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特許7569423表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の製造方法
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  • 特許-表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 31/02 20060101AFI20241009BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20241009BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20241009BHJP
   C08K 9/02 20060101ALI20241009BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
C01G31/02
C09K5/14 E
C08K9/04
C08K9/02
C08K3/22
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023136049
(22)【出願日】2023-08-24
(62)【分割の表示】P 2019188067の分割
【原出願日】2019-10-11
(65)【公開番号】P2023164466
(43)【公開日】2023-11-10
【審査請求日】2023-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】391021765
【氏名又は名称】新日本電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100208568
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 孔一
(72)【発明者】
【氏名】石井 宏典
(72)【発明者】
【氏名】松園 庸介
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-188939(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105668625(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108002442(CN,A)
【文献】国際公開第2015/087620(WO,A1)
【文献】特開2004-346260(JP,A)
【文献】特開2001-240769(JP,A)
【文献】特開2006-213895(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G25/00- 47/00
C01G49/10- 99/00
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C08J 5/00- 5/02
C08J 5/12- 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Alを含む前駆体から形成されるAlの酸化物または水酸化物を少なくとも含む表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子を製造する方法であって、
金属アルコキシド又はその誘導体、若しくは、β-ジケトン錯体又はその誘導体、であるAlを含む前駆体を含有する表面処理液と二酸化バナジウム粒子とを混合し混合液を作製する工程、
前記混合液から前記前駆体が溶解又は分散している前記表面処理液である溶媒を除去する工程、
前記溶媒除去した二酸化バナジウム粒子にAlの酸化物または水酸化物を少なくとも含む表面保護層を前記前駆体が溶解又は分散している前記表面処理液である溶媒の沸点以上の105~300℃の温度で熱処理して形成する工程、
を有することを特徴とするAlを含む前駆体から形成されるAlの酸化物または水酸化物を少なくとも含む表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の製造方法。
【請求項2】
前記二酸化バナジウム粒子にタングステンが含有されていることを特徴とする請求項1に記載のAlを含む前駆体から形成されるAlの酸化物または水酸化物を少なくとも含む表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の製造方法。
【請求項3】
