(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】車両用灯具
(51)【国際特許分類】
F21S 41/275 20180101AFI20241009BHJP
F21S 41/143 20180101ALI20241009BHJP
F21S 41/151 20180101ALI20241009BHJP
F21S 41/40 20180101ALI20241009BHJP
F21S 41/32 20180101ALI20241009BHJP
F21W 102/155 20180101ALN20241009BHJP
F21Y 103/10 20160101ALN20241009BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20241009BHJP
【FI】
F21S41/275
F21S41/143
F21S41/151
F21S41/40
F21S41/32
F21W102:155
F21Y103:10
F21Y115:10
(21)【出願番号】P 2021167553
(22)【出願日】2021-10-12
【審査請求日】2024-08-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099999
【氏名又は名称】森山 隆
(72)【発明者】
【氏名】末次 麻希子
【審査官】竹中 辰利
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-207774(JP,A)
【文献】特開2019-36564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 41/275
F21S 41/143
F21S 41/151
F21S 41/40
F21S 41/32
F21W 102/155
F21Y 103/10
F21Y 115/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と投影レンズとを備え、上記光源からの出射光を上記投影レンズを介して灯具前方へ向けて照射することにより、ロービーム用配光パターンとハイビーム用配光パターンとを選択的に形成し得るように構成された車両用灯具において、
上記光源として、ロービーム照射時およびハイビーム照射時に点灯する複数の第1発光素子と、ハイビーム照射時に追加点灯する複数の第2発光素子とを備えており、
上記複数の第2発光素子は、上記複数の第1発光素子から下方に離れた位置に配置されており、
上記複数の第1発光素子と上記複数の第2発光素子との間に、上記ロービーム用配光パターンのカットオフラインを形成するために上記複数の第1発光素子からの出射光の一部を遮光するシェードが配置されており、
上記投影レンズにおいて上記複数の第1発光素子からの出射光が入射しない領域に、上記複数の第2発光素子からの出射光を下向きに偏向させる下向き偏向部が形成されている、ことを特徴とする車両用灯具。
【請求項2】
上記下向き偏向部は、上記投影レンズの後面に形成されている、ことを特徴とする請求項1記載の車両用灯具。
【請求項3】
上記下向き偏向部は、上記複数の第2発光素子からの出射光を左右方向に拡散させるように構成されている、ことを特徴とする請求項1または2記載の車両用灯具。
【請求項4】
上記複数の第2発光素子は、左右方向に並んだ状態でかつ発光面を上記投影レンズへ向けた状態で配置されている、ことを特徴とする請求項1~3いずれか記載の車両用灯具。
【請求項5】
上記複数の第2発光素子からの出射光を上記投影レンズへ向けて反射させる第2リフレクタを備えている、ことを特徴とする請求項1~4いずれか記載の車両用灯具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、投影レンズを備えた車両用灯具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両用灯具の構成として、複数の発光素子からの出射光を投影レンズを介して灯具前方へ向けて照射することにより、ロービーム用配光パターンとハイビーム用配光パターンとを選択的に形成し得るように構成されたものが知られている。
【0003】
「特許文献1」の
図8には、このような車両用灯具の構成として、ロービーム照射時およびハイビーム照射時に点灯する複数の第1発光素子と、ハイビーム照射時に追加点灯する複数の第2発光素子とを備えたものが記載されている。
【0004】
その際、複数の第2発光素子は複数の第1発光素子から下方に離れた位置に配置されており、両者の間にはロービーム用配光パターンのカットオフラインを形成するために複数の第1発光素子からの出射光の一部を遮光するシェードが配置されている。
【0005】
