(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 17/16 20060101AFI20241009BHJP
【FI】
H02K17/16 A
(21)【出願番号】P 2021196420
(22)【出願日】2021-12-02
【審査請求日】2023-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大庭 將太郎
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-148793(JP,A)
【文献】特開平06-253511(JP,A)
【文献】特開2012-257439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 17/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータと、
前記ステータの内側を通って延び、前記ステータに対して回転軸まわりに回転可能な、シャフトと、
前記ステータの内側に配置され、前記シャフトに結合された、回転子鉄心と、
前記回転軸に沿う軸方向における前記回転子鉄心の両方の端面に開口するとともに前記回転軸まわりの周方向に互いに間隔を介して配置された前記回転子鉄心の複数の貫通孔に充填された、導電性の複数の回転子バーと、
を具備し、
前記回転子鉄心は、前記ステータに向く外周面と、前記複数の貫通孔の内面と、を有し、
前記複数の貫通孔の内面はそれぞれ、複数の平面とそれぞれが当該複数の平面のうち隣り合う二つを接続する複数の角部分とを有するとともに前記複数の角部分のうち二つ以上が円弧状の曲面を有
し、
前記複数の平面は、前記回転軸と直交する径方向の外側に向く底面と、前記周方向における前記底面の両端に接続されるとともに前記外周面に向かって互いに離間するように延びる二つの第1の側面と、前記径方向の外側における前記二つの第1の側面の端に接続されるとともに互いに近づくように延びる二つの第2の側面と、前記周方向における前記二つの第2の側面の内側の端に接続されるとともに前記外周面に向かって延びる二つの第3の側面と、前記径方向の外側における前記二つの第3の側面の端に接続されるとともに前記外周面に向かって互いに近づくように延びて互いに接続される二つの第4の側面と、を有し、
前記底面と前記第1の側面との間の角部分が円弧状の曲面を有するとともに、前記第1の側面と前記第2の側面との間の角部分、前記第2の側面と前記第3の側面との間の角部分、前記第3の側面と前記第4の側面との間の角部分、及び前記二つの第4の側面の間の角部分、のうち少なくとも一つが円弧状の曲面を有する、
回転電機。
【請求項2】
前記回転軸と直交する径方向における前記貫通孔の最大の長さを、前記周方向における前記貫通孔の最大の長さで除した値は、1以上であって、4.6よりも小さい、請求項1の回転電機。
【請求項3】
前記第1の側面と前記第2の側面との間の角部分、及び前記二つの第4の側面の間の角部分が円弧状の曲面を有する、
請求項1又は請求項2の回転電機。
【請求項4】
前記回転子鉄心の材料は鉄を含み、
前記回転子バーの材料はアルミニウムを含む、
請求項1乃至
請求項3のいずれか一つの回転電機。
【請求項5】
前記複数の回転子バーと一体に形成された短絡環、
をさらに具備する請求項1乃至
請求項4のいずれか一つの回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
かご形回転子を有する回転電機が知られている。かご形回転子は、例えば、回転子鉄心と、複数の回転子バーと、当該複数の回転子バーに接続された短絡環とを有する。回転子バーは、例えば、回転子鉄心に設けられた貫通孔に充填された金属によって形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回転子バーの材料は、例えば、溶融した状態で回転子鉄心の貫通孔に充填される。材料が貫通孔に供給されるとき、貫通孔の内面と材料との間に摩擦が発生する。当該摩擦に抗して材料を貫通孔に充填するために、材料にかけられる圧力が大きくなってしまうことがある。
【0005】
