(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 8/12 20060101AFI20241009BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20241009BHJP
C22C 38/14 20060101ALI20241009BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20241009BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
C21D8/12 B
C22C38/00 303U
C22C38/14
C22C38/60
H01F1/147 175
(21)【出願番号】P 2022538196
(86)(22)【出願日】2020-12-09
(86)【国際出願番号】 KR2020017974
(87)【国際公開番号】W WO2021125681
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-06-20
(31)【優先権主張番号】10-2019-0172470
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソン,デ-ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジュンスゥ
(72)【発明者】
【氏名】イ,サン-ウ
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2013-0014891(KR,A)
【文献】特表2018-505962(JP,A)
【文献】特開昭52-024116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 8/12, 9/46
C22C 38/00-38/60
H01F 1/147
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、Si:2.0~6.0%、Mn:0.04~0.12%、N:0.001~0.022%、C:0.027~0.060%、Nb:0.01~0.08%、およびTi:0.0010~0.01%を含み、残部はFeおよびその他の不可避不純物からなるスラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階と、
前記熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階と、
前記冷延板を1次再結晶焼鈍する段階と、
前記1次再結晶焼鈍された冷延板を2次再結晶焼鈍する段階とを含み、
前記1次再結晶焼鈍された冷延板は、Nを0.0010~0.0220重量%含み、
前記1次再結晶焼鈍された冷延板は、下記式1を満足
し、
製造された方向性電磁鋼板は、析出物を含み、析出物の平均粒径が30nm以下であり、
前記析出物は、Nb、Tiの複合炭窒化物を含むことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
[式1]
3.0≦([Nb]+5×[Ti])/(10×[N])
2≦100.0
(式1中、[Nb]、[Ti]および[N]は、1次再結晶焼鈍された冷延板中の、Nb、TiおよびNの含有量(重量%)を示す。)
【請求項2】
前記スラブは、重量%で、S:0.008%以下、P:0.005%~0.04%、Sn:0.01%~0.07%、Sb:0.005%~0.05%、Cr:0.01~0.2%および酸可溶性Al:0.04%以下のうちの1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記スラブは、重量%で、酸可溶性Al:0.020%以下をさらに含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】
重量%で、Si:2.0~6.0%、Mn:0.04~0.12%、N:0.0001~0.006%、C:0.005重量%以下(0%を除く)、Nb:0.01~0.08%、およびTi:0.0010~0.01%を含み、残部はFeおよびその他の不可避不純物からなり、
析出物を含み、前記析出物の平均粒径が30nm以下であ
り、
