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特許7569405炉心計算方法、炉心計算プログラムおよび炉心計算装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】炉心計算方法、炉心計算プログラムおよび炉心計算装置
(51)【国際特許分類】
   G21C 17/00 20060101AFI20241009BHJP
   G06F 9/455 20180101ALI20241009BHJP
【FI】
G21C17/00 210
G06F9/455
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023044629
(22)【出願日】2023-03-20
(62)【分割の表示】P 2019161216の分割
【原出願日】2019-09-04
(65)【公開番号】P2023076513
(43)【公開日】2023-06-01
【審査請求日】2023-04-14
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000165697
【氏名又は名称】原子燃料工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(72)【発明者】
【氏名】大岡 靖典
(72)【発明者】
【氏名】長野 浩明
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-186380(JP,A)
【文献】特開平05-196793(JP,A)
【文献】特開2007-183268(JP,A)
【文献】特開2019-101961(JP,A)
【文献】特開平10-020072(JP,A)
【文献】特開平07-198887(JP,A)
【文献】特開平04-113297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 17/00 - 17/14
G06F 9/455
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉の炉心パラメータを評価するための炉心計算方法であって、
異なる物理モデルに基づいて作成された2つの炉心計算プログラムの一方による評価結果から他方における評価結果に相当する評価結果を予測するように構成されており、
前記2つの炉心計算プログラムの一方を第1の炉心計算プログラム、他方を第2の炉心計算プログラムとして、
前記第1の炉心計算プログラムに基づいて第1の炉心計算を行う第1の炉心計算工程と、
前記第2の炉心計算プログラムに基づいて第2の炉心計算を行う第2の炉心計算工程と、
前記第1の炉心計算工程における評価結果と、前記第2の炉心計算工程における評価結果とを整理および保存する整理保存工程と、
前記第1の炉心計算工程における評価結果と、前記第2の炉心計算工程における評価結果とを用いて、機械学習により相関モデルを形成するモデル化工程と、
前記相関モデルに基づいて、前記第1の炉心計算における評価結果から前記第2の炉心計算における評価結果を予測する、または、前記第2の炉心計算における評価結果から前記第1の炉心計算における評価結果を予測する予測プログラムを作成する予測プログラム作成工程とを備えており、
前記予測プログラムに、所望する炉内での燃料配置および炉心状態の少なくとも一方が異なる燃料装荷パターンに対して行った前記第1の炉心計算による評価結果、または、前記第2の炉心計算における評価結果を入力することにより、前記第2の炉心計算による評価結果、または、前記第1の炉心計算における評価結果に相当する評価結果が出力されるように構成されていることを特徴とする炉心計算方法。
【請求項2】
前記第1の炉心計算工程、前記第2の炉心計算工程のいずれかが、複数の炉心計算工程から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の炉心計算方法。
【請求項3】
原子炉の炉心パラメータを評価するための炉心計算方法であって、
相対的に近似が多い物理モデルに基づく炉心計算プログラムによる評価結果から相対的に近似が少ない物理モデルに基づく炉心計算プログラムにおける評価結果に相当する評価結果を予測するように構成されており、
想定される燃料装荷パターンのそれぞれに対して、
前記相対的に近似が多い物理モデルに基づく炉心計算プログラムを第1の炉心計算プログラムとし、前記相対的に近似が少ない物理モデルに基づく炉心計算プログラムを第2の炉心計算プログラムとして、
前記第1の炉心計算プログラムに基づいて第1の炉心計算を行うと共に、
