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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】細胞賦活剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9717 20170101AFI20241009BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20241009BHJP
   A61K 8/27 20060101ALI20241009BHJP
   A61K 8/29 20060101ALI20241009BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20241009BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20241009BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
A61K8/9717
A61K8/49
A61K8/27
A61K8/29
A61Q19/00
A61Q19/08
A61P17/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021512192
(86)(22)【出願日】2020-04-01
(86)【国際出願番号】 JP2020015108
(87)【国際公開番号】W WO2020204105
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-02-01
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/003810
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019072750
(32)【優先日】2019-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】宮沢 和之
(72)【発明者】
【氏名】ジレ,レノ
(72)【発明者】
【氏名】マッカーシー,ビアンカ
(72)【発明者】
【氏名】金丸 哲也
【審査官】川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-209093(JP,A)
【文献】特開2017-036277(JP,A)
【文献】特開昭62-000408(JP,A)
【文献】特開2017-122076(JP,A)
【文献】特開2006-022050(JP,A)
【文献】特開2007-056035(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0005369(KR,A)
【文献】特開平03-284613(JP,A)
【文献】国際公開第2005/077458(WO,A1)
【文献】特開平05-255521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61Q
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長変換物質を有効成分として含有する細胞賦活剤であって,
前記波長変換物質は,C-フィコシアニン,B-フィコエリスリン,酸化亜鉛蛍光体,及びチタン酸マグネシウム蛍光体からなる群より選択される1種又は複数種の成分であり,入射光に含まれる紫外線の波長を変換して前記紫外線の波長よりも長い波長の出射光を放出する,細胞賦活剤。
【請求項2】
前記紫外線は,200nm~400nmにピーク波長を有する,請求項1に記載の細胞賦活剤。
【請求項3】
前記出射光は,500nm~700nmにピーク波長を有する,請求項1又は2に記載の細胞賦活剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の細胞賦活剤を含有し,皮膚に紫外線を含む光を浴びせることにより皮膚を賦活するための皮膚外用組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の組成物を対象の皮膚に塗布すること;および
前記組成物を塗布後の皮膚に紫外線を含む光を浴びせること;を含む,
対象の皮膚を賦活するための美容方法、