そして、この「特許文献1」に記載された車両用灯具においては、複数の第1発光素子の点灯によりロービーム用配光パターンを形成するとともに、複数の第2発光素子の追加点灯によりロービーム用配光パターンのカットオフラインの上方側に付加配光パターンを付加してハイビーム用配光パターンを形成するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記「特許文献1」に記載された車両用灯具においては、ロービーム用配光パターンのカットオフラインの上方側に付加配光パターンが付加されることによってハイビーム用配光パターンが形成される構成となっているが、その際、ロービーム用配光パターンと付加配光パターンとが滑らかに繋がった連続的な配光パターンとしてハイビーム用配光パターンを形成することは容易でない。
【0008】
これに対し、ロービーム用配光パターンのカットオフラインを多少ぼかした状態で形成するようにすれば、付加配光パターンとの連続性を確保することが可能となる。しかしながら、このようにした場合にはカットオフラインの鮮明度が低下してしまうので、ロービーム照射時の遠方視認性を十分に確保することができなくなってしまう。
【0009】
本願発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、光源からの出射光を投影レンズを介して灯具前方へ向けて照射するように構成された車両用灯具において、ロービーム照射時の遠方視認性を十分に確保した上で、ハイビーム用配光パターンを連続的な配光パターンとして形成することができる車両用灯具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明は、投影レンズの構成に工夫を施すことにより、上記目的達成を図るようにしたものである。
【0011】
すなわち、本願発明に係る車両用灯具は、
光源と投影レンズとを備え、上記光源からの出射光を上記投影レンズを介して灯具前方へ向けて照射することにより、ロービーム用配光パターンとハイビーム用配光パターンとを選択的に形成し得るように構成された車両用灯具において、
上記光源として、ロービーム照射時およびハイビーム照射時に点灯する複数の第1発光素子と、ハイビーム照射時に追加点灯する複数の第2発光素子とを備えており、
上記複数の第2発光素子は、上記複数の第1発光素子から下方に離れた位置に配置されており、
上記複数の第1発光素子と上記複数の第2発光素子との間に、上記ロービーム用配光パターンのカットオフラインを形成するために上記複数の第1発光素子からの出射光の一部を遮光するシェードが配置されており、
上記投影レンズにおいて上記複数の第1発光素子からの出射光が入射しない領域に、上記複数の第2発光素子からの出射光を下向きに偏向させる下向き偏向部が形成されている、ことを特徴とするものである。
【0012】
上記「複数の第1発光素子」の具体的な配置やその配置個数は特に限定されるものではない。
【0013】
上記「複数の第2発光素子」は、複数の第1発光素子から下方に離れた位置に配置されていれば、その具体的な配置やその配置個数は特に限定されるものではない。
【0014】
上記「下向き偏向部」は、投影レンズにおいて複数の第1発光素子からの出射光が入射しない領域において、複数の第2発光素子からの出射光を下向きに偏向させるように形成されていれば、その具体的な配置や形状等は特に限定されるものではなく、投影レンズの前面に形成されていてもよいし後面に形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本願発明に係る車両用灯具は、光源からの出射光を投影レンズを介して灯具前方へ向けて照射するように構成されており、その光源としてロービーム照射時およびハイビーム照射時に点灯する複数の第1発光素子とハイビーム照射時に追加点灯する複数の第2発光素子とを備えているが、複数の第2発光素子は複数の第1発光素子から下方に離れた位置に配置されており、両者の間には複数の第1発光素子からの出射光の一部を遮光するシェードが配置されているので、複数の第1発光素子の点灯によりロービーム用配光パターンを形成することができ、また、複数の第2発光素子の追加点灯によりハイビーム用配光パターンを形成することができる。
【0016】
その際、投影レンズにおいて複数の第1発光素子からの出射光が入射しない領域には、複数の第2発光素子からの出射光を下向きに偏向させる下向き偏向部が形成されているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0017】
すなわち、複数の第2発光素子の追加点灯により、ロービーム用配光パターンのカットオフラインの上方側には付加配光パターンが付加的に形成されるが、この付加配光パターンは投影レンズの下向き偏向部からの出射光によって下端領域が下方側に拡張された配光パターンとして形成される。
【0018】
したがって付加配光パターンを、その下端領域がロービーム用配光パターンのカットオフライン近傍領域と重複した状態で形成することができ、これによりロービーム用配光パターンと付加配光パターンとが滑らかに繋がった連続的な配光パターンとしてハイビーム用配光パターンを形成することができる。
【0019】
しかもこれを、ロービーム用配光パターンの形成には何ら影響を及ぼすことなく実現することができるので、カットオフラインの鮮明度はそのまま維持することができ、これによりロービーム照射時の遠方視認性を十分に確保することができる。
