(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 8/12 20060101AFI20241009BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20241009BHJP
C22C 38/02 20060101ALI20241009BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
C21D8/12 C
C22C38/00 303U
C22C38/02
H01F1/147 175
(21)【出願番号】P 2022538348
(86)(22)【出願日】2020-12-17
(86)【国際出願番号】 KR2020018618
(87)【国際公開番号】W WO2021125864
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-06-20
(31)【優先権主張番号】10-2019-0171867
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コ,ヒョンソク
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,ホンウク
(72)【発明者】
【氏名】パク,セミン
(72)【発明者】
【氏名】ソ,ジンウク
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-502222(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104846177(CN,A)
【文献】特開2011-026682(JP,A)
【文献】特開2013-032583(JP,A)
【文献】特開平07-097631(JP,A)
【文献】特開2011-208188(JP,A)
【文献】特開平06-306473(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0314096(US,A1)
【文献】特開2019-119933(JP,A)
【文献】特開2000-026942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 8/12, 9/46
C22C 38/00-38/60
H01F 1/12- 1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、
前記熱延鋼板を熱延板焼鈍する段階と、
前記熱延板焼鈍された熱延鋼板を1次冷間圧延する段階と、
前記1次冷間圧延された鋼板を1次脱炭焼鈍する段階と、
前記脱炭焼鈍が完了した鋼板を2次冷間圧延する段階と、
前記2次冷間圧延が完了した鋼板を2次脱炭焼鈍する段階と、
2次脱炭焼鈍された鋼板を連続焼鈍する段階とを含み、
前記2次脱炭焼鈍する段階の後および前記連続焼鈍する段階の前の昇温段階で、950~1000℃の温度範囲を8℃/秒以下の速度で加熱し、
前記スラブは、重量%で、Si:1.0%~4.0%、C:0.1%~0.4
%およびS:0.005%以下を含み、並びに残部はFeおよび不可避不純物からなり、
前記1次脱炭焼鈍する段階は、850℃~1000℃の温度および露点温度50℃~70℃で焼鈍
し、
前記2次脱炭焼鈍する段階後バッチ焼鈍せず、
製造された方向性電磁鋼板は、全体結晶粒中における外接円の直径(D1)と内接円の直径(D2)との比(D2/D1)が0.4以上の結晶粒が90面積%以上であり、
<100>方位が鋼板の圧延方向(RD方向)と5゜以下に平行な結晶粒が15面積%以上であり、
<100>方向が鋼板の圧延方向(RD方向)と10~15゜の角度をなす結晶粒が30面積%以下であることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記熱延板焼鈍する段階で、脱炭過程を含むことを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記熱延板焼鈍する段階は、850℃~1000℃の温度および露点温度70℃以下で焼鈍することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記1次冷間圧延された鋼板を1次脱炭焼鈍する段階は、オーステナイト単相領域、またはフェライトおよびオーステナイトの複合相が存在する