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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】密閉型電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/105 20210101AFI20241010BHJP
   H01M 50/119 20210101ALI20241010BHJP
   H01M 50/121 20210101ALI20241010BHJP
   H01M 50/129 20210101ALI20241010BHJP
   H01M 50/133 20210101ALI20241010BHJP
   H01M 50/531 20210101ALI20241010BHJP
   H01M 50/55 20210101ALI20241010BHJP
   H01M 50/557 20210101ALI20241010BHJP
   H01M 10/04 20060101ALI20241010BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20241010BHJP
【FI】
H01M50/105
H01M50/119
H01M50/121
H01M50/129
H01M50/133
H01M50/531
H01M50/55 301
H01M50/557
H01M10/04 Z
H01M10/058
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020106749
(22)【出願日】2020-06-22
(65)【公開番号】P2022002183
(43)【公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】各務 僚
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-174680(JP,A)
【文献】特開2014-238912(JP,A)
【文献】特開2016-149349(JP,A)
【文献】特表2017-506412(JP,A)
【文献】特表2015-508223(JP,A)
【文献】米国特許第10388918(US,B2)
【文献】米国特許出願公開第2015/0340733(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0047685(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/10-50/198
H01M 50/50-50/598
H01M 10/00-10/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極および負極を備え、長方形状の幅広面を有する電極体と、
前記電極体を収容する、ラミネートフィルムからなる外装体と、
前記正極および前記負極に備えられている外部接続用の正極集電端子および負極集電端子であって、少なくとも一部が前記外装体の外部に配置されている正負極集電端子と、
を備える密閉型電池であって、
前記外装体は、前記電極体を収容する収容部、および、該外装体の内部と外部とを遮断するために前記収容部の周囲に形成されたシール部を備えており、
前記収容部は、前記電極体の前記幅広面と対向する平坦面と、前記シール部から前記平坦面に向かって立ち上がるように形成された、前記幅広面の4辺にそれぞれ対応する4つの側壁を有しており、前記4つの側壁のうちの前記幅広面の長辺に対応する一組の前記側壁は、前記電極体に向かって、前記外装体の内方向に、該電極体に接触するまで湾曲している、密閉型電池。
【請求項2】
前記外装体の周縁は、前記電極体を収容した状態で、前記幅広面の長辺側に対応する2つの長辺部と、前記幅広面の短辺側に対応する2つの短辺部とを有しており、
ここで、前記短辺部の長さに対する前記長辺部の長さの比は2以上である、請求項1に記載の密閉型電池。
【請求項3】
前記外装体の周縁は、前記電極体を収容した状態で、前記幅広面の長辺側に対応する2つの長辺部と、前記幅広面の短辺側に対応する2つの短辺部とを有しており、
ここで、前記長辺部における前記シール部の幅に対する前記長辺部の長さの比は15以上である、請求項1または2に記載の密閉型電池。
【請求項4】
前記正極集電端子および前記負極集電端子は、前記電極体の前記長方形幅広面の短辺側にいずれも配置されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の密閉型電池。
