(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-08
(45)【発行日】2024-10-17
(54)【発明の名称】プロトン伝導体、膜電極接合体、電気化学セルおよび燃料電池スタック
(51)【国際特許分類】
H01B 1/06 20060101AFI20241009BHJP
C25B 13/04 20210101ALI20241009BHJP
H01B 1/08 20060101ALI20241009BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20241009BHJP
H01M 8/1246 20160101ALI20241009BHJP
【FI】
H01B1/06 A
C25B13/04 301
H01B1/08
H01M8/12 101
H01M8/1246
(21)【出願番号】P 2024539643
(86)(22)【出願日】2024-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2024006947
【審査請求日】2024-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2023080068
(32)【優先日】2023-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業/超高効率プロトン伝導セラミック燃料電池デバイスの研究開発(WP2 高効率・高出力密度セルの開発)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】見神 祐一
(72)【発明者】
【氏名】布尾 孝祐
(72)【発明者】
【氏名】黒羽 智宏
(72)【発明者】
【氏名】奥山 勇治
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第116078314(CN,A)
【文献】特開2020-24847(JP,A)
【文献】特開2019-106360(JP,A)
【文献】国際公開第2023/058281(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01B 1/08
H01M 8/12
H01M 8/1246
C25B 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式Ba
aZr
1-x-yYb
xCu
yO
3-δで表される化合物を含み、
ここで、0.95≦a≦1.05、0.1≦x≦0.4、0.01<y<0.20、かつ0<δ≦0.65が充足される、
プロトン伝導体。
【請求項2】
前記化学式において、0.04≦y≦0.16が充足される、
請求項1に記載のプロトン伝導体。
【請求項3】
前記化学式において、0.125≦y≦0.16が充足される、
請求項2に記載のプロトン伝導体。
【請求項4】
前記化学式において、0.125≦y≦0.15が充足される、
請求項3に記載のプロトン伝導体。
【請求項5】
前記化学式において、y=0.15が充足される、
請求項4に記載のプロトン伝導体。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のプロトン伝導体を含む、
電解質膜。
【請求項7】
請求項6に記載の電解質膜と、
前記電解質膜上に設けられた電極と、を備える、
膜電極接合体。
【請求項8】
第1電極と、
第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられた請求項6に記載の電解質膜と、を備える、
電気化学セル。
【請求項9】
複数の、請求項8に記載の電気化学セルを備える、
燃料電池スタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プロトン伝導体、膜電極接合体、電気化学セルおよび燃料電池スタックに関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(以下、「SOFC」という)は、電解質膜を構成する電解質に固体酸化物が用いられた燃料電池である。電解質としての固体酸化物には、安定化ジルコニアに代表される酸化物イオン伝導体が広く用いられており、固体高分子形燃料電池(PEFC)と比べて高い発電効率を有するという特長がある。
【0003】
SOFCの1種であるプロトン伝導セラミック燃料電池(以下、「PCFC」という)は、電解質膜を構成する電解質にプロトン伝導性を有する固体酸化物が用いられることが特徴である。一般的なSOFCでは、発電反応により燃料極側で水蒸気が生成する。このため、燃料利用率が高い動作環境では、燃料である水素が水蒸気によって希釈され、燃料電池の起電力が低下したり、燃料枯れによるセルの劣化のリスクが高まったりする。したがって、一般的なSOFCでは、燃料利用率を十分に高くすることができない。
【0004】
一方で、電解質にプロトン伝導体を用いたPCFCでは、発電反応による水蒸気の生成が空気極側で進行するため、燃料極で水素の希釈が抑制される。これにより、高い燃料利用率で運転した場合にも燃料電池の起電力を高く維持でき、燃料枯れのリスクも低減できるため、高燃料利用率での運転に有利である。燃料電池の発電効率は、セルの電圧と、燃料利用率との積で表されるため、高燃料利用率と高起電力とが両立できるPCFCは、SOFCの中でも特に高い発電効率が期待できる。また高起電力が維持できるという点は、燃料電池の電流密度を高めて運転できることにもつながるため、高出力化という点でも有利である。
【0005】
PCFCの高発電効率化、高出力化を目指すためには、発電時のセルの内部抵抗を低減することが重要であり、そのためには電解質として用いられるプロトン伝導体のプロトン伝導度を向上することが重要である。
【0006】
