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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】積層繊維シート及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/26 20060101AFI20241009BHJP
   A61F 13/00 20240101ALI20241009BHJP
   D04H 1/4374 20120101ALI20241009BHJP
   D04H 1/4382 20120101ALI20241009BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20241009BHJP
【FI】
B32B5/26
A61F13/00 355L
D04H1/4374
D04H1/4382
D04H1/728
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2024022028
(22)【出願日】2024-02-16
(65)【公開番号】P2024119762
(43)【公開日】2024-09-03
【審査請求日】2024-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2023026743
(32)【優先日】2023-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100141771
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 宏和
(74)【代理人】
【識別番号】100118809
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 育男
(74)【代理人】
【識別番号】100164345
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】近藤 良彦
(72)【発明者】
【氏名】植松 武彦
(72)【発明者】
【氏名】阿部 裕太
(72)【発明者】
【氏名】小野 真帆子
(72)【発明者】
【氏名】東城 武彦
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-214922(JP,A)
【文献】特開2021-50453(JP,A)
【文献】特開2018-100469(JP,A)
【文献】国際公開第2022/075161(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
A41D 19/00
A61F 13/00-13/84
D04H 1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側シートの一方の面に積層された内側シートを備える積層繊維シートに液状物を湿潤させる積層繊維シートの使用方法であって、
前記積層繊維シートに関し、
前記内側シート及び前記外側シートは液状物に対して不溶性であり、
前記内側シートはメジアン繊維径が0.3μm以上5μm以下であり、
前記外側シートは前記内側シートよりメジアン繊維径が大きく、
前記内側シートと前記外側シートとが隣接しており、前記内側シートを構成する繊維と前記外側シートを構成する繊維との融着により、前記内側シートと前記外側シートとが一体化しており、
前記積層繊維シートを、前記内側シートを対象物に向けて適用する工程と、
前記液状物を適用する工程を含む、前記積層繊維シートの使用方法。
【請求項2】
外側シートの一方の面に積層された内側シートを備える積層繊維シートに液状物を湿潤させる積層繊維シートの使用方法であって、
前記積層繊維シートに関し、
前記内側シート及び前記外側シートは液状物に対して不溶性であり、
前記内側シートはメジアン繊維径が0.3μm以上5μm以下であり、
前記外側シートは前記内側シートよりメジアン繊維径が大きく、
前記内側シートと前記外側シートとが一体化しており、
前記積層繊維シートを、前記内側シートを対象物に向けて適用する工程と、
前記液状物を適用する工程と、
前記積層繊維シートを前記対象物に適用したまま、前記液状物を、前記積層繊維シートの前記外側シートの面側からさらに適用する工程を含む、前記積層繊維シートの使用方法。
【請求項3】
外側シートの一方の面に積層された内側シートを備える積層繊維シートに液状物を湿潤させる積層繊維シートの使用方法であって、
前記積層繊維シートに関し、
前記内側シート及び前記外側シートは液状物に対して不溶性であり、
前記内側シートはメジアン繊維径が0.3μm以上5μm以下であり、
前記外側シートは前記内側シートよりメジアン繊維径が大きく、
前記内側シートと前記外側シートとが一体化しており、
前記積層繊維シートを、前記内側シートを対象物に向けて適用する工程と、
前記内側シートの面側を前記対象物に当接させた状態で、前記外側シートの面側から前記液状物を適用する工程とを含む、前記積層繊維シートの使用方法。
【請求項4】
外側シートの一方の面に積層された内側シートを備える積層繊維シートに液状物を湿潤させる積層繊維シートの使用方法であって、
前記積層繊維シートに関し、
前記内側シート及び前記外側シートは液状物に対して不溶性であり、
前記内側シートはメジアン繊維径が0.3μm以上5μm以下であり、
前記外側シートは前記内側シートよりメジアン繊維径が大きく、
前記内側シートと前記外側シートとが一体化しており、
前記積層繊維シートの平面方向における一方向の伸び率が20%以上100%以下、該一方向に直交する方向の伸び率が0%以上30%以下であり、
前記積層繊維シートを、前記内側シートを対象物に向けて適用する工程と、
前記液状物を適用する工程とを含む、前記積層繊維シートの使用方法。
【請求項5】
前記液状物を前記対象物に適用した後、前記積層繊維シートを、前記内側シートを前記対象物に向けて適用する、請求項1、2及び4のいずれか1項に記載の積層繊維シートの使用方法。
【請求項6】
前記液状物を前記積層繊維シートに適用した後、前記積層繊維シートを、前記内側シートを対象物に向けて適用する、請求項1、2及び4のいずれか1項に記載の積層繊維シートの使用方法。
【請求項7】
一体化している前記内側シートと前記外側シートとの界面での融着の強度は、0.01N/20mm以上10N/20mm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層繊維シートの使用方法。
【請求項8】
前記積層繊維シートが、絆創膏、包帯、筒状又は手袋状である、請求項1~のいずれか1項に記載の積層繊維シートの使用方法。
【請求項9】
外側シートの一方の面に積層された内側シートを備える積層繊維シートであって、
前記内側シート及び前記外側シートは液状物に対して不溶性であり、
前記内側シートはメジアン繊維径が0.3μm以上5μm以下であり、前記外側シートは前記内側シートよりメジアン繊維径が大きく、
前記内側シートと前記外側シートとが隣接しており、前記内側シートを構成する繊維と前記外側シートを構成する繊維との融着により、前記内側シートと前記外側シートとが一体化しており、
前記積層繊維シートは液状物を含有し、該液状物が前記内側シートに偏在している、積層繊維シート。
【請求項10】
一体化している前記内側シートと前記外側シートとの界面での融着の強度は、0.01N/20mm以上10N/20mm以下である、請求項9記載の積層繊維シート。
【請求項11】
前記積層繊維シートは、平面方向における一方向の伸び率が20%以上100%以下、該一方向に直交する方向の伸び率が0%以上30%以下である、請求項9又は10記載の積層繊維シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層繊維シート及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維を含んでなるシート(以下、繊維シートという)には、近年注目されるようになってきた極細繊維(例えば繊維径5μm以下)を堆積させてなるものがある。ここまで細い繊維からなる繊維シートを均一に製造する紡糸技術の一例として、例えば電界紡糸法(エレクトロスピニング法)が用いられる。このような極細繊維を含む繊維シートは、今後様々な用途に用いることが期待されており、工業化に向けて鋭意検討がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、円相当直径3000nm以下のナノファイバで構成されたナノファイバ層の一方の面側に、基材層が剥離可能に配されたナノファイバシートが記載されている。該ナノファイバシートを対象物表面に当接させた後、前記基材層を剥離して、前記ナノファイバ層を前記対象物表面に転写することが記載されている。その際、ナノファイバ層表面又は対象物表面を湿潤させた状態にすることで、前記転写を首尾よく行うことができるとされる。
特許文献2記載のナノファイバシートでは、上記のナノファイバ層を、周縁端から内方に向かって漸次厚みが増加するグラデーション領域を有するものとしている。該ナノファイバシートから基材層を剥離した残りのナノファイバ層を対象物に貼付して使用することが記載されている。前記ナノファイバ層は、対象物に貼付した状態において、グラデーション領域の存在によりその外縁が目立たず、視認し難いものとなるとされる。
また、特許文献3には、2000nm以下のナノファイバからなる網目状構造に化粧料あるいは化粧成分を保持させてなる化粧料シートが記載されている。前記化粧料等の液体を含ませるものとして、特許文献4には、保液性を有する素材によって形成されたハンドマスクが記載されている。前記保液性を有する素材としては、上記のようなナノファイバの記載はなく、一般的な不織布や紙、脱脂綿等が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-167780号公報
