(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】緩衝器用潤滑油組成物、緩衝器、および緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法
(51)【国際特許分類】
C10M 129/74 20060101AFI20241009BHJP
C10M 137/10 20060101ALI20241009BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20241009BHJP
C10N 40/06 20060101ALN20241009BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20241009BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20241009BHJP
【FI】
C10M129/74
C10M137/10 A
C10N10:04
C10N40:06
C10N30:06
C10N30:00 Z
(21)【出願番号】P 2021550342
(86)(22)【出願日】2020-07-03
(86)【国際出願番号】 JP2020026147
(87)【国際公開番号】W WO2021070433
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2019187393
(32)【優先日】2019-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100159178
【氏名又は名称】榛葉 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慎治
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-199535(JP,A)
【文献】特開2012-224653(JP,A)
【文献】特開2014-019713(JP,A)
【文献】特表2012-511077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、摩擦調整剤と、を含有し、
前記摩擦調整剤は、ペンタエリスリトールエステルと、ジチオリン酸亜鉛とを含有し、
前記ペンタエリスリトールエステルは、ペンタエリスリトールテトラエステルを一番多い割合で含むもの、あるいは、50質量%以上含むものであり、
前記ペンタエリスリトールエステルの含有量が0.5質量%以上である、緩衝器用潤滑油組成物。
【請求項2】
基油と、摩擦調整剤と、を含有し、
前記摩擦調整剤は、ペンタエリスリトールエステルと、ジチオリン酸亜鉛とを含有し、
前記ペンタエリスリトールエステルは、エステル基の平均数が3よりも大きく、
前記ペンタエリスリトールエステルの含有量が0.5質量%以上である、緩衝器用潤滑油組成物。
【請求項3】
基油と、摩擦調整剤と、を含有し、
前記摩擦調整剤は、ペンタエリスリトールエステルと、ジチオリン酸亜鉛とを含有し、
前記ペンタエリスリトールエステルは、水酸基の平均数が1よりも小さく、
前記ペンタエリスリトールエステルの含有量が0.5質量%以上である、緩衝器用潤滑油組成物。
【請求項4】
基油と、摩擦調整剤と、を含有し、
前記摩擦調整剤は、ペンタエリスリトールエステルと、ジチオリン酸亜鉛とを含有し、
前記ペンタエリスリトールエステルは、
±1.0mm以下の微振幅時の摩擦係数μ2と
、±1.0mmよりも大きい通常振幅時の摩擦係数μ1との比(μ2/μ1)が、0.8以上である、緩衝器用潤滑油組成物。
【請求項5】
水酸基価が0.5mgKOH/g以上である、請求項1ないし
4のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油組成物。
【請求項6】
前記ペンタエリスリトールエステルの含有量が5質量%以上である、請求項1ないし
5のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油組成物。
【請求項7】
前記ジチオリン酸亜鉛は炭素数3~5のアルキル基を有する、請求項1ないし
6のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油組成物。
【請求項8】
請求項1ないし
7のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油組成物を用いた緩衝器。
【請求項9】
基油と、ペンタエリスリトールエステルと、を含有する緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法であって、
前記ペンタエリスリトールエステルのエステル基の平均数を調整することで、微振幅時の摩擦特性を調整する、緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法。
【請求項10】
基油と、ペンタエリスリトールエステルと、を含有する緩衝器用潤滑油組成物の摩擦調整方法であって、
前記ペンタエリスリトールエステルの水酸基の平均数を調整することで、微振幅時の摩擦特性を調整する、緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法。
【請求項11】
基油と、ペンタエリスリトールエステルと、を含有する緩衝器用潤滑油組成物の摩擦調整方法であって、
緩衝器用潤滑油の水酸基価を調整することで、前記ペンタエリスリトールエステルの減少を抑制する、緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法。
【請求項12】