一般的なプロトン伝導体としては、ペロブスカイト構造を有するBaZrO3、BaCeO3、およびBa(Ce、Zr)O3において、それぞれのZrまたはCeのサイトをイットリウム(Y)またはイッテルビウム(Yb)等の+3価を有する金属元素で一部置換した材料が用いられる。これらの材料は、比較的高いプロトン伝導度を有することが知られている。特にBaZrO3系のプロトン伝導体は、燃料電池の燃料ガスまたは空気中に含まれるCO2に対して比較的高い化学的安定性を有しており、注目されている。BaZrO3系のプロトン伝導体の場合、置換元素としてYを用いると、燃料極に用いられるNiOと高温で副生成物であるBaY2NiO5-δ(δは酸素空孔量)を生じやすい。なお、δは、酸素空孔量を表す。BaY2NiO5-δの生成は、燃料電池の性能および信頼性の低下につながる。これに対し、置換元素としてYbが用いられる場合には、副生成物が生じづらいという特長がある。したがって、BaZrO3系のプロトン伝導体において置換元素としてYbが用いられた材料は、実用上有望な材料だと考えられる。Yb置換のBaZrO3をベースとして、プロトン伝導度をさらに向上できれば、高発電効率、あるいは高出力密度を有する燃料電池の実現に有利になる。
【0007】
非特許文献1では、Yb置換のBaZrO3について、さらにCuOを添加するという検討がなされている。非特許文献1によれば、Yb置換のBaZrO3に1.0mоl%のCuOを添加することで、Yb置換のBaZrO3の焼結を促進する効果が得られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】J. Park et al., “Low temperature sintering of BaZrO3-based proton conductors for intermediate temperature solid oxide fuel cells”, Solid State Ionics 181 163-167 (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1によれば、1.0mоl%のCuOを添加することでYb置換のBaZrO3の焼結性は向上するが、これにより得られた1.0mоl%Cuで置換されたYb置換のBaZrYbO3は、Cuを含まないものに比べてプロトン伝導度が低下している。
【0010】
本開示の目的は、PCFCに適用可能であって、かつ向上したプロトン伝導度を有するプロトン伝導体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示のプロトン伝導体は、
化学式BaaZr1-x-yYbxCuyO3-δで表される化合物を含み、
ここで、0.95≦a≦1.05、0.1≦x≦0.4、0.01<y<0.20、かつ0<δ≦0.65が充足される。
【発明の効果】
【0012】
本開示は、PCFCに適用可能であって、かつ向上したプロトン伝導度を有するプロトン伝導体を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施形態2による電解質膜の断面図を示す。
【
図2】
図2は、実施形態3による膜電極接合体の断面図を示す。
【
図3】
図3は、実施形態4による電気化学セルの断面図を示す。
【
図4】
図4は、実施形態5による燃料電池スタックを備えた燃料電池システムを示す。
【
図5】
図5は、実施例および比較例によるプロトン伝導体のペレットの作製方法を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、実施例2のプロトン伝導体を用いて実施例6の電気化学セルを作製する手順を示す。
【
図7】
図7は、実施例6の電気化学セルの電流電圧特性および電流出力特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[本開示の一形態を得るに至った経緯]
非特許文献1では、1.0mоl%のCuOを添加することによって、Yb置換のBaZrO3の焼結性を向上させている。しかし、これにより得られた、1.0mоl%のCuで置換されたYb置換のBaZrO3は、Cuを含まないものに比べてプロトン伝導度が低下している。
【0015】
そこで、Cuの置換量について鋭意検討した結果、Cuの置換量は1.0mоl%の少量ではプロトン伝導度を低下させるのに対し、より置換量を増やすことによってプロトン伝導度の向上が可能であること、すなわちCuの置換量に最適範囲があることを発明者らは見出した。これにより、以下に説明される本開示に至った。
【0016】
[本開示の実施形態]
以下、本開示の実施形態が、図面を参照しながら説明される。
【0017】
(実施形態1)
実施形態1によるプロトン伝導体は、化学式BaaZr1-x-yYbxCuyO3-δで表される化合物を含む。ここで、上記化学式において、0.95≦a≦1.05、0.1≦x≦0.4、0.01<y<0.20、かつ0<δ≦0.65が充足される。
【0018】
後述される実施例1から5において実証されるように、実施形態1によるプロトン伝導体は、向上したプロトン伝導度を有する。具体的には、実施形態1によるプロトン伝導体は、化学式BaaZr1-x-yYbxCuyO3-δにおいてCuが含まれない化合物、すなわちy=0である化合物よりも、高いプロトン伝導度を有する。したがって、実施形態1によるプロトン伝導体は、PCFCに適用された場合に、PCFCの高発電効率化および高出力化を実現できる。
【0019】
化学式BaaZr1-x-yYbxCuyO3-δにおいて、0.04≦y≦0.16が充足されてもよい。このような化合物を含むことにより、実施形態1によるプロトン伝導体は、より向上したプロトン伝導度を有する。これにより、実施形態1によるプロトン伝導体は、PCFCに適用された場合に、PCFCのさらなる高発電効率化および高出力化を実現できる。
【0020】
化学式BaaZr1-x-yYbxCuyO3-δにおいて、0.125≦y≦0.16が充足されてもよい。このような化合物を含むことにより、実施形態1によるプロトン伝導体は、より向上したプロトン伝導度を有する。これにより、実施形態1によるプロトン伝導体は、PCFCに適用された場合に、PCFCのさらなる高発電効率化および高出力化を実現できる。
【0021】
化学式BaaZr1-x-yYbxCuyO3-δにおいて、0.125≦y≦0.15が充足されてもよい。このような化合物を含むことにより、実施形態1によるプロトン伝導体は、より向上したプロトン伝導度を有する。これにより、実施形態1によるプロトン伝導体は、PCFCに適用された場合に、PCFCのさらなる高発電効率化および高出力化を実現できる。
【0022】