【0020】
このように本願発明によれば、光源からの出射光を投影レンズを介して灯具前方へ向けて照射するように構成された車両用灯具において、ロービーム照射時の遠方視認性を十分に確保した上で、ハイビーム用配光パターンを連続的な配光パターンとして形成することができる。
【0021】
上記構成において、さらに、下向き偏向部の構成として、投影レンズの後面に形成されたものとすれば、複数の第2発光素子からの出射光を下向きに偏向させる制御を精度良く行うことができ、かつ、投影レンズにおいて複数の第1発光素子からの出射光が入射しない領域に下向き偏向部を配置することが容易に可能となる。
【0022】
上記構成において、さらに、下向き偏向部の構成として、複数の第2発光素子からの出射光を左右方向に拡散させるように構成されたものとすれば、付加配光パターンの下端領域をより均一な明るさでロービーム用配光パターンのカットオフライン近傍領域と重複させることができる。したがってハイビーム用配光パターンを、ロービーム用配光パターンと付加配光パターンとが滑らかに繋がった連続的な配光パターンとして形成することが一層容易に可能となる。
【0023】
上記構成において、さらに、複数の第2発光素子が左右方向に並んだ状態でかつ発光面を投影レンズへ向けた状態で配置された構成とすれば、付加配光パターンをその下部領域が広範囲にわたってロービーム用配光パターンのカットオフライン近傍領域と重複した配光パターンとして形成することが容易に可能となる。したがってハイビーム用配光パターンを、ロービーム用配光パターンと付加配光パターンとが滑らかに繋がった連続的な配光パターンとして形成することが一層容易に可能となる。
【0024】
上記構成において、さらに、複数の第2発光素子からの出射光を投影レンズへ向けて反射させる第2リフレクタを備えた構成とすれば、付加配光パターンの明るさを増大させることができ、かつ、ハイビーム用配光パターンを連続的な配光パターンとして形成することが一層容易に可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本願発明の一実施形態に係る車両用灯具を示す側断面図
【
図4】上記車両用灯具からの照射光によって形成される配光パターンを示す図
【
図5】上記実施形態の比較例を示す、
図4と同様の図
【
図6】上記実施形態の第1変形例を示す、
図2と同様の図
【
図7】上記実施形態の第2変形例を示す、
図3と同様の図
【
図8】上記実施形態の第3変形例を示す、
図2と同様の図
【
図10】上記第3変形例に係る車両用灯具からの照射光によって形成される配光パターンを示す図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を用いて、本願発明の実施の形態について説明する。
【0027】
図1は、本願発明の一実施形態に係る車両用灯具10を示す側断面図である。また、
図2は、
図1のII方向矢視図である。
【0028】
これらの図において、Xで示す方向が「灯具前方」であり、Yで示す方向が「灯具前方」と直交する「左方向」(灯具正面視では「右方向」)であり、Zで示す方向が「上方向」である。これら以外の図においても同様である。
【0029】
車両用灯具10は、車両の前端部に設けられるヘッドランプであって、ランプボディ12と透光カバー14とで形成される灯室内に、灯具ユニット20が収容された構成となっている。
【0030】
【0031】
図3にも示すように、灯具ユニット20は、いわゆるプロジェクタ型の灯具ユニットであって、光源としての複数の第1および第2発光素子30、40と、第1および第2リフレクタ32、42と、投影レンズ50とを備えており、その照射光によってロービーム用配光パターンとハイビーム用配光パターンとを選択的に形成し得るように構成されている。
【0032】
具体的には、複数の第1発光素子30はロービーム照射時およびハイビーム照射時に点灯するように構成されており、複数の第2発光素子40はハイビーム照射時に追加点灯するように構成されている。
【0033】
そして、灯具ユニット20は、複数の第1発光素子30からの直射光および複数の第1発光素子30から出射して第1リフレクタ32で反射した光を、投影レンズ50を介して灯具前方へ向けて照射することによりロービーム用配光パターンを形成するようになっており、また、複数の第2発光素子40からの直射光および複数の第2発光素子40から出射して第2リフレクタ42で反射した光を、投影レンズ50を介して灯具前方へ向けて照射することによりハイビーム用の付加配光パターンを形成するようになっている。
【0034】
なお、
図3においては、第1発光素子30からの出射光の光路を破線で示しており、第2発光素子40からの出射光の光路を実線で示している。
【0035】
次に、灯具ユニット20の具体的な構成について説明する。
【0036】
図3に示すように、投影レンズ50は、前面50aが凸曲面状に形成された平凸非球面レンズであって、灯具前後方向に延びる光軸Axを有している。この投影レンズ50は、その後側焦点Fを含む焦点面である後側焦点面上に形成される光源像を、反転像として灯具前方(すなわち車両前方)の仮想鉛直スクリーン上に投影するようになっている。
