(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】重質アクリル酸アルキルの連続調製方法
(51)【国際特許分類】
C07C 213/06 20060101AFI20241009BHJP
C07C 219/08 20060101ALI20241009BHJP
C07C 213/10 20060101ALI20241009BHJP
B01J 27/236 20060101ALI20241009BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20241009BHJP
【FI】
C07C213/06
C07C219/08
C07C213/10
B01J27/236 Z
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2022534717
(86)(22)【出願日】2020-12-09
(86)【国際出願番号】 FR2020052365
(87)【国際公開番号】W WO2021116608
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2023-09-12
(32)【優先日】2019-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベッリーニ,クレマン
(72)【発明者】
【氏名】マジェ,サンドラ
(72)【発明者】
【氏名】デュフェール,パトリス
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開昭48-091008(JP,A)
【文献】特表平09-503750(JP,A)
【文献】特表2019-514920(JP,A)
【文献】国際公開第2017/187067(WO,A1)
【文献】特表2014-534174(JP,A)
【文献】特表2012-527996(JP,A)
【文献】国際公開第2007/057120(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 213/06
C07C 219/08
C07C 213/10
B01J 27/236
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の(メタ)アクリル酸エステルの連続合成方法であって、
【化1】
[式中、Rは水素原子又はメチル基であり、R
1は、4~40個の炭素原子を含む、直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又は脂環式基、アリール基、アルキルアリール基若しくはアリールアルキル基、又は少なくとも1個のヘテロ原子及び3~40個の炭素原子を含む直鎖状又は分岐状のアルキル基である。]
該合成方法は、少なくとも1種の重合抑制剤及び不均一系触媒としての水亜鉛土の存在下での式(II)の(メタ)アクリル酸アルキル
【化2】
[式中、Rは上記の意味をもち、R
2は1~3個の炭素原子を含む直鎖状又は分枝状のアルキル基である。]と式(III)のアルコール
R
1-OH (III)
との反応により行われ、
触媒含有率が、前記アルコールに対して0.01mol%~0.5mol%であ
り、
TOF(ターンオーバー頻度)値が50h
-1
を超えることを特徴とする、方法。
【請求項2】
エステル交換反応が、80~150℃の温度で撹拌される反応器中で行われ、前記反応器から出る反応混合物が、軽質生成物として、重質アルコール、軽質アルコール及び未反応の軽質アクリル酸塩と、重質生成物として、重合抑制剤及び重質反応生成物とともに、重質アクリル酸アルキルを含み、該反応混合物が、前記触媒を分離するために液体/固体分離工程に供される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式(I)の前記(メタ)アクリル酸エステルを以下の工程に従って精製する、請求項2に記載の方法。
a. 前記反応混合物を1000~20000Paの圧力で第1の蒸留塔(C1)に送り、そこで蒸留し、
・ 頂部で、未反応の出発物質及び少量の重質生成物(マイケル付加物)を含む流れ、及び
・ テールで、本質的に重質アクリル酸アルキルから構成される流れ
を生成し、
b. 第1の蒸留塔(C1)からのテール流を1000Pa~20000Paの圧力で第2の蒸留塔(C2)に送り、そこで蒸留し、
・ 頂部で、所望の重質アクリル酸アルキル、
・ テールで、重合抑制剤及びまた重質反応生成物
を生成する。
【請求項4】
