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特許7569527積層体、単結晶ダイヤモンド基板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】積層体、単結晶ダイヤモンド基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/04 20060101AFI20241010BHJP
   C01B 32/26 20170101ALI20241010BHJP
   C23C 16/27 20060101ALI20241010BHJP
   B32B 15/06 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
C30B29/04 X
C30B29/04 D
C30B29/04 Q
C30B29/04 P
C01B32/26
C23C16/27
B32B15/06 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020143009
(22)【出願日】2020-08-26
(65)【公開番号】P2022038478
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川原田 洋
(72)【発明者】
【氏名】費 文茜
(72)【発明者】
【氏名】森下 葵
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-212428(JP,A)
【文献】特開2020-090408(JP,A)
【文献】特開2016-145144(JP,A)
【文献】特開2005-219962(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0084398(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0208413(US,A1)
【文献】FEI, Wenxi et al.,Local initial heteroepitaxial growth of diamond(111) on Ru(0001)/c-sapphire by antenna-edge-type mic,Applied Physics Letters,2020年09月18日,Volume 117, Issue 11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/04
C01B 32/26
C23C 16/27
B32B 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルテニウム膜と、前記ルテニウム膜上に形成されたエピタキシャル膜であるダイヤモンド膜とを含み、
前記ルテニウム膜の表面は(0001)面であり、前記ダイヤモンド膜の表面は(111)面である
ことを特徴とする積層体。
【請求項2】
ルテニウム膜と、前記ルテニウム膜上に形成されたエピタキシャル膜であるダイヤモンド膜とを含み、
前記ルテニウム膜の表面は(0001)面であり、前記ダイヤモンド膜の表面は(111)面である
ことを特徴とする単結晶ダイヤモンド基板。
【請求項3】
前記ルテニウム膜は、サファイア上に形成されている
ことを特徴とする請求項に記載の単結晶ダイヤモンド基板。
【請求項4】
前記ルテニウム膜は、チタン酸ストロンチウム上または酸化マグネシウム上に形成されている
ことを特徴とする請求項に記載の単結晶ダイヤモンド基板。
【請求項5】
ルテニウム膜を形成する工程と、
前記ルテニウム膜上にダイヤモンド膜をヘテロエピタキシャル成長する工程と
を有し、
前記ルテニウム膜の(0001)面上に前記ダイヤモンド膜の(111)面をヘテロエピタキシャル成長する
ことを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項6】
ルテニウム膜を形成する工程と、
前記ルテニウム膜上にダイヤモンド膜をヘテロエピタキシャル成長する工程と
を有し、
前記ルテニウム膜の(0001)面上に前記ダイヤモンド膜の(111)面をヘテロエピタキシャル成長する
ことを特徴とする単結晶ダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項7】
前記ルテニウム膜を形成する工程は、前記ルテニウム膜をサファイア上に形成する
ことを特徴とする請求項に記載の単結晶ダイヤモンド基板の製造方法。
【請求項8】
前記ルテニウム膜を形成する工程は、前記ルテニウム膜をチタン酸ストロンチウム上または酸化マグネシウム上に形成する