基油と、ペンタエリスリトールエステルと、を含有する緩衝器用潤滑油組成物の摩擦調整方法であって、
前記ペンタエリスリトールエステルの脂肪酸残基の炭素数を調整することで、緩衝器用潤滑油の摩擦係数を調整する、緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝器用潤滑油組成物、緩衝器、および緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、緩衝器の制振力は、バルブで発生する油圧減衰力と、ピストンロッドとオイルシールまたはピストンとシリンダの摺動部で発生する摩擦力とを合わせた力となることが知られている。また、緩衝器の制振力が大きい場合には操作安定性は増すが乗り心地が悪化し、反対に、緩衝器の制振力が小さい場合には操作安定性は悪化するが乗り心地が良好となることが知られている。そのため、近年では、乗り心地性に着目し、緩衝器用潤滑油に添加する摩擦調整剤を調整することで、緩衝器用潤滑油の摩擦力を小さくし、緩衝器の制振力を小さくする研究が行われてきた(たとえば非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】ショックアブソーバの技術動向とトライボロジー(中西 博、トライボロジスト 2009年(Vol.54)9号 598頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
緩衝器は往復運動により制振力を発揮するが、油圧減衰力が立ち上がるまでは一定時間がかかる一方、摩擦力は応答性が高いため、静止状態から滑り状態に移行する際や、微振幅時には、摩擦力が緩衝器の制振力の重要なファクターとなる。しかしながら、従来のように、乗り心地性に着目し、緩衝器用潤滑油の摩擦力を小さくしてしまうと、制振力も小さくなり、操作安定性が悪化してしまうという問題があった。特に、近年は、整備された道路が多く、通常振幅よりも微振幅の振動が発生することが多いため、微振幅時において、操作安定性と乗り心地性とを両立することができる緩衝器用潤滑油組成物が望まれていた。
【0005】
本発明は、特に微振幅時において、操作安定性と乗り心地性とを両立することができる緩衝器用潤滑油組成物、緩衝器、緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は下記(1)ないし(7)の緩衝器用潤滑油組成物を要旨とする。
(1)基油と、摩擦調整剤と、を含有し、前記摩擦調整剤は、ペンタエリスリトールエステルと、ジチオリン酸亜鉛とを含有し、前記ペンタエリスリトールエステルは、ペンタエリスリトールテトラエステルを一番多い割合で含むもの、あるいは、50質量%以上含むものであり、前記ペンタエリスリトールエステルの含有量が0.5質量%以上である、緩衝器用潤滑油組成物。
(2)基油と、摩擦調整剤と、を含有し、前記摩擦調整剤は、ペンタエリスリトールエステルと、ジチオリン酸亜鉛とを含有し、前記ペンタエリスリトールエステルは、エステル基の平均数が3よりも大きく、前記ペンタエリスリトールの含有量が0.5質量%以上である、緩衝器用潤滑油組成物。
(3)基油と、摩擦調整剤と、を含有し、前記摩擦調整剤は、ペンタエリスリトールエステルと、ジチオリン酸亜鉛とを含有し、前記ペンタエリスリトールエステルは、水酸基の平均数が1よりも小さく、前記ペンタエリスリトールエステルの含有量が0.5質量%以上である、緩衝器用潤滑油組成物。
(4)基油と、摩擦調整剤と、を含有し、前記摩擦調整剤は、ペンタエリスリトールエステルと、ジチオリン酸亜鉛とを含有し、±1.0mm以下の微振幅時の摩擦係数μ2と、±1.0mmよりも大きい通常振幅時の摩擦係数μ1との比(μ2/μ1)が、0.8以上である、緩衝器用潤滑油組成物。
(5)水酸基価が0.5mgKOH/g以上である、上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油組成物。
(6)前記ペンタエリスリトールエステルの含有量が5質量%以上である、上記(1)ないし(5)のいずれかの緩衝器用潤滑油組成物。
(7)前記ジチオリン酸亜鉛は炭素数3~5のアルキル基を有する、上記(1)ないし(6)のいずれかの緩衝器用潤滑油組成物。
【0007】
また、本発明は下記(8)の緩衝器を要旨とする。
(8)上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の緩衝器用潤滑油組成物を用いた緩衝器。
【0008】
さらに、本発明は下記(9)ないし(12)の緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法を要旨とする。
(9)基油と、ペンタエリスリトールエステルと、を含有する緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法であって、前記ペンタエリスリトールエステルのエステル基の平均数を調整することで、微振幅時の摩擦特性を調整する、緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法。
(10)基油と、ペンタエリスリトールエステルと、を含有する緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法であって、前記ペンタエリスリトールエステルの水酸基の平均数を調整することで、微振幅時の摩擦特性を調整する、緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法。
(11)基油と、ペンタエリスリトールエステルと、を含有する緩衝器用潤滑油組成物の摩擦調整方法であって、緩衝器用潤滑油の水酸基価を調整することで、前記ペンタエリスリトールエステルの減少を抑制する、緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法。