化学式BaaZr1-x-yYbxCuyO3-δにおいて、y=0.15が充足されてもよい。このような化合物を含むことにより、実施形態1によるプロトン伝導体は、特に向上したプロトン伝導度を有する。これにより、実施形態1によるプロトン伝導体は、PCFCに適用された場合に、PCFCのさらなる高発電効率化および高出力化を実現できる。
【0023】
実施形態1によるプロトン伝導体は、クエン酸錯体法、固相焼結法、共沈法、硝酸塩法、またはスプレー顆粒法により合成されることができる。
【0024】
実施形態1によるプロトン伝導体は、化学式BaaZr1-x-yYbxCuyO3-δで表される化合物を含んでいればよい。実施形態1によるプロトン伝導体は、例えば、化学式BaaZr1-x-yYbxCuyO3-δで表される化合物をモル比で5%以上含んでいてもよく、20%以上含んでいてもよい。実施形態1によるプロトン伝導体が、上記範囲で化学式BaaZr1-x-yYbxCuyO3-δで表される化合物を含むことにより、実施形態1によるプロトン伝導体は、高いプロトン伝導性を発揮することができる。
【0025】
実施形態1によるプロトン伝導体は、化学式BaaZr1-x-yYbxCuyO3-δで表される化合物で構成されていてもよい。「実施形態1によるプロトン伝導体が、化学式BaaZr1-x-yYbxCuyO3-δで表される化合物で構成されている」とは、実施形態1によるプロトン伝導体において、化学式BaaZr1-x-yYbxCuyO3-δで表される化合物がモル比で80%以上であることを意味する。実施形態1によるプロトン伝導体が、化学式BaaZr1-x-yYbxCuyO3-δで表される化合物で構成されている場合、実施形態1によるプロトン伝導体は、より高いプロトン伝導性を発揮することができる。
【0026】
一例として、実施形態1によるプロトン伝導体が、実質的に、化学式BaaZr1-x-yYbxCuyO3-δで表される化合物からなっていてもよい。「実施形態1によるプロトン伝導体が、実質的に、化学式BaaZr1-x-yYbxCuyO3-δで表される化合物からなる」とは、不可避不純物として含まれる成分を除き、実施形態1によるプロトン伝導体が化学式BaaZr1-x-yYbxCuyO3-δで表される化合物のみからなることを意味する。この場合、実施形態1によるプロトン伝導体において、化学式BaZr(1-x-y)YbxScyO3-δで表される化合物がモル比で95%以上であってもよい。
【0027】
実施形態1によるプロトン伝導体は、化学式BaaZr1-x-yYbxCuyO3-δで表される化合物以外に、他の成分を含んでいてもよい。実施形態1によるプロトン伝導体は、他の成分として、例えば、上述される化合物を合成する過程で生じる不純物等をさらに含んでいてもよい。
【0028】
実施形態1によるプロトン伝導体に含まれる化学式BaaZr1-x-yYbxCuyO3-δで表される化合物の結晶粒径の平均値は、例えば、0.1μm以上かつ10μm以下である。また、結晶粒径の平均値が上記範囲であっても、さらには0.1μmよりも小さい場合であっても、実施形態1によるプロトン伝導体は、高いプロトン伝導性を実現することができる。ここで、結晶粒径の平均値は、例えば、粒度分布の測定から得られるメジアン径(体積基準)を用いることによって求めることができる。
【0029】
(実施形態2)
図1は、実施形態2による電解質膜10の断面図を示す。電解質膜10は、電解質膜10に含まれるプロトン伝導体は、実施形態1で説明したプロトン伝導体である。
【0030】
実施形態2による電解質膜10に含まれるプロトン伝導体は、実施形態1で説明したように、向上したプロトン伝導度を有する。したがって、実施形態2による電解質膜10は、高いプロトン伝導度を有することができる。これにより、実施形態2による電解質膜10は、PCFCの電解質膜に適用された場合に、PCFCの高発電効率化および高出力化を実現できる。
【0031】
電解質膜10は、実施形態1で説明されたプロトン伝導体を電解質材料として含む。電解質膜10は、化学式BaaZr1-x-yYbxCuyO3-δで表される化合物以外の、プロトン伝導性を示す他の化合物をさらに含んでいてもよい。他の化合物の例は、化学式BaZr1-x1M1x1O3-δで表される化合物、化学式BaCe1-x2M2x2O3-δで表される化合物または化学式BaZr1-x3-y3Cex3M3y3O3-δで表される化合物である。ここで、M1、M2、およびM3は、それぞれ、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Y、Sc、In、およびLuからなる群より選ばれる少なくとも1つを含んでおり、0<x1<1、0<x2<1、0<x3<1、0<y3<1、かつ0<δ<0.5が充足される。電解質膜10は、プロトン伝導体以外の電解質材料をさらに含んでいてもよい。
【0032】
実施形態2による電解質膜10の厚みは、特には限定されず、用途に応じて適宜決定されうる。一例として、電解質膜10の厚みは、例えば1から500μmであり、1から50μmであってよい。
【0033】
電解質膜10は、例えば、テープキャスト法、スピンコート法、ディップコート法、スパッタ、またはPLD(Pulse Laser Deposition)により作製される。
【0034】
(実施形態3)
図2は、実施形態3による膜電極接合体20の断面図を示す。膜電極接合体20は、電解質膜21と、電解質膜21上に設けられた電極22とを備える。膜電極接合体20における電解質膜21は、実施形態2で説明した電解質膜10である。
【0035】
実施形態3による膜電極接合体20における電解質膜21は、実施形態2で説明したように、向上したプロトン伝導度を有するプロトン伝導体を含む。したがって、電解質膜21は、高いプロトン伝導度を有することができる。これにより、実施形態3による膜電極接合体20は、PCFCの電極および電解質膜に適用された場合に、PCFCの高発電効率化および高出力化を実現できる。
【0036】
上述のとおり、電解質膜21は実施形態2で説明した電解質膜10であるので、ここでは電解質膜21についての詳細な説明を省略する。
【0037】
電極22を構成する材料には、膜電極接合体20が適用される用途に応じて適切な材料が選択されうる。
【0038】
膜電極接合体20は、例えば燃料電池の電極および電解質膜として用いられてもよく、PCFCの電極および電解質膜として用いられてもよい。したがって、例えば、電極22は、燃料極として機能してもよいし、空気極として機能してもよい。
【0039】
