(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】摺動部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 11/14 20060101AFI20241009BHJP
F16F 9/32 20060101ALI20241009BHJP
F16F 9/54 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
B23K11/14
F16F9/32 N
F16F9/54
(21)【出願番号】P 2022057586
(22)【出願日】2022-03-30
【審査請求日】2024-06-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和也
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3053438(JP,U)
【文献】特開昭58-61269(JP,A)
【文献】特開平11-63223(JP,A)
【文献】特開2009-185613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00 - 11/36
F16F 9/32
F16F 9/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動部品と非摺動部品とを有する摺動部材の製造方法であって、
前記摺動部品は、本体部と、前記本体部の先端部に形成され前記本体部と比較して小径な溶接対象部と、を有し、
前記摺動部材は、液圧シリンダのピストンロッド、ショックアブソーバのピストンロッド、又はフロントフォークのインナーチューブであり、
前記摺動部品の表面に塩浴軟窒化処理を施し、皮膜を形成する工程と、
前記摺動部品の
前記溶接対象部の前記皮膜を
母材が露出するまで除去する工程と、
前記摺動部品の前記溶接対象部と、塩浴軟窒化処理が施されていない前記非摺動部品とを溶接する工程と、
を備えることを特徴とする摺動部材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の摺動部材の製造方法であって、
前記摺動部品の前記溶接対象部は、円柱部と、先端に向かって傾斜する傾斜面を有する傾斜部と、を有し、
前記溶接対象部のうち前記傾斜部の皮膜のみを除去することを特徴とする摺動部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
摺動性及び耐食性の向上を目的とする金属部品の表面処理として、塩浴軟窒化処理が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、金属部品の表面に塩浴軟窒化処理を施した後、当該部品を他の部品と溶接すると、所望の溶接強度が得られない。
【0005】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、所望の溶接強度を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、摺動部品と非摺動部品とを有する摺動部材の製造方法であって、摺動部品は、本体部と、本体部の先端部に形成され本体部と比較して小径な溶接対象部と、を有し、摺動部材は、液圧シリンダのピストンロッド、ショックアブソーバのピストンロッド、又はフロントフォークのインナーチューブであり、摺動部品の表面に塩浴軟窒化処理を施し、皮膜を形成する工程と、摺動部品の溶接対象部の皮膜を母材が露出するまで除去する工程と、摺動部品の溶接対象部と、塩浴軟窒化処理が施されていない非摺動部品とを溶接する工程と、を備えることを特徴とする。
【0007】
この発明では、摺動部品の溶接対象部の皮膜を除去した後、摺動部品の溶接対象部と非摺動部品が溶接される。つまり、摺動部品の母材と非摺動部品が溶接されるため、所望の溶接強度を得ることができる。
【0010】
また、本発明は、摺動部品の溶接対象部が、円柱部と、先端に向かって傾斜する傾斜面を有する傾斜部と、を有し、溶接対象部のうち傾斜部の皮膜のみを除去することを特徴とする。
【0011】
この発明では、溶接対象部のうち必要最低限の皮膜を除去するため、生産性に優れる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、所望の溶接強度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係るショックアブソーバの構成図である。
