(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】導電膜付基板、反射型マスクブランク及び反射型マスク、並びに半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/24 20120101AFI20241009BHJP
G03F 1/38 20120101ALI20241009BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20241009BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20241009BHJP
【FI】
G03F1/24
G03F1/38
C23C14/06
C23C14/34
(21)【出願番号】P 2023148295
(22)【出願日】2023-09-13
(62)【分割の表示】P 2019158348の分割
【原出願日】2019-08-30
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】中川 真徳
(72)【発明者】
【氏名】打田 崇
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-139754(JP,A)
【文献】特開2010-168603(JP,A)
【文献】特開2015-215602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
G03F 1/00~1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の二つの主表面のうち一つの前記主表面の上に導電膜を備えた導電膜付基板であって、
前記導電膜は、基板側から下層と上層がこの順に積層した構造を有し、
前記下層は、非晶質であり、前記上層は、結晶性を有し、
前記上層は、クロム
及び窒素を含み、X線回折法により回折角度2θに対する回折X線強度の測定を行ったとき、回折角度2θが41度以上47度以下の範囲でピークを有し、
前記導電膜の二乗平均平方根粗さ(Rms)は、0.5nm以下であることを特徴とする導電膜付基板。
【請求項2】
前記導電膜の機械強度は、クラック発生荷重の値で300mN以上であることを特徴とする請求項1に記載の導電膜付基板。
【請求項3】
前記上層は、前記回折角度2θが56度以上60度以下の範囲でピークを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の導電膜付基板。
【請求項4】
前記上層の窒素含有量は、1原子%以上15原子%以下であることを特徴とする請求項
1乃至3のいずれかに記載の導電膜付基板。
【請求項5】
前記上層は、更にAg、Au、Cu、Al、Mg、W、Ru及びCoから選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項
1乃至4のいずれかに記載の導電膜付基板。
【請求項6】
請求項1乃至
5のいずれかに記載の導電膜付基板の前記導電膜が形成されている側とは反対側の前記主表面の上に、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した多層反射膜が形成されていることを特徴とする導電膜付基板。
【請求項7】
前記多層反射膜の上に保護膜が形成されていることを特徴とする請求項
6に記載の導電膜付基板。
【請求項8】
基板の一方の主表面の上に、多層反射膜とパターン形成用薄膜がこの順に積層した構造を有する反射型マスクブランクであって、
前記基板の他方の前記主表面上に、導電膜を備え、
前記導電膜は、基板側から下層と上層がこの順に積層した構造を有し、
前記下層は、非晶質であり、前記上層は、結晶性を有し、
前記上層は、クロム
及び窒素を含み、X線回折法により回折角度2θに対する回折X線強度の測定を行ったとき、回折角度2θが41度以上47度以下の範囲でピークを有し、
前記導電膜の二乗平均平方根粗さ(Rms)は、0.5nm以下であることを特徴とする反射型マスクブランク。
【請求項9】
前記導電膜の機械強度は、クラック発生荷重の値で300mN以上であることを特徴とする請求項
8に記載の反射型マスクブランク。
【請求項10】
前記上層は、前記回折角度2θが56度以上60度以下の範囲でピークを有することを特徴とする請求項
8又は
9に記載の反射型マスクブランク。
【請求項11】
前記上層の窒素含有量は、1原子%以上15原子%以下であることを特徴とする請求項
8乃至10のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
【請求項12】
前記上層は、更にAg、Au、Cu、Al、Mg、W、Ru及びCoから選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項
8乃至11のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
【請求項13】
前記多層反射膜と前記パターン形成用薄膜との間に保護膜が形成されていることを特徴とする請求項
8乃至
12のいずれかに記載の反射型マスクブランク。
【請求項14】
請求項
8乃至
13のいずれかに記載の反射型マスクブランクの前記パターン形成用薄膜に転写パターンが設けられていることを特徴とする反射型マスク。
【請求項15】
請求項
14に記載の反射型マスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EUVリソグラフィーに用いるための反射型マスク、並びに反射型マスクを製造するための導電膜付基板及び反射型マスクブランクに関する。また、本発明は、反射型マスクを用いる半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業において、半導体デバイスの高集積化に伴い、従来の紫外光を用いたフォトリソグラフィー法の転写限界を上回る微細パターンが必要とされてきている。このような微細パターン形成を可能とするため、極紫外(Extreme Ultra Violet:以下、「EUV」と呼ぶ。)光を用いた露光技術であるEUVリソグラフィーが有望視されている。ここで、EUV光とは、軟X線領域又は真空紫外線領域の波長帯の光を指し、具体的には波長が0.2~100nm程度の光のことである。このEUVリソグラフィーにおいて用いられる転写用マスクとして反射型マスクが提案されている。このような反射型マスクは、基板上に露光光を反射するための多層反射膜が形成され、多層反射膜上に露光光を吸収するためのパターン形成用薄膜がパターン状に形成されたものである。
【0003】
反射型マスクは、基板と、基板上に形成された多層反射膜と、多層反射膜上に形成されたパターン形成用薄膜とを有する反射型マスクブランクから、フォトリソグラフィー法等によりパターン形成用薄膜にパターンを形成することによって製造される。
【0004】
一般に、反射型マスクを露光装置のマスクステージにセットする際、反射型マスクは静電チャックによって固定される。そのため、ガラス基板等の絶縁性の反射型マスクブランク用基板の裏側主表面(多層反射膜等が形成される主表面とは反対側の主表面)には、静電チャックによる基板の固定を促進するために、導電膜(裏面導電膜)が形成される。
【0005】
特許文献1には、低熱膨張性物質から構成される基板、前記基板の表面側に少なくとも1つの物質層、及び前記基板の裏面側に少なくとも1つの物質層を含む、マスク基板が記載されている。また、特許文献1には、裏面側の物質が、MoおよびCrからなる群より選択される金属であることが記載されている。
【0006】
特許文献2には、EUVリソグラフィー用反射型マスクブランクの製造に使用される導電膜付基板が記載されている。特許文献2には、導電膜はクロム(Cr)および窒素(N)を含有すること、前記導電膜におけるNの平均濃度が0.1at%以上40at%未満であること、導電膜の少なくとも表面の結晶状態がアモルファスであること、導電膜のシート抵抗値が27Ω/□以下であること、及び、導電膜の表面粗さ(Rms)が0.5nm以下であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2003-501823号
【文献】国際公開第2008/072706号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
反射型マスクブランクの製造工程において、パターン形成用薄膜上にレジスト膜を塗布する前にSPM洗浄(SPM:sulfuric-acid and hydrogen-peroxide mixture)等の酸性又はSC-1洗浄等のアルカリ性の水溶液(薬液)を用いたウェット洗浄が行われる。また、反射型マスクの製造工程において、パターン形成用薄膜にパターンを形成した後に、レジストパターン除去等のために酸性又はアルカリ性の水溶液(薬液)を用いたウェット洗浄が行われる。更に、半導体デバイスの製造においても、露光時に反射型マスクに付着した異物を除去するため、薬液を用いたウェット洗浄が行われる。通常、反射型マスクは繰り返し使用されるので、これらの洗浄は少なくとも複数回行われることになる。それゆえ、反射型マスクには十分な洗浄耐性を備えていることが要求される。反射型マスクの洗浄には薬液(酸性又はアルカリ性の水溶液、例えばSPM洗浄の場合には硫酸過水)が用いられている。したがって、反射型マスクに用いられる導電膜は、薬液のような薬品に対する耐性(本明細書では、「耐薬品性」という。)を備えていることが必要である。
【0009】
一方、反射型マスクを用いて半導体デバイスを製造するときに、反射型マスクは静電チャックによって露光装置に固定される。導電膜と静電チャックとの擦れによるパーティクルの発生を防止するために、導電膜の表面粗さ(Rms)は小さいことが必要である。
【0010】
