(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/167 20060101AFI20241010BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20241010BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20241010BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20241010BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20241010BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20241010BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20241010BHJP
A61P 23/02 20060101ALI20241010BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241010BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241010BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
A61K31/167
A61K31/573
A61K9/06
A61K47/32
A61K47/02
A61K47/12
A61K47/14
A61P23/02
A61P29/00
A61P43/00 121
A61P1/02
(21)【出願番号】P 2020138319
(22)【出願日】2020-08-19
【審査請求日】2023-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2019160124
(32)【優先日】2019-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002819
【氏名又は名称】大正製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100129458
【氏名又は名称】梶田 剛
(72)【発明者】
【氏名】市川 浩之
(72)【発明者】
【氏名】田中 大之
【審査官】関 景輔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第09801837(US,B1)
【文献】米国特許第05112620(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0025440(US,A1)
【文献】特開2014-111590(JP,A)
【文献】特開2011-063566(JP,A)
【文献】特開2017-078065(JP,A)
【文献】特開平10-245329(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/167
A61K 31/573
A61K 9/06
A61K 47/32
A61K 47/02
A61K 47/12
A61K 47/14
A61P 23/02
A61P 29/00
A61P 43/00
A61P 1/02
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リドカイン、トリアムシノロンアセトニド、並びにカルボキシビニルポリマー、リン酸、クエン酸、酒石酸、マレイン酸、及びリンゴ酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸又はクエン酸トリエチルを含有する口腔用組成物。
【請求項2】
剤形が軟膏である、請求項1に記載の口腔用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リドカイン及びトリアムシノロンアセトニドを含有する口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔で生ずる疾患には口内炎、舌炎、口角炎、口唇炎、歯槽膿漏、歯肉炎などが挙げられ、これらの疾患の治療には、従来から半固形剤(軟膏剤、クリーム剤など)、液剤、フィルム製剤などが使用されてきた。特にアフタ性口内炎は、ステロイド成分トリアムシノロンアセトニドを配合した軟膏(非特許文献1)やパッチ剤(非特許文献2)が知られている。
塩基性局所麻酔成分の一つであるリドカインは、エピリド配合注歯科用カートリッジ1.8mL(非特許文献3)などに塩酸塩として配合され、主に歯科医院で局所麻酔剤として使用されている。一方、リドカインは塩基性薬物であり、口腔内への刺激などを考慮して、使用感を考慮しながら酸を適宜、配合可能な製剤設計が望まれる。
今までにリドカイン、トリアムシノロンアセトニド、及び酸を配合した製剤は知られておらず、これらを配合するとどのように影響するかについては全く報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】口内炎軟膏大正クイックケア 添付文書
【文献】口内炎パッチ大正クイックケア 添付文書
【文献】エピリド配合注歯科用カートリッジ1.8mL 添付文書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
口内炎に罹患して困ることは食事や歯磨きのときに痛む・しみることであり、局所麻酔成分リドカイン及びステロイド成分トリアムシノロンアセトニドを同時に配合した製剤が望まれる。
本発明の課題は、リドカイン、トリアムシノロンアセトニドを配合し、経時的な成分安定性を確保した優れた口腔用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、かかる課題を解決するために鋭意研究を行った結果、リドカイン及びトリアムシノロンアセトニドに特定の酸又はヒドロキシ酸エステルを配合すると、リドカイン及びトリアムシノロンアセトニドの安定性が優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)リドカイン、トリアムシノロンアセトニド、並びにカルボキシビニルポリマー、リン酸、クエン酸、酒石酸、マレイン酸、及びリンゴ酸からなる群から選択される少なくとも1種の酸又はクエン酸トリエチルを含有する口腔用組成物、
(2)剤形が軟膏である、(1)に記載の口腔用組成物、