(12)基油と、ペンタエリスリトールエステルと、を含有する緩衝器用潤滑油組成物の摩擦調整方法であって、前記ペンタエリスリトールエステルの脂肪酸残基の炭素数を調整することで、緩衝器用潤滑油の摩擦係数を調整する、緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特に微振幅時における、操作安定性と乗り心地性とを両立することができる緩衝器用潤滑油組成物、緩衝器、および緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】緩衝器用潤滑油の水酸基価と緩衝器用作動油の劣化度との関係を示すグラフである。
【
図2】ZnDTPを添加した緩衝器用潤滑油の摩擦係数と、ペンタエリスリトールの添加量との関係を示すグラフである。
【
図3】ZnDTPの減少率と、ペンタエリスリトールの添加量との関係を示すグラフである。
【
図4】本実施例に係る摩擦試験装置の一例を示す図である。
【
図5】ZnDTPを添加していない緩衝器用潤滑油の摩擦係数と各種摩擦調整剤の添加量との関係を示すグラフである。
【
図6】ZnDTPを添加している緩衝器用潤滑油の摩擦係数と各種摩擦調整剤の添 加量との関係を示すグラフである。
【
図7】ペンタエリスリトールモノエステル、ペンタエリスリトールジエステル、またはペンタエリスリトールトリエステルを主に含有する緩衝器用潤滑油組成物を用いた、摩擦試験(比較例)の結果を示す図である。
【
図8】ペンタエリスリトールテトラエステルを主に含有する緩衝器用潤滑油組成物を用いた、摩擦試験(実施例)の結果を示す図である。
【
図9】摩擦試験における緩衝器用潤滑油の摩擦係数の変動を示す従来のグラフである。
【
図12】ZnDTPの種類に応じた緩衝器用潤滑油の摩擦特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る緩衝器用潤滑油組成物、緩衝器および緩衝器用潤滑油の摩擦調整方法を、図に基づいて説明する。なお、以下においては、本発明を、緩衝器用潤滑油組成物を例示して説明する。また、以下においては、「微振幅時」や「通常振幅時」との文言を用いて説明するが、本発明において「微振幅時」とは±1.0mm以下の振幅を称し、「通常振幅時」とは±1.0mmよりも大きい振幅を称すものとする。
【0012】
本実施形態に係る緩衝器用潤滑油は、(A)基油と、(B)摩擦調整剤と、を有し、(B)摩擦調整剤は、(B1)ジチオリン酸亜鉛(以下、ZnDTPともいう)と、(B2)ペンタエリスリトールとを含有する。
【0013】
(A)基油
本実施形態に係る緩衝器用潤滑油における基油は、鉱油及び/又は合成油である。鉱油や合成油の種類に特に制限はなく、鉱油としては、例えば、溶剤精製、水添精製などの通常の精製法により得られたパラフィン基系鉱油、中間基系鉱油又はナフテン基系鉱油などが挙げられる。 また、合成油としては、例えば、ポリブテン、ポリオレフィン〔α-オレフィン(共)重合体〕、各種のエステル(例えば、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステルなど)、各種のエーテル(例えば、ポリフェニルエーテルなど)、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンなどが挙げられる。 本発明においては、基油として、上記鉱油を一種用いてもよく、二種以上組み合わせて用いてもよい。また、上記合成油を一種用いてもよく、二種以上組み合わせて用いてもよい。更には、鉱油一種以上と合成油一種以上とを組み合わせて用いてもよい。
【0014】
(B)摩擦調整剤
本実施形態に係る緩衝器用潤滑油は摩擦調整剤を含有する。摩擦調整剤は、特に限定されないが、リン系、アミン系、またはエステル系などの種々の減摩剤を含有することができる。減摩剤の添加量を調整することで、緩衝器用潤滑油の摩擦係数を調整することができる。また、本実施形態に係る摩擦調整剤は、下記に説明するように、少なくとも(B1)ジチオリン酸亜鉛と(B2)ペンタエリスリトールエステルとを含有する。
【0015】
(B1)ジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)
ZnDTPは、一般に、下記化1で表される化合物であり、摩擦調整剤による摩擦係数の調整を補助する機能を有する。
【化1】
[上記化1において、Rはそれぞれ個別の炭化水素基を示し、直鎖状の一級アルキル基、分枝状の二級アルキル基、またはアリール基が挙げられる。]
【0016】
このように、ZnDTPとしては、一級アルキル基、二級アルキル基、またはアリール基を有するものなど複数の種類(構造)が知られているが、本実施形態に係る緩衝器用潤滑油では、以下に説明する2種類のZnDTPを含有する。
【0017】
すなわち、本実施形態に係る緩衝器用潤滑油は、第1のZnDTPとして、下記式1で示すZnDTPを含有する。
【化2】
[式1中、R
11~R
14はアルキル基であり、当該アルキル基は第一級アルキル基および第二級アルキル基を有する。すなわち、R
11~R
14のうち1つ以上3つ以下は第一級アルキル基であり、R
11~R
14のうち残りは第二級アルキル基である。]
【0018】
第1のZnDTPにおいて、第一級アルキル基は、特に限定されず、たとえばメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、イソアミル基、イソブチル基、2-メチルブチル基、2-エチルヘキシル基、2,3-ジメチルブチル基、2-メチルペンチル基などが挙げられるが、炭素数4~12のアルキル基(たとえばイソブチル基(炭素数4)や2-エチルヘキシル基(炭素数8)であることが好ましい。