前記第2の炉心計算プログラムに基づいて第2の炉心計算を行った後、
前記第1の炉心計算で得られた評価結果と、前記第2の炉心計算で得られた評価結果とを整理および保存して、教師データとし、
前記教師データに基づいて、燃料集合体最高燃焼度分布を抽出して、データセットを作成し、その後、前記データセットに対して機械学習を行うことにより、2つの炉心計算に用いる炉心計算プログラムにおける相関関係を得て、相関モデルを形成し、
前記相関モデルに基づいて、前記第1の炉心計算における評価結果から、前記第2の炉心計算における評価結果を予測する予測プログラムを作成し、
前記予測プログラムに、所望する炉内での燃料配置および炉心状態の少なくとも一方が異なる燃料装荷パターンに対して行った前記第1の炉心計算による評価結果を入力することにより、前記第2の炉心計算による評価結果に相当する評価結果を出力させることを特徴とする炉心計算方法。
【請求項4】
前記機械学習が、多層ニューラルネットワークによる深層学習を用いて行う機械学習であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の炉心計算方法。
【請求項5】
原子炉の炉心パラメータを評価するための炉心計算プログラムであって、
異なる物理モデルに基づいて作成された2つの炉心計算プログラムの一方による評価結果から他方における評価結果に相当する評価結果を予測するように構成されており、
前記2つの炉心計算プログラムの一方を第1の炉心計算プログラム、他方を第2の炉心計算プログラムとして、
前記第1の炉心計算プログラムに基づいて第1の炉心計算を行う第1の炉心計算ステップと、
前記第2の炉心計算プログラムに基づいて第2の炉心計算を行う第2の炉心計算ステップと、
前記第1の炉心計算ステップにおける評価結果と、前記第2の炉心計算ステップにおける評価結果とを整理および保存する整理保存ステップと、
前記第1の炉心計算ステップにおける評価結果と、前記第2の炉心計算ステップにおける評価結果とを用いて、機械学習により相関モデルを形成するモデル化ステップと、
前記相関モデルに基づいて、前記第1の炉心計算における評価結果から前記第2の炉心計算における評価結果を予測する、または、前記第2の炉心計算における評価結果から前記第1の炉心計算における評価結果を予測する予測プログラムを作成する予測プログラム作成ステップとを備えており、
前記予測プログラムに、所望する炉内での燃料配置および炉心状態の少なくとも一方が異なる燃料装荷パターンに対して行った前記第1の炉心計算による評価結果、または、前記第2の炉心計算における評価結果を入力することにより、前記第2の炉心計算による評価結果、または、前記第1の炉心計算における評価結果に相当する評価結果が出力されるように構成されていることを特徴とする炉心計算プログラム。
【請求項6】
前記第1の炉心計算ステップ、前記第2の炉心計算ステップのいずれかが複数の炉心計算ステップから構成されていることを特徴とする請求項5に記載の炉心計算プログラム。
【請求項7】
原子炉の炉心パラメータを評価するための炉心計算プログラムであって、
相対的に近似が多い物理モデルに基づく炉心計算による評価結果から相対的に近似が少ない物理モデルに基づく炉心計算における評価結果に相当する評価結果を予測するように構成されており、
想定される燃料装荷パターンのそれぞれに対して、
前記相対的に近似が多い物理モデルに基づいて第1の炉心計算を行う第1の炉心計算ステップと、
前記相対的に近似が少ない物理モデルに基づいて第2の炉心計算を行う第2の炉心計算ステップと、
前記第1の炉心計算で得られた評価結果と、前記第2の炉心計算で得られた評価結果とを整理および保存して、教師データとする整理保存ステップと、
前記教師データに基づいて、燃料集合体最高燃焼度分布を抽出して、データセットを作成し、その後、前記データセットに対して機械学習を行うことにより、前記第1の炉心計算で得られる評価結果と前記第2の炉心計算で得られる評価結果の相関関係を得て、相関モデルを形成するモデル化ステップと、
前記相関モデルに基づいて、前記第1の炉心計算における評価結果から、前記第2の炉心計算における評価結果を予測する予測プログラムを作成する予測プログラム作成ステップと、
前記予測プログラムに、所望する炉内での燃料配置および炉心状態の少なくとも一方が異なる燃料装荷パターンに対して行った前記第1の炉心計算による評価結果を入力することにより、前記第2の炉心計算による評価結果に相当する評価結果を出力させるように構成されていることを特徴とする炉心計算プログラム。
【請求項8】
前記機械学習が、多層ニューラルネットワークによる深層学習を用いて行う機械学習であることを特徴とする請求項5ないし請求項7のいずれか1項に記載の炉心計算プログラム。