ここで、前記組成物は化粧品であり、前記美容方法は美容を目的とするものであり医師や医療従事者が使用する治療方法ではない。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の細胞賦活剤を含有し,
紫外線を含む光を該製品に通過させた後の光を皮膚に浴びせることにより皮膚を賦活するための製品であって、
医師や医療従事者が使用する治療用途には用いられない製品。
【請求項7】
請求項に記載の製品に紫外線を含む光を通過させること;および
前記通過光を対象の皮膚に浴びせること;を含む,
対象の皮膚を賦活するための美容方法、
ここで、前記美容方法は美容を目的とするものであり医師や医療従事者が使用する治療方法ではない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,波長変換物質を含有する細胞賦活剤,かかる細胞賦活剤を含有する組成物および製品,並びにそれらを用いた皮膚を賦活するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線による皮膚に対する弊害としては,例えば,皮膚癌,光老化,しみ,しわ,炎症といった悪影響があり,健康や美容の観点からも好ましくない。紫外線の利用としては殺菌効果を目的とするもの等が存在するものの,紫外線による弊害とのバランスを考えると,紫外線を積極的に利用するよりもむしろ防御することに焦点が当てられているのが現状である。
【0003】
よって,紫外線から肌を防御するための方策が数多く取られている。例えば,日焼け止め剤の使用や,日光に当たらないような屋内での活動,UVカット加工された帽子や衣類,紫外線カットフィルムの使用などが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6424656号公報
【文献】特許第6361416号公報
【文献】国際公開第2018/004006号
【文献】特開2018-131422号公報
【文献】特開平5-117127号公報
【文献】特許第4048420号公報
【文献】特許第4677250号公報
【文献】特許第3303942号公報
【文献】特開2017-88719号公報
【文献】国際公開第2018/117117号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は,紫外線を利用した新規な細胞賦活剤の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは,紫外線を皮膚に対し有用に利用できるよう鋭意研究を行った。その結果,紫外線の波長を変換し皮膚細胞を賦活する細胞賦活剤に想到した。
【0007】
本願は,以下の発明を提供する。
(1)波長変換物質を有効成分として含有する細胞賦活剤であって,
前記波長変換物質は,入射光に含まれる紫外線の波長を変換して前記紫外線の波長よりも長い波長の出射光を放出する,細胞賦活剤。
(2)前記紫外線は,200nm~400nmにピーク波長を有する,(1)に記載の細胞賦活剤。
(3)前記出射光は,500nm~700nmにピーク波長を有する,(1)又は(2)に記載の細胞賦活剤。
(4)前記波長変換物質は,アロフィコシアニン,C-フィコシアニン,R-フィコシアニン,フィコエリスロシアニン,B-フィコエリスリン,b-フィコエリスリン,C-フィコエリスリン,およびR-フィコエリスリンから選択される1種又は複数種のフィコビリ蛋白;酸化亜鉛蛍光体,チタン酸マグネシウム蛍光体,およびリン酸カルシウム蛍光体から選択される1種又は複数種の無機蛍光体;ビタミンA,βカロテン,ビタミンK,ビタミンB1,ビタミンB2,ビタミンB6,ビタミンB12,葉酸,ナイアシン,リコピン,クチナシ,ベニバナ,ウコン,コチニール,シソ,赤キャベツ,フラボノイド,カロテノイド,キノイド,ポルフィリン類,アントシアニン類,ポリフェノール類,サリチル酸,およびトウガラシエキスから選択される1種又は複数種の成分;並びに/あるいは,赤色401号,赤色227号,赤色504号,赤色218号,橙色205号P,黄色4号,黄色5号,緑色201号,ピラニンコンク,青色1号,塩酸2,4-ジアミノフェノキシエタノール,アリズリンパープルSS,紫色401号,黒色401号,へリンドンピンク,黄色401号,ベンチジンエローG,青色404号,赤色104号,メタアミノフェノール,トウガラシ色素,クチナシ色素,およびパプリカ色素から選択される1種又は複数種の色素を含む,(1)~(3)のいずれか1項に記載の細胞賦活剤。