本発明が解決する課題の一例は、より小さい圧力で貫通孔に回転子バーの材料を充填可能な回転電機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの実施形態に係る回転電機は、ステータと、シャフトと、回転子鉄心と、導電性の複数の回転子バーとを備える。前記シャフトは、前記ステータの内側を通って延び、前記ステータに対して回転軸まわりに回転可能である。前記回転子鉄心は、前記ステータの内側に配置され、前記シャフトに結合される。前記複数の回転子バーは、前記回転軸に沿う軸方向における前記回転子鉄心の両方の端面に開口するとともに前記回転軸まわりの周方向に互いに間隔を介して配置された前記回転子鉄心の複数の貫通孔に充填される。前記回転子鉄心は、前記ステータに向く外周面と、前記複数の貫通孔の内面と、を有する。前記複数の貫通孔の内面はそれぞれ、複数の平面とそれぞれが当該複数の平面のうち隣り合う二つを接続する複数の角部分とを有するとともに前記複数の角部分のうち二つ以上が円弧状の曲面を有する。前記複数の平面は、前記回転軸と直交する径方向の外側に向く底面と、前記周方向における前記底面の両端に接続されるとともに前記外周面に向かって互いに離間するように延びる二つの第1の側面と、前記径方向の外側における前記二つの第1の側面の端に接続されるとともに互いに近づくように延びる二つの第2の側面と、前記周方向における前記二つの第2の側面の内側の端に接続されるとともに前記外周面に向かって延びる二つの第3の側面と、前記径方向の外側における前記二つの第3の側面の端に接続されるとともに前記外周面に向かって互いに近づくように延びて互いに接続される二つの第4の側面と、を有する。前記底面と前記第1の側面との間の角部分が円弧状の曲面を有するとともに、前記第1の側面と前記第2の側面との間の角部分、前記第2の側面と前記第3の側面との間の角部分、前記第3の側面と前記第4の側面との間の角部分、及び前記二つの第4の側面の間の角部分、のうち少なくとも一つが円弧状の曲面を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、例えば、より小さい圧力で貫通孔に回転子バーの材料を充填することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る回転電機を概略的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態の回転電機の一部を
図1のF2-F2線に沿って概略的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、第2の実施形態に係る回転電機の一部を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1の実施形態)
以下に、第1の実施形態について、
図1及び
図2を参照して説明する。なお、本明細書において、実施形態に係る構成要素及び当該要素の説明が、複数の表現で記載されることがある。構成要素及びその説明は、一例であり、本明細書の表現によって限定されない。構成要素は、本明細書におけるものとは異なる名称でも特定され得る。また、構成要素は、本明細書の表現とは異なる表現によっても説明され得る。
【0010】
図1は、第1の実施形態に係る回転電機10を概略的に示す断面図である。回転電機10は、例えば、かご形三相誘導電動機であり、電動機又は発電機として利用される。なお、回転電機10は、この例に限られない。
【0011】
回転電機10は、ステータ11と、ロータ12と、筐体13と、シャフト14と、複数の軸受15と、内扇16と、外扇17とを有する。なお、回転電機10は、この例に限られない。例えば、回転電機10は、外扇カバーのような他の部品をさらに有しても良い。
【0012】
ステータ11は、固定子鉄心21と、固定子巻線22とを有する。固定子鉄心21は、中心軸Axを囲む略円筒状に形成される。中心軸Axは、回転電機10におけるロータ12及びシャフト14の回転の中心であり、例えばシャフト14の中心を通る仮想的な直線である。中心軸Axは、回転軸の一例である。固定子巻線22は、固定子鉄心21に設けられたスロットを貫通して、当該固定子鉄心21に取り付けられる。
【0013】
本明細書において、便宜上、軸方向、径方向、及び周方向が定義される。軸方向は、中心軸Axに沿う方向である。径方向は、中心軸Axと直交する方向である。周方向は、中心軸Axまわりに回転する方向である。
【0014】
ロータ12は、かご形回転子である。ロータ12は、回転子鉄心31と、複数の回転子バー32と、二つのエンドリング33と、複数のエンドリングファン34とを有する。エンドリング33は、短絡環の一例である。
【0015】
回転子鉄心31は、中心軸Axを囲む略円筒状に形成され、固定子鉄心21の内側に配置される。回転子鉄心31は、例えば、軸方向に並べられた複数の強磁性体のケイ素鋼鋼板によって形成される。すなわち、回転子鉄心31は、鉄を含む材料によって作られる。回転子鉄心31は、外周面31aと、二つの端面31bとを有する。