【請求項5】
前記ラミネートフィルムは金属層と樹脂層とを有する積層構造体であり、該金属層の厚みは100μm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の密閉型電池。
【請求項6】
前記収容部の前記平坦面における2つの長辺および2つの短辺において、該短辺の長さに対する、前記2つの長辺のうちの一の前記長辺における湾曲の頂点と、他の前記長辺における湾曲の頂点との間の距離の比は、0.9以上0.99以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の密閉型電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラミネートフィルムからなる外装体を備える密閉型電池に関する。詳しくは該外装体に形成された、電極体収容部の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の電池に関する研究開発が精力的に行われている。なかでも、リチウムイオン二次電池等の二次電池は、車両搭載用電源あるいはパソコンや携帯端末等の電源として重要性が高まっている。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウムイオン二次電池は、車両搭載用高出力電源として好ましく用いられている。
この種の二次電池は、典型的には、正極と負極とを備える発電要素たる電極体が、外装体の内部に収容されて密閉された、密閉型電池である。
【0003】
近年では、電池の小型化への要求が高まっており、ラミネートフィルムからなる外装体を備える密閉型電池の開発が精力的に行われている。ラミネートフィルムからなる外装体を備える密閉型電池では、典型的には、電極体は、ラミネートフィルムとラミネートフィルムとの間に挟み込まれ、電極体の周縁部におけるラミネートフィルム同士がシールされることによって、外装体の内部に収容されている。
外装体の内部に電極体を配置することに関して、特許文献1,2には、ラミネートフィルムにあらかじめエンボス加工を施しておき、該エンボス加工部の内部空間に電極体を配置することが記載されている。このように、電極体を収容する収容部をラミネートフィルムに設けることによって、外装体の内部において、電極体を適当な位置に配置することができる。
一方、密閉型電池が、電解質として固体電解質を備える、いわゆる全固体電池である場合、一般的には、ラミネートフィルムとラミネートフィルムとの間に電極体を挟み込んだ後、外装体の内部を減圧した状態でシールする。これによって、外装体の内部に電極体が保持されることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-285506号公報
【文献】国際公開第2015/151580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、あらかじめラミネートフィルムに形成された収容部の内部に電極体を配置する場合、ラミネートフィルム(即ち、収容部)と電極体との間が離れていると、電極体は、収容部の内部において移動することがある。電極体が収容部の内部で移動することは、電極体の縁部の変形や破損の要因となり得、短絡の発生に繋がるため好ましくない。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、上記のような収容部を有する外装体を備える密閉型電池において、外装体の内部における電極体の移動を抑制することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、ラミネート外装体の収容部の構造に着目した。そして、かかる収容部の一部を、電極体に向かって湾曲させることによって、収容部の内部における電極体の移動を抑制し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
ここで開示される技術によると、正極および負極を備え、長方形状の幅広面を有する電極体と、上記電極体を収容する、ラミネートフィルムからなる外装体と、上記正極および上記負極に備えられている外部接続用の正極集電端子および負極集電端子であって、少なくとも一部が上記外装体の外部に配置されている正負極集電端子と、を備える密閉型電池が提供される。
上記外装体は、上記電極体を収容する収容部、および、該外装体の内部と外部とを遮断するために上記収容部の周囲に形成されたシール部を備えている。