前記表面保護層の酸化物又は水酸化物に含まれる構成カチオンに対するAlイオンのモル比が50モル%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のAlを含む前駆体から形成されるAlの酸化物または水酸化物を少なくとも含む表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の製造方法。
【請求項4】
前記二酸化バナジウム粒子が、五酸化バナジウムを炭素還元して製造された二酸化バナジウム粒子であることを特徴とする表面保護層を有する請求項1~3のいずれかに記載のAlを含む前駆体から形成されるAlの酸化物または水酸化物を少なくとも含む表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期間保管しても、シリコーン樹脂を侵さず維持することが可能な表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化バナジウム又は二酸化バナジウムのバナジウムイオンの一部を他の金属イオンで置換した置換二酸化バナジウムは、特定の温度以上になると半導体から金属に相転移し、その相転移に伴う熱の吸放出を利用した蓄熱材としての利用が検討されている。
前記二酸化バナジウムや置換二酸化バナジウムの利用において、これらの粒子を樹脂に分散させてバルク体として使用することが検討されている。
【0003】
例えば、蓄熱特性を持つ二酸化バナジウム粒子をシリコーン樹脂と混練し成形することが開示されている(特許文献1,2参照)。
また、蓄熱材ではないが、サーモクロミックとして二酸化バナジウムを利用する場合においてサーモクロミック特性の劣化を防ぐために二酸化バナジウム粒子に表面保護層を設けることが開示されている(特許文献3参照)。
【0004】
電子機器等は発熱し、誤作動の原因となるので、電子機器等を熱から保護し、正常に機能させるために発生した熱を放熱部品へ伝導させ放熱させるためにシリコーン樹脂放熱シートやチューブ等の放熱コンパウンドが用いられている。放熱シートやチューブとしては、シリコーン樹脂に熱伝導性フィラーとしてアルミナ、マグネシア等を添加したものがある。また、放熱シートやチューブ等には蓄熱材として二酸化バナジウム粒子をシリコーン樹脂に練り込んで熱を伝える速度を遅くすることが知られている。
【0005】
ところが、蓄熱特性を持つ二酸化バナジウム粒子をシリコーン樹脂と混練し成形することで、放熱部品との間に充填し抜熱を助ける事を目的としたシリコーン樹脂放熱シートとすると、二酸化バナジウム粒子をシリコーン樹脂中に分散させ長期間保管すると、シリコーン樹脂が変質し、変形するという問題が生じることを本発明者らは見出した。
【0006】
蓄熱性シートに関する技術としては、例えば、特許文献4に、蓄熱性シリコーン材料は、オルガノポリシロキサンと熱伝導性粒子と蓄熱材を含み、蓄熱材は融点0~100℃の蓄熱物質をマイクロカプセル化した蓄熱材粒子でありオルガノポリシロキサン100重量部に対して熱伝導性粒子を100~2000重量部含み、熱伝導率が0.2~10W/m・Kであり、この蓄熱性シリコーン材料はシリコーンベースポリマー成分(A)と架橋成分(B)と触媒と熱伝導性粒子と、マイクロカプセル化した蓄熱材粒子を(A+B)成分合計100重量部に対して100~500重量部を混合し架橋させて得ることが開示されている。
しかし、特許文献4に記載の蓄熱性シリコーン材料は、長期間保管すると、シリコーン樹脂が変質(劣化)してしまうが、特許文献4には、変という問題に対する解決策は提示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開2015/087620号
【文献】国際公開2016/111139号
【文献】特開2013-75806号公報
【文献】特開2014-208728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
二酸化バナジウム粒子をシリコーン樹脂中に分散させて使用する場合、我々は新たな課題を発見した。即ち、二酸化バナジウム粒子をシリコーン樹脂中に分散させ長期間保管すると、シリコーン樹脂が変質し、変形するという問題である。
特許文献1、2に、シリコーン樹脂に二酸化バナジウム粒子を分散させて硬化させる際にその硬化阻害を抑制するために二酸化バナジウム粒子にアルコキシシラン又はアルキルチタネートにより表面処理することが記載されているが、前記の表面処理でも長期保存、特に高温高湿度下で保存するとシリコーン樹脂が変質し、変形する。