【0037】
投影レンズ50の後面50bには、その下部領域に下向き偏向部50cが形成されている(これについては後述する)。
【0038】
投影レンズ50は、その外周部においてレンズホルダ52に支持されており、このレンズホルダ52はヒートシンク54に支持されている。
【0039】
図2に示すように、複数の第1発光素子30は、光軸Axよりも上方側において左右方向に並んだ状態で配置されており、複数の第2発光素子40は、光軸Axよりも下方側において左右方向に並んだ状態で配置されている。
【0040】
複数の第1発光素子30は、いずれも矩形状(具体的には正方形)の発光面30aを有する11個の白色発光ダイオードで構成されており、互いに僅かな間隔をおいて配置されている。その際、光軸Axの真上に配置された第1発光素子30およびその右側(灯具正面視では左側)に配置された5個の第1発光素子30は、左側に配置された残り5個の第1発光素子30に対して下方側に変位した状態で配置されている。
【0041】
一方、複数の第2発光素子40は、いずれも矩形状(具体的には発光面30aと同一サイズの正方形)の発光面40aを有する9個の白色発光ダイオードで構成されており、互いに僅かな間隔をおいて横一列で配置されている。
【0042】
複数の第1および第2発光素子30、40は共通の基板56に搭載されており、この基板56はヒートシンク54に支持されている。
【0043】
図3に示すように、基板56は、光軸Axと直交する鉛直面に対して後傾した状態で配置されている。その際、基板56の鉛直面に対する後傾角度は10~20°(例えば15°程度)の値に設定されている。これにより複数の第1および第2発光素子30、40は、その発光面30a、40aを灯具正面方向に対して10~20°(例えば15°程度)上向きの方向へ向けた状態(すなわち投影レンズ50へ向けた状態)で配置されている。
【0044】
第1および第2リフレクタ32、42は、基板56よりも灯具前方側に配置されている。これら第1および第2リフレクタ32、42は一体的に形成されており、その左右両端部においてヒートシンク54に支持されている。
【0045】
第1リフレクタ32は、複数の第1発光素子30を囲むように形成された反射面32aを有しており、この反射面32aにおいて複数の第1発光素子30からの出射光を投影レンズ50へ向けて反射させるように構成されている。その際、この反射面32aは、横長の凹曲面状の反射面形状を有しており、その上端縁は灯具正面視において略横長楕円形の外形形状を有している。
【0046】
一方、第2リフレクタ42は、複数の第2発光素子40を囲むように形成された反射面42aを有しており、この反射面42aにおいて複数の第2発光素子40からの出射光を投影レンズ50へ向けて反射させるように構成されている。その際、この反射面42aは、横長の凹曲面状の反射面形状を有しており、その下端縁は灯具正面視において略横長楕円形の外形形状を有している。
【0047】
第1リフレクタ32の反射面32aには、複数の第1発光素子30をその外周縁近傍において囲む開口部32bが形成されている。この開口部32bは、複数の第1発光素子30の配列に沿って左右段違いで略横長矩形状に延びるように形成されている。
【0048】
一方、第2リフレクタ42の反射面42aには、複数の第2発光素子40をその外周縁近傍において囲む横長の開口部42bが形成されている。この開口部42bは、複数の第2発光素子40の配列に沿って横長矩形状に延びるように形成されている。
【0049】
複数の第1発光素子30と複数の第2発光素子40との間には、複数の第1発光素子30からの直射光および第1リフレクタ32で反射した複数の第1発光素子30からの出射光の一部を遮光してロービーム用配光パターンのカットオフラインを形成するためのシェード60が配置されている。
【0050】
シェード60は、第1および第2リフレクタ32、42と一体的に形成されている。すなわち、シェード60は、第1および第2リフレクタ32、42の接続部分が楔形の鉛直断面形状で灯具前方へ向けて延びることによって形成されており、その上面が第1リフレクタ32の反射面32aの一部を構成するとともにその下面が第2リフレクタ42の反射面42aの一部を構成している。
【0051】
シェード60の前端縁60aは、投影レンズ50の後側焦点Fの位置において光軸Axと直交する鉛直面に沿って、左右段違いで左右方向に延びるように形成されている。具体的には、この前端縁60aは、光軸Axよりも左側の部分(灯具正面視では右側の部分)が光軸Axに対してやや上方側の位置において水平方向に延びており、光軸Axよりも右側の部分が光軸Axに対して僅かに下方側の位置において水平方向に延びるとともにその左端部が斜め左上方向に延びた状態で光軸Axよりも左側の部分と接続されている。
【0052】
図3に示すように、投影レンズ50は、その後面50bに形成された下向き偏向部50cにおいて、複数の第2発光素子40からの出射光を下向きに偏向させるように構成されている。
【0053】
