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  • 特許-筒型リニアモータ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】筒型リニアモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 41/03 20060101AFI20241010BHJP
【FI】
H02K41/03 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021034938
(22)【出願日】2021-03-05
(65)【公開番号】P2022135254
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391002487
【氏名又は名称】学校法人大同学園
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】加納 善明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩介
(72)【発明者】
【氏名】袴田 眞一郎
(72)【発明者】
【氏名】芝原 大智
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-047008(JP,A)
【文献】特開平03-285555(JP,A)
【文献】特開2012-178955(JP,A)
【文献】特開2019-187210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 41/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の界磁と、
筒状であって前記界磁の内周或いは外周に前記界磁に対して軸方向へ移動可能に配置されて界磁側の周囲に軸方向に間隔を開けて設けられる複数のティースを有して軸方向に並べて配置される複数のコアと、前記コアの前記ティース間のスロットに装着される巻線と、前記コア間に介装される磁性体で形成された環状のスペーサとを具備する電機子とを備え、
前記スペーサの軸方向幅は、前記スロットのピッチであるスロットピッチの整数倍に設定される
ことを特徴とする筒型リニアモータ。
【請求項2】
前記スペーサは、軸方向の一端または両端に凹部を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の筒型リニアモータ。
【請求項3】
前記電機子の軸方向の両端にそれぞれ配置される一対のスライダを備え、
前記界磁は、電機子側に非磁性体のチューブを有し、
前記スペーサおよび前記スライダは、界磁側の周囲に前記チューブの周面に摺接するウェアリングを有する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の筒型リニアモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒型リニアモータに関する。
【背景技術】
【0002】
筒型リニアモータは、筒状の界磁と、界磁内に軸方向へ移動可能に挿入された電機子とを備え、電機子は、環状であって外周に複数の環状のティースを備えたコアと、ティース間のスロットに装着される巻線とを備えている。このように構成された筒型リニアモータでは、電機子の巻線への通電によって界磁を電機子に対して軸方向へ駆動できる。
【0003】
筒型リニアモータでは、界磁の駆動方向が軸方向であるために電機子におけるコアが軸方向において端部を持っており、コアの端効果によるコギング推力が発生してしまう。
【0004】
このようなコアの端効果によるコギング推力を低減するために、軸方向に配置される2つのコアとコア間に介装される非磁性体のスペーサとで電機子を構成した筒型リニアモータが提案されている。このように構成された筒型リニアモータでは、コアをスペーサによって適切な間隔に配置することで一方のコアの端効果によるコギング推力を他方のコアの端効果によるコギング推力で打ち消すようにして、全体としてコギング推力を低減している(たとえば、特許文献1参照)。
【0005】