前記出発物質をリサイクルするために、第1の蒸留塔(C1)からのヘッド流をエステル交換反応器に送る追加工程を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記液体/固体分離工程が、濾過、電気濾過、吸収、遠心分離及びデカンテーションから選択される技術を含み、このように処理された粗生成物の触媒含量が500ppm未満である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記触媒を前記反応混合物中の懸濁液として反応に導入するか、又は、エステル交換反応器中の固定床に配置する、請求項2~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
使用される前記重合抑制剤が、限界値を含む1~10の質量比で、少なくとも1種のN-オキシル誘導体と、フェノール化合物及びフェノチアジン化合物から選択される少なくとも1種の重合抑制剤とを含む、請求項1~6までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記N-オキシル化合物が、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(TEMPOと呼ばれる)、及びその誘導体、例えば、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(4-OH-TEMPO)又は4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(4-Oxo-TEMPO)、及びこれらの化合物の混合物から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
使用される前記重合抑制剤がフェノール化合物及びフェノチアジン化合物から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記重合抑制剤が、フェノチアジン、4-メチル-2,6-tert-ブチルフェノール、ヒドロキノン、ヒドロキノンメチルエーテル、p-アミノフェノール、p-ニトロソフェノール、2-tert-ブチルフェノール、4-tert-ブチルフェノール、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、2-メチル-4-tert-ブチルフェノール、4-メチル-2,6-tert-ブチルフェノール(又は2,6-tert-ブチル-p-クレゾール)又は4-tert-ブチル-2,6-ジメチルフェノール、ヒドロキノン(HQ)、ヒドロキノンメチルエーテル(HQME)から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記重合抑制剤の質量含有率が、反応混合物中で0.001%~0.5%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
第1の蒸留塔(C1)からのテール流におけるマイケル付加物の質量含有率が5%以下である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
式(I)の(メタ)アクリル酸エステルが、アクリル酸ジメチルアミノエチルである、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不均一系触媒を用いたエステル交換反応による重質アクリル酸アルキルの連続合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エステル交換は(メタ)アクリル酸エステルの製造によく用いられる方法である。式(I)の(メタ)アクリル酸エステルを調製することは知られた慣行であり、
【0003】
【化1】
[式中、Rは水素原子又はメチル基であり、R
1は直鎖状又は分枝状のアルキル基、脂環式基、アリール基、アルキルアリール基又はアリールアルキル基であり得、これらはヘテロ原子を含み得る。]、式(I)の(メタ)アクリル酸エステルは、式(II)の(メタ)アクリル酸アルキル
【0004】
【化2】
[式中、Rは上記の意味をもち、R
2は1~4個の炭素原子を含む直鎖状又は分枝状のアルキル基であり得る。]と式(III)のアルコール
R
1-OH (III)
[式中、R
1は上記の意味をもつ。]との反応によるエステル交換処理を経て調製される。
【0005】
軽質アルコールR2-OHが合成の過程で生成され、軽質(メタ)アクリル酸アルキル(II)との共沸混合物の形態で除去される。