下向き偏向部50cは、投影レンズ50の後面50bにおいて複数の第1発光素子30からの出射光が入射しない下部領域(すなわち、
図3において破線で示すように第1発光素子30の発光面30aの上端縁とシェード60の前端縁60a(の右側領域)とを結ぶ直線Lよりも下方側に位置する領域)に形成されている。
【0054】
下向き偏向部50cは、投影レンズ50の後面50bから灯具後方側に突出するようにして形成されている。具体的には、この下向き偏向部50cは、楔状の鉛直断面形状で左右方向に延びるように形成された突出部の上部傾斜面で構成されており、その傾斜角度によって複数の第2発光素子40からの出射光に対する下向き偏向角度が設定されている。
【0055】
複数の第2発光素子40から出射して、投影レンズ50の後面50bに到達した光のうち下向き偏向部50cに到達した光は、下向きに屈折するようにして投影レンズ50に入射し、その前面50aからやや下向きの光として出射する。
【0056】
なお、
図3において2点鎖線で示す光路は、仮に投影レンズ50の後面50bに下向き偏向部50cが形成されていないとした場合において投影レンズ50に入射した複数の第2発光素子40からの出射光の光路である。このように投影レンズ50の後面50bに下向き偏向部50cが形成されていない場合には、複数の第2発光素子40から投影レンズ50に入射した光は、その前面50aから上向きの光として出射する。
【0057】
図4は、車両用灯具10の灯具ユニット20から灯具前方へ向けて照射される光により、車両前方25mの位置に配置された仮想鉛直スクリーン上に形成される配光パターンを透視的に示す図である。その際、
図4(a)はロービーム用配光パターンPLを示す図であり、
図4(b)はハイビーム用配光パターンPHを示す図である。
【0058】
図4(a)に示すように、ロービーム用配光パターンPLは、左配光のロービーム用配光パターンであって、その上端縁に左右段違いのカットオフラインCL1、CL2を有している。このカットオフラインCL1、CL2は、灯具正面方向の消点であるH-Vを鉛直方向に通るV-V線を境にして左右段違いで水平方向に延びており、V-V線よりも右側の対向車線側部分が下段カットオフラインCL1として形成されるとともに、V-V線よりも左側の自車線側部分が、この下段カットオフラインCL1から傾斜部を介して段上がりになった上段カットオフラインCL2として形成されている。
【0059】
ロービーム用配光パターンPLにおいて、下段カットオフラインCL1とV-V線との交点であるエルボ点Eは、H-Vの0.5~0.6°程度下方に位置している。
【0060】
上述したように、ロービーム用配光パターンPLは複数の第1発光素子30からの直射光およびその第1リフレクタ32からの反射光によって形成され、その際、左右段違いのカットオフラインCL1、CL2はシェード60の前端縁60aの反転投影像として形成される。
【0061】
図4(b)に示すように、ハイビーム用配光パターンPHは、ロービーム用配光パターンPLに対して付加配光パターンPAが付加された配光パターンとして形成されている。
【0062】
上述したように、付加配光パターンPAは複数の第2発光素子40からの直射光および複数の第2発光素子40から出射して第2リフレクタ42で反射した光によって形成され、その下端領域PAaはロービーム用配光パターンPLのカットオフライン近傍領域と重複している。
【0063】
これは付加配光パターンPAが、投影レンズ50の下向き偏向部50cからの出射光によって、その下端領域PAaが下方側に拡張された配光パターンとして形成されることによるものである。
【0064】
このようにハイビーム用配光パターンPHは、ロービーム用配光パターンPLと付加配光パターンPAとが部分的に重複した状態で形成されるので、両者の間に隙間が形成されてしまうおそれをなくすことができる。
【0065】
一方、
図5は、本実施形態の比較例を示す図であって、
図5(a)はロービーム用配光パターンPL´を示す図であり、
図5(b)はハイビーム用配光パターンPH´を示す図である。
【0066】
図5(a)に示すロービーム用配光パターンPL´は、仮に投影レンズ50に下向き偏向部50cが形成されておらず、その代わりに例えばシェード60の前端縁60aの位置を多少前後させること等によってカットオフラインCL1、CL2を多少ぼかした状態で形成するようにした場合の配光パターンである。
【0067】
図5(b)に示すハイビーム用配光パターンPH´は、ロービーム用配光パターンPL´に対して付加配光パターンPA´が付加された配光パターンとして形成されるが、カットオフラインCL1、CL2が多少ぼけていることによって、ハイビーム用配光パターンPH´はロービーム用配光パターンPL´と付加配光パターンPA´との間に隙間が形成されてしまうことなく形成される。
【0068】
しかしながら、
図5(a)に示すロービーム用配光パターンPL´は、そのカットオフラインCL1、CL2が多少ぼけているため、
図4(a)に示すロービーム用配光パターンPLに比してカットオフラインCL1、CL2の鮮明度が低下してしまい、ロービーム照射時の遠方視認性を十分に確保することができなくなってしまう。