【0016】
外周面31aは、略円筒状に形成され、径方向の外側に向く。外周面31aは、隙間を介してステータ11の固定子鉄心21に向く。端面31bは、軸方向における回転子鉄心31の端に位置する。端面31bは、略平坦に形成され、軸方向に向く。なお、端面31bは他の方向に向いても良いし、回転子鉄心31は端面31bよりも外側に位置する部分を有しても良い。
【0017】
回転子鉄心31に、複数の貫通孔35が設けられる。貫通孔35は、回転子鉄心31を軸方向に貫通する。このため、貫通孔35は、軸方向における回転子鉄心31の両方の端面31bに開口する。なお、貫通孔35は、この例に限られず、例えば中心軸Axまわりに螺旋状に延びても良い。複数の貫通孔35は、互いに間隔を介して周方向に略等間隔に配置される。貫通孔35は、外周面31aから離間している。
【0018】
回転子バー32は、例えば、複数の貫通孔35に導電性の金属を充填する鋳造により作られる。すなわち、回転子バー32は、貫通孔35に充填されており、導電性を有する。これにより、回転子バー32は、貫通孔35に沿って延びる棒状に形成される。複数の回転子バー32は、複数の貫通孔35と同じく、周方向に互いに間隔を介して配置される。回転子バー32の材料は、例えば、アルミニウムを含む。
【0019】
二つのエンドリング33は、貫通孔35の外部において、軸方向における回転子バー32の両方の端部に接続される。二つのエンドリング33はそれぞれ、複数の回転子バー32を互いに電気的に接続する。エンドリング33は、複数の回転子バー32と一体に形成される。なお、エンドリング33は、回転子バー32と別の部品であっても良い。
【0020】
複数のエンドリングファン34は、例えば、回転子バー32から突出している。ロータ12が中心軸Axまわりに回転すると、回転子バー32、エンドリング33、及びエンドリングファン34も中心軸Axまわりに回転する。回転するエンドリングファン34は、筐体13の内部の気体を攪拌する。
【0021】
筐体13は、フレーム41と、二つの軸受ブラケット42とを有する。フレーム41は、中心軸Axを囲む略円筒状に形成される。ステータ11及びロータ12は、フレーム41の内側に配置される。固定子鉄心21は、フレーム41に固定される。
【0022】
二つの軸受ブラケット42は、軸方向におけるフレーム41の両端部に接続される。軸受ブラケット42は、フレーム41の内部の空間を塞ぐ。軸受ブラケット42のそれぞれは、対応する軸受15を保持する。
【0023】
シャフト14は、中心軸Axに沿って延びる略円柱状に形成される。シャフト14は、軸受ブラケット42を貫通して、筐体13の内部と外部とに亘って延びている。シャフト14は、軸受15によって中心軸Axまわりに回転可能に支持される。
【0024】
シャフト14は、ステータ11及びロータ12の内側を通って軸方向に延びている。シャフト14は、ロータ12の回転子鉄心31に結合される。ロータ12及びシャフト14は、ステータ11に対して中心軸Axまわりに一体的に回転することができる。
【0025】
内扇16は、筐体13の内部において、シャフト14に結合される。内扇16は、シャフト14と一体的に中心軸Axまわりに回転することができる。内扇16は、回転することで、ステータ11及びロータ12を冷却する気流を発生させる。
【0026】
外扇17は、筐体13の外部において、シャフト14に結合される。外扇17は、シャフト14と一体的に中心軸Axまわりに回転することができる。外扇17は、回転することで、例えば筐体13の外面に沿って流れる気流を発生させる。外扇17が発生させた気流は、筐体13の内部を冷却する冷却管を通っても良い。
【0027】
図2は、第1の実施形態の回転電機10の一部を
図1のF2-F2線に沿って概略的に示す断面図である。
図2に示すように、回転子鉄心31は、複数の貫通孔35の内面35aをさらに有する。回転子バー32は、貫通孔35に充填されることで、内面35aに密着している。なお、回転子バー32は、内面35aから部分的に離間しても良い。
【0028】
複数の貫通孔35の内面35aはそれぞれ、底面50と、二つの第1の側面51と、二つの第2の側面52と、二つの第3の側面53と、二つの第4の側面54と、複数の角部分61,62,63,64,65とを有する。底面50、第1の側面51、第2の側面52、第3の側面53、及び第4の側面54は、平面の一例である。
【0029】