また、これとは別に、電気角で120度ずつずらして配置される3つの電機子で1つの電機子グループを構成し、3つの電気子グループを電気角で60度ずつずらして配置し、電機子グループ間に軟鉄或いはケイ素鋼板で構成された補極を挿入した構成を備えた筒型リニアモータの提案がある(たとえば、特許文献2参照)。この特許文献2の筒型リニアモータでは、電機子グループ間の補極によって電機子グループにおける端効果が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開2019/202758号公報
【文献】特開2019-22412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された筒型リニアモータでは、複数のコアを軸方向で適切な間隔で配置することで、一方のコアのコギング推力を他方のコアのコギング推力で打ち消すようにしているものの、1つのコアにつき2つの端部があり、合計4つの端部で端効果が生じることから、より一層のコギング推力の低下が望まれる。
【0008】
また、特許文献2に開示された筒型リニアモータでは、電機子ブロックの間隔が電気角の60度に相当するスロットピッチの2分の1の間隔となっているため、界磁の磁石ピッチと電機子におけるスロットピッチにずれが生じるため推力が低下するという問題がある。また、電機子グループ内には3つの電機子が空隙を開けて並べて配置されているため、各電機子の2つの端部で端効果が生じるので、より一層のコギング推力の低減が望まれる。
【0009】
そこで、本発明は、コギング推力を低減しつつも推力の向上を可能とする筒型リニアモータの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明の筒型リニアモータは、筒状の界磁と、筒状であって界磁の内周或いは外周に界磁に対して軸方向へ移動可能に配置されて界磁側の周囲に軸方向に間隔を開けて設けられる複数のティースを有して軸方向に並べて配置される複数のコアと、コアのティース間のスロットに装着される巻線と、コア間に介装される磁性体で形成された環状のスペーサとを具備する電機子とを備え、スペーサの軸方向幅がスロットのピッチであるスロットピッチの整数倍に設定されている。
【0011】
このように構成された筒型リニアモータでは、電機子を構成する複数のコアの間に介装されるスペーサが磁性体で形成されているため、コアのスペーサ側の端部は端効果を生じさない。また、スペーサの軸方向幅は、コアにおけるスロットピッチの整数倍となっているため、界磁の磁石ピッチとコアのスロットピッチにずれが生じず、推力低下を招くことが無く、複数のコアの巻線を単一の駆動回路で駆動できる。
【0012】
また、筒型リニアモータにおけるスペーサは、軸方向の両端に凹部を有していてもよい。このようにスペーサが凹部を備えていると、スペーサが軽量となるため筒型リニアモータの全体の質量も軽量となり、筒型リニアモータの質量推力密度が向上する
さらに、筒型リニアモータは、電機子の軸方向の両端にそれぞれ配置される一対のスライダを備え、界磁が電機子側に非磁性体のチューブを有し、スペーサおよびスライダが界磁側の周囲にチューブの周面に摺接するウェアリングを有していてもよい。このように構成された筒型リニアモータによれば、複数のコアを備える電機子がスペーサおよびスライダによって少なくとも3点以上で支持されるため、界磁に対して電機子が偏心することなく円滑に軸方向へ移動できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の筒型リニアモータによれば、コギング推力を低減しつつも推力を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施の形態における筒型リニアモータの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。一実施の形態における筒型リニアモータ1は、図1に示すように、筒状の界磁6と、筒状であって界磁6の内周に界磁6に対して軸方向へ移動可能に配置されて界磁側の周囲となる外周に軸方向に間隔を開けて設けられる複数のティース3bを有して軸方向に並べて配置される2つのコア3,3と、コア3のティース3b,3b間のスロット3cに装着される巻線4と、コア3,3間に介装される磁性体で形成された環状のスペーサ5とを具備する電機子2とを備えて構成されている。
【0016】