【0069】
次に本実施形態の作用効果について説明する。
【0070】
本実施形態に係る車両用灯具10の灯具ユニット20は、その光源としてロービーム照射時およびハイビーム照射時に点灯する複数の第1発光素子30とハイビーム照射時に追加点灯する複数の第2発光素子40とを備えているが、複数の第2発光素子40は複数の第1発光素子30から下方に離れた位置に配置されており、両者の間には複数の第1発光素子30からの出射光の一部を遮光するシェード60が配置されているので、複数の第1発光素子30の点灯によりロービーム用配光パターンPLを形成することができ、また、複数の第2発光素子40の追加点灯によりハイビーム用配光パターンPHを形成することができる。
【0071】
その際、投影レンズ50において複数の第1発光素子30からの出射光が入射しない領域には、複数の第2発光素子40からの出射光を下向きに偏向させる下向き偏向部50cが形成されているので、次のような作用効果を得ることができる。
【0072】
すなわち、複数の第2発光素子40の追加点灯により、ロービーム用配光パターンPLのカットオフラインCL1、CL2の上方側には付加配光パターンPAが付加的に形成されるが、この付加配光パターンPAは投影レンズ50の下向き偏向部50cからの出射光によって下端領域PAaが下方側に拡張された配光パターンとして形成される。
【0073】
したがって付加配光パターンPAを、その下端領域PAaがロービーム用配光パターンPLのカットオフライン近傍領域と重複した状態で形成することができ、これによりロービーム用配光パターンPLと付加配光パターンPAとが滑らかに繋がった連続的な配光パターンとしてハイビーム用配光パターンPHを形成することができる。
【0074】
しかもこれを、ロービーム用配光パターンPLの形成には何ら影響を及ぼすことなく実現することができるので、カットオフラインCL1、CL2の鮮明度はそのまま維持することができ、これによりロービーム照射時の遠方視認性を十分に確保することができる。
【0075】
このように本実施形態によれば、光源からの出射光を投影レンズ50を介して灯具前方へ向けて照射するように構成された車両用灯具10において、ロービーム照射時の遠方視認性を十分に確保した上で、ハイビーム用配光パターンPHを連続的な配光パターンとして形成することができる。
【0076】
その際、本実施形態においては、下向き偏向部50cが投影レンズ50の後面50bに形成されているので、複数の第2発光素子40からの出射光を下向きに偏向させる制御を精度良く行うことができ、かつ、投影レンズ50において複数の第1発光素子30からの出射光が入射しない領域に下向き偏向部50cを配置することが容易に可能となる。
【0077】
しかも本実施形態においては、複数の第2発光素子40が左右方向に並んだ状態でかつ発光面40aを投影レンズ50へ向けた状態で配置されているので、付加配光パターンPAをその下部領域PAaが広範囲にわたってロービーム用配光パターンPLのカットオフライン近傍領域と重複した配光パターンとして形成することが容易に可能となる。したがってハイビーム用配光パターンPHを、ロービーム用配光パターンPLと付加配光パターンPAとが滑らかに繋がった連続的な配光パターンとして形成することが一層容易に可能となる。
【0078】
さらに本実施形態においては、複数の第2発光素子40からの出射光を投影レンズ50へ向けて反射させる第2リフレクタ40を備えているので、付加配光パターンPAの明るさを増大させることができ、かつ、ハイビーム用配光パターンPHを連続的な配光パターンとして形成することが一層容易に可能となる。
【0079】
上記実施形態においては、投影レンズ50が平凸非球面レンズで構成されているものとして説明したが、両凸レンズや凸メニスカスレンズ等で構成されたものとすることも可能であり、また、円形以外の外形形状を有する構成とすることも可能である。
【0080】
上記実施形態においては、灯具ユニット20として11個の第1発光素子30と9個の第2発光素子40とを備えているものとして説明したが、これ以外の個数の第1および第2発光素子30、40を備えた構成とすることも可能である。
【0081】
上記実施形態においては、複数の第1発光素子30が左右段違いで配置されているものとして説明したが、これらが横一列で配置された構成とすることも可能である。
【0082】
上記実施形態においては、複数の第1および第2発光素子30、40の各々の発光面30a、40aが正方形の外形形状を有しているものとして説明したが、これ以外の外形形状(例えば縦長矩形状や横長矩形状の外形形状等)を有する構成とすることも可能である。
【0083】
上記実施形態においては、複数の第1および第2発光素子30、40からの出射光を有効利用するために第1および第2リフレクタ32、42が配置されているものとして説明したが、第1および第2リフレクタ32、42のいずれか一方または両方が配置されていない構成とすることも可能である。
【0084】
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
