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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】組成物及び硬化体
(51)【国際特許分類】
   C08F 299/00 20060101AFI20241009BHJP
   C08F 210/02 20060101ALI20241009BHJP
   C08F 212/06 20060101ALI20241009BHJP
   C08F 212/34 20060101ALI20241009BHJP
   C08F 4/6592 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
C08F299/00
C08F210/02
C08F212/06
C08F212/34
C08F4/6592
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2023005482
(22)【出願日】2023-01-17
(62)【分割の表示】P 2022536396の分割
【原出願日】2021-07-13
(65)【公開番号】P2023058506
(43)【公開日】2023-04-25
【審査請求日】2023-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2020121683
(32)【優先日】2020-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021085708
(32)【優先日】2021-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】荒井 亨
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-039995(JP,A)
【文献】特開2010-280771(JP,A)
【文献】特開2009-161743(JP,A)
【文献】特開2010-280860(JP,A)
【文献】特開平09-040709(JP,A)
【文献】特開平09-309925(JP,A)
【文献】特開2003-026730(JP,A)
【文献】国際公開第94/010216(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/112088(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/067336(WO,A1)
【文献】J. Y. DONG et al.,“Synthesis of Linear Polyolefin Elastomers Containing Divinylbenzene Units and Applications in Cros,Macromolecules,2003年06月24日,Vol. 36, No. 16,p.6000-6009,DOI: 10.1021/ma021749s
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F,C08K,C08L,
C09D,H01B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)~(4)の条件をすべて満たす、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマーに対し、以下の(a)~(c)から選ばれる単数又は複数、及び(d)溶剤を含むワニスから得られる成形体。
(1)共重合オリゴマーの数平均分子量が500以上12000未満である。
(2)芳香族ビニル化合物単量体が、炭素数8以上20以下の芳香族ビニル化合物であり、芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が10質量%以上70質量%以下である。
(3)芳香族ポリエンが、分子内にビニル基及び/又はビニレン基を複数有する炭素数5以上20以下のポリエンから選ばれる一種以上であり、かつ芳香族ポリエン単位に由来するビニル基及び/又はビニレン基の含有量が数平均分子量あたり1.5個以上10個未満である。
(4)オレフィン単量体が炭素数2以上20以下のオレフィンから選ばれる単数又は複数であり、かつ、エチレン単独であるか、エチレンとエチレン以外のαオレフィンとの組み合わせであるか、若しくはエチレンと環状オレフィンとの組み合わせであり、前記オレフィン単量体単位と芳香族ビニル化合物単量体単位と芳香族ポリエン単量体単位の合計が100質量%である。
(a)硬化剤
(b)炭化水素系エラストマー、ポリフェニレンエーテル系樹脂、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体、芳香族ポリエン系樹脂から選ばれる単数又は複数の樹脂
(c)極性単量体
【請求項2】
前記ワニスが、少なくとも樹脂分の濃度が33質量%以上であり、その25℃、1sec-1で測定した粘度が2000mPa・s以下である請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の成形体から得られ、かつ溶媒を含まない硬化体。
【請求項4】
電気絶縁材料である請求項3に記載の硬化体。
【請求項5】
請求項4に記載の硬化体を含む、電気絶縁材料。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の硬化体を含む、CCL基板、FCCL基板、層間絶縁層または層間接着層。
【請求項7】
ワニスの製造方法であって、
下記一般式(1)で表される遷移金属化合物と助触媒から構成されるシングルサイト配位重合触媒を用いて、数平均分子量が500以上12000未満であるオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマーを得るステップと、
【化1】
(ここで式中のMはジルコニウム又はハフニウムである。
Cp1、Cp2は置換基を有しないシクロペンタジエニル基であるか、若しくは環状構造を有しないアルキル置換基を1個又は2個有するシクロペンタジエニル基であかつCp1とCp2は互いに同一であっても異なっていてもよく、又は
Cp1、Cp2のうちの一方は、置換基を有しないシクロペンタジエニル基であるか、若しくは環状構造を有しないアルキル置換基を1個又は2個有するシクロペンタジエニル基であり、かつCp1、Cp2基のうちの他方は置換基を有しないインデニル基であるか、若しくは環状構造を有しないアルキル置換基を1個又は2個有するインデニル基であ
またYは、Cp1、Cp2と結合を有し、水素原子若しくは置換基を有する1個の素であり、置換基は互いに異なっていても同一でもよく、環状構造を有していてもよい。
Xは、水素、ハロゲン、アルキル基、及びアリール基からなる群から選択されるか、又は、2つのXが結合してジエン基を構成する。)
前記オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマーに溶剤を加え、ワニスを得るステップと
を含み、
前記オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマー中のオレフィン単量体が炭素数2以上20以下のオレフィンから選ばれる単数又は複数であり、
前記オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマー中の芳香族ビニル化合物単量体が、炭素数8以上20以下の芳香族ビニル化合物であり、芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が10質量%以上70質量%以下であり、
前記オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマー中の芳香族ポリエンが、分子内にビニル基及び/又はビニレン基を複数有する炭素数5以上20以下のポリエンから選ばれる一種以上であり、かつ芳香族ポリエン単位に由来するビニル基及び/又はビニレン基の含有量が数平均分子量あたり1.5個以上10個未満であり、
前記オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマー中のオレフィン単量体単位と芳香族ビニル化合物単量体単位と芳香族ポリエン単量体単位の合計が100質量%である
ことを特徴とする、製造方法。
【請求項8】
得られるワニスに含まれる前記オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマーが、下記(1)~(4)の条件をすべて満たす、請求項7に記載の製造方法。
(1)共重合オリゴマーの数平均分子量が500以上12000未満である。
(2)芳香族ビニル化合物単量体が、炭素数8以上20以下の芳香族ビニル化合物であり、芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が10質量%以上60質量%以下である。
(3)芳香族ポリエンが、分子内にビニル基及び/又はビニレン基を複数有する炭素数5以上20以下のポリエンから選ばれる一種以上であり、かつ芳香族ポリエン単位に由来するビニル基及び/又はビニレン基の含有量が数平均分子量あたり1.5個以上10個未満である。
(4)オレフィン単量体が炭素数2以上20以下のオレフィンから選ばれる単数又は複数であり、前記オレフィン単量体単位と芳香族ビニル化合物単量体単位と芳香族ポリエン単量体単位の合計が100質量%である。
【請求項9】
前記オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマーに、以下の(a)~(c)から選ばれる単数又は複数を添加するステップ
(a)硬化剤
(b)炭化水素系エラストマー、ポリフェニレンエーテル系樹脂、芳香族ポリエン系樹脂から選ばれる単数又は複数の樹脂
(c)極性単量体
をさらに含む、請求項7又は8に記載の製造方法。
【請求項10】
成形体の製造方法であって、
下記一般式(1)で表される遷移金属化合物と助触媒から構成されるシングルサイト配位重合触媒を用いて、数平均分子量が500以上12000未満であるオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマーを得るステップと、
【化2】
(ここで式中のMはジルコニウム又はハフニウムである。
Cp1、Cp2は置換基を有しないシクロペンタジエニル基であるか、若しくは環状構造を有しないアルキル置換基を1個又は2個有するシクロペンタジエニル基であかつCp1とCp2は互いに同一であっても異なっていてもよく、又は
Cp1、Cp2のうちの一方は、置換基を有しないシクロペンタジエニル基であるか、若しくは環状構造を有しないアルキル置換基を1個又は2個有するシクロペンタジエニル基であり、かつCp1、Cp2基のうちの他方は置換基を有しないインデニル基であるか、若しくは環状構造を有しないアルキル置換基を1個又は2個有するインデニル基であ
またYは、Cp1、Cp2と結合を有し、水素原子若しくは置換基を有する1個の素であり、置換基は互いに異なっていても同一でもよく、環状構造を有していてもよい。
Xは、水素、ハロゲン、アルキル基、及びアリール基からなる群から選択されるか、又は、2つのXが結合してジエン基を構成する。)
前記オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマーに溶剤を加え、ワニスを得るステップと、
得られた前記ワニスから成形体を得るステップと
を含み、
前記オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマー中のオレフィン単量体が炭素数2以上20以下のオレフィンから選ばれる単数又は複数であり、