そこで、本発明は、耐薬品性に優れ、表面粗さ(Rms)が小さい導電膜を有する、反射型マスクを製造するための導電膜付基板を得ることを目的とする。また、本発明は、耐薬品性に優れ、表面粗さ(Rms)が小さい導電膜を有する反射型マスクブランク及び反射型マスクを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究の結果、導電膜の結晶性が高くすることにより、導電膜の耐薬品性を高くすることができることを見出した。一方、導電膜の結晶状態がアモルファス(非晶質)であることにより、導電膜の表面粗さを小さくすることができる。すなわち、導電膜の表面粗さを小さくするためには、導電膜の耐薬品性を高くする場合とは逆に、導電膜の結晶性を低くする必要がある。本発明者らは、鋭意研究の結果、導電膜が所定の下層及び上層を有することにより、耐薬品性に優れ、表面粗さ(Rms)が小さい導電膜を得ることができることを見出し、本発明に至った。本発明は以下の構成を有する。
【0012】
(構成1)
本発明の構成1は、基板の二つの主表面のうち一つの前記主表面の上に導電膜を備えた導電膜付基板であって、前記導電膜は、クロムを含み、前記導電膜は、基板側から下層と上層がこの順に積層した構造を有し、前記下層は、非晶質であり、前記上層は、結晶性を有することを特徴とする導電膜付基板である。
【0013】
(構成2)
本発明の構成2は、前記上層は、窒素を含有する材料からなることを特徴とする構成1の導電膜付基板である。
【0014】
(構成3)
本発明の構成3は、前記下層は、酸素を含有する材料からなることを特徴とする構成1又は2の導電膜付基板である。
【0015】
(構成4)
本発明の構成4は、前記上層のクロム含有量は、前記下層のクロム含有量よりも多いことを特徴とする構成1乃至3のいずれかの導電膜付基板である。
【0016】
(構成5)
本発明の構成5は、前記上層に対してX線回折法により回折角度2θに対する回折X線強度の測定を行ったとき、回折角度2θが41度以上47度以下の範囲でピークが検出されることを特徴とする構成1乃至4のいずれかの導電膜付基板である。
【0017】
(構成6)
本発明の構成6は、前記上層は、前記回折角度2θが56度以上60度以下の範囲でピークが検出されることを特徴とする構成5の導電膜付基板である。
【0018】
(構成7)
本発明の構成7は、前記上層は、前記回折角度2θが35度以上38度以下の範囲でピークが検出されないことを特徴とする構成5又は6の導電膜付基板である。
【0019】
(構成8)
本発明の構成8は、構成1乃至7のいずれかの導電膜付基板の前記導電膜が形成されている側とは反対側の前記主表面の上に、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した多層反射膜が形成されていることを特徴とする導電膜付基板である。
【0020】
(構成9)
本発明の構成9は、前記多層反射膜の上に保護膜が形成されていることを特徴とする構成8の導電膜付基板である。
【0021】
(構成10)
本発明の構成10は、基板の一方の主表面の上に、多層反射膜とパターン形成用薄膜がこの順に積層した構造を有する反射型マスクブランクであって、前記基板の他方の前記主表面上に、導電膜を備え、前記導電膜は、クロムを含み、前記導電膜は、基板側から下層と上層がこの順に積層した構造を有し、前記下層は、非晶質であり、前記上層は、結晶性を有することを特徴とする反射型マスクブランクである。
【0022】
(構成11)
本発明の構成11は、前記上層は、窒素を含有する材料からなることを特徴とする構成10の反射型マスクブランクである。
【0023】
(構成12)
本発明の構成12は、前記下層は、酸素を含有する材料からなることを特徴とする構成10又は11の反射型マスクブランクである。
【0024】
(構成13)
本発明の構成13は、前記上層のクロム含有量は、前記下層のクロム含有量よりも多いことを特徴とする構成10乃至12のいずれかの反射型マスクブランクである。
【0025】
(構成14)
本発明の構成14は、前記上層に対してX線回折法により回折角度2θに対する回折X線強度の測定を行ったとき、回折角度2θが41度以上47度以下の範囲でピークが検出されることを特徴とする構成10乃至13のいずれかの反射型マスクブランクである。
【0026】
(構成15)
本発明の構成15は、前記上層は、前記回折角度2θが56度以上60度以下の範囲でピークが検出されることを特徴とする構成14の反射型マスクブランクである。
【0027】
(構成16)
本発明の構成16は、前記上層は、前記回折角度2θが35度以上38度以下の範囲でピークが検出されないことを特徴とする構成14又は15の反射型マスクブランクである。
【0028】
(構成17)
本発明の構成17は、前記多層反射膜と前記パターン形成用薄膜との間に保護膜が形成されていることを特徴とする構成10乃至16のいずれかの反射型マスクブランクである。
【0029】
(構成18)
本発明の構成18は、構成10乃至17のいずれかの反射型マスクブランクの前記パターン形成用薄膜に転写パターンが設けられていることを特徴とする反射型マスクである。
【0030】
(構成19)
本発明の構成19は、構成18の反射型マスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法である。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、耐薬品性に優れ、表面粗さ(Rms)が小さい導電膜を有する、反射型マスクを製造するための導電膜付基板を得ることができる。また、本発明によれば、耐薬品性に優れ、表面粗さ(Rms)が小さい導電膜を有する反射型マスクブランク及び反射型マスクを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の実施形態の導電膜付基板の構成の一例を示す断面模式図である。
【
図2】本発明の実施形態の多層反射膜付基板(導電膜付基板)の構成の一例を示す断面模式図である。
【
図3】本発明の実施形態の反射型マスクブランク(導電膜付基板)の構成の一例を示す断面模式図である。
【
図4】本発明の実施形態の反射型マスクの一例を示す断面模式図である。
【
図5】本発明の実施形態の反射型マスクブランクの構成の別の一例を示す断面模式図である。
【
図6】反射型マスクブランクから反射型マスクを作製する工程を断面模式図にて示した工程図である。
【
図7】実施例1のX線回折角(2θ)に対する回折X線強度(カウント/秒)を示す図(回折X線スペクトル)である。
【
図8】比較例1のX線回折角(2θ)に対する回折X線強度(カウント/秒)を示す図(回折X線スペクトル)である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体化する際の形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0034】
図1に、本実施形態の導電膜付基板50の一例を示す。本実施形態の導電膜付基板50は、マスクブランク用基板10(単に「基板10」という場合がある。)の二つの主表面のうち、少なくとも一つの主表面の上に、所定の導電膜23を備える。
【0035】
本明細書において、マスクブランク用基板10の主表面のうち、導電膜23(「裏面導電膜」という場合がある。)が形成される主表面(単に「裏面」という場合がある。)のことを「裏側主表面」という。また、本明細書において、導電膜付基板50の導電膜23が形成されていない主表面のことを「表側主表面」という。マスクブランク用基板10の表側主表面の上には、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した多層反射膜21が形成される。
【0036】
図1に、基板10の一つの主表面(裏側主表面)の上に、所定の導電膜23が配置され、表側主表面には、薄膜が形成されていない導電膜付基板50を例示する。本明細書において、導電膜付基板50とは、少なくともマスクブランク用基板10の裏側主表面に導電膜23が形成されたものであり、他の主表面の上に多層反射膜21が形成されたもの(多層反射膜付基板20)、及び更にパターン形成用薄膜24が形成されたもの(反射型マスクブランク30)等も、導電膜付基板50に含まれる。
【0037】
図2に、裏側主表面の上に導電膜23が形成された本実施形態の多層反射膜付基板20を示す。
図2に示す多層反射膜付基板20は、その裏側主表面の上に、所定の導電膜23を含む。したがって、
図2に示す多層反射膜付基板20は、本実施形態の導電膜付基板50の一種である。
【0038】
図3は、本実施形態の反射型マスクブランク30の一例を示す模式図である。
図3の反射型マスクブランク30は、マスクブランク用基板10の表側主表面の上に、多層反射膜21、保護膜22及びパターン形成用薄膜24を有する。また、
図3の反射型マスクブランク30は、その裏側主表面に、所定の導電膜23を含む。したがって、
図3に示す反射型マスクブランク30は、本実施形態の導電膜付基板50の一種である。
【0039】
図5は、本実施形態の反射型マスクブランク30の別の一例を示す模式図である。
図5に示す反射型マスクブランク30は、多層反射膜21及びパターン形成用薄膜24、並びに多層反射膜21及びパターン形成用薄膜24の間に形成される保護膜22、パターン形成用薄膜24の表面に形成されるエッチングマスク膜25を含む。本実施形態の反射型マスクブランク30は、その裏側主表面に、所定の導電膜23を含む。したがって、
図5に示す反射型マスクブランク30は、本実施形態の導電膜付基板50の一種である。なお、エッチングマスク膜25を有する反射型マスクブランク30を用いる場合、後述のように、パターン形成用薄膜24に転写パターンを形成した後、エッチングマスク膜25を剥離してもよい。また、エッチングマスク膜25を形成しない反射型マスクブランク30において、パターン形成用薄膜24を複数層の積層構造とし、この複数層を構成する材料が互いに異なるエッチング特性を有する材料にして、エッチングマスク機能を持ったパターン形成用薄膜24とした反射型マスクブランク30としてもよい。
【0040】
本明細書において、「マスクブランク用基板10の主表面の上に、所定の薄膜(例えば、導電膜23)を備える(有する)」とは、所定の薄膜が、マスクブランク用基板10の主表面に接して配置されることを意味する場合の他、マスクブランク用基板10と、所定の薄膜との間に他の膜を有することを意味する場合も含む。所定の薄膜以外の膜についても同様である。例えば「膜Aの上に膜Bを有する」とは、膜Aと膜Bとが直接、接するように配置されていることを意味する他、膜Aと膜Bとの間に他の膜を有する場合も含む。また、本明細書において、例えば「膜Aが膜Bの表面に接して配置される」とは、膜Aと膜Bとの間に他の膜を介さずに、膜Aと膜Bとが直接、接するように配置されていることを意味する。