【0006】
エステル交換による(メタ)アクリル酸エステルの合成は、一般に触媒存在下で行われるが、これは均一系でも不均一系でもよい。触媒の選択は種々の基準に依存し、特に使用する(メタ)アクリル酸アルキル(II)又はアルコール(III)の性質に依存するが、バッチ法又は連続法などの方法の性質にも依存する。
【0007】
例えば、FR2777561号及びFR2876375号に記載されているチタン酸アルコキシ、又はJP2001172234号及びJP2001187763号に記載されている酸化スズ誘導体は、エステル交換によるアクリル酸エステルの形成の非常に選択的な触媒作用を可能にする。蒸留による重質アクリル酸アルキルの精製には前記触媒が害になるため、いずれの場合もテーリング(tailing)による触媒除去のための精製の予備工程が必要である。
【0008】
触媒の使用コストを削減し、反応へのそのリサイクルを容易にするために、エステル交換反応による重質アクリル酸アルキルの合成のために、担持された不均一系触媒が開発された。チタン(FR2913612号)又はジルコニウム(EP0557131号)の、金属ポリマー担持体上の触媒は、一連の1つ以上のエステル交換反応器に使用される。しかし、これらの触媒はエステル交換反応に伴う高温のため、比較的短い使用期間を有する。
【0009】
アミノアルキル(メタ)アクリレートの製造のためのエステル交換触媒としての、反応媒体に不溶性である無機塩の使用は、US2013/178592号に記載されていた。反応への水の添加(300~3000ppm)により、これらの不均一系触媒の選択性を著しく改善することが可能になる。しかし、優先的に選択される触媒であるK3PO4は、アクリル酸エステルの合成において非常に低い選択性(25%未満)を示す。
【0010】
FR2175104号は、亜鉛化合物の存在下でのアミノアルキルアクリレートの合成方法を記載しており、亜鉛化合物のモル含有率はアルキルアミノアルコールに対して0.01%~30%である。前記文献に列挙されている亜鉛化合物からなる多数の触媒の中には、実施例28に記載されている塩基性炭酸亜鉛がある。より詳細には、前記実施例は、フェノチアジン及び塩基性炭酸亜鉛の存在下で、アクリル酸エチル及びジメチルアミノエタノールから始めて、バッチモードで実施されるエステル交換方法によるアクリル酸ジメチルアミノエチルの合成を記載しており、ジメチルアミノエタノールに対する前記炭酸塩の含有率は1.045mol%である。前記文献には、アクリル酸ジメチルアミノエチルの収率は84.5%と報告されている。しかし、以下に示す式に従って計算したTOF(ターンオーバー頻度)値に対して求めた対応する触媒活性は非常に低い(わずか9.5h-1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】仏国特許出願公開第2777561号明細書
【文献】仏国特許出願公開第2876375号明細書
【文献】特開2001-172234号公報
【文献】特開2001-187763号公報
【文献】仏国特許出願公開第2913612号明細書
【文献】欧州特許出願公開第0557131号明細書
【文献】米国特許出願公開第2013/178592号明細書
【文献】仏国特許出願公開第2175104号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
それゆえに、重質アクリル酸アルキルの連続製造に適したエステル交換法が、現時点で必要とされており、これは、上で列挙された欠点を克服する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的のために、本発明は、水亜鉛土(式Zn5(CO3)2(OH)6又は[ZnCO3]2・[Zn(OH)2]3又はC2H12O12Zn5)を不均一系触媒として用いるエステル交換反応による重質アクリル酸アルキルの連続合成方法を提供する。この触媒は、非常に低い含有率(重質アルコールに対して1%未満のモル含有率)で使用される場合、非常に高い生産収率を得ることを可能にし、同時に高い触媒活性を維持する。
【0014】
さらに、触媒は、濾過によって反応混合物から分離されるので、所望のアクリル酸アルキルの精製は、先行技術で報告されている3工程の代わりに、2つの蒸留塔によって、わずか2工程(トッピング(topping)及びテーリング)で行われる。
【0015】
本発明は式(I)の(メタ)アクリル酸エステルの連続合成方法に関する。
【0016】
【化3】
式中、Rは水素原子又はメチル基であり、R