本発明は、上述のような課題を解決できる表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、二酸化バナジウム粒子の表面にAlを含む前駆体から形成されるAlの酸化物または水酸化物を少なくとも含む表面保護層を施すことによって、シリコーン樹脂中に二酸化バナジウムを分散してもシリコーン樹脂の変質を抑制できるという優れた効果が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の要旨とするものである。
(1)Alを含む前駆体から形成されるAlの酸化物または水酸化物を少なくとも含む表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子を製造する方法であって、
金属アルコキシド又はその誘導体、若しくは、β-ジケトン錯体又はその誘導体、であるAlを含む前駆体を含有する表面処理液と二酸化バナジウム粒子とを混合し混合液を作製する工程、
前記混合液から前記前駆体が溶解又は分散している溶媒を除去する工程、
前記溶媒除去した二酸化バナジウム粒子にAlの酸化物または水酸化物を少なくとも含む表面保護層を前記前駆体が溶解又は分散している溶媒の沸点以上の105~300℃の温度で熱処理して形成する工程、
を有することを特徴とするAlを含む前駆体から形成されるAlの酸化物または水酸化物を少なくとも含む表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の製造方法
(2)前記二酸化バナジウム粒子にタングステンが含有されていることを特徴とする(1)に記載のAlを含む前駆体から形成されるAlの酸化物または水酸化物を少なくとも含む表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の製造方法。
(3)前記表面保護層の酸化物又は水酸化物に含まれる構成カチオンに対するAlイオンのモル比が50モル%以上であることを特徴とする(1)または(2)に記載のAlを含む前駆体から形成されるAlの酸化物または水酸化物を少なくとも含む表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の製造方法。
(4)前記二酸化バナジウム粒子が、五酸化バナジウムを炭素還元して製造された二酸化バナジウム粒子であることを特徴とする表面保護層を有する(1)~(3)のいずれかに記載のAlを含む前駆体から形成されるAlの酸化物または水酸化物を少なくとも含む表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、長期間保管してもシリコーン樹脂が変質し難くなる二酸化バナジウム粒子とすることができるので、二酸化バナジウム粒子を分散させたシリコーン樹脂シートやシリコーン樹脂コンパウンドを長期安定的に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】シリコーン樹脂成形体が、高温高湿環境下でも劣化せず、変形しなかった本発明例を示す図である。
図2】シリコーン樹脂成形体が、高温高湿環境下で劣化し流動し、変形した比較例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、二酸化バナジウム粒子を含有するシリコーン樹脂放熱シートを長期間保管すると、シリコーン樹脂が変質・崩壊する原因を検討した。その結果、シリコーン樹脂の変質は、二酸化バナジウム粒子の表面酸化が進行することが原因である可能性が高いことを見出した。上述のように、シリコーン樹脂の硬化阻害を抑制できるアルコキシシラン又はアルキルチタネートによる表面処理でもシリコーン樹脂の変質・崩壊は抑制出来ないことが分かった。本発明者らは、更に検討の結果、二酸化バナジウム粒子の表面に所定の方法で表面保護層を形成することにより、長期間保管しても、シリコーン樹脂に変質を生じない二酸化バナジウム含有シリコーン樹脂放熱シート、放熱コンパウンドを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、Alを含む前駆体から形成されるAlの酸化物または水酸化物を少なくとも含む表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子とすることで上記問題を解決できる。
上述のように二酸化バナジウム粒子の表面酸化が進行するとシリコーン樹脂の変質・崩壊が進行するが、二酸化バナジウム粒子の表面にAlの酸化物または水酸化物を少なくとも含む表面保護層を形成することによって、二酸化バナジウム粒子の表面酸化の進行を抑制することができ、その結果、高温高湿環境下で長時間保管した場合であっても、シリコーン樹脂の変質が抑制されるのである。
【0014】
