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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-09
(45)【発行日】2024-10-18
(54)【発明の名称】車輪モジュール
(51)【国際特許分類】
   B60G 3/02 20060101AFI20241010BHJP
   B62D 7/14 20060101ALI20241010BHJP
   B62D 7/08 20060101ALI20241010BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20241010BHJP
【FI】
B60G3/02
B62D7/14 Z
B62D7/08 Z
B62D5/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021055592
(22)【出願日】2021-03-29
(65)【公開番号】P2022152722
(43)【公開日】2022-10-12
【審査請求日】2023-09-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】594168665
【氏名又は名称】株式会社戸田レーシング
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸田 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄大
【審査官】久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-210558(JP,A)
【文献】国際公開第2011/052076(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0083785(US,A1)
【文献】特開2003-261295(JP,A)
【文献】特開2007-230293(JP,A)
【文献】特開2003-136930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 3/02
B62D 7/14
B62D 7/08
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
独立して転舵可能な独立転舵輪を二つ以上含む車両(90)に用いられ、前記独立転舵輪を構成する車輪モジュールであって、
サイドウォールを有する面が側面と定義され、車両の前方を向くトレッド面が前面と定義されるタイヤ(2)と、
前記タイヤを転舵させる転舵力を出力する転舵部(3)と、
前記転舵部と前記タイヤとを接続するアーム(4)と、
前記タイヤを駆動する駆動力を出力する駆動部(5)と、
前記タイヤを制動する制動力を出力する制動部(6)と、
棒状の緩衝部材であるダンパー(71)、及び、前記ダンパーに外挿されたコイル状のスプリング(72)を含み、上端側支点(SU)及び下端側支点(SL)で支持され、路面から伝わる振動又は衝撃を緩衝するサスペンション機構(7)と、
を備え、
前記タイヤの径方向の中心及び幅方向の中心を通る天地方向の仮想直線をタイヤ中心軸(Zt)と定義すると、前記タイヤの側面から見たとき、前記サスペンション機構の前記下端側支点は、前記タイヤ中心軸から離れた位置に配置されており、
前記転舵部によって出力された転舵力は、前記アームを介して前記タイヤに伝達され、
前記アームは、前記転舵部側のアッパーアーム(41)と前記タイヤ側のロッカーアーム(45)とが水平方向のアーム連結軸を中心として回転可能に連結されており、前記タイヤの側面から見たとき、前記アーム連結軸は、前記タイヤの径方向の中心よりも下方、且つ、前記タイヤ中心軸に対し前記サスペンション機構の前記下端側支点とは反対側において前記タイヤ中心軸から離れており、
前記サスペンション機構の前記上端側支点は前記アッパーアームに回転可能に支持され、且つ、前記下端側支点は前記ロッカーアームに回転可能に支持されており、
前記サスペンション機構の前記下端側支点は、前記アーム連結軸を中心として前記タイヤの側面に平行な平面内で回転可能である車輪モジュール。
【請求項2】
前記タイヤの側面から見たとき、前記サスペンション機構は、前記タイヤ中心軸に対して傾斜している請求項に記載の車輪モジュール。
【請求項3】
前記タイヤが転舵したとき、前記タイヤと前記サスペンション機構との位置関係は維持される請求項1または2に記載の車輪モジュール。
【請求項4】
前記タイヤの前面から見たとき、キングピン軸と前記タイヤ中心軸とが一致している請求項1~のいずれか一項に記載の車輪モジュール。