前記析出物は、Ti、Nbの複合炭窒化物を含むことを特徴とする方向性電磁鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性電磁鋼板およびその製造方法に係り、より詳しくは、Ti、Nbを適切に添加することによって、(Nb、Ti)CN析出物を主なインヒビターとして用いる、磁性に優れた方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、圧延方向に対して鋼板の集合組織が{110}<001>のゴス集合組織(Goss texture)を示しており、一方向あるいは圧延方向に磁気的特性に優れた軟磁性材料である。このような集合組織を発現するためには、ゴス集合組織を有する結晶粒のみ結晶粒成長が起こるようにしなければならず、他の集合組織を有する結晶粒の正常結晶粒の成長は最大限に抑制しなければならない。そして、前述した特定の結晶粒のみ結晶粒成長が起こる現象は、異常結晶粒の成長または2次再結晶と呼ばれている。ゴス集合組織を有する結晶粒の2次再結晶のためには、他の結晶粒の成長を抑制する析出物や偏析元素などの結晶粒成長抑制剤(またはインヒビター、inhibitor)が必要である。
【0003】
方向性電磁鋼板の磁性向上のための技術は、大きく、ゴス方位の結晶粒を多く作ることと、結晶粒の成長抑制力を向上させて集積度が高いゴス方位の結晶粒からなる2次再結晶組織を得ることの、2つの範疇に区分することができる。後者の結晶粒の成長抑制力付与のための析出物には、主に、Al系窒化物とMn系硫化物またはMnSeが使用されている。しかし、Al系窒化物やMn系硫化物またはMnSeなどの析出物を結晶粒成長抑制剤として活用するためには、熱間圧延後、析出物の微細分散析出が必須であるので、高温で鋼スラブを長時間維持しなければならないが、鋼スラブのスケール層に存在する低融点のファヤライト(Fe2SiO4、fayalite)が溶け落ちて加熱炉の寿命を短縮させ、長時間と高価な維持補修を必要とする問題がある。また、このように高温で再固溶させた後に析出させた析出物は非常に微細であるため、結晶粒の成長抑制力が強くて1次再結晶粒の大きさが微細になる問題があり、これを適正な大きさに結晶粒成長させるためには、高温の1次再結晶焼鈍温度が必要となるだけではなく、高温酸化による最終製品の表面品質の劣化現象も頻繁に発生する。
【0004】
このような析出物以外にも、B、Tiを添加してBNやTiNなどの析出物を活用することが提案されていたが、Bの場合、ごく微小量を添加するため、製鋼段階で制御が非常に困難であり、また、添加した後に鋼中で粗大なBNを形成しやすいため、結晶粒の成長抑制力が弱まる問題がある。また、Tiは、TINあるいはTiCを形成しやすいため、高温焼鈍後にも鋼板に残留して磁区移動を妨げることによって、むしろ鉄損を増加させ、磁束密度を低下させる要因として作用したりもする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的とするところは、方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することである。より詳しくは、Ti、Nbを適切に添加することによって、(Nb、Ti)CN析出物を主なインヒビターとして用いる、磁性に優れた方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:2.0~6.0%、Mn:0.04~0.12%、N:0.001~0.022%、C:0.027~0.060%、Nb:0.01~0.08%、およびTi:0.01%以下を含み、残部はFeおよびその他の不可避不純物からなるスラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階と、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階と、冷延板を1次再結晶焼鈍する段階と、1次再結晶焼鈍された冷延板を2次再結晶焼鈍する段階とを含む。
1次再結晶焼鈍された冷延板は、Nを0.0010~0.0220重量%含む。
【0007】
スラブは、S:0.008%以下、P:0.005%~0.04%、Sn:0.01%~0.07%、Sb:0.005%~0.05%、Cr:0.01~0.2%および酸可溶性Al:0.04%以下のうちの1種以上をさらに含むことができる。
【0008】
スラブは、酸可溶性Al:0.020%以下をさらに含むことができる。
【0009】
1次再結晶焼鈍された冷延板は、下記式1を満足することができる。
[式1]
3.0≦([Nb]+5×[Ti])/(10×[N])2≦100.0
(式1中、[Nb]、[Ti]および[N]は、1次再結晶焼鈍された冷延板中の、Nb、TiおよびNの含有量(重量%)を示す。)
【0010】