ことを特徴とする請求項に記載の単結晶ダイヤモンド基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、単結晶ダイヤモンド基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは、高電圧、大電流動作が必要とされる大電力用のパワーデバイスに適した半導体材料として期待されている。ダイヤモンドを半導体材料として産業化するために、低コストで大面積の単結晶ダイヤモンド基板を製造できる方法の開発が求められている。単結晶ダイヤモンド基板は、下地膜としてプラチナ(例えば、非特許文献1)またはイリジウム(例えば、非特許文献2)を使用し、該下地膜上にダイヤモンド膜をヘテロエピタキシャル成長することによって作製することが提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Y. Shintani, Journal of materials research 11, 2955 (1996)
【文献】K. Ohtsuka, K. Suzuki, A. Sawabe, and T. Inuzuka, Jpn. J. Appl. Phys. 35, L1072 (1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、より高品質な結晶性を有する単結晶ダイヤモンド基板をはじめとする積層体が求められている。また、プラチナ及びイリジウムは高価格なため、ダイヤモンド膜をヘテロエピタキシャル成長する下地膜としてプラチナまたはイリジウムを使用すると、単結晶ダイヤモンド基板を低コストで製造できないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高品質かつ低コストで製造可能な積層体、単結晶ダイヤモンド基板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の積層体は、ルテニウム膜と、前記ルテニウム膜上に形成されたエピタキシャル膜であるダイヤモンド膜とを含むものである。
【0007】
また、本発明の単結晶ダイヤモンド基板は、ルテニウム膜と、前記ルテニウム膜上に形成されたエピタキシャル膜であるダイヤモンド膜とを含むものである。
【0008】
また、本発明の積層体の製造方法は、ルテニウム膜を形成する工程と、前記ルテニウム膜上にダイヤモンド膜をヘテロエピタキシャル成長する工程とを有するものである。
【0009】
また、本発明の単結晶ダイヤモンド基板の製造方法は、ルテニウム膜を形成する工程と、前記ルテニウム膜上にダイヤモンド膜をヘテロエピタキシャル成長する工程とを有するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ダイヤモンド膜をヘテロエピタキシャル成長する下地膜としてルテニウムを使用することにより、下地膜をプラチナまたはイリジウムとする場合に比べて高品質かつ低コストで製造可能な積層体、単結晶ダイヤモンド基板及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る単結晶ダイヤモンド基板の構成を示す断面図である。
図2】MPCVD装置の構成を示す概略図である。
図3】ダイヤモンド(111)面とルテニウム(0001)面の結晶格子を示す模式図である。
図4】第1実施例に係る単結晶ダイヤモンド基板のSEMによる表面観察写真である。
図5】第2実施例に係るルテニウム膜のX線回折(2Θスキャン)結果を示すグラフである。
図6】第2実施例に係るルテニウム膜のX線回折(φスキャン)結果を示すグラフである。
図7】第2実施例に係るルテニウム膜のX線回折(ωスキャン)結果を示すグラフである。
図8】第3実施例に係るダイヤモンドのEBSD分析による極点図である。
図9】第3実施例に係るダイヤモンドとルテニウムのEBSD分析による極点図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る単結晶ダイヤモンド基板1の構成及びその製造方法について説明する。図1に単結晶ダイヤモンド基板1の断面図を示すように、単結晶ダイヤモンド基板1は、サファイア基材2と、サファイア基材2上に形成されたルテニウム膜3と、ルテニウム膜3上に形成されたエピタキシャル膜であるダイヤモンド膜4によって構成されている。ルテニウム膜3の表面は、ルテニウムの(0001)面であり、このルテニウム膜3の表面にダイヤモンド膜4がヘテロエピタキシャル成長によって形成されている。このダイヤモンド膜4の表面は、(111)面である。
【0013】
この例では、基材としてサファイアで構成されるサファイア基材2を用いているが、基材はこれに限定されるものではなく、例えば、チタン酸ストロンチウム、酸化マグネシウム等から構成される基材を用いてもよい。または、サファイア基材2を用いず、ルテニウム膜3を例えば200μm以上の厚さとし、基材として構成してもよい。