【0019】
また、第1のZnDTPにおいて、第二級アルキル基は、特に限定されず、たとえばイソプロピル基、sec-ブチル基、1-エチルプロピル基、4-メチル-2-ペンチル基などが挙げられるが、炭素数3~6のアルキル基(たとえばイソプロピル基(炭素数3))であることが好ましい。
【0020】
また、第1のZnDTPにおいて、第一級アルキル基と第二級アルキル基の割合は、特に限定されないが、第二級アルキル基に対して、第一級アルキル基の割合が高い方が好ましい。
【0021】
第1のZnDTPの含有量は、特に限定されないが、緩衝器用潤滑油において0.1質量%以上含有することが好ましく、0.4質量%以上含有することがより好ましい。また、第1のZnDTPの含有量は、緩衝器用潤滑油において4.0質量%以下とすることが好ましく、2.0質量%以下とすることがより好ましい。
【0022】
このように、本発明に係る緩衝器用潤滑油では、第一級アルキル基および第二級アルキル基の両方を有する第1のZnDTPを含むことにより、摩擦調整剤を添加した場合に乗り心地性および操縦安定性に適した摩擦係数に容易に調整することができることに加えて、後述するように(後述の摩擦試験3および
図12参照)、第一級アルキル基のみを有するZnDTP、および/または、第二級アルキル基のみを有するZnDTPを含有する緩衝器用潤滑油と比べて、摩擦係数のバラツキを抑えることができ、乗り心地性をより向上することができる。
【0023】
さらに、本実施形態に係る緩衝器用潤滑油は、摩擦調整剤として、第1のZnDTPとは異なる構造の、第2のZnDTPを有する。第2のZnDTPは、下記式2で表される。
【化3】
[式2中、R
21~R
24は第二級アルキル基である。すなわち、第2のZnDTPは第一級アルキル基を有さず、第二級アルキル基のみを有する。]
【0024】
第2のZnDTPが有する第二級アルキル基の炭素数は、特に限定されず、たとえばイソプロピル基、sec-ブチル基、1-エチルプロピル基、2-エチルヘキシル基、4-メチル-2-ペンチル基などが挙げられるが、第二級アルキル基として、炭素数3~8のアルキル基(たとえばイソプロピル基(炭素数3)、2-エチルヘキシル基(炭素数8)、または、イソブチル基(炭素数4)など)が好ましい。
【0025】
また、第2のZnDTPの含有量は、特に限定されないが、第1のZnDTPよりも少ない方が好ましく、ZnDTPの添加量(第1のZnDTPおよび第2のZnDTPの合計量)に対して20重量%以下となることが好ましい。
【0026】
なお、ZnDTPがどのようなアルキル基を含有しているかは、公知の測定方法により測定することができる。たとえば、C13-NMRを用いてZnDTPの構造を決定することもできるし、FT-IRの指紋領域を用いてP-O-Cの吸収帯、P=S P-Sの吸収帯の特徴から、アルキル基が第一級アルキル基または第二級アルキル基であるかを分析することでZnDTPの構造を決定することもできる。
【0027】
また、ジチオリン酸として、第二級アルキル基のみを有する第2のZnDTPを含有することで、第1のZnDTPのみを含有する場合と比べて、乗り心地をより向上させることができる。具体的には、走行時における微振動を、第1のZnDTPのみを含有する場合と比べて、より低減することができる。また、第2のZnDTPを炭素数3~8の第二級アルキル基を有するZnDTPとすることで、微振幅(低速度)と通常振幅(高速度)における摩擦係数の差を小さくすることができ、乗り心地性を向上させることができる。
【0028】
(B2)ペンタエリスリトールエステル
ペンタエリスリトールエステルは、4価の糖アルコールであり、ペンタエリスリトールが有する末端置換基である水酸基が脂肪酸残基とエステル結合している化合物である。ペンタエリスリトールエステルは、4つ全ての末端置換基が脂肪酸残基とエステル結合したペンタエリスリトールテトラエステルと、いずれかの末端置換基が脂肪酸残基とエステル結合した部分エステルであるペンタエリスリトールモノエステル、ペンタエリスリトールジエステルおよびペンタエリスリトールトリエステルとがある。
【0029】
本発明に係るペンタエリスリトールエステルにおいて、脂肪酸残基は、特に限定されず、たとえば、ステアリン酸残基やオレイン酸残基などのC6~C22の脂肪酸残基とすることができる。また、脂肪酸残基として、カプリル酸、カプリン酸、オレイン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸、アジピン酸、ペラルゴン酸、トール脂肪酸、ヤシ脂肪酸、ココナツ脂肪酸、牛脂脂肪酸を例示することもできる。
【0030】
ペンタエリスリトールエステルの脂肪酸残基の炭素数を調整することで、緩衝器用潤滑油の摩擦係数を調整することができる。具体的には、ペンタエリスリトールエステルの脂肪酸残基の炭素数が大きいほど、緩衝器潤滑油の摩擦係数が小さくなる傾向にあり、脂肪酸残基の炭素数が小さいほど、緩衝器用潤滑油の摩擦係数が大きくなる傾向がある。そのため、緩衝器用潤滑油の摩擦係数を所望の摩擦係数となるように、ペンタエリスリトールエステルが有する脂肪酸残基の炭素数に着目して、ペンタエリスリトールエステルを選択することができる。また、異なる炭素数の脂肪酸残基を有する複数のペンタエリスリトールエステルを組み合わせて、緩衝器用潤滑油の摩擦係数を調整することもできる。たとえば、炭素数の小さい脂肪酸残基を有するペンタエリスリトールエステルと、炭素数の大きい脂肪酸残基を有するペンタエリスリトールテトラエステルとの配合量を調整することで、緩衝器用潤滑油の摩擦係数を調整することもできる。
【0031】