底面50、第1の側面51、第2の側面52、第3の側面53、及び第4の側面54はそれぞれ、平坦に形成される。なお、底面50、第1の側面51、第2の側面52、第3の側面53、及び第4の側面54は、例えば充填された回転子バー32から受ける圧力によって貫通孔35の外側に向かって膨らんでいても良い。
【0030】
底面50は、径方向の外側に向く。底面50は、中心軸Axから放射状に延びる直線と直交する平面であっても良いし、周方向に延びる曲線であっても良い。すなわち、底面50は、少なくとも部分的に径方向の外側に向く。
【0031】
二つの第1の側面51は、周方向における底面50の両端に接続される。第1の側面51と、底面50の端とは、角部分61によって接続される。二つの第1の側面51は、対応する角部分61から、外周面31aに向かって互いに離間するように延びる。言い換えると、周方向における二つの第1の側面51の間の距離は、外周面31aに近いほど広がる。
【0032】
二つの第2の側面52は、径方向の外側における二つの第1の側面51の端に接続される。第2の側面52と、第1の側面51の端とは、角部分62によって接続される。二つの第2の側面52は、角部分62から、互いに近づくように延びる。本実施形態において、二つの第2の側面52は、略周方向に延びる。なお、二つの第2の側面52は、周方向と交差する方向に延びても良い。
【0033】
二つの第3の側面53は、周方向における二つの第2の側面52の内側の端に接続される。第3の側面53と、第2の側面52の端とは、角部分63によって接続される。二つの第3の側面53は、角部分63から、外周面31aに向かって延びる。本実施形態において、二つの第3の側面53は、径方向に延び、略平行である。なお、二つの第3の側面53は、径方向と交差する他の方向に延びても良い。
【0034】
二つの第4の側面54は、径方向の外側における二つの第3の側面53の端に接続される。第4の側面54と、第3の側面53の端とは、角部分64によって接続される。二つの第4の側面54は、角部分64から、外周面31aに向かって互いに近づくように延びる。言い換えると、周方向における二つの第4の側面54の間の距離は、外周面31aに近いほど縮まる。
【0035】
径方向の外側における二つの第4の側面54の端は、互いに接続される。二つの第4の側面54は、角部分65によって互いに接続される。角部分65は、径方向の外側における貫通孔35及び内面35aの端に設けられる。
【0036】
複数の角部分61,62,63,64,65のうち二つ以上は、円弧状の曲面を有する。言い換えると、複数の角部分61,62,63,64,65のうち二つ以上がR面取りされている。本実施形態では、複数の角部分61,62,63,64,65の全てが円弧状の曲面を有する。
【0037】
底面50と第1の側面51との間の角部分61は、底面50の一方の端と第1の側面51の一方の端とを接続する円弧状の曲面を有する。言い換えると、円弧状の曲面である角部分61の両端が、底面50及び第1の側面51に接続される。
【0038】
第1の側面51と第2の側面52との間の角部分62は、第1の側面51の他方の端と第2の側面52の一方の端とを接続する円弧状の曲面を有する。言い換えると、円弧状の曲面である角部分62の両端が、第1の側面51及び第2の側面52に接続される。
【0039】
第2の側面52と第3の側面53との間の角部分63は、第2の側面52の他方の端と第3の側面53の一方の端とを接続する円弧状の曲面を有する。言い換えると、円弧状の曲面である角部分63の両端が、第2の側面52及び第3の側面53に接続される。
【0040】
第3の側面53と第4の側面54との間の角部分64は、第3の側面53の他方の端と第4の側面54の一方の端とを接続する円弧状の曲面を有する。言い換えると、円弧状の曲面である角部分64の両端が、第3の側面53及び第4の側面54に接続される。
【0041】
二つの第4の側面54の間の角部分65は、一方の第4の側面54の端と他方の第4の側面54の端とを接続する円弧状の曲面を有する。言い換えると、円弧状の曲面である角部分65の両端が、二つの第4の側面54に接続される。
【0042】
貫通孔35のアスペクト比Lr/Lcは、1以上であって、4.6よりも小さい。Lrは、径方向における貫通孔35の最大の長さである。Lcは、周方向における貫通孔35の最大の長さである。なお、貫通孔35のアスペクト比Lr/Lcは、この例に限られない。
【0043】
以下、ロータ12の製造方法の一部について例示する。なお、ロータ12の製造方法は以下の方法に限らず、他の方法を用いても良い。まず、回転子鉄心31の両方の端面31bに、鋳型が取り付けられる。当該鋳型は、エンドリング33及びエンドリングファン34に対応する空洞を有する。当該空洞は、回転子鉄心31の複数の貫通孔35に連通する。