【文献】特開2020-90097号公報
【文献】特開2008-179629号公報
【文献】特開2017-137585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のような極細繊維を含むシートは、特許文献3に記載されるように、液状物の持続的かつ均一な湿潤状態を作り出すのに有用である。しかし、このような極細繊維シートは液状物の浸透性が高いため、単独で用いた場合、前記対象物との対向面のみならず、その反対側の外側面までもが湿潤状態となりやすい。そのため、液状物を保持した極細繊維シートは、前記対象物に貼付した状態でその外側がべたつき、周囲の物に前記液状物が転写することがある。
この点、特許文献4に記載されているように、ビニルのような防液性を有する素材を外側に配置することもできる。しかし、ビニル等によるムレ等を勘案すると、装着時間に限度があった。このような問題に関して特許文献1及び2には記載はない。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑み、ムレ防止と外側のべたつき抑制とを可能にしながら、同時に液状物の持続的な湿潤状態を作り出すことができる積層繊維シートに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、外側シートの一方の面に積層された内側シートを備える積層繊維シートに液状物を湿潤させる積層繊維シートの使用方法を提供する。
前記内側シート及び前記外側シートは液状物に対して不溶性であることが好ましい。
前記内側シートはメジアン繊維径が0.3μm以上5μm以下であることが好ましい。
前記外側シートは前記内側シートよりメジアン繊維径が大きいことが好ましい。
前記内側シートと前記外側シートとが一体化していることが好ましい。
前記積層繊維シートの使用方法は、前記積層繊維シートを、前記内側シートを対象物に向けて適用する工程と、前記液状物を適用する工程とを含むことが好ましい。
【0008】
また、本発明は、外側シートの一方の面に積層された内側シートを備える積層繊維シートを提供する。
前記積層繊維シートは、上記に示した内側シート及び外側シートの構造を有することが好ましい。
前記積層繊維シートは液状物を含有し、該液状物が前記内側シートに偏在していることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の積層繊維シートは、ムレ防止と外側のべたつき抑制とを可能にしながら、同時に液状物の持続的な湿潤状態を作り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る積層繊維シートの一実施形態を模式的に示す断面図である。
図2】(A)は、内側シートを単独で指で摘まんだ状態を示す図面代用写真であり、(B)は、本発明の積層繊維シートを指で摘まんだ状態を示す図面代用写真である。
図3】内側シートの極細繊維同士の交点における融着点を模式的に示す説明図である。
図4図4は繊維交点の数に占める融着点の数の割合を測定する際に用いられる観察画像の一例を示す図面代用写真である。
図5】内側シートと外側シートとの間の界面での双方の繊維同士の交点に融着点を含む例を示す模式図であり、(A)は伸長前を示し、(B)は伸長した状態を示す。
図6】本発明の積層繊維シートの一例を対象物に適用させた状態として模式的に示す説明図である。
図7】実施例1において、(A)は外側シートからろ紙への液状物の転写結果を示す図面代用写真であり、(B)は内側シートからろ紙への液状物の転写結果を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の積層繊維シートの好ましい一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0012】
本発明の積層繊維シート10は、外側シート2の一方の面に積層された内側シート1を備えることが好ましい。内側シート1は、積層繊維シート10の表裏面のうち一方の面側10Tに配され、外側シート2は、一方の面側10Tとは反対側の他方の面側10Bに配されることが好ましい。
本発明の積層繊維シート10は、その使用方法において、典型的には内側シート1を後述の対象物に向けて適用される。対象物への適用とは、積層繊維シート10を前記対象物の表面に当接させることを意味する。積層繊維シート10は、その湿潤による作用で対象物に貼付されることが好ましい。
【0013】
本発明の積層繊維シート10は、内側シート1及び外側シート2に更に他の繊維層を含むものであってもよい。この場合、内側シート1の後述の特性を有意に作用させ、内側シート1と外側シート2との連携作用を損なわないようにする観点から、前記他の繊維層は、外側シート2の他方の面側10Bにあることが好ましい。即ち、いずれの場合であっても、内側シート1と外側シート2とは隣接していることが好ましい。
【0014】
本発明の積層繊維シート10は、その使用方法において、典型的には液状物を含有して湿潤した状態にされる。より具体的には、内側シート1(特に内側シート1の前記対象物との対向面)が前記液状物で湿潤した状態にされる。「湿潤した状態」又は「湿潤状態」とは、積層繊維シート10を前記液状物で湿らせた状態、すなわち前記液状物が存在する状態を意味する。積層繊維シート10の使用方法、及び該使用方法の中で前記液状物に対する積層繊維シート10の作動については後述する。
尚、積層繊維シート10において、湿潤状態とするための液状物の適用量は好ましくは0.2mg/cm以上であり、より好ましくは0.3mg/cm以上であり、更に好ましくは0.4mg/cm以上であり、好ましくは10mg/cm以下であり、より好ましくは7mg/cm以下であり、よりさらに好ましくは5mg/cm以下であり、さらに一層好ましくは4mg/cm以下である。
【0015】
前記「液状物」とは、20℃において液状の物質のことを意味する。また、本発明において「液状物」とは、積層繊維シートに湿潤させるものを指す。液状物としては、例えば水、水溶液及び水分散液等の液体、増粘剤で増粘されたジェル状物、20℃で液体又は固体の油、該油を10質量%以上含有する油剤、及び、該油とノニオン性界面活性剤等の界面活性剤とを含む乳化物(O/Wエマルジョン、W/Oエマルジョン)などが挙げられる。
【0016】
前記液状物は20℃で液体のポリオールを含んでいることが好ましい。これにより、前記液状物は、蒸発による透明状態の失活が起き難くなる。
前記ポリオールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、ジプロピレングリコール、質量平均分子量が2000以下のポリエチレングリコール、グリセリン及びジグリセリンから選ばれる一種又は二種以上を含むことができる。
【0017】
前記液状物は20℃において液体の油を含んでいてもよい。該油としては、炭化水素油、直鎖若しくは分岐鎖の脂肪酸並びに直鎖若しくは分岐鎖のアルコール又は多価アルコールからなるエステル、エステル油及びシリコーン油から選ばれる一種又は二種以上を含むことができる。
炭化水素油としては、流動パラフィン、スクワラン、スクワレン、n-オクタン、n-ヘプタン、シクロヘキサン、軽質イソパラフィン、及び流動イソパラフィンから選ばれる一種又は二種以上を含むことができる。
直鎖若しくは分岐鎖の脂肪酸並びに直鎖若しくは分岐鎖のアルコール又は多価アルコールからなるエステルとしては、ミリスチン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸ミリスチル、ステアリン酸イソセチル、イソステアリン酸イソセチル、セテアリルイソノナノエート、アジピン酸ジイソブチル、セバシン酸ジ2-エチルヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、リンゴ酸ジイソステアリル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、安息香酸(炭素数12~15)アルキルから選ばれる一種又は二種以上を含むことができる。
エステル油としては、トリグリセリン脂肪酸エステル(トリグリセライド)から選ばれる一種又は二種以上を含むことができる。
トリグリセリン脂肪酸エステルとしては、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリンなどを含むことができる。
シリコーン油としては、ジメチルポリシロキサン、ジメチルシクロポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン及び高級アルコール変性オルガノポリシロキサンから選ばれる一種又は二種以上を含むことができる。
【0018】
前記液状物は20℃において固体の油を含んでいてもよい。該油としては、ワセリン、セタノール、ステアリルアルコール、及びセラミド等から選ばれる一種又は二種以上を含むことができる。
【0019】
このような液状物は、医薬品を含まず、美容的又は審美的な目的で用いられる剤であることが好ましい。
【0020】
積層繊維シート10を適用する「対象物」としては、種々の物を含み得る。例えばヒトの皮膚(肌)が挙げられ、更にこれに限定されず、ヒトの爪、歯、歯茎、毛髪、非ヒト哺乳類の皮膚(肌)、爪、歯、歯茎、枝や葉等の植物表面等であってもよい。
【0021】
積層繊維シート10を前記液状物で湿潤させ、前記対象物に適用する使用方法は、例えば、前記対象物の表面状態を美容的、審美的に高めることを目的とすることが挙げられる。例えば、前記対象物をヒトの皮膚とする場合、該皮膚のバリア機能や保湿機能を高めたり、美白化したり、皺やしみを隠蔽したり、メイクアップしたり、その他見た目に美しくしたりする目的で前記使用方法が用いられることが好ましい。前記使用方法は、医師又は医師の指示を受けた者が人間を手術、治療又は診断する方法を含まないことが好ましい。