膜電極接合体20における電極22が、例えば燃料電池の燃料極、特にPCFCの燃料極に適用される場合、電極22は、例えば、以下のうち少なくとも一つの化合物を主として含んでもよい。
(i)電解質膜21に含まれる電解質材料、ならびにCo、Fe、Pt、およびPdからなる群から選ばれる1種類以上の金属およびNiの混合体(すなわち、サーメット)
(ii)ランタンを含む複合酸化物
(iii)バリウムを含む複合酸化物
(iv)ストロンチウムを含む複合酸化物
【0040】
電極22がある化合物を主として含むとは、電極22における当該化合物の質量比が最も大きいことを意味する。
【0041】
膜電極接合体20における電極22が、例えば燃料電池の空気極、特にPCFCの空気極に適用される場合、電極22は、例えば、複合化合物を含む。この場合、電極22は、例えば、ランタンストロンチウムコバルト酸化物、ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物、ランタンバリウムコバルト酸化物、バリウムストロンチウムコバルト鉄酸化物等を主として含んでいてもよい。この場合、電極22は、例えばスクリーン印刷法によって、電解質膜21上に形成されてもよい。
【0042】
電極22は、例えば、1μmから1000μmの厚みを有する。電極22がセルの支持体を兼ねる場合、電極22は、100μmから700μmの厚みを有することが望ましい。電極22以外の構成がセルの支持体となる場合、電極22は10μmから50μmの厚みを有することが望ましい。
【0043】
図2では、電解質膜21および電極22が互いに接しているが、電解質膜21と電極22との間に別の層が設けられていてもよい。別の層の例は、例えば機能層である。機能層は、電解質膜21と電極22との間において、電子またはプロトンの移動を促進する層である。機能層は、例えば、サーメットおよび複合酸化物のコンポジットから構成される。
【0044】
(実施形態4)
図3は、実施形態4による電気化学セル30の断面図を示す。
【0045】
実施形態4による電気化学セル30は、第1電極31と、第2電極32と、電解質膜33とを備える。電解質膜33は、第1電極31と第2電極32との間に設けられている。換言すると、
図3で示すように、電気化学セル30では、第1電極31、電解質膜33および第2電極32がこの順に設けられている。電気化学セル30における電解質膜33は、実施形態2で説明した電解質膜10である。
【0046】
実施形態4による電気化学セル30における電解質膜33は、実施形態2で説明したように、向上したプロトン伝導度を有するプロトン伝導体を含む。したがって、電解質膜33は、高いプロトン伝導度を有することができる。これにより、実施形態4による電気化学セル30は、例えばPCFCとして用いられた場合に、PCFCの高発電効率化および高出力化を実現できる。
【0047】
上述のとおり、電気化学セル30における電解質膜33は、実施形態2で説明した電解質膜10である。したがって、ここでは電解質膜33についての詳細な説明を省略する。
【0048】
実施形態4による電気化学セル30は、例えば燃料電池として用いられてもよく、PCFCとして用いられてもよい。したがって、例えば、第1電極31が燃料極として機能し、第2電極32が空気極として機能してもよい。
【0049】
第1電極31がPCFC等の燃料電池の燃料極として機能する場合、第1電極31に用いられる材料は、実施形態3で電極22が燃料極として用いられる場合の材料として説明したとおりである。
【0050】
第2電極32がPCFC等の燃料電池の空気極として機能する場合、第2電極32に用いられる材料は、実施形態3で電極22が空気極として用いられる場合の材料として説明したとおりである。
【0051】
図3に示されるように、第1電極31および第2電極32は、それぞれ電解質膜33と接して設けられている。しかし、第1電極31と電解質膜33との間に、別の層が設けられていてもよい。また、第2電極32と電解質膜33との間に、別の層が設けられていてもよい。別の層の例は、例えば機能層である。機能層は、実施形態3で説明された機能層と同様である。
【0052】
電気化学セル30は、燃料電池、電気化学的水素ポンプ、水素センサおよび水電解装置に用いられ得る。
【0053】
(実施形態5)
図4は、実施形態5による燃料電池スタック40を備えた燃料電池システム1000を示す。
【0054】
燃料電池スタック40は、複数の電気化学セル30を備える。複数の電気化学セル30は、互いに積層されて燃料電池スタック40を形成している。電気化学セル30は、実施形態4において説明されている。
【0055】
実施形態5による燃料電池システム1000では、電気化学セル30は燃料電池として用いられる。したがって、この場合、第1電極31が燃料極として機能し、かつ第2電極32が空気極として機能する。
【0056】
燃料電池システム1000は、原料ガス供給経路1023および酸化剤ガス供給経路1024をさらに備える。原料ガス供給経路1023は、第1電極31および原料供給器1022に接続されている。酸化剤ガス供給経路1024は、第2電極32および酸化剤ガス供給器1021に接続されている。
【0057】
実施形態3で説明したように、電気化学セル30は、PCFCの高発電効率化および高出力化を実現できる。したがって、燃料電池スタック40は、燃料電池スタックとして高発電効率および高出力を実現できる。
【0058】
燃料電池スタック40は、例えば筐体1014に格納されている。
【0059】
筐体1014は、断熱部材で構成されていてもよい。
【0060】
積層された電気化学セル30の第2電極32に、酸化剤ガスが供給される。具体的には、酸化剤ガスは、酸化剤ガス供給器1021から、酸化剤ガス供給経路1024を通って、複数の電気化学セル30の第2電極32(すなわち、カソード)に供給される。
【0061】
第2電極32において、以下の反応(1)が進行する。
O2+4H++4e-→2H2O (1)
【0062】
酸化剤ガスは、例えば、空気である。
【0063】
原料は、原料供給器1022から、原料ガス供給経路1023を通って、複数の電気化学セル30の第1電極31に供給される。
【0064】
第1電極31において、以下の反応(2)が進行する。
2H2→4H++4e- (2)
【0065】
原料は、例えば、水素分子である。
【0066】
水素は、改質反応により生成されてもよい。あるいは、水素は水電解により生成されてもよい。