【0014】
次に、単結晶ダイヤモンド基板1の製造方法について説明する。
まず、サファイア基材2を準備する。サファイア基材2は、例えば200μm以上600μm以下の厚さとする。また、サファイア基材2は、C面サファイア(Al3、(0001)面)であることが好ましい。
【0015】
次に、サファイア基材2上に、表面が(0001)面となるルテニウム膜3をスパッタリング法で成膜する。ルテニウム膜3の厚さは、例えば50nm以上300nm以下とする。このルテニウム膜3の表面は、(0001)面と等価な面に相当する結晶面であってもよい。
【0016】
続いて、プラズマCVD法(Plasma-Enhanced Chemical Vapor Deposition)によって、ルテニウム膜3の表面((0001)面)上に、ダイヤモンドをヘテロエピタキシャル成長させ、ダイヤモンド膜4を形成する。ダイヤモンド膜4の厚さは、例えば50nm以上200nm以下とする。このように形成されるエピタキシャル膜であるダイヤモンド膜4の表面は(111)面になる。ダイヤモンド膜4のヘテロエピタキシャル成長の条件としては、例えばプラズマCVD装置において、ルテニウム膜3上への核生成と、それに続く(111)面のエピタキシャル成長の2つのステップで実施する。核生成では、ルテニウム膜3の表面上に原料ガス中の炭素イオンを引き寄せ、ダイヤモンド膜4を成長させるためのダイヤモンドの核を生成する。このため、核生成は、温度を600℃以上900℃以下とし、水素及びメタンを含む雰囲気中で、プラズマ中で炭素イオンのような正イオン捕集する基板バイアスを印加して、実施することが好ましい。核生成に続けて実施する(111)面のヘテロエピタキシャル成長は、温度を600℃以上900℃以下とし、水素及びメタンを含む雰囲気中で、プラズマを放電させて実施することが好ましい。
【0017】
ダイヤモンド膜4のヘテロエピタキシャル成長に使用する装置の一例として、図2に、マイクロ波励起プラズマCVD(Microwave Plasma Chemical Vapor Deposition、以下、MPCVDと称する)装置10を示す。MPCVD装置10は、チャンバー11と、対象物Sが載置され、DC電圧印加可能試料ステージ12(以下、ステージ12と称する)と、マイクロ波を発生するマグネトロン発生器13、導波管変換器14、導波管15、温度測定器16、原料ガス供給路17、原料ガス排気路18、誘導加熱式コイル19及びアンテナ電極20を備えている。対象物Sは、サファイア基材2の表面にルテニウム膜3が形成されたものである。
【0018】
対象物Sは、ルテニウム膜3の表面が上方を向く方向でステージ12上にクランプリング等で固定され、ステージ12に設けられた誘導加熱式コイル19によって所定の温度に加熱される。ステージ12上に固定された対象物Sの温度は、非接触式の温度測定器16によってモニターされる。チャンバー11内に原料ガス供給路17から水素及びメタンを含む原料ガスが供給され、マグネトロン発生器13からマイクロ波が伝送されることによって、アンテナ電極20の先端部付近にプラズマボール21が発生する。プラズマボール21は、プロセス中は移動することなくアンテナ電極20の先端部付近に保持される。これにより、原料ガス中の炭素を原材料として、ルテニウム膜3の表面にダイヤモンドがヘテロエピタキシャル成長されて、表面が(111)面となるダイヤモンド膜4が形成される。
【0019】
ルテニウムは六方晶であるため、図3に示すように、六方晶構造の上面であるルテニウム(0001)面において、ルテニウム原子Ruは同一平面上で6回対称の配列をする。また、ダイヤモンドは立方晶であるため、ダイヤモンド(111)面において、炭素原子Cはルテニウム原子Ruと同様に同一平面上で6回対称の配列をする。このような原子配列となっていることから、ダイヤモンド(111)面はルテニウム(0001)面上にヘテロエピタキシャル成長することができる。このヘテロエピタキシャル成長において、基板面に対して垂直な方向においてダイヤモンド[111]結晶方位とルテニウム[0001]結晶方位は平行であり、基板面に対して平行な方向においてダイヤモンド[11-2]結晶方位とルテニウム[10-10]結晶方位は平行である。ダイヤモンドは立方晶であり、ルテニウムは六方晶であるため、それぞれの格子定数から単純に格子不整合率を求めることはできない。しかしながら、ダイヤモンド(111)面とルテニウム(0001)面は上記のようにそれぞれ同一平面上で6回対称の原子配列を有するため、格子不整合率を求めることができる。ダイヤモンド(111)面とルテニウム(0001)面との格子不整合率は7.0%であり、これはダイヤモンド(111)面とイリジウム(111)面との格子不整合率である7.1%よりも低いため、より高品質な結晶性を有するダイヤモンド膜4が形成された単結晶ダイヤモンド基板1が得られる。