【0022】
本発明の積層繊維シート10が有する内側シート1及び外側シート2は、前記液状物に対して不溶性であることが好ましい。
前記液状物に対して不溶性であるとは、溶解による繊維径の低減変化が見られないことを意味する。具体的には、1気圧・23℃の環境下において、50mm角の積層繊維シートに対してその10倍の質量に相当する前記液状物に浸漬させ、24時間経過後、その浸漬後における各層のメジアン繊維径が浸漬前のそれぞれのメジアン繊維径と同一以上であることをいう。測定方法は後述の(メジアン繊維径の測定方法)に基づく。
なお、上記の測定方法は、積層繊維シートに湿潤させるものである限り、前記液状物がどのような性状のものであっても適用される。
例えば、前記液状物が水である場合、脱イオン水を用いて上記測定を行う。
【0023】
内側シート1は、メジアン繊維径(P1)が0.3μm以上5μm以下の繊維(ナノファイバともいう)を含むことが好ましい。この繊維は極細繊維又はナノファイバともいい、例えば電界紡糸法によって形成することができる。このような内側シート1は、繊維の細さから繊維単位の凹凸が従来の不織布等の繊維層より抑えられ、対象面(例えば皮膚表面)との接触面積が多くなり、該対象面との密着性が高くなる。
外側シート2は、内側シート1よりメジアン繊維径が大きくされていることが好ましい。このような外側シート2としては、例えばスパンボンド法により得られる不織布(以下、スパンボンド不織布ともいう)などが挙げられる、
加えて、内側シート1と外側シート2とは一体化されていることが好ましい。具体的には、内側シート1と外側シート2とが隣接しており、内側シート1を構成する繊維と外側シート2を構成する繊維との融着により一体化されていることが好ましい。
これらにより、積層繊維シート10の厚み方向において、外側シート2から内側シート1へと向かう毛管力が極めて強く働く。加えて、内側シート1は、前述の極細繊維の比表面積が極めて大きいことにより、高い液保持能力を有し、これに積層された繊維層である外側シート2への液戻り防止性に優れる。
【0024】
(メジアン繊維径の測定方法)
(1)積層繊維シート10を繊維層間で剥離し測定対象となる繊維層を取り出す。この繊維層を10mm×10mmにカットする。これを予め走査型電子顕微鏡用試料台(応研商事株式会社製)に導電性カーボン両面テープ(応研商事株式会社製)を介して貼り付ける。
(2)前記繊維層が貼り付けられた試料台をスパッタリング装置(株式会社日立ハイテク製、Ion Sputter E-1030)に供する。アルゴンガス雰囲気下で6Paに減圧し、白金-パラジウム(Pt-Pd)蒸着を行う。尚、繊維層マウント面とPt-Pd電極との距離を30mm、蒸着時間を80秒、蒸着時電流値を30mAとする。
(3)走査型電子顕微鏡(SEM)(株式会社日立ハイテク製、S-4300SE/N)に試料台を供し、高精細モードで観察画像を取得する(加速電圧:5kV、ワーク距離:10mm、観察倍率500倍または1000倍)。同一試料について観察場所を変えて計15箇所より観察画像を取得する。
(4)前記(3)で取得した観察画像より、画像解析ソフト(三谷商事株式会社製WinRooF2015)を用いて繊維層の繊維径を測定する。延べ600本の繊維径測定値より、数平均径、(細径側より)数10%径(D10)、数50%径(メジアン径)、および数90%径(D90)を集計する。このうち、メジアン径を繊維径の代表値とする。
【0025】
上記作用により、積層繊維シート10は、その使用方法において前記液状物を含有すると、外側シート2から内側シート1への前記液状物の移行性を発現する。前記液状物が積層繊維シート10の外側シート2の面側(他方の面側10B)から適用される場合に限らず、積層繊維シート10全体に前記液状物が含有された状態でも、該液状物は内側シート1へと移行されやすい。加えて内側シート1は、外側シート2へと戻ろうとする前記液状物を内側シート1に押し戻す又は留まらせる作用をする。
また、内側シート1は、前記液状物を含有することで液体保持層となって前記対象物の表面との間に均一な液膜を形成し、該液膜を長時間保持することができる。これは、前述の作用と共に、内側シート1が極細繊維による繊維構造を有して、従来のような繊維単位の凹凸がより小さく抑えられて前記対象面に対する平滑性に優れることも寄与する。
このように、本発明の積層繊維シート10は、外側シート2と内側シート1との協働作用により、前記液状物の均一な液膜(均一な湿潤状態)を内側シート1に形成し、該液状物と前記対象物表面との密着性を従来に比して飛躍的に高めて、その状態を長時間保持できる。これにより、前記対象物に対する前記液状物の作用が長時間均一に奏され得る。
【0026】
これにより、積層繊維シート10は、前記液状物を含有し湿潤した状態で、該液状物が内側シート1に偏在するようにされ、その状態が保持されやすい。その結果、積層繊維シート10は、外側シート2の面側(他方の面側10B)がドライな状態にされやすく、その状態が持続されやすい。すなわち、積層繊維シート10は、外側シート2の面側(他方の面側10B)を触っても前記液状物によるべたつきが抑制された状態にすることが可能となる。
前記「偏在」とは、内側シート1の前記液状物の含有質量を内側シート1のシート質量(液状物非含有)で割った比率(質量比)と、外側シート2の前記液状物の含有質量を外側シート2のシート質量(液状物非含有)で割った比率(質量比)の比較で定められる。例えば、内側シート1の前記質量比が外側シート2の前記質量比より大きければ、前記液状物が内側シート1の側に偏在していると言える。
この「偏在」として、内側シート1が湿潤状態で、外側シート2がドライな状態であることが好ましい。前記「ドライな状態」とは、前記質量比が1.5以下の状態をいう。一方、前記「湿潤した状態(湿潤状態)」とは、前記質量比が1.5超の状態をいう。
【0027】
(偏在の判断方法)
(1)50mm角の積層繊維シート10に液状物を0.15g、外側シート2側から塗布する。
(2)塗布後の積層繊維シート10を静置させ、10分後に回収する。
(3)内側シート1と外側シート2を分離させ、それぞれの質量を測定し、液状物塗布前のシート質量との差分から液状物の含有質量を算出する。液状物塗布前の内側シート1と外側シート2を分離させてシート質量は測定できないので、坪量からの換算値を採用する。
(4)内側シート1の前記液状物の含有質量を内側シート1の液状物塗布前のシート質量で割った比率(質量比)を算出し、外側シート2についても同様にして質量比を算出する。内側シート1の質量比と外側シート2の質量比との比較で値が大きい方を偏在状態と判断する。
【0028】
本発明の積層繊維シート10は、ドライな外側シート2の繊維間の通気空間により放熱しやすい。この点、前記液状物が塗布された状態では、内側シート1が湿潤状態を保持する中でこれに隣接する外側シート2の繊維径が大きく、繊維径の小さい内側シート1より液状物が揮発しやすい状態なので、液体が揮発する際の吸熱反応が起こりやすい。例えば、前記液状物を塗布した直後はその吸熱反応により、ひんやり感じられる程になることもある。この現象が、前記液状物との組合せた条件下での熱の移行を促進する要因となり得る。また、前記熱の移動にあわせて、外側シート2にある前記液状物の一部が揮発することもあり、時間の経過とともに前述の「偏在」及び「ドライな状態」がなおさら生じやすい。
【0029】
以上の通り、積層繊維シート10は、内側シート1と外側シート2との組み合わせによる作用により、ムレ防止と外側のべたつき抑制とを可能にしながら、同時に液状物の持続的な湿潤状態を作り出すことができる。
【0030】
積層繊維シート10において、前述の液状物の移行性のより明確で迅速な発現を可能にする観点から、内側シート1のメジアン繊維径(P1)に対する外側シート2のメジアン繊維径(P2)の比(P2/P1)は、1.5以上が好ましく、10以上がより好ましく、20以上が更に好ましい。
また、前記比(P2/P1)は、シート全体の柔らかさを維持する観点から、170以下が好ましく、150以下がより好ましく、100以下が更に好ましい。
【0031】
また、前述の液状物の移行性、該液状物の偏在をより明確に発現させる観点、前記対象物との密着性を更に高める観点から、内側シート1のメジアン繊維径(P1)は、5μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましく、2μm以下が更に好ましく、1μm以下が殊更好ましい。
また、内側シート1のメジアン繊維径(P1)は、生産性を向上する観点から、0.3μm以上が好ましく、0.4μm以上がより好ましく、0.5μm以上が更に好ましい。
【0032】
外側シート2は、メジアン繊維径(P2)が5μm以上50μm以下の繊維を含むことが好ましい。外側シート2は、上記メジアン繊維径の繊維を含むことにより、前述のドライな状態や熱の放出性を更に高め、内側シート1の前述の密着性の特性を損なわないようにして、積層繊維シート10全体のシート強度ないし剛性を付与し、破れや擦過に対する耐性を高めることができる。このような外側シート2は、この種の物品において通常用いられる方法により、メジアン繊維径を適宜設定して得ることができる。
外側シート2が含む繊維のメジアン繊維径(P2)は、シート全体の柔らかさを維持する観点から、50μm以下がより好ましく、30μm以下が更に好ましく、25μm以下がより更に好ましい。
また、外側シート2が含む繊維のメジアン繊維径(P2)は、破れや擦過に対する耐性をより高める観点から、5μm以上がより好ましく、10μm以上が更に好ましく、15μm以上がより更に好ましい。
【0033】
