(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】X線発生装置及びX線発生方法
(51)【国際特許分類】
H01J 35/14 20060101AFI20241009BHJP
H01J 35/30 20060101ALI20241009BHJP
H05G 1/00 20060101ALI20241009BHJP
H05G 1/52 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
H01J35/14
H01J35/30
H05G1/00 E
H05G1/52 A
(21)【出願番号】P 2022515219
(86)(22)【出願日】2021-02-12
(86)【国際出願番号】 JP2021005326
(87)【国際公開番号】W WO2021210256
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-12-04
(32)【優先日】2020-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100183081
【氏名又は名称】岡▲崎▼ 大志
(72)【発明者】
【氏名】服部 真也
(72)【発明者】
【氏名】藪下 綾介
(72)【発明者】
【氏名】小杉 尚史
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2000/058991(WO,A1)
【文献】国際公開第1998/013853(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/00
H05G 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形断面形状を有する電子ビームを出射する電子銃と、
前記電子銃よりも後段に配置され、第1方向に沿った軸周りに前記電子ビームを回転させながら前記電子ビームを集束させる磁気集束レンズと、
前記磁気集束レンズよりも後段に配置され、前記電子ビームの前記円形断面形状を、前記第1方向に直交する第2方向に沿った長径と前記第1方向及び前記第2方向の両方に直交する第3方向に沿った短径とを有する楕円形断面形状に変形させる磁気四重極レンズと、
前記第1方向に沿って延在し、前記電子ビームが通過する電子通過路を形成する円筒管であって、前記磁気集束レンズに囲まれた部分における前記円筒管の最大径が、前記磁気四重極レンズに囲まれた部分における前記円筒管の最大径よりも大きい、前記円筒管と、
前記磁気四重極レンズよりも後段に配置され、前記電子ビームが入射されたことに応じてX線を放出するターゲットと、を備える、X線発生装置。
【請求項2】
前記ターゲットは、前記電子ビームが入射される電子入射面を有し、
前記電子入射面は、前記第1方向及び前記第2方向に対して傾斜しており、
前記磁気四重極レンズにより前記楕円形断面形状に変形させられた後の前記電子ビームの前記長径及び前記短径の比と、前記第1方向及び前記第2方向に対する前記電子入射面の傾斜角度とにより、前記X線の取り出し方向から見た前記X線の略円形状の焦点形状が決定される、請求項1に記載のX線発生装置。
【請求項3】
前記第1方向に沿った前記磁気集束レンズの長さは、前記第1方向に沿った前記磁気四重極レンズの長さよりも長い、請求項1に記載のX線発生装置。
【請求項4】
前記磁気集束レンズのポールピースの内径は、前記磁気四重極レンズの内径よりも大きい、請求項1に記載のX線発生装置。
【請求項5】
前記磁気集束レンズ及び前記磁気四重極レンズは、前記
円筒管に直接的又は間接的に接続されている、請求項1に記載のX線発生装置。
【請求項6】
前記電子ビームの走行方向を調整する偏向コイルを更に備える、請求項1に記載のX線発生装置。
【請求項7】
前記偏向コイルは、前記電子銃と前記磁気集束レンズとの間に配置されて
おり、
前記偏向コイルに囲まれた部分における前記円筒管の最大径が、前記磁気集束レンズに囲まれた部分における前記円筒管の最大径よりも小さい、請求項6に記載のX線発生装置。
【請求項8】
前記電子ビームの走行方向は、前記偏向コイルによって、前記第1方向における前記電子ビームの軸と前記磁気集束レンズ及び前記磁気四重極レンズを通過する電子通過路の中心軸との角度ずれを補正するように調整されている、請求項7に記載のX線発生装置。
【請求項9】
前記電子ビームの走行方向は、前記電子銃と前記磁気集束レンズとの間に配置された第2の偏向コイルによって、前記電子ビームの軸と前記電子通過路の中心軸との間の横方向のずれを補正するように更に調整されている、請求項8に記載のX線発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の一側面は、X線発生装置及びX線発生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カソードから出射された電子ビームをターゲットに入射させることによりX線を発生させるX線装置が知られている。例えば、特許文献1には、電子ビームの走行方向に対して傾斜する電子入射面を有する反射型のターゲットが記載されている。また、特許文献2には、電子ビームの断面形状を調整することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-164819号公報
【文献】特許第6527239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
あるX線装置において、取り出されるX線の焦点(実効焦点)は、ターゲットに入射した電子ビームの形状(すなわち、入射方向から見た電子ビームの形状)ではなく、取り出し方向(X線の出射方向)から見た投影形状となる。また、X線を用いた検査等において、縦方向と横方向とで解像度が一致する画像を得るためには、実効焦点の縦横の寸法が一致していること(すなわち、実効焦点の形状が略円形状であること)が求められる。実効焦点を略円形状にするための方法として、ターゲットに入射する電子ビームのビーム断面を楕円形状にすることが考えられる。
【0005】