【請求項9】
原子炉の炉心パラメータを評価するために使用される炉心計算装置であって、
請求項5ないし請求項8のいずれか1項に記載の炉心計算プログラムが搭載されており、
炉心計算に必要なデータを入力するためのデータ入力手段と、
入力されたデータに基づいて前記予測プログラムにより計算された結果を、炉心パラメータの評価値として出力するデータ出力手段とを備えていることを特徴とする炉心計算装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉の炉心計算技術、詳しくは、精度高い炉心計算を効率的に行う炉心計算方法、炉心計算プログラムおよび炉心計算装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子炉の炉心設計や炉心管理に際しては、燃料・炉心の安全性や経済性などを司る炉心パラメータを評価するための炉心計算が欠かせない。しかしながら、炉心に装荷される燃料集合体は数百体と非常に多く、炉心計算には多大の時間を要するため、従来は、一般的に、近似が多い物理モデルを用いた炉心計算プログラムにより評価されていた。
【0003】
具体的な一例としては、例えば、空間メッシュとして、PWRの場合には1/4燃料集合単位、BWRの場合には燃料集合体単位を採用し、中性子エネルギー群数は2群で、中性子拡散理論を採用し、核種燃焼計算についてはマクロ燃焼モデルを採用した炉心計算プログラムにより評価が行われていた。
【0004】
しかしながら、計算機能力の向上に伴い、近似が多い物理モデルを用いた炉心計算プログラムは非常に短時間で行うことができるようになった。一方、近年、核燃料の多様化やプラント運用の高度化が図られてきており、これに伴って、炉心計算において、空間やエネルギー等の離散化パラメータを精緻化し、近似が少ない高度な物理モデルを想定して、従来に比べて多種多様な炉心パラメータを高い精度で評価する炉心計算プログラムの開発が行われている(例えば、特許文献1、2および非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-188384号公報
【文献】特開2008-51509号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】M.Tatsumi,A.Yamamoto,“Advanced PWR Core Calculation Based on Multi-group Nodal-transport Method in Three-dimensional Pin-by-Pin Geometry,”,J.Nucl.Sci.Technol.,40,pp.376-387(2003).
【文献】A.Yamamoto,A.Giho,T.Endo,”Recent developments in the GENESIS code based on the Legendre polynominal expansion of angular flux method,”,Nucl.Eng.Technol.,49,pp.1143-1156(2017).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような近似が少ない高度な物理モデルを適用した炉心計算プログラムには、次のような問題があった。
【0008】
即ち、多種多様な炉心パラメータを高い精度で評価するためには、計算が複雑になり、計算コストの増大化が避けられない。また、解析結果が得られるまでの計算時間が長くなって、計算の待ち時間が発生することにより、業務フローをスムーズに行うことができなくなり、迅速な結果が求められる場面に十分に対応することができない。
【0009】
特に、燃料装荷パターンを決定する炉心設計では、限られた時間内に、より最適化された燃料装荷パターンを探査して決定する必要があり、多くの燃料装荷パターンで炉心計算を行うことが求められる。
【0010】
しかし、多大な計算コストが掛かる精緻な炉心計算プログラムを使用するにしても、十分な評価結果を得るためには燃料装荷パターン数が少なすぎて、十分な検討が行えていないというのが現状であった。
【0011】
そこで、本発明は、核燃料の多様化やプラント運用の高度化に対応した炉心計算であっても、合理的に効率よく炉心計算を行い、短時間に精度高く炉心パラメータを評価することができる炉心計算技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題の解決について鋭意検討を行い、以下に記載する発明により上記課題が解決できることを見出した。
【0013】