積層繊維シート10において、内側シート1の坪量(M1)は、1g/m以上8g/m以下が好ましい。内側シート1の坪量(M1)がこの範囲にあることで、内側シート1が持つ前述の柔らかさ、前記対象物表面等への密着性、前記液状物の液膜の均一性をより保持しやすくし、これを損なわないようにして強度を備えたものとすることができる。また、坪量が上記範囲に抑えられた内側シート1では、前述のメジアン繊維径の極細繊維の本数がその分低減されて繊維空隙の数も減る。これにより、前記繊維空隙の存在による光散乱が抑えられ、内側シート1は透明化しやすい。特に前記液状物の適用時には、繊維空隙が前記液状物で満たされ均一膜となるため、前記光散乱が尚更起こり難くなり、透明化がより強くなる。
前述作用をより高める観点、強度をより高める観点から、内側シート1の坪量(M1)は、1g/m以上が好ましく、1.5g/m以上がより好ましく、2g/m以上が更に好ましい。
また、柔らかさ、前記対象物等への密着性をより高める観点から、内側シート1の坪量(M1)は、8g/m以下が好ましく、6g/m以下がより好ましく、5g/m以下が更に好ましい。
【0034】
積層繊維シート10において、外側シート2の坪量(M2)は、8g/m以上50g/m以下が好ましい。外側シート2の坪量(M2)がこの範囲にあることで、外側シート2のドライな状態及び熱の放出性を更に高め、積層繊維シート10全体の強度をより強化して破れや擦過に対する耐性をより高めることができる。また、坪量が上記範囲にされた外側シート2では、前述のメジアン繊維径の繊維本数が低減される。これにより、外側シート2は透明化されやすく、特に製剤塗布時の透明化が高い。
外側シート2の坪量(M2)は、積層繊維シート10全体の強度を更に高める観点から、8g/m以上が好ましく、15g/m以上がより好ましく、17g/m以上が更に好ましい。
また、外側シート2の坪量(M2)は、外側シート2のドライな状態及び熱の放出性を更に高める観点、内側シート1の柔らかさ、皮膚表面等への密着性を損なわないようにする観点から、50g/m以下が好ましく、40g/m以下がより好ましく、30g/m以下が更に好ましい。
【0035】
内側シート1の坪量(M1)に対する、外側シート2の坪量(M2)の比(M2/M1)は、前述の液状物の移行性、液状物の内側シート1への偏在、外側シート2のドライな状態及び熱放出性の更なる向上の観点から、1以上が好ましく、1.6以上がより好ましく、2以上が更に好ましい。
前記比(M2/M1)は、内側シート1が持つ前述の柔らかさ、前記対象物表面等への密着性を保持する観点から、50以下が好ましく、34以下がより好ましく、25以下が更に好ましい。
【0036】
積層繊維シート10において、内側シート1の厚みは、前記液状物の液膜を良好に形成する観点から、3μm以上が好ましく、4μm以上がより好ましく、5μm以上が更に好ましい。
内側シート1の厚みは、内側シート1が持つ前述の柔らかさ、前記対象物表面等への密着性を更に良好にする観点から、50μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましく、30μm以下が更に好ましい。
外側シート2の厚みは、積層繊維シート10全体の強度を更に高める観点から、10μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、50μm以上が更に好ましい。
外側シート2の厚みは、外側シート2のドライな状態及び熱の放出性を更に高める観点、内側シート1の柔らかさ、皮膚表面等への密着性を損なわないようにする観点から、500μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましく、200μm以下が更に好ましい。
【0037】
積層繊維シート10において、内側シート1と外側シート2との一体性をより高める観点から、内側シート1と外側シート2とが同一系材料を含んでいることが好ましい。この同一系材料とは繰り返し単位(モノマー構造)が同一の高分子構造を有する材料のことである。具体的には、同一系材料は、オレフィン系樹脂、ジエン系樹脂、およびウレタン系樹脂ならびにこれらの共重合体から選ばれるものである。
内側シート1と外側シート2とが同一系材料を含んでいることで、互いの樹脂成分の分子構造が近似し、互いの繊維同士の相溶性が高い。そのため、内側シート1と外側シート2とが強固に融着されやすく、積層繊維シート10の一体性を高める。
【0038】
積層繊維シート10は、伸縮性を有することが好ましい。これにより、積層繊維シート10は、前記対象物に対するフィット性や追従性が高められ、前述の内側シート1に形成される前記液状物の液膜の前記対象物に対する密着性を更に高めることができる。
【0039】
前記伸縮性に関し、内側シート1と外側シート2とは、前述のオレフィン系樹脂、ジエン系樹脂、およびウレタン系樹脂ならびにこれらの共重合体から選ばれる同一系材料のエラストマーを含んで伸縮性を備えることが好ましい。
【0040】
(内側シート1と外側シート2が同一系材料を含んでいることの測定方法)
内側シート1と外側シート2が同一系材料を含んでいることを測定する方法については、各シート間で剥離を行い、それぞれのシートに含まれる樹脂組成物を測定すればよい。樹脂組成物を核磁気共鳴(NMR)分析、赤外分光(IR)分析等の各種分析に供して、これらの分析によって得られる各シグナル、スペクトルの位置に基づいて、分子骨格の構造及び分子構造の末端の官能基構造を同定する。これによってシート毎に、含有する樹脂の種類を同定し、特定する。シート毎に特定した樹脂組成物を比較し同一系材料を含んでいるか否かを判断する。
【0041】
本発明の積層繊維シート10は、互いに隣接する内側シート1と外側シート2とが共に伸縮性を備えながら、一体性が高いことで、伸縮時に内側シート1と外側シート2との界面で剥離が生じ難い。剥離の抑制により、積層繊維シート10全体にシート強度ないし剛性が生まれ、全体にコシが出てくる。そして、内側シート1が外側シート2と共に伸縮されやすくなる。これにより、積層繊維シート10は全体として、繰り返しの伸縮動作に耐え得る耐久性を備える。すなわち、本発明の積層繊維シート10は、内側シート1と外側シート2とが高い一体性を備えて、全体のシート強度ないし剛性が高くされた状態で伸縮するようにされている。そのため、積層繊維シート10の伸縮挙動の中で、内側シート1のヨレや擦過が生じ難くなる。また、内側シート1における擦過に伴う毛抜けも抑制される。
このように積層繊維シート10は全体として伸縮性と共にシート強度が向上し、伸縮性が発現しても、破れや擦過に対する耐性を高められる。そして、積層繊維シート10全体の伸縮によって、内側シート1は、前記対象物面等の形状、様々な変化(動き)に追従でき、該変化の下でも前述の密着性の特性を十分発揮することができる。
【0042】
本発明の積層繊維シート10は、内側シート1と外側シート2との一体性により剛性が備わり、ハンドリング性が高められる。すなわち、極細繊維からなる内側シート1単独の繊維シートの場合よりもコシが得られ(図2(A)及び(B))、取り扱いが容易になるという効果をも奏する。例えば、積層繊維シート10が何枚も積層された状態や、包装袋や容器等で保管された状態から1枚の積層繊維シート10を取り出して使用(例えば前記対象物表面に貼付)しようとする場合に、コシが取り出し易さに顕著に影響する。また、取り出した際も、本発明の積層繊維シート10は、内側シート1単独の繊維シート(例えば図2(A))よりも丸まり難く、ハンドリング性が高められる。これにより、皮膚表面等の対象物に皺なくきれいに貼り付けることが可能となる。
【0043】
上記の同一系材料は、内側シート1及び外側シート2の一体性を高め、これらを含む積層繊維シート10の伸縮性を高める観点から、オレフィン系樹脂が好ましい。オレフィン系樹脂を用いることにより、積層繊維シート10を伸縮させた際に内側シート1と外側シート2が剥がれづらくなる。
また、同様の観点から、内側シート1は、低結晶性のオレフィン系樹脂を含むことが好ましい。前記「低結晶性」とは、結晶化度が10.5%以下であることを意味し、下記方法により測定することができる。内側シート1が低結晶性のオレフィン系樹脂を含むことで、内側シート1自体の伸縮がし易くなっている。
内側シート1が低結晶性のオレフィン系樹脂を含む場合、内側シート1に占める該低結晶性のオレフィン系樹脂の質量割合は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、92質量%以上がさらに好ましく、94質量%以上がよりさらに好ましい。
【0044】
(内側シート1が低結晶性のオレフィン系樹脂を含むことの測定方法)
内側シート1を構成する樹脂組成物をNMR分析、IR分析等の各種分析に供して、これらの分析によって得られる各シグナル、スペクトルの位置に基づいて、分子骨格の構造及び分子構造の末端の官能基構造を同定する。これによって含有する樹脂の種類を同定し、特定する。
次に結晶性については示差走査熱量測定を用いて、低結晶性であることを確認できる。検体を昇温した際得られる融解熱の合計を完全結晶の融解熱で除する。この値が10.5%より小さければ低結晶性のオレフィン系樹脂を含んでいるものと判断する。
【0045】
上記の同一系材料は、内側シート1及び外側シート2の一体性を高め、これらを含む積層繊維シート10の伸縮性を高める観点から、例えば次のような具体例が挙げられる。
すなわち、オレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン(以下、PPと呼ぶ)、ポリエチレンなどが挙げられる。
低結晶性のオレフィン系樹脂としては、立体規則性が制御されたポリプロピレン(メタロセン触媒で立体規則性を制御されて重合されたポリプロピレン)を始めとするα―オレフィンなどが挙げられる。
ジエン系樹脂としては、ポリブタジエン、ポリイソプレンなどが挙げられる。
ウレタン系樹脂としては、ポリウレタンなどが挙げられる。
オレフィン系樹脂、ジエン系樹脂、ウレタン系樹脂の共重合体として、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・1-オクテン共重合体、エチレン・イソプレン共重合体、エチレン・ブタジエン共重合体、プロピレン・イソプレン共重合体、プロピレン・ブタジエン共重合体、エチレン・プロピレン・イソプレン共重合体、エチレン・プロピレン・ブタジエン共重合体などが挙げられる。