【請求項5】
前記転舵部は、トルクを出力する転舵モータ(31)、及び、前記転舵モータの回転を減速して前記アームに伝達する減速機(32)を含む請求項1~のいずれか一項に記載の車輪モジュール。
【請求項6】
前記転舵モータは、複数の巻線組を冗長的に有する多重巻線モータで構成されている請求項に記載の車輪モジュール。
【請求項7】
車両の一つ以上の前輪及び一つ以上の後輪においてそれぞれ前記独立転舵輪を構成する複数の車輪モジュールであって、
前輪用の車輪モジュールは、前記サスペンション機構が前記タイヤ中心軸に対して車両の前方側に設けられており、
後輪用の車輪モジュールは、前記サスペンション機構が前記タイヤ中心軸に対して車両の後方側に設けられている請求項1~のいずれか一項に記載の車輪モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、独立して転舵可能な独立転舵輪を含む車両において、タイヤから車体側に伝わる振動や衝撃を緩衝する緩衝装置の改善に関する技術が知られている。
【0003】
例えば特許文献1に開示されたインホイールモータ車両の操舵装置は、ダンパーを追加しても必要以上に大型化することが避けられ、しかも十分大きい回転トルクを伝達することを課題としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-106524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の操舵装置において、緩衝装置が収容された外軸はインホイールモータユニットの中心軸上に配置されていると解される。つまり、ホイール側を正面として見たとき、緩衝装置のスプリングは、タイヤの天地方向の中心軸上に垂直に配置されている。そのため、路面からの衝撃がスプリングに直に伝わり、乗り心地を悪化させる。
【0006】
本発明は上述の点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、車両の独立転舵輪を構成する車輪モジュールにおいて、乗り心地を向上させる車輪モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車輪モジュールは、独立して転舵可能な独立転舵輪を二つ以上含む車両(90)に用いられ、独立転舵輪を構成する。この車輪モジュールは、タイヤ(2)と、転舵部(3)と、駆動部(5)と、制動部(6)と、サスペンション機構(7)と、を備える。
【0008】
タイヤは、サイドウォールを有する面が側面と定義され、車両の前方を向くトレッド面が前面と定義される。転舵部は、タイヤを転舵させる転舵力を出力する。駆動部は、タイヤを駆動する駆動力を出力する。制動部は、タイヤを制動する制動力を出力する。サスペンション機構は、棒状の緩衝部材であるダンパー(71)、及び、ンパーに外挿されたコイル状のスプリング(72)を含み、上端側支点(SU)及び下端側支点(SL)で支持され、路面から伝わる振動又は衝撃を緩衝する。タイヤの径方向の中心及び幅方向の中心を通る天地方向の仮想直線をタイヤ中心軸(Zt)と定義する。タイヤの側面から見たとき、サスペンション機構の下端側支点は、タイヤ中心軸から離れた位置に配置されている。
【0009】
本発明の車輪モジュールは、転舵部とタイヤとを接続するアーム(4)をさらに備える。転舵部によって出力された転舵力は、アームを介してタイヤに伝達される。アームは、転舵部側のアッパーアーム(41)とタイヤ側のロッカーアーム(45)とが水平方向のアーム連結軸を中心として回転可能に連結されており、タイヤの側面から見たとき、アーム連結軸は、タイヤの径方向の中心よりも下方、且つ、タイヤ中心軸に対しサスペンション機構の下端側支点とは反対側においてタイヤ中心軸から離れている。サスペンション機構の上端側支点はアッパーアームに回転可能に支持され、且つ、下端側支点はロッカーアームに回転可能に支持されている。サスペンション機構の下端側支点は、アーム連結軸を中心としてタイヤの側面に平行な平面内で回転可能である。
【0010】
なお、参考態様の車輪モジュールでは、駆動部は、インホイールモータで構成される。制動部は、タイヤの側面から見たときインホイールモータの径方向内側に配置される。
【0011】
これにより、路面からの衝撃がスプリングに直接伝わりにくくなる。したがって、路面の段差や石等による上下方向の外乱を受けたときの不快な振動の発生を抑制し、乗り心地を向上させることができる。好ましくは、タイヤの側面から見たとき、サスペンション機構は、タイヤ中心軸に対して傾斜している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態の車輪モジュールが用いられた独立転舵車両の平面図。