本発明者は、計算機能力の向上に伴い、現在では、従来の近似が多い物理モデルを採用した炉心計算プログラムによる炉心計算を非常に短時間で行うことができるようになっていることに着目した。
【0014】
具体的には、上記した近似が多い物理モデルを採用した炉心計算プログラムの場合、現在の計算機能力であれば、1運転サイクルの計算を1分以内に完了させることができる。しかし、この炉心計算プログラムでは、空間及びエネルギーのメッシュが粗く、中性子挙動評価モデルや核種燃焼モデルに対して近似が多いため、例えば、厳密な炉心状態に応じた燃料集合体中の燃料棒内や、装荷型可燃性毒物内の原子数密度等の炉心パラメータの評価を精度良く行うことが難しい。
【0015】
そこで、本発明者は、近似が多い物理モデルを採用した炉心計算プログラムと近似が少ない物理モデルを採用した炉心計算プログラムのように、物理モデルが異なる2つの炉心計算プログラムの一方を第1の炉心計算プログラム、他方を第2の炉心計算プログラムとして、第1の炉心計算プログラムに基づく計算により、解析結果に対してある程度の目処を付けた後、第2の炉心計算プログラムによる計算結果との相関関係を予め知っておけば、一方の炉心計算プログラムに基づく計算結果から他方の炉心計算プログラムによる計算結果を予測して、炉心パラメータの評価を精度良く行うことができ、炉心計算の合理化を図ることができると考えた。
【0016】
具体的に、本発明者は、第2の炉心計算プログラムとして、空間メッシュが燃料棒格子単位、中性子エネルギーが9群程度で,中性子輸送理論を採用し,核種燃焼計算はミクロ燃料モデルを採用した精緻な炉心計算プログラムを開発した。この炉心計算プログラムは、燃料棒内原子数密度のような詳細な情報を精度良く評価することができるものの、この炉心計算プログラムだけで炉心計算を行うと、現在の計算機能力であっても、1運転サイクルの計算に数十分を要するため、炉心設計(燃料装荷パターンの探査)を行う観点からは実用的とは言えない。
【0017】
そこで、本発明者は、考えられる燃料装荷パターンに対して、第1の炉心計算プログラムとして、簡易な炉心計算プログラムを使用して評価する一方、第2の炉心計算プログラムとして、精緻な炉心計算プログラムを使用して評価し、得られた2つの評価結果から、その相関性に基づいて所望する燃料装荷パターンに対する第1の炉心計算プログラムによる評価結果から第2の炉心計算プログラムに基づく評価結果に相当する結果が得られると考えた。
【0018】
即ち、2つの炉心計算プログラムには、一定の相関関係があるため、この相関関係を利用して炉心計算の合理化を図ることを考えた。
【0019】
しかしながら、実際に、第1の炉心計算プログラム結果と第2の炉心計算プログラム結果との相関関係から解析を行おうとすると、燃料装荷パターンや炉心状態などの条件によっては、各プログラムが持つ不確かさが拡大して、場合によっては、第1の炉心計算プログラムでの評価結果が参考にならない場合があることが分かった。
【0020】
この各プログラムが持つ不確かさに基づく2つの炉心計算プログラムの評価結果の差異は、多くの実績データに基づいて、エンジニアが分析して取り組むことにより低減させることが可能であるが、その分析はエンジニアの力量に依存する人為的な作業であるため、エンジニアの力量によっては、第2の炉心計算プログラムによる計算を何度も行う必要があり、安全性に関する炉心パラメータの制限値や目標値を満足する燃料装荷パターンを得るまでに、多くのリソースを費やしてしまう。
【0021】
このような状況下において、本発明者は、燃料装荷パターンや炉心条件によって、2つの炉心計算プログラムの評価結果の差異は変化するものの、各々の評価結果には強い相関性があることに鑑み、機械学習技術を用いて最終的な評価結果(精緻な炉心計算プログラムに基づく評価結果に相当する評価結果)を予測する予測プログラムを作成することができれば、所望する燃料装荷パターンに対して、第1の炉心計算プログラム結果から、第2の炉心計算プログラムを用いた場合の評価結果に相当する評価結果を短時間に再現することができると考えた。
【0022】
そして、実験の結果、機械学習技術を用いることにより、第1の炉心計算プログラムを用いた炉心設計結果から第2の炉心計算プログラムを用いた場合に相当する評価結果、具体的には炉心パラメータ評価値を瞬時に得て、合理的な炉心設計を行うことができ、迅速な結果が求められる場面においても、高精度な炉心パラメータ評価値を短時間に得ることが可能となることを確認した。
【0023】