本発明のAlを含む前駆体とは、表面保護層とした際にAlを含む水酸化物や酸化物が形成できるものであり、例えば、金属アルコキシド若しくはその誘導体、β-ジケトン錯体若しくはその誘導体、又は、ジアミン錯体若しくはその誘導体、ジオール錯体若しくはその誘導体、アルカノールアミン錯体若しくはその誘導体、等が挙げられる。中でも、金属アルコキシド又はその誘導体、若しくは、β-ジケトン錯体又はその誘導体が好ましい。
【0015】
上記表面保護層は、アルミニウム酸化物(アルミナ)を含有することがより好ましい。
上記表面保護層は単層であってもよく、多層であってもよい。上記表面保護層は、アルミニウム酸化物を含有する層を有することが好ましい。
上記表面保護層は、二酸化バナジウム粒子の表面の少なくとも一部に形成されていてもよく、二酸化バナジウム粒子の表面全体を被覆するように形成されていてもよい。上記二酸化バナジウム粒子の酸化をより一層抑制できることから、上記表面保護層は、二酸化バナジウム粒子の表面全体を被覆するように形成されていることが好ましい。
【0016】
前記表面保護層の酸化物又は水酸化物に含まれるAlのモル比(構成カチオンに対するAlイオンのモル比)は50モル%以上であり、60モル%以上が好ましく、より好ましくは80モル%以上である。
表面保護層に占めるAlのモル比は、例えば、エネルギー分散型X線分析(オックスフォード製 EDSシステム)で測定することによって求めることができる。
前記表面保護層の酸化物又は水酸化物の組成としては、Al単独、又はAlとZrの複合であることが好ましい。
表面保護層は、Al単独で本発明による効果を十分得ることができるが、AlにZrを複合化させることにより、緻密な表面保護層が形成されるので、本発明の作用効果を容易に得ることが出来る。
前記表面保護層は、酸化アルミニウム(Al)換算で基材の二酸化バナジウム粒子に対して1.0質量%以上であるのが好ましい。3.0質量%以上であれば、本発明の効果が十分発揮できる。上限は特に定めないが、50質量%以上では蓄熱量が十分得られない場合がある。
【0017】
また、表面保護層の平均厚さでみると、本発明の効果が出る厚さであればよいが0.05μm以上であるのがより好ましい。更に好ましいのが0.1μm以上である。20μm以上になると得られる蓄熱効果が少なくなってくるので20μm未満がより好ましい。更に好ましくは10μm未満であり、6μm未満が更に好ましい。
つまり、表面保護層と二酸化バナジウム粒子との関係において、本発明の表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の構成を表現すれば、二酸化バナジウム粒子の表面に、Alの酸化物または水酸化物を少なくとも含む0.05μm以上20μm未満の平均厚さの表面保護層が形成され、該表面保護層の酸化物又は水酸化物に含まれるAlのモル比は50モル%以上であり、さらに、二酸化バナジウム粒子に対する該表面保護層に含有されるAlの含有割合は、Al換算で1.0質量%以上50質量%未満である表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子ということになる。
【0018】
本発明の製造方法は、Alを含む前駆体を含有する表面処理液と二酸化バナジウム粒子とを混合する工程、前記混合液から溶媒を除去する工程、前記溶媒除去した二酸化バナジウム粒子にAlの酸化物または水酸化物を少なくとも含む表面保護層を形成する工程、を有する。
前記製造方法によれば、表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子が得られることから、二酸化バナジウム粒子の酸化を抑制され、長期間保管しても、シリコーン樹脂の変質を生じさせずに維持できるものと考えられる。
【0019】
上記表面処理工程において、表面処理液と二酸化バナジウム粒子とを混合する方法としては、二酸化バナジウム粒子を表面処理液に分散させて混合させる方法、二酸化バナジウム粒子に前記表面処理液を噴霧する方法、等が挙げられる。
混合条件について、二酸化バナジウム粒子を均一に分散できる方法、二酸化バナジウム粒子表面に表面処理液を付着できる方法、等であれば特に限定されない。表面処理液に二酸化バナジウム粒子を分散する方法としては、例えば、磁気スターラー攪拌、モーター付きの機械的な攪拌、ガスバーブリング、液循環、超音波分散、ボールミルやロータリーミキサーのような回転分散、又は上記方法を併用する。
【0020】
本発明では、上記表面処理液に使用する溶媒としては、前記前駆体が溶解又は分散できればよく、例えば、有機溶媒、水などが挙げられる。有機溶媒としては、トルエン、メチルエチルケトン、アルコール類などが挙げられる。好ましくは、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール等であり。なかでも、2-ブタノールを用いることがより好ましい。
