(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】基材上に被覆を堆積させるための方法および計時器用コンポーネントの製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/16 20060101AFI20241009BHJP
C23C 14/58 20060101ALI20241009BHJP
G04B 37/22 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
C23C14/16 C
C23C14/58 C
C23C14/58 A
G04B37/22 Q
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022180135
(22)【出願日】2022-11-10
【審査請求日】2022-11-10
(32)【優先日】2021-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507276380
【氏名又は名称】オメガ・エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ロイク・キュルショ
(72)【発明者】
【氏名】ジーモン・シュプリンガー
(72)【発明者】
【氏名】ステファーヌ・ローペル
(72)【発明者】
【氏名】アフマド・オデー
(72)【発明者】
【氏名】マリオン・グスタルター
(72)【発明者】
【氏名】ロイク・オベルソン
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー・キスリング
【審査官】安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/170324(WO,A1)
【文献】特開2020-116392(JP,A)
【文献】特開平01-123042(JP,A)
【文献】Colors of thin films of binary and ternary gold- and ternary gold- and platinum-based alloys,Acta Materialia,2013年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/16
C23C 14/58
G04B 37/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材(100)上に被覆を堆積させるための方法であって、
前記基材(100)上に金属間結合を含む薄層(110)を堆積させて、計時器、宝飾品又はファッションアイテムの外側部品(10)を得る堆積ステップと、
前記薄層(110)の堆積を行った包囲体とは異なる専用の包囲体内にて前記外側部品(10)をアニールするアニールステップと、を順次的に行い、
前記堆積ステップは、カソードスパッタリング又はイオンスパッタリング、熱蒸発、アーク又は電子ビーム蒸発、又はパルスレーザービームアブレーションによるPVD堆積法を実行することによって行い、
前記薄層の堆積は、
異なる純金属によって構成している少なくとも2つのターゲットから行い、
前記ターゲットに与えられるパワーは、前記ターゲットの摩耗に応じて補正される、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記堆積ステップは、前記薄層(110)が、20~1000nm、又は200~500nm、又は300nm、の厚みを有するように行う
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アニールステップは、前記薄層(110)全体を熱処理する全体的なアニール操作を実行することによって行う
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記全体的なアニール操作の間に、前記外側部品(10)を、30分~120分、又は60分、の持続時間、200℃~500℃、又は実質的に300℃、の温度にする
ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記アニールステップは、前記薄層(110)の所定領域(111)に局所的なアニール操作を実行することによって行う
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記アニールステップは、前記全体的なアニール操作の後に、前記薄層(110)の所定領域(111)に対して局所的なアニール操作を実行することによって行う
ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記局所的なアニール操作は、レーサービームの直径が10μm~100μmであるレーザーを用いて行う
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記局所的なアニール操作は、10kHz~1MHzの可変周波数で持続時間が4ns~350nsであるパルスを発するように構成しているレーザーを用いて行う