前記オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマー中の芳香族ビニル化合物単量体が、炭素数8以上20以下の芳香族ビニル化合物であり、芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が10質量%以上70質量%以下であり、
前記オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマー中の芳香族ポリエンが、分子内にビニル基及び/又はビニレン基を複数有する炭素数5以上20以下のポリエンから選ばれる一種以上であり、かつ芳香族ポリエン単位に由来するビニル基及び/又はビニレン基の含有量が数平均分子量あたり1.5個以上10個未満であり、
前記オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマー中のオレフィン単量体単位と芳香族ビニル化合物単量体単位と芳香族ポリエン単量体単位の合計が100質量%である
ことを特徴とする、製造方法。
【請求項11】
前記ワニスから溶媒を除去するステップをさらに含む、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
硬化体の製造方法であって、
請求項10又は11の製造方法で得られた成形体に、過酸化物を添加することで前記成形体を硬化させるステップ
を含む、製造方法。
【請求項13】
数平均分子量が500以上12000未満であるオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマーを含み、300℃における貯蔵弾性率が2.5×106Pa以上、かつ23℃、10GHzで測定した誘電率が2.5以下2.0以上、誘電正接が0.003以下0.0005以上である硬化体であって、
前記オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマー中のオレフィン単量体が炭素数2以上20以下のオレフィンから選ばれる単数又は複数であり、かつ、エチレン単独であるか、エチレンとエチレン以外のαオレフィンとの組み合わせであるか、若しくはエチレンと環状オレフィンとの組み合わせであり、
前記オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマー中の芳香族ビニル化合物単量体が、炭素数8以上20以下の芳香族ビニル化合物であり、芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が10質量%以上70質量%以下であり、
前記オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマー中の芳香族ポリエンが、分子内にビニル基及び/又はビニレン基を複数有する炭素数5以上20以下のポリエンから選ばれる一種以上であり、かつ芳香族ポリエン単位に由来するビニル基及び/又はビニレン基の含有量が数平均分子量あたり1.5個以上10個未満であり、
前記オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマー中のオレフィン単量体単位と芳香族ビニル化合物単量体単位と芳香族ポリエン単量体単位の合計が100質量%である
ことを特徴とする、硬化体。
【請求項14】
前記オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマーが、下記(1)~(4)の条件をすべて満たす、請求項13に記載の硬化体。
(1)共重合オリゴマーの数平均分子量が500以上12000未満である。
(2)芳香族ビニル化合物単量体が、炭素数8以上20以下の芳香族ビニル化合物であり、芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が10質量%以上60質量%以下である。
(3)芳香族ポリエンが、分子内にビニル基及び/又はビニレン基を複数有する炭素数5以上20以下のポリエンから選ばれる一種以上であり、かつ芳香族ポリエン単位に由来するビニル基及び/又はビニレン基の含有量が数平均分子量あたり1.5個以上10個未満である。
(4)オレフィン単量体が炭素数2以上20以下のオレフィンから選ばれる単数又は複数であり、かつ、エチレン単独であるか、エチレンとエチレン以外のαオレフィンとの組み合わせであるか、若しくはエチレンと環状オレフィンとの組み合わせであり、前記オレフィン単量体単位と芳香族ビニル化合物単量体単位と芳香族ポリエン単量体単位の合計が100質量%である。
【請求項15】
溶媒を含まない、請求項13又は14に記載の硬化体。
【請求項16】
数平均分子量が12000以上であるオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体を含まない、請求項13~15のいずれか一項に記載の硬化体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物及びその硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
通信周波数がギガヘルツ帯及びそれ以上の高周波帯に移行することにともない、低誘電特性を有する絶縁材料に対するニーズが高まっている。ポリエチレン等のポリオレフィンやポリスチレン等の芳香族ビニル化合物重合体は、分子構造中に極性基を持たないため、優れた低誘電率、低誘電正接を示す材料として知られている。しかし、これらは耐熱性を結晶融点、又はガラス転移温度に依存するため電気絶縁体としての耐熱性に課題があり、さらに熱可塑性樹脂であるために製膜プロセス上の課題がある(特許文献1)。
【0003】
パーフルオロエチレン等のフッ素系樹脂は優れた低誘電率、低誘電損失と耐熱性に優れた特徴を有するが成形加工性、膜成形性が困難でありデバイス適性が低い。また、配線の銅箔との接着性にも課題がある。一方、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂等の後硬化樹脂を用いた基板、絶縁材料はその耐熱性、易取り扱い性から広く用いられてきているが、誘電率、誘電損失が比較的高く、高周波用の絶縁材料としては改善が望まれている(特許文献2)。
【0004】
オレフィン系及びスチレン系の重合体セグメントからなるグラフト、又はブロック共重合体からなる電気絶縁材料が提案されている(特許文献3)。当該材料はオレフィンやスチレン系の炭化水素系重合体の本質的な低誘電率、低誘電損失性に着目している。その製造方法は、市販のポリエチレン、ポリプロピレンにスチレンモノマー、ジビニルベンゼンモノマーとラジカル重合開始剤の存在下、一般的なグラフト重合を行うものである。このような手法ではグラフト効率が上がらず、ポリマーの均一性が十分でないという課題がある。さらに、得られたポリマーはゲルを含んでおり、加工性、充填性が悪いという課題があった。また当該材料は、熱可塑性樹脂で耐熱性が十分でなく、4-メチル-1-ペンテン系等の耐熱性樹脂を加える必要がある。さらに当該材料は、所定の場所に塗布あるいは充填した後硬化させる成形方法に適用することは困難である。
【0005】
特許文献4には、複数の芳香族ビニル基を有する炭化水素化合物を架橋成分として含む架橋構造体からなる絶縁層が記載されている。実施例に具体的に記載されている本架橋成分の硬化体は剛直であり、多量の充填剤を充填することは困難であると考えられる。
【0006】
特許文献5には、特定の重合触媒から得られ、特定の組成、配合のエチレン-オレフィン(芳香族ビニル化合物)-ポリエン共重合体、非極性ビニル化合物共重合体からなる硬化体が示されている。特許文献5の実施例に具体的に記載されている硬化体は低誘電率、低誘電正接という特徴を有するが、極めて軟質であり、それ故常温及び高温での弾性率等の力学強度を向上することが必要である。薄膜の絶縁材料、例えばFPC(フレキシブルプリント回路板)やFCCL(フレキシブルカッパークラッドラミネート、フレキシブル銅張積層板)の層間絶縁材料やカバーレイ用途では実装工程中又は実装後使用中の厚み等といった、寸法安定性を向上することが好ましい。特許文献6には、同様の特定の重合触媒から得られ、特定の組成、配合のエチレン-オレフィン(芳香族ビニル化合物)-ポリエン共重合体、非極性ビニル化合物共重合体からなる硬化体が示されている。特許文献7にも同様の共重合体を含む組成物の硬化体が記載されている。しかし特許文献5~7に具体的に記載されているエチレン-オレフィン(芳香族ビニル化合物)-ポリエン共重合体は分子量が高く、それ故溶剤や単量体に溶解させた場合、粘度が高くなってしまい、ワニスとして使用する際に、塗工性や含浸性の向上が求められる場合がある。さらに特許文献5~7には、エチレン-オレフィン(芳香族ビニル化合物)-ポリエン共重合体のみ、又は実質的にこれを主要成分とした場合の硬化体の記載も無い。また特許文献8には、低分子量のエチレン-スチレン共重合体オリゴマーの製造方法が開示されているが、エチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合オリゴマーの製造やその用途に関する記載は無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特公昭52-31272号公報
【文献】特開平6-192392号公報
【文献】特開平11-60645号公報
【文献】特開2004-087639号公報
【文献】特開2010-280771号公報
【文献】特開2009-161743号公報
【文献】特開2010-280860号公報
【文献】特開平9-040709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した従来技術に対し、ワニスとして使用するのに適し、かつその硬化体が、架橋度が高く優れた低誘電特性と低吸水性を示す硬化性物質の提供が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では即ち以下を提供できる。
先ず、下記(1)~(4)の条件をすべて満たす、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマーに対し、以下の(a)~(c)から選ばれる単数又は複数、及び(d)溶剤を含むワニスである。
(1)共重合オリゴマーの数平均分子量が500以上12000未満、好ましくは10000未満、特に好ましくは5000未満である。
(2)芳香族ビニル化合物単量体が、炭素数8以上20以下の芳香族ビニル化合物であり、芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が0質量%以上90質量%以下、好ましくは70質量%以下である。
(3)芳香族ポリエンが、分子内にビニル基及び/又はビニレン基を複数有する炭素数5以上20以下のポリエンから選ばれる一種以上であり、かつ芳香族ポリエン単位に由来するビニル基及び/又はビニレン基の含有量が数平均分子量あたり1.5個以上10個未満である。
(4)オレフィンが炭素数2以上20以下のオレフィンから選ばれる単数又は複数であり、前記オレフィン単量体単位と芳香族ビニル化合物単量体単位と芳香族ポリエン単量体単位の合計が100質量%である。
(a)硬化剤
(b)炭化水素系エラストマー、ポリフェニレンエーテル系樹脂、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体、及び芳香族ポリエン系樹脂からなる群から選ばれる単数又は複数の樹脂
(c)極性単量体
【0010】
また、下記(1)~(4)の条件をすべて満たす、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマーを含む硬化体も提供できる。
(1)共重合オリゴマーの数平均分子量が500以上12000未満、好ましくは10000未満、特に好ましくは5000未満である。