【0021】
前記混合液から溶媒を除去する工程は、ろ過、沈降分離、遠心分離、乾燥、等を用いる、又は前記方法を併用する。前記乾燥は常圧乾燥でもよく、減圧乾燥でもよい。乾燥時の温度は、室温~200℃が好適である。
前記溶媒除去した二酸化バナジウム粒子に表面保護層を形成する工程は、溶媒を除去した二酸化バナジウム粒子を溶媒の沸点温度以上で加熱する。好ましくは、105℃以上の温度で加熱する。より好ましくは、200~300℃の温度で更に熱処理する。
【0022】
本発明の製造方法により製造される二酸化バナジウム粒子(以下、単に二酸化バナジウム粒子ともいう)は、蓄熱特性を有することが好ましい。
二酸化バナジウムは、様々な結晶相が存在するが、単斜晶結晶と正方晶結晶(ルチル型)が可逆的に相転移するのが好ましい。例えば、純粋の二酸化バナジウムの相転移温度は約68℃である。
上記二酸化バナジウム粒子として、バナジウム原子の一部が、タングステン、モリブデン、ニオブ、タンタル、タリウム、スズ、レニウム、イリジウム、オスミウム、ルテニウム、ゲルマニウム、クロム、鉄、ガリウム、アルミニウム、フッ素及びリン等の原子で置換された置換二酸化バナジウム粒子も含まれる。
【0023】
上記相転移温度は、例えば、二酸化バナジウム中のバナジウム原子の一部をタングステン、モリブデン、ニオブ及びタンタルから選択される少なくとも1種以上の元素で置換することにより調整することができる。従って、二酸化バナジウム粒子又は置換二酸化バナジウム粒子を適宜選択したり、置換二酸化バナジウム粒子において置換する原子種や置換率を適宜選択したりすることにより、得られる蓄熱温度を制御することができる。
【0024】
上記置換二酸化バナジウムを用いる場合、金属原子の置換率の好ましい下限は0.1原子%、好ましい上限は10原子%である。置換率を0.1原子%以上にすると、上記置換二酸化バナジウムの相転移温度を容易に調整することができ、また、10原子%以下であれば、優れた蓄熱量を確保することができる。
なお、置換率とは、バナジウム原子数と置換された原子数との合計に占める、置換された原子数の割合を百分率で示した値である。
前記置換元素は、蓄熱温度の可変効率の観点から、タングステンが好ましい。
【0025】
上記表面処理工程で形成されるAlの酸化物または水酸化物を少なくとも含む表面保護層は二酸化バナジウム粒子の酸化を抑制する役割を有する。
【0026】
本発明の製造方法で得られる表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子は、Alの酸化物または水酸化物を少なくとも含むシリコーン製放熱シートに含有させることができる。
【0027】
上記シリコーン製放熱シートにおける上記表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の含有量は、例えば、放熱シート100質量%中、好ましい下限は0.001質量%、好ましい上限は95質量%、であり、上限値と下限値の必要性は、シリコーン製放熱シート中に、二酸化バナジウム粒子を保持させるために必要な範囲である。
上記表面保護層を有する二酸化バナジウム粒子の含有量が、優れた蓄熱性を有する放熱シートが得られる。
【0028】
上記放熱シートはシリコーン樹脂を母材とする。
上記シリコーン樹脂として、従来公知のシリコーン樹脂を用いることができる。上記シリコーン樹脂は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
二酸化バナジウム粒子は、どのような方法で作製されたものでも良いが、五酸化バナジウムを炭素還元して作製した二酸化バナジウム粒子が量産性の観点からより好ましい。
二酸化バナジウム粒子は、どのような粒径でもよいが、0.07μm~250μmの平均粒子径であるのが好ましい。また、大きな粒を粉砕した粉砕粒子でも構わない。
【実施例
【0029】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されない。
【0030】
(実施例1)
(1) 表面保護層の形成(コーティング)方法
MEK(メチルエチルケトン)500mlに、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート(味の素ファンテクノ社製 製品名プレンアクトAL-M)を50g溶解させた。
この液中にVO粒子(平均粒子径80μm)を、1,000g浸漬させ撹拌した。
撹拌混合後、ロータリーエバポレータにより濃縮乾固した。
更に、減圧乾燥機にて40℃、24時間乾燥させた。
ついで、VO粒子を取り出し、80℃で1h乾燥させた後、