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、リドカイン及びトリアムシノロンアセトニドの経時的な安定性を確保した優れた口腔用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の口腔用組成物は、医薬品、医薬部外品または化粧品に使用することができる。本発明の口腔用組成物が医薬品の場合、具体的には、例えば、口内炎、舌炎、口角炎、口唇炎、歯槽膿漏、または歯肉炎の予防及び/又は治療用に使用でき、このうち好ましくは口内炎、舌炎、口角炎または口唇炎の予防及び/又は治療用に使用でき、より好ましくはアフタ性口内炎の予防及び/又は治療用に使用することができる。
【0009】
本発明の口腔用組成物の剤形としては、例えば軟膏、ゲル、ペースト等が挙げられるが、好ましくは軟膏である。本発明の口腔用組成物の口腔への適用方法は特に制限されない。例えば、口腔粘膜用軟膏、口腔粘膜用ゲル剤、口腔粘膜用ペースト剤、歯肉用軟膏、歯肉用ゲル、歯肉用ペースト剤などがあげられ、好ましくは口腔粘膜用軟膏である。
【0010】
本発明において用いられるリドカインは、第十七改正日本薬局方に収載されており、その入手方法としては、市販品を用いてもよく、また公知の方法に基づき製造することも可能である。本発明において、リドカインの含有量は、口腔用組成物全体に対して好ましくは0.1~10質量%であり、より好ましくは0.2~2質量%であり、0.3~1質量%がさらにより好ましい。
【0011】
本発明において用いられるトリアムシノロンアセトニドは、第十七改正日本薬局方に収載されており、その入手方法としては、市販品を用いてもよく、また公知の方法に基づき製造することも可能である。本発明において、トリアムシノロンアセトニドの含有量は、口腔用組成物全体に対して好ましくは0.01~10質量%であり、より好ましくは0.02~5質量%であり、0.05~2質量%がさらにより好ましい。
【0012】
本発明において用いられる特定の酸とは、カルボキシビニルポリマー、リン酸、クエン酸、酒石酸、マレイン酸、及びリンゴ酸である。カルボキシビニルポリマーは、医薬品添加物規格2018や医薬品添加物事典2016に収載されており、容易に入手することができる。本発明において、カルボキシビニルポリマーの含有量は、口腔用組成物全体に対して好ましくは0.2~10質量%である。
【0013】
本発明において用いられるリン酸は、医薬品添加物規格2018や医薬品添加物事典2016に収載されており、容易に入手することができる。本発明において、リン酸の含有量は、口腔用組成物全体に対して好ましくは0.1~10質量%であり、より好ましくは0.2~2質量%であり、0.3~1質量%がさらにより好ましい。
【0014】
本発明において用いられるクエン酸は、クエン酸水和物、無水クエン酸として日本薬局方や医薬品添加物辞典2016に収載されており、容易に入手することができる。本発明において、クエン酸の含有量は、口腔用組成物全体に対して好ましくは0.2~10質量%である。
【0015】
本発明において用いられる酒石酸は、酒石酸、D-酒石酸として日本薬局方や医薬品添加物辞典2016に収載されており、容易に入手することができる。本発明において、酒石酸の含有量は、口腔用組成物全体に対して好ましくは0.2~10質量%である。
【0016】
本発明において用いられるマレイン酸は、マレイン酸、無水マレイン酸として医薬品添加物規格2018や医薬品添加物辞典2016に収載されており、容易に入手することができる。本発明において、マレイン酸の含有量は、口腔用組成物全体に対して好ましくは0.1~10質量%である。
【0017】
本発明において用いられるリンゴ酸は、DL-リンゴ酸として医薬品添加物規格2018や医薬品添加物辞典2016に収載されており、容易に入手することができる。本発明において、リンゴ酸の含有量は、口腔用組成物全体に対して好ましくは0.2~10質量%である。
【0018】
本発明において用いられる特定のヒドロキシ酸エステルとは、クエン酸トリエチルである。クエン酸トリエチルは、医薬品添加物規格2018や医薬品添加物辞典2016に収載されており、容易に入手することができる。本発明において、クエン酸トリエチルの含有量は、口腔用組成物全体に対して好ましくは0.2~40質量%である。
【0019】
本発明の口腔用組成物には、リドカイン及びトリアムシノロンアセトニド以外の有効成分をさらに配合することも可能であるが、必ずしも配合されていなくてもよい。配合可能な他の有効成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、ベクロメタゾンプロピオン酸エステル、デキサメタゾン、酢酸ヒドロコルチゾン等の副腎皮質ステロイド剤、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化デカリニウム、ヨウ素、ヨウ化カリウム、ポビドンヨード、アクリノール、トリクロサン、ピオゾール、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、イソプロピルメチルフェノール、ヒノキチオール、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン等の殺菌剤、アラントイン等の組織修復剤、アズレンスルホン酸ナトリウム、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸二カリウム、シコン等の抗炎症剤、トコフェロール酢酸エステル、パンテノール等のビタミン剤、カルバゾクロム等の止血剤、アミノ安息香酸エチル等の局所麻酔剤があげられる。
【0020】
本発明の口腔用組成物には、カルボキシビニルポリマー、リン酸、クエン酸、酒石酸、マレイン酸、及びリンゴ酸以外の酸を配合することができる。酸としては 、アジピン酸、コハク酸、酢酸、塩酸、乳酸等を挙げることができる。
【0021】
本発明の口腔用組成物には、本発明の効果を損なわない質的、量的範囲で、他の製剤添加物を加えることができる。製剤添加物としては 、基剤、湿潤剤、賦形剤、乳化剤、増粘剤、保存剤、着色剤、安定化剤、清涼化剤、矯味剤、香料等を挙げることができ、製剤添加物は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜加えればよいが、必ずしも配合されていなくてもよく、また配合可能なものとしてこれらに限定されるものではない。
【0022】