【0041】
次に、マスクブランク用基板10の表面形態、及び反射型マスクブランク30等を構成する薄膜の表面の表面形態を示すパラメーターである表面粗さ(Rms)について説明する。
【0042】
代表的な表面粗さの指標であるRms(Root means square)は、二乗平均平方根粗さであり、平均線から測定曲線までの偏差の二乗を平均した値の平方根である。Rmsは下式(1)で表される。
【0043】
【数1】
式(1)において、lは基準長さであり、Zは平均線から測定曲線までの高さである。
【0044】
Rmsは、従来からマスクブランク用基板10の表面粗さの管理に用いられており、表面粗さを数値で把握できる。
【0045】
[導電膜付基板50]
次に、実施形態の導電膜付基板50について、具体的に説明する。まず、導電膜付基板50に用いられるマスクブランク用基板10(単に「基板10」という場合がある。)について説明する。
【0046】
<マスクブランク用基板10>
マスクブランク用基板10としては、EUV光による露光時の熱による転写パターン(後述のパターン形成用薄膜24の薄膜パターン24a)の歪みを防止するため、0±5ppb/℃の範囲内の低熱膨張係数を有するものが好ましく用いられる。この範囲の低熱膨張係数を有する素材として、例えば、SiO2-TiO2系ガラス、及び多成分系ガラスセラミックス等を用いることができる。
【0047】
基板10の転写パターンが形成される側の表側主表面は、少なくともパターン転写精度、及び位置精度を得る観点から高平坦度となるように表面加工されている。EUV露光の場合、基板10の転写パターンが形成される側の主表面の132mm×132mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.05μm以下、更に好ましくは0.03μm以下である。また、表側主表面の反対側の裏側主表面は、露光装置にセットするときに静電チャックされる面である。裏側主表面は、132mm×132mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.05μm以下、更に好ましくは0.03μm以下である。なお、反射型マスクブランク30における裏側主表面の平坦度は、142mm×142mmの領域において、平坦度が1μm以下であることが好ましくより好ましくは0.5μm以下、更に好ましくは0.3μm以下である。
【0048】
また、基板10の表面平滑度の高さも極めて重要な項目である。転写用のパターン形成用薄膜24の薄膜パターン24aが形成される表側主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.1nm以下であることが好ましい。なお、表面平滑度は、原子間力顕微鏡で測定することができる。
【0049】
更に、基板10は、その上に形成される膜(多層反射膜21など)の膜応力による変形を防止するために、高い剛性を有していることが好ましい。特に、基板10は、65GPa以上の高いヤング率を有していることが好ましい。
【0050】
<導電膜23>
次に、本実施形態の導電膜付基板50に含まれる導電膜23について、説明する。
【0051】
図1に示すように、基板10の裏側主表面(多層反射膜21が形成される主表面とは反対側の主表面)には、静電チャック用の導電膜23が形成される。
【0052】
本実施形態の導電膜付基板50の所定の導電膜23は、クロムを含む。所定の導電膜23は、窒素を含むことが好ましい。所定の導電膜23がクロム及び窒素を含むことにより、所定の導電膜23の耐薬品性をより高めることができる。
【0053】
本実施形態の導電膜付基板50の導電膜23は、クロムを含む。所定の導電膜23がクロムを含むことにより、導電膜23に導電性を付与することができる。
【0054】
本実施形態の導電膜付基板50に含まれる導電膜23は、下層231及び上層232を含む。具体的には、本実施形態の導電膜付基板50の導電膜23は、基板側から下層231と上層232がこの順に積層した構造を有する。
【0055】
まず、本実施形態の導電膜付基板50の導電膜23の下層231について説明する。本実施形態の下層231の結晶状態は、非晶質(アモルファス)であることが好ましい。本明細書において、下層231が非晶質(アモルファス)であるとは、下層231を所定のX線回折法により測定した場合に、回折X線スペクトルにピークは観測されないことを意味する。回折X線スペクトル及びピークについては、後述する。また、下層231の結晶状態は、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)などによって得られる電子線回折像から特定することも可能である。すなわち、導電膜付基板50の断面サンプルを作成し、下層231に対して断面方向から電子線を照射して電子線回折像を取得する。その電子線回折像から下層231が非晶質(アモルファス)であるか、結晶性を有するかを特定することができる。
【0056】
導電膜23の下層231の結晶状態が非晶質(アモルファス)であることにより、下層231の表面粗さを小さくすることができる。本実施形態の導電膜付基板50では、下層231の表面粗さが小さいため、下層231の表面の上に更に所定の上層232を配置した場合、上層232の表面粗さを小さくすることができる。本実施形態の導電膜付基板50は、導電膜23の表面粗さ(Rms)が小さいため、本実施形態の導電膜付基板50により得られる反射型マスク40の導電膜23と、静電チャックと、の擦れによるパーティクルの発生を防止することができる。非晶質(アモルファス)の結合状態の下層231の上に、結晶性がある上層232を積層することで、上層232の表面粗さが低減される理由は、以下の作用によるものと推測される。なお、以下の推測は、出願時点における本発明者らの推測に基づくものであり、本発明の範囲を何ら制限するものではない。
【0057】
結晶性を有する膜では、その膜を構成する結晶粒の大きさに起因した表面粗さが発生する。一方、非晶質(アモルファス)の膜は膜内部の結晶面の並びに長距離的な秩序がないため、結晶粒が微細化し、結晶性の膜と比べて表面粗さが抑制される。非晶質(アモルファス)である下層231と結晶質である上層232の組み合わせでは、上層232がスパッタリング法により成膜される過程で、下層231との間でミキシングが生じ、結晶粒が微細化する。これにより上層232の初期膜成長過程において結晶粒の粗大化が抑制されることにより、表面粗さが低減されるものと推測する。
【0058】
本実施形態の導電膜付基板50の導電膜23の下層231は、酸素を含有する材料からなることが好ましい。下層231の材料が、クロム及び酸素を含むことにより、下層231の結晶状態を、非晶質(アモルファス)にすることを容易にできる。下層231の結晶状態を非晶質(アモルファス)にすることをより容易にするために、下層231の酸素含有量は、1原子%以上20原子%以下であることが好ましく、3原子%以上15原子%以下であることがより好ましい。
【0059】
本実施形態の導電膜付基板50の導電膜23の下層231は、本実施形態の効果を損なわない範囲で、クロム及び酸素以外の元素を更に含むことができる。例えば、下層231は、更に、窒素を含むことができる。また、下層231に更に含まれる元素としては、導電性の高い金属であるAg、Au、Cu、Al、Mg、W、Ru及びCoなどを挙げることができる。ただし、下層231の結晶状態を非晶質(アモルファス)にすることを妨げないようにするために、クロム及び酸素以外の成分の含有量は、30原子%以下であることが好ましく、15原子%以下であることが、より好ましい。
【0060】
次に、本実施形態の導電膜付基板50の導電膜23の上層232について説明する。本実施形態の導電膜付基板50の導電膜23の上層232は、結晶性を有することが好ましい。本明細書において、「上層232が結晶性を有する」とは、上層232を所定のX線回折法により測定した場合に、回折X線スペクトルに、少なくとも一つのピークが観測されることを意味する。回折X線スペクトル及びピークについては、後述する。また、上層232の結晶状態は、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)などによって得られる電子線回折像から特定することも可能である。すなわち、導電膜付基板50の断面サンプルを作成し、上層232に対して断面方向から電子線を照射して電子線回折像を取得する。その電子線回折像から上層232が非晶質(アモルファス)であるか、結晶性を有するかを特定することができる。
【0061】
導電膜23の上層232の結晶状態が結晶性を有することにより、導電膜23の最表面に配置される上層232の耐薬品性を高くすることができる。したがって、導電膜23が、結晶状態が結晶性を有する上層232を含むことにより、導電膜23の耐薬品性を高くすることができる。そのため、本実施形態の導電膜付基板50を用いて製造された反射型マスク40を、薬液のような薬品を用いて繰り返し洗浄した場合の、導電膜23の劣化を抑制することができる。
【0062】
本実施形態の導電膜付基板50の上層232は、窒素を含有する材料からなることが好ましい。上層232の材料が、クロム及び窒素を含むことにより、クロムのみで上層232を形成した場合に比べて、上層232の機械強度を高くすることができる。一般に、窒化クロム系膜は、窒素含有量が所定の範囲内では非晶質(アモルファス)の膜になる。窒素含有量が所定の範囲を下回る窒化クロム系膜は、結晶性を有するメタリックな膜になり、窒素含有量が所定の範囲を上回る窒化クロム系膜は、結晶性を有する高窒化膜になる。このため、上層232を結晶性を有するものにしつつ、導電性をより高めるためには、上層232の窒素含有量は、1原子%以上かつ15原子%以下であることが好ましく、2原子%以上10原子%以下であることがより好ましい。
【0063】
また、所定の導電膜23の上層232の耐薬品性を更に高めるために、本実施形態の導電膜付基板50の所定の導電膜23の上層232は、不可避的に混入する不純物を除き、クロム及び窒素のみからなることが好ましい。なお、本明細書において、単に「薄膜がクロム及び窒素のみからなる」と記載した場合であっても、薄膜が、クロム及び窒素以外に、不可避的に混入する不純物を含むことができることを意味する。