具体的には、まず、想定される数多くの燃料装荷パターン(例えば、約6000個程度)のそれぞれに対して、第1の炉心計算プログラムとして、例えば、近似が多い物理モデルを用いた簡易な炉心計算プログラムを採用して行うこと(第1の炉心計算工程)により得られた評価結果と、第1の炉心計算プログラムとして、例えば、近似が少ない物理モデルを用いた精緻な炉心計算プログラムを採用して行うこと(第2の炉心計算工程)により得られた評価結果とを「教師データ」として取得する。
【0024】
次に、取得された「教師データ」から、抽出プログラムを用いて、2つの炉心計算プログラムによる炉心パラメータ(例えば、サイクル末期燃焼度分布)を抽出し、データセットを作成する。
【0025】
そして、このデータセットに学習プログラム(例えば、多層ニューラルネットワークによる深層学習)を適用して、機械学習を行わせる。これにより、2つの炉心計算プログラムにおける相関関係を得ることができ、相関モデルに基づいて、第1の炉心計算における評価結果から第2の炉心計算における評価結果を予測する予測プログラムを作成することができる。
【0026】
次に、所望する新しい燃料装荷パターンにおける第1の炉心計算プログラム(簡易な炉心計算プログラム)の結果を、この予測プログラムに入力する。これにより、第2の炉心計算プログラム(精緻な炉心計算プログラム)に基づく評価結果に相当する評価結果を、エンジニアの力量に依存することなく、短時間で精度高く出力することができる。
【0027】
そして、さらに検討を行ったところ、第1の炉心計算プログラムと第2の炉心計算プログラムの組合せは、上記した簡易な炉心計算プログラムと精緻な炉心計算プログラムの組合せに限定されず、異なる物理モデルに基づいて作成された2つの炉心計算プログラムを組み合わせればよく、また、第2の炉心計算プログラム結果から第1の炉心計算プログラム結果を予測してもよいことが分かり、本発明を完成するに至った。
【0028】
本発明は、上記した各知見に基づくものであり、請求項1に記載の発明は、
原子炉の炉心パラメータを評価するための炉心計算方法であって、
異なる物理モデルに基づいて作成された2つの炉心計算プログラムの一方による評価結果から他方における評価結果に相当する評価結果を予測するように構成されており、
前記2つの炉心計算プログラムの一方を第1の炉心計算プログラム、他方を第2の炉心計算プログラムとして、
前記第1の炉心計算プログラムに基づいて第1の炉心計算を行う第1の炉心計算工程と、
前記第2の炉心計算プログラムに基づいて第2の炉心計算を行う第2の炉心計算工程と、
前記第1の炉心計算工程における評価結果と、前記第2の炉心計算工程における評価結果とを整理および保存する整理保存工程と、
前記第1の炉心計算工程における評価結果と、前記第2の炉心計算工程における評価結果とを用いて、機械学習により相関モデルを形成するモデル化工程と、
前記相関モデルに基づいて、前記第1の炉心計算における評価結果から前記第2の炉心計算における評価結果を予測する、または、前記第2の炉心計算における評価結果から前記第1の炉心計算における評価結果を予測する予測プログラムを作成する予測プログラム作成工程とを備えており、
前記予測プログラムに、所望する炉内での燃料配置および炉心状態の少なくとも一方が異なる燃料装荷パターンに対して行った前記第1の炉心計算による評価結果、または、前記第2の炉心計算における評価結果を入力することにより、前記第2の炉心計算による評価結果、または、前記第1の炉心計算における評価結果に相当する評価結果が出力されるように構成されていることを特徴とする炉心計算方法である。
【0029】
請求項2に記載の発明は、
前記第1の炉心計算工程、前記第2の炉心計算工程のいずれかが、複数の炉心計算工程から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の炉心計算方法である。
【0030】
請求項3に記載の発明は、
原子炉の炉心パラメータを評価するための炉心計算方法であって、
相対的に近似が多い物理モデルに基づく炉心計算プログラムによる評価結果から相対的に近似が少ない物理モデルに基づく炉心計算プログラムにおける評価結果に相当する評価結果を予測するように構成されており、
想定される燃料装荷パターンのそれぞれに対して、
前記相対的に近似が多い物理モデルに基づく炉心計算プログラムを第1の炉心計算プログラムとし、前記相対的に近似が少ない物理モデルに基づく炉心計算プログラムを第2の炉心計算プログラムとして、
前記第1の炉心計算プログラムに基づいて第1の炉心計算を行うと共に、
前記第2の炉心計算プログラムに基づいて第2の炉心計算を行った後、
前記第1の炉心計算で得られた評価結果と、前記第2の炉心計算で得られた評価結果とを整理および保存して、教師データとし、
前記教師データに基づいて、燃料集合体最高燃焼度分布を抽出して、データセットを作成し、その後、前記データセットに対して機械学習を行うことにより、2つの炉心計算に用いる炉心計算プログラムにおける相関関係を得て、相関モデルを形成し、