領域で焼鈍することを特徴とする請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記1次冷間圧延された鋼板を1次脱炭焼鈍する段階の後、結晶粒の平均直径が150~250μmであることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記1次脱炭焼鈍する段階および前記2次冷間圧延する段階は、2回以上繰り返されることを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記2次脱炭焼鈍する段階は、850℃~1000℃の温度および露点温度50℃~70℃で焼鈍することを特徴とする請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記2次脱炭焼鈍する段階は、30秒~5分間焼鈍することを特徴とする請求項1~請求項7のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記連続焼鈍する段階は、1000℃~1200℃の温度および露点温度-20℃以下で焼鈍することを特徴とする請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記連続焼鈍する段階は、30秒~5分間焼鈍することを特徴とする請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記連続焼鈍する段階は、1000℃~1100℃で1次焼鈍する段階と、1130~1200℃で2次焼鈍する段階とを含むことを特徴とする請求項1~請求項10のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項12】
全体結晶粒中における外接円の直径(D1)と内接円の直径(D2)との比(D2/D1)が0.4以上の結晶粒が90面積%以上であり、
<100>方位が鋼板の圧延方向(RD方向)と5゜以下に平行な結晶粒が15面積%以上であり、
<100>方向が鋼板の圧延方向(RD方向)と10~15゜の角度をなす結晶粒が30面積%以下であり、
重量%で、Si:1.0%~4.0%、C:0.005%以下(0%を除く
)およびS:0.005%以下を含み、並びに残部はFeおよび不可避不純物からなることを特徴とする方向性電磁鋼板。
【請求項13】
全体結晶粒中の結晶粒の粒径が50μm~5000μmの結晶粒の分率が80面積%以上であることを特徴とする請求項12に記載の方向性電磁鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性電磁鋼板およびその製造方法に関し、より詳しくは、複数の冷間圧延および脱炭焼鈍工程を含むことによって、磁性を向上させた方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、鋼板の結晶方位が{110}<001>である、別名、ゴス(Goss)方位を有する結晶粒からなる圧延方向の磁気的特性に優れた軟磁性材料である。
【0003】
このような方向性電磁鋼板は、スラブ加熱後、熱間圧延、熱延板焼鈍、冷間圧延により最終厚さに圧延された後、1次再結晶焼鈍と2次再結晶形成のために高温焼鈍を経て製造される。
【0004】
通常、方向性電磁鋼板の2次再結晶焼鈍工程は、低い昇温率および高温での長時間純化焼鈍が必要で、エネルギー消費が激しい工程といえる。このような極限の工程を経て2次再結晶を形成し、優れた磁気的特性を有する方向性電磁鋼板を製造するため、工程上の次のような困難が発生する。
【0005】
第一、コイル状態での熱処理によるコイルの外巻部と内巻部との温度偏差が発生して各部分で同一の熱処理パターンを適用できないので、外巻部と内巻部との磁性偏差が発生する。第二、脱炭焼鈍後、MgOを表面にコーティングし、高温焼鈍中にBase coatingを形成する過程で多様な表面欠陥が発生するため、実歩留まりを低下させる。第三、脱炭焼鈍が終わった脱炭板をコイル状に巻いた後、高温焼鈍後、再度平坦化焼鈍を経て絶縁コーティングをするため、生産工程が3段階に分けられることによって実歩留まりが低下する問題点が発生する。
【0006】