【0064】
本実施形態の導電膜付基板50の導電膜23の上層232は、本実施形態の効果を損なわない範囲で、クロム及び窒素以外の元素を更に含むことができる。例えば、上層232に更に含まれる元素としては、導電性の高い金属であるAg、Au、Cu、Al、Mg、W、Ru及びCoなどを挙げることができる。ただし、上層232の結晶状態を結晶性にすることを妨げないようにするために、クロム及び窒素以外の成分の含有量は、30原子%以下であることが好ましく、15原子%以下であることが、より好ましい。
【0065】
本実施形態の導電膜付基板50の上層232のクロム含有量は、下層231のクロム含有量よりも多いことが好ましい。薄膜中のクロム含有量が多いほど、シート抵抗が低くなる。上層232のクロム含有量を比較的多くすることにより、静電チャックによる固定をより確実にすることができる。
【0066】
本実施形態の導電膜付基板50の所定の導電膜23の上層232は、所定の結晶性を有することが好ましい。具体的には、以下で説明するように、上層232をX線回折法により測定したときに、所定の回折角度2θでピークが検出されるような回折X線スペクトル(以下、このような回折X線スペクトルを「所定の回折X線スペクトル」という場合がある。)を示すことが好ましい。回折X線スペクトルにピークが検出されるということは、測定対象である上層232が、結晶性を有することを意味する。
【0067】
本実施形態の導電膜付基板50の所定の導電膜23の上層232は、上層232に対してCuK
α線を使用したX線回折法により回折角度2θに対する回折X線強度の測定を行ったとき、回折角度2θが41度以上47度以下の範囲でピークが検出されることが好ましい。
図7に、本実施形態の所定の導電膜23の上層232に対して、回折X線強度の測定を行って得られた回折X線スペクトル(回折角度2θに対する回折X線強度)を示す。
図7に示すように、実施例1の回折X線スペクトルは、回折角度2θが41度以上47度以下の範囲でピークが検出されている。なお、このピークは、Cr
2Nの(111)面あるいはCrNの(200)面のピークに相当するものと推測されるが、本発明はこの推測に拘束されるものではない。回折角度2θが41度以上47度以下の範囲でピークが検出されることは、測定対象である上層232が結晶性を有することを意味するので、ピークが検出されることにより、耐薬品性に優れた導電膜23(上層232)を有する導電膜付基板50を得ることをより確実にできる。
【0068】
本明細書において、X線回折法により検出されるピークとは、CuKα線を使用した回折角度2θに対する回折X線強度の測定データを図示したときのピークであって、測定データ(回折X線スペクトル)からバックグラウンドを差し引いた時のピークの高さが、ピーク付近のバックグラウンドのノイズの大きさ(ノイズの幅)と比べて2倍以上であるものとすることができる。ピークの回折角度2θは、測定データからバックグラウンドを差し引いた時のピークの最大値を示す回折角度2θとすることができる。
【0069】
本実施形態の導電膜付基板50の所定の導電膜23の上層232は、上層232に対して、CuK
α線を使用したX線回折法により回折角度2θに対する回折X線強度の測定を行ったとき、回折角度2θが56度以上60度以下の範囲でピークが検出されることが好ましい。
図7に示すように、耐薬品性に優れる実施例1の上層232の回折X線スペクトルは、回折角度2θが56度以上60度以下の範囲でピークが検出されている。なお、このピークは、Cr
2Nの(112)面のピークに相当するものと推測されるが、本発明はこの推測に拘束されるものではない。
【0070】
本発明者らは、導電膜23の上層232において、回折角度2θが56度以上60度以下の範囲でピークが検出されるような結晶構造を有する薄膜は、耐薬品性に優れるとの知見を得た。したがって、このような上層232を有する導電膜23を含む導電膜付基板50を用いて、反射型マスク40を製造した場合には、薬液のような薬品を用いて反射型マスク40を繰り返し洗浄しても、反射型マスク40の薄膜の劣化を抑制することができる。
【0071】
本実施形態の導電膜付基板50の所定の導電膜23の上層232は、上層232に対して、CuK
α線を使用したX線回折法により回折角度2θに対する回折X線強度の測定を行ったとき、回折角度2θが35度以上38度以下の範囲でピークが検出されないことが好ましい。
図7に示すように、実施例1の回折X線スペクトルは、回折角度2θが35度以上38度以下の範囲でピークが検出されない。なお、この回折角度の範囲でのピークは、CrNの(111)面のピークに相当するものと推測されるが、本発明はこの推測に拘束されるものではない。
【0072】
本実施形態の導電膜付基板50の所定の導電膜23の上層232は、クロム及び窒素を含有していることが好ましい。以下に説明するように、クロム及び窒素を含有する所定の薄膜(導電膜23の上層232)の窒素の含有量により、所定の薄膜の結晶構造が変化する。
【0073】
以上述べたように、本実施形態では、所定の上層232及び所定の下層231を含む導電膜23を用いることにより、耐薬品性に優れ、表面粗さ(Rms)が小さい導電膜23を含む導電膜付基板50を得ることができる。そのため、本実施形態の導電膜付基板50を用いて製造された反射型マスク40を、薬液のような薬品を用いて繰り返し洗浄した場合、導電膜23の劣化を抑制することができる。また、導電膜23の表面粗さ(Rms)が小さいため、反射型マスク40の導電膜23と、静電チャックとの擦れによるパーティクルの発生を防止することができる。したがって、本実施形態の導電膜付基板50は、反射型マスク40を製造するための導電膜付基板50として、好ましく用いることができる。
【0074】
本実施形態の所定の導電膜23(上層232及び下層231)の成膜方法は、必要な特性が得られる限り、公知の任意の方法を用いることができる。所定の導電膜23の成膜方法としては、DCマグネトロンスパッタリング法、RFスパッタリング法、及びイオンビームスパッタリング法などのスパッタリング法を用いることが一般的である。より確実に必要な特性が得るために、反応性スパッタリング法を用いることができる。所定の導電膜23(上層232又は下層231)が、クロム及び窒素を含む場合には、クロムターゲットを用いて、窒素ガスを導入し窒素雰囲気中でスパッタリングにより成膜をすることにより、クロム及び窒素を含む所定の導電膜23(上層232又は下層231)を形成することができる。所定の導電膜23(上層232又は下層231)が、クロム及び酸素を含む場合には、クロムターゲットを用いて、酸素ガスを導入し酸素雰囲気中でスパッタリングにより成膜をすることにより、クロム及び酸素を含む所定の導電膜23(上層232又は下層231)を形成することができる。また、窒素ガス及び酸素ガスの両方を導入してスパッタリングにより成膜をすることにより、クロム、窒素及び酸素を含む所定の導電膜23(上層232又は下層231)を形成することができる。なお、スパッタリングの際に導入する窒素ガス及び/又は酸素ガスの流量を制御することにより、回折X線スペクトルを有する所定の導電膜23の上層232又は下層231を成膜することができる。また、窒素ガス及び/又は酸素ガスに加え、アルゴンガス等の不活性ガスを併用することができる。
【0075】
所定の導電膜23(上層232及び下層231)の形成方法は、具体的には、所定の導電膜23を形成するための基板10の被成膜面を上方に向けて、基板10を水平面上で回転させながら成膜することが好ましい。このとき、基板10の中心軸と、スパッタリングターゲットの中心を通り基板10の中心軸とは平行な直線とがずれた位置で、成膜することが好ましい。すなわち、被成膜面に対してスパッタリングターゲットを、所定の角度となるように傾斜させて、所定の導電膜23を成膜することが好ましい。スパッタリングターゲット及び基板10を、このような配置にして、対向したスパッタリングターゲットをスパッタリングすることによって所定の導電膜23を成膜することができる。所定の角度は、スパッタリングターゲットの傾斜角度が5度以上30度以下の角度であることが好ましい。またスパッタリング成膜中のガス圧は、0.03Pa以上0.1Pa以下であることが好ましい。
【0076】
導電膜23の上層232及び下層231のそれぞれは、表面酸化の影響がある表層を除き、薄膜に含まれる元素(例えば、クロム元素及び窒素元素)の濃度が均一である均一膜であることができる。また、上層232又は下層231の中に含まれる元素の濃度が、上層232又は下層231の厚さ方向に沿って変化するようにした組成傾斜膜とすることができる。また、上層232又は下層231は、本実施形態の効果を損なわない範囲で、複数の異なった組成の複数層からなる積層膜であることができる。
【0077】
本実施形態の導電膜付基板50は、基板10と、導電膜23との間に、例えば、基板10(ガラス基板)から導電膜23へ水素が侵入することを抑制する水素侵入抑制膜を備えることができる。水素侵入抑制膜の存在により、導電膜23の中に水素が取り込まれることを抑制でき、導電膜23の圧縮応力の増大を抑制することができる。
【0078】
水素侵入抑制膜の材料は、水素が透過しにくく、基板10(ガラス基板)から導電膜23への水素の侵入を抑制することができる材料であればどのような種類であってもよい。水素侵入抑制膜の材料としては、具体的には、例えば、Si、SiO2、SiON、SiCO、SiCON、SiBO、SiBON、Cr、CrN、CrO、CrON、CrC、CrCN、CrCO、CrCON、Mo、MoSi、MoSiN、MoSiO、MoSiCO、MoSiON、MoSiCON、TaO及びTaON等を挙げることができる。水素侵入抑制膜は、これらの材料の単層であることができ、また、複数層及び組成傾斜膜であってもよい。水素侵入抑制膜の材料としては、CrOを用いることができる。
【0079】
静電チャック用の導電性を有する導電膜23に求められる電気的特性は通常150Ω/□(Ω/square)以下であり、好ましくは100Ω/□以下である。導電膜23の厚さは、静電チャック用としての機能を満足する限り特に限定されないが、通常20nmから250nmである。また、下層231の厚さは5~50nmであることが好ましく、上層232の厚さは15~200nmであることが好ましい。また、この導電膜23は反射型マスクブランク30の裏側主表面の側の応力調整も兼ね備えている。導電膜23は、表側主表面に形成された各種膜からの応力とバランスをとって、平坦な反射型マスクブランク30が得られるように調整されている。