1次再結晶焼鈍された冷延板は、析出物の平均粒径が30nm以下であってもよい。
【0011】
析出物は、Nb、Tiまたはこれらの複合炭窒化物を含むことができる。
【0012】
本発明の方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:2.0~6.0%、Mn:0.04~0.12%、N:0.0001~0.006%、C:0.005重量%以下(0%を除く)、Nb:0.01~0.08%、およびTi:0.01%以下を含み、残部はFeおよびその他の不可避不純物からなる。
【0013】
本発明の方向性電磁鋼板は、析出物を含み、析出物の平均粒径が30nm以下であってもよい。
析出物は、Ti、Nbまたはこれらを複合で含むことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、(Nb、Ti)CN析出物を主なインヒビターとして用いて、ゴス集合組織を有する結晶粒の2次再結晶を安定的に発現させて、磁性に優れた方向性電磁鋼板を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
第1、第2および第3などの用語は、多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これらの用語は、ある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下に述べる第1部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションと言及される。
【0016】
ここで使用される専門用語は単に特定の実施例を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形態は、文言がこれと明確に反対の意味を示さない限り、複数形態も含む。明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるわけではない。
【0017】
ある部分が他の部分の「上に」あると言及する場合、これは、直に他の部分の上にあるか、その間に他の部分が伴ってもよい。対照的に、ある部分が他の部分の「真上に」あると言及する場合、その間に他の部分が介在しない。
【0018】
他に定義しないが、ここに使用される技術用語および科学用語を含むすべての用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同じ意味を有する。通常使用される辞書に定義された用語は、関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り、理想的または非常に公式的な意味で解釈されない。
【0019】
また、特に言及しない限り、%は、重量%を意味し、1ppmは、0.0001重量%である。
【0020】
本発明の一実施例において、追加元素をさらに含むとの意味は、追加元素の追加量だけ残部の鉄(Fe)を代替して含むことを意味する。
【0021】
以下、本発明の実施例について、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳細に説明する。しかし、本発明は種々の異なる形態で実現可能であり、ここで説明する実施例に限定されない。
【0022】
本発明による実施例では、結晶粒成長の主な抑制剤としてAl系窒化物やMn系硫化物乃至MnSeを使用せず、(Nb、Ti)CNを主な抑制剤として用いて結晶粒の成長を抑制することによって、ゴス集合組織を有する結晶粒の2次再結晶を安定的に発現すると同時に、磁性に優れた方向性電磁鋼板を製造する。
【0023】
本発明の一実施例による方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:2.0~6.0%、Mn:0.04~0.12%、N:0.001~0.022%、C:0.027~0.060%、Nb:0.01~0.08%、およびTi:0.01%以下を含み、残部はFeおよびその他の不可避不純物からなるスラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階と、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階と、冷延板を1次再結晶焼鈍する段階と、1次再結晶焼鈍された冷延板を2次再結晶焼鈍する段階とを含む。
【0024】
以下、各段階別に詳細に説明する。
まず、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する。