本発明に係る緩衝器用潤滑油において、ペンタエリスリトールエステルは、「主にペンタエリスリトールテトラエステル」であることを特徴とする。ここで、「主にペンタエリスリトールテトラエステルである」ペンタエリスリトールエステルとは、ペンタエリスリトールモノエステル、ペンタエリスリトールジエステル、ペンタエリスリトールトリエステルおよびペンタエリスリトールテトラエステルの中で、ペンタエリスリトールテトラエステルの割合が最も多いもの、あるいは、ペンタエリスリトールテトラエステルを50%以上含むものを意味する。
【0032】
また、ペンタエリスリトールテトラエステルを製造する場合、ペンタエリスリトールテトラエステルだけを製造することは技術的に困難であり、ペンタエリスリトールモノエステル、ペンタエリスリトールジエステル、ペンタエリスリトールトリエステルなどが混在してしまう。そのため、実際に、「ペンタエリスリトールテトラエステル」として市販されているものであっても、ペンタエリスリトールテトラエステルのみで構成されているのではなく、ペンタエリスリトールテトラエステルを主に含むが、ペンタエリスリトールテトラエステルの他に、ペンタエリスリトールトリエステル、ペンタエリスリトールジエステル、あるいはペンタエリスリトールモノエステルなども含まれる。そのため、「ペンタエリスリトールテトラエステル」として市販されているペンタエリスリトールエステルを、本発明における「主にペンタエリスリトールテトラエステルである」ペンタエリスリトールエステルとして定義することもできる。
【0033】
また、「主にペンタエリスリトールテトラエステル」であるペンタエリスリトールエステルは、以下のように定義することもできる。すなわち、ペンタエリスリトールテトラエステルに加えて、ペンタエリスリトールトリエステル、ペンタエリスリトールジエステル、ペンタエリスリトールモノエステルなども混在するペンタエリスリトールエステルについて、エステル基を測定し、エステル基の平均数が3よりも大きいペンタエリスリトールエステルを、「主にペンタエリスリトールテトラエステル」であるペンタエリスリトールエステルとして特定することもできる。また、ペンタエリスリトールエステルについて、水酸基を測定し、水酸基の平均数が1よりも小さいペンタエリスリトールエステルを、「主にペンタエリスリトールテトラエステル」であるペンタエリスリトールエステルとして特定することもできる。ペンタエリスリトールエステルのエステル基または水酸基の平均数は、たとえばガスクロマトグラフィー質量分析法や液体クロマトグラフィー質量分析法を用いて測定することができる。
【0034】
また、本実施形態に係る緩衝器用潤滑油は、ペンタエリスリトールエステルとして、水酸基を有しないペンタエリスリトールテトラエステルを主に含むが、水酸基を含むペンタエリスリトールトリエステル、ペンタエリスリトールジエステル、ペンタエリスリトールモノエステルも一部含まれており、これら水酸基を含むペンタエリスリトールによる水酸基価が、0.5mgKOH/g以上であることが好ましく、1.0mgKOH/g以上であることがより好ましく、1.5mgKOH/g以上であることがさらに好ましい。
【0035】
緩衝器用潤滑油の水酸基価を0.5mgKOH/g以上とすることで、ペンタエリスリトールの分解(ペンタエリスリトールの分解による緩衝器用潤滑油の劣化)を抑制し、緩衝器用潤滑油の耐摩耗性を向上することができる。ここで、
図1は、緩衝器用潤滑油の水酸基価と緩衝器用潤滑油の劣化度との関係を示すグラフである。なお、
図1に示す例においては、ペンタエリスリトールエステルの添加量を調整することで、下記表1に示すように、水酸基価が0mgKOH/gである緩衝器用潤滑油(サンプル1)と、水酸基価が0.58mgKOH/gである緩衝器用潤滑油(サンプル2)と、水酸基価が1.16mgKOH/gである緩衝器用潤滑油(サンプル3)と、水酸基価が1.74mgKOH/gである緩衝器用潤滑油(サンプル4)とについて、緩衝器用潤滑油の劣化度を測定した。緩衝器用潤滑油の劣化度は、ブロックオンリング型の摩擦摩耗試験機であるFALEX-LFW1試験機を用い、摺動部に250mlの上記の各緩衝器用潤滑油を供給し、速度0.6m/s、荷重6581Nで摺動させて、200万回相当の緩衝器の動作を行った後、遠心分離機でスラッジを除去した後に、各緩衝器用潤滑油を測定することで行った。
【表1】
【0036】
図1および上記表1に示すように、ペンタエリスリトールエステルの添加量を増やし緩衝器用潤滑油の水酸基価を0.58mgKOH/gとすることで、200万回相当の緩衝器の動作においても、緩衝器用潤滑油の劣化度を55%まで抑制することができた。また、ペンタエリスリトールエステルの添加量をさらに増やし緩衝器用潤滑油の水酸基価を1.74mgKOH/gとすることで、200万回相当の緩衝器の動作においても、緩衝器用潤滑油の劣化度を10%未満の9.1%とすることができた。このように、緩衝器用潤滑油の水酸基価が高いほど、緩衝器用潤滑油の劣化度が小さくなる傾向にあることが分かった。特に、緩衝器用潤滑油の劣化を抑制する観点から、緩衝器用潤滑油の水酸基価は0.5mgKOH/g以上であることが好ましく、1.0mgKOH/g以上であることがより好ましく、1.5mgKOH/g以上であることがさらに好ましい。
【0037】
次に、ペンタエリスリトールエステルの含有量について説明する。本実施形態に係る緩衝器用潤滑油は、ペンタエリスリトールエステルを、0.5質量%以上含有し、より好ましくは1.0質量%以上含有する。ここで、
図2は、ZnDTPを添加した緩衝器用潤滑油の摩擦係数と、ペンタエリスリトールエステルの含有量との関係を示すグラフである。
図2に示すように、ペンタエリスリトールエステルの含有量を0.2質量%以上とした場合、ZnDTPを添加した緩衝器用潤滑油の摩擦係数は変動せずに、0.02~0.05の範囲内に収めることができる。このように、ペンタエリスリトールエステルの含有量を0.2質量%以上とすることで、ZnDTPを含有する緩衝器用潤滑油の摩擦係数の変動を抑制することができる。そのため、本実施形態に係る緩衝器用潤滑油では、ペンタエリスリトールエステルの分解も考慮し、ペンタエリスリトールエステルを0.5質量%以上含有するものとし、好ましくは1.0質量%以上含有するものとする。