【0067】
このようにして、燃料電池システム1000が作動する。そして燃料電池システム1000が発電する。
【0068】
[他の実施形態]
(付記)
以上の実施形態の記載により、下記の技術が開示される。
【0069】
(技術1)
化学式BaaZr1-x-yYbxCuyO3-δで表される化合物を含み、
ここで、0.95≦a≦1.05、0.1≦x≦0.4、0.01<y<0.20、かつ0<δ≦0.65が充足される、
プロトン伝導体。
【0070】
この構成により、技術1によるプロトン伝導体は、向上したプロトン伝導度を有する。したがって、技術1によるプロトン伝導体は、PCFCに適用された場合に、PCFCの高発電効率化および高出力化を実現できる。
【0071】
(技術2)
前記化学式において、0.04≦y≦0.16が充足される、
技術1に記載のプロトン伝導体。
【0072】
この構成により、技術2によるプロトン伝導体は、PCFCに適用された場合に、PCFCのさらなる高発電効率化および高出力化を実現できる。
【0073】
(技術3)
前記化学式において、0.125≦y≦0.16が充足される、
技術2に記載のプロトン伝導体。
【0074】
この構成により、技術3によるプロトン伝導体は、PCFCに適用された場合に、PCFCのさらなる高発電効率化および高出力化を実現できる。
【0075】
(技術4)
前記化学式において、0.125≦y≦0.15が充足される、
技術3に記載のプロトン伝導体。
【0076】
この構成により、技術4によるプロトン伝導体は、PCFCに適用された場合に、PCFCのさらなる高発電効率化および高出力化を実現できる。
【0077】
(技術5)
前記化学式において、y=0.15が充足される、
技術4に記載のプロトン伝導体。
【0078】
この構成により、技術5によるプロトン伝導体は、PCFCに適用された場合に、PCFCのさらなる高発電効率化および高出力化を実現できる。
【0079】
(技術6)
技術1から5のいずれか一項に記載のプロトン伝導体を含む、
電解質膜。
【0080】
この構成により、技術6による電解質膜は、PCFCの電解質膜に適用された場合に、PCFCの高発電効率化および高出力化を実現できる。
【0081】
(技術7)
技術6に記載の電解質膜と、
前記電解質膜上に設けられた電極と、を備える、
膜電極接合体。
【0082】
この構成により、技術7による膜電極接合体は、PCFCの電極および電解質膜に適用された場合に、PCFCの高発電効率化および高出力化を実現できる。
【0083】
(技術8)
第1電極と、
第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に設けられた技術6に記載の電解質膜と、を備える、
電気化学セル。
【0084】
この構成により、技術8による電気化学セルは、例えばPCFCとして用いられた場合に、PCFCの高発電効率化および高出力化を実現できる。
【0085】
(技術9)
複数の、技術8に記載の電気化学セルを備える、
燃料電池スタック。
【0086】
この構成により、技術9による燃料電池スタックは、高発電効率および高出力を実現できる。
【実施例】
【0087】
以下、本開示が、以下の実施例および比較例を参照しながらより詳細に説明される。
【0088】
<プロトン伝導体>
以下に説明されるように、実施例1-5および比較例1-5において、プロトン伝導体が作製された。各プロトン伝導体において、プロトン伝導度が評価された。
【0089】
[実施例1]
(プロトン伝導体の評価用ペレットの作製)
図5は、実施例および比較例によるプロトン伝導体のペレットの作製方法を示すフローチャートである。
図5を参照しながら、プロトン伝導体の評価用ペレットの作製について説明する。
【0090】
プロトン伝導体の出発材料として、以下の材料が用意された。
Ba(NO3)2(富士フィルム和光純薬株式会社製) 0.1mol
ZrO(NO3)2・2H2O(関東化学株式会社製) 0.076mol
Yb(NO3)3・3H2O(三津和化学薬品株式会社製) 0.02mol
Cu(NO3)2・3H2O(富士フィルム和光純薬株式会社製) 0.004mol
【0091】
上記の出発原料を蒸留水1000mLに添加して溶解させて混合液を得て、当該混合液を攪拌した(S11)。
【0092】
次に、混合液に、クエン酸(富士フィルム和光純薬株式会社製)0.3molおよびエチレンジアミン四酢酸(富士フィルム和光純薬株式会社製)0.3molを加えた(S12)。以下、「エチレンジアミン四酢酸」は、「EDTA」と呼ばれる。
【0093】
次に、アンモニア水(28質量%、キシダ化学株式会社製)を混合液に添加し、pHメーター(株式会社堀場製作所製)を用いて混合液のpHを10に調整した(S13)。
【0094】
次いで、90℃の温度で、混合液を攪拌した(S14)。
【0095】
ホットスターラーを用いて、混合液の温度を370℃まで上げて、溶媒である水の蒸発と、脱脂を行った(S15)。これにより、黒色固形物が得られた。
【0096】
得られた固形物をるつぼ内に移し、空気中900℃で10時間仮焼成した(S16)。
【0097】
仮焼成された粉末は、粉砕された(S17)。次いで、粉砕された粉末は、ジルコニア製ボールとともに、プラスチック製容器に移された。
【0098】
そして、プラスチック製容器に、エタノール(関東化学株式会社製)100gを加えた。このようにして得られた混合液は、ボールミルにより72時間、粉砕された(S18)。
【0099】
ボールミルによる粉砕後、ランプを用いて混合液を乾燥し、混合液からエタノールを除去した(S19)。このようにして、粉末が得られた。
【0100】
次に、油圧ポンプ(エナパック株式会社製)および20ミリメートルの直径を有する粉末成形金型を用いて、得られた粉末が円柱状にプレスされ、さらに冷間静水圧プレス(三庄インダストリー製)によりプレス圧250MPaでペレットに成形した。得られた円形状のペレットは、1500℃で10時間、酸素雰囲気下で本焼された(S20)。これにより、プロトン伝導体の焼結体ペレットが得られた。
【0101】
低速カッター(アイソメット4000)を用いて、得られた焼結体ペレットをおおよそ500μmの厚みのディスク状に切断した。このようにして、評価用ペレットが得られた。#500のエメリー紙にエタノールを滴下し、評価用ペレットの両面を研磨した。
【0102】