スラブは、重量%で、Si:2.0~6.0%、Mn:0.04~0.12%、N:0.001~0.022%、C:0.027~0.060%、Nb:0.01~0.08%、およびTi:0.01%以下を含み、残部はFeおよびその他の不可避不純物からなる。
以下、各元素別に添加量を限定した理由について説明する。
【0025】
Si:2.0~6.0重量%
ケイ素(Si、シリコン)は、電磁鋼板の基本組成で、素材の比抵抗を増加させて鉄損(core loss)を低下させる役割を果たす。Siの含有量が少なすぎる場合、比抵抗が減少して渦電流損が増加し、熱延板の結晶粒が過度に粗大になって析出物が不均一に析出して2次再結晶が不安定になるだけでなく、圧延中のedge crackや板破断の発生頻度が増加する。一方、Siが過度に多く添加されると、脆性が急激に増加し、靭性が減少して、同様に、圧延過程中のedge crackや板破断が深刻化し、板間溶接性も劣り、γ相分率を制御するのに必要なC含有量が急激に増加して脱炭が不良になったり、2次再結晶が不安定に起こって磁性が深刻に損なわれる。したがって、Siは2.0~6.0重量%含む。より詳細には2.0~4.5重量%であってもよい。
【0026】
Mn:0.04~0.12重量%
マンガン(Mn)は、Siに似た効果つまり、比抵抗を増加させて渦電流損を減少させることによって、全体の鉄損を減少させる効果がある。そして、素鋼状態でSと反応してMn系硫化物を形成して結晶粒成長抑制剤として使用されたり、一定の温度以上でオーステナイト相変態をもたらして熱間圧延板の微細組織を均一にする効果がある。本発明の一実施例では、Mn系硫化物の形成を最小化させて抑制剤としての活用を最大限に抑制しようとする。Mnを過度に少なく含むと、熱延板の微細組織が不均一に形成されて2次再結晶が不安定になり、磁性が劣化しうる。Mnを過度に多く含むと、Mn系硫化物の形成量が多くて抑制剤として作用できる。したがって、Mnを0.04~0.12重量%含むことができる。より詳細には0.05~0.10重量%含むことができる。
【0027】
N:0.001~0.022%
窒素(N)は、Si、Nb、Ti、Cと反応してSi3N4、(Nb、Ti)CNを形成する重要な元素である。本発明の一実施例において、窒化段階により窒素を補強できるので、スラブ中には窒素を多量含む必要がない。したがって、スラブ内ではNを0.001~0.022重量%含むことができる。
Nが過度に少なく含まれると、Siと反応してSi3N4のみ形成させ、(Nb、Ti)CNを形成させないことがある。より具体的には、スラブ内でNを0.0020~0.0100重量%含むことができる。より詳細には0.0030~0.0060重量%含むことができる。
後述する1次再結晶焼鈍後には、Nを0.0010~0.0220重量%含むことができる。1次再結晶焼鈍後にNを過度に少なく含む場合、本発明の一実施例において、目的とする(Nb、Ti)CNを適切に形成させることができない。1次再結晶焼鈍後にNを過度に多く含む場合、(Nb、Ti)CNが非常に粗大になり、2次再結晶焼鈍後にも析出物が残存して磁性を劣らせる。したがって、1次再結晶焼鈍後には、窒素を0.0010~0.0220重量%含むことができる。詳細には、1次再結晶焼鈍後には、Nを0.0010~0.0150重量%含むことができる。より詳細には、1次再結晶焼鈍後には、Nを0.0030~0.0130重量%含むことができる。
2次再結晶焼鈍過程でNは一部除去され、最終的に製造された方向性電磁鋼板において残存するNは0.0001~0.006重量%になる。
【0028】
C:0.027~0.060重量%
炭素(C)は、Si、Nb、Ti、Nと反応してSiC、(Nb、Ti)CNを形成する重要な元素であると同時に、800℃以上でオーステナイト相変態を起こして連鋳過程での柱状晶および熱延板内の粗大な結晶粒を微細化する効果を有するオーステナイト安定化元素である。スラブ内にCが過度に少なく含有されると、Siと優先的に反応してSiCのみ形成され、(Nb、Ti)CNがうまく形成されないことがある。逆に、スラブ内にCが過度に多く形成されると、融点が非常に高いNbC、TiCが強く形成されて(Nb、Ti)CNがうまく形成されないだけでなく、2次再結晶焼鈍後にもNbCとTiCが残存して磁性が劣化する。したがって、スラブ内において、Cは0.027~0.060重量%含むことができる。より詳細には0.035~0.055重量%含むことができる。