【0044】
次に、上記鋳型及び貫通孔35に、溶融した回転子バー32の材料が流し込まれる。当該材料は、所定の圧力をかけられ、二つの鋳型のうち一方の空洞から、複数の貫通孔35に流入する。
【0045】
上記材料は、貫通孔35に流入すると、貫通孔35の内面35aに接触する。上記材料は、軸方向における貫通孔35の一方の端部から他方の端部に向かって流れるが、貫通孔35の内面35aと当該材料との間に摩擦力(抵抗)を発生させる。
【0046】
内面35aは、角部分61,62,63,64,65が円弧状の曲面を有することで、貫通孔35の体積当たりの当該内面35aの表面積を小さくしている。このため、上記材料と内面35aとの間の摩擦力(抵抗)は低減され、当該材料は滑らかに貫通孔35を流れることができる。
【0047】
上記材料が鋳型の空洞及び貫通孔35に充填され、所定の時間が経過することで、貫通孔35の内部に回転子バー32が形成される。さらに、鋳型が回転子鉄心31から取り外され、鋳造された部分のうち貫通孔35の外部に位置する部分が表面仕上げされる。これにより、エンドリング33及びエンドリングファン34が形成される。以上により、ロータ12が製造される。
【0048】
以上説明された第1の実施形態に係る回転電機10において、回転子鉄心31の複数の貫通孔35は、中心軸Axに沿う軸方向における回転子鉄心31の両方の端面31bに開口するとともに、中心軸Axまわりの周方向に互いに間隔を介して配置される。導電性の複数の回転子バー32は、複数の貫通孔35に充填される。回転子鉄心31は、ステータ11に向く外周面31aと、複数の貫通孔35の内面35aとを有する。複数の貫通孔35の内面35aはそれぞれ、複数の平面(底面50、第1の側面51、第2の側面52、第3の側面53、及び第4の側面54)とそれぞれが当該複数の平面のうち隣り合う二つを接続する複数の角部分61,62,63,64,65を有するとともに当該複数の角部分61,62,63,64,65のうち二つ以上が円弧状の曲面を有する。これにより、貫通孔35は、各角部分61,62,63,64,65が円弧状の曲面を有さない場合に比べ、体積当たりの表面積を小さくすることができ、当該貫通孔35に回転子バー32の材料が充填されるときに当該材料と貫通孔35の内面35aとの間の摩擦を低減できる。従って、本実施形態の回転電機10は、より小さい圧力で貫通孔35に回転子バー32の材料を充填することができ、ひいては圧力不足により回転子バー32に巣(holes、shrinkage cavities)のような内部欠陥が生じることを抑制できる。
【0049】
径方向における貫通孔35の最大の長さLrを、周方向における貫通孔35の最大の長さLcで除した値Lr/Lcは、1以上であって、4.6よりも小さい。すなわち、貫通孔35のアスペクト比Lr/Lcは、比較的小さく設定される。これにより、貫通孔35は、体積当たりの表面積を小さくすることができる。従って、回転電機10は、回転子バー32に内部欠陥が生じることをより抑制できる。
【0050】
複数の貫通孔35の内面35aはそれぞれ、底面50と、二つの第1の側面51と、二つの第2の側面52と、二つの第3の側面53と、二つの第4の側面54とを有する。底面50は、中心軸Axと直交する径方向の外側に向く。二つの第1の側面51は、周方向における底面50の両端に接続されるとともに外周面31aに向かって互いに離間するように延びる。二つの第2の側面52は、径方向の外側における二つの第1の側面51の端に接続されるとともに互いに近づくように延びる。二つの第3の側面53は、周方向における二つの第2の側面52の内側の端に接続されるとともに外周面31aに向かって延びる。二つの第4の側面54は、径方向の外側における二つの第3の側面53の端に接続されるとともに、外周面31aに向かって互いに近づくように延びて互いに接続される。以上の形状を有する貫通孔35に回転子バー32が充填されることで、例えば始動時における回転電機10のトルク特性が向上する。また、底面50と第1の側面51との間の角部分61、第1の側面51と第2の側面52との間の角部分62、第2の側面52と第3の側面53との間の角部分63、第3の側面53と第4の側面54との間の角部分64、及び二つの第4の側面54の間の角部分65、のうち二つ以上が円弧状の曲面を有する。これにより、貫通孔35は、各角部分61,62,63,64,65が円弧状の曲面を有さない場合に比べ、体積当たりの表面積を小さくすることができ、当該貫通孔35に回転子バー32の材料が充填されるときに当該材料と貫通孔35の内面35aとの間の摩擦を低減できる。従って、本実施形態の回転電機10は、より小さい圧力で貫通孔35に回転子バー32の材料を充填することができ、ひいては圧力不足により回転子バー32に巣のような内部欠陥が生じることを抑制できる。