【0038】
また、緩衝器用潤滑油は、ペンタエリスリトールエステルを2.0質量%以上含有することがより好ましい。ペンタエリスリトールエステルが存在しない場合、ZnDTPが分解などにより減少してしまい、これにより緩衝器用潤滑油の摩擦係数が上昇し摩耗が発生してしまうためである。ここで、
図3は、ZnDTPの減少率と、ペンタエリスリトールの添加量との関係を示すグラフである。なお、
図3に示す例では、
図1と同様に、ブロックオンリング型の摩擦摩耗試験機であるFALEX-LFW1試験機を用い、摺動部に250mlの潤滑油添加剤を供給し、速度0.6m/s、荷重6581Nで摺動させて200万回相当の緩衝器の動作を行った後、遠心分離機でスラッジを除去した後に、FT-IRを用いて、ZnDTPの含有量を測定した。
図3に示すように、ペンタエリスリトールを添加していない場合、200万回相当の緩衝器の動作においてZnDTPは80%程度減少することが分かった。これに対して、ペンタエリスリトールを0.5質量%添加させた場合には200万回相当の緩衝器の動作においてZnDTPの減少は55%程度まで抑制され、ペンタエリスリトールを1.0質量%添加させた場合には200万回相当の緩衝器の動作においてZnDTPの減少は25%程度にまで抑制され、ペンタエリスリトールを2.0質量%添加させた場合には200万回相当の緩衝器の動作においてZnDTPの減少は9%程度にまで抑制された。このように、緩衝器用潤滑油は、ペンタエリスリトールエステルを2.0質量%以上含有することで、ZnDTPの減少を有効に抑制することができ、その結果、緩衝器用潤滑油の劣化を抑制することができる。
【0039】
さらに、本実施形態に係る緩衝器用潤滑油は、ペンタエリスリトールエステルを5.0質量%以上含有することが好ましい。これは、
図1で例示したように、緩衝器用潤滑油の劣化を抑制するためには、緩衝器用潤滑油の水酸基価を0.5mgKOH/g以上とすることが好ましいが、本実施形態に係る緩衝器用潤滑油に含まれるペンタエリスリトールエステルは、主に、水酸基を有しないペンタエリスリトールテトラエステルであり、緩衝器用潤滑油の水酸基価を0.5mgKOH/g以上とするためには、ペンタエリスリトールエステルの含有量を5質量%以上とすることが好ましいためである。
【実施例】
【0040】
次いで、本実施形態に係る緩衝器用潤滑油の実施例について説明する。
【0041】
[摩擦試験装置10]
図4は、本実施例における摩擦試験で用いた摩擦試験装置10の構成図である。摩擦試験装置10は、ピン・オン・ディスク型の摩擦試験装置であり、スライドベアリング1上に固定したディスク試験片2を電磁加振機3により往復運動させ、これにピン試験片4を押し当てて摺動させて生じた摩擦力を、ピン試験片4の固定軸5に取り付けたひずみゲージ6を用いて計測する。また、緩衝器の摩擦特性に影響する要素として緩衝器用潤滑油とオイルシールとの組み合わせがあるため、
図4に示す摩擦試験装置10では、緩衝器においてオイルシールとして使用されるアクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)をピン試験片4に用い、オイルリップ形状を模してピン試験片4の先端を140°の角度となるようにカットした。また、ディスク試験片2には、ピストンロッド表面に使用する硬質クロムめっき膜を用いた。なお、本実施例では、NBRのピン試験片4とクロムめっきされたディスク試験片2との間の摩擦力(摩擦係数)を測定しているが、銅ボールとクロムめっきされたディスク試験片2との間の摩擦力(摩擦係数)を測定してもよい。
【0042】
[摩擦試験1]
まず、摩擦試験1では、上記摩擦試験装置10を用いて、振幅±0.2mm、周波数1.5Hz、荷重20Nおよび温度30℃で、ピン試験片4とディスク試験片2とを往復させて、平均摩擦係数を測定した。また、摩擦試験1では、リン系、アミン系、またはエステル系などの種々の摩擦調整剤を添加した緩衝器用潤滑油について、ZnDTPを1%添加した場合と、ZnDTPを添加していない場合とで、摩擦係数を測定した。
図5はZnDTPを添加していない緩衝器用潤滑油の摩擦係数を、
図6はZnDTPを添加している緩衝器用潤滑油の摩擦係数をそれぞれ示している。緩衝器用潤滑油の摩擦係数は小さすぎると操作安定性が悪化し、大きすぎると乗り心地性が悪化するため、0.02~0.05の範囲内に調整することが好ましい。従来から、摩擦調整剤の添加量を調整することで摩擦係数を調整していたが、
図5に示すように、ZnDTPを添加しない場合、摩擦調整剤だけで摩擦係数を調整することは困難であった。これに対して、
図6に示すように、ZnDTPを添加した場合には、摩擦調整剤の添加量に応じて摩擦係数を調整することが容易となり、摩擦係数を目標とする0.02~0.05の範囲内に調整することができた。
【0043】
このように、本発明に係る緩衝器用潤滑油では、摩擦調整剤にZnDTPを含有することで、緩衝器用潤滑油の摩擦係数を、操作安定性と乗り心地性とを両立することができる0.02~0.05の範囲内に調整することができ、これにより、操作安定性と乗り心地性とを両立することが可能となった。
【0044】
[摩擦試験2]
摩擦試験2では、上記摩擦試験装置10を用いて、後述する各試験区の緩衝器用潤滑油について、微振幅(振幅±0.2mm)および通常振幅(振幅±2.0mm)の2つの振幅、かつ、周波数1.5Hz、荷重20Nおよび温度30℃で摺動させて、摩擦係数を測定した。また、摩擦試験2では、緩衝器潤滑油に添加したペンタエリスリトールエステルの種類のみを変えて試験を行った。