その後、評価用ペレットの研磨面両面に、スクリーン印刷法により、Agペースト(田中貴金属工業製)を塗布した。塗布したAgペーストは、8mmの直径を有していた。
【0103】
そして、Agペーストが塗布された評価用ペレットを900℃で1時間、大気雰囲気下で焼成した。このようにして、実施例1による評価用ペレットが作製された。
【0104】
(プロトン伝導度の評価)
実施例1による評価用ペレットを用いて、ペレットの抵抗およびペレットの厚みから、プロトン伝導体のプロトン伝導度が算出された。ペレットの抵抗は、交流インピーダンス法に基づき測定された。プロトン伝導度の求め方は、以下の通りである。
【0105】
LCRメーター(日置電機製:IM2526)を用いて、10mVの振幅で、8MHzから4Hzの周波数の範囲において、ペレットに交流信号が印加された。この測定は、1.9%加湿、1%水素、窒素希釈ガス雰囲気下、700℃で実施された。そして、コールコールプロットが出力された。出力されたコールコールプロットの円弧をもとにして、円弧と実数軸との交点を求めた。実数軸とは、コールコールプロットのグラフにおけるY軸の値が0となる軸である。円弧の高周波側における交点をペレットの抵抗とした。
【0106】
求められた抵抗およびペレットの厚みに基づき、プロトン伝導体のプロトン伝導度が算出された。
【0107】
[実施例2]
(プロトン伝導体の評価用ペレットの作製)
プロトン伝導体の出発材料として、以下の材料が用意された。
Ba(NO3)2(富士フィルム和光純薬株式会社製) 0.1mol
ZrO(NO3)2・2H2O(関東化学株式会社製) 0.075mol
Yb(NO3)3・3H2O(三津和化学薬品株式会社製) 0.02mol
Cu(NO3)2・3H2O(富士フィルム和光純薬株式会社製) 0.005mol
【0108】
以降の手順は実施例1と同様とした。
【0109】
(プロトン伝導度の評価)
実施例1と同様の方法で実施例2のプロトン伝導体を評価した。
【0110】
[実施例3]
(プロトン伝導体の評価用ペレットの作製)
プロトン伝導体の出発材料として、以下の材料が用意された。
Ba(NO3)2(富士フィルム和光純薬株式会社製) 0.1mol
ZrO(NO3)2・2H2O(関東化学株式会社製) 0.0675mol
Yb(NO3)3・3H2O(三津和化学薬品株式会社製) 0.02mol
Cu(NO3)2・3H2O(富士フィルム和光純薬株式会社製) 0.0125mol
【0111】
以降の手順は実施例1と同様とした。
【0112】
(プロトン伝導度の評価)
実施例1と同様の方法で実施例3のプロトン伝導体を評価した。
【0113】
[実施例4]
(プロトン伝導体の評価用ペレットの作製)
プロトン伝導体の出発材料として、以下の材料が用意された。
Ba(NO3)2(富士フィルム和光純薬株式会社製) 0.1mol
ZrO(NO3)2・2H2O(関東化学株式会社製) 0.065mol
Yb(NO3)3・3H2O(三津和化学薬品株式会社製) 0.02mol
Cu(NO3)2・3H2O(富士フィルム和光純薬株式会社製) 0.015mol
【0114】
以降の手順は実施例1と同様とした。
【0115】
(プロトン伝導度の評価)
実施例1と同様の方法で実施例4のプロトン伝導体を評価した。
【0116】
[実施例5]
(プロトン伝導体の評価用ペレットの作製)
プロトン伝導体の出発材料として、以下の材料が用意された。
Ba(NO3)2(富士フィルム和光純薬株式会社製) 0.1mol
ZrO(NO3)2・2H2O(関東化学株式会社製) 0.064mol
Yb(NO3)3・3H2O(三津和化学薬品株式会社製) 0.02mol
Cu(NO3)2・3H2O(富士フィルム和光純薬株式会社製) 0.016mol
【0117】
以降の手順は実施例1と同様とした。
【0118】
(プロトン伝導度の評価)
実施例1と同様の方法で実施例5のプロトン伝導体を評価した。
【0119】
[比較例1]
(プロトン伝導体の評価用ペレットの作製)
プロトン伝導体の出発材料として、以下の材料が用意された。
Ba(NO3)2(富士フィルム和光純薬株式会社製) 0.1mol
ZrO(NO3)2・2H2O(関東化学株式会社製) 0.08mol
Yb(NO3)3・3H2O(三津和化学薬品株式会社製) 0.02mol
【0120】
また、ペレットの焼成温度を1650℃とした。それ以外の手順は実施例1と同様とした。
【0121】
(プロトン伝導度の評価)
実施例1と同様の方法で比較例1のプロトン伝導体を評価した。
【0122】
[比較例2]
(プロトン伝導体の評価用ペレットの作製)
プロトン伝導体の出発材料として、以下の材料が用意された。
Ba(NO3)2(富士フィルム和光純薬株式会社製) 0.1mol
ZrO(NO3)2・2H2O(関東化学株式会社製) 0.079mol
Yb(NO3)3・3H2O(三津和化学薬品株式会社製) 0.02mol
Cu(NO3)2・3H2O(富士フィルム和光純薬株式会社製) 0.001mol
【0123】
以降の手順は実施例1と同様とした。
【0124】
(プロトン伝導度の評価)
実施例1と同様の方法で比較例2のプロトン伝導体を評価した。
【0125】
[比較例3]
(プロトン伝導体の評価用ペレットの作製)
プロトン伝導体の出発材料として、以下の材料が用意された。
Ba(NO3)2(富士フィルム和光純薬株式会社製) 0.1mol
ZrO(NO3)2・2H2O(関東化学株式会社製) 0.06mol
Yb(NO3)3・3H2O(三津和化学薬品株式会社製) 0.02mol
Cu(NO3)2・3H2O(富士フィルム和光純薬株式会社製) 0.02mol
【0126】
以降の手順は実施例1と同様とした。
【0127】
(プロトン伝導度の評価)
実施例1と同様の方法で比較例3のプロトン伝導体を評価した。
【0128】
[比較例4]
(プロトン伝導体の評価用ペレットの作製)
プロトン伝導体の出発材料として、以下の材料が用意された。
Ba(NO3)2(富士フィルム和光純薬株式会社製) 0.1mol
ZrO(NO3)2・2H2O(関東化学株式会社製) 0.0725mol
Yb(NO3)3・3H2O(三津和化学薬品株式会社製) 0.02mol
Ni(NO3)2・3H2O(富士フィルム和光純薬株式会社製) 0.0075mol
【0129】
以降の手順は実施例1と同様とした。
【0130】
(プロトン伝導度の評価)