図2図1の独立転舵車両の側面図。
図3】一実施形態の車輪モジュールの斜視図。
図4図3のIV方向矢視図(タイヤの内側面から見た図)。
図5図3のV方向矢視図(タイヤの前面から見た図)。
図6図3のVI方向矢視図。
図7】転舵モータにおける多重巻線モータの構成を示す図。
図8】アーム連結軸を中心とする回転動作を説明する図。
図9】上方回転時におけるサスペンション機構の圧縮動作を説明する模式図。
図10】下方回転時におけるサスペンション機構の伸長動作を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態による車輪モジュールを図面に基づいて説明する。本発明の車輪モジュールは、独立して転舵可能な独立転舵輪を二つ以上含む車両に用いられ、独立転舵輪を構成する。一実施形態では、全ての車輪が独立転舵輪である四輪車両において、四つの車輪モジュールが用いられる構成例を示す。また一実施形態では、転舵や制駆動の指令に関し、ドライバによる手動運転を想定して説明する。
【0014】
(一実施形態)
図1に、四輪独立転舵車両90における車体99と四つの車輪91、92、93、94との配置構成を上方から視た状態を模式的に示す。四つの車輪は、それぞれ左前輪91、右前輪92、左後輪93及び右後輪94である。各車輪91-94は独立して転舵可能な独立転舵輪であり、車輪モジュール10で構成されている。各車輪モジュール10の中心の点はタイヤ中心軸Ztを表す。タイヤ中心軸Ztの詳しい定義については後述する。
【0015】
図2に、車両90の右側面から前輪92及び後輪94を視た状態を模式的に示す。図2では、前輪92用の車輪モジュールの符号を「10F」、後輪94用の車輪モジュールの符号を「10R」と区別して記す。左輪用も含めた車輪モジュール10F、10Rは、車両90の前輪91、92及び後輪93、94において独立転舵輪を構成する
【0016】
車輪モジュール10F、10Rの詳しい構成は後述するが、外観として、前輪92用の車輪モジュール10Fと後輪94用の車輪モジュール10Rとは、タイヤ中心軸Ztに対し前後方向に対称の形状を呈している。つまり、前輪92用の車輪モジュール10Fは、サスペンション機構7がタイヤ中心軸Ztに対して車両90の前方側に設けられている。後輪94用の車輪モジュール10Rは、サスペンション機構7がタイヤ中心軸Ztに対して車両90の後方側に設けられている。
【0017】
サスペンション機構7は、上端側がタイヤ中心軸Ztに近づき、下端側がタイヤ中心軸Ztから離れるように傾斜している。そのため、前後輪92、94のサスペンション機構7は、上から下に向かって間隔が広がるように配置されている。
【0018】
左右一対の車輪がラックバーで連結された一般的な車両に対し、各車輪が独立に転舵可能な車両では、ラックバーのスペースが不要となるため、車室内空間が拡大する。また、一般的な車両では不可能な「その場回転」や「横移動」が可能であるため、狭路への進入や旋回、狭いスペースでの駐車等の移動自由度が向上する。
【0019】
独立転舵車両では、各独立転舵輪が、転舵機構、駆動機構であるインホイールモータ、及び、制動機構である電動ブレーキ等を搭載した車輪モジュールとして構成される。車輪モジュールの構成によっては、車室内の有効空間を狭めてしまったり、ばね下重量の増加により乗り心地の悪化を招いたりする可能性もある。
【0020】
そこで本実施形態では、主に乗り心地の向上を目的とし、さらに車室空間の拡大や耐外乱性向上にも有利な車輪モジュールを提供する。図2を参照して上述したように、前輪用の車輪モジュール10Fと後輪用の車輪モジュール10Rとはタイヤ中心軸Ztに対して対称形状であるという点を除き、どの独立転舵輪に適用される車輪モジュールも基本構成は同じである。以下では、前輪用と後輪用とを区別せず、一つの形態の「車輪モジュール10」として説明する。
【0021】
図3図6に一実施形態の車輪モジュール10の構成を示す。以下、タイヤ2のサイドウォール24を有する面を側面と定義し、車両の前方を向くトレッド面25を前面と定義する。例えば図4は、図1の左前輪91を構成する車輪モジュール10を内側面から見た図である。
【0022】
直進時における車両の左右方向をX方向、前後方向をY方向、高さ方向をZ方向としてタイヤ2の三次元の軸を定義する。タイヤ2の径方向の中心を通る仮想直線を車輪軸Xtと定義する。タイヤ2の径方向の中心を通り水平方向且つ車両前後方向の仮想直線を前後軸Ytと定義する。タイヤ2の径方向の中心及び幅方向の中心を通る天地方向の仮想直線をタイヤ中心軸Ztと定義する。
【0023】
車輪モジュール10は、タイヤ2、転舵部3、アーム4、駆動部5、制動部6、及び、サスペンション機構7を備える。