以下、筒型リニアモータ1の各部について詳細に説明する。電機子2は、コア3と、コア3のティース3b,3b間のスロット3cに装着された巻線4と、コア3,3間に設けたスペーサ5とを備えており、円筒状のロッド11の外周に装着されている。このように構成された電機子2は、筒状の界磁6内に軸方向へ移動可能に挿入されており、界磁6に対して軸方向に相対移動でき、本実施の形態では固定子とされている。
【0017】
コア3,3は、ともに同形状とされており、円筒状のコア本体3aと、環状であってコア本体3aの外周に設けた複数のティース3bとを備えて構成されてロッド11の外周に軸方向に並べて装着されている。
【0018】
コア本体3aは、前述の通り円筒状であって、その横断面積は、コア3の軸線を中心とする円筒でティース3bの内周から外周までのどこを切っても、ティース3bを前記円筒で切断した際にできる断面の面積以上となるように肉厚が確保されている。
【0019】
本実施の形態では、図1に示すように、コア本体3の外周に10個のティース3bが、軸方向に等間隔に並べて設けられており、ティース3b,3b間にそれぞれ巻線4が装着される空隙でなるスロット3cが形成されている。なお、本実施の形態では、ティース3bは、断面形状を台形にして外周における幅よりも内周における幅を大きくして内周側の磁路断面積を大きく確保しているが、内周から外周まで軸方向長さ(幅)が等しい矩形の断面形状をしていてもよい。
【0020】
また、本実施の形態では、図1中で隣り合うティース3b,3b同士の間には、空隙でなるスロット3cが合計で9個設けられている。そして、このスロット3cには、巻線4が巻き回されて装着されている。巻線4は、U相、V相およびW相の三相巻線とされている。図1中左側のコア3の9個のスロット3cには、図1中左側からW相、W相、W相とU相、U相、U相、U相とV相、V相、V相、V相とW相の巻線4が装着されている。また、図1中右側のコア3の9個のスロット3cには、図1中左側から順に、W相とU相、U相、U相、U相とV相、V相、V相、V相とW相、W相、W相の巻線4が装着されている。なお、各コア3のスロット3cに装着される巻線4の相は、一例であって、これに限定されるものではなく、また、極数とスロット数によっても適宜変更可能である。
【0021】
そして、このように構成されたコア3,3は、出力軸である非磁性体で形成されたロッド11の外周に装着されている。具体的には、コア3,3は、ロッド11の図1中右端側となる先端側の外周に嵌合されており、ロッド11に装着される環状であって非磁性体で形成された一対のスライダ12,13によって挟持されてロッド11に固定されている。スライダ12,13の外周には、ウェアリング12a,13aが装着されている。また、コア3,3間には、ロッド11の外周にコア3,3とともに嵌合される磁性体で形成されるスペーサ5が介装されており、コア3とコア3は、スペーサ5の軸方向長さL1だけ間隔を空けてロッド11に固定されている。スライダ12,13およびスペーサ5の外径は、コア3,3の外径よりも大径に設定されている。
【0022】
スペーサ5は、環状の磁性体で形成されており、軸方向における両端には、環状の凹部5a,5bが設けられるとともに、外周にウェアリング5cが装着されている。このように、スペーサ5は、凹部5a,5bを備えていて、肉抜きがなされているため、凹部5a,5bを備えず単なる環状とされる場合に比較して軽量となっている。また、スペーサ5の軸方向の幅L1は、コア3のスロットピッチL2の2倍の長さに設定されている。なお、スペーサ5の軸方向の幅L1は、nを整数とすると、L1=n×L2を満たしていればよい。つまり、スペーサ5の軸方向の幅L1は、コア3のスロットピッチL2の整数倍の長さに設定されていればよい。
【0023】
そして、電機子2を保持したロッド11は、界磁6内に軸方向移動自在に挿入されている。ロッド11の図1中左端は、界磁6の外周を覆うバレル7の図1中左端に装着された環状のヘッドキャップ15内を通じてバレル7から外方へ突出している。また、ロッド11の図1中左端側となる基端側は、筒型リニアモータ1が設置される機器等への取り付けを可能とするブラケット16が取り付けられている。
【0024】