このような工程上の制約を克服すべく、脱炭焼鈍および冷間圧下率を調節して2次再結晶現象を用いずに、正常結晶成長を利用する技術が提案された。しかし、連続焼鈍によっては水分の短い熱処理時間によって結晶方位が{110}<001>と正確に一致するexactゴス方位粒子が多数形成できず、鉄損の改善に限界が存在した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、磁性を向上させた方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することにあり、具体的には、複数の冷間圧延および脱炭焼鈍工程を含むことによって、磁性を向上させた方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するためになされた本発明の一態様による方向性電磁鋼板の製造方法は、スラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、熱延鋼板を熱延板焼鈍する段階と、熱延板焼鈍された熱延鋼板を1次冷間圧延する段階と、1次冷間圧延された鋼板を1次脱炭焼鈍する段階と、脱炭焼鈍が完了した鋼板を2次冷間圧延する段階と、2次冷間圧延が完了した鋼板を2次脱炭焼鈍する段階と、2次脱炭焼鈍された鋼板を連続焼鈍する段階とを含む。
2次脱炭焼鈍する段階の後および連続焼鈍する段階の前の昇温段階で、950~1000℃の温度範囲を10℃/秒以下の速度で加熱することを特徴とする。
【0009】
スラブは、重量%で、Si:1.0%~4.0%、C:0.1%~0.4%、並びに残部はFeおよび不可避不純物からなることが好ましい。
スラブは、Mn:0.1重量%以下およびS:0.005重量%以下をさらに含み得る。
熱延板焼鈍する段階で、脱炭過程を含み得る。
熱延板焼鈍する段階は、850℃~1000℃の温度および露点温度70℃以下で焼鈍することが好ましい。
1次脱炭焼鈍する段階は、850℃~1000℃の温度および露点温度50℃~70℃で焼鈍することが好ましい。
1次脱炭焼鈍する段階は、オーステナイト単相領域、またはフェライトおよびオーステナイトの複合相が存在する領域で焼鈍することが好ましい。
1次脱炭焼鈍する段階の後、結晶粒の平均直径が150~250μmであってもよい。
1次脱炭焼鈍する段階および2次冷間圧延する段階は、2回以上繰り返されることが好ましい。
2次脱炭焼鈍する段階は、850℃~1000℃の温度および露点温度50℃~70℃で焼鈍することが好ましい。
2次脱炭焼鈍する段階は、30秒~5分間焼鈍することが好ましい。
連続焼鈍する段階は、1000℃~1200℃の温度および露点温度-20℃以下で焼鈍することが好ましい。
連続焼鈍する段階は、30秒~5分間焼鈍することが好ましい。
連続焼鈍する段階は、1000℃~1100℃で1次焼鈍する段階と、1130~1200℃で2次焼鈍する段階とを含むことが好ましい。
【0010】
上記目的を達成するためになされた本発明の一態様による方向性電磁鋼板は、全体結晶粒中における外接円の直径(D1)と内接円の直径(D2)との比(D2/D1)が0.4以上の結晶粒が90%以上であり、<100>結晶方向が鋼板の圧延方向(RD方向)と5゜以下に平行な結晶粒が15%以上であることを特徴とする。
【0011】
全体結晶粒中の結晶粒の粒径が50μm~5000μmの結晶粒の分率が80%以上であってもよい。
<100>方向が鋼板の圧延方向(RD方向)と10~15゜の角度をなす結晶粒が30%以下であってもよい。
本発明の一態様による方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:1.0%~4.0%、C:0.005%以下(0%を除く)、並びに残部はFeおよび不可避不純物からなることが好ましい。
本発明の一態様による方向性電磁鋼板は、Mn:0.1重量%以下およびS:0.005重量%以下をさらに含み得る。
【発明の効果】
【0012】
本発明による方向性電磁鋼板は、正常結晶成長を利用しながら、<100>方向が鋼板の圧延方向(RD方向)と平行な結晶粒を多数形成することができ、5°以下のsharpnessに優れた結晶粒の分率が高くて、磁気的特性に優れている。
また、結晶粒成長抑制剤としてAlNおよびMnSを使用しないので、1300℃以上の高温にスラブを加熱する必要がない。
また、析出物であるN、Sを除去する必要がなく、純化焼鈍時間が相対的に短くなって、生産性が向上する。
また、幅方向に亀裂した磁気的特性を有する方向性電磁鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】発明材10で製造した方向性電磁鋼板の表面をEBSDで分析した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