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の方法。
【請求項9】
前記堆積ステップの前に、前記基材(100)の
面(112)を構造化する面構造化ステップを行う
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記基材(100)の面(112)のうち局所的なアニール操作を受ける前記薄層(110)の所定領域(111)に対応する部分である構造化部分(113)のみが構造化される
ことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記構造化は、前記基材(100)の面(112)全体に対して行う
ことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記堆積ステップと前記アニールステップの後に、保護層(120)を堆積させる保護層堆積ステップを行う
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記保護層堆積ステップの間に、前記薄層(110)を誘電体薄層の保護スタック及び/又は半透明なポリマー層によって被覆する
ことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記保護スタック(120)の前記誘電体薄層の組成と厚みは、前記薄層(110)の元の色を保持するように、又は選択した向きにおいて前記薄層(110)の色を変えることができるように、特に選択される
ことを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
基材(100)を備える計時器用コンポーネントの製造方法であって、
前記基材(100)の上に請求項1に記載の方法を行うことによって被覆を堆積させる工程を含み、
前記計時器用コンポーネントは、所定の最終色を有する
ことを特徴とする計時器用コンポーネントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料の分野に関し、特に、計時器、宝飾品及びファッションアイテムの外側部品、又はより一般的には様々な物品、の外観を定める材料の分野に関する。
【0002】
特に、本発明は、基材上に被覆を堆積させる方法に関する。
【背景技術】
【0003】
制御された雰囲気中で薄層を堆積させることは、一般産業、特に携行型時計の製造や宝飾品の分野、において、審美的又は技術的なアプリケーション向けの被覆を作るために一般的に用いられている。
【0004】
審美的なアプリケーションの場合、堆積される薄層は、金(Au)や銀(Ag)のような貴金属、又は貴金属合金によって作られていることがある。このような貴金属合金は、金、銀、銅(Cu)の組み合わせであることが多く、場合によっては白金(Pt)又は他の同様な金属を添加することもある。このような貴金属合金において、原子どうしが金属結合を形成しており、この金属結合が合金の色や可鍛性の原因となっている。
【0005】
薄層堆積法としては、物理気相成長(Physical Vapour Deposition、PVD)法、特に、カソードスパッタリング法と蒸発法、化学気相成長(Chemical Vapour Deposition、CVD)法、ガルバニック成長金属堆積法、及び原子層堆積(Atomic Layer Deposition、ALD)法、がよく用いられる。
【0006】
また、前記の標準的な貴金属合金よりも幅広い色調を提供することができるような、特に貴金属からなる、金属間化合物も存在する。例えば、黄色のPt-Al、オレンジ色やピンク色のPt-Al-Cu、青色のAu-Al、青紫色のAu-Inの金属間化合物が挙げられる。
【0007】
このような金属間化合物において、原子が強い共有結合を形成しており、この共有結合は、このような化合物の特定の色の原因となっているが、塊の形態では硬く脆くしてしまうという特徴がある。このため、このような金属間化合物は、あまり可鍛性がなく成形が難しいために、塊の形態では用いにくく、実際にほとんど用いられていない。
【0008】
しかし、このような金属間化合物を、前記真空薄層堆積法のいずれかを行うことによって、多かれ少なかれ薄層の形態において用いることができる。例えば、これらの堆積法を行って、Au、Al、Cu、In、Ptのような金属によって形成された金属間化合物、例えばAuAl2又はPtAl2、の薄層を堆積させることができる。
【0009】
しかし、これらの方法によって堆積された金属間化合物の薄層は、熱力学的平衡から外れており、同じ組成の前記金属間化合物が塊状かつ結晶の形態で有する望ましい色ではなく、典型的には審美的に特に好ましくない灰色であるような、主に非晶質相を有する。
【0010】
実際に、金属間化合物の熱力学的状態、そして特に、その結晶性及び/又は様々な相の存在は、所与の組成の色に大きな影響を与える。
【0011】