前記相関モデルに基づいて、前記第1の炉心計算における評価結果から、前記第2の炉心計算における評価結果を予測する予測プログラムを作成し、
前記予測プログラムに、所望する炉内での燃料配置および炉心状態の少なくとも一方が異なる燃料装荷パターンに対して行った前記第1の炉心計算による評価結果を入力することにより、前記第2の炉心計算による評価結果に相当する評価結果を出力させることを特徴とする炉心計算方法である。
【0031】
請求項4に記載の発明は、
前記機械学習が、多層ニューラルネットワークによる深層学習を用いて行う機械学習であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の炉心計算方法である。
【0032】
請求項5に記載の発明は、
原子炉の炉心パラメータを評価するための炉心計算プログラムであって、
異なる物理モデルに基づいて作成された2つの炉心計算プログラムの一方による評価結果から他方における評価結果に相当する評価結果を予測するように構成されており、
前記2つの炉心計算プログラムの一方を第1の炉心計算プログラム、他方を第2の炉心計算プログラムとして、
前記第1の炉心計算プログラムに基づいて第1の炉心計算を行う第1の炉心計算ステップと、
前記第2の炉心計算プログラムに基づいて第2の炉心計算を行う第2の炉心計算ステップと、
前記第1の炉心計算ステップにおける評価結果と、前記第2の炉心計算ステップにおける評価結果とを整理および保存する整理保存ステップと、
前記第1の炉心計算ステップにおける評価結果と、前記第2の炉心計算ステップにおける評価結果とを用いて、機械学習により相関モデルを形成するモデル化ステップと、
前記相関モデルに基づいて、前記第1の炉心計算における評価結果から前記第2の炉心計算における評価結果を予測する、または、前記第2の炉心計算における評価結果から前記第1の炉心計算における評価結果を予測する予測プログラムを作成する予測プログラム作成ステップとを備えており、
前記予測プログラムに、所望する炉内での燃料配置および炉心状態の少なくとも一方が異なる燃料装荷パターンに対して行った前記第1の炉心計算による評価結果、または、前記第2の炉心計算における評価結果を入力することにより、前記第2の炉心計算による評価結果、または、前記第1の炉心計算における評価結果に相当する評価結果が出力されるように構成されていることを特徴とする炉心計算プログラムである。
【0033】
請求項6に記載の発明は、
前記第1の炉心計算ステップ、前記第2の炉心計算ステップのいずれかが複数の炉心計算ステップから構成されていることを特徴とする請求項5に記載の炉心計算プログラムである。
【0034】
請求項7に記載の発明は、
原子炉の炉心パラメータを評価するための炉心計算プログラムであって、
相対的に近似が多い物理モデルに基づく炉心計算による評価結果から相対的に近似が少ない物理モデルに基づく炉心計算における評価結果に相当する評価結果を予測するように構成されており、
想定される燃料装荷パターンのそれぞれに対して、
前記相対的に近似が多い物理モデルに基づいて第1の炉心計算を行う第1の炉心計算ステップと、
前記相対的に近似が少ない物理モデルに基づいて第2の炉心計算を行う第2の炉心計算ステップと、
前記第1の炉心計算で得られた評価結果と、前記第2の炉心計算で得られた評価結果とを整理および保存して、教師データとする整理保存ステップと、
前記教師データに基づいて、燃料集合体最高燃焼度分布を抽出して、データセットを作成し、その後、前記データセットに対して機械学習を行うことにより、前記第1の炉心計算で得られる評価結果と前記第2の炉心計算で得られる評価結果の相関関係を得て、相関モデルを形成するモデル化ステップと、
前記相関モデルに基づいて、前記第1の炉心計算における評価結果から、前記第2の炉心計算における評価結果を予測する予測プログラムを作成する予測プログラム作成ステップと、
前記予測プログラムに、所望する炉内での燃料配置および炉心状態の少なくとも一方が異なる燃料装荷パターンに対して行った前記第1の炉心計算による評価結果を入力することにより、前記第2の炉心計算による評価結果に相当する評価結果を出力させるように構成されていることを特徴とする炉心計算プログラムである。
【0035】
請求項8に記載の発明は、
前記機械学習が、多層ニューラルネットワークによる深層学習を用いて行う機械学習であることを特徴とする請求項5ないし請求項7のいずれか1項に記載の炉心計算プログラムである。
【0036】
請求項9に記載の発明は、
原子炉の炉心パラメータを評価するために使用される炉心計算装置であって、