第1、第2および第3などの用語は、多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これらの用語は、ある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下に述べる第1部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の技術範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションと言及される。
【0015】
本明細書で使用される専門用語は単に特定の実施例を説明するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。本明細書で使用される単数形態は、文言がこれと明確に反対の意味を示さない限り、複数形態も含む。本明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外するわけではない。
【0016】
ある部分が他の部分の「上に」あると言及する場合、これは、直に他の部分の上にあるか、その間に他の部分が伴ってもよい。対照的に、ある部分が他の部分の「真上に」あると言及する場合、その間に他の部分が介在しない。
【0017】
他に定義しないが、本明細書で使用される技術用語および科学用語を含むすべての用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同じ意味を有する。通常使用される辞書に定義された用語は、関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り、理想的または非常に公式的な意味で解釈されない。
【0018】
また、特に言及しない限り、%は、重量%を意味し、1ppmは、0.0001重量%である。
【0019】
本発明の一実施形態において、追加元素をさらに含むとの意味は、追加元素の追加量だけ残部の鉄(Fe)を代替して含むことを意味する。
【0020】
以下、本発明の実施形態について、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳細に説明する。しかし、本発明は種々の異なる形態で実現可能であり、ここで説明する実施形態に限定されない。
【0021】
本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法は、スラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、熱延鋼板を熱延板焼鈍する段階と、熱延板焼鈍された熱延鋼板を1次冷間圧延する段階と、1次冷間圧延された鋼板を1次脱炭焼鈍する段階と、脱炭焼鈍が完了した鋼板を2次冷間圧延する段階と、2次冷間圧延が完了した鋼板を2次脱炭焼鈍する段階と、2次脱炭焼鈍された鋼板を連続焼鈍する段階とを含む。
【0022】
以下、各段階別に具体的に説明する。
【0023】
まず、スラブを熱間圧延する。
【0024】
スラブは、重量%で、Si:1.0%~4.0%、C:0.1%~0.4%、並びに残部はFeおよび不可避不純物からなる。
【0025】
組成を限定した理由は下記の通りである。
【0026】
シリコン(Si)は、電磁鋼板の磁気異方性を低くし、比抵抗を増加させて、鉄損を改善する。Siの含有量が1.0重量%未満の場合には、鉄損が劣り、4.0重量%超過の場合、脆性が増加する。したがって、スラブおよび最終焼鈍段階の後、方向性電磁鋼板におけるSiの含有量は1.0~4.0重量%である。より具体的には、Siの含有量は1.5~3.5重量%であってもよい。
【0027】
炭素(C)は、中間脱炭焼鈍および最終脱炭焼鈍中に表層部のGoss結晶粒が中心部に拡散するために、中心部のCが表層部に抜け出る過程が必要であるため、スラブ中のCの含有量は0.1~0.4重量%である。より具体的には、スラブ中のCの含有量は0.15~0.3重量%であってもよい。また、脱炭が完了した連続焼鈍段階の後に最終的に製造された方向性電磁鋼板における炭素量は0.0050重量%以下である。より具体的には0.002重量%以下であってもよい。
【0028】
スラブは、Mn:0.1重量%以下およびS:0.005重量%以下をさらに含み得る。
【0029】