一方、1次再結晶焼鈍および2次再結晶焼鈍過程で脱炭によって最終的に製造された方向性電磁鋼板に残っているCの含有量は0.005重量%以下になる。詳細には、最終的に製造された方向性電磁鋼板に残っているCの含有量は0.003重量%以下になる。
【0029】
Nb:0.01~0.08重量%
ニオブ(Nb)は、高融点の炭化物や窒化物を形成して2次再結晶焼鈍後にも残存して最終的な方向性電磁鋼板の磁性を劣化させるため、かつては極低で管理されることが一般的であった。しかし、本発明の一実施例では、これを逆利用して結晶粒成長抑制剤として活用しようとするため、本発明の核心元素といえる。つまり、Nbは、製鋼、連鋳、熱延段階でC、N、Tiと反応して、強力な結晶粒成長抑制剤である(Nb、Ti)CNを析出させるのに必須である。Nbを過度に少なく含むと、Nb(C、N)やNbC、NbN、TiC、TiNなどを形成させて2次再結晶が不安定になり、2次再結晶焼鈍後にも前述した析出物の一部が鋼板の内部に残留して磁性が劣化する。また、Nbを過度に多く含むと、(Nb、Ti)CNと共に高融点のNbCとNbNが析出して2次再結晶焼鈍後にも残留して最終的に磁気的特性を劣化させることがある。したがって、Nbの含有量は0.010~0.080重量%になる。より詳細には、Nbの含有量は0.014~0.078重量%になる。
【0030】
Ti:0.01重量%以下
チタン(Ti)も、Nbと同様に、一般に高融点の炭化物や窒化物を形成して2次再結晶焼鈍後にも残存して最終製品の磁性を劣化させるため、従来は極低で管理されていた。しかし、本発明の一実施例では、(Nb、Ti)CNを形成するために必須で添加されなければならない。Tiを過度に多く含むと、Ti系炭化物や窒化物を追加的に形成することによって、2次再結晶を妨げ、最終的に製品板に残留して磁気的特性を阻害する。したがって、Tiは0.01重量%以下で含有される。Tiがもし鋼中に全く含有されなければ、(Nb、Ti)CNを形成する反応自体が不可能になるので、0wt%は除く。より具体的には、Tiを0.0010~0.0100重量%含むことができる。より詳細には、Tiを0.0050~0.0080重量%含むことができる。
【0031】
1次再結晶焼鈍された冷延板は、下記式1を満足することができる。
【0032】
〔式1〕
3.0≦([Nb]+5×[Ti])/(10×[N])2≦100.0
(式1中、[Nb]、[Ti]および[N]は、1次再結晶焼鈍された冷延板中の、Nb、TiおよびNの含有量(重量%)を示す。)
【0033】
本発明の一実施例において、主な成長抑制剤として用いる(Nb、Ti)CNを適切に形成するためには、前述した範囲でNb、Ti、Nが調節可能である。式1の値が小さすぎる場合、Nb、Tiが少なく添加されたか、Nが過度に多く添加されたとの意味で、(Nb、Ti)CNが十分に形成されず2次再結晶が不安定になり、磁性に劣る。逆に、式1の値が大きすぎる場合、Nb、Tiが過度に多く添加されたか、Nが過度に少なく添加されたとの意味で、[(Nb、Ti)CNが非常に粗大に析出して結晶粒の成長抑制力が弱くなって2次再結晶が不安定になったり、(Nb、Ti)CNの代わりにNbC、TiCが多量形成され、これらが2次再結晶焼鈍後にも残存して、磁性に劣る。具体的には、式1の値は4.5~90.0であってもよい。
【0034】
スラブは、S:0.008%以下、P:0.005%~0.04%、Sn:0.01%~0.07%、Sb:0.005%~0.05%、Cr:0.01~0.2%および酸可溶性Al:0.04%以下のうちの1種以上をさらに含むことができる。より具体的には、スラブは、S:0.008%以下、P:0.005%~0.04%、Sn:0.01%~0.07%、およびCr:0.01~0.2%をさらに含むことができる。
【0035】
S:0.008重量%以下
硫黄(S)は、過度に多く含まれると、Mn系硫化物が多量形成されて結晶粒成長抑制剤として作用することによって、本発明の一実施例において、主な結晶粒成長抑制剤として用いる(Nb、Ti)CNの効果を妨げることがある。また、2次再結晶も不安定にして磁性を劣らせる作用を行うことができる。したがって、Sがさらに含まれる場合、鋼中Sの含有を積極的に抑制することができる。具体的には0.0010~0.0070重量%含むことができる。
【0036】
P:0.005%~0.040重量%
リン(P)は、結晶粒界に偏析して結晶粒界の移動を妨げ、同時に結晶粒の成長を抑制する補助的な役割が可能であり、微細組織の面で{110}<001>集合組織を改善する効果があるので、追加的に添加可能である。Pの含有量が少なすぎると、添加効果が十分でないことがある。Pの含有量が多すぎると、脆性が増加して圧延性が大きく劣化しうる。したがって、Pをさらに含む場合、0.005~0.040重量%含むことができる。より詳細には0.010~0.030重量%さらに含むことができる。