(5)前記波長変換物質は,アロフィコシアニン,C-フィコシアニン,R-フィコシアニン,フィコエリスロシアニン,B-フィコエリスリン,b-フィコエリスリン,C-フィコエリスリン,およびR-フィコエリスリンから選択される1種又は複数種のフィコビリ蛋白;酸化亜鉛蛍光体,チタン酸マグネシウム蛍光体,およびリン酸カルシウム蛍光体から選択される1種又は複数種の無機蛍光体;並びに/あるいは,ビタミンB1,ビタミンB2,ビタミンB6,およびビタミンB12から選択される1種又は複数種のビタミンBを含む,(4)に記載の細胞賦活剤。
(6)(1)~(5)のいずれか1項に記載の細胞賦活剤を含有する組成物。
(7)前記組成物は皮膚外用組成物であり,皮膚に紫外線を含む光を浴びせることにより皮膚を賦活するためのものである,(6)に記載の組成物。
(8)(6)又は(7)に記載の組成物を対象の皮膚に塗布すること;および
前記組成物を塗布後の皮膚に紫外線を含む光を浴びせること;を含む,
対象の皮膚を賦活するための美容方法。
(9)(1)~(5)のいずれか1項に記載の細胞賦活剤を含有する製品。
(10)前記製品は,紫外線を含む光を該製品に通過させた後の光を皮膚に浴びせることにより皮膚を賦活するためのものである,(9)に記載の製品。
(11)(9)又は(10)に記載の製品に紫外線を含む光を通過させること;および
前記通過光を対象の皮膚に浴びせること;を含む,
対象の皮膚を賦活するための美容方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明は,紫外線を有効活用して皮膚細胞を賦活させることにより,皮膚に好ましい作用を奏することができる。従来,紫外線は皮膚に好ましくないため,皮膚をなるべく紫外線に当てないような対策を採るのが当分野の技術常識である。一方,本発明は紫外線を逆に利用して皮膚に好ましい作用を与えるという知見に基づいており,非常に驚くべきものである。また,本発明は,従来,主に色素,顔料,紫外線散乱剤,紫外線吸収剤,栄養成分,抗酸化剤,等として利用されていた上述の化合物に新たな用途を提供する。さらに,本発明は,これまで美容や健康上の理由よりなるべく紫外線を避けていた者であっても積極的に外出する気分になれるといった生活の質の向上にもつながることもある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は,実験1および2の模式図である。
図2図2は,実験1における各波長変換物質を使用してUVを照射した際の細胞活性を示す。縦軸は,相対蛍光強度(au)を示す。
図3図3は,実験2における各濃度のC-フィコシアニンを使用して各強度のUVを照射した際の細胞活性を,相対蛍光強度(au)として示す。
図4図4は,実験3の模式図である。
図5図5は,実験3において細胞活性を一旦低下させた細胞にC-フィコシアニンを使用してUVを照射した際の細胞活性を,相対蛍光強度(au)として示す(P検定)。
図6図6は,実験4において細胞活性を一旦低下させた細胞に酸化亜鉛蛍光体を使用してUVを照射した際の細胞活性を,相対蛍光強度(au)として示す(P検定)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の細胞賦活剤は,波長変換物質を有効成分として含有する。波長変換物質とは,入射光に含まれる紫外線の波長を変換して前記紫外線の波長よりも長い波長の出射光を放出する物質を指す。
【0011】
紫外線は,UVA,UVB,UVC等を含んでもよい。ある実施形態では,紫外線は,200nm~400nmにピーク波長を有する光である。また,例えば太陽光といった入射光に紫外線が含まれていてもよい。あるいは,入射光が紫外線であってもよく,人工的に生成された紫外線を用いてもよい。
【0012】
波長変換物質により放出される出射光は,紫外線よりも波長が長く,好ましくは500nm~700nmにピーク波長を有する。出射光は,例えば,限定されないものの,510nm,520nm,530nm,540nm,550nm,560nm,570nm,580nm,590nm,600nm,610nm,620nm,630nm,640nm,650nm,660nm,670nm,680nm,690nm,700nm,あるいはこれらの数値の任意の範囲内に1又は複数のピークを有してもよいし,あるいは,赤色光,橙色光,緑色光,青色光等であってもよい。ある実施形態では,波長変換物質は,200nm~400nmの励起光で励起した際に発する光の主波長が500nm~700nmを示す。