MnおよびSは、MnS析出物を形成し、脱炭過程中に中心部に拡散するGoss結晶粒の成長を妨げる。したがって、Mn、Sは添加されないことが好ましい。しかし、製鋼工程中に不可避に混入する量を考慮して、スラブおよび最終焼鈍段階の後の方向性電磁鋼板におけるMn、Sは、Mn:0.1重量%以下、S:0.005重量%以下にそれぞれ制御する。
【0030】
残部はFeおよび不可避不純物からなる。不可避不純物については、製鋼段階および方向性電磁鋼板の製造工程過程で混入する不純物であり、これは当該分野にて広く知られているので、具体的な説明は省略する。具体的には、Al、N、Ti、Mg、Caのような成分は、鋼中で酸素と反応して酸化物を形成するので、強力抑制することが必要であることから、それぞれの成分ごとに0.005重量%以下に管理する。本発明の一実施形態において、上述した合金成分以外に元素の追加を排除するものではなく、本発明の技術思想を阻害しない範囲内で多様に含まれる。追加元素をさらに含む場合、残部のFeを代替して含む。
【0031】
より具体的には、スラブは、重量%で、Si:1.0%~4.0%、C:0.1%~0.4%、並びに残部はFeおよび不可避不純物からなる。
【0032】
スラブを熱間圧延する前に、スラブを加熱する。スラブの加熱温度は、通常の加熱温度よりも高い1100℃~1350℃である。スラブ加熱時に温度が高い場合、熱延組織が粗大化されて磁性に悪影響を及ぼす問題点がある。しかし、本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法は、スラブの炭素の含有量が比較的多くて、スラブの再加熱温度が高くても熱延組織が粗大化されず、通常の場合よりも高い温度で再加熱することによって、熱間圧延時により有利である。
【0033】
熱間圧延は、最終冷間圧延段階で適正な圧延率を適用して最終製品の厚さに製造されるように、熱間圧延によって1.5~4.0mmの厚さの熱延板に製造する。
熱延温度や冷却温度は特に制限されないが、磁性に優れた一実施形態として、熱延終了温度を950℃以下とし、冷却を水によって急冷して600℃以下で巻取る。
【0034】
次に、熱延鋼板を熱延板焼鈍する。この時、熱延板焼鈍は、脱炭過程を含み得る。具体的には、熱延板焼鈍は、850℃~1000℃の温度および露点温度70℃以下で焼鈍する。上述した焼鈍後、1000~1200℃の温度および露点温度0℃以下で追加焼鈍する。熱延板焼鈍を実施した後、酸洗する。
【0035】
次に、1次冷間圧延を実施して冷延鋼板を製造する。
【0036】
通常の方向性電磁鋼板の製造工程において、冷間圧延は、90%に近い高圧下率で1回実施することが効果的であると知られている。これが1次再結晶粒中のGoss結晶粒のみが粒子成長するのに有利な環境を作るからである。しかし、本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法は、Goss方位結晶粒の異常粒子成長を利用せず、脱炭焼鈍および冷間圧延によって発生した表層部の<100>方向が鋼板の圧延方向(RD方向)と平行な結晶粒を内部拡散させるものであるので、表層部において<100>方向が鋼板の圧延方向(RD方向)と平行な結晶粒を多数分布するように形成することが有利である。
【0037】
したがって、冷間圧延時に圧下率50%~70%で冷間圧延を実施する場合、Goss集合組織が表層部で多数形成される。より具体的には55%~65%であってもよい。
【0038】
次に、冷延鋼板を1次脱炭焼鈍する。この時、脱炭焼鈍する段階は、オーステナイト単相領域、またはフェライトおよびオーステナイトの複合相が存在する領域で実施される。具体的には、850℃~1000℃の温度および露点温度50℃~70℃で焼鈍する。また、雰囲気は、水素および窒素の混合ガス雰囲気であってもよい。また、脱炭焼鈍時の脱炭量は0.0300重量%~0.0600重量%であってもよい。上述した焼鈍後、1000~1200℃の温度および露点温度0℃以下で追加焼鈍する。
【0039】
このような1次脱炭焼鈍過程で電磁鋼板の表面の結晶粒の大きさは粗大に成長するが、電磁鋼板の内部の結晶粒は微細な組織として残る。このような1次脱炭焼鈍後の結晶粒の平均直径は150μm~250μmであってもよい。この時、結晶粒は、表面のフェライト結晶粒である。また、結晶粒の直径とは、結晶粒と同一の面積を有する仮想の円を想定して、その円の直径を意味する。基準面は、圧延面(ND面)と平行な面である。
【0040】