なお、各コア3におけるスロット3cに装着された同相の巻線4同士は、図示しない渡り線によって直列に接続されており、直列に接続された各相の一端の巻線4同士がコア3のスペーサ側で結線されている。なお、各コア3における巻線4同士が結線された結線部4aは、それぞれスペーサ5の凹部5a,5b内に収容されている。このようにスペーサ5における凹部5a,5bは、スペーサ5の軽量化に寄与するだけでなく、巻線4同士を結線する結線部4aを収容する収容部としても機能する。さらに、直列接続された各相の他端の巻線4から引き出されたリード線17は、ロッド11とロッド11の外周を覆う筒状のカバー14との間の環状隙間内を通じてロッド11の図1中左端となる基端側から筒型リニアモータ1の外方へと引き出されて図示しないインバータ等の駆動回路を介して電源に接続される。そして、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、電機子2は、固定子として機能する。
【0025】
他方、界磁6は、本実施の形態では、軸方向に交互に積層されて挿入される環状の主磁極の永久磁石6aと環状の副磁極の永久磁石6bと、永久磁石6a,6bの外周に嵌合される円筒状であって磁性体で形成されるバックヨーク8とを備えて構成されている。
【0026】
界磁6は、円筒状の非磁性体で形成されるバレル7と、バレル7内に挿入される円筒状の非磁性体のインナーチューブ9との間に形成された環状隙間内に収容されており、本実施の形態では、可動子として機能する。よって、本実施の形態の筒型リニアモータ1の可動子は、界磁6、バレル7およびインナーチューブ9を備えて構成されている。
【0027】
なお、図1中で主磁極の永久磁石6aと副磁極の永久磁石6bに記載されている三角の印は、着磁方向を示しており、主磁極の永久磁石6aの着磁方向は径方向となっており、副磁極の永久磁石6bの着磁方向は軸方向となっている。主磁極の永久磁石6aと副磁極の永久磁石6bは、交互に積層されており、隣り合う主磁極の永久磁石6a同士および隣り合う副磁極の永久磁石6b同士の磁極配置が逆向きとなるように配置されて所謂ハルバッハ配列の磁石列Mを形成している。そして、界磁6の内周側には、軸方向でS極とN極が交互に現れるように永久磁石6a,6bが配置されている。
【0028】
また、主磁極の永久磁石6aの軸方向長さは、副磁極の永久磁石6bの軸方向長さよりも長くなっており、本実施の形態では、副磁極の永久磁石6bの軸方向の長さの2倍から5倍の範囲になるように設定されている。主磁極の永久磁石6aの軸方向長さを前述した範囲になるようにすればコア3,3との間の主磁極の永久磁石6aとの間の磁気抵抗を小さくできコア3,3へ作用させる磁界を大きくできるので筒型リニアモータ1の推力を向上できる。
【0029】
また、本発明の筒型リニアモータ1では、永久磁石6a,6bで形成された磁石列Mの外周にバックヨーク8を設けている。バックヨーク8を設けると副磁極の永久磁石6bの軸方向長さを短くしても磁気抵抗の低い磁路を確保できるため、主磁極の永久磁石6aの軸方向長さを長くする際の筒型リニアモータ1の推力を効果的に向上できる。より詳しくは、永久磁石6a,6bの外周にバックヨーク8を設けると、磁気抵抗の低い磁路を確保できるので副磁極の永久磁石6bの軸方向長さを短くしても磁気抵抗の増大が抑制される。よって、主磁極の永久磁石6aの軸方向長さを副磁極の永久磁石6bの軸方向長さよりも長くするとともに永久磁石6a,6bの外周に筒状のバックヨーク8を設けると筒型リニアモータ1の推力を大きく向上させ得る。バックヨーク8の肉厚は、主磁極の永久磁石6aの外部磁気抵抗の増大を抑制に適する肉厚に設定されればよい。なお、バックヨーク8を設けると磁気抵抗の増大を抑制できるが、バックヨーク8の省略も可能である。
【0030】
なお、副磁極の永久磁石6bは、主磁極の永久磁石6aより高い保磁力を有する永久磁石とされている。永久磁石における残留磁束密度と保磁力は、互いに密接に関係しており、一般的に残留磁束密度を高めると保磁力は低くなり、保磁力を高めると残留磁束密度が低くなるという、互いに背反する関係にある。ハルバッハ配列では、副磁極の永久磁石6bには減磁方向に強い磁界が印加されるため、副磁極の永久磁石6bの保磁力を高くして減磁を抑制し、強い磁界をコア3,3に作用させ得るようにしている。対して、コア3,3に対して作用する磁界の強さは、主磁極の永久磁石6aの磁力線数に左右される。そのため、主磁極の永久磁石6aに高い残留磁束密度の永久磁石を使用して強い磁界をコア3,3に作用させるようにしている。本実施の形態では、副磁極の永久磁石6bを主磁極の永久磁石6aよりも保磁力を高くするのに際して、副磁極の永久磁石6bの材料を主磁極の永久磁石6aの材料よりも保磁力が高い材料としている。よって、材料の選定によって、主磁極の永久磁石6aと副磁極の永久磁石6bの組合せを簡単に実現できる。なお、本実施の形態では、主磁極の永久磁石6aは、ネオジム、鉄、ボロンを主成分とする残留磁束密度が高い材料で構成され、副磁極の永久磁石6bは、前記材料にジスプロシウムやテリビウム等の重希土類元素の添加量を増やした減磁しにくい磁石で構成されている。