実施例1と同様の方法で比較例4のプロトン伝導体を評価した。
【0131】
[比較例5]
(プロトン伝導体の評価用ペレットの作製)
プロトン伝導体の出発材料として、以下の材料が用意された。
Ba(NO3)2(富士フィルム和光純薬株式会社製) 0.1mol
ZrO(NO3)2・2H2O(関東化学株式会社製) 0.065mol
Yb(NO3)3・3H2O(三津和化学薬品株式会社製) 0.02mol
Ni(NO3)2・3H2O(富士フィルム和光純薬株式会社製) 0.015mol
【0132】
以降の手順は実施例1と同様とした。
【0133】
(プロトン伝導度の評価)
実施例1と同様の方法で比較例5のプロトン伝導体を評価した。
【0134】
実施例1から5、および比較例1から5について測定されたプロトン伝導度を表1にまとめた。
【0135】
【0136】
実施例1から5におけるプロトン伝導体のプロトン伝導度は、それぞれ、0.012S/cm、0.013S/cm、0.013S/cm、0.019S/cm、0.010S/cmであった。また、比較例1ではプロトン伝導度は0.008S/cmであった。このことから、実施例1から5のプロトン伝導体では、プロトン伝導度が向上していることがわかった。
【0137】
また、比較例2に示すCuの添加量y=0.01の場合では、プロトン伝導度は0.007S/cmであった。したがって、Cuの添加量y=0.01の場合には、プロトン伝導度はCuが添加されていない場合よりも低下することになる。この結果は、非特許文献1の結果を再現している。Cuの添加量であるyの値を0.01よりも大きくすることで、プロトン伝導度が向上する効果が得られることが分かった。
【0138】
また、比較例3に示すCuの添加量y=0.20の場合では、プロトン伝導度は0.007S/cmであった。したがって、Cuの添加量y=0.20の場合も、プロトン伝導度はCuが添加されていない場合よりも低下することになる。Cuの添加量であるyの値を0.20よりも小さくすることで、プロトン伝導度が向上する効果が得られることが分かった。
【0139】
つまり、Cuの添加量yにはプロトン伝導度が向上する最適範囲があることが分かった。詳しくは、化学式BaaZr1-x-yYbxCuyO3-δにおいてyが0.01<y<0.20を充足するようにCuが添加された化合物は、プロトン伝導度が向上することが分かった。特に、実施例4に示すy=0.15の時に、プロトン伝導度は高くなることが分かった。
【0140】
比較例4および比較例5には、添加元素としてCuの代わりにNiを用いた。比較例4および比較例5では、Niの添加量は、それぞれy=0.075およびy=0.15であった。比較例4および比較例5のプロトン伝導度は、それぞれ、0.001S/cmおよび0.004S/cmであり、Niを添加していない場合(すなわち、比較例1)よりもプロトン伝導度は低くなった。y=0.075およびy=0.15というのは、Cuを添加した場合にはプロトン伝導度が向上する添加量の範囲であるが、Niの場合にはプロトン伝導度は向上しないことが分かった。したがって、プロトン伝導度が向上する効果はCuを添加した場合に特有であることが分かった。
【0141】
これらの現象についてメカニズムは明らかになっていないが、プロトン伝導度は伝導キャリアであるプロトン量と移動度の積で表されるため、両者のいずれか、あるいは両方が向上したことになる。プロトン量はすなわち結晶格子中への水の溶解量である。水の溶解は結晶中の酸素空孔を水分子が埋めることで進行するため、結晶格子が酸素空孔を多く有している方が有利である。Cuを添加すると、CuはZrの+4価よりも低い価数を取るため、結晶中の電荷のバランスを取るために酸素空孔量が増大する。したがって、Cuの添加量が多いほど酸素空孔が多くなると考えられる。したがって、理論的にはプロトン溶解に有利であり、プロトン溶解量は増える可能性がある。
【0142】
しかし、比較例2および比較例3ではCuを添加しているにも関わらずプロトン伝導度は低下している。あるいは比較例4および比較例5ではNiを添加しているが、NiもZrの+4価よりも低い価数を取るため酸素空孔量を増大させると考えられるにも関わらずプロトン伝導度は低下している。これらはプロトン伝導度のもう一つの要素である移動度が低下したと推察される。添加元素の量は元素種によって結晶格子の局所的な歪状態、あるいは電子状態が異なる。歪状態や電子状態が異なるとプロトンが局所的にトラップされる等の移動度への影響も変わってくるため、比較例2から比較例5ではプロトン伝導度が低下したと考えられる。実施例1から実施例5については、移動度の低下を抑制、あるいは移動度を向上させたと考えられる。
【0143】
なお、実施例1から5では、化学式BaaZr1-x-yYbxCuyO3-δにおいてx=0.2の場合についてCuを添加することによる効果が確認された。上記化学式においてxが0.1≦x≦0.4を充足し、かつyが0.01<y<0.20を充足するプロトン伝導体は、同様に、プロトン伝導度の向上の効果が得られる。
【0144】
<電気化学セル>
[実施例6]
(電気化学セルの作製)
図6を参照しながら、電解質膜およびそれを用いた電気化学セルの作製について説明する。
図6は、実施例2のプロトン伝導体を用いて実施例6の電気化学セルを作製する手順を示す。
【0145】
(1)電解質グリーンシートの作製(S100からS102参照)
まず、電解質セラミックススラリーが調製された。電解質セラミックスラリーに用いるプロトン伝導体には、実施例2のプロトン伝導体を用いた。ただし、
図5のフローチャートに示されたS20の金型成型、CIP、および焼成のプロセスの代わりに、空気中で1200℃10時間焼成した点が異なる。空気中で1200℃10時間焼成することでプロトン伝導体の粉末を得た。
【0146】
作製したプロトン伝導体の粉末(BaZr0.75Yb0.20Cu0.05O3-δ)を含め、以下の材料が混合された。
【0147】
実施例2のプロトン伝導体(BaZr0.75Yb0.20Cu0.05O3-δ) 50g
ポリビニルブチラール(積水化学工業株式会社製) 5g
ブチルベンジルフタレート(関東化学株式会社製) 1.25g
混合溶剤 40g
【0148】
混合溶剤は、酢酸ブチル(20g、関東化学株式会社製)および1-ブタノール(20g、関東化学株式会社製)から構成されていた。このようにして、電解質セラミックスラリーが調製された。
【0149】