次に、1次脱炭焼鈍が完了した鋼板を2次冷間圧延する。2次冷間圧延は1次冷間圧延と同一であるので、具体的な説明は省略する。
【0041】
上述した1次脱炭焼鈍する段階および2次冷間圧延する段階は、2回以上繰り返し実施される。2回以上繰り返し実施することによって、<100>方向が鋼板の圧延方向(RD方向)と平行な集合組織が表層部で多数形成される。
【0042】
次に、2次冷間圧延が完了した鋼板を2次脱炭焼鈍する。
【0043】
2次脱炭焼鈍する段階は、850℃~1000℃の温度および露点温度50℃~70℃で焼鈍する。2次焼鈍前の冷延板は、脱炭焼鈍が進行して、炭素量がスラブの炭素の重量対比40%~60%残っている状態である。したがって、2次脱炭焼鈍する段階では、炭素が抜け出ながら表層部に形成された結晶粒が内部に拡散する。2次脱炭焼鈍する段階では、鋼板中の炭素量を0.005重量%以下となるように脱炭を実施する。
【0044】
2次脱炭焼鈍する段階は、30秒~5分間焼鈍する。上述した時間範囲で脱炭が十分に行われる。
【0045】
次に、2次脱炭焼鈍された鋼板を連続焼鈍する。
【0046】
2次脱炭焼鈍する段階の後および連続焼鈍する段階の前の昇温段階で、950~1000℃の温度範囲を10℃/秒以下の速度で加熱する。このように昇温速度を低く制御することによって、脱炭焼鈍が終わった後の結晶成長過程においてその結晶成長が容易な方位の選択性を高める効果がある。その理由は、高い昇温率を適用する場合には、急激な熱エネルギーの供給によってそれぞれの結晶粒が有する結晶方位の特殊性による選択的成長のための十分な時間を付与できず、多様な方位の結晶粒がすべて成長するからである。本発明の成分および冷間圧延された鋼板の特性によれば、<100>方向が鋼板の圧延方向(RD方向)に平行な結晶粒の成長が容易であるため、その選択的成長のための適正な昇温率が必要であるといえる。つまり、<100>方向が鋼板の圧延方向(RD方向)と平行な結晶粒中で5゜以下のDeviationを有する結晶粒が多数形成される。これに対し、相対的に<100>//RD結晶粒中で10~15゜の角度をなす結晶粒は少なく形成される。より具体的には、950~1000℃の温度範囲を3~8℃/秒の速度で加熱する。
【0047】
連続焼鈍する段階は、1000℃~1200℃の温度および露点温度-20℃以下で焼鈍する。連続焼鈍する段階の目的は、鋼中のCarbonを、脱炭後の結晶粒を一定の大きさ以上に成長させることである。その理由は、脱炭およびその直後の結晶粒成長の過程により持続的に<100>方向が鋼板の圧延方向(RD方向)と平行な結晶粒の分率は増えるからである。
【0048】
連続焼鈍する段階は、30秒~5分間焼鈍する。
【0049】
上述した時間範囲で<100>方向が鋼板の圧延方向(RD方向)と平行な結晶粒の成長が十分に行われる。
【0050】
1次冷間圧延する段階の後、連続焼鈍工程まで連続工程で行われる。連続工程とは、鋼板をコイル状に巻取って焼鈍するバッチ工程などがないものを意味する。上述したように、脱炭焼鈍工程および連続焼鈍工程が数分で終了するため、連続工程が可能である。
【0051】
連続焼鈍する段階は、1000℃~1100℃で1次焼鈍する段階と、1130~1200℃で2次焼鈍する段階とを含む。1次焼鈍する段階および2次焼鈍する段階は、それぞれ30秒~2分間行われる。
【0052】
このように連続焼鈍する段階を2段階の均熱温度を適用することによって、平均昇温率を低くするという利点がある。特に、1次焼鈍する段階での均熱温度を比較的低く調節することによって、脱炭焼鈍による<100>方向が鋼板の圧延方向(RD方向)と平行な結晶粒の選択的成長が終わった時点で、<100>方向が鋼板の圧延方向(RD方向)と平行な結晶粒の追加的な選択的成長を付与するという利点がある。これは、先に述べたように、急激な昇温時には、それぞれの結晶粒が有する結晶方位の特殊性による選択的成長のための十分な時間を付与できないのに対し、比較的遅い昇温時には、本発明における試験片が有する脱炭焼鈍後の結晶方位の特殊性に起因する<100>方向が鋼板の圧延方向(RD方向)と平行な結晶粒の選択的成長を極大化できるからである。
【0053】