【0037】
Sn:0.01%~0.07重量%
スズ(Sn)は、Pと同様に、結晶粒界偏析元素として結晶粒界の移動を妨げる元素であるため、結晶粒成長抑制剤としての役割を果たし、さらに添加することができる。Snが過度に少なく添加される場合、前述した効果が十分に得られない。逆に、Snを過度に多く添加する場合、結晶粒の成長抑制力が強すぎて安定した2次再結晶を得にくいことがある。したがって、Snをさらに含む場合、0.01~0.07重量%含むことができる。より詳細には0.03~0.05重量%さらに含むことができる。
【0038】
Sb:0.005~0.05重量%
アンチモン(Sb)は、P、Snと同様に、結晶粒界偏析元素として結晶粒界の移動を妨げる元素であるため、結晶粒成長抑制剤としての役割を果たし、さらに添加することができる。Sbが過度に少なく添加される場合、前述した効果が十分に得られない。逆に、Sbを過度に多く添加する場合、結晶粒の成長抑制力が強すぎて安定した2次再結晶を得にくいことがある。したがって、Sbをさらに含む場合、0.005~0.05重量%含むことができる。より詳細には0.01~0.04重量%さらに含むことができる。
【0039】
Cr:0.01~0.2重量%
クロム(Cr)は、熱延板内の硬質相を形成して冷間圧延中のゴス集合組織の形成を促進し、脱炭焼鈍中の酸化層の形成を促進するのに効果的な元素であって、さらに添加可能である。Crが過度に少なく添加されると、前述した効果が十分に得られない。Crが過度に多く添加されると、脱炭過程中に酸化層が非常に緻密に形成されるように促してむしろ酸化層の形成に劣り、脱炭および窒化まで妨げることがある。したがって、Crをさらに含む場合、0.01~0.20重量%含むことができる。より詳細には0.02~0.10重量%さらに含むことができる。
【0040】
酸可溶性Al:0.04重量%以下
アルミニウム(Al)は、Siと同様に、比抵抗を増加させて鉄損を改善する効果を有する元素であり、Al系窒化物を形成して結晶粒成長抑制剤としても使用される元素であるが、本発明の一実施例において必須の元素ではない。しかし、鉄損の改善や主な結晶粒成長抑制剤である(Nb、Ti)CNの補助的な役割を果たすために追加的に添加可能である。Alが過度に多く添加されると、Al、Si、Mnと結合して(Al、Si、Mn)NおよびAlN形態の窒化物を形成することによって、強力な結晶粒成長抑制剤の役割を有し、主な結晶粒成長抑制剤である(Nb、Ti)CNの役割を妨げ、1次再結晶粒の大きさを過度に微細に形成されるようにして磁性を劣らせる。したがって、Alをさらに含む場合、0.04重量%以下で含むことができる。より具体的には0.020重量%以下でさらに含むことができる。より具体的には0.005重量%以下でさらに含むことができる。酸可溶性Alとは、酸に溶解するAlを意味する。具体的には、全体Al中、酸に溶解しないAl2O3などに存在するAlを除いたものを意味する。
【0041】
残部として鉄(Fe)を含む。また、不可避不純物からなる。不可避不純物は、製鋼および方向性電磁鋼板の製造過程で不可避に混入する不純物を意味する。不可避不純物については広く知られているので、具体的な説明は省略する。本発明の一実施例において、前述した合金成分以外に元素の追加を排除するものではなく、本発明の技術思想を阻害しない範囲内で多様に含まれる。追加元素をさらに含む場合、残部のFeを代替して含む。例えば、Cu、Ni、Mo、Zr、Bi、Pb、As、GeおよびGa成分の少なくとも1成分以上を鋼中に含有することも、本発明の成分範囲内で可能である。
【0042】
再度製造工程に関する説明に戻ると、熱間圧延前にスラブを加熱することができる。スラブを加熱する時、結晶粒成長抑制剤の不完全溶体化になる温度または完全溶体化になる温度に区分して実施するが、本発明の一実施例は、溶体化の程度に関係なく(Nb、Ti)CNの効果を発現するのに問題がないので、再加熱温度に制限はない。具体的には、1100℃~1300℃の温度に加熱することができる。スラブ表面のスケール層に存在する低融点のファヤライトがスラブ加熱中に溶け落ちて炉体を損傷しうるので、1300℃以下の温度でスラブ加熱を実施できる。
【0043】
スラブを熱間圧延して熱延板を製造する。
熱間圧延は、1.0~5.0mmの厚さに圧延することができる。