【0051】
第1の側面51と第2の側面52との間の角部分62、及び二つの第4の側面54の間の角部分65が、円弧状の曲面を有する。第1の側面51と第2の側面52との間の角部分62は、鋭角に設定されやすく、貫通孔35の体積当たりの表面積を増大させやすい。このため、本実施形態の回転電機10は、第1の側面51と第2の側面52との間の角部分62を円弧状にすることで、貫通孔35の体積当たりの表面積を小さくすることができる。また、二つの第4の側面54の間の角部分65は、回転子鉄心31の外周面31aに近い。このため、回転電機10は、二つの第4の側面54の間の角部分65を円弧状にすることで、外周面31aと貫通孔35との間の厚さが局所的に小さくなることを抑制でき、ひいては回転子鉄心31の強度が低下することを抑制できる。
【0052】
回転子鉄心31の材料は、鉄を含む。回転子バー32の材料は、アルミニウムを含む。鉄製の部材の孔にアルミニウム材料が充填されるとき、孔の内面と材料との間の摩擦が生じやすい。しかし、本実施形態の回転電機10は、貫通孔35の体積当たりの表面積を低減できるので、回転子バー32に内部欠陥が生じることを抑制できる。
【0053】
エンドリング33は、複数の回転子バー32と一体に形成される。このため、例えば、複数の回転子バー32とエンドリング33とは、鋳造により一体的に製造され得る。鋳造により回転子バー32の材料が貫通孔35に充填されるとき、貫通孔35の内面35aと材料との間の摩擦が生じる。しかし、本実施形態の回転電機10は、貫通孔35の体積当たりの表面積を低減できるので、回転子バー32に内部欠陥が生じることを抑制できる。
【0054】
(第2の実施形態)
以下に、第2の実施形態について、
図3を参照して説明する。なお、以下の実施形態の説明において、既に説明された構成要素と同様の機能を持つ構成要素は、当該既述の構成要素と同じ符号が付され、さらに説明が省略される場合がある。また、同じ符号が付された複数の構成要素は、全ての機能及び性質が共通するとは限らず、各実施形態に応じた異なる機能及び性質を有していても良い。
【0055】
図3は、第2の実施形態に係る回転電機10の一部を概略的に示す断面図である。
図3に示すように、第2の実施形態の回転子鉄心31に、複数の貫通孔35の代わりに複数の貫通孔135が設けられる。また、第2の実施形態のロータ12は、複数の回転子バー32の代わりに、複数の回転子バー132を有する。回転子バー132及び貫通孔135は、以下に説明される点を除き、第1の実施形態の回転子バー32及び貫通孔35に等しい。
【0056】
複数の貫通孔135は、円柱状又は楕円柱状に形成される。すなわち、貫通孔135の断面は、円形又は楕円形である。このため、貫通孔135の内面135aは、円筒状又は楕円の筒状に形成される。なお、楕円は、二つの焦点を有する楕円と、二つの半円を直線により接続した楕円(角丸長方形)とを含む。回転子バー132は、貫通孔135に充填されるため、同じく円柱状又は楕円柱状に形成される。
【0057】
以上説明された第2の実施形態の回転電機10において、複数の貫通孔135は円柱状若しくは楕円柱状に形成される。これにより、貫通孔135は、体積当たりの表面積を小さくすることができ、当該貫通孔135に回転子バー132の材料が充填されるときに当該材料と貫通孔135の内面との間の摩擦を低減できる。従って、本実施形態の回転電機10は、より小さい圧力で貫通孔135に回転子バー132の材料を充填することができ、ひいては圧力不足により回転子バー132に内部欠陥が生じることを抑制できる。
【0058】
以上の説明において、抑制は、例えば、事象、作用、若しくは影響の発生を防ぐこと、又は事象、作用、若しくは影響の度合いを低減させること、として定義される。
【0059】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0060】
10…回転電機、11…ステータ、14…シャフト、31…回転子鉄心、31a…外周面、31b…端面、32,132…回転子バー、33…エンドリング、35,135…貫通孔、35a,135a…内面、50…底面、51…第1の側面、52…第2の側面、53…第3の側面、54…第4の側面、61,62,63,64,65…角部分、Ax…中心軸。