次に、約50μmの厚さを有するポリエチレンテレフタレートフィルムからなる支持シート上に、ドクターブレード法により、電解質セラミックススラリーからなる膜を形成した。得られたスラリーからなる膜を80℃の温度で加熱して、溶媒を蒸発させた。このようにして、電解質グリーンシートが作製された。電解質グリーンシートは、約21μmの厚みを有していた。
【0150】
(2)電極グリーンシートの作製(S200からS202参照)
電極セラミックススラリーは、以下の材料を混合することにより調製された。
【0151】
電極に用いるプロトン伝導体には、比較例1のプロトン伝導体(BaZr
0.80Yb
0.20O
3-δ)を用いた。ただし、
図5のフローチャートに示されたS20の金型成型、CIP、および焼成のプロセスの代わりに、空気中で1200℃10時間焼成した点が異なる。空気中で1200℃10時間焼成することでプロトン伝導体の粉末を得た。
【0152】
比較例1のプロトン伝導体BaZr0.80Yb0.20O3-δ) 10g
ポリビニルブチラール(積水化学工業株式会社製) 5g
ブチルベンジルフタレート(関東化学株式会社製) 1.25g
NiO(住友金属鉱山株式会社製)40g
混合溶剤 40g
【0153】
混合溶剤は、酢酸ブチル(20g、関東化学株式会社製)および1-ブタノール(20g、関東化学株式会社製)から構成されていた。
【0154】
次に、約50μmの厚さを有するポリエチレンテレフタレートフィルムからなる支持シート上に、ドクターブレード法により、電極セラミックススラリーからなる膜を形成した。スラリーからなる膜は、約30μmの厚みを有していた。得られたスラリーからなる膜を、80℃の温度で加熱した。このようにして、電極グリーンシートが作製された。
【0155】
(3)シートの積層(S300からS303参照)
電解質グリーンシートをカットして、カットされた1枚の電解質グリーンシートを得た。次いで、電解質グリーンシートからポリエチレンテレフタレートフィルムをはがした。カットされた1枚の電解質グリーンシートは、140mm×140mmのサイズを有していた。電極グリーンシートをカットして、カットされた1枚の電極グリーンシートを得た。カットされた1枚の電極グリーンシートは、140mm×140mmのサイズを有していた。
【0156】
カットされた複数の電極グリーンシートが積層され、積層体を得た。その後、積層体をホットプレスした。ホットプレスは、85℃、13MPaの条件下、実施された。このようにして、第1電極が作製された。
【0157】
さらに、第1電極の1つの主面上に1枚のカットされた電解質グリーンシートを積層して、積層体を得た。そして、得られた積層体をホットプレスした。ホットプレスは、80℃、13MPaの条件下、実施された。このようにして成形体を得た。
【0158】
得られた成形体を、さらに50MPaの圧力でプレス(三庄インダストリー株式会社製)して、積層体が得られた。厚みはほとんど変化せず、約700μmであった。
【0159】
積層体をφ25mmの大きさにカットした。
【0160】
最後に、カットされた積層体を1475℃で2時間、大気雰囲気下で、焼成した。このようにして、膜電極接合体が作製された。膜電極接合体は、電解質膜と第1電極との接合体であった。
【0161】
(4)第2電極の形成(S304およびS305参照)
さらに、得られた膜電極接合体に、第2電極が設けられた。
【0162】
LSCペースト(ノリタケカンパニーリミテド製、組成La0.6Sr0.4CoO3-δ)を、電解質膜が露出している膜電極接合体の1つの主面に、スクリーン印刷法で塗布した。塗布されたLSCのペーストは、10mmの直径を有していた。このようにして、セルの前駆体を得た。
【0163】
そして、セルの前駆体を950℃で2時間、大気雰囲気下で、焼成した。このようにして、第1電極、電解質膜、および第2電極を具備する電気化学セルが作製された。第1電極は、燃料極として機能する。第2電極は、空気極として機能する。
【0164】
(電気化学セルの評価)
上述の方法で得た電気化学セルに、水素と空気を供給し、燃料電池の発電試験を行った。
【0165】
燃料電池ホルダー(株式会社チノー製)に作製された電気化学セルをセットし、電気炉に設置した。燃料電池ホルダーの温度が700℃になるまで昇温し、700℃で燃料極(NiO-BaZr0.80Yb0.20O3-δ)に20℃で加湿した水素ガスを、空気極に20℃で加湿した空気ガスを、それぞれ100cc/minで供給し、3時間燃料極の還元を行った。その後、700℃、600℃、500℃、400℃、300℃の順に電気炉温度を設定し、各温度安定を確認した上でポテンショガルバノスタット(MODULAB XM ECS、AMETEC製)を用いて電気化学評価を行った。
【0166】
電気化学評価は、燃料極と空気極の電圧が、開回路電圧から0.4Vまで4mV/secで電位掃引を行い、電流-電圧曲線と電流-出力曲線を取得した。
【0167】
図7には、電気化学評価で得られた電流-電圧曲線と電流-出力曲線を示す。得られた最大出力は700℃、600℃、500℃、400℃、300℃でそれぞれ0.83W/cm
2、0.62W/cm
2、0.37W/cm
2、0.14W/cm
2、0.02W/cm
2であり、本開示のプロトン伝導体を電解質に用いることで電気化学セルとして電流を取り出せることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0168】
本開示によるプロトン伝導体は、水素生成システムまたは燃料電池システムの電気化学セルを用いたシステムに適している。本開示に係る膜電極接合体は、水素純化装置、水素圧縮装置などの電気化学的水素ポンプにも利用され得る。
【符号の説明】
【0169】
10 電解質膜
20 膜電極接合体
21 電解質膜
22 電極
30 電気化学セル
31 第1電極
32 第2電極
33 電解質膜
40 燃料電池スタック
1000 燃料電池システム
1014 筐体
1021 酸化剤ガス供給器
1022 原料供給器
1023 原料ガス供給経路
1024 酸化剤ガス供給経路
【要約】
本開示のプロトン伝導体は、化学式BaaZr1-x-yYbxCuyO3-δで表される化合物を含む。ここで、上記化学式において、0.95≦a≦1.05、0.1≦x≦0.4、0.01<y<0.20、かつ0<δ≦0.65が充足される。本開示の電解質膜10は、上記本開示のプロトン伝導体を含む。