請求項5ないし請求項8のいずれか1項に記載の炉心計算プログラムが搭載されており、
炉心計算に必要なデータを入力するためのデータ入力手段と、
入力されたデータに基づいて前記予測プログラムにより計算された結果を、炉心パラメータの評価値として出力するデータ出力手段とを備えていることを特徴とする炉心計算装置である。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、核燃料の多様化やプラント運用の高度化に対応した炉心計算であっても、合理的に効率よく炉心計算を行い、短時間に精度高く炉心パラメータを評価することができる炉心計算技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の一実施の形態に係る炉心計算方法の手順を示すフローチャートである。
図2】本発明の一実施例における評価結果を示す図である。
図3】比較例における評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、実施の形態に基づき、本発明を具体的に説明する。なお、以下においては、近似が多い物理モデルに基づいて作成された簡易な炉心計算プログラムを第1の炉心計算プログラム、近似が少ない物理モデルに基づいて作成された精緻な炉心計算プログラムを第2の炉心計算プログラムとして説明するが、異なる2つの物理モデルの各々に基づいて作成された2つの炉心計算プログラムであれば、特に限定されない。
【0040】
本実施の形態の炉心計算方法は、近似が多い物理モデルに基づいた簡易な炉心計算プログラム(第1の炉心計算プログラム)により炉心計算を行う第1の炉心計算工程と、近似が少ない物理モデルに基づいた精緻な炉心計算プログラム(第2の炉心計算プログラム)により炉心計算を行う第2の炉心計算工程とを用いて、炉心パラメータを評価している。
【0041】
炉心パラメータについては、PWRの場合、想定した各燃料装荷パターンについて、停止余裕、最大線出力密度、出力ピーキング係数、減速材温度係数、出力運転時ほう素濃度、燃料集合体最高燃焼度、最大反応度添加率等を、炉心パラメータとして、それぞれについて適否を評価する。一方、BWRに固有の炉心パラメータには、制御棒の最大反応度価値、最小限界出力比、核熱水力安定性等が挙げられ、また、減速材温度係数に替えてボイド反応度係数を用いる。
【0042】
炉心計算は、想定した燃料装荷パターンの炉心パラメータを、図1のフローチャートに示した手順に従って行う。
【0043】
(1)教師データの取得
先ず、想定される数多くの燃料装荷パターンのそれぞれに対して、近似が多い物理モデルに基づいて簡易な炉心計算プログラム(第1の炉心計算プログラム)を用いて第1の炉心計算を行うと共に、近似が少ない物理モデルに基づいて精緻な炉心計算プログラム(第2の炉心計算プログラム)を用いて第2の炉心計算を行う。
【0044】
次に、得られた第1の炉心計算結果と第2の炉心計算結果とを、教師データとして取得する。
【0045】
(2)データセットの構築
次に、取得された「教師データ」から、抽出プログラムを用いて、2つの炉心計算プログラムによる燃料集合体最高燃焼度分布を抽出することにより、データセットを作成する。
【0046】
(3)相関モデルの作成と予測プログラムの作成
次に、このデータセットに、学習器に予め内蔵されている学習プログラムを適用して、機械学習を行わせる。これにより、2つの炉心計算プログラムにおける相関関係が得られて相関モデルを作成することができるため、この相関モデルに基づいて、第1の炉心計算における評価結果から、第2の炉心計算における評価結果を予測する予測プログラムを作成することができる。
【0047】
なお、機械学習に際しては、多層ニューラルネットワークによる深層学習を適用することが好ましく、これにより、装荷パターン及び炉心条件と炉心パラメータの相関について法則性を把握することが困難なケースでも両者の関係を精度良く近似させることができる。
【0048】
(4)新しい燃料装荷パターンにおける評価
次に、所望する新しい燃料装荷パターンにおける簡易な炉心計算プログラム(第1の炉心計算プログラム)に基づく評価結果を、この予測プログラムに入力する。これにより、精緻な炉心計算プログラム(第2の炉心計算プログラム)に基づく評価結果に相当する評価結果を、エンジニアの力量に依存することなく、短時間で精度高く評価することができる。
【0049】
以上のように、本実施の形態によれば、異なる物理モデルに基づいて作成された2つの炉心計算プログラムを用いて形成された相関モデルから作成された予測プログラムを使用して評価しているため、所望する新しい燃料装荷パターンにおいて、第1の炉心計算における評価結果から第2の炉心計算における評価結果、または、第2の炉心計算における評価結果から第1の炉心計算における評価結果を、容易に高い精度で得ることができる。