したがって、堆積法を実行中に、典型的には400℃で、in situで層をアニールするステップを実行して、堆積された金属間化合物層の少なくとも一部を結晶化させて、所与の組成に対する前記金属間化合物の結晶相に固有の層の色を得る。
【0012】
金属間化合物の薄層は、標準的な貴金属合金の薄層と比べて色の選択という点では興味深い選択肢を提供するものの、薄層のin situでのアニールが必要なためにその堆積法の実行に長い時間がかかり複雑であることから、実際には依然としてほとんど用いられていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、前記の課題を解決するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような状況に鑑みて、本発明は、基材上に被覆を堆積させるための方法に関し、前記基材上に金属間化合物によって形成されている薄層を堆積させて、計時器、宝飾品又はファッションアイテムの外側部品を得る堆積ステップと、前記金属間化合物薄層の堆積を行った包囲体とは異なる専用の包囲体内にて前記外側部品をアニールするアニールステップと、を順次的に行う。
【0015】
薄層の堆積のためにアニールをin situで行う従来技術とは対照的に、本発明には、大きな炉内などで多くの基材を同時に処理することができ、したがって、各部品のために本方法を実行する時間を短縮することができるという利点がある。また、このアプローチによって、in situでのアニールができないような薄層堆積法でも、少なくとも方法及び/又は装置を許容できないほど複雑にすることなく、用いることが可能になる。
【0016】
特定の実施態様において、本発明は、さらに、単独で又は技術的に可能な任意の組み合わせにしたがって取られ、以下の特徴のうちの一又は複数を含むことができる。
【0017】
特定の実施態様において、前記堆積ステップは、カソードスパッタリング又はイオンスパッタリング、熱蒸発、アーク又は電子ビーム蒸発、又はパルスレーザービームアブレーションによるPVD堆積法を実行することによって行う。
【0018】
特定の実施態様において、前記薄層の堆積は、少なくとも2タイプの金属の複合体によって構成している少なくとも1つのターゲットから、又は異なる純金属によって構成している少なくとも2つのターゲットから行う。純金属ターゲットを用いる場合、前記薄層の堆積は、共スパッタリング(co-sputtering)、すなわち、少なくとも2つの異なる純金属ターゲットを同時にカソードスパッタリングすること、によって行われ、この場合に、金属間化合物は、基材上において少なくとも2つの原子流が合流して形成される。代わりに、前記薄層の堆積は、共蒸発(co-evaporation)、すなわち、異なる純金属のターゲット(例えば、るつぼなどに入った粉末又は顆粒の形態)を同時に蒸発させること、によって行われ、この場合に、金属間化合物は、基材上において少なくとも2つのターゲットから到来する原子流が合流して形成される。前記少なくとも2つのターゲットに与えるパワーは、前記少なくとも2つの異なる金属のスパッタリング速度が所望の層組成をもたらすように独立して選択される。しかし、金属の堆積速度は、対応するターゲットの摩耗によって変わり、その結果、層の組成は前記ターゲットが利用されるに従って変わる。このような堆積速度の変動は、各ターゲットに与えられるパワーをそれらのターゲットの摩耗に応じて補正することによって補償することができる。これは、較正表に基づいて手動で、又はin situ測定(例えば、カソードスパッタリングの場合におけるプラズマの光放射のスペクトル測定)に基づくフィードバックループのおかげで自動的に行われる。
【0019】
合金ターゲットを用いる場合、前記ターゲットの組成は、基材上にて所望の層組成を直接得るように選択され、これには前記合金ターゲットの摩耗に依存しないという利点がある。
【0020】
特定の実施態様において、前記堆積ステップは、前記金属間化合物薄層が、20~1000nm、好ましくは200~500nm、より好ましくは300nm、の厚みを有するように行う。
【0021】
特定の実施態様において、前記アニールステップは、前記金属間化合物薄層全体を熱処理して、結晶化させて、期待された色を与えるような全体的なアニール操作を実行することによって行う。
【0022】
特定の実施態様において、前記全体的なアニール操作の間に、前記外側部品を、30分~120分、好ましくは60分、の持続時間、200℃~500℃、好ましくは実質的に300℃、の温度にする。
【0023】
特定の実施態様において、前記全体的なアニールステップは、金属間化合物薄層と雰囲気との化学的相互作用を避けるために、大気中で、又は不活性ガス、例えばアルゴン(Ar)、の保護雰囲気中で、又は真空中で、伝統的な炉で行う。
【0024】
特定の実施態様において、前記アニールステップは、前記金属間化合物薄層の所定領域に局所的なアニール操作を実行することによって行う。このようにして、主に非晶質で灰色の非アニール領域と、結晶化し色付けされたアニール領域との間の色のコントラストが得られる。
【0025】