(2)芳香族ビニル化合物単量体が、炭素数8以上20以下の芳香族ビニル化合物であり、芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が0質量%以上90質量%以下である。好ましくは10質量%以上70質量%以下又は10質量%以上70質量%未満である。
(3)芳香族ポリエンが、分子内にビニル基及び/又はビニレン基を複数有する炭素数5以上20以下のポリエンから選ばれる一種以上であり、かつ芳香族ポリエン単位に由来するビニル基及び/又はビニレン基の含有量が数平均分子量あたり1.5個以上10個未満である。
(4)オレフィンが炭素数2以上20以下のオレフィンから選ばれる単数又は複数であり、前記オレフィン単量体単位と芳香族ビニル化合物単量体単位と芳香族ポリエン単量体単位の合計が100質量%である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマーを含むワニスは低い粘度を有し、優れた低誘電特性を有し、室温及び特に高温下の力学強度(弾性率等)が高い硬化体を与えることが出来る。また本発明の硬化体は、優れた低誘電特性を有し、室温及び特に高温下の力学強度(弾性率等)が高い。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書においてシートとは、フィルムの概念をも包含するものとする。また、本明細書においてフィルムと記載されていても、シートの概念をも包含するものとする。本発明に係る組成物を以下にさらに詳細に説明する。本明細書において組成物とは、ワニスを包含する概念である。すなわち、組成物のうち特に液状であるものをワニスと記載している。
【0013】
<ワニス>
本発明のワニスは、以下の(1)~(4)の条件をすべて満たすオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマーを含み、
(1)共重合オリゴマーの数平均分子量が500以上12000未満、好ましくは10000未満、特に好ましくは5000未満である。
(2)芳香族ビニル化合物単量体が、炭素数8以上20以下の芳香族ビニル化合物であり、芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が0質量%以上90質量%以下である。好ましくは10質量%以上70質量%以下、さらに好ましくは10質量%以上60質量%以下である。
(3)芳香族ポリエンが、分子内にビニル基及び/又はビニレン基を複数有する炭素数5以上20以下のポリエンから選ばれる一種以上であり、かつ芳香族ポリエン単位に由来するビニル基及び/又はビニレン基の含有量が数平均分子量あたり1.5個以上10個未満である。
(4)オレフィンが炭素数2以上20以下のオレフィンから選ばれる単数又は複数であり、前記オレフィン単量体単位と芳香族ビニル化合物単量体単位と芳香族ポリエン単量体単位の合計が100質量%である。
他に少なくとも
(a)「硬化剤」、
(b)「炭化水素系エラストマー、ポリフェニレンエーテル系樹脂、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体、芳香族ポリエン系樹脂から選ばれる単数又は複数の樹脂」、
(c)「極性単量体」
から選ばれる一種以上と、(d)溶剤を含む。
【0014】
本オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマー(以下、単に「オリゴマー」と記載する場合がある)は、オレフィン、芳香族ビニル化合物、及び芳香族ポリエンの各単量体を共重合することで得ることができる。この「オリゴマー」と区別された概念として本明細書では数平均分子量が12000以上の場合、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体、あるいは単に「共重合体」と定義する。本発明に係るワニス及びその硬化体は、ワニスとして適切な粘度を得る観点から、当該オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体を、上記オリゴマー100質量部に対して100質量部以下含むのが好ましく、50質量部以下含むのがより好ましく、20質量部以下含むのがさらに好ましく、含まないことがよりさらに好ましい。
【0015】
オレフィン単量体とは、炭素数2以上20以下のαオレフィン及び炭素数5以上20以下の環状オレフィンから選ばれる一種以上であり、実質的に酸素や窒素、ハロゲンを含まず、炭素と水素から構成される化合物である。炭素数2以上20以下のαオレフィンとしては、例えばエチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デカン、1-ドデカン、4-メチル-1-ペンテン、3,5,5-トリメチル-1-ヘキセンが例示できる。炭素数5以上20以下の環状オレフィンとしては、ノルボルネン、シクロペンテンが例示できる。オレフィンとして好ましく使用できるのは、エチレンとエチレン以外のαオレフィンや環状オレフィンとの組み合わせか、又はエチレン単独である。エチレン単独、又は含まれるエチレン以外のαオレフィン成分/エチレン成分の質量比が好ましくは1/7以下、さらに好ましくは1/10以下の場合は、得られる硬化体の銅箔や銅配線との剥離強度を高くでき、好ましい。より好ましくは、共重合体に含まれるエチレン以外のαオレフィン単量体成分の含量が6質量%以下、さらに最も好ましくは4質量%以下、又はオレフィンがエチレン単独である。また好ましい、エチレンとエチレン以外のαオレフィンの組み合わせでは、最終的に得られる硬化体のエチレン-αオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマーのガラス転移温度はαオレフィンの含量の種類、含量により、おおむね-60℃~-10℃の範囲で自由に調整できる。
【0016】
芳香族ビニル化合物単量体は、炭素数8以上20以下の芳香族ビニル化合物であり、例えばスチレン、パラメチルスチレン、パライソブチルスチレン、各種ビニルナフタレン、各種ビニルアントラセンが例示できる。
【0017】
芳香族ポリエン単量体としては、その分子内にビニル基及び/又はビニレン基を複数有する炭素数5以上20以下のポリエンであり、好ましくは、オルト、メタ、パラの各種ジビニルベンゼン又はこれらの混合物、ジビニルナフタレン、ジビニルアントラセン、p-2-プロペニルスチレン、p-3-ブテニルスチレン等の芳香族ビニル構造を有し、実質的に酸素や窒素、ハロゲンを含まず、炭素と水素から構成される化合物である。また、特開2004-087639号公報に記載されている二官能性芳香族ビニル化合物、例えば1,2-ビス(ビニルフェニル)エタン(略称:BVPE)を用いることもできる。この中で好ましくは、オルト、メタ、パラの各種ジビニルベンゼン、又はこれらの混合物が用いられ、最も好ましくはメタ及びパラジビニルベンゼンの混合物が用いられる。本明細書ではこれらジビニルベンゼンをジビニルベンゼン類と記す。芳香族ポリエンとしてジビニルベンゼン類を用いた場合、硬化処理を行う際に硬化効率が高く、硬化が容易であるため好ましい。
【0018】
以上のオレフィン、芳香族ビニル化合物、芳香族ポリエンの各単量体としては、他に極性基、例えば酸素原子、窒素原子等を含むオレフィン、酸素原子や窒素原子等を含む芳香族ビニル化合物、又は、酸素原子や窒素原子等を含む芳香族ポリエンを含んでいてもよいが、これら極性基を含む単量体の総質量は、本樹脂組成物の総質量の10質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、極性基を含む単量体を含まないことが最も好ましい。10質量%以下にすることにより、本樹脂組成物を硬化して得られる硬化体の誘電特性(低誘電率/低誘電損失)を向上できる。
【0019】
共重合オリゴマーの数平均分子量(Mn)は500以上12000未満、好ましくは10000未満、最も好ましくは5000未満である。本発明において数平均分子量が500以上12000未満、好ましくは10000未満、最も好ましくは5000未満であるということは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー;ゲル浸透クロマトグラフィー)法により得られる、標準ポリスチレン換算の分子量がその範囲に入る値であるということである。
【0020】
本共重合オリゴマーにおいて、芳香族ポリエン単位に由来するビニル基及び/又はビニレン基の含有量、好ましくはビニル基の含有量は数平均分子量あたり1.5個以上10個未満であり、好ましくは2個以上7個未満である。当該ビニル基及び/又はビニレン基の含有量が1.5個未満では架橋効率が低く、十分な架橋密度の硬化体を得ることが難しくなる。共重合オリゴマー中の数平均分子量あたりの芳香族ポリエン単位(ジビニルベンゼン単位)に由来するビニル基含有量は、当業者に公知のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法により求める標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)と、1H-NMR測定により得られる芳香族ポリエン単位に由来するビニル基含有量とを比較することで得ることができる。例として、1H-NMR測定により得られる各ピーク面積の強度比較により、共重合オリゴマー中の芳香族ポリエン単位(ジビニルベンゼン単位)に由来するビニル基含有量が3.2質量%であり、GPC測定による標準ポリスチレン換算数平均分子量が2100の場合、本数平均分子量中の芳香族ポリエン単位に由来するビニル基の分子量は、これらの積である67.5となり、これをビニル基の式量27で割ることで、2.5となる。すなわち、本共重合オリゴマー中の数平均分子量あたりの芳香族ポリエン単位に由来するビニル基含有量は2.5個であると求められる。共重合オリゴマーの1H-NMR測定で得られるピークの帰属は文献により公知である。また、1H-NMR測定で得られるピーク面積の比較から共重合オリゴマーの組成を求める方法も公知である。また本明細書では共重合オリゴマー中のジビニルベンゼン単位の含量をジビニルベンゼン単位に由来するビニル基のピーク強度(1H-NMR測定による)から求めている。すなわちジビニルベンゼン単位に由来するビニル基含有量から、当該ビニル基1個は共重合体中のジビニルベンゼンユニット1個に由来するとしてジビニルベンゼン単位の含量を求めている。
【0021】
共重合オリゴマーにおいて前記他の条件を満たし、かつ数平均分子量が12000未満、好ましくは10000未満、最も好ましくは5000未満であることで、オリゴマーより高分子量である共重合体(コポリマー)を用いる場合より、架橋度(架橋密度)が高い硬化体を得ることができる。架橋度は、例えばシート等の硬化体をキシレン中に投入し、沸点まで加熱し、1時間リフラックスさせたのちに回収し、硬化体シート(硬化シートということもある)の溶解や膨潤の有無により判定できる。硬化体の溶解や膨潤が少ないほど架橋度が高いと判定される。さらに、本共重合オリゴマーの硬化体の高温の力学物性を改善することが出来る。具体的には本硬化体は高温において、より高分子量の共重合体を用いた場合よりもより高い貯蔵弾性率を示すことが可能となる。共重合オリゴマーの他に他の樹脂や単量体を含む組成物の硬化体であっても、類似した配合で比較すると、より高分子量の共重合体を用いた場合よりも高い貯蔵弾性率を示すことができる。これにより、本硬化体を含む単層または多層のCCL、FCCL、層間絶縁層、あるいは層間接着層の、例えばハンダリフロー工程での耐久性や寸法安定性を向上することが可能となる。具体的には、実用的な側面で規定すると本発明の硬化体は、300℃における貯蔵弾性率が1×106Pa以上、好ましくは2×106Pa以上、最も好ましくは2.5×106Pa以上の値を示すことができる。
【0022】