電子ビームの断面形状の意図しない変化は、例えば、X線装置の一以上の構成要素の劣化に起因し得る。また、グリッド電極の開口形状によって電子ビームの断面形状が決定されてしまうと、楕円形状の長径及び短径のアスペクト比等のX線装置によって形成される形状を変更したり補正したりすることができなくなるおそれがある。
【0006】
また、電子ビームの断面形状を調整するために2つの四重極コアを用いる特定のタイプのX線装置では、電子ビームの断面形状のアスペクト比及び電子ビームの大きさの両方を2つの四重極コアの組み合わせによって同時に調整することが困難な場合がある。
【0007】
本明細書では、電子ビームの断面形状のアスペクト比及び大きさを容易且つ柔軟に調整することが可能なX線発生装置の一例が開示される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
例示的なX線発生装置は、円形断面形状を有する電子ビームを出射する電子銃と、電子銃よりも後段に配置され、第1方向に沿った軸(回転軸)周りに電子ビームを回転させながら電子ビームを集束させる磁気集束レンズと、を備える。また、X線発生装置は、磁気集束レンズよりも後段に配置され、電子ビームの円形断面形状を、第1方向に直交する第2方向に沿った長径と第1方向及び第2方向の両方に直交する第3方向に沿った短径とを有する楕円形断面形状に変形させる磁気四重極レンズを備えてもよい。更に、X線発生装置は、磁気四重極レンズよりも後段に配置され、電子ビームが入射されたことに応じてX線を放出するターゲットと、を備えてもよい。
【0009】
いくつかの実施例では、電子銃よりも後段に配置された磁気集束レンズによって、電子ビームの大きさが調整されると共に、磁気集束レンズよりも後段に配置された磁気四重極レンズによって、電子ビームの断面形状が楕円形状に変形させられる。これにより、電子ビームの大きさの調整と断面形状の調整とをそれぞれ独立して行うことができる。また、磁気集束レンズ内を通過する電子ビームは、第1方向に沿った軸周りに回転するが、電子銃により出射される電子ビームの断面形状が円形状であることにより、磁気集束レンズを経て磁気四重極レンズへと至る電子ビームの断面形状は、磁気集束レンズ内における電子ビームの回転量によらずに一定(円形状)となる。これにより、磁気四重極レンズにおける電子ビームの断面形状を、第2方向に沿った長径と第3方向に沿った短径とを有する楕円形状に、一貫して確実に成形することができる。その結果、電子ビームの断面形状のアスペクト比及び大きさを容易且つ柔軟に調整することができる。
【0010】
ターゲットは、電子ビームが入射される電子入射面を有してもよい。電子入射面は、第1方向及び第2方向に対して傾斜していてもよい。磁気四重極レンズにより楕円形断面形状に変形させられた後の電子ビームの長径及び短径の比と、第1方向及び第2方向に対する電子入射面の傾斜角度とは、X線の取り出し方向から見たX線の略円形状の焦点形状を決定してもよい。これにより、ターゲットの電子入射面の傾斜角度及び磁気四重極レンズによる成形条件(アスペクト比)を調整することにより、取り出されるX線の焦点(実効焦点)の形状を略円形状とすることができる。その結果、X線発生装置により発生したX線を用いたX線検査等において、適切な検査画像を得ることができる。
【0011】
第1方向に沿った磁気集束レンズの長さは、第1方向に沿った磁気四重極レンズの長さよりも長くてもよい。例えば、磁気集束レンズに比較的大きい磁場を生じさせて電子ビームを効果的に小さく集束させるために、磁気集束レンズのコイルの巻数を確実に確保することができる。これにより、縮小率を高めることができる。さらに、ターゲットの電子入射面に入射する電子ビームの大きさを小さくするために、電子銃から磁気集束レンズにより構成されるレンズ中心までの距離を長くしてもよい。
【0012】
磁気集束レンズのポールピースの内径は、磁気四重極レンズの内径よりも大きくてもよい。例えば、磁気集束レンズのポールピースの内径を比較的大きくすることにより、磁気集束レンズにより構成されるレンズの球面収差を小さくすることができる。また、磁気四重極レンズの内径を比較的小さくすることにより、磁気四重極レンズにおけるコイルの巻数及び当該コイルを流れる電流量を少なくすることができる。その結果、磁気四重極レンズにおける発熱量を抑制することもできる。
【0013】
上記X線発生装置は、第1方向に沿って延在し、電子ビームが通過する電子通過路を形成する筒状部を更に備えてもよい。磁気集束レンズ及び磁気四重極レンズは、筒状部に直接的又は間接的に接続されていてもよい。例えば、筒状部を基準として、磁気集束レンズ及び磁気四重極レンズの配置又は取付を行うことができるため、磁気集束レンズ及び磁気四重極レンズの中心軸を精度良く同軸上に配置することができる。その結果、磁気集束レンズ内及び磁気四重極レンズ内を通過した後の電子ビームのプロファイル(断面形状)に歪みが生じることを抑制することができる。
【0014】
上記X線発生装置は、電子ビームの走行方向を調整する偏向コイルを更に備えてもよい。例えば、偏向コイルは、電子銃から出射される電子ビームの出射軸と磁気集束レンズ及び磁気四重極レンズの中心軸との間の角度ずれを補正してもよい。例えば、角度ずれは、上記出射軸と上記中心軸とが所定の角度で交差している場合に生じ得る。そこで、偏向コイルで電子ビームの走行方向を上記中心軸に沿った方向に変化させることにより、上記角度ずれを解消することができる。
【0015】
偏向コイルは、電子銃と磁気集束レンズとの間に配置されていてもよい。例えば、電子ビームが磁気集束レンズ及び磁気四重極レンズを通過する前に、電子ビームの走行方向が優先的に調整され得る。その結果、ターゲットに入射される電子ビームの断面形状を、意図された楕円形状に確実に維持することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上により、本明細書に開示する例示的なX線発生装置は、電子ビームの断面形状のアスペクト比及び大きさを容易且つ柔軟に調整するように構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、例示的なX線発生装置の概略構成図である。
【
図2】
図2は、X線発生装置の磁気レンズの構成例を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、例示的な磁気四重極レンズの正面図である。