【0020】
実施形態の単結晶ダイヤモンド基板1は、ルテニウム膜3上に形成されたヘテロエピタキシャル膜であるダイヤモンド膜4を有しており、このような構成のルテニウム膜3とダイヤモンド膜4の積層体及び単結晶ダイヤモンド基板はこれまでに報告されていない。
【0021】
従来、単結晶ダイヤモンド基板としては、ダイヤモンド(100)面及び(111)面の2種類が使用されており、ダイヤモンド(111)面の単結晶ダイヤモンド基板の方が産業上の利用価値が高い。上記単結晶ダイヤモンド基板1は、ルテニウム膜3の(0001)面を下地膜として、ダイヤモンド膜4の(111)面をヘテロエピタキシャル成長させている。プラチナ及びイリジウムが立方晶であるのに対して、ルテニウムは六方晶である。同一平面上で6回対称の原子配列をする六方晶の(0001)面は、同様の原子配列をする立方晶の(111)面よりも面に垂直な方向(膜厚方向、C軸方向とも称する)に結晶成長しやすいという特性がある。そのため、立方晶であるプラチナ及びイリジウムよりも、六方晶であるルテニウムを下地膜として使用することで、より高品質な結晶性を有する(111)面の単結晶ダイヤモンド基板を得ることができる。更に、ルテニウムはプラチナ及びイリジウムよりも低価格であるため、プラチナまたはイリジウムを下地膜とする場合に比べて低コストで(111)面の単結晶ダイヤモンド基板を得ることができる。
【0022】
上記では単結晶ダイヤモンド基板について説明したが、積層体は、単結晶ダイヤモンド基板に限定されるものではなく、ルテニウム膜上に、エピタキシャル膜であって表面が(111)面になるダイヤモンド膜が積層された積層構造を有するものであればよい。
【実施例
【0023】
(第1実施例)
第1実施例では、上記実施形態に記載した製造方法に従って、ルテニウム膜3とダイヤモンド膜4の積層体を作製した。
【0024】
サファイア基材2は、厚さ500μmの単結晶のC面サファイア(Al3、(0001)面)とした。ルテニウム膜3の厚さは150nmとした。
【0025】
単結晶ダイヤモンド基板1の製造工程においては、サファイア基材2の表面上に、スパッタリング法で、(0001)面に配向したルテニウム膜3を150nmの厚さで製膜した。スパッタリング温度は600℃とした。
【0026】
続いて、MPCVD装置10(図2参照)を使用し、プラズマCVD法で、ルテニウム膜3上にダイヤモンド膜4をヘテロエピタキシャル成長させて形成した。ダイヤモンド膜4のヘテロエピタキシャル成長は、ルテニウム膜3上への核生成と、それに続く(111)面のエピタキシャル成長の2つのステップで実施した。ダイヤモンド膜4の厚さは、最大で200nmとなった。
【0027】
核生成は、BEN(Bias Enhanced Nucleation)プロセスによって行った。具体的には、MPCVD装置10において、温度を650℃とし、水素を90%、メタンを10%とした雰囲気中で、-150Vのバイアスを印加して、30秒間プラズマを放電させて実施した。
【0028】
核生成に続けて実施した(111)面のヘテロエピタキシャル成長は、温度を600℃とし、水素を99.7%、メタンを0.3%とした雰囲気中で、30分間プラズマを放電させて実施した。以上の工程により、ルテニウム膜3とダイヤモンド膜4の積層体を作製した。
【0029】
作製したルテニウム膜3とダイヤモンド膜4の積層体について、SEM(走査型電子顕微鏡)による表面観察を実施した。図4に示すように、ルテニウム膜3上にダイヤモンド膜4が形成されており、ダイヤモンド膜4のいくつかの結晶粒はおおよそ六角形の輪郭形状(疑似六角形)を示した。これは、ダイヤモンド膜4が横方向へ成長したことを示している。ダイヤモンド膜4の平均直径は約500nmとなった。ダイヤモンド膜4の結晶粒径は、ヘテロエピタキシャル成長のプロセス条件を適宜調整することによって更に大きくすることができるため、ルテニウム膜3の表面全体を覆うようにダイヤモンド膜4を形成することによって、単結晶ダイヤモンド基板1を得ることができると考えられる。
【0030】
(第2実施例)
第2実施例では、上記第1実施例と同じ手順により、サファイア基材2上にルテニウム膜3を形成したサンプルを作製し、X線回折による分析を実施した。
【0031】
図5に、第2実施例のサンプルに対してX線回折の2Θスキャンを実施した結果を示す。図5に示すように、X線回折パターンは、ルテニウム膜3のRu(0002)面、Ru(0004)面にそれぞれ対応する42.2°、92.0°と、サファイア基材2のAl(0006)面、Al(00012)面にそれぞれ対応する41.7°、90.7°とに回折ピークを示した。ルテニウムについては、ルテニウムの(0001)面に等価な面である(0002)面と(0004)面以外の結晶面に対応する回折ピークが検出されなかった。これにより、サファイア基材2上に形成したルテニウム膜3は単結晶であることを確認した。