さらに本硬化体は、より高分子量の共重合体を用いた場合よりもより低い線膨張率(CTE)を示すことが出来る。共重合オリゴマーの他に他の樹脂や単量体を含む組成物の硬化体であっても、類似した配合で比較すると、より低い線膨張率(CTE)を示すことが出来る。本硬化体の用途を考慮すると、単層または多層のCCL、FCCL、層間絶縁層、あるいは層間接着層として好ましいCTE値は25~150℃の範囲で、200ppm以下、好ましくは100ppm以下、最も好ましくは75ppm以下である。そのため本硬化体を含む電子デバイス、基板等をハンダリフロー炉を通す等の熱処理をした場合でも反りや変形、絶縁層の滲み出しを抑制することができるため好ましい。
【0023】
さらに、共重合オリゴマーの数平均分子量(Mn)は500以上12000未満、好ましくは10000未満、最も好ましくは5000未満であることで、本共重合オリゴマーを含むワニスの粘度を下げることが容易になる。具体的には本共重合オリゴマーを実用的な濃度として33質量%以上含むワニスであっても、その粘度を例えば好ましくは2000mPa・s以下、さらに好ましくは1000mPa・s以下、より好ましくは500mPa・s以下、最も好ましくは100mPa・s以下に調整することが容易になる。共重合オリゴマーの分子量が低くなるほど最終的に得られるワニスの低粘度化は容易になり、特に好ましい粘度100mPa・s以下が得られる配合の調整範囲を広くできる効果がある。当該オリゴマーは、数平均分子量が12000未満、好ましくは10000未満、最も好ましくは5000未満であることで、ワニスとした場合その粘度を相対的に低くすることが可能で、ハンドリングしやすく、特に充填剤を加えた場合には組成物の粘度の上昇を抑えることができ、より高分子量の共重合体とは異なる好ましい性質を有する。また当該オリゴマーの低い数平均分子量により、ガラスその他の不織布に含浸させることも容易になる効果も得られる。
【0024】
本共重合オリゴマーに含まれる芳香族ビニル化合物単量体単位の含量は0質量%以上90質量%以下であり、より好ましくは0質量%以上70質量%以下又は0質量%以上70質量%未満であり、さらに好ましくは10質量%以上60質量%以下である。芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が70質量%未満である場合には、最終的に得られる樹脂組成物の硬化体のガラス転移温度が室温付近より低くなり、低温での靱性や伸びを改善できるため好ましい。芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が10質量%以上であると、本共重合オリゴマーの芳香族性が向上し、難燃剤やフィラーとのなじみが良くなり、難燃剤のブリードアウトを回避でき、フィラーの充填性を向上できるという効果が得られる。また芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が10質量%以上であると、銅箔や銅配線からの剥離強度が高い樹脂組成物の硬化体を得ることもできる。
【0025】
本共重合オリゴマーにおいて、好ましいオレフィン単量体単位の含量は20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、最も好ましくは30質量%以上である。前記オレフィン単量体単位と芳香族ビニル化合物単量体単位と芳香族ポリエン単量体単位の合計は100質量%である。オレフィン単量体単位の含量が20質量%以上だと、最終的に得られる硬化体の靱性(伸び)や耐衝撃性が向上し、硬化途中での割れや、硬化体のヒートサイクル試験中での割れが発生しづらくなる。本共重合オリゴマーにおいて、好ましいオレフィン単量体単位含量は90質量%以下である。
【0026】
本共重合オリゴマーにおいて、芳香族ビニル化合物単量体単位を含まない、オレフィン-芳香族ポリエン共重合オリゴマーとして、具体的にはエチレン-ジビニルベンゼン共重合オリゴマー、エチレン-プロピレン-ジビニルベンゼン共重合オリゴマー、エチレン-1-ブテン-ジビニルベンゼン共重合オリゴマー、エチレン-1-ヘキセン-ジビニルベンゼン共重合オリゴマー、エチレン-1-オクテン-ジビニルベンゼン共重合オリゴマーが好適なものとして例示できる。
【0027】
本共重合オリゴマーにおいて、芳香族ビニル化合物単量体単位を含む、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマーとしては、エチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合オリゴマー、エチレン-プロピレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合オリゴマー、エチレン-1-ヘキセン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合オリゴマー、エチレン-1-オクテン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合オリゴマーが例示できる。
【0028】
本発明のワニスは、前記本共重合オリゴマーに加えてさらに、(a)硬化剤、(b)炭化水素系エラストマー、ポリフェニレンエーテル系樹脂、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体、芳香族ポリエン系樹脂から選ばれる単数又は複数の樹脂、(c)極性単量体から選ばれる単数又は複数を含む。
【0029】
<硬化剤>
本発明の組成物に用いることができる硬化剤としては、従来芳香族ポリエン、芳香族ビニル化合物の重合、又は硬化に使用できる公知の硬化剤を用いることが可能である。このような硬化剤には、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、アニオン重合開始剤が例示できるが、好ましくはラジカル重合開始剤を用いることができる。好ましくは、有機過酸化物系(パーオキサイド)、アゾ系重合開始剤等であり、用途、条件に応じて自由に選択できる。有機過酸化物が掲載されたカタログは日油社ホームページ、例えば
https://www.nof.co.jp/business/chemical/product01a.html
https://www.nof.co.jp/business/chemical/product01b.html
https://www.nof.co.jp/business/chemical/product01c.html
からダウンロ-ド可能である。また有機過酸化物は富士フイルム和光純薬社や東京化成工業社のカタログ等にも記載されている。本発明に用いられる硬化剤はこれらの会社より入手できる。また公知の光、紫外線、放射線を用いる光重合開始剤を硬化剤として用いることもできる。光重合開始剤を用いる硬化剤としては、光ラジカル重合開始剤、光カチオン重合開始剤、又は光アニオン重合開始剤が挙げられる。このような光重合開始剤は例えば東京化成工業株式会社から入手できる。さらに、放射線あるいは電子線そのものによる硬化も可能である。また、硬化剤を含まず、含まれる原料の熱重合による架橋、硬化を行うことも可能である。
【0030】
硬化剤の使用量に特に制限はないが、一般的には樹脂組成物100質量部に対し、0.01~10質量部が好ましい。樹脂組成物は、硬化剤や溶剤を除くことが好ましい。過酸化物系(パーオキサイド)、アゾ系重合開始剤等の硬化剤を用いる場合には、その半減期を考慮し、適切な温度、時間で硬化処理を行う。この場合の条件は、硬化剤に合わせて任意であるが、一般的には50℃から200℃程度の温度範囲が適当である。
【0031】
本発明のワニスは、(b)成分こと「炭化水素系エラストマー、ポリフェニレンエーテル系樹脂、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体、芳香族ポリエン系樹脂から選ばれる単数又は複数の樹脂」の合計を、好ましくは共重合オリゴマー100質量部に対し1~200質量部の範囲で含むことが出来る。これら(b)成分の添加により、本ワニスから得られる硬化体の力学物性が向上する効果が得られる。
【0032】
<炭化水素系エラストマー>
本発明の組成物に用いる炭化水素系エラストマーの使用量は、共重合オリゴマー100質量部に対し、1~200質量部が好ましく、1~100質量部がより好ましく、1~50質量部が最も好ましい。本発明の組成物に好適に用いることができる炭化水素系エラストマーは、数平均分子量が100以上100000以下であることが好ましく、1000以上4500以下であることがより好ましい。本発明の組成物に好適に用いることができる炭化水素系エラストマーとしては、好ましくは、エチレン系やプロピレン系のエラストマー、共役ジエン系重合体や芳香族ビニル化合物-共役ジエン系のブロック共重合体又はランダム共重合体、及びこれらの水素化物(水添物)から選ばれる単数又は複数のエラストマーである。エチレン系エラストマーとしては、エチレン-オクテン共重合体やエチレン-1-ヘキセン共重合体等のエチレン-αオレフィン共重合体、EPR、EPDMが挙げられ、プロピレン系エラストマーとしては、アタクティックポリプロピレン、低立体規則性のポリプロピレン、プロピレン-1-ブテン共重合体等のプロピレン-αオレフィン共重合体が挙げられる。
【0033】
共役ジエン系重合体としては、ポリブタジエンや1,2-ポリブタジエンが挙げられる。芳香族ビニル化合物-共役ジエン系のブロック共重合体又はランダム共重合体、及びこれらの水素化物(水添物)としては、SBS、SIS、SEBS、SEPS、SEEPS、SEEBS等が例示できる。好適に用いることができる1,2-ポリブタジエンは、例えば、日本曹達株式会社から、液状ポリブタジエン:製品名B-1000、2000、3000の製品名で入手できる。また、好適に用いることができる1,2-ポリブタジエン構造を含む共重合体としては、TOTAL CRAY VALLEY社の「Ricon100」が例示できる。これら炭化水素系エラストマーから選ばれる単数又は複数の樹脂が、特に室温(25℃)で液状(概ね300000mPa・s以下)の場合、本発明の組成物の未硬化状態での取扱性や成形加工性(熱可塑性樹脂としての取り扱い性)の観点から、その使用量は、共重合オリゴマー100質量部に対し、好ましくは150質量部以下、より好ましくは1~30質量部、最も好ましくは1~20質量部の範囲である。
【0034】
<ポリフェニレンエーテル>
ポリフェニレンエーテル(「ポリフェニレンエーテル系樹脂」とも称する)としては、市販の公知のポリフェニレンエーテルを用いることができる。ポリフェニレンエーテルの数平均分子量は任意であり、組成物の成形加工性を考慮すると数平均分子量は好ましくは1万以下、最も好ましくは5000以下である。数平均分子量は好ましくは500以上である。
【0035】
また、本発明の組成物の硬化を目的とした添加の場合、分子末端が官能基で変性されていることが好ましい。また、本発明の組成物の硬化を目的とした添加の場合、一分子内に複数の官能基を有していることが好ましい。例えば、変性ポリフェニレンエーテルとすることが好ましい。官能基としては、ラジカル重合性の官能基、エポキシ基等の官能基が挙げられ、好ましくは、ラジカル重合性の官能基である。ラジカル重合性の官能基としては、ビニル基が好ましい。ビニル基としては、アリル基、(メタ)アクリロイル基、芳香族ビニル基からなる群の一種以上が好ましく、(メタ)アクリロイル基、芳香族ビニル基からなる群の一種以上がより好ましく、芳香族ビニル基が最も好ましい。つまり、本発明の組成物においては、分子鎖の両末端がラジカル重合性の官能基で変性されている二官能性ポリフェニレンエーテルが特に好ましい。このようなポリフェニレンエーテルとしてはSABIC社のNoryl(商標)SA9000(両末端にメタクリロイル基を有する変性ポリフェニレンエーテル、数平均分子量2200)や三菱ガス化学社製二官能ポリフェニレンエーテルオリゴマー(OPE-2St、両末端にビニルベンジル基を有する変性ポリフェニレンエーテル、数平均分子量1200)等が挙げられる。また、旭化成株式会社のアリル化PPEも用いることが出来る。これらの中で好ましくは三菱ガス化学社製二官能ポリフェニレンエーテルオリゴマー(OPE-2St)を用いることができる。本発明の組成物に用いるポリフェニレンエーテルの使用量は、共重合オリゴマー100質量部に対し、1~200質量部が好ましく、1~100質量部がより好ましい。