200℃で6hの熱処理(焼付け)をして、Alの酸化物または水酸化物を少なくとも含む表面保護層を有するVO粒子を作製した。
上記表面保護層を有するVO粒子について、VO粒子に対する表面保護層中のAl含有量を、エネルギー分散型X線分析(オックスフォード製 EDSシステム)で測定したところ、Al換算で3.0質量%であった。また電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子製JSM-7900F)で、表面保護層の厚さを測定したところ、平均厚さは2μmであった。
また、表面保護層に占めるAlのモル比は、50モル%であった。
【0031】
(2) シリコーン樹脂中への練り込み
上記処理を行った後、シリコーン樹脂(モメンティブ社製 製品名TSE3062)中に、上記表面保護層を有するVO粒子を、シリコーン樹脂:VO=50質量部:50質量部となる比率で練り込んで直径5mm×高さ30mmの円柱状に成型し、表面保護層を有するVO粒子を練り込んだシリコーン樹脂成形体を作製した。
なお、シリコーン樹脂成形体中の二酸化バナジウム粒子の含有量は、50質量%である。
【0032】
(3) シリコーン樹脂成形体の耐久性試験
上記で得られたAlの酸化物または水酸化物を少なくとも含む表面保護層を有するVO粒子を練り込んだシリコーン樹脂成形体と、上記と同様の方法で作製した表面保護層をほどこしていないVO粒子を練り込んだ比較例のシリコーン樹脂成形体について、80℃×80%(湿度)×14日保持し耐久性試験を行い、試験結果の評価を実施した。
【0033】
図1に示すように、Alの酸化物または水酸化物を少なくとも含む表面保護層を有するVO粒子を練り込んだシリコーン樹脂成形体は、シリコーン樹脂成形体が劣化し流動して形状が崩れるようなことはなかった。
一方、図2に示すように、表面保護層を施していないVO粒子を練り込んだ比較例のシリコーン樹脂成形体は、流動をおこし、その形状を保つことができなかった。
この様に、シリコーン樹脂中に練り込むVO粒子に本発明の表面保護層を施すことが、シリコーン樹脂の劣化抑制に有効であることを確認出来た。
【0034】
(実施例2)
(1) 表面保護層の形成(コーティング)方法
MEK(メチルエチルケトン)500mlに、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート(味の素ファンテクノ社製 製品名プレンアクトAL-M)を50g溶解させた。
この液中にVO粒子(平均粒子径80μm)を、1,000g浸漬させ撹拌した。
撹拌混合後、エバポレータにより濃縮乾固した。
更に、減圧乾燥機にて40℃、24時間乾燥させた。
【0035】
(2) シリコーン樹脂中への練り込み
上記処理を行った後、シリコーン樹脂(モメンティブ社製 製品名TSE3062)中に、上記(1)で調製したVO粒子を、シリコーン樹脂:VO=50質量部:50質量部となる比率で練り込んで直径5mm×高さ30mmの円柱状に成型し、前記VO粒子を練り込んだシリコーン樹脂成形体を作製した。
【0036】
(3) シリコーン樹脂成形体の耐久性試験
上記(1)で調製したVO粒子を練り込んだシリコーン樹脂成形体を実施例1と同様に80℃×80%(湿度)×14日保持し耐久性試験を行い、試験結果の評価を実施した。
【0037】
表面保護層を施していないVO粒子を練りこんだ比較例のシリコーン樹脂成形体(図2参照)のように流動してしまうようなことはなかったが、僅かな変形を起こした。
この様に、シリコーン樹脂中に練り込むVO粒子の表面保護層の形成(コーティング)方法において、200~300℃の温度で更に熱処理(焼付け)することが、シリコーン樹脂の劣化抑制により有効であることが確認出来た。
【0038】
(実施例3)
(1) 表面保護層の形成(コーティング)方法
MEK(メチルエチルケトン)500mlに、アルキルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート(味の素ファンテクノ社製 製品名プレンアクトAL-M)を50g溶解させた。
この液中にVO粒子(平均粒子径80μm)を、1,000g浸漬させ撹拌した。
撹拌混合後、エバポレータにより濃縮乾固した。
更に、減圧乾燥機にて40℃、24時間乾燥させた。
ついで、VO粒子を取り出し、80℃で1h乾燥させた。
【0039】
(2) シリコーン樹脂中への練り込み
上記処理を行った後、シリコーン樹脂(モメンティブ社製 製品名TSE3062)中に、前記VO粒子を、シリコーン樹脂:VO=50質量部:50質量部となる比率で練り込んで直径5mm×高さ30mmの円柱状に成型し、前記VO粒子を練り込んだシリコーン樹脂成形体を作製した。
【0040】
(3) シリコーン樹脂成形体の耐久性試験