1は、4~40個の炭素原子を含む、直鎖状又は分岐状のアルキル基、又は脂環式基、アリール基、アルキルアリール基若しくはアリールアルキル基、又は少なくとも1個のヘテロ原子及び3~40個の炭素原子を含む直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、この方法は、不均一系触媒としての水亜鉛土の存在下での、式(II)の(メタ)アクリル酸アルキル
【0017】
【化4】
[式中、Rは上記の意味をもち、R
2は1~3個の炭素原子を含む直鎖状又は分枝状のアルキル基である。]と式(III)のアルコール
R
1-OH (III)
[式中、R
1は上記の意味を持つ。]との反応による。
【0018】
この方法では、アルコールに対して0.01mol%~0.5mol%の範囲の触媒含有率を用いるのが特徴的である。
【0019】
有利には、アクリル酸アルキルの精製は、2つの蒸留塔を用いて、トッピング及びテーリングの2工程で行われる。
【0020】
本発明は、先行技術の欠点を克服することを可能にする。本発明は、より具体的には、重質アクリル酸アルキルの連続製造のための簡素化された、経済的かつ効率的な合成方法を提供する。本発明は、特に、触媒使用のコストを大幅に削減し、生産収率を改善し、工場出口での金属残留物の処理を回避することを可能にする。
【0021】
さらに、触媒の含有量が非常に少ないこの方法では、最終生成物の収率が非常に高い。TOFによって定量化した触媒効率は大きく改善され、50h-1を超える値までになる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、以後、以下の説明において、より詳細に、非限定的な方法で記載される。
【0023】
均一系触媒作用によるエステル交換反応による重質アクリル酸アルキルの合成は、蒸留(テーリング)によって触媒を除去する予備工程を含む。金属残留物を含むこの蒸留からのテール(tail)の一部は、廃棄(外部リサイクル)のために送られ、触媒使用のコスト及びそれに伴う生態学的影響を著しく増大させる。
【0024】
また、この蒸留からのヘッド(head)は、所望の重質アクリル酸アルキル、並びに軽質アクリル酸アルキル及び未反応の重質アルコールを含む。重質アクリル酸アルキルをより軽い出発材料から分離するためには、追加の蒸留(ヘディング(heading))が必要である。次に、この2回目の蒸留からのテールには、所望の重質アクリル酸アルキル及び過剰の重合抑制剤(複数可)が含まれる。次いで、所望の重質アクリル酸アルキルを所望の仕様で得るために、最終蒸留工程(精製)が必要である。
【0025】
このように反応で触媒を直接除去すれば、この精製方法は3工程ではなく2工程(ヘディング、後にテーリング)だけで行えるようになり、生産工場の建設コストが下がり、生産に要するエネルギーに関連するコストも下がる。
【0026】
本発明は、水亜鉛土を不均一系触媒として使用するエステル交換反応による重質アクリル酸アルキルの連続合成方法に関し、最終生成物の精製は2工程で行われる。
【0027】
本発明は式(I)の(メタ)アクリル酸エステルの連続合成方法に関する。
【0028】
【化5】
式中、Rは水素原子又はメチル基であり、R
1は、4~40個の炭素原子を含む、直鎖状又は分岐状のアルキル基、又は脂環式基、アリール基、アルキルアリール基若しくはアリールアルキル基、又は少なくとも1個のヘテロ原子及び3~40個の炭素原子を含む直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、この方法は、少なくとも1種の重合抑制剤及び不均一系触媒としての水亜鉛土の存在下で、式(II)の(メタ)アクリル酸アルキル
【0029】
【化6】
[式中、Rは上記の意味をもち、R
2は1~3個の炭素原子を含む直鎖状又は分枝状のアルキル基である。]と式(III)のアルコール
R
1-OH (III)
との反応により行われ、触媒含有率はアルコールに対して0.01mol%~0.5mol%である。
【0030】
様々な実施形態によると、前記方法は、適切な場合に組み合わせされる以下の特徴を含む。
【0031】
1つの実施形態によれば、エステル交換反応は、80~150℃、好ましくは90~130℃の間の温度で撹拌される反応器中で行われ、反応器から出る反応混合物が、軽質生成物として、重質アルコール、軽質アルコール及び未反応軽質アクリル酸塩と、重質生成物として、重合抑制剤(複数可)及び重質反応生成物とともに重質アクリル酸アルキルを含む。軽質アクリル酸塩/軽質アルコール共沸混合物は、反応器に取り付けられた蒸留塔(共沸塔)によって除去される。反応混合物は、触媒を分離するために、液体/固体分離工程に供される。