【0036】
<オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体>
本明細書におけるオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体(コポリマー)は、数平均分子量が12000以上のコポリマーである。本発明の組成物に用いるオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体の使用量は、共重合オリゴマー100質量部に対し、0~100質量部が好ましく、0~50質量部がより好ましく、0~20質量部が最も好ましい。本範囲のオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体の使用により、相溶性が良好な組成物のワニスを提供でき、本ワニスから得られる硬化体は良好な力学物性や良好な部材接着性(例えば銅箔との接着性)を示すことが出来る。オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体のこれら範囲を超える量の使用は、トルエン溶液(ワニス)の粘度が上がってしまうために好ましくない。オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体のこれら範囲を超える量の使用は、高温における前記力学物性(300℃の貯蔵弾性率)を低下させたり、線膨張率(CTE)を増大させたりするため好ましくない。
【0037】
<芳香族ポリエン系樹脂>
芳香族ポリエン系樹脂とは、日鉄ケミカル&マテリアル社製、ジビニルベンゼン系反応性多分岐共重合体(PDV)を包含する。このようなPDVは、例えば文献「多官能芳香族ビニル共重合体の合成とそれを用いた新規IPN型低誘電損失材料の開発」(川辺 正直、エレクトロニクス実装学会誌 p125、Vol.12 No.2(2009))に記載されている。本発明の組成物に用いる芳香族ポリエン系樹脂の使用量は、共重合オリゴマー100質量部に対し、1~200質量部が好ましく、1~100質量部がより好ましく、1~50質量部が最も好ましい。芳香族ポリエン系樹脂のこれら範囲内の量の使用は、他の部材との接着性の低下や靱性の低下を防ぐために好ましい。
【0038】
<極性単量体>
本発明の樹脂組成物に用いることができる極性単量体は、好ましくは共重合オリゴマー100質量部に対し100質量部以下である。なお本樹脂組成物は実質的に単量体を含まなくても良い。極性単量体とは、分子内に酸素、窒素、リン、硫黄から選ばれる単数又は複数の原子を有する単量体であり、好適に用いることができる極性単量体は、分子量5000未満が好ましく、1000未満がより好ましく、500未満がさらに好ましい。本発明の樹脂組成物に好適に用いることができる極性単量体は、ラジカル重合開始剤により重合させることが可能な極性単量体が好ましい。極性単量体としては、各種のマレイミド類、ビスマレイミド類、無水マレイン酸、トリアリルイソシアヌレート、グリシジル(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。本発明に使用可能なマレイミド類、ビスマレイミド類は例えば国際公開第2016/114287号や特開2008-291227号公報に記載されており、例えば大和化成工業株式会社、日本化薬株式会社、Designer molecules inc社から購入できる。また信越化学社製ビスマレイミド系樹脂「SLK」も用いることが出来る。これらマレイミド基含有化合物は、有機溶剤への溶解性、高周波特性、導体との高接着性、プリプレグの成形性等の観点から、ビスマレイミド類が好ましい。これらマレイミド基含有化合物は、有機溶媒への溶解性、高周波特性、導体との高接着性、プリプレグの成形性等の観点から、ポリアミノビスマレイミド化合物として用いてもよい。ポリアミノビスマレイミド化合物は、例えば、末端に2個のマレイミド基を有する化合物と分子中に2個の一級アミノ基を有する芳香族ジアミン化合物とをマイケル付加反応させることにより得られる。少量の添加で高い架橋効率を得ようとする場合、二官能基以上の多官能基を有する極性単量体の使用が好ましく、ビスマレイミド類、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが例示できる。本発明の樹脂組成物に用いる極性単量体の量は、共重合オリゴマー100質量部に対し、0.1~20質量部が好ましく、0.1~10質量部がより好ましい。この範囲の量の使用により、得られる硬化体の誘電率や誘電正接が高くなりすぎない効果が得られ、例えば誘電率は4.0以下、好ましくは3.0以下に、誘電正接は0.005以下、好ましくは0.002以下に抑えることが可能となる。
【0039】
本発明のワニスは、特に好ましくは前記本共重合オリゴマーに加えてさらに、(a)硬化剤、(b)炭化水素系エラストマー、ポリフェニレンエーテル系樹脂、芳香族ポリエン系樹脂から選ばれる単数又は複数の樹脂、(c)極性単量体から選ばれる単数又は複数を含む。
【0040】
本発明のワニスは、さらに、(d)溶剤を含む。
【0041】
<(d)溶剤>
本発明の樹脂組成物に対し、必要に応じて適切な溶剤を添加してもよい。またその使用量は、特に限定されない。溶剤は、組成物の粘度、流動性を調節するために用いる。特に、本発明の樹脂組成物がワニス状の場合、溶剤が好ましく使用される。溶剤としては、大気圧下での沸点が低すぎると、すなわち揮発性が高すぎると、塗布した膜の厚さが不均一になってしまう恐れがあるため、ある程度以上の沸点の溶剤が好ましい。好ましい沸点は大気圧下で概ね100℃以上、さらに好ましくは130℃以上300℃以下である。溶剤としては例えば、シクロヘキサン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、メシチレン、テトラリン、アセトン、リモネン、混合アルカン、混合芳香族系溶媒等が用いられる。本発明の組成物に用いる溶剤の使用量は任意であるが、共重合オリゴマー100質量部に対し、5~500質量部が好ましく、10~300質量部がより好ましく、50~150質量部が最も好ましい。
【0042】
本発明は別な観点からは、下記(1)~(4)の条件をすべて満たす、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマーを含む硬化体を提供できる。好ましくは、本硬化体は下記(1)~(4)の条件をすべて満たす、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマーを含む組成物の硬化体である。
(1)共重合オリゴマーの数平均分子量が500以上12000未満、好ましくは10000未満、特に好ましくは5000未満である。
(2)芳香族ビニル化合物単量体が、炭素数8以上20以下の芳香族ビニル化合物であり、芳香族ビニル化合物単量体単位の含量が0質量%以上90質量%以下である。好ましくは10質量%以上70質量%未満である。
(3)芳香族ポリエンが、分子内にビニル基及び/又はビニレン基を複数有する炭素数5以上20以下のポリエンから選ばれる一種以上であり、かつ芳香族ポリエン単位に由来するビニル基及び/又はビニレン基の含有量が数平均分子量あたり1.5個以上10個未満である。
(4)オレフィンが炭素数2以上20以下のオレフィンから選ばれる単数又は複数であり、前記オレフィン単量体単位と芳香族ビニル化合物単量体単位と芳香族ポリエン単量体単位の合計が100質量%である。
さらに、以下の(a)~(c)から選ばれる単数、または複数を含む、前記の硬化体である。
(a)硬化剤
(b)炭化水素系エラストマー、ポリフェニレンエーテル系樹脂、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体、芳香族ポリエン系樹脂から選ばれる単数又は複数の樹脂
(c)極性単量体
ここで(a)~(c)は前記記載と同じ意味である。なお、上記の(d)溶剤は、硬化体においては揮発して抜けていることが好ましいが、実用上問題が無ければその一部が残存していてもかまわない。
本発明の硬化体は、特に好ましくは前記本共重合オリゴマーに加えてさらに、(a)硬化剤、(b)炭化水素系エラストマー、ポリフェニレンエーテル系樹脂、芳香族ポリエン系樹脂から選ばれる単数又は複数の樹脂、(c)極性単量体から選ばれる単数又は複数を含む組成物の硬化により得ることが出来る。
【0043】
本発明の前記ワニスまたは前記硬化体は、さらに(e)充填剤、(f)難燃剤、(g)表面変性剤から選ばれる単数又は複数を含んでよい。
【0044】
<充填剤>
また、必要に応じて公知の無機、あるいは有機充填剤を添加することもできる。これら充填剤は、熱膨張率コントロール、熱伝導性のコントロール、低価格化を目的として添加され、その使用量は目的により任意である。特に無機充填剤の添加の際には、公知の表面変性剤、例えばシランカップリング剤等を用いることが好ましい。特に、本発明の目的の一つである、低誘電率、低誘電損失性に優れた樹脂組成物を目的とする場合、無機充填剤としてはボロンナイトライド(BN)又はシリカからなる一種以上が好ましく、シリカがより好ましい。シリカとしては、溶融シリカが好ましい。低誘電特性という観点からは、大量に添加配合すると特に誘電率が高くなってしまうため、好ましくは共重合オリゴマー100質量部に対して500質量部未満、さらに好ましくは400質量部未満の充填剤を用いる。さらには低誘電特性(低誘電率、低誘電損失正接)を改善、向上させるために中空の充填剤や空隙の多い形状の充填剤を添加しても良い。
【0045】
また、無機充填剤の替わりに、高分子量ポリエチレン又は超高分子量ポリエチレン等の有機充填剤を用いることも可能である。有機充填剤はそれ自身架橋していることが耐熱性の観点からは好ましく、微粒子あるいは粉末の状態で配合されるのが好ましい。これら有機充填剤は、誘電率、誘電正接の上昇を抑えることができる。
【0046】
一方、本発明の樹脂組成物に1GHzにおける誘電率が好ましくは4~10000、より好ましくは5~10000の高誘電率絶縁体充填剤を混合し分散することによって誘電正接(誘電損失)の増大を抑制しつつ、誘電率が好ましくは4~20の高誘電率絶縁層を有する絶縁硬化体を作成できる。絶縁硬化体からなるフィルムの誘電率を高くすることによって回路の小型化、コンデンサの高容量化が可能となり高周波用電気部品の小型化等に寄与できる。高誘電率、低誘電正接絶縁層はキャパシタ、共振回路用インダクタ、フィルター、アンテナ等の用途に適する。本発明に用いる高誘電率絶縁体充填剤としては、無機充填剤、又は、絶縁処理を施した金属粒子が挙げられる。具体的な例は、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム等公知の高誘電率無機充填剤であり、他の例は例えば特開2004-087639号公報に具体的に記載されている。
【0047】
<難燃剤>
本発明の樹脂組成物には難燃剤を使用できる。好ましい難燃剤は、低誘電率、低誘電正接を保持する観点からは、リン酸エステル又はこれらの縮合体等の公知の有機リン系や公知の臭素系難燃剤や赤リンである。特にリン酸エステルの中でも、分子内にキシレニル基を複数有する化合物が、難燃性と低誘電正接性の観点から好ましい。
【0048】