基剤としては、例えば、ゲル化炭化水素、白色ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、セタノール、ポリエチレン、硬化油等の油性基剤が挙げられ、これらの1種または2種以上の組み合わせを適宜選択して配合することができ、このうち特に好ましいのはゲル炭化水素である。油性基剤の含量は、本発明の口腔用組成物中、35~99質量%が好ましい。
【0023】
湿潤剤としては、例えば、ソルビトール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、プロパンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、キシリトール、トレハロース、ヒアルロン酸ナトリウム、加水分解コラーゲン、流動パラフィン等が挙げられ、これらの1種または2種以上の組み合わせを適宜選択して、必要に応じて配合することができる。
【0024】
賦形剤としては、例えば、リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、軽質無水ケイ酸、ゼラチン、結晶セルロース、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられ、これらの1種または2種以上の組み合わせを適宜選択して配合することができる。
【0025】
乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート、ステアリン酸ソルビタン、アルキル硫酸ナトリウム等が挙げられ、これらの1種または2種以上の組み合わせを適宜選択して配合することができる。
【0026】
増粘剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ローカストビーンガム、グアーガム、ゼラチン等が挙げられ、これらの1種または2種以上の組み合わせを適宜選択して配合することができる。
【0027】
保存剤としては、例えばメチルパラベン、エチルパラベン、イソプロピルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、イソブチルパラベン、ベンジルパラベン等のパラベン(パラオキシ安息香酸エステル)類等が挙げられ、これらの1種または2種以上の組み合わせを適宜選択して配合することができる。
【0028】
安定化剤としては、例えば亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、エデト酸或いはその塩類等が挙げられ、これらの1種または2種以上の組み合わせを適宜選択して配合することができる。
【0029】
矯味剤としては、例えば、サッカリン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、ショ糖、ブドウ糖、果糖、乳糖、ハチミツ、炭酸水素ナトリウム、アスパルテーム、ステビア、スクラロース、キシリトール、イノシトール、D-ソルビトール、D-マンニトール、ラフィノース、ラクチュロース、ラクチトール、エリスリトール、還元パラチノース、パラチノース、パラチニット、アセスルファムK、マルトース、マルトシルトレハロース、マルチトール等が挙げられ、これらの1種または2種以上の組み合わせを適宜選択して配合することができる。
【0030】
香料としては、例えば、スペアミント油、ペパーミント油、チョウジ油、ハッカ油、タイム油、セージ油、ユーカリ油、 マヨナラ油、ライム油、レモン油及びオレンジ油等の天然香料及びl-メントール、dl-カンフル等が挙げられ、これらの1種または2種以上の組み合わせを適宜選択して配合することができる。
【実施例】
【0031】
以下に、実施例、比較例及び試験例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
リドカイン1質量%、トリアムシノロンアセトニド0.1質量%、カルボキシビニルポリマー10質量%、ゲル化炭化水素89質量%を均一になるように混和練合して軟膏を製造した。
【0033】
(実施例2)
リドカイン1質量%、トリアムシノロンアセトニド0.1質量%、リン酸1質量%、ゲル化炭化水素98質量%を均一になるように混和練合して軟膏を製造した。
【0034】
(実施例3)
リドカイン1質量%、トリアムシノロンアセトニド0.1質量%、クエン酸1質量%、ゲル化炭化水素98質量%を均一になるように混和練合して軟膏を製造した。
【0035】
(実施例4)
リドカイン1質量%、トリアムシノロンアセトニド0.1質量%、クエン酸トリエチル1質量%、ゲル化炭化水素98質量%を均一になるように混和練合して軟膏を製造した。
【0036】
(実施例5)
リドカイン1質量%、トリアムシノロンアセトニド0.1質量%、酒石酸1質量%、ゲル化炭化水素98質量%を均一になるように混和練合して軟膏を製造した。
【0037】
(実施例6)
リドカイン1質量%、トリアムシノロンアセトニド0.1質量%、マレイン酸1質量%、ゲル化炭化水素98質量%を均一になるように混和練合して軟膏を製造した。
【0038】
(実施例7)
リドカイン1質量%、トリアムシノロンアセトニド0.1質量%、リンゴ酸1質量%、ゲル化炭化水素98質量%を均一になるように混和練合して軟膏を製造した。
【0039】
(実施例8)
リドカイン1質量%、トリアムシノロンアセトニド0.1質量%、カルボキシビニルポリマー1質量%、ゲル化炭化水素98質量%を均一になるように混和練合して軟膏を製造した。
【0040】
(比較例1)
リドカイン1質量%、トリアムシノロンアセトニド0.1質量%、乳酸1質量%、ゲル化炭化水素98質量%を均一になるように混和練合して軟膏を製造した。
【0041】
(試験例1)
実施例1~8、比較例1の軟膏を、透明ガラススクリュー管に約6gとり、蓋を閉め、
65℃条件下で2週間保存し、リドカイン及びトリアムシノロンアセトニドの含量をHPLCで測定した。実施例1~8及び比較例1の軟膏について、直後品をコントロールとして65℃2週間保存後の残存率%を求めた。各処方を表1、結果を表2に示す。
【0042】
【0043】
(結果)
比較例1は65℃2週間保存後の残存率%でリドカイン88%、トリアムシノロンアセトニド83%であった。一方、実施例1~8は、比較例1に比べて安定性が改善した。
【0044】
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の口腔用組成物は、リドカイン、トリアムシノロンアセトニドを配合し、経時的な成分安定性を確保した口腔用組成物を提供することができるようになった。