ酸アルカリ水溶液の含有量との質量比は、1:0.3~0.8とするのが望ましい。また、前記フライアッシュの含有量と前記高炉スラグの含有量との質量比は、1:0.04~0.06とするのが望ましい。
かかる蓄電体によれば、ジオポリマー材料を主体として構成されているため、耐久性が高い。また、各材料の配合を調整することにより、構造体として必要な強度を発現する。そのため、蓄電体を建材として利用することができ、これを連設することにより、大面積の蓄電構造物を構築することができる。
なお、前記硬化体の前記電極が植設された面と対向する面に、前記電極に接続する他の電極を挿入可能な凹部が形成されていれば、複数の蓄電体を連結して、大規模な蓄電施設を構築することが可能となる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の蓄電体およびこの蓄電体を利用した蓄電構造物によれば、大面積・大容積の蓄電領域を確保した構造物を構築することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態にかかる蓄電構造物の例を示す図である。
図2】蓄電体を示す図であって、(a)は斜視図、(b)は平断面図、(c)は断面図である。
図3】蓄電領域の概要を示す正面図である。
図4】蓄電体の放電特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施形態では、道路構造物(蓄電構造物)1の少なくとも一部を構成する構造体に蓄電体2を使用することで、大面積・大容積の蓄電領域3を確保する場合を例示する。本実施形態では、道路の付帯設備に必要な電力を蓄電領域3から供給する場合について説明する。図1に本実施形態の道路構造物1を示す。道路構造物1の内部には、図1に示すように、蓄電領域3が確保されている。道路構造物1には、発電設備(太陽光パネル)4が設けられていて、発電設備4により発電された電力を蓄電領域3において蓄電する。蓄電領域3に蓄電された電力は、例えば、道路に設けられた照明11やIoTセンサ12に供給される。蓄電領域3は、複数の蓄電体2,2,…を連設する(組み合わせる)ことにより構成されている。図2に蓄電体2を示す。
【0009】
蓄電体2は、ジオポリマー組成物の硬化体5を主体としており、図2(a)に示すように、ブロック状を呈している。硬化体5には、正負一対の電極6,6が植設されている。本実施形態の蓄電体2は、直方体であり、角(稜線)を介して連続する二つの側面に、それぞれ一対の電極6,6が設けられている。電極6の先端部は、硬化体5から突出しており、電極6のそのほかの部分は、硬化体5に埋設されている。また、図2(b)および(c)に示すように、硬化体5の6面のうち、電極6,6が植設された側面と対向する面(電極6が突出する面の反対側の面)には、凹部7が形成されている。凹部7は、電極6に接続される他の電極6(他の蓄電体2の電極6)を挿入可能である。本実施形態の凹部7は、電極6の形状に応じたスリット状の溝である。凹部7の底面には、凹部7に挿入された電極6と当接可能となるように、当該蓄電体2に植設された電極6の他端側の面が露出している。
本実施形態のジオポリマー組成物は、活性粉体と、ケイ酸アルカリ水溶液とを含有している。活性粉体の含有量とケイ酸アルカリ水溶液の含有量との質量比は1:0.3~0.8としている。
ケイ酸アルカリ水溶液は、例えば、ケイ酸カリウム水溶液、ケイ酸ナトリウム水溶液、ケイ酸リチウム水溶液であり、2種類以上のケイ酸アルカリ水溶液を含有していてもよいし、ケイ酸アルカリを主成分とする水ガラス(ケイ酸アルカリの濃厚水溶液)でもよい。
活性粉体は、フライアッシュおよび高炉スラグからなる。ここで、活性粉体中のフライアッシュの含有量と記高炉スラグの含有量との質量比は1:0.04~0.06である。
蓄電領域3は、図3に示すように、蓄電体2を前後左右に連設することにより形成されている。
【0010】
本実施形態の蓄電体2によれば、ジオポリマー材料を主体として構成されているため、耐久性が高い。そのため、長期に亘ってメンテナンスフリーの状態を維持可能である。また、蓄電体2を保護材により被覆(梱包)する必要がなく、屋外での使用が可能である。
また、各材料の配合を調整することにより、構造体として必要な強度を発現する。そのため、蓄電体2を建材として利用することができ、これを連設することにより、通常の電子デバイスでは成し得ない大面積・大容積の蓄電領域3を構築できる。
【0011】
次に、本実施形態の蓄電体2の性能を確認した実験結果について説明する。本実験では、配合が異なる蓄電体2を製造する際の材料の固まりやすさや、電力を消費した際の放電特性を確認した。表1に各試料(ケースA~E)の配合(質量比)を示す。また、表2にケースA~Eの材齢28日の圧縮強度を示す。さらに、図4にケースA~Eの放電特性を示す。
【0012】
【表1】
【0013】
【表2】
【0014】
表2に示すように、ケースDとケースEは、ケースAおよびケースCに比べて大きな圧縮強度を発現することが確認できた。また、ケースBも早期に強度を発現することが確認できた。
また、図4に示すように、ケースA、CおよびEは、ケースBおよびDに比べて、電力を消費した際に、急激に低下することなく、電圧が時間とともになめらかに放電される結果となった。そのため、ケースA、CおよびEがケースB,Dに比べて蓄電性が優れていることが確認できた。
以上の結果から、ケースA,Cは、蓄電性に優れているものの、構造体としての強度が低かった。また、ケースB,Dは、大きな圧縮強度を発現するものの、蓄電性が低かった。一方、ケースE(フライアッシュの含有量と高炉スラグの含有量との質量比が1:0.04~0.06の範囲内)の配合によれば、他の配合に比べて、蓄電性および強度発現性に優れていることが確認できた。
【0015】
以上、本発明の実施形態について説明したが本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
本実施形態では、ジオポリマー組成物だけで硬化体5を形成したが、ジオポリマー組成物に細骨材、粗骨材、合成樹脂繊維、発泡ビーズなどを混練して硬化体5を形成してもよい。
前記実施形態では、蓄電体2から電極6が2方向に突出していて、蓄電体2同士を縦横に接続する場合について説明したが、蓄電体2から突出する電極6は1方向のみであってもよい。このとき、蓄電体2同士は、一方向に連設する。なお、蓄電領域3は、必ずしも複数の蓄電体2を連設することにより形成する必要はなく、一つの蓄電体2
のみで構成されていてもよい。
前記実施形態では、ブロック状(直方体状)の硬化体5としたが、硬化体5の形状は限定されるものではなく、例えば、円柱状にするなど、使用する蓄電構造物などの形状に応じて適宜決定すればよい。
前記実施形態では、凹部7内において、電極6の端面同士を突き合わせるものとしたが、電極6同士は、凹部7内において、端部同士を重ね合わせて面接触させてもよい。
また、前記実施形態では、面毎に一組の正負一対の電極6,6を配設するものとしたが、二組以上の電極6,6が一つも面に配設されていてもよい。
電極6は、ジオポリマー組成物との接触面積を増加させるための加工が施されていてもよい。このような加工としては、例えば、表面に凹凸を形成したり、複数の穴をあけるなどしてもよい。
【符号の説明】
【0016】
1 道路構造物(蓄電構造物)
2 蓄電体
3 蓄電領域
4 発電設備
5 硬化体
6 電極
7 凹部
図1
図2
図3
図4