【0046】
積層繊維シート10は、内側シート1及び外側シート2が共に伸縮性を有して一体化されていることが好ましい。ここで、「伸縮性を有する」とは伸ばすことができ、且つ元の長さに対して50%伸ばした状態(元の長さの150%の長さになる)から力を解放したときに、元の長さの125%以下の長さまで戻る性質である。
本発明の積層繊維シート10において、平面方向における一方向Y(Y方向ともいう)の伸び率が20%以上100%以下、該一方向Yに直交する方向X(X方向ともいう)の伸び率が0%以上30%以下であることが好ましい。これら互いに直交する二方向で伸び率に差が生じることで、積層繊維シート10は伸縮性の方向性を備える。この一方向Yと該一方向Yに直交する方向Xは、積層繊維シート10の使用目的に応じて適宜定められる。例えば、積層繊維シート10の長手方向を一方向Y、幅方向を一方向Yに直交する方向Xとしてもよい。この場合、積層繊維シート10の長手方向を、適用する物品において必要とする伸縮方向に沿わせることが好ましい。
【0047】
(伸び率の測定方法)
積層繊維シート10における上記の伸び率は、幅20mm及び長さ70mmの試験片を、つかみ間隔50mmで固定し、引張荷重1.2N時の試験片の伸びを、つかみ間隔50mmに対する割合(%)で示したものをいう。より具体的には、伸び試験前の試験片のつかみ間隔の長さをL0とし、破断伸長時の試験片のつかみ間隔の長さをLBとし、伸び率(%)=100×(LB-L0)/L0として求めることができる。測定は、積層繊維シート10のシート平面内の互いに直交するいずれの二方向、例えば長手方向と該長手方向に直交する幅方向の二方向に沿って行う。
【0048】
積層繊維シート10が上記伸び率の差によって伸縮性の方向性を有することで、使用目的に応じた伸縮性となるよう好適に制御して、伸縮性を必要としない方向での伸びすぎや伸縮に伴う過剰な負荷を軽減することができる。これにより、内側シート1のヨレや擦過、破れをより効果的に抑制することができる。
例えば、積層繊維シート10を手袋にした場合に、指の長さ方向の伸縮性を大とし、該長さ方向に直交する幅方向の伸縮性を小とすることが好ましい。これにより、使用者の指の先端や水かきに対し、密着性の高い手袋を提供することが可能となる。
一方で、積層繊維シート10を手袋にした場合に、指の長さ方向の伸縮性を小とし、該長さ方向に直交する幅方向の伸縮性を大とすることも好ましい。これにより、積層繊維シート10を用いた手袋を装着する際に、使用者の指の太さに応じて密着性の高い手袋を提供することが可能となる。
【0049】
積層繊維シート10の一方向Yにおける伸び率(T1)は、前述の作用をより高める観点から、20%以上が好ましく、25%以上がより好ましく、30%以上が更に好ましい。
積層繊維シート10における一方向Yにおける伸び率(T1)は、積層繊維シート10を任意の形状に加工し装着する観点から、100%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、60%以下が更に好ましい。
積層繊維シート10の一方向Yに直交する方向Xおける伸び率(T2)は、積層繊維シート10を連続搬送する観点から、0%以上が好ましい。
積層繊維シート10における一方向Yに直交する方向Xにおける伸び率(T2)は、積層繊維シート10を連続搬送する観点から、30%以下が好ましく、25%以下がより好ましく、20%以下が更に好ましい。
【0050】
積層繊維シート10の一方向Yの伸び率(T1)と、一方向Yに直交する方向Xの伸び率(T2)との差の絶対値|T1-T2|は、積層繊維シート10の伸縮性の方向性をより明確にし、内側シート1のヨレ、擦過及び破れをより効果的に抑制する観点から、0以上が好ましく、10以上がより好ましく、20以上が更に好ましい。
前記差の絶対値|T1-T2|は、積層繊維シート10の皮膚等の対象物への装着性を高める観点から、70以下が好ましく、60以下がより好ましく、50以下が更に好ましい。これにより、例えば積層繊維シート10を手袋に適用する場合、該手袋における直交する二方向の伸び率のバランスをとって嵌めやすくすることができる。
【0051】
積層繊維シート10における上記の伸縮性の方向性は、主に内側シート1よりも外側シート2によって規定される。内側シート1は前述の極細繊維を含み、例えば電界紡糸法を用いて樹脂溶液や樹脂溶融液を直接紡糸し堆積させたものであるため、伸縮性の方向性を形成し難い。そのため、外側シート2にて主に、積層繊維シート10の伸縮性の方向性を付与することが好ましい。また、積層繊維シート10における上記の伸縮性の方向性が主に外側シート2によって規定されることにより、積層繊維シート10の伸長時に、内側シート1が破れるよりも前に、外側シート2が伸び止まるように好適に制御することができる。この外側シート2での伸縮性の方向性は、例えば、搬送方向に伸長させ搬送の過程で冷却固化させることで、搬送方向には伸縮性を有さないが、直交する方向には伸縮性を有する外側シート2を形成することができる。
【0052】
積層繊維シート10において内側シート1自体の強度をより高める観点から、内側シート1の、SEM画像の0.128mm×0.096mmの視野における繊維交点の数に占める融着点(例えば図3における極細繊維11、11同士の交点の融着点31、図4における符号D4,D14,D1の囲み部分)の数の割合が、50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましい。これにより、内側シート1の極細繊維1本、1本が交点で固定されて強度が高められる。すなわち、内側シート1自体の一体性が強化される。例えば、積層繊維シート10の一方の面側10Tにおける内側シート1の表面を指でなぞった際に、繊維の毛羽が立ち難く、繊維の脱落が抑制される。また、繊維交点での融着点で接合面積が抑制されているため、面融着に比して、内側シート1自体の剛性の過剰な高まりが抑えられて柔らかさが保持され、前述の密着性の特性が発現されやすくなる。
【0053】
(繊維交点の数に占める融着点の数の割合)
前述の(メジアン繊維径の測定方法)の項の(1)、(2)及び(3)と同様の作業を行い、測定対象の繊維層について観察倍率1000倍のSEM観察画像を取得する。同一試料について、観察場所を変えて、計5箇所において測定する。1箇所あたり試料表面側に焦点を合わせて、計5つの観察画像を取得する。画質としては幅0.128mm、高さ0.096mmとする。取得した観察画像より、画像解析ソフト(三谷商事株式会社製WinRooF2015)を用いて繊維交点をマーキングし、繊維交点における融着点の数を記録する。繊維交点の合計数に占める融着点の数の割合を以下の式(I)によって算出する。この評価においては観察者と記録者の2名で行う。繊維交点数は上記画像解析ソフト上にて観察者の手によるマーキング処理によって集計する。融着点については観察者が下記融着点の定義にしたがって融着点とした繊維交点を記録者が集計する。
融着点の割合[%]
=融着点の数/繊維交点の合計数×100 (式(I))
尚、繊維交点及び該繊維交点の融着点の定義を以下のように定める。
(繊維交点)
測定対象の繊維層のSEM観察画像において、画像自体を410mm×260mmのモニターにて3倍(300%)に拡大する。この場合に、繊維形状の境界線間の幅(観察画像において確認される繊維幅)が1mmを超えない範囲で焦点が定まったものを選択する。それらが交差している箇所、または交差はしていないが接触している(接している)箇所、または1本の繊維が途中で枝分かれしている箇所を繊維交点と定義する(例えば図4における符号D4,D14,D1の囲み部分)。画像に映っている2本以上の繊維が、長手方向にわたって画像撮影領域の全体または一部において接触して繊維束になっているものが観察画像において見られる場合、それらについても繊維交点として定義する(例えば図4における符号D5の囲み部分)。例えば、4本の繊維が観察画像において隙間なく並んでいる箇所がある場合は、繊維交点の数は3とするといったように定める。尚、繊維層という特性上、SEM観察において検出器に近い側(検体厚み方向表面側)と遠い側(検体厚み方向検体用試料台側)という繊維層の厚みに起因する奥行きが存在する。このため観察画像において見かけ上、繊維が交差しているように見えても当該繊維同士が接触していない場合がある。上述したように、画像自体を410mm×260mmのモニターにて3倍(300%)に拡大した場合に、繊維形状の境界線の幅が1mmを超えない範囲で焦点が定まった複数の繊維は、検体の厚み方向(奥行き)において同等の位置関係にあるとする。このように選択された繊維同士の交点を上述の定義に従って繊維交点とする。
(繊維交点の融着点)
上記で定義した交点の内、(i)前記交点において関連する2本以上の繊維の境界線が明瞭に認められない箇所(例えば図4における符号D4の囲み部分)、(ii)前記交点において関連する1本以上の繊維の、該交点における当該繊維の境界線間の幅が、交点以外の境界線間の幅に比べて拡がりを示している箇所(例えば図4における符号D16の囲み部分)を、繊維交点の融着点と定義する。なおシートが積層されている状態であるときは繊維層間で剥離を行い、測定対象となる繊維層を取り出して上記の作業へ供する。
【0054】
積層繊維シート10は、内側シート1と外側シート2との一体性を有し、高い強度を備えることが好ましい。この一体性の強度は、上記のような伸縮性に耐え得るものであることが好ましい。この強度は、破断強度として示される。該破断強度は、前述の伸縮性との関係、伸縮挙動の中での内側シート1の擦過及び破れに対する耐性との関係から、前述の伸び率を示す二方向X,Yにおいて下記の範囲にすることが好ましい。
Y方向における破断強度は、伸びに対する耐性を得る観点から1N/20mm以上が好ましく、2N/20mm以上がより好ましく、2.5N/20mm以上が更に好ましい。