【0080】
導電膜23は、SPM洗浄を1回行ったときの減膜量が1nm以下であることが好ましい。これにより、反射型マスクブランク30、反射型マスク40及び/又は半導体デバイスの製造工程において、特にSPM洗浄等の酸性の水溶液(薬液)を用いたウェット洗浄が行われた場合でも、導電膜23に要求されるシート抵抗、機械強度及び/又は透過率等を損なうことがない。
【0081】
なお、SPM洗浄とは、H2SO4及びH2O2を用いた洗浄方法であり、H2SO4:H2O2の比率を1:1~5:1とした洗浄液を用いて、例えば80~150℃の温度で処理時間10分程度の条件で行う洗浄のことをいう。
【0082】
本実施形態における洗浄耐性の判定基準となるSPMの洗浄条件は、以下の通りである。
洗浄液 H2SO4:H2O2=2:1(重量比)
洗浄温度 120℃
洗浄時間 10分
【0083】
また、半導体デバイスを製造するためのパターン転写装置は、通常、ステージに搭載される反射型マスク40を固定するための静電チャックを備えている。反射型マスク40の裏側主表面に形成された導電膜23は、静電チャックにより、パターン転写装置のステージに固定される。
【0084】
導電膜23の表面粗さは、1μm×1μmの領域を原子間力顕微鏡で測定して得られる二乗平均平方根粗さ(Rms)は、0.5nm以下が好ましく、0.4nm以下とすることがより好ましい。導電膜23の表面が所定の二乗平均平方根粗さ(Rms)であることにより、静電チャックと導電膜23との擦れによるパーティクルの発生を防止することができる。
【0085】
また、上記パターン転写装置において、反射型マスク40を搭載するステージの移動速度を速くして生産効率を上げようとすると、導電膜23に更なる負荷がかかる。そのため、導電膜23は、より高い機械強度を有することが望まれる。導電膜23の機械強度は、導電膜付基板50のクラック発生荷重を測定することにより評価することができる。機械強度は、クラック発生荷重の値で300mN以上であることが必要である。機械強度は、クラック発生荷重の値で、600mN以上が好ましく、1000mNより大きいことがより好ましい。クラック発生荷重が所定の範囲であることにより、導電膜23は、静電チャック用の導電膜23として求められる機械強度を有するといえる。
【0086】
特許第5883249号公報には、レーザビームにより、フォトリソグラフィー用のマスクの誤差を補正する方法が記載されている。特許第5883249号公報に記載の技術を反射型マスク40に適用する際には、基板10の裏側主表面からレーザビームを照射することが考えられる。しかしながら、反射型マスク40の基板10の裏側主表面には、導電膜23が配置されているので、レーザビームを透過しにくいという問題が生じる。クロムを薄膜材料として用いた場合、その薄膜の所定の波長の可視光透過率が比較的高い。そのため、クロムを含有する薄膜を、反射型マスク40の導電膜23として用いる場合には、裏側主表面から所定の光を照射することにより、特許第5883249号公報に記載のような欠陥の修正を行うことができる。
【0087】
導電膜23の膜厚は、波長532nmの光における透過率及び電気伝導度との関係で、適切な膜厚を選択することができる。例えば、材料の電気伝導度が高ければ、薄い膜厚にすることができ、透過率を高くすることができる。クロムを薄膜材料として用いた本実施形態の導電膜付基板50の導電膜23の膜厚は、20nm以上50nm以下であることが好ましい。導電膜23が所定の膜厚であることにより、より適切な透過率及び導電性を有する導電膜23を得ることができる。
【0088】
導電膜23の波長532nmの透過率は、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、25%以上であることが更に好ましい。波長632nmの透過率は、25%以上であることが好ましい。導電膜付基板50の導電膜23の所定の波長の光の透過率が所定の範囲であることにより、反射型マスク40の位置ずれをレーザビーム等により裏側主表面の側から補正することのできる反射型マスク40を得ることができる。
【0089】
なお、本実施形態の透過率は、導電膜23を備えた導電膜付基板50に対して、導電膜23側から波長532nmの光を照射して、導電膜23及び基板10を透過した透過光を測定することにより得られたものである。
【0090】
<多層反射膜付基板20及び多層反射膜21>
次に、本実施形態の多層反射膜付基板20及び多層反射膜21について以下に説明する。
【0091】
図2に示すように、本実施形態の多層反射膜付基板20は、上述の導電膜23が形成される側の主表面(裏側主表面)とは反対側の主表面(表側主表面)の上に、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した多層反射膜21が形成されている。本実施形態の多層反射膜付基板20は、裏側主表面に所定の導電膜23を有する。したがって、本実施形態の多層反射膜付基板20は、導電膜付基板50の一種である。本実施形態の多層反射膜付基板20は、所定の多層反射膜21を有することにより、所定の波長のEUV光を反射することができる。
【0092】
なお、本実施形態では、導電膜23を形成する前に多層反射膜21を形成することができる。また、
図1に示すように導電膜23を形成し、その後、
図2に示すように多層反射膜21を形成してもよい。
【0093】
多層反射膜21は、反射型マスク40において、EUV光を反射する機能を付与するものである。多層反射膜21は、屈折率の異なる元素を主成分とする各層が周期的に積層された多層膜の構成を有する。
【0094】
一般的に、多層反射膜21として、高屈折率材料である軽元素又はその化合物の薄膜(高屈折率層)と、低屈折率材料である重元素又はその化合物の薄膜(低屈折率層)とが交互に40から60周期程度積層された多層膜が用いられる。多層膜は、基板10側から高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層した高屈折率層/低屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層してもよいし、基板10側から低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層した低屈折率層/高屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層してもよい。なお、多層反射膜21の最表面の層(即ち多層反射膜21の基板10と反対側の表面層)は、高屈折率層であることが好ましい。上述の多層膜において、基板10に、高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層した積層構造(高屈折率層/低屈折率層)を1周期として複数周期積層する場合、最上層が低屈折率層となる。多層反射膜21の最表面の低屈折率層は、容易に酸化されてしまうので、多層反射膜21の反射率が減少する。反射率の減少を避けるため、最上層の低屈折率層上に、高屈折率層を更に形成して多層反射膜21とすることが好ましい。一方、上述の多層膜において、基板10に、低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層した積層構造(低屈折率層/高屈折率層)を1周期として、複数周期積層する場合は、最上層が高屈折率層となる。この場合には、高屈折率層を更に形成する必要がない。
【0095】
本実施形態において、高屈折率層としては、ケイ素(Si)を含む層が採用される。Siを含む材料としては、Si単体の他に、Siに、ボロン(B)、炭素(C)、窒素(N)、及び/又は酸素(O)を含むSi化合物を用いることができる。Siを含む層を高屈折率層として使用することによって、EUV光の反射率に優れたEUVリソグラフィー用反射型マスク40が得られる。また、本実施形態において、基板10としてはガラス基板が好ましく用いられる。Siはガラス基板との密着性においても優れている。また、低屈折率層としては、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、及び白金(Pt)から選ばれる金属単体、又はこれらの合金が用いられる。例えば波長13nmから14nmのEUV光に対する多層反射膜21としては、好ましくはMo膜とSi膜を交互に40から60周期程度積層したMo/Si周期積層膜が用いられる。なお、多層反射膜21の最上層である高屈折率層をケイ素(Si)で形成し、この最上層(Si)とRu系保護膜22との間に、ケイ素と酸素とを含むケイ素酸化物層を形成することができる。ケイ素酸化物層を形成することにより、反射型マスク40の洗浄耐性を向上させることができる。
【0096】
上述の多層反射膜21の単独での反射率は通常65%以上であり、上限は通常73%である。なお、多層反射膜21の各構成層の厚さ、及び周期は、露光波長により適宜選択することができ、例えばブラッグ反射の法則を満たすように選択することができる。多層反射膜21において、高屈折率層及び低屈折率層はそれぞれ複数存在する。複数の高屈折率層の厚さが同じである必要はなく、複数の低屈折率層の厚さが同じである必要はない。また、多層反射膜21の最表面のSi層の膜厚は、反射率を低下させない範囲で調整することができる。最表面のSi(高屈折率層)の膜厚は、3nmから10nmとすることができる。
【0097】
多層反射膜21の形成方法は、公知である。例えばイオンビームスパッタリング法により、多層反射膜21の各層を成膜することで形成できる。上述したMo/Si周期多層膜の場合、例えばイオンビームスパッタリング法により、まずSiターゲットを用いて厚さ4nm程度のSi膜を基板10の上に成膜し、その後Moターゲットを用いて厚さ3nm程度のMo膜を成膜する。このSi膜/Mo膜を1周期として、40から60周期積層して、多層反射膜21を形成する(最表面の層はSi層とする)。また、多層反射膜21の成膜の際に、イオン源からクリプトン(Kr)イオン粒子を供給して、イオンビームスパッタリングを行うことにより多層反射膜21を形成することが好ましい。