連続焼鈍する段階を終えて最終的に製造された方向性電磁鋼板は、全体結晶粒中における外接円の直径(D1)と内接円の直径(D2)との比(D2/D1)が0.4以上の結晶粒が90%以上である。これは上述したように、2次脱炭焼鈍および連続焼鈍を短時間行ったからである。従来のように、バッチ焼鈍により1時間以上長時間焼鈍する場合、外接円の直径(D1)が内接円(D2)に比べてはるかに大きくなって、その比が0.4以上にならない。ここで、外接円とは、結晶粒の外部を囲む仮想の円のうち最も小さい円を意味し、内接円とは、結晶粒の内部に含まれる仮想の円のうち最も大きい円を意味する。より具体的には、全体結晶粒中における外接円の直径(D1)と内接円の直径(D2)との比(D2/D1)が0.4以上の結晶粒が95%以上であってもよい。より具体的には、全体結晶粒中における外接円の直径(D1)と内接円の直径(D2)との比(D2/D1)が0.4以上の結晶粒が95%~99%であってもよい。
【0054】
また、最終的に製造された方向性電磁鋼板は、<100>方位が鋼板の圧延方向(RD方向)と5゜以下に平行な結晶粒が多数形成され、相対的に<100>方位が鋼板の圧延方向(RD方向)と10~15゜の角度をなす結晶粒は少なく形成される。具体的には、<100>方位が鋼板の圧延方向(RD方向)と5゜以下に平行な結晶粒が15%以上である。<100>方位が鋼板の圧延方向(RD方向)と10~15゜の角度をなす結晶粒が30%以下であってもよい。このように<100>方位が正確に配列された結晶粒が多数形成されることによって磁性の向上に寄与できる。より具体的には、<100>方位が鋼板の圧延方向(RD方向)と5゜以下に平行な結晶粒が15%~30%であってもよい。<100>方位が鋼板の圧延方向(RD方向)と10~15゜の角度をなす結晶粒が5%~30%以下であってもよい。
【0055】
全体結晶粒中の結晶粒の粒径が50μm~5000μmの結晶粒の面積分率が80%以上であることが好ましい。これは上述したように、2次脱炭焼鈍および連続焼鈍を短時間行ったからである。従来のようにバッチ焼鈍により1時間以上長時間焼鈍する場合、平均結晶粒の粒径が5mm以上大きくなり、本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板の結晶粒の粒径分布とは全く異なる。より具体的には、全体結晶粒中の結晶粒の粒径が50μm~5000μmの結晶粒の分率が90%以上であってもよい。より具体的には、全体結晶粒中の結晶粒の粒径が50μm~5000μmの結晶粒の分率が90%~99%であってもよい。
【0056】
本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板は、全体結晶粒中における外接円の直径(D1)と内接円の直径(D2)との比(D2/D1)が0.4以上の結晶粒が90%以上である。
【0057】
<100>方位が鋼板の圧延方向(RD方向)と5゜以下に平行な結晶粒が15%以上である。
【0058】
<100>方位が鋼板の圧延方向(RD方向)と10~15゜の角度をなす結晶粒が30%以下であることが好ましい。
【0059】
全体結晶粒中の結晶粒の粒径が50μm~5000μmの結晶粒の分率が80%以上であることが好ましい。
【0060】
結晶粒の方位、形状および粒径については、方向性電磁鋼板の製造方法に関連して詳細に説明したので、重複する説明は省略する。
【0061】
電磁鋼板は、重量%で、Si:1.0%~4.0%、C:0.005%以下(0%を除く)、並びに残部はFeおよび不可避不純物からなる。
【0062】
電磁鋼板は、Mn:0.1重量%以下およびS:0.005重量%以下をさらに含み得る。
【0063】
Cを除き、スラブの成分限定内容と同一であるので、重複する説明は省略する。
【0064】
本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板は、5°以下のsharpnessに優れた結晶粒の分率が高くて、磁気的特性に優れている。
【0065】
具体的には、鉄損(W17/50)が1.55W/kg以下である。より具体的には、鉄損(W17/50)が1.00~1.50W/kgであってもよい。さらに具体的には1.10~1.50W/kgであってもよい。鉄損W17/50は、1.7Teslaおよび50Hzの条件で誘導される鉄損の大きさ(W/kg)である。
【0066】
また、磁束密度(B8)が1.83T以上である。具体的には、磁束密度(B8)が1.85~2.00Tであってもよい。より具体的には1.87~1.95Tであってもよい。
【0067】
磁束密度B8は、800A/mの磁場で誘導される磁束密度である。
【0068】