【0085】
まず、上記実施形態の第1変形例について説明する。
【0086】
図6は、本変形例に係る車両用灯具の灯具ユニット120を示す、
図2と同様の図である。
【0087】
図6に示すように、灯具ユニット120の基本的な構成は上記実施形態の灯具ユニット20と同様であるが、投影レンズ150の構成が上記実施形態の場合と一部異なっている。
【0088】
すなわち本変形例においても、投影レンズ150は、前面150aが凸曲面状に形成された平凸非球面レンズで構成されており、その後面150bには、その下部領域に下向き偏向部150cが形成されているが、この下向き偏向部150cが複数の拡散レンズ素子150sで構成されている点で上記実施形態の場合と異なっている。
【0089】
複数の拡散レンズ素子150sは、縦縞状に形成されており、複数の第2発光素子40からの出射光を左右方向に拡散させるように構成されている。
【0090】
本変形例の構成を採用した場合においても上記実施形態の場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0091】
しかも、本変形例の構成を採用することにより、付加配光パターンPAの下端領域PAaをより均一な明るさでロービーム用配光パターンPLのカットオフライン近傍領域と重複させることができる。したがってハイビーム用配光パターンPHを、ロービーム用配光パターンPLと付加配光パターンPAとが滑らかに繋がった連続的な配光パターンとして形成することが一層容易に可能となる。
【0092】
次に、上記実施形態の第2変形例について説明する。
【0093】
図7は、本変形例に係る車両用灯具の灯具ユニット220を示す、
図3と同様の図である。
【0094】
図7に示すように、灯具ユニット220の基本的な構成は上記実施形態の灯具ユニット20と同様であるが、投影レンズ250の構成が上記実施形態の場合と一部異なっている。
【0095】
すなわち本変形例においても、投影レンズ250は、前面250aが凸曲面状に形成された平凸非球面レンズで構成されているが、その後面250bは全域にわたって平面状に形成されており、その前面250aに下向き偏向部250cが形成されている点で上記実施形態の場合と異なっている。
【0096】
下向き偏向部250cは、投影レンズ250の前面250aにおいて複数の第1発光素子30からの出射光が到達しない下部領域(すなわち直線Lよりも下方側の領域)に形成されている。具体的には、この下向き偏向部250cは、楔状の鉛直断面形状で左右方向に延びる突出部の上部傾斜面で構成されており、その傾斜角度によって複数の第2発光素子40からの出射光に対する下向き偏向角度が設定されるようになっている。
【0097】
複数の第2発光素子40から出射して投影レンズ250に入射した光のうち、その前面250aの下向き偏向部250cに到達した光は、やや下向きの光として投影レンズ250から出射する。
【0098】
なお、
図3において2点鎖線で光路を示すように、仮に下向き偏向部50cが形成されていないとした場合には、投影レンズ250の前面250aからの出射光は上向きの光となる。
【0099】
本変形例の構成を採用した場合においても上記実施形態の場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0100】
次に、上記実施形態の第3変形例について説明する。
【0101】
図8、9は、本変形例に係る車両用灯具の灯具ユニット320を示す、
図2、3と同様の図である。
【0102】
図8に示すように、灯具ユニット320の基本的な構成は上記実施形態の灯具ユニット20と同様であるが、複数の第2発光素子340の数および第2リフレクタ342の構成が上記実施形態の場合と異なっている。
【0103】
本変形例においては、複数の第2発光素子340として13個の白色発光ダイオードを備えており、これらが光軸Axを含む鉛直面を中心にしてが互いに僅かな間隔をおいて横一列で配置されている。なお、複数の第2発光素子340の各々の発光面340aの形状については上記実施形態の場合と同様である。
【0104】
複数の第2発光素子340の各々は、図示しない電子制御ユニットによって自車の走行状況に応じてその点消灯制御が行われるようになっている。その際、自車の走行状況は、例えば、自車の舵角データ、ナビゲーションデータ、前方走行路の画像データ等の検出値に基づいて把握することが可能である。
【0105】
第2リフレクタ342は、上記実施形態の第2リフレクタ42と同様、複数の第2発光素子340を囲むように形成された反射面342aを有しており、この反射面342aには、複数の第2発光素子340をその外周縁近傍において囲む横長の開口部342bが形成されている。
【0106】
反射面342aは、複数の第2発光素子340の各々に対して、その上下両側に1対の小反射面342sが配置された構成となっている。そして、これら上下1対の小反射面342sは、各第2発光素子340からの出射光を略平行光として投影レンズ350へ向けて反射させるようになっている。
【0107】