【
図2】溶接前の摺動部品と非摺動部品の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る摺動部材の製造方法について説明する。
【0016】
摺動部材は、例えば、車両に搭載されるショックアブソーバにおいてシリンダに対して摺動するピストンロッドや、アクチュエータとして使用される液圧シリンダにおいてシリンダに対して摺動するピストンロッド、二輪車用のフロントフォークにおいてアウターチューブに対して摺動するインナーチューブである。
【0017】
本実施形態では、
図1に示すように、摺動部材がショックアブソーバ1のピストンロッド100である場合について説明する。
【0018】
ショックアブソーバ1は、作動油(作動流体)が封入されたシリンダ31と、シリンダ31に摺動自在に収容されシリンダ31内を圧側室32と伸側室33に区画するピストン34と、一端部がピストン34に連結され他端部がシリンダ31の外部へと延びるピストンロッド100と、を備える。
【0019】
ピストン34には、ショックアブソーバ1の伸縮動作に伴う圧側室32と伸側室33の間の作動油の流れに抵抗を付与して減衰力を発生する減衰力発生部(図示せず)が設けられる。
【0020】
シリンダ31内には、シリンダ31に対するピストンロッド100の進入及び退出に伴うシリンダ31内の容積変化を補償するガス35が封入される。
【0021】
ピストンロッド100は、シリンダ31の端部の開口部を封止するシリンダヘッド31aに摺動自在に支持される。ピストンロッド100の外周面とシリンダ31の内周面との間には、環状のシール部材39がシリンダヘッド31aと並んで設けられる。
【0022】
シリンダ31の底部には、連結用部材としてのブラケット36が設けられ、ブラケット36は車輪側に連結される。また、ピストンロッド100の先端部には、連結用部材としてのブラケット20が設けられ、ブラケット20は車体側に連結される。このように、ショックアブソーバ1は、ブラケット36及びブラケット20を介して車両に搭載され、伸縮動作に伴い減衰力を発生して車体の振動を抑制する。
【0023】
ピストンロッド100は、他の部品に対して摺動する摺動部品としてのロッド部10と、他の部品に対して摺動しない非摺動部品としてブラケット20と、を有する。本実施形態では、ロッド部10は、シリンダ31のシリンダヘッド31aに対して摺動する。
【0024】
ロッド部10及びブラケット20は、例えば、S15C、S20C、S25C、S30C、S35C、S40C、S45C等の炭素鋼や、SCM430、SCM435、SCM440等のクロムモリブデン鋼である。ロッド部10とブラケット20は、同じ材料にて形成されてもよく、異なる材料にて形成されてもよい。ロッド部10とブラケット20は、別々に成形された後、溶接により接合される。
【0025】
以下に、
図2を参照して、ピストンロッド100の製造方法について説明する。
図2は溶接前のロッド部10とブラケット20の正面図である。
【0026】
溶接前のロッド部10は、円柱状であって外周面が摺動面として機能する本体部13と、本体部13の先端部に形成されブラケット20と溶接される部位である溶接対象部11と、を有する。溶接対象部11は、本体部13と比較して小径に形成される。溶接対象部11は、円柱部11aと、先端に向かって傾斜する傾斜面を有する傾斜部11bと、を有する。傾斜部11bは、円柱部11aと連続して形成され、先端が尖った円錐状に形成される。溶接対象部11は、加工の行い易さを考慮して、全体ではなく一部が円錐状に形成される。
【0027】
ブラケット20は、本実施形態では環状部材である。しかし、ブラケット20の形状は、環状部材に限定されない。
【0028】
ピストンロッド100の製造方法として、まず、溶接対象部11を含むロッド部10の母材表面の全体に塩浴軟窒化処理を施し、皮膜を形成する。具体的には、ロッド部10を、500℃程度の塩浴中に浸漬させて母材表面に窒素を染み込ませ、鉄元素と結合させることにより母材表面に硬い皮膜を形成する。皮膜は、最表層である酸化物層と、酸化物層と母材の間の窒化物層と、を有する。酸化物層は、例えばFe3O4であり、窒化物層は、例えばFe3Nである。塩浴軟窒化処理により形成される皮膜は、摺動性及び耐食性に優れるため、摺動部品であるロッド部10の品質が向上する。非摺動部品であるブラケット20には、塩浴軟窒化処理は施されない。
【0029】
次に、ロッド部10の皮膜のうち、溶接対象部11に形成された皮膜を除去する。具体的には、切削加工により母材が露出するまで皮膜を削り除去する。皮膜を除去する方法は、切削加工に限らず、ヤスリを用いて削ってもよい。ここで、