【0031】
前述したところでは、界磁6は、より強い磁界を電機子2へ作用させるべく永久磁石6a,6bをハルバッハ配列で積層した構成を備えているが、電機子2側に軸方向で交互にS極とN極とが現れるように永久磁石を積層して電機子2に磁界を作用させることができればよいので、ハルバッハ配列以外の配列で積層した複数の永久磁石で構成されてもよい。
【0032】
つづいて、インナーチューブ9は、筒状であって非磁性体で形成されており、界磁6の内周に嵌合されている。さらに、インナーチューブ9の図1中左端には、環状の内径がインナーチューブ9の内径よりも小径で外径がインナーチューブ9の外径よりも大径なヘッドキャップ15が一体に設けられている。また、インナーチューブ9の内周には、スペーサ5およびスライダ12,13の各ウェアリング5c,12a,13aが摺接しており、スペーサ5およびスライダ12,13によって3点支持されて電機子2はロッド11とともに界磁6に対して偏心せずに軸方向へスムーズに移動できる。インナーチューブ9は、コア3の外周と界磁6の内周との間の環状の隙間を形成するとともに、スライダ12,13およびスペーサ5と協働して電機子2の軸方向移動を案内する役割を果たしている。なお、インナーチューブ9は、非磁性体で形成されればよいが、合成樹脂で形成されると筒型リニアモータ1の質量推力密度向上効果が高くなる。なお、質量推力密度は、筒型リニアモータ1の性能を示す一つの指標であって、数値が高い程、効率よく推力を発揮できることを示す。また、インナーチューブ9は、電機子2を界磁6に挿入する際に、コア3の界磁6への吸着を防ぐので、良好な組立性を実現できる。このように、インナーチューブ9を設ける利点は多々あるが、インナーチューブ9の省略も可能である。
【0033】
また、インナーチューブ9を非磁性体の金属としてもよいが、非磁性体の金属である場合、電機子2が軸方向へ移動する際にインナーチューブ9の内部に渦電流が生じて、電機子2の移動を妨げる力が発生してしまう。これに対して、インナーチューブ9を合成樹脂とすれば渦電流が生じないので筒型リニアモータ1の推力をより効果的に向上できるとともに、筒型リニアモータ1の質量を低減できる。なお、インナーチューブ9を合成樹脂とする場合、フッ素樹脂で製造すればスライダ12,13およびスペーサ5との間の摩擦および摩耗を低減できる。また、インナーチューブ9を他の合成樹脂で形成してもよく、また、摩擦および摩耗を低減するべく他の合成樹脂で形成されたインナーチューブ9の内周をフッ素樹脂でコーティングしてもよい。
【0034】
バレル7は、非磁性体で有底筒状に形成されており、界磁6の磁力によってバレル7の外周に砂鉄等のコンタミナントの付着が防止されている。そして、バレル7およびインナーチューブ9の図1中右端は、バレル7における底部7aによって閉塞されており、バレル7の図1中左端は、インナーチューブ9の左端に設けられてバレル7の内周に螺子締結されるヘッドキャップ15によって閉塞されている。また、バレル7の図1中右端の底部7aには、筒型リニアモータ1を機器等への取り付け可能なブラケット7bを備えている。筒型リニアモータ1は、固定子側となるロッド11の基端に取り付けられたブラケット16と、可動子側となるバレル7の端部を閉塞する底部7aに設けられたブラケット7bを利用して機器等へ取り付けられて使用される。
【0035】
なお、本実施の形態では、インナーチューブ9とヘッドキャップ15とが一体とされて一部品として構成されているが、インナーチューブ9とヘッドキャップ15とは別部品として構成されてもよい。さらに、バレル7とヘッドキャップ15の固定に際しては、螺子締結以外にもボルトやナットによる締結や溶接といった他の固定方法を採用してもよい。また、バレル7における筒部分と底部7aとを別部品として筒部分と底部7aとを連結するようにしてもよい。
【0036】