図7および
図8に試験結果を示す。なお、
図7(A)~(C)ではペンタエリスリトールモノエステル、ペンタエリスリトールジエステル、またはペンタエリスリトールトリエステルを主に含むペンタエリスリトールを添加した、緩衝器用潤滑油の試験結果(比較例)である。また、
図8(D)~(F)は、ペンタエリスリトールテトラエステルを主に含むペンタエリスリトールエステルを添加した、本実施形態に係る緩衝器用潤滑油の結果(実施例)である。なお、
図7および
図8では、緩衝器の往復摺動のうち、往方向の摺動における緩衝器用潤滑油の摩擦力および緩衝器の振幅を正の値で表し、復方向の摺動における緩衝器用潤滑油の摩擦力および緩衝器の振幅を負の値で表すことで、従来、
図9に示すように表示していた緩衝器用潤滑油の摩擦特性を、循環図形として表記している。
【0045】
図7(A)~(C)に示すように、ペンタエリスリトールテトラエステルを主に含まない、緩衝器用潤滑油(比較例)では、微振幅時における摩擦係数は比較的小さく、通常振幅時における摩擦係数は比較的大きくなっている。すなわち、ペンタエリスリトールテトラエステルを主に含まない、緩衝器用潤滑油(比較例)では、振幅の大きさに応じて、摩擦係数が大きくなる傾向があることが分かった。このことは、微振幅時には摩擦力が小さいため操作安定性が十分に得られない一方、通常振幅時には摩擦力が大きくなりすぎてしまい乗り心地性が低下してしまうおそれがあることを示唆する。
【0046】
これに対して、
図8(D)~(F)に示すように、ペンタエリスリトールテトラエステルを主に含む、本実施形態に係る緩衝器用潤滑油では、微振幅時における摩擦係数と、通常振幅時における摩擦係数とが同程度となることが分かった。このように、ペンタエリスリトールテトラエステルを主に含む、本実施形態に係る緩衝器用潤滑油(実施例)では、微振幅時においても通常振幅時と同様の摩擦力が得られるため、微振幅時における操作安定性を向上することができる。また、微振幅時は、緩衝器に入力される振動自体が小さいため、摩擦力が比較例と比べて大きくなっても、乗り心地性を確保することができる。すなわち、ペンタエリスリトールテトラエステルを主に含む、本実施形態に係る緩衝器用潤滑油(実施例)では、微振幅時において、操作安定性と、乗り心地性とを両立することができる。
【0047】
また、ペンタエリスリトールテトラエステルを主に含む、本実施形態に係る緩衝器用潤滑油(実施例)では、
図7に示す緩衝器用潤滑油(比較例)と比べて、通常振幅時における摩擦係数は小さくなった。これは、ペンタエリスリトールテトラエステルを主に含む緩衝器用潤滑油(実施例)では、悪路などを走行しており振幅が大きい振動が発生する場合には、比較例と比べて摩擦力が小さくなるため、制振力を小さくすることができ、乗り心地性を向上させることができることを示唆する。
【0048】
さらに、ペンタエリスリトールテトラエステルを主に含む、本実施形態に係る緩衝器用潤滑油では、
図10に示すように、微振幅時における摩擦係数をμ2とし、通常振幅時における摩擦係数μ1とした場合に、通常振幅時の摩擦係数μ1と微振幅時の摩擦係数μ2の比(μ2/μ1)が1に近い数値となる。本発明では、この比(μ2/μ1)を振幅依存指標と称する。ペンタエリスリトールテトラエステルを主に含む複数の緩衝器用潤滑油について、振幅依存指標(μ2/μ1)を算出した結果、ペンタエリスリトールテトラエステルを主に含む緩衝器用潤滑油では、振幅依存指標が0.8以上、より好ましくは0.8~1.2となることが分かった。このことから、ペンタエリスリトールを含む緩衝器用潤滑油であって、振幅依存指標が0.8以上、より好ましくは0.8~1.2となる緩衝器用潤滑油であれば、微振幅時の操作安定性を向上することができるとともに、通常振幅時の乗り心地性も向上することができることが分かった。
【0049】
また、摩擦試験2から、本実施形態に係る緩衝器用潤滑油では、タイヤの接地性を高くすることができ、操作安定性を高くすることができることが分かった。すなわち、
図7に示す緩衝器用潤滑油(比較例)と比べて、
図8に示すテトラペンタエリスリトールを主に含む、本実施形態に係る緩衝器用潤滑油(実施例)では、
図11のP1~P4に示すように、通常振幅時において、滑り状態から静止状態に移行する直前のP1,P3および静止状態から滑り状態に移行した直後のP2,P4において、滑り状態よりも摩擦力が高くなることが分かる。このように、振幅依存指標を0.8以上、より好ましくは1以上とすることで、滑り状態から静止状態に移行する直前のP1,P3および静止状態から滑り状態に移行する直後のP2,P4において摩擦力を大きくすることができ、その結果、状態移行時の制振力を高くすることができる。そして、静止直前または摺動開始直後の緩衝器用潤滑油の摩擦力が大きくなり、摺動方向が切り換わっても直ぐに制振力が強く働くことで、タイヤを接地する力が働き、タイヤの接地性を向上させることができる。
【0050】
[摩擦試験3]
また、摩擦試験3では、振幅±0.1mm、周波数5Hz、20Nおよび30℃でピン試験片4とディスク試験片2とを往復させて、緩衝器用潤滑油の摩擦係数を測定した。また、摩擦試験3では、
図12に示すように、本実施形態に係る緩衝器用潤滑油(第一級アルキル基および第二級アルキル基を有する第1のZnDTPを含有する緩衝器用潤滑油)である実施例1に加えて、比較例1~4についても摩擦係数を測定した。ここで、比較例1は炭素数3,5の第一級アルキル基のみを有するZnDTPを加えた緩衝器用潤滑油の例であり、比較例2は炭素数3,5の第二級アルキル基のみを有するZnDTPを加えた緩衝器用潤滑油の例であり、比較例3は炭素数6,8の第二級アルキル基のみを有するZnDTPを加えた緩衝器用潤滑油の例であり、比較例4は炭素数8の第一級アルキル基のみを有するZnDTPを加えた緩衝器用潤滑油の例である。また、比較例5は、炭素数3,6の第二級アルキル基のみを有するZnDTPと、炭素数8の第一級アルキル基のみを有するZnDTPとを1:1で混合したものを加えた緩衝器用潤滑油の例である。