図2に白色で示すように、溶接対象部11のうち傾斜部11bの皮膜のみを除去するのが好ましい。これは、円柱部11aの皮膜は、後述する溶接強度への影響が小さいためである。
【0030】
次に、ロッド部10の溶接対象部11と、ブラケット20とを溶接する。具体的には、ロッド部10の溶接対象部11と、ブラケット20の外周面とを互いに押し当て加圧しながら通電する電気抵抗溶接を行う。溶接対象部11は、熱を集中させるために、先端が尖った傾斜部11bを有する。本実施形態では、電気抵抗溶接の中でも、溶接対象部11に熱を集中させてブラケット20と接合するプロジェクション溶接を行う。
【0031】
溶接対象部11は、溶接により溶け、
図1に示すように、ロッド部10とブラケット20の間に環状に形成される溶接部12となり、ロッド部10とブラケット20は溶接部12を介して接合される。
【0032】
ここで、溶接対象部11に形成された皮膜を除去しないで、ロッド部10の溶接対象部11と、ブラケット20とを溶接した場合には、皮膜を介した溶接となるため、ショックアブソーバ1の動作に要求される溶接部12の溶接強度(具体的には引張強度)が得られない。また、皮膜は酸化物層と窒化物層を有し硬いため、溶接の過程で皮膜が外側へ押し出され、溶接部12の周囲にバリとして形成されてしまう。この場合には、溶接後にバリを除去する工程が増えてしまい製造コストが増加する。また、除去しきれなかったバリは、ショックアブソーバ1の作動油中に混入してコンタミの原因となるおそれがある。
【0033】
これに対して、本実施形態では、ロッド部10の溶接対象部11の皮膜を除去した後、ロッド部10の溶接対象部11と、ブラケット20とを溶接するため、ロッド部10の母材とブラケット20が溶接される。したがって、溶接対象部11とブラケット20は皮膜を介在しないで溶接されるため、ショックアブソーバ1の動作に要求される溶接部12の溶接強度が得られる。また、溶接部12の周囲のバリの発生も防止される。したがって、溶接後にバリを除去する工程が不要であり、また、作動油中にバリが混入することも防止できる。
【0034】
以上の実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0035】
ロッド部10の溶接対象部11の皮膜を除去した後、ロッド部10の溶接対象部11と、ブラケット20とを溶接するため、ロッド部10の母材とブラケット20が溶接される。したがって、所望の溶接強度を得ることができる。
【0036】
以下、本発明の各実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0037】
ロッド部10(摺動部品)とブラケット20(非摺動部品)とを有するピストンロッド100(摺動部材)の製造方法であって、ロッド部10の表面に塩浴軟窒化処理を施し、皮膜を形成する工程と、ロッド部10の溶接対象部11の皮膜を除去する工程と、ロッド部10の溶接対象部11と、塩浴軟窒化処理が施されていないブラケット20とを溶接する工程と、を備える。
【0038】
この構成では、ロッド部10の溶接対象部11の皮膜を除去した後、ロッド部10の溶接対象部11とブラケット20が溶接される。つまり、ロッド部10の母材とブラケット20が溶接されるため、所望の溶接強度を得ることができる。
【0039】
また、ロッド部10(摺動部品)は、本体部13と、本体部13の先端部に形成され本体部13と比較して小径な溶接対象部11と、を有する。
【0040】
この構成では、溶接対象部11に熱を集中させて、溶接対象部11とブラケット20(非摺動部品)を効率的に溶接することができる。
【0041】
また、ロッド部10の溶接対象部11は、円柱部11aと、先端に向かって傾斜する傾斜面を有する傾斜部11bと、を有し、溶接対象部11のうち傾斜部11bの皮膜のみを除去する。
【0042】
この構成では、溶接対象部11のうち必要最低限の皮膜を除去するため、生産性に優れる。
【0043】
また、摺動部材は、液圧シリンダのピストンロッド、ショックアブソーバのピストンロッド、又はフロントフォークのインナーチューブである。
【0044】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0045】
100・・・ピストンロッド(摺動部材)、1・・・ショックアブソーバ、10・・・ロッド部(摺動部品)、11・・・溶接対象部、11a・・・円柱部、11b・・・傾斜部、12・・・溶接部、13・・・本体部、20・・・ブラケット(非摺動部品)