【
図4】
図4は、磁気集束レンズ及び磁気四重極レンズを含む実施例及び比較例の構成(ダブレット)の模式図である。
【
図5】
図5は、電子ビームの断面形状とX線の実効焦点の形状との関係の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、円筒管の第1変形例を示す図である。
【
図7】
図7は、円筒管の第2変形例を示す図である。
【
図8】
図8は、変形例に係るX線発生装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の説明において、図面を参照しつつ、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0019】
図1に示されるように、例示的なX線発生装置1は、電子銃2と、回転陽極ユニット3と、磁気レンズ4と、排気部5と、電子銃2を収容する内部空間S1を画定する筐体6(第1筐体)と、回転陽極ユニット3を収容する内部空間S2を画定する筐体7(第2筐体)と、を備えている。筐体6及び筐体7は、互いに取り外すことが可能なように構成されていてもよいし、取り外すことができない態様で一体的に結合されていてもよいし、最初から一体に形成されていてもよい。
【0020】
電子銃2は、電子ビームEBを出射する。電子銃2は、電子ビームEBを放出するカソードCを有している。カソードCは、円形状の断面形状を有する電子ビームEBを放出する円形平面カソードである。電子ビームEBの断面形状とは、後述する電子ビームEBの走行方向に平行な方向であるX軸方向(第1方向)に対して垂直な方向における断面形状である。すなわち、電子ビームEBの断面形状は、YZ平面における形状である。円形断面形状を有する電子ビームEBを形成するためには、例えば、カソードCの電子放出面自体が、カソードCの電子放出面と対向する位置から見て(カソードCの電子放出面をX軸方向から見て)、円形状を有していてもよい。
【0021】
回転陽極ユニット3は、ターゲット31と、回転支持体32と、回転支持体32を回転軸A周りに回転駆動させる駆動部33と、を有している。ターゲット31は、回転軸Aを中心軸とした平たい円錐台状に形成された回転支持体32の周縁部に沿って設けられている。回転軸Aは、回転支持体32の中心軸であり、円錐台状の回転支持体32の側面は、回転軸Aに対して傾斜した表面を有する。また、回転支持体32は、回転軸Aを中心軸とした円環状に形成されていてもよい。ターゲット31を構成する材料は、例えば、タングステン、銀、ロジウム、モリブデン、及びそれらの合金等の重金属である。回転支持体32は、回転軸A周りに回転可能とされている。回転支持体32を構成する材料は、例えば、銅、銅合金等の金属である。駆動部33は、例えばモータ等の駆動源を有しており、回転支持体32を回転軸A周りに回転駆動させる。ターゲット31は、回転支持体32の回転に伴って回転しながら電子ビームEBを受け、X線XRを発生させる。X線XRは、筐体7に形成されたX線通過孔7aから筐体7の外部に出射される。X線通過孔7aは、窓部材8によって気密に塞がれている。回転軸Aの軸方向は、ターゲット31への電子ビームEBの入射方向と平行である。ただし、回転軸Aは、ターゲット31への電子ビームEBの入射方向に対して、上記入射方向に交差する方向に延びるように傾斜していてもよい。ターゲット31は、いわゆる反射型であってもよく、電子ビームEBの走行方向(ターゲット31への入射方向)に対して交差する方向にX線XRを放出する。いくつかの実施例では、X線XRの出射方向は、電子ビームEBの走行方向に直交する方向である。従って、電子ビームEBの走行方向に平行な方向をX軸方向(第1方向)とし、ターゲット31からのX線XRの出射方向に平行な方向をZ軸方向(第2方向)とし、X軸方向及びZ軸方向に直交する方向をY軸方向(第3方向)とする。
【0022】
磁気レンズ4は、電子ビームEBを制御する。磁気レンズ4は、偏向コイル41と、磁気集束レンズ42と、磁気四重極レンズ43と、筐体44と、を有している。筐体44は、偏向コイル41、磁気集束レンズ42、及び磁気四重極レンズ43を収容する。偏向コイル41、磁気集束レンズ42、及び磁気四重極レンズ43は、X軸方向に沿って、電子銃2側からターゲット31側に向かって、この順に配置されている。電子銃2とターゲット31との間には、電子ビームEBが通過する電子通過路Pが形成されている。
図2に示されるように、電子通過路Pは、円筒管9(筒状部)によって形成されてもよい。円筒管9は、電子銃2とターゲット31との間において、X軸方向に沿って延在する、非磁性体の金属部材である。円筒管9の追加の例示的な構成の詳細については後述する。
【0023】
偏向コイル41、磁気集束レンズ42、及び磁気四重極レンズ43は、円筒管9に直接的又は間接的に接続されている。例えば、偏向コイル41、磁気集束レンズ42、及び磁気四重極レンズ43は、円筒管9を基準として組み立てられることにより、それぞれの中心軸が精度良く同軸上に配置されている。これにより、偏向コイル41、磁気集束レンズ42、及び磁気四重極レンズ43のそれぞれの中心軸は、円筒管9の中心軸(X軸に平行な軸)と一致している。
【0024】
偏向コイル41は、電子銃2と磁気集束レンズ42との間に配置されている。偏向コイル41は、電子通過路Pを囲むように配置されている。例えば、偏向コイル41は、筒部材10を介して、円筒管9に間接的に接続されている。筒部材10は、円筒管9と同軸に延在する、非磁性体の金属部材である。筒部材10は、円筒管9の外周を覆うように設けられている。偏向コイル41は、壁部44aのターゲット31側の面と、筒部材10の外周面と、によって位置決めされている。壁部44aは、内部空間S1に対向する位置に設けられた筐体44の一部であって非磁性体からなる。偏向コイル41は、電子銃2から出射された電子ビームEBの走行方向を調整する。偏向コイル41は、1つ(1組)の偏向コイルによって構成されてもよいし、2つ(2組)の偏向コイルによって構成されてもよい。偏向コイル41が1つの偏向コイルを含む前者の場合には、偏向コイル41は、電子銃2から出射される電子ビームEBの出射軸と磁気集束レンズ42及び磁気四重極レンズ43の中心軸(X軸に平行な軸)との間の角度ずれを補正するように構成されてもよい。例えば、角度ずれは、上記出射軸と上記中心軸とが所定の角度で交差している場合に生じ得る。そこで、偏向コイル41で電子ビームEBの走行方向を上記中心軸に沿った方向に変化させることにより、上記角度ずれを解消することができる。偏向コイル41が2つの偏向コイルを含む後者の場合には、偏向コイル41によって二次元的な偏向を行うことができるため、上記角度ずれだけでなく、上記出射軸と上記中心軸との間の横方向のずれ(例えば、上記出射軸と上記中心軸とがX軸方向において互いに平行であり、Y軸方向及びZ軸方向の一方又は両方において離間している場合等)についても適切に補正することができる。