上記収容部は、上記電極体の上記幅広面と対向する平坦面と、上記シール部から上記平坦面に向かって立ち上がるように形成された、上記幅広面の4辺にそれぞれ対応する4つの側壁を有している。上記4つの側壁のうちの上記幅広面の長辺に対応する一組の上記側壁は、上記電極体に向かって、上記外装体の内方向に、該電極体に近接するまで湾曲している。
かかる構成によると、収容部の側壁が湾曲して電極体に近接することによって、外装体の内部における電極体の移動が抑制される。そのため、電極体の移動にともなう電極体の変形や破損を防ぐことができる。
【0009】
上記外装体の周縁は、上記電極体を収容した状態で、上記幅広面の長辺側に対応する2つの長辺部と、上記幅広面の短辺側に対応する2つの短辺部とを有している。
好ましくは、上記短辺部の長さに対する上記長辺部の長さの比は2以上である。
かかる構成によると、上記電極体の移動を抑制する効果に加えて、端子構造の変形防止効果が実現され得る。
【0010】
ここで開示される密閉型電池の一態様では、上記長辺部における上記シール部の幅に対する上記長辺部の長さの比は15以上である。
ここで開示される技術によると、かかる寸法関係を有する外装体を備える密閉型電池においても、上記電極体の移動を抑制する効果に加えて、しわや歪みの発生を防止する効果が好適に発揮され得る。
【0011】
また、他の一態様では、上記正極集電端子および上記負極集電端子は、上記電極体の上記長方形幅広面の短辺側にいずれも配置されている。
かかる構成によると、上記電極体の移動を抑制する効果に加えて、端子構造の変形防止効果がより好適に実現され得る。
【0012】
また、他の一態様では、上記ラミネートフィルムは金属層と樹脂層とを有する積層構造体であり、該金属層の厚みは100μm以下である。
ここで開示される技術によると、かかるラミネートフィルムからなる外装体を備える密閉型電池においても、上記電極体の移動を抑制する効果に加えて、しわや歪みの発生を防止する効果と、端子構造の変形を防止する効果とが好適に発揮され得る。
【0013】
上記収容部の上記平坦面における2つの長辺および2つの短辺において、該短辺の長さに対する、上記2つの長辺のうちの一の上記長辺における湾曲の頂点と、他の上記長辺における湾曲の頂点との間の距離の比は、0.9以上0.99以下である。
かかる構成の密閉型電池では、収容部に収容されている電極体のサイズと比較して、収容部の内部空間が適切に設けられており、上記比が0.9以上0.99以下の範囲内において、電極体の移動防止効果とともに、端子構造の変形防止効果としわや歪みの発生防止効果とを高いレベルで実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態にかかる密閉型電池の構造を模式的に示す斜視図である。
図2】一実施形態にかかる密閉型電池の構造を模式的に示す平面図である。
図3】一実施形態にかかる密閉型電池の製造方法における一工程を模式的に示す平面図である。
図4】一実施形態にかかる密閉型電池の製造方法における一工程を模式的に示す平面図である。
図5】一実施形態にかかる密閉型電池の製造方法における一工程を模式的に示す平面図である。
図6】一実施形態にかかる密閉型電池の製造方法における一工程を模式的に示す平面図である。
図7】外装体の長辺部におけるシール部の幅W1と長辺部の長さL2との比(L2/W1)と、減圧工程において該長辺部に発生し得る応力の大きさとの関係を示すグラフである。
図8】外装体の短辺長さL1と長辺長さL2との比(L2/L1)と、減圧工程において外装体の端子構造に発生し得る応力の大きさとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を説明する。なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は実際の寸法関係を反映するものではない。また、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、電極体の詳細な構造や材料等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本明細書において数値範囲を示す「A~B」の表記は、A以上B以下を意味し、Aを上回るものでBを下回るものを包含する。
本明細書において、「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な蓄電デバイス一般をいい、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等のいわゆる蓄電池(即ち、化学電池)の他、電気二重層キャパシタ等のキャパシタ(即ち、物理電池)を包含する。