【0013】
波長変換物質の例として,以下の成分が挙げられる:アロフィコシアニン,C-フィコシアニン,R-フィコシアニン,フィコエリスロシアニン,B-フィコエリスリン,b-フィコエリスリン,C-フィコエリスリン,R-フィコエリスリンなどのフィコビリ蛋白;ビタミンA,βカロテン,ビタミンK,ビタミンB1,ビタミンB2,ビタミンB6,ビタミンB12,葉酸,ナイアシン,リコピン,クチナシ,ベニバナ,ウコン,コチニール,シソ,赤キャベツ,フラボノイド,カロテノイド,キノイド,ポルフィリン類,アントシアニン類,ポリフェノール類,サリチル酸,トウガラシエキスなどの天然由来又は合成成分;赤色401号,赤色227号,赤色504号,赤色218号,橙色205号P,黄色4号,黄色5号,緑色201号,ピラニンコンク,青色1号,塩酸2,4-ジアミノフェノキシエタノール,アリズリンパープルSS,紫色401号,黒色401号,へリンドンピンク,黄色401号,ベンチジンエローG,青色404号,赤色104号,メタアミノフェノール,トウガラシ色素,クチナシ色素,パプリカ色素などの色素;無機化合物にドープし蛍光を持たせた蛍光体,例えば,特許第6424656号に記載の非晶質シリカ粒子と,セリウムと,リン及び/又はマグネシウムとを含む青色蛍光体および特許第6361416号に記載のアルカリ土類金属硫化物とガリウム化合物との混晶物にユーロピウムを賦活した化合物を含む赤色蛍光体,国際公開第2018/004006号に記載の酸化亜鉛蛍光体,特開2018-131422号に記載の酸化亜鉛蛍光体;特開平5-117127号に記載の無機蛍光体;等が挙げられる。ある実施形態では,無機蛍光体は,ZnO:Zn,Zn1+z,ZnO1-xのように表すことができる酸化亜鉛を国際公開第2018/004006号に記載の,例えば硫化亜鉛,硫酸亜鉛等の硫化塩及び/又は硫酸塩といった硫黄含有化合物でドープした蛍光体,MgTiO3,Mg2TiO4といったチタン酸マグネシウムをマンガンでドープしたチタン酸マグネシウム蛍光体,及びCa(H2PO4)2,CaHPO4,Ca3(PO4)2といったリン酸カルシウムをセリウムでドープしたリン酸カルシウム蛍光体から選択される1種又は複数種の蛍光体である。
【0014】
波長変換物質は,動物,植物,藻類等の天然物から抽出などの方法により得ても,化学的な合成といった人工的な方法により得てもよい。例えば,フィコビリ蛋白は,スピルリナ(Spirulina platensis)などの藍藻類,チノリモ(Porphyridium purpureum)などの紅藻類といった藻類を,例えば特許第4048420号,特許第4677250号,特許第3303942号等に記載の方法で抽出することにより調製してもよい。酸化亜鉛蛍光体は,例えば国際公開第2018/004006号,特開2018-131422号,特開平5-117127号に記載の方法により製造してもよい。チタン酸マグネシウム蛍光体は,特開2017-88719号に記載の方法により製造してもよい。リン酸カルシウム蛍光体は,国際公開第2018/117117号に記載の方法により製造してもよい。
【0015】
これらの波長変換物質は,本発明の波長変換効果を損なわない限り,上で例示した成分から構成されてもよく,含まれていてもよく,単体で使用しても複数種を混合してもよい。例えば,上記フィコビリ蛋白や無機物蛍光体に他の波長変換物質,例えば,ビタミンB(ビタミンB1,ビタミンB2,ビタミンB6,ビタミンB12等)を混合し相乗的な効果を目指してもよい。しかしながら,これらの成分は例示であり本発明の波長変換効果を奏するいかなる物質も使用可能である。
【0016】
また,本発明の細胞賦活化剤,組成物又は製品における波長変換物質の含有量は本発明の波長変換効果を損なわない限り特に限定されず,波長変換物質の種類や細胞賦活化剤又は組成物の用途により適宜決定できる。例えば,0.01~99.99重量%,0.1%~999重量%等の範囲内で任意である。
【0017】
細胞賦活とは,限定されないものの,ヒトを含む動物の細胞,例えば,皮膚の線維芽細胞及び/又は角化細胞の新陳代謝やターンオーバーの促進,機能の向上,増殖の促進,酸化の抑制,疲労や外部刺激に対する耐性の向上,機能や活性の低下の抑制,細胞修復などが挙げられる。皮膚の細胞が賦活されると,しわ,シミ,皮膚老化,光老化等の予防・改善といった効果が期待される。
【0018】