【0025】
磁気集束レンズ42は、電子銃2及び偏向コイル41よりも後段に配置されている。磁気集束レンズ42は、X軸方向に沿った軸周りに電子ビームEBを回転させながら電子ビームEBを集束させる。例えば、磁気集束レンズ42内を通過する電子ビームEBは、螺旋を描くように回転しながら集束する。磁気集束レンズ42は、電子通過路Pを囲むように配置されたコイル42aと、ポールピース42b、ヨーク42c、ヨーク42dと、を有している。ヨーク42cは、コイル42aの外側の一部と筒部材10とを接続するように設けられた筐体44の壁部44bとしても機能する。ヨーク42dは、筒部材10の外周を覆うように設けられた筒状部材である。例えば、コイル42aは、筒部材10とヨーク42dとを介して、円筒管9に間接的に接続されている。ポールピース42bは、ヨーク42cとヨーク42dとによって構成されている。ヨーク42c及びヨーク42dは、鉄等の強磁性体である。また、ポールピース42bは、ヨーク42cとヨーク42dとの間に設けられた切り欠き(ギャップ)と、切り欠き近傍に位置するヨーク42cとヨーク42dの一部分と、によって構成されてもよい。ポールピース42bの内径Dは、ヨーク42c又はヨーク42dにおけるギャップ隣接領域の内径と等しい。これにより、磁気集束レンズ42は、ポールピース42bから円筒管9側にコイル42aの磁場が漏れるように構成されてもよい。
【0026】
磁気四重極レンズ43は、磁気集束レンズ42よりも後段に配置されている。磁気四重極レンズ43は、電子ビームEBの断面形状を、Z軸方向に沿った長径とY軸方向に沿った短径とを有する楕円形状に変形させる。磁気四重極レンズ43は、電子通過路Pを囲むように配置されている。例えば、磁気四重極レンズ43は、筐体44の壁部44cを介して、円筒管9に間接的に接続されている。壁部44cは、壁部44bに接続されると共に円筒管9の外周を覆うように設けられている。壁部44cは、非磁性体の金属材料からなる。
【0027】
図3に示されるように、例示的な磁気四重極レンズ43は、円環状のヨーク43aと、ヨーク43aの内周面に設けられた4つの円柱状のヨーク43bと、各ヨーク43bの先端に設けられたヨーク43cと、を有している。ヨーク43bには、コイル43dが巻かれている。各ヨーク43cは、YZ平面において略半円形状の断面形状を有する。磁気四重極レンズ43の内径dは、各ヨーク43cの最内端を通る内接円の径である。磁気四重極レンズ43は、XZ面(Y軸方向に直交する平面)においては凹レンズとして機能し、XY面(Z軸方向に直交する平面)においては凸レンズとして機能する。このような磁気四重極レンズ43の機能により、電子ビームEBのZ軸方向に沿った長さがY軸方向に沿った長さよりも大きくなるように、電子ビームEBのZ軸方向に沿った径(長径X1)とY軸方向に沿った径(短径X2)とのアスペクト比が調整される。従って、コイル43dに流す電流量を調整することにより、アスペクト比を選択的に調整することができる。一例として、長径X1と短径X2とのアスペクト比は「10:1」に調整される。
【0028】
排気部5は、真空ポンプ5a(第1真空ポンプ)と、真空ポンプ5b(第2真空ポンプ)と、を有している。筐体6には、筐体6内の空間(すなわち、筐体6及び磁気レンズ4の筐体44により画定される内部空間S1)を真空排気するための排気流路E1(第1排気流路)が設けられている。排気流路E1を介して、真空ポンプ5bと内部空間S1とが連通している。筐体7には、筐体7内の空間(すなわち、筐体7により画定される内部空間S2)を真空排気するための排気流路E2(第2排気流路)が設けられている。排気流路E2を介して、真空ポンプ5aと内部空間S2とが連通している。真空ポンプ5bは、排気流路E1を介して内部空間S1を真空排気する。真空ポンプ5aは、が排気流路E2を介して、内部空間S2を真空排気する。これにより、内部空間S1及び内部空間S2は、例えば、電子銃又はターゲットで発生するガスを除去するために、真空状態又は部分真空状態に維持される。内部空間S1の内圧は、好ましくは10-4Pa以下の部分真空に維持されてもよく、より好ましくは10-5Pa以下の部分真空に維持されてもよい。内部空間S2の内圧は、好ましくは10-6Pa~10-3Paの間の部分真空に維持されてもよい。円筒管9の内部空間(電子通過路P内の空間)についても、内部空間S1又は内部空間S2を介して、排気部5によって真空排気される。
【0029】
なお、
図1に示される形態のように真空ポンプ5a及び真空ポンプ5bと2つの排気ポンプを使用することなく、
図8に示されるように、1つの排気ポンプ(ここでは一例として真空ポンプ5b)で内部空間S1及び内部空間S2の両方を真空排気可能な構造(X線発生装置1A)が採用されてもよい。いくつかの実施例では、筐体6及び筐体7の外部に位置する連絡路E3によって、排気流路E1及び排気流路E2を連結してもよい。他の例では、連絡路E3は、排気流路E1と排気流路E2とを結合するように、筐体7の壁部内から筐体6の壁部内へと連続して設けられた貫通孔を含んでもよい。なお、1つの排気ポンプは、真空ポンプ5a及び真空ポンプ5bのいずれを用いてもよいが、排気流路E1と結合された真空ポンプ5bを排気ポンプとすることにより、より効率のよい真空排気が可能となる。
【0030】
いくつかの実施例では、内部空間S1,S2及び電子通過路Pが真空引きされた状態で、電子銃2に電圧が印加される。その結果、電子銃2から円形断面形状の電子ビームEBが出射される。電子ビームEBは、磁気レンズ4によってターゲット31に集束させられると共に楕円形断面形状に変形させられ、回転するターゲット31に入射する。電子ビームEBがターゲット31に入射すると、ターゲット31においてX線XRが発生し、略円形状の実効焦点形状を有するX線XRがX線通過孔7aから筐体7の外部に出射される。