【0032】
触媒は、反応混合物中の懸濁液として反応に導入するか、又はエステル交換反応器(複数可)中の固定床中に配置することができる。通常の液体/固体分離技術(濾過、電気濾過、吸収、遠心分子、又はデカンテーション)により、反応器出口での、触媒を含まないか、又は実質的に含まない(触媒含量が500ppm未満)粗生成物の抽出が可能である。
【0033】
1つの実施形態によると、重合抑制剤は、少なくとも1種のN-オキシル化合物及びN-オキシル化合物以外の少なくとも1種の重合抑制剤を含む。
【0034】
N-オキシル化合物は、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(TEMPOと呼ばれる)、及びその誘導体、例えば、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(4-OH-TEMPO又は4-HT)、又は4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(4-Oxo-TEMPO)、並びにこれらの化合物の混合物である。
【0035】
1つの実施形態によれば、重合抑制剤はフェノール化合物及びフェノチアジン化合物から選択される。
【0036】
用語「フェノール化合物」とは、フェノール、ナフトール、及びキノンに由来する化合物を意味する。フェノール化合物としては、この列挙は限定的ではないが、p-アミノフェノール、p-ニトロソフェノール、2-tert-ブチルフェノール、4-tert-ブチルフェノール、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、2-メチル-4-tert-ブチルフェノール、4-メチル-2,6-tert-ブチルフェノール(又は2,6-tert-ブチル-p-クレゾール)又は4-tert-ブチル-2,6-ジメチルフェノール、ヒドロキノン(HQ)、ヒドロキノンメチルエーテル(HQME)が挙げられる。
【0037】
用語「フェノチアジン化合物」は、フェノチアジン及びその誘導体、好ましくはフェノチアジン(PTZ)を意味する。好ましくは、安定化組成物は、フェノチアジン、4-メチル-2,6-tert-ブチルフェノール、ヒドロキノン及びヒドロキノンメチルエーテルから選択される少なくとも1種の重合抑制剤を含む。
【0038】
1つの実施形態によれば、N-オキシル化合物は、安定化組成物中に過剰にある。
【0039】
1つの実施形態によれば、重合抑制剤(複数可)に対するN-オキシル化合物の質量比は、1~10の間、好ましくは2~10の間、より優先的には4~10の間、特に5~10の間であり、質量比は、限界値を含めて表現される。
【0040】
有利には、重合抑制剤の全質量含有率は、反応混合物中において0.001%~0.5%である。
【0041】
有利には、式(I)の(メタ)アクリル酸エステルを以下の工程に従って精製する。
a. 前記反応混合物を減圧下(1000~20000Pa)で第1の蒸留塔(C1)に送り、そこで蒸留し、
・ 頂部で、未反応の出発物質及び少量の重質生成物(マイケル付加物)を含む流れ、及び
・ テールで、本質的に重質アクリル酸アルキルから構成される流れを生成し、
b. 第1の蒸留塔(C1)からのテール流を減圧下(1000Pa~20000Pa)で第2の蒸留塔(C2)に送り、そこで蒸留し、
・ 頂部で、所望の重質アクリル酸アルキル、
・ テールで、重合抑制剤及び重質反応生成物
を生成する。
【0042】
1つの実施形態によれば、本発明による方法は、出発物質をリサイクルするために、第1の蒸留塔(C1)からのヘッド流をエステル交換反応器に送る追加の工程を含む。
【0043】
1つの実施形態によれば、反応器において、式(II)の(メタ)アクリル酸アルキル(「重質アクリル酸アルキル」として知られる)と式(III)のアルコール(「重質アルコール」として知られる)とのモル比は、1.1~3の間、好ましくは1.7~2.2の間である。
【0044】
1つの実施形態によると、式(I)の(メタ)アクリル酸エステルはアクリル酸ジメチルアミノエチルである。
【0045】
1つの実施形態によると、アルコールはジメチルアミノエタノールである。
【0046】
驚くべきことに、本発明による方法は、(メタ)アクリル誘導体のエステル交換反応中に、(メタ)アクリル酸エステルの二重結合上のアルコール分子(不安定な水素原子を含有する)のマイケル付加反応から生じるマイケル付加物の形成を大幅に減少させることを可能にすることが見出された。これは、高濃度の塩基性炭酸亜鉛触媒の存在下でのマイケル付加物の形成と比較して顕著に観察される。