【0098】
<保護膜22>
本実施形態の多層反射膜付基板20(導電膜付基板50)は、多層反射膜21の表面のうち、マスクブランク用基板10とは反対側の表面に接して配置される保護膜22を更に含むことが好ましい。
【0099】
保護膜22は、後述する反射型マスク40の製造工程におけるドライエッチング及び洗浄から多層反射膜21を保護するために、多層反射膜21の上に形成される。また、電子線(EB)を用いた転写パターン(後述の薄膜パターン24a)の黒欠陥修正の際に、保護膜22によって多層反射膜21を保護することができる。保護膜22を、3層以上の積層構造とすることができる。例えば、保護膜22の最下層と最上層を、上記Ruを含有する物質からなる層とし、最下層と最上層との間に、Ru以外の金属、又はRu以外の金属の合金を介在させた構造とすることができる。保護膜22の材料は、例えば、ルテニウムを主成分として含む材料により構成される。ルテニウムを主成分として含む材料としては、Ru金属単体、又はRuにチタン(Ti)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ホウ素(B)、ランタン(La)、コバルト(Co)、及び/又はレニウム(Re)などの金属を含有したRu合金を用いることができる。また、これらの保護膜22の材料は、窒素を更に含むことができる。保護膜22は、Cl系ガスのドライエッチングでパターン形成用薄膜24をパターニングする場合に有効である。
【0100】
保護膜22の材料としてRu合金を用いる場合、Ru合金のRu含有比率は50原子%以上100原子%未満、好ましくは80原子%以上100原子%未満、更に好ましくは95原子%以上100原子%未満である。特に、Ru合金のRu含有比率が95原子%以上100原子%未満の場合には、保護膜22への多層反射膜21を構成する元素(ケイ素)の拡散を抑えつつ、EUV光の反射率を十分確保することができる。更にこの保護膜22は、マスク洗浄耐性、パターン形成用薄膜24をエッチング加工したときのエッチングストッパ機能、及び多層反射膜21の経時変化防止のための保護機能を兼ね備えることが可能となる。
【0101】
EUVリソグラフィーの場合、露光光に対して透明な物質が少ないので、マスクパターン面への異物付着を防止するEUVペリクルが技術的に簡単ではない。このことから、ペリクルを用いないペリクルレス運用が主流となっている。また、EUVリソグラフィーの場合、EUV露光によってマスクにカーボン膜が堆積したり、酸化膜が成長したりするといった露光コンタミネーションが起こる。そのため、EUV反射型マスク40を半導体デバイスの製造に使用している段階で、度々洗浄を行ってマスク上の異物及びコンタミネーションを除去する必要がある。このため、EUV反射型マスク40では、光リソグラフィー用の透過型マスクに比べて桁違いのマスク洗浄耐性が要求されている。Tiを含有したRu系の保護膜22を用いると、硫酸、硫酸過水(SPM)、アンモニア、アンモニア過水(APM)、OHラジカル洗浄水及び濃度が10ppm以下のオゾン水などの洗浄液に対する洗浄耐性を特に高くすることができる。そのため、EUV反射型マスク40に対するマスク洗浄耐性の要求を満たすことが可能となる。
【0102】
保護膜22の厚みは、その保護膜22としての機能を果たすことができる限り特に制限されない。EUV光の反射率の観点から、保護膜22の厚さは、好ましくは、1.0nmから8.0nm、より好ましくは、1.5nmから6.0nmである。
【0103】
保護膜22の形成方法としては、公知の膜形成方法と同様のものを特に制限なく採用することができる。保護膜22の形成方法の具体例としては、スパッタリング法及びイオンビームスパッタリング法が挙げられる。
【0104】
本実施形態の多層反射膜付基板20は、基板10の主表面に接して下地膜を有することができる。下地膜は、基板10と多層反射膜21との間に形成される薄膜である。下地膜を有することにより、電子線によるマスクパターン欠陥検査時のチャージアップを防止すると共に、多層反射膜21の位相欠陥が少なく、高い表面平滑性を得ることができる。
【0105】
下地膜の材料として、ルテニウム又はタンタルを主成分として含む材料が好ましく用いられる。具体的には、下地膜の材料として、例えば、Ru金属単体、Ta金属単体、Ru合金又はTa合金を用いることができる。Ru合金及びTa合金として、Ru及び/又はTaに、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ホウ素(B)、ランタン(La)、コバルト(Co)、及び/又はレニウム(Re)等の金属を含有したものを用いることができる。下地膜の膜厚は、例えば1nm~10nmの範囲であることができる。
【0106】
[反射型マスクブランク30]
次に、本実施形態の反射型マスクブランク30について説明する。
図3は、本実施形態の反射型マスクブランク30の一例を示す模式図である。本実施形態の反射型マスクブランク30は、上述の多層反射膜付基板20(導電膜付基板50)の多層反射膜21の上、又は保護膜22の上に、パターン形成用薄膜24を備える。すなわち、本実施形態の反射型マスクブランク30は、基板10の一方の主表面(表側主表面)の上に、多層反射膜21とパターン形成用薄膜24がこの順に積層した構造を有し、基板10の他方の主表面(裏側主表面)の上に、上述の所定の導電膜23を備える。反射型マスクブランク30は、パターン形成用薄膜24の上に更にエッチングマスク膜25及び/又はレジスト膜32を有することができる(
図5及び
図6(a)参照)。
【0107】
<パターン形成用薄膜24>
反射型マスクブランク30は、上述の多層反射膜付基板20の上に、パターン形成用薄膜24を有する。すなわち、パターン形成用薄膜24は、多層反射膜21の上(保護膜22が形成されている場合には、保護膜22の上)に形成される。パターン形成用薄膜24の基本的な機能は、EUV光を吸収することである。パターン形成用薄膜24は、EUV光の吸収を目的としたパターン形成用薄膜24であっても良いし、EUV光の位相差も考慮した位相シフト機能を有するパターン形成用薄膜24であっても良い。位相シフト機能を有するパターン形成用薄膜24とは、EUV光を吸収するとともに一部を反射させて位相をシフトさせるものである。すなわち、位相シフト機能を有するパターン形成用薄膜24がパターニングされた反射型マスク40において、パターン形成用薄膜24が形成されている部分では、EUV光を吸収して減光しつつパターン転写に悪影響がないレベルで一部の光を反射させる。また、パターン形成用薄膜24が形成されていない領域(フィールド部)では、EUV光は、保護膜22を介して多層反射膜21から反射する。そのため、位相シフト機能を有するパターン形成用薄膜24からの反射光と、フィールド部からの反射光との間に所望の位相差を有することになる。位相シフト機能を有するパターン形成用薄膜24は、パターン形成用薄膜24からの反射光と、多層反射膜21からの反射光との位相差が170度から190度となるように形成される。180度近傍の反転した位相差の光同士がパターンエッジ部で干渉し合うことにより、投影光学像の像コントラストが向上する。その像コントラストの向上に伴って解像度が上がり、露光量裕度、及び焦点裕度等の露光に関する各種裕度を大きくすることができる。
【0108】
パターン形成用薄膜24は単層の膜であっても良いし、複数の膜(例えば、下層パターン形成用薄膜及び上層パターン形成用薄膜)からなる多層膜であっても良い。単層膜の場合は、反射型マスクブランク30製造時の工程数を削減できて生産効率が上がるという特徴がある。多層膜の場合には、上層パターン形成用薄膜が、光を用いたマスクパターン欠陥検査時の反射防止膜になるように、その光学定数と膜厚を適当に設定することができる。このことにより、光を用いたマスクパターン欠陥検査時の検査感度が向上する。また、上層パターン形成用薄膜に酸化耐性が向上する酸素(O)及び窒素(N)等が添加された膜を用いると、経時安定性が向上する。このように、パターン形成用薄膜24を多層膜にすることによって様々な機能を付加させることが可能となる。パターン形成用薄膜24が位相シフト機能を有するパターン形成用薄膜24の場合には、多層膜にすることによって光学面での調整の範囲を大きくすることができるので、所望の反射率を得ることが容易になる。
【0109】
パターン形成用薄膜24の材料としては、EUV光を吸収する機能を有し、エッチング等により加工が可能(好ましくは塩素(Cl)及び/又はフッ素(F)系ガスのドライエッチングでエッチング可能)である限り、特に限定されない。そのような機能を有するものとして、タンタル(Ta)単体又はTaを含む材料を好ましく用いることができる。
【0110】
Taを含む材料としては、例えば、TaとBを含む材料、TaとNを含む材料、TaとBと、O及びNのうち少なくとも1つとを含む材料、TaとSiを含む材料、TaとSiとNを含む材料、TaとGeを含む材料、TaとGeとNを含む材料、TaとPdを含む材料、TaとRuを含む材料、及びTaとTiを含む材料等を挙げることができる。
【0111】
パターン形成用薄膜24は、例えば、Ni単体、Niを含む材料、Cr単体、Crを含む材料、Ru単体、Ruを含む材料、Pd単体、Pdを含む材料、Mo単体、及び、Moを含有する材料からなる群から選択される少なくとも1つを含む材料により形成することができる。
【0112】
パターン形成用薄膜24は、上述の所定の導電膜23の上層232と同様の薄膜であることができる。すなわち、本実施形態のパターン形成用薄膜24は、クロム(Cr)を含み、結晶性を有する薄膜(所定の薄膜)であることができる。また、所定の薄膜は、更に窒素を含むことができる。所定の薄膜に対してCuKα線を使用したX線回折法により回折角度2θに対する回折X線強度の測定を行ったとき、所定の回折X線スペクトルを有することができる。パターン形成用薄膜24が、所定の回折X線スペクトルを有する所定の結晶構造のクロム(Cr)及び窒素(N)を含むことにより、パターン形成用薄膜24の耐薬品性、特にSPM洗浄に対する耐性をより高めることができる。
【0113】
EUV光の吸収を適切に行うために、パターン形成用薄膜24の厚みは、好ましくは、30nm~100nmである。
【0114】