【0024】
転舵部3は、ドライバのハンドル操作等に応じて、タイヤ2を転舵させる転舵力を出力する。転舵部3は、トルクを出力する転舵モータ31、及び、転舵モータ31の回転を減速してアーム4に伝達する減速機32を含む。転舵モータ31及び減速機32は、タイヤ中心軸Zt上に積み重なって配置されている。減速機32の減速比を大きくすることで、転舵部3がコンパクト化される。
【0025】
例えば図7に示すように、一実施形態の転舵モータ31は、二組の三相巻線組311、312を冗長的に有する二重巻線モータで構成されている。これにより、一方の巻線組や対応する駆動回路に異常が生じたときでも他方の巻線組に通電可能であるため、信頼性が向上する。
【0026】
アーム4は、転舵部3とタイヤ2とを接続する。転舵部3によって出力された転舵力は、アーム4を介してタイヤ2に伝達される。アーム4は、転舵部3側のアッパーアーム41とタイヤ2側のロッカーアーム45とを含む。
【0027】
アッパーアーム41は、天板部42、本体部43、及び、天板延長部44を含む。天板部42は、タイヤ中心軸Ztにおいてタイヤ2の直上に設けられ、転舵部3に接続されている。本体部43は、タイヤ中心軸Ztの一方側(図4の左側)においてタイヤ2の上部から前後軸Ytの下にまで延びる。天板延長部44は、天板部42から本体部43とは反対方向に延長し、サスペンション機構7の上端側支点SUを支持する。アッパーアーム41とロッカーアーム45とは、水平方向のアーム連結軸Xaを中心として回転可能に連結されている。図4に示すように、タイヤ2の側面から見たとき、アーム連結軸Xaは、タイヤ中心軸Ztから離れている。
【0028】
ロッカーアーム45は、アーム連結軸Xaの周囲に設けられた連結端部46、車輪軸Xtの周囲に設けられた中心部47、及び、中心部47に対し連結端部46とは反対側に設けられた自由端部48を含む。自由端部48は、サスペンション機構7の下端側支点SLを支持する。
【0029】
駆動部5は、インホイールモータで構成され、ドライバのアクセル操作等に応じて、タイヤ2を駆動する駆動力を出力する。制動部6は、電動又は油圧ブレーキで構成され、ドライバのブレーキ操作等に応じて、タイヤ2を制動する制動力を出力する。
【0030】
サスペンション機構7は、上端側支点SU及び下端側支点SLで支持され、路面から伝わる振動又は衝撃を緩衝する。サスペンション機構7は、棒状の緩衝部材であるダンパー71、及び、ダンパー71に外挿されたコイル状のスプリング72を含む。ダンパー71及びスプリング72の中心軸をサスペンション機構軸YZsと定義する。記号「YZs」は、タイヤ2の前後軸Yt及びタイヤ中心軸Ztを含むYZ平面に平行な軸であることを意味する。
【0031】
図4に示すように、サスペンション機構7は、軸長方向の7割程度の部分がタイヤ2の径方向外縁の内側に配置されている。例えば特開2019-182336号公報の図2に開示された操舵装置では、サスペンション機構がタイヤの径方向外縁の外側に設けられているため、軸長が長くなり、車室空間が減少する。それに対し本実施形態では、サスペンション機構7の軸長方向の大部分がタイヤ2の径方向外縁の内側に配置されているため、車室空間を拡大することができる。
【0032】
図4に示すように、タイヤ2の側面から見たとき、サスペンション機構7の下端側支点SLは、タイヤ中心軸Ztから離れた位置に配置されている。また、サスペンション機構軸YZsは、タイヤ中心軸Ztに対して傾斜している。
【0033】
例えば特許文献1(特開2012-106524号公報)に開示された操舵装置では、緩衝装置のスプリングは、タイヤの天地方向の中心軸上に垂直に配置されているため、路面からの衝撃がスプリングに直に伝わり、乗り心地を悪化させる。それに対し本実施形態では、サスペンション機構7をタイヤ中心軸Ztから離して傾斜させることで、路面からの衝撃がスプリング72に直接伝わりにくくなる。したがって、路面の段差や石等による上下方向の外乱を受けたときの不快な振動の発生を抑制し、乗り心地を向上させることができる。
【0034】
サスペンション機構7の上端側支点SUは、アッパーアーム41の天板延長部44に回転可能に支持されている。且つ、下端側支点SLは、ロッカーアーム45の自由端部48に回転可能に支持されている。サスペンション機構7の下端側支点SLは、アーム連結軸Xaを中心としてタイヤ2の側面に平行な平面内で回転可能である。図4に示す初期状態では、車輪軸Xtと下端側支点SLとは同じ高さであって、且つ、アーム連結軸Xaよりも高い位置に配置されている。
【0035】