熱間圧延された鋼板は、後の熱延板焼鈍工程で熱間圧延された変形組織を再結晶させて、後工程である冷間圧延工程で最終製品の厚さまで圧延を円滑化させることができる。一般に、熱延板焼鈍温度は、再結晶のために、950℃以上の温度に加熱して一定時間維持できる。次に、冷間圧延を実施可能な温度に冷却し、冷却は、空冷、水冷、油冷、炉冷のいずれの方法を採用しても構わない。これに先立ち、適正時間とは、炉の大きさと長さ、加熱能力、熱容量などの変数が多様であるので、それに合わせた適正条件を意味する。熱延板焼鈍は、必要に応じて省略も可能である。
【0044】
次に、熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する。 熱延板は、酸洗を実施して鋼板表面の酸化層を除去した後、冷間圧延を実施する。冷間圧延は、最終製品の厚さまで鋼板の厚さを低下させる工程で、1回あるいは中間焼鈍を含む1回以上の冷間圧延を実施して最終製品の厚さまで圧延する。常温で冷間圧延を実施したり、板が自然的または人工的に加熱した形態で冷間圧延を実施しても効果を発現するのに問題がない。
冷間圧延後の最終厚さは0.10mm~0.50mmになる。
【0045】
次に、冷延板を1次再結晶焼鈍する。
冷間圧延された冷延板は、変形された冷間圧延組織の再結晶を含む脱炭焼鈍のために、窒素、水素、水分が混合されている混合ガス雰囲気で実施する。そして、必要に応じて、アンモニアガスを用いて鋼板に窒素イオンを導入する窒化処理を実施してもよい。窒化は、脱炭焼鈍と同時に実施したり、その後に実施したりしても機能上問題がない。
【0046】
本発明の一実施例によれば、1次再結晶焼鈍後の鋼板内のNの含有量のみ制御できれば、1次再結晶焼鈍過程で窒化処理を実施しなくても、主な結晶粒成長抑制剤である(Nb、Ti)CNが十分に形成されるが、窒化処理を実施する場合、(Nb、Ti)CNを追加的に形成させて結晶粒の成長抑制力を強化し、2次再結晶ゴス方位の結晶粒の集積度を向上させて磁気的特性をさらに改善することができる。
【0047】
窒化処理のために、1次再結晶焼鈍は、アンモニアガスを含む雰囲気で行うことができる。1次再結晶焼鈍温度は、750℃から900℃の温度範囲で実施できる。温度が低すぎると、アンモニアガスが分解されないので、鋼板に窒素イオンが導入されず、焼鈍炉の外部に排出されてしまう。逆に、高すぎると、鋼板に窒素イオンが導入される前に予め分解されて窒化効率が低下する問題が発生しうる。1次再結晶焼鈍の焼鈍時間は、本発明の効果を発揮するのに大して問題にならないが、生産性を勘案して、通常5分以内で処理することが好ましい。
【0048】
1次再結晶焼鈍が完了した鋼板は、析出物の平均粒径が30nm以下であってもよい。析出物の平均粒径が30nmより小さい場合にのみ2次再結晶が安定的に起こり、30nmより大きければ、2次再結晶が良好に発現せず、2次再結晶焼鈍後の磁気的特性に劣る。より具体的には5~27nmであってもよい。より具体的には10~25nmであってもよい。
【0049】
析出物とは、本発明の一実施例において、主な結晶粒成長抑制剤として活用する(Nb、Ti)CNを含むことができる。つまり、Nb、Tiまたはこれらの複合炭窒化物を含むことができる。その他、析出物を不可避に形成するNb、Tiの炭化物、MnS、AlNなども含むことができる。
このように適切な粒径の析出物を形成するためには、Ti、Nbの含有量および1次再結晶焼鈍後のNの含有量が重要である。より具体的には、式1を満足することができる。
Ti、Nbの含有量および1次再結晶焼鈍後のNの含有量については前述したので、重複する説明は省略する。
【0050】
次に、1次再結晶焼鈍された冷延板を2次再結晶焼鈍する。
1次再結晶焼鈍された冷延板は、MgOを基本とする焼鈍分離剤を塗布した後、1000℃以上に昇温して長時間亀裂焼鈍して2次再結晶を起こすことによって、鋼板の{110}面が圧延面に平行であり、<001>方向が圧延方向に平行なGoss方位の集合組織を形成する。
【0051】
2次再結晶焼鈍過程でC、Nが除去されることによって、(Nb、Ti)CN析出物が分解されて、Nb、Tiがベースコーティング層に一部拡散したり、基地の内部に残存する。したがって、1次再結晶焼鈍後の析出物の個数に比べて、2次再結晶焼鈍後の析出物の個数が大きく減少する。ただし、基地の内部に残存するNb、Tiは、高温焼鈍中に分解されずに残留する他の(Nb、Ti)CNに拡散して、この(Nb、Ti)CNの粒径を粗大にするので、2次再結晶後にも残存する析出物の場合、1次再結晶焼鈍後とその粒径はそれほど大きく変動しない。
つまり、2次再結晶焼鈍後の析出物の平均粒径が30nm以下であってもよい。詳細には5~27nmであってもよい。より詳細には10~25nmであってもよい。