さらに難燃剤以外に難燃助剤として三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ等のアンチモン系化合物又はメラミン、トリアリル-1,3,5-トリアジン-2,3,4-(1H,3H,5H)-トリオン、2,4,6-トリアリロキシ1,3,5-トリアジン等の含窒素化合物を添加しても良い。これら難燃剤、難燃助剤の合計は、樹脂組成物100質量部に対して通常は1~100質量部が好ましい。また、前記ポリフェニレンエーテル(PPE)系の低誘電率かつ難燃性に優れる樹脂を難燃剤100質量部に対し、30~200質量部使用してもよい。
【0049】
<表面変性剤>
本発明の樹脂組成物には、充填剤や銅板、配線との密着性向上を目的に、各種の表面変性剤を含んで良い。表面変性剤以外の本発明の樹脂組成物100質量部に対して表面変性剤の使用量は0.01~10質量部が好ましく、0.1~5質量部がより好ましい。表面変性剤としては、各種のシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤等が挙げられる。各種のシランカップリング剤やチタネート系カップリング剤は、単数又は複数を用いても良い。
【0050】
本発明の組成物やワニスは、本発明の効果、目的を阻害しない範囲で、通常樹脂に用いられる添加剤、例えば酸化防止剤、耐候剤、光安定剤、滑剤、相溶化剤、帯電防止材等を含むことができる。本発明の組成物やワニスは、前記の各種添加物を混合・溶解又は溶融して得られるが、混合、溶解、溶融の方法は任意の公知の方法が採用できる。
【0051】
<ワニス>
本発明のワニスは、用いる共重合オリゴマーの組成や分子量の調整や本発明の範囲内での液状単量体や溶剤の一定量以上の添加、あるいは液状の難燃剤の添加により室温、又は100℃以下の加温により粘稠な液状を示すことが可能で、例えば室温で数十万mPa・s以下、好適には2000mPa・s以下、より好適には1000mPa・s以下、最も好適には500mPa・s以下である。具体的には適当な方法で他の素材に塗布、含浸、充填、あるいは滴下し、熱や光により硬化させて目的の硬化体を得ることができる。このような性状は、各種トランスファー成形(圧入成形)したり、基板や半導体デバイス材料の上又は間に塗布したり、押出ラミネーション、又はスピンコート後に硬化したりして絶縁皮膜や絶縁層を形成できる。
【0052】
本発明の組成物を本ワニス用途に使用する場合は、前記の記載にかかわらず、本発明の共重合オリゴマー100質量部に対し10質量部以上、1000質量部以下、好ましくは200質量部以下の単量体や、共重合オリゴマー100質量部に対し10質量部以上、2000質量部以下の溶剤を使用できる。ワニス用の好ましい溶剤は前記の通りである。ワニスは塗布や含浸された後、溶剤(溶媒)等を加熱、風乾等で除去し、その後に硬化してもよく、溶剤の除去と同時に硬化を行ってもよい。
【0053】
<成形体>
本発明の組成物から得られる成形体の形状は任意である。例えば組成物が溶剤を含むワニスの場合、基材上に塗布した後に溶剤を加熱、減圧、風乾等により除去した場合、一般にシートやフィルム状の成形体となる。また、組成物の配合によっては、それ自体で熱可塑性の組成物となり得るので、その場合は公知の樹脂加工方法、例えば押出法によりシートの形状に成形できる。これらの方法で未硬化のシート、フィルムを得ることができる。多孔性の基材や織布、不織布に、本発明の組成物を含浸させ、溶剤を同様に除去し、複合体を得ることもできる。基材上に滴下し、溶剤を除去することで例えば半球状の形状とすることもできる。また、溶剤を含まない場合は、組成物を硬化剤が作用しない温度条件下で加熱し溶融して成形し、冷却することで同様な成形体を作成もできる。シートは、シート形状を維持できる程度に未硬化(半硬化)であるか、又は完全硬化後のものであってもよい。組成物の硬化の程度は、公知の動的粘弾性測定法(DMA、Dynamic Mechanical Analysis)により定量的に測定可能である。
【0054】
<硬化>
本発明のワニスを包含する組成物の硬化は含まれる硬化剤の硬化条件(温度、時間、圧力)を参考に、公知の方法で硬化を行うことができる。用いられる硬化剤が過酸化物の場合は、過酸化物ごとに開示されている半減期温度等を参考に硬化条件を決定することができる。
【0055】
<組成物から得られた硬化体>
10~30GHz又は25~40GHzの測定範囲において、特に好ましくは10GHzにおいて、本発明の、ワニスを包含する組成物から得られる硬化体の誘電率は4.0以下2.0以上が好ましく、3.0以下2.0以上がより好ましく、2.5以下2.0以上が最も好ましい。誘電正接は0.005未満0.0003以上が好ましく、0.003以下0.0005以上がより好ましい。また、得られた硬化体の体積抵抗率は、好ましくは1×1015Ω・cm以上である。これらの値は、例えば、3GHz以上の高周波用電気絶縁材料として好ましい値である。本発明の組成物に用いられる共重合オリゴマーは比較的軟質で引張伸びに富むために、これを用いた組成物から得られる硬化体は、十分な力学物性を示しつつ、比較的軟質で耐衝撃性が高く、基材の熱膨張に追従できる特徴を有することができる。すなわち、本発明の硬化体は室温(23℃)で測定した引張弾性率で好ましくは3GPa未満、5MPa以上、より好ましくは10MPa以上、さらにCCL等の基板用途ではより好ましくは50MPa以上である。また引張破断強度が好ましくは50MPa未満、5MPa以上、より好ましくは15MPa以上、かつ引張破断点伸びが好ましくは10%以上、さらに好ましくは30%以上である。引張破断点伸びは300%未満が好ましい。本発明の組成物の硬化体は、実用上十分な耐熱性を有することができる。
【0056】
<本発明の樹脂組成物又は組成物の用途一般>
本発明の樹脂組成物又は組成物は、カバーレイ、ソルダーレジスト、ビルドアップ材、層間絶縁剤、層間接着剤として用いることができる。さらにプリント基板、フレキシブルプリント基板、CCL(銅張積層板)基板、FCCL(フレキシブルカッパークラッドラミネート)基板として用いることができる。さらに、ビルドアップフィルム、ボンディングシート、カバーレイシート、フリップチップボンダー用のバンプシート、あるいは基板用の電気絶縁層として用いることができる。
【0057】
<組成物の未硬化シート又は部分硬化シートとしての用途>
本発明の組成物の未硬化シート又は部分硬化シートは、高周波用電気絶縁材料として好適に用いることができる。例えばビルドアップフィルム、ボンディングシート、カバーレイシート、フリップチップボンダー用のバンプシートあるいは基板用の絶縁層として好適に使用することができる。従来使用されてきたエポキシ樹脂やシリコーン樹脂の代わりとして、本組成物をこれらのフィルム又はシートとして用いて、硬化処理を行い、低誘電率、低誘電損失の硬化マトリクス相を形成することができる。シートの厚さは一般的に1~300ミクロンである。本シートは、ガラスクロスやセラミックス繊維等の織布、不織布を含んでいても、含浸させてもよく、又はこれらと多層になっていても良い。また、携帯電話等のアンテナケーブルとして、従来の同軸ケーブルの代わりに本シートで一部又は全部が絶縁された、柔軟な折り曲げ可能な配線を使用することができる。例えば、LCP(液晶ポリマー)やPPEシートと本発明のシート又はBステージシート(カバーレイシート)で配線を被覆絶縁して使用することができる。
【0058】
本発明の組成物を用いて得られた硬化体が絶縁層である多層配線基板は、誘電損失が少ない高周波特性の優れた配線基板となり得る。この場合、低誘電損失性以外にハンダに耐えうる耐熱性と、ヒートサイクルあるいは熱膨張差による応力に耐えうる、ある程度の軟質性と伸び、耐衝撃性がメリットとなる。例えば、ガラスや石英からなるクロス、不織布、フィルム材、セラミック基板、ガラス基板、エポキシ等の汎用樹脂板、汎用積層板等のコア材と本硬化体からなる絶縁層付導体箔をラミネート、プレスすることで作製することが可能である。またコア材に硬化性樹脂組成物を含むスラリー、又は溶液を塗布し乾燥、硬化させ絶縁層を形成しても良い。絶縁層の厚さは一般的に1~300ミクロンである。この様な多層配線基板は、多層化、集積化して用いることも可能である。
【0059】
本発明の硬化性樹脂又は硬化性樹脂組成物を硬化して得られる硬化体は、前記のように電気絶縁材料として好適に使用でき、特にポッティング材、表面コート剤、カバーレイ、ソルダーレジスト、ビルドアップ材、アンダーフィル、充填絶縁剤、層間絶縁剤、層間接着剤の硬化体として、あるいは硬化体としてプリント基板、フレキシブルプリント基板、CCL(銅張積層板)基板、FCCL(フレキシブルカッパークラッドラミネート)基板として、あるいはビルドアップフィルム、ボンディングシート、カバーレイシート、フリップチップボンダー用のバンプシートの硬化体として電気絶縁材料、特に高周波用電気絶縁材料として使用することができる。
【0060】
また本発明の別の実施形態では、上記のオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマーを含み、300℃における貯蔵弾性率が5×105Pa以上、かつ23℃、10~30GHzの測定範囲で誘電率が2.5以下2.0以上、誘電正接が0.003以下0.0005以上である、電気絶縁材料も提供できる。
【0061】
本発明の未硬化又は半硬化の熱可塑性の樹脂組成物は、特に接着剤塗布や接着処理を行わなくとも、加熱加圧処理で配線用の銅箔と接着させることが可能である。ここで銅箔とは、銅の配線を含む概念である。特に原料である前記オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマーにおいて、好ましくは芳香族ビニル化合物含量が10質量%以上の共重合オリゴマーを用いた場合、及び/又は、オレフィンがエチレン単独である場合、又は含まれるエチレンに対するαオレフィンの含量が6質量%以下、好ましくは4質量%以下の場合、日本工業規格(JIS) C6481:1996に準じた測定で、1.0N/mm以上の剥離強度を与えることができる。一般には、接着剤や接着処理を行うことで、銅張積層シート等の積層体の誘電特性は悪化することが知られており、そのような処理を行わなくとも、日本工業規格(JIS) C6481:1996に準じた測定で、1.0N/mm以上の剥離強度を与えることが好ましい。このように、本発明の未硬化又は半硬化の熱可塑性の樹脂組成物は、特に接着剤塗布や接着処理を行わなくとも、加熱加圧処理等の硬化処理で配線用の銅箔と接着させることが可能である。しかし本発明においては、銅箔やその他部材との接着性付与に関して、さらに前記「表面変性剤」を添加することを含む他の接着性付与対策(接着剤塗布や接着処理等)を実施することを何ら妨げるものではない。
【0062】
<共重合オリゴマーの製造方法>
本共重合オリゴマーを合成するには、オレフィン、芳香族ビニル化合物、芳香族ポリエンの各単量体を任意の方法で共重合することにより製造できる。また、以下の製造方法で得られた重合液は、そのままワニス又はその原料として使用することも可能である。
【0063】
以下の一般式(1)で表される遷移金属化合物と助触媒とから構成されるシングルサイト配位重合触媒を用いると、より低い重合温度で、すなわちより低い重合圧力下で、水素等の連鎖移動剤を使用せずに、本発明の数平均分子量を満たす、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマーを製造できるため好ましい。
【0064】
式(1)
【化1】
ここで式中のMはジルコニウム又はハフニウムである。
Cp1、Cp2は置換基を有しないシクロペンタジエニル基であるか、又は環状構造を有しないアルキル置換基(好ましくは炭素数1~3個)を1個又は2個有するシクロペンタジエニル基である。またCp1、Cp2基のうちひとつは置換基を有しないインデニル基であるか、又は環状構造を有しないアルキル置換基(好ましくは炭素数1~3個)を1個又は2個有するインデニル基であってもよい。Cp1とCp2は互いに同一であっても異なっていてもよい。より低分子量のオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマーを製造するためには、好ましくはCp1、Cp2は共に、置換基を有しないシクロペンタジエニル基であるか、又は環状構造を有しないアルキル置換基(好ましくは炭素数1~3個)を1個又は2個有するシクロペンタジエニル基である。