以下、本発明の具体的な実施例を記載する。しかし、下記の実施例は本発明の具体的な一実施例に過ぎず、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0069】
実施例1
重量%で、Si:2.0%、C:0.20%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなるスラブを、1250℃の温度で加熱した後、熱間圧延し、続いて、焼鈍温度950℃、露点温度60℃で熱延板焼鈍をした。以後、鋼板を冷却した後、酸洗を実施し、50%の圧下率で冷間圧延して、厚さ1.4mmの冷延板を製作した。
【0070】
冷間圧延された板は、再度脱炭焼鈍(1次)を施した後に、酸洗および54%の圧下率で冷間圧延して、0.65mmの冷延板を製作した。以後、950℃の温度で水素および窒素の湿潤混合ガス雰囲気(露点温度60℃)で脱炭焼鈍(2次)を経て、再度冷間圧延して、厚さ0.282mmの冷延板を製作した。
【0071】
以後、最終焼鈍時には、950℃の雰囲気温度で水素および窒素の湿潤混合ガス雰囲気(露点温度60℃)で2分間脱炭焼鈍(3次)を実施した。以後、結晶成長焼鈍のために、下記の表1にまとめられた1次均熱温度で60秒間滞留後に、1130℃で60秒間2次滞留しながら熱処理を実施した。950~1000℃区間での昇温率および<100>方向が鋼板の圧延方向(RD方向)と平行な結晶粒分率を、EBSD測定により0°~5°および10°~15°のdeviationによって区分して、下記の表1にまとめた。
【0072】
また、外接円の直径(D1)と内接円の直径(D2)との比(D2/D1)が0.4以上の結晶粒および結晶粒の粒径が50μm~5000μmの結晶粒の面積分率をEBSDで分析して、下記の表1にまとめた。
【0073】
【0074】
表1に示すように、最終焼鈍過程中に、950~1000℃区間の昇温率を10℃/s以下に調節した場合、結晶粒方位において磁気的特性に有利な5゜以下のdeviationを有する<100>方位が鋼板の圧延方向(RD方向)と平行な結晶粒を多数形成する。
【0075】
図1には、発明材10で製造した方向性電磁鋼板の表面をEBSDで分析した写真を示す。<100>方向が鋼板の圧延方向に平行な結晶粒をそれぞれの色を用いて5°間隔で分類した。
【0076】
実施例2
重量%で、Si:2.52%、C:0.195%を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなるスラブを、1220℃の温度で加熱した後、熱間圧延し、続いて、焼鈍温度950℃、露点温度60℃で熱延板焼鈍をした。以後、鋼板を冷却した後、酸洗を実施し、60%の圧下率で冷間圧延して、厚さ0.9mmの冷延板を製作した。
【0077】
冷間圧延された板は、950℃の温度で水素および窒素の湿潤混合ガス雰囲気(露点温度60℃)で脱炭焼鈍(1次)を経て、再度冷間圧延して、厚さ0.35mmの冷延板を製作した。
【0078】
以後、950℃の雰囲気温度で水素および窒素の湿潤混合ガス雰囲気(露点温度60℃)で150秒間脱炭焼鈍(2次)を実施した。以後、結晶成長焼鈍のために、下記の表2にまとめられた1次均熱温度で熱処理を実施した。各滞留時、60秒間熱処理を実施し、950~1000℃区間での昇温率および<100>//RD方向の結晶粒分率を、EBSD測定により0°~5°および10°~15°のdeviationによって区分して、下記の表2にまとめた。
【0079】
また、外接円の直径(D1)と内接円の直径(D2)との比(D2/D1)が0.4以上の結晶粒および結晶粒の粒径が50μm~5000μmの結晶粒の面積分率をEBSDで分析して、下記の表2にまとめた。
【0080】
【0081】
表2に示すように、Si、Cの含有量および圧延回数と冷延板の厚さが異なる連続焼鈍過程中にも、結晶成長のための熱処理を開始するにあたり、結晶成長の初期において低い結晶成長速度つまり、950~1000℃区間の昇温率を10℃/s以下に調節した場合、磁気的特性に有利な結晶方位を形成するという事実を確認できる。
【0082】
本発明は、上記の実施形態および/または実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態で製造可能であり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。そのため、以上に述べた実施形態および/または実施例はあらゆる面で例示的であり、限定的ではないと理解しなければならない。