特定の実施態様において、前記アニールステップは、前記全体的なアニール操作の後に、局所的なアニール操作を実行することによって行う。
【0026】
特定の実施態様において、前記局所的なアニール操作は、レーサービームの直径が、10μm~100μm、又はさらには50μm~100μm、であるレーザーを用いて行う。
【0027】
特定の実施態様において、前記局所的なアニール操作は、10kHz~1MHzの可変周波数で持続時間が4ns~350nsであるパルスを発するように構成しているレーザーを用いて行う。
【0028】
特定の実施態様において、前記局所的なアニール操作は、金属間化合物薄層と雰囲気の間の化学的相互作用を避けるために、周囲雰囲気、又は不活性ガス、例えばアルゴン(Ar)、の保護雰囲気中の包囲体内で、又は真空中で、行う。
【0029】
特定の実施態様において、前記堆積ステップの前に、例えば1つの部分のみにおいて、前記基材の前記面を構造化する面構造化ステップを行う。
【0030】
特定の実施態様において、基材の構造化面の部分は、局所的なアニール操作の対象となった所定領域に対応し、面の外観コントラストは、色コントラストに追加されて、有利な審美的効果を発揮させる。
【0031】
特定の実施態様において、前記構造化は、金属間化合物薄層で被覆されることになる前記基材の面全体に対して行う。
【0032】
特定の実施態様において、前記方法は、前記堆積ステップと前記全体的及び/又は局所的なアニールステップの後に、前記金属間化合物薄層を環境の危険から保護するための層を堆積させるステップを行い、前記金属間化合物薄層は、PVD、CVD又はALDのような1又は複数の真空堆積法によって堆積させた薄い誘電層の保護スタックで被覆される。
【0033】
特定の実施態様において、前記保護スタックを形成する誘電体薄層の厚みと組成は、前記金属間化合物薄層の元の色を保持する目的で、前記誘電体薄層の光学的干渉効果が補償されるように選択される。
【0034】
特定の実施態様において、前記保護スタックを形成する前記誘電体薄層の厚みと組成は、前記誘電体薄層の光学的干渉効果が、例えば色の彩度を大きくすることによって又は選ばれた向きにおける色相を変えることによって、前記金属間化合物薄層の色を審美的に変えることができるように選択される。
【0035】
特定の実施態様において、前記保護層は、噴霧によって又は当業者によって知られている他の任意の方法によって堆積される半透明ポリマー層である。
【0036】
特定の実施態様において、前記保護層は、当業者によって知られている技術によって堆積されるポリマー層と誘電体層の組み合わせによる複合層である。
【0037】
別の態様によると、本発明は、さらに、前記方法を実行することによって堆積される被覆がある基材を備える計時器用コンポーネントに関し、前記計時器用コンポーネントは所定の最終色を有する。
【0038】
例として与えられる以下の詳細な説明を読むことによって、本発明の他の特徴及び利点が明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明に係る金属間化合物層を堆積させる方法を実行して堆積された被覆がある基材を備える、計時器の外側部品のような計時器用コンポーネントの断面図を模式的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明は、基材100上に被覆を堆積させるための方法に関し、この方法は、基材100上に金属間化合物薄層110を堆積させて、計時器、宝飾品又はファッションアイテムの外側部品10を得る堆積ステップを行う。特に、このような外側部品10は、計時器用コンポーネントを形成することができる。
【0041】
基材100は、金属性材料、セラミックスのような任意の適切な材料によって作ることができる。
【0042】
この方法は、基材100上に金属間化合物薄層110を堆積させる堆積ステップを行い、その後に、外側部品10が所定の最終色を有するように専用の包囲体内において前記外側部品10をアニールするアニールステップを行う。
【0043】
金属間化合物薄層110を堆積させるステップは、PVD堆積法を実行することによって行い、特に、イオン又はカソードスパッタリング、熱蒸発、アーク又は電子ビーム蒸発、又はパルスレーザービームアブレーションの方法のいずれかを実行することによって行う。
【0044】
金属間化合物薄層110の堆積は、それぞれが特定の金属によって構成している少なくとも2つのターゲットから、かつ/又は少なくとも2つの金属の複合体によって構成している少なくとも1つのターゲットから、行う。
【0045】
好ましくは、金属間化合物薄層110を堆積させるステップの実行を単純化するために、この金属間化合物薄層110は、少なくとも2つの金属の複合体によって構成しているターゲットから生成される。また、試験によって得られた結果は、金属間化合物薄層110を堆積させるステップが、金属複合体によって構成している単一のターゲットから供給されて実行される場合には、金属間化合物薄層110の組成をより再現可能になることを実証している。
【0046】