以下、ここで開示される技術の適用対象たる密閉型電池について、積層電極体を備える全固体リチウムイオン二次電池を例に挙げて詳細に説明する。
【0016】
図1,2に示すように、密閉型電池100は、おおまかにいって、電極体1と、外装体2と、正極集電端子3と、負極集電端子4とを備えている。電極体1は、周縁部が熱溶着(ヒートシール)された状態の外装体2の内部に収容されている。正極集電端子3および負極集電端子4は、その一部が外装体2の外部に配置されている。
電極体1は、扁平な2つの長方形状の幅広面を有しており、底面としてかかる2つの幅広面を有し、4つの側面を有する、直方体形状である。
【0017】
詳細な図示は省略するが、電極体1は、正極と負極と固体電解質層とを備える。
本実施形態における電極体1は、積層電極体であり、正極として、矩形シート状の正極集電体と、該正極集電体の表面(片面もしくは両面)に塗工された正極合材層とを有する正極シートを備えている。電極体1は、負極として、矩形シート状の負極集電体と、該負極集電体の表面(片面もしくは両面)に塗工された負極合材層とを有する負極シートを備えている。正極シートおよび負極シートは、いずれもシート長辺方向(即ち、図中の電極体1の幅広面の長辺方向Y)における一の端部に、合材層が形成されない集電体露出部を有している。かかる集電体露出部はタブ状に形成され、シートの短辺から外方に突出している。正極シートおよび負極シートは、固体電解質層を介在させつつ交互に積層されて、電極体1が形成されている。電極体1の中心を含む領域は、電極合材層が積層されたコア部となっている。シート長辺方向の一の端部では、集電体露出部(集電体)が積層されており、集電体露出部がシート積層方向に集められて、外部接続用の集電端子接合部が形成されている。
【0018】
正極集電端子接合部には正極集電端子3が接合され、負極集電端子接合部には負極集電端子4が接合されている。そして、図示されるように、正極集電端子3および負極集電端子4は、いずれも、電極体1の幅広面11の短辺19側に配置されて、外装体2の内部から外部に引き出されている。正極集電端子3および負極集電端子4とは、熱溶着フィルム5,6でそれぞれ被覆されている。熱溶着フィルム5,6は、集電端子と外装体2との間に挟み込まれている。
【0019】
電極体1は、上記のように集電端子接合部が形成され、ここに同極の集電端子が接合されているものであればよく、その詳細な構造は、特に限定されない。電極体1を構成する部材および材料(例えば集電箔、合材層、および、固体電解質層等)としては、この種のリチウムイオン二次電池に典型的に使用されるものを特に制限なく使用することができ、本発明を特徴づけるものではないため、詳細な説明は省略する。
正極集電端子3および負極集電端子4は、電極体1と外部機器とを電気的に接続する導電部材である。特に限定するものではないが、かかる集電端子は、例えばアルミニウム、銅、ニッケル等の導電性材料からなる。
熱溶着フィルム5,6は、集電端子と外装体2とを好適に溶着するための部材である。熱溶着フィルム5,6の材料は、外装体2(具体的には、後述する第1樹脂層)と同程度の温度で溶融し、かつ、樹脂材料と金属材料の両方に対して好適な溶着性を発揮する樹脂材料であり得る。特に限定するものではないが、熱溶着フィルム5,6は、例えば変性ポリプロピレンや、ポリオレフィン層を含む多層構造のフィルムであり得る。
【0020】
外装体2はラミネートフィルムからなる電池ケースであり、図示されるように、1枚のラミネートフィルムを折り曲げて、周縁においてラミネートフィルム同士を溶着することによって、形成されている。外装体2は、その内部に電極体1を収容している。
図示されるように、外装体2は矩形(図中では長方形)であり、2つの長辺部22,24と、2つの短辺部23,25とを有している。2つの長辺部22,24は、電極体1の長辺16,18に対応している。2つの短辺部23,25は、電極体1の短辺17,19に対応している。
【0021】
また、外装体2には、電極体1を収容するための収容部30と、収容部30の周囲にシール部41,42,43とが形成されている。かかるシール部によって、外装体2の内部と外部とが遮断されている。
収容部30は、平坦面31と、4つの側壁32、33、34、35を有している。平坦面31は、電極体1の幅広面11と対向している。側壁32、33、34、35は、電極体1の周りを囲むように、シール部40から平坦面31に向かって立ち上がるように形成されている。