【0031】
図2に示されるように、円筒管9の構成例は、X軸方向に沿って径の大きさが段階的に変化する形状を有している。例えば、円筒管9は、X軸方向に沿って配置された6つの円筒部91~96を有している。円筒部91~96のそれぞれは、X軸方向に沿って一定の径を有している。円筒管9の外径は、円筒管9の内径に同調して変化しなくてもよい。すなわち、円筒管9の外径は、一定であってもよい。
【0032】
円筒部91(第1円筒部)は、円筒管9の電子銃2側の第1端部9aを含む。円筒部91は、第1端部9aから、境界部9cにおけるコイル42aの電子銃2側の部分に囲まれた第2端部91aまで延びている。円筒部92(第2円筒部)の第1端部92aは、円筒部91のターゲット31側の第2端部91aに接続されている。いくつかの実施例では、円筒部92は、円筒部91の第2端部91aからポールピース42bよりも若干ターゲット31側にある第2円筒部92の第2端部92bまで延びている。例えば、第2円筒部92の第2端部92bは、X軸方向に沿ってポールピース42bとターゲット31との間に位置してもよい。また、円筒部93(第3円筒部)の第1端部93aは、円筒部92のターゲット31側の第2端部92bに接続されている。
【0033】
円筒部93は、円筒部92の第2端部92bから磁気四重極レンズ43に囲まれた円筒部93の第2端部93bまで延びている。円筒部94(第4円筒部)の第1端部は、円筒部93のターゲット31側の第2端部93bに接続されている。円筒部94は、円筒部93の第2端部93bから壁部44cの筐体7側まで延びている。
【0034】
円筒部95(第5円筒部)及び円筒部96(第6円筒部)は、筐体7の壁部71の内部を通る。壁部71は、ターゲット31に対向する位置に配置されており、X軸方向に交差するように延在している。円筒部95は、円筒部94のターゲット31側の第2端部に接続されている。円筒部95は、円筒部94の当該端部から壁部71の内部の途中部まで延びている。円筒部96は、壁部71の内部の途中部において、円筒部95のターゲット31側の端部に接続されている。円筒部96は、円筒部95の当該端部から円筒管9のターゲット31側の第2端部9bまで延びている。なお、
図2に示されるように、例示的なX線通過孔7aは、壁部71と接続されてZ軸方向に交差するように延在する壁部72に設けられている。X線通過孔7aは、Z軸方向に沿って壁部72を貫通している。
【0035】
いくつかの実施例では、各円筒部91~96の径をd1~d6と表すと、「d2>d3>d1>d4>d5>d6」の関係が成立している。一例として、径d1は6~12mmであり、径d2は10~14mmであり、径d3は8~12mmであり、径d4は4~6mmであり、径d5は4~6mmであり、径d6は0.5~4mmである。
【0036】
円筒部91と円筒部92の少なくとも一部は、電子通過路Pのうち磁気集束レンズ42のポールピース42b(特にヨーク42cとヨーク42dとの間のギャップ)に囲まれた部分よりも電子銃2側に位置している。いくつかの実施例では、円筒部91と円筒部92の少なくとも一部は、「電子通過路Pのうち磁気集束レンズ42のポールピース42bに囲まれた部分よりも電子銃2側の部分」(以下「第1円筒部分」という。)を構成している。そして、上述したように、円筒部91の径d1よりも円筒部92の径d2の方が大きい(d2>d1)。つまり、円筒部92は、電子銃2側に隣接する円筒部91よりも拡径されている。換言すれば、第1円筒部分において、円筒部92の少なくとも一部は、ターゲット31側に向かって拡径する拡径部を構成している。
【0037】
円筒部96は、電子通過路Pのターゲット31側の端部9bを含む。そして、円筒部95の径d5よりも円筒部96の径d6の方が小さい(d6<d5)。つまり、円筒部96は、電子銃2側に隣接する円筒部95よりも縮径されており、円筒部96は、ターゲット31側に向かって縮径する縮径部を構成している。いくつかの実施例では、円筒部92の径d2が円筒管9の最大径であり、円筒部92からターゲット31側に向かって、順次縮径されている。従って、円筒部93~96を含む部分が上記縮径部を構成していると捉えることもできる。
【0038】
いくつかの実施例では、電子銃2よりも後段に配置された磁気集束レンズ42によって、電子ビームEBの大きさが調整されると共に、磁気集束レンズ42よりも後段に配置された磁気四重極レンズ43によって、電子ビームEBの断面形状が楕円形状に変形させられる。従って、電子ビームEBの大きさの調整と断面形状の調整とをそれぞれ独立して行うことができる。
【0039】
図4の(A)は、
図1及び
図2に示される磁気集束レンズ42及び磁気四重極レンズ43を含む構成例の模式図である。
図4の(B)は、比較例の構成(ダブレット)の模式図である。
図4の(A)及び(B)は、カソードC(電子銃2)からターゲット31までの間に電子ビームEBに作用する光学系の一例を模式的に表した図である。
図4の(B)に示される比較例の構成では、凹レンズとして作用する面と凸レンズとして作用する面とを相互に入れ替えた2段の磁気四重極レンズの組み合わせによって、電子ビームの断面形状の大きさ及びアスペクト比の調整が行われる。
図4の(B)の比較例では、電子ビームの断面形状の大きさを決定するレンズとアスペクト比を決定するレンズとが互いに独立していない。従って、2段の磁気四重極レンズの組み合わせによって、大きさ及びアスペクト比を同時に調整する必要がある。このため、焦点寸法及び焦点形状の調整が煩雑となる。これに対して、
図4の(A)に示される実施例の構成では、前段の磁気集束レンズ42によって、電子ビームEBの断面形状の大きさが調整される。すなわち、磁気集束レンズ42によって、電子ビームEBの断面形状は、一定の大きさまで絞られる。その後、後段の磁気四重極レンズ43により、電子ビームEBの断面形状のアスペクト比が調整される。このように、
図4の(A)の実施例の構成では、電子ビームEBの断面形状の大きさを決定するレンズ(磁気集束レンズ42)とアスペクト比を決定するレンズ(磁気四重極レンズ43)とが互いに独立している。このため、焦点寸法及び焦点形状の調整を容易且つ柔軟に行うことができる。