X方向における破断強度は、積層繊維シート10の搬送をしやすくする観点から1N/20mm以上が好ましく、3N/20mm以上がより好ましく、5N/20mm以上が更に好ましい。
(積層繊維シート10の破断強度の測定方法)
積層繊維シート10における破断強度は、幅20mm及び長さ70mmの試験片を、つかみ間隔50mmで固定し、引張速度300mm/分の速度で伸長させ、破断するまでの最大荷重を破断強度とする。測定温度は23℃とする。
【0055】
積層繊維シート10において、内側シート1と外側シート2との界面での双方の繊維同士が融着していることが一体性向上の観点から好ましい(例えば図5(A)の融着点32)。また、前記界面での双方の繊維同士は、繊維の形状を保持したまま、双方の繊維交点における融着点により結合していることが、積層繊維シート10の剛性の過剰な高まりを抑える点で好ましい。
前記融着は、内側シート1及び外側シート2が含む樹脂成分が熱により溶融して接着(熱接着など)していることを意味する。内側シート1と外側シート2とが前述のとおり相溶性の高い同一系材料を含むことから、界面での融着がより強固となる。これにより、内側シート1自体の一方の面側10Tでの柔らかさと皮膚表面等への密着性を保持したまま、内側シート1と外側シート2との一体性がより高めら得る。特に、積層繊維シート10の伸縮挙動時に、内側シート1と外側シート2との界面での剥離をより効果的に抑制でき、両層の追従性がより良好となる(例えば図5(A)から(B))。これにより、前述の外側シート2から内側シート1への前記液状物の移行性の発現をより確実なものとすることができる。加えて、双方の繊維交点における融着点にて内側シート1と外側シート2とが一体化されていると、両シートの界面での繊維間の空隙が保持されやすく、前述の液移行性の発現が更に確実に、円滑なものとなり得る。また、一体性の更なる向上により、積層繊維シート10に関する前述のハンドリング性がより良好なものとなる。
【0056】
上記作用の更なる向上の観点から、界面での融着の強度は、0.01N/20mm以上が好ましく、0.1N/20mm以上がより好ましく、0.2N/20mm以上が更に好ましい。
また、界面での融着の強度は、現実的には、10N/20mm以下である。
上記の範囲であれば積層繊維シート10は一体化している。
【0057】
(内側シート1と外側シート2との界面での融着の強度の測定方法)
以下の手段にて測定する。
積層繊維シート10の内側シート1の表面に粘着性を有するテープを貼付し、該テープを引張試験機でT字剥離する。これにより、内側シート1と外側シート2との界面での双方の繊維同士の融着の強度を測定できる。内側シート1と外側シート2の界面の融着点の数が多いほど、T字剥離した際の抵抗力が増加する。
内側シート1の表面側に粘着性を有するテープ(粘着力:4.4N/10mm)を貼付した後、幅20mm及び長さ100mmの試験片を作成する。長手方向側のテープ端部を剥がし、テープ端部および積層繊維シート10をつかみ間隔50mm、引張速度100mm/分で引張り、テープが積層繊維シート10から剥がれる試験力を測定する。得られた試験力の内、つかみ具の移動距離が初期から30mm以上、80mm以内の試験力の平均値を融着の強度、つまり融着力とする。
【0058】
上記の内側シート1における繊維交点での融着点、内側シート1と外側シート2との界面での双方の繊維同士の融着点は、内側シート1と外側シート2が前述の同一系材料を含むことで形成されやすい。そして、次のようにして融着点を形成することができる。
外側シート2の表面上にて、例えば電界紡糸法にて前述の同一系材料を用いた樹脂溶液又は樹脂溶融液をノズルから吐出する。吐出して形成される紡糸繊維(内側シート1の構成繊維)を、温度が高く流動性を有する状態で、外側シート2上で捕集する。これにより、紡糸繊維同士が交点で融着した状態で捕集でき、紡糸繊維と外側シート2の繊維が融着した状態で一体化される。このような紡糸繊維が捕集されることで、前述の繊維交点での融着点を有するネットワークを形成した内側シート1が形成される。同時に内側シート1と外側シート2との界面での双方の繊維同士の融着点を形成できる。上記の紡糸繊維が流動性を有する状態にする温度は、用いられる樹脂原料によって適宜設定される。例えば、内側シート1の樹脂原料に低結晶PP樹脂を用いる場合、ゴム状態に変化する40℃以上70℃以下の範囲で紡糸繊維を捕集することが好ましい。また、このような温度は、捕集の受け皿となる外側シート2に対して加温し維持することが好ましい。
上記の方法以外に、熱シールによって前述の融着点を形成することもできる。繊維のエラストマーの熱収縮や、樹脂の溶融によるフィルム化を防ぐ観点から、前述のように、熱にさらす時間、回数が少ない紡糸時の融着がより好ましい。
【0059】
次に、本発明の積層繊維シート10の使用方法について、以下に説明する。
積層繊維シート10の使用方法では、前述の積層繊維シート10に前記液状物を湿潤させる。
具体的には、積層繊維シート10を、内側シート1を前記対象物に向けて適用する工程と、前記液状物を適用する工程とを含む。
積層繊維シート10が、前記2つの工程により、外側シート2から内側シート1への前記液状物の移行性を発現することが好ましい。
【0060】
前述の2つの工程は、具体的には下記(I)~(III)のいずれかの手順にて行う場合を含む。いずれの手順であっても、積層繊維シート10は、外側シート2から内側シート1への前記液状物の移行性を発現して、内側シート1(特に内側シート1の前記対象物との対向面)に、前記液状物の湿潤状態を作り出す。そして外側シート2をドライな状態にすることが可能になる。前記液状物を適用する工程における液状物の適用量は、前述の「湿潤状態とするための液状物の適用量」として示した範囲とすることが好ましい。
(I)前記液状物を前記対象物に適用した後、積層繊維シート10を、内側シート1を対象物に向けて適用する。
(II)前記液状物を積層繊維シート10に適用した後、積層繊維シート10を、内側シート1を対象物に向けて適用する。
(III)積層繊維シート10を、内側シート1を対象物に向けて適用した後、積層繊維シート10に前記液状物を適用する。
【0061】
上記の外側シート2から内側シート1への前記液状物の移行性の発現とは、外側シート2にある前記液状物を内側シート1へ移行させるのみに限らず、内側シート1から外側シート2に逆流しようとする前記液状物、又は逆流した前記液状物を内側シート1へと押し戻すことをも含む。なお、図6は、積層繊維シート10を対象物Wに適用させた状態について、液状物の移行の一例を模式的に示している。矢印F1、F2及びF3は、液状物の移行の大まかな方向のみを示すものであって、実際の液状物の移行形態はこれよりも複雑なものとなり得る。矢印F1、F2及びF3で示す液状物の移行方向はそれぞれ、説明のため便宜上異なる場所にて、別々の手順のものとして示した。しかし、実際には同じ場所で同じ手順の中で起こり得るし、時間的に同じタイミングとは限らず異なるタイミングでも起こり得る。
【0062】
前記(I)の手順では、積層繊維シート10が内側シート1を前記対象物に向けて適用される前に、先に前記液状物を前記対象物に適用する。前記液状物の前記対象物への適用方法は、スプレー等の通常用いられる種々の方法により行うことができる。この場合、前記液状物は、当初、内側シート1と前記対象物との界面に存在する。このとき、内側シート1が自身の極めて強い毛管力により、前記液状物を吸上げる。内側シート1と外側シート2とは一体化され、しかも内側シート1が前述の極細繊維で極薄な層なので、前記液状物は次第に外側シート2に移行し得る。しかし、積層繊維シート10はこのような湿潤状態において、前述の毛管力に加え、内側シート1の前述の極細繊維による高い液保持能力により、内側シート1から外側シート2へと移行する前記液状物を内側シート1に押し戻す作用をする(例えば、図6の矢印F1)。これにより、内側シート1に前記液状物が留まるようにされる。
【0063】
前記(II)の手順では、積層繊維シート10は、予め前記液状物が適用されて湿潤した状態にある。前記液状物の適用としては、積層繊維シート10を前記液状物の溶液に浸漬させたり、スプレー等の塗工方法を用いたりする方法が挙げられる。この場合の前記液状物の適用の対象は、積層繊維シート10の内側シート1及び外側シート2の両方であってもよく、いずれか一方であってもよい。どの場合であっても、湿潤状態にある積層繊維シート10は、前述の毛管力に加え、内側シート1の前述の極細繊維による高い液保持能力により、前記液状物を外側シート2から極薄の内側シート1へ移行させて(例えば、図6の矢印F2)、内側シート1に前記液状物が留まるようにされる。
【0064】
前記(III)の手順では、前記対象物に適用された積雄繊維シート10に対して前記液状物を適用する。
より具体的には、積層繊維シート10を内側シート1の面側(一方の面側10T)を前記対象物に当接させた状態で、外側シート2の面側(他方の面側10B)から前記液状物を適用する。この場合も、積層繊維シート10は、前述の毛管力に加え、内側シート1の前述の極細繊維による高い液保持能力により、外側から浸み込んだ前記液状物を内側シート1へと移行させて(例えば、図6の矢印F3)、内側シート1に前記液状物が留まるようにされる。
【0065】
以上の通り、前記(I)~(III)のいずれの手順で前述の2つの工程が行われても、積層繊維シート10は、外側シート2と内側シート1との協働作用により、前記液状物の均一な液膜(均一な湿潤状態)を内側シート1に形成し、該液状物と前記対象物表面との密着性を従来に比して飛躍的に高めて、その状態を長時間保持できる。これにより、前記対象物に対する前記液状物の作用が長時間均一に奏され得る。その結果、前記液状物が内側シート1に偏在するようにされ、その状態が保持されやすい。また、積層繊維シート10は、外側シート2の面側(他方の面側10B)がドライな状態にされやすく、その状態が持続されやすい。すなわち、積層繊維シート10の外側シート2の面側(他方の面側10B)を触っても前記液状物によるべたつきが抑制される。