ここで図8図10を参照し、アーム連結軸Xaを中心とする回転動作の詳細について説明する。図8には、タイヤ2が実線で示す初期状態からアーム連結軸Xaを中心として上方に回転した上昇状態、及び、下方に回転した下降状態を示す。なお図8では、説明のため、回転量を実際よりも大きく示す。このとき車輪軸Xtは、半径r1の円弧の軌跡に沿って移動する。タイヤ2の上昇状態では車体を引き下げる動きとなり、タイヤ2の下降状態では車体を持ち上げる動きとなる。これに伴って、サスペンション機構7の下端側支点SLは、半径r2の円弧の軌跡に沿って移動する。
【0036】
図9図10に、タイヤ2、アッパーアーム41、ロッカーアーム45、及びサスペンション機構7の位置関係を模式的に示す。アッパーアーム41及びサスペンション機構7の上端側支持部SUの位置は変化しない。図9に示すように、タイヤ2が路面から上向きの力を受け、車輪軸Xtが上方に回転すると、下端側支持部SLの位置が高くなり、サスペンション機構7のスプリング72が圧縮される。図10に示すように、タイヤ2が路面から下向きの力を受け、車輪軸Xtが下方に回転すると、下端側支持部SLの位置が低くなり、サスペンション機構7のスプリング72が伸長する。
【0037】
このように、サスペンション機構7は、タイヤ2が路面から受ける力に応じて、ロッカーアーム45に支持された下端側支点SLがアーム連結軸Xaを中心として回転することで、路面から伝わる振動又は衝撃を緩衝する。サスペンション機構7の下端側支点SLがタイヤ中心軸Ztから離れた位置に配置されているため、車輪軸Xtの回転半径r1と下端側支点SLの回転半径r2との比により、路面から直接伝わる力が減衰されてサスペンション機構7に伝わる。したがって上述のように、路面からの外乱を受けたときの不快な振動の発生を抑制し、乗り心地を向上させることができる。
【0038】
次に転舵動作に関し、図5に示すように、タイヤ2の前面から見たとき、キングピン軸Zkとタイヤ中心軸Ztとが一致している。また、図6に示すように、タイヤ2が転舵したとき、タイヤ2とサスペンション機構7との位置関係は維持される。
【0039】
特許文献1に開示された操舵装置では、タイヤの転舵中心であるキングピン軸がタイヤの幅方向の中心軸からオフセットしている。そのため、障害物、段差等の外乱や制駆動時のトルクステア等が発生し、「走る/曲がる/止まる」の動作が干渉するおそれがある。
【0040】
それに対し本実施形態では、キングピン軸Zkとタイヤ中心軸Ztとを一致させ、オフセセットをゼロにすることでトルクステアがゼロになる。つまり、図5において(*1)の矢印で示すように、制駆動力による実転舵トルクへの影響が無くなるため、「走る/曲がる/止まる」の動作の干渉を防止することができる。また、(*2)の衝撃マークで示すように、段差や石等の外乱による実転舵トルクへの影響が無くなる。したがって、耐外乱性が向上する。
【0041】
(その他の実施形態)
(a)車輪モジュール10が用いられる独立転舵車両は、四輪車両に限らず、二輪車や三輪車でもよい。二輪車や三輪車においても、前輪用の車輪モジュール10Fは、サスペンション機構7がタイヤ中心軸Ztに対して車両の前方側に設けられており、後輪用の車輪モジュール10Rは、サスペンション機構7がタイヤ中心軸Ztに対して車両の後方側に設けられていることが好ましい。また、四輪車両の場合、全輪が独立転舵輪であるとは限らず、例えば左右の前輪は独立転舵輪であり、左右の後輪はラックバーで接続されていてもよい。このように、独立転舵輪を二つ以上含む車両であれば、車輪モジュール10が用いられる対象車両となり得る。
【0042】
(b)転舵部3、駆動部5、制動部6の具体的構成は、上記実施形態に限らず、それぞれの機能が実現される構成であればよい。転舵モータ31は、二重巻線モータに限らず、三組以上の複数の巻線組を冗長的に有する多重巻線モータで構成されてもよい。或いは、一組の巻線組からなるモータで構成されてもよい。
【0043】
(c)アーム4は、アッパーアーム41とロッカーアーム45とが連結された構成に限らず、一体で転舵部3とタイヤ2とを接続するものであってもよい。
【0044】
(d)車輪モジュール10は自動運転車両に適用されてもよい。その場合、上記実施形態の転舵部3、駆動部5、制動部6の説明における「ドライバの操作に応じて」を「自動運転の指令に応じて」と読み替えればよい。
【0045】
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0046】
2・・・タイヤ、
3・・・転舵部、
4・・・アーム、
5・・・駆動部、
6・・・制動部、
7・・・サスペンション機構、
10・・・車輪モジュール、
90・・・車両。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10