細胞賦活効果の測定は,例えば実施例のように,Alamar Blueを用いて細胞の生存率や増殖を測定することで行ってもよいし,その他の色素アッセイ,ミトコンドリア膜電位異存的色素アッセイ,エラスターゼ切断色素アッセイ,ATP,ADEアッセイ,解糖フラックスと酸素消費アッセイ等任意の方法が使用できる。
【0019】
本発明の細胞賦活化剤および組成物の投与形態は任意であるが,皮膚に紫外線を含む光を浴びせることにより皮膚を賦活させるために医薬品,医薬部外品,化粧品等の皮膚外用剤が好ましい場合がある。本発明の細胞賦活化剤又は組成物を皮膚外用剤として使用する場合,剤型,塗布法,投与回数等は任意に決定できる。例えば,化粧水,スプレー,オイル,クリーム,乳液,ゲル,サンスクリーン剤,サンタン剤,といった形態で,定期的又は不定期的に,例えば,朝,昼,夕方など1日1回~数回,外出,野外活動,マリンスポーツ,スキーなど日差しを浴びることが予想される前などにその都度,皮膚に塗布するものであってよい。
【0020】
また,本発明の細胞賦活化剤および組成物は,必要に応じて,例えば,賦形剤,保存剤,増粘剤,結合剤,崩壊剤,分散剤,安定化剤,ゲル化剤,酸化防止剤,界面活性剤,保存剤,油分,粉末,水,アルコール類,増粘剤,キレート剤,シリコーン類,酸化防止剤,保湿剤,香料,各種薬効成分,防腐剤,pH調整剤,中和剤等の添加剤を任意に選択し併用することができる。さらに,本発明の効果を高めるために,他の細胞賦活化剤等を併用してもよい。
【0021】
また,本発明は,本発明の細胞賦活化剤を含み,皮膚に紫外線を含む光を浴びせることにより皮膚を賦活させるための,例えば,サンバイザー,帽子,衣類,手袋,スクリーンフィルム,窓用スプレーやクリーム,窓材,壁材といった製品も提供する。上記と同様,本発明の製品における添加剤等の使用や製品の形態等も任意である。
【0022】
また,本発明は,本発明の細胞賦活化剤,組成物又は製品の製造方法も提供する。また,対象の皮膚を賦活するための方法も提供し,ここで,該方法は,本発明の細胞賦活化剤又は組成物を対象の皮膚に塗布すること,および前記細胞賦活化剤又は組成物を塗布後の皮膚に紫外線を含む光を浴びせること;あるいは,本発明の製品に紫外線を含む光を通過させること,並びに,前記通過光を対象の皮膚に浴びせること;を含み,当該細胞賦活化剤,組成物および製品は,入射光に含まれる紫外線の波長を変換して前記紫外線の波長よりも長い波長の出射光を放出し,好ましくは200nm~400nmにピーク波長を有する紫外線を500nm~700nmにピーク波長を有する光として通過させる。対象の皮膚を賦活するための方法は,美容を目的とするものであり医師や医療従事者が使用する治療方法ではない場合がある。また,本発明は,本発明の美容方法,細胞賦活化剤,組成物又は製品を対象に提示することを含む,対象の美容行為を支援する美容カウンセリング方法も提供する。
【実施例
【0023】
次に実施例によって本発明を更に詳細に説明する。なお,本発明はこれにより限定されるものではない。
【0024】
実験1:各種波長変換物質の細胞賦活効果
実験1-1:波長変換物質の調製
波長変換物質を以下のように調製した。
(1)B-フィコエリスリン
B-フィコエリスリン(B-phycoerythrin)は,チノリモ(Porphiridium Cruentum)抽出物から得られ,吸収スペクトルは305nmにピーク波長を有し,発光スペクトルは570nmおよび610nmにピーク波長を有していた。
(2)C-フィコシアニン
C-フィコシアニン(C-phycocyanin)は,スピルリナ(Spirulina platensis)抽出物から得られ,吸収スペクトルは350nmにピーク波長を有し,発光スペクトルは640nmおよび700nmにピーク波長を有していた。
(3)酸化亜鉛蛍光体
堺化学工業株式会社製のLumate Gを使用した。Lumate Gは,国際公開第2018/004006号に記載のようにZnOを硫黄含有化合物でドープ後焼成した酸化亜鉛蛍光体であり,吸収スペクトルは365nmにピーク波長を有し,発光スペクトルは510nmにピーク波長を有していた。
(4)チタン酸マグネシウム蛍光体
堺化学工業株式会社製のLumate Rを使用した。Lumate Rは,MgTiO3をマンガンでドープしたチタン酸マグネシウム蛍光体であり,吸収スペクトルは365nmにピーク波長を有し,発光スペクトルは660~680nmの帯域にピーク波長を有していた。
(1)~(2)の波長変換物質を水に溶解し,1%及び5%の濃度の溶液を調製した。
(3)~(4)の波長変換物質はアルコールに分散し5%及び10%の分散液を調整した。
【0025】