またYは、Cp1、Cp2と結合を有し、水素原子若しくは置換基を有する炭素、珪素、ゲルマニウム又は硼素であるが、置換基は互いに異なっていても同一でも、シクロヘキシル基等の環状構造を有していてもよい。置換基は、好ましくはアルキル基若しくはフェニル基等の置換基をいう。
Xは、互いに同一でも異なっていてもよく、水素、塩素、臭素等のハロゲン、メチル基、エチル基等のアルキル基、及びフェニル基等のアリール基からなる群から選択されることが好ましい。アリール基は、ベンジル基等のアルキルアリール基を含んでもよい。
また2つのXが互いに結合して、ブタジエン基やイソプレン基等のジエン基を構成しても良い。
【0065】
このような遷移金属化合物としては、例えば、ジメチルメチレンビスシクロペンタジエニルジルコニウムジクロライド、ジフェニルメチレンビスシクロペンタジエニルジルコニウムジクロライド、ジメチルメチレン(シクロペンタジエニル)(1-インデニル)ジルコニウムジクロライド、ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(1-インデニル)ジルコニウムジクロライドが挙げられる。
【0066】
本発明のシングルサイト配位重合触媒において、助触媒としては従来遷移金属化合物と組み合わせて用いられている公知の助触媒を使用することができる。そのような助触媒として、メチルアルミノキサン(又はメチルアルモキサン又はMAOと記す)等のアルモキサン、又は硼素化合物が好適に用いられる。必要に応じて、これらアルモキサンや硼素化合物と共に、トリイソブチルアルミニウムやトリエチルアルミニウム等のアルキルアルミニウムを用いてもよい。かかる助触媒の例としては、欧州特許出願公開第0872492A2号明細書、特開平11-130808号公報、特開平9-309925号公報、国際公開第00/20426号、欧州特許出願公開第0985689A2号明細書、特開平6-184179号公報に記載されている助触媒やアルキルアルミニウム化合物が挙げられる。
【0067】
アルモキサン等の助触媒は、遷移金属化合物の金属に対し、アルミニウム原子/遷移金属原子比で0.1~100000が好ましく、10~10000がより好ましい。0.1以上だと有効に遷移金属化合物を活性化出来、100000以下だと経済的に有利となる。助触媒として硼素化合物を用いる場合には、硼素原子/遷移金属原子比で0.01~100が好ましく、0.1~10がより好ましく、1が最も好ましい。0.01以上だと有効に遷移金属化合物を活性化出来、100以下だと経済的に有利となる。遷移金属化合物と助触媒は、重合設備外で混合、調製しても、重合時に設備内で混合してもよい。
【0068】
<共重合オリゴマーの製造>
本発明の共重合オリゴマーは、オレフィン、芳香族ビニル化合物、芳香族ポリエンの各原料モノマーと上記遷移金属化合物及び助触媒からなるシングルサイト配位重合触媒を接触させる。その順序、方法については公知の任意の方法が用いられる。例えば、国際公開第00/37517号、特開2009-161743号公報、特開2010-280771号公報に記載の共重合体の製造方法を準用して共重合オリゴマーを製造できる。
【0069】
上記遷移金属化合物及び助触媒からなるシングルサイト配位重合触媒を用いると、例えば連鎖移動剤を使用しなくても、本発明の低分子量の共重合オリゴマーを製造することが出来るが、例えばより分子量が低い共重合オリゴマーを製造するために連鎖移動剤を使用することに何ら問題はない。このような連鎖移動剤としては、いわゆるシングルサイト配位重合触媒とともに用いられている公知の連鎖移動剤を使用することが可能で、例えば水素やトリイソブチルアルミニウム等のアルキルアルミニウム類、Chung T. C.: Macromolecules, 26, 3467 (1993)に記載の9-BBN等が挙げられる。
【0070】
製造方法としては溶媒を用いずに液状モノマー中で重合させる方法、あるいはペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、メシチレン、リモネン、クロロ置換ベンゼン、クロロ置換トルエン、塩化メチレン、クロロホルム等の飽和脂肪族、又は芳香族炭化水素、又はハロゲン化炭化水素の単独、又は混合溶媒を用いる方法がある。好ましくは混合アルカン系溶媒、シクロヘキサン、トルエン、エチルベンゼン等を用いる。重合形態は溶液重合、スラリー重合いずれでもよい。また、必要に応じ、バッチ重合、連続重合、予備重合、多段式重合等の公知の方法を用いることができる。
【0071】
単数や連結された複数のタンク式重合缶やリニアやループの単数、連結された複数のパイプ重合設備を用いることも可能である。パイプ状の重合缶には、動的、あるいは静的な混合機や除熱を兼ねた静的混合機等の公知の各種混合機、除熱用の細管を備えた冷却器等の公知の各種冷却器を有してもよい。また、バッチタイプの予備重合缶を有していてもよい。さらには気相重合等の方法を用いることができる。
【0072】
重合温度は、0℃~200℃が好ましい。0℃以上だと重合速度が速く工業的に有利であり、200℃以下だと遷移金属化合物の分解が起こらない。さらに工業的に好ましくは、30℃~160℃、特に好ましくは50℃~160℃である。重合時の圧力は、一般的に1気圧~100気圧が好ましく、1気圧~30気圧がより好ましく、工業的には1気圧~10気圧が最も好ましい。
【0073】
重合終了後に得られた重合液からのオリゴマーの回収は、公知の方法による。工業的に好ましくは、いわゆる生ゴムの回収方法であるスチームストリッピング法やクラムフォーミング法を用いることができる。実験室では、一般に大量のメタノール中でオリゴマーを析出させる方法、いわゆるメタノール析出法が便利である。また、オリゴマーを回収せずに、重合液から溶媒や残留モノマーを、ロータリーエバポレーターやフィルムエバポレーター等によるエバポレーション法によりその全部又は一部を除去し、これを溶剤で希釈しても良く、これらをワニスとして用いることもできる。
【0074】
本発明は別な観点からは、前記一般式(1)で表される遷移金属化合物と助触媒から構成されるシングルサイト配位重合触媒を用いて得られた、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマーを含む硬化体を提供できる。本硬化体に含まれるオレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合オリゴマーは、前記(1)~(4)の条件を満たすことが好ましい。
また本硬化体はさらに、以下の(a)~(c)から選ばれる単数、または複数を含むことが好ましい。
(a)硬化剤
(b)炭化水素系エラストマー、ポリフェニレンエーテル系樹脂、オレフィン-芳香族ビニル化合物-芳香族ポリエン共重合体、芳香族ポリエン系樹脂から選ばれる単数又は複数の樹脂
(c)極性単量体
(b)のなかでは、炭化水素系エラストマー、ポリフェニレンエーテル系樹脂、芳香族ポリエン系樹脂から選ばれる単数又は複数の樹脂が好ましい。
【実施例
【0075】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0076】
合成例、比較合成例で得られた共重合体の分析は以下の手段によって実施した。
【0077】
共重合体中のエチレン、ヘキセン、スチレン、ジビニルベンゼン由来のビニル基単位の含有量の決定は、1H-NMRで、それぞれに帰属されるピーク面積強度から行った。サンプルは重1,1,2,2-テトラクロロエタンに溶解し、測定は、80~130℃で行った。
【0078】
分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)を求めた。測定は以下の条件で行った。
【0079】
(数平均分子量1000以上の場合)
カラム:TSK-GEL MultiporeHXL-M φ7.8×300mm(東ソー社製)を2本直列に繋いで用いた。
カラム温度:40℃
溶媒:THF
送液流量:1.0ml/min.
検出器:RI検出器
【0080】
(数平均分子量1000未満の場合)
カラム:TSKgelG3000HXL φ7.8×300mm1本、TSKgelG2000HXL φ7.8×300mm1本、TSKgelG1000HXL φ7.8×300mm(東ソー社製)4本を直列に繋いで用いた。
カラム温度:40℃
溶媒:THF
送液流量:0.5ml/min.
検出器:RI検出器
【0081】
<架橋度の判定>
シート形状の硬化体をキシレン中に投入し、沸点まで加熱し、1時間リフラックスさせたのちに回収し、シートの溶解が認められなかったサンプルを「架橋した」と判定した(表記は○)。溶解又は部分的に溶解が観測されたサンプルを「架橋不十分」と判定した(表記は×)。
【0082】
<貯蔵弾性率の測定>
動的粘弾性測定装置(TAインスツルメント社、旧レオメトリックス社RSA-G2)を使用し、周波数1Hz、室温から昇温しながら測定し、300℃の貯蔵弾性率を測定した。厚み約0.1~0.3mmの範囲の、測定に差し支えがない均一な厚みのフィルムから測定用サンプル(3mm×40mm)を切り出して厚みを正確に求め、測定を行い、貯蔵弾性率を求めた。測定に関わる主要測定パラメーターは以下の通りである。
測定周波数1Hz
昇温速度3℃/分
サンプル測定長10mm
歪み 0.1%
【0083】
<吸水率>
ASTM D570-98に準拠し測定した。
【0084】
<誘電率及び誘電損失(誘電正接)>
誘電率、誘電正接は空洞共振器摂動法(アジレント・テクノロジー社製8722ES型ネットワークアナライザー、関東電子応用開発社製空洞共振器)を使用し、シートから切り出した1mm×1.5mm×80mmのサンプルを用い、23℃、10GHzでの値を測定した。
また、平衡型円板共振器(キーサイト・テクノロジー社製)を使用し同様に誘電特性の評価を実施した。平衡型円板共振器での誘電特性評価方法は、同一試料(直径3cm、厚0.3mm)を2枚準備し、間に銅箔を挟み共振器内にセットし、25~40GHzに出現したピークの共振周波数(f0)、無負荷Q値(Qu)を測定した。f0より誘電率、Quより誘電正接(tanδc)を付属の解析ソフト(Balanced type circular disk resonator (method) calculator、平衡型円板共振器法解析ソフトウェア)にて算出した。測定温度は23℃、湿度は50%RHであった。
【0085】
<体積抵抗率>
厚さ約0.5mmのフィルムを用い、JIS K6911:2006に従い室温で測定した。
【0086】
<引張試験>
JIS K-6251:2017に準拠し、厚さ約1mmフィルムシートを2号ダンベル1/2号型テストピース形状にカットし、オリエンテック社製テンシロンUCT-1T型を用い、23℃、引張速度500mm/minにて測定し、引張弾性率、引張破断強度、引張破断点伸びを求めた。
【0087】
<触媒(遷移金属化合物)>
以下の実施例では、触媒(遷移金属化合物)として、上記一般式(1)を満たす構造を有するジメチルメチレンビスシクロペンタジエニルジルコニウムジクロライド(イソプロピリデンビスシクロペンタジエニルジルコニウムジクロライド、構造は下記式(2)参照)を用いた。
【0088】
式(2)
【化2】
【0089】
<共重合オリゴマーの製造>
合成例O-1、O-2、O-3
<エチレン-ヘキセン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合オリゴマー、及びエチレン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合オリゴマーの合成>