上記で得られたVO粒子を練り込んだシリコーン樹脂成形体を80℃×80%(湿度)×14日保持し耐久性試験を行い、試験結果の評価を実施した。
【0041】
表面保護層を施していないVO粒子を練りこんだ比較例のシリコーン樹脂成形体(図2参照)のように流動してしまうようなことはなかったが、僅かな変形を起こした。ただし、該変形は実施例2よりも小さいものであった。
実施例1~3の比較からも明らかなように、シリコーン樹脂中に練り込むVO粒子の表面保護層の形成(コーティング)方法において、80℃で1h乾燥が有効であり、更に200~300℃の温度で更に熱処理(焼付け)することが、シリコーン樹脂の劣化抑制に有効であることが確認出来た。
【0042】
(実施例4)
(1)表面保護層の形成(コーティング)方法
メトキシエタノール500mlに、アルミニウムsecブトキシドを所定量溶解させた。
この液中にVO粒子(平均粒子径80μm)を、1,000g浸漬させ撹拌した。
撹拌混合後、ロータリーエバポレータにより濃縮乾固した。
更に、減圧乾燥機にて40℃、24時間乾燥させた。
ついで、VO粒子を取り出し、80℃で1h乾燥させた後、250℃で6hの熱処理をして、表面保護層を有するVO粒子を作製した。
(2)シリコーン樹脂中への練り込み
実施例1と同様の方法で行った。
(3)シリコーン樹脂成形体の耐久性試験
実施例1と同様の方法で行った。
上記表面保護層を有するVO粒子について、VO粒子に対する表面保護層中のAl含有量を、エネルギー分散型X線分析(オックスフォード製 EDSシステム)で測定したところ、Al換算で3.0質量%であった。また電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子製JSM-7900F)で、表面保護層の厚さを測定したところ、平均厚さは2μmであった。
また、表面保護層に占めるAlのモル比は、50モル%であった
【0043】
上記(1)において、アルミニウムsecブトキシドの量を変えることにより、表面保護層の平均厚さの異なるVO粒子を作製し(0.04、0.05、0.1、1.5、6.5、6、10、20μm)、シリコーン樹脂成形体の耐久試験を行った。その結果、表面保護層を施していないVO粒子に比べていずれのVO粒子もシリコーン樹脂の劣化抑制に有効であった。表面保護層の厚さが0.04μmでは僅かな変形を起こす場合があった。一方、20μmでは変形を起こすことはなかったが、質量当たりの蓄熱量が小さくなった。
【0044】
(実施例5)
(1)表面保護層の形成(コーティング)方法
メチルエチルケトン500mlに、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレートを50g溶解させた。
この液中にVO粒子(平均粒子径80μm)を、1,000g浸漬させ撹拌した。
撹拌混合後、ロータリーエバポレータにより濃縮乾固した。
更に、減圧乾燥機にて40℃、24時間乾燥させた。
ついで、VO粒子を取り出し、80℃で1h乾燥させた後、300℃で6hの熱処理をして、表面保護層を有するVO粒子を作製した。
(2)シリコーン樹脂中への練り込み
実施例1と同様の方法で行った。
(3)シリコーン樹脂成形体の耐久性試験
実施例1と同様の方法で行った。
上記表面保護層を有するVO粒子について、VO粒子に対する表面保護層中のAl含有量を、エネルギー分散型X線分析(オックスフォード製 EDSシステム)で測定したところ、Al換算で3.0質量%であった。また電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子製JSM-7900F)で、表面保護層の厚さを測定したところ、平均厚さは2μmであった。
また、表面保護層に占めるAlのモル比は、50モル%であった
【0045】
図1と同様に、表面保護層を有するVO粒子を練り込んだシリコーン樹脂成形体は、シリコーン樹脂成形体が劣化し流動して形状が崩れるようなことはなかった。
この様に、シリコーン樹脂中に練り込むVO粒子に、Alの酸化物または水酸化物を少なくとも含む本発明の表面保護層を施すことが、シリコーン樹脂の劣化抑制に有効であることを確認出来た。
尚、上記(1)において、400℃で6hの熱処理でも同様の結果がえられたが、500℃で6hの熱処理を施すと、VO粒子の一部が酸化してVを形成していた。
【0046】
(実施例6)
メトキシエタノール500mlに、アルミニウムsecブトキシドとジルコニウムnブトキシドを4:1質量比で所定量溶解させた。
この液中にVO粒子(平均粒子径80μm)を、1,000g浸漬させ撹拌した。
撹拌混合後、ロータリーエバポレータにより濃縮乾固した。
更に、減圧乾燥機にて40℃、24時間乾燥させた。