【0047】
例えば、アクリル酸メチル(MA)又はアクリル酸エチル(EA)などの軽質アクリル酸塩と、N,N-ジメチルアミノエタノール(DMAE)との間のエステル交換反応によるDMAEAの製造の場合、未だ反応していないアルコール又は反応中に生成した軽質アルコール(メタノール又はエタノール)が既に生成したDMAEA又は未反応の軽質アクリル酸塩(MA又はEA)の二重結合で付加され、重質マイケル付加副生成物[DMAE+DMAEA]が形成される。
【0048】
これらの重質副生成物は、一般に、粗DMAEAの精製のための方法の間に分離された「重質画分」中に濃縮される。この重質画分は焼却しなければならないため、この重質画分の除去は一般に問題となり、この画分中に遊離の形態又はマイケル付加物の形態で存在する出発物質(特にDMAE)及び最終生成物(DMAEA)の多量の損失につながる。
【0049】
本発明による方法の第1の蒸留塔(C1)からのテール流におけるこの種の付加物としての濃度の測定値は、それらの質量含有率が5%を超えないことを示し、この値はFR2175104号に記載された方法を経て得られた重質画分において測定された値(触媒含有率がアルコールに対して0.5mol%を超える)よりも大幅に低い。
【0050】
マイケル付加物の含有率はガスクロマトグラフィーで測定する。また、非常に低い含有率(モル含有率が重質アルコールに対して0.01%~0.5%の範囲、限界値含む)の不均一系触媒として水亜鉛土を用いる本発明による方法は、非常に高い生産収率を得ることを可能にし、これには高い触媒活性が伴うことが分かった。より正確に言えば、触媒活性はTOF(ターンオーバー頻度)値によって決まり、下の式に従って計算される。滞留時間はエステル交換反応器の底部での抽出流量の関数として決定される。
【0051】
【0052】
本発明による方法は、50h-1を超えるTOF値を特徴とする。
【実施例】
【0053】
以下の実施例は、本発明を限定することなく例示する。
【0054】
<実施例1~3の一般的なプロトコール>
以下の例では、以下の略語を用いた。
EA:アクリル酸エチル
DMAE:ジメチルアミノエタノール
DMAEA:アクリル酸ジメチルアミノエチル
PTZ:フェノチアジン
4-HT:4-OH-TEMPO
Zn5(CO3)2(OH)6:水亜鉛土
Ti(OEt)4:チタン酸テトラエチル
TOF:ターンオーバー頻度(触媒効率又は活性)
【0055】
EA、重質アルコール(DMAE)、エステル交換触媒(Ti(OEt)4)又はZn5(CO3)2(OH)6)を、ジャケット内でサーモスタットにより135℃に維持した油を循環させることにより加熱され、その上にMultiknitパッキング、塔ヘッドに水-グリコール混合物を含む冷却器、還流ヘッド、真空セパレータ、受容器及びトラップを備えた蒸留欄が取り付けられた、撹拌した0.5L反応器に連続的に導入する。重合抑制剤(PTZ、4-HT、HQME又はこれらの化合物の混合物)をEAとの混合物として頂部に連続的に注入する。
【0056】
合成を通して、空気は反応混合物中に散布される。反応は86~87kPa(860~870mbar)の真空下、119~121℃の温度で行う。反応中に形成されたエタノールは、EA/エタノール共沸混合物として、形成されるにつれて徐々に除去される。変換の程度は共沸混合物の屈折率分析によって監視される。エタノール含有率は58~62%である。粗反応混合物を過剰漏出により抽出し、受容器内で回収する。
【0057】
蒸留物及びテール流中の重質アルコール、重質(メタ)アクリル酸塩(DMAEA)及びエタノールの含有率を、所望のエステルの収率、重質アルコールの転化率及び選択性を決定するために、ガスクロマトグラフィーによって、120時間の運転後に分析する。阻害剤はHPLC法により分析し、定量する。重質不純物(触媒+ポリマー)は熱平衡を用いて定量する。特に記載のない限り、いずれの濃度も質量百分率及び質量ppmで示す。
【0058】
これらの分析に基づいて、120時間後の触媒活性も、上記の式で計算したTOF値によって決定する。
【0059】
[実施例1-0.2mol%水亜鉛土を用いるDMAEAの連続合成(本発明による)]
触媒を供給槽に導入し、機械的に撹拌する。次にEA(61.7g/時)、DMAE(34.2g/時)及び触媒(0.4g/時)を含む反応混合物を連続的に反応器に導入する。
【0060】