図1に示されるように、側壁33と側壁35とは対向している。電極体1を内部に収容した状態では、側壁33および側壁35と、電極体1の幅広面11の短辺側の側面13および側面15とが、それぞれ対向している。
また、側壁32と側壁34とは対向している。電極体1を内部に収容した状態では、側壁32および側壁34と、電極体1の幅広面11の長辺側の側面12および側面14とは、それぞれ対向している。側壁32および側壁34は、電極体1に向かって、外装体2の内方向に湾曲しており、側面12および側面14に近接している。側壁32および側壁34は、電極体1(即ち、側面12および側面14)に接触していてもよく、電極体1の移動を抑制する観点からは、接触していることが好ましい。
【0022】
ラミネートフィルムからなる外装体は可撓性が高いことから、電池製造時の工程において不具合が生じることがある。例えば全固体電池を製造する場合、外装体の内部を減圧する工程では、外装体の周縁部に応力が生じ、周縁部が湾曲する虞がある。外装体の周縁部が湾曲することは、溶着時にしわや歪みが発生し、溶着不良を起こして密閉型電池の密閉性を低下させる要因、あるいはシール部の折り曲げ加工性を低下させる要因となるため、好ましくない。また、集電端子が配置されている部位が湾曲して端子構造が変形すると、電極体の破損や短絡の要因にもなり得るため、好ましくない。
【0023】
端子構造の変形を防止する観点からは、外装体2の短辺部23,25の長さL1に対する長辺部22,24の長さL2の比(L2/L1)は、1よりも大きく、より好ましくは、比(L2/L1)は1.5以上であり、さらに好ましくは2以上である。比(L2/L1)は、典型的には、10以下、例えば5以下、3以下であり得る。
図2において、L1は外装体2において集電端子が配置されている辺の長さであり、L2は外装体2において集電端子が配置されていない辺の長さである。即ち、上記比(L2/L1)は、集電端子が配置されている辺の長さL1と集電端子が配置されていない辺の長さL2との比ということもできる。
下記試験例1に記載されるように、比(L2/L1)が上記範囲内にあると、後述する減圧工程において、外装体2において集電端子が配置された周縁部(図2では、外装体2の短辺部25)に発生し得る応力が小さくなるため、端子構造の変形を抑制することができる。
【0024】
下記試験例2に記載されるように、外装体2の長辺部22,24の長さL2が、長辺部22,24におけるシール部41,43の幅W1(即ち、外装体2の短辺方向Xにおける長さ)に対して大きいほど、後述する減圧工程において、かかる長辺部に応力が発生しやすく、しわや歪み等が発生しやすい。ラミネートフィルムは剛性が低い材料であるため、変形しやすく、後述する減圧工程において収容部に変形が生じると、これにともなってシール部に無理な変形が生じ得る。特に、長辺部22,24におけるシール部41,43の幅W1に対する長辺部22,24の長さL2の比(L2/W1)が15以上である密閉型電池では、減圧工程によるしわや歪み等が発生しやすくなる。このような密閉型電池100に対して、ここで開示される技術を適用することが好ましい。
【0025】
収容部30の平坦面31における2つの長辺36,38および短辺37,39について、短辺の長さL3に対する、長辺36の湾曲頂点36aと長辺38の湾曲頂点38aとの間の距離L4の比(L4/L3)は、0.9以上0.99以下であることが好ましい。比(L4/L3)が上記範囲に含まれることによって、外装体2の内部における電極体1の移動を好適に抑制することができる。
【0026】
図示は省略するが、外装体2は、典型的には、第1樹脂層、金属層、および第2樹脂層を備えており、かかる層は、外装体2の内部から外部に向かってこの順に積層されている。
第1樹脂層は、外装体2の最内層であり、電極体1に最も近い層である。第1樹脂層は、ラミネートフィルム同士の溶着を可能とするための層であり、典型的には、熱可塑性樹脂からなる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル;等の結晶性樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等;の非結晶性樹脂が挙げられる。
【0027】
金属層は、外装体2に強度を付与する層である。また、金属層は、外装体2の内部と外部との間の気体の移動を遮断する機能を有し得る。金属層を構成する材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレス等が挙げられる。