実験1-2:細胞試料の調製
細胞試料を以下のように調製した。
1. ヒト皮膚線維芽細胞(Kurabo社から購入)およびヒト皮膚角化細胞(Kurabo社又はPromoCell社から購入)を使用した。液体窒素で保存されていた細胞懸濁液(1mL)を湯浴(37℃)にかけ小さな氷ペレットが残る程度に解凍し,次いで9mLの温培地で希釈した。
2. 希釈物を穏やかに混合してからT75フラスコに移し,37℃で一晩インキュベートした。
3. 翌日,培地を10mLの新鮮培地に交換した。
4. 培地を定期的に交換し(線維芽細胞では2日に1回,角化細胞では2~3日に1回),細胞の増殖を継続した。その間,顕微鏡を用いて細胞を観察し,細胞が正しい形態で増殖していることを確認した。
5. 細胞が約80%のコンフルエントに達してから,細胞を継代した。細胞の継代は,10mLの温PBSで細胞を1回洗浄してから,5mLの温トリプシンをT75フラスコに加え,トリプシン溶液でフラスコの底面をカバーし1分間室温においてから吸引することにより行った。
6. 線維芽細胞では(最大)2分間,角化細胞では(最大)7分間,フラスコを37℃のオーブン内に静置した。顕微鏡を用いて細胞を観察し,細胞が小さく楕円形であることを確認した。
7. その後,T75フラスコの側面を軽く叩いて細胞を遊離させた。顕微鏡を用いて細胞を観察し,細胞が自由に動いていることを確認した。
8. 線維芽細胞は,5mLの温FGM(10%血清含有)に再懸濁し,滅菌50mLファルコンチューブに移した。フラスコをさらに5mLの温FGMで洗い流してファルコンチューブに加えることにより確実に全ての細胞を移すようにした。
9. 細胞を10,000rpmで5分間遠心し(4℃),細胞ペレットを乱さないよう注意しながら上清を除去した。
10. 細胞の種類に応じ,線維芽細胞は2×104cells/well(500μL),角化細胞は4×104cells/well(500μL)の濃度でFGMまたはKGMに再懸濁し,24ウェルプレートにプレーティングした。
11. 24ウェルプレートに細胞を播種し,培地を定期的に交換し(線維芽細胞では2日に1回,角化細胞では2~3日に1回),60~70%のコンフルエント(実験の種類により異なる)に達するまで細胞を増殖させた。(注:線維芽細胞は,2×104cells/wellの細胞密度だと24時間で所望のコンフルエンシーに達するはずである。細胞密度が,例えば1×104cells/well等と低い場合,線維芽細胞が所望のコンフルエンシーに達するのに48時間かかる。)
12. 照射の24時間前に,サプリメント無添加の培地(角化細胞の場合)または低濃度の血清を含有する(0.5%FCS)培地(線維芽細胞の場合)に変更した。
【0026】
実験1-3:紫外線の照射
1. 照射の少なくとも30分前にソーラーシミュレータの電源を入れてランプをウォームアップした。ソーラーシミュレータは,UG11フィルターを使用する設定にした。UG11フィルターは,UVBのみを通過させ他の波長光をカットするフィルターである。UG11フィルターを通過したUV光は300nm~385nmにピーク波長を有していた。
2. 温度制御プレートをオンにして33℃に設定した。
3. 実験1-2で調製した細胞を温PBSで1回洗浄した。
4. 各ウェルに0.5mLの温めたMartinez溶液(145mM NaCl, 5.5mM KCl, 1.2mM MgCl2.6H2O, 1.2mM NaH2PO4.2H2O, 7.5mM HEPES, 1mM CaCl2, 10mM D-グルコース)を加えた。
5. 図1に示すように,細胞ウェルをプレート上に載置し,更にその上に,実験1-1で調製した波長変換物質(1)~(4)を含む溶液を24ウェルプレートの各穴に0.4ml注入し,細胞入りのウェルを覆うように載置し,波長変換物質の溶液が細胞溶液と直接触れずに,UV光が波長変換物質の溶液を通過して細胞溶液に照射されるようにした。
6. 合計が100mJ/cm2の線量になるよう照射を行った。また,対照として,細胞ウェルの上に波長変換物質のプレートを載せず細胞に直接UV光を照射した試料と,細胞にUV光を照射せず暗所で培養した試料を作成した。
7. 照射後,Martinezを温めたKGM(サプリメント無添加)またはFGM(0.5%FCS含有)と交換し,プレートを37℃のインキュベータに戻した。
【0027】
実験1-4:細胞活性の測定
実験1-3の後インキュベータ内で48時間保持した細胞を用いて,以下の方法により活性を測定した。