【0040】
また、磁気集束レンズ42内を通過する電子ビームEBは、X軸方向に沿った軸周りに回転するが、電子銃2により出射される電子ビームEBの断面形状が円形状であることにより、磁気集束レンズ42を経て磁気四重極レンズ43へと至る電子ビームの断面形状は、磁気集束レンズ42内における電子ビームEBの回転量によらずに一定(円形状)となる。これにより、磁気四重極レンズ43において、電子ビームEBの断面形状F1(YZ面に沿った断面形状)を、一貫して確実に、Z方向に沿った長径X1とY軸方向に沿った短径X2とを有する楕円形状に成形することができる。以上により、電子ビームEBの断面形状のアスペクト比及び大きさを容易且つ柔軟に調整することができる。
【0041】
電子銃2及び磁気レンズ4を備える実施例に係るX線発生装置1の性能を実験により評価した。その際、電子銃2に高電圧を印加し、ターゲット31を接地電位とした。所望の出力(カソードCへの印加電圧)において、「40μm×40μm」の実効焦点寸法を持つX線XRが得られた。1000時間の動作において、焦点寸法が変化した場合に、カソードC側の動作条件を変更することなく、磁気四重極レンズ43のコイル43dの電流量を調整するだけで、再度上記の実効焦点寸法が容易に得られた。以上のように、X線発生装置1によれば、コイル43dの電流量の調整を行うだけでX線XRの実効焦点寸法を動的な変化に応じて容易に修正可能であることが確認された。
【0042】
いくつかの実施例では、
図5に示されるように、ターゲット31は、電子ビームEBが入射される電子入射面31aを有している。電子入射面31aは、X軸方向及びZ軸方向に対して傾斜している。そして、磁気四重極レンズ43により楕円形状に変形させられた後の電子ビームEBの断面形状F1(すなわち、長径X1及び短径X2の比)と、X軸方向及びY軸方向に対する電子入射面31aの傾斜角度とは、X線XRの取り出し方向(Z軸方向)から見たX線XRの焦点形状F2が略円形状となるように調整されている。いくつかの実施例では、ターゲット31の電子入射面31aの傾斜角度及び磁気四重極レンズ43による成形条件(アスペクト比)を調整することにより、取り出されるX線XRの焦点(実効焦点)の形状を略円形状とすることができる。その結果、X線発生装置1により発生したX線XRを用いたX線検査等において、適切な検査画像を得ることができる。
【0043】
いくつかの実施例では、
図2に示されるように、X軸方向に沿った磁気集束レンズ42の長さは、X軸方向に沿った磁気四重極レンズ43の長さよりも長い。ここで、「X軸方向に沿った磁気集束レンズ42の長さ」は、コイル42aを包囲するヨーク42cの全長を意味する。いくつかの実施例では、磁気集束レンズ42のコイル42aの巻数を確保し易くなる。その結果、磁気集束レンズ42に比較的大きい磁場を生じさせることにより、縮小率をより高めるために、電子ビームEBを効果的に小さく集束させることができる。さらに、ターゲット31の電子入射面31aに入射する電子ビームEBの大きさを小さくするために、電子銃2から磁気集束レンズ42により構成されるレンズ中心(ポールピース42bが設けられた部分)までの距離を長くすることができる。
【0044】
また、磁気集束レンズ42のポールピース42bの内径Dは、磁気四重極レンズ43の内径d(
図3参照)よりも大きい。いくつかの実施例では、磁気集束レンズ42のポールピース42bの内径Dを比較的大きくすることにより、磁気集束レンズ42により構成されるレンズの球面収差を小さくすることができる。また、磁気四重極レンズ43の内径dを比較的小さくすることにより、磁気四重極レンズ43におけるコイル43dの巻数及び当該コイル43dを流れる電流量を少なくすることができる。その結果、磁気四重極レンズ43における発熱量を抑制することもできる。
【0045】
また、X線発生装置1は、X軸方向に沿って延在し、電子ビームEBが通過する電子通過路Pを形成する円筒管9を備えている。そして、磁気集束レンズ42及び磁気四重極レンズ43は、円筒管9に直接的又は間接的に接続されている。いくつかの実施例では、円筒管9を基準として、磁気集束レンズ42及び磁気四重極レンズ43の配置又は取付を行うことができるため、磁気集束レンズ42及び磁気四重極レンズ43の中心軸を精度良く同軸上に配置することができる。その結果、磁気集束レンズ42内及び磁気四重極レンズ43内を通過した後の電子ビームEBのプロファイル(断面形状)に歪みが生じることを抑制することができる。
【0046】
また、X線発生装置1は、偏向コイル41を備えている。いくつかの実施例では、上述したように、電子銃2から出射される電子ビームEBの出射軸と磁気集束レンズ42及び磁気四重極レンズ43の中心軸との間に生じた角度ずれ等を、適切に補正することができる。また、偏向コイル41は、電子銃2と磁気集束レンズ42との間に配置されている。いくつかの実施例では、電子ビームEBが磁気集束レンズ42及び磁気四重極レンズ43を通過する前に電子ビームEBの走行方向を適切に調整することができる。その結果、ターゲット31に入射される電子ビームEBの断面形状を意図された楕円形状に維持することができる。
【0047】
X線発生装置1では、カソードC(電子銃2)を収容する筐体6とターゲット31を収容する筐体7とにわたって設けられる電子通過路Pが形成されている。そして、電子通過路Pのターゲット31側の端部(円筒管9の端部9b)を含む部分は、ターゲット31側に向かって縮径している。いくつかの実施例では、円筒部96(或いは、円筒部93~96)が、ターゲット31側に向かって縮径する縮径部を構成している。これにより、筐体7内で電子ビームEBがターゲット31に入射することにより生じた反射電子が、電子通過路Pを介して筐体6内へと到達し難くなっている。その結果、ターゲット31から放出された反射電子に起因するカソードCの劣化が抑制又は防止され得る。なお、反射電子とは、ターゲット31に入射した電子ビームEBのうちターゲット31に吸収されずに反射する電子である。
【0048】