金属層の厚みを調整すると、外装体2の剛性を調節することができる。特に限定するものではないが、かかる金属層の厚みは、典型的には0.01μm以上200μm以下である。ここで開示される技術の効果は、厚みが0.01μm以上100μm以下である金属層を備え、比較的剛性が低いラミネートフィルムを用いる場合であっても、好ましく実現され得る。
【0028】
第2樹脂層は、金属層よりも外表面側に位置されており、外装体2の最外層となってもよい。第2樹脂層は、例えば外装体2の耐久性を向上することができる。かかる第2樹脂層の構成材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド等が挙げられる。
【0029】
なお、外装体2を構成する層の数は特に限定されず、3以上、4以上(例えば、4以上10以下)であってもよい。また、層と層との間に接着剤層を設けてもよく、最外層として印刷層等を設けてもよい。
【0030】
ここで開示される密閉型電池を製造する方法は、おおまかにいって、電極体準備工程、集電端子取り付け工程、配置工程、第1加熱工程、減圧工程、第2加熱工程、および切断工程を包含する(図3~6参照)。
まず初めに、電極体1を構築する(電極体準備工程)。電極体1の構築方法は従来と同様でよく、本発明を特徴づけるものではないため、詳細な説明は省略する。
次いで、電極体1の集電端子接合部に、正極集電端子3および負極集電端子4を取り付ける(端子取り付け工程)。また、この際、熱溶着フィルム5,6を正極集電端子3および負極集電端子4に配置する。なお、集電端子接合部への集電端子の接合手段としては、例えば超音波溶接、レーザー溶接、抵抗溶接等の従来公知の接合手段を特に制限なく使用することができる。
【0031】
次いで、図3に示されるように、集電端子が取り付けられた電極体1とラミネートフィルム7とを所定の部位に配置する(配置工程)。具体的には、まず、例えばエンボス加工等によって、あらかじめ収容部71が形成されたラミネートフィルム7を用意する。次いで、電極体1を収容部71の内部に配置し、ラミネートフィルム7を折り曲げて電極体1を包み込む。このとき、電極体1を、正極集電端子3および負極集電端子4を、その少なくとも一部がラミネートフィルムの外部に引き出された状態となるように配置する。また、熱溶着フィルム5,6を、その少なくとも一部がラミネートフィルムの外部に引き出された状態となるように配置する。
なお、収容部71は、ラミネートフィルム7を上記のように電極体1を包み込んで配置した際に、電極体1の両面側に配置されるように形成されていてよい。また、収容部71は、電極体1の片面側(図3における幅広面11a側)のみに配置されるように形成されてもよい。即ち、この場合、幅広面11a側とは異なる幅広面側に配置されたラミネートフィルム7はフラットであり、ここに収容部は形成されていない。
【0032】
次いで、図4に示されるように、ラミネートフィルム7における電極体1の幅広面11aの長辺側の縁部73と、集電端子3,4および熱溶着フィルム5,6が配置された短辺側の縁部72において、重ね合わせたラミネートフィルム7同士を熱溶着する(第1加熱工程)。電極体1の挟み込み方向において、縁部72,73を両側から加熱封止装置(「ヒートシーラー」ともいう。)の加熱部で挟み込み、該縁部72,73に所定の熱量を加えることによって、ラミネートフィルム7同士を熱溶着する。縁部72,73を熱溶着する際の順番は、特に限定されないが、集電端子3,4および熱溶着フィルム5,6の固定の観点から、縁部72、次いで縁部73を熱溶着することが好ましい。
この工程では、縁部72とは異なる、幅広面11aの長辺側の他の縁部75においてはラミネートフィルム7同士を熱溶着せず、開放しておく。縁部72とは異なる、幅広面11aの短辺側の他の縁部74は、ラミネートフィルム7の折り曲げ部であるため、熱溶着を行う必要はない。
【0033】
次いで、上記熱溶着によって袋状となったラミネートフィルム7の内部を減圧して、真空状態(数十~99kPa程度)にする(減圧工程)。これによって、図5に示されるように、収容部71の長辺側(即ち、幅広面11aの長辺側)の側壁71bと側壁71dとは、電極体1に向かって、電極体1に近接するまで湾曲する。ラミネートフィルム7における電極体1の幅広面11aの長辺側の縁部73および縁部75は、内方に向かって湾曲することもある。一方、本実施形態では、集電端子3,4が配置されている縁部72に形成されたシール部は、図2における短辺部25におけるシール部42に相当する。上記のとおり、端子構造に変形が起こることは好ましくないため、収容部71の短辺側の側壁71aと側壁71cとは、湾曲しない程度に減圧状態を調整する。また、密閉型電池の密閉性やシール部の折り曲げ加工性の観点から、上記のとおり側壁71bと側壁71dとは湾曲しても、かかる側壁の周りにしわや歪みが発生しない程度に減圧状態を調整する。