反応器内の温度を120℃で120時間維持し、反応混合物を貯蔵槽への過剰漏出(78.4g/時)により回収する。120時間の終了時に、反応混合物及び共沸混合物を分析し、以下の結果を得る。
・ DMAEAの収率=82.0%
・ DMAE変換率=80.8%
・ 付加物の総和=4.5%
・ TOF=71.6h-1
【0061】
[例2-0.8mol%水亜鉛土を用いるDMAEAの連続合成(比較)]
触媒を懸濁液として供給槽に導入し、機械的に撹拌する。次にEA(64.3g/時)、DMAE(35.7g/時)及び触媒(1.7g/時)を含む反応混合物を連続的に反応器に導入する。
【0062】
反応器内の温度を120℃で120時間維持し、反応混合物を貯蔵槽への過剰漏出(78.5g/時)により回収する。120時間の終了時に、反応混合物及び共沸混合物を分析し、以下の結果を得る。
・ DMAEAの収率=83.4%
・ DMAE変換率=83.7%
・ 付加物の総和=7.7%
・ TOF=18.3h-1
【0063】
[例3-0.2mol%のTi(OEt)4を用いるDMAEAの連続合成(比較)]
触媒Ti(OEt)4を均一に供給槽に導入する。次にEA(64.2g/時)、DMAE(35.6g/時)及び触媒(0.2g/時)を含む反応混合物を連続的に反応器に導入する。
【0064】
反応器内の温度を120℃で120時間維持し、反応混合物を貯蔵槽への過剰漏出(82.5g/時)により回収する。120時間の終了時に、反応混合物及び共沸混合物を分析し、以下の結果を得る。
・ DMAEAの収率=53.6%
・ DMAE変換率=55.5%
・ 付加物の総和=0.7%
・ TOF=45.5h-1
【0065】
水亜鉛土濃度をDMAE(実施例1)に対して0.2mol%まで下げると触媒活性がより高くなる(TOF値がより高くなる)が、これは、収率が低下するため、チタン酸エチル(例3)にはあてはまらない。
【0066】
さらに、水亜鉛土濃度をDMAE(実施例1)と比較して0.2mol%まで下げると、より高い濃度(比較例2)と比較して、マイケル付加物の生成が少なくなる。触媒濃度とマイケル付加物の形成の間のこの一致は、チタン酸エチルでは観察されない(比較例3)。
【0067】
[実施例4及び5]
[実施例4-濾過後の粗反応Zn5(CO3)2(OH)6の精製(本発明による)]
例2で120時間後に得られた粗反応混合物(0.5L)の試料を濾過して、懸濁液中の触媒を除去する。次に、濾液を、ジャケット内でサーモスタットにより100℃に維持した油を循環させることにより加熱され、その上に、Multiknitパッキング、塔頂部に水-グリコール混合物を含む冷却器、還流ヘッド、真空セパレータ、受容器及びトラップを備えた蒸留塔を取り付けた、撹拌した0.5L反応器に入れる。
【0068】
次に、EAを主成分とする第1の塔ヘッド画分を抽出するために、反応混合物を厳密な真空(32~15kPa)下で蒸留する。DMAEを主成分とする第2の塔ヘッド画分を抽出するため、より厳密な真空(15~4kPa)下で同じ操作を行う。
【0069】
最後に、油温を140℃まで上げながら12kPaの真空を加えることにより、蒸留によりDMAEAを精製する。精製したアクリル酸塩を塔ヘッドの受容器に回収する。GC分析は以下の組成を与える。
・ DMAEA純度=99.9%
・ 残留EA=243ppm
・ 残留DMAE=557ppm
【0070】
DMAEAの純度は許容範囲(>99.8%)であり、触媒作用によるDMAEAの分解に由来する軽質生成物EA/DMAEの含有量は、本製品の所望の仕様(EAについては300ppm、DMAEについては1000ppm)未満である。
【0071】
[例5-粗反応Ti(OEt)4の精製(反例)]
例3で120時間後に得られた粗反応混合物(0.5L)の試料を、ジャケット内でサーモスタットにより100℃に維持した油を循環させることにより加熱され、その上に、Multiknitパッキング、塔頂部に水-グリコール混合物を含む冷却器、還流ヘッド、真空セパレータ、受容器及びトラップを備えた蒸留塔を取り付けた、撹拌した0.5Lの反応器に入れる。
【0072】
Ti(OEt)4触媒は加熱しなくても可溶性であるため、濾過工程は行わない。
【0073】
DMAEAのGC分析は以下の組成を与える。
・ DMAEA純度=99.7%
・ 残留EA=1602ppm
・ 残留DMAE=1016ppm
【0074】
DMAEAの純度は許容できず(<99.8%)、触媒の作用によるDMAEAの分解に由来する軽質生成物EA/DMAEの含有量は、本製品の所望の仕様(EAについては300ppm、DMAEについては1000ppm)を上回っている。