カソードCから電子ビームEBが放出される際に、電子銃2によりガスが発生する。ガスは、カソードCが収容されている空間に残留し得る。また、ガス(例えば、H2、H2O、N2、CO、CO2、CH4、Ar等のガス副産物)が、ターゲット31への電子の衝突により、筐体7内において発生し得る。これにより、電子がターゲット31の表面から反射されることもある。いくつかの実施例では、電子通過路Pのターゲット31側の入口(すなわち、端部9b)が狭くなっているため、電子通過路Pを介して筐体6側(すなわち、内部空間S1)へと吸引されるガスが少なく、筐体6に設けられた排気流路E1から排出されるガスは少ない。そこで、X線発生装置1では、筐体7自体に、上記ガスの排出経路(排気流路E2)が設けられている。これにより、各筐体6,7内の真空排気を適切に行いつつ、反射電子に起因するカソードCの劣化を抑制又は防止することができる。
【0049】
また、電子通過路Pのうち磁気集束レンズ42のポールピース42bに囲まれた部分よりも電子銃2側の部分(上述した第1円筒部分)は、ターゲット31側に向かって拡径する拡径部(円筒部92の少なくとも一部)を有する。いくつかの実施例では、電子通過路Pのターゲット31側の端部9bから電子通過路P内へと反射電子が進入したとしても、ターゲット31側に向かって拡径する拡径部(すなわち、カソードC側に向かって縮径する部分)により、電子通過路Pを介した反射電子のカソードC側への移動を抑制することができる。また、ターゲット31に向かう電子ビームEBが電子通過路Pの内壁(円筒管9の内面)に衝突してしまうことを効果的に抑制することができる。
【0050】
また、拡径部は、円筒管9の電子銃2側からターゲット31側に向かって、径d1(第1径)を有する部分(すなわち円筒部91)から径d1よりも大きい径d2(第2径)を有する部分(すなわち円筒部92)へと非連続に変化する部分(すなわち、円筒部91と円筒部92との境界部分)を含む。いくつかの実施例では、円筒部91と円筒部92との境界部分において、円筒管9の径は、段差状に変化している。境界部9cが、径d1を内径とし、径d2を外径とする円環状の壁によって形成されている(
図2参照)。いくつかの実施例では、電子通過路P内をターゲット31側から電子銃2側へと進む反射電子が存在したとしても、当該反射電子を当該境界部9cに衝突させることができる。これにより、当該反射電子のカソードC側への移動をより一層効果的に抑制又は防止することができる。
【0051】
また、電子通過路Pのうち磁気集束レンズ42のポールピース42bに囲まれた部分の径(円筒部92の径d2)は、電子通過路Pの他の部分の径以上である。つまり、電子通過路Pは、磁気集束レンズ42のポールピース42bに囲まれた部分において、最大径を有している。いくつかの実施例では、電子銃2から出射した電子ビームEBの拡がりが大きくなる部分(すなわち、ポールピース42bに囲まれた部分)の径を他の部分の径以上に大きくすることにより、ターゲット31に向かう電子ビームEBが電子通過路Pの内壁(円筒管9の内面)に衝突してしまうことを効果的に抑制することができる。
【0052】
また、排気流路E1と排気流路E2とは連通している。そして、排気部5が、排気流路E1を介して筐体6内を真空排気すると共に、排気流路E2を介して筐体7内を真空排気する。いくつかの実施例では、共通の排気部5によって、筐体6内の内部空間S1及び筐体7内の内部空間S2の両方を真空排気することができるため、X線発生装置1の小型化を図ることができる。
【0053】
本明細書に記載される全ての態様、利点及び特徴は、任意の特定の実施例によって必ずしも達成されないこと、或いは任意の特定の実施例に必ずしも含まれないことを理解されたい。本明細書では様々な実施例を説明したが、異なる材料及び形状を有するものを含む他の実施例を採用することができることは明らかである。
【0054】
例えば、電子銃2からの電子ビームEBの出射軸と磁気集束レンズ42の中心軸とが精度良く揃う場合には、偏向コイル41は省略されてもよい。また、偏向コイル41は、磁気集束レンズ42と磁気四重極レンズ43との間に配置されてもよいし、磁気四重極レンズ43とターゲット31との間に配置されてもよい。
【0055】
電子通過路P(円筒管9)の形状は、全域に亘って単一の径を有していてもよい。また、電子通過路Pは、単一の円筒管9によって形成されてもよい。他の例では、円筒管9は、筐体6内にのみ設けられ、筐体7内を通る電子通過路Pは、筐体7の壁部71に設けられた貫通孔によって形成されてもよい。また、別途に円筒管9を設けることなく、筒部材10の貫通孔と筐体44及び筐体7に設けられた貫通孔とによって、電子通過路Pを構成してもよい。
【0056】
図6は、円筒管の第1変形例(円筒管9A)を示している。いくつかの実施例では、円筒管9Aは、円筒部91~96の代わりに円筒部91A~93Aを有する点で、
図2に示される円筒管9と相違している。円筒部91Aは、円筒管9の端部9aからコイル42aの電子銃2側に囲まれた位置まで延びている。円筒部91Aはテーパ形状を有している。例えば、円筒部91Aの径は、端部9aからターゲット31側に向かって、径d1から径d2まで漸増している。円筒部92Aは、円筒部91Aのターゲット31側の端部からポールピース42bよりも若干ターゲット31側の位置まで延びている。円筒部92Aは一定の径(径d2)を有している。円筒部93Aは、円筒部92Aのターゲット31側の端部から円筒管9の端部9bまで延びている。円筒部93Aはテーパ形状を有している。例えば、円筒部93Aの径は、円筒部92Aの当該端部からターゲット31側に向かって、径d2から径d6まで漸減している。円筒管9Aにおいては、円筒部91Aが拡径部に相当し、円筒部93Aが縮径部に相当する。
【0057】
図7は、円筒管の第2変形例(円筒管9B)を示している。いくつかの実施例では、円筒管9Bは、円筒部91~96の代わりに円筒部91B,92Bを有する点で、
図2に示される円筒管9と相違している。円筒部91Bは、円筒管9の端部9aからポールピース42bに囲まれた位置まで延びている。円筒部91Bはテーパ形状を有している。例えば、円筒部91Bの径は、端部9aからターゲット31側に向かって、径d1から径d2まで漸増している。円筒部92Bは、円筒部91Bのターゲット31側の端部から円筒管9の端部9bまで延びている。円筒部92Bはテーパ形状を有している。いくつかの実施例では、円筒部92Bの径は、円筒部91Bの当該端部からターゲット31側に向かって、径d2から径d6まで漸減している。円筒管9Bにおいては、円筒部91Bが拡径部に相当し、円筒部92Bが縮径部に相当する。