なお、ヘッドキャップ15は、内周に挿入されるロッド11を覆うカバー14の軸回りをシールするシール部材15aを備えており、筒型リニアモータ1内へのダストや水などの侵入を防止している。また、バレル7およびインナーチューブ9の軸方向長さは、電機子2、スペーサ5およびスライダ12,13との合計の軸方向長さよりも長く、電機子2は、界磁6内の軸方向長さの範囲で図1中左右へストロークできる。
【0037】
なお、界磁6における永久磁石6a,6bを積層して形成される磁石列Mは、バレル7の端部を閉塞する底部7aとバレル7の開口端に螺着されるヘッドキャップ15とで挟持されてバレル7に固定される。具体的には、磁石列Mの図1中左端とヘッドキャップ15との間、および、磁石列Mの図1中右端と底部7aとの間には、それぞれ環状のリテーナ18,19が介装されており、これらリテーナ18,19を介して磁石列Mがヘッドキャップ15と底部7aとで挟持されて界磁6のバレル7に固定されるとともにバレル7に対する軸方向の位置が調整されている。なお、ヘッドキャップ15とバレル7における底部7aとで界磁6の位置調整と固定が可能であれば、リテーナ18,19を省略できる。また、リテーナ18,19は、それぞれ複数のワッシャを積層して構成されてもよい。
【0038】
筒型リニアモータ1は、電機子2と界磁6とが互いに軸方向へ相対移動でき、巻線4への通電によって可動子である界磁6を軸方向に駆動して前記機器等へ推力を与えることができる。そして、たとえば、巻線4に対する界磁6の電気角をセンシングし、前記電気角に基づいて通電位相切換を行うとともにPWM制御により、各巻線4の電流量を制御すれば、筒型リニアモータ1における推力と可動子である界磁6の移動方向とを制御できる。なお、前述の制御方法は、一例でありこれに限られない。このように、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、電機子2が固定子であり、界磁6は可動子として振る舞う。また、電機子2と界磁6とを軸方向に相対変位させる外力が作用する場合、巻線4への通電、あるいは、巻線4に発生する誘導起電力によって、前記相対変位を抑制する推力を発生させて筒型リニアモータ1に前記外力による機器の振動や運動をダンピングさせ得るし、外力から電力を生むエネルギ回生も可能である。
【0039】
以上のように、本実施の形態の筒型リニアモータ1は、筒状の界磁6と、筒状であって界磁6の内周に界磁6に対して軸方向へ移動可能に配置されて界磁側の周囲である外周に軸方向に間隔を開けて設けられる複数のティース3bを有して軸方向に並べて配置される複数のコア3と、コア3のティース3b,3b間のスロット3cに装着される巻線4と、コア3,3間に介装される磁性体で形成された環状のスペーサ5とを具備する電機子2とを備え、スペーサ5の軸方向幅がスロット3cのピッチであるスロットピッチの整数倍に設定されている。
【0040】
このように構成された筒型リニアモータ1では、電機子2を構成する複数のコア3,3の間に介装されるスペーサ5が磁性体で形成されているため、コア3,3のスペーサ側の端部は端効果を生じさない。よって、本実施の形態の筒型リニアモータ1によれば、電機子2の全体として端効果を生じさせるコア3,3の端部は、反スペーサ側の2つの端部のみとなるので、端効果によるコギング推力を低減できる。
【0041】
ここで、スペーサ5の軸方向幅がスロットピッチの整数倍以外の長さに設定されてしまうと、一方のコア3と他方のコア3とが界磁6に対して異なる電気角で対向するようになってしまい、推力が低下してしまうだけでなく、一方のコア3の巻線4と他方のコア3の巻線4に異なるタイミングで通電せざるを得なくなるため筒型リニアモータ1の駆動にはコア3の数だけ駆動回路が必要となってしまう。これに対して、本実施の形態の筒型リニアモータ1におけるスペーサ5の軸方向幅は、コア3におけるスロットピッチの整数倍となっているため、界磁6の磁石ピッチとコア3のスロットピッチにずれが生じず、推力低下を招くことが無く、2つのコア3の巻線4を単一の駆動回路で駆動できるのである。
【0042】
以上より、本実施の形態の筒型リニアモータ1によれば、コギング推力を低減しつつも推力を向上させ得る。
【0043】