【0032】
図6に、第2実施例のサンプルに対してX線回折のφスキャンを実施した結果を示す。図6に示すように、φスキャンの等価な{10-11}面の反射ピークは60°周期で6本検出された。これらの反射ピークは実施形態で説明した六方晶の上面であるルテニウム(0001)面の6回対称構造(図3参照)に対応している。
【0033】
図7に、第2実施例のサンプルに対してX線回折のωスキャン(ロッキング・カーブ測定)を実施した結果を示す。Ru(0002)面のロッキングカーブの半値幅(FWHM)は1.1°となっていることを確認した。
【0034】
(第3実施例)
第3実施例では、上記第1実施例と同じ手順により作製したルテニウム膜3とダイヤモンド膜4の積層体に対して、EBSD(Electron Back Scattered Diffraction、電子線後方散乱回折)法による分析を実施した。
【0035】
図8及び図9はEBSD法によって分析したND方向(面法線方向)の極点図である。図8(A)は、ダイヤモンド{001}面の極点図、図8(B)は、ダイヤモンド{111}面の極点図である。図9(A)は、ダイヤモンド{011}面の極点図、図9(B)は、ダイヤモンド{211}面の極点図、図9(C)は、ルテニウム{11-20}面の極点図、図9(D)は、ルテニウム{10-10}面の極点図である。図9(A)~図9(D)に示す極点図は、エピタキシャル成長の方位を特定するために、全て同時に取得した。
【0036】
ダイヤモンド{001}面の反射は、図8(A)に示すように、△で囲った3つの位置で強く検出された。ダイヤモンド{111}面の反射は、図8(B)に示すように、△で囲った3つの位置で強く検出された。
【0037】
ダイヤモンド{011}面の反射は、図9(A)に示すように、最外周部の□で囲った6つの位置に強く検出された。ダイヤモンド{211}面の反射は、図9(B)に示すように、最外周部の○で囲った5つの位置で強く検出された。
【0038】
ダイヤモンド{211}面の最外周部の反射位置が6つではなく5つとなっている理由は、EBSD分析を行った箇所で僅かに結晶面の傾斜があったためと考えられる。上記図8(A)、図8(B)及び図9(A)、図9(B)の極点図から、ダイヤモンド膜4は単結晶であり、(111)面に配向していることを確認することができた。
【0039】
ルテニウム{11-20}面の反射は、図9(C)に示すように、最外周部の□で囲った6つの位置で強く検出された。ルテニウム{10-10}面の反射は、図9(D)に示すように、最外周部の○で囲った6つの位置で検出された。
【0040】
ダイヤモンド{011}面の反射が強く検出された□で囲った6つの位置(図9(A))と、ルテニウム{11-20}面の反射が強く検出された□で囲った6つの位置(図9(C))は、極点図上においてそれぞれ対応する箇所に位置していた。また、ダイヤモンド{211}面の反射が強く検出された○で囲った5つの位置(図9(B))と、ルテニウム{10-10}面の反射が強く検出された○で囲った5つの位置(図9の9D)は、極点図上においてそれぞれ対応する箇所に位置していた。このことは、ルテニウム(0001)面の6回対称構造を上面とする六方晶構造における等価な6個の{11-20}の柱面の結晶面とその方位が、ダイヤモンド(111)面の6回対称構造を上面とする六角柱構造における柱面である等価な6個の{011}面の結晶面にそれぞれ平行であり、且つ、方位がそれぞれ一致していることを示している。同様の関係がルテニウムの等価な6個の{10-10}面とダイヤモンドの等価な6個の{211}面について成り立つことを示すものである。
【0041】
実施例3のEBSD法による分析結果は、作製したルテニウム膜3とダイヤモンド膜4の積層体のダイヤモンド膜4とルテニウム膜3の結晶方位について、ダイヤモンド[111]結晶方位とルテニウム[0001]結晶方位が一致したこと、及び、ダイヤモンド[11-2]結晶方位とルテニウム[10-10]結晶方位が一致したことを示しており、ルテニウム膜3上にダイヤモンド膜4がヘテロエピタキシャル成長していることを確認することができた。
【符号の説明】
【0042】
1 単結晶ダイヤモンド基板
2 サファイア基材
3 ルテニウム膜
4 ダイヤモンド膜
10 MPCVD装置
11 チャンバー
12 DC電圧印加可能試料ステージ
13 マグネトロン発生器
14 導波管変換器
15 導波管
16 温度測定器
17 原料ガス供給路
18 原料ガス排気路
19 誘導加熱式コイル
20 アンテナ電極
21 プラズマボール

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9