さらに、上記第1加熱工程で熱溶着しなかった、縁部75において、ラミネートフィルム7同士を熱溶着する。これによって、ラミネートフィルム7に開口部はなくなり、電極体1を内部に収容した状態で、ラミネートフィルム7が封止されることとなる。
【0034】
次いで、図6に示されるように、収容部71の長辺側の周囲において、重ね合わせたラミネートフィルム7同士を熱溶着する(第2加熱工程)。電極体1の挟み込み方向において、ラミネートフィルム7同士を両側からヒートシーラーの加熱部で挟み込み、所定の熱量を加えることによって、ラミネートフィルム7同士を熱溶着し、シール部76およびシール部77を形成する。シール部76およびシール部77は、図示されるように直線であり、湾曲していない。即ち、シール部76およびシール部77には、しわや歪みが形成していない。
次いで、シール部76およびシール部77に沿ってラミネートフィルム7を切断する(切断工程)。これによって、密閉型電池が作製される。なお、シール部76およびシール部77は、図2の密閉型電池100における、シール部43およびシール部41に相当する。
【0035】
ここで開示される製造方法によって、外装体の内部における電極体の移動を抑制することができる。また、当該方法は、電極体の移動を抑制する効果に加えて、外装体の短辺部であって集電端子が配置されている短辺部における変形を抑制する効果と、外装体の長辺部におけるしわや歪みの発生を防止する効果を実現することができる。そのため、特に限定するものではないが、ここで開示される製造方法は、上記のような寸法関係を有する外装体を備える密閉型電池の製造において、特に好ましく使用することができる。また、特に限定するものではないが、ここで開示される製造方法は、外装体として、上記のような比較的剛性が低いラミネートフィルムを使用する場合において、特に好ましく使用することができる。
【0036】
<変形例1>
上記製造方法は、減圧工程を実施することによって、収容部30の長辺側の側壁32および側壁34(図1参照)を湾曲させているが、これに限定されない。例えば、ラミネートフィルムに収容部を形成する際に、長辺側の側壁が湾曲した収容部を形成しておき、かかるラミネートフィルムを外装体として使用してもよい。この場合、上記製造方法の減圧工程は必須ではない。減圧工程を実施しない場合は、当該製造方法によって、電解質として電解液を備える密閉型電池を製造することができる。
【0037】
<変形例2>
また、減圧工程における減圧状態を適宜調節することによって、上記実施形態における縁部73および縁部75の熱溶着を省略することができる(図4~6参照)。即ち、電極体1をラミネートフィルム7で包み込み、ラミネートフィルム7における収容部71の短辺側の縁部72にシール部を形成し、収容部71の側壁71bに沿ってシール部76を形成する。次いで、袋状となったラミネートフィルム7の内部を減圧する。ここで、ラミネートフィルム7の短辺側の縁部72および縁部74と、シール部76とが湾曲しない程度に減圧状態を調整し、収容部71の長辺側の側壁71bおよび側壁71dを電極体1に向かって湾曲させる。そして、収容部71の側壁71dに沿ってシール部77を形成してラミネートフィルム7を封止する。
【0038】
<変形例3>
上記実施形態は、1枚のラミネートフィルムを折り曲げて電極体を包み込み、3辺にシール部を形成しているが、これに限定されず、2枚のラミネートフィルムを使用してもよい。かかる変形例の第1加熱工程では、ラミネートフィルム7の短辺側の縁部74(図4参照)において、シール部を形成する。
【0039】
<試験例>
以下に記載される試験例は、ここで開示される技術の着想に際して本発明者が行ったものである。
<<試験例1:外装体の長辺部の変形に関する検討>>