【0051】
また、摩擦試験3においては、実施例1および比較例1~5について、最大摩擦係数と平均摩擦係数とを、それぞれ複数のZnDTPの添加量(重量%)で測定した。さらに、最大摩擦係数/平均摩擦係数を算出し、算出した最大摩擦係数/平均摩擦係数の値を、ZnDTPの添加量(重量%)ごとにプロットした。
【0052】
図12に、摩擦試験3の結果を例示する。最大摩擦係数/平均摩擦係数の値が1に近いほど、摩擦係数のバラツキが少なく、乗り心地が良いと評価することができる。
図12に示す結果から、比較例1~5では、ZnDTPの添加量が1.0重量%以下である場合に、実施例1と比べて、最大摩擦係数/平均摩擦係数の値が大幅に高くなり、またZnDTPの添加量が1.0重量%以上である場合も、実施例1と比べて、最大摩擦係数/平均摩擦係数の値が高くなった。これに対して、実施例1では、比較例1~5と比べて、全体的に最大摩擦係数/平均摩擦係数の値が低くなる傾向にあり、特に、ZnDTPの添加量が0.5~1.0重量%である場合には、比較例1~5と比べて、最大摩擦係数/平均摩擦係数の値が大幅に低くなった。
【0053】
さらに、実施例1では、ZnDTPの添加量が0.1~4.0重量%である場合に、最大摩擦係数/平均摩擦係数の値が1.3以下となり、0.25~2.0重量%である場合には、最大摩擦係数/平均摩擦係数の値が1.22以下とより低くなった。このことから、本実施形態に係る、第一級アルキル基および第二級アルキル基を有する第1のZnDTPを含有する緩衝器用潤滑油では、当該ZnDTPの添加量を0.25~2.0重量%とすることで、乗り心地がより向上することが分かった。
【0054】
加えて、摩擦試験3から、比較例1~5では、実施例1と比べて、ZnDTPの添加量が変化すると、最大摩擦係数/平均摩擦係数の値も変動しやすいのに対して、実施例1では、ZnDTPの添加量が変化しても、最大摩擦係数/平均摩擦係数の値が変動しにくいことがわかった。たとえば、実施例1では、ZnDTPの添加量が0.2~4.0重量%の範囲において、最大摩擦係数/平均摩擦係数の値は1.24以下のままとなった。このことから、本実施形態に係る第一級アルキル基および第二級アルキル基を有する第1のZnDTPを含有する緩衝器用潤滑油では、長期間の使用によりZnDTPの劣化(分解)が進みZnDTPの含有量が減少した場合も、比較例1~5と比べて、乗り心地性が変化しにくいという効果が大きいことが分かった。
【0055】
また、乗り心地性を向上するために、本発明に係る緩衝器用潤滑油(実施例1)のように、第一級アルキル基および第二級アルキル基の両方を有するZnDTP(第1のZnDTP)を含有する緩衝器用潤滑油でなくてはいけないのか、あるいは、第一級アルキル基を有するZnDTPと第二級アルキル基を有するZnDTPとを混在して含有する緩衝器用潤滑油でもよいのかを把握するため、比較例5として、第一級アルキル基を有するZnDTPと第二級アルキル基を有するZnDTPとを混在して含有する緩衝器用潤滑油で摩擦試験も行った。その結果、比較例5では、実施例1のように最大摩擦係数/平均摩擦係数の値が低くならず、乗り心地性を向上することはできなかった。このことから、単に、第一級アルキル基を有するZnDTPと第二級アルキル基を有するZnDTPとを混在して含有する緩衝器用潤滑油では、本実施形態に係る緩衝器用潤滑油(実施例1)のように、第一級アルキル基および第二級アルキル基の両方を有するZnDTP(第1のZnDTP)を含有する緩衝器潤滑油の効果を得られないことが分かった。
【0056】
このように、本実施形態に係る緩衝器用潤滑油では、(A)基油と、(B)摩擦調整剤とを有し、(B)摩擦調整剤は、(C)第一級アルキル基および第二級アルキル基を有する第1のZnDTPを含むことにより、摩擦調整剤を添加した場合に乗り心地性および操縦安定性に適した摩擦係数に容易に調整することができることに加えて、第一級アルキル基のみを有するZnDTP、および/または、第二級アルキル基のみを有するZnDTPを含有する緩衝器用潤滑油と比べて、摩擦係数のバラツキを抑えることができ、乗り心地性をより向上することができる。
【0057】
[走行試験1]
また、専門のドライバー(プロのドライバー)および一般ドライバーに、ペンタエリスリトールテトラエステルを主に含んでいない緩衝器用潤滑油(比較例)を用いた緩衝器を搭載した車両と、ペンタエリスリトールテトラエステルを主に含む緩衝器用潤滑油(実施例)を用いた緩衝器を搭載した車両とで、緩衝器以外は全て同条件として、同一の走行コースを走行してもらい、評価をしてもらった。
【0058】
その結果、凹凸の少ない道路では、比較例と比べて、ペンタエリスリトールテトラエステルを主に含む緩衝器用潤滑油(実施例)を用いた場合、タイヤの足回り、タイヤの接地性が良好となり、操作性が向上したとの評価を得た。またこのような評価は、専門のドライバーだけではなく、一般ドライバーでも体感できるものであった。また、ペンタエリスリトールテトラエステルを主に含む緩衝器用潤滑油(実施例)を用いた場合には、制振力が大きくなるため、道路の小さい凹凸もドライバーに伝わり易く、ドライバーに多くの情報を伝えることができることが分かった。
【0059】
以上、本発明の好ましい実施形態例について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態の記載に限定されるものではない。上記実施形態例には様々な変更・改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態のものも本発明の技術的範囲に含まれる。