なお、前述した筒型リニアモータ1では、電機子2が2つのコア3と、コア3,3間に介装される1つのスペーサ5とを備えて構成されているが、電機子2が3つ以上のコア3を備える場合、全てのコア3,3間のそれぞれにスロットピッチの整数倍の軸方向幅を備えたスペーサ5を介装するようにすればよい。一般化すれば、X個のコア3を備えている電機子2の場合、(X-1)個のコア3,3間にそれぞれ1つずつのスペーサ5を設ければよいので、(X-1)個のスペーサ5を備えていればよい。また、スペーサ5の軸方向幅L1は、nを任意の整数として、コア3のスロットピッチL2のn倍の長さに設定されればよい。電機子2が複数のスペーサ5を備える場合、各スペーサ5の軸方向幅は等しくなくともよい。ただし、スペーサ5が軽量であると筒型リニアモータ1も軽量となって筒型リニアモータ1の質量推力密度が向上するため、全てのスペーサ5の軸方向幅L1は、コア3のスロットピッチL2に等しくするのが好適である。
【0044】
また、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、電機子2の外周側に筒状の界磁6を配置する構造を採用しているが、コア3の内周側にティース3bを設けてコア3の内周側に巻線4が装着されるスロット3cを形成して、電機子2の内側に界磁6を挿入する構造を採用してもよい。このように、筒型リニアモータ1は、筒状の界磁6と、筒状であって界磁6の内周或いは外周に界磁6に対して軸方向へ移動可能に配置されて界磁側の周囲に軸方向に間隔を開けて設けられる複数のティース3bを有して軸方向に並べて配置される複数のコア3と、コア3のティース3b,3b間のスロット3cに装着される巻線4と、コア3,3間に介装される磁性体で形成された環状のスペーサ5とを具備する電機子2とを備え、スペーサ5の軸方向幅がスロットピッチの整数倍に設定されればよい。
【0045】
また、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、スペーサ5が軸方向の両端に凹部5a,5bを有している。このようにスペーサ5が凹部5a,5bを備えているので、スペーサ5が軽量となるため筒型リニアモータ1の全体の質量も軽量となり、筒型リニアモータ1の質量推力密度を向上できる。また、スペーサ5が凹部5a,5bを備えているので、コア3の装着される巻線4の結線部4aを凹部5a,5bに収容でき結線部4aを保護して他部品との干渉を防止できる。なお、スペーサ5は、軸方向の両側ではなく、一方側のみに凹部を備えていてもよいし、凹部5a,5bは環状でなく、周方向で連続していなくともよい。
【0046】
また、本実施の形態の筒型リニアモータ1は、電機子2の軸方向の両端にそれぞれ配置される一対のスライダ12,13を備え、界磁6が電機子側となる内周に非磁性体のインナーチューブ(チューブ)9を有し、スペーサ5およびスライダ12,13が外周にインナーチューブ(チューブ)9の周面に摺接するウェアリング5c,12a,13aを備えている。このように構成された筒型リニアモータ1によれば、複数のコア3,3を備える電機子2がスペーサ5およびスライダ12,13によって3点以上で支持されるため、界磁6に対して電機子2が偏心することなく円滑に軸方向へ移動できる。なお、筒型リニアモータ1が界磁6の外周側に電機子2が配置される構造を採用する場合、界磁6の外周に非磁性体のチューブを設けて、前記チューブの外周に摺接するウェアリングを電機子2側に設けられるスペーサおよびスライダの内周に設ければよい。この場合、非磁性体のバレル7の内周にコア、スペーサおよびスライダを装着し、ロッド11の外周に界磁とチューブとを装着すればよい。つまり、電機子2の軸方向の両端にそれぞれ一対のスライダ12,13を配置し、界磁6が電機子側に非磁性体のチューブを有し、スペーサ5およびスライダ12,13が界磁側の周囲にチューブの周面に摺接するウェアリング5c,12a,13aを備えた筒型リニアモータ1によれば、界磁6に対して電機子2が偏心することなく円滑に軸方向へ移動できるのである。
【0047】
なお、本実施の形態の筒型リニアモータ1では、スペーサ5をコア3と別体としているが、コア3にスペーサ5を一体化した構成の採用も可能である。たとえば、コア3の一端にスペーサ5を一体化した構造をコアユニットとすれば、1つのコア3に1つ以上のコアユニットを所望する数だけ積層して電機子2を構成することができる。
【0048】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0049】
1・・・筒型リニアモータ、2・・・電機子、3・・・コア、3b・・・ティース、3c・・・スロット、4・・・巻線、5・・・スペーサ、5a,5b・・・凹部、5c,12a,13a・・・ウェアリング、6・・・界磁、12,13・・・スライダ
図1