【0066】
積層繊維シート10使用方法において、内側シート1が極細繊維を含んで極薄であるため破れやすく、対象物への適用の際はできるだけ摩擦が少ない方が好ましい。この観点から、前記(I)及び(II)の手順のように先に前記液状物を対象物又は積層繊維シート10に適用してから積層繊維シート10を対象物に適用するよりも、前記(III)のように積層繊維シート10を対象物に適用した後に、前記液状物を適用することが好ましい。特に、積層繊維シート10が手袋状で、ヒトの手指に装着する場合、前記液状物による抵抗を避けて該装着を円滑に行うことができ、装着した状態で前記液状物を素早く内側シート1まで届けることができる。また、前述のとおり内側シート1に均一な液膜を形成して、外側シート2の面側(他方の面側10B)がドライな状態になるため、積層繊維シート10をヒトの手指に装着する場合、装着したままスマートフォン等の電子機器の操作やその他様々な日常活動を続けることができる。
【0067】
積層繊維シート10の使用方法において、図6に示すように、メジアン繊維径の異なる外側シート2と内側シート1との界面において、外側シート2の構成繊維が内側シート1の繊維層に接触する当接領域21と、外側シート2の構成繊維が内側シート1の繊維層に接触しない空隙領域(非接触領域)Lとが混在することが好ましい。これにより、前述の、外側シート2から内側シート1への液状物の移行性の発現、内側シート1での液状物の均一な液膜の形成、及び外側シート2のドライな状態の実現をより良好なものとすることができる。また、内側シート1と外側シート2とが、前述のように繊維交点の融着点で結合していると一定の強度が得られ、界面に浮きがなく、毛管力がより発現しやすい。そのため、内側シート1での均一な湿潤状態がより生じやすく、液の保持性が更に向上する。
【0068】
積層繊維シート10の使用方法において、一度適用した前記液状物を、積層繊維シート10の外側シート2の面側からさらに適用する工程を有するものとすることができる。すなわち、積層繊維シート10を前記対象物に適用したまま、前記液状物を塗り直すことができる。この場合も前述の毛管力に加え、内側シート1の前述の極細繊維による高い液保持能力により、前記液状物が内側シート1に移行して偏在し、外側シート2をドライな状態にすることができる。そのため、前記工程は何度でも行うことができる。
【0069】
積層繊維シート10の使用方法において、前記積層繊維シート10に前記液状物を含有させても、積層繊維シート10を構成する繊維は繊維形状を保っていることが好ましい。これは、前述の通り、内側シート1及び外側シート2が前記液状物に対して不溶性であることにより可能となる。これにより、積層繊維シート10の繊維構造における前述の前記液状物に対する作用、及び前記液状物の内側シート1への偏在をより顕著にすることができる。加えて、前述のさらなる前記液状物の適用をより良好に行うことができる。また、積層繊維シート10の取り扱い性も向上する。
【0070】
積層繊維シート10の使用方法において、前記液状物の含有坪量の、前記積層繊維シート10の坪量に占める割合が、50%以上であることが好ましい。これにより、前記液状物の均一膜がより形成されやすく、前述の、外側シート2から内側シート1への前記液状物の移行性の発現、内側シート1での前記液状物の均一な液膜の形成、及び外側シート2のドライな状態の実現をより良好なものとすることができる。
【0071】
(前記液状物の含有坪量の、前記積層繊維シートの坪量に対する比の測定方法)
(1)液状物塗布前の積層繊維シートの質量を測定する。
(2)液状物塗布後の液状物を含有した積層繊維シートの質量を測定する。
(3)前記(2)と(1)の差分から液状物の坪量を算出し、前記(1)の液状物塗布前の積層繊維シートの坪量に対する割合を算出する。
【0072】
積層繊維シート10の使用方法において、積層繊維シート10は、様々な物品や形状のものとして用いることができる。例えば、積層繊維シート10は、皮膚表面に当接させて使用される絆創膏、包帯に用いることができる。また、積層繊維シート10は、筒状、手袋状の形状にして用いることができる。前記筒状体は、具体的には、サポータ、指サック等が挙げられる。
このような物品において、一方向の伸縮性を有することが好ましい。すなわち、積層繊維シート10は、積層繊維シート10における、一方向Yの伸縮方向に沿って伸縮するようにして前記物品に適用することが好ましい。
なお、前記「一方向の伸縮性」とは、前述の(伸び率の測定方法)に基づいてサンプルに1.2N荷重を加えて測定して得られる、互いに直交する二方向の伸び率の差が20%ポイント以上あり、その伸び率が大となる方向をいう。この互いに直交する二方向は、積層繊維シート10においては、一方向Yと該一方向Yに直交する方向Xである。
【0073】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の積層繊維シート及びその使用方法を開示する。
【0074】
<1>
外側シートの一方の面に積層された内側シートを備える積層繊維シートに液状物を湿潤させる積層繊維シートの使用方法であって、
前記積層繊維シートに関し、
前記内側シート及び前記外側シートは液状物に対して不溶性であり、
前記内側シートはメジアン繊維径が0.3μm以上5μm以下であり、
前記外側シートは前記内側シートよりメジアン繊維径が大きく、
前記内側シートと前記外側シートとが一体化しており、
前記積層繊維シートを、前記内側シートを対象物に向けて適用する工程と、
前記液状物を適用する工程とを含む、前記積層繊維シートの使用方法。
【0075】
<2>
前記積層繊維シートが、前記2つの工程により、前記外側シートから前記内側シートへの前記液状物の移行性を発現する、前記<1>に記載の積層繊維シートの使用方法。
【0076】
<3>
前記内側シートの面側を前記対象物に当接させた状態で、前記外側シートの面側から前記液状物を適用する、前記<1>又は<2>に記載の積層繊維シートの使用方法。
<4>
前記液状物を前記対象物に適用した後、前記積層繊維シートを、前記内側シートを前記対象物に向けて適用する、前記<1>又は<2>に記載の積層繊維シートの使用方法。
<5>
前記液状物を前記積層繊維シートに適用した後、前記積層繊維シートを、前記内側シートを対象物に向けて適用する、前記<1>又は<2>に記載の積層繊維シートの使用方法。
【0077】
<6>
前記外側シートはメジアン繊維径が5μm以上50μm以下、好ましくは10μm以上30μm以下、より好ましくは15μm以上25μm以下の繊維を含む、前記<1>~<5>のいずれか1に記載の積層繊維シートの使用方法。
【0078】
<7>
前記内側シートの坪量が1g/m以上8g/m以下、好ましくは1.5g/m以上6g/m以下、より好ましくは2g/m以上5g/m以下である、前記<1>~<6>のいずれか1に記載の積層繊維シートの使用方法。
<8>
前記積層繊維シートにおいて、前記外側シートの坪量が8g/m以上50g/m以下、好ましくは15g/m以上40g/m以下、より好ましくは17g/m以上30g/m以下である、前記<1>~<7>のいずれか1に記載の積層繊維シートの使用方法。
<9>
前記積層繊維シートが伸縮性を有する、前記<1>~<8>のいずれか1に記載の積層繊維シートの使用方法。
<10>
前記積層繊維シートは、平面方向における一方向の伸び率が20%以上100%以下、該一方向に直交する方向の伸び率が0%以上30%以下である、前記<1>~<9>のいずれか1に記載の積層繊維シートの使用方法。
【0079】
<11>
前記液状物の含有坪量の、前記積層繊維シートの坪量に占める割合が、50%以上である、前記<1>~<10>のいずれか1に記載の積層繊維シートの使用方法。
<12>
前記液状物を、前記積層繊維シートの前記外側シートの面側からさらに適用する工程を有する、前記<1>~<11>のいずれか1に記載の積層繊維シートの使用方法。
【0080】
<13>
前記内側シートに前記液状物を偏在させる、前記<1>~<12>のいずれか1に記載の積層繊維シートの使用方法。
<14>
前記積層繊維シートにおける前記外側シートの面側をドライな状態にする、前記<1>~<13>のいずれか1に記載の積層繊維シートの使用方法。
【0081】
<15>
前記内側シートと前記外側シートとが隣接しており、前記内側シートを構成する繊維と前記外側シートを構成する繊維の融着により一体化されている、前記<1>~<14>のいずれか1に記載の積層繊維シートの使用方法。
<16>
前記内側シートのメジアン繊維径(P1)に対する前記外側シートのメジアン繊維径(P2)の比(P2/P1)は1.5以上170以下、好ましくは10以上150以下、より好ましくは20以上100以下である、前記<1>~<15>のいずれか1に記載の積層繊維シートの使用方法。
<17>
前記内側シートのメジアン繊維径(P1)は0.3μm以上5μm以下、好ましくは0.4μm以上3μm以下、より好ましくは0.5μm以上2μm以下、更に好ましくは0,5μm以上1μm以下である、前記<1>~<16>のいずれか1に記載の積層繊維シートの使用方法。
<18>
前記内側シートの坪量(M1)に対する、前記外側シートの坪量(M2)の比(M2/M1)は1以上50以下、好ましくは1.6以上34以下、より好ましくは2以上25以下である、前記<1>~<17>のいずれか1に記載の積層繊維シートの使用方法。
<19>
前記内側シートの厚みは3μm以上50μm以下、好ましくは4μm以上40μm以下、より好ましくは5μm以上30μm以下である、前記<1>~<18>のいずれか1に記載の積層繊維シートの使用方法。
【0082】
<20>