図10(a)は、本変形例に係る車両用灯具の灯具ユニット320から灯具前方へ向けて照射される光により、上記仮想鉛直スクリーン上に形成されるハイビーム用配光パターンPH-3を透視的に示す図である。
【0108】
図10(a)に示すように、ハイビーム用配光パターンPH-3は、ロービーム用配光パターンPLに対して付加配光パターンPA-3が付加された合成配光パターンとして形成されている。
【0109】
付加配光パターンPA-3は、13個の第2発光素子340からの直射光および13個の第2発光素子340から出射して第2リフレクタ342で反射した光(具体的には第2リフレクタ342の反射面342aを構成する13対の小反射面342sで反射した光)によって形成される配光パターンである。
【0110】
すなわち、付加配光パターンPA-3は、13個の第2発光素子340の各々の点灯によって形成される13個の小配光パターンPA-3aの合成配光パターンとして形成されている。
【0111】
13個の小配光パターンPA-3aは、いずれも略矩形状の配光パターンとして形成され、かつ、互いに隣接する小配光パターンPA-3a同士が僅かに重複した状態で横一列で形成されている。その際、各小配光パターンPA-3aは、各第2発光素子340からの直射光およびリフレクタ342の各対の小反射面342sからの反射光によって縦長の配光パターンとして形成され、その下端領域PA-3a1はロービーム用配光パターンPLのカットオフライン近傍領域と重複している。
【0112】
これは各小配光パターンPA-3aが、投影レンズ50の下向き偏向部50cからの出射光によって、その下端領域PA-3a1が下方側に拡張された配光パターンとして形成されることによるものである。
【0113】
図10(b)は、ハイビーム用配光パターンPH-3の一部を欠落させた中間的配光パターンPM-3を透視的に示す図である。
【0114】
図10(b)においては、左から6番目の第2発光素子340の消灯によって、付加配光パターンPA-3を構成する13個の小配光パターンPA-3aのうち右から6番目の小配光パターンPA-3aが欠落した状態にある中間的配光パターンPM-3を示している。
【0115】
このような中間的配光パターンPM-3を形成することにより、灯具ユニット320からの照射光が対向車2に当たらないようにし、これにより対向車2のドライバーにグレアを与えてしまわない範囲内でできるだけ前方走行路を幅広く照射するようになっている。
【0116】
そして、対向車2の位置が変化するのに伴って、消灯の対象となる第2発光素子340を順次切り換えることにより中間的配光パターンPM-3の形状を変化させ、これにより対向車2のドライバーにグレアを与えてしまわない範囲内でできるだけ前方走行路を幅広く照射する状態を維持するようになっている。
【0117】
なお、対向車2の存在は、図示しない車載カメラ等によって検出するようになっている。そして、前方走行路に前走車が存在したり、その路肩部分に歩行者が存在するような場合にも、これを検出して一部の小配光パターンPA-3aを欠落させることによりグレアを与えてしまわないようになっている。
【0118】
本変形例の構成を採用した場合においても上記実施形態の場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0119】
本変形例においては、中間的配光パターンPM-3の形成により、対向車2のドライバー等にグレアを与えてしまわない範囲内でできるだけ前方走行路を幅広く照射する状態を維持することができるが、その際、付加配光パターンPA-3を構成する複数の小配光パターンPA-3aとロービーム用配光パターンPLとが滑らかに繋がった連続的な配光パターンとして中間的配光パターンPM-3を形成することができる。
【0120】
なお、上記実施形態およびその変形例において諸元として示した数値は一例にすぎず、これらを適宜異なる値に設定してもよいことはもちろんである。
【0121】
また、本願発明は、上記実施形態およびその変形例に記載された構成に限定されるものではなく、これ以外の種々の変更を加えた構成が採用可能である。
【符号の説明】
【0122】
2 対向車
10 車両用灯具
12 ランプボディ
14 透光カバー
20、120、220、320 灯具ユニット
30 第1発光素子(光源)
30a、40a、340a 発光面
32 第1リフレクタ
32a、42a、342a 反射面
32b、42b、342b 開口部
40、340 第2発光素子(光源)
42、342 第2リフレクタ
50、150、250 投影レンズ
50a、150a、250a 前面
50b、150b、250b 後面
50c、150c、250c 下向き偏向部
52 レンズホルダ
54 ヒートシンク
56 基板
60 シェード
60a 前端縁
150s 拡散レンズ素子
342s 小反射面
Ax 光軸
CL1 下段カットオフライン
CL2 上段カットオフライン
E エルボ点
F 後側焦点
L 直線
PA、PA-3 付加配光パターン
PAa、PA-3a1 下端領域
PA-3a 小配光パターン
PH、PH-3 ハイビーム用配光パターン
PL ロービーム用配光パターン
PM-3 中間的配光パターン