特開平9-40709号公報、特開平9-309925号公報、特開2009-161743号公報、及び特開2010-280771号公報記載の製造方法を参考に、触媒としてジメチルメチレンビスシクロペンタジエニルジルコニウムジクロライド、助触媒として修飾メチルアルミノキサン(東ソー・ファインケム社製、MMAO-3Aトルエン溶液)、溶媒としてシクロヘキサン、原料としてスチレン、ジビニルベンゼン、エチレン、必要に応じて1-ヘキセンを用い、容量10L、攪拌機及び加熱冷却用ジャケット付のオートクレーブを使用して重合を行った。得られた重合液に、1-イソプロパノールを投入し、その後、大量のメタノールを投入して共重合オリゴマーを回収した。この共重合オリゴマーを、大きな容器に薄く拡げ30℃で2昼夜真空乾燥した。原料組成、重合温度を変更し、表1に示すO-1~2の共重合オリゴマーを得た。O-2、O-3は1-ヘキセンを使用せずに合成した。オレフィン単量体単位と芳香族ビニル化合物単量体単位と芳香族ポリエン単量体単位の合計を100質量%とした。表1に共重合オリゴマーの組成、数平均分子量を示す。
【0090】
合成例O-4
特開平9-309925号公報、特開2009-161743号公報、特開2010-280771号公報記載の製造方法を参考に、触媒としてrac-ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(1-インデニル)ジルコニウムジクロライド、助触媒として修飾メチルアルミノキサン(東ソー・ファインケム社製、MMAO-3Aトルエン溶液)、溶媒としてシクロヘキサン、原料としてスチレン、ジビニルベンゼン、エチレンを用い、容量10L、攪拌機及び加熱冷却用ジャケット付のオートクレーブを使用して重合を行った。得られた重合液に、1-イソプロパノールを投入し、その後、大量のメタノールを投入して共重合オリゴマーを回収した。この共重合オリゴマーを、上記と同様に30℃で2昼夜真空乾燥した。
【化3】
【0091】
合成例P-1
また比較例として、特開2009-161743号公報、特開2010-280771号公報記載の製造方法を参考に、触媒として、上記一般式(1)を満たさない構造であるRac-ジメチルメチレンビス(4,5-ベンゾ-1-インデニル)ジルコニウムジクロライド(構造は下記式(3)参照)、助触媒として修飾メチルアルミノキサン(東ソー・ファインケム社製、MMAO-3Aトルエン溶液)、溶媒としてシクロヘキサン、原料としてスチレン、ジビニルベンゼン、エチレンを用い、上記合成例O-1~4のオリゴマーと同様にして合成を行い、共重合体(コポリマー)P-1を得た。表1に共重合体の組成、数平均分子量を示す。Rac-ジメチルメチレンビス(4,5-ベンゾ-1-インデニル)ジルコニウムジクロライドは、シクロペンタジエニル基を有しないため、上記一般式(1)を満たさない。
【0092】
式(3)
【化4】
【0093】
合成例P-2
特開平9-309925号公報、特開2009-161743号公報、及び特開2010-280771号公報記載の製造方法を参考に、触媒としてRac-ジメチルメチレンビス(1-インデニル)ジルコニウムジクロライド(構造は下記式(4)参照)、助触媒として修飾メチルアルミノキサン(東ソー・ファインケム社製、MMAO-3Aトルエン溶液)、溶媒としてシクロヘキサン、原料としてスチレン、ジビニルベンゼン、エチレンを用い、容量10L、攪拌機及び加熱冷却用ジャケット付のオートクレーブを使用して重合を行った。得られた重合液に、1-イソプロパノールを投入し、その後、大量のメタノールを投入して共重合体を回収した。この共重合オリゴマーを、上記と同様に30℃で2昼夜真空乾燥した。Rac-ジメチルメチレンビス(1-インデニル)ジルコニウムジクロライドは、シクロペンタジエニル基を有しないため、上記一般式(1)を満たさない。
【0094】
式(4)
【化5】
【0095】
また、原料は以下の通りとした。
1,2-PBdは日本曹達株式会社品B3000(数平均分子量3200)を用いた。二官能ポリフェニレンエーテルオリゴマー(OPE-2St、数平均分子量1200)を用いた。三菱ガス化学社製のトルエン溶液製品を、さらにトルエンで希釈し、さらに大量のメタノールを加えメタノール析出を行い、風乾後、減圧乾燥することで、粉末状のポリフェニレンエーテルオリゴマーを得て用いた。SEBSは、旭化成ケミカルズ社製H-1041を用いた。硬化剤は、日油株式会社製パークミルD(ジクミルパーオキサイド)を用いた。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2-1】
【0098】
【表2-2】
【0099】
実施例1
加熱、冷却ジャケット、攪拌翼付きの容器を用い、合成例で得られたO-1(エチレン-ヘキセン-スチレン-ジビニルベンゼン共重合オリゴマー)と溶剤(トルエン)を約60℃に加熱して攪拌し共重合オリゴマーを溶解した。さらに、硬化剤パークミルD(ジクミルパーオキサイド、日油株式会社製)を、硬化剤、溶剤を除く樹脂組成物(実施例1は共重合オリゴマー)100質量部に対して1質量部加えて溶解し攪拌混合しワニス状の組成物を得た。得られた組成物をガラス板上に設置したPETシート上のテフロン(登録商標)製型枠(枠部分長さ7cm、幅7cm、厚さ0.2mm、0.5mm、又は1.0mm)に流し込み、ホットプレート上で50℃で風乾し、さらに真空乾燥機中にて70℃で1時間乾燥させ、未硬化のシートを得た。さらにその上にPETシートを設置し、ガラス板で挟んで、乾燥機中120℃30分、150℃30分、その後200℃120分加熱処理した。終了後、硝子板及び型枠を外し、しなやかな半硬質樹脂状のフィルムとして硬化体を得た。
【0100】
実施例2~9、比較例1~6
実施例1と同様の手順で、表2の配合(表中の単位は質量部)で硬化性樹脂組成物を調製し、同様の手順で加熱処理を行い、実施例、比較例の組成物のフィルム状硬化体を得た。フィルム状硬化体について、硬化体の状況を観察した。
【0101】
<使用材料>
1,2-PBd B3000:液状ポリブタジエン、日本曹達社製「B-3000」、数平均分子量3200、粘度210Poise(45℃)
二官能ポリフェニレンエーテルオリゴマー(OPE-2St):両末端にビニルベンジル基を有する変性ポリフェニレンエーテル、三菱ガス化学社製、数平均分子量1200
SEBS H-1041:水添スチレン系熱可塑性エラストマー(SEBS)、旭化成社製「タフテックH1041」、数平均分子量58000
【0102】
実施例1~9で得られた未硬化の組成物は粘稠な液体(ワニス状)であった。そのため、室温下、あるいは少し加温することで容易に流動させることが可能で、塗布や多孔質素材への含浸が可能であった。
【0103】
実施例1~9で得られた硬化性樹脂組成物の硬化体の評価を行った。硬化シートは何れも沸騰キシレンに溶解せず、その形状を維持したことから、十分に架橋が進行している。貯蔵弾性率(300℃)も好ましい値である2×106Pa以上であった。
【0104】
また、共重合オリゴマー単独の硬化体(実施例1、2、5、7)は、共重合体単独(比較例4)の硬化体よりも高い貯蔵弾性率(300℃)を示した。別の共重合体単独の硬化体である比較例1は、貯蔵弾性率は測定不能であった。共重合オリゴマーを含む組成物の硬化体は、同じ割合の共重合体を含む組成物の硬化体よりも高い貯蔵弾性率(300℃)を示した(実施例4と比較例5、実施例6、8と比較例6)。
【0105】
また、(b)成分を添加した実施例について引張試験を行った結果、いずれも3GPa未満、3MPa以上の引張弾性率を示した。シートの引張破断強度は何れも5MPa以上50MPa未満の範囲であり、引張破断点伸びは10%以上300%未満の範囲であった。これにより(b)成分の添加による力学的特性の向上が裏付けられた。本発明の硬化体の誘電率は何れも、3.0以下2.0以上、誘電正接は、0.003以下0.0005以上を示した。硬化体フィルムの吸水率はいずれも0.1質量%未満であり、体積抵抗率は1×1015Ω・cm以上であった。
【0106】
比較例1で得られた組成物の硬化体シートは、沸騰キシレン中で部分的に溶解しており架橋度は不足と判定された。比較例1の硬化体シートは、高温下で貯蔵弾性率が低くなりすぎたため、貯蔵弾性率の測定中250℃付近で破断してしまい、300℃での測定が不能であった。
【0107】
比較例2で得られた組成物の硬化体シートは固くひび割れが発生しており、その後の各種測定は行わなかった。
【0108】
比較例3で得られたシートの誘電正接は、本発明の範囲を満たしていなかった。したがって比較例3の硬化体シートの貯蔵弾性率の測定は省略した。
【0109】
比較例4、5、6で得られたシートの貯蔵弾性率(300℃)は本発明の好ましい範囲を満たしていなかった。
【0110】
<ワニスの粘度>
各実施例、比較例で得られたワニス中の樹脂濃度と、及びワニスの粘度を表に記載した。測定は回転式レオメータ(MCR302:Anton Paar社製)を用い、25℃、剪断速度1sec-1で測定した。表中◎(excellent)は100mPa・s未満、〇(good)は100以上500mPa・s未満、△(fair)は500以上2000mPa・s未満、×(NG)は2000mPa・s以上である。実施例1~4で得られたワニスは樹脂濃度33質量%以上の濃度で◎であり非常に優れた塗工性、含浸性を、実施例5~9で得られたワニスは樹脂濃度33質量%以上の濃度で〇であり優れた塗工性、含浸性を有すると判断した。一方比較例で得られた共重合体を含むワニスは相対的に粘度が高く、塗工性、含浸性が不足すると判断した。
【0111】
硬化体シートの線膨張率(CTE)を測定した。
<CTE(線膨張率)>
CTEはJPCA規格「電子回路基板規格 第3版」第16項プリント配線板用材料規格を参考に、熱機械的分析装置(TMA:Thermomechanical Analyzer、BRUKER AXS社製、現ネッチ・ジャパン社製)を使用し、幅3~5mm、厚さ0.5~0.6mm、チャック間15~20mm、引張り加重10g、昇温速度:10℃/分の条件で測定し、25℃~150℃の間の平均値を求めた。
オリゴマーの単独硬化体である実施例2、5、7で得られた硬化体シートのCTE値はそれぞれ60ppm、85ppm、100ppmであった。一方、共重合体の単独硬化体である比較例1で得られた硬化体シートは>500ppm以上であり、比較例4で得られたシートは約350ppmであった。
【0112】
以上の結果より、本発明の硬化性樹脂組成物を硬化した硬化体は十分に架橋しており、高温の力学物性も高い。室温下で優れた伸び(靱性)と強度、特定の範囲の弾性率、と同時に優れた低誘電率及び低誘電正接値、低い吸水性と高い絶縁性を示す。未硬化の組成物は流動性を有するワニス状であり、粘度が低く塗布や含浸が容易であり、各種形状に成形し硬化することで、シートを含む様々な形状にすることが容易であり、特に高周波用の電気絶縁材料として好適に用いることができる。本発明の組成物は、製膜性等の成形性や成形加工性に優れ、低誘電率、低誘電損失で、体積抵抗が高く室温及び高温で力学強度が高く、靱性(伸び)や強度、耐熱性、低い吸水性に優れる硬化体を与えることができる。
【0113】
本発明の組成物は、ワニスとして他の部材と積層、塗布コーティング、含浸等を行い、硬化させて用いることができるため、層間接着剤(層間接着層)、層間絶縁剤(層間絶縁層)として好適に使用できる。本発明の組成物は、ワニスを乾燥し溶剤を除くことで、未硬化の状態で様々な形状に成形することができ、例えば未硬化のシートとすることも可能である。本発明の組成物は硬化させ、プリント基板、フレキシブルプリント基板、FCCL(フレキシブルカッパークラッドラミネート)基板、層間接着層、層間絶縁層として使用できる。さらに、CCL(銅張積層板)基板、PCB基板用の絶縁層として使用できる。本発明の硬化体は、薄膜の電気絶縁材料、高周波用の電気絶縁材料として好適に使用できる。また本発明の硬化体は、ミリ波レーダー用の基板やアンテナ部材、配線材として好適に使用することができる。