この結果、核燃料の多様化やプラント運用の高度化に対応した炉心計算であっても、全体を精緻な炉心計算プログラムで行う場合に比べて、合理的に効率よく炉心計算を行うことができ、しかも、全体を精緻な炉心計算プログラムで行う場合に近い精度で評価することができる。
【0050】
なお、上記において、第1の炉心計算、第2の炉心計算のいずれかが、複数の炉心計算から構成されていてもよい。
【実施例
【0051】
以下、実施例に基づいて、本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下においては、PWR炉心において、炉心設計において安全面から重要であり、各種パラメータの積算情報が含まれているサイクル末期の燃料集合体最高燃焼度分布を対象として評価を行い、全体を精緻な炉心計算により行って得られる評価と対比することにより、本実施の形態における適用性を確認している。
【0052】
[1]実施例
図1に示したフローチャートに記載されている手順に従って、炉心パラメータ評価値を算定した。算定結果を精緻な炉心計算方法を用いて算定した算定結果と対比することにより算定の精度を評価した。
【0053】
1.燃料集合体最高燃焼度分布の算定
燃料装荷パターンを、4ループPWR炉心に対して1/8対称性を有した状態で、PM0001~PM6000まで、6000個作成した。
【0054】
そして、各燃料装荷パターンのそれぞれにおいて、近似の多少に応じて物理モデルが異なる第1の炉心計算プログラム(近似多)と第2の炉心計算プログラム(近似少)、2種類の炉心計算プログラムを用いて、2つの炉心計算結果を教師データとして取得した。
【0055】
具体的に、第1の炉心計算プログラムとしては、空間メッシュが1/4燃料集合単位、中性子エネルギー群数は2群で、中性子拡散理論を採用し、核種燃焼計算はマクロ燃焼モデルを採用した炉心計算プログラムを使用した。一方、第2の炉心計算プログラムとしては、空間メッシュが燃料棒格子単位、中性子エネルギーが9群で,中性子輸送理論を採用し,核種燃焼計算はミクロ燃料モデルを採用した炉心計算プログラムを使用した。
【0056】
次に、上記教師データから、燃料集合体最高燃焼度分布の評価値を抽出して、データセットを構築した。
【0057】
次に、データセットを、学習器に内蔵された多層ニューラルネットワークによる深層学習を用いて行う機械学習に掛け、相関モデルを作成し、この相関モデルを基に予測プログラムを取得した。
【0058】
次に、予測プログラムに、所望する新しい燃料装荷パターンにおける第1の炉心計算結果を入力し、所望する新しい燃料装荷パターンにおける燃料集合体最高燃焼度分布を求めた。なお、この出力は、入力から瞬時に得られた。
【0059】
2.算定結果の検証
予測プログラムによる結果を、全体を第2の炉心計算プログラムによって得られた結果と対比した。結果を図2に示す。なお、図2において、各枡目(四角)はそれぞれ燃料棒格子を示し、記載されている数値は、第2の炉心計算プログラムによる結果に対する予測プログラムによる結果のズレの程度を示しており、下式により求めた。なお、単位は、燃焼度[MWd/t]である。
(第2の炉心計算プログラムによる結果)-(予測プログラムによる結果)
【0060】
図2より、予測プログラムによる計算結果の第2の炉心計算プログラムによる結果との差は、大きくても、±100MWd/t程度に収まっており、本実施例の炉心計算方法を適用することにより、短時間で精度高く結果を出力できることが確認できた。
【0061】
[2]比較例
比較例として、全体を第1の炉心計算プログラムを使用することにより得られた結果を、全体を第2の炉心計算プログラムを使用することにより得られた結果と対比して、その精度を調べた。
【0062】
結果を図3に示す。図3において、各枡目(四角)はそれぞれ燃料棒格子を示し、記載されている数値は、第2の炉心計算プログラムによって得られた結果に対する第1の炉心プログラムによって得られた結果のズレの程度を示しており、下式により求めた。なお、単位は、燃焼度[MWd/t]である。
(第2の炉心計算プログラムによる結果)-(第1の炉心計算プログラムによる結果)
【0063】
図3より、第1の炉心計算プログラムによる計算結果と、第2の炉心計算プログラムによる計算結果との差は、全体に図2の場合により大きく、最も大きい差は±400MWd/t程度にもなっていることが分かる。
【0064】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。
図1
図2
図3