ついで、VO粒子を取り出し、80℃で1h乾燥させた後、250℃で6hの熱処理をして、表面保護層を有するVO粒子を作製した。
(2)シリコーン樹脂中への練り込み
実施例1と同様の方法で行った。
(3)シリコーン樹脂成形体の耐久性試験
実施例1と同様の方法で行った。
上記表面保護層を有するVO粒子について、VO粒子に対する表面保護層中のAl含有量を、エネルギー分散型X線分析(オックスフォード製 EDSシステム)で測定したところ、Al換算で3.0質量%であった。また電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子製JSM-7900F)で、表面保護層の厚さを測定したところ、平均厚さは2μmであった。
また、表面保護層に占めるAlのモル比は、50モル%であった。
【0047】
上記(1)において、実施例4と同様に、表面保護層の平均厚さの異なるVO粒子を作製し(0.04、0.05、0.1、1.5、6μm)、シリコーン樹脂成形体の耐久試験を行った。その結果、表面保護層を施していないVO粒子に比べていずれのVO粒子もシリコーン樹脂の劣化抑制に有効であり、表面保護層の厚さが0.04μmでも変形を起こすことはなかった。
【0048】
(比較例1)
実施例1のアルミニウムカップリング剤に変えて、シランカップリング剤(モメンティブ社製 製品名Silquest A-2120シラン)を用いて、実施例1と同様にしてシリコーン樹脂の劣化抑制効果を耐久性試験により確認した。
その結果、図2と同様に、シリコーン樹脂が劣化し流動して形状が崩れた。
【0049】
(比較例2)
実施例1のアルミニウムカップリング剤に変えて、有機チタン化合物(味の素ファンテクノ社製 製品名プレンアクトTTS)を用いて、実施例1と同様にしてシリコーン樹脂の劣化抑制効果を耐久性試験により確認した。
その結果、図2と同様に、シリコーン樹脂が劣化し流動して形状が崩れた。
【0050】
表1に、これらの試験結果をまとめて示した。表1に示すように、Alを含む前駆体から形成されるAlの酸化物または水酸化物を少なくとも含む表面保護層を有するVO粒子はシリコーン樹脂の劣化効果を有し、それ以外は、シリコーン樹脂の劣化抑制効果がなく、樹脂が劣化し流動して形状が崩れることが確認できた。
表1の「シリコーン樹脂劣化抑制効果」の欄の、「○」印は、80℃×80%(湿度)×14日保持の耐久性試験において、シリコーン樹脂成形体は、流動をおこさず、その形状を保ったこと(図1参照)を示し、「×」印は、前記条件の耐久性試験で、流動をおこし、その形状を保つことができなかったこと(図2参照)を示す。
【0051】
【表1】
【0052】
(実施例7)
実施例1-6及び比較例1-2で使用した二酸化バナジウムは、五酸化バナジウムを炭素還元して製造された二酸化バナジウム粒子であるが、五酸化バナジウムを水素還元して作製した二酸化バナジウム粒子を使用した。
具体的には、Vを4%H/Arにて700℃48時間で還元してVを調製した。該VとVを混合して真空炉にて1000℃48時間焼成して二酸化バナジウムを作製した。
実施例1と同様の方法で、表面保護層を有する二酸化バナジウムを作製した。
更に、実施例1と同様に、表面保護層を有したVO粒子を練り込んだシリコーン樹脂成形体を作製した。
【0053】
実施例1と同様に評価をした結果、Alの酸化物または水酸化物を少なくとも含む表面保護層を有したVO粒子を練り込んだシリコーン樹脂成形体は、シリコーン樹脂成形体が劣化し流動してすることで、形状が崩れるようなことはなかった。
一方、表面保護層を施していないVO粒子を練り込んだシリコーン樹脂成形体は、流動をおこし、その形状を保つことができなかった。
【0054】
(実施例8)
五酸化バナジウムに酸化タングステンを所定量混合した後、炭素還元することで転移温度の異なる二酸化バナジウム(タングステンドープした二酸化バナジウム)を調製した。
転移温度2℃(V0.9760.024)、20℃(V0.9820.018)、40℃(V0.9910.009)を有する二酸化バナジウムを用いて、実施例1と同様に、表面保護層を有する二酸化バナジウムを作製した。
更に、実施例1と同様に、表面保護層を有した二酸化バナジウム粒子を練り込んだシリコーン樹脂成形体を作製した。
【0055】
実施例1と同様に評価をした結果、Alの酸化物または水酸化物を少なくとも含む表面保護層を有した(タングステンドープした)VO粒子を練り込んだシリコーン樹脂成形体は、シリコーン樹脂成形体が劣化し流動してすることで、形状が崩れるようなことはなかった。
一方、表面保護層を施していないVO粒子を練り込んだシリコーン樹脂成形体は、流動をおこし、その形状を保つことができなかった。



















図1
図2