例として、用いられる金属は、Pt、Al、Cu、In、Au又はこれらの金属の複合体から選択される。なお、これに限定されない。
【0047】
特に、前記金属は、例えば、金属間化合物薄層110がAu-Al、Au-In、Pt-Al、又はPt-Al-Cuの金属間結合を含むように選択される。
【0048】
前記堆積ステップは、金属間化合物薄層110の厚みが、20~1000nm、好ましくは200~500nm、より好ましくは300nm、であるように測定されるように行う。したがって、金属間化合物薄層110は、好ましいことに、不透明であり、金属間化合物薄層110が受ける可能性のある機械的応力に耐えるように構成しているほどに厚みが十分に厚いことと、貴金属の使用量が多すぎず金属間化合物薄層110を堆積させるための時間が長すぎないほどに厚みが薄いこととの間で良好に折り合いを付けている。
【0049】
前記堆積法は、金属間化合物薄層110がその堆積後に主にアモルファス相を有するように実行される。
【0050】
PVD堆積法のパラメーター、特に、様々な供給源に同時に与えられるパワーは、得られる金属間化合物薄層110がアニールステップ後に所望の最終色を有する組成を有するように選択される。
【0051】
例として、金属間化合物薄層110は、組成がPt61.7重量%、Al18.3重量%、Cu20.0重量%であるPt-Al-Cu複合体によって作ることができ、その堆積ステップは、3つの純Pt、Al及びCuのターゲットからのカソード共スパッタリングによって実行される。堆積ステップの終わりにおいて、金属間化合物薄層110は、あまり結晶化されておらず、パラメーター(L*, a*, b*)=(77.5, 1.9, 2.6)によって特徴づけられる色を有する。したがって、ごくわずかにピンクっぽいグレー色をしており、審美的に大きく有利ではない。真空管炉で2時間500℃におけるアニールステップを行った後、この層は、パラメーター(L*, a*, b*)=(78.2, 10.8, 20.8)によって特徴づけられる色を有するように結晶化される。そして、非常に強く審美的にも有利な最終的なピンクっぽいオレンジ色になる。
【0052】
前記アニールステップは、好ましいことに、金属間化合物薄層110の堆積が行われた包囲体とは異なる、すなわち、PVD堆積が行われた堆積チャンバーとは異なる、専用の包囲体内にて行われる。
【0053】
前記アニールステップには、金属間化合物薄層110の相を、主に非晶質相から結晶質相に変えることによって、変える効果がある。
【0054】
本発明のこの手法は、市場で見つけることができる標準的な装置を用いて行うことができ、前記層をin situでアニールするための高価な特定の装置を作る必要がないという利点を有する。また、前記アニールステップは、同じ包囲体内で多くの外側部品10に対して同時に実行することができ、これによって、外側部品10ごとに本方法を実行する場合にかかる時間と比べて時間が短縮されて製造コストが低減される傾向にある。
【0055】
前記アニールステップは、金属間化合物薄層110全体、したがって外側部品10全体、を熱処理するような全体的なアニール操作を実行することによって行うことができる。
【0056】
全体的なアニール操作を行う場合、前記専用の包囲体は炉からなる。
【0057】
好ましくは、この全体的なアニール操作は、アルゴン雰囲気や窒素雰囲気のような制御された雰囲気の炉内で行う。代わりに、全体的なアニール操作を、真空中で行い、稼働圧力は、例えば、10-4~1N/m2(10-6~10-2mbar)、好ましくは10-2N/m2(10-4mbar)、である。
【0058】
全体的なアニール操作時における外側部品10の温度は、例えば、200℃~500℃、好ましくは実質的に300℃、である。全体的なアニール操作の持続時間は、例えば、30分~120分、好ましくは60分、である。
【0059】
代わりに、金属間化合物薄層110の所定領域111に対して局所的なアニール操作を実行することによって、前記アニールステップを行うことができる。
【0060】
前記局所的なアニール操作は、金属間化合物薄層110に対して、その堆積後に直接、すなわち、主に非晶質相を有するときに、行うことができ、また、アニールを外側部品10全体に対して行う全体的なアニール操作の後に行うこともできる。
【0061】
この局所的なアニールステップには、表盤のインデックス、数字、ロゴのような形態の装飾を作るために、金属間化合物薄層110の色を局所的に変える効果を有する。
【0062】
局所的なアニール操作は、レーザービームの直径が、例えば、10μm~100μm、又はさらには50μm~100μm、であるようなレーザーを用いて行う。レーザービームの運動は、好ましいことに、レーザーに固有であり機械軸又は光軸に基づく走査システムによって、又は金属間化合物薄層110上におけるレーザービームが当たる点の高精度な位置を与える、基材に固有であり機械軸に基づく走査システムによって、制御される。
【0063】