前記液状物を適用する工程における液状物の適用量が0.2mg/cm以上10mg/cm以下、好ましくは0.3mg/cm以上7mg/cm以下、より好ましくは0.4mg/cm以上5mg/cm以下、更に好ましくは0.4mg/cm以上4mg/cm以下である、前記<1>~<19>のいずれか1に記載の積層繊維シートの使用方法。
【0083】
<21>
一体化している前記内側シートと前記外側シートとの界面での融着の強度は、0.01N/20mm以上10N/20mm以下であり、好ましくは0.1N/20mm以上10N/20mm以下、より好ましくは0.2N/20mm以上10N/20mm以下である、前記<1>~<20>のいずれか1に記載の積層繊維シートの使用方法。
<22>
前記液状物は20℃で液体のポリオールを含み、好ましくは該ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、ジプロピレングリコール、質量平均分子量が2000以下のポリエチレングリコール、グリセリン及びジグリセリンから選ばれる一種又は二種以上を含む、前記<1>~<21>のいずれか1に記載の積層繊維シートの使用方法。
<23>
前記積層繊維シートに前記液状物を含有させても、該積層繊維シートを構成する繊維は繊維形状を保っている、前記<1>~<22>のいずれか1に記載の積層繊維シートの使用方法。
<24>
前記積層繊維シートが、絆創膏、包帯、筒状又は手袋状である、前記<1>~<23>のいずれか1に記載の積層繊維シートの使用方法。
【0084】
<25>
外側シートの一方の面に積層された内側シートを備える積層繊維シートであって、
前記内側シート及び前記外側シートは液状物に対して不溶性であり、
前記内側シートはメジアン繊維径が0.3μm以上5μm以下であり、前記外側シートは前記内側シートよりメジアン繊維径が大きく、
前記内側シートと前記外側シートとが一体化しており、
前記積層繊維シートは液状物を含有し、該液状物が前記内側シートに偏在している、積層繊維シート。
【0085】
<26>
前記液状物の偏在により、前記外側シートの面側がドライな状態となる、前記<25>に記載の積層繊維シート。
<27>
前記外側シートはメジアン繊維径が5μm以上50μm以下、好ましくは10μm以上30μm以下、より好ましくは15μm以上25μm以下の繊維を含む、前記<25>又は<26>に記載の積層繊維シート。
<28>
前記内側シートと前記外側シートとがオレフィン系樹脂を含み、
前記内側シートは低結晶性のオレフィン系樹脂を含む、前記<25>~<27>のいずれか1に記載の積層繊維シート。
【0086】
<29>
前記内側シートの坪量が1g/m以上8g/m以下、好ましくは1.5g/m以上6g/m以下、より好ましくは2g/m以上5g/m以下である、前記<25>~<28>のいずれか1に記載の積層繊維シート。
【0087】
<30>
前記内側シートと前記外側シートとが隣接しており、前記内側シートを構成する繊維と前記外側シートを構成する繊維の融着により一体化されている、前記<25>~<29>のいずれか1に記載の積層繊維シート。
<31>
前記積層繊維シートが、絆創膏、包帯、筒状又は手袋状である、前記<25>~<30>のいずれか1に記載の積層繊維シート。
【実施例
【0088】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳しく説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。なお、本実施例において質量を表現する「部」および「%」は、特に断らない限りいずれも質量基準である。「←」は、左側の欄と同じ内容であることを意味する。「-」は、その項目に該当する値等が無いことを意味する。
【0089】
(実施例1)
樹脂原料PPを用いて、スパンボンド法により、表1に示すメジアン繊維径及び坪量の外側シート2を形成した。
樹脂原料PPを用いて樹脂溶融液を調製し、電界紡糸法により紡糸した。その際、紡糸ノズルの周囲より噴出した加熱熱風により紡糸ノズルと捕集装置の間の空間を40℃以上に加温して、紡糸繊維を、流動性を有する状態で外側シート2上に捕集させた。また、ノズルと捕集装置との距離は300mmとした。これにより、表1に示すメジアン繊維径及び坪量の内側シート1を形成し、内側シート1及び外側シート2からなる積層繊維シート試料を得た。
【0090】
(比較例1)
実施例1で作製した外側シート2を単独で比較例1の繊維シート試料とした。
(比較例2)
実施例1で作製した内側シート1を単独で比較例2の繊維シート試料とした。
【0091】
各実施例及び各比較例の試料について、下記の試験を行った。
(1)実施例1の積層繊維シート試料における、液状物の持続的な偏在状態、内側の湿潤状態、外側のドライな状態(ムレ防止)
下記の(1-1)~(1-4)の手順で実施した。その結果を表2に示した。
(1-1)50mm角の実施例1の積層繊維シート試料に液状物(花王株式会社製、Curel美容液Ma、2022年製)0.15gを外側シート2側から塗布した。
(1-2)塗布後の積層繊維シート試料を静置させ、表2記載の塗布後の時間経過後に回収した。
(1-3)回収した積層繊維シート試料の内側シート1と外側シート2を分離させ、それぞれの質量を測定し、液状物塗布前のシート質量との差分から液状物の含有質量を算出した。液状物塗布前の内側シート1と外側シート2を分離させてシート質量は測定できないので、坪量からの換算値を採用した。
(1-4)内側シート1の前記液状物の含有質量を内側シート1の液状物塗布前のシート質量で割った比率(質量比)を算出し、外側シート2についても同様にして、質量比を算出した。前記質量比が1.5以下の状態をドライな状態と判断し、1.5超の状態をドライでない状態(湿潤状態)と判断した。
(2)湿潤状態の持続性
比較例1、2の繊維シート試料の質量比を算出するため、下記の(2-1)~(2-5)の手順で実施した。その結果を実施例1の質量比と共に表3に示した。尚、表3中の実施例1の質量比は表2の値を採用した。
(2-1)50mm角のシートを切り出し、液状物塗布前のシート質量を測定した。
(2-2)50mm角のシートに液状物(花王株式会社製、Curel美容液Ma、2022年製)0.15gを片側から塗布した。
(2-3)塗布後のシートを静置させ、表3記載の塗布後の時間経過後に回収した。
(2-4)それぞれの質量を測定し、液状物塗布前のシート質量との差分から液状物の含有質量を算出した。
(2-5)液状物の含有質量を液状物塗布前のシート質量で割った比率を算出した。
【0092】
(3)外側のべたつき抑制
内側の湿潤状態と外側のべたつき抑制を両立できているか確認するため、下記の(3―1)~(3-6)の手順で実施した。(3-5)及び(3-6)の結果を表3に示した。
(3-1)転写前のろ紙の質量を測定した。
(3-2)50mm角のシートに液状物(花王株式会社製、Curel美容液Ma、2022年製)0.15gを片側から塗布した。
※実施例1の積層繊維シート試料は外側シート2側から前記液状物を塗布した。
(3-3)塗布後のシートを静置させ、表3記載の塗布後の時間経過後に回収した。
(3-4)各比較例の繊維シート試料を、液状物を塗布した面がろ紙との界面にくるように置いて、1.5kgの荷重を上から1分付与した。実施例1の積層繊維シート試料は、外側シート2側の面がろ紙との界面にくるように置いて、1.5kgの荷重を上から1分付与した。
(3-5)転写後のろ紙の質量を測定し、転写後のろ紙と転写前のろ紙の質量差から前記液状物の転写量の算出を行い、外側からの液状物の転写量を判断した。
(3-6)上記(3-1)~(3-5)において、(3-4)について、各比較例の繊維シート試料は液状物を塗布した面と反対の面がろ紙との界面にくるように置いて、実施例1の積層繊維シート試料は内側シート1側の面がろ紙との界面にくるように置いて、1.5kgの荷重を付与し、(3-5)の液状物の転写量の算出を行い、内側からの液状物の転写量を判断した。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【0096】
(1)の結果
実施例1において表2より10分~60分ごとの内側シート1、外側シート2の質量比を比較すると、いずれも内側シート1の質量比が大きく、内側シート1に液状物が偏在していることがわかった。また内側シート1の質量比は1.5を超えており、外側シート2の質量比は1.5を下回っていた。よって前述の定義の通り、内側シート1はドライでなく、外側シート2はドライであった。以上から内側シート1はドライでない状態(湿潤状態)が長時間継続しており、外側はドライな状態を継続していた。また、実施例1の積層繊維シート試料は、内側シート1が湿潤状態にありながらも、外側シート2の繊維層が継続してドライな状態となることができるため、通気性が良く、ムレ防止性に優れることが分かった。
(2)及び(3)の結果
実施例1において10分,20分における液状物の転写量を確認するといずれの時間も内側シート1よりも外側シート2の転写量が少なかった。また外側シート2について、ドライと判断される質量比1.4の際の図7(A)から転写量が少ないのがわかった。一方で内側シート1について、ドライでないと判断される質量比2.24の際の図7(B)から転写量が多いのがわかった。以上のように外側シート2がドライと判断した状態では外側のべたつき防止がされているのがわかった。同時に実施例1では、ドライな外側シート2に対し、これに隣接する内側シート1は湿潤状態で転写量も多くなっていることから、前記対象物に対する前記液状物の作用が生じやすいことがわかった。
比較例1に対し、実施例1は10分後及び20分後の転写量から内側の湿潤状態を持続できていた。比較例2に対し、実施例1は10分後及び20分後の転写量から外側のべたつき抑制できていた。よって、実施例1の構成を採用することで、外側のべたつき抑制と内側の湿潤状態を両立できることが分かった。
【符号の説明】
【0097】
1 内側シート
2 外側シート
10 積層繊維シート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7