【0058】
いくつかの実施例では、円筒管(電子通過路)の縮径部及び拡径部は、円筒管9のように段差状(非連続)に形成されていなくてもよく、円筒管9A,9Bのようにテーパ状に形成されてもよい。また、円筒管9Bのように、円筒管は、テーパ状に形成された部分のみによって構成されてもよい。また、円筒管は、段差状に径を変化させる部分とテーパ状に径を変化させる部分との両方を有していてもよい。例えば、拡径部が円筒管9Aのようにテーパ状に形成される一方で、縮径部が円筒管9のように段差状に形成されてもよい。
【0059】
また、ターゲットは、回転陽極でなくてもよい。いくつかの実施例では、ターゲットが回転しないように構成され、電子ビームEBが常にターゲット上の同じ位置に入射するように構成されてもよい。ただし、ターゲットを回転陽極とすることにより、ターゲットに対する電子ビームEBによる局所的な負荷を減少させることができる。その結果、電子ビームEBの量を増大させ、ターゲットから出射されるX線XRの線量を増大させることが可能となる。
【0060】
いくつかの実施例では、電子銃2は、円形状の断面形状を有する電子ビームEBを出射するように構成されてもよい。他の例では、電子銃2は、円形状以外の断面形状を有する電子ビームを出射するように構成されてもよい。
【0061】
[付記]
本開示は、下記の構成を含んでいる。
【0062】
[構成1]
電子ビームEBの走行方向は、偏向コイル41(偏向コイル41が2つの偏向コイルによって構成される場合には、その一方の偏向コイル)によって、第1方向(X軸方向)における電子ビームEBの軸と磁気集束レンズ42及び磁気四重極レンズ43を通過する電子通過路Pの中心軸との角度ずれを補正するように調整されている。
【0063】
[構成2]
電子ビームEBの走行方向は、電子銃2と磁気集束レンズ42との間に配置された第2の偏向コイル(偏向コイル41が2つの偏向コイルによって構成される場合における他方の偏向コイル)によって、電子ビームEBの軸と電子通過路Pの中心軸との間の横方向のずれを補正するように更に調整されている。
【0064】
[構成3]
X線発生装置1は、円形断面形状を有する電子ビームEBを放射する手段(例えば、電子銃2)と、電子ビームEBを回転軸周りに回転させながら集束させる手段(例えば、磁気集束レンズ42)と、電子ビームEBの円形断面形状を、回転軸に直交する長径X1と回転軸及び長径X1の両方に直交する短径X2とを有する楕円形断面形状に変形させる手段(例えば、磁気四重極レンズ43)と、楕円形断面形状を有する電子ビームEBを受けることに応じてX線XRを放出する手段(例えば、ターゲット31)と、を備える。
【0065】
[構成4]
X線発生装置1は、電子ビームEBの走行方向を調整する手段(例えば、偏向コイル41)を更に備える。上記調整する手段は、電子ビームEBの走行方向において、電子ビームEBを放出する手段(電子銃2)と電子ビームを集束させる手段(磁気集束レンズ42)との間に位置する。
【0066】
[構成5]
電子ビームを集束させる手段は、第1磁気レンズ(磁気集束レンズ42)を含む。電子ビームの断面形状を変形させる手段は、第2磁気レンズ(磁気四重極レンズ43)を含む。上記調整する手段は、電子ビームEBの回転軸と第1磁気レンズ及び第2磁気レンズの両方を通過する中心軸との角度ずれを補正する手段(例えば、偏向コイル41に含まれる2つの偏向コイルのうちの一方)と、電子ビームEBの回転軸と上記中心軸との間の横方向のずれを補正する手段(例えば、偏向コイル41に含まれる2つの偏向コイルのうちの他方)と、を含む。
【0067】
[構成6]
X線XRを放出する手段(ターゲット31)は、長径X1及び短径X2の両方に対して傾斜した電子入射面31aを有する。X線発生装置1は、電子ビームEBの円形断面形状を楕円形断面形状に変形させた後に、電子ビームEBの長径X1及び短径X2の比を調整する手段(磁気四重極レンズ43)を備える。上記比と長径X1及び短径X2に対する電子入射面31aの傾斜角との組み合わせにより、X線XRの取り出し方向(Z軸方向)から見たX線XRの略円形状の焦点形状F2が決定される。
【0068】
[構成7]
X線発生方法は、円形断面形状を有する電子ビームEBを放出するステップと、第1磁気レンズによって、円形断面形状を有する電子ビームEBを回転軸周りに回転させながら集束させるステップと、第2磁気レンズによって、電子ビームEBの円形断面形状を、回転軸に直交する長径X1と回転軸及び長径X1の両方に直交する短径X2とを有する楕円形断面形状に変形させるステップと、楕円形断面形状を有する電子ビームEBをターゲット31で受けることに応じてX線XRを放出するステップと、を含む。
【0069】
[構成8]
第2磁気レンズは、磁気四重極レンズ43を含む。
【0070】
[構成9]
磁気四重極レンズ43は、円形断面形状を有する電子ビームEBが第1磁気レンズによって集束させられた後、電子ビームEBの円形断面形状を楕円形断面形状に変形させる。
【0071】
[構成10]
X線発生方法は、電子ビームEBが第1磁気レンズによって集束させられる前に、円形断面形状を有する電子ビームEBの走行方向を調整するステップを更に含む。
【0072】
[構成11]
電子ビームEBの走行方向は、電子ビームEBの回転軸と第1磁気レンズ及び第2磁気レンズの両方を通過する中心軸との角度ずれを補正する偏向コイル41によって調整される。
【0073】
[構成12]
電子ビームEBの走行方向は、電子ビームEBの回転軸と第1磁気レンズ及び第2磁気レンズの両方を通過する中心軸との間の横方向のずれを補正する偏向コイル41によって調整される。
【0074】
[構成12]
ターゲット31は、長径X1及び短径X2の両方に対して傾斜した電子入射面31aを有する。X線発生方法は、電子ビームEBの円形断面形状を楕円形断面形状に変形させた後に、電子ビームEBの長径X1及び短径X2の比を調整するステップを更に含む。上記比と長径X1及び短径X2に対する電子入射面31aの傾斜角との組み合わせにより、X線XRの取り出し方向(Z軸方向)から見たX線XRの略円形状の焦点形状F2が決定される。