レーザービームは、金属間化合物薄層110に当たる点において、局所的に温度を高くし、これによって、前記金属間化合物薄層110の相が局所的に変わり、結果的に、色を局所的に変える効果を発揮する。
【0064】
レーザービームは、ナノ秒パルスレーザーやマイクロ秒パルスレーザーによって発生させることができ、場合によっては連続レーザーによって発生させることができる。
【0065】
具体的には、局所的なアニールステップの間に、レーザーは、40Wのオーダーの平均出力に達することがある持続時間4ナノ秒~350ナノ秒の可変周波数10kHz~1MHzのパルスを発するようにすることができる。
【0066】
代わりに、ピコ秒又はフェムト秒パルスレーザーを用いて、100~200kHzから10MHzまでの周波数における高速な熱蓄積効果を利用して、又は当業者に知られているような数ピコ秒から数ナノ秒まで互いに離間したバーストのパルス系列によって、前記局所的アニールステップを行うことができる。
【0067】
レーザービームの波長は、ビームが当たる金属間化合物薄層110の材料の吸光度が有利になるように決められる。
【0068】
例えば、レーザー光の波長は、赤外線スペクトル、可視スペクトル、又は紫外線スペクトルの範囲内にあることができる。
【0069】
局所的なアニールステップの間に、レーザービームのパルスのエネルギーの変動、それらの繰り返し頻度、及びそれらの重なり合いの度合いに応じて、金属間化合物層110の色が変わる。
【0070】
したがって、均質な組成の金属間化合物薄層110の単一の堆積に基づいて多色ないしコントラストが高い装飾を作ることが可能となる。
【0071】
好ましいことに、金属間化合物薄層の堆積ステップとアニールステップの前に、基材100の面112を構造化する構造化ステップを行うことができる。この構造化ステップにおいて、前記面112上に面構造コントラストを発生させるように、基材100の面112の一部が構造化され、これを本明細書の残りにおいて「構造化部分113」と呼ぶ。
【0072】
基材100の面112の構造化部分113は、金属間化合物層110のうちの局所的なアニール操作中に熱処理をされる所定領域111に対応していることができる。このために、前記所定領域111の外観と、金属間化合物薄層110の残りの部分の外観との差が強くなるという有利な効果が発生する。
【0073】
代わりに、本発明の代替的な実施形態において、基材100の面112全体に対して構造化を行う。
【0074】
このような面構造化ステップは、考慮される変異形態に応じて、基材100の面112に対して、部分的又は全体的に、例えば、研磨、マット仕上げ又はサテン仕上げ、をすることを伴うことができる。
【0075】
局所的なアニールステップを促進し、金属間化合物薄層の相変態を発生させるために必要な熱の局所的寄与を低減させるために、外側部品10を相転移温度に近い温度まで予熱するようにすることができる。このために、レーザーによる追加的なエネルギーの寄与を減らすことができる。
【0076】
その後の堆積ステップの間に、好ましいことに、前記堆積ステップの後に得られた金属間化合物薄層110を、保護層120、例えば金属間化合物薄層110を環境上の危害から保護するように意図された誘電体薄層の積層体によって形成された保護層120、で被覆することができ、この堆積ステップは、金属間化合物薄層110を堆積させるステップを行うために用いたものと同じ堆積装置で行うことができる。この誘電体薄層のスタックには、例えば、輝度を高めることによって、かつ/又は有利な干渉効果を利用して金属間化合物層110の色を変えることによって、外側部品10の視覚的外観を変える効果もあることができる。
【0077】
保護層120を堆積させるステップは、好ましいことに、本発明に係る方法の最後のステップである。
【0078】
誘電体薄層のスタックは、TiO2、Al2O3、SiO2、SiN、Si3N4のような様々な酸化物、窒化物、酸窒化物によって形成されていることができ、ALD及び/又はPVD及び/又はCVDの堆積法によって堆積させることができる。
【0079】
代わりに、保護層120を堆積させるステップは、ワニス層、例えば、ザポン又はパリレンタイプのポリマーワニス層、を堆積させることを伴うことができる。
【0080】
全体的に、本発明に係る方法は、前記のすべてのステップを行う場合、順に、基材100の面を構造化するステップから始まり、次に、金属間化合物薄層110を堆積させるステップを行い、その後に、全体的なアニールステップ及び/又は局所的なアニールステップを行い、最後に、保護層120を堆積させるステップを行う。
【0081】
このように、本発明は、携行型時計、宝飾品及び任意の他の高級品に対して審美的アプリケーションのために幅広い新しい色を提供するような、特に貴金属をベースとする、金属間化合物の使用に関する手法を提案する。
【0082】
より一般的には、上記で検討された実装例及び実施形態は、例を用いて説明したものであって、他の変異形態も可能であることに留意するべきである。
【符号の説明】
【0083】
10 外側部品
100 基材
110 金属間化合物薄層
111 所定領域
112 面
113 構造化部分
120 保護層