外装体の長辺部におけるシール部の幅と長辺部の長さとの比と、減圧工程において、かかる長辺部に発生し得る応力の大きさの相関関係を検討した。具体的には、外装体が金属層としてアルミニウム層を備え、図2に示される外装体2の長辺部22,24におけるシール部41,43の幅W1と該長辺部の長さL2との比(L2/W1)を変更しつつ密閉型電池100を製造することを想定して、本試験を行った。本試験では、まず、長方形状の幅広面を有する電極体1を従来の方法で作製した。電極体1をラミネートフィルムからなる外装体2の収容部30に収容した。上述した方法によって外装体2の内部が真空状態とされて、シール部41,42,43が形成された、密閉型電池100を作製した。ここで、外装体2の長辺部22,24におけるシール部41,43の幅W1が異なる密閉型電池100をそれぞれ用意した。即ち、外装体2の長辺部22,24におけるシール部41,43の幅W1と該長辺部の長さL2との比(L2/W1)が異なる密閉型電池100をそれぞれ用意した。そして、各々の密閉型電池100について、シール部41,43における湾曲度合い(該密閉型電池の内側へ撓んだ度合い)に基づいて、かかるシール部に発生した応力σを計算した。
試験例1の結果を図7に示す。なお、図7のX軸「L2/W1」は比(L2/W1)を示し、Y軸「応力[MPa]」は、外装体の長辺部において発生し得る応力の大きさを示している。また、図中の直線Aはアルミニウムの耐力を示しており、上記応力がAを下回る場合には長辺部は変形せず、A以上となる場合には長辺部は変形し得ることを示している。
【0040】
図示されるように、比(L2/W1)が大きくなるほど、外装体の長辺部に発生する応力は大きくなることがわかった。比(L2/W1)が15よりも大きくなると、該応力がA以上となることから、長さL2および幅W1について、上記のような寸法関係を有する外装体を備える密閉型電池100は、減圧工程において、長辺部にしわや歪みが発生しやすいことがわかった。そのため、かかる密閉型電池100は、ここで開示される技術の適用対象として好適であることがわかった。
【0041】
<<試験例2:集電端子の配置に関する検討>>
外装体の寸法関係(縦横比)と、減圧工程において、端子構造に発生し得る応力の大きさの相関関係を検討した。具体的には、図2に示される長さL1と長さL2の比(L2/L1)を変更しつつ密閉型電池100を製造することを想定して、本試験を行った。即ち、本試験では、外装体2について、長さL1は集電端子3,4が配置されている辺の長さを表し(図2においては短辺部23,25の長さ)、長さL2は集電端子3,4が配置されていない辺の長さ(図2においては長辺部22,24の長さ)を表している。また、本試験の具体的な手順は、まず、長方形状の幅広面を有する電極体1を従来の方法で作製した。電極体1をラミネートフィルムからなる外装体2の収容部30に収容した。上述した方法によって外装体2の内部が真空状態とされて、シール部41,42,43が形成された、密閉型電池100を作製した。ここで、集電端子3,4が配置されている辺の長さL1と集電端子3,4が配置されていない辺の長さL2との比(L2/L1)が異なる密閉型電池100をそれぞれ用意した。そして、各々の密閉型電池100について、集電端子3,4が配置された辺における湾曲度合い(該密閉型電池の内側へ撓んだ度合い)に基づいて、かかる辺に発生した応力σを計算した。
試験例2の結果を図8に示す。なお、図8のX軸「L2/L1」は比(L2/L1)を示し、Y軸「応力[MPa]」は、集電端子が配置された辺において発生し得る応力の大きさを示している。
【0042】
図示されるように、比(L2/L1)が大きくなるほど、端子構造に発生する応力は小さくなることがわかった。比(L2/L1)が1よりも小さい場合、即ち、集電端子が配置される辺の長さL1が、集電端子が配置されない辺の長さL2よりも長いと、減圧工程において発生する応力によって、端子構造が変形し得ることがわかった。一方、比(L2/L1)が1よりも大きい場合、即ち、集電端子が配置される辺の長さL1が、集電端子が配置されない辺の長さL2よりも短いと、減圧工程によって、当該部位には応力が発生しにくくなることがわかった。換言すれば、集電端子は外装体の短辺部に配置されることが好ましいことがわかった。また、端子構造の変形を防止する観点からは、比(L2/L1)は1.5以上であることが好ましく、2以上であることがさらに好ましいことがわかった。
【符号の説明】
【0043】
100 密閉型電池
1 電極体
2 外装体
3,4 集電端子
5,6 熱溶着フィルム
7 ラミネートフィルム
11 幅広面
12~15 側面
22,24 長辺部
23,25 短辺部
30 収容部
31 平坦面
32~35 側壁
36,38 長辺
36a,38a 湾曲頂点
37,39 短辺
41~43 シール部
71 収容部
71a~71d 側壁
72~75 縁部
76,77 シール部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8