【0052】
残存する析出物は、Nb、Tiまたはこれらを複合で含むことができる。2次再結晶焼鈍後の析出物はC、Nが除去されることによって、炭窒化物からC、Nが除去されて、炭化物または窒化物形態で残存することができる。炭窒化物形態で残存することも可能である。
【0053】
本発明の一実施例による方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:2.0~6.0%、Mn:0.04~0.12%、N:0.0001~0.006%、C:0.005重量%以下(0%を除く)、Nb:0.01~0.08%、およびTi:0.01%以下を含み、残部はFeおよびその他の不可避不純物からなる。
【0054】
本発明の一実施例による方向性電磁鋼板は、析出物を含み、析出物の平均粒径が30nm以下であってもよい。より詳細には5~27nmであってもよい。
析出物は、Ti、Nbまたはこれらを複合で含むことができる。より具体的には、Ti、Nbまたはこれらを複合で含む炭化物、窒化物または炭窒化物を含むことができる。
【0055】
本発明の一実施例による方向性電磁鋼板は、鉄損および磁束密度特性に特に優れている。本発明の一実施例による方向性電磁鋼板は、磁束密度(B8)が1.88T以上であり、鉄損(W17/50)が1.05W/kg以下であってもよい。この時、磁束密度B8は、800A/mの磁場下で誘導される磁束密度の大きさ(Tesla)であり、鉄損W17/50は、1.7Teslaおよび50Hzの条件で誘導される鉄損の大きさ(W/kg)である。
【0056】
以下、本発明の具体的な実施例を記載する。しかし、下記の実施例は本発明の具体的な一実施例に過ぎず、本発明が下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0057】
重量%で、Si:3.28%、C:0.051%、S:0.006%、N:0.003%、Sn:0.044%、P:0.028%、Cr:0.02%、Mn:0.08%、Al:0.012%を基本組成とし、Nb、Tiの含有量を表1のように変化させ、残りの成分は残部はFeとその他不可避に含有される不純物からなるスラブを1210℃の温度に加熱した後、厚さ3.0mmに熱間圧延した。熱延板は1000℃の温度に加熱した後、130秒間維持し、水冷および酸洗処理後、0.30mmの厚さに1回圧延した。冷間圧延された板は、820℃の温度で湿った水素と窒素およびアンモニアの混合ガス雰囲気中にて150秒間維持し、1次再結晶焼鈍を含む脱炭焼鈍と表1のように窒素含有量が変化するように窒化処理を行った。この鋼板に焼鈍分離剤のMgOを塗布して2次再結晶焼鈍し、2次再結晶焼鈍は1180℃まで25体積%窒素および75体積%水素の混合雰囲気とし、1180℃到達後には、100体積%水素雰囲気で4時間程度維持後に炉冷した。析出物の平均サイズは、1次再結晶焼鈍を完了した試験片に対してreplica試験片を製作し、TEMにより撮影された写真からイメージ分析を実施して測定された。
【0058】
表1には、前述のように、Nb、Tiおよび2次再結晶焼鈍後の鋼板の窒素の含有量、(Nb、Ti)CN析出物の平均サイズと2次再結晶焼鈍後に測定した磁気的特性を示した。
【0059】
【0060】
表1に示すように、Nb、Tiおよび1次再結晶焼鈍後のNを適切に含む場合、磁束密度、鉄損に優れていることを確認できる。
一方、比較材1は、Nbを過度に少なく含み、式1を満足しておらず、析出物が粗大に形成され、磁束密度および鉄損に劣ることを確認できる。
比較材2は、Tiを過度に多く含み、式1を満足しておらず、析出物が粗大に形成され、磁束密度および鉄損に劣ることを確認できる。
比較材3は、式1を満足しておらず、析出物が粗大に形成され、磁束密度および鉄損に劣ることを確認できる。
比較材4~6は、Nbを過度に少なく含み、Tiを過度に多く含み、式1を満足しておらず、析出物が粗大に形成され、磁束密度および鉄損に劣ることを確認できる。
比較材7は、Tiを過度に多く含み、式1を満足しておらず、析出物が粗大に形成され、磁束密度および鉄損に劣ることを確認できる。
【0061】
本発明は、上記の実施形態および/または実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態で製造可能であり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。そのため、以上に述べた実施形態および/または実施例はあらゆる面で例示的であり、限定的ではないと理解しなければならない。