1. 培地(サプリメント無添加のKGM培地または0.5%FCS含有FGM培地)に10%Alamar Blueを添加し37℃に温めた(溶液は暗所で保持)。
2. ウェル内の培地を500μLの上記10%Alamar Blue溶液に交換し,プレートを37℃のインキュベータに戻し約3時間保持した。対照のウェルも同様にインキュベータ内で保持した。これらの溶液を光から保護するため暗所で保持した。
3. 3時間後,100μLのアリコートを採取し,黒色の96ウェルプレートに移した。
4. 蛍光測定器 (OPwave+, Ocean Photonics)を用いて544nm/590nmでの蛍光測定値を読み取った。
【0028】
結果を図2に示す。UVを照射すると照射しない対照に比べて細胞活性が低下していた。しかし,波長変換物質を通してUVを照射した細胞の活性は,照射しない対照に比べていずれの波長変換物質でも上昇していた。以上の結果より,UV照射により細胞活性は低下するものの,波長変換物質を用いると細胞活性低下が抑制されることがわかった。
【0029】
実験2:波長変換物質の濃度およびUVの強度の違いによる細胞活性への影響
波長変換物質としてC-フィコシアニンを使用し0%,0.4%,2%となるように添加した溶液入りのプレートで細胞培養物を覆い,0,10,25,50,75,100mJ/cm2の線量でUVを照射した以外は実験1と同じ方法を行った。
【0030】
結果を図3に示す。波長変換物質を用いない場合,UV照射量が上がるほど細胞活性は低下した。しかし,0.4%のC-フィコシアニンを添加するとUV照射しても細胞活性の低下は抑制されており,2%のC-フィコシアニンを添加するとUV照射をしない場合よりも細胞活性がむしろ亢進されていた。以上の結果より,UV照射により細胞活性は低下するものの,波長変換物質を用いると濃度依存的に細胞活性低下が抑制されるのみならず,細胞活性が亢進されることがわかった。
【0031】
実験3:UV照射により低下した細胞活性のC-フィコシアニンによる回復
図4に示すように,波長変換物質を使用せずに照射量が400mJ/cm2となるまでUV照射を行い細胞活性を一旦低下させた後に,波長変換物質としてC-フィコシアニンを0%,0.4%,2%となるように添加した溶液入りのプレートで細胞培養物を覆い,0,10,25,50,75,100,200mJ/cm2の線量になるまでUVを照射した以外は実験1と同じ方法を行った。
【0032】
結果を図5に示す。波長変換物質を使用せずUV照射により一旦活性が低下した細胞であっても,波長変換物質を用いてUV照射を施すことにより細胞活性が回復したことがわかる。また,この効果は,C-フィコシアニンが0.4%の濃度であっても2%の場合と同等であり,0.4%でも十分な細胞賦活効果があることが示唆される。一方,波長変換物質を用いずにUV照射を行った場合,細胞活性はUV線量依存的に低下した。
【0033】
以上の実験結果を示す図2,3,5は,ヒト皮膚線維芽細胞についてのものであるが,角化細胞についても同様の結果が見られた。更に,以下の実験にて,波長変換物質として酸化亜鉛蛍光体を含むフィルムを用いることによる細胞賦活効果について実験1-2の方法で得た角化細胞を用いて調べた。
【0034】
実験4:UV照射により低下した細胞活性の酸化亜鉛蛍光体による回復
ヒト皮膚角化細胞に対し,波長変換物質を使用せずに照射量が400mJ/cm2となるまでUV照射を行い細胞活性を一旦低下させた後に,波長変換物質として酸化亜鉛蛍光体を5%となるようにアクリルポリマー中に分散することにより作成したフィルムで細胞培養物を覆う又はフィルムを用いずに,100mJ/cm2の線量になるまでUVを照射した以外は実験3と同じ方法を行った。
【0035】
結果を図6に示す。波長変換物質として酸化亜鉛蛍光体を含むフィルムを用い,角化細胞を使用しても,実験3と同様に,UV照射により一旦活性が低下した細胞の細胞活性が波長変換物質により回復したことがわかる。
【0036】
これらの結果により,波長変換物質はUV照射による細胞活性の低下を抑制するのみならず,UV光を利用して細胞を賦活する効果があることがわかった。皮膚の細胞が賦活されると,しわ,シミ,皮膚老化,光老化等の予防・改善が期待される。
【0037】
以上,本発明の実施の形態について説明してきた。しかしながら,本発明はこれらに限定されるものではなく,化粧料,医薬品組成物等,発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6