パターン形成用薄膜24は、公知の方法、例えば、マグネトロンスパッタリング法、及びイオンビームスパッタリング法などによって形成することができる。
【0115】
<エッチングマスク膜25>
パターン形成用薄膜24の上にはエッチングマスク膜25を形成してもよい。エッチングマスク膜25の材料としては、エッチングマスク膜25に対するパターン形成用薄膜24のエッチング選択比が高い材料を用いる。ここで、「Aに対するBのエッチング選択比」とは、エッチングを行いたくない層(マスクとなる層)であるAとエッチングを行いたい層であるBとのエッチングレートの比をいう。具体的には「Aに対するBのエッチング選択比=Bのエッチング速度/Aのエッチング速度」の式によって特定される。また、「選択比が高い」とは、比較対象に対して、上記定義の選択比の値が大きいことをいう。エッチングマスク膜25に対するパターン形成用薄膜24のエッチング選択比は、1.5以上が好ましく、3以上が更に好ましい。
【0116】
エッチングマスク膜25に対するパターン形成用薄膜24のエッチング選択比が高い材料としては、クロム及びクロム化合物の材料が挙げられる。したがって、パターン形成用薄膜24をフッ素系ガスでエッチングする場合には、クロム及びクロム化合物の材料を使用することができる。クロム化合物としては、Crと、N、O、C及びHから選ばれる少なくとも一つの元素とを含む材料が挙げられる。また、パターン形成用薄膜24を、実質的に酸素を含まない塩素系ガスでエッチングする場合には、ケイ素及びケイ素化合物の材料を使用することができる。ケイ素化合物としては、Siと、N、O、C及びHから選ばれる少なくとも一つの元素とを含む材料、並びにケイ素及びケイ素化合物に金属を含む金属ケイ素(金属シリサイド)、及び金属ケイ素化合物(金属シリサイド化合物)などの材料が挙げられる。金属ケイ素化合物としては、金属と、Siと、N、O、C及びHから選ばれる少なくとも一つの元素とを含む材料が挙げられる。
【0117】
エッチングマスク膜25の膜厚は、転写パターンを精度よくパターン形成用薄膜24に形成するエッチングマスクとしての機能を得る観点から、3nm以上であることが望ましい。また、エッチングマスク膜25の膜厚は、レジスト膜32の膜厚を薄くする観点から、15nm以下であることが望ましい。
【0118】
エッチングマスク膜25は、上述の所定の導電膜23の上層232と同様の薄膜であることができる。すなわち、本実施形態のエッチングマスク膜25は、クロム(Cr)を含み、結晶性を有する薄膜(所定の薄膜)であることができる。また、所定の薄膜は、更に窒素を含むことができる。所定の薄膜に対してCuKα線を使用したX線回折法により回折角度2θに対する回折X線強度の測定を行ったとき、所定の回折X線スペクトルを有することができる。エッチングマスク膜25が、所定の回折X線スペクトルを有する所定の結晶構造のクロム(Cr)及び窒素(N)を含むことにより、エッチングマスク膜25の耐薬品性、特にSPM洗浄に対する耐性をより高めることができる。
【0119】
[反射型マスク40]
次に、本実施形態の反射型マスク40について以下に説明する。
図4は、本実施形態の反射型マスク40を示す模式図である。本実施形態の反射型マスク40は、反射型マスクブランク30のパターン形成用薄膜24に転写パターンが設けられている。
【0120】
本実施形態の反射型マスク40は、上記の反射型マスクブランク30におけるパターン形成用薄膜24をパターニングして、多層反射膜21の上、又は保護膜22の上にパターン形成用薄膜24の薄膜パターン24aを形成した構造である。本実施形態の反射型マスク40は、EUV光等の露光光で露光すると、反射型マスク40の表面でパターン形成用薄膜24のある部分では露光光が吸収され、それ以外のパターン形成用薄膜24を除去した部分では露出した保護膜22及び多層反射膜21で露光光が反射されることにより、EUVリソグラフィー用の反射型マスク40として使用することができる。
【0121】
本実施形態の反射型マスク40によれば、多層反射膜21の上(又は保護膜22の上)に薄膜パターン24aを有することにより、EUV光を用いて所定のパターンを被転写体に転写することができる。
【0122】
本実施形態の反射型マスク40は、耐薬品性に優れた導電膜23を有する。そのため、本実施形態の反射型マスク40を、薬液のような薬品を用いて繰り返し洗浄しても、反射型マスク40の劣化を抑制することができる。そのため、本発明の反射型マスク40は、高精度の転写パターンを有することができるといえる。
【0123】
[半導体デバイスの製造方法]
本実施形態の半導体デバイスの製造方法は、本実施形態の反射型マスク40を用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備える。すなわち、以上説明した反射型マスク40と、露光装置を使用したリソグラフィープロセスにより、半導体基板等の被転写体上に形成されたレジスト膜に、反射型マスク40の薄膜パターン24aに基づく回路パターン等の転写パターンを転写し、その他種々の工程を経ることで、半導体基板等の被転写体上に種々の転写パターン等が形成された半導体デバイスを製造することができる。
【0124】
本実施形態の半導体デバイスの製造方法によれば、耐薬品性に優れた導電膜2324の薄膜パターン24aを有する反射型マスク40を、半導体デバイスの製造のために用いることができる。薬液(例えばSPM洗浄の場合には硫酸過水)のような薬品を用いて反射型マスク40を繰り返し洗浄しても、反射型マスク40の導電膜23及び/又は薄膜パターン24aの劣化を抑制することができるので、反射型マスク40を繰り返し使用した場合でも、微細でかつ高精度の転写パターンを有する半導体デバイスを製造することができる。
【実施例】
【0125】
以下、実施例について図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0126】
[実施例1]
まず、実施例1の導電膜付基板50について説明する。
【0127】
実施例1の導電膜付基板50を製造するための基板10は、次のように用意した。すなわち、表側主表面及び裏側主表面の両主表面が研磨された6025サイズ(約152mm×約152mm×6.35mm)の低熱膨張ガラス基板であるSiO2-TiO2系ガラス基板を準備し基板10とした。平坦で平滑な主表面となるように、粗研磨工程、精密研磨工程、局所加工工程、及びタッチ研磨工程よりなる研磨を行った。
【0128】
実施例1のSiO2-TiO2系ガラス基板(マスクブランク用基板10)の裏側主表面に、CrON膜からなる下層231を形成し、下層231の上に、CrN膜からなる上層232を形成し、導電膜23とした。
【0129】
CrON膜(下層231)は、Crターゲットを用いて、Arガス、N2ガスおよびO2ガスの混合ガス雰囲気にて反応性スパッタリング法(DCマグネトロンスパッタリング法)で、15nmの膜厚で成膜した。CrON膜の組成(原子%)をX線光電子分光法(XPS法)により、測定したところ、原子比率は、クロム(Cr)が88原子%、酸素(O)が6原子%、窒素(N)が6原子%であった。
【0130】
続いて、下層231の上に、CrN膜からなる上層232を形成した。CrN膜(上層232)は、Crターゲットを用いて、ArガスとN2ガスの混合ガス雰囲気にて反応性スパッタリング法(DCマグネトロンスパッタリング法)で、180nmの膜厚で成膜した。CrN膜の組成(原子%)をX線光電子分光法(XPS法)により、測定したところ、原子比率は、クロム(Cr)が91原子%、窒素(N)が9原子%であった。
【0131】
実施例1の導電膜23に対して、CuKα線を使用したX線回折法により回折角度2θに対する回折X線強度の測定を行った。X線回折装置は、リガク社製のSmartLabを用いた。回折X線スペクトルの測定は、Cu-Kα線源を用いて、回折角度2θが30度~70度の範囲で、サンプリング幅0.01度、スキャンスピード2度/分の条件にて測定を行った。導電膜23に対して、Cu-Kα線源を用いて発生したX線を照射し、回折角度2θの回折X線強度を測定して、回折X線スペクトルを得た。得られた回折X線スペクトルから、回折角度2θが、56度以上60度以下の範囲、41度以上47度以下の範囲、及び35度以上38度以下の範囲でのピークの有無を判断した。なお、ピークの有無を判断は、測定された回折X線スペクトルからバックグラウンドを差し引いた時のピークの高さが、ピーク付近のバックグラウンドのノイズの大きさ(ノイズの幅)と比べて2倍以上である場合に、ピーク有りと判断した。なお、得られた回折X線スペクトルには、CrON膜(下層231)のピークは観測されなかったことから、測定で得られた回折X線スペクトルは、CrN膜(上層232)の回折X線スペクトルであるといえる。この点は、比較例1及び2の回折X線スペクトルについても同様である。
【0132】
図7に、実施例1の回折X線スペクトルを示す。
図7から明らかなように、実施例1の導電膜23(上層232)は、回折角度2θが、56度以上60度以下の範囲、41度以上47度以下の範囲、でのピークが存在したが、回折角度2θが35度以上38度以下の範囲ではピークが存在しなかった。表1に、実施例1の各回折角度2θの範囲のピークの有無を示す。
【0133】
以上のようにして、実施例1の導電膜付基板50を製造した。
【0134】
ここで、上述と同じ成膜条件で基板10上に導電膜を成膜した実施例1の評価用薄膜を作製した。得られた実施例1の評価用薄膜の表面粗さ(Rms)、シート抵抗(Ω/□)、SPM洗浄による減膜量(nm)を測定した。表1に測定結果を示す。
【0135】
実施例1の導電膜付基板50のSPM洗浄による減膜量(nm)は、以下の洗浄条件で1回のSPM洗浄をする前後で膜厚を測定することにより、算出した。
洗浄液 H2SO4:H2O2=2:1(重量比)
洗浄温度 120℃
洗浄時間 10分
【0136】
以上のようにして、実施例1の導電膜付基板50の製造及び評価を行った。
【0137】
[比較例1]
比較例1の導電膜付基板50は、実施例1と同様に、CrON膜の下層231、及びCrN膜の上層232の導電膜23を有する。ただし、比較例1の導電膜23のCrN膜(上層232)の成膜条件(N2ガスの流量)及び原子比率は、実施例1の場合とは異なる。それ以外は実施例1と同様である。比較例1のCrN膜(上層232)は、180nmの膜厚で成膜した。CrN膜(上層232)の組成(原子%)をX線光電子分光法(XPS法)により、測定したところ、クロム(Cr)が84原子%、窒素(N)が16原子%であった。
【0138】
実施例1と同様に、比較例1の導電膜23(上層232)に対して、CuK
α線を使用したX線回折法により回折角度2θに対する回折X線強度の測定を行った。
図8に、比較例1の回折X線スペクトルを示す。
図8から明らかなように、比較例1の導電膜23の上層232は、回折角度2θが56度以上60度以下の範囲、41度以上47度以下の範囲、及び35度以上38度以下の範囲のいずれもピークが存在しなかった。このことから、比較例1の導電膜23はアモルファス構造の薄膜であるといえる。表1に、比較例1の各回折角度2θの範囲のピークの有無を示す。
【0139】
ここで、上述の比較例1と同じ成膜条件で基板10上に導電膜を成膜した比較例1の評価用薄膜を作製した。実施例1と同様に、比較例1の評価用薄膜の表面粗さ(Rms)、シート抵抗(Ω/□)及びSPM洗浄による減膜量(nm)を測定した。表1に測定結果を示す。
【0140】
以上のようにして、比較例1の導電膜付基板50の製造及び評価を行った。
【0141】
[比較例2]
比較例2の導電膜付基板50は、実施例1の上層232のみで導電膜23を構成した点が、実施例1の導電膜付基板50とは異なる。それ以外は実施例1と同様である。すなわち、比較例2の導電膜23は、実施例1の上層232と同じ成膜条件でCrN膜を180nmの膜厚で成膜したものである。導電膜(CrN膜)23の組成(原子%)をX線光電子分光法(XPS法)により、測定したところ、クロム(Cr)が91原子%、窒素(N)が9原子%であった。
【0142】
実施例1と同様に、比較例2の導電膜23に対して、CuKα線を使用したX線回折法により回折角度2θに対する回折X線強度の測定を行った。その結果、実施例1の上層232と同様の傾向を有していた。
【0143】
ここで、上述の比較例2と同じ成膜条件で基板10上に導電膜を成膜した比較例2の評価用薄膜を作製した。実施例1と同様に、比較例2の評価用薄膜の表面粗さ(Rms)、シート抵抗(Ω/□)及びSPM洗浄による減膜量(nm)を測定した。表1に測定結果を示す。
【0144】
以上のようにして、比較例2の導電膜付基板50の製造及び評価を行った。
【0145】
[実施例1、比較例1及び比較例2の比較]
表1に示すように、実施例1の導電膜付基板50の導電膜23のシート抵抗は、150Ω/□以下であり、反射型マスク40の導電膜23として満足できる値だった。また、実施例1の導電膜23のSPM洗浄による減膜量は0.1nmであり、反射型マスク40の導電膜23として満足できる値だった。また、実施例1の導電膜23の表面粗さ(Rms)は0.31nmだったので、導電膜23と静電チャックとの擦れによるパーティクルの発生を防止することができるといえる。
【0146】
表1に示すように、比較例1の導電膜付基板50の導電膜23のシート抵抗は、150Ω/□以下であり、反射型マスク40の導電膜23として満足できる値だった。また、比較例1の導電膜23の表面粗さ(Rms)は0.28nmだったので、導電膜23と静電チャックとの擦れによるパーティクルの発生を防止することができるといえる。しかしながら、比較例1の導電膜23のSPM洗浄による減膜量は1.4nmであり、反射型マスク40の導電膜23として満足できる値ではなかった。
【0147】
表1に示すように、比較例2の導電膜付基板50の導電膜23のシート抵抗は、150Ω/□以下であり、反射型マスク40の導電膜23として満足できる値だった。また、比較例2の導電膜23のSPM洗浄による減膜量は0.1nmであり、反射型マスク40の導電膜23として満足できる値だった。しかしながら、比較例2の導電膜23の表面粗さ(Rms)は0.71nmであったため、導電膜23と静電チャックとの擦れによるパーティクルの発生を防止することが困難であるといえる。
【0148】
以上のことから、実施例1の反射型マスク40の導電膜23は、耐薬品性に優れ、表面粗さ(Rms)が小さい導電膜23であることが明らかとなった。
【0149】
[多層反射膜付基板20]
次に、実施例1の多層反射膜付基板20について説明する。上述のようにして製造された導電膜付基板50の導電膜23が形成された側と反対側の基板10の表側主表面の上に、多層反射膜21及び保護膜22を形成することにより多層反射膜付基板20を製造した。具体的には、下記のようにして、多層反射膜付基板20を製造した。
【0150】
導電膜23が形成された側と反対側の基板10の表側主表面の上に、多層反射膜21を形成した。基板10の上に形成される多層反射膜21は、波長13.5nmのEUV光に適した多層反射膜21とするために、MoとSiからなる周期多層反射膜21とした。多層反射膜21は、MoターゲットとSiターゲットを使用し、Arガス雰囲気中でイオンビームスパッタリング法により基板10の上にMo層及びSi層を交互に積層して形成した。まず、Si膜を4.2nmの厚みで成膜し、続いて、Mo膜を2.8nmの厚みで成膜した。これを1周期とし、同様にして40周期積層し、最後にSi膜を4.0nmの厚みで成膜し、多層反射膜21を形成した。ここでは40周期としたが、これに限るものではなく、例えば60周期でも良い。60周期とした場合、40周期よりも工程数は増えるが、EUV光に対する反射率を高めることができる。
【0151】
引き続き、Arガス雰囲気中で、Ruターゲットを使用したイオンビームスパッタリング法によりRu膜からなる保護膜22を2.5nmの厚みで成膜した。
【0152】
以上のようにして、実施例1の多層反射膜付基板20を製造した。
【0153】
[反射型マスクブランク30]
次に、実施例1の反射型マスクブランク30について説明する。上述のようにして製造された多層反射膜付基板20の保護膜22の上に、パターン形成用薄膜24を形成することにより、反射型マスクブランク30を製造した。
【0154】
DCマグネトロンスパッタリング法により、多層反射膜付基板20の保護膜22の上に、パターン形成用薄膜24を形成した。パターン形成用薄膜24は、吸収層であるTaN膜及び低反射層であるTaO膜の二層からなる積層膜のパターン形成用薄膜24とした。上述した多層反射膜付基板20の保護膜22表面に、DCマグネトロンスパッタリング法により、吸収層としてTaN膜を成膜した。このTaN膜は、Taターゲットに多層反射膜付基板20を対向させ、Arガス及びN2ガスの混合ガス雰囲気中で、反応性スパッタリング法により成膜した。次に、TaN膜の上に更に、TaO膜(低反射層)を、DCマグネトロンスパッタリング法によって形成した。このTaO膜は、TaN膜と同様に、Taターゲットに多層反射膜付基板20を対向させ、Ar及びO2の混合ガス雰囲気中で、反応性スパッタリング法により成膜した。
【0155】
TaN膜の組成(原子比)は、Ta:N=70:30であり、膜厚は48nmであった。また、TaO膜の組成(原子比)はTa:O=35:65であり、膜厚は11nmであった。
【0156】
以上のようにして、実施例1の反射型マスクブランク30を製造した。
【0157】
[反射型マスク40]
次に、実施例1の反射型マスク40について説明する。上述の反射型マスクブランク30を用いて、反射型マスク40を製造した。
図6は、反射型マスクブランク30から反射型マスク40を作製する工程を示す要部断面模式図である。
【0158】
上述の実施例1の反射型マスクブランク30のパターン形成用薄膜24の上に、レジスト膜32を150nmの厚さで形成したものを反射型マスクブランク30とした(
図6(a))。このレジスト膜32に所望のパターンを描画(露光)し、更に現像、リンスすることによって所定のレジストパターン32aを形成した(
図6(b))。次に、レジストパターン32aをマスクにして、パターン形成用薄膜24のドライエッチングを行うことで、パターン形成用薄膜24のパターン(薄膜パターン24a)を形成した(
図6(c))。なお、パターン形成用薄膜24のTaN膜とTaO膜は、ともにCF
4及びHeの混合ガスを用いたドライエッチングによってパターニングを行った。
【0159】
その後、レジストパターン32aをアッシング、又はレジスト剥離液などで除去した。最後に上述のSPM洗浄による減膜量の測定の際の洗浄条件と同じSPM洗浄を行った。以上のようにして、反射型マスク40を製造した(
図6(d))。なお、必要に応じてウェット洗浄後にマスク欠陥検査を行い、マスク欠陥修正を適宜行うことができる。
【0160】
上述の実施例1の導電膜付基板50の評価で述べたように、本実施形態の実施例1の導電膜23を有する導電膜付基板50は、SPM洗浄耐性に優れている。したがって、本実施形態の導電膜23を有する反射型マスク40も、SPM洗浄耐性に優れている。そのため、反射型マスク40にSPM洗浄を施した場合でも導電膜23に要求されるシート抵抗、及び機械強度を損なうことがない。そのため、本実施形態の反射型マスク40を半導体デバイスの製造のために用いても、問題なく静電チャックにより固定することができる。また、本実施形態の実施例1の導電膜23を有する導電膜付基板50の表面粗さ(Rms)は小さい。そのため、導電膜23と静電チャックとの擦れによるパーティクルの発生を防止することができる。したがって、本実施形態の反射型マスク40を、半導体デバイスの製造のために用いる場合には、微細でかつ高精度の転写パターンを有する半導体デバイスを製造することができるといえる。
【0161】
実施例1で作製した各反射型マスク40をEUV露光装置にセットし、半導体基板上に被加工膜とレジスト膜が形成されたウエハに対してEUV露光を行った。そして、この露光済レジスト膜を現像することによって、被加工膜が形成された半導体基板上にレジストパターンを形成した。
【0162】
このレジストパターンをエッチングにより被加工膜に転写し、また、絶縁膜、導電膜の形成、ドーパントの導入、及びアニールなど種々の工程を経ることで、所望の特性を有する半導体デバイスを製造することができた。
【0163】
【符号の説明】
【0164】
10 マスクブランク用基板
20 多層反射膜付基板
21 多層反射膜
22 保護膜
23 導電膜
24 パターン形成用薄膜
24a 薄膜パターン
25 エッチングマスク膜
30 反射型マスクブランク
32 レジスト膜
32a レジストパターン
40 反射型マスク